ノーコードで誰でもモバイルアプリをテストできる「Waldo」

Waldo(ウォルドー)を紹介しよう。素早く簡単に、開発中のモバイル用アプリのテストが可能なソフトウェア製品だ。ニューヨークを拠点とするこのスタートアップのアプリを使えば、いつも使っているブラウザー上で、普段どおりに開発中のアプリを操作できる。新しいビルドをコンパイルするごとにWaldoは、前回複数のソフトウェアやハードウェアで記録したものと同じテストを実行し、問題なく動作するかどうかを教えてくれる。

アプリ開発者なら、今は次の2つのいずれかの問題に悩まされているはずだ。いくつものスマートフォンをそろえて、それぞれで新しいビルドを実行して検証するのは大変な時間がかかる。アプリの中核的機能を実証するためのテスト用スクリプトを記述するという方法もあるが、そのための新たな苦労が発生し、頭痛の種が増える。

「素晴らしいユーザーエクスペリエンスを生み出しても、そのアプリをテストする方法が時代遅れというのは困ったことです」とCEOのAmine Bellakrid(アミン・ベラクリド)氏は話す。

Waldoは、モバイルアプリ開発の参入のハードルを下げ、小さな開発チームでも、機能やユーザーインターフェイスが自動的にテストできる恩恵が受けられるようにと考えた。これは、技術的なスキルを必要としない「ノーコード」スタートアップという大きなトレンドに沿うものだ。

同社は、Josh Kopelman(ジョシュ・コペルマン)氏が創設したFirst Round Capital主導による投資ラウンドで650万ドル(約7億円)を調達した。このラウンドには以前からの支援者であるMatrix Partnersと、複数のビジネスエンジェルも参加している。

Waldoのテスト方法はきわめてわかりやすい。開発中のアプリ(.app、.ipa、.apk)を直接実行できるため、プラットフォームに合わせたバージョンをわざわざ作る必要がない。

アプリをWaldoにアップロードすると、ブラウザーのウィンドウにアプリの操作画面が表示される。Waldoは、すべての画面とすべての操作を記録する。例えば、サインアップの手順や、コンテンツをアップロードする機能などだ。

画像クレジット:Waldo

Waldoは、テストの記録を将来のバージョンのために保管しておく。それにより、そのモバイルアプリの新しいビルドができるごとに前回行ったものと同じテストを、画面サイズ、OSのバージョン、言語が異なるいくつものデバイスで実行できるわけだ。

問題が見つかると、その旨が通知される。ユーザーはテストのリプレイを見ることができる。はっきりと原因がわかるため、問題のあるステップを簡単に特定できる。

Waldoは、ひとたびセットアップしたならあとはバックグラウンドで実行させておける。Fastlane、Bitrise、CircleCIといった標準的な継続的インテグレーション・ツール(CI)に統合できるため、問題発生の通知をSlackで受け取ったり、テストの状況をGitHubで直接見たりすることもできる。

「私たちの顧客には、毎週500回ものテストを同時に実行しているところや、1日に10回から15回のテストを何回も行っているところもあります」とベラクリド氏は言う。

Waldoは、本日お試し用の無料プランをローンチした。もっと多様なテストを実施したい場合は、有料サブスクリプションを利用することになる。すでにWaldoを使い始めている企業もある。AllTrails(オールトレイルズ)、Jumprope(ジャンプロープ)、KeepSafe(キープセーフ)、Elevate(エレベート)などだ。現在はiOSのみの対応だが、将来のAndroidの対応に向けた開発もすでに着手している。

画像クレジット:Waldo

画像クレジット:Obi Onyeador / Unsplash

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(翻訳:金井哲夫)

アップルはユニバーサル購入オプションをMacに広げ、App Storeを統合

Apple(アップル)は米国時間2月5日、macOS用アプリも含むクロスプラットフォームのアプリを、間もなく1つのユニバーサル購入のかたちで販売できるようにすると公式に発表し、アプリ開発者を驚かせた。消費者の側では、ユニバーサル購入オプションとは、ひとつのアプリを一度購入すれば、iPhone、iPad、Apple TV、Macなど、異なるデバイスでも使えるようになるというもの。開発者の側では、MacとiOSのアプリ、またはその他の組み合わせを同時に購入するよう顧客に促すことができる。さらに、顧客のアプリ内購入とサブスクリプションのプラットフォーム間での同期も容易になる。

同社によると、ユニバーサル購入は2020年3月から開始されるとのこと。この変更に備え、iOSとMacのApp Storeのカテゴリーを統一し、アプリをより探しやすくすると同社は話している。

アップルのApp Storeのカテゴリーは、滅多に更新されることがないため、それだけでも、ユニバーサルなアプリのバンドルを行わない業者も含め、開発者に衝撃を与える大転換となる。新しいカテゴリーにアプリを載せれば、アプリの数が多い既存のカテゴリーで競うよりも、トップアプリの上位にランキングされる可能性が高くなる。

iOSでは、開発者は2つの新しいカテゴリーにアプリを登録できる。「開発ツール」と「グラフィック&デザイン」だ。

Mac向けのApp Storeには、iOSにある「ブック」[フード/ドリンク」「雑誌/新聞」「ナビゲーション」「ショッピング」が新たに追加される。

さらに、MacのApp Storeにある「写真」と「ビデオ」のカテゴリーは、「写真/ビデオ」に統合されて、iOSのApp Storeとの同期性が高められる。また、MacのApp Storeでは、「子ども向け」は「ゲーム」のサブカテゴリーではなくなる。

アップルによれば、開発者は新しいアプリを、App Store Connectで1つのAppレコードを使って開発する方法と、既存のAppレコードにプラットフォームを追加して新しいユニバーサル購入オプションを利用する方法のいずれかが選べるという。この機能は、macOS Catalyst対応アプリではデフォルトで有効となるが、それ以外のアプリでも使用できる。

2月5日から、開発者は「Xcode 11.4 beta」アップデートリリースをダウンロードして開発作業を始められるが、このオプションが一般に利用可能になるのは3月にローンチされてからとなる。

誤解のないように言えば、一度の購入で複数のアプリを提供できるようになるのは、これが初めてではない。例えば、iPadやApple Watchのアプリも同時に付いてくるiPhoneアプリを買ったことがある人なら、すでにユニバーサル購入オプションを経験済みということだ。新しいのは、それと同じ機能をMac用アプリに初めて導入するという点だ。

もちろん、ユニバーサル購入はすべてのアプリに恩恵をもたらすわけではない。なので開発者は、ビジネス展開の方針に基づいて、その長所と短所を自分で見極めてバランスをとる必要がある。だがこのオプションは、これまでアップルが別々に提供していたアプリのエコシステムを統一し、今後のMac用アプリの開発に拍車をかけるという点で大きな前進となる。

ベータ版Xcodeは2月5日、macOSとiOSのベータ版とともに公開された。これらを組み合わせることで、Macでのスクリーンタイムの通信制限、Mac用のヘッドポインター技術、絵文字ステッカー、CarPlayの更新とiCloudのフォルダ共有といった新機能が利用可能になる。

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(翻訳:金井哲夫)

マンガへの危機感から「少年ジャンプ」が3期目アプリコンテストにかける思い

週刊少年ジャンプ編集部が新しいアプリ、Webサービスの企画を公募する「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」。ジャンプ50周年を記念して2017年に開催が始まった同コンテストは、今年で第3期目となる。なぜ、コミック誌の編集部がアプリ開発コンテストを主催するのか。その狙いや、これからのマンガ業界、マンガアプリへの思いについて、コンテストの担当者に話を聞いた。

新人賞で作家と出会うようにコンテストで優れたアイデアと出会う

今回取材したのは、集英社 週刊少年ジャンプ編集部の細野修平氏と籾山悠太氏。細野氏はジャンプのWeb・アプリ版として展開されている「少年ジャンプ+」編集長を務め、籾山氏も少年ジャンプ+を担当する。

写真左から:集英社 週刊少年ジャンプ編集部 細野修平氏、籾山悠太氏

アプリ開発コンテスト実施のきっかけについて、籾山氏は「ジャンプ+を運営し、デジタル事業に取り組む中で課題を感じており、外から新たに技術やアイデアを借りたいと考えたから」と話す。そこで「週刊少年ジャンプ」刊行50周年を期にコンテストを開催。「ジャンプ50年の歴史を振り返るとともに、新しいこともやっていくという意気込みを、コンテスト開催を通じて訴えたかった」と籾山氏は説明する。

細野氏は「ジャンプ+も当時のマンガ誌や既存のマンガアプリに対する危機感から立ち上がったアプリで、ジャンプとして何がアプリにできるのかを考え、実現しようとしてきた」という。2014年に創刊したジャンプ+のアプリは現在1000万ダウンロード、WAU(週間アクティブユーザー)が250万に達しており、リニューアルなどを行いながら「成長はしている」と細野氏。だが細野氏も籾山氏と同様、「もっとやれることがあるのではないかと感じている」という。

コンテストの第1期では、合計373件の企画応募があった。最優秀賞に輝いたのは、現実のマップ上でマンガを交換できる「マワシヨミジャンプ」。ミライアプリが企画したこのアプリは、ほかのユーザーが地図上に置いた電子版コミックスや「週刊少年ジャンプ」のバックナンバーを拾って読むことができ、置くことで再び誰かが拾うことができる。昔あった、電車の網棚に置き去りになっていたマンガ誌を拾い読みして、また次の誰かに置いていくといった体験を、スマートフォンと位置情報で再現したサービスだ。

マワシヨミジャンプは受賞後、開発が進められ、今年1月にローンチした。「ユーザーからもいい評価を得ている」(細野氏)という。籾山氏によれば「マワシヨミで読まれた作品が、電子書店での売上も上がっていて、読者ももちろん、作家にも喜ばれている」とのこと。細野氏は「新しいマンガと思わぬ出会いがある、という面でよかった。どのストアにアクセスしても同じ、という横並びのアプリが多い中で、マワシヨミジャンプは新しい発想だった」と述べている。

コンテスト第1期入賞作「マワシヨミジャンプ」

「1期目の時点で、思ったよりもよい企画が集まり、想定を超えるアイデアもあった」という細野氏。初回コンテストで手応えを感じた編集部では、昨年も続けて第2期を開催した。第2期では3企画が入賞し、年内リリースに向けて現在開発が進められているという。

細野氏は「編集部にとっては、マンガ新人賞で才能のある新人作家と出会うように、コンテストで優れた開発会社や新しいアイデアとの出会いがあった」と述べている。コンテストはプロダクトや仕様ではなく、企画の段階で募集を行っているが、2次選考以降ではプレゼンテーションがあり、「そこでのコミュニケーションが面白い」と籾山氏も付け加える。「個性、人柄も含めて、コンテストを開催しなければ出会えなかった人たちと出会えた。マンガやジャンプについて、いろいろな意見交換をすることもできた」(籾山氏)

マンガ、アプリに広がる袋小路感を払拭するアイデア求む

ジャンプ編集部では、ジャンプ+のほかにもさまざまなアプリを提供している。『ONE PIECE』や『NARUTO-ナルト-』『銀魂』など人気作の単独公式アプリやジャンプのキャラクターで遊べる「きせかえジャンプ」や「ネコの大喜利寿司」といったファンアプリ、マンガ制作のための作画ツール「ジャンプPAINT by MediBang」や投稿プラットフォーム「ジャンプルーキー!」といった描き手のためのアプリ、海外向けに最新作を即翻訳して月曜に公開する「MANGA Plus by SHUEISHA」など、多様なアプローチでアプリを展開してきた。

「少年ジャンプ+」Webサイト。iOS/Androidアプリも提供されている

籾山氏はしかし「大志を持ってジャンプ+を立ち上げ、5年間、マンガが盛り上がるように運営してきたつもりだけれども、道半ば」と語り、コンテストにかける期待について次のように述べる。

「子どもの頃、月曜にみんながジャンプを読んで話題にしていたような存在感が今あるだろうか。作品でもアプリでも、日本中全員が読んでいるようなものはない。でもみんなスマホは持っている。だからチャンスも大きい。読者や作家のためにも、いろんな人の力を借りたい」(籾山氏)

籾山氏は「インターネットの普及で、読者がマンガに使う時間が減り、新連載の単行本も部数が減っている。YouTubeとマンガとの間でユーザーの取り合いが起きていて、『マンガは読まない』という人も増えている」とマンガ業界全体への危機感を表す。

「多様性が求められる時代だということは分かっている。ただ、ジャンプとして、みんなが国民的作品を楽しみにしていた世界観も大切にしたい。コンテストを開催することで、時代にあらがって、むしろ昔より大きなムーブメントにしたい。(スマホとアプリがあることで)以前より可能性はあると思っている」(籾山氏)

また、籾山氏は「ジャンプの本質は新作が生まれることにある」と述べ、「旧作を読み直すのがマンガアプリのよくある使われ方だったが、新作が生まれるアイデアをコンテストでは求めている。新作がお金になる、作家が新作をかけて稼げる、新作が世界に広まる、といったアイデアを形にすることで、作家や読者をエンパワーしたい」とも話している。

細野氏も「マンガアプリの可能性が袋小路に入りそうな予感」を抱えているという。「マンガがデジタルに変わる、というシフトによる変化がこれ以上膨らまない感じに、漠然と危機感を覚える。新しい出会いによって、全く違う可能性をつかみたい」(細野氏)

さらに細野氏は「ジャンプだけでなくマンガ、アプリ全体に広がる袋小路感を払拭したい。わくわく感やエンタメとしての見せ方、読み方、課金方法など、必ず違うアイデアがあるはず。『アプリで収益が上がればいいのでは』という考え方もあるだろうが、それではつまらない。マンガ界を変えるようなアプリがほしい」と語る。

「このままではマンガが、元気なファンがいるサブカルになりそうでこわい。SNSを通じてバズるマンガもあるが、昔、誰もがその作品なら知っている、というような幅広い人気ではない。マンガアプリ全体のダウンロード数は主要アプリの合計だけでも1億ぐらいある。MAUも大きく、ジャンプ黄金期よりもマンガは読まれているのかもしれない。でも『みんなが』『お金を払って』マンガを読み、『新しいマンガの表現が生まれ続ける』状況になければ、マンガはマイナーになっていくのではないか」(細野氏)

現在開催中のアプリ開発コンテスト第3期では、7月31日まで企画を募集中だ。今年のコンテストでは「ジャンプの枠をぶち破り、マンガのミライを切り開く」というキャッチフレーズを掲げ、ジャンプが抱える作品群などのIP(知的財産)の枠に縛られず、マワシヨミジャンプに匹敵するような斬新なアイデアを求めているという。

「ジャンプは昔から新しいことをやってきた。デジタル漫画賞なんかは早すぎたぐらい。アプリもその新しいことのひとつとしてのチャレンジ」という細野氏。「読み方、読ませ方や、リアルの本棚ではすぐに読みたい本にアクセスできるのに電子書籍だと電子本棚から探せない、といった解決できていない課題はまだまだある。マンガにもっとフォーカスして、特有の課題を解決したい」と話している。

籾山氏からも「ジャンプには人気作を生み出し続けるシステムが完成していたが、システム自体が変化している」と課題感が述べられた。「アプリ、テクノロジーがその変化に関連している。マンガ界にとってアプリ、テクノロジーが重要になりつつある」(籾山氏)

その一例として、読者アンケートの仕組みが挙げられた。ジャンプ編集部では、2000年ごろには高度なアンケートシステムが確立していたが、2000年代後半からスマートフォンにも「面が増えた」ことで変化が起きているという。

「アンケートのほかにも『ジャンプ連載を目指す』という作家たちのための漫画賞や原稿持ち込みの仕組み、マンガの表現方法や、雑誌の発行頻度、紙質、ページ数など、さまざまな面で時代ごとに最善の施策が探られてきた。それが今起きている変化によって、自由になっている。昔の人もいろいろと試行錯誤してやってきたことを、新しい形でチャレンジしていきたい」(籾山氏)

籾山氏は「完成したアプリとしての企画でなく、1つの機能でも、プロフェッショナルなアイデアなら大歓迎」という。

「先ほど挙げた読者アンケートの画期的なシステムとか、月曜の話題になるようなコミュニケーションのあり方とか、アイデアがたくさんあればあるほどいい。読まれ方や広告・課金の方法にしても、最近主流になっている『チケット制』(一定期間待てば無料で1話ずつ読めるが、すぐ読むためには課金が必要なマンガアプリの仕組み)なども、韓国発のシステムが急激に広まったもの。同じように僕らがまだ知らない展開の仕方があるなら、見てみたい」(籾山氏)

細野氏も「アプリそのものではなく、マンガを取り巻くエコシステムの企画でもいい」と話している。細野氏が一例として挙げたのは、直接コンテストとは関係がないが、アプリ向けのマーケティングツールを提供するRepro(リプロ)と少年ジャンプ+が共同で実施した実証実験だ。作品の閲覧数等を分析すると、「3話分の閲覧数があれば、そのマンガが読まれ続けるかどうか分かる」という結果が出たそうだ。この結果は、これまで編集者の間で語られていた経験知とも一致するものだったという。

「マンガ業界以外からの新たなアイデアを待っている。また、アプリ制作者でなく、自由な表現を求める漫画家からのマンガの見せ方・読み方のアイデアもぜひ寄せてもらいたい」(細野氏)

「賞金100万円とは別に、開発資金を最大5000万円まで用意している。創業したばかりのスタートアップであっても、アイデア、技術、熱意があれば、それを実現できるチャンス。ぜひ応募してほしい」(籾山氏)

誰でも簡単に音声アプリが作れるVoiceflowが約4億円を調達

音声アプリの市場がオープンになった。AmazonのAlexaだけでも、今年の初めの時点で8万種類のスキルが登場している。それでも、米国内のスマートスピーカーの普及率がクリティカルマスに達した今、成長が鈍化する兆候はほとんど見られない。この流れに乗って、AlexaとGoogleアシスタント用音声アプリの開発を楽にするスタートアップVoiceflowは300万ドル(約3億3550万円)のシードラウンド投資を獲得した。

このラウンドは、True Venturesが主導し、Product Huntの創設者Ryan Hoover氏、Eventbriteの創設者Kevin Hartz氏、InVisionの創設者Clark Valberg氏などが参加している。同社は、プレシードですでに50万ドル(約3355万円)を調達している。

音声アプリ開発のためのこの協働プラットフォームのアイデアは、音声アプリを開発していた体験から直接得られたものだと、VoiceflowのCEOで共同創設者のBraden Ream氏は説明している。

Ream氏の他、Tyler Han氏、Michael Hood氏、Andrew Lawrence氏からなるこのチームは、まずAlexa用に、子ども向けのインタラクティブなお話アプリ『Storyflow』を開発していた。

ところが、この自分で冒険の筋書きを選ぶゲームアプリのための話のライブラリーを構築しようとしたところ、ユーザーベースに対応できる十分な速度でプロセスを拡大できないことが判明した。つまり、すべての枝道を含むストーリーボードを作るのに時間がかかりすぎるのだ。

「ある時点で、ドラッグ・アンド・ドロップで作るというアイデアが浮かびました」とReam氏は話す。「フローチャートとスクリプトと実際のコードが書けたら有り難い。さらにそのすべてをワンステップで行えたらと、私は考えました。そうして、今ではVoiceflowとして知られているものの初期の形が、試行錯誤によって作られていったのです。それは部内用のツールでした」とのこと。「なにせ私たちはナードなもので、そのプラットフォームをもっといいものにしたいと、論理演算や変数を追加し、モジュラー化していきました」

Storyflowのもともとの計画は、誰でも物語が簡単に作れるようになる「声のYouTube」を作ることだった。

しかし、彼らが開発したものをStoryflowを愛するユーザーたちが知ると、それを使って、インタラクティブストーリーだけでなく、その他の音声アプリも自分で作りたいという要望が彼らから湧き上がった。

「そのとき、私たちは閃きました」とReam氏は振り返る。「これは音声アプリ開発の中心的なプラットフォームになれる。子ども向けのインタラクティブ・ストーリーだけのものではないと。方向転換はじつに簡単でした」と彼は言う。「私たちがやったのは、名前をStoryflowからVoiceflowに変えるだけでした」

このプラットフォームが正式に公開されたのは12月だが、すでに7500件あまりの利用者が、このツールで開発した音声アプリを250本ほど発表している。

Voiceflowは、コーディングの知識がない人でも使えるよう、技術的なものを感じさせないデザインになっている。たとえば、基本のブロックのタイプは「speak」(話す)と「choice」(選ぶ)という2つだけだ。画面上でブロックをドラッグ&ドロップでつなぎ合わせれば、アプリの流れが出来上がる。技術に詳しいユーザーなら、高度な開発画面に切り替えれば論理演算や変数を使うこともできる。それでも、完全に視覚化されている。

企業ユーザー向けに、Voiceflowの中にAPIブロックも用意されているため、その企業の独自のAPIを組み込んだ音声アプリの開発も可能だ。

さらに、この製品の面白いところはもうひとつある。協働機能だ。Voiceflowには無料の個人向けモデルと、チームによる音声アプリの開発に重点を置いた商用モデルがある。月額29ドルで利用でき、たとえば言語学者や音声ユーザーインターフェイスのデザイナーと開発者など、多くのスタッフを抱えて音声を使った仕事をしている職場に、みんながひとつのボードで作業でき、プロジェクトが共有でき、アセットのやりとりが簡単に行える環境が提供される。

Voiceflowは、今回のシード投資を使って技術者を増やし、プラットフォームの開発を続ける予定だ。より優れた、より人間的な音声アプリを、このプラットフォームで利用者に開発してもらうことが、彼らの長期的な目標だ。

「当面の問題は、Googleから資料や最良の利用方法が提示されていて、Alexaの側にも同様に用意されているのに、明確な業界標準がないことです。しかも、手に取れる具体的な実例がひとつもありません。または、それを開発に応用する簡単な手段がないのです」とReam氏は説明する。「もし私たちが、新たに1万人の音声ユーザーインターフェイスのデザイナーを生み出すことができれば、彼らをトレーニングしたり、簡単にアクセスできて、みんなで協働できるプラットフォームを提供することができます。会話の質が飛躍的に向上するはずです」。

その観点に立って、Voiceflowでは、Voiceflow Universityというプログラムを立ち上げた。現在はそこでチュートリアル動画を公開しているが、将来は標準化したトレーニングコースを提供する予定だ。

動画の他にVoiceflowには、Facebookを通じたユーザーコミュニティのネットワークがある。そこでは、2500名以上の開発者、言語学者、教育者、デザイナー、起業家などが、音声アプリのデザインや開発方法について活発に論議を交わしている。

こうしたVoiceflowとユーザーベースとの相互関係は、True VenturesのTony Conradに対して重要なセールスポイントとなった。

「ミーティング(ピッチ)に出席した後、私は少しばかり探ってみました。そして大変に感銘を受けたのは、開発者コミュニティの関わりの深さでした。他では見られないことです。このプラットフォームの最大にして唯一の差別化要素は、Bradenのチームと、コミュニティとのエンゲージメントの強さです」とConradは言う。「初期のWordPressを思い起こしました」。

Voiceflowは、最近までもうひとつの視覚化デザインツールInvocableと連携していたが、Voiceflowのプラットフォームへのユーザーの統合を助ける目的で、Invocableはサービスをシャットダウンした。

ここには教訓が含まれているようだ。Invocabeは、ユーザーに別れを告げたブログ記事で、人々はスマートスピーカーを、いつまでも音楽やニュースやリマインダーや単純なコマンドを中心に使い続けていると指摘している。また、自然言語処理と自然言語理解は、高品質な音声アプリを支えるまでには進歩していないとも書いている。その日はいずれやって来るに違いない。だがそれまでの間、一般消費者に広く受容される時期に先んじて、音声アプリ開発市場を支える最適なプラットフォームで勝負に出ようとすれば、そのタイミングを見極める必要がある。

トロントに拠点を置くVoiceflowは、現在12人のチームで運営されている。彼らは拡大を目指している。

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(翻訳:金井哲夫)

Android Instant Appはアプリ開発者の「フレネミー」

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編集部注: 本稿を執筆したのはLiftoff CEOのMark Ellisだ。

 

iPhoneの誕生以来、AppleはApp Storeというマーケットプレイスを通して、人々とモバイルデバイスの関わり方をデザインし、革新し、そしてある程度はコントロールしてきたとも言えるだろう。App Storeがスタートした直後に掲載されていたアプリの数は552個だ。それが今となっては、iOSアプリは世界中で200万、AndroidのGoogle Playストアには220万ものアプリが掲載されている。言うまでもなく、自分が開発したアプリを420万ものアプリの「海」の中から見つけてもらうのは非常に困難なことだ。さらに、人々が1ヶ月のあいだに使用するアプリの数は限られており、彼らはほとんどの時間をそれよりもさらに少ない数のアプリの中で過ごす。アプリの開発者の仕事はさらにやりづらくなったことだろう。

アプリはモバイルにとって欠かせないものになった。ある問題に対して「いいアプリがあるよ!」という言葉は、ただのスローガンではない。ライフスタイルなのだ。簡単にホテルを予約したいって?アプリをダウンロードすればいいじゃないか。

しかし、ダウンロード抜きでアプリを使えるAndroid Instant Appが誕生したことによって、近い将来このライフスタイルが変化するかもしれない。GoogleのInstant Appは、Androidアプリの開発者がこれまで苦労して作り上げてきたマネタイズの方法を破壊するために生まれてきたもののように思える。エンゲージメントの定義をぼやけさせ、大きなマーケットプレイスが持つ経済システムを少しずつ破壊していく。つまり、Instant Appはアプリのパブリッシャーのフレネミーとなるのだ。それについて考察していこう。

Googleが欲しいものがアプリにはある

GoogleはInstant Appのことを開発者の「味方」だと呼んでいる。ユーザーがアプリを利用するまでの時間を短縮できるというのがその理由だ。しかし、Instant AppはユーザーをモバイルWebに引き戻すための手段として開発された可能性が高い。検索機能と広告界のリーダーであるGoogleは、Webを通して名を上げた(そしてお金を稼いだ)企業だ。だからこそ彼らは、デバイスがデスクトップであろうと、モバイルであろうと、ユーザーにこれからもWebを使い続けてほしいと思っているのだ。

現在、検索を通じたアプリのダウンロード数は、全体のダウンロード数の27%でしかない。アプリをどこで見つけたのかという質問に対して、もっとも多い答えは友人や家族からの紹介で、2番目がアプリストア、そして3番目が検索エンジンを通じて見つけたという答えだ。さらに、検索でアプリを見つけたとしても、アプリをダウンロードするときにはユーザーは検索エンジン(ほとんどがGoogle)を離れ、ダウンロードされたそのアプリに完全に集中することになる。ほんの数年前まで、Googleはアプリ内にある情報をインデックスすることができなかった。そのため、アプリ内のコンテンツが検索結果に表示されず、Googleはアプリからマネタイズすることが出来なかったのだ。

Instant Appがアプリの機能を抽出することで、スマートフォンの容量を節約しながらアプリを利用するまでの時間を短縮することができるだけでなく、ユーザはGoogleのモバイルWebエコシステムから離れる必要がなくなる。これによってGoogleはより多くの情報を集めることができ、彼らのサービスの利用を促進して広告料金を稼ぐことができるようになる。この点において、Android Instant Appはアプリのパブリッシャーがアプリ内広告によってマネタイズする機会を減らしていると言える。なぜなら、ユーザーはもはやアプリをインストールする必要はなく、定期的にアプリを利用する必要もないからだ。

問題の裏に隠された解決策

モバイルアプリをマネタイズする方法としてよく採用されるのが、アプリの販売(アプリ自体を有料にして販売する)、アプリ内購入(追加的なコンテンツや、広告の削除に課金をする)、そしてアプリ内広告(アプリ内でビデオ広告やバナー広告をポップアップ表示する)の3つだ。Android Instant Appが普及することになれば、この3つのマネタイズの方法すべてが機能しなくなる可能性がある。Googleのモバイルブラウザを使えば、素早く、かつ広告なしでアプリを利用できるのにもかかわらず、わざわざアプリをインストールして利用するユーザーなどいるだろうか?

しかし、ディベロッパーが直面している問題はこれだけではない。アプリのリテンション率自体も低下してきているのだ。全体の25%のユーザーは、あるアプリをダウンロードした後90日の間にそのアプリを1度しか利用していないことが分かっている。また、ユーザーが一ヶ月の間に一度もアプリをダウンロードしていないという結果を受けて、モバイルアプリのブームは終わったと主張する者もいる。

新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。

Instant Appを利用して友達にアプリを紹介するのはとても簡単だ。もはや、アプリストアを起動して自分のスマートフォンのストレージを犠牲にしてまでそのアプリをインストールすべきかどうか判断する必要はない。必要なのはInstant Appを起動して、そのアプリのコアとなる機能やコンテンツにアクセスすることだけだ。

例えば、Buzzfeedに掲載された料理のレシピを友人にシェアしたければ、その友人にリンクを送ればいい。リンクをクリックすればInstant Appが起動して、シエアされたレシピを簡単に、かつ素早く見ることができる。また、パブリッシャーがアプリをモジュール化して複数のInstant Appを開発すれば、既存の顧客ベースを拡大することもできるだろう。マーケットプレイスにアプリが溢れかえっているという状況を考えれば、自分のアプリをできるだけ見つかり易いようにできるInstant Appの存在は歓迎すべきものだろう。

残念ながら、Android Instant Appの誕生によってユーザーがアプリをダウンロードする回数は減っていくだろう。そして、パブリッシャーはエンゲージメントを計測するための新しい方法を考えださなければならない。Instant Appが普及すれば、ユーザーがネイティブアプリを利用した時間によってエンゲージメントを計測することはできなくなる。つまり、ゴールを設定してそれを計測する必要があるのだ。

例えば、ホテルのInstant Appを通した部屋の予約や、スターバックスのInstant Appを通したコーヒーの注文は増えるだろう。Instant Appを利用してホテルの予約ができるのに、1年に数回しか利用しないホテル予約アプリをわざわざダウンロードする人などいないからだ。この種のサービスを提供するアプリでは、Instant Appの登場によって収益が伸びる可能性がある。

Instant Appの登場によってアプリのダウンロード回数は減る一方で、ユーザーがアプリの価値や利便性を理解するにつれてエンゲージメント率やリテンション率は上昇するかもしれない。そして、ユーザーの利用回数が増えれば増えるほど、アプリ内購入の回数やアプリの利用時間も増え、広告のインプレッション回数も増えていくのだ。

今後はどうなるか?

現在のところ、Android Instant Appを利用できるのはAndroid 7.0 Noughtを搭載したデバイスのみに限られており、DisneyやMedium、Hotel Tonightなどの企業が利用を検討している最中だ。Instant Appで利用できる機能は限られている一方で、そのロードにかかる時間はモバイルWebのハイパーリンクと同じとは言わないまでも、同等の速度を実現している。今後もこのスピードが維持され、Instant Appが普及するにつれて、これが今後のアプリ開発の中心要素となり、アプリを提供する方法やアプリの探し方が変化していくかもしれない。Androidに追いつくために、AppleがiOS向けにInsta Appと似たものを発表する可能性もあるだろう。

しかし、新しい技術にはセキュリティに関する懸念が常につきまとう。Instant Appではポップアップ表示によって許可を得ることで、センシティブな情報を集めることができるようになっている。しかし、この機能を悪用すれば、悪意のあるデベロッパーがユーザーの合意を得ることなしに任意のアプリを動作させるということができるかもしれない。さらに、Instant AppはWebアプリ特有の非効率性を引き継ぐことになるのではないかと心配する人もいるだろう。つまり、Instant Appではネイティブコードの代わりにJavaScriptやそれに似たものを動作させる必要があるのだろうかという懸念や、クロスプラットフォーム互換性を持たせなければならないのか、そしてネイティブ・アプリに比べてさえないAPIしかもたないWebアプリのように、Instant Appの機能が限定されるのではないかという懸念だ。Instant Appが普及するかどうかを判断するには時期尚早だが、確かなことが1つある。ユーザーはコンテンツに早く到達することを望み、Googleはそれを実現しようとしているということだ。

「フレネミー」とは、本当は敵やライバルであるにもかかわらず、潜在的な利益のために友人のふりをしている人のことを指す。Android Instant Appは、アプリのダウンロード回数やネイティブ・アプリが使用される時間を減らす一方で、長期的な目線で見れば、アプリのコンテンツとユーザーの間にある壁を取っ払い、より幅広い人々がアプリを利用する可能性を高める。そして最終的には、それによってアプリからの収益が上昇する可能性もあるのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter