Web上でビジネスを展開する事業者のWebページを改善してコンバージョン率や売上向上に貢献する「グロースハッカー」を2900人ほどプラットフォーム上に抱えるKaizen Platformが、2015年につづいて2回目となる表彰式「Japan Growth Hacker Awards 2016」を2月23日に東京・渋谷で開催した。表彰式では、実際に大きくKPIが改善した3つの事例をビフォー・アフター形式でグロースハッカーたちが解説する場面があった。実際現場のグロースハッカーたちは、どんな画面をどう改善しているのだろうか。TechCrunch Japanの読者にもPC/モバイルともWebページを担当する人が多いだろうから共有したい。
作り手の思い込みを排除せよ
1つ目の事例は、クレジットカードのゴールドメンバーへの会員登録を促す以下のようなページ。何がマズいか分かるだろうか?
このページの改善に取り組んで、1回目の改善でコンバージョン率を24%、続く2度目の改善でオリジナルに比べて48%という改善オファーを提案したグロースハッカーの牧野健太郎氏(スプリットエンジン代表)は、主に以下が問題だと指摘した。
・メインビジュアルがAmazonギフト券プレゼントとなっているが、果たしてアメックスのゴールドカードの対象顧客がほしがるのものだろうか?
・申し込みボタンが3つ並んでいるが、どれが何のボタンか分からない
・ゴールドカードのページにしてはステータス感がない
という3つ。牧野氏がこの疑問を解消するために行った改善結果の「アフター」が次の2つ。
申し込みボタンを分かりやすくしたほか、黒とゴールで高級感を出す配色にしてある。さらに、Amazonギフト券の扱いを小さくしている。ゴールドカードを使う層は「たくさん買い物する人なので初年度だけのお得感より継続的なメリットを訴求するほうがいいと考えた」(牧野氏)ことから、永久不滅ポイントが溜まるというメッセージに変更するなどしているそうだ。
「年会費初年度無料は申し込みボタンのそばに置いた。迷っている顧客の背中を押せればと考えた」など改善の1つ1つに理由があるが、最も大切なこととして、「作り手側の思い込みを排除することが、ユーザーにとって分かりやすいサイトを作ることになる」と話した。
情報の取捨選択をユーザーにさせると離脱する
事例の2つ目は「@nifty転職」だ。改善前のページを画面に表示しつつ説明を始めたグロースハッカーの片岡彩子氏は「ビフォー」のUIについて手厳しい。「良かれと思って、いろんな情報が載っていますが、PCと違って見てる間に疲れてしまうんです」
ページを下まで見たときに条件変更できないなど使い勝手が悪い面もある。そこで必要最小限に絞って次々に転職情報を見比べられるようにした「アフター」の画面が以下。
かなり大胆に情報を削ったことが分かる。一覧には案件ごとの最小限の情報だけを載せて、アクションボタンを1つに絞った。これによって詳細ページへの遷移率が15%向上したのという。
「話しを聞いてもらえるものだと思って情報を載せてしまいがち。取捨選択をユーザーにさせてしまうほど情報を載せると離脱に繋がります」
ユーザー視点に立てるのは初見のときだけ
事例の3つ目は派遣スタッフサービスの「オー人事」。スタッフ登録ページは「振り分けページ」とも呼ばれているそうで、派遣スタッフの登録には、説明会に行く方法とオンライン登録の2つの方法があるという。以下がその「振り分け画面」の「ビフォー」だ。
グロースハッカーの北古賀紀行氏の評価は厳しい。というより、初見の違和感をストレートに口する。まず、似たボタンが3つあって良く分からない。その上、初めて登録に来たユーザーにしてみれば2通りの方法があるという業界慣行すら分からないのだから、もっと簡単に分かるようにしないとダメだという。北古賀氏が改善した結果が以下だ。
「スマホの場合はファーストビューはすごく大事。そこでボタンが見えるのは大事です。一方で、こんなメリットがありますよと、どんどん情報を入れたくなりますが、間違ってもここをクリックして『詳細はこちら』なんてやっちゃダメですよ」という。ボタンを分かりやすくして無駄を省いたことで登録率は12%アップしたそうだ。
「ユーザーの視点に立つということを良く言いますが、実際はなかなか立てません。唯一立てる瞬間はファーストインプレッション。初見のときだけです。だから私は8割方は初見で『あれっ』と思った点について改善のオファーを作っています」(北古賀氏)
実はセオリーで改善できるのは最初だけ
3つの事例を紹介したグロースハッカーは、それぞれデザイン事務所やウェブ制作会社を運営している人々で、今回表彰を受けたグロースハックのプロだ。そのプロたちに少し立ち話をして話を聞いたのだけど、事例紹介で指摘したような分かりやすい改善ができるのは最初だけ。基本的には個別事例について仮説を立てて、結果を見ながら地道に改善を繰り返していくというのを日々行っているそうだ。高額商品か低額商品かでユーザーの行動は違うし、ターゲット層の違いでも全然最適化は違う。実は仮説が正しいかどうかは、実際にA/Bテストしてみないとグロースハッカー自身にも分からないことが多いそうだ。一方で、今でも基本的なレベルで改善すべき点が多々あるWebサイトも多い、とは北古賀氏の指摘。特にPC向けに最適化はしていてもモバイルでは落第というサイトが多いという。
Kaizen Platformのクライアント企業には大企業も多い。Kaizen Platformの須藤憲司CEOによれば1度の改善による売上貢献として、2015年中には23例で1億円以上の改善があり、最大8.6億円というものがあったそうだ。