化粧品ECのスタートアップ「NOIN」が総額8億円調達、メーカーへCRM解放へ

化粧品のECプラットフォーム「NOIN」を運営するノインは7月8日、DGインキュベーション、STRIVE、500 Startups Japan、みずほキャピタル、DK Gate、AGキャピタルなどから約8億円の資金調達(払込予定分を含む)を発表した。

今回の調達ともない、リードインベスターであるDGインキュベーションの上原健嗣氏が社外取締役に就任する。なお、3月にはGunosyで執行役員を務めていた千葉久義氏が取締役に就任している。

写真に向かって左から、DGインキュベーションの上原健嗣氏、ノインで社長を務める渡部賢氏、同社取締役の千葉久義氏、STRIVEの堤達生氏

経済産業省の調査「我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、化粧品のオンラインでの購入率は約6%とオンラインストアが普及している現在でも未成熟な市場。同社は、オンラインストアと化粧品のミスマッチを解消するために化粧品ECプラットフォーム「NOIN」を立ち上げた。メディアとしての側面もあり、化粧品の購入だけでなく、メイク術や悩み解決といった記事をテキストや動画で手に入れることもできる。

今回の資金調達では、人材採用や育成、NOINのブランディングおよび認知拡大を目的としたプロモーションを強化。同時に、連携する化粧品メーカー各社への購買データ展開、CRMツールの解放など実施する予定だ。

今回の資金調達についてTechCrunchは以下の質問について同社から回答を得た。

——化粧品はやはり試してみないとなかなか購入につながらないと思うのですが、オンライン購入率を向上させる施策があれば教えてください。

実際に試すという点においては、店舗でテスターを用いて試せるものは数としては限られています。また、試すにあたっても直接顔につけるというよりも手元での色みやテクスチャーの確認というものが多いかと思います。当社では商品詳細のコンテンツに力を入れており、商品イメージの写真やタッチアップした際のスウォッチ画像、記事コンテンツ、動画コンテンツと1つの商品に対してのコンテンツがかなり充実しています。実際、商品詳細コンテンツを充実させた商品の売れ行きはないものと比較すると購入率は大きく違います。コンテンツのカバー率も高まっており、店頭よりもカバーできている商品は多いです。

また、ユーザーの平均年齢は25.8歳とかなり若いですが、1回あたりの購入単価が4000円を超えるほど高くなっています。当初は2000〜2500円程度を予想していましたが、かなり購入単価が高めです。コンテンツを通じてよいものであるという理解が深まると購入意欲も引き上げられるのだと考えています。

——ほかのコスメ系ECと差別化できるポイントを教えてください。

取り組み先のメーカー、ブランドに対して販売データを提供している点は差別化ポイントと考えています。アプリに溜まってきている「ユーザーがどのような商品と比較検討の末、その商品を購入したのか」「一緒に購入される商品にはどのような傾向があるのか」など、ブランドのマーケティング活動に有益となるデータをメーカーやブランドと共有しています。

「ブランドの商品をお気に入り登録しているユーザー」「過去購入経験のあるユーザー」というようなセグメントを切り、そこに対して各ブランドのCRMのツールとして使ってもらえるような機能提供も考えており、こちらも差別化ポイントとなるのではないかと思います。

——今回の資金調達で採用を強化するとのことですが、具体的なポジションや職種などあれば教えてください。

エンジニア採用を強化します。ユーザーの手元に届いて使ってもらうまでが我々のプロダクトでの体験だと考えているので、CSやロジスティクスの体制に関しては最重要と捉えています。多量の受注を受けても迅速にお客様に商品をお届けできるよう、ピッキングや配送などの倉庫管理のアプリケーションを完全に内製で開発しているほか、CS部門をツールを含めて充実させることにより、トラブルの際には利用者の問い合わせに対し、社内の配送データなども使って迅速なトラブル解決ができるフローを整えています。加えてメーカーに渡すマーケティングデータの解析ツールの開発も行わなければなりません。

――今回の資金調達で強化する、プロモーションについて具体的に決まっていることがあれば教えてください。

CMなどの大型のプロモーションも次の施策として進めていきます。リアルの場でのユーザー接点も重要と考えており、夏フェスのようなリアルなイベントへの協賛も行っていく予定です。プロモーション以外の資金使途としては 、化粧品メーカー・ブランド向けのマーケティングデータの解析ツールやCRMツールの開発に当てていこうと思っています。

――今回の資金調達で強化する、ブランディングついて具体的に決まっていることがあれば教えてください。オリジナルブランドなども検討されていますか?

オリジナルの商品に関しては検討していますが、完全にオリジナルということではなく、メーカーやアーティストと一緒に新しい商品やブランドを立ち上げていくという方向性で考えています。現在進行中のものとしては、ヘアメイクアップアーティストと一緒にヘアオイルの開発を進めているところです。

——新たにCOOに就任された千葉氏は、どのような組織改革を進められる方針ですか。

ノインはこれまでCEOの渡部を中心として対ユーザーに全力で向かい合い、toC向けのプロダクトを磨き上げるという方向に関しては素晴らしいものがあると思っています。一方でパートナーであるコスメブランドやメーカーとの関係構築はこれからの課題です。toBでのパートナーの課題解決ができる組織にしていきたいです。組織全体としては、やはりプロダクトや各種施策に対しての数値感覚の強い人を一人でも多く育てていきたいです。

たこ焼きロボ開発のコネクテッドロボティクスが8.5億円調達、イトーヨーカドー内へロボ設置も

写真に向かって前列の左から3人目がコネクテッドロボティクス代表取締役社長の沢登哲也氏

たこ焼きやソフトクリームなどの調理ロボットを開発しているコネクテッドロボティクスは7月3日、約8.5億円の資金調達を発表した。グローバル・ブレインをリードインベスターとしたシリーズA投資ラウンド1で、以下の企業を引受先とした第三者割当増資となる。

  • グローバル・ブレイン(グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合)
  • ソニー(Sony Innovation Fund)
  • 東京大学協創プラットフォーム開発(協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合)
  • 500 Startups Japan(現・Coral Capital)
  • 三井不動産

なお同社はシードラウンド2ですでに約1億円を調達しており、調達総額は約9.5億円となる。同社は2014年2月設立のスタートアップ。代表取締役社長の沢登哲也氏は、東京大学でロボット工学を学んだあと、京都大学大学院に進学。卒業後に飲食店を立ち上げ、飲食業界のさまざまな問題点に直面したことがきっかけで、コネクテッドロボティクスを設立したという異色の経歴の持ち主だ。

関連記事:器用にたこ焼きを返す調理ロボットを開発、コネクテッドロボティクスが6300万円調達

今回調達した資金により同社は、マーケティング強化による販路拡大と新ロボットおよび新ロボットサービスの開発を進める。具体的には、人材の採用と技術力の強化を計画しており、事業推進を大きく加速させさたいとしている。

同社のロボットといえば、テレビにもたびたび登場する長崎・ハウステンボス内にあるたこ焼きロボ「OctoChef」(オクトシェフ)とソフトクリームロボの「レイタ」があまりにも有名だ。

OctoChefは、ディープラーニングを活用して焼き具合を画像解析することで、適切な時間でたこ焼きをひっくり返すことができるアームロボ。生地の作成などの準備、タコや天かすなどの具材の生地への投入、ソースやマヨネーズなどをかけるといったトッピングには人の手が必要だが、鉄板への生地の流し込みから焼き上げ、焼き上がったたこ焼きの取り分けまでをOctoChefが担う。OctoChef1台で、1回あたりの生産量96個、約12人ぶんのたこ焼きを製造できる。

ソフトクリームロボのレイタは、注文から商品提供までに対応。タブレット端末などでメニューを選んだあと、ソフトクリームのコーンをロボットのアーム部分に差し込むと、あとは器用にアームを動かしてソフトクリームを作り上げていく。ソフトクリーム1個あたりの提供時間は30~40秒。

これらのロボットの特徴は、産業用のアームロボットを使っている点。同社がソフトウェアでチューニングを施すことで専用ロボ化しているのだ。特定用途向けに特注するロボットは導入コストが1000万円を超えるケースも多いが、大量生産される汎用ロボであれば導入コストを大幅に抑えられる。同社によると、これらのロボットシステムをサブスクリプション契約した場合の年間コストは、スタッフ1人の人件費よりも安価になるという。もちろん、休憩を取らせる必要もなく、8時間以上労働させてもまったく問題がないし、不平不満も言わない。ちなみに、OctoChefはユニバーサルロボット社のURS、レイタはDobot社のDobot Magicianがベースだ。

同社はこのほかにも、自動食洗機ロボットサービス「Dish Washing System」やコンビニ向け「Hot Snack Robot」、自動朝食調理ロボットサービス「Loraine」の開発も手がけている。今回の資金調達によりこれらの開発スピードがアップすることに期待したい。

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    自動食洗機ロボットサービス「Dish Washing System」
  2. CR04

    コンビニ向け「Hot Snack Robot」
  3. CR05

    自動朝食調理ロボットサービス「Loraine」

さらにコネクテッドロボティクスは本日、セブン&アイ・フードシステムズと提携し、関東近郊のイトーヨーカドー内に出店しているファストフード店「ポッポ」に、Octo Chefとレイタを展開することを発表した。

10月をメドに関東近郊の1店舗にまず導入し、その後他店舗に広げていく方針だ。具体的な店舗名にについては現時点では非公開となっている。

スタートアップ向け人間ドックが紀尾井町に誕生、標準価格より2〜3割安価

Coral Capital(500 Startups Japan)は、クリニックチェーンの経営支援を行うCAPSおよびその支援先である医療法人ナイズと提携し、スタートアップ企業の創業者と経営陣向けに人間ドックの格安プログラムの提供を開始した。対象となるのは、Coral Capitalと500 Startups Japanの投資先の創業者と経営陣。

具体的には、医療法人ナイズが運営するキャップス健診クリニック紀尾井町で人間ドックを利用できる。実際の料金は検査項目で変化するが、通常よりも2〜3割安い料金で受診できるとのこと。さらにCAPSが運営する24時間フィットネスクラブ「データフィットネス六本木」も特別料金で利用可能になる。

人手が限られるスタートアップの創業期は自分の限界まで働く経営者が多い印象だが、最近では20代の若手起業家だけでなく、一般企業でキャリアを積んだうえで各業界の問題点を解決すべく起業する30代、40代の経営者も増えている。スタートアップ=若手という構図は崩れており、連日かつ長時間の激務を「若さ」では乗り切れない経営者が増加傾向だ。

とはいえ、数人のメンバーしかいない創業期は報酬も低めなので、高額な人間ドックは敬遠されがち。こうした状況を踏まえて、スタートアップ経営陣向けの人間ドックのアイデアが生まれたそうだ。フィットネスクラブの利用も含め、スタートアップ経営陣の健康を守ることを目指すという。

Coral Capitalは、米ベンチャーキャピタルの500 Startupsの日本向けファンドである500 Startups Japanのメンバーが、新たに設立したベンチャーキャピタル。なおCAPSは、500 Startups Japanの出資先でもある。

CAPSは、かかりつけの医療機関向けの総合支援サービス「プライマリケア・クリニックチェーンマネジメント」のサービスを提供するスタートアップ。クリニックを開業する際の不動産の選定・取得から、経営システム、電子カルテの構築・運用、医師や看護師の募集をまとめてアウトソージングできる。さらに、365日、夜間対応も可能な診療体制を支援する。

自分では若いと思っても、身体のどこかに鈍い痛みが生じ始める30代、40代。今回のような健康支援プログラムが充実してくれば、スタートアップ企業の働き方改革も進むはずだ。

 

倉庫のバックヤード業務を効率化する「ロジレス」、500 Startups Japanから5000万円調達

受注管理システム(OMS)や倉庫管理システム(WMS)など、EC事業で必須の倉庫のバックヤード業務を効率化するロジレスは2月26日、500 Startups Japanより5000万円の調達を発表した。この資金を使って、機能強化や提携物流倉庫の拡大を進める。

同社が解決するのはEC事業者の経営課題。商品受注や発送、在庫管理などのバックヤード業務は煩雑でコストもかかる。非コア業務でもあるこれらの作業をロジレスにアウトソージングすることで、人件費や輸送費などを圧縮できるという。

ロジレスのシステムでは、受注管理、在庫管理、出荷作業などの一連の業務を1つのシステムで管理可能になるのが特徴。商品の自動出荷はもちろん、商材や配送先、配送方法に応じて最適な場所から出荷する「複数拠点出荷」も可能になる。同社では、物流業務アウトソーシングの受け皿として、ロジレスを倉庫管理システム(WMS)を導入可能な物流倉庫も事業者も募集している。

500 Startups Japanがクールジャパン機構より約11億円を調達、総額3500万ドルを集め1号ファンドをクローズ

60ヶ国1800社以上のスタートアップへ投資をしてきたベンチャーキャピタル500 Startups。2015年9月に日本で新たに500 Startups Japanを立ち上げて以降は、国内スタートアップへの投資も活発にしている。

その500 Startups Japanは6月15日、クールジャパン機構より1000 万米ドル(約11億円)の出資を受けたことを明らかにした。クールジャパン機構が海外ベンチャーキャピタルへ出資するのは今回が初めて。500 Startupsのネットワークを活用しながら、国内ベンチャー企業の海外進出支援に力を入れていくことになる。

今回の出資について、クールジャパン機構投資戦略グループシニアディレクターの小川剛氏は「世界各地にネットワークを持つ500 Startupsと組むことで、より日本企業の海外展開の支援を促進できるでしょう。また、米国発の起業家向け教育プログラムやメンター制度、情報提供を日本で行うことで、国内のベンチャー企業がより成長しやすい環境が整うことを期待しています」とコメントしている。

また今回の調達により500 Startups Japanは1 号ファンド(総額3500万ドル)の調達を完了したことを、合わせて明らかにした。

世界と日本の起業家の架け橋になる

2010年に米国で設立された500 Startupsは、世界各国の主にシードからアーリーステージのスタートアップに出資し、独自の育成プログラムやメンター制度を通じて成長を育んできた。

日本の拠点ができる前からGengoMakeLeapsPeatixWhillといったスタートアップへの投資実績があったが、2015年の500 Startups Japan以降はよりアクティブに国内スタートアップへと投資を行っている。たとえば最近TechCrunchで紹介した企業だと、開発者向けサービスを提供するAUTHLETEや予実管理サービスを手がけるタシナレッジなどだ。

500 Startupsについては発足時にTechCrunchでも詳しく紹介しているが、元起業家でDeNA投資部門のVCだったジェームズ・ライニー氏と、野村証券でベンチャー企業の調査を担当していた澤山陽平氏がパートナーを務める。(野村氏のバックグランドなども別記事でとりあげている)

当初からシリコンバレーの知見やネットワークを国内のスタートアップにつなげたり、国内スタートアップを海外へ発信することで「世界と日本の起業家の架け橋になる」ことを1つのミッションに活動してきた500 Startups Japan。

今回クールジャパン機構からの出資を受けて、ジェームズ氏は「今の日本には起業家と呼ばれる、希望に満ちた素晴らしい人材がどんどん増えています。彼らは日本の未来を象徴しており、日本にかつてあった希望を取り戻すための道具を彼らに提供することが、私たちのミッションだと信じています。今回資金も集まり、官民ファンドであるクールジャパン機構のご支援も頂けたので、今後も日本のベンチャー企業と海外の架け橋としてより一層海外進出を支援してまいります。」とコメントしている。

APIエコノミー立ち上がりのカギ、OAuth技術のAUTHLETEが500 Startups Japanらから1.4億円を調達

OAuthとOpen ID Connectを使った開発者向けサービスを提供する日本のAUTHLETEは本日、シードラウンドとして500 Startups Japanエムティーアイから累計1.4億円の資金調達を実施したと本日発表した。これは日本のAPIエコノミーの立ち上がりにとって重要なサービスとなるかもしれない。

FlickrやTwitterの初期からAPIを使ってきた開発者なら、今さら「APIエコノミー」と言われても何のことか分からないかもしれない。でも、これまでネットのコアなネット企業しか提供してこなかったAPIが、より広い範囲で広がろうとしているように思われる。ネット上で利用可能なAPIを収集・分類するディレクトリサイト、ProgrammableWeb.comによれば2006年に200件ほどだったAPI提供数は2008年には1000件を超え、この記事の執筆時点で1万7518件となっている。10年で100倍ほどだ。少しリストを眺めれば分かるが、掲載されているのは、いわゆるネット企業が中心。API提供の流れが今後、一般の事業会社へと広がるのであれば、さらに10倍の数になってもおかしくないだろう。

APIエコノミー発展のために必要なのは、当たり前だが、まずは有用なデータやサービスを持つ企業がAPIを公開すること。公開したらしたでサービスの死活監視やAPIバージョンの管理、ドキュメントのメンテとやることが多い。不正使用やDDoSアタック対策など、GoogleやFacebookにはできても、事業会社の開発部門には荷が重いということがある。

こうしたことから、例えばエンタープライズの世界でAPI公開に必要な技術を一括して提供して、メインフレームで組んだシステムですらWeb APIで提供可能にしようというソリューションがCA Technologiesのような企業からでてきていて、徐々に「APIエコノミー」という言葉が米国で使われるようになってきている。写真のシェアやデータ処理といった情報の流通ではなく、決済を含めたリアルな経済活動に繋がるAPIの利用が徐々に始まっているということが背景にある。

日本のメガバンクも使いはじめた「OAuth」

日本でもメガバンクが更新系APIの提供を開始して、マネーフォワードが経費精算でAPI連携を果たすなどインパクトのある動きが出てきてる。ここでカギとなる技術がOAuth 2.0(オーオース)と呼ばれるシステム連携方法を標準化したプロトコル(手順)だ。

OAuthの概念図(AUTHLETEのウェブサイトより引用)

初めて利用するアプリでFacebook IDを使ってログインしたり、ECサイトでAmazon Payを使って決済を済ませるということがないだろうか? このときに使われてるのがOAuthだ。こう書くとビジネスパーソンの多くは「ああ、アカウント連携ね」と思うかもしれない。でも、違うのだ。OAuthではパスワード情報という、もっともクリティカルな情報のやり取りは行われないし、ユーザー認証もまた別の話。OAuthはアカウントのことではなく、「ユーザーが所有権を持つ、どの情報に対して、どういう操作を許可するか」という一種の許可証(認可トークン)を異なるシステム間でやり取りする方法を規定したプロトコルだ。これはユーザーの「認証」に対して、「認可」と呼ばれている。一方、OpenID Connectのほうがユーザーが誰であるかを確認する「認証」を提供するプロトコルだ。

問題は、OAuthもAPIを公開するサービス提供側にとっては導入ハードルが高かったことだ。例えば銀行がAPI公開するとしよう。どの口座情報の「参照」という行為が、どのサービスに対して、いつまで許されているのか。ちゃんと口座を持つユーザーからの明示的な許諾を得たのか、といったことを管理する必要がある。

OAuth認可サーバーを立てるためのライブラリはオープンソースのものがある。ただ、十分な専門性と運用リソース、何よりセキュリティーの知見を持って自社運用をするのはハードルが高い。AUTHLETEが提供する「Authelete」はOAuth認可サーバーの運用に必要な機能をWeb APIベースで提供することで、OAuth導入、維持のコスト低減を実現するサービスだ。クラウド版を利用すると利用者側で認可用データベースを用意する必要もない、という。OpenID Connect利用は必須ではないが、もしAPI提供と同時に自社アカウントを複数サービスを横断して使うとか、外部サービスへ自社IDの利用を開放したいといったケースに使えるという。

AUTHELETEでビジネス開発を担当する岸田圭輔氏はTechCrunch Japanの取材に対して、「例えばAUTHLETEはOAuthの4種類ある認可フローにいずれにも対応していますが、大量の仕様書を読まないといけないので、真面目に対応しようと思うと大変です」とAuthlete利用のメリットを説明する。導入のハードルもさることながら、セキュリティーは重要な観点で、FacebookやGitHubといったエンジニア文化の強いネット企業ですらOAuth関連でトラブルが起こっているという。昨年末にもPayPalの認可トークンが漏洩する脆弱性が見つかり、修正したことがニュースになっている。OAuthやOpenID Connectは仕様がどんどん変わっていくのでキャッチアップするには、それなりのリソースを割くことになると岸田氏はいう。

当初利用を想定するのはセキュリティー要件の厳しいFintech関連企業だが、IoTなどジャンルは問わない。現在、ヘルスケアの日本企業がユーザーとなっているケースがあるという。

500 Startups Japanから資金調達をしていることも含めて、AUTHLETEは海外展開も加速するという。グローバルにみればPing Identityなど類似サービスはあるが、「認可に特化しているのは弊社だけ」と岸田氏は話している。Authleteを利用しているのは現在450アカウント(≒社数)で有料アカウントの数や料金は非公開。30日の無料トライアルがあり、トライアル後の継続利用は個別見積もりとなっている。

アルゴリズムで10分審査、中小企業向け融資のクレジットエンジンが約1億円を調達

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中小企業向けのレンディングサービスを展開する日本のクレジットエンジンは1月30日、シードラウンドで総額1億1000万円を調達したと発表した。同社は2016年の9月末にDraper NexusVoyage Groupから約6000万円を調達しており、今回新たに米国の500 Startupsおよび500 Startups Japan、そしてフリービットインベストメントなどから約5000万円を調達してシードラウンドを完了した。クレジットエンジンは今回調達した資金をテスト融資用の原資や人員強化のための費用に充てる予定だ。

また、クレジットエンジンは本日よりオンライン融資サービス「LENDY(レンディ)」のベータ版提供を開始する。

LENDYは、中小企業がもつオンラインデータを活用したレンディングサービスだ。オンラインデータをもとに融資判断を自動で行う独自のアルゴリズムを利用することで、ペーパーレスで人件費を抑えたスピード審査を実現できる。

また、一度きりの信用評価をするのではなく、リアルタイムなオンラインデータを取得することで継続的な信用評価を行うことができる。クレジットエンジンは、この継続的な信用評価によって貸し倒れリスクなどを軽減できると主張している。審査の手続きにかかる時間は10分から15分程度だ。

現状の中小企業金融が抱える課題

クレジットエンジン代表取締役の内山誓一郎氏によれば、中小企業金融が抱える課題は「既存の金融機関が中小企業や個人事業主の資金ニーズに適切に応えられていない」点だと語る。現状、中小企業や個人事業主が利用できる融資サービスは大きく分けて3つある。伝統的な銀行や信用金庫からの融資、スピーディな審査や無担保で融資を受けられることが特徴のビジネスローン、そして売掛金をすぐに現金化できるファクタリングだ。

中小企業が銀行などから資金を借りるときに障害となるのが、煩雑な手続きと融資完了までにかかる長い時間だ。規模の小さな事業体がもつリソースは少なく、詳細な事業計画などを作成する時間がなかったり、そもそも提供できる担保がないこともある。また、融資が完了するまでに2ヶ月から3ヶ月もの時間がかかり、急な資金需要には対応できない。伝統的な金融機関では、決められた融資枠の範囲であればいつでも自由に融資を受けることができる「当座貸越契約」を結ぶこともできるが、この契約を取り交わすことができるのは規模の大きな優良企業に限られる。

一方で、急な資金調達のニーズに応えてくれるのが、融資完了までの時間の短さが特徴のビジネスローンやファクタリングだ。しかし、ビジネスローンは無担保で借りられるが金利が高い。また、この方法でも書類準備には手間がかかる。ファクタリングには売掛金回収の手間が省けるという利点はあるが、請求書を発行するたびに事務作業をしなければならず、手数料も高いという難点がある(調達金額の5%から20%程の手数料が一般的だ)。

リアルタイムにオンラインデータを取得し、独自のアルゴリズムで審査

2016年7月に創業のクレジットエンジンは、中小企業がもつオンラインデータを活用することで融資にかかる時間や手間をできるだけ減らすことを目指している。

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ここでいうオンラインデータとは、例えば、銀行のインターネットバンキングから取得する残高や入金などの記録、クラウド会計サービスから取得する会計データ、ECサイトから取得する日々の売上データなどを指す。また、通常の審査では利用されない企業やショップの口コミなどの定性的なデータも利用していくようだ。本日発表のプレスリリースでは、LENDYのサービス連携先としてAmazon、スマレジ、住信SBIネット銀行、freee、楽天銀行などが挙げられている。

取得したデータを元に、クレジットエンジンが独自で開発する審査アルゴリズムが自動的に審査判断を下す。審査に通った事業体には融資枠が設定され、以後その範囲内であれば自由に借り入れが可能になる。

内山氏によれば、同社は将来的に顧客とのコミュニケーションの自動化のためにチャットボットを利用する予定でだと話す。これが実現すれば100%に近い「全自動の融資サービス」が可能になるかもしれない。内山氏は、「(全自動の融資サービスは)技術的には可能だと思っている。将来的にはそのようなサービスを目指したい」と語る。

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クレジットエンジンは、LENDYを通してユーザーに最大100万円(正式版では最大1000万円までとなる予定)を短期で貸し付け、そこから金利収入を得る。金額の上限設定について内山氏は、「事業の開始資金など、まとまった資金を借りるための融資サービスでは、金利などの面で銀行や信用金庫が圧倒的に有利になる。そのため、小規模だが急な資金ニーズに応えるというマーケットが当社が狙える分野だと思った」と話す。

ベータ版における貸付利率は融資額が100万円以上の場合8%~15%、100万円未満では13%~18%だ。金利水準だけを比較すると、一般的なビジネスローンの金利とあまり変わらないことが分かる。これについて内山氏は、「最初から金利水準で攻めるのではなく、まずは利便性で差別化を図る。ただ、審査モデルの実績も積み上がっていけば、価格面でも勝負できる可能性はある」と話す。

日本でもレンディングサービスが普及する土壌ができあがってきた

現在、中小企業向けのレンディングサービスは欧米を中心に普及してきている。同様のサービスを展開する米国のOnDeckによる融資総額は50億ドルに達している。その背景にあるのは、クラウド会計など各種クラウドサービスの急速な普及だ。

クラウド会計サービスのQuickBooksOnlineを例にすると、同社のユーザー数は2010年頃を境に急激に伸び、2015年度におけるユーザー数は150万人となっている。「日本でもクラウド会計のfreeeやPOSレジアプリのAirレジなどの普及が急速に進んでおり、中小向けレンディングサービス普及の土壌はできあがっている」と内山氏は語る。

本調達ラウンドに参加したDraper Nexusの倉林陽氏も、伝統的な金融機関以外からのレンディングサービスは重要な投資テーマの1つだと語る。「オルタナティブ・レンディング分野は投資テーマとして2015年からEIRを交え調査しており、専業でSMB向けにこの事業に取り組むスタートアップ企業を日本で創りたいと思っていました。そこに内山さん含むクレジットエンジンが現れ、弊社のEIRだった井上氏が参画する形でチームが強化されたのを受け、出資を決めてシードラウンドの調達を支援しました」。

昨年12月、OnDeskとアメリカ大手金融機関のJP Morganとの業務提携が発表された。クレジットエンジンも「2年後をめど」に自社の与信システム・プラットフォームを伝統的な金融機関に提供していく予定だ。

500 Startup JapanのJames Riney氏は、「米国においてオルタナティブレンディング領域のスタートアップが成功した要因は、シームレスなオンライン体験をレガシーな業界に持ち込んだことでした。日本においても、いずれ同様のことが生じていくと考えられます」と日本のレンディング・ビジネスの将来を語る。

そこで懸念されるのが、日本の伝統的な金融機関がスタートアップの技術を受け入れる体制にあるのかどうかだ。前職のマネーフォワード社では中小企業向けのクラウドサービス部門に所属していた内山氏は、「伝統的な金融機関からもFinTechを取り入れたいという気持ちは伝わってくるが、現状ではまだ先進的な試みをしているところだけだ」とコメントしている。

ところで、クレジットエンジンのビジネスモデルは、不特定多数の個人などから資金を集めた資金を貸し付けるというP2P型の「ソーシャルレンディング」ではない。米国ではP2P型のレンディングサービスも増えてきていて、日本にもmaneoなどがある。

ソーシャルレンディングのモデルを選択しなかった理由について内山氏は、「LENDYは中小企業や個人事業主などをターゲットにしたサービスである以上、ある程度の確率でデフォルトが起こることは避けられない。そのため、個人から資金を集めるP2P型のモデルはLENDYには適さないと思った。それに加えて、P2Pでは資金調達コストが5%から8%かかる。多い時では10%かかることもある。デフォルトが発生することを考えると、そのコストでは成り立たないと思った」と説明する。

内山氏によれば、金融機関の融資サービスの対象とならない(従業員が20名以下の規模の)事業者は、全国で350万社を超える。現在、中小企業に対する貸し付け残高は160兆円で、その内の2兆円が無担保ローンの貸し付け残高だという。そのマーケットがクレジットエンジンの事業領域だ。