クラウド録画サービスSafieが渋谷区のスマートシティ化を目指す「データ利活用事業」に採択、宮下公園で実証実験

クラウド録画サービスSafieが渋谷区のスマートシティ化を目指す「データ利活用事業」に採択、宮下公園で実証実験

カメラとインターネットをつなぎ、いつでもどこでも映像を確認できるクラウド録画サービス「Safie」(セーフィー)を運営するセーフィーは、東京都渋谷区がスマートシティ化のための提案を募集する「データ利活用促進にむけた技術実証・実装支援事業」に採択されたと発表。東京都・宮下公園において、公共空間利用の分析のための実証実験を同日より実施している。

Safieは、単に映像を録画するだけでなく、防犯や遠隔からの状況確認、異常検知・予測、映像解析による業務効率化といった用途に利用されている。セーフィーはこの機能を活かし、渋谷区に「クラウドカメラと映像解析AIを活用した利用者データの解析事業」を提案し、採択された。具体的には、公共空間の利用傾向や利用者の属性を把握することで、より便利で快適な公共空間の整備に役立てるというものだ。

実証実験は、渋谷区「Miyashita Park」の宮下公園内において2月8日から2月24日まで実施される。セーフィーは、同社のカメラ「Safie Go」4台を宮下公園の「パークセンター前エリア」「中央階段前エリア」「カフェ前エリア」の3カ所に設置し、利用者数や利用者の属性推定データ(性別/年代:子供・大人・年配者)を取得し分析する。このデータを、「より便利で快適な公共空間整備」の参考にするということだ。

AI解析には、セーフィーの「Safie AI People Count」と、フューチャースタンダードが提供するAI交通量調査サービス「SCORER Traffic Counter」が使われる。個人が特定される映像データは、上記解析以外には利用せず、利用状況を測定した後保存期限(3月31日)までに削除し、統計情報のみを保持するとのこと。

都市のスマートシティ化が進む中、セーフィーは「生活者の第3の目として1歩先の未来を見据えた意思決定の機会を実現し、多様化するニーズに応えてまいります」と話している。

AIの利用が加速するなか、韓国のデータラベリング企業AIMMOがシリーズAで13.8億円調達

人工知能モデルのほとんどは、監視下での学習を通じて訓練される。すなわち、生データへのラベル付けを人間が行う必要がある。データラベリングは人工知能と機械学習の自動化における最も重要な部分であるが、時間のかかる面倒な作業でもある。

韓国のスタートアップAIMMO(エイモ)は、ソフトウェアと人間を使って、画像、ビデオ、音声、テキスト、センサーフュージョン(複数センサーのデータを融合する)データのラベル付けとカテゴリー分けを行なってており、企業が高速でデータラベリングを行えるAIデータ・アノテーション・プラットフォームも開発した。

AIMMOは2022年1月2日、データラベリングテクノロジーの強化と世界進出の加速を目指し、1200万ドル(約13億8000万円)のシリーズAラウンドを完了したと発表した。ラウンドにDS Asset Management、Indsutrial Bank of Korea、Hanwha Investment & Securities、S&S Investment、Toss Investment、Korea Asset Investment & Securities、およびVenture Fieldというは7社のベンチャーキャピタルが参加している。AIMMOは企業評価額を明らかにしていない。

「パンデミックは、非接触テクノロジーへの転換と、情報監視、スマートシティ、無人運転車、スマートファクトリー、ロボティクスなどAIデータが不可欠な分野でのAI利用を加速しました」とAIMMOノグローバルセールス責任者、Doyle Chung(ドイル・チャン)氏はメールインタビューで答えた。「さまざまな方向性や業界がある中、当社の焦点は主として、スマートシティと自動運転です」。

2016年に、CEOのSeung Taek Oh(オ・スンテク)氏が設立したこのスタートアップは、3種類のデータアノテーションツールを持っている。AIMMO DaaSは自動運転車企業向けセンサーフュージョンデータを管理する。AIMMO GtaaSは、ビッグデータのためのターンキー方式のプラットフォーム、そして2020年に公開されたAIMMO Enterprisesは、クラウドアーキテクチャを使ったウェブベースのSaaSアノテーションラベリングツールだ。

同スタートアップは、これらのツールを使うことでデータアノテーションプロセスを効率化し、顧客はAIモデルに集中できる、という。プラットフォームの使用料はなく、コーディングのスキルやAIMMO Enterprisesのインストールも不要で、ユーザーはChromeなどのウェブブラウザーを使ってデータのラベリングができる。AIMMO GtaaSでは、ユーザーが生データをAIMMOに送ると、検査結果が戻される、とチャン氏は話した。

AIMMO DaaSプラットフォームを使ったデータラベリングの件数と売上は2021年に対前年比200%成長した。同社のIR資料によるとAIMMOの2021年の売上は1000万ドル(約11億5000万円)だった。自動運転分野の世界的需要の高まりを受け、2022年の売上が成長することを同社は予測している。

画像クレジット:AIMMOウェブサイトのスクリーンショット

データ収集とラベリングの市場規模は、2021年に16億ドル(約1843億円)で2028年には82億ドル(約9445億円)になるとGrand View Researchの市場分析レポートは予測している

AIMMOは幅広い企業にサービスを提供しており、顧客には自動車メーカーのHyundai Motor(現代自動車、ヒョンデ・モーターズ)、自動車部品製造メーカーのHyundai Mobis(ヒョンデ・モビス)、ライドシェアリングのスタートアップ、Kakao Mobility(カカオ・モビリティー)、カー・シェアリングのスタートアップSoCar(ソーカー)、自動運転貨物輸送デベロッパーのThoreDrive(トアドライブ)などがいる。AIMMOは自動運転車以外でも、ロボティクス、光学文字認識(OCR)、スマートファクトリー、インテリジェント監視、eコマース、ロジスティック業界、通信会社のSK Telecom(SKテレコム)、インターネット巨人のNAVER(ネイバー)、Kakao(カカオ)そして日本のKomatsu(コマツ)などとも仕事をしている。

韓国拠点のスタートアップは、英国、米国、日本、ベトナムに事業所がある。チャン氏によると、2022年にはドイツとカナダにも事業所を開く予定だ。AIMMOのが今後世界市場へ進出していけば、Scale AI(スケール・エーアイ)、Playment(プレイメント)、Understand.ai(アンダースタンド・エーアイ)、Deepen AI(ディープン・エーアイ)などがライバルになる。現在同社には世界で200名の社員と1万人以上のデータ・ラベラーがいる。

画像クレジット:ScreenShot | AIMMO

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(文:Kate Park、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Sidewalk Labsのスマートシティプロジェクトがグーグルに復帰

Alphabetのスマートシティプロジェクトが終了し、Googleが引き継ぐことになった。Sidewalk LabsのCEOであるDan Doctoroff(ダニエル・ドクトロフ)氏は、健康上の理由で退任することを記した書簡で発表した。広報担当者は、Sidewalk LabsのプロダクトはGoogleに組み込まれることを確認したが、AlphabetはCanopy Buildingsを別会社としてスピンアウトさせる予定だという。

「2022年からSidewalkのPebble、Mesa、DelveおよびAffordable ElectrificationのプロダクトはGoogleに加わり、Googleの都市持続可能性プロダクトの中核になります。これらのプロダクトは、Sidewalk Labsの都市プロダクト担当社長Prem Ramaswami(プレム・ラマスワミ)氏と最高技術責任者のCraig Nevill-Manning(クレイグ・ネヴィル-マニング)氏が引き続き担当します。2人はGoogle出身であり、チームは彼らのビジョンの実行を継続し、顧客に奉仕します」とドクトロフ氏は述べている。

Pebbleは縁石や駐車場の管理を目的とした車両センサーシステム、DelveはAIの力を借りて不動産開発を強化することを軸としている。Mesa sensorsは省エネを目的としたセンサー、Affordable Electrificationは家庭のエネルギー管理を目的としたセンサーだ。一方、Canopy Buildingsは「木材や木造建築の自動化された大量工場生産」を目指している。

ドクトロフ氏は6年前にGoogle内でSidewalk Labsを立ち上げ、その後Alphabetの傘下で独立企業になった。2017年10月、Sidewalk Labsはトロントのウォーターフロントにスマートな地域を建設する計画を発表した。Quaysideは、特に配達ロボットや騒音、交通、汚染といったものを管理するためのセンサーを多数導入していたはずだ。

しかし、Sidewalk Labsは2020年5月にプロジェクトを中断した。ドクターフは当時、新型コロナウイルス(COVID-19)による「前例のない経済的な不安」と、その他の妥協しなければならないことから、キーサイドのビジョンはもはや実行不可能であるとされていた。同社は、北米の開発プロジェクトに関するアドバイスも行っていた。

Sidewalk Labsからは、恵まれない地域のヘルスケアの改革を目指すCityblock Health、交通計画の見直しを目指したデータ収集プロジェクトで物議を醸したReplica「テクノロジーを駆使した新しい形のインフラを開拓した」とドクトロフ氏が語るSidewalk Infrastructure Partnersなどの企業がスピンアウトしている。

ドクトロフ氏は、医師からALS(ルー・ゲーリック病)である可能性が高いと判断され、身を引くことになったという。家族と過ごす時間を増やし、この病気と闘うことに専念するとのこと。2010年、ドクトロフ氏は、ALSと診断された父と叔父の死後、ALS研究のための新しい共同アプローチを構築することに焦点を当てた組織を立ち上げている。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者Kris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Sidewalk Labs

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(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

中国のAI・顔認識大手SenseTimeが香港でのIPOを準備中

中国最大級のAIソリューションプロバイダーであるSenseTime(商湯科技開発有限公司、センスタイム)は、IPOに向けて一歩前進した。メディアの報道によると、SenseTimeは香港証券取引所に上場するための規制当局の承認を受けた

2014年に設立されたSenseTimeは、Megvii、CloudWalk、Yituと並んで中国の「四大AIドラゴン」と総称されている。2010年代後半、SenseTimeのアルゴリズムは、現場のデータを実用的な洞察力に変えることを望む企業や政府から多くの需要があった。同社のAIモデルを組み込んだカメラは、24時間体制で街を監視している。ショッピングモールでは、同社のセンシングソリューションを利用して、施設内の混雑状況を追跡・予測している。

SenseTimeのライバル企業3社は、いずれも中国本土か香港での株式売却を検討している。Megviiは、香港証券取引所への申請が失効した後、中国のNASDAQ式証券取引所、STAR Board(科創板)への上場を準備している。

関連記事:中国最大級の顔認証ユニコーンMegviiが上海でのIPOを準備中

中国のデータリッチなテック企業が海外で上場する道は狭まっている。北京は、機密データを持つ企業が中国国外で上場することを難しくしており、欧米の規制当局は、大量監視を助ける可能性のある顔認証企業に対し慎重な姿勢をとっている。

しかしここ数年、中国のAI新進企業は世界中の投資家から求められていた。2018年だけで、SenseTimeは20億ドル(約2300億円)以上の投資を集めた。これまでに同社は、12回のラウンドを通じて52億ドル(約5982億円)という驚異的な額の資金を調達している。最大の外部株主には、SoftBank Vision Fund(SVF、ソフトバンク・ビジョン・ファンド)とAlibaba(アリババ)のTaobao(淘宝、タオバオ)が含まれている。ロイター通信によると、SenseTimeは香港での株式公開にあたり、最大20億ドル(約2300億円)の資金調達を計画しているという。

目論見書によると、SenseTimeは資本の大部分を研究開発に費やしており、2018年から2020年の間に50億元(7億8000万ドル、約897億円)以上の費用がかかっている。同社は過去4年間、純損失を計上しており、その主な原因は「優先株式の公正価値損失」である。その純損失は2021年の上半期に37億元(約666億円)に達した。6月時点での赤字総額は230億元(約4139億円)に迫る。

同業他社と同様に、SenseTimeは「スマートシティ」プロジェクトを収益化の柱としており、6月までの半年間の総売上高16億5000万元(約297億円)のうち、47.6%を占めている(2020年同期は27%)。同社の目論見書によると、SenseTimeのソフトウェアプラットフォームを利用している都市の数は、6月までに119に達した。

商業施設や賃貸マンションなど、企業のニーズに合わせた「Smart Business」ラインは、2021年上半期の収益の約40%を占めた。同社は残りの収益を、IoTデバイスに供給する「Smart Life」部門と、知覚知能を自律走行ソリューションに適用する「Smart Auto」から得ている。

画像クレジット:Gilles Sabrie/Bloomberg via Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

スマホを使った観光向け交通関連サービスHoraiのscheme vergeが2.2億円調達、事業者向けにHorai for Bizを開発

スマホを使った観光向け交通関連サービスHoraiのscheme vergeが2.2億円調達、事業者向けにHorai for Bizを開発

「都市の再発明」を目指すアーバンエンジニアリング企業scheme vergeは9月10日、プレシリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による約2億2000万円の資金調達を発表した。引受先は、リード投資家の環境エネルギー投資、また山口キャピタル、サムライインキュベート。累計調達額は約2.9億円となった。

また、今後のスマートシティ領域への展開を見据え、松尾豊氏(東京大学教授・人工知能学会理事)および大口敬氏(東京大学教授・次世代モビリティ研究センター長)をアドバイザーに招聘し、最新の知見を取り入れた事業開発・プロダクト開発を推進する体制を整えた。

2018年7月設立のscheme vergeは、多様化・個人化が進む観光客のニーズに応えることに特化した、スマートフォンを使った交通関連サービス「Horai」を開発。2019年には瀬戸内のアート巡りを海上モビリティの面から支援するHoraiアプリ(Android版iOS版)をリリースしており、ユーザーは、写真から好みのアートサイトをアプリ内で選び、島をめぐる旅程を手軽に作成できるようにしている。移動手段にはフェリー・旅客船が表示されるほか、乗り合い海上タクシーの予約も可能。国土交通省の「新モビリティサービス推進事業」「日本版MaaS推進・支援事業」に採択されるなど、MaaSやスマートシティ構築、あるいは観光DXのソリューションとして採用されているという。

また、Horaiの開発を通じて構築したシステムを展開することで、三重県伊勢市や神奈川県三浦半島、長崎県五島列島など様々な地域におけるMaaSの構築にも活用されており、「スーパーシティ」事業においても「連携事業者候補」に全国5つの自治体で採択されている。

調達した資金は、プロダクト開発体制の強化と、各地での事業開発を推進するための人材採用・体制強化を中心に投資する予定。具体的には、観光・飲食・小売などローカルビジネス向けに、複数業態・事業をまたいだワークフロー構築や顧客管理の電子化が行える事業者向けプラットフォーム「Horai for Biz」の開発を進めており、MaaSや観光DXを進めるうえでの課題解決に役立てるとしている。

Horaiアプリにおいても、「エンドユーザー(観光客)の使いやすさに寄り添ったUIUXの改善」「ローカルサービス(訪問先)のさらなる掲載数増」「旅程作成アルゴリズムの大幅な精度向上」によって、大幅な改良に取り組む(今冬リニューアル予定)。

また、主な資金使途であるプロダクト開発とは別に、scheme vergeの核である「アーバンエンジニアリング」の確立に向け、建築情報スペシャリストやデータサイエンティストを含めたプロフェッショナルサービス体制への投資を進めているという。東京大学杉山将研究室や建築情報学会、Agoopなど様々なバックグラウンドをもったメンバーを集めており、学生・社会人を問わず広く採用を行っている。

これら採用に加え、アドバイザーに就任した松尾豊氏と大口敬氏と連携して、データ利活用に戦略的に取り組み、AI・ディープラーニングの社会実装に関する知見と、交通・都市マネジメントに関わる知見を掛け合わせることで、「エリアマネジメント」や「不動産利活用」の最適化とノウハウ可視化に取り組む。

一部エリアにおいては、実際にビーコンやスマートロック、予約管理システムを前提とした施設の運営・プロデュースや、それらからのデータを用いた複数施設の開発・運営計画の立案などが進展している状況という。

さらに、瀬戸内や大阪など、ビジネスの現場にブランチを形成し、各地のエリア課題を調査しながら、解決のロードマップを設定する体制も構築。これにより、スマートシティ・スマート社会・スマート観光の領域において、「様々なシステムを導入するだけでなく、地域(エリア)全体として既存・新規のデータ利活用に戦略的に取り組みたい」といった問題意識をもった顧客と共同で、エリア課題の解決・新規価値創出に取り組むとしている。

デジタルツイン関連技術・サービスを展開する企業をまとめた「デジタルツイン 業界カオスマップ」2021年8月版

  1. デジタルツイン関連技術・サービスを展開する企業をまとめた「デジタルツイン 業界カオスマップ」2021年8月版公開

デジタルツインプラットフォームの開発・提供を行うSymmetry Dimensions(シンメトリー・ディメンションズ)は8月19日、2021年8月版「デジタルツイン 業界カオスマップ」を発表した。

2014年10月設立のSymmetry Dimensionsは、空間・都市向けデジタルツイン構築およびプラットフォーム開発を行う企業。空間や都市における人流・交通・IoT・BIM/CIMなど様々な種類のデータをプラットフォーム上で統合・解析することで、誰もが簡単にデジタルツイン上での仮説・検証・計画を行うことを可能にするとしている。

デジタルツインとは、物理空間に存在する場所や事象について、IoTデバイスなどを用いてデータ化しデジタル空間上に再現することで、分析・予測などを可能にする技術。データを活用した業務の最適化を行う方法として、製造業や建設業、スマートシティなど様々な分野での活用に注目が集まっているという。

同社は、2021年8月版「デジタルツイン 業界カオスマップ」とともに、デジタルツインの市場動向およびテクノロジーのうち、特にトレンドとなっている注目すべき重要なキーワードを解説している。

「オープンデータ」の加速

デジタルツインやスマートシティを構築する基盤として、世界中の国や自治体でオープンデータ化の取り組みが加速している。米国政府機関や州・都市などが保有する公共データを一元的に管理提供する「Data.gov」では、2009年の発足当初47件だったデータが、現在では6570倍の約31万件に増大。日本国内では2021年3月に公開された国土交通省の3D都市モデル「Project PLATEAU」(プロジェクト・プラトー)、静岡県の3D点群(Pointcloud)データベース「Virtual Shizuoka」など、3Dデータを中心としてオープンデータ化が進んでいる。

「製造」「建設」業界が先行するデジタルツイン

従来から3Dデータを利用していた製造・建設業界は、デジタルツイン化への対応も早く、これらのニーズに応じたデジタルツイン構築やサービス提供を行う企業が増加している。また、製造業界では自社開発でシステム化を進める企業が多く見られる一方、建設業界では外部テクノロジー企業との協業によるシステム化を進める傾向にある。建設業界においては、今後もスタートアップをはじめとした様々な企業からデジタルツイン開発への参入が活発になるとしている。

業界を横断した「汎用型」プラットフォーム(Cross-Industry)

スマートシティに代表される都市型デジタルツイン領域では、業界を横断した汎用型のデジタルツインプラットフォームが登場。これは、IoTセンサーの普及による現実空間のデータ収集が増大したこと、iPhoneをはじめ身近な製品がLiDARセンサーを採用するなど現実世界をデータ化する流れが加速していることで、従来は3Dデータを使用していなかった企業においてもデジタルツインの構築・利用が可能になってきたためという。

「マルチエクスペリエンス」

デジタルツインの活用では、企業や組織のあらゆる関係者が、場所を問わず、より迅速に現在の状況を把握・共有し、次の行動につながる意思決定を行う必要があるという。Symmetry Dimensionsは、そのためウェブブラウザー・スマートフォン・xR(拡張現実、複合現実)を組み合わせたマルチエクスぺリンス化が加速するとしている。ウェブブラウザーを基点としたクラウドベースのデジタルツインプロダクトは今後さらに増大するという。

デジタルとフィジカルの双方向での共有・連携

現実空間の位置情報に基づき、永続的に情報を保存し、ユーザー間での共有を可能にする技術である「AR Cloud」の進化と、コロナ禍により、あらゆる業務の「デジタルファースト」のプロセスが加速し、デジタルツインと物理空間の双方向でのデータ共有・連携が進むという。これによりデジタルツイン上で行われた意思決定の迅速な現場への反映と、最適化された従業員エクスペリエンスを提供をするようになるとしている。

市の現実的な問題を解決するオハイオ州コロンバスを「スマートシティ」に変えたテクノロジーたち

2015年、米国運輸省はSmart City Challenge(スマートシティ・チャレンジ)を主催した。米国全土の中規模都市から、データとテクノロジーを活用したスマートモビリティシステムに関する先進的な構想を募集するコンテストだ。全米から78の都市が応募し、オハイオ州コロンバス市が優勝した。

2016年、人口100万人弱のコロンバス市は、その構想を実現するための資金となる連邦助成金5000万ドル(約55億8000万円)を優勝賞金として受け取った。そのうち4000万ドル(約44億6000万円)は米運輸省、1000万ドル(約11億2000万円)はPaul G Allen Family Foundation(ポール・G・アレン・ファミリー財団)が出資している。

構想を実現するためのこのプログラムは2021年6月中旬に終了したが、コロンバス市は今後も同市の財源を使ってテクノロジーの統合を進めて「協働イノベーションの実験都市」としての役割を続け、社会問題に取り組んでいくことを発表した。とはいえ、これは具体的にはどういうことなのだろうか。

コロンバス市の「スマートシティ」は、トヨタが富士山麓で建設を急ピッチで進めている実証実験の街「ウーブン・シティ」とはまったく異なるものだ。そもそも、コロンバス市はウーブン・シティのようなものを目指しているのではない。

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Smart Columbus(スマート・コロンバス)構想の担当者であるMandy Bishop(マンディ・ビショップ)氏は、TechCrunchに次のように説明する。「私たちは、単にテクノロジーの実用化を目指してテクノロジーを導入しているのではありません。モビリティや交通についてコロンバス市が抱えている問題に注目し、それらの問題の一部に集中して取り組むためにコンテストの賞金を使っています」。

同市が抱える問題には、各種モビリティへのアクセシビリティの欠如、公共交通機関では十分にカバーされていないエリアがあること、駐車スペースに関する課題、運転マナーの悪さのせいで衝突事故が多発していることなどが挙げられる。ご推察のとおり、多くのスタートアップがこれらの問題を解決すべく取り組んでいる。本稿では、そのようなスタートアップが提供しているソリューションについて紹介する。

Etchによる「Pivot」アプリ

Etch(エッチ)は、コロンバス市を拠点とし、地理空間ソリューションを提供するスタートアップである。2018年に創業したばかりの同社にとって、スマート・コロンバス構想への参加は本格的な経験を積む機会となった。同社は、バス、配車サービス、カープール、マイクロモビリティ、個人用の乗り物を組み合わせてオハイオ州の中心部を移動するルートを検索するためのマルチモーダル交通アプリ「Pivot」を開発した。

EtchのCEO兼共同創業者のDarlene Magold(ダーリーン・マゴールド)氏はTechCrunchに次のように説明する。「コミュニティのみなさんに、どんな交通手段が使えるのかを伝えること、そして、コストや他の条件に応じてその手段を並び替えるオプションを提供することは、当社のミッションの一部でした」。

Pivotアプリは、OpenStreetMapやOpenTripPlannerなどのオープンソースツールを基に構築されている。EtchはOpenStreetMapを使って、特定のエリアの現在状況に関してコミュニティからクラウド経由で集まる最新情報を取得する。これは、Wazeに似た仕組みだ。OpenTripPlannerは、異なるモビリティ別にルートを組み立てるのに使われる。

「当社のアプリはオープンソースであるため、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)をはじめとする他のモビリティサービスと統合することによって、個人用の乗り物(所有している場合)以外にどんな交通手段が使えるのかを可視化する点で、ユーザーに多くのオプションを提供できます。このアプリによって、バスの現在地やスクーターの場所をリアルタイムで把握できるため、移動することや複数の交通手段を使うこと、Uberの利用、自転車やスクーターのレンタルにまつわる心配事を減らすことができます」。

前述の連邦助成金のうち125万ドル(約1億4000万円)が投じられたPivotアプリは、現在までに3849回ダウンロードされている。コロンバス市はPivotアプリの開発と利用促進のための資金を引き続き提供していく予定だ。

Pillar Technologyによる「スマート・コロンバス運用システム」

コロンバス市は、スマート・コロンバス構想の既存の運用システムをさらに発展させるために、スマート化向けの組み込みソフトウェアを提供するPillar Technology(ピラー・テクノロジー)を採用した。同社は2018年にAccenture(アクセンチュア)によって買収されている。2019年4月には、コロンバス市のモビリティ関連データ(2000のデータセットと209のビジュアルデータを含む)をホストするために1590万ドル(約17億7000万円)をかけて開発されたオープンソースプラットフォームが始動した。

「このプロジェクトは最低でも2022年1月まで続く予定です。コロンバス市は今後も、モビリティや交通に関する事例を積み上げて、運用システムの価値と活用方法をさらに明確にしていきます」とビショップ氏は語る。

スマート・コロンバス運用システムは、既存のデータセットに新たなデータを追加するよう他の企業を招待している。また、衝突率を低下させる方法や、駐車スペースを最適化する方法などの課題に関するソリューションをクラウドソーシングで募集している。

ParkMobileによるイベント駐車場管理アプリ「Park Columbus」

ParkMobile(パークモバイル)は、スマートパーキングのソリューションを提供するアトランタ拠点のスタートアップだ。スマート・コロンバス構想では、駐車スペースを探し回ることを防ぐことによって渋滞と大気汚染の軽減を目指すイベント駐車場管理アプリ「Park Columbus(パーク・コロンバス)」を開発した。ユーザーは駐車場の検索、予約、支払すべてをアプリ内で完結できる。

コロンバス市の広報担当者によると、スマート・コロンバス構想のイベント駐車場管理アプリは、ParkMobileの既存ソリューションを強化する形で開発されたという。130万ドル(約1億5000万円)が費やされたこのアプリは、2020年10月から2021年3月までの期間に3万回以上ダウンロードされた。同アプリには今後、予測分析テクノロジーによって路上駐車スペースを表示する機能が追加される予定で、コロンバス市は引き続き同アプリに資金を提供していく予定だ。

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Orange Barrel Mediaによる「Smart Mobility Hubs」キオスク

Smart Mobility Hubs(スマート・モビリティ・ハブ)は、都市の風景になじむメディアディスプレイを開発するOrange Barrel Media(オレンジ・バレル・メディア)が設計したインタラクティブなデジタルキオスク端末だ。コロンバス市内で使える交通手段のオプションを1か所に集めて表示するこのキオスクは、Pivotアプリを物理的な端末にしたようなもので、キオスクから操作することも可能だ。無料Wi-Fiを提供したり、レストラン、店舗、アクティビティの一覧を表示したりするこのキオスク端末の開発にも、連邦助成金のうち130万ドル(約1億5000万円)が投じられた。

Orage Barrel Mediaは、コミュニティの情報を表示するこのようなキオスク端末から、広告やアートを表示するものまで、さまざまなディスプレイを提供している。スマート・コロンバス構想によると、同社のキオスク端末は6か所に配置され、2020年7月から2021年3月までの期間に6万5000回以上利用されたとのことだ。同市はまた、パンデミック後には利用回数が劇的に増加すると見込んでいる。このキオスク端末には、同市が展開する自転車シェアプログラム「CoGo(コーゴー)」も組み込まれている。CoGoでは、ペダル自転車、電動自転車、駐輪スタンド、ドックレススクーターシェアサービスと自転車シェアサービス専用の駐輪スペース、配車サービスの乗降車エリア、カーシェア用駐車場、EV充電ステーションに関する情報を入手できる。

Siemensとの提携による「コネクテッド・ビークル環境」

オハイオ州には他州に比べて運転マナーが悪いドライバーが多い。オハイオ州の高速道路パトロール隊が2021年発表した、州内における不注意運転に関するデータによると、2016年以降、不注意運転に起因する衝突事故が7万件発生しており、そのうち2000件以上が重傷事故もしくは死亡事故だという。コロンバス市は、2019年にとある保険会社が発表した、全米で運転マナーが悪い都市ランキングで第4位にランクインしたことがある。

コロンバス市がコネクテッド・ビークルの実証実験を行ってみたくなったのは、それが原因かもしれない。2020年10月から2021年3月にかけて、コロンバス市は、ビークルツーインフラストラクチャー(自動車と路上の通信設備との間で情報をやり取りすること、V2I)およびビークルツービークル(異なる自動車間で情報をやり取りすること、V2V)を実現するための車内用および路上設置用ユニットを提供するSiemens(シーメンス)と提携した。また、Kapsch(カプシュ)とDanlaw(ダンロー)といった企業も路上設置用ユニットを提供した。コネクテッド・ビークルは他の自動車および85か所の交差点(このうち7か所はオハイオ州中心部で衝突率が非常に高い交差点)に設置されたユニットに対して「話す」ことができる。このプロジェクトには、1130万ドル(約12億6000万円)が投じられた。

「このコネクテッド・ビークル環境の応用方法として、赤信号による警告、スクールゾーンの通知、交差点内での衝突警告、貨物車両や公共交通車両の信号優先通過など、11種類のさまざまな機能を考えました」とビショップ氏は説明する。

「住民が100万人あまりの地域に1100台の自動車を配置しました。そのため、衝突率が下がることは期待していませんでしたが、コネクテッド・ビークル環境から発信される信号無視防止のための警告をドライバーが活用しているのを見ることはできました。その結果、運転マナーの向上が見られており、長期的には路上の安全性を効果的に改善することにつながると期待しています」とビショップ氏は語る。

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Easy Mileによる自律運転シャトルバス「Linden LEAP」

スマート・コロンバス構想の自律運転車によるシャトルバスサービス「Linden LEAP(リンデン・リープ)」には230万ドル(約2億6000万円)が投じられ、2020年2月から2021年3月まで数回の休止期間をはさみながら運用された。開始当初は、リンデン地区の4つの停留所を2台のシャトルバスが運行して、公共交通機関によって十分にカバーされていないコミュニティに交通サービスを提供した。開始からわずか2週間後に、時速25マイル(約40キロメートル)ほどで走行していた自律運転バスが急停止して、乗客が何らかの原因により座席から投げ出されてしまったため、運行は停止された。そうこうしているうちにパンデミックが発生し、人を運ぶサービスの需要がなくなってしまったため、Linden LEAPは、2020年7月から2021年3月までの期間に、3598件の食材配達と13万件の出前サービスをこなした。

コロンバス市は、連邦助成金が終了した今、この自律運転シャトルバスサービスに資金を出し続ける予定はないという。

ビショップ氏は次のように説明する。「コロンバス市には、公共交通機関を運用してきた実績があまりありません。そのため、コネクテッド環境、自律運転、電気自動車に関する技術を公共交通機関に今後どのように組み込んでいくのか、中央オハイオ交通局(CoTa)の計画を注意深く見守りたいと思います。コロンバス市としては、次の取り組みは民間企業によるものになること、そして、最終的には交通局の主導へと切り替わっていくことを期待しています」。

フランス発のスタートアップであるEasy Mile(イージー・マイル)の広報担当者は、同社が前述の自律運転シャトルバスにレベル3の自律運転技術を提供したと発表している。Society of Automobile Engineers(米国自動車技術者協会)によると、レベル3の自律運転は、運転席に人間のドライバーが座ることが依然として求められるレベルだという。

コロンバス市と自律運転技術との中途半端な関係はもともと、2018年末にスマート・コロンバス構想がDriveOhio(ドライブオハイオ)およびMay Mobility(メイ・モビリティ)と提携して、同市初の自律運転シャトルバスサービスであるSmart Circuit(スマート・サーキット)を開始したときに始まった。シオトマイル地区の中心部に設けられた全長1.5マイル(約2.4キロメートル)のルートを走るSmart Circuitは、2019年9月までの期間に、特定の文化的な名所への無料乗車サービスを1万6000回提供した。

Smart Circuitにかかった費用はわずか50万ドル(約5600万円)ほどだったが、コロンバス市は、自律運転シャトルバスプログラム全体を総合的に開発するために、さらに追加で40万ドル(約4500万円)を投じた。

Kaizen Healthによる妊婦向け移動サポートアプリ「Prenatal Trip Assistance」

女性が創業したテック企業であるKaizen Health(カイゼン・ヘルス)が最初のアプリケーションを開発したのは、健康上の問題で治療に通う必要がある人々が利用できる交通手段が少ないことへの不満がきっかけだった。シカゴを拠点とする同社は、妊婦とその家族が救急時以外のときに利用できるマルチモーダルな病院搬送サービスを簡単に手配できる同社のモデルを応用してアプリを開発した。

2019年6月から2021年の1月の期間にスマート・コロンバス構想の助成金から130万ドル(約1億5000万円)が投じられたこのアプリの利用者は、パンデミックのせいでわずか143人にとどまったが、病院への移動に利用された回数は800回以上、薬局、食料品店、他のサービスを受けるために利用された回数は300回以上にのぼった。このアプリが導入された年にオハイオ州で生まれた新生児1000人あたり平均6.9人が死亡したことを考えると、スマート・コロンバス構想に参加しているメディケイド対象医療機関が、このようなモバイルアプリの導入を含め、非救急時の病院搬送サービスを近代化しようとしていることは、良い傾向だ。

Wayfinderとの提携による、認知障がい者へのモビリティ支援アプリ

最後に挙げるプロジェクトでコロンバス市が手を組んだテック企業はAbleLink(エイブルリンク・テクノロジー)のWayFinder(ウェイファインダー)という、デンバー発の企業だ。どこで曲がるかを非常に詳細に指示してくれるナビゲーションアプリを、特に認知障がいを持つ人々向けに開発するために、Mobility Assistance for People with Cognitive Disabilities(認知障がい者へのモビリティ支援、MAPCD)に関する研究がWayfinderと共同で実施され、認知障がい者がさらに安全に自立行動の範囲を広げられるようになった。

このパイロットプロジェクトには、2019年4月から2020年4月の期間に約50万ドル(約5600万円)が投じられた。31人がこのアプリを実際に使って、公共交通機関の使い勝手が向上するのを感じた。コロンバス市の広報担当者によると、同市は現在、パートナー企業各社とともに、このアプリプロジェクトを継続していく方法を探っているとのことだ。

今後の展望

スマート・コロンバス構想が注力したもう1つの分野は、電気自動車(EV)の導入と充電インフラストラクチャーだった。ポール・G・アレン・ファミリー財団と、オハイオ州の電力会社AEP Ohio(AEPオハイオ)が拠出した資金がインセンティブとして使われて、集合住宅、職場、公共の場所への充電ステーション設置が進んだ。その結果、900か所のEV用充電ステーションを設置するというスマート・コロンバス構想の目標が達成され、同時に、新車販売台数に占めるEVの割合が2019年11月に2.34%に達し、その割合を1.8%にするという目標も達成された。

「将来的には、今後も継続していくテクノロジーやサービスにより、住民が直面している問題がコミュニティにとって理にかなった仕方で解決されていくと思う」とビショップ氏は語った。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:オハイオスマートシティ駐車場ディスプレイSiemens自動運転バス

画像クレジット:Smart Columbus

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

スマートシティ創造に向けたアクセラレータ「SmartCityX」が1年目の成果を発表、6つの共創事例を紹介

日本企業とグローバルスタートアップによる新規事業創出をスクラムスタジオは、自社プログラムの1つである、大企業とスタートアップの共創を促す「グローバル・アクセラレーター・プログラム」で、スマートシティを題材とした「SmartCityX」に関するついて1年目の成果発表会を6月23日に開催、代表的な事業共創事例6件を発表した。

同プログラムは2020年8月に発表された。日本の各業界を代表する大企業13社と世界20カ国と地域から採択されたスタートアップ95社が、6つの先進自治体・経済団体、60名超の専門家メンターとともにサービス・アプリケーションの開発に取り組み、事業共創案件を創出することを目指している。

SmartCityXでは、産業や技術の視点のみならず、特に生活者の視点でので議論を深めており、多様性を意味する「カラフル」、DX化を意味する「ライフアップデート」、愛着と主体性を意味する「オーナーシップ」の3つを「SmartCityX Principles」と定義し、事業共創が行われているという。

生活者目線でスマートシティを目指す6つの共創事例

発表会では共創事例として「1.予防医療」「2.公衆衛生」「3.防災」「4.事故防止」「5.スポーツ観戦」「6.マイレージプログラム」という6ジャンルの生活サービスが紹介された。

  1. 予防医療
    地域エコシステム「スマートよろず屋」。スピード脳ドックやオンライン予約・診療を提供するスマートスキャンのサービスを、2021年2021年6月10日から三重県の東員町にて、トレーラーを用いて実証実験として地域に提供する。出光興産、スマートスキャン、三重県が参画。
  2. 公衆衛生
    「Infection Control & Public Hygiene ~街をきれいに安心に~」では、消毒液が見える場所に定点カメラを設置し、手指の消毒を組織中何名が行なったかを観測。衛生行動をモニタリングし、行動喚起して、衛生観念を高めてくことを目指す。匿名性に配慮しており、映像の中では人物特定ができないようになっている。ライオン、東日本旅客鉄道、博報堂、エクサウィザーズが参画。
  3. 防災
    「住民の行動変容を促す、日常使いできる防災ソリューション」には、あいおいニッセイ同和損害保険と東京都渋谷区が参画。あいおいニッセイ同和損害保険の被災建物数予想システムcmapをベースに、注意喚起や災害時の避難誘導などを進める狙いとなっている。2021年度内にはプロトタイプを開発し、渋谷区内での実証実験を予定する。
  4. 事故防止
    あいおいニッセイ同和損保はこれ以降のプロジェクトにも参画している。事故防止に関する事例である「デジタル時代の新たな交通安全対策~テレマティクス技術を活用した新たな交通システム~」では、福井県、福井県警察と協働し地域交通課題に取り組む。急加速、急ブレーキ、スマホ操作といった危険挙動を示すタグをマッピングし、県内ドライバーの運転データと組み合わせ、地域内の危険エリアを検出する。警察側は実際に事故があった地点の突合を行うという。
  5. スポーツ観戦
    「トラストあるデータ流通基盤を軸とした、鹿島アントラーズファン向けの新たな価値提供およびホームタウン地域課題へのチャレンジ」では、日本ユニシス、ジェーシービー、あいおいニッセイ同和損保、茨城県鹿嶋市、鹿島アントラーズ・エフ・シーに、すべての移動に価値を持たせることを掲げるスタートアップ米Milesが協業する。試合当日の混雑緩和などなどをデータ、インセンティブ設計などで解消し、地元とファンのストレスを緩和する狙い。
  6. マイレージプログラム
    「生活者向け行動変容型サービスで実現する『地方創生』『地域活性化』」では東日本旅客鉄道、あいおいニッセイ同和損害保険、Milesが、生活者の移動情報に応じてリワードを提供するスマートフォンアプリ『JREAD』を共同開発し、訪れたことのない店舗への移動を誘導するといった行動変容やデータの地方創生への活用を目指す。2021年2月、3月に実証実験を実施し、アンケートやモニタリングを通じてサービスの受容性が確認できているという。

いずれも、実証実験で一定のニーズや成果が見えたものについては他の地域でも展開を検討していくとのことだ。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Scrum VenturesScrum Studioスマートシティ日本

【コラム】都市のモビリティを改革する可能性を秘めたコンピュータービジョンソフトウェア

本稿の著者Harris Lummis(ハリス・ルミス)氏はAutomotusの協同ダウンダーでCTO。

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2019年10月、ニューヨーク・タイムズは、ニューヨーク市内では毎日150万個の荷物が配達されていると報じた。顧客にとっては便利で、世界のAmazon(アマゾン)にとっては利益になるが、これほど多くの箱を倉庫から顧客に届けることは、都市にとってかなりの外部不経済を生み出す。

タイムズは「利便性の追求は、ニューヨークをはじめとする世界中の都市部の交通渋滞、道路の安全性、汚染に大きな影響を与えている」と報じた。

この記事が発表されて以降、新型コロナウイルスの世界的流行により電子商取引は興隆を極めており、専門家はこの上昇傾向がすぐに弱まることはないと考える。戦略的な介入がなければ、私たちの都市はますます深刻な交通問題、安全問題、汚染物質の排出に直面することになるだろう。

都市部の道路には、何十年もの間、同じような問題がつきまとっている。しかし、テクノロジーがようやく追いついてきて、密集した都市の道路における混雑、汚染、駐車違反の取り締まりなどの課題に対処する新しい手段を提供できるようになってきた。

常にそうなのであるが、効果的な解決策は、まず問題を引き起こしている詳細な状況を理解することから始まる。今回のケースでは、問題に対処する方法は、街灯カメラを使って路上駐車や道路交通を観察することで、問題点を簡単に把握することである。

公共の場を監視するためにカメラを設置すると、すぐに熱狂的なプライバシー擁護派(私もその1人だ)の怒りを買うかもしれない。だからこそ、私の会社と同類の企業は、プライバシー・バイ・デザインのアプローチで製品開発を行っている。当社の技術は、映像をリアルタイムで処理し、顔やナンバープレートを認識できない程度までぼかしてから、社内や公的機関に画像データを提供することで、監視目的での悪用に対する懸念を払拭する。

これらのカメラの目的は、監視することではなく、実際の都市の道路から得られる具体的なデータを活用して、重要な洞察をもたらし、路上の駐車スペースにおける自動化を促進することだ。Automotusのコンピュータービジョンソフトウェアは、すでにこのモデルを使って、前述のような路上に氾濫する商用車の管理手段を都市に提供している。

この技術は、駐車場の回転率を最適化したり、インセンティブを与えたりするためにも利用できる。ある調査によると、ニューヨーク市のドライバーは、駐車スペースを探すために年間平均107時間を費やしている。ドライバー1人当たりの無駄な時間、燃料、排出ガスのコストは2243ドル(約24万円)に上り、ニューヨーク市全体では43億ドル(約4400億円)にもなる。このような無駄な動きは、米国国内だけでなく、世界中で起こっている。駐車スペースの需要に関する包括的なデータを収集することで、都市は、駐車スペースの供給と車両の実際の使用が適切に合致するような駐車政策を策定することができる。

ロヨラ・メリーマウント大学のキャンパスで実施したAutomotusの実験では、データを利用して駐車ポリシーを調整したところ、駐車場を探すドライバーによる交通量が20%以上減少した。データを利用して駐車スペースを最適化することで、駐車場の利用効率が上がり、駐車場を探す時間が短縮され、交通渋滞の解消につながる。また、駐車スペースの空き状況をリアルタイムに把握できれば、アプリやAPIを介してドライバーに空き駐車場を案内することも可能だ。

当社は、路上の駐車スペースにおけるあらゆる形態の活動に関する正確な最新情報を提供することで、都市プランナーがその都市の駐車スペースの時間的・空間的パターンを完全に理解できるようにしている。これによりプランナーは、その都市の特性に合わせた駐車スペース政策について、十分な情報を得た上で決定することができる。

おかげで「ここでどれくらいのタクシーからの降車が起きているか?」「火曜日の朝、どこの配送トラックが二重駐車(路肩に止めてあるクルマの横にさらに止めること)をしているのか?」といった質問に簡単に解答できるようになった。漠然とした試行錯誤的手法で政策を策定する時代は終わったのだ。乗客用駐車場、配送車専用ゾーン、タクシーエリアの位置、駐車料金の最適な設定、違反時の適切な罰則などについて、豊富な情報を基にした的確で影響力のある判断が可能になる。

この技術は、配送業者にとってもメリットがある。駐車スペースの空き状況をリアルタイムで把握し、予測することができれば、ルートの効率が向上し、コスト削減につながる。配送業者は罰金を払って路上駐車するのではなく、駐車スペースでの利用時間に応じて駐車料金を払えばよい(米国では税金控除の対象となる)。

オハイオ州コロンバスで行われた調査では、指定搬入ゾーンを設けることで二重駐車の違反が50%減少し、商用車が路上の駐車スペースに停車する時間が28%短縮された。FedExやAmazonのような企業にとっては、配送の効率が飛躍的に向上することでコスト削減につながり、その結果、駐車スペースの利用に適正な料金を支払い、浮いた資金を消費者に還元することができる。

現在は、いくつかのトレンドが相互に関連しあっており、新しい技術を道路や路上の駐車スペースに適用するには、特に好都合な時期だと言える。新型コロナの流行前、多くの都市は、人々が相乗りを利用するようになったことで、駐車場からの収入の減少に直面していた。現在、米国の何千もの自治体が、新型コロナの影響で大幅な予算不足に陥ることが予想されている。また、世界経済フォーラムの報告書によると、2030年までに都心部では商業用配送車両の数が36%増加すると予測されている。当社の調査によると、駐車違反の50%以上が商用車による違反であり、取締りを受けていないことが分かっている。

コロンバス市が2016年の米国政府の「Smart City Challenge」で優勝したのは偶然ではない。バラク・オバマ前大統領が2015年に「スマートシティ」構想の一環として1億6000万ドル(約176億4500万円)以上を拠出した際、プログラムの主要な目標の1つとして渋滞と汚染の削減が掲げられた。これらの目標を達成するためには、駐車場や路上の駐車スペースの管理を改善することが重要だ。ドナルド・トランプ前大統領は、大規模なインフラ計画を掲げて選挙戦に臨んだが、この分野での彼の公約の実現は不十分なものだった。米国政府の支援がないにも関わらず、サンタモニカなどの都市では、ダウンタウンの中心部にゼロエミッションの配送ゾーンを実験的に設置するなど、有望な取り組みが行われている。

ジョー・バイデン大統領は、米国が気候変動対策と都市交通の近代化の両方にとって必要なインフラを構築する計画の概要を発表した。この計画には、電気自動車用の公共充電ステーションを50万台分用意すること、ドライバー、歩行者、自転車などが安全に道路を共有できるように都市を変革すること、重要なクリーンエネルギーソリューションに投資することなどが含まれている。

路上の駐車スペースの管理技術は、米国政府や地方自治体が都市の汚染を減らし、生活の質を向上させるために活用できる選択肢の1つだ。次期政権が、都市のモビリティの課題を解決するためのこの斬新なアプローチを支持してくれれば、米国のインフラは単に近代化されるだけでなく、未来への準備が整うことになる。

私個人としては、この改革が実現することを願っている。私たちの国の健康、安全、そして繁栄の共有は、これにかかっているのだ。

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:コラムコンピュータービジョン交通Automotus駐車スマートシティ

画像クレジット:Alexander Spatari / Getty Images

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(文:Harris Lummis、翻訳:Dragonfly)