ウェブサイトのビジターを見込み客にするQualifiedは営業とマーケティングの革命を目指す

Salesforceの役員だったKraig Swensrud(クレイグ・スウェンスラッド)氏とSean Whiteley(ショーン・ホワイトリー)氏が創業したQualifiedが、シリーズAで1200万ドル(約12億7000万円)を調達した。

CEOのスウェンスラッド氏によると、同社の目的は彼がSalesforceのCMOだったときに直面した問題を解決することだという。当時彼は、自分が「盲目」であることに不満を感じていた。なぜなら彼は、Salesforceのウェブサイトに毎日誰が訪れているのか、何も知らなかったからだ。

「今、自分のウェブサイトに10人とか100人、あるいは10万人の人がいるとしても、彼らが一体誰なのかわからない。彼らが何に関心があるのかもわからない。今、自社のウェブサイト上に彼らがいることすら営業担当者は知らない」とスウェンスラッド氏はいう。

B2Bの営業では、相手に関するこのような無知が致命傷となる。見込み客がウェブサイトを去って5分経つと、コンタクトできる確率は1/10に下がる。しかし現在、多くのウェブサイトが採用しているソリューションは、すべてのビジターを画一的に扱うチャットボットだけだ。

一方Qualifiedは、ウェブサイトのリアルタイムのビジター情報に、Salesforceの顧客データベースを結びつける。それにより高い価値を持つアカウントのビジターがわかり、まだウェブサイトに滞在している間に、彼らを最適な営業担当者に任せられる。そして本格的なセールスミーティングを開始でき、それに電話や画面共有を含めることもできる。

画像クレジット:Qualified

もちろん、Qualifiedがアクセスできるデータの量はビジターごとに異なる。ビジターの中には匿名の人もおり、どこで仕事をしているのかその都市名しかわからないこともある。しかしマーケティング用のメールのリンクをクリックして、どんな人かよくわかることもある。

今朝Qualifiedのウェブサイトをちょっと覗いたとき、そんな経験をした。まず、挨拶のメッセージが出る。「 ようこそTechCrunchさん! うちの資金調達の発表を記事にしていただいて、とてもうれしいです……」。いきなりこれなのでちょっと気味悪いが、よくある汎用的なセールスメッセージしかない企業が多いこともありその他のマーケティングテクノロジーのウェブサイトを訪れたときよりも印象的だ。

スウェンスラッド氏はQualifiedによって「売り方が変わる」と認めている。なぜならQualifiedでは営業担当者は、ウェブサイトのビジターにリアルタイムで応答しなければならないためだ。それがどうしてもできないときだけ、チャットボットを使って今後の連絡をスケジュールする。スウェンスラッド氏によると、それはどうしても必要な変化だという。

「後でメールするやり方だと、一部の人は営業に意地悪したり、退屈したり、競合他社の方へ行ったりする。しかし弊社のリアルタイムのやり方なら、企業が営業という仕事を考え直さざるをえなくなる」という。

そのやり方を効果を上げているようだ。Qualifiedの顧客の1つであるThoughtSpotは、ターゲットのアカウントとの会話を10倍に増やすことができた。Bitlyはエンタープライズ向けの営業パイプラインを6倍に拡大し、Gammaは新たに得たビジネスパイプラインで250万ドル(約2億6000万円)の商談を成立させた。

今回のシリーズAでQualifiedの総調達額は1700万ドル(約18億円)になる。ラウンドをリードしたのはNorwest Venture Partnersで、既存の投資家であるRedpoint VenturesとSalesforce Venturesが参加した。NorwestのScott Beechuk(スコット・ビーチチュク)氏が、Qualifiedの取締役会に加わる。

ビーチチュク氏は声明で「同社の会話型のモデルは新しい顧客と繋がるための、以前よりも良い方法だ。バイヤーはリアルタイムの関わりを好むし、セラーはすぐその場でのインスタントなつながりを好む。そしてマーケターは、需要の創出に投じた予算が最大の効果を上げたことを確信できる。Salesforceのオートメーションソフトウェアの数十億ドル(数千億円)規模の市場が、この新しいモデルを採用しようとしているが、Qualifiedならその需要に完全に対応できる」と述べている。

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画像クレジット:Qualified

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

オンラインからオフラインの橋渡しプラットフォーム「Sendoso」が44億円調達

電子メールはゴミだ。我々は常にその中に埋もれている。デジタルな書簡があふれる中で、人目を引くのは容易ではない。このインターネット時代の主要コミュニケーションチャンネルが大混乱している状態で、いかにしたら人々の注目を集められるのか?

ひとつには、受信ボックスを丸ごと忘れて物理的にやるという方法がある。そこに目を付けたのが、Sendoso(センドーソー)というスタートアップだ。Sendosoは米国時間2月4日、4000万ドル(約43億8000万円)の新たな資本投資を受けた。これは、Oak HC/FT Partners(HC/FTはヘルスケアとフィンテックの略)主導のシリーズB投資だ。同社はこれにより、重要な知らせであることを送り主が相手に気付かせる、彼らが「発送プラットフォーム」と呼ぶシステムの開発スピードを加速させる。

TechCrunchでは、2019年の初めに同社が1070万ドル(約11億7000万円)のシリーズA投資を獲得したときの話を掲載している。Sendosoはこれまで、非公開会社のまま5400万ドル(約59億円)を超える資金を調達した。

TechCrunchのインタビューに応えて、SendosoのCEO、Kris Rudeegraap(クリス・ルーディーグラープ)氏は、1500万ドル(約1億6400万円)に満たない投資を受けた後、「製品と市場が合致した」ために、次はひとつのラウンドで4000万ドルを調達できたと述べている。そのためシリーズBは「とても人気のラウンド」になったとルーディーグラープ氏。この投資ラウンドは「関心という点では定員超過でした」と彼は言い足した。

またこのスタートアップは、2019年の総収益が、2018年と比較して330%に成長したとのことだ。驚異的な成長ぶりだが、いったいSendosoとは何をする会社なのだろう? Sendosoは、現実世界に大きな足場を持つハイテク企業だ。だから、ちょっと説明が難しい。具体的には、同社のソフトウェアは、顧客の「デジタルとフィジカル(物理的)の発送戦略を合体」させて注目度を高めるのだと、ルーディーグラープ氏は説明していた。

シリーズAの時期にTechCrunchで詳しく伝えたが、CEOはセールス畑の人間だ。彼はそこでコミュニケーション戦略を発展させ、見込み客にグッズや手書きメモなどを送るようにした。その作戦は大成功だったのだが、時間のかかる作業だった。

Sendosoは、そのルーディーグラープ氏のセールス方式の製品版だ。同社はこのサービスを「Sending Platform」(発送プラットフォーム)と呼び、ウェブサイトには日持ちのしないものでも何でも送れると書かれている。今朝発表された広報資料によれば、Sendosoは市場での立ち位置を「顧客の市場進出計画にデジタルとフィジカルの発送戦略を合体させる」ことに置いている。

同社が構築するソフトウェアは、顧客とSendoso独自のサービス、サービスと顧客の顧客関係管理ツール、そしてその両方と倉庫を結びつけて、名前入りのアイテムをチームや見込み客に送る手伝いをする。

この会社が、やがてはいろいろな分野に枝を広げるであろうことは容易に想像がつく。あらゆる分野の企業との関係を深めており、出荷経験があり、倉庫もどんどん拡張しているからだ。今後は何を発送するようになるのだろう?

だが今は、企業が他の企業に贈り物や商品を、ときどき名前入りで送るという業務に専念しているようだ。セールスの世界は広い。セールスを促進させるための市場も巨大だ。Sendosoが2020年も3桁の成長を遂げるかどうか、注目しよう。

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

AIが営業トークを自動解析し“売れるトーク”との違いを提示、コグニティが1.9億円を調達

録音データを基に営業トークを解析し、個々に対して改善案を提示する「UpSighter」開発元のコグニティは1月15日、XTech Venturesとディップを引受先とする第三者割当増資により総額1.9億円を調達したことを明らかにした。

コグニティは代表取締役の河野理愛氏がソニーやディー・エヌ・エーを経て2013年に立ち上げたスタートアップ。2017年にグローバル・ブレインなどから約1.5億円を調達するなど過去にも複数回の資金調達を実施済みで、シリーズBとなる本ラウンドを含めると累計調達額は5億円となる。

同社が展開するUpSighterはテクノロジーを活用して、組織の営業力の底上げを手助けするサービスだ。

営業成績の良いメンバーのセールストークを録音・アップロードすることで“お手本となるトークのパターン”を検出。そのトークパターンを使って現場に合ったアルゴリズムを開発し、各メンバーの録音データと照らし合わせることで、お手本との差分や具体的な改善点を示した「自動フィードバックレポート」が一人ひとりに対して提供される仕組みだ。

解析結果の例

レポートでは営業トークの中で実際に「どのような情報が、どのくらいの割合で話されているか」を可視化。たとえば話の起点となる意見や提案、数値などの客観的根拠説明、事例の表現、具体的な説明など、それぞれの項目ごとにお手本や平均との違いをグラフにする。

その上で課題となる部分を掘り下げたり、良いトークへと変えるために必要な言い回しなどを提示。今後やるべきこととして具体的なフィードバックを提供してくれる点が特徴だ。

これまで営業スタッフの研修・教育においては“経験値”に頼るケースが多く、指導が属人化しがちであるとともにそれぞれの違いなどを明確に示すことが難しかった。河野氏によると「UpSighterを使うと数値でエビデンスを残しながら指導を受ける・指導されることが可能になる」ため口頭指導よりも納得感が高く、導入企業からは新人の営業成績の改善が早いといった評価や、成績の伸び悩むシニア従業員への指導が楽になったとの評価を受けているという。

企業の視点では営業部門の業績向上や底上げが見込めるほか、エース人材が教育に使う時間を削減することもできる。新人に向けた指導結果として、電話でのアポイントメント獲得率が64%から78%に上昇するなどの成果にも繋がっているそうだ。

特に「顧客のニーズを引き出すようなトークを必要とする顧客単価の高い金融や製薬、不動産業界の利用が多い」(河野氏)とのことで、これまでパーソルテンプスタッフやフォーバルなど上場企業を中心に120社以上に導入。UpSighterについてはOEM提供も行なっていて、すでにコンサルティングやソリューション企業など5社がOEMによる商品化に至っている。

また昨年12月には主に地銀などを対象とした金融業界向けサービスや、個人利用も可能なプレゼン解析サービスをローンチするなどUpSighterシリーズのラインナップを拡充。UpSighter自体は解析数などに応じた従量課金制で展開しているが、新サービスでは実験的に初期費用なしの月額制(SaaSモデル)での提供も始めた。

スティーブ・ジョブズや国内ビジコン優勝者のプレゼンと比較できる「UpSighter for プレゼン!」

少しだけコグニティの技術について補足しておくと、同社では「CogStructure(コグストラクチャー)」という独自開発した情報分類フレームワークを保有していて、これによってコミュニケーションを解析している。

CogStructureは人工知能研究分野における「Knowledge Representation(知識表現)」と呼ばれる領域に属し、人の思考パターンや構成を記述可能にして、推論しやすくする技術アプローチなのだそう。コグニティでは英国認知言語学者の50年前の論文をベースとして、日米両言語におけるインターネット上の様々な文書や動画の構成を記述・変換する実験から始め、独自のルールへと拡張進化させてきた。

創業から7年間かけてCogStructure変換されたデータは1万5000データ(トークや文書)以上。このデータがあるため各企業の初期検証に必要なデータ数が少なくすむほか、磨き上げたフレームワークによって固有名詞や言語差に影響されることなく構成要素を比較でき、業界やシーンが違うコミュニケーションも対象にできるという。

CogStructure変換を始めとするデータ解析のプロセスでは人の作業によるアノテーション(タグ付け)と機械学習を組み合わせて実施。アノテーションの工程では個人差を取り除くべく複雑な業務も単純な作業へ分割し、日本の工場生産方式を取り入れながら精度を担保してきた。またこの作業を国内外含む100名以上のメンバーが各地から完全リモートワークで行なっているのも面白い点だ。

今後コグニティでは大企業だけでなく中小企業や部署単位での利用など、顧客の視野をさらに広げるべくUpSighterシリーズの拡販・新サービスの開発に力を入れる計画。合わせて自動判別のためのR&Dや、IPOも視野に入れセキュリティ面を含めた会社整備を加速させる。

UpSighterは1on1 Meeting、採用面談、昇進試験など「人事領域」での利用も増えているようで、今後もこれまで蓄積したデータを軸に各事業領域のパートナー企業との協業も含め、マーケットニーズに合わせたサービスを展開していきたいという。

コグニティ代表取締役の河野理愛氏と投資家陣。前列中央が河野氏

元DeNAの起業家が立ち上げた“営業を科学する”Buffが資金調達

写真右からBuff代表取締役社長の中内崇人氏、サイバーエージェント・キャピタル インベストメント・マネージャーの北尾崇氏

「多くの企業において、営業の教育は直感に基づいて行われていると考えている。そこでBuffでは『データ計測と再現性を生み出す仕組み』をプログラムに落とし込むことで営業を科学し、組織を強化するサポートをしている」

そう話すのはBuff代表取締役CEOの中内崇人氏。2018年12月に同社を創業し、営業組織を強くするプログラム「Buff Sales」を運営している。

そのBuffは3月28日、サイバーエージェント・キャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。具体的な金額は非公開だが、数千万円規模の資金調達になるという。

同社では調達した資金を活用して人材採用やプロダクト開発を強化する計画。Buff Salesのサービス内容の拡充を進めるとともに、テクノロジーを活用した営業力育成ツールの開発を加速させる。

「データ計測・再現性を生み出す仕組み」を組織に定着

冒頭でも触れた通り、Buff Salesは営業組織を強化するためのプログラムだ。

現時点ではテクノロジーを絡めたものではなく、人手を介したコンサルティングに近い。具体的には、成果を出している営業マンの属人的なノウハウを他のメンバーが再現できるような形に落とし込んだり、それらを細かいKPIに分解し数字で計測する仕組みによって各メンバーの長所や課題を可視化する。

たとえば社内で成果を出している営業マンに、よく売れる理由を聞いてみると「トークがうまいから」「なぜか可愛がられるから」など曖昧な答えが返ってきて、そのままでは周囲のメンバーが再現できないケースも多い。

ただ、中内氏の話では彼ら彼女らを注意深く観察すると「度胸があるためいきなり決裁者にリーチできていたり、他の人の同席をお願いできている」「仲良くなるのがうまいので他の部署や他社の人材を紹介してもらえている」といったより細かい要因が見えてくるという。

「この例だけでも数値にすると、KPIに落とせるものが4つある。実際にKPIを基に計測してみると、売れている営業マンは異様に数値が高い。そこまで落とし込んだ上で再度『なぜ決裁者率が高いのか』を尋ねれば、毎回訪問前に特別な電話をしているなど、周囲のメンバーが真似できるレベルのナレッジが見つかる」(中内氏)

このように営業チームが目標を達成する上で“道しるべ”となるKPIの設定(BuffではプロセスKPIと呼んでいるそう)から、その指標に基づいて成果が出る組織を作るまでのプロセスを一気通貫でサポートしているのがBuff Salesの特徴だ。

「10人の営業担当者がいると、仮に売上自体は5番目だとしても、特定のKPIの達成率がものすごく高いようなメンバーもいる。KPIごとの達成率が見えるようになれば『各メンバーが何に優れているかがわかり、お互い学び合うことで高め合う』こともできる。そんな営業組織を作れるプログラムを目指している」(中内氏)

Buff Salesは2018年8月のスタート。現在はTechCrunchでも何度か紹介しているPOLなど3社の顧問を担っていて、営業マン1人あたりの売上が3ヶ月で3倍になったような事例も生まれているそう。まずは今後10社までこのプログラムを広げていく計画だという。

テクノロジーを用いた営業力育成サービスをローンチ予定

Buffの創業者である中内氏は神戸大学を卒業後、新卒でディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。同社では一貫してゲーム事業に携わってきた。

Buff Sales自体は、繋がりのあったキーエンス出身の営業マンに話を聞く中で「同社で成果をあげている営業マンに共通しているのは、一見個人技のように見えて実は組織を上手く生かしていること。営業組織の環境がすごく重要であると感じた」ことが着想のきっかけだ。

聞けば中内氏自身も、もともとDeNAでゲームのディレクターをしていた際に「あるイベントが発生すると、ユーザーはどのように動くのか」という1つ1つのユーザー体験を徹底的に数値ベースで記録に残し、上手くいった事例を再現できるように意識してきたそう。

そんな経験が組み合わさって「営業組織」と「データ計測と再現性を生み出す仕組み」を掛け合わせたBuff Salesのアイデアが生まれた。

もっとも、「スケーラブルな教育サービスを作りたい」と中内氏が話すように、Buff Salesは最初のとっかかりにすぎない。特許の関係もあり現時点で具体的な内容は明かせないとのことだが、これまで蓄積してきたナレッジとテクノロジーを活用した「営業力育成サービス」を開発している真っ只中だという。

同サービスは今後のBuffにとって柱となる事業のひとつであり、早ければ5月〜6月にもローンチ予定とのこと。一体どのようなサービスが誕生するのか、またローンチの際に詳しく紹介したい。

Emissaryはセールスネットワークの変革を狙う

セールスに必要なのは最高の製品ではない。スタートアップは、最高の製品、最高のビジョン、そして最も説得力のあるプレゼンテーションを持ちながら、結局営業チームが話していた相手が、間違った意思決定者だったり、相手に適切な種類の話題を振っていなかったことが後になって判明することがある。残念なことに、そうした重要な情報(キー人脈情報)はどこかの本やオンラインフォーラムには書かれておらす、通常は広範囲の人脈と噂を通して明らかになっていくのだ。

Emissaryを創業したDavid Hammerと彼のチームにとっては、それこそが解決すべき問題だった。「人脈作りに長けたものが勝つ世界が必ずしも良いとは思っていないのです」と彼は私に説明した。

Emissaryは、営業チームを、ターゲットとなる企業の営業プロセスをよく知り、ガイドできる人物(エミッサリーと呼ばれる)と結びつけるハイブリッドSaaS市場である(注:エミッサリーには使者の他に密偵という意味合いがある)。一般的には最高のエミッサリーとなるのは、対象となる企業を最近辞めたばかりの元幹部や従業員たちである。こうした人びとは意思決定プロセスや組織のポリシーを熟知しているからだ。「私たちの第一のミッションはとてもシンプルなものです:世の中の取引の全てに、エミッサリーがいるべきだ」とHammerは語る。

GLGのような専門家ネットワークは、何年も前から存在してきたが、こうした組織は伝統的に、対象企業の戦略思考を理解するために、喜んで大金を支払う投資家たちむけのものだった。Emissaryの目標は、より広い範囲の意思決定者と顧客を対象にした、より大衆化されたものである。そのプロダクトはインテリジェントに設計されており、販売プロセスの調子が悪くなる前に援助を求めるよう顧客たちに促す。Crunchbaseによれば、このスタートアップは現在までに1400万ドルを調達しており、最新のシリーズAラウンドはCanaanによって主導されている。

Emissaryは確かに創造的なスタートアップだが、私が最も興味深いと考えるのは、それが提起する、知識仲介、労働市場、倫理にわたる諸問題だ。

社会科学者たちは一般に、著名な学者マイケル・ポラニーの研究から生まれた、知識の2つの形態を区別する。最初の形態は明示的な知識である。書籍やTechCrunchで見つけることができるような知識だ。これらは事実と数字である ―― 資金調達ラウンドはこの金額だった、ある会社のCEOはこの人物であるといった知識である。他の形態は暗黙的な知識である。典型的な例は自転車に乗ることだ ―― それを学ぶには実際にやってみなければならない、そして乗り手が自転車から転落することを防いでくれる物理学の数字も、力学の教科書も存在しない。

組織図は明示的な知識かもしれないが、暗黙的な知識はすべての組織の中核をなすものだ。それは政治、人物、興味、そして文化である。こうしたトピックに関するハンドブックはないが、ある組織で十分に長い時間働いてきた人は、何かを成し遂げるために必要なプロセスを正確に知っている。

その知識は 重要かつ貴重であり、それゆえにマネタイズできる価値があるのだ。それこそがHammerが新しいスタートアップを設立する際に感じていた、元々のインスピレーションだった。「なぜGoogleが間違った決定を行うのだろう?」Hammerはそのとき自分自身に問いかけたのだ。ここには、世界で最も多くのデータを持ち、それを検索するツールを持つ会社がある。「どうして必要な情報を持っていないなどということがあるのだろうか?」。その答は、彼らは世界のすべての明示的な知識を持ってはいるが、必要とされる暗黙的な知識を何も持っていないということだ。

最終的にはその思索は、顧客とセールスパーソンとの間の情報の非対称性が明らかな、セールスという行為の考察へとつながった。「セールス関係者と話せば話すほど、彼らがその顧客の考え方を理解する必要があることが分かりました」とHammerは語る。セールスオートメーションツールは素晴らしいものだが、結局どんなメッセージを送るべきなのだろう、そしてそれを誰に対して?それこそが解決するのがもっと難しい問題だが、結局のところそれが契約書への署名につながる問題なのだ。Hammerが気が付いたことは、価値のある知識に、価格をつけて取引することのできる個人がいることだった。

そうしたマネタイズは、そうした種類のコンサルタントたちにとっての新しい労働市場を生み出す。大企業の従業員たちはいまや、退社したり、引退したあとに、その組織について知っていることを語ることで、収入を得られる可能性があるのだ。Hammerは「基本的に人びとは、自分が役に立つ方法を探しているのです」と語る。確かに報酬は重要だが、多くの人びとが単に関与する機会を探しているのだという。明らかにその命題は魅力的なようだ、なにしろプラットフォームには現在1万人以上のエミッサリーが登録されているのだ。

しかしこの市場を長期的により魅力的なものにできるかどうかは、転職の間に行う一時的な仕事から、より長期的でプロフェッショナルなものに変えていけるかどうかにかかっている。政府調達システムに関わる企業をサポートする人びとのネットワークと同様に、例えば「Oracleの購買はどのように機能しているのか」といった命題に特化することができるだろうか?

Hammerはこの点に関しては少々意義を唱えた「そうしたことに関わる多くのものが、壁の向こう側にあるのです」と指摘した。潜在的なコンサルタントが、セールス担当者よりも簡単に、会社外からその意思決定を学ぶなどということはできない。さらに、社内のプロセスに関する知識は、組織によって異なる速度ではあるものの、着実に劣化していく。いくつかの企業は急速な変化と変革を経験する一方で、他の企業の知識は10年以上続く可能性もある。

そうは言うものの、Hammerは企業が自社への売り込みを考えるセールスパーソンたちの支援に、エミッサリーを推薦し始める転換点がやってくると考えている。自社の複雑な調達プロセスを認識している企業の中には、最終的にはその調達プロセスを全ての側面から円滑に運んでくれる人物からのアドバイスを、セールパーソンが受けることを望むところも出てくるだろう。

明らかに、お金や知識をやりとりすることによって、重大な倫理的懸念が発生する。「倫理は私たちが行うことの中心になければなりません」とHammerは語る。「皆は大切な機密情報を共有しているわけではなく、組織の文化に関する知識を共有していのです」。Emissaryは、倫理的コンプライアンスを監視するための仕組みを導入している。「Emissariesは同時に競合他社と協力することはできません」と彼は言う。さらに、明らかにエミッサリーは会社を辞めていなければならないので、購入意志決定自身に介入することはできない。

人脈作りはすべてのセールス担当者の進むべきステップだった。それは時間のかかる作業であり、電話攻勢やコーヒー消費が売上を改善するのかに関するデータはほとんど存在していなかった。もし、Emissaryのビジョンを受け容れるならば、こうした作業はみな置き換えられていく可能性がある。知識を持つ人のガイドを受けることで、のらりくらりとしたセールスプロセスを、適切な話し合いポイントを適切なタイミングに行うことのできるスムーズなプロセスに変えることができるだろう。そうなれば結局最高の製品が勝てるかもしれない。

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(翻訳:sako)

画像クレジット:Prasit photo/Getty Images

Growbotsは機械学習でセールスを助ける――急成長して250万ドルを調達

Growbotsは機械学習を利用してリード情報を提供し企業のセールス部隊を助けるサービスだ。 このプロダクトはセールス・パーソンの作業を月に数日分節減できるという。今日(米国時間6/21)、GrwobotsはBuran VC、Lighter Capitalおよび何人かのエンジェル投資家から250万ドルの資金を 調達したことを発表した。これにより同社の資金調達総額は420万ドルとなった。

GrowbotsのCEO、共同ファウンダーのGreg Pietruszynskiはわれわれのインタビューに答えて「Growbotのサービスは企業のCRM〔顧客関係管理〕データを見て顧客情報を抽出し、セールス・ターゲットのリストを自動的に更新する。「GrowbotsのAIアルゴリズムはセールス・パーソン向けにカスタム連絡先リストを数分で作成する。また潜在顧客向けの各種キャンペーンを実施し、セールス・チームおよび個々のメンバーの活動を評価、管理する。セールス・メンバーはデータ処理作業をGrowbotsに任せて見込み顧客との対話に努力を集中できる」と述べた。

このサービスを提供するために同社では多数のソースから2億件に上る潜在顧客のデータを収集している。Growbotsの機械学習システムは毎日数百万のウェブサイトを巡回して企業や社員のデータを抽出する。Pietruszynskiによれば同社は見込み顧客のデータを購入することはしていないという。「われわれは情報源の選択にこの上なく注意を払っている。サードパーティーから既成の名簿を購入することはしていない。信頼性が低く、またデータが非常に古いからだ」と語った。

各社ごとに情報が整備された後もGrowbotsは引き続きアルゴリズムのアップデートを続ける。Growbotsを利用したセールス・キャンペーンの成果を分析し、そのデータをベースに次のキャンペーンを最適化する。Growbotsを1ヶ月利用すると、ポジティブな反応が平均40%増える。またCRMデータからキャンペーンの対象リストを作成するのに数日かかるのが普通だが、Growbotsを利用すればさらに質の高いリストを作るのにものの数分ですむという。

セールス・キャンペーンの自動化について、Growbotsはそれぞれの相手に合わせてカスタマイズしたセールスメールを自動的に作成するという(セールスパーソンはメールの文面を自分で作ることもできる)。Growbotsはセールスメールに対するフォローのメールも自動的に送信できるし、相手から反応があった場合、メッセージを出先に転送してくれる。

Growbotsは現在、前月比10%のペースで成長を続けている。Pietruszynskiによれば、プロダクトをリリースしてから16カ月で年間換算で400万ドルの売上を得たという。利用顧客は500社で大部分はアメリカ国内の企業だが、サービス自体は世界的に利用可能だという。現在の顧客にはBetterment、Relatable、Highfiveなどの企業が含まれる

Growbotsのオフィスはサンフランシスコとクリーブランドにあり、アメリカにおける社員は20人で、さらに26人の人員を募集中だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

人工知能が企業のセールス業務に利用される例が増えている

Asian woman over microchip circuits

2016年は人工知能(AI)が非常に注目された年だった。人工知能の開発は何十年も前からはじまっていたが、パワフルなコンピューターを安価で利用できるようになったことと、アクセスできるデータの量が飛躍的に伸びたことで、今年になってやっと人工知能の時代が訪れたようだ。

AIによるビジネスの効率化が最初に始まったのは企業のセールス業務だった。毎日のように繰り返される営業ワークフローをAIによって効率化させようという試みだ。考えてみれば、企業の収入を直接的に左右するこの分野でAIの応用がはじまったのは、当然の成り行きだったと言えるだろう。AIがビジネスに与える影響を調査する、Constellation ResearchアナリストのAlan Lepofskyは、ベンダーたちがこの動向に注目しているのは確かだと話す。

彼によれば、人間は情報オーバーロードに苦しめられているという。私たちがより多くのデータを集めるにつれて、そのデータがもつ意味を理解するために私たちはコンピューターの処理能力に頼らざるを得なくなる。「AIが情報をフィルタリングしたり、タスクを自動化することで、その負担を軽減してくれることが期待されます」とLepofskyは話す。

AIはスタートアップ・コミュニティにも多大な影響を与えている。TechCrunchでも今週、AIによる営業アシスタントを開発するConversicaが3400万ドルを調達したことを報じたばかりだ。このAIアシスタントには自然言語処理(NLP)、推論エンジン、自然言語生成などの技術が使われている ― なかなか洗練されたテクノロジーだ。このAIが見込み客との初期コンタクトを自動化し、その後に人間の営業員に引き継ぐという仕組みだ。

一方、CRM業界のベテランが創業したTactは、営業員のスケジューリング管理などにAIを活用するスタートアップだ。同社もまた、今月初めに1500万ドルを調達したことを発表している。営業員が「CRMの奴隷」になってしまうことを防ぎ、AIを活用して彼らにロジカルで効率的な営業法を提供するというアイデアだ。

これらのスタートアップは、営業という分野のなかにある様々な側面をAIによって効率化させようとしている一方で、SalesforceOracleBaseなどといったCRM業界の巨人たちは単に顧客情報を記録するためのツールではなく、それに内蔵された「知性」によって営業活動を強化するというCRMツールを開発している。

従来型のCRMは顧客と営業員とのやり取りを記録するためのツールだったが、AIによってそれ以上のことが可能になったと話すのは、Bluewolfでカスタマー・エクスペリエンス部門のSVPを務めるVenessa Thompsonだ(BluewolfはSalesforceと提携するコンサルティング企業である)。

「AIはカスタマー・インタラクションがもつ力を引き出し、新たなデータが追加されるたびにツールはより賢くなります」と彼女は語る。

プラットフォームがもつ力を有効活用することで、営業員は顧客と接する時間を増やし、契約を獲得することだけに集中することができる。「営業員がどこに時間を費やすべきか、そして次に何をすべきかを予測するためには ― 彼らに適切なデータを、適切なときに与える必要があります。営業員はあらゆるソースからデータを取得する必要があり、彼らがそのデータを利用して意思決定をするためにはコグニティブなプラットフォームが必要なのです」と彼女は説明する。

AIをカスタマーサービスの分野に適用する企業も増えている。ボットを利用した初期コンタクトの自動化などがその例である。シンプルなタスクはボットにまかせ、より複雑なタスクは人間のオペレーターが対応するというアイデアだ。今週、SalesforceはLiveMessageをリリースした。これは、同社のService Cloudプラットフォームにメッセージング・アプリを組み込み、人間のオペレーターとボットの力を組み合わせるためのツールだ。

AIを営業やカスタマーサービス分野に適用する動きは、AIによるビジネス効率化の初期事例にすぎないだろう。コンピューターによって従業員の能力を拡張することが主流になりつつある今、今後数年間のうちにAIがさまざまなビジネス分野に適用される事例が増えていくことだろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter