スタートアップ成長のパラドックス

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

ようこそ!やっと週末を迎えることができた。ゆっくり休んで充電できただろうか。今回の内容はかなりリラックスしたものなので、コーヒーをもう1杯注いで、始めることにしよう。

スタートアップ成長のパラドックス

先週、The Exchangeはスタートアップ市場の変化に注目して、多くの時間を費やした。要約すると、投資家によってテック系企業の価値が見直されつつあり、2020年、2021年のスタートアップの業績を牽引した投機的な熱意が一部消滅したように見える。

多くの企業にとって、目先の市場の変化は大きな問題ではない。スタートアップの中には、十分な資金力を持ち、持続的な成長によって収益率の低下を回避できる企業もある。これをDatabricks(データブリックス)戦略と呼ぼう。

しかし、かなりの数のスタートアップ企業にとっては、状況は違っているようだ。ここで、いくつかのスタートアップ企業が現在置かれている状況を紹介する。

  • 市場が投機資金で潤っていたおかげで、2020 / 2021年には歴史的な大型ラウンドを行えた
  • 採用や成長目標に多額の費用を投じ、2021年末までの厳しいバーンレートを招いた

2022年を乗り切るだけの資金があるスタートアップならば、これはそれほど悪い状況ではない。そのころには、テック系企業に対する評価額も多少回復しているかもしれない。しかし、2021年かつてないほどのスピードで資金調達が行われた(時には1年で3回も資金調達が行われた!)一部のスタートアップは、どうしても現金消費型の成長目標に縛られることになった。つまり、多くの企業にとって、2020年、2021年の調達だけでは、この1年を乗り切れないということだ。

つまり、タイミングはどうであれ、もう一度調達しなければならないということになる。

そのため、一部の新興ハイテク企業は、2つの選択肢に迫られている。すなわち、よりゆっくりと成長してキャッシュを節約するか、キャッシュを気にせずペダルを踏み続けるかだ。厄介なのは、どちらを選んでもうまくいかない可能性があることだ。それはなぜか?

  • 急成長を期待されて多額の資金を調達したにもかかわらず、その期待に応えられないまま次のラウンド評価に向かおうとしているスタートアップの場合は、現金を節約するために成長を制限することができる。これにより、次の資金調達までの時間稼ぎをすることができる。しかし、このやり方では成長率が損なわれ、株式の価値が大きく下がり、資金調達の選択肢が狭まり、長期的な存続が疑問視されることになる
  • 一方、急成長を期待されて多額の資金を調達したにもかかわらず、その期待に応えられないまま次のラウンド評価に向かおうとしているスタートアップが、現金残高を逼迫させながら、成長のための支出を続ける可能性もある。キャッシュの持続時間は短くなるが、成長率は比較的高く保たれる。しかし、投資家が収益性を重要視している以上、単に成長するための支出は、悪魔に魂を売ることになってしまうかもしれない

これが、スタートアップの成長パラドックスだ。過去にさかのぼって、より少額の資金調達を行うか、あるいはより限定的な成長計画を立てることができればこの問題は解決できる。しかし、2021年はスタートアップの資金調達が量的にも価格的にも記録的だったことを考えると、もはや少々手遅れだろう。

スタートアップがこの課題にどのように対処するかが、2022年の重要なシナリオになると思われる。

良いこともある。投資家は、既存の投資先企業に対して、フラットな価格で追加ラウンドへ資金提供を行うことができる。スタートアップにとっては希釈化になるが、致命的なものではない。そして、スタートアップは、製品主導の成長など、よりコストの低い成長方法を活用することで、恐ろしい営業損失を出さずに良好な収益拡大を達成することを期待できる。

しかし、たとえそのような市場参入の方法を最初から念頭に置いて設立された企業であっても、そうした成長形態を追求することは容易ではない。販売スタッフを増やしたり広告費を増やしたりせずに新しいトップラインを獲得する方法をすぐにでも見つけたいスタートアップにとって、これまでの販売方法から転換する方法ははっきりしない。

最近、悪いニュースばかりで申し訳ないが、2021年のパーティーへの強壮剤だと思って欲しい。これが二日酔いというものだ。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

一般の人がIPOや追加資金調達に投資しやすくする英PrimaryBidが218.5億円調達

フィンテックの発展により、投資などの金融サービスが、より多くの消費者にとってますます身近なものになっている。このたび、このコンセプトの限界に挑戦している大手企業の1つが、旺盛な需要と今後の大きな可能性を信じて、大規模な資金調達を発表した。上場しようとする企業や、資金調達を行う上場企業が、従来の株式売却と並行して個人投資家(つまり専門家ではなく普通の人々)に株式を提供できるよう支援するPrimaryBid(プライマリービッド)が、このほど1億9000万ドル(約218億5000万円)を調達したのだ。

PrimaryBidの共同創業者であるAnand Sambasivan(アナンド・サンバシバン)CEOによると、ロンドンに拠点を置くこのスタートアップは、調達した資金を利用して、企業に提供する製品の開発を継続する計画だという。たとえばSPACベースの株式公開や、リテール債への投資などが含まれる。さらに同社は新たな地域への進出を計画しており、特に米国にオフィスを開設することを視野に入れている。米国では、その市場に上場している企業と協力するために規制当局の承認を得るプロセスの途中で、2022年後半か2023年にはローンチする予定だ。

PrimaryBidは現在、約60のチャネルと提携して投資を可能にしており、その中には現在一般人が投資を行うために利用している証券会社や投資アプリも含まれている。そして今でもその数は増え続けている。

サンバシバン氏によると、同社の使命は、一般の人々に銀行や他の大規模なプロの投資家と並んでIPOに直接投資する機会を提供し、株式公開の理念に「公共性」を取り戻すことだ。

サンバシバン氏はいう「もし今、公開市場が発明されたら、100年前のようになるでしょうか?いいえ、そうはなりません。サービスはAPIで相互運用され、モバイルアプリを使って、投資へのアクセスがさらに簡単になるでしょう。これは、アップグレードが必要なシステムなのです」。

SoftBankがVision Fund 2を通じて、今回のシリーズCラウンドを主導しており、以前からの投資家も匿名で参加している(2020年10月に行われた5000万ドル[57億4000万円]のシリーズBラウンドには、London Stock Exchange Group、Draper Esprit、OMERS Ventures、Fidelity International Strategic Ventures、ABN AMRO Ventures、Pentech、Outward Venturesなどが参加している)。

サンバシバン氏によれば、PrimaryBidは評価額を公表していないものの、PitchBookに掲載された1月の報告の時点では、評価額6億5000万ドル(約746億5000万円)で1億5000万ドル(約172億3000万円)が確保されていたという。これは、その当時Sky News(スカイ・ニュース)が、このラウンドの噂を最初に流し、プレマネーの評価額を5億ドル(約574億3000万円)としたことを受けたものと思われる。もしこうした数字が正確ならば、現在のPrimaryBidの評価額は6億9千万ドル(約792億5000万円)前後になるだろう。

シリーズB以降PrimaryBidは、一般の人々の投資の世界にもっと参加したいという欲求に後押しされて成長を続けている。同社によると、過去18カ月間で、約150件のIPOや追加株式発行に対して、個人投資家向けの投資を支援したという。これまでは主に英国で展開してきたが、現在はフランスでも活動を開始し、投資家であるABN AMROの協力を得て、オランダでのビジネス展開も視野に入れている。同社がてがけた大規模な株式売却には、Deliveroo(デリバールー)、PensionBee(ペンションビー)の売却や、英国での株式売却を通じて行われた2021年のMCG Group(Soho House[ソーホー・ハウス])の米国でのIPOなどがある。

サンバシバン氏は「資本市場に大きな足がかりを得ました 」とインタビューで答えている。「(私たちが戦っているのは)一般の人々がもはや公開市場から排除されているという考えです。上場する優良企業の中には株主に対する強い思い入れをもつ企業もありますが、それをIPOに反映できてこなかったのです。企業は皆、熟考した上でしっかりと一般の人々を含めることに価値を見出していて、私たちはプラットフォームを通じてそれを実現する手段を提供しています。私たちは持続的な成長を遂げていますし、私たちがやっていることは重要すぎて失敗することはできないと信じています」。

PrimaryBidは、他の一連の動きも手伝って、長い間形作られてきた関心の波に乗っているところだ。Robinhood(ロビンフッド)やRevolut(リボルト)のような金融アプリや、ヨーロッパで人気の高い新しい投資アプローチETFの成長は、一般消費者が興味を持ったり、良いリターンをもたらしてくれるかもしれないと考える公開企業や通貨(暗号資産を含む)への投資をずっと容易にした。これまでは、こうした投資は証券会社やプロの投資家が相手にする富裕層にしかできなかったことだ。

2021年のGamestop(ゲームショップ)の株式騒動のような出来事は、投資大衆化の落とし穴もあらわにしたかもしれないが、それでも一般投資家の力がいかに大きくなったかを浮き彫りにしている。そうした大衆化の波が、IPOや追加株式発行に押し寄せるのは時間の問題だったのだ。

B2C企業が株式公開や資金調達の一環としてユーザーに株式を提供することには強い動機がある。なぜなら、顧客たちは自分が信頼しすでに利用している企業を、とりわけ支援したいと考えるからだ。それは、これからも増える一方だ(例えばRedditのCEOは、同社が上場する際には個人投資家に株式を提供したいと述べている)。

しかし、企業や投資家自身がそうした市場の需要から恩恵を受けるのは、なにも消費者向けのビジネスに限った話ではないとサンバシバン氏は指摘する。実際、PrimaryBidが扱ってきた取引のうち、B2Cは10%程度に過ぎないという。

SoftBank Investment AdvisersのパートナーであるAnthony Doeh(アンソニー・ドー)氏は「PrimaryBidは、これまでは機関投資家やプロ投資家向けに発行されていた株式に、誰でも簡単にアクセスできるようにすることで、資本市場におけるインクルーシブ性を強化しています」と声明の中で述べている。そしてさらに「このチームは、株式発行企業のための独自のコミュニティIPOプラットフォームの開発を含む、参加者の拡大という課題に対して、テクノロジー、データ、『エコシステムフレンドリー』なアプローチを組み合わせたプラットフォームを構築したと考えています。私たちは、彼らとパートナーを組めることに興奮していますし、私たちのグローバルなネットワークと専門知識が彼らのビジネスに大きな価値を付加できると信じています」と語っている。

画像クレジット:ALotOfPeople / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:sako)

アルファベット社内の黒人投資家グループ「Black Angel Group」が台頭

Black Angel Groupの設立メンバー。左からジャクソン・ジョージズ Jr.氏、キャンディス・モーガン氏、ジェイソン・スコット氏(画像クレジット:The Black Angel Group)

1年前、巨大企業であるAlphabet(アルファベット)の社内で、黒人のGoogler(グーグル社員)やAlphabet社員が、黒人歴史月間中にエンジェル投資に関する非公式なプログラムに招待された。これはスタートアップ企業への投資がどのように構成されているか、可能性のあるエグジットまでの一般的なタイムラインなどについて、興味のある人が学べるように社員が企画したものだ。

このアイデアは、暫定的なエンジェル投資スクールのようなもので、組織を作り上げるためのものではなかった。それは単に、講演者として参加したGVのゼネラルパートナーであるJessica Verrilli(ジェシカ・ヴェリリ)氏をはじめとする、知識豊富な社員の話を聞きたいと思っているスタッフのための機会だった。

「こんなアイデアがあるけど、一緒に投資しない?という感じでした」と、GVのパートナーであり、エクイティ、ダイバーシティ、インクルージョンに力を入れているCandice Morgan(キャンディス・モーガン)氏は語っている。

このアイデアを実現するために、2週間のうちに5人の参加者が集まった。それから、さらに多くの人が手を挙げて、どうしたら参加できるのかと尋ねるようになった。そして現在、このBlack Angel Group(ブラック・エンジェル・グループ)という組織には、Google(グーグル)、GV、CapitalG(キャピタルG)、YouTube(ユーチューブ)、Gradient Ventures(グラディエント・ベンチャーズ)など、Alphabet社内から35人の黒人リーダーやオペレーターが参加している。

また、元YouTubeのVPで、最近ではPinterest(ピンタレスト)のチーフコンテンツオフィサーに就任したMalik Ducard(マリク・デュカード)氏のような、会社の卒業生もこのグループに参加している。

彼らは強力な個人であり、さらに強力なグループでもある。そのメンバーたちは、プロダクトマネジメント、ソフトウェアマネジメント、ユーザーエクスペリエンス、ピープルオペレーションなど、全員のさまざまな専門知識を駆使して、興味深い案件に参入を始めたところだ。2021年は、Bowery Farming(バワリー・ファーミング)、Polar Signals(ポーラー・シグナルズ)、Matter(マター)、Career Karma(キャリア・カーマ)など、約10社に50万ドル(約5800万円)以上の投資を行った。

いずれの場合も、より小規模な委員会が案件を持ち込み、メンバーはそれぞれ自分自身で決定するように依頼される。これまでのところ、出資した企業の半数は黒人の創業者であり、中にはGoogleの元社員である黒人の創業者もいたが、彼らの目的は黒人の創業者を支援することではなく、元同僚が創業した企業を探すことでもない。そうではなく、シードからシリーズAまでの「エシカル(道徳的)」な企業に焦点を当てていると、CapitalGのグロースパートナーで、この集まりのメンバーであるJackson Georges Jr.(ジャクソン・ジョージズ・ジュニア)氏はいう。

「私たちはブラックエンジェル(黒人エンジェル投資家)です。そしてブラックエンジェルのネットワークは、多くのエンジェル投資家のネットワークよりも、概して多様性に富んでいます」と、ジョージズ Jr.氏は語る。しかし、その最も重要な目的は、メンバーに世代間資産をもたらすための最良の投資先を見つけ出すことである。

だからこそ、Black Angel Groupは、その注目度を高め、より多くの案件に力を注ぐ準備を整えているのだ。

この成長の一部は、ドルという形でもたらされる。2022年のBlack Angel Groupの投資額は、これまでの投資額の「倍」になると、モーガン氏は予想している。

また、その成長の一部は、新しいメンバーからももたらされる。Googleでスタートアップ開発者エコシステムの責任者を務めるJason Scott(ジェイソン・スコット)氏はこう説明する。「2021年のエンジェルプログラムへの参加が、多くのメンバーの基盤となりました。しかし今は、他にも興味を持った黒人のGooglerやAlphabetの社員が参加を申し込めるようなプロセスを立ち上げています」。

全員がミリオネアである必要はない。この集まりを可能な限り包括的なものにするために、メンバーたちは、まだ認定投資家ではないが認定投資家になるための道を歩んでいる人たちにも、取引の流れへの参加を勧めることを計画している。

それは純粋な利他主義ではない。ジョージズ Jr.氏によれば、案件の調達や投資についてもっと知りたいと思っている出世途中の社員やOBを積極的に教育することは、グループにとってもメリットがあるという。数と、そしてネットワークには力があるからだ。

確かに、黒人投資家の世界を広げることは必要だ。現在、黒人投資家はベンチャー企業のパートナーの4%以下、エンジェル投資家の1%に過ぎない。このような数字を見れば、地球上で最も強力な企業の1つで道を切り開こうとしている黒人エンジェル投資家のネットワークが拡大していることは、特に注目に値するだろう。

実際、このグループは、メンバーの経験の蓄積や、より多くの出資を望んでいること、また、スタートアップの創業者たちが、より多様な投資家を資本政策表に加えることに関心を示していることを考えると、今後より多くの案件に登場することが予想される。

モーガン氏はその一例として、パフォーマンス分析を行うスタートアップ企業のPolar Signalsを挙げ、同社のCEO兼創業者であるFrederic Branczyk(フレデリック・ブランズィック)氏は「よく考えて非常に多様性に富んだ資本政策表を用意していた」と述べている。

他の多くの創業者も「かなり明確になっている」という同氏は、これを「すばらしいことだ」と語っている。

「私たちの価値提案で重要な部分は、私たちと価値観が一致する創業者と一緒に仕事をすることです」と、モーガン氏は言及している。多様性を重視することは「そのような創業者について多くのシグナルを与えてくれる」という。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】失望させられる投資家の8つの典型:創業者が投資家のアーキタイプにはまってしまうのを防ぐ方法

筆者は先に、すべての資本が平等に創出されているわけではないこと、そして私たちが超潤沢な資金調達の時代に生きていること、多くの点で創業者にとって今までで最高の時代であることを論じた記事を執筆した。

このような環境では、どの投資家も、独自の価値をどのように付加できるかについてよく練られたピッチを持っている。高成長スタートアップの創業者であるということは、これまでに経験したことのない多くの状況に遭遇することを意味しており、ビジネスを構築する際にパートナーとなる投資家を選ぶことは鍵となる決定事項である。このコンテキストでは、排他的な付加価値の約束が深く共鳴する。

驚くべきことに、ほとんどの創業者は、投資家から受け取る実際の価値が必ずしも約束されたものと同じではないことに気づく。筆者はすばらしい投資家たちと仕事をする機会を得てきた。彼らは創業者たちと優れた思考パートナーシップを築いている。彼らは企業の軌道を変える決断をする上で非常に価値があり、有能な人材を惹きつける力を持ち合わせている。

ベンチャー投資は見習い的なビジネスであり、私は偉大な投資家から学ぶ機会を得るたびに謙虚になる。しかし、創業者たちと話をしてみると、彼らが選んだ投資家たちは、資金提供後にさまざまな典型的行動を示しているようだ。そのすべてが価値を付加するのでなく、価値を損なうものとなっている。

創業者たちが価値の約束を越えたものを見据えるのを手助けするという精神に基づき、創業者たちが投資を受けた後に経験する投資家との関係の一般的な典型についていくつか掘り下げてみよう。創業者も投資家も、ユーモアのセンスを持ってこれらの典型を読み解いて欲しい。「シリコンバレー」にまつわる秀逸のエピソードのように、効果を意識した誇張も多少含まれているが、それほど多くはない。

失望させられる投資家の8つの典型

ナルシスト:ナルシストは完全に自己中心的であり、自分たちのファームがいかに優れているか、そして自分たちがいかに優れているかなど、すべてが常に自分たちに関するものである。彼らは自分自身に夢中になっていて、創業者たちが実際に何を求めているのか、何を必要としているのかを理解するために時間をかけることはない。ナルシストの中には全盛期をとっくに過ぎてしまっていて、単に過去の成功に乗じようとしているだけの人もいるかもしれない。あなたのスタートアップに価値をもたらすことはないだろう。

ハンマーを持った子ども:この投資家は「私がGoogleにいたときはこういうことをやっていた」とか「Airbnbの役員だったとき、こんなことをやった」などとアドバイスする。彼らはハンマーを持っていて、目にするすべての問題は、打ち付ける釘のように見えている。その針は一様で、彼らが自身のプロフェッショナルなキャリアで経験した意義深い経験の中でしたことと同じ方法で打てると思っている。彼らには、問題にアプローチし解決する方法が他に10通りあるかもしれないという視点が欠けている。特に破壊的な「幹部をクビにする」ハンマーを持っている投資家もいる。

知ったかぶり:ミーティングに参加しているが、創業者を含めて誰の意見も聞きたくないと思っている投資家だ。「私は彼らのシリーズCの前にFacebookに投資している。ゆえにあらゆる答えを持っている」。創業者や他の取締役会メンバーを尊重していないため、重要なリレーションシップと取締役会の力学を損なっている。また「OKR」や「経常収益」といった彼らが特に好む特効薬を、そのビジネスや状況に適しているかどうかを理解せずに持っている可能性もある。

人の言いなりになる人(別名おべっか使い):この投資家は、決してあなたに厳しいメッセージを伝えることはない。彼らは次の会社への推薦を望んでいるので、常に創業者と友達になろうとする。ミーティングにふらりと立ち寄り、ディナーや豪華なスキー旅行に招待してくれる。しかし、難しい局面になると「創業者が望むものは何でも正しい答え」という姿勢を取り、思考のパートナーとはならず、価値ある視点をもたらすこともない。

サービスルーター:分厚いRolodex(ローロデックス:回転式名刺ホルダー)を持つ人を求めているなら、サービスルーターがある最適な場所に来たことになる。CFO、またはセールスマネージャーが必要?サービスルーターは人を教えてくれるが、卓越性を目指すこともなければ、例えば新しいセールス担当VPにどんな良さがあるか創業者が理解するのを助けることもない。サービスルーターはポートフォリオ企業間の再循環を得意としている。問題は、その人材はある企業では良い仕事をしたかもしれないが、あなたのスタートアップには適さないということだ。

Needy Ned(ニーディ・ネッド、誰かの注意を引こうと飽くなき追及をする人のこと):この投資家は、その過程で彼らが付加価値を生み出しているかどうかに関係なく、あなたの会社が行うすべてのことに関わろうとするので、あなたをイライラさせるだろう。これは、彼らが取締役会に参加した最初の会社ということかもしれないし、彼らはベンチャーファームの若手であるかもしれない。あなたが自分のビジネスの運用上の詳細をすべて話していないのに、彼らが驚いて憤慨したとき、Needy Nedを相手にしていることがわかるだろう。Needy Nedのもっと厄介なバージョンは、単に関わりたいということに留まらず、創業者の手からハンドルを奪おうとして、自分たちのやり方で物事を進めようとする人だ。

数字に執着する人:この投資家にとって、ビジネスは大きくて複雑なスプレッドシートであり、すべては数または比率にまとめることのできるものだ。彼らは通常、プライベートエクイティ、投資バンキング、または成長投資に由来しており、一般的に、レベニューチャーン、ARRや「マジックナンバー」といった用語を使用する。しかし困ったことに、彼らは数字の背後にあるストーリーを理解しておらず、数字を動かすために何が必要なのかも把握していない。

ドライブバイ(次の場所へ移動したり別のことをするために手短に済ませる意):投資家があなたのところに資金を送ってきた後、あなたの邪魔をしないように望むなら、ドライブバイはあなたのために存在している。彼らはマシンを取引している。あなたとの取引が成立する前であっても、すでに次の取引を行っている。2年が経過する頃には、彼らは他に10件の取引を完了しており、創業者や企業としてあなたに興味を持つことはない。取締役会に1、2回出席するかもしれないが、出席中はメールをチェックして、最新の取引を確定させるだろう。

創業者への私の思い

残念なことに、創業者たちは日々このような典型にはまっている。あなたが資金調達の選択肢を検討する際、留意すべき点をいくつかお伝えしたいと思う。

人はファームよりもはるかに重要である。ブランドを買うのではなく、人を手に入れよう。その人に対してデューデリジェンスを行って欲しい。創業者たちと話し合い、投資家があなたに提供するリファレンスを、あなた自身のバックチャネルを使って掘り下げる。あなた、共同創業者、既存の取締役会の間でパーソナリティとスタイルが一致していることを確認しよう。さらに、投資家の知識と過去の経験がビジネスと一致していることを確かめることが重要である。

その人とファームの両方があなたのビジネスを本当に理解していることを確認する。これを評価する良い方法の1つは、彼らがあなたのプロダクトにどれだけ勤勉であるか、そして彼らがサードパーティによって行われたコールトランスクリプトをレビューするのではなく、個人的に顧客と話をしているかどうかを調べることだ。投資家が、投資前にあなたが築き上げているものを真に理解するための時間を取らない場合、投資後にそれを理解し、さらに重要なことに、価値ある思考パートナーになる可能性はどのくらいあるだろうか?

誰もが好天時の船乗りである。ただし、失敗や小さなミスがあると(拙著『Anticipate Failure』で指摘しているように、それは間違いなく起こる)、最悪の行動が彼らの醜態を助長してしまう。重要な決定を下す必要があるときや、状況が厳しくなったときに、その人がどのように行動するかを検証しよう。検証手段としては、その投資家に自分たちの投資先の中で最も業績の悪い会社を紹介してもらい、うまくいっていないときに彼らがどのように行動していたかを直接聞く方法がある。

付加価値のエビデンスをチェックし、定量化が可能な方法でタームシートに記入する。彼らが人材採用を支援すると言ったら、最初の2四半期の目標を書いてもらう。彼らが顧客を支援できると言ってきたら、彼らが追加することにコミットする収益額を正確に尋ねてみよう。もし彼らが、自分たちのブランドが独立系取締役を惹きつけるというのであれば、彼らが配置した取締役に話を聞いてみて欲しい。

時間をかけて投資家との相性を見つければ、優れたものを構築するチャンスを最大化することができる。取締役会の中でたった1人の悪い投資家であっても、あなたの成功の可能性を大きく損なう可能性があり、残念ながら私はそのようなことを何度か見てきた。

約束や評価、小切手のサイズに惑わされないようにしよう。これらは一時的なものであり、その輝きから生まれるシュガーハイは長くは続かない。目標に目を向け、投資家を賢く選定して欲しいと願っている。

編集部注:Lak Ananth(ラック・アナント)氏は、グローバルなベンチャーキャピタル企業であるNext47の創業CEO兼マネージングパートナー。10億ドル(約1155億円)の評価額を超えて成長を支援した複数の企業の役員を務めている。

画像クレジット:nitiwa / Getty Images

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(文:Lak Ananth、翻訳:Dragonfly)

株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」、サービス開始以降10案件すべての目標募集額を連続達成

株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」、サービス開始以降10案件すべての目標募集額を連続達成

イークラウドは1月28日、株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」において、2022年1月に募集を開始した案件が目標募集額を上回り、サービス開始以降10案件すべての目標募集額を連続達成できたと発表した。

イークラウドは、B2C・B2Bなどを問わず世の中の様々な課題に挑むベンチャー企業が個人投資家から少額ずつ資金を調達できる仕組みとして「株式投資型クラウドファンディング」を提供している。同サービスでは、非上場のベンチャー企業がインターネットを通じて1年間に1億円未満の資金調達を行える(個人投資家が投資できる金額は1社に対して1年間に50万円以下)。

2022年1月にイークラウドで募集を開始した案件が目標募集額を上回り、プラットフォームにおける調達額累計は約3億4000万円となった(1案件あたりの平均調達額は約3400万円)。株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」、サービス開始以降10案件すべての目標募集額を連続達成

現在、投資家や起業家支援機能などのベンチャーエコシステムは東京に偏在しており、資金調達額のおよそ80%は東京に集中しているとされる(日本ベンチャーキャピタル協会調べ。2019年)。その中で、イークラウドは株式投資型クラウドファンディングを通じ、日本各地のベンチャー企業の資金調達の支援を実施。2021年5月には群馬銀行とも提携を行い、地方ベンチャーの支援体制を加速させているという。同社は、今後も地方銀行との連携を強化するとしている。

【コラム】女性ファウンダーにとって資金調達は悲劇的に困難である

「資金調達は女性ファウンダーにとって悲劇的に困難であり、黒人女性ファウンダーにとってはいっそう困難だ」。

これは大胆かつ、批判的でさえある発言だ。(私のような)スタートアップを率いる女性にとって2022年がどうなるかを思案する議論のなかで私が発した。

デベロッパーツール分野でごく稀な黒人女性CEOの1人として、私はテック業界で起きている大きくて集団的な社会問題についてコメントを求められることがよくある。荷が重いことではあるが、こうした問題を提起することの意義を認識し、できるかぎり発言している。しかし、断固とした答えを言いたい気持ちの一方で、私は多くの疑問を抱えている。

技術革新 < 社会的発展

テクノロジーの世界では、次のデジタル製品に関わり、業界レベルの製品を形作ることでって先行者利益を得ることを誰もが切望している。これは、資金調達を目指しているときには特に重要だ。そして、私たちはデベロッパーツール分野で目覚ましい転換をいくつか目撃してきたが、VC支援による資金調達の状況を踏まえると、私は時として、テクノロジーの成長と我々が真に必要としている社会的発展とをまぜこぜにするリスクに晒されていることが心配になる。

偉大な女性デベロッパーファウンダーは何人もいる。Jeli(ジェリ)のNora Jones(ノラ・ジョーンズ)氏、Thistle Technologies(シスル・テクノロジーズ)のWindow Snyder(ウィンドウ・スナイダー)氏、Launch Darkly(ランチ・ダークリー)のEdith Harbaugh(イディス・ハーボー)氏などの名前が挙がる。すばらしい女性エンジェルやVCもいる。この人たちは私が業界のリーダーと目している女性たちであり、資金を求め、あるいは与えることの障壁を乗り越えながら、自分たちの信念を貫いてきた人たちだ。

開発ツールの分野で名を成そうとする女性たちの努力にも関わらず、現実はといえば開発ツールの世界は圧倒的に白人男性が支配している。その性別と人種の基準に当てはまらない我々が注意を引くために必要なエネルギーと時間は、往々にして持続可能ではない。

女性が成功するために戦わねばならない今の状況を認識し、公平な場を作る必要があり、そのためにはいくつか厳しい質問を投げかける必要がある。

真剣に受け止められるための戦い

私たちは、自分たちと同じような外見の人たちから資金調達できるようになりたい、違いますか?しかしながら女性投資家の多くは、彼女たちが支援したい女性ファウンダーと同じくらい、真剣に受け止めてもらうために戦っている。もし私たちがみな同じ社会的制約に直面し、自分たちの正当性を証明するために戦っているなら、おそらくリスクに対して同じ嫌悪感を持っているだろう。

このことは、女性投資家が、特に女性ファウンダーへの投資において、小さなリスクを選び、その結果同等の男性投資家よりも扱えるファンドが少なくなる、という悪循環を呼ぶ。

リミテッドパートナーは女性VCをもっと支援すべきであり、ファンドは男性に与えるのと同じ柔軟性と自由度を女性にも与えるべきだ。女性VCたちがパートナーへと昇進し、意味のある小切手を手早く書けるようになるべきだ。

私自身、社会的な力を得た女性エンジェルやVCたちが力を合わせて女性ファウンダーを支援した目覚ましい結果を目の当たりにしてきた。彼女たちが作りだしたコミュニティや姉妹愛的な感覚には、業界を変える潜在力がある。これこそ、我々がしっかりと掴み拡大していく必要があるものだ。

根深い心理的障壁を乗り越えるための戦い

今日、女性はファウンダーとしてもVCとしても、資金調達ラウンドを進めるプロセスで積極性が低いという根強い思い込みがある。女性ファウンダーの私は、同等の男性ファウンダーの方が多額の資金を早く確定させる能力があると言われてきた。女性の方がリスクを嫌い、プロセスを進めるのが遅く、要求が少ない、という意味だ。

では、何が女性たちをためらわせているのか?答えはおそらく最も明白なものに違いない。私たちは実際、資金調達プロセスの中で却下されるリスクがより大きい。さらに私たちは、概してVCコミュニティとのつながりが少なく、そこにある「VCのルール」(何をして、何を言い、どう振る舞うか)は複雑で直感に反するものが多い。良いコードを書くための明確なガイドラインのようなわけにはいかない。

数字との戦い

たとえば出資者候補が1000人いて、自分たちようなテクノロジーを提供している会社に焦点を当てているのはそのうち10%だけだったとする。さらに、自分たちのいるステージに投資するのはそのうち2%だけで、そのうち自分たちと同じ哲学をもっているのは5%にすぎない。そして、実際に話ができるはそのうちの何パーセントかにすぎない。さて、そういう議論に踏み入ろうとして、最終的には人が人に売り込むのだということを踏まえると、物足りないことの多い交渉に照準を合わせなくてはならない。

あなたは次の10年、自分のビジネスをこの投資家に託すことになる。つまり、あなたはよい数字を残そうとする一方で、同時にVCの履歴や性格や考えも理解しようとしている。以前はどのようにお金を出していたのか?相手の過去のビジネスに共感しながら、自分たちのビジネスが投資に値することを説得できるのか……30分以内に?

では、女性はどうやって資金を勝ち取れるのか?

シンプルな答えはこうだ。自分たちだけではできない。プロフェッショナルな努力がみなそうであるように、資金探しは社会のネットワークの力を利用することが理想だ。女性は生まれながらにしてベンチャーキャピタルの世界で成功するために必要なものをすべて身につけている、といえるならこんなによいことはないが、女性にはは基本的ネットワークや性別、人種の広がり以上の仲間と支援が必要だと私は信じる。

利害関係者全員が女性のために戦うゲームに参加して、有色人種の女性たちが遭遇する困難に焦点を当てる必要がある。働く女性ファウンダーと女性投資家たちの潜在的危険を生き残りのマインドセットで認識し、彼女たちが資金獲得の議論に参加し、強い力で会社を売り込むために必要なコーチングとガイダンスを提供するべきだ。

簡単にいえば、資金調達の両側にいる女性たちの能力と可能性を無条件で信じる必要がある。

そして、世界中のファウンダーと投資家に向けた私の最後の質問はこうだ。

私たちの戦いに加わる気持ちはありますか?。

編集部注:本稿の執筆者Shanea Leven(シャネー・レブン)氏は、デベロッパーを支援し、開発チームによるコードベースの理解を高めるためのデベロッパープラットフォームCodeSee(コードシー)の共同ファウンダー兼CEO。

画像クレジット:wakr10 / Getty Images

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(文:Shanea Leven、翻訳:Nob Takahashi / facebook

スタートアップエコシステムのAWSを目指す、VCとエンジェル投資家がファンドを形成・運営するためのプラットフォーム「Vauban」

Vaubanチーム

AngelList(エンジェルリスト)がなぜヨーロッパでうまくいかないのか、常々少々不思議だった。数年前、恵まれないヨーロッパのスタートアップにとって有効な資金調達の選択肢が不足していた時期があったことを考えるとなおさらだ。しかし理由はごく単純であることは状況を見ればわかる。第1に、米国テック業界は過去10年間に急発展した。自国の市場が上昇している時、リソースを他に分散させる必要はない、そうだろう? もう1つ、ヨーロッパの無数の規制障壁を超えてそんなプラットフォームを作ることは恐ろしく複雑で、かなりの勇者であってもたじろぐだろう。つまり、その手の資金調達プラットフォームの市場が長い間それなりに空き地状態にあったのはそれが理由だ。これまでは。

ロンドンを拠点とする新しいスタートアップVauban(ヴォーバン)は、ベンチャーキャピタルのファンドマネージャーに、資金調達や投資のためのツールを提供する。このほど同社は470万ポンド(約7億2000万円)の「ポストシード / プレ・シリーズA」調達ラウンドを完了した。

Vaubanによると、今後テクノロジーと規制のインフラを強化し、ロンドンの本社に加えてルクセンブルグにもオフィスを新設する計画だ。これでヨーロッパ全体のエコシステムに展開できるようになる。

今回の投資ラウンドを共同リードしたのは、Pentech(ペンテック)とOutward(アウトワード)で、7percent VenturesとMJ Hudsonも参加した。他に、NestedのCEOであるMatt Robinson(マット・ロビンソン)氏、GrabayoのファウンダーWill Neale(ウィル・ニール)氏、ComplyAdvantageのファンダーでCEOのCharles Delingpole(チャールズ・デリンポール)氏、Augmentum FintechのパートナーPerry Blacher(ペリー・ブラッチャー)氏、法務サービスプロバイダーAxiomのAl giles(アル・ガイルズ)氏ら数々のエンジェル投資家も参加した。

Vaubanを使うと、VCやエンジェル投資家は、資金の調達、エンジェル組織の設立、資金調達や投資活動の管理などを行うことができる。ユーザーはファンドやSPV(特別目的事業体)を世界中の審査権限の下で「通常の何分の1かの時間とコスト」で設立、展開することが可能で、組織構成、法的文書、投資家の研修、銀行取引、報告書作成などがカバーされている。

Vaubanは「少なくとも毎日1社新規顧客」を受け入れる計画であり、現在のVCユーザーにはAnthemis、Passion Capital、Octobus Venturesらがいると話した。現在合わせて5000以上のLP(有限責任パートナー)が同社のプラットフォームを使っているという。

ファンダーで共同CEOのRémy Astié(レミィ・アスティエ)氏は次のように語った。「私たちのゴールは資金を持つ人たちと、人類最大の問題を解決するために資金を必要としている人たちとをスムーズに繋ぐことです。そこで、デジタル線路のインフラストラクチャーを再構築するところから始めることに決めました。なぜなら、ゼネラルパートナー、リミテッドパートナー、そしてファウンダーなど業界の全員に優れたユーザー体験を提供することが不可欠だからです」。

Vaubanは、ヨーロッパのテック業界で膨大な投資行動が起きているちょうどその時に登場した。2021年前半にヨーロッパ全体で418億ユーロ(468.6億ドル/5.39兆円)の資金調達があり、2020年の326億ユーロから大幅に増加した。

ベンチャーキャピタルが複数のファンドを管理し、最近では特別目的事業体(SPV)を利用して特殊な取引に参加したり、セカンダリー投資を行ったり、EIS(企業投資スキーム)や主要な基幹ファンドと並行して「サイドカー」ファンドを設定するなどさまざまな活動をしている今、あらゆるプロセスが複雑化しているために、この分野の「プラットフォーム化」が進んでいる。スプレッドシートや類似の簡易ツールで行うことはもはやありえない。

加えて、ヨーロッパのエンジェル投資家の間では、取引形成や取引フローを強化するためにますます専門化と組織が進められているので、専用のプラットフォームが歓迎されるのもうなづける。

ファウンダーで共同CEOのUlric Musset(ウルリック・ムセット)氏はこう語る「新しいスタートアップ形成を促進した最大の功労者といえるのが2000年代初期のAmazon Web Services(AWS、アマゾン・ウェブ・サービス)の登場でした。Vaubanはスタートアップエコシステムに対して同じ影響を与えると私たちは信じています」。

Outward VCの投資家、Andi Kazeroonian(アンディ・カゼルニアン)氏は次のようにコメントした。「近年、代替的投資が急成長しているにもかかわらず、業界が依存しているインフラは進化していません。単に投資手段を作って監視するだけでは、冗長で面倒で金のかかるプロセスが複数のサービスプロバイダーに渡って散らばっているのと同じことです。Vaubanの統合プラットフォームが、プロダクトとユーザー体験に徹底的にこだわることでこれを一新し、その結果並外れた有機的成長を達成し、ヨーロッパでこの分野の傑出したリーダーになったことは驚くにあたりません」。

PentechのパートナーであるCraig Anderson(クレイグ・アンダーソン)氏はこう付け加えた「私たちが投資したいのは、カテゴリーをリードし、成長への大きな野望をもつ会社です。Vaubanは、ユーザーがファンドやSPVをわずか数時間のうちに設定、展開できる代替資産マーケットのための新しいインフラストラクチャーを作っていると、私たちは確信しています」。

Vaubanのファウンダー・共同CEO,アスティ氏は次のように語った。「私たちがAngelList(エンジェル・リスト)と違うのは、国際的、世界的であることを念頭に作っていることです。狙いはグローバルなプラットフォームを作ることで、それは世界中どこのLPS(投資事業有限責任組合)からでも資金を調達できて、世界中どこの企業にも投資できることを意味しています。そして、これは当社の中核となる強みだと考えていますが、すべてを国際的LPを想定して設計しているので、複数の通貨で資金調達することができます。

画像クレジット:Vaubanチーム

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】スタートアップが口にするマーケティング策としての「インパクト」に投資家が惑わされないようにするための3つのサイン

2021年の初めに出されたEUの報告書によれば、42%の企業が自社の持続可能性のレベルを誇張していることがわかった。このような「グリーンウォッシュ」があまりにも横行するようになったため、ある団体が企業の真の環境負荷を計算し、誤解を招くようなマーケティングを避けるためのプラットフォームを立ち上げたほどだ。


現在、世界的なインパクト投資市場の規模は7150億ドル(約81兆5100億円)と言われており、成長を続けている。しかし、良いことをしているビジネスに資金を投入しようと躍起になっているベンチャーキャピタル、エンジェル、セレブリティたちは、十分なデューデリジェンスを行っていない。

創業者の中には、トレンドに乗って投資家の注目を集めるために、インパクトと自分を結びつける者もいる。自分のことを「インパクトプレナー」(impactpreneur)と呼ぶ者がいるのはそれが理由だ。

インパクトを与えることと、マーケティングのためにストーリーを押し出すこととは紙一重の差であるため、スタートアップの真正性を見誤ると投資家は資金と評判を失うことになる。多数のスタートアップ企業と仕事をする中で、私はスタートアップ企業が本当に変革を起こそうとしているのではなく、単にインパクトを利用して世間の注目を集めようとしているだけのことを示す3つの兆候を見出した。

インパクト指標を記録・追跡していない

もし企業が、自分たちが重視していると主張しているインパクトを測定していなければ、それは赤信号だ。本当にインパクトを与えようとしているスタートアップ企業なら、自分たちの目標は何か、どうやってそこに到達するのか、そしてその過程でどのような指標をモニターするのかを明確に定義している。

私の立ち上げたFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)では、スタートアップ企業がインパクトのステップを段階的に追跡するのに役立ついくつかの「インパクトKPI」を定義している。

例えば成功した女性創業者の数を増やすことを目的とした女性主導のアクセラレータープログラムなら、月ごと、年ごとの女性参加者数、事業を立ち上げた参加者数、それらの事業がどれだけの資金を得たかなどの評価指標を設けることができる。一夜にしてインパクトを生み出すことはできないものの、道筋を細分化することで、企業はインパクトへの道筋を切り拓き、改善していくことにコミットしていることを示せる。

また、そうしたインパクト指標を追跡することで、企業は公表しているインパクトに対して十分な説明責任を果たすことができる。実際の指標が悪くても公表を行う企業は、何が悪かったのかを深く追求し、状況を改善するための計画を立てていく姿勢を持つことが多い。

そのすばらしい例の1つが、2020年チームの多様性に関する目標を達成できなかったことを認める報告書を発表した、Duke Energy,(デューク・エナジー)だ。この指標を改善するために、同社は新たにチーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(多様性並びに包含性担当責任者)を採用し、サービスを提供するコミュニティ内の平等性を推進するために400万ドル(約4億6000万円)を投じた。

私たち投資家はまた、スタートアップ企業が主張していることを実践しているのかどうかを見極めるために、そうした指標が企業全体に浸透しているかどうかを確認しなければならない。例えばより多くの人が教育を受けられるようにしたいと主張している企業なら、創業者は社内の研修プログラム、提供コース、開発計画、展開などに関する指標を提供することができるはずだ。

もし企業がこうした情報を持っていないとしたら、それはその会社のインパクトが外面的な目標のみを対象としていて、社内のオペレーションに組み込まれていないことの表れかもしれない。

CMOがインパクト戦略の責任者である

インパクトの責任は、最終的にはCEOの肩にかかっているはずだ。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、もしインパクトに関する会話や報告をする中心人物がマーケティング最高責任者(CMO)であるとしたら、それは極めて問題だ。

インパクトがマーケティングの立場だけから考えられていた場合、思いつきのインパクトやお手軽なインパクトが生み出されてしまう可能性は高い。インパクト戦略の直接的な成果ではなく短期的な成果を振り返って成功に満足しがちだからだ。例えばあるスタートアップ企業は、2020年にカーボン排出量を10%削減したと主張しているが、実際にはパンデミックの際に業務を停止したことによる減少だった。

同様に、スタートアップのインパクト目標があまりにも良すぎるように見える場合、それはたいてい見掛け倒しなのだ。マーケティング部門は世間に打って出ようとする際に大きく語りがちだ(Theranos[セラノス]のことを思い出そう)。しかし、インパクトを与えるためには、企業は月を目指す前に地に足をつけて行動しなければならない。

例えばExxonMobil(エクソンモービル)は、実験的に開発した藻類バイオ燃料を、輸送時の二酸化炭素排出量を削減する手段として宣伝した。だが消費者は、同社が二酸化炭素排出量を実質ゼロにできていないことを指摘した上で「よりセクシーな」インパクトのある代替品を求めた。

進捗ではなく予想である

創業者が資金調達をする際に、最も破壊的な側面を強調するのは当然のことだ。いわく、貧困をなくし、格差をなくし、気候変動の影響を減らすことができるなどなど。このような約束は投資家を驚かすかもしれないが、実現手段を担保したものでなければならない。

投資家なら誰でも、スタートアップのピッチデッキに書かれた財務予測のなかに盛り込まれた楽観的な気分を見て取ることができる。重要なのは数字ではなく、その背後にあるプロセスだ。インパクトの場合もまったく同じだ。

もしスタートアップを描き出すものが、インパクト目標の未来の数字だけならば、投資家は警戒すべきだ。数字よりも実現手段の方がはるかに多くを語ってくれる。

例えば、GSKは2030年までにネット・ゼロ・カーボンになるという野心的な計画を発表しているが、再生可能な電力、電気自動車、グリーンケミストリーへの切り替えといった主要な活動の内訳をみることで、同社が実際にそのインパクトに向かって動いているかどうかを確認できる。たとえトータル・ネット・ゼロに到達していなくても、意思は明確であり、やがて前進はしていくだろう──たとえペースは遅くとも。

Theranosの事例から学んだことがあるとすれば、企業が資金調達の際に、インパクトの魅力の嗅ぎ分けに敏感になったということだ。投資家が、真のインパクトとマーケティング上の策略とを見分けることができれば、自分自身を守ることができるだけでなく、その投資資金を実際に変化起こせる場所に投入することができる。

編集部注:著者のJonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)は、世界最大のプレシードアクセラレーターであるFounder InstituteのCEOで共同創業者。

画像クレジット: alexkar08 / Getty Images

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(文:Jonathan Greechan、翻訳:sako)

日本クラウドキャピタルがベンチャー株式のセカンダリーマーケット「FUNDINNO MARKET」提供に向け準備開始

日本クラウドキャピタルは10月26日、財務省関東財務局において第一種金融商品取引業への変更登録が10月22日に完了したと発表した。これに伴い、新たなサービスとして、ベンチャー株式のセカンダリーマーケット「FUNDINNO MARKET」(ファンディーノマーケット)の提供に向け、準備を進める。2021年12月1日に情報開示を目的としたサイトプレオープンを行い、12月8日のサービス開始を予定している。

FUNDINNO MARKETとは、個人投資家が、ベンチャー企業の株式をオンラインで注文可能となるサービス。日本証券業協会が提供している、地域に根差した非上場の企業などの株式売買・株式の発行により資金を集める仕組み「株主コミュニティ」制度を活用しているという。FUNDINNO MARKETにより、ベンチャー企業の株式を保有する個人投資家間の売買取引や、個人投資家からの資金を調達したい未上場企業の資金調達の場を創出するとしている。また、法人投資家の利用への拡大も順次進める。

ベンチャー企業への投資には、投資したい個人投資家と資金調達したいベンチャー企業との適切な出会いの場が限られており、同社は株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO」(ファンディーノ)を通じてその機会を提供してきた。従来、ベンチャー企業の株式は流動性が乏しく、保持し続けることが一般的だったが、今回のマーケット創設に伴い、投資家はいつでもオンラインでの注文が可能となる。

FUNDINNO MARKETでは、ファン投資家の資金と応援により、IPOやM&Aなどのエグジットを目指すベンチャー企業だけでなく、地域経済を支える中小企業や社会課題解決を目指すソーシャルベンチャーなどが活用できるという。日本クラウドキャピタルは、同マーケットの創設により「フェアに挑戦できる、未来を創る」ことを実現するとしている。

FUNDINNOは、IPOやバイアウトを目指すベンチャー企業に1口10万円前後から投資できるサービス。審査を通過したベンチャー企業のみが投資家の募集を行えるという(投資家も投資適格性などの審査が必要)。FUNDINNOでは、普通株式や新株予約権への投資となり、投資先企業からのIR情報を定期的に確認できる。企業によっては投資に対してエンジェル税制を活用できる場合や、株主優待を設定している会社もあり、新しい投資体験が可能という。

ファンド組成に必要な文書のための無料テンプレートをVC Labが提供

昨今、資金豊富なスタートアップが少なくないのかもしれない。しかし、多くの企業はそうではないというだろう。ベンチャーキャピタルのためのアクセラレーターであるVC Labは、世界中に投資する投資家を生み出したいと考えている。

この目標達成の前に立ちはだかる初歩的なハードルは、新ファンド設立に必要となる標準的なペーパーワークだ。現状では、専門の弁護士が必要で、それにかかる時間は金額にして、ファンド設立ごとに10万ドル(約1140万円)以上かかることもある。

VC Labは無料で使えるテンプレートを提供している。プロセスを合理化して時間と費用を節約し、ファンドというガバナンス構造をより身近なものにすることを目的としている。

「VC Labでは、世界中のジェネラルパートナーがファンドを立ち上げています」と共同創業者のAdeo Ressi(アデオ・レシ)氏は説明する。「直近のコホートには中央アジア、アフリカ、その他想像できるあらゆる場所を含む62カ国のベンチャー投資家が参加しました」。

投資家はリーガルコストを最小限にしたい。

「ベンチャーキャピタルに入る新しいマネージャーは、変革への情熱を持っています。新しいファンドは非常に焦点を絞ったテーマを持っていることが多く、通常、規模も小さい。彼らは、自分たちが関わる企業を何としても成功させたいと考えます。小さな意思決定のたびに、200~400ページもの契約書は要りません。彼らが必要としているのは、無駄のない、軽い、使いやすい契約書なのです」。

VC LabがCornerstoneと呼ぶこのパッケージは、タームシート、出資契約、LPA(およびユーザーガイド)を含む33ページの短いものだ。似たようなファンド組成文書は、通常、数百ページにも及ぶ。

「ファンド組成文書はバカバカしいほど複雑であり、見直しが必要であるという認識が広まっています」と新パッケージの共同執筆者であるHans Kim(ハンス・キム)氏はいう。同氏はシリコンバレーで長年、スタートアップ専門の弁護士を務めた。「私のクライアントの中には、お金を稼いだら、その資金を投資に使いたいと考えている創業者がたくさんいます。個人で行うエンジェル投資よりも真剣に考えるようになると、ファンド組成の弁護士を紹介されます。ただし、料金を見ると考え直さざるを得ません」。

共同執筆者であるGora LLCのRich Gora(リッチ・ゴラ)氏によると、定義リストの簡素化、管理費に関するセクションの簡素化、リミテッドオペレーターモードのトリガーなどの改善がなされた。現行の文書は、米国でのファンド設立に関して詳細を定めるが、カナダ、オランダ、シンガポールなど、需要がある他国版も予定されている。

ゴラ氏は、さまざまな投資家と仕事をする機会があるファンド設立弁護士として、ビジネスに関わる人がビジネス上の問題を平易な言葉で解決できるようにすることが目的だという。双方が合意したい内容を話し合った後、同氏のような専門家に文書を持ち込めば最終化してもらえる。

「この10カ月の間に、私たちはあらゆる業界のLP契約を見て回りました。20行にもなるコンセプトを3行にまとめました。コンセプトはそのままに、弁護士独特の言葉を排除しました」。

レシ氏は、この新しい文書によって、導入するLPの数などにもよるが、リーガルコストを半分以上カットできると見積もる。また、ファンド組成の専門知識を持つ弁護士が不足しているとも指摘する。標準的な文書を提供することで、プロセスをスピードアップし、世界のベンチャーキャピタルのエコシステムをより早く発展させることができる。

VC Labは、世界的なスタートアップアクセラレーターであるFounder Institute内に設立され、すでにスタートアップのエコシステムにこの分野で貢献している。約9年前には、コンバーチブルノートから負債の要素を取り除いた、SAFEノートの先駆けとなるコンバーチブルエクイティという概念の開発を支援した。

「私たちは、すべてのボトルネックを取り除く必要があると考えています」とレシ氏はスタートアップ投資について話した。「そうすれば、世界中で新しいVCや新しいLPが爆発的に増え、このアセットクラスに参入してくるでしょう。世界のどこにいても、世界をより良くするためのアイデアを追求し、それを実現するために必要なリソースを見つけることができれば、人類にとって本当の意味でのポジティブな変化が生まれるでしょう。残念ながら、今はそうなっていません」。

画像クレジット:Nattawat-Nat / Getty Images under a license.

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(文:Eric Eldon、翻訳:Nariko Mizoguchi

インドネシアで卸売りマーケットプレイスを運営するUlaにアマゾン創業者が出資

インドネシアのeコマース企業であるUla(ウラ)は、2020年の創業以来、3000万ドル(約33億3000万円)以上の資金を調達し、多くの著名な投資家と関係を築いてきたが、さらにこの度、世界で最も裕福な人物の信頼を獲得したようだ。

Amazon(アマゾン)の創業者が、この1年半前に創業したスタートアップの新たな資金調達ラウンドに出資したと、関係者やこの件に詳しい多くの人物が語っている。

ジャカルタに本社を置くUlaには、B Capital Group(Bキャピタル・グループ)、Sequoia Capital India(セコイア・キャピタル・インディア)、Lightspeed Venture Partners(ライトスピード・ベンチャー・パトナーズ)、Quona Capital(クオナ・キャピタル)がすでに出資しているが、現在は8000万ドル(約88億8000万円)以上を調達する新ラウンドの確定に向け、交渉を進めているところだ。

アマゾン創業者のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は、自身のファミリーオフィスであるBezos Expeditions(ベゾス・エクスペディション)を通じてUlaに投資することに合意したと、関係者が語っている。B Capital Group、Tencent(テンセント)、Prosus Ventures(プロサス・ベンチャーズ)が主導するこのラウンドは、早ければ2021年10月中にもクローズする見込みだ。

ベゾス氏は、企業間電子商取引プラットフォームを運営するUlaに関心を示しているが、現在のところ、アマゾンはほとんどの東南アジア諸国には進出していないか、あるいは限定的なプレゼンスを維持しているのみである。

Ulaの広報担当者は、米国時間10月2日に求められたコメントの要請に応じなかった。

Ulaは、小規模な小売店が直面するサプライチェーン、在庫、運転資金などの非効率性を解決するための支援を行っている企業だ。卸売り電子商取引マーケットプレイスを運営し、店舗オーナーが必要な在庫だけを仕入れられるようにするとともに、運転資金も助成している。

このスタートアップは、インドのFlipkart(フリップカート)の元幹部で、Sequoia Capital Indiaの元パートナーであるNipun Mehra(ニプン・メーラ)氏、以前はアマゾンで働いていたAlan Wong(アラン・ウォン)氏、一般消費財大手P&Gのインドネシア事業を監督していたDerry Sakti(デリー・サクティ)氏、Lazada(ラザダ)とaCommerce(エーコマース)に勤務していた経歴を持つRiky Tenggara(リキー・テンガラ)氏によって設立された。

画像クレジット:Pradeep Gaur/Mint / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

コロッサルがマンモス復活プロジェクトを投資家たちに売り込むことに成功

医療を一変させるCRISPR(ゲノム編集技術)の可能性に関心を持つ企業がますます増えている。しかし、この遺伝子編集システムを用いて現代にマンモス(あるいは、それに極めて近いもの)を蘇らせようとしている企業はおそらく1社しかいないだろう。

それを第一のミッションとして掲げている会社が新興企業Colossal(コロッサル)だ。異端の遺伝学者George Church(ジョージ・チャーチ)氏と、企業家でHypergiant(ハイパージャイアント)の前CEO Ben Lamm(ベン・ラム)氏によって創業された同社は、CRISPRを使って既存のアジア象のゲノムを編集することでこの古代生物を現代に蘇らせることを目的としている。そういう意味では、蘇る生物はマンモスに極めて近いものの、どちらかというと象とマンモスの雑種ということになる。

チャーチ氏のラボではこのプロジェクトに数年間資金を投入してきた。チャーチ氏とラム氏は、マンモスを現代に蘇らせるというアイデアには単なるSF的なプロジェクト以上の意味があることを投資家たちに売り込むことに成功した。

コロッサルは、創業しLegendary Entertainment(Dune、Jurassic World、The Dark Knightなどをてがけた会社)の前CEO Thomas Tull(トーマス・タル)氏率いる1500万ドル(約16億5000万円)のシードラウンドを実施することを発表した。このラウンドには、Breyer Capital(ブレイヤーキャピタル)、Draper Associates(ドレイパーアソシエイツ)、Animal Capital(アニマルキャピタル)、At One Ventures(アットワンベンチャーズ)、Jazz Ventures(ジャズベンチャーズ)、Jeff Wilke(ジェフ・ウィルケ)氏、Bold Capital(ボールド・キャピタル)、Global Space Ventures(グローバルスペースベンチャーズ)、Climate Capital(クライメートキャピタル)、Winklevoss Capital(ウィンクルボスキャピタル)、Liquid2 Ventures(リキッド2ベンチャーズ)、Capital Factory(キャピタルファクトリー)、Tony Robbins(トニー・ロビンズ)氏、First Light Capital(ファーストライトキャピタル)などが参加している。

「チャーチ氏とラム氏の2人は、現代の遺伝学の考え方を一変させると同時に、絶滅種の復活だけでなく業界全体を前進させる革新的テクノロジーを開発する能力を持ち合わせた強力なチームです」とロビン氏はいう。「この2人が率いるプロジェクトに投資できることを誇りに思います」。

ラム氏はテキサス州本拠のAI企業ハイパージャイアントの創業者としてコロッサルに入社した。同氏は他にも、Conversable(LivePersonに売却)、Chaotic Moon Studios(Accentureに売却)、Team Chaos(Zyngaに売却)の3社を起業し売却している。

チャーチ氏は、これまでにも大規模で挑発的なプロジェクトを立ち上げてきたことでよく知られている。

チャーチ氏は1980年代に最初のゲノム直接配列決定法を生み出し、続いて人ゲノムプロジェクトの立ち上げにも携わった。同氏は現在、Wyss Instituteで、遺伝子とゲノム全体を統合することに重点を置いた人工生体の取り組みを率いている。

CRISPR遺伝子編集技術は対人臨床試験の段階に入ったばかりで、特定の病気の原因となっている遺伝子を編集することを目的としているが、チャーチ氏のプロジェクトでは、それよりはるかに大きな考えで取り組みを進めており、テクノロジーの進化を加速する目的に沿ったものが多い。2015年、同氏のチームは、人に移植する臓器を作る過程で豚の胚の62の遺伝子(当時の新記録)を編集することに成功した。

この取り組みから派生した企業eGenesisはチャーチ氏の当初の予定より遅れているが(同氏は、2019年までには豚の臓器を人体への移植に利用できると予測していた)、現在、猿を使った前臨床実験を行っている。

チャーチ氏は長年、マンモスの復活に照準を合わせてきた。2017年、ハーバード大学の同氏のラボは、マンモスを復活させる過程で、45の遺伝子をアジア象のゲノムに追加することに成功したと報告した。投資家たちからの研究支援を受け、コロッサルはチャーチ氏のラボでのマンモス復活の取り組みを全面的にサポートすることになる。

プレスリリースによると、コロッサルがマンモスを復活させることを追求しているのは、エコシステムを復元することで気候変動による影響と戦うためだという。

「当社の目的はマンモスを復活させることだけではありません」と同氏はいう。「もちろん、それだけでも大変なことですが、最終的にはマンモスを自然環境に適応させることが目的です。マンモスを復活させることができれば、絶滅を防いだり、絶滅危惧種を復活させるすべての道具立てが揃うことになります」。

現在、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕している。コロッサルのマンモスプロジェクトが成功すれば、最近絶滅した生物を復活させるだけでなく、ラム氏のいう「遺伝子レスキュー」によってそもそも絶滅を防ぐことさえできる能力が実現されることになる。

遺伝子レスキューとは、絶滅危惧種の遺伝子多様性を向上させるプロセスのことだ。これは、遺伝子編集によって、あるいはクローニングによって新しい個体を作り遺伝子プールを大きくすることによって実現できる(クローンと既存の動物の遺伝子が十分に異なることが条件)。これが実現可能である証拠はすでにいくつかある。2021年2月、北米で最初の絶滅危惧種のクローニングによってクロアシイタチが誕生し、Elizabeth Ann(エリザベス・アン)と名付けられた。このイタチは1988年に収集され冷凍された組織サンプルに含まれていたDNAからクローニングされたものだ。

山の中のマンモス。3Dのイラスト(画像クレジット:Orla / Getty Images)

絶滅種を復活させることで気候変動による影響と戦うことはできるかもしれないが、それで根本的な問題が解決するわけではない。人間が生み出した気候変動の原因が手つかずのままであるかぎり、そもそも気候変動によって絶滅した生物を復活させることができたとしてもあまり期待はできない。そもそも、気候変動は巨型動物類が絶滅した原因の1つなのだから。

また、絶滅してかなりの時間が経つ種を現代の環境に適応させることにより、新しい病気が蔓延したり、既存の種が置き換えられて実際に地形が変わってしまうなど、エコシステムにさまざまな重大な悪影響が生じる可能性もある(象は結局のところ生態系の技師なのだ)。

生物多様性を維持することがコロッサルの主たる目的なら、今すぐ救える種があるのになぜわざわざマンモスの復活にこだわるのだろうか。ラム氏によると、アジア象のゲノムを編集して回復力を高める試みをしてもよいが、マンモスプロジェクトがコロッサルを導く光輝く目標でもあることに変わりはないという。

ラム氏の見方では、マンモスプロジェクトはムーンショット(困難だが成功すれば大きな効果をもたらす試み)なのだ。このような困難な目標にあえて挑むとしても、絶滅種復活のための独自技術を開発し、それを見込みのありそうな買い手にライセンス供与または売り込む必要がある。

「この計画はアポロ計画によく似ています。アポロ計画は文字通りムーンショットでした。その過程で多くのテクノロジーが生まれました。GPS、およびインターネットや半導体の基本原理などです。これらはすべて大きな収益を生むテクノロジーでした」と同氏はいう。

要するに、マンモスプロジェクトは、多くの知的財産を生み出すインキュベーターのようなものなのだ。具体的には、人工子宮やCRISPRのその他の応用技術の研究プロジェクトなどがあるとラム氏はいう。こうした技術を実現するにはまだまだ多くの科学的なハードルをクリアする必要があるが(現行の人工子宮プロジェクトは臨床試験段階にも程遠い状態だ)、生きた本物の生物体を作り上げることに比べれば少しは実現可能性が高いのかもしれない。

けれども、コロッサルがこの研究を進めるにあたってたくさんの中間的な計画を持っていたというわけではない。コロッサルは、研究過程で記憶に残るブランドを作ろうと躍起になっている。ラム氏に言わせると、それは「ハーバードとMTVの融合」としてのブランドだという。

コロッサルに匹敵するような企業は存在しないとラム氏はいうが、インタビューでは、Blue Origin、SpaceXなどの大手の宇宙開発企業ブランド、そして何よりNASAの名前が登場した。「NASAは米国が作り上げた最高のブランドだと思います」と同氏はいう。

「SpaceXやBlue OriginやVirginの名前を挙げれば、私の91歳の祖母でも宇宙開発企業だと知っています。ULAなどの企業も数十年に渡ってロケットで衛星を打ち上げていますが、誰も知りません。SpaceXやBlue Originは宇宙開発事業を一般大衆に知らしめるのに大きな役割を果たしたのです」。

人を火星に送るというElon Musk(イーロン・マスク)氏の計画を少し連想させるが、同氏の火星探査宇宙船Starshipは、プロトタイプ試験段階から先に進んでいない。

夢のある大きなアイデアは人を惹き付けるとラム氏はいう。そして、その実現に向けた道のりで生まれる知的財産によって、投資家たちの気持ちをなだめることもできる。全体像はどうしてもSF的に見えてしまうが、それも織り込み済みなのかもしれない。

とはいえ、コロッサルはマンモスを復活させることなど本気で考えてはいないなどというつもりはない。今回のシードラウンドで調達した資金は、生存可能なマンモスの胚を作り出すのに十分な額だ。同社は、あと4年~6年で最初の分娩にまでこぎつけることを目指している。

画像クレジット:Colossal

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)