スイスを拠点とし、ベンチャーキャピタルに支援された直接空気回収技術を開発するClimeworks(クライムワークス)は、ノルウェー政府とヨーロッパの大手エネルギー企業数社とによる合弁事業と提携し、大気中の二酸化炭素の直接回収に加え、二酸化炭素の地下隔離と貯留を事業化する道筋を探ることになった。
Climeworksと、新しく創設された企業Northern Lights(ノーザン・ライツ)との合弁事業がうまくいけば、この契約により、世界中の営利企業に向けた二酸化炭素回収と隔離のサービスを提供する新規事業への道筋が開かれる可能性が生まれる。つまりこれは、地球の気候変動を逆転させるためには必要不可欠だとこの2社が主張する、完全な二酸化炭素除去サービスが実現することを意味している。
Northern Lightsは、回収した二酸化炭素の処理、移動、地下隔離を目的に、Equinor(エクイノール)、Shell(シェル)、Total(トータル)の合弁事業として2021年3月に創設された。その事業は、ノルウェー政府が「Longship Project(ロングシップ・プロジェクト)」と名づけた回収した二酸化炭素を地下に貯留するための取り組みの1つの柱になっている。
「大気中から二酸化炭素を除去して2050年までに実質ゼロを実現するには、その能力を構築しなければならないという認識が広まっています。私たちはClimeworksとの共同事業に大変に期待を寄せています。安全性と恒久的な貯留を両立させる直接空気回収には、炭素循環のバランスを取り戻せる可能性があります」と、Northern Lightsの業務執行取締役Børre Jacobsen(ボーレ・ヤコブセン)氏は声明で述べている。
この2つの企業は、Northern Lightsの施設とClimeworkの直接空気回収技術との合体がネガティブエミッション技術の開発推進につながり、非工業分野の企業にも、カーボンニュートラルやカーボンネガティブになるチャンスを与えることになればと願っている。
だがこの事業には注意すべき点が数多くあり、直接空気回収の取り組みや、隔離および監視プロジェクトの可能性と落とし穴の両方が露呈されている。
第1の問題は、二酸化炭素排出量の国際価格を設定する必要があることだ。それによってこのプロジェクトは、経済的に実行可能となる。
「二酸化炭素の直接空気回収に料金を支払う法律が、世界に1つだけあります。それが、カリフォルニア州の低炭素燃料基準です」と、Climeworksの共同最高責任者であり共同創設者であるChristoph Gebald(クリストフ・ゲバルド)氏はいう。「1トンあたり最大200ドル(約2万1800円)が支払われます。【略】これは、まさに、大気、直接空気回収、地下貯留、監視をひとつなぎにした完全なシステムを成り立たせるために必要となる価格帯です。そのインフラを整備し資金面を支えるために必要な価格帯です」。
さまざまな二酸化炭素回収技術に関連するコストの内訳。上から植林、BECCS、二酸化炭素を吸着するケイ酸塩岩を土壌に撒く方法、直接空気回収(画像クレジット:Climeworks)
この価格は、世界の指導者たちが議論して算出した炭素排出産業の潜在的コストの中でも最上ランクのものだ(特筆すべきは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの中国の排出量を考慮すると、中国が設定した二酸化炭素排出に対する価格は低すぎる)。
直接空気回収と貯留のための技術を実用化する価格設定の心配の他にも、このプロジェクトをどれだけの規模で展開すれば地球全体の二酸化炭素を目に見えて減らせるのかという問題がある。
ここでもまたゲバルド氏は、同社の能力と規模の問題について明確な評価を与えている。
「科学的に示された排除すべき二酸化炭素の量は100〜200億トンです」とゲバルド氏。「直接空気回収の場合、ギガトンの規模に拡大させる必要があります。この予定地区では、メガトン規模に発展できる可能性があります。これはNorthern Lightsと協力すれば必ず実現できる範囲です。私たちは、メガトン規模を目指します」。
Climeworksでは、再生可能エネルギーを使用し、排熱はさまざまなサイズで機械に装着できるモジュラー式回収装置の動力源となる。同社の二酸化炭素回収能力で、唯一足かせになるのが電力だとゲバルド氏はいう。
同社はすでに、アイスランドの企業Carbfix(カーブフィックス)と協力関係にあり、Climeworksの技術で玄武岩が二酸化炭素を鉱化し貯留している。声明で同社が述べたところによると、二酸化炭素を永久貯留する候補地を世界中で探しているが、Northern Lightsが深地層隔離の場所として提案した、北海の海底にある塩水帯水槽が理想的な代替地とされているという。
Climeworksは、その技術開発のために、1億5000万ドル(約163億円)をスイスのチューリッヒ州立銀行などの投資家から調達した。
今回のプロジェクトの一環として、Northern Lightsは、二酸化炭素排出の点源であるオスロの工業地帯でその回収を行う計画を立てていたのだが、ノルウェーの海岸に拠点を移すことになった。そこに建設される施設で二酸化炭素を液化し、北海の沖合、海底から深さ約2.6キロメートルの地層の貯留地点へパイプラインで送り込む。
「Nortthern Lightsは、二酸化炭素回収と隔離をサービスとして提供しています。このプロジェクトを実行に移そうと考えたときから、また政府に協力してきた初期のころから、【略】最大の驚きは、ヨーロッパの二酸化炭素排出業者の回収と隔離に対する関心の高さでした」とヤコブセン氏。「この意識、この関心、そして解決策を探し出す必要性がますます高まっています。議論は、どんな可能性があり、どんな解決策があるかに移っています。Northern Lightsは、このバリューチェーンで大きな役割を担うことになります」。
すでに一部の企業が、同プロジェクトの最初の顧客になりたいと関心を示しているとヤコブセン氏は話す。「顧客企業からたくさんの覚書や秘密保持契約書、それに支援の書簡を受け取っています。私たちと話がしたいという、強い興味を感じます。大切なのは、この対話を契約に結びつけ、事業を前進させることです」。
画像クレジット:Northern Lights
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(文:Jonathan Shieber、翻訳:金井哲夫)