警察のDNAデータベースアクセスを制限する法律が米メリーランド州とモンタナ州で成立

メリーランド州とモンタナ州は、警察がDNAデータベースにアクセスするのを制限する法律を可決した米国初の州となった。

何百万人という米国人の遺伝に関するプライバシーを守るための新しい法律は、23andMeAncestryGEDmatch、FamilyTreeDNAといった消費者DNAデータベースにフォーカスしている。これらサービスでは人々に自分の遺伝子情報をアップロードさせ、遠い親戚とつなげたり家系図をたどっていくのに遺伝子情報を使っている。23andMeのユーザーは300万人超、GEDmatchは100万人超と人気がある一方で、多くの人はこうしたプラットフォームの一部が遺伝子データを製薬業界やサイエンティストから法執行機関に至るまでさまざまなサードパーティと共有していることを知らない。

法医学の遺伝子系図捜査(FGGS)として知られる手法を通じて警察によって使用されるとき、警察は容疑者についての手がかりを探すために犯罪現場で見つかったDNA証拠をアップロードできる。この手の捜査で最も知られている例は2018年のゴールデン・ステート・キラー(黄金州の殺人鬼)の特定だろう。この事件では、捜査チームは連続殺人犯につながる1980年の殺害現場で採取したDNAサンプルをGEDmatchにアップロードし、その後容疑者の遠い親戚を特定し、これが犯人Joseph James DeAngelo(ジョセフ・ジェームズ・ディアンジェロ)逮捕への重要な突破口となった。

関連記事:連続殺人犯逮捕へと導いたDNA分析サイトは、ユーザープライバシーに関する懸念を再燃させる

警察は犯罪捜査のために消費者DNAデータベース使うことで成功を収めてきたが、その一方でプライバシー擁護派は長い間こうしたプラットフォームの危険性を警告してきた。DNAプロフィールが遠い祖先をたどっていくのに使えるだけでなく、膨大な量の遺伝子データはその人の病気の傾向を暴いたり、中毒や薬物反応を予想したりでき、さらにはその人がどんな外観なのかイメージ図を作成するのに企業によって使われさえする。

Ancestryと23andMeは、令状を持たない警察には自社の遺伝子データベースを利用させていない。GEDmatch(2019年12月に犯罪現場DNA会社に買収された)とFamilyTreeDNAは以前、警察とデータベースを共有していた。

被告人と、その人の親戚の遺伝子プライバシーを確保するために、メリーランド州は10月1日から遺伝子系図を使う前に裁判官から令状を取得することを警察に課し、遺伝子系図の使用は殺人や誘拐、人身売買など重大な犯罪に限定する。また、ユーザーに情報が犯罪捜査に使われることがあるかもしれないとはっきりと伝えているデータベースのみを捜査当局は使用できる、としている。

新しい法律で使用をさらに限定するモンタナ州では、ユーザーがプライバシー権を放棄していなければ警察はDNAデータベースを使用する前に令状を取る必要がある

法律は「政治的立場の異なるさまざまな人々が、法執行機関による遺伝子データの使用が恐ろしく懸念されるものであり、そしてプライバシーを踏みにじるものだと気づいたことを示している」とメリーランド州の法律学教授Natalie Ram(ナタリー・ラム)氏は話した。「今後より多くの州が法執行機関のテクニックに関する堅牢な規制を擁するこを望みます」。

こうした法律の導入は、電子フロンティア財団(EFF)などのプライバシー擁護派には歓迎されている。EFFで監視訴訟ディレクターを務めるJennifer Lynch(ジェニファー・リンチ)氏は規制について「正しい方向へのステップ」と表現したが、より多くの州、さらには連邦政府がFGGSをさらに厳格に取り締まることを求めた。

「我々の遺伝子データは、保護を民間企業に任せたり、警察に自由に検索させたりするにはあまりにもセンシティブで重要なものです」とリンチ氏は述べた。

「GEDmatchやFamilyTreeDNAのような企業は警察の捜査を許し、促進さえしました。このため警察は米国中の犯罪捜査でますますこうしたデータベースにアクセスするようになっています」。

23andMeの広報担当はTechCrunchに次のように述べた。「消費者にさらに強固なプライバシー保護を提供する法律を当社は完全に支持します。実際、当社は消費者の遺伝子プライバシー保護を高めるために多くの州で法制化に取り組んでいます。顧客のプライバシーと透明性は、23andMeの法的要請対応と顧客の信頼維持へのアプローチをガイドする基本原則です。当社はすべての警察や当局の要請を綿密に調べ、裁判所の命令や召喚状、捜査令状、その他法的に有効だと判断した要請だけに対応します。これまで当社は警察に顧客の情報をまったく開示していません」。

Ancestryは「当社の顧客のプライバシーを守りながら公共政策の目標を達成している」法律をつくるのにメリーランド州の議員と協業したと述べた。

「顧客のプライバシーを守ること、顧客のデータの良き管理者となることはAncestryの最優先事項であり、当社は自ら進んで警察と協業しません。裁判所の命令や捜査令状など有効な法的プロセスでそうせざるを得ない限り、当社は警察といかなる情報も共有しません」とAncestryの広報担当は話した。

デフォルトでユーザーが警察の捜査の対象となるようにしているGEDmatchと FamilyTreeDNAはニューヨークタイムズ紙に対し、新しい法律への対応でユーザーの同意に関する既存の規則を変更する計画はないと語った。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:警察DNAアメリカメリーランドモンタナプライバシー個人情報電子フロンティア財団

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

ロンドン大学の研究者が生物のDNAを空気サンプル中から見つけ出すeDNA分析技術を発表

ロンドン大学の研究者が生物のDNAを空気サンプル中から見つけ出すeDNA分析技術を発表

Andrew Brookes via Getty Images

ロンドン大学クイーン・メアリー校の研究者が、空気サンプルのなかから、そこにいた生物のDNAを採取する方法についての研究を発表しました。学術誌PeerJに掲載されたこの実証研究は、これまで主として水圏生態系の調査で使われた環境DNA(environmental DNA:eDNA)を生態学や健康科学、医学の分野に応用できる可能性を示すものです。

植物や動物などの生物は、周囲の環境との関わりの中でDNAを排出することがわかっていて、これをeDNAと呼んでいます。eDNAは主に水、または土壌のなかに含まれるものを調べる研究がこれまでに進められて来ました。しかしこの新しい研究では空気サンプルからeDNAを集めて、動物種の同定に利用できるかどうかを検討しました。

研究者は、地下に巣を作り繁殖するハダカデバネズミを飼育していた部屋の空気サンプルから既存の技術でeDNAを採取し、その配列を調べることで、このネズミだけでなく、作業している人のDNAまでも検出できることを確認しました。

この技術はもともと生態学者が生物学的環境を研究するために使われてきたものでしたが、主任研究者のエリザベス・クレア博士によれば、実験で人のDNAを検出できたことで、このサンプリング技術がさらに進歩すれば法医学の分野でも応用できる可能性が示されたとのこと。わかりやすく言えば、犯罪の現場で科学捜査班がeDNAを調べ、現場に居合わせた犯人の痕跡を追跡することもできうるということです。また、細菌・ウイルス学者がこの技術を利用できれば、新型コロナなどのようなウイルスがどのように感染を広げるのかを理解できるかもしれません。

ただ、まだこの技術の実用化には時間がかかりそうです。研究チームはNatureMetrics社など民間企業と協力して実用化に向けた取り組みを行っていますが、混雑していた場所などでは種種雑多なDNAが検出され、必要なものが埋もれてしまう可能性もありえます。とはいえ、まったく証拠が見つからないような状況でこの技術が使えれば、決め手となるDNAが発見され、それが何かを解決するのに役立つことも十分に考えられるでしょう。

(Source:PeerJ、via:ScienceFocusEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:環境DNA / eDNA(用語)生態学(用語)DNA / 遺伝子(用語)ロンドン大学(組織)

大手バイオテクノロジー企業ElevateBioが細胞・遺伝子治療技術開発で約573億円を調達

遺伝子治療に特化した大手バイオテクノロジー企業のElevateBioは、シリーズCラウンドで5億2500万ドル(約573億円)という巨額の資金を調達し、2020年完了したシリーズBの1億9300万ドル(約211億円)の資金を倍増させた。今回の資金調達は既存の投資家であるMatrix Capital Managementからのもので、新たにSoftBank Vision FundとFidelity Management & Research Companyが加わり、ElevateBioの研究開発と製造能力の拡大を支援し、同社の研究に基づく新たな企業やパートナーシップのスピンアウトを継続するために使われる。

マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするElevateBioは、細胞および遺伝子治療の学術的な研究開発の世界と、商業化や生産規模の製造の世界とを橋渡しするために設立された。同社は特に重度あるいは慢性疾患の治療において、細胞および遺伝子編集を活用した治療法の開発で行われている有望な科学治療を市場に投入するための、より効率的な手段の必要性を認識している。ElevateBioのビジネスモデルは自社の治療法を開発・商品化することに加え、学術研究機関や他のバイオ企業と長期的なパートナーシップを結び、自社の技術を市場に投入することにある。

この目的のためにElevateBioは、特定の治療法に特化したスピンアウト企業を頻繁に設立し、新しい事業ではそれぞれ特定の治療薬に焦点を当てている。同社はこれまでにAlloVir(ベイラー医科大学との提携)、HighPassBio(遺伝子編集会社Fred Hutchinsonとの合弁事業)、Life Edit Therapeutics(AgBiome社との提携)の3社を発表している。ElevateBioによると他にもスピンアウトされた企業があるが、まだ公表されていない。

予測されていたように、ElevateBioは世界的なパンデミックとその影響によってバイオテクノロジー投資に対する需要が高まったことから、恩恵を受けたようだ。同社のスピンアウト企業であるAlloVirは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応するT細胞療法の候補を研究しており、これは患者のSARS-CoV-2に感染した細胞を排除して疾患の拡大を遅らせ、その重症化を軽減するのに有効である可能性がある。

カテゴリー:バイオテック
タグ:ElevateBio資金調達遺伝子SoftBank Vision Fund

画像クレジット:Bloomberg / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:塚本直樹 / Twitter

NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発

NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発人の体内のほとんどの細胞は数十億の塩基対を核に押し込んだDNAの完全なコピーを持っています。そして身体の個々の細胞は、タンパク質の中に埋まっているDNAから必要な部分だけを外部からアクセスしやすくして、たとえば臓器、たとえば血液、たとえば皮膚など、異なる機能を持つ細胞になるための遺伝子を活性化します。

NVIDIAとハーバード大学の研究者らは、仮にサンプルデータにノイズが多く含まれていても(がんなどの遺伝性疾患の早期発見によくあるケース)、DNAのアクセス可能な部分を研究しやすくするためのAIツールキット「AtacWorks」を開発しました。

このツールは、健康な細胞と病気の細胞についてゲノム内の開かれたエリアを見つけるためのATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)法と呼ばれるスクリーニング的アプローチをNVIDIAのTensor Core GPUで実行し、32コアCPUのシステムなら15時間ほどかかるゲノム全体の推論をたったの30分で完了するとのこと。

またATAC-seqは通常なら数万個の細胞を分析する必要がありますが、AtacWorksをATAC-seqに適用すれば、ディープラーニングで鍛えたAIによって数十の細胞だけで同じ品質の分析結果を得ることができます。たとえば研究チームは、赤血球と白血球を作る幹細胞を、わずか50個のサンプルセットを分析するだけで、DNAのなかのそれぞれの産生に関連する個別の部分を識別できました。

ゲノムの解析にかかる時間とコストを削減できるようになる効果から、AtacWorksは特定の疾患につながる細胞の病変やバイオマーカーの特定に貢献することが考えられます。また細胞の数が少なくてもゲノム解析ができるとなれば、非常に稀な種類の細胞におけるDNAの違いを識別するといった研究も可能になり、データ集積のコストを削減し、診断分野だけでなく新薬の開発においても、開発機関の短縮など新たな可能性をもたらすことが期待されます。

(Source:Nature Communications、via:NVIDIAEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)AI / 人工知能(用語)NVIDIA(企業)NVIDIA Tensor Core(製品・サービス)オーダメイド医療がん / がん治療(用語)ゲノム医療ゲノム解析DNA / 遺伝子(用語)ハーバード大学(組織)Python(製品・サービス)

「次世代ゲノム解析サービス」を健康保険組合向けに提供するZeneが5000万円調達

「次世代ゲノム解析サービス」を開発するスタートアップであるZeneは3月8日、インキュベイトファンドを引受先とした第三者割当増資により5000万円の資金調達を発表した。

Zeneは個人の遺伝子解析を通じて「生涯不変の疾病リスク」を判定し、その対応策までサポートするスタートアップだ。前職でヤフーの遺伝子解析サービスを運営し、デジタルヘルス分野に10年以上従事している井上昌洋氏が2020年2月に設立した。

一生変わらないリスクを知る

「生涯不変の疾病リスク」とはなんだろうか。例えば、糖尿病は「生活習慣病」とも言われるように、食事や運動などの生活習慣がその発症の原因となりえる病気だ。しかし、ZeneのCEOである井上氏は「(2型)糖尿病の発症には、環境的な要因だけではなく、遺伝的要因が大きく関わっています。男性で約4割、女性では約9割が、遺伝的な要因で糖尿病にかかるという最新の研究結果もあるほどです」という。個人の遺伝子は一生変わらないものなので、それに起因する疾病リスクは一生変わらないというわけだ。

井上氏は遺伝子解析サービスのメリットとして「自分にとって不変の体質リスクを知るからこそ、継続して健康的な生活を送るためのモチベーションにつながります。また毎年行う健康診断とは違って、一度実施すればよいので経済的なメリットもあります」と語る。

同社の遺伝子解析サービスとこれまでの遺伝子検査との違いは、ゲノム情報全体を統合的に解析する「ポリジェニックリスクスコア手法」を採用した点だ。数個の遺伝子をタイプ別にわけて疾患者の割合を提供するという従来の手法ではなく、AIを活用してより多くの遺伝子情報を統合的に検査するため、その解析精度は高くなるという。

健康保険組合向けの新サービス

Zeneは今回の資金調達と同時に、企業や健康保険組合に向けたサービス「Zene360」を開始した。これは社員1人あたり6000円(目安)で、遺伝子解析サービスを導入できるというもの。検査の方法はシンプルで、自宅に送られてくる専用キットで唾液を使い実施する。キットを郵送すれば完了し、後日解析レポートが郵送もしくはウェブで閲覧できる。

Zene360の解析レポートには、糖尿病・乳がん・循環器・認知症・大腸癌などの生涯不変の疾病リスクが記載されている。また、これらの注意喚起だけで終わらず、その後の対応までトータルでサポートするのが特徴だ。例えば、糖尿病リスクが高いと判明したユーザーに対しては、食事改善メニューや運動メニューを提供したり、病院での受診を提案するという。井上氏によると「従来の遺伝子解析サービスは、レポートを提出してそこで終わってしまっていたんです。レポートの結果を受けて、ユーザーが具体的な行動に移るといったことは少なかった」と自身の過去の経験を語る。

画像クレジット:Zene

健康保険組合としても、効率性の観点からメリットは大きい。井上氏は「例えば脳ドックを挙げてみましょう。これまで健康保険組合は、社員全員に脳ドックを受診するように働きかけるのが通常でした。しかし、実際に受診するのは健康オタクのような人たちだけで、せいぜい1割程度です。Zene360を使えば、どの社員が脳梗塞のリスクが高いかがわかるので、ピンポイントでそのような社員に脳ドック受診を勧めることができますし、社員側としても遺伝的な根拠があれば、受診や健康管理へのモチベーションにつながるでしょう」と話す。単純に遺伝子解析のレポートを渡すだけではなく、その後の具体的な行動案を提示することで、他の遺伝子解析サービスとの差別化を図るというわけだ。

また、社員1人あたり6000円(目安)という価格も、他の遺伝子解析サービスと比較すると大幅に安いという。この価格設定の理由として、Zeneは解析した遺伝子データを個人を識別できない形に加工したうえで、将来プラットフォーム化することを狙いとしているからだ。

井上氏は「遺伝子情報は一度取得してしまうと、その後変化はないため再度検査する必要がありません。よって『勝者総取り』の構図になりやすい業界でもあります。だからこそ導入コストを下げて、まず企業や健康保険組合に利用してもらうことが大切だと考えています」と語る。

一方で課題は明確にある。遺伝子解析サービスは、あくまで集団における「相対的な危険度」を表すものだ。それゆえ母数の日本人ユーザーが増えない限りは、解析結果の正確性を担保することが難しい。だからこそZeneは、現段階では一般個人向けのサービスではなく、企業や健康保険組合に的を絞る。検査母数が増えることで解析精度が高くなり、それによってさらに導入が増えていくという好循環を狙っていく。

米国ではすでに3000万人を超える個人によって利用されているとされ、23andMeColorなどのユニコーン企業をも生み出す巨大市場である遺伝子解析サービス。今後、日本でも順調な拡大が期待できる分野といえるだろう。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Zene資金調達遺伝子日本

遺伝子検査の23andMeがVirgin GroupのSPACとの合併を通じて公開へ

遺伝子検査とゲノム研究の23andMeは、Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏と同氏の会社Virgin Group(ヴァージン・グループ)のビークルである特別買収目的会社(SPAC)のVG Acquisition Corpとの合併を通じて上場する。この取引で23andMeはクローズ時にキャッシュ約9億8400万ドル(約1040億円)を手にすると予想される。同社はこの資金をプロダクト開発、人材採用、 他の成長戦略に使う。そして同社の評価額は約35億ドル(約3700億円)になり、この合併についての話し合いを詳細に報じた先の記事にあった額に近いものになる。

CEOのAnne Wojcicki(アン・ウォシッキー)氏、Linda Avey(リンダ・ エイヴィ)氏、Paul Cusenza(ポール・カセンザ)氏が2006年に創業した23andMeは、2020年12月に発表した8500万ドル(約90億円)のシリーズFラウンドを含め、これまでに9億ドル(約950億円)を調達した。同社は個人消費者向けの在宅遺伝子テストを最初に開始した企業の1社で、個人が自身のDNAについて、そして潜在的な健康問題や先祖などについて情報を得るのに使えるキットを提供している。

直近では、同社は膨大なゲノムデータをオプトイン式の遺伝子研究リソースに保存している。将来の治療の発見に使うためだ。同社はまた、研究と事業の目的でサードパーティとともに収集するデータの統合と匿名化された共有を通じて収益を上げている。

取引には、ウォシッキー氏とリチャード・ブランソン氏の会社の合併に付随するPIPEへの各2500万ドル(約26億円)の投資も含まれる。合併は2021年第2四半期にクローズする予定で、NYSEにティッカーシンボル「ME」で上場する。

このところのSPAC旋風は、多くのスタートアップ、そしてエグジットイベントがないためにテクニカル的にまだ非公開企業だが、手元資金を確保するのにプライベート投資家に頼る要素を持っている23andMeのような非公開企業がエグジットする手法となっている。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:23andMeDNASPAC

画像クレジット:ERIC BARADAT/AFP / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

遺伝子工学にブレイクスルーを起こす「遺伝子プログラム技術」のTessera Therapeuticsが238.4億円を調達

技術者たちはコーディング生物学にますます習熟していて、VCたちは新世代のスタートアップたちがその技術を遺伝子技術革新の次の波にのせることができるように、現金を注ぎ込んでいる。

このたびFlagship Pioneering(フラッグシップ・パイオニアリング)のスピンオフ企業であるボストン拠点のTessera Therapeutics(テセラ・セラピューティクス)が、より優れた生物学的プログラミングのためのプラットフォームを開発するために、2億3000万ドル(約238億4000万円)の新たな資金調達を行い、その競争に飛び込んだ。

このラウンドを主導したのはAlaska Permanent Fund Corp.、Altitude Life Science Ventures、SoftBank Vision Fund 2たちで、Qatari Investment Authorityやその他の非公開投資家たちが参加した。

同社は2020年、さまざまな遺伝子の編集技術、製造技術、合成技術を組み合わせて、遺伝子コードに対してよりオーダーメイドの治療指示を提供することのできる遺伝子ライティングサービスを公開した。

同社はその声明の中で、遺伝物質への指示をより多く提供することで、標的とできる病原体や突然変異の数を増やしながら、治療の精度を高めることを目指していると述べている。

この主張は、今月初めに1億500万ドル(約108億9000万円)を調達したアーリーステージバイオテック企業であるSenti Bio(センチ・バイオ)のような企業のアプローチに似ている。

Tessera Therapeuticsの共同創業者でCEOであると同時に、Flagship PioneeringのパートナーでもあるGeoffrey von Maltzahn(ジェフリー・フォン・マルツァーン)氏は「生命体のコードに書き込みを行うことができる能力は、今世紀における決定的技術となって、医療に根本的な変革を促すことになるでしょう。今回いただいた支援は、Tesseraの優れた科学者チームと、遺伝子ライティングの驚異的な可能性を患者さんにもたらすことに注力していることに対する信頼の証です」と語った。「この強力な技術を医療の新しいカテゴリーへと変えることができるのを楽しみにしています」。

Tessera Therapeuticsは、Flagship Pioneeringの傘下で開発されてきた遺伝子治療や遺伝子編集技術に特化した数多くの企業の一部である。Tesseraの共同創業者で会長でもある、Flagship Pioneeringの創業者で最高経営責任者のNoubar Afeyan(ヌーバー・アフェヤン)氏によると、Tessera TherapeuticsはmRNA、標的化膜融合ベクター、エピジェネティックコントローラーを利用した新しい治療法の開発に注力しているという。

Senti Bioは既存の遺伝物質にさらなるプログラミングを加えるものだが、Tesseraは体内に最も多く存在する遺伝物質である可動遺伝因子(mobile genetic elements)を利用して、ヒトゲノムを書いたり書き換えたりするための新たなベクターを生み出す。

同社はその技術を、より良い治療法を提供できる遺伝子工学のブレイクスルーだと主張している。なぜなら、この技術はゲノム内の特定の部位を標的にして、遺伝子コードに対して任意の置換、挿入、削除を行うことができるからだ。Tesseraはまた、その技術は、二本鎖切断を行わず、DNA修復経路にほとんど頼らないことで、より効率的に体細胞ゲノムのエンジニアリングを行うことができると述べている。

遺伝子ライティング技術は、自然界で最も豊富に存在する遺伝子のクラスである可動遺伝因子によって触発され、その上に構築されている。Tesseraの持つ計算ならびにハイスループット実験室プラットフォームのおかげで、チームは、ヒトゲノムの書き込みと書き換えのために、何千もの遺伝子操作され合成された可動遺伝因子を設計、構築、テストすることが可能になった。

また同社によれば、RNAのみを与えることで、まったく新しいシーケンスをゲノムに書き込むことも可能だという。

Tesseraは、新しいラウンドによって調達された資金を使って、技術をさらに発展させ、より多くのスタッフを雇用し、プラットフォームとプログラムに不可欠な、製造と自動化能力を確立することを目指すと述べている。

関連記事:遺伝子回路テクノロジーでガン制圧を目指すSenti Bioがバイエルから109億円を調達

カテゴリー:バイオテック
タグ:Tessera Therapeutics資金調達遺伝子

画像クレジット:MR.Cole_Photographer (opens in a new window)/ Getty Images

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(翻訳:sako)

遺伝子回路テクノロジーでガン制圧を目指すSenti Bioがバイエルから109億円を調達

Senti Biosciencesは、ライフサイエンス分野の世界的企業であるBayer(バイエル)がリードした資金調達ラウンドで1億500万ドル(約109億円)を調達したことを発表した。同社はプログラム可能なバイオプラットフォームによって新しいガン治療法の開発を行っている。

同社は新しい計算生物学的手法を用いて人体の特定細胞を正確に標的とする細胞・遺伝子治療法を開発している。

ハーバード医学部の出身でMITで准教授を務めたSenti BiosciencesのCEOであるTim Lu(ティム・ルー)氏は、同社のテクノロジーを伝統的な手続き型プログラミングとオブジェクト指向プログラミングの違いにたとえてこう述べている。「『Helloworld』を表示するだけのプログラムでは意味がありません。オブジェクト指向ならifステートメントを駆使したプログラミングができます」という。

Senti Biosciencesでは複数の受容体を標的とする遺伝物質を合成することで体内の遺伝物質を識別し、病変部に正確に薬剤を到達させること目標としている。「細胞の単一受容体ではなく【略】我々は2つの受容体を対象にできます」とルー氏は述べた。

同社は当初、遺伝子回路テクノロジーのプラットフォーム上に体内のガン細胞を標的にしてそれらを駆逐する「キメラ抗原受容体ナチュラルキラー(CAR-NK)」細胞を合成する治療法を開発している。現在の細胞・遺伝子治療は、ナチュラルキラーT細胞を利用している。これは、体内の白血球内に存在し、人体に有害なウイルスや細菌などの異物を排除する免疫プロセスで重要な役割を果たす。

ところがT細胞を利用したの治療法は、患者に毒性をもたらす可能性がある。極めて危険な免疫暴走を誘発するをリスクだ。CAR-NK細胞を利用すれば同様の効果を得ながら免疫暴走という副作用を大きく低減できる。

ルー氏によれば「我々の治療法は遺伝子回路とは独立のものですす。遺伝子回路は個人に特異的です。【略】CAR-T細胞またはCAR-NK細胞を使った治療では【略】(ガン細胞という)標的を発見して薬剤を送り届け他の正常な細胞に影響を与えないようにします。我々は遺伝子回路にロジックを組み込み、CAR-NK細胞が1つではなく2つの標的を識別できるようにします」という。

Senti Bioがターゲティング能力を強化するのは、抗ガン剤が体内の病変細胞だけに作用し、変異していない健康な細胞が破壊されることを防ぐためだという。

共同ファウンダーのルー氏、MITの同僚であるJim Collins(ジム・コリンズ)教授、ボストン大学のWilson Wong(ウィルソン・ウォン)教授、また合成生物学の専門家であるPhillip Lee(フィリップ・リー)氏らの数十年にわたる研究の集大成がSenti Biosciencesに結実したという。

ルー氏は遺伝子回路テクノロジー開発の現状をこう解説する。

遺伝子治療の現状は、半導体素子開発の初期と比較できます。研究段階ではさまざまな要素技術が開発されていました。しかし世界に影響を与えるためには産業として成立する規模が実現される必要がありました。

そこでルー氏ら共同ファウンダーはMIT、ボストン大学、スタンフォード大学からのライセンスを受け、開発作業を研究室レベルから産業レベルにアップすべくスタートアップを設立した。

「(Seinti Bioを)創立したとき、我々が持っていたのはいくつかのツールとノウハウでした」とルー氏はいう。それはまだ完成したプラットフォームには遠かった。

バイエル他の投資家による資金投入により、同社は新しい制ガン療法の商業化に進む準備ができた。

同社は声明で「最初の製品は急性骨髄性白血病、肝細胞ガン、その他の詳細はまだ明かせないが、各種の固形腫瘍を対象とした治療法になる」と述べている。バイエルのベンチャーキャピタル、Leaps by Bayerの責任者Juergen Eckhardt(ユルゲン・エックハルト)医学博士はこう述べている。

Leaps by Bayerの使命は、何百万人もの人々の生活をより良い方向に変える可能性のある画期的なテクノロジーに投資することです。合成生物学は次世代の細胞・遺伝子治療の重要な柱になると信じています。遺伝子回路設計と最適化におけるSenti Bioのリーダーシップは、ガンの予防と治療、また失われた組織機能再生という我々の目標に理想的に適合します。

ルー氏ら共同ファウンダーは、同社のプラットフォームをガンだけでなく他の疾病治療その他の用途のための細胞療法を開発するために有効と考えている。これについては(バイエル以外の)製薬会社とも提携して製品化を進めるつもりだという。ルー氏は声明でこう述べている。

過去2年間、Senti Biosciencesのチームは信頼性の高い薬剤製造ラインを開発するために何千もの高度な遺伝子回路を設計、構築、テストしてきました。現在まで治療が困難な液状および固体腫瘍に適応するる同種異系CAR-NK細胞療法に焦点を当ててきました。今後、2021年にはIND(新薬臨床試験)申請の準備を開始するなど、プラットフォームテクノロジーと製造パイプラインのさらなる進歩が達成できるものと期待しています。

今回のラウンドによりSenti Biosciencesの資本は1億6000万ドル(約166億円)弱となった。ルー氏は「この資金は製造プロセスを強化し、大手製薬会社との提携作業を加速するために用いられます」と述べた。

現在のスケジュールでは2022年後半から2023年初頭に新薬臨床試験開始申請を行い、2023年中に実際の臨床試験を開始する計画だ。

遺伝子回路開発は急成長中の分野だ。Cell Design Labsは2017年にGilead Sciencesが5億6700万ドル(約588億円)で買収した。この分野に取り組んでいる他の企業にはCRISPRテクノロジーを利用したCRISPR Therapeutics、Intellius、Editasなどがある。

関連記事:UCバークレー校のダウドナ教授がノーベル化学賞を受賞、CRISPR遺伝子編集が新型コロナなど感染拡大抑止に貢献

カテゴリー:バイオテック
タグ:Senti BiosciencesDNACRISPR資金調達

画像クレジット:KTSDESIGN/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

新型コロナ関連の研究も行うDNA分析の23andMeが約85億円調達

米証券取引委員会に提出された書類によると、DNAテストを行うテック企業23andMeが総株式額8500万ドル(約88億円)で新たに8250万ドル(約85億円)弱を調達した。Wall Street Journalが確認して報じた(Bloomberg記事)今回の資金調達にはSequoia CapitalやNewView Capitalといった投資家が参加した。23andMeがこれまでに調達した資金は累計8億5000万ドル(約880億円)となる。

Wall Street Journalに宛てた23andMeの声明によると、シリーズFラウンドに特定の意図はなく調達した資金は事業拡大に充てる。23andMeの事業は個人向けの在宅遺伝子テストキットの提供がメインで、このテストで個人は自身の健康について、そしてDNAに基づく家系図について知見を得ることができる。

健康増進と先祖や家系図についての情報獲得を個人向けに宣伝する一方で、同社は収集したデータに基づく研究にも注力してきた。自社による最近のデータ活用例としては遺伝子マーカーがいかに新型コロナウイルス(COVID-19)への感受性に影響を及ぼすか、というものがある。またサードパーティーの研究を支援するためにデータを使うこともある。ただし、データはそうした目的に限定し、集合・匿名化されたフォーマットで共有される、と同社は強調している。

23andMeは1月に従業員全体のおおよそ14%をレイオフしたことを認めた。ただしパンデミック、そして同様のグローバルな健康危機が将来起こりうるという可能性に直面する中で、新型コロナに関する2020年の取り組みで同社のプラッットフォームに新たな価値が見出された。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:23andMe遺伝子資金調達

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(翻訳:Mizoguchi

「遺伝子編集技術CRISPRは新型コロナ治療に欠かせない」とダウドナ教授は語る

最新の遺伝子編集技術、CRISPRの共同開発者であるJennifer Doudna(ジェニファー・ダウドナ)教授がDisrupt 2020に登場し「(CRISPRは)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降のパンデミックに対する戦いで最も有効なツールの1つになる」と述べた。CRISPRはコンピューターソフトウェアと同様、目的に応じて柔軟にプログラムの組み替えが可能であり、やがて無数の治療法と検査法に応用されるだろうという。

ダウドナ教授はバーチャルカンファレンスにおけるインタビューで「CRISPRはすでにいくつかの分野で確実な成果を上げている」として明るい見通しを述べた。

「このテクノロジーが独特な存在である理由の1つは極めて柔軟性が高く、遺伝子編集において多様な目的のために利用できる万能ツールだという点だ。またウイルスを構成する要素を、的確に検知をするためにも利用できる。CRISPRはワクチンを作るために必須のものとなる」という。

これらの可能性は、CRISPRの本質による。このテクノロジーは、ウイルス中の特定の遺伝子配列ないし構造を極めて精密に探し出して操作することができる。特徴的な配列を発見し、切断することによってウイルスを不活性化できるのと同時に、ごく微量の検体からウイルスを発見するために用いることができる。

「これは、バクテリアがウイルスを探知する方法を利用するテクノロジーだ。我々はこのメカニズムをパンデミックの原因となるウイルスの検知に役立てることができる」という。

ダウドナ教授によれば、CRISPRの利点は3つある。第1は特定の遺伝子配列の検知だ。現在のウイルス検査の手法は、酵素とタンパク質の反応を利用している。しかしこの手法は間接的な証拠に過ぎず、特定のウイルスの存在を直接示すものではない。そのため信頼性とスピードは著しく制限される。ウイルスが細胞に侵入していても、特定の酵素と反応するようなタンパク質を生成し始めるまで検知できない。これに対してCRISPRはそのウイルスに特有な遺伝子配列そのものを検知するため、はるかに確実な発見ができる。「ウイルスの検知を、従来よりスピーディーかつ確実に行うことができる。ウイルスの存在を示す証拠が直接的であり、ウイルスの濃度との相関度も高いからだ」という。

第2にCRISPRタンパク質を利用したシークエンシングは、検索対象とするターゲットを容易に変更できる。「我々はCRISPRシステムのプログラムを簡単に書き換えることができる。新型コロナウイルスが突然変異しても、変異しない部分を検知の対象にすることができる。我々はすでにインフルエンザと新型コロナのウイルスを同時に検知する実験を進めている。これ自身もちろん非常に重要なテクノロジーだが、同時に将来現れるかもしれない別のウイルスに対しても簡単にピボットして検出ターゲットとすることができるはずだ。

 

上は非常に長いGIF画像。CRISPR CAS-9タンパク質がウイルスのDNAを探索し、特定の場所を発見して切断する様子を示している。(画像クレジット:UC Berkeley)

「今後もウイルス性パンデミックが、完全になくなることはないだろう。今回のパンデミックはいわば警告だと思う。次の新しいウイルスによる攻撃に対処する科学的な体制を整えておくことが重要だ」。

第3のメリットは、CRISPRベースの薬剤は製造にあたって用意すべき素材が、他のテクノロジーの場合よりもはるかに容易に入手できることだ。ワクチンにせよ、治療薬にせよ、多くの人々に迅速に供給するするためにはこの点が極めて重要になる。

CRISPRの実用化にあたって壁は、理論的なものではなく実際的なものだ。現在はまだ研究室における実験段階であり、人間の現実の疾病予防や治療に用いるためには、まだ長い審査過程が残っている。一部では人間に対する治験が始まっているし、新型コロナウイルス関連で審査がファーストトラックに載せられたものも多い。しかしコストの問題を別としても、まったく新しいテクノロジーであるだけに、実際に治療に利用できるようになるまでにはまだ時間がかかる見込みだ。

「これらの点が、バイオテクノロジーの進歩にあたって最も重要な課題になる。CRISPRを経済的な価格で、できるだけ多数の人々に提供できるようにすることが必要だ。将来、CRISPRが標準的な医療となって症例の少ない遺伝的疾病の治療ができるようになることを期待している。そのためには本格的な研究開発が必須となる」。

このテクノロジーを進歩させる最も有望な方向は、CRISPR Cas-Φ(ファイ)だ。基本的な仕組みは同様だが、Cas-Φの酵素は、はるかにコンパクトだ。もともとCas-Φはバクテリアなどの単細胞生物がウイルスやプラスミドから自己を防衛するためのメカニズムだからだという。「バクテリアが、独自のCRISPRを持ち歩いているとは誰も想像していなかった。しかし(我々が発見したところによれば)それは事実だ。興味深いのは、オリジナルのCRISPRよりはるかにサイズが小さいタンパク質である点だ。巨大タンパク質はターゲット細胞に導入することが難しい。CRISPR Cas-Φを利用して、コンパクトで効率が高い遺伝子編集ツールを作成できる可能性がある」。

ダウドナ教授のチームはCRISPRだけでなくCRISPR Cas-Φの共同発見者の1つであり、応用の可能性についてさらに詳しく説明してくれた。下にDisrupt 2020におけるインタビュー全体をエンベッドしておいたのでぜひご覧いただきたい。

カテゴリー:バイオテック

タグ:Disrupt 2020 CRISPR DNA COVID-19 新型コロナウイルス

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(翻訳:滑川海彦@Facebook