ビジョンファンド出資の中国オンライン学習アプリZuoyebangが約800億円を調達

オンライン学習アプリを運営する北京発のスタートアップ(未訳記事)であるZuoyebangは米国時間6月29日、投資家がアジアの急成長中のエデュテック市場への信頼と注目を示す中、新たな資金調達ラウンドで7億5000万ドル(約800億円)を調達したと発表した。

米投資会社のTiger Globalと香港プライベートエクイティ会社のFountainVest Partnersが、創業6年間のZuoyebangのシリーズE投資ラウンドを主導した。このラウンドにはソフトバンクのVision Fund(ビジョン・ファンド)、Sequoia Capital China、Xiang He Capital、Qatar Investment Authorityなどの既存の投資家も参加し、これまでの同社の資金調達額は13億3000万ドル(約1400億円)となった。

以前TechCrunch USが報じたように(未訳記事)、Zuoyebangのアプリは幼稚園から12年生までの生徒たちが問題を解き、複雑な概念を理解するのに役立つ。

アプリはオンラインコースを提供してライブレッスンを実施し、学生が問題の写真を撮ってアプリにアップロードし、解答を得ることもできる。Zuoyebangは質問と解答を識別するために人工知能を利用しているという。

Zuoyebangは1億7000万人の月間アクティブユーザーを集めており、そのうち約5000万人が毎日このサービスを利用していると同社は投稿で述べている(WeChat投稿)。このうち、1200万人以上が有料会員だとのことだ(中国教育部リリース)。

今回の発表から、投資家がアジアのオンライン教育セクターに注目していることがわかる。インドのエデュテック大手であるByju’sは先週、Mary MeekerのファンドであるBondから新たな資金を獲得したと発表した(未訳記事)。

ソフトバンクは、ここ数四半期で成長を示した88社のスタートアップの中にZuoyebangを含めている。Zuoyebangは2015年にBaidu(バイドゥ)によって設立された。その1年後に同社はZuoyebangを独立したスタートアップとして分社化した。

Zuoyebangは中国で同様のサービスを提供しているYuanfudao(未訳記事)を含む、いくつかのスタートアップと競合している。Yuanfudaoは2020年3月にTencent(テンセント)とHillhouse Capitalが主導する資金調達ラウンドで10億ドル(約1100億円)を確保した(South China Morning Post記事)と発表した。同社の当時の評価額は78億ドル(約8400億円)だった。Reuters(ロイター)は2020年6月初めに、Zuoyebangは新たな資金調達ラウンドで65億ドル(約7000億円)で評価される可能性があると報じた。

調査会社のiResearchによると、中国のオンライン教育市場は2年後には810億ドル(約8兆7000億円)規模になる可能性があるという。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

ソフトバンクが支援するBrandlessがついに完全廃業

短いジェットコースターのような話だった。

サンフランシスコに本社を置く電子商取引企業Brandless(ブランドレス)は、美容、パーソナルケア、日用品、ベビー、ペットといったカテゴリーの「クルエルティフリー」(動物を傷つけない)製品を製造販売していたが、20177に正式オープンした後、少なくとも3年間、休業していた。

ニュースサイトProtocolで発表された声明では、Brandlessは小売り市場の「猛烈な競争」が原因だとしている。休業の影響により、同社は70名の従業員を解雇し、残る10人で未処理の注文に対処し、可能ならば在庫の販売方法を考えるという。

この会社が短命だったことは、業界ウォッチャーにはそれほどの驚きではなかった。2018年7月、Brandlessは、ソフトバンクの1000億ドル(約10兆9000億円)規模のビジョン・ファンドから2億4000万ドル(約264億円)の投資を受けたことを発表したBrandlessの企業価値を5億ドル(約550億円)強と見積もっての契約だ。比較的幼い企業にしては、びっくりするような出来事だった。

Wagなど、さらに最近ではWeWorkのようにビジョン・ファンドが支援したいくつもの企業に共通して起きたことだが、それは経営幹部の再編を意味した。実際、昨年3月には、Ido Leffler(イド・レフラー)氏とこの会社を共同創設したCEOのTina Sharkey(ティナ・シャーキー)氏が、取締役会の共同会長となって「より集中した役割」を果たしたいと、CEOの座を降りている。

それにより、Brandlessの当時のCFOであったEvan Price(エバン・プライス)氏が暫定CEOに就任。5月には、元Walmart.comのCOO、John Rittenhouse(ジョン・リッテンハウス)氏がその座を引き継いだ。Protocolによると、彼は、もっとたくさんのBrandlessの製品を実店舗に並べる計画を立てていたが、昨年12月、密かに身を引き、Brandlessから去った(その一方で、昨年秋、シャーキー氏も取締役会から退いている)。

影響

たしかにこの展開は、すでに抜け目ない取り引きで評判が揺らいでいるソフトバンクには追い打ちとなった。だが公正を期して言うなら、Brandlessは、その多くが質の高い製品にまつわるいいストーリーを有する新規参入者で溢れるようになった業界に踏み込み、さらに、同じ価格帯のブランドに属する似たり寄ったりのテイストと品質の製品で激しい競争に捲き込まれたのだ。

2018年に発表されたソフトバンクの投資金2億4000万ドルについても言及しておくべきだろう。Brandlessに近い情報筋によると、同社に入った資金はその半分以下だったという。

昨年のThe Informationが伝えたところによれば、Brandlessが利益を生むことを熱望していたソフトバンクは、約束した資金の一部を分割で提供し、Brandlessが一定の財務目標を達成するまで資金の大半を出し惜しみしていた。

目標達成が叶わなかったため、ソフトバンクは1億ドル分の投資を取りやめた。そしてProtocolによると、プライス氏、レフラー氏、ソフトバンクの業務執行取締役Jeff Housenbold(ジェフ・ハウスンボールド)氏、ベンチャー投資会社RedpointのJeff Brody(ジェフ・ブロディー)氏、ベンチャー投資会社NEAのColin Bryant(コリン・ブライアント)氏らからなるBrandlessの取締役会は、退職金が支払える間に会社をたたむことに決めたのだという。

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(翻訳:金井哲夫)

常時素行調査の信頼のジレンマとファーウェイとソフトバンクのIPOの話

まず、スタートアップでの初めての素行調査、それからファーウェイの財務のトップの逮捕、ソフトバンクの新規株式公開(IPO)の応募開始、そしてTechCrunchのポッドキャストEquityの次の話の録音。これらすべては、2018年12月6日の木曜日の出来事だ。

TechCrunchでは、新しいコンテンツ形式を試すことにした。これは、その新しいスタイルの草稿になる。どうか、率直なご意見を賜りたい。気に入らない部分があれば、本記事の著者である私、Dannyに直接メールをいただきたい(danny@techcrunch.com)。

常時素行調査のジレンマ

私の同僚のJohn Biggsは、イスラエルに本拠地を置くスタートアップIntelligoシリーズA投資ラウンドについて取材をした。同社は、従業員が犯罪を犯したり、会社の規則を逸脱したときに、即座にわかるように常時素行調査を行うOngoing Monitoringを提供している。これまでは、人工知能と機械学習を使って素行調査を効率的に行うことに主眼を置いていたが、少し方向性が変わったようだ。

素行調査は巨大産業だ。サンフランシスコに本拠地を置くCheckrは、おそらくこの分野でもっとも名の知れたスタートアップだが、Crunchbaseによれば、Uberなどの企業が数千人の臨時職員を雇い入れることから、その必要に迫られて事前に1億4900万ドル(約168億円)の資金を調達した。Checkrは、今年の7月に、すべての従業員の問題行動を常時監視するためのContinuous Checkという製品を立ち上げている。

ここで、数週間前にOlivia CarvilleがBloombergに書いた記事を思い出して欲しい。従業員の経費を監視し、不正が疑われる者に警告を発する「アルゴリズム監査人」」が増えている現状を探った内容だ。

評判が傷つくことを恐れるアメリカの企業は、不正出資によって1年間に失われる経費の額は公表したがらない。しかし、4月に発表された不正検査士協会の報告では、分析の結果、2016年1月から2017年10月にかけて2700件の不正があり、損失額は70億ドル(約7890億円)にのぼるという。

しかしここで、ある疑問がわく。私たちは、犯罪と出資を常時監視されている。多くの企業は、ウェブのトラフィックと、電子メールやSlackやその他の通信を監視している。職場での私たちのあらゆる行動が覗かれ、「規範」に従うよう強制されている。

それでも、中国の社会信用システムには批判が集まっている。それだって、犯罪記録を監視して、財政的な不正がないかを見て、人々をそのスコアで評価するものではないか。いつになったら雇用主は、我々の「従業員としての善い行い」をスコア化して、Slackのプロフィールに載せてくれるようになるのか。

もちろん、どのスタートアップも企業も、素行調査をやりたがっているわけではない。だが避けることもできない。そこが難しいところだ。従業員の変化や不正を常に監視していることには、おそらく意味がある。もし、ボブが週末に人を殺していたら、月曜日の打ち合わせでボブに合うときには、そのことを知っておきたい。

しかし、常時監視が、従業員から求められるもうひとつのものを台無しにしてしまう恐れがあることを無視してはいけない。それは信用だ。職場での一挙手一投足を厳重に監視されるようになれば、従業員は、もし監視システムが職場の物を持ち逃げしても何も言わないなら、それは許されることだと勘違いするようになってしまう。監視がない場合は、信頼が頼りだ。監視の目に囲まれていたら、規範が行動の原則として刻み込まれる。規範にさえ違反しなければ、何をやってもいいと。

中国では、社会的信用がきわめて低いため、なんらかのスコア付けのメカニズムで代替することには合点がいく。しかし、スタートアップや技術系企業の場合は、信用という(監視されていなくても正しい行いをする)文化を築き上げることが成功の必須条件であると私は考える。だから、常時型サービスを契約する前に、私なら二度見をして、その潜在的な有害性を考える。

もし私がスタートアップの従業員だったら
中国出張はよく(よくよく)考える

 

写真:VCG/VCG Getty Imagesより

 

先週、トランプと習近平は、中国製品に対する関税の実施を延期することで合意し、月曜日にはアジアのタイムゾーンで中国(ハイテク)株が上昇傾向を見せた。私は、関税実施の延期は米中問題解決にはつながらず、そうする意味がわからないと記事に書いた

市場は中国経済のみならず、アメリカのリーダーシップについても判断を大きく誤っていると私は考える。

そして、とくにファーウェイとZTEの参入制限についてこう書いた。

これらの禁止措置が解かれることがあるのだろうか? アメリカの安全保障に関わる機関は、ファーウェイとZTEがアメリカ国内で機器を展開することを許さないだろう。それは、これまでと変わらない。率直に言って、この選択によって中国のすべての非関税障壁が取り除かれ、ファーウェイがアメリカに戻って来られたとしたら、アメリカの交渉係はそっぽを向く。

そのため、ファーウェイの財務のトップが、昨夜、アメリカの要請によりカナダで逮捕されたことは喜ばしい(彼女ではなく私にとって)。私の同僚、Kate Clarkはこう書いている。

世界最大の電気通信機器メーカーであり、世界第ニのスマートフォンメーカーでもあるファーウェイの最高財務責任者、孟晩舟(メン・ワンズー)は、The Globe and Mailが最初に報じたとおり、アメリカのイランに対する経済制裁に違反した疑いで、カナダのバンクーバーで逮捕された。

ファーウェイはこれが事実であることをTechCrunchに認め、ファーウェイの創設者、任正非(レン・ツェンフェイ)の娘でもある孟晩舟は、カナダへ向かう飛行機に乗り換えたニューヨークの東地区連邦裁判所から詳細不明の罪状で告発されたと話した。

トランプ政権が、関税以外に、どのような方法で貿易戦争を戦おうとしていたかが、これでわかった。中国でもっとも有名なハイテク企業を狙っただけでなく、ついでにその創設者の娘も捕まえるという、トランプ政権の強引な一手だ。

中国は、彼女の身柄の返還を求めている。

落とし所はここにある。中国は、劉昌明(リウ・チャンミン)のアメリカ国籍の2人の子どもたちの出国を拒み、父親が中国に戻って不正事件とされる問題で刑事司法手続きに従うまで、彼らを実質的な人質にしている。アメリカは、中国大手企業役員である有名な女性を拘束している。つまり報復だ。

2つの国を行き来するスタートアップの創設者や技術系企業の役員たちの、出国ビザや身柄引き渡しの心配をする必要は、私たちにはない。

ただ、これらの国を従業員が頻繁に往来している企業の渡航セキュリティー管理部門は、この話の展開に目を光らせておくべきだと私は強く思う。偶発的に「ちょっとした人質」にされる事件が多発し、二国間の仕事をずっと困難にする恐れが十分にあるからだ。

ざっとご紹介
ソフトバンクはIPOで多額の資金調達

KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images

 

Bloomberg日向貴彦の記事よると、ソフトバンクは新規株式のブックビルディングですでに完売し、2兆6500万円という膨大な資金を手にしたと伝えた。正式な価格は月曜日に決定され、12月19日に公開される。これは、孫正義にとっては決定的にして重要な勝利だ。彼にとってこの電気通信部門のIPOは、山のような借金のリスクをいくぶんでもソフトバンクから取り除くために(さらに、ビジョン・ファンドなどを通じた彼のスタートアップの夢への投資を続けるためにも)必要な処置だった。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの計算その2

Armanと私は、ソフトバンクのビジョン・ファンドには、いったいいくらあるのか、その複雑な計算について話し合った。詳細は、Jason RowleyがCrunchbase Newsに書いている

今年、米証券取引委員会に提出されたフォームDが、今朝、公開され、SBVFは、2017年5月20日の初回クロージングから、総額およそ985億8000万ドル(約11兆1130億円)を14の投資家から調達していることがわかった。去年に提出された書類では、およそ931億5000万ドル(約10兆5010億円)だった。つまり、ビジョン・ファンドはこの1年間で、54億3000万ドル(約6120億円)増えており、リミテッド・パートナーとして新たに6つの投資家が加わっている。

私が昨日話したように、このファンドの規模は「この50億ドルがファイナルクロージングに加わったとすると、970億ドル、正確には967億ドル(約10兆9000万円)となる」。今一度見直してみると、50億ドルは実際にクロージングされたようなので、990億ドル、正確には986億ドル(約11兆1154億円)となる。

次はなんだ

私は今でも次世代の半導体に魅せられている。そこに意見がおありの方は、私まで連絡して欲しい。danny@techcrunch.com

記事の感想

明日ならゆっくり読めそうだ。

読書記録

現在、私が読んでいるもの(少くとも読もうとしているもの)。

次世代半導体に関する長大な記事のリスト。近日公開。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

サウジアラビアの現状を見ないことが企業の成功の鍵なのか?

昨日、サウジアラビアのメディアは、Marc Andreessen、Sam Altman、Travis Kalanickといったシリコンバレーの大物が、サウジアラビアが国家計画として進めている5000億ドル(約56兆円)規模のメガシティー・プロジェクトのアドバイザーになっていることを伝えた。このプロジェクトは、未来都市がどのような世界になるか、その模範を示すものだと宣伝されている。

この発表は、1カ月前にプロジェクトへの参加を決めた19人にとって、いろいろな意味で、あまりいいタイミングではなかった。このとき、サウジの反体制派ジャーナリストJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)が1週間以上姿を消していた。そして、先週、イスタンブールのサウジアラビア領事館内で、サウジの王家の命令で殺害されたとトルコ当局者が話したことから、激しい批判が高まっている。彼はその後、骨のこぎりで細切れにされ、建物から持ち出されたとのこと。

想像するだに生々しく心乱される事件だが、注意すべきは、証明されていない点だ。だが、サウジアラビアの諜報機関がKhashoggiに何かをしたとする説が拡散されると(Khashoggiが建物を出たという証拠もない)、サウジアラビアの皇太子Mohammed bin Salman Al Saud(ムハンマド・ビン・サルマーン・アール・サウード)は、世界中の怒りの視線を集めることになった。たしかに、この顧問委員会の発表は、MBSという愛称で知られる皇太子が、アメリカに数多く暮らし、皇太子の実力を疑い始めていた同程度の人数のアメリカ人実力者の友人の心をかき乱すには、よい方法だったのかも知れない。

昨年6月に皇太子に即位し、MBSの名声を追い求める態度が封印されて以来、彼はずっと、批判に対してもライバルに対しても、短気になっていた。そのことを、私たちはもっと早く考えておくべきだった。MBSは、その改革派的な行動から賞賛を受けていた。「宗教指導者に反抗して、女性の自動車の運転、コンサートや映画の解禁など、息を飲むような社会改革を断行した」と、この夏のウォール・ストリート・ジャーナルの意見記事にあった。だが彼は同時に、イエメンに空爆を行い、数千人の一般人を殺害している(これはホワイトハウスが支持しているが、両政党の議員を落胆させた)。

またサウジアラビアは、この夏、女性の権利を求める活動家12名以上を拘束している。カナダ外務省が「深く憂慮している」と、逮捕に対してリヤドに激しい抗議を伝えると、サウジアラビアはカナダ大使を国外追放し、トロントとの航空路線を停止、カナダ在住のサウジ人がカナダの医療を受けることを禁止し、カナダとの数十億ドル規模の新規の貿易と投資を凍結した。さらに、サウジアラビアの奨学金でカナダに留学している学生を、カナダから退去させる計画もある。

その一方でMBSは、昨年、サウジアラビア当局に対して300人以上のビジネスマンと王家の家族を、数カ月間、監禁するように命じた。これは腐敗防止キャンペーンの一環という名目になっている。これにより、押収した1000億ドル(約11兆2000億円)の資産がMBSの支配下に入った。ニューヨーク・タイムズは後にこう報じている。拘留されている中の少なくとも17人は「身体的虐待を受け、1人は死亡したが、首がねじ曲がっているように見えた。体はひどく腫れていて、別の虐待があったことを示していると、遺体を目撃した人は語っていた」

こうした策略がアメリカのメディアで大きく報道されたが、その大騒ぎの1カ月後にMBSはアメリカを訪れ、大歓待を受けた。ドナルド・トランプは彼をホワイトハウスに招待し、両国の友好を深めた。それを国際関係学者たちは、「異常で下品」と評価した。

シリコンバレーのCEOたちも、MBSの春の訪米を歓迎した。そのときMBSは、Googleの共同創設者Sergey BrinとCEOのSundar Picha、Magic LeapのCEO、Rony Abovitz、Virgin Groupの創設者Sir Richard Bransonたちを訪ねている。彼らだけでなく多くの面々が、彼の社会的な進歩性を褒め称えた。彼らが本当に欲しているものは明らかだ。MBSは、サウジアラビアの石油依存度を下げるという野心を持っている。その手段のひとつとして、王国の資金をアメリカ企業に大量につぎ込むという考えがあるのだ。

事実、MBSのその他の振る舞いは、こと金に関する限りでは大きな障害はなかった。TeslaのElon Muskは、この夏のことは問題にしていないSoftbankも、気が咎めている様子がない。孫正義CEOは、Softbankの1000億ドル(約11兆2000億円)という巨大ファンドへの450億ドル(約5兆円)の投資を、MBSにわずか45分で決めさせたと自慢していた。そして先週、MBSは第二のビジョン・ファンドに450億円を投資すると話した。

最近までワシントン・ポストのコラムニストとして活躍していたKhashoggiの不穏な疾走で、こうした計算が狂ったとしても、それを口に出す者はいない。Softbankのビジョン・ファンドの代表者と、Softbankが支援しているおよそ10人の企業創設者に、昨日、コメントを求めたが、答えはなかった。

Softbankから資金を調達している数多くのベンチャー投資家にも、昨日、Softbankについて、また、Khashoggiの疾走がスタートアップの資金調達に対する考え方にどう影響するかについて質問したが、答えてもらえなかった。ビジョン・ファンドからレイターステージの資金を調達した2つのポートフォリオ企業(DoorDashと最近株式公開されたGuardant Health)を見てきたPear VenturesのPejman Nozadだけが、唯一返事をくれた。「技術分野では、シードからプレIPOまで、資本が溢れています。シード資金として50万ドル(約5600万円)を必要とする企業が300万ドル(約3億4000万円)を調達してしまいます。5000万ドル(約56億円)が欲しい企業は5億ドル(約560億円)を調達できます。これが健全なことかどうか、時間だけが知っています」とNozadは電子メールで答えてくれた。

長年、ボストンのFlybridge Capital Partnersでベンチャー投資家を続けてきたJeff Bussgangは、Khashoggiの件には特に触れずにMBSについて尋ねたとき、微妙なニュアンスの返事をくれた。ベンチャー投資家も未公開株式投資会社も、長い間、中東の資金源から資金を調達してきたことを踏まえ、「一般的に、起業家は政治や歴史のことを深く考えるのが好きではなく、資金の出所についても、あまり気にしていない」という。「PLOやイラン」は別として、とのことだ。

さらにBussgangは、電子メールにこう書いている。「そう、すべてのベンチャーキャピタルの金が貧しい未亡人や孤児から集まるのなら素晴らしいことだが、それはあり得ない。その金が公正な資金源からのものなのかを判断するのは、主観的な作業です。スターバックスの資金源は公正でしょうか?」

Bussgangは、フィラデルフィアのスターバックスで起きた事件のことを言っている。店員が警察を呼んだところ、店にいた2人の黒人男性が誤って逮捕されたことがあった。恐ろしいことだが、イエメンで罪のない市民が殺戮されたり、人権活動家を拘留したり、MBSの憂さ晴らしと言われているようなこととは比べ物にならない。

公正を期して言うなら、アメリカやその他の国々の多くの人たちは、Khashoggiが現れてくれることを待ち望んでいる。その可能性は、日を追うごとに低くなっているが、何が起きたかを知らずにいることは、人殺しの暴君ではなく、改革者と手を組みたいと考える多くの人間に最良の結果をもたらすに違いない。ワシントンポストのコラムニストKhashoggiの失踪は誤算だったように見えるが、日が経つにつれて、こんな言い方はなんだが、それは古新聞(過去の話)となる。そして、みんなは仕事に戻れる。

その同じ人たち、そくにシリコンバレーのリーダーたちが、性的多様性に逆行するメモを読んで激怒したという話は、まるで漫画だ。

とは言え、かなり気分が滅入る話だ。

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(翻訳:金井哲夫)