NVIDIAが高性能AIを医療の現場にもたらす、AI搭載の医療機器開発プラットフォーム「Clara Holoscan MGX」を発表

高性能な画像処理装置(GPU)で知られるNVIDIA(エヌビディア)は今週、AI搭載の医療機器を開発するためのプラットフォームをデビューさせた。Clara Holoscan MGX(クララ・ホロスキャンMGX)と呼ばれるこのデバイスは、そのコンピューティングパワーにより、医療用センサーが複数のデータストリームを並行して処理し、AIアルゴリズムを訓練し、生物学をリアルタイムで視覚化することを可能にする。

NVIDIAの2022年GTCカンファレンスでデビューしたClara Holoscan MGXは、Jensen Huang(ジェン・スン・フアン)CEOが基調講演で述べたように「オープンでスケーラブルなロボティクスプラットフォーム」であり、ロボットの医療機器やセンサーをAIアプリケーションとつなぐために設計されたハードウェアとソフトウェアのスタックだ。

どう機能するのか。内視鏡検査のプロセスを例にとる。通常、医師は体の中に小さなカメラを挿入し、内部を観察する。Clara Holoscan MGXはカメラに直接接続され、収集したデータをリアルタイムに処理する。データはAIモデルに送られ、異常を検出し、解剖学的な分析を経て、外科医が治療計画に役立てる(断っておくが、これらのAIモデルはNVIDIAが作るのではなく、同社のハードウェア上で動くだけだ)。

NVIDIAはすでにGPUでよく知られており、そのGPUは特に並列計算を高速に実行することに優れている。GPUはかつてゲーマーに最もよく知られていたが、今やディープニューラルネットワークのトレーニングに関心を持つあらゆる業界にとって重要なアクセラレータになった。ディープニューラルネットワークは、例えばX線の読み取りを学習する際に、何十億ものデータポイントをすばやく計算する必要がある。そして、得られたモデルをリアルタイムで使用するためにも、多くの計算が求められる。このプラットフォームは、そうした用途を念頭に置いている。

NVIDIAはAI分野の支配的なプレイヤーとなった。上記のようなプロジェクトの多くに必要な生の計算能力を提供し、業界に特化したハードウェアとソフトウェアの組み合わせで、それを実現してきたからだ。例えば同社は、自動運転車の訓練と開発のためのプラットフォームであるNVIDIA Driveなどの自動運転車の分野のプロジェクトで積極的に動いている。

NVIDIAは、すでにヘルスケア領域への進出を果たした。2018年に初めて発表されたClaraプラットフォームは当初、スムーズな医療画像体験を実現するために設計された。このプラットフォームは年々拡張されてきたが、今回のClara Holoscan MGXプラットフォームは、基本的にはワンストップショップになることが目的だ。

NVIDIAのヘルスケア担当副社長Kimberly Powell(キンバリー・パウエル)氏はTechCrunchに対し、Clara Holoscanは「完全なエンド・ツー・エンドプラットフォームです。医療機器にとってのNVIDIA Clara Holoscanは、自動運転車にとってのNVIDIA Driveと同じ関係です」と語った。

Clara Holoscanの中核となる革新的な技術は2つあるとパウエル氏はいう。まず、医療用ソフトウェアを安全に開発するためのベンチマークプロセスであるIEC 62304規格に準拠した設計になっていること。そして、フアン氏が「非常識」と呼ぶほどのコンピューティングパワーを搭載していることだ。

この組み合わせにより、AIを搭載した医療機器の開発やトレーニングを検討している企業は、より迅速に前進することができるはずだ。

画像クレジット:NVIDIA

「Clara Holoscanのアーキテクチャは、新しい医療機器や『医療機器としてのソフトウェア』を市場に投入するために必要なエンジニアリング投資を大幅に削減します」とパウエル氏は話す。

NVIDIAが売り込んでいること、つまりデバイスとAIの組み合わせを実現しようとしている企業はすでに多数存在する。例えばスタートアップのActiv Surgicalは、AI支援型手術用スコープ(製品名:ActivSight)にNVIDIAのGPUを使用しており、スコープのデータから情報を得るAIアプリケーションをさらに充実させようとしている。そのために、同社はNVIDIAのInceptionプログラムに入り、Clara AGX Developer Kitに早期にアクセスできるようになった。プレスリリースを読む限り、そのキットは、NVIDIAの技術が製品開発を加速させるというパウエル氏の主張を象徴している。

「ActivSightを含め、将来、Activ Surgicalの製品を今後2年以内に市場に出すために、この開発者キットが全体の開発期間を短縮することにもなります」とActiv Surgicalのプレスリリースには書かれている。

現時点では、Clara Holoscanの全能力を利用することはできない。基調講演でフアン氏は、医療グレードの技術が早期利用できるようになるのは2023年第1四半期だと述べた。その時点で、ハードウェアの価格がNVIDIAのODMパートナーによって設定されて初めて、ソフトウェアの価格が「判明する」とパウエル氏は付け加えた(その情報はここに登場するようだ)。

今のところ、Clara Holoscan MGXの発売は、AIヘルスケア分野におけるNVIDIAのすでに確固たる足場をさらに強化するように思われる。基本的に、同社はそのプラットフォームの下にある計算の岩盤を構築しているのだ。

そして、それは良い分野だ。スタンフォード大学の「2022 AI Index」レポートによると、2021年のAIへの民間投資の2大領域は、上記2つの交わるところだった。データ管理・処理・クラウドコンピューティングに122億ドル(約1兆4830億円)、医療・ヘルスケアツールに112億9000万ドル(約1兆3720億円)が投資された。

画像クレジット:NVIDIA

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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