大学に進学する金銭的余裕がなかった人権活動家でMos(モス)の創業者であるAmira Yahyaoui(アミラ・ヤヒアウイ)氏は、学生と奨学金との橋渡しをするプラットフォームを立ち上げたとき、取り組んでいたイノベーションにひと区切りがついたと感じた。2017年の創業以来、Mosはコミュニティ内の40万人以上の学生に対し、1600億ドル(約18兆5000億円)以上になる学資援助プールへの自由なアクセスを提供している。
現在、ヤヒアウイ氏は、自身が直面したもう1つの金融の障壁を壊すことを目指し、Mosをチャレンジャーバンクへと拡大している。これは、Mosが、学生の大学受験や進学を支援するEdTech事業から、同じユーザー層の生活における複雑な要望をサポートするフィンテック事業へと進化したものだ。
「当社は、自分たちが行っていることとその理由について、かなり急進的に考えている」と同氏はいう。「エリート主義でもなく、ごく限られた人たちのためにやっているわけでもない。米国に根ざす銀行になりたいと真剣に考えている」とし、まずは学生を対象に「それを目標としている」と語る。
この目標は多くの投資家の共感を呼び、Mosの最新の資金調達ラウンドへの参加が競われた。今回のシリーズBでは、評価額が2020年5月時点の5000万ドル(約57億7000万円)から4億ドル(約461億円)に引き上げられ、4000万ドル(約46億1000万円)を調達した。ヤヒアウイ氏によると、このラウンドは、Tiger Global(タイガー・グローバル)の主導のもと、Sequoia(セコイア)、Lux Capital(ラックス・キャピタル)、Emerson Collective(エマーソン・コレクティブ)、Plural VC(プルーラルVC)などが24時間以内に集まり、複数の条件規定書を断ることもあったし、プレゼンのスライドも必要なかったという。
Mosの最初のデビットカードには、当座貸越料、遅延損害金、ネットワーク内ATM手数料が不要などいくつかの主な特徴がある。また、Mosの口座を開設するために最低残高も必要ない。
「学生はお金をあまり持っていないため、当座貸越や詐欺など、あらゆる不利な条件に直面している」と同氏はいう。確かに、他のフィンテック企業も、学生の多くが卒業後も銀行を変えないことに着目し、脆弱ではあるものの定着性のある顧客層に同様のサービスを提供する機会があると考えているだろう。Stride Funding(ストライド・ファウンディング)とLeverEdge(レバーエッジ)は学生ローン業界に参入しており、Thrive Cash(スライブ・キャッシュ)は合格通知に基づいて資金を提供し、学生向けの資金援助ツールであるFrank(フランク)はJPMorgan Chase(JPモルガン・チェース)に買収されたばかりだ。
「JPモルガンをはじめとするすべての銀行は、自分たちの未来が過去とは異なることを認識しているのだろう。銀行は学生との関係を強めようとしているが、学生は既存の銀行経由では奨学金を利用しない」と同氏は述べる。一方、Mosは、2021年までに15億ドル(約1730億円)以上の奨学金を学生に提供してきた。
Mosはこれまで、奨学金を通じて学生の購買力を高めることで、学生との信頼関係を築いてきたが、この関係が他のフィンテック企業との競争に有利に働くとヤヒアウイ氏は考えている。つまり、自分を信頼し、認めてくれる人たちのユーザー基盤を構築し、その人たちに響く言葉で商品やサービスを紹介するというものだ。
「当社は大人になったばかりの顧客にサービスを提供しているが、将来的には顧客が大学を卒業してアパートを借り、家賃を払うようになるため、当社も顧客と一緒に成長していくのだ」と付け加える。
今回のラウンドに参加したラックス・キャピタルのDeena Shakir(ディーナ・シャキール)氏は、銀行事業は常にMosの「ミッシングピース」だったと述べる。もともとMosは、情報公開の他の側面を担ったり、学生に特化した他の金融商品のプラットフォームになったりと、さまざまな方法で拡大できると考えていたという。今では、この最初の数年間に築いたネットワーク効果により、当然のように次のステップに進んでいると同氏は考えている。
「Mosは、金融アクセスや金融包摂の側面から関わるのではなく、学生にとってのメインバンク、クレジットカード、そしてホームとなるユニークな機会を得たと認識している」と同氏はいう。
当初のミッションを超え、このスタートアップの新しい目標は、確かな収益をもたらす可能性がある。Mosはもともと、奨学金へのアクセス料で収益を上げていた。現在、Mosは仲介手数料で収益を上げているが、その知識は口座を開設すれば誰でも無料で得られる。ヤヒアウイ氏は、Mosが以前のビジネスモデルで「数百万ドル(数億円)」の年間収益を得ていたと述べたが、現在の収益については語らなかった。しかし、チャレンジャーバンク路線を追求したことで、有効な市場が爆発的に拡大したといい「当社の時価総額は、以前の10倍になっている」と語る。
将来的にMosは、学生がお金を支払ってアクセスできる商品セットを作り、アドバイザーとのより実践的な相談や特定の銀行機能などを提供する予定だ。
最近のPayPal(ペイパル)の業績からも明らかなように、すべてのフィンテック企業にとって問題となるのは、長期的なユーザーの質だ。Mosは、デビットカード事業を開始してから数カ月後の11月頃に、成長率が大幅に上昇した。競争の激しいフィンテック業界であるため具体的な成長指標については明らかにしていないが、カードの開始後、最初の四半期に10万人以上の学生がMosに口座を開設したことを紹介する。同氏は、この成長によりMosが米国で10番目に大きなネオバンクになったと推定している。
その学生たちが固定客となるのか、それとも大学に通っている間の一時的な顧客なのかはまだわからない。景品や紹介ボーナスには魅力を感じるが、それは同社にとって長期的な利益につながるのだろうか。
Mosの第一期生となった大学生のJulieta Silva(ジュリエッタ・シルバ)さんは、テキサス州の小さな町で育った。彼女が通う500人規模の学校には、大学進学のためのカウンセラーが1人しかいなかったため、進学に関する相談は、ほとんどMosからTikTok(ティックトック)を介して行っていた(実際、Mosのソーシャルメディアプラットフォームのアカウントには、5万2000人以上のフォロワーがいる)。最初にこのプラットフォームに参加したのは2020年8月で、奨学金を申請するためだったが、このプラットフォームは「複雑な銀行システムの簡易版」を目指して成長してきた。現在、ノースイースタン大学の1年生である彼女は、今でもBank of America(バンク・オブ・アメリカ)のカードを使っているが、日々の生活ではMosのカードに頼っている。友達に登録してもらえば、紹介料を得ることもできるという。
「学内で使われているのはまだあまり目にしないが、私がカードを使うたびに[カードについて]聞かれる。だから、ちょっとした特典を全部教えてあげるが、実際に皆の関心を集めるのはMosのファイナンシャルアドバイザーと、学費のための資金援助だ」と彼女は話す。
一方、創業者のヤヒアウイ氏は、NFT(非代替性トークン)やしゃれたロゴ(と重さ!)を施したクレジットカードなど、話題性に気を使ってきた。しかし、ベンチャーキャピタルの支援を得て、大衆向けの事業に乗り出すことにした。
「1000人の秀才の信頼が得られればよいと思っていた」と同氏は述べ、そして続けた。「しかし実際には、2000万人の学生を納得させる必要がある」。
画像クレジット:BreakingTheWalls / Getty Images
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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)