カリフォルニア州当局がテスラを人種差別とハラスメントの疑いで提訴

カリフォルニア州公正雇用住宅局(DFEH)は米国時間2月9日、人種差別とハラスメントの疑いでTesla(テスラ)を提訴した。州裁判所に提出された訴状では、カリフォルニア州フリーモントにあるTeslaの製造工場での問題が指摘されている。

同当局は「労働者からの数百件の苦情」を受け、フリーモント工場が「黒人労働者が人種差別的な中傷にさらされ、仕事の割り当て、懲罰、給与、昇進で差別され、敵対的な職場環境を作り出している分離された職場」である証拠を確認したと、同当局の長官Kevin Kish(ケビン・キッシュ)氏が声明で述べた、とウォールストリートジャーナルは報じている

Teslaがハラスメントや差別の訴訟に直面するのは、今回が初めてではない。2017年には元工場労働者のMarcus Vaughn(マーカス・ヴォーン)氏が、フリーモント工場でヴォーン氏がマネージャーや同僚から繰り返し「Nワード」を浴びせられたという苦情をTeslaが調査しなかったとして、同社を相手取って集団訴訟を起こした

数カ月前にはTeslaは、同じ工場での差別と人種的虐待を見て見ぬふりをしたと訴えた黒人の元契約社員に、1億3700万ドル(約125億円)の損害賠償を支払うよう命じられたばかりだ。この訴訟で労働者のOwen Diaz(オーウェン・ディアス)氏は、人種差別的な中傷を受け、Teslaの従業員が人種差別的な落書きやかぎ十字、不快な漫画などの絵を同氏に残し、監督者はそれを止めるのを怠ったと主張した。

2021年末には複数の女性が、まさに同じ工場でTeslaがセクハラ文化を醸成していると告発した。女性たちは仕事中に差別、冷やかし、好ましくない言い寄り、身体的接触を受けたという。

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Teslaは訴訟が起こされる前に公開したブログ投稿で、差別やハラスメントに強く反対していることを強調し、同社が苦情に対応し、多様性や公平性、包括性に取り組むために取ったとする対策を誇示して自社を擁護した。

「Teslaはこれまで、人種差別やハラスメントを行う従業員を含め、不正行為を行った従業員を懲戒解雇してきました」と投稿には書かれている。

「Teslaはまた、カリフォルニア州に残る最後の自動車メーカーです」と、同社が以前から指摘している点に言及した。「しかし、製造業の雇用がカリフォルニアから失われつつある今、公正雇用住宅局は建設的に協力するのではなく、当社を訴えることにしました。これは不公平であり、特に数年前の出来事に焦点を当てた申し立てであるため、逆効果です」。

Teslaは2021年に、CEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏が「今後のTeslaの扱い」次第ではカリフォルニアでの製造活動を一切停止する可能性があると脅した後、本社をカリフォルニアからテキサス州オースティンに移した。同社は2020年5月、新型コロナウイルス感染症の拡散を阻止するためにフリーモントにある同社の製造施設を閉鎖した件でアラメダ郡を提訴していたが、この訴訟は後に取り下げられた。

DFEHはWSJに対し、黒人労働者はTeslaの監督者やマネージャーが人種差別的な言葉を使うのをしばしば聞いたり、工場内で人種差別的な落書きを見たりした他、肉体的により過酷な職務を割り当てられ、より厳しい処分を受け、職業上の機会も除外されたと述べている。

Teslaは2020年12月に初の多様性報告書を発表し、米国内の労働力の10%が黒人・アフリカ系米国人であることを明らかにした。取締役レベルでは黒人の割合は4%にすぎない。ヒスパニック・ラテン系の従業員は全従業員の22%で、ディレクタークラス以上では4%にとどまる。アジア系従業員は全従業員の21%で、このグループはディレクターレベルの従業員の4分の1を占めている。

WSJによると、DFEHは2月10日朝に訴状をオンラインで閲覧できるようにするという。

画像クレジット:David Paul Morris / Getty Images

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】私たちのポートフォリオの50%が女性CEOの会社である理由

2022年を迎え、1つ確かなことがある。それは女性リーダーをともなう投資で数十億ドル(数千億円)の機会が熟していることだ。

私の会社、Astia(アスティア)だけで2021年に1103社、30億2400万ドル(約3490億円)を投資し、前年と比べて119%増加して「パイプライン問題」を巡る不満を解消している。しかし、過小評価されているファウンダー、中でも黒人女性ファウンダーに対するベンチャーキャピタル投資の憂鬱なデータは変わっていない。

2020年に女性が率いるスタートアップでベンチャー資金を受け取ったのはわずか2.3%で、その数字は黒人およびラテンアメリカ女性では0.64%に下がる。ベンチャーキャピタルにおけるこの不均衡は、起業家精神が生み出す富、雇用創出、そして技術革新の影響力から、根本的に有色人種女性を排除するものであり、構造的偏見を持続させている。

3年前、我々はそれを変えることを決意した。黒人女性率いる会社は当社のパイプラインに数多く存在し、投資を受けられない問題が彼らにとって唯一の問題であることに気づいたからだ。

ベンチャーキャピタルにとってのチャンスは、隠れた宝石を見つけることだ。クラスで最高のベンチャーキャピタルは、投資不足だが業績に優れ世界を変える可能性のある会社を探し求める。我々はそんな隠れた宝石を探す取り組みの中、1年前に同じことをしたつもりだったが、そんな宝石がすべて、我々の目の前にあることを発見した。

人種のことがなければ投資していたであろう会社がいくつもあったことを知って我々は深く失望したが、自分たちが完全な制御と力を持っているものを修正する機会を得たことを喜んだ。それは我々自身の投資判断だ。

このことは、当社が持っているデータを深く研究し、修正すべき行動を特定する取り組みにつながった。我々の投資活動における性別と人種の差別に関係することだからだ。それから3年、我々は投資パイロットプログラム、Astia Edge(アスティア・エッジ)を通じて見つかった重要課題の解決方法を実行してきた。結果は見てのとおりだ。

こうした自己反省と軌道修正の結果、現在、Astia Fundのポートフォリオの50%が黒人女性CEOであり、修正後にAstia Angel(アスティア・エンジェル)が拠出した資金の17%が黒人女性CEOのいる会社に投資されている。

ここに至る道のりには、多くの厳しい瞬間と内省があった。

当社の最新レポートでは、現在のベンチャーキャピタルモデルにおける人種平等に関わる重大な欠陥について、驚くべき考察がなされている。要約すれば、パイロット企業の契約は締結まで245日間を要したのに対し、Astiaの女性重視ポートフォリオでは161日だった。また、パイロットでは共同出資者を集めるために60件以上の外部紹介(Astiaのポートフォリオでは5件以下)と、擁護者として投資バイアスに直接対抗するために100時間以上の現場作業が必要だった。

より穏やかなデータも同じく失望させるものだった。このパイロットテストを通じて、黒人ファウンダー率いる企業が不均衡にAstiaを訪れ、シードラウンドや「友人と家族」ラウンドで投資された金額は少なかったが、限られた資金で大きな実績を上げている会社が少なくなかったことがわかった。この資金格差が、この国における貧富格差による系統的圧力によるものであると考えるのは普通だ。追い打ちをかけるように、投資家は起業家を「他に誰が投資したか」に基づいて評価し、本人の実績や気概や可能性を評価しない傾向がある。富へのアクセスもネットワークもない人々に対する偏見に根づく問題だ。

実際、我々投資コミュニティはこうした資金提供における人種格差の責任を負い、モデルと現状維持体質を再考しなければならない立場にある。データによると、黒人女性の17%が新しいビジネスを立ち上げようとしているのに対し、白人女性は10%、白人男性は15%だ。黒人女性ファウンダーは膨大な数が存在している。必要なのは彼女らを見つけ、公平に評価して投資することだけだ。

我々はこの現実認識する不快感を直に目撃してきたが、今は悪循環を断ち切る力を認識している。私たちはあらゆるベンチャーキャピタルに対して同じことをするよう求める。新しい年を迎え、今こそ新しいVC、ごく一部ではなく、すべての人々の利益のために働くVCが生まれる時だ。

編集部注:本稿の執筆者Sharon Vosmek(シャロン・ヴォスメク)氏はAstiaのCEOでAstia Fundのマネージングパートナー。

画像クレジット:Belitas / Getty Images

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(文:Sharon Vosmek、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】女性ファウンダーにとって資金調達は悲劇的に困難である

「資金調達は女性ファウンダーにとって悲劇的に困難であり、黒人女性ファウンダーにとってはいっそう困難だ」。

これは大胆かつ、批判的でさえある発言だ。(私のような)スタートアップを率いる女性にとって2022年がどうなるかを思案する議論のなかで私が発した。

デベロッパーツール分野でごく稀な黒人女性CEOの1人として、私はテック業界で起きている大きくて集団的な社会問題についてコメントを求められることがよくある。荷が重いことではあるが、こうした問題を提起することの意義を認識し、できるかぎり発言している。しかし、断固とした答えを言いたい気持ちの一方で、私は多くの疑問を抱えている。

技術革新 < 社会的発展

テクノロジーの世界では、次のデジタル製品に関わり、業界レベルの製品を形作ることでって先行者利益を得ることを誰もが切望している。これは、資金調達を目指しているときには特に重要だ。そして、私たちはデベロッパーツール分野で目覚ましい転換をいくつか目撃してきたが、VC支援による資金調達の状況を踏まえると、私は時として、テクノロジーの成長と我々が真に必要としている社会的発展とをまぜこぜにするリスクに晒されていることが心配になる。

偉大な女性デベロッパーファウンダーは何人もいる。Jeli(ジェリ)のNora Jones(ノラ・ジョーンズ)氏、Thistle Technologies(シスル・テクノロジーズ)のWindow Snyder(ウィンドウ・スナイダー)氏、Launch Darkly(ランチ・ダークリー)のEdith Harbaugh(イディス・ハーボー)氏などの名前が挙がる。すばらしい女性エンジェルやVCもいる。この人たちは私が業界のリーダーと目している女性たちであり、資金を求め、あるいは与えることの障壁を乗り越えながら、自分たちの信念を貫いてきた人たちだ。

開発ツールの分野で名を成そうとする女性たちの努力にも関わらず、現実はといえば開発ツールの世界は圧倒的に白人男性が支配している。その性別と人種の基準に当てはまらない我々が注意を引くために必要なエネルギーと時間は、往々にして持続可能ではない。

女性が成功するために戦わねばならない今の状況を認識し、公平な場を作る必要があり、そのためにはいくつか厳しい質問を投げかける必要がある。

真剣に受け止められるための戦い

私たちは、自分たちと同じような外見の人たちから資金調達できるようになりたい、違いますか?しかしながら女性投資家の多くは、彼女たちが支援したい女性ファウンダーと同じくらい、真剣に受け止めてもらうために戦っている。もし私たちがみな同じ社会的制約に直面し、自分たちの正当性を証明するために戦っているなら、おそらくリスクに対して同じ嫌悪感を持っているだろう。

このことは、女性投資家が、特に女性ファウンダーへの投資において、小さなリスクを選び、その結果同等の男性投資家よりも扱えるファンドが少なくなる、という悪循環を呼ぶ。

リミテッドパートナーは女性VCをもっと支援すべきであり、ファンドは男性に与えるのと同じ柔軟性と自由度を女性にも与えるべきだ。女性VCたちがパートナーへと昇進し、意味のある小切手を手早く書けるようになるべきだ。

私自身、社会的な力を得た女性エンジェルやVCたちが力を合わせて女性ファウンダーを支援した目覚ましい結果を目の当たりにしてきた。彼女たちが作りだしたコミュニティや姉妹愛的な感覚には、業界を変える潜在力がある。これこそ、我々がしっかりと掴み拡大していく必要があるものだ。

根深い心理的障壁を乗り越えるための戦い

今日、女性はファウンダーとしてもVCとしても、資金調達ラウンドを進めるプロセスで積極性が低いという根強い思い込みがある。女性ファウンダーの私は、同等の男性ファウンダーの方が多額の資金を早く確定させる能力があると言われてきた。女性の方がリスクを嫌い、プロセスを進めるのが遅く、要求が少ない、という意味だ。

では、何が女性たちをためらわせているのか?答えはおそらく最も明白なものに違いない。私たちは実際、資金調達プロセスの中で却下されるリスクがより大きい。さらに私たちは、概してVCコミュニティとのつながりが少なく、そこにある「VCのルール」(何をして、何を言い、どう振る舞うか)は複雑で直感に反するものが多い。良いコードを書くための明確なガイドラインのようなわけにはいかない。

数字との戦い

たとえば出資者候補が1000人いて、自分たちようなテクノロジーを提供している会社に焦点を当てているのはそのうち10%だけだったとする。さらに、自分たちのいるステージに投資するのはそのうち2%だけで、そのうち自分たちと同じ哲学をもっているのは5%にすぎない。そして、実際に話ができるはそのうちの何パーセントかにすぎない。さて、そういう議論に踏み入ろうとして、最終的には人が人に売り込むのだということを踏まえると、物足りないことの多い交渉に照準を合わせなくてはならない。

あなたは次の10年、自分のビジネスをこの投資家に託すことになる。つまり、あなたはよい数字を残そうとする一方で、同時にVCの履歴や性格や考えも理解しようとしている。以前はどのようにお金を出していたのか?相手の過去のビジネスに共感しながら、自分たちのビジネスが投資に値することを説得できるのか……30分以内に?

では、女性はどうやって資金を勝ち取れるのか?

シンプルな答えはこうだ。自分たちだけではできない。プロフェッショナルな努力がみなそうであるように、資金探しは社会のネットワークの力を利用することが理想だ。女性は生まれながらにしてベンチャーキャピタルの世界で成功するために必要なものをすべて身につけている、といえるならこんなによいことはないが、女性にはは基本的ネットワークや性別、人種の広がり以上の仲間と支援が必要だと私は信じる。

利害関係者全員が女性のために戦うゲームに参加して、有色人種の女性たちが遭遇する困難に焦点を当てる必要がある。働く女性ファウンダーと女性投資家たちの潜在的危険を生き残りのマインドセットで認識し、彼女たちが資金獲得の議論に参加し、強い力で会社を売り込むために必要なコーチングとガイダンスを提供するべきだ。

簡単にいえば、資金調達の両側にいる女性たちの能力と可能性を無条件で信じる必要がある。

そして、世界中のファウンダーと投資家に向けた私の最後の質問はこうだ。

私たちの戦いに加わる気持ちはありますか?。

編集部注:本稿の執筆者Shanea Leven(シャネー・レブン)氏は、デベロッパーを支援し、開発チームによるコードベースの理解を高めるためのデベロッパープラットフォームCodeSee(コードシー)の共同ファウンダー兼CEO。

画像クレジット:wakr10 / Getty Images

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(文:Shanea Leven、翻訳:Nob Takahashi / facebook

フェイスブックが顔認識AIの有色人種バイアス問題で謝罪、黒人が登場する動画に「霊長類」とタグ付け

フェイスブックが顔認識AIの有色人種バイアス問題で謝罪、黒人が登場する動画に「霊長類」とタグ付け

Sundry Photography via Getty Images

FacebookのAIが、黒人男性が映っている動画に「霊長類」とラベル付けし、ユーザーに「さらに霊長類の動画を視聴しますか?」といった内容の定型メッセージを表示していたことがことがNew York Timesによって報道されています。Daily Mailが6月に投稿したこの動画には、警察官を含む白人が黒人男性と向き合って話しているという構図でしたが、霊長類(動物分類学上での霊長目)はそこには映っては居ません。

FacebookはすぐにAIによる投稿推薦機能をすべて無効にし、New York TimesにはAIの行動を「受け入れがたいエラー」と表現する謝罪の声明を出しました。「当社はAIを改善してきましたが、いまだ完璧ではない」としついつ、当面はこの機能を停止し「このようなことが二度と起こらないようにする」ため「さらに進歩させる」ための方法を研究する必要があるとしました。そして「このような不快なリコメンドをご覧になった方にお詫び申し上げます」と述べました。

AIによる顔認識は、しばしば有色人種においてその認識精度が低くなることが伝えられています。2015年にはGoogleのAIが黒人の写真の認識において「ゴリラが写っている」と答えを返し、Googleは後に謝罪しました。

米国では4月、米連邦取引委員会(FTC)が人種や性別の認識精度に偏りのあるAIツールがクレジットカードや雇用、住居ローン審査などに関する意思決定に使われれば、それは費者保護法に違反する可能性があると警告しています。

(Source:New York TimesEngadget日本版より転載)

ダイバーシティの数字遊びから脱却し、Twilioが反人種差別企業になるため取った取り組みとは

2020年5月にGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏が殺害されたとき、多くの抗議活動が行われ、米国やその他の地域における人種差別の問題にスポットライトが当てられた。これを受けて、多くの企業が有色人種を支援する姿勢こそ表明したものの、実質的な変化を起こせていないのが現状だ。そんな中、口先だけでなく実際に反人種差別企業になるための取り組みを始めたのがTwilio(トゥイリオ)であり、CEOのJeff Lawson(ジェフ・ローソン)氏の決意は固い。

取り組みの一環として、ローソンは企業におけるダイバーシティ推進に長年携わってきたLybra Clemons(リブラ・クレモンズ)をチーフダイバーシティオフィサーに採用し、クレモンズ氏および他の経営陣と連携して、同社が掲げる人種差別撤廃のビジョンを推し進めている。

個人的な偏見や制度的および社会的な人種差別を分析した上で、そうした偏見や差別を解消できる会社作りを進めるのは至難の業だが、ローソン氏とクレモンズ氏はテック業界の手本となるべく本気のようだ。

こうした取り組みの中で、Twilioのダイバーシティレポートが先日発行された。取り組みの進捗状況と、よりインクルーシブな企業を目指す中で得られた知見が示されている。

筆者は、反人種差別に対する想い、個人、ビジネス、社会の各種レベルで差別に対処する方法、そしてそれがいかに終わりのない戦いであるかについて、ローソン氏とクレモンズ氏から話を聞くことができた。

全力で取り組む

クレモンズ氏は、2020年9月に入社したとき、ローソン氏をはじめとする経営陣全体の尽力で反人種差別企業に向けて取り組むことが決まり、彼女の役割は内容の定義付けだったと語った。それには他社が行っている「その場しのぎの対応」からの脱却に加えて、従業員の採用方法や、人種、容姿、出身地に関わりなく1人ひとりを迎え、成功をサポートするためのシステムを刷新することが含まれたという。

「すべての企業でとは言いませんが、(ジョージ・フロイド氏殺害事件の後)その場しのぎの対応が多かったですね」とクレモンズ氏は述べる。「(Twilioでは)反人種差別企業になるとはどういうことか、反人種差別とは何か(を解明する)ということ、私たちが現在取り組んでいることになるわけですが、そして解明したことに基づいてダイバーシティ、公平性、インクルージョンをどのように促進できるか、こういった点に全力で取り組んでいたと思います」。

こうしたテーマについてはジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけに気づいたわけではなく、自身が長い間考えていたことだった、とローソン氏は述べる。Twilioの初期の支援者にKapor Capital(ケイパーキャピタル)があるが、そのプリンシパルであるMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏とFreada Kapor Klein(フリーダ・ケイパー・クライン)氏は何十年も前からダイバーシティとインクルージョンの推進を説いており、Twilioの2008年の設立当初にはダイバーシティについて話し合う会議に参加するようローソン氏に勧めていた。

ケイパー・クライン氏は2017年のインタビューで、スタートアップのできるだけ早い段階でポジティブな企業文化を醸成することの重要性についてTechCrunchに語っている。会社が大きくなればなるほど、それは難しくなるからだ。

当時のインタビューで、同氏は「初めからポジティブな企業文化を意識的に醸成することの重要性を強調しすぎることはありません。価値観や理念、会社のブランディングを明確にする時間を設けることが重要です。これは本当に大変なことなんですが、大企業に企業文化やダイバーシティとインクルージョンを後付けするのはもっと難しいことです」と述べていた。

ケイパー夫妻をはじめとするスタートアップの創業者たちとの出会いにより、自分が作りたい会社のイメージが固まったとローソン氏は述べる。同氏によれば、スタートアップを軌道に乗せるためのビジネス構築に手一杯だった当初、DEIB(D:ダイバーシティ、E:公平性、I:インクルージョン、B:帰属意識)について考え始める最適なタイミングなどないこと、そして同氏の言葉を借りれば「1000人の白人男性の会社になってしまう」前に、その場で考え始めることがスタートアップのリーダーとしての責任だということに気づいたという。

この考え方が2020年の反人種差別企業に向けた取り組みへとつながっていき、Ibram X. Kendi(イブラム・X・ケンディ)の著書「アンチレイシストであるためには」にヒントを得て、ローソン氏は全力で取り組んでいるのである。

「反人種差別は、どんな社会にも特定の人種を差別する制度化されたシステムがあり、差別は意図的にも無意識的にも行われるという事実に基づいています。そして反人種差別運動とは、そのような制度が何であるかを明らかにし、それにどう立ち向かうかを考えることです」とローソン氏は語った。

証明するためではなく、変化を起こすためにデータを使う

クレモンズ氏によると、2000年代半ばまでのダイバーシティに対する標準的な考え方は、単にデータを見て、目標値を達成していたら喜んで終わりというものだった。とはいえ同氏は、Twilioがさらにその先を行って、データを活用して会社に実質的な変化をもたらせるようサポートしたいと思ったという。

「データは特定の人口層や集団が増加したか、しなかったかを示します。では、実際に企業方針や手法を変えたりシフトしたりする上で、そのデータをどのように活用すればいいのでしょうか」とクレモンズ氏は問う。

「これはレイシズム(人種主義)、コロニアリズム(植民地主義)、カラリズム、ホモフォビア(同性愛嫌悪)といったあらゆる主義に関わる米国および世界の歴史を本当の意味で理解し、それに取り組む道のりです。自社が行っている選択と、その選択における個人的な利害関係を見つめ直した上で、人種差別撤廃に向けた施策や手法を構築していくことで、ダイバーシティ、公平性、インクルージョンの戦略が実際に変化し始めるのです」。

黒人のプロフェッショナルの職場における地位向上を目的として立ち上げられたスタートアップ「Valence(ヴァランス)」について2021年初めに取り上げたが、その記事の中で同社のCEOであるGuy Primus(ガイ・プリムス)は、クレモンズ氏が指摘したような数値遊びから企業が脱却できるようサポートしたいと語っていた。

「誰もが数字を上げたくて、議題には採用、維持、昇進(という概念)があるわけです。問題は、みんなが採用パイプラインばかりに注目して、究極的には採用に影響する維持や昇進に取り組んでいないことなのです。つまり、これはパイプラインの問題ではなく、エコシステムの問題なのです」とプリムスは述べていた。

これこそTwilioが実行可能なプログラムを策定している分野である。ただ人材の採用にとどまらず、1人ひとりの働きが評価され、各自のスキルに応じて昇進でき、帰属意識を持てる会社作りに取り組んでいるのである。

同社のダイバーシティレポートでは、これを実現するための具体的なプログラムがいくつも挙げられている。

1つは、2017年に始動した「Hatch(ハッチ)」と呼ばれるプログラムだ。これはコーディングブートキャンプの参加者で異色の経歴を持つ人材を探し、6カ月間の実習プログラムに参加させるというものだ。実習プログラムでは、より高度なコーディングスキルを習得する他、コーチングやメンターシップを通じて、コーダーとして成功するために必要なことを学ぶことができる。

ローソン氏によると、2020年の時点で、このプログラムを通じて入社した社員の93%が会社に残っているという。これは、従業員の成功をサポートするシステムを導入している会社に人が集まってきていることを示す実績である。

他にも、黒人やラテン系の従業員がリーダーシップ開発プログラムを通じて管理職に就けるようサポートする「Rise Up(ライズアップ)」や、歴史的に排除されてきた集団の出身者にテック企業の面接で成功する方法を伝授して、採用に向けた第一歩をサポートする「Twilio Unplugged(Twilioアンプラグド)」といったプログラムを設けている。

こうしたプログラムは、同社が掲げる人種差別撤廃の目標を達成するために策定されたものだ。ローソン氏は同社のシステムが完璧ではないことを真っ先に認め、クレモンズ氏らのサポートを受けながら、従業員全員が成功を収め、チームの一員であると感じられる会社を作るために、Twilioの経営陣は努力と学習を続けている最中だと述べた。

Twilioは2020年時点で依然男性社員が60%、女性社員が6%増加して38%強だ。全体の人種と民族構成は概算で白人が51%、アジア人が26%、ラテン系が6.5%、黒人が5.5%となっている。アジア人の割合が高いおかげで白人と非白人の比率は上出来だが、歴史的に排除されてきた各種集団についてはまだ課題がありそうだ。

画像クレジット:Twilio

同社もそのことは理解している。ローソン氏は個人、会社、社会の各レベルで取り組んでいくことで、Twilioとしてこの点を改善していきたいと述べた。その一環として、ダイバーシティレポートで知見を共有することで、現状に満足するのではなく社外に向けて課題を発信しているのだ。

Twilioのダイバーシティレポートに添付された動画の中で、クレモンズ氏が述べている言葉に言い表されている。「誰もが良くも悪くもさまざまな経験をしてきており、それを変えることはできませんが、Twilioとしてみんながチームの一員であると感じられる空間を提供することはできます。そのためには反人種差別の枠組みとなるこのダイバーシティレポートを通して、誰もがTwilioですばらしいキャリアを積み、充実したキャリアを歩めると感じられる公平性を確保することが重要なのです」。

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画像クレジット:PeterPencil / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)