ブロックチェーンのR3コンソーシアムが1億700万ドル調達――SBIがリード

私たちは2017年のことを、”ブロックチェーンが爆発的に発展した年”と記憶するのかもしれない。

多くの人々に受け入れられて十分に発展するまでに長らくの時間を要したビットコインなどの暗号通貨。その多くは今、史上最高値を更新している。さらに、イーサリアムなどの新しいプラットフォームが誕生し、世界最大級の企業もこの技術を利用するようになった今、ブロックチェーン技術が成熟する準備は整ったのかもしれない。

そのことを何よりも明確に表しているのが、ブロックチェーン・コンソーシアムを運営するR3が発表したばかりの新たな資金調達だ。今回の資金調達で1億700万ドルを手に入れたR3のコンソーシアムは、世界中の金融機関やテクノロジー企業が参加する団体だ。

R3が発表したプレスリリースによれば、本ラウンドをリードしたのはSBIグループで、その他にもBank of America、Merrill Lynch、HSBC、Intel、Temasekなどが出資に参加している。

世界中の金融機関が参加するR3コンソーシアムでは、ブロックチェーン技術の根幹ともいえる分散型台帳技術(DLT)をビジネスへ適用する方法を模索している。

調達金額の大部分を出資した金融業界のビッグネームたちの他にも、ING、Banco Bradesco、Itaü Unibanco、Natixis、Barclays、UBS、Wells Fargoなども今回の出資に参加している。

コンソーシアムの参加企業から合計で2億ドルを調達することを目指し、今回その第1弾を実施したR3は、ブロックチェーン技術のメインストリーム化を推進する旗手のような存在だ。

実際、R3はすでにシンガポール政府やカナダ中央銀行などの国営金融機関を顧客として獲得している。

同社は今回調達した資金を利用して、テクノロジー開発の加速と戦略的パートナーの拡大を目指すとしている。R3は独自の台帳技術を保有しており、その技術を利用して新しいアプリケーションを開発することができる。また、それにより金融機関などの企業が台帳技術をベースとした独自のアプリケーションやサービスを開発することが可能だ。

”まだ幼少期とも呼べる段階ではありますが、分散型台帳技術が誕生したタイミングは、金融機関が新しい技術を受け入れて効率性を手に入れるための体制を整えたタイミングと重なっています”と話すのは、Wells Fargo Securitiesでマネージングディレクターなどを務めるC. Thomas Richardson氏だ。

R3コンソーシアムに参加する他の金融機関のメンバーも、彼と同じような感想を述べている。

BarclaysのマネージングディレクターであるAndrew Challis氏は、「デジタル技術におけるイノベーションによって銀行ビジネスは生まれ変わりつつあります。今回の出資は、分散型台帳技術やスマートコントラクトが金融マーケットのインフラストラクチャーを大いに強化する可能性があると私たちが信じている証拠です。R3のコラボレーティブなアプローチは、この技術が発展するための鍵となるものです」と語る。

すべての金融機関がR3を受け入れているわけではない。Goldman SachsとSantanderの両社はこのコンソーシアムから脱退している。おそらく、彼ら自身のやり方で事を進めたかったのだろう。

R3の特筆すべき功績とは、政府にブロックチェーンベースのアプリケーションを受け入れさせたことだ。銀行や他の金融機関をプロジェクトに参加させるという彼らのアプローチは、より破壊的な考え方をもつビットコイン開発者のアプローチとは大きく異なっている。

多くの投資家や起業家たちが考えるように、コミュニティによって開発され、プライベートな性質をもつビットコインやイーサリアムのようなブロックチェーン技術と、R3などが中心となって開発する台帳技術の両方が入り込むスペースはこのマーケットにはまだ残されている。

今のところ、R3がフォーカスするのは台帳技術のビジネスへの応用だ。銀行間取引の認証や、ロンドン銀行間取引金利のオートメーション化などがそれに含まれる。

将来的には、コンシューマー向けマーケットでもR3の技術が直接的に利用される可能性がある――デジタルな不換紙幣を通して。

それが実現するまでには、まだ時間がかかるかもしれない。でも、R3が銀行や政府機関などと手を組んでいることを考えれば、それは遠い将来の話ではないだろう。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

APIエコノミー立ち上がりのカギ、OAuth技術のAUTHLETEが500 Startups Japanらから1.4億円を調達

OAuthとOpen ID Connectを使った開発者向けサービスを提供する日本のAUTHLETEは本日、シードラウンドとして500 Startups Japanエムティーアイから累計1.4億円の資金調達を実施したと本日発表した。これは日本のAPIエコノミーの立ち上がりにとって重要なサービスとなるかもしれない。

FlickrやTwitterの初期からAPIを使ってきた開発者なら、今さら「APIエコノミー」と言われても何のことか分からないかもしれない。でも、これまでネットのコアなネット企業しか提供してこなかったAPIが、より広い範囲で広がろうとしているように思われる。ネット上で利用可能なAPIを収集・分類するディレクトリサイト、ProgrammableWeb.comによれば2006年に200件ほどだったAPI提供数は2008年には1000件を超え、この記事の執筆時点で1万7518件となっている。10年で100倍ほどだ。少しリストを眺めれば分かるが、掲載されているのは、いわゆるネット企業が中心。API提供の流れが今後、一般の事業会社へと広がるのであれば、さらに10倍の数になってもおかしくないだろう。

APIエコノミー発展のために必要なのは、当たり前だが、まずは有用なデータやサービスを持つ企業がAPIを公開すること。公開したらしたでサービスの死活監視やAPIバージョンの管理、ドキュメントのメンテとやることが多い。不正使用やDDoSアタック対策など、GoogleやFacebookにはできても、事業会社の開発部門には荷が重いということがある。

こうしたことから、例えばエンタープライズの世界でAPI公開に必要な技術を一括して提供して、メインフレームで組んだシステムですらWeb APIで提供可能にしようというソリューションがCA Technologiesのような企業からでてきていて、徐々に「APIエコノミー」という言葉が米国で使われるようになってきている。写真のシェアやデータ処理といった情報の流通ではなく、決済を含めたリアルな経済活動に繋がるAPIの利用が徐々に始まっているということが背景にある。

日本のメガバンクも使いはじめた「OAuth」

日本でもメガバンクが更新系APIの提供を開始して、マネーフォワードが経費精算でAPI連携を果たすなどインパクトのある動きが出てきてる。ここでカギとなる技術がOAuth 2.0(オーオース)と呼ばれるシステム連携方法を標準化したプロトコル(手順)だ。

OAuthの概念図(AUTHLETEのウェブサイトより引用)

初めて利用するアプリでFacebook IDを使ってログインしたり、ECサイトでAmazon Payを使って決済を済ませるということがないだろうか? このときに使われてるのがOAuthだ。こう書くとビジネスパーソンの多くは「ああ、アカウント連携ね」と思うかもしれない。でも、違うのだ。OAuthではパスワード情報という、もっともクリティカルな情報のやり取りは行われないし、ユーザー認証もまた別の話。OAuthはアカウントのことではなく、「ユーザーが所有権を持つ、どの情報に対して、どういう操作を許可するか」という一種の許可証(認可トークン)を異なるシステム間でやり取りする方法を規定したプロトコルだ。これはユーザーの「認証」に対して、「認可」と呼ばれている。一方、OpenID Connectのほうがユーザーが誰であるかを確認する「認証」を提供するプロトコルだ。

問題は、OAuthもAPIを公開するサービス提供側にとっては導入ハードルが高かったことだ。例えば銀行がAPI公開するとしよう。どの口座情報の「参照」という行為が、どのサービスに対して、いつまで許されているのか。ちゃんと口座を持つユーザーからの明示的な許諾を得たのか、といったことを管理する必要がある。

OAuth認可サーバーを立てるためのライブラリはオープンソースのものがある。ただ、十分な専門性と運用リソース、何よりセキュリティーの知見を持って自社運用をするのはハードルが高い。AUTHLETEが提供する「Authelete」はOAuth認可サーバーの運用に必要な機能をWeb APIベースで提供することで、OAuth導入、維持のコスト低減を実現するサービスだ。クラウド版を利用すると利用者側で認可用データベースを用意する必要もない、という。OpenID Connect利用は必須ではないが、もしAPI提供と同時に自社アカウントを複数サービスを横断して使うとか、外部サービスへ自社IDの利用を開放したいといったケースに使えるという。

AUTHELETEでビジネス開発を担当する岸田圭輔氏はTechCrunch Japanの取材に対して、「例えばAUTHLETEはOAuthの4種類ある認可フローにいずれにも対応していますが、大量の仕様書を読まないといけないので、真面目に対応しようと思うと大変です」とAuthlete利用のメリットを説明する。導入のハードルもさることながら、セキュリティーは重要な観点で、FacebookやGitHubといったエンジニア文化の強いネット企業ですらOAuth関連でトラブルが起こっているという。昨年末にもPayPalの認可トークンが漏洩する脆弱性が見つかり、修正したことがニュースになっている。OAuthやOpenID Connectは仕様がどんどん変わっていくのでキャッチアップするには、それなりのリソースを割くことになると岸田氏はいう。

当初利用を想定するのはセキュリティー要件の厳しいFintech関連企業だが、IoTなどジャンルは問わない。現在、ヘルスケアの日本企業がユーザーとなっているケースがあるという。

500 Startups Japanから資金調達をしていることも含めて、AUTHLETEは海外展開も加速するという。グローバルにみればPing Identityなど類似サービスはあるが、「認可に特化しているのは弊社だけ」と岸田氏は話している。Authleteを利用しているのは現在450アカウント(≒社数)で有料アカウントの数や料金は非公開。30日の無料トライアルがあり、トライアル後の継続利用は個別見積もりとなっている。

駐車場シェアリングサービス「akippa」運営が約4900万円の資金調達——関西圏の地元企業支援ファンドから

駐車場シェアリングサービス「akippa(アキッパ)」を展開するakippa(2015年にギャラクシーエージェンシーより社名を変更)は5月22日、池田泉州銀行阪急電鉄南海電気鉄道が共同で設立した「SI創業応援ファンド投資事業有限責任組合」から916万円の資金調達を実施したことを発表した。同ファンドは関西圏において、創業期の地元企業を支援する目的で設立されたファンド。

また日本経済新聞が報じたところによると、このほか池田泉州銀行と地域経済活性化支援機構などが組むファンドから4057万円の資金調達を実施しており、合計4973万円の資金を調達したことになる。

同社は2016年1月にグロービス・キャピタル・パートナーズトリドール朝日放送ディー・エヌ・エーを引受先とした総額約6億円の資金調達を実施している。今回の調達はそれにつづく形になる。

保有する駐車場の数は約1万カ所に

akippaは京都、大阪、神戸、東京を中心に全国の空いている月極駐車場や個人駐車場を15分単位(以前は1日単位だった)で利用できる駐車場シェアリングサービス。昨年の資金調達のタイミングでは、保有する駐車場の数は4410拠点だったが、この1年でさまざまな企業と提携することで拠点数を拡大。現在、約1万カ所以上(2017年3月現在)に増えており、業界1位の数字になっている。

9割の企業がアーリーステージでエグジット――スタートアップはどの段階で買収されやすいのか

【編集部注】執筆者のJason Rowleyは、Crunchbase Newsのベンチャーキャピタル・テクノロジー記者。

アメリカ国内のシードステージにあるスタートアップから、ランダムに1000社選ぶとしよう。この中から何社がシリーズAまでたどり着くだろうか? そして、シリーズAでの資金調達に成功した企業のうち、何社がシリーズBに到達できるのか? このように企業の段階を追って見ていくと、最後には数社だけが残ることになる。

しかし、各ラウンドまで生き残った企業の割合を求めるだけでは何も見えてこない。もっと重要なのは、途中で資金調達をやめてしまった企業に何が起きたのかということだ。もちろん、廃業も避けては通れない道だろう。しかし、事業売却やIPOのように、喜ばしい理由で次の資金調達ラウンドへ進まなかったスタートアップも存在する。それでは、どのくらいの企業がエグジットを果たしているのだろうか?

この記事では、2003〜2013年の間に設立された、1万5600社のテック企業の資金調達に関するデータをもとに、上記の問いに対する答えを探っていきたい。まずは全体的な生存率について見てみよう。テック業界でスタートアップが生き残っていくことの難しさがわかるはずだ。

急勾配を描くスタートアップの生存率

下図は、プレシリーズAで資金調達を行ったスタートアップのうち、どれだけ多くの(もしくはどれだけ少ない)企業が次なるラウンドへと駒を進めていったかを示したグラフだ。

仮に1000社が見事プレシリーズA(シード/エンジェルラウンド、コンバーチブルノート、エクイティクラウドファンディング等)をクローズしたとすると、そのうち400社ちょっとだけがシリーズAに進むことになる。つまり、私たちのデータによれば、プレシリーズAでの資金調達に成功したスタートアップの約60%はシリーズA以降には進むことができないとわかる。

均等目盛のグラフで見ると、企業数の減少度合いがかなり激しいことはわかるが、シリーズE以降の詳細がわかりづらくなってしまっている。そこで、対数目盛を使ってグラフを以下のように変換してみた。

(使われているデータは最初のグラフと同じだが、このグラフではラウンドを経るごとに企業数が指数関数的に減っていく様子がよくわかる)

上のグラフを見ると、2003〜2013年に誕生したスタートアップのうち、約1%しかシリーズFをクローズできなかったということがわかる。そして調査対象となった1万5600社のうち、シリーズHをクローズできたのは、Pivot3、Smule、Glassdoor、Aquantiaの4社だけだ。

エグジットという選択

先述の通り、企業が資金調達をやめる理由はさまざまだ。

事業をたたまなければいけない場合や、ビジネスが順調に進んで資金調達のニーズがなくなった場合を除くと、スタートアップが次のラウンドへ進まない理由は、買収かIPOのいずれかになる。それでは、企業はどの段階でエグジットする可能性が高いのかを考えてみよう。なお、買収された企業の数はIPOを果たした企業の16倍だったため、グラフでは買収された企業のデータを利用している。

用意したグラフは2つ。1つめでは、実際に買収されたスタートアップのみに焦点をあて、どの段階にある企業が1番買収されやすいのかということを分析している。そして2つめのグラフは、全ての段階を通じて、スタートアップはどのくらいの確率で買収されるのかということを示している。それでは最初のグラフから見てみよう。

どの段階にある企業が買収されやすいのか

どの段階にある企業が買収されやすいのだろうか? 恐らく直感的にもわかるように、株価が1番安いときが買い時なため、買収は比較的早い段階で起きやすい。しかし”早い段階”とはどのあたりを指しているのだろう? 驚くかもしれないが、買収された企業の90%近くが、プレシリーズAから数ラウンドの範囲にいたことがわかった。

プレシリーズA以降に進めなかった企業からシリーズHをクローズした企業を含め、買収された企業のラウンドごとの分布(累計)を示しているのが以下のグラフだ。

段階が上がるにつれて(急激に)企業数が減るため、各ラウンドでエグジットを果たした企業の数を、そのラウンドまでに買収された企業の総数で割っている。これにより、各ラウンドを終えたあとに買収された企業の割合を導き出すことができ、それぞれの段階での相対的なエグジットの起きやすさがわかるようになっているのだ。

念のため繰り返すと、上のグラフはシリーズCをクローズした企業全体の約92%が買収されると示しているわけではなく、資金調達を経てから買収された企業のうち約92%がシリーズCまでの範囲にいたことを表している。つまり、将来買収されることを目標に会社を立ち上げた場合、シリーズCかそれ以降で実際にその会社が買収される確率は10%程度ということになる。

ラウンド別の被買収企業の割合

上のグラフは、既に買収されている企業がいつ頃買収されたのかということを示しているが、さらに気になる問題が残っている。その問題に答えるため、下のグラフでは調査対象となった全てのスタートアップのうち、買収された企業の分布(累計)をまとめている。

買収された企業の割合はシリーズEの段階で約16%の最高値に達し、それ以降はあまり数字に変化がない。結果として、対象企業のうち6社に1社がどこかのタイミングで買収されたということになる。

生存率の低さの理由

繰り返しになるが、企業が資金調達をやめる理由はいくつかある。金銭的に持続可能なレベルに到達した企業や事業をたたんだ企業もいれば、買収やIPOを通じてエグジットを果たした企業も存在する。エグジットの中でも私たちは買収に注目してデータの分析を行った。というのも、実際にほとんどの企業がIPOではなく買収の道を選んでいるとともに、結論を導き出す上では買収された企業の方がデータ量が多かったのだ。

アーリーステージで姿を消す企業が多いことには複雑な背景があるが、ひとつだけ言えるとすれば、早い段階でエグジットのチャンスが訪れる可能性が高いということだ。スタートアップが失敗する要因に関しても同じことが言える。仲間割れやプロダクトマーケットフィット前の資金不足、業績の伸び悩み、単なる不運など、スタートアップの生死を分けるような問題は設立から間もない段階で起きやすい。

その他にも、レーターステージのラウンドは、参加する投資家の種類の違いから「プライベートエクイティ」と呼ばれることもあるなど、この記事で私たちが勘案していないような要素にも留意しなければならない。そのため、実際の状況は上のグラフよりも良いのかもしれないが、そこまで大きくは変わらないだろう。いずれにせよ、資金調達は厳しい戦いなのだ。

ビジネスの成長を妨げる要因の中でも、各ラウンドでの生存率の低さはもっとも大きな影響を持っているかもしれない。そのため、まだレーターステージに達していないものの、次のラウンドに進むのは難しいと感じた場合、可能なうちにエグジットを画策した方が良いだろう。そうしている企業はたくさんいるので、心配する必要はない。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

元楽天トラベル社長が次に手がけるのは、不動産の顧客分析サービス

Cocoliveは5月19日、不動産会社向け顧客分析&可視化サービス「KASIKA」の提供を開始すると発表した。

また、Cocoliveは同日、アジアを中心としたオンライン旅行事業などを手がけるエボラブルアジア、旅行比較サイト「Travel.co.jp」などを運営するベンチャーリパブリック、その他個人投資家から総額5100万円の資金調達を実施したことも併せて発表している。

Cocoliveが手がけるKASIKAは、住まいを探す顧客の潜在ニーズをリアルタイムに可視化するサービスだ。

KASIKAでは、自社Webサイトを閲覧している顧客の行動(物件検索、提案メールの開封など)を検出し、その内容をユーザーにリアルタイムでアラートする。このアラートには、顧客の情報、Webサイトの閲覧日時、メール開封日時、閲覧物件、滞在時間、顧客が希望する地域や価格帯などの情報が記載されている。

KASIKA(可視化)という名前からも分かる通り、同サービスには顧客の潜在ニーズを分かりやすい形でユーザーに届ける機能も備わっている。顧客が閲覧した物件ページ、滞在時間、流入経路などのデータに基づいて潜在ニーズを分析し、それをグラフやランキング(閲覧回数ランキングなど)を利用して可視化する。また、ページの滞在時間の長さに応じて物件情報の背景色を変化させる”ヒートマップ”のような機能もある。

KASIKAには、取得した情報をユーザーに見せるだけでなく、そこから顧客の生活パターンを予測する機能もある。顧客が物件を探すことが多い曜日、時間、デバイスなどからその人の生活パターンを予測するのだ。これにより、最適な営業タイミングをある程度把握することができるだろう。

KASIKAは既存のWebサイトにタグを埋め込むだけで簡単に導入できる。初期費用もかからない。月額利用料はユーザー(社員)1人あたり9800円だ。

Cocolive代表の山本考伸氏

今回の資金調達にあたり、Cocoliveの創業者兼代表取締役である山本考伸氏は、「この度の資金調達により、データの力で不動産会社が直面する課題を解決すべく、お客さまの活動データから本当に欲しい住まいの条件・提案を受けたいタイミングを分析するシステムの開発を加速してまいります」とコメントしている。

創業者の山本氏は、2006年にエクスペディアに入社後、プロダクト責任者として日本語サービス「expedia.co.jp」の立ち上げに関わった。その後の2008年にはトリップアドバイザーの代表取締役に就任し、同じく日本語サービスの「tripadvisor.jp」を立ち上げるなど、これまでにも新サービスの創出に多く携わっている。

その後、山本氏は2013年に楽天に入社。楽天トラベルの代表取締役を務めた後、2017年にCocoliveを創業した。

今回の調達ラウンドに参加したエボラブルアジア(山本氏は2017年4月1日付で同社の社外アドバイザーに就任している)とベンチャーリパブリックは、両社ともに旅行関連ビジネスを展開している。これまで旅行業界に深く関わってきた山本氏ならではの投資家リストだとも言えるだろう。

エボラブルアジアは出資に際するリリースの中で、「この資本参画は当社の投資事業の一環での取り組みであり、同社の今後の成長によるリターンを期待しております」とコメントしており、今回の出資は事業シナジーを狙うような戦略的な意味合いを持ったものではないようだ。

投資家向けのCRM ―― Affinityが1350万の資金調達

ベンチャーキャピタル、ヘッジファンド、投資銀行、プライベートエクイティファンドにとって、強力なネットワークほど重要なものはない。

しかし、ミーティングの予定、フォローアップなどの管理は今もなおローテクなプロセスである(このような人々が他人のために生み出してきたCRMツールの数々を考えれば、この状況はとても皮肉なものだ)。

Affinityという名のスタートアップは、そのような投資家たちが欲しがるようなツールを提供しようとしている。同社は米国時間5月18日、サービスのβ版ローンチと合計1350万ドルの資金調達を発表した。

本調達ラウンドでリード投資家を務めたのは8VCで、その他にも、Sway Ventures、Pear Ventures、Great Oaks Venture Capital、Western Technology Investment、そして複数のエンジェル投資家も本ラウンドに参加している。

Affinityのソフトウェアは、ネットワーク上にあるカレンダー、Eメール、CRMツールなどサードパーティの情報ソースを巡回してデータを集める。そして、「ニューヨークの企業を一番紹介してくれた人は誰か?」や「この1ヶ月間で連絡を取っていないのは誰か?」などの問いに答えてくれる。

また、同ソフトウェアは企業がもつデータを収集することで、連絡先やミーティングの予定などを自動でアップデートしてくれる。Affinityによれば、これによりデータの入力などにかかる時間を大幅に削減することができるという。

2014年、当時AffinityはRobynという社名で活動しており、共にスタンフォード大の2年生だった共同創業者の2人は、The Garageと呼ばれるコワーキングスペースで活動していた。その当時から、この2人はベンチャーキャピタルの8VC(Formation 8)を創業したJoe Lonsdale氏からアドバイスを受けていたという。Lonsdale氏は現在Affinityの取締役に就任している。

Lonsdale氏はプレスリリースの中で、「Affinityによって、私たちはその時に必要な場所に適切なリソースを配分することができます:ポートフォリオに入っている企業を手助けし、私たちのコミュニティと効率的に交流するための方法です」と話す。「このようなブレークスルーによって、私たちの仲間や友人たちはデータを有効に活用することができます。そして、それぞれのネットワークに属する企業は、お互いの未来のあり方に影響を与えあうでしょう」。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Facebook /Twitter /Facebook)

スマホかざして勤怠管理――介護事業者向けシステム「Care-wing」が1億5000万円調達

介護事業所向け支援システムの「Care-Wing」を手がけるロジックは5月19日、グローバル・ブレインおよびSMBCベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資を実施し、合計で1億5000万円を調達したと発表した。

Care-wingは、介護事業者が抱えるさまざまな負担を減らすことを目的につくられた支援システムだ。

介護事業者はCare-wingを利用することで、介護現場でのIT化とペーパレス化を実現することができる。これにより、事務処理の負担を減らせるだけでなく、請求ミスの防止や経費の削減ができるという。シフト表の作成や、各種サービス計画書の作成、サービス毎の賃金計算などをシステム上で行うことが可能だ。

Care-wingには介護ヘルパーの行動管理機能も備わっている。介護者の自宅にはICタグが設置されており、ヘルパーに支給されたスマートフォンとICタグを近づけることで、入退出の管理をリアルタイムで記録することができる。これにより、介護事業者はヘルパーが訪問中の場所を把握できるようになるだけでなく、訪問忘れを防止することも可能だ。

不正防止のため、このICタグは一度剥がすとデータが破損する仕組みになっている。また、スマートフォンとICタグ間の通信にはNFCを採用している。

このNFC技術はヘルパーたちの情報管理手段にも利用されている。各ヘルパーには専用のICカードが支給され、そのICカードをスマートフォンにかざすことで当日のスケジュールやサービス計画書の内容を確認することが可能だ。このように、Care-wingは介護現場のIT化を推進しながら、同時にITリテラシーの低い高齢のヘルパーであっても簡単に操作ができるような工夫を取り入れていることが特徴だと言えるだろう。

これまでにCare-wingを導入した介護事業者は約600社。約1万8000人のヘルパーが同システムを利用している。

ロジック取締役COOの福島成典氏はTechCrunch Japanの取材に対し、「近年になり、政府主導で介護現場にIT化を進めようとする動きが出てきた。それに応じて、VCもこのマーケットに興味をもつようになり、今回の資金調達につながった」と話す。

高齢者とインターネットのコンタクトポイント

福島氏は、今回調達した資金をCare-wingのマーケット拡大のために使うとしたうえで、その先にある戦略についても語ってくれた。

介護対象となる人々の大半は高齢者であり、スマートフォンはもちろん、パソコンすら持っていないというケースも多い。だがその一方で、インターネットを利用したサービスの中には高齢者が重宝しそうなものも多く存在している。

その1つの例として考えられるのが食品のデリバリーサービスだ。日本でもこの種のサービスは増えつつあり、2017年4月にはアマゾンジャパンが最短4時間で食品を届ける「Amazonフレッシュ」をリリースするなどしている。

ロジックの将来的なビジネス展開について、福島氏は「Care-wingを利用するヘルパーにはインターネットにつながったデバイスが支給される。高齢者はそのようなデバイスを持っていないことが多いが、端末を持ったヘルパーが彼らの自宅に訪問することで、高齢者とインターネットのコンタクトポイントが生まれることになる。そのようなコンタクトポイントを、高齢者からのニーズも期待できそうなサービスを展開する他社に提供することも将来的には可能だろう」と語る。

ロジックの創業は1995年で、いわば創業20年以上のスタートアップだ。同社は元々、CADソフトの開発などを中心事業にしていたが、約6年前に現在の介護事業者向けビジネスにピボットしたという。ロジックは2015年10月にシードラウンドを実施。また、つい先日の5月10日には日本政策金融公庫の融資制度である「新事業育成資金」を活用して7000万円の融資を受けている。

以前TechCrunch Japanでもお伝えしたように、2017年4月に訪問介護大手のセントケアHDからのスピンオフで介護系スタートアップが誕生するなど、最近では介護業界に関するスタートアップ界隈のニュースも少しづつ増えてきた。

みずほコーポレート銀行の調査によれば、日本の高齢者人口(65歳以上)は2025年のピーク時には総人口の30%超に達し、高齢者向け消費市場は101.3兆円にまで拡大するという。2007年の62.9兆円と比べると約61%の伸びだ。そのうち、介護産業は12.5兆円の市場規模をもつと見られている。

1億ドル企業は過小評価されている――身の丈にあった資金調達の重要性

【編集部注】本記事はFounder CollectiveのEric Paley(マネージング・パートナー)とJoe Flaherty(コンテンツ&コミュニティ担当ディレクター)によって共同執筆された。

ユニコーン企業中心の現在のスタートアップ界では、成功の定義が大きく変わった。10億ドル規模のエグジットがもてはやされる中、かつては成功と考えられていた数字の価値が下がってきてしまったのだ。実際、自分が設立した企業を1億ドルで売却出来る確率は、純粋な可能性としては極めて低い。しかし今日では、1億ドルという数字は成功と呼ぶには小さすぎると考えられてしまうことが多々ある。

もちろん全員がこんな歪んだ見方をしているわけではないが、驚くほど多くのVCや業界関係者が、数億ドルのエグジットでは騒がなくなった。

一方で、刺激を追い求める現代社会で上記のような変化が起きているのは、そこまで驚くべきことではないとも言える。政治記者が州政府よりも大統領や最高裁判所について書きたがるように、テック記者はミリオン企業ではなく、ビリオン企業を求めているのだ。10億ドル規模のファンドは、各スタートアップに5000万ドルをつぎ込むのもいとわず、1億ドル程度のエグジットは成功どころか残念賞くらいにしか考えていない。そう考えると、1億ドルちょっとのエグジットは大型のアクハイヤー(人材獲得を目的とした企業買収)のようにさえ見えてくる。

この考え方がどれだけ歪んでいるかを確かめるため、私たちはここ数十年間に成功をおさめたファウンダーの中でも、その後VCになった人たちにフォーカスした調査を行うことにした。さまざまな分野で活躍するVCから、起業経験を持つ63人の投資家をピックアップしたところ、10億ドルを超える金額のエグジットを経験した人の数はたった11人だった。

素晴らしいスタートアップを創設した著名投資家はたくさんいるが、今の歪んだ基準で見ると、彼らの経済的な成功度合いは”そこそこ”ということになる。例えばY CombinatorのPaul Grahamは、過去10年でもっとも影響力のあるVCの1人だが、彼が設立したViawebは”たった”4900万ドルで売却された。現実的な基準で考えると、Viawebは間違いなく成功したビジネスだったが、今日の派手なサクセスストリーや資金調達のニュースに照らすと、そうでもないように見えてくる。また、Viawebは買収されるまでに250万ドルしか調達していない。しかしGrahamはかなり大きなリターンを得ることができ、このエグジットはその後の彼の将来を左右するような出来事となった。どうやら”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性はあるようだ。

注:このリストには抜けがあるかもしれないので、もしも漏れている人がいれば是非教えてほしい。ドットコムバブル期のエグジット額は正確に評価するのが難しいため、別途出典をまとめている。金額に関する情報が明らかになっていないケースについては、買収額が売却先のマテリアリティスレッシュホールドを下回るという仮定に基いている(出典:Founder Collective)。

過小評価されている1億ドルのサクセスストーリー

自分の会社を1億ドルで売却するというのは、VCだけでなくスタートアップコミュニティ全体からも冷笑されることがある。Mint.comのファウンダーとして有名になったAaron Patzerは、サイトの革新的なUXを評価したIntuitに同社を1億7000万ドルで売却した。彼は「大きく出るかやめるか」いう哲学を信じていなかったのだ。しかしMint.comの売却でひと財産を築いた彼は、その後批判を受けることになる。さらに、1億ドル規模の”小さな”エグジットに対する軽蔑心がスタートアップ界に蔓延するあまり、Urban Dictionaryには自分の企業を低すぎる価格で売却することを表す表現さえ登録されている。「Pulling a Patzer」というフレーズで調べてみてほしい。

私たちの投資先が大手テック企業に1億ドル強で買収されることが最近決まった。私たちは短期間で大きなリターンをあげることができ、共同ファウンダーたちは昨年のレブロン・ジェームズの年収を上回るほどの金額を手にした。現実的に見て、この売却は当該企業にとっては最善の結果であっただろうし、関係者全員にとっても大きな成功と言えるものだった。

ユニコーン企業の存在にとらわれている現代のスタートアップ関係者が、もしもこのエグジットを失敗と考えるのであれば、彼らのビジョンには問題があるし、最悪の場合は単に皮肉を言っているようにさえ映る。

「大きく出るかやめるか」という崩壊したロジック

私たちはなるべく早くエグジットを目指したほうが良いと言っているわけでもなければ、自分の会社の可能性を低く見積もれと言っているわけでもない。私たちは次なるUberやGoogleやFacebookに投資したいと考えている。しかし現実として、全ての企業が彼らのような規模になるべきだとは言えない。これほど多くの(元起業家の)VCが、ユニコーンのステータスには遠く届かないようなスタートアップで成功をおさめられたのは、早い段階でのエグジットという選択肢を残せるような評価額で、適切な額の資金を調達していたことが関係している。

シードステージで将来10億ドル規模のビジネスに成長するであろうと思えるようなアイディアも、その道中で予想外の障壁にぶつかることがある。身の丈にあった資金調達を行ってきたスタートアップにとって、この障壁が生死を分ける問題になることはほとんどない。しかし残念ながらほとんどのVCは、その規模のせいでポートフォリオ企業のいくつかを10億ドル以上でエグジットさせなければいけないのだ。そのためVCは必要以上の資金をスタートアップにつぎ込むものの、企業が思い通りに成長しなければ、現実的かつ実り多いエグジットの可能性が無くなってしまう。

例えばあなたの企業が、前年度に1000万ドルの売上を記録し、直近のラウンドで5000万の評価額がついたとしよう。人気の業界にいるこの企業は、売り上げを今年度中に倍増しようと考えているが、利益は薄く、なかなかユニットエコノミクスも成立させられないでいる。普通に考えると、この企業が次回のラウンドで達成できるのは、プレマネーの評価額が8000万ドル、そして調達額が2000万ドルといったところだろう。

”小規模な”エグジットでも大きなことに繋がる可能性があるのだ。

しかし今日のVCは、企業が成長している様子や市場の盛り上がりを見るやいなや、ファウンダーに「大きく出るかやめるか」と言い聞かせようとする。すぐにでも手元に残った2000万ドルを投資しようとしている(次なるファンドを組成するために手元資金を使いきろうとしている)このVCは、先述の現実的な数字の代わりに、2億6000万ドルの評価額で4000万ドル(うち半分を当該VCが出資)を調達するようファウンダーを説得するのだ。そうするとポストマネーの評価額は3億ドルになり、VCが求めるようなリターンを実現するには、この企業を10億ドルで売却しなければいけなくなってしまう。

1000万ドル程度の売上と薄い利益しかないにもかかわらず、この企業は5億ドルのエグジットというオプションを捨ててしまったのだ。もしも調達額が少なければ、5億ドルのエグジットでも関係者全員がハッピーになれていたはずだ。恐らくこの企業のバーンレートはその後上昇し、さらなる資金調達が必要になってくるだろう。もしもインフレした評価額を受け入れられるような売却先が見つからず、VCも輝きを失いつつあるこのビジネスへの投資をやめたとすると、かつては将来有望と考えられていた企業が倒産してしまう可能性もあるのだ。

ファンドの規模が全てを物語る

1億ドルのエグジットを実りあるものにするためには、過度な資金を調達しないように細心の注意を払わなければいけない。自由が欲しければ戦略的な資金調達を行わなければいけないのだ。これは自分の企業にあった投資家探しからはじまる。Founder Collective パートナーのDavid Frankelは「ファンドの規模が全てを教えてくれる」とよく言っている。かなり大雑把な目安として、スタートアップは少なくとも投資を受けるファンドの規模と同じくらいの金額でエグジットできるようにならなければいけない。例えば5000万ドル規模のファンドから資金を調達した場合は、1億ドルでのエグジットでなんら問題ない。しかし10億ドル規模のファンドから資金を調達したとすると、エグジット時の期待値も膨大な額になるため、投資家選びは慎重に行い、どんな契約を結ぼうとしているのかしっかり把握するようにしたい。

1億ドル規模のスタートアップは恥ずかしくない

テック企業の大半は1億ドル未満で売却されているし、実のところ、必要最低限の資金を調達し1億ドルで事業を売却できれば御の字だ。元起業家のVCの多くも、自分たちのスタートアップを売却したときはこれが成功だと考えていた。ファウンダーにとっては、数千万ドルでのエグジットの方が、数億ドル、はたまた数十億ドルのエグジットより儲かるケースさえある。

ある程度成功したスタートアップを売却すれば、ファウンダーは残りの人生を心地よく過ごせるくらいのお金を手にすることができる。中には新たな事業をはじめる人もいれば、後に世界的に有名になるアクセラレーターを設立する人もいる。実際に多くのファウンダーが、起業家の世界における”まぁまぁの”成功をおさめた後に、ベンチャーキャピタルの世界で素晴らしいキャリアを築いているのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

チャットボットだけではダメ――CRMを加えて新展開のZEALSが約8000万円を調達

チャットボットサービスを提供するZEALS(ジールス)は本日、フリークアウトを引受先として、約8000万円の第三者割当増資を実施したことを発表した。また、今回これまで展開していたチャットボットの開発運用サービス「BOT TREE」をリニューアルした。メディア向けに特化した「fanp(ファンプ)」と企業のマーケティングのニーズに応える「fanp Biz」を本日よりローンチする。

fanp(ファンプ)は、メディア向けに読者と関係構築を図るためにチャットボットとCRM(顧客関係管理)を組み合わせたサービスとZEALSの代表取締役CEOを務める清水正大氏は説明する。

メディアはfanpでチャットボットを開設し、自社サイトなどにウィジェットを設置してユーザーを募ることができる。メディアはfanp内から記事のリンクをコピー&ペーストするだけで、ユーザーに配信する記事を選択することが可能だ。

fanpの特徴はボットでの配信だけでなく、CRMとしての機能もあることだ。これまでメディアは読者との関係構築のためにメルマガ配信などを行ってきたかもしれないが、それではメールアドレスは取れても、具体的にどういう人なのか知ることはできなかった。また、FacebookページやTwitterを運用していても、一方向のコミュニケーションになりがちだった。

fanpはチャットボットでの記事配信と双方向のコミュニケーションを特性を活かし、メディアと読者のエンゲージメントを高めたい考えだ。チャットボットが取得したユーザーのプロフィールを元に、例えば属性ごとに配信を行ったり、簡単なアンケートを行ったりすることも可能だという。

もう1つの「fanp Biz」は、企業のマーケティング用途に対応するものだ。Facebookのニュースフィード広告はMessengerボットと紐付けることができる。fanp Bizでは、企業はそうした広告と連動し、ユーザーにプロダクト紹介や資料請求に対応できるボットの作成やボットへの集客を支援するサービスという。「これからランディングページや資料請求といった申し込みは、チャットボットが代替するようになります」と清水氏は話す。

ZEALSはBOT TREEは2016年6月にローンチした。BOT TREEは読者の好みを機械学習で学習するなど高機能だったもの、利用企業にエンドユーザーのニーズにどのように応えて、どのような効果が得られるかを明示できていなかったと清水氏は話す。

その反省を踏まえ、今回のfanpのリニューアルにあたってはユーザーとの検証を重ねて、効果を生む機能だけを実装したと清水氏は言う。「企業との二人三脚で分かったことは、彼らが求めているのは色々な会話を簡単にボットに組み込めるインターフェースではなく、エンドユーザーがどういう人で、どういう使い方をしているかを知り、それをコンテンツ作りに活かせるサービスということ」。使い勝手やアナリティクス画面などもユーザーの意見をヒアリングしながら作り込んだという。

調達した資金はチームの増強とマーケティングに充てる予定だそうだ。また、fanpは国内のみならず、海外でも伸ばしていきたい考えだという。また、資金調達と同時にZEALSはフリークアウト・ホールディングとの協業を発表している。フリークアウトは広告やマーケティング関連のサービスを提供しているが、彼らの技術面と営業面、そして海外展開の面で協業していくという。

予約システムが店舗の売上増にも貢献、クービックが新たに3億円を調達

クービックはサロンや習い事のネット予約サイトCoubic(クービック)と当日でもサロン予約ができるPopcorn(ポップコーン)を手がけるスタートアップだ。クービックは本日、総額3億円の調達を発表した。引受先はグロービス・キャピタル・パートナーズ、DCMベンチャーズだ。また、GCPの高宮慎一氏がクービックの取締役に就任することも同時に発表している。

クービックの特徴は、特別なウェブの知識がなくとも自社のウェブサイトやブログに簡単にネット予約システムを設置できる点だ。他にも予約時に決済を行う事前決済機能やエンドユーザーにリマインダーやキャンペーン情報を配信する機能なども備えている。

2014年4月のローンチ以降、登録事業者数は4万を超えたとクービックの代表取締役を務める倉岡寛氏は説明する。電話やメールでの予約対応の手間を削減できる他、売上の増加にも役立っている点がビジネスオーナーに評価されていると倉岡氏は言う。「アンケートを行った結果、ビジネスオーナーの70%が売上が上がったと回答しました」。

クービックは2013年10月に創業している。2014年4月にはDCMとグリーベンチャーズから総額5000万円を調達した。2015年3月にはDCM、グリーベンチャーズ、個人投資家から総額3億1000万円を調達している。今回の調達を合わせると、累計調達額は6億6000万円ほどになる計算だ。クービックは2015年に開催したTechCrunch Tokyo 2015、スタートアップバトルのファイナリストでもある。

今回調達した資金は、プロダクト開発とマーケティングに充てる予定と倉岡氏は話す。

クービックは現状ビジネス向けにネット予約システムを提供しているが、最終的に目指しているのはユーザーとビジネスをつなぐプラットフォームだという。倉岡氏がそもそも創業したのも、飲食店などで電話しないと予約できないのに不満を感じ、予約の体験を改善したかったからなのだそうだ。「極端ですが、ネット予約でないのなら予約したくないと思っています」。どのような形にするかは具体的には決まっていないが、サービスのグロースと並行して、そのビジョンの実現に取り組んでいくと倉岡氏は話している。

古地図やイラストの情報をGPSと連動する「Stroly」開発元が総額1.4億円を資金調達

地図と情報というと、商圏分析によるマーケティングや防災など、ちょっと堅めの活用方法を思いつきがちだけれども、IngressやポケモンGO、あるいはブラタモリの人気を見れば分かるように、もともと地図や位置情報って、それだけでも“楽しい”ものだと思う。2月にα版がローンチされた「Stroly(ストローリー)」は、イラストマップや古地図とGPSとを連動させて、地図の裏側にある“楽しさ”を垣間見ることができるサービスだ。

Strolyを開発したのは京都発のスタートアップ、ストローリー。同社は5月17日、大和企業投資、京銀リース・キャピタル、フューチャーベンチャーキャピタル、中信ベンチャーキャピタルの各社が運営する各ファンドを引受先とした総額約1.4億円の第三者割当増資の実施を発表した。今回の資金調達はシリーズAラウンドにあたり、ストローリーにとっては、初めての外部からの調達となる。

街歩きが楽しくなる地図のプラットフォームStroly

Strolyについては、2月のローンチ時の記事に詳しいが、ここで簡単に説明しておくと、縮尺や方位、位置情報が正確でない古地図やイラストマップでも、緯度・経度情報と照らし合わせて連動させ、現在地や地図上のポイントを表示することができるプラットフォームだ。スマホ上で表示させれば、江戸時代の地図を表示させながら街をぶらぶら歩く、なんてこともできる。

上野の森の錦絵にStrolyで位置情報をプロットしたもの

Stroly公開の前には、50くらいの自治体を顧客とした受託開発による、古地図と連動した地図の提供が多かった。しかし、案件ごとに個別にアプリを開発していてユーザーが横断的に利用できるものがなかったため、さまざまな機能を網羅したプラットフォームとしてStrolyを開発したという。

Strolyは企業や自治体向けでは、主にブランディングツールとして利用され、地図好きの商店主が参加する商店街や、街の文化保存会などで、街おこしに利用されるケースも多いそうだ。2月のリリースからこれまでに、京阪電車の1日乗り放題チケットの特典イラストマップや、上野文化の杜のイラストマップ古地図(江戸切絵図)錦絵に対応させたもの、神田祭の現代の巡行路明治初年の巡行路などが提供されている。

神田祭の巡行路(左が現代、右が明治初年のもの。明治の地図は皇居を上方向として書かれているため、北が右手になっている)

Strolyでは、自作のイラストマップを取り込んで正確な地図の位置情報と対応させ、オリジナル地図として表示することも可能だ。屋外の情報であれば、イラストでも古地図でも地図さえあれば(その地図のライセンスに問題がなければ)、どこでもGPS情報とマッピングでき、地図を多数持つ地図好きの有志とのコラボレーションによる、さまざまな地図の取り込みも進めているという。

地図を通して多様な世界の見方ができるプラットフォームへ

ストローリーは2005年に国際電気通信基礎技術研究所の社内ベンチャーとして始まり、2016年にMBOを経て、独立した。今回の調達資金は企業・自治体などのビジネス利用の促進と、開発のための人材確保に投資するとしている。開発では、Strolyに投稿された地図の利用状況をユーザーが見られる機能の将来的な実装や、ロックフェスティバルなどの大規模イベント会場での利用にも耐えるインフラ整備なども検討しているそうだ。また海外への進出もにらみ、多様な価値観を持つ、いろいろな国籍の人材を採用するとして、既に2名のフランス人を社員に迎えたという。

ストローリー代表取締役社長の高橋真知氏は、Strolyの目指す世界について「地図を通して、世界の多様な見え方をシェアできるプラットフォームにしていきたい」と話す。

地図とは元来、恣意的な位置情報を平面に表現したものだ。今や、戦時中には手に入れることもできなかった“正確な”地図が提供され、地図アプリで現在地まで分かるようになったが、地図の後ろに隠れたストーリーは簡単には見えてこない。Ingressのキャッチフレーズ「The world around you is not what it seems.(あなたの周りの世界は見たままのものとは限らない)」ではないけれども、“正しい”地図が必ずしも、その土地が持つ全ての顔を見せてくれるものとは限らない。

高橋氏は「そこに住んでいる人はその土地をどう見ているのか、過去の人はどう見ていたのか、未来にはどうなっていくのか。そういった情報はGoogle Mapだけでは意外と見えてこない。地図を通して街の新しい発見ができて、地域とのコミュニケーションにつながるようなサービスを提供したい」と言う。

「最終的には世界中から地図が投稿できるようにして『地図を投稿する文化』を創りたい。YouTubeがローンチした当初はみんな『誰が動画をアップロードするんだろう?』と思っていたはずだけれども、今では誰もが簡単に動画を投稿して、観光PRなどでも使われている。そんな感じで地図についても、みんなが緯度・経度の情報が付いたものをどんどん投稿するようになればいい。地図がトップダウンで提供されるものから、ボトムアップで共有されるものになればいいと思う」(高橋氏)

新たなユニコーン誕生――メッセージングアプリのSymphonyが6300万ドル調達

世界最大級の投資銀行15社が出資者として名を連ね、現在までに20万人の課金ユーザーを獲得しているメッセージング・アプリのSymphonyが新たな資金調達を完了したことが分かった。同社が今回調達した金額は6300万ドルだ。そして、内情に詳しい情報提供者により、Symphonyのバリュエーションが10億ドルを超えたことも明らかとなった―これで、TechCrunchが2016年12月に報じた内容が正しかったことが証明されたことになる。

今回の資金調達ラウンドには、新たにフランスの投資銀行であるBNP Paribasも参加しており、彼らは今後Symphonyの取締役会に参加することになる。Symphonyによれば、既存投資家の大半もまた今回の資金調達ラウンドに参加しているという。それにはGoogle、Lakestar、Natixis、Societe Generale、UBS、Merus Capitalなどの企業が含まれており、Bank of America、BlackRock、Citibank、Deutsche Bank、Goldman Sachs、HSBC、JP Morganなど世界最大級の投資銀行も名を連ねている。Symphonyの累計調達金額は2億2900万ドルだ。

TechCrunchで2016年12月に前回の資金調達を報じた際、私たちは同社のバリュエーションについても触れていたが、それと同時に、Symphonyがシンガポールを中心とするアジア諸国の企業から200万ドル程度の資金を調達しようとしていることも伝えていた。

しかし、Symphonyのスポークスパーソンはこの件に関するコメントを控えている。また、彼らは今回の調達ラウンドが前回のものの延長線上にあるのか、もしくは新しいラウンドなのかも明らかにしていない。

「私たちに興味を示す投資家は大勢おり、彼らとの対話は常に行っています」とスポークスパーソンは話し、「私たちはすでに十分な資金を調達したと考えています」と加えた。また、BNP Paribasは「戦略的パートナーであり、それが私たちが彼らと手を組むことを決めた理由の1つでもある」とも話している。

BNP Paribasのグローバルマーケット部門長であるOlivier Osty氏は、「デジタルトランスフォーメーションはBNP Paribasのグローバルマーケット戦略の中核であり、私たちにとって、フィンテック(企業)と手を組むことはその重要なプロセスの一部です。Symphonyのような、エキサイテイングかつイノベーティブな企業とのパートナーシップにより、私たちは顧客に格別なサービスを提供することができます」と語る。

Symphonyは主に金融業界をターゲットとしたセキュアなメッセージングサービスを提供している。ユーザーとなる企業は、同アプリを利用して社内の従業員とコミュニケーションをとれるだけでなく、同じセキュアなフレームワークを利用して社外の人々ともメッセージのやり取りをすることが可能だ。SymphonyをSlackと同類のサービスとして考えることもできるだろう。しかし、Symphonyが他のメッセージング・サービスと異なるのは、同社が金融企業に特有の安全性に関するニーズに対応したプラットフォームを構築してきたという点だろう。

Symphonyの競合には他社が提供するメッセージング・アプリだけでなく、これまでに金融企業が利用してきたその他のコミュニケーション・サービスも含まれる。その1つがBloombergのターミナルで、これにはSymphonyよりもはるかに高いコストがかかる(ターミナル1台につき、年額2万5000ドル程度)。一方、Symphonyの利用料金はユーザー1人につき月額15ドルだ(これがSymphonyが「ブルームバーグキラー」と呼ばれる所以でもある)。

Symphonyはフリーミアムモデルを採用しているが、無料ユーザーの数は明らかにしておらず、「数千人単位」であると述べるに留めている。

他のメッセージング・アプリと同じく、Symphonyには基本的なメッセージング機能に加えて多種多様な機能を備えている。その例が、音声/ビデオ通話、そしてDow Jones、Selerity、Chart IQ、S&P、Fintech Studiosなどが提供する拡張機能のマーケットプレイスだ。

彼らの戦略は今のところ上手くいっているようだ:彼らはこれまでに160の金融企業を顧客として獲得しており、今回調達した資金によって他の業種にも拡大していく構えだ。次にSymphonyが狙うのは、金融業界と同じくメッセージングサービスに安全性を求める法律関連や会計業界。また、これらの業種と同じように厳しいプライバシールールを敷くヘルスケア業界もターゲットとして捉えている。

「プラットフォームを世界中に拡大していくにあたり、今回の調達ラウンドに参加した投資家からのサポートに非常に感謝しています」と語るのは、Symphony創業者兼CEOのDavid Gurlé氏だ。「Symphonyのコミュニティが広がるにつれ、私たちは顧客により大きな価値を与えることができており、今回の資金調達はそれを象徴するものです。Symphonyの効率性は、統合されたコラボーレーション・プラットフォームと合理化されたワークフローによってもたらされており、顧客がレガシーツールを廃してSymphonyを中核ツールとして利用したいと願っているという事実がそれを裏付けています」。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

係争中のUploadがコロプラなどから450万ドルを調達していたことが明らかに

今年はじめにVRメディアの「UploadVR」を子会社化したUploadが、2016年9月に450万ドルを調達していたことが分かった。これまで報じてこられなかった今回の資金調達は、昨日TechCrunchでも報じた、同社に対するセクシャルハラスメント訴訟により明らかとなった。

シリーズAとなる本調達ラウンドをリードしたのはコロプラだ。Uploadのスポークスパーソンによれば、その他にも、General Catalyst、NetEase、Sparkland Capital、Unity Ventures、CRCM、GREE、GreycroftのファンドであるGC Tracker、Outpost Capital、そして、投資家のDavid Chao氏とJulia Popowitz氏が本ラウンドに参加している。

同社はこれまでに、シードラウンドで中国のShanda Groupと複数のエンジェル投資家から125万ドルを調達している。

UploadのスポークスパーソンがTechCrunchに語ったところによれば、同社はこの資金を利用して「3つのコアドメインである、コワーキング、教育、メディア領域の拡大を図るとともに、ロサンゼルスにあるUploadのオフィスと、新たにローンチしたUpload EDUにフォーカスしていく」という。

先月、同社はロサンゼルスに2万フィートの巨大オフィスを開設している。このオフィスが注力して手がけるのは、Google、HTC、Udacityと共同で行う教育イニシアティブだ。また、サンフランシスコのオフィスにはコワーキングスペースが併設されており、ここでは35社を超すスタートアップが活動している。

同社は現在17人のフルタイム従業員を抱えており、その他にも「契約社員が大勢いる」という。

昨日、UploadのDigital and Social Media部門のディレクターを務めていた女性が社内でセクシャルハラスメント、女性差別、不当解雇を受けたとして訴訟を起こした。同社とその共同創業者たちに対するこの訴訟では、Uploadが「男性至上主義」の会社であり、「セクシャルハラスメントが横行し、それにより(女性にとって)耐え難い仕事環境がつくり出されている」としている。Upload, Inc.及びUploadVR, Inc.のそれぞれが本訴訟の被告として指名されている。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

MAプラットフォーム「b→dash」提供のフロムスクラッチが32億円の大型調達

フロムスクラッチ代表の安部泰洋氏

マーケティングプラットフォーム「b→dash」を提供するフロムスクラッチは5月16日、シリーズCラウンドで産業革新機構、楽天ベンチャーズ、既存株主などから合計で約32億円を調達したと発表した。

フロムスクラッチは2015年5月に約3億円を、続いて11月に約10億円を調達しており、同社の累計調達金額は約45億円となっている。

フロムスクラッチが手がける「b→dash」は、企業のマーケティングプロセス全体のデータを統合し、一気通貫で分析するSaaS型のマーケティングプラットフォーム。ウェブでの集客から顧客管理まで、マーケティングの「入口から出口」までを一元管理することができる。

データの取得はもちろん、取り込み、統合、加工、そしてデータの活用に至るまでのすべての機能をオール・イン・ワンで提供していることがb→dashの最大の特徴だ。これまでに、キリンエイチ・アイ・エス岡三オンライン証券などが同プラットフォームを導入している。

料金はプラットフォーム開発費用が約500万円〜、月額費用が60万円〜となっている。これは前回の取材時(開発費用が100万円〜、月額費用が50万円〜)から値上げされている。

月額費用が数万円のマーケティングツールも存在するなか強気の価格設定だとも言えるが、フロムスクラッチ代表の安部泰洋氏は「簡単に言ってしまえば、この値段設定でも受け入れられると考えたから。マーケティング活動をしっかりと行っている企業では、そのために様々なツールを使うと1年で3000万円ほどかかる場合が多い。データ統合基盤の構築なども含めると、さらに費用がかかる。一方のb→dashでは、ケースごとに異なるが年額1000万円ほどですべてを完結できることもある。データの取得から統合、活用までを1つで実現するソリューションとして考えれば、結果的に全体の費用を節約でき、十分に受け入れられる価格だ」と話す。

前回の10億円に引き続き、32億円という大型調達を完了したフロムスクラッチ。今回調達した資金は主にプラットフォームの追加開発に使うとしている。その具体的な内容として同社が挙げたのが、安部氏が「b→dashの本質的な強み」と話す”データ統合の強化”、そして”データ処理能力の強化”と”人工知能の開発”だ。

3つのコアコンピタンス

データ処理能力の強化について安部氏は、「今後、MAプラットフォームがオンプレミス型からクラウド型に移行していくのは確実。しかし、クラウド型には『データの処理能力が低い』という課題がある。そこで私たちは、大量のデータをクラウド上で瞬間的に処理できるようなエンジンやアーキテクチャを実現するための研究開発を行う」と話している。

そして、安部氏が特に強調して話すのが人工知能の開発だ。b→dashの最大の特徴はマーケティングの入口から出口をカバーしていることだというのは先ほど述べた通り。だからこそ、フロムスクラッチはWebの行動データから購買データにいたるまで様々な種類のデータを持つ。そのビッグデータを”餌”にして人工知能をトレーニングすることで、精度の高い予知機能(例えばある顧客にどの営業員を担当させるべきなのかなど)を提供できると同社は語る。

「今後、フロムスクラッチのコアコンピタンスは、データの統合技術と高速処理技術、そして人工知能の3つになる。今のb→dashは、『コアコンピタンス×日本(地域)×マーケティング(事業領域)』として捉えることができるサービスです。今後、このコアコンピタンスに様々な地域や事業領域を掛けあわせていくことで、様々なサービスを実現していく」と安部氏は話す。

その具体例として安部氏が挙げたのは、中小企業やBtoB企業向けの新しいマーケティングプラットフォームの開発だ。マーケティングに大きな予算をかけることができる大手企業や一部のBtoC企業とは違い、中小企業やBtoB企業は価格の安いマーケティングツールを求める傾向がある。「価格感が合わず、これまでは『外していた』ような領域だった」と安部氏は話すが、今後は低価格帯のプラットフォームを新たに提供することで彼らのニーズにも応えていく。

「BtoB向けのプラットフォームの利用料金は数万円、極端に言えばタダでもいいと思っている」と安部氏が話すように、BtoB企業向けのマーケティングプラットフォームはフロムスクラッチにとって収益を得る手段ではない。同社は、b→dashを通してBtoC企業のデータは持っている。しかし、今後データと人工知能を活用していくフロムスクラッチにとって、BtoB企業に向けたプラットフォームを用意することで彼らがもつデータを手に入れることの方が重要だということだろう。

良い頃合いに声がけ―、ネット接客のAI化でSprocketが新機能

声がけはアートだ。雑貨店やアパレルショップで店員が声がけしてくるとき、早すぎると客にうとまれる。かといって顧客が相談したいタイミングで視線が合わないようなところにボケっと立っているようでは失格。正しいタイミングで声がけできる売り子の売上成績は良いだろう。

これはウェブサイトも同様だ。ポップアップや画面の下からニュルッと出てくるチャットウィジェットで来訪者に「声がけ」するタイミングには、早すぎることも、遅すぎるということもある。これを機械学習で最適化しようというのがSprocketが本日リリースした「Autosegment」だ。すでにピザハットなど従来からのSprocketの顧客が導入を開始しているという。

購入を迷っている人に返品のFAQをすっと見せる

ウェブ接客のSaaSを提供するSprocketについては2015年5月にTechCrunch Japanでお伝えした。法人向けのモバイルEC制作の受託事業を行っていた「ゆめみ」から分離独立して深田浩嗣氏が創業したスタートアップ企業だ。Sprocketは2015年に1億2000万円の資金調達を行い、2017年1月にもシリーズAとして1億6000万円の資金調達をD4Vアコード・ベンチャーズなどから行っている。深田氏はゆめみの共同創業者だったが、特定事業を切り出す形で再び別企業としてスタートアップを始めた形だ。

Sprocket創業者で代表取締役社長の深田浩嗣氏

Sprocketが提供しているウェブ接客(ここに事例集がある)は、なかなか面白い。いくつか例を出そう。

ワコールの女性向けの下着販売であれば、通常のアイテム一覧リストをスクロールダウンしたタイミングで、画面下部に女子キャラを表示。顧客に対して「谷間をキレイに見せるブラ」「大きい胸を小さく見せるブラ」など4つの選択肢を示して「何をお探しですか?」とやるわけだ。画面でいうと以下のような感じ。

特に効果があるのは購入直前で逡巡しているような人に出す情報だという。「返品に関するFAQは通常サイトのどこかに眠っています。これを購入ボタンを押そうか迷っている人に提示することで不安が解消されてコンバージョンは上がります」(深田氏)

ログイン失敗時には、パスワードリマインダーに誘導するメッセージを出したり、ゲスト購入も可能であるむねメッセージを出したりする。

ピザの購入直前の画面ではシズル感のある動画で、チーズがニューッと伸びるのを見せるとコンバージョンが上がるそうだ。さらにトッピングのおすすめもランキングで見せる。これは、電話での受付で顧客の注文を聞いた後にオペレーターがやる追加提案のようなものだ。

野菜の定額配送サービスであれば、初めてサイトを訪れる人に対して野菜の安全性などを説明し、続いて料金のシミュレーションができるコンテンツへ誘導する。

 

「SprocketはUI改善というよりも、導線を動的に作ってるということなんです。すっと情報を提示して来訪から購入までの体験を一直線にする」(深田氏)

すでにこうしたウェブ接客は成果をあげている。深田氏によれば、顧客1社あたりのSprocketへの支払い額は月額20万円前後で、それによって支払額の10倍程度の収益増に繋がるというのが一番多い事例だそう。中には投資額に対して50倍程度の収益増となっているケースもあるという。リターンが大きいのは生命保険やクレジットカードの申し込みなどの「説明系商材」。価格の高い化粧品などもSprocketの導入効果が大きいという。

Sprocketでは顧客に導入提案をするときに、達成するROIを保証しているという。導入後に調整が必要なケースもあるが、2、3カ月程度で提示したリターンが出るケースが9割程度という。「ツールとして売れることは分かったので、今の課題は組織としてどうスケールするか」(深田氏)

今回リリースした機械学習のAutosegmentは、ユーザーの行動を観察して、Sprocketが持っている接客パターンのどれを誰に当てるべきかを考えて実行する部分を機械化するという。

・購入を悩んでいそうなら不安を解消するような話をする
・自分を納得させるプッシュがほしそうならプラスアルファの説得材料を提示する
・まだ他の商品も見たそうなら関連する他の商品を紹介する

といったことを判断して接客の仕方をリアルタイムに変える。まだどの程度実際の収益増に繋がるかという具体的な数字は出ていないものの、複数実施しているトライアルからすると20%程度の収益向上は見込めるのではないかという。

AIによる接客の結果は再び機械学習の教師データとしてSprocketのシステムにフィードバックすることができる。「自分の接客の結果から学習し、自ら接客の仕方をブラッシュアップするAIです。やればやるほど接客の精度が上がる」(深田氏)。今後は流入経路や天気・ニュースなど外部の情報も接客判断に使えるように拡張することも考えているとか。

現在Sprocketの顧客は約100社。年商は2〜3億円のレンジで成長している。海外に目を向ければMarketoやEloquaなどマーケティングオートメーション領域では競合大手も少なくないし、Walkmeという同コンセプトのサービスもある。ただ、SaaSといってもSI的要因も強い商習慣の違いなどから日本のEC市場では国産サービスが伸びそうだ。国内競合サービスには、プレイドの「KARTE」やSocketの「Flipdesk」、NTTドコモの「ecコンシェル」などがあるほか、クーポン配布ということだとEmotion Intelligenceの「ZenClerk」もある。

人材採用サービス「SCOUTER」運営が1.5億円の調達、専門家が転職支援する新サービスも

SCOUTER代表取締役社長の中嶋汰朗氏

SCOUTER代表取締役社長の中嶋汰朗氏

ユーザー自身がヘッドハンターとなり、知人や友人の採用を支援する——そんな一風変わったソーシャルヘッドハンティングサービスが「SCOUTER」だ。サービスを運営するSCOUTER(旧社名RENO)は5月12日、ANRI、SMBCベンチャーキャピタル、ベクトル、Skyland Ventures(追加投資)、フリークアウトホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏ほか個人投資家数名を引受先とした総額約1億5000万円の第三者割当増資を実施したことをあきらかにした。

冒頭でふれたとおり、SCOUTERはユーザーが「スカウター(ヘッドハンター)」となり、人材を募集する企業に対して自身の知人や友人を紹介。無事採用が決まれば、転職者の年収の5%を報酬として受け取れる(転職者にも祝い金が支払われる)というサービス。企業のサービス登録は無料。採用時にSCOUTER社は転職者の年収の30%を上限とした手数料を受け取るというモデルだ。スカウターは審査の上、SCOUTER社との雇用契約を結ぶことで有料職業紹介の法律に抵触することを防いでいる。これは厚労省にも確認を取っているという。スカウターは副業、もしくは本業としてヘッドハンティングを行うわけだ。

SCOUTERのサービスの流れ

2016年4月にサービスを開始し、現在のスカウターは2200人。応募はその3倍ほどあるそうで、安定的に人数は増えているそうだ。当初はIT領域の人材がほとんどだったが業種も広がり、現在ではIT領域の人材は約40%になった。地方のスカウターも増えており、すでに全体の15%を占めるという。マッチング率についても数パーセントという実績がある。「業界平均でも5〜6%、大手で10%ほど、求人件数はまだ少ないのは事実だが、マッチング率はほぼ変わらない。つまりプロのエージェントでも、スカウターでも、ほぼ能力の差がないと言えるようになってきた。今後は大手との差の数パーセントをどう技術で解決していくかだ」(SCOUTER代表取締役社長の中嶋汰朗氏)

ポジティブな実績が出ている一方で、課題も見つかった。実際のところスカウターが紹介するのは親しい友人ではなく、あくまでちょっとした知人が中心。「ソーシャル」という点では当初の読みとは異なる状況だという。「元人材エージェントという経歴を持つ、いわばセミプロのようなスカウターも増えてきた。だが一方で本当に身近なところに転職者がいないという課題もある」(中嶋氏)

そこでSCOUTERが打ち出すのは、スカウターの「プロ化」だという。スカウターがこれまでのキャリアや専門性を生かし、自身が知る業界に特化したエージェントとして転職者の相談に乗るという仕組みだ。今夏をめどに、「SCOUTER Pro」としてサービスをリリースする予定だという。「転職情報は我々が提供するので、業界特化で専門性の高い人が専門領域での転職相談に答える仕組みを作る。それは一般のエージェントでもできないことだ」(中嶋氏)。このほかにも、医療業界特化のサービスも準備中だという。

 

なおSCOUTER Proの提供に先駆け、6末にはSCOUTERの大幅アップデートも予定する。すでに一部の機能は実装済みだということだが、履歴書や職務経歴書の自動生成なども用意して、スカウターがより活動しやすい仕組みを作るとしている。

 

Slackやチャットワークと連携する受付システム「RECEPTIONIST」、運営元が資金調達

飲食店向けの予約、顧客台帳サービスを開発するトレタCTOの増井雄一郎氏が有志メンバーと共に、TechCrunch Tokyo 2015のハッカソンで開発したオフィス受付のためのiPadアプリ「→Kitayon(キタヨン)」。

同サービスが、1月にディライテッドに譲渡され、追加開発を経て「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」というサービス名での提供が開始されたことは、本誌TechCrunch Japanで紹介した。

そのディライテッドが5月11日、大和スタートアップ支援投資事業有限責任組合、TVC2号投資事業有限責任組合、個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、関係者によると数千万円規模と見られる。

調達した資金はエンジニア、営業の採用および、プロダクト基盤の強化、新機能開発、他社サービスとの連携、営業活動と既存顧客のサポートの強化に充てるとしている。

“10年以上の受付勤務”の知見を活かしたサービスに

ディライテッドの創業は2016年1月。USEN、ミクシィ、GMOインターネットなどのIT企業で10年以上、受付のキャリアを積んできた橋本真里子氏(代表取締役CEO)が立ち上げた。そのきっかけについて、彼女はこう語る。

「受付の仕事は一生続けられるものではないと思っていましたし、10年以上続けてきて、そろそろ次のキャリアを考えるタイミングかな、と。自分は何をやりたいのか、さまざまな選択肢を考える中で出てきた答えが、“これまでの知見を活かした受付サービスの開発”だったんです」(橋本氏)

多くのオフィスの受付は入館手続きをしなければならなかったり、内線電話で担当者を呼び出す必要があったり、アナログで非効率な部分が多く残っている。橋本氏は10年以上の受付の仕事で、オフィスの受付が旧態依然とした状況にあることを痛感していた。

また、既存の受付システムでもタブレットを用いるものがあるが、言ってみればiPadを内線電話の回線につなげたものがほとんど。コスト、導入のしやすさといった観点で最良と思えるサービスがなかったた。そこで橋本氏は自分で会社を立ち上げて、サービスを開発することを志した。

トレタCOOとの再会がRECEPTIONIST提供の契機に

「とは言ったものの、私に開発のスキルは全くなくて……。また、エンジニアともうまくコミュニケーションをとれる自信がなかったので、まずはミクシィ時代のつながりから真弓(ディライテッド取締役 COO プロダクトマネージャー 真弓貴博氏)をプロダクトマネージャーとして仲間に誘って、開発の体制を整えていくことにしました」(橋本氏)

そんな中、2016年3月に開催された招待制イベントで橋本氏は、旧知の仲だったトレタCOOの吉田健吾氏と再会した。

もともとTechCrunch Tokyo 2015で増井氏を中心としたトレタのメンバーがKitayonを開発したことを橋本氏は知っていたそうで、Kitayonの現状について話をする中で、自然と事業譲渡という選択肢が浮かび上がってきたという。

そして2017年1月、トレタからKitayonを引き継ぎ、追加開発を行ってRECEPTIONISTの提供を開始した。この譲渡にともなって、トレタCEOの中村仁氏、増井氏はディライテッドのアドバイザーになっている。

「リリースする前に中村さん、増井さんから経営、開発の両面でさまざまなアドバイスをしていただけたのは、すごく助かりました。そのおかげで今のRECEPTIONISTがあるのかな、と思っています」(橋本氏)

Slack、チャットワークと連携するiPad無人受付システム

そのRECEPTIONISTは、iPad無人受付アプリ。Slack、チャットワークと連携することで内線電話を使わずに担当者を呼び出すことができる。具体的には、予め発行された6桁の数字を受付のiPadアプリに入力すると、社員の持つiPhoneアプリに通知が送られる、という仕組みだ。他には、担当者を名前で検索することも可能となっている。

導入にあたって、必要なのはiPadのみ。初期工事は不要のため、初期費用0円で即日利用することができる。このハードルの低さから正式なサービス開始以降、導入企業は増えていっており、受付処理件数は2万回を突破したという。

現在、提供している料金プランは3種類。橋本氏によると、「現在の導入企業の半数が無料での利用になっている」とのこと。「ただ、RECEPTIONISTは既存の内線電話と併用して、社内の一部から導入もできるので、あらゆる企業で導入していただけるチャンスがあると思っています」(橋本氏)とも語った。

今後は担当者への通知を何度も行えるようにするほか、飛び込み営業対策、チャットツールの連携先の拡大など機能の強化を図っていき、導入企業数を増やしていくそうだ。

ディライテッド株式会社 代表取締役CEOの橋本真里子氏

ブラウザベースの法人向けビデオチャットサービスFaceHubを提供するFacePeerが総額2億円の資金調達

ブラウザ上で映像によるコミュニケーションを実現するビデオチャットサービス、特にW3Cが提唱するオープン規格のWebRTCを使ったものはいろいろと提供されているが、企業での利用を前提としたものは少ない。「FaceHub」は、WebRTCをベースにしながらB2B2Cでの利用を想定して、2015年7月から提供されている法人向けビデオチャットサービスだ。

FaceHubを提供するFacePeerは5月10日、三井住友海上キャピタル、マイナビ、三生キャピタル、日本アジア投資を引受先とする第三者割当増資の実施と、日本政策金融公庫からの資本性ローンと新株予約権付融資を組み合わせた借入による、総額2億円の資金調達を発表した。

FacePeerでは、これまでに2015年7月にレアジョブとショーケース・ティービーから、2016年2月には日本アジア投資とCSAJスタートアップファンドから総額1.1億円の資金調達を実施しており、今回が3回目の資金調達となる。

FaceHubは、WebRTCを利用することにより、アプリのインストールが不要(IEではプラグインは必要)で、ブラウザ上でURLをクリックするだけで使えるビデオチャットのプラットフォーム。WebRTCでは一般に、ユーザー同士を直接つなぐピア・ツー・ピア接続となるため、会話の管理・監視や録画録音ができず、またセキュリティ面での不安からも企業ユースには使いにくいが、FaceHubではクラウド上にコントロールサーバーを配置し、通信を制御、こうした課題を解決している。また音声の自動文字起こしや画面共有などの機能も提供されている。

FaceHubの仕組み(FacePeerサイトより)

FaceHubはPCおよびAndroidのWebブラウザに対応する他、iOSアプリ、Androidアプリが用意されている。2017年3月には、自動車などの事故の損害調査サービスにスマホ動画を活用するため、三井住友海上火災保険がFaceHubを採用。その他、日本医療通訳サービスが提供する遠隔医療通訳サービス「Medi-Call.」、ケイ・オプティコムが提供する「クラウド翻訳」をはじめ、ECサイトの接客やカスタマーサポートなどで採用されているという。

FacePeerでは今回の資金調達により、FaceHubの機能開発の強化と、エンジニアおよび営業の採用、現行サービスの品質向上を図るとしている。

料理デリバリーのPower SupplyがTerittoryに社名変更し、670万ドル調達

「食品のデリバリーサービスはもう必要ないよ」と思っている諸君。それは間違いのようだ。ヘルシーな食品を扱うデリバリーサービスのTerritoryが新たに670万ドルを調達することに成功したのだ。

元々Power Supplyという社名で営業していたワシントンD.C.のTerritoryは、今回調達した資金によって配達地域の拡大と、これまでにビジネスを展開していたワシントンD.C.、カリフォルニア南部、サンフランシスコでの基盤強化をはかる。

この資金調達のタイミングは縁起がいい。Territoryと同じように食品配達サービスを手がけるMaple(Momofukuのシェフとして有名なDavid Chang氏が出資していたスタートアップ)が先日サービスを停止したばかりなのだ。調理済みの食品デリバリーサービスを手がけていたSpoonRocketもまた昨年営業を停止している。

Territoryに出資する投資家や創業者たちが望むのは、同社がこの食品デリバリーサービス業界における新しいプレイヤーとなることだ。Territoryでは、地域のシェフたちがあらかじめ定められたメニューに従い、栄養士たちによって選ばれた食材を調理する。

Territoryの創業は2011年。The Motley Foolでフィナンシャルアナリストとして働いていた共同創業者のPatrick Smith氏とRobert Morton氏の2人が、ワシントンD.C.で食品系サービスを手がけていたJeff Kelly氏とJosh Krieger氏とタッグを組むことにより誕生した。

同社は2011年にワシントンD.C.でサービスを開始。2015年にロサンゼルス、2016年にサンフランシスコ、そして今年初めにダラスへと事業を拡大してきた。スローペースな事業拡大は同社の成長戦略に従ったものだ。

現在、Territoryは合計で200万件の配達実績をもち、350の地域でサービスを展開している。

Teritoryの成功の鍵となったのは同社の市場開拓戦略だ。彼らは地域にあるフィットネスジムや健康センターを通して顧客を獲得してきた。

健康志向の人々をターゲットにしたのは、創業者自身のライフスタイルが理由だった。

「私は長い間、自分の健康にまったくの無関心でした。(中略)そんな中、私は自分の寿命に限りがあることに改めて気がついたのです」とSmith氏は語る。「それがきっかけで、私はフィットネスや食品の栄養に関心をもつようになりました」。当時、Smith氏が求めるような食品を提供するデリバリーサービスは数えるほどしかなかったと彼は語る。だから、自分でやろうと決めたのだ。

Morton氏によれば、Territoryの創業者たちと同じように健康志向の人々は他にも沢山いたという。20代から40代の社会人のあいだで健康的なライフスタイルが一種の”はやり”になっていた。そこで、Territoryはジムのオーナーたちと手を組み、ジムを利用する人々に同社が提供するヘルシーな料理をアピールしてきた。

同社は地域のシェフと協力し、栄養士が監修したレシピにそって調理された料理を顧客に提供している。

Territoryはこれまでに、パレオダイエット用のメニューと通常のメニューを提供してきた。

同社は今回調達した資金によって新しく30日間のダイエットメニューの提供を開始する。これは、「食事への過度な欲求の原因となったり、メタボリズムや消化に悪影響を与える食事を除いたもの」で、MedStar Healtyが提唱する基準に基づいたものだ。カロリーは350〜600に抑えられ、30〜60グラムの炭水化物、750ミリグラム以下のナトリウム、7グラム以下の脂質を含む(この基準はAmerican Diabetes AssociationとAmerican Heart Associationが定めるガイドラインをもとに作成された)。その他にも、管理栄養士のAshley Koff氏が提唱するMediterraneanダイエット用のメニュー、妊婦向けのマクロ栄養素メニューの提供も開始する。

Terittoryが提供するすべての料理の価格は13ドルだ。

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Territoryにとって第1回目の資金調達ラウンドに参加したUpfront VenturesのパートナーであるKara Nortman氏にとって、Territoryのビジネスモデルは投資せずにはいられないほど魅力的なものだった。他社が苦戦を強いられていたマーケットで、Territoryはトラクションを獲得し続けていた。Nortman氏はその理由を知りたかったのだ。

Nortman氏によれば、Territoryはスーパーマーケットで買い物をしなくなった人々(主にミドル〜アッパクラスの人々)の行動パターンを変化させ、従来とは違った形で彼らの消費パターンに応える方法を模索しているという。このビジネスモデルがもたらした実績は、同社への再出資を正当化するには十分だった。

今回の調達ラウンドには新規投資家のNRVとLewis & Clark Ventures、既存投資家のThe Motley Fool Holdingsなども参加している。

「テクノロジー、食品配達に関する知識、そして地域のシェフやレストランが作るヘルシーでおいしい料理を組み合わせることにより、Territoryはロイヤリティの高い顧客を獲得することに成功しています。そして、それが高いマージン率や成長ポテンシャルの大きさにつながっています」とNRVの共同創業者兼マネージングディレクターのTed Chandler氏は語る。

Smith氏と彼らのチームの考えでは、Territoryが提供する料理はダイエットサプリメントなどに頼らない方法で人々の健康を促進するものだという。

「これまでは、『これはどんな効用のあるサプリメントですか?』という考え方が主流だったが、今ではそれが『これはどんな効用のある食品ですか?』というものに変わりつつある」とSmith氏は話す。「遺伝子シーケンシングやマイクロバイオームなどの研究はまだ始まったばかりだが、食品の栄養に関するガイドラインはすでに明確なものが出来上がっているのです」。

Smith氏が最終的に達成しようとしている社会的ミッションは、ブルジョワジーへの食品デリバリーにとどまるものではない。他の企業が新しいライフスタイルを提唱するのと同じように、Territoryの料理はより広範な家庭に受け入れられると彼は考えているのだ。

「これを達成することは私たちにとって非常に重要な目標です」とSmith氏は語る。「健康的な生活をおくるための秘訣は、良いものを食べ、よく運動することに尽きます。私たちはその方法を提供し、彼らのライフスタイルにある問題を解決するのです」。

食品へのアクセスは同社にとって最重要課題である。同社は、農家から学校に直接食材を届ける社会プログラムを米国全土で展開している。また、貧困者のための無料食堂に約100食の料理を寄付したり、従業員にボランティア活動を推奨するなどしている。

「これらの活動は私たちが真摯に取り組んでいるものであり、私たちにとって非常に重要な意味をもつものです」とSmith氏は語る。「これは、より多くの人々の健康状態を最大化するために私たちができることなのです」。

[原文]

(翻訳:木村拓哉 /Website /Facebook /Twitter

イヤホン型ウェアラブル「BONX」開発元が2億円の資金調達、老舗補聴器メーカーとも連携

イヤホン型ウェアラブルデバイス「BONX」を手掛ける国内スタートアップのBONXは5月10日、アドウェイズ、慶応イノベーションイニシアティブ(KII)、リオンおよび個人投資家を引受先とした総額2億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。BONXはこれまでに総額5億円の資金を調達したことになる。

今回の調達を契機に世界展開へ向けた包括的なマーケティングを進めるほか、調達先企業との技術シナジーの向上を目指す。また採用についても強化する予定だ。今回の発表に先駆けて、4月には米国法人のBONX North Americaを設立。北米市場での製品販売も開始している。

耐久性・安定性が向上した第2世代モデルを2016年末にリリース

BONX代表取締役の宮坂貴大氏

BONX代表取締役の宮坂貴大氏

最近ではウェアラブルデバイスの中でも、特に耳に付けて使用するものを「ヒアラブルデバイス」などと呼ぶこともあるが、BONXもそんなヒアラブルデバイスの一種。デバイスを片耳にセットし、Bluetooth接続したスマートフォンで専用アプリを起動すれば、最大10人の仲間内で会話ができる。

スマートフォン同士の通信は、3G/LTE経由でBONXの専用サーバにアクセスして行っている。最近ではグループ通話(厳密にはVoIP)可能なメッセージングアプリなどは増えているが、ユーザーが話しているときだけ音声を拾うことでバッテリー消費や通信量を削減するほか、発話検知技術(人の音か他の音かを判断する技術)により、リアルタイムに近い処理速度でのやりとりが可能だという。

BONX代表取締役の宮坂貴大氏は大のスノーボード好き。ウェアラブルカメラを手がけるGoProのCEO・Nick Woodmanがサーファーの経験からプロダクトの潜在的ニーズに気付いたように、スノーボードを通じで「アウトドアスポーツにおいて会話をしたい」というニーズを背景にしてBONXを開発した。

2016年12月には、第2世代モデルの「BONX Grip」をリリース(価格は同社ECサイトにて1万5800円。EC限定で割引価格になるセット販売も実施)。BONX Gripでは、(1)IPX5で生活防水に対応し、汗や湿気などによる故障の低下、(2)素材変更による長時間の着け心地向上、(3)内部基盤の見直し——の3点を行った。シルエットこそ旧製品とほとんど同じだが、内部基盤から見直した結果、耐久性や動作の安定性が格段に向上したという。

TechCrunch Japanで初めてBONXを紹介したのは2015年10月のこと。それから約1年半で海外進出を本格化した背景について、宮坂氏は次のように語る。「海外の雪山でも、この2年で電波の通じる場所が一気に増えました。SNS投稿のニーズが増し、(スキー場などが)宣伝の観点からも電波環境を整備しているようです。海外利用者について、これから増えると期待しています」。宮坂氏も自ら海外の雪山に行き、スノーボーディングしつつBONXのテストをしているそうだ。

アウトドア以外にも、店舗のインカムや工事現場のトランシーバーのリプレイスも狙う。これらの特定小電力無線は、混線したり、フロアをまたいだ通信ができなかったりとフラストレーションがたまる。だがBONXであれば、スマートフォンの電波が届く限り、途切れることないコミュニケーションが可能だ。

「BONX」(左)と新モデルの「BONX Grip」(右)

老舗補聴器メーカーとも事業シナジーを模索

今回BONXに出資したリオン。TechCrunchでその名前が挙がるのは初めてかもしれないが、同社は1944年の設立。東証一部に上場する国内最大手補聴器メーカーだ。「リオンは、補聴器技術において最高峰の技術力とノウハウを持っています。今回の調達前から、ハードウェアの技術面で支援いただいていました」(宮坂氏)。ある意味では“ヒアラブルデバイスの超先行企業”である同社との事業シナジーについても今後模索していくという。またKIIを通じて、慶應義塾大学の研究室(非公開)と発話検知に関する共同研究も実施中だという。

人材面では、CFOやエンジニア(主にソフトウェアやバックエンド)、海外事業担当などの求人を進める。「当初、ステルスで事業を展開していた時には『スケートパークから一番近いスタートアップ』という告知をしていました。そのため、スケボーや自転車、サバゲー、釣りなどのアクティブな趣味を持つ人が多いです。アウトドアスポーツに興味がある人やBONXのストーリーに共感してくれる人がいたら嬉しい」(宮坂氏)