オンライン診断で身長や立ち姿勢など答えれば自分に合ったマットレスが作られ家に届く、SleepTechのyuniが5.5万円から販売へ

人は、人生の3分の1を寝て過ごしている。睡眠を支えるマットレスは重要なプロダクトだ。しかし、マットレスに対して「選ぶのが難しい」「実際に寝てみないと良し悪しがわからない」「捨てるのが面倒」といった悩みを持つ人は多いのではないだろうか。

2019年に設立したyuniはこれらの悩みや睡眠課題を解決し、1人ひとりに最適な眠りの提供を目指すSleepTechのスタートアップだ。yuniは2021年6月末から、AI技術を活用した無料のオンライン診断で、パーソナライズされたマットレスをつくることができるサービス「xSleep(クロススリープ)」の一般販売を始める。

利用者はxSleepのサイトで、身長や年齢から、立ち姿勢、寝姿勢、肩幅、筋肉量などについての質問に答えるだけで、診断結果から自分にパーソナライズされたマットレスが1週間程度で自宅に届く。これまで自分に合ったマットレスを探すためには、実際に売り場まで足を運び、試す必要があったマットレス選びをyuniはオンラインで完結できるようにした。

さらに2021年夏からは、パーソナライズされたマットレスをただ購入するのではなく、自宅で実際に試すことができるサブスク型のサービスも全国で始める予定だ。yuniの内橋堅志代表に話を聞いた。気に入れば買い取りもでき、物足りなければ再度パーソナライズしてもらうこともできる。

エンジニア×実家の寝具メーカーにおける経験

実家の寝具メーカーの風景、内橋氏の遊び場だったという

yuniの内橋堅志代表の実家は寝具メーカーであり、幼いころから寝具作りは身近なものだった。高校生になってからは新規事業にも関わるようになり、素材から製造、運送、リサイクルに至るまで、寝具に関する幅広い知識を得た。大学では機械学習などを専攻し、卒業後はエンジニアとして企業に就職。その後はフリーのエンジニアとしても働いていた。

「私自身が機械学習エンジニアであり、データ分析に強みがあります。また、実家が寝具メーカーだったからこそ、寝具業界における人脈もノウハウもあります。このため、オンライン完結型のパーソナライズマットレスの開発・提供ができたのです」と内橋氏は話す。

マットレスのオンライン完結型パーソナライズに向け研究を行ってきた

寝具業界はレガシーな業界であり、マットレスなどのプロダクトは30年近く見た目も製法も変わっていないという。

内橋氏は「事業を始める前に、私は曖昧な感覚論ではなくデータドリブンな手法で、日本人に合ったマットレスを提案しようと考えました。研究を重ねる中で、『日本人』で一括りにするのではなく、1人ひとりにパーソナライズされたモデルを提供したほうが良いのではないかと考え直し、xSleepの開発に至ったのです」と振り返る。

オンライン診断でマットレスをパーソナライズ

質問を重ねて、パーソナライズしていく

xSleepの最大の特徴は、マットレスのパーソナライズがオンラインで完結する点だ。これまで業界内では、マットレスを個人に合わせて作るには「オフラインでの計測データが必要だ」と先入観があったという。

例えば、寝具のオーダーメイド企業がオフラインで取る代表的なデータは体圧分散とだ。体圧分散は簡単に言えば、マットレス上で体のどこにどれだけ圧力がかかっているのかということ。一般的にこのバランスが良いほど優れたマットレスだと言われている。

yuniはこれまでオフラインで計測していた体圧分散などのデータを、オンラインの質問で得た情報から予測するAI技術を独自開発した。年齢性別といった基本情報やライフスタイルなどから睡眠の傾向も予測できるようにしている。

この技術を活用したオンライン診断では現状、理学療法士と考案した質問などを含めて10個以上の質問を用意している。

「当たり前ですが男女でマットレスの構造は変わります。背骨の曲がり具合や寝姿勢、筋肉量などについても大きく影響します。これらに対する質問を重ねていくことで、1人ひとりのデータに基づくパーソナライズドマットレスの提供を可能にしています」と内橋氏は述べた。

xSleepのマットレスは組み立てを一本化

画像下部にある筒状のものがポケットコイル、上部の3×3に分かれているものがトッパー

xSleepでは自宅にあるマットレスに重ねて使えるトッパーのマットレスと、トッパーとポケットコイルのマットレスがセットになった2パターンを販売していく。

価格はそれぞれ税込み・送料込み・シングルサイズで、トッパーが5万5000円、セットが12万円を想定している。支払い方法はクレジットカード以外にAmazon Payなどにも対応する予定だ。

xSleepのトッパーは頭と腰、足の3つパーツに分かれている。さらに2段構造となっているため、1枚で計6カ所の素材や硬さなどを個人に合わせて変えることができる。

内橋氏は「自宅に届いたxSleepのマットレスは、数多の組み合わせの中から生まれた、その人しか持っていない製品になる可能性もあります」と説明する。

xSleepはマットレスの高い品質を実現するため、素材や組み立て、オーダーメイドなど寝具作りを専門とする国内外のパートナー企業10社以上と連携して生産している。内橋氏はこう説明する。

「我々はxSleepの組み立てを一本化している上、中間業者を排して『各メーカーが得意な領域に絞って発注する』ことを徹底しているので、高品質ながらも一般的なオーダーメイドマットレスより安価に提供することができるのです」。

サブスクで試せるマットレス

xSleepのトッパーを試せるサブスクサービスは現状、月々税込4000円ほどを想定しているという。具体的には利用者がオンライン診断をした後、パーソナライズされたマットレスが自宅に届き、それを数カ月単位で使うことができるというもの。自分に合っているか実際に寝て試すことができるのだ。

自分に合わないと感じれば、既存のトッパーを回収してもらい、再パーソナライズしたものでまた試せる。最終的には製品に納得してもらうことで、トッパーとポケットコイルのマットレスのセットを購入してもらう狙いだ。

内橋氏は「サービスとしてToo Muchな部分もあるかもしれません。ただ、マットレスの買い替えの判断ができない人のためにやっていきたいです」と話した。

内橋氏の実家の寝具メーカーは寝具リサイクルの特許を持ち、20年近くにわたり寝具のリサイクルを行ってきた。yuniは実家の寝具メーカーと業務提携をしており、その特許の使用権も得ている。これにより、通常の寝具は返品されれば廃棄するしかないが、yuniはサブスクサービスで回収したトッパーでもリサイクルできるようになっている。

さらにyuniでは、現在使っている自宅のマットレスを引き取って、新しいxSleepのマットレスと交換するプランも構想中だという。内橋氏は「xSleepは素材もリサイクル前提で作られており、SDGsにも配慮したブランドとして認知を拡大していきたいです」と力を込める。

しかし、内橋氏はマットレスを一方的にパーソナライズしていくことに躊躇もしているという。一般的に仰向けが正しい寝姿勢とされているが、うつ伏せや横向きで寝る人もいる。オンライン診断による結果は、あくまで現在の寝方に合わせたものになるため、正しい寝姿勢へと導くことはできない。

内橋氏は「今後は継続的に睡眠データを取得できるデバイスを開発し、そのデータから正しい睡眠に導きつつ、変化に合わせて最適なマットレスを提供できるブランドを目指して研究を続けていきます」と語った。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:yuniスリープテック日本人工知能サブスクリプション

オンライン診断で身長や立ち姿勢など答えれば自分に合ったマットレスが作られ家に届く、SleepTechのyuniが5.5万円から販売へ

人は、人生の3分の1を寝て過ごしている。睡眠を支えるマットレスは重要なプロダクトだ。しかし、マットレスに対して「選ぶのが難しい」「実際に寝てみないと良し悪しがわからない」「捨てるのが面倒」といった悩みを持つ人は多いのではないだろうか。

2019年に設立したyuniはこれらの悩みや睡眠課題を解決し、1人ひとりに最適な眠りの提供を目指すSleepTechのスタートアップだ。yuniは2021年6月末から、AI技術を活用した無料のオンライン診断で、パーソナライズされたマットレスをつくることができるサービス「xSleep(クロススリープ)」の一般販売を始める。

利用者はxSleepのサイトで、身長や年齢から、立ち姿勢、寝姿勢、肩幅、筋肉量などについての質問に答えるだけで、診断結果から自分にパーソナライズされたマットレスが1週間程度で自宅に届く。これまで自分に合ったマットレスを探すためには、実際に売り場まで足を運び、試す必要があったマットレス選びをyuniはオンラインで完結できるようにした。

さらに2021年夏からは、パーソナライズされたマットレスをただ購入するのではなく、自宅で実際に試すことができるサブスク型のサービスも全国で始める予定だ。yuniの内橋堅志代表に話を聞いた。気に入れば買い取りもでき、物足りなければ再度パーソナライズしてもらうこともできる。

エンジニア×実家の寝具メーカーにおける経験

実家の寝具メーカーの風景、内橋氏の遊び場だったという

yuniの内橋堅志代表の実家は寝具メーカーであり、幼いころから寝具作りは身近なものだった。高校生になってからは新規事業にも関わるようになり、素材から製造、運送、リサイクルに至るまで、寝具に関する幅広い知識を得た。大学では機械学習などを専攻し、卒業後はエンジニアとして企業に就職。その後はフリーのエンジニアとしても働いていた。

「私自身が機械学習エンジニアであり、データ分析に強みがあります。また、実家が寝具メーカーだったからこそ、寝具業界における人脈もノウハウもあります。このため、オンライン完結型のパーソナライズマットレスの開発・提供ができたのです」と内橋氏は話す。

マットレスのオンライン完結型パーソナライズに向け研究を行ってきた

寝具業界はレガシーな業界であり、マットレスなどのプロダクトは30年近く見た目も製法も変わっていないという。

内橋氏は「事業を始める前に、私は曖昧な感覚論ではなくデータドリブンな手法で、日本人に合ったマットレスを提案しようと考えました。研究を重ねる中で、『日本人』で一括りにするのではなく、1人ひとりにパーソナライズされたモデルを提供したほうが良いのではないかと考え直し、xSleepの開発に至ったのです」と振り返る。

オンライン診断でマットレスをパーソナライズ

質問を重ねて、パーソナライズしていく

xSleepの最大の特徴は、マットレスのパーソナライズがオンラインで完結する点だ。これまで業界内では、マットレスを個人に合わせて作るには「オフラインでの計測データが必要だ」と先入観があったという。

例えば、寝具のオーダーメイド企業がオフラインで取る代表的なデータは体圧分散とだ。体圧分散は簡単に言えば、マットレス上で体のどこにどれだけ圧力がかかっているのかということ。一般的にこのバランスが良いほど優れたマットレスだと言われている。

yuniはこれまでオフラインで計測していた体圧分散などのデータを、オンラインの質問で得た情報から予測するAI技術を独自開発した。年齢性別といった基本情報やライフスタイルなどから睡眠の傾向も予測できるようにしている。

この技術を活用したオンライン診断では現状、理学療法士と考案した質問などを含めて10個以上の質問を用意している。

「当たり前ですが男女でマットレスの構造は変わります。背骨の曲がり具合や寝姿勢、筋肉量などについても大きく影響します。これらに対する質問を重ねていくことで、1人ひとりのデータに基づくパーソナライズドマットレスの提供を可能にしています」と内橋氏は述べた。

xSleepのマットレスは組み立てを一本化

画像下部にある筒状のものがポケットコイル、上部の3×3に分かれているものがトッパー

xSleepでは自宅にあるマットレスに重ねて使えるトッパーのマットレスと、トッパーとポケットコイルのマットレスがセットになった2パターンを販売していく。

価格はそれぞれ税込み・送料込み・シングルサイズで、トッパーが5万5000円、セットが12万円を想定している。支払い方法はクレジットカード以外にAmazon Payなどにも対応する予定だ。

xSleepのトッパーは頭と腰、足の3つパーツに分かれている。さらに2段構造となっているため、1枚で計6カ所の素材や硬さなどを個人に合わせて変えることができる。

内橋氏は「自宅に届いたxSleepのマットレスは、数多の組み合わせの中から生まれた、その人しか持っていない製品になる可能性もあります」と説明する。

xSleepはマットレスの高い品質を実現するため、素材や組み立て、オーダーメイドなど寝具作りを専門とする国内外のパートナー企業10社以上と連携して生産している。内橋氏はこう説明する。

「我々はxSleepの組み立てを一本化している上、中間業者を排して『各メーカーが得意な領域に絞って発注する』ことを徹底しているので、高品質ながらも一般的なオーダーメイドマットレスより安価に提供することができるのです」。

サブスクで試せるマットレス

xSleepのトッパーを試せるサブスクサービスは現状、月々税込4000円ほどを想定しているという。具体的には利用者がオンライン診断をした後、パーソナライズされたマットレスが自宅に届き、それを数カ月単位で使うことができるというもの。自分に合っているか実際に寝て試すことができるのだ。

自分に合わないと感じれば、既存のトッパーを回収してもらい、再パーソナライズしたものでまた試せる。最終的には製品に納得してもらうことで、トッパーとポケットコイルのマットレスのセットを購入してもらう狙いだ。

内橋氏は「サービスとしてToo Muchな部分もあるかもしれません。ただ、マットレスの買い替えの判断ができない人のためにやっていきたいです」と話した。

内橋氏の実家の寝具メーカーは寝具リサイクルの特許を持ち、20年近くにわたり寝具のリサイクルを行ってきた。yuniは実家の寝具メーカーと業務提携をしており、その特許の使用権も得ている。これにより、通常の寝具は返品されれば廃棄するしかないが、yuniはサブスクサービスで回収したトッパーでもリサイクルできるようになっている。

さらにyuniでは、現在使っている自宅のマットレスを引き取って、新しいxSleepのマットレスと交換するプランも構想中だという。内橋氏は「xSleepは素材もリサイクル前提で作られており、SDGsにも配慮したブランドとして認知を拡大していきたいです」と力を込める。

しかし、内橋氏はマットレスを一方的にパーソナライズしていくことに躊躇もしているという。一般的に仰向けが正しい寝姿勢とされているが、うつ伏せや横向きで寝る人もいる。オンライン診断による結果は、あくまで現在の寝方に合わせたものになるため、正しい寝姿勢へと導くことはできない。

内橋氏は「今後は継続的に睡眠データを取得できるデバイスを開発し、そのデータから正しい睡眠に導きつつ、変化に合わせて最適なマットレスを提供できるブランドを目指して研究を続けていきます」と語った。

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AI・IoT・ロボット技術で睡眠の質に合わせ変形するベッド開発のAx Robotixが約1億円を調達

カテゴリー:ネットサービス
タグ:yuniスリープテック日本人工知能サブスクリプション

AI・IoT・ロボット技術で睡眠の質に合わせ変形するベッド開発のAx Robotixが約1億円を調達

AI・IoT・ロボット技術で睡眠の質に合わせ変形するベッド開発のAx Robotixが約1億円を調達

世界初の変形し成長するベッド「Bexx」を開発するAx Robotixは11月24日、第三者割当増資による約1億円の資金調達を発表した。引受先はライフタイムベンチャーズ、インキュベイトファンド。今回の資金調達により、2021年末にローンチするロボットベッド「Bexx」に必要な開発メンバーの採用を強化する。

一般に、ベッド(マットレス)は購入後劣化していき、高機能化することはない。これに対してAx Robotixは、ベッドをロボット化(自在に変形可能)することで、使うほどユーザーの日々の睡眠の質、体調・体重増減などのデータを学習し最適化されていくサービスを提供する。横寝・仰向け寝、入眠時・熟睡時それぞれに最適と判断した形状に変形し、睡眠の質を従来の常識以上に引き上げるという。

同社は、「もっと精力的に働きたいのにコンディションの良し悪しに振り回されて悔しい思いをしている人」を救いたいとの思いから、睡眠の質を計測するIotセンサーと専用アプリを利用し、常に最適な形状を取り続け、毎日の睡眠の質を観測・向上させるソリューションを提供するとしている。これにより、人類の進歩を牽引するために寝る人すべてのパフォーマンスをさらに一段引き上げ、社会の発展に貢献していく。

AI・IoT・ロボット技術で睡眠の質に合わせ変形するベッド開発のAx Robotixが約1億円を調達

2019年4月創業のAx Robotixは、「快眠のその先へ」をコンセプトに、人類の進歩を加速させるロボットベッドを開発するエンジニア集団。開発中のベッド「Bexx」は、新機軸の変形構造とビッグデータを活用した睡眠ケアで、ひとりひとりの理想の睡眠を実現するまったく新しいタイプの寝具という。疲労回復のさらに先、人間の活力を呼び起こす眠りを目指している。

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タグ:Ax Robotix資金調達(用語)スリープテック睡眠(用語)Bexxロボティクス日本(国・地域)

日豪のスリープテック企業、KoalaとO:が法人向け睡眠手当制度で連携

オーストラリアのスリープテック企業Koala Sleep(コアラスリープ)と、日本の睡眠・体内時計スタートアップO:(オー)が5月28日、法人向け睡眠手当制度の提供と実証実験の実施で提携することを発表した。

Koala Sleepは、D2Cで自社企画のベッドマットレス「コアラ・マットレス」を販売するオーストラリアのスタートアップで、日本には2017年10月に進出。TVの情報番組で「ワイングラスを置いたマットレスに飛び乗ってもこぼれない」と紹介されたのを見たことがある人もいるかもしれない。

一方のO:は企業向けに、従業員の睡眠状況を記録・可視化してコーチングを行うスマホアプリを使ったサービス「O:SLEEP」を提供。従業員の健康管理や業務改革、組織改善などを支援するスリープテック企業だ。

日豪のスリープテック・スタートアップ2社による連携内容は2つ。1つ目は、O:SLEEP利用者を対象に、睡眠時間や質をスコアリングし、点数が高かった人にコアラ・マットレスを提供する「睡眠手当制度」。これにより、睡眠習慣の改善とアプリによる分析のモチベーションをユーザーに持ち続けてもらうことが狙いだ。

もう2つは「実証実験」で、上記の睡眠手当制度でマットレスの提供を受けた利用者の睡眠データから、寝具と睡眠の相関関係を数値化を試みるというものだ。

今回の提携にあたりTechCrunch Japanでは、Koala Sleep創業者のDaniel Milham(ダニエル・ミルハム、以下ダニー)氏から、プロダクト開発や改良の経緯、日本市場への展開と、O:との提携背景について、メッセージを入手したのでご紹介したい。

オーストラリア発のD2Cマットレス

Koala Sleep創業者のDaniel Milham(ダニエル・ミルハム)氏

Koala Sleepがオーストラリアで、ダニー・ミルハムとミッチ・テイラーによって創業されたのは、今から4年前の2015年11月のこと。ダニーがマットレスを意識しだしたきっかけは、幼少期からプレーしていたラグビーにより腰痛を抱えていたことからだという。

彼らは既存のマットレスを片っ端から購入し、課題を研究した。その結果「値段、質、大型家具ならではの買い物のしづらさ、配送の不便さなどに気づいた」とダニーはいう。そこで「のちに展開する寝具以外の家具(ソファなどオーストラリアでは販売が始まっている、開発中の商品)にも共通する、価値あるサービスにしよう」との思いから、家具・インテリア用品のD2Cブランドを立ち上げた。

はじめに商品化されたのは、現在も主力となっているベッドマットレスの「コアラ・マットレス」。彼らが素材として選んだのはウレタンフォーム素材だった。

「睡眠の質を決める要素は、寝心地の良さ、そしてサポート(反発)力の2つだ。フォーム素材は、スプリングやコイルと比べて密度が高く、よりしっかりと体をサポートすることができる。一方で、理想の寝心地を実現するために採用したのは、独自開発のフォーム素材『クラウドセル』だ」(ダニー)

メモリーフォーム(低反発材)も体当たりは心地よいが、体が沈んでしまい、腰痛などの原因となることもある。ラテックス素材は高いサポート力を備えるが、ゴムっぽさがあり、寝心地の面で難がある上に、価格が高い。またいずれも通気性が低いという欠点がある。

クラウドセルは連続気泡構造のフォーム素材で、通気性に優れ、柔らかい寝心地が実現できるという。この柔らかい層と硬い層の2種類のウレタンフォーム素材を組み合わせることで、寝つきの良さにつながる寝心地の良さと、深い眠りにつながるサポート力の両方を兼ね備えたマットレスができあがった。

通常、ウレタンフォーム素材は原価の高さから、コイル、スプリング素材のマットレスの上に補助的に使われることが多いというが、コアラ・マットレスでは、シンプルな構造のマットをD2C直販で提供することにより、価格を抑えている。

また、この構造のシンプルさは、顧客にとっては選びやすさにもつながるという。コアラ・マットレスはベッドマットレスとして1商品で完結していて、パッドや敷き布団のような別のアイテムは必要ない。また厚みや素材、構造も共通で、顧客はサイズを選べばよいだけだ。

創業から6カ月は「数千人のカスタマー候補にインタビューを行い、睡眠に関するさまざまな質問に回答してもらった」とダニーはいう。「顧客の声に寄り添えるブランドであるために、私たちは常にお客様からフィードバックをいただき商品開発に活かせるような仕組みを持っている」(ダニー)

その仕組みのひとつが、購入から約4カ月間、自宅でコアラ・マットレスを試すことができる返品返金保証制度だ。「120日トライアル」と呼ばれる試用期間中に、体に合わず、返品を希望する顧客にはアンケートを送り、どういった部分が合わなかったのかなど、回答してもらっているという。

日本市場へ上陸した2017年10月にも、何千人という規模でアンケートを行い、オーストラリアで創業時に行ったのと同様の市場調査を再度実施したというKoala Sleep。その結果、オーストラリアで販売しているマットレスと基本的な構造は変えることなく、サイズ変更とやや固めの仕上げにローカライズすることで、日本でも「目指す睡眠改善をサポートするマットレスを届けられると確信した」(ダニー)ということだ。

提携で「働く人の睡眠改善、データ活用に期待」

Koala Sleepが、オーストラリアに次いで展開する市場として日本を選んだ理由について、ダニーは「海外展開を考えたときに、オーストラリアで成功したサービス内容に共感してもらえる市場を探した。日本の顧客には『120日トライアル』『送料無料』『即時配送』をはじめとする、当社のサービスに魅力を感じてもらえると分かった」と話している。

物流システムや法律の違いなどから、オーストラリアでは実現している「4時間配送」など、日本では実現できなかったサービスもあるが、「顧客にとって手軽なショッピング体験となるサービスを提供する」との考え方から「最短翌日配送」といった日本独自のサービス開発も行った。

「おかげさまで日本市場でも急成長を続けており、東京オフィスのチームも大きくなりつつある。毎月伸び続ける売り上げは十億円規模に迫る勢い。1500件中1000件を超える5つ星レビューも集まっている。その背景には、ローカライゼーションを意識した数々の施策があると考えている」(ダニー)

TwitterなどのSNSに対するコメントにも社員が1つ1つ返信するそうで、日本の顧客からの信頼を得るため、顧客からの声、フィードバックを大事にする施策を常に意識しているという。

「(日本でも)D2Cブランドとして、他の仲介業者との利害関係も営業部隊のコミッションも、間に入る何もかもを取り払うことで、お客様と直接対話できるブランドとしてより信頼を築いていけるその成長過程にあると思っている」(ダニー)

サービスのローカライゼーションでオーストラリア本国と大きく違うのは「マットレスブランドとして店舗を持つか持たないかという点」だとダニーは述べている。

「D2Cブランドとして、なるべく余計なコストをかけずに、手に届きやすいお値段で高品質な商品を提供することを考えたときに、店舗や代理店を持つという選択は理にかなっていない」とダニーは話しているが、一方で「我々が日本のマットレス業界の中では、比較的新しい価値を提案しているブランドだということは自覚している」ともいう。

このため「ブランドを信頼してもらうには、インターネットでの直販だけにこだわるべきではない」として、日本ではコアラ・マットレスの体験会を開催し、オフラインで顧客と対話して、商品に触れてもらう機会を作ってきた。6月には“睡眠研究所”をテーマにした体験会を東京・表参道で開催するそうだ。

O:との提携についてKoala Sleepは、これまでファミリーへ訴求してきたコアラ・マットレスを、新たに「働く人」に対して訴求していく機会と捉えている。

「日本では長く『ワークライフ』が『ホームライフ』よりも優先されてきた。ようやく『働き方改革』が進む今日、働く人の睡眠と心身の健康に対する意識を上げる絶好のタイミングであると考えている。この好機に、スリープテックのO:との提携を発表できるのは非常に価値があるものだと感じている。働く人の睡眠改善を促進するプログラムに参加させていただけるこの機会を光栄に思う」(ダニー)

また、ダニーは今回のパートナーシップにより、働く人の睡眠の質と日中の仕事でのパフォーマンスに関するデータを収集でき、働く人の睡眠改善にコアラマットレスがどう貢献できるかを検証することにも期待を寄せている。

「今後の商品・サービス開発にこのデータを生かしていくことで、よりニーズにあった価値を提供できるブランドに成長していけることを楽しみにしている」(ダニー)

睡眠課題を解決するSleepTech企業のニューロスペースが3.4億円を調達

ニューロスペースの経営陣と投資家陣。写真中央が代表取締役社長の小林孝徳氏、その右隣が取締役COOの北畠勝太氏

テクノロジーを用いて睡眠課題を解決するSleepTech(スリープテック)。近年注目を集めるこの領域で複数の事業を展開するニューロスペースは4月8日、第三者割当増資と融資を合わせて総額3.4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはMTG Ventures、東京電力フロンティアパートナーズ、日本ベンチャーキャピタル、東急不動産ホールディングスの「TFHD OpenInnovation program」、およびユーグレナSMBC 日興リバネスキャピタル(リアルテックファンド)の5社。第三者割当増資の総額が2.5億円で、ここに0.9億円の融資を含めトータル3.4億円となる。

ニューロスペースでは調達した資金を活用して、SleepTech事業の拡大へビジネスサイドや開発サイドの人事採用を強化する計画。調達先のMTG、東京電力グループ、東急不動産ホールディングスグループとは協業も進める。

同社は2013年の創業。2017年11月にもリアルテックファンドや個人投資家らから約1億円を調達している。

1万人以上のデータを活用した睡眠解析プラットフォームへ

創業から一貫して睡眠×テクノロジー領域で事業を展開してきたニューロスペース。現在同社では大きく2つのアプローチから睡眠課題の解決に取り組んでいる。

1つ目が企業向けの睡眠改善プログラム。正確には企業に対して従業員の睡眠を改善するプログラムを提供する、B2B2Eモデルのサービスだ。

背景には近年働き方改革や健康経営、生産性向上などの文脈で、企業内でも今まで以上に従業員の体や心をケアしようという動きが高まっていることがある。

中でも従業員の睡眠不足は重要なポイントのひとつ。企業が日々の生産性の損失として課題視するプレゼンティズム(出勤しているが体調不良やメンタル面の不調などが原因で従業員のパフォーマンスが低下している状態)において睡眠不足が2番目に大きな損失とされるなど、睡眠課題は早急に手を打つべき存在となっている。

ニューロスペースではこれまで睡眠実態のモニタリングや集合形式のラーニングプログラムなどを通じて、従業員の睡眠課題や生活習慣の把握から、浮かび上がった課題の解決までをサポートしてきた。累計の支援企業数は70社、プログラムを提供した従業員は1万人を突破。大手企業を中心に業界や業種も多岐にわたる。

合わせて同社では睡眠データを計測するデバイスや、個々に合わせた睡眠改善アドバイスを提供するアプリを含めた「睡眠解析プラットフォーム」を開発し、吉野家やKDDIらと実証実験を実施。同サービスを6月にも正式ローンチする計画だ。

デバイスはイスラエルのIoTスタートアップ「EarlySense」が手がける非接触型睡眠計測デバイスを導入。マットレスの下に挿入することで、ユーザーの負担を増やさずに、就寝までの時間や中途覚醒時間・回数など個人の細かい睡眠傾向を測定する。

そこから取得したデータやこれまで蓄積してきたナレッジなどを用いて、睡眠改善助言アプリ上でユーザーごとにパーソナライズしたケアを行う。たとえば前日の睡眠データから眠気が強くなる時間帯や集中しやすい時間を予測したり、日々の傾向から具体的な改善アドバイスをしたりすることができるという。

事業会社とタッグでSleepTech事業を推進

この睡眠改善プログラムや睡眠解析プラットフォームの開発だけでなく、ニューロスペースでは事業会社と協業して一般の生活者向けにもサービスを展開してきた。これが2つ目のアプローチだ。

2018年9月にはANAと共同で「時差ボケ調整アプリ」を発表。2019年3月にはKDDI・フランスベッドと共同で睡眠×ホームIoTサービスを開発している。

ANAと共同開発した「時差ボケ調整アプリ」

KDDIと共同開発した「睡眠×ホームIoT」

「前回調達した資金を通じて睡眠解析プラットフォームの開発を進めてきた。これはニューロスペースが様々な企業と協業してSleepTechビジネスを創出していく際に共通して使うシステム基盤となるもの。このプラットフォームを活用し、KDDIやANA、東京電力などとの協業にも取り組んでいる。今後はプラットフォームの更なる技術力強化とパートナー企業との協業事業をより加速していく」(ニューロスペース代表取締役社長の小林孝徳氏)

冒頭でも触れた通り今回の調達先であるMTG、東京電力グループ、東急不動産ホールディングスグループとは共同で新サービスや新規事業を立ち上げる方針だという。

「そもそも眠りとは食事と同じく人間が生きていくために根源的にある欲求だ。現在はまだ『睡眠を改善する、つまりimproveする』というフェーズにあるが、今後は様々な食事が選べるように『睡眠も楽しめて更にはデザイン出来る』、そんな世界をSleepTechのコアテクノロジーで実現していく。最終的には人間が地球を出てどんな環境に行こうと、パラメーターをコントロールすることでいつでも最高の眠りと休息がとれる世界を目指したい」(小林氏)

ニューロスペース取締役COOの北畠勝太氏によるとSleepTech市場は海外で先行して盛り上がっていて、CES(世界各国から最新の家電製品が集まる見本市)では2017年から専用のコーナーが開設されているそう。スタートアップ界隈でもマットレスのD2C事業を展開するCasperが先日実施したシリーズDラウンドでユニコーン企業に仲間入りするなど、大きなニュースが増えてきた。

日本では昨年7.2億円を調達したサスメドや今年1月に2.2億円を調達したO:(オー)らがこの領域でプロダクトを手がける。ニューロスペースも含め、2019年が日本における本格的なSleepTech元年となるのか、引き続きその動向に注目だ。

睡眠解析ベンチャーのニューロスペースが約1億円を資金調達、吉野家とシフト勤務者の睡眠改善を実証実験

睡眠解析ベンチャーのニューロスペースは10月11日、ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタルが運営するリアルテックファンドおよび個人投資家らを引受先とする、第三者割当増資による資金調達の実施を発表。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の平成29年度研究開発型ベンチャー支援事業への採択により交付された資金と合わせて、約1億円を調達したことを明らかにした。

ニューロスペースは2013年12月の創業。代表取締役社長の小林孝徳氏が、自身の睡眠障害の経験をきっかけに設立した。企業向けに睡眠改善プログラムを提供するほか、独自の睡眠計測デバイスと解析アルゴリズムに基づく共同研究開発なども行うベンチャーだ。

ニューロスペースでは、今回の資金調達と同時に、AIやIoT技術を活用した「睡眠解析プラットフォーム」ベータ版の提供も発表。調達資金により“スリープテック”事業を加速し、この睡眠解析プラットフォームの実用化に向けた開発を進める考えだ。また、このプラットフォームの実証実験に吉野家が参加することも決定している。

睡眠解析プラットフォームは、個人ごとの睡眠データを高精度で計測し、AIを使った独自の解析技術により個人別の解析結果、最適ソリューション、改善データを提供するための基盤となる。健康経営を推進する企業や睡眠ビジネス参入を検討する企業に開放し、API経由でデータやソリューションを自社サービスや製品に組み込むことが可能になるという。

プラットフォームの実証実験では、吉野家のシフト勤務者を対象に、睡眠計測デバイスと、計測データから睡眠改善策を提案するモバイルアプリが配布され、1カ月間の計測とレコメンデーションの実施、シフト調整などを通じて、検証が行われる。