クラウドレスでの共同編集を可能にするオフィススイートアプリCollabio Spacesをご紹介したい。データや変更履歴の管理を確実に行いながら、ドキュメントの共同編集を可能にするというものだ。
モバイルデバイスやデスクトップコンピューターから、複数人がローカルネットワークで共同編集できるようになるというこのP2Pソフトウェア。Googleドキュメントのような共有文書機能を使用している場合には必ずつきまとう、機密情報をクラウドにアップロードする際のリスクや、複数人にドキュメントをメール送信し、編集済みファイルが返信された後に手作業で変更点を照合する、などという面倒な作業をこのソフトウェアが解決してくれるようだ。
Collabioの機能は今後さらに強化されていくという。将来的には、ローカルネットワークだけでなくどこからでもドキュメントの共同作業ができるようになる。2021年4月に予定されているメジャーリリースでは、インターネットを介して動作するP2Pコラボレーションが追加される予定だが、それもリモートサーバーを介すことによるプライバシーリスクを回避している。
同アプリは今のところMacOSとiOSのみに対応しているが、Android版とWindows版も2021年中のリリースを予定しているという。
現在サポートされているテキストフォーマットは、DOCX、ODT、XLSX、ODS。Collabioオフィススイートには、カメラを使ってテキストや画像をスキャンして認識する機能、PDFに注釈やコメントをつける機能(音声入力も含む)、テキスト文書やPDFに電子署名をする機能、プレゼンテーションを表示する機能なども含まれている。
画像クレジット:XCDS/Collabio
英国のロンドンに本社を置き、チェコ共和国のプラハに研究開発拠点を持つXCDS(eXtended Collaboration Document Systems)が同アプリの製作会社だ。同社は約10年前から事業を行っているが、CTOのEgor Goroshko(イーゴル・ゴロシュコ)氏によるとオフィスツールの開発は7年ほど前から行っており、同氏はCollabio自体をスタートアップとして見なしているという。
このアプリは(非公開の個人投資家から非公開額の)資金提供を受けているが、チームは近い将来、開発を継続して製品を強化するためのさらなる資金調達を計画している。
新型コロナウイルスにより過去12カ月間でリモートワークが急速に広まったが、これを機会にコラボレーションツールや生産性向上ツールは大きな改善を遂げ、またオフィス勤務者が同じスペースで働かなくなった事によって直面したワークフローの障壁を安全に取り除けるようになった。現在のCollabioはリモートコラボレーションではなく近距離で働く者同士のためにデザインされているため、次のメジャーリリースがどのようなものになるのか非常に興味深い。
Collabioの初期チームには、Quickofficeの開発者で2012年の買収時にGoogleに移籍しなかったメンバーも含まれている。彼らはドキュメント関連製品のユーザーエクスペリエンスを向上させる方法を考えることに注力し、その結果、長年開発してきたP2Pドキュメントコラボレーション製品を2020年秋にようやく市場に出したのである。
「Collabioの開発を開始したときから長期戦を覚悟していました」とゴロシュコ氏はTechCrunchとの対談で当時を振り返る。「独自のアイデアを開発し始める前に、(オフィススイートソフトの)ユーザーが普段慣れ親しんでいるほとんどの機能を実装する必要があると確信していました」。
「簡単にいうと、弊社のクラウドレスコラボレーションは、クラウドのものとまったく同じように機能します。当然ドキュメントへの接続方法には多少の違いがありますが、それ以外はクラウドで作業する際とまったく同じ体験ができます」。
「2020年9月にiOSアプリからスタートし、10月にはmacOSバージョンを導入しました。初期のリリースでは主に実際のユーザーでアプリを検証し、私たちのアイデアを証明することにフォーカスしています。ローンチして以来約1万5000件のインストールがあり、ユーザーが何を必要としているのか、何を改善すべきなのかなど、貴重なフィードバックを得ることができました。2021年2月から集中的に市場に投入し、この1カ月間で1000人以上のユーザーを獲得することができました」。
CollabioのP2Pクラウドレスコラボレーションと、典型的なサーバーへのアップロード型コラボレーションとの間には、注目すべき重要な差がある。
その1つに、共同執筆や共同編集をしているドキュメントに、他者が常にアクセスできないという点がある。自分のデータへの共同アクセス権を厳密に管理したい場合には、こういった制限が役に立つかもしれない。
「Collabioではクラウドを使わない共同編集を『アドホックコラボレーション』と呼んでいます。クラウドなしでは常にドキュメントにアクセスすることはできないため、時折行われるドキュメントに対する議論や更新には最適です」とゴロシュコ氏。
もう1つの重要な違いは、共有されたドキュメントは所有者のホストデバイスにしか残らず、コピーは所有者しか保存できないという点が挙げられる(少なくとも現時点では)。
「共同作業者はセッションドキュメントにアクセスはできますが、デバイスにファイルをアップロードしたり転送したりすることはできません。セッションはホストがドキュメントを開いている限り続きます。ドキュメントを閉じた時点で他の参加者はアクセス権を失い、またドキュメントをローカルネットワークに保存することはできません。これはプライバシー保護のためですが、今後接続している相手にドキュメントのコピーを保存させるオプションをユーザーに提供するかどうかを現在検討中です」。
すべてのドキュメント作業はローカルネットワーク上のデバイスで行われるため、Collabioを使ったコラボレーションにインターネット接続は必要ない。安定したインターネット接続の確保が容易ではない出張などの状況で、これは非常に役立つと同チームは考えている。
ゴロシュコ氏によると、CollabioはこのローカルP2P接続が「より高い品質を達成できるよう」Wi-FiとBluetoothの両方を使用しているという。「これはAirDrop技術などでも採用されている一般的な手法です。相手のアドレスが特定されると、アプリケーションはWi-Fi経由で接続を確立し、データ交換の速度と品質を向上させます」。
「すべての作業はローカルネットワーク上のデバイスでのみ行われるため、アドホックコラボレーションにインターネットは必要ありません。AirDropでファイルを交換する際にインターネットが必要ないのと同じです。AirDropと同様に、Collabio Spacesには特別な設定は必要なく、すべてが自動的に行われます。セッションを開始すると同僚が自分のデバイスでそれを見ることができ、選択したドキュメントに接続するだけで、コードを知っていればドキュメントを編集することができます」。
Collabioチームは、Appleのテクノロジーと同社の「It just works(それだけで機能する)」という哲学に影響を受けているとゴロシュコ氏はいう。それでも、同製品をApple以外のプラットフォームにも提供できるよう取り組んでおり、年内のリリースを目指している。
「大規模かつ複雑で野心的なプロジェクトですが、我々が革新的なアプローチをもたらすことができると信じています。Officeソフトの市場はかなり保守的ですが、新しいソフトに対する市場からの期待値は高く、そのため公開までにかなりの時間を要しました。しかし参入障壁が高く、ドキュメント管理や編集の分野で革新が遅れているからこそ、そこに大きなチャンスが隠れているのです」。
従来の製品にコラボレーション機能を追加しなければいけなかった通常のオフィススイートとは違い、Collabioは「概念実証の最初の段階から共同編集を念頭に置き」ゼロから開発を行ったため効率化を図ることができたのだと同氏は考えている。そのため、共同編集アルゴリズムの実装が「携帯電話の最小限のリソース消費」でも可能になるというわけだ。
ゴロシュコ氏によると、Collabioのユーザーがモバイルデバイスを使ってコラボレーションセッションを開始した場合、最大5人のメンバーが同時に接続することができ、また全参加者がドキュメントを編集することができるという(デスクトップであればさらに大人数が同時に接続可能だ)。
「蜂の巣型のアイコンからコラボレーションセッションを開始すると、Collabio Spacesアプリがインストールされた周辺のデバイスに共有ドキュメントが表示されます。AirDropによるファイルの共有やAirPlayによるオーディオやビデオのストリーミングと同じように作動し、近くにいる人はセッションに割り当てられたセキュリティコードを知っていれば、編集に参加することが可能です」。
このP2P接続は「標準的なエンド・ツー・エンドの暗号化」によって暗号化されているとゴロシュコ氏はいうが「インターネットにアクセスすることなく、ローカルネットワーク内で信頼できる接続を許可するためのトリック」があると認めた上で「最初はこれで十分だと思いますが、将来的にはこの方法を改善することになるでしょう」と語っている。
独立したセキュリティテストを受けていないどんな初期製品にも同じことがいえるが、前述の理由から、これからCollabioによるこの斬新な製品を利用しようと考えているユーザーは、共同編集の目的で共有するデータの機密性を考慮しながら慎重なアプローチをとるべきである。
一方、同スタートアップはリモートワークでより効率的に仕事をしようと四苦八苦しているオフィスワーカーのニーズに応えることができれば、大きな成長が期待できると感じている。
「チームワークに特化したエディターを作り、コラボレーションを最大限に活用できるようにすることが我々の目標です。他のメンバーとともに仕事ができればメリットも大きいですが、他人と同期するためにはある程度の労力をともないます。プランニング、トラッキング、ディスカッション、レビューなどのこういった作業のほとんどは通常ドキュメントとは別に行われるか、ドキュメントの中での作業になっています。このギャップを埋め、ユーザー間でコラボレーションがスムーズに行えるようにしたいと考えています」。
「弊社にとって市場には大きく分けて2種類の競合が存在すると考えています。1つ目のMS Office、Googleドキュメント、Libre Officeのような大手のオフィスドキュメント編集スイートは、あまりにも膨大な機能を備えているため直接的な競合だとは思っていません。多くの人がほとんどの機能を使いこなせていないのが現状です」。
「そして、2つ目のNotionやAirtableのような新しい製品が登場し、ドキュメント編集プロセスをビジネスに統合するスマートな方法を紹介しています。我々はこの2種類の中間あたりに位置していると考えています」。
Collabioを使用するにはサブスクリプションの購入が必要となるが、1週間までの無料トライアル版が用意されている。
また、コラボレーションセッションのホストになることはできないが、ユーザーとしてドキュメントを閲覧したり編集したりすることはできる無料のオプションもあると聞いている。
2021年5月に予定されているメジャーリリースでは、インターネットを介してどこからでもP2Pコラボレーションができる機能が追加され、またリモートサーバーの必要がなくなるなど、リモートワークの普及に対応して実用性が大幅に拡大される予定だ。
こういった新機能の仕組みは、ひと言でいうなれば「数学」である。ゴロシュコ氏によると、このシステムは共同編集中「常に」ドキュメントの一貫性を保つためのOperations Transformation(操作変換)アルゴリズムに依存しており、リアルタイム操作の必要性がないようになっている。
「共同編集者が最後に何を入力しようと、最終的には必ず同じ内容になります。このアルゴリズムによって必ずしもすばらしいドキュメントができ上がるとは限りません。複数人が同じ場所に入力すれば、訳のわからない言葉になるでしょう。ただし、全参加者の間ですべての変更が同期された後は皆、同じ訳のわからない言葉が並べられたドキュメントを見ることができます。Operations Transformationではリアルタイム操作が必要とされないため、変更が早くても遅くても、最終的には他の変更と一致するように変換されます。つまり、クラウドまたはクラウドレスのコラボレーションモードどちらであっても、共同編集をサポートするための特別なインフラや高速処理が必要ないのです」。
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画像クレジット:Aksonsat Uanthoeng / EyeEm / Getty Images
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)