医薬品の研究開発を支援する鳥取大発スタートアップが伊藤忠商事と資本業務提携

染色体工学 chromocenter クロモセンター CHO細胞 染色体解析

最先端の染色体工学技術をバイオ関連企業に提供する鳥取大学発スタートアップ企業「chromocenter」(クロモセンター)は7月13日、伊藤忠商事からの出資受け入れと業務提携を発表した。

今回の資本・業務提携により、同社の染色体工学の技術ノウハウと伊藤忠の国内外ネットワークを融合。国内外のバイオ関連企業の創薬研究活動に貢献するため、オリジナルCHO細胞(Chinese Hamster ovary:チャイニーズハムスター卵巣)による物質生産事業の加速化と多様化、染色体解析事業の業容拡大を目指す。

また昨今、バイオ医薬品はがん向けなどで医薬品売上ランキングの上位を占める一方、製造方法が複雑で高価な点が課題となっているという。chromocenterでは主力の染色体解析サービスを通じた製造の品質管理向上に加えて、同社のオリジナルCHO細胞の提供を通じて製造コストの低減につなげ、より一層のバイオ医薬品普及に貢献できると見込んでいる。

chromocenterは、「最先端のセル・プロダクション技術によって健康と医療の発展に貢献します」をミッションに掲げ、人工染色体ベクター技術、染色体解析(信頼性保証体制)サービス、オリジナルCHO細胞による物質生産技術をバイオ関連企業に提供するバイオテクノロジー関連スタートアップ。

同社は、2018年にオリジナルCHO細胞の新規樹立に成功。CHO細胞はバイオ医薬品作成に向け利用される宿主細胞にあたる。

同社のオリジナルCHO細胞は、従来大腸菌や酵母では生産が困難だったタンパク質を高収量・低コストで生産する特徴を備えているという。医薬品原料のみならず機能性食品や化粧品、化成品など幅広い分野におけるタンパク質原料の製造も可能になっている。

また同社では、アカデミア、製薬企業などから委託を受け細胞品質評価を実施。再生医療分野など細胞の医薬技術進歩に重要な技術と位置付けられており、国内外を問わず多数の依頼を引き受けているという。また、医薬品の当局申請に対応した、日本で唯一の受託試験企業として信頼性保証試験を提供している。

リーガルテックのHolmesとクラウドサインが提携、シームレスな契約締結が可能になる

契約マネジメントサービス「ホームズクラウド」を提供するHolmesと電子契約サービス「クラウドサイン」を提供する弁護士ドットコムは、2月3日に業務提携を発表。ホームズクラウドの電子契約機能としてクラウドサインをデフォルトで搭載し、2020年秋ごろから提供することを明らかにした。

写真左からHolmes代表取締役CEO 笹原健太氏、弁護士ドットコム取締役 クラウドサイン事業部長 橘大地氏

Holmesが提供するホームズクラウドは、契約書の作成・承認・締結・管理まで一連の業務を支援するSaaSだ。単体の契約プロセス管理のほか、プロジェクト単位で複数の契約を管理できる「プロジェクトクラウド」、法務部門・事業部門間など企業全体で契約業務に関するノウハウを共有できる「ナレッジクラウド」も展開している。

もう一方のクラウドサインは、電子契約の分野ではパイオニア的な存在で、2015年10月のリリース以来の導入社数は6万社を超える。電子署名・タイムスタンプによる電子契約の署名・締結機能に強みを持ちつつ、書類作成・送信や契約書の保管・検索、テンプレート作成・管理、チーム管理といった、電子契約業務に関わる一連のサービスをクラウドで提供。上位プランではアカウント管理や承認などの機能も搭載されている。

今回の提携により、ホームズクラウドで契約書を作成し、承認、締結まで工程が進むと、クラウドサインの電子契約機能がシームレスに使えるようになる。クラウドサインのAPIをホームズクラウドから呼び出すことで、ホームズクラウドから遷移することなく、契約締結を完了させることが可能になる。

既にホームズクラウドを利用しているユーザーは、これまでと同じ料金でクラウドサインの電子契約機能を利用できる。クラウドサインの実装後にホームズクラウドを使い始める場合は、ホームズクラウドの既存の電子契約機能の利用料金に代えて、契約送信費用として1件あたり200円がかかる。

UX向上で顧客の契約体験をより良くしたい

契約書の電子化という領域では一見、競合部分もありそうな両社。提携について、Holmes代表取締役CEOの笹原健太氏は「契約という行為は幅広く、その中でもサイニング(署名・押印)の領域で、クラウドサインは磨き込まれていて鋭い刀のようなプロダクト。電子契約書や電子契約におけるユーザーの便益やユーザー体験を考えたときに、サイニングについての体験、世界観については、磨き上げた刀を使っていただく方が、ユーザーのためにシンプルに良いと思った」と述べ、「こちらからクラウドサインへ(提携の)声をかけた」と明かす。

「既存の自社サービスの中にも電子契約締結の仕組みはあるが、セキュリティ強化やさらなるUIの磨き込みなど、ユーザーニーズに合わせてアップデートし続けなければならない。今後、電子契約・電子署名の部分の磨き込みについてはクラウドサインの力を借りることで、ほかの部分のユーザー体験向上に集中し、開発リソースを有効に使おうと考えている」(笹原氏)

弁護士ドットコム取締役でクラウドサイン事業部長の橘大地氏も「クラウドサインだけでも4年間、エンジニアがガリガリと開発・アップデートを続けているが、まだまだやるべきことが山ほどある」と述べている。

「電子契約という意味では一部競合する部分があるが、今回、クラウドサインに契約締結の部分を委ねていただくことで、契約全体のプロセスをデジタル化して、顧客の契約体験をもっと良くしていきたい。うまく棲み分けができ、ありがたい提携だと思っている」(橘氏)

「Holmesは契約マネジメント全体の工程に取り組んでいて、以前からすごいと思っていた」という橘氏は「契約の工程のうち、後半部分に当たる契約締結の部分についてはクラウドサインが磨き込んでいくことで、より利便性のある顧客体験をしていただけるのではないかという点で(Holmesと)考えが合致。一緒に伸ばしていきましょうということになった」とも話している。

クラウドサインでは、締結済みの契約書がクラウド上に蓄積していくことから「既存の紙の契約書を取り込むことも含め、締結の事後に契約したものをどのように管理し、検索するかといった、契約管理の部分については昨年あたりから重要視し、磨き込み続けている」と橘氏。「締結前の一連のプロセスについてはHolmes、事後的な管理はクラウドサインといったように、さまざまな使い方をユーザーが選択していくようになるのだと思う」と述べる。

笹原氏も「契約の世界は広く、業務も多種多様。さらに契約書の作成・承認・締結・管理といった契約行為の前業務として営業や交渉があり、契約行為の後にも、代金の請求やサービスの納品、登記などの手続きのほか、さまざまな庶務・雑務なども生まれる」として、「契約行為を中心にした前後の業務は、会社ごとに多様なフローやオペレーションがあって、1プロダクトで全て賄えるようなものではない」という。

「1企業の中だけでも、人事系やお金を払う方のフロー、お金をもらう方のフローなどさまざまなフローに対して、1プロダクトで解決するというよりは、さまざまなプロダクトを組み合わせて解決していくものだ。契約に関するサービスは、競合や分野重複と見られがちだが、案外、企業・部署・プロジェクトごとにニーズがあるので、競合というイメージは自分にはあまりない。実現したい課題に合うようなプロダクトが、それぞれの契約で選ばれていくことが多いのではないか」(笹原氏)

今回の提携はエクスクルーシブなものではなく、契約上は他社との提携もあり得るのだが、「この領域ではHolmesとクラウドサインで一緒に伸ばしていこう、というのが基本方針」と橘氏。あえて独占契約にはしていないが、実質一番よい組み合わせだと両者とも考えているということだった。

Beyond NextがインドC-CAMPと提携で相互支援、海外投資も本格化

独立系アクセラレーターのBeyond Next Ventures(BNV)は6月3日、インド・バンガロールのインキュベーターCentre for Cellular and Molecular Platforms(C-CAMP)との業務提携を発表した。

写真右から2人目:BNV代表取締役社長 伊藤毅氏

C-CAMPが拠点を置くバンガロール(ベンガルール)はインドの南部に位置し、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるテック企業の集積地であり、技術系大学や医大など、インド有数の大学が数多く集まる都市でもある。C-CAMPはその地に2009年、インド政府科学省によって設立されたインキュベーターだ。

これまでに100を超えるスタートアップを支援してきたC-CAMP。ライフサイエンス分野を中心とした最先端の研究開発、投資、メンタリングの実施や、インキュベーション施設の提供などを通して、インドのスタートアップの事業化・成長支援を推進してきた。

BNV代表取締役社長の伊藤毅氏は、C-CAMPについて「シェア型ウェットラボを運営するなど、我々と似た活動をしているアクセラレーター」と説明する。インドには政府が政策として、予算を付けてバックアップするインキュベーターも多く、再生医療の分野などでアカデミア発のベンチャーの事業化を支援している。C-CAMPもそのひとつ。バンガロールにあるライフサイエンス領域のインキュベーターでは、中核的な存在だという。

BNVも2014年8月の創業時から、アカデミア発のスタートアップ支援を行うアクセラレーターで、2018年10月には2号ファンドを設立。1号ファンドとの累計で150億円近い額となるファンドを運営し、ライフサイエンス分野を中心とした技術系スタートアップへのインキュベーション投資や事業化・成長支援を実施する。今年2月には東京・日本橋に開設されたシェア型ウェットラボの運営を開始した。

今回の業務提携では、両社がインドおよび日本の起業家育成、双方のアクセラレーションプログラムを通した人材・テクノロジーの交流などを目的としたコンソーシアム「C-CAMP Beyond Next Ventures Innovation Hub(CBIH)」を設立。インドにおける技術系スタートアップへの投資やハンズオンサポートなどを組み合わせ、インドと日本双方のイノベーションの創出を目指す。

より具体的には、BNVが日本で投資するスタートアップがインドで事業を展開したり、ラボへ入居したりする際にはC-CAMPがサポートを実施。C-CAMPがインキュベートを手がけるインドのスタートアップには、BNVが日本でのパートナーや投資家の紹介、アクセラレーションプログラムへの参加などで支援する、といった形で両社の経験やネットワークを生かしていく。

また、これを機にBNVでは、インドへの投資を本格展開していく予定だ。BNVが投資を行う現地のライフサイエンス領域のスタートアップについては、C-CAMPがデューデリジェンスや育成をサポートする。

「インドは人口も多く、世界第3位のスタートアップ大国でもある。中でもインドのシリコンバレーと言われるバンガロールは投資機会に恵まれた地域だ。また、インドは今後も発展を続け、中長期的には大市場となる。我々の投資先であるスタートアップにとって、海外の展開先としても有望な国だと考えている。学力や教育レベルも高く、ITエンジニアだけでなく、ライフサイエンス領域でも優秀な人材が多い。今は日本の方が優れた研究もあり、論文も多いかもしれないが20〜30年後、中長期的にはそれが変わっていくとみている」(伊藤氏)

今年8月には創業5年を迎えるBNV。現在、海外では2社のスタートアップに出資しているが、今回の業務提携をきっかけに、インドだけでなくアジア諸国、海外への投資を加速していく考えだ。

ホテルスマホ「handy」、ソフトバンクと提携で急拡大目指す。無料テザリング開放も

eng-logo-2015ホテル宿泊者向け無料レンタルスマホ「handy」を展開するhandy Japanは2日、ソフトバンクとの資本業務提携を発表しました。ソフトバンクの資金、リソースを活用することで、導入数の急速な拡大を目指します。

handy Japanが提供するレンタルスマホ「handy」は、ホテルの客室にスマートフォンを設置し、宿泊客が無料で使えるサービス。ホテル情報や観光案内などのコンテンツだけでなく、ブラウザーやSNSなどを利用できる上、国内・国際電話が使い放題。Google アカウントを登録すればアプリもインストールできる自由度の高さが特徴です。

▲アプリもインストール可能。チェックアウト後に自動で初期化される

handyは、香港発のベンチャーTink Labsが展開するサービスで、handy Japanはその日本版サービスを展開するため、同社とシャープの合弁会社として設立。2017年7月1日にサービスを開始し、丸1年を迎えました。

1年間で急速に導入数を増やし、日本のホテル客室の約3割にあたる24万室に導入済み。今後は旅館や民泊などもターゲットとして、さらなるシェア拡大を目指します。

▲全国ホテルの3割に導入。外国人観光客が多い地域では稼働率も6割前後と高水準

handyをホテルの鍵に、観光ガイドも強化

急成長のhandyがパートナーとして選んだのはソフトバンク。handy Japanの勝瀬博則CEOが「ソフトバンクと組みたいと初めから思っていた」と語る理由は、同社がモバイル通信サービスを手がけているだけでなく、グループ内にIoTやAIといった技術や、旅行予約サービスといった親和性が高いリソースを豊富に抱えているから。さらに、全国に展開するソフトバンクの法人営業網を活用することで、「一気に伸ばしていく」(ソフトバンクCEO 宮内謙氏)といいます。

▲左から、handy Japanの勝瀬博則CEO、Tink Labsのファウンダー Terence Kwok氏、ソフトバンクの宮内謙CEO

発表会ではソフトバンクの宮内謙CEOも登壇し、handyのサービス拡充でも協力していくと紹介しました。その1つがIoTサービスの導入。例えば、handyを使って客室のスマートロックを解除したり、空調や照明のコントロールする機能を導入。ルームサービスもhandyから注文できる仕組みを整えます。さらに、ソフトバンクが持つクラウドPBXサービスと連携し、ホテルのアナログ電話回線の置き換えも目指します。

▲handyスマートフォンをルームキーで空調のコントロール、無人チェックアウトなどに使えるように

また、handyスマートフォンで配信している旅行情報も強化。現地発の観光パッケージや、タクシーの配車サービスなどを取り扱うとしています。

handyで配信される旅行情報はユーザーにとっては旅行ガイドですが、見方を変えればホテル宿泊客をターゲットとしたメディアとも言えます。全国24万室に泊まる8600万人の旅行客にアプローチするメディアとして、クーポンや広告配信の機能も強化していきます。ビッグデータ解析を強みとするソフトバンクと組んだことで、旅行客の利用動向を分析するDMP(データマネジメントプラットフォーム)の展開も視野に入れているということです。

ソフトバンクグループには、実はホテルが存在します。2017年に買収した投資法人フォートレスは、傘下企業でホテルチェーン「マイステイズ」を展開。このマイステイズを実験場として、スマートロックなど、handy Japanの新サービスを先行導入していくとのことです。

なおソフトバンクの出資は、handy Japanの親会社handy Japan Holdingsの第三者割当増資を引き受ける形で実施されます。出資金額・比率は非開示ですが、ソフトバンクの宮内CEOいわく「比率で2~3割には満たない」とのこと。

▲ソフトバンクグループ傘下の「ホテルマイステイズ」で検証環境を構築

「無料」テザリング機能が開放、ただし導入はホテル次第か

発表会で「新サービス」として発表されたのが、handyのテザリング機能の解放。つまりhandyをモバイルルーターの代わりにして、ユーザーのスマートフォンやパソコンで通信できるようになります。テザリングを利用する場合も、ユーザー(宿泊客)にかかる利用料は無料です。

ただし、テザリング機能がどれだけ多くのホテルに導入されるかは未知数と言えます。というのも、ユーザーにとっては無料ですが、ホテル側には追加の負担が発生することになります。

▲「無料」のテザリング機能が提供されるが……

handyのビジネスモデルは、ホテル側にサービス利用料を負担してもらうことで、ユーザーにサービスを無料で提供するというもの。ホテル側の利用料は1端末当たり月額980円となっています。

それがテザリング機能を有効にする場合、ホテル側にかかる利用料金は1台当たり月額2980円程度に膨れ上がります。これは「プレミアムプラン」に相当する新プランの料金で、そのパッケージの1つとしてテザリング機能が含まれてるという構図です。宿泊客向けにテザリング機能を提供する必要性をホテルがどのように考えるかにもよりますが、「handyがあれば必ず無料テザリングが使える」という状況にはならないと思われます。

ちなみに、handyの通信回線はこれまでNTTドコモ系のMVNOを利用していましたが、今回の提携により、新規に導入する端末からソフトバンク回線に切り替えていくとのこと。それにともなって通信速度も向上する見込みです。

VRサービス提供。新端末も?

今回、予告された新サービスの1つに、VRコンテンツの配信サービスがあります。handyのスマートフォンで日本観光の紹介映像やエンタメコンテンツなどを視聴できるという内容です。

視聴に利用するVRゴーグルは段ボール製のものですが、問題はhandy Japanが展開するスマートフォン。handy Japanでは、シャープのODMという形で鴻海製の専用端末が利用されていますが、この端末はロースペックで、VR視聴に必要なジャイロセンサーも搭載されていません。

▲ゴーグルは持ち帰り可、自分のスマートフォンで利用することもできる

そのため今後、VR視聴に対応するより高性能な端末への置き換えが進むものと見込まれます。海外のhandyサービスでは複数のスマートフォンが利用されており、その中の1台が日本向けに導入される可能性もあります。

性能が向上することで動作が快適になり、テザリングも長時間利用できるようになると見込まれます。宿泊先のホテルでVRを視聴しないとしても、気になる動きではあります。

Engadget 日本版からの転載。

不動産テックのライナフがアットホームと業務提携——AI音声認識で仲介会社に物件情報を提供

スマートロックと、それに連動する不動産管理ソリューションを展開するライナフ。これまでにも、オンラインで物件の内覧を予約し、セルフ内覧ができる「スマート内覧」や、貸し会議室の予約、スマホや電話での入室が可能な「スマート会議室」といったサービスを提供してきた。そのライナフが新たに提供し始めたのが、AIによる音声認識で物件確認の電話に自動応答するサービス「スマート物確」だ。ライナフは9月15日、不動産情報サービスのアットホームとの業務提携を発表。スマート物確をアットホームの加盟・利用不動産店に対して、9月27日より提供開始する。

ライナフ代表取締役の滝沢潔氏によれば、準大手の不動産管理会社の場合、仲介会社から物件の成約状況や紹介可否を確認する電話は、1日600件ほどかかってくるという。現状では管理会社では、問い合わせのたびにExcel表などを確認しながら回答することになるのだが、この業務の負荷を自動音声応答で軽減しようというのが、スマート物確の狙いだ。

「物件名にしか反応しない」独自の音声認識システム

スマート物確では、仲介会社が物件確認専用の番号に電話をかけると自動アナウンスが流れ、物件名を声に出すとAIが音声認識によって物件を特定し、その物件の情報を自動で応答する。

物件確認の自動応答システムでは、すでにイタンジが提供する「ぶっかくん」があるが、滝沢氏は「ぶっかくんでは、電話をかけると、物件名ではなく賃料や部屋番号、専有面積をプッシュ入力することで物件を絞り込んで特定し、物件情報を答える仕組みになっている。スマート物確は、より人の会話に近い形を目指した」と既存サービスとの違いを説明する。「音声で物件名(建物名)を言うと、対象が1室であればその部屋の情報をすぐにアナウンスする。複数の空き物件がある場合は、そこで部屋番号を入力する仕組みだ」(滝沢氏)

物件名を検索の基準とするスマート物確では、賃料などの条件変更があり、仲介会社が把握する賃料と自動応答システムのデータベースの賃料との間に相違がある場合でも、物件を特定することが可能となっている。

実際に、スマート物確の自動音声対応が聞けるデモ番号に電話をかけて、試してみた。アナウンスに従って、サンプルの物件名を声で話すと物件の検索が始まり、約10秒ぐらいで物件を確認する音声が返ってくる。音声でも思った以上にスムーズに検索ができる印象だ。

スマート物確の音声認識システムは、物件名だけを認識する不動産専用のものだという。滝沢氏は「いろいろな音声認識APIを使ってみたのだが、これまでのGoogleなどの音声認識システムでは、日常会話には強いが、固有名詞の認識で弱いことが分かった。そこでオープンソースの音声認識プログラムに手を加え、エンジンを自社開発した」と説明する。

管理会社はスマート物確で、物件ごとに読み上げる回答項目を設定、追加できる。また、営業時間の案内なども設定することが可能だ。

応答項目設定画面

さらにどの物件に、いつ、どの仲介会社から電話がかかってきたかを確認できる受信履歴画面や、問い合わせの多い物件が把握できる、受電ランキングなどの機能も備わっていて、物件の分析やマーケティングに活用することもできる。

物件ランキング画面

スマート物確では、自動音声案内だけではなく、仲介会社がオペレーターと直接話したいという場合には、通話を切り替えることもできる。滝沢氏によると、今回の本格リリースの前にベータ版を実際の業者で使ってもらった例では、半数以上の問い合わせが物件情報の自動音声案内のみで完了しているケースもあるそうだ。ベータ版の不動産会社による導入も進んでおり、9月15日現在の管理物件数は既に10万室を超えたという。

「電話は重要なチャネル」「他社連携さらに進める」

ライナフでは、不動産業界での問い合わせや予約で、いまだに電話は重要なチャネルだと捉えている。「宅配便の再配達や飲食店の予約でも、やはりネットよりも“確実に申し込みできた”という印象が強いのが電話。今後、スマート物確を内覧予約システムのスマート内覧ともつなぎ込み、年内にもリリースする予定だ。これにより、物件の空き状況の確認から内覧予約、現地の開錠と内覧までを、ネット経由に加えて電話でも行えるようになる。さらにスマホへの普及率が9割を超える、LINEとの連動も進めていく」(滝沢氏)

ライナフはスマートロック「NinjaLock」を切り口としてはいるが、以前から滝沢氏が取材で述べているように、“不動産管理”を軸にした不動産テックサービスを提供する姿勢を貫いている。その過程の中で、不動産の物件情報、予約情報、鍵情報を集め、一元的に管理するデータベースを構築してきた。滝沢氏は「これまでの物件内覧、貸し会議室などのサービスに加えて、他社への情報提供も視野に入れている。ホテル業界での予約・在庫管理ASPのようなサービス提供を、不動産の分野で目指している」と話している。また賃貸物件だけでなく、Airbnbやスペースマーケットなどが扱っているような短期の空きスペースの物件、時間、鍵の情報についても、他社へ一括で提供できる仕組みを検討しているそうだ。

今回のアットホームとの提携も、そうした他社への情報提供やサービス連携の一環だと滝沢氏は言う。「アットホームは5万4000店舗の販売網を持ち、また元々ファクトシート(物件情報の図面)の印刷・配布では最大手の企業。不動産情報のネットワーク化を進め、不動産業務の支援サイトも提供しているアットホームとの情報、システム連動を進めることで、業務の効率化、データ化も進み、不動産業界自体が一歩先へ進むと考えている」(滝沢氏)

オンライン融資の「クレジットエンジン」がSTORES.jpと提携――資金の前貸しサービスを開始

1月30日に500 Starups Japanフリービットインベストメントなどから総額1億1000万円の資金調達のほか、オンライン融資サービス「LENDY(レンディ)」のベータ版の提供を開始したクレジットエンジン。同社に新たな動きがあったようだ。

ネットショップ開設サービス「STORES.jp」を提供するブラケットと業務提携を結び、STORES.jpのユーザーを対象とした融資サービス「マエガリ」の提供を5月8日から開始していた。

借入金は3種類、返済方法は2タイプ

LENDYは中小企業、個人事業主向けのオンライン融資サービス。独自のアルゴリズムによって、財務情報や信用情報に加え、オンライン会計データ・ECサイトデータ・オンラインバンキングデータ・タブレット型POSレジデータなどのオンラインデータをリアルタイムで継続的に分析しているため、10〜15分ほどで審査が完了する。面倒な書類作成は不要だ。

新サービスのマエガリは、LENDYで開発したオンライン融資機能をプラットフォームとしてSTORES.jpのユーザーに提供するというもの。

実際のイメージ

具体的には、STORES.jpを利用するユーザーの管理画面にマエガリの登録導線が設置され、登録するとSTORES.jpでの売上データが自動的に連携。これにより、面倒な手続きをすることなく、事業に必要な資金を調達できる。

10万円、50万円、100万円の3種類。返済期限は6か月間と決まっているが、ユーザーは毎月返済、一括返済のどちらかを選択可能となっている。また担保の必要もなく、最短2営業日で振込みが行われるという。

海外では2014年5月にSquare(スクエア)が返済期限なしの小売店向けの事業資金の前貸しサービス「Square Capital」を正式開始している。これはSquareが自社の決済サービスでの売上実績などを元に独自に与信調査をして資金を提供するというモデルだが、マエガリもこれと同じく、独自に持つデータ(とSTORES.jpのデータ)での与信調査を行っているというかたちだ。

クレジットエンジンはブラケットとの業務提携を機に、今後もプラットフォーマーとしてオンライン融資機能を法人に提供していき、中小企業や個人事業主の方々の事業運営を支援していく予定とのこと。