日本のFinTechはいよいよ応用期に——その全体像を読み解く

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この原稿はFinTechスタートアップであるマネーフォワードの創業メンバーで取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄氏による寄稿である。マネーフォワードは自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」やビジネス向けのクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを提供。4月には代表取締役の辻庸介氏と瀧氏の共著「FinTech入門」も上梓している。本稿では、いよいよ応用期を迎える日本のFinTech事情について論じてもらった。

本誌に2年前に寄稿した頃、FinTechはまだ、知る人ぞ知るテーマであった。その後、FinTechはスタートアップ界隈のみならず、金融業界をも含めた一大テーマとなり、今や誰しもが知るところとなった。本稿では、現在の問題意識とそのあり方について述べてみることとしたい。

産業政策となったFinTech

現在行われている様々な議論のルーツを紐解くと、FinTechの盛り上がりの火付け役となったのは、2015年2月5日に開催された金融審議会における決済高度化スタディグループである。同スタディグループでは楽天やヤフー、AmazonといったIT産業のプレーヤーが、ECなどの自社のプラットフォームで生まれる取引から決済事業や融資事業を展開する中で、同様のチャンスが既存の銀行業においても模索されるべきではないか、とする問題意識が取り上げられた。

この議論は2015年を通じて、銀行法をはじめとする様々な制度改定として結実しつつある。その内容は、銀行によるFinTech事業会社の保有規制の緩和や、ATMの現金引き出し機能をコンビニやスーパーのレジに持たせること、ビットコインの取引所における利用者保護の仕組みなど、多岐にわたる。このような制度改定の第一弾ともいえる銀行法等を改正する法案は2016年5月に国会を通過した。

制度変化の中で、メガバンクのみならず地域金融機関や、証券会社、保険会社などにおいてもFinTechに関する専門部署が立ち上がり、協業や新規事業開発に向けて異例ともいえるスピード感を発揮している。

このような既存の金融システムの高度化・利便性向上という観点に加えて、成長産業としてのFinTechにも関心が集まっている。2015年の後半に開始した経済産業省のFinTech研究会では、多種多様なプレーヤーを内外から招いた、総合的なFinTechに関する情報収集とあるべき政府の規制とサポートが議論された。そして、産業競争力会議における会合や、自民党政務調査会における戦略的対応としての取り上げなどを含めて、1つのベンチャー用語としてのFinTechから、産業政策としてのFinTechという位置づけへの昇華が見られた。

FinTechのインパクトは多様であるが、誰もが意識するべき2点として、(1)インターネットが持つ力学が金融の世界にも浸透し、ユーザー中心の社会が実現されていくこと、(2)新たな金融インフラのあり方に対して、先取りし、自ら考える経営姿勢が各ステークホルダーに求められていること、である。この2点を元に、未来像を描いていくことこそが重要である。

(1)ユーザー中心主義のサービス設計について

FinTechでは、Techを活かすことができるベンチャー企業が主語となっている。その理由は明確で、ベンチャー企業は顧客獲得競争において、失敗を通じた学習がより許容される環境に置かれているからである。その結果、「分かりやすいサービスであるか」「真の問題解決に近づくソリューションを提供できるか」「不安をなくすことができるか」「ペイン・ポイントに近い場所でサービス訴求ができるか」といった軸での競争がサービスレイヤーでは行われている。

FinTech産業の全体像と海外における主要なプレーヤー

FinTech産業の全体像と海外における主要なプレーヤー

 

個別の業態の詳細については拙著での記述に譲ることとしたいが、オープンソースの進展や、スマートフォンの浸透を通じて、海外ではゲームチェンジャーといえる規模まで普及するサービスが生まれてきている。そこでは、従来の金融機関が総合的なサービスを提供してきた中で、ある特定のニッチと思われる領域において段違いに効率的・効果的なサービスを提供し、横展開を通じて規模拡大を図っていく姿が見られている。

金融サービスへのニーズや背景は国ごとに異なるが、肝心なのは様々な試行錯誤と競争からプレーヤーが生まれてくるプロセスそのものである。そして、従来の金融機関が提供しえなかったUXを新規のプレーヤーが提供することが常態化するのであれば、ユーザビリティを自社サービスに取り込むオープンイノベーションのあり方が金融機関においても重要となっていく。

金融は「金融サービス産業」とも呼ばれるように本来、サービスへの満足度を求めた競争が行われる場所である中で、このレイヤーにおける戦略に向けて先手を打っていくことは、次に述べるインフラ面での変化を踏まえると、とりわけ重要である。

(2)インフラ面での変化について

日本における金融インフラにおけるキーワードは、(1)キャッシュレス化、(2)API化、(3)中期的な分散型の技術の活用である。

今後、キャッシュレス化は消費者の基礎的な行動の変化をもたらす一大テーマとなる。2020年の東京五輪を見据えて、インバウンド消費向けの決済インフラ(クレジットカード、デビットカード)の整備が進むと同時に、電子マネーの存在感もオートチャージ型の普及に伴って拡大し、現金利用はいよいよ減少していくこととなる。また、LINE Payやau WALLETカードのような、未成年も使うことができ、すでに大きなユーザーベースを抱える決済方法も誕生してきていることも、その一層の促進材料となる。

また、今般の制度改定でキャッシュアウト(小売店舗におけるレジにATMとしての機能を持たせ、現金引き出しが可能となること)が可能となる中、個人と金融機関の接点は一変していくこととなる。現金引き出しは今後、わざわざATMに行くのではなく、スーパーやコンビニ等のレジで、「買い物のついでに行われる」ものとなる。

キャッシュレス化とキャッシュアウトの二つで、ATMが使われる需要は激減する。筆者も米国に居住していた頃の明細では、1年間で銀行のATM自体を利用したのは2回であり、その金額は合計300ドルであった。ほとんどの現金需要はスーパーでの引き出しによって賄われている中で、同じような世の中が、もうすぐ日本でも実現しようとしている。

金融広報中央委員会による調査(2015年)によれば、日本の世帯の78.5%は取引金融機関を決める際に、店舗やATMの近さをその理由として挙げている(次点は経営の健全性で29.8%)。しかしながら、今後ATMの近さがキャッシュレス化の中で金融機関選択の軸としてのポジションを失っていく中では、純粋なユーザビリティに向けたサービス品質の追及が急務となっていく。

そのような中、銀行によるAPI提供は目下の重要テーマとなりつつある。APIの提供は、元々は欧州で預金者のためのデータアクセスを確保するべく生まれた背景があるが、結果的に、金融機関がオープンイノベーションを提供するにあたって必須のものとして台頭しつつある。従来、自社アプリとして提供が行われていた機能は、今後は、PFM(Personal Financial Management:個人資産管理)やECなど幅広い外部サービスに取って代わられていく。そうなると、データの閲覧や取引の実行も含めてこれまでの銀行機能自体がAPIとして提供されることとなる。そして、外部のサービスプロバイダにとって、メリットの高いプラットフォームとなることこそが、金融機関に求められるようになっていく。

銀行と預金者の接点のイメージ図

銀行と預金者の接点のイメージ図

 

最後に、ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳の技術の台頭がある。本テーマはすでに多くの言及がある中で詳細は割愛するが、金融システムがもつ根幹的な価値である「真実性」について、政府や規制が保証を提供するあり方から、参加者と技術的な仕組みが正しさを担保するあり方への転換を促すことのインパクトは計り知れない。

IoTなどの文脈で大量のデータが利用可能となっていく中、特定条件をトリガーとした金融サービスのあり方を、契約と検証コストではなく、技術によって担保することで、10年後の世界では、想像されている以上のインパクトや、インフラの変化をもたらしている可能性がある。

従来と比べて、圧倒的に時代の変化が早くなってきている中で、ベンチャーも含めて新しい状況に適応し、可能な限り先取りを行っていくことが求められている。結局のところ重要なのは、顧客を見つめ、必要とされるサービスを作り続けることである。これは「FinTech的アプローチなのか」という見方ではなく、実際にユーザーが求めているソリューションにおいて、新たな技術が使えるのではないか、という観点こそが求められている。

実証期に入ったFinTech

FinTechに向けた投資資金も、最近は数百億円を超える規模の専門ファンドを、SBIグループ楽天が立ち上げる動きも見られる。

資金面でのサポートに加えて、規制緩和もある中で、金融機関はいよいよ「どのようなFinTechビジネスが実際に役に立つのか」というシビアな検証へと入っていくフェーズといえるだろう。これまでが、「FinTech入門」というフェーズだったのであれば、今後はいち早く「FinTech応用」を行い、正しいユーザーに向けた訴求パスを見つけられるかが課題といえるだろう。

その際には、絶え間なく最新の技術動向を押さえつつも、ユーザーにサンドボックス的にサービスを提供し、それがユーザーに刺さるか否かを細かく検証していく地道なプロセスがある。その過程で元々の高い期待値に応えることができない、ハイプ・サイクルにおける幻滅期としての特徴も現れてくるだろう。FinTechとはなんだったのか? と思われるタイミングも訪れるのかもしれない。

しかし、生産性が発揮される頃には、その頃の苦労も忘れられ、新たな満足点にユーザーもたどり着いていくこととなる。このためのリスクテイクができる環境が、ベンチャー側にも金融機関側にも、まさに求められている。

FinTechではよく「アンバンドリング」という言葉が取りざたされる。この言葉は、「従来、金融機関が一手に担ってきた諸機能が分解される」というニュアンスを含んでいるが、これと同時に用いられる対義語が「リバンドリング」である。米国の例として、例えばJPモルガンがオンラインレンダーであるOnDeckと提携したように、適材適所での資源活用が行われ、各プレーヤーも自らの立ち位置を再構築する発想こそが重要といえるだろう。

おわりに

2年前の拙稿の言葉を引用してみたい。

日本の若年層は数十年前の日本人と比べて、所得の安定や、将来に向けた備えなど、様々な形での自己責任を求められるようになった。この社会的背景の中で、資産運用や将来設計などの米国型のソリューションに加えて、より分かりやすい貯蓄・節約方法や加入する保険の見直し、ローンの管理など、より問題解決につながるビジネスモデルが今後は求められているのかもしれない。

2年前と比べると、FinTechが捉える諸課題は金融インフラを含む広大なものとなった。とはいえ、このユーザー起点での発想の重要性は幾分も変わっていない。様々な社会のニーズを捉え、解決していくことは、ベンチャーに限らずすべてのビジネスが本来的に持つ課題である。

今や産業政策となった日本のFinTech。オープンに良いアイデアを取り込む枠組みをいかに維持し、ユーザーを見ながら育てていけるかが、今後の試金石となるだろう。

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マネーフォワードが10億円の資金調達、住信SBIや静岡銀行の顧客向けサービスでも連携

マネーフォワードの辻庸介社長

昨日はクラウド会計サービス「freee」などを提供するfreeeが資金調達の発表をしているが、そのライバルであるマネーフォワードも大型調達と業務提携を発表している。

自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」および会計をはじめとする中小企業向けのクラウドサービス「MFクラウド」を提供するマネーフォワードは8月25日、住信SBIネット銀行および静岡銀行との業務提携を発表した。またあわせて、住信SBIネット銀行を傘下に持つSBIホールディングス、静岡銀行、ジャフコ(既存株主)から総額10億円の資金調達を実施した。

マネーフォワードは2012年12月のスタート。ユーザー数は現在220万人。国内銀行を始め1800の金融機関に対応した自動家計簿・資産管理サービスとなっている。一方MFクラウドは会計・確定申告のほか、請求書発行などのクラウドサービスを展開。ユーザー数は40万で、全国1200以上の会計事務所への導入実績がある。

住信SBIネット銀行との業務提携では、11月をめどに同行のユーザーに対してマネーフォワードをベースにしたアプリ「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」を提供する。マネーフォワードではこれまでにもクレディセゾンと連携して公式の接続APIを利用しているが、住信SBIネット銀行でも公式APIを利用した連携となる。今後は各銀行向けに「マネーフォワード for ○○銀行」というかたちで各銀行ユーザー向けのアプリも提供していく予定だ。

また住信SBIネット銀行ではMFクラウドのユーザー向けに創業支援や融資、ビジネスカードの提供などを行う。さらに、SBIホールディングス傘下のSBIベネフィット・システムズとも確定拠出年金領域での新サービス開発を進める予定。

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静岡銀行との業務提携では、両社の経営資源を活用した中小企業向けの新規Fintechサービスを提供するほか、マネーフォワードユーザー向けに資産管理サービスを提供。さらに静岡銀行の業務エリアにおいて、同行がMFクラウドサービスの展開を支援する。

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マネーフォワードは業務提携に加えてMFクラウドのラインアップを拡充することも発表している。10月にマイナンバーの収集・保管サービス「MFクラウドマイナンバー」を提供するほか、今秋中に経費精算サービス「MFクラウド経費」を提供するとしている。

会計ソフトの勢力図じわり変化、家電量販店でクラウドが台頭しはじめる

毎年、確定申告シーズンになると家電量販店は会計ソフトを推し始める。ほとんどの店舗は、会計ソフト最大手・弥生の「やよいの青色会計」をプッシュするのが通例だけど、今年はちょっと様子が違う。ヨドバシカメラの全店では、マネーフォワードのクラウドサービス「MFクラウド確定申告」のパッケージ版に最も売り場を割いている。

パッケージ版は「マネーフォワード確定申告(青色申告・白色申告)」という名称。クラウド版のMFクラウド確定申告はウェブ経由で登録・利用するサービスだが、パッケージ版は12カ月間の利用権が付いたプロダクトキーと操作マニュアルを同梱している。

影の立役者はソースネクスト

弥生は会計ソフトの国内シェア72%、ユーザー数128万人を抱える。その規模を考えると大海の一滴のような変化ではあるが、ソフト売り場の勢力図を塗り替えるのに一役買ったのは、家電量販店に太い販売チャネルを持つソースネクストだ。マネーフォワードは2014年12月に15億円の資金調達を実施していて、その引受先の1社がソースネクスト。さっそく両者の相乗効果があらわれた形だ。ヨドバシカメラはソースネクストの大株主でもある。

ヨドバシカメラでは1月8日、特設コーナーでパッケージ版の販売を開始。ビックカメラの一部店舗でも、やよいの青色会計に次ぐ、売り場スペースを設けている。マネーフォワードは売上本数を公表していないが、辻氏は「1月に露出拡大したおかげで前月比で20倍に急増した。これから確定申告シーズンが本格化するので、昨年比で50倍以上に達する勢い」と鼻息が荒い。

ヨドバシカメラは札幌から博多まで、全国で20店舗を構える。特設コーナーでパッケージ版を販売するにあたっては、営業やマーケティングだけでなく、エンジニアや人事、財務を担当する責任者まで、マネーフォワードの社員総出で全店舗を訪問。ソフト売り場の店員に対して、デモを交えながら従来のパッケージ製品とは異なる点を説明して回ったのだという。

マネーフォワードが手がけるクラウド会計サービスの利用者は12万人。同社はこれまでユーザー数を明かしていなかったが、正式サービス開始から約1年を経て、2月6日に初めて公表した。一方、2013年4月に提供開始した競合のfreeeは2月4日、ユーザー数が20万件に到達したことを発表。両社とも順調に伸びていて、会計ソフトのクラウド化がますます進みそうだ。


マネーフォワードが15億円調達、事業パートナー出資で着々と足場拡大へ

家計簿アプリとクラウド会計ソフトを手がけるマネーフォワードは19日、総額約15億円の資金調達を実施することを明らかにした。引受先は既存株主のジャフコに加えて、クレディセゾンやソースネクスト、三井住友海上キャピタル、電通デジタル・ホールディングスといった事業会社。マネーフォワードの辻庸介社長は、「各ジャンルのナンバーワンプレイヤーに出資してもらえたことで事業拡大を加速できる」とシナジー効果を期待している。

マネーフォワードは、約180万人が利用する個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード」と、法人向けクラウド会計サービス「MFクラウド会計」を提供するスタートアップ。個人向けでは9月、家計・資産データの活用を可能にするAPI連携を開始。これまでにヤフーやグノシーと業務提携し、各サービス経由でユーザーを獲得している。法人向けの利用者数は明かしていないが、ウェブ経由では中小企業や個人事業主、全国各地で開催するセミナーを通じて大手の税理士法人を取り込んでいる。機能面では確定申告や請求書サービスも投入した。

引受先のクレディセゾンとは、個人および法人の顧客を相互送客してユーザー拡大を図る。両社は5月に業務提携しており、クレディセゾンが発行するセゾン・UCカードの利用明細データをマネーフォワード上に自動保存するサービスを提供している。今後はMFクラウド請求書とクレディセゾンのカード決済の連携や、MFクラウド会計利用者向けの金融商品も開発していく。

ソースネクストとの資本提携では販路の拡大を見込んでいる。両社は3月に業務提携し、ソースネクストを通して、NTTドコモが提供する「スゴ得コンテンツ」、KDDIが手がける「auスマートパス」、ソースネクストの「アプリ超放題」といった月額定額のアプリ使い放題サービスにマネーフォワードのコンテンツを提供している。ソースネクストの量販店チャネルも活用し、確定シーズンに向けてパッケージ版の販売も強化する。

三井住友海上キャピタルとは顧客や提携先の紹介、電通デジタル・ホールディングスとは広告事業の拡大やPR戦略の策定のサポートをしてもらう。同じく引受先であるGMO VenturePartnersは中小企業へのネットワークを持つベンチャーキャピタルで、マネーフォワードの事業拡大に向けて連携する。辻社長は「個人と中小向けサービスで国内ナンバーワンを取り、決済が盛り上がっている東南アジアに進出したい」と青写真を描いている。

今回調達した15億円では、プロダクト強化やサポート体制の充実に向けた人材を採用するほか、マーケティングも加速する。3月下旬には、給与計算業務を効率化する「MFクラウド給与」をリリースする。MFクラウド給与では、基本的な給与計算やウェブ給与明細の機能を搭載。その後は、経費精算を行う「MFクラウド経費」も投入する予定だ。

ところで、スマートニュースやグノシー、メルカリ、sansan、ラクスルなど、10億円以上調達したスタートアップの多くがテレビCMを展開しているが、マネーフォワードはどうなのか? 辻社長は「検討はしたが、当面はやらない結論に至った。現状でやっても砂に水を撒く感じになりそう」と否定し、事業会社と提携して着々とチャネルを拡大する考えを示した。

マネーフォワードは、2013年10月に調達した5億円を含めると、これまでに合計20億円以上を調達したことになる。ちなみに、クラウド会計分野で競合となるfreeeは、これまでに合計17億5000万円を調達している。


打倒Excel!マネーフォワード「MFクラウド請求書」が郵送代行をスタート、1社100通まで無料

請求書といえばExcelなどのソフトで手入力で作成してから、印刷・捺印した上で郵送するのが一般的。これに対してマネーフォワードが5月にベータ版をリリースした「MFクラウド請求書」は、クラウド上でロゴや社印付きの請求書を管理できるサービスだ。「ライバルはExcel。もはや相手がでかすぎてよくわからない」と語る辻庸介代表取締役社長CEOだが、7月23日に請求書の郵送代行をはじめとする機能強化を実施し、Excelのリプレイスを図ろうとしている。

マネーフォワードによれば、請求書の郵送代行はユーザーから特に要望が多かった機能。MFクラウド請求書で作成した請求書の印刷から封入・発送までの業務をマネーフォワードが代行する。通常は郵送先の地域に応じて1通あたり160〜200円がかかるが、9月10日までは1事業所あたり合計100通まで無料で郵送できるキャンペーンを実施する。定期的に送付する請求書については、毎月・毎週などの繰り返し設定をすることで、請求書を自動で作成する機能も追加した。

クラウド会計ソフト「MFクラウド会計(旧マネーフォワード For BUSINESS)」と連携し、支払い期限が過ぎた未入金の請求書をメールで伝えることも可能となった。今後は、入金時に会計ソフト側で消し込み処理を行うと、請求書サービスのステータスも自動的に入金済みにするといった連携機能も図る。

クラウド型の請求書管理サービスは紙でやりとりするのに比べ、作業時間が短くなるだけでなく、紛失リスクがなくなるのもメリット。とはいえ、これまで紙ベースでやりとりしていた個人事業主や中小企業にとって、いきなり全面クラウド化に踏み切るのは商習慣的に抵抗があるかもしれない。打倒Excelを掲げるマネーフォワードとしては、将来的には紙の請求書をなくしたいというが、まだまだ紙で管理する企業が大多数であることを踏まえて郵送代行をサポートしたようだ。

MFクラウド請求書の競合としては、「MakeLeaps」「Misoca」といった既存のサービスもある。Misocaは4月以降、月額利用料を無料化(従来は980円〜)し、請求書の郵送やFAX送信に応じて課金するビジネスモデルを採用している。MFクラウド請求書はベータ版として無料提供されているが、秋ごろをメドに有料化する。料金は月額無料で郵送代が200円のトライアル版、月額500円で郵送代が180円(3通までは無料)のベーシック版などを投入するようだ。


「freee」ユーザーが10万到達、会計ソフト初心者に刺さって成長

専門知識不要で使えることをうたうクラウド会計ソフト「freee」の登録事業者数が、7月6日時点で10万件を突破した。2013年3月のサービス開始から1年4カ月で到達した。ユーザー調査によれば、freee導入前に使っていた会計ソフトは「ない」という人が39%、「Excelなどで代用していた」という人が14%、「税理士にお願いしていたなど」が13%と、全体の66%が初めての会計ソフトとしてfreeeを選んでいるのだという。ユーザーが過去に確定申告や決算をした回数では「0回」が36%、「1回」が20%となっていて、会計ソフト初心者や創業間もない事業者を取り込んで成長しているようだ。

freeeは確定申告や会計・経理業務を自動化するクラウド会計ソフト。銀行やクレジットカードなど1600以上の金融機関から入出金データを自動取得したり、学習機能で仕訳のルールを作成することができる。freeeを導入する事業者の従業員数を見てみると、1人が64%、2人が15%、3〜5人が13%と、5人以下の事業者が主なユーザー。業種別では飲食や小売り、理容・美容などの店舗が38%となっている。

2014年4月のWindows XPのサポート期間終了や消費税増税に伴い、インストール型の会計ソフトから乗り換えるユーザーが増え、2014年以降はユーザー登録のペースが年末の5倍に達する勢いで伸びている、というのは以前もお伝えしたが、最近では連携先のモバイル決済サービス「Square」や無料POSレジアプリ「Airレジ」経由でfreeeに登録するユーザーが増えているそうだ。

国内のクラウド会計の分野では、SMBやスタートアップを取り込む2強のfreeeとマネーフォワードが手がける「MFクラウド会計(旧:Money Forward for BUSINESS)」、それに会計事務所のようなプロ向けとして「A-SaaS」がある。これに対して、100万以上の登録ユーザーを抱えるパッケージ型ソフトの弥生は7月7日、銀行口座やクレジットカードなどの取り引きデータを自動仕分けし、弥生シリーズのソフトに取り込む「YAYOI SMART CONNECT」を発表。今秋にはクラウド版「やよいの青色申告 オンライン」を開始するなど、freeeやMFクラウド会計を意識したかのような動きも見せている。


TBS子会社のファンドが国内外スタートアップ2社に出資

TBS子会社のベンチャーファンド「TBSイノベーション・パートナーズ(TBS-IP)」は12日、国内外のスタートアップ2社に出資したことを明らかにした。資産管理サービスやクラウド会計サービスを手がけるマネーフォワードと、チャットアプリ「PicChat」を運営するシンガポールのSpicy Cinamon(シナモン)の2社が対象で、出資額は非公表。TBS-IPが2013年8月に設立して以来、初めての出資となる。

マネーフォワードは2012年5月に設立。個人向けの家計・資産管理サービス「マネーフォワード」や、個人および法人向けのクラウド会計サービス「マネーフォワード For BUSINESS」を展開している。2013年11月に開催されたTechCrunch Tokyoでお披露目となったマネーフォワード For BUSINESSは、1月27日に正式版がリリースされたばかりだ(関連記事:専門知識いらずのクラウド会計「マネーフォワード」正式版、価格優位でシェアトップ狙う)。

シナモンは、「今何をしているか」を写真と声で送れるチャットアプリ。2013年5月にタイ、ベトナム、シンガポールの3カ国で前身となるアプリをテストリリースし、20万ダウンロードを突破。日本語を含むグローバル版のiPhoneアプリを2月10日にリリースした。テストリリース中に投稿された写真は多くが自分撮りで、恋人や家族、友人など親密な間柄でのやりとりに利用されていたという。

シナモンは本社をシンガポールに、開発拠点としてベトナムに子会社を持ち、7カ国のメンバーが集まっているスタートアップ。ファウンダーの平野未来氏と堀田創氏の2人は、連続起業家(シリアルアントレプレナー)かつ、スーパークリエーターの発掘・育成を目的とした「未踏ソフトウェア創造事業」に採択されたエンジニア。ミクシィの朝倉祐介社長がかつて代表を務めていたネイキッドテクノロジーの創業メンバーでもある。


マネーフォワードがクラウド会計に参入、専門知識不要の自動入力サービス

日本には2000万人超の確定申告者がいると言われているが、申告手続きはいまだ面倒な手書きが中心。法人の会計業務も手作業が多く、専門的な会計知識が求められる。マネーフォワードが29日に公開したクラウド会計サービス「マネーフォワード For BUSINESS」は、確定申告や会計業務の手作業を極力減らして自動的に入力することで、会計知識が不十分な人でも使えるというサービスである。(先日開催したTechCrunch Tokyo 2013のスタートアップバトルで初披露し、PR TIMES賞を獲得している。)

そもそもマネーフォワードは、銀行やクレジットカードなどの複数口座を一括で管理し、入出金情報を自動入力してくれる家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」を提供するスタートアップだ。同サービスは入出金情報を「食費」「日用品」「交通費」といった項目に自動分類、自分で入力する手間を大幅に省略してくれるのが特徴。家計簿に挫折したり、日ごろ忙しくて家計簿が付けられなかった人に多く使われているのだという(関連記事:“挫折しない”家計簿サービス「マネーフォワード」が5億円調達)。

マネーフォワード For BUSINESSは、既存サービスと同様に1300以上の金融機関から自動で明細を取得。専門的な会計知識が求められる仕訳は、入出金データの文言をもとに自動で実行してくれる。勘定科目が間違っている場合は、プルダウンメニューから正しいものを選べば修正できる。請求書作成や自動消し込みにも対応している。経営状況を把握するツールとしては、キャッシュフローや収益費用の内訳をグラフでレポートする機能がある。マネーフォワードで利用していた入出金データも引き継げる。

会計知識が不十分な人でも簡単に使えるように――。こうした考えのもとに開発したマネーフォワード For BUSINESSでは、難解な会計用語を平易な言葉に置き換えている。一例としては、「仕訳を切る」を「取り引きを登録する」と言い換えたり、「消費税の経理方式」といった取っ付きにくい用語はポップアップ画面で解説するとともに、「税込を選択すると会計業務がよりシンプルになります」といったアドバイスまでしている。

競合となるプロダクトとしては、パッケージソフトで大きなシェアを占めている弥生の「弥生会計」や「青色申告」、同じクラウド会計サービスとしては、2012年のTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルでデビューした「freee」がある。

パッケージ型会計ソフトの多くはMacに非対応なので、会計ソフトのためだけにWindowsを購入する人もいるようだが、マネーフォワードはブラウザ経由で使うためOSや端末を問わずに利用できるのが強み。とはいえ、クラウド会計サービスは日本でも始まったばかりとあって、即座に会計ソフトのユーザーを取り込むのではなく、当面は新たに創業したり、既存のソフトに不満を持っていたり、青色申告をする個人をターゲットとするようだ。

サービス開始1年後の目標としては、1万5000ユーザー獲得を掲げている。2014年1月まではベータ版として無償提供し、正式版移行後は個人は月額980円、法人は月額1980円で提供する予定だ。正式版リリースに向けて、決算書類の作成機能や消費税変更への対応も進めていく。


資産管理ツール「Moneytree」にPayPalやMasterCardの元日本代表がジョイン


個人向け資産管理ツール「Moneytree」を運営するマネーツリーは21日、PayPalジャパンの元代表であるジョナサン・エプスタイン氏が会長に就任したことを明らかにした。あわせて、三井住友ファイナンス&リース元役員を上級顧問に、MastarCard元日本代表をアドバイザーに迎えた。資産管理サービスは激戦区となりつつあるが、金融業界で名を馳せた人物を招聘することで会社の社会的信用を向上させる狙いがあるようだ。

Moneytreeは、複数の銀行口座やクレジットカード取り引きを一括管理し、全自動で入出金や利用明細を確認できるサービス。同様の個人向けサービスとしては、古くは2001年にサービスを開始した「MoneyLook」やNTTコミュニケーションズの「OCN家計簿」、最近では10月28日に5億円の資金調達を実施した「マネーフォワード」などがあり、入出金情報を自動取得できる金融機関数や家計簿機能などの強化で火花を散らしている状況だ。

マネーツリーの近況としては、10月15日にDGインキュベーションなどから1億5000万円の資金調達を実施。アプリ(現状はiOSのみ)はリリースから約半年で23万ダウンロードに上るという。同社のポール・チャップマン社長は、「資産管理アプリを提供する上で最重要視しているのは、いかに安心してサービスを利用できるかどうか」といい、今回の人事を通じて、「ユーザーにより安心してアプリを利用してもらえれば」とコメントしている。


“挫折しない”家計簿サービス「マネーフォワード」が5億円調達、クラウド会計に参入へ

家計簿に挫折してしまう要因の最たるものは「面倒臭さ」だろう。最近では「Zaim」や「ReceReco」など、スマホでレシートを撮影するだけで内容を読み取る家計簿アプリが流行っているのもうなずける。「マネーフォワード」は複数の口座情報を一括管理し、入出金情報を自動で入力してくれる家計簿・資産管理サービスだ。その運営元のマネーフォワードが28日、第三者割当増資でジャフコから5億円を調達したことを明らかにした。

マネーフォワードの特徴は、銀行や証券、クレジットカードなどのサイトにログインするIDとパスワードを登録するだけで、あとは自動的に入出金情報が入力されること。入出金情報は「食費」「日用品」「交通費」といった項目に自動で分類される。現金払いの際は手入力が必要になるけれども、対応している金融機関1322社の口座やサービスの入出金履歴がマネーフォワード上で一括管理できるので、お金の管理のわずらわしさを解消してくれる。

マネーフォワードの辻庸介社長によれば、利用者の6割は男性、平均年齢は36歳だといい、主に「家計簿に挫折したり、日ごろ忙しくて家計簿が付けられなかった人」に使われているとのだという。自動や手動でマネーフォワードに入力されたデータの件数は月次平均43%増のペースで伸びていて、2013年10月には1億2600万件に到達。年内には30万ユーザーに達する見込みらしい。

マネーフォワードの辻庸介社長

今回の資金調達では、従来の資産や家計の「現状把握」だけでなく、ユーザーの「生活改善」を提案する機能を強化する。すでに、自分の支出額をもとに、今よりもポイント・マイル・キャッシュバックが増えるクレジットカードをおすすめする機能はリリースしているけれど、今後はユーザーごとに適した生命保険や自動車・住宅ローンなどを「人力」ではなく「アルゴリズム」で提案する機能を開発していく。

2013年11月末には、個人事業主や法人向けのクラウド会計サービス「マネーフォワード(青色申告・法人決算)」をリリースする。金融機関のデータを取得して仕訳を自動で行うため、「手作業はほとんどなく、会計・経理の知識がない人でも簡単に使える」(辻社長)。レシートだけでなく領収書を撮影するだけで、データを取り込める「日本初」のアプリも開発している。

個人事業主や法人を対象とする会計ソフトといえば、弥生の「弥生会計」や「青空申告」が多くのシェアを占めている。マネーフォワード(青色申告・法人決算)と同様のクラウド会計サービスとしては、2012年の「TechCrunch Tokyo」でデビューを果たした「freee」が順調に成長している。

マネーフォワード(青色申告・法人決算)は、月額課金で提供する予定。料金は検討中だが、「業界最低水準の価格」を予定しているといい、個人向けサービスで対応している1322社の金融機関から自動で明細を取得したり、アプリで領収書を読み取れるなどの優位点を打ち出して、既存の会計ソフトに不満があるユーザーなどを取り込んでいきたいという。


家計簿・資産管理ツールのスタートアップ、マネーフォワードが1億円の資金調達、シードラウンドで

家計の管理については以前に紹介したZaimのような家計簿アプリがあるし、最近ではReceRecoのようなレシートの内容をOCRで読み込んでくれるようなものもある。とはいえ家計簿以上に家庭の資産までを管理したいという人もいるだろう。個人で使う資産管理の代表格といえば、米国ではTechCrunch40でデビューしたmintがある。mintはIntuitが2009年に1億7000万ドルで買収したことでも話題になった。

日本でもこういった家計管理のツールがないかといえば、たとえばOCN家計簿MoneyLookがある。これらは銀行や証券会社のオンライン口座から自動的に情報を取得して資産状況を把握できるようにしている。今回紹介するマネーフォワードはこれら同様に資産管理のサービスを提供するスタートアップだが、彼らは今日およそ1億円(1億264万5,000円)の資金調達を実施したことを発表している。

マネーフォワードは現状は銀行や証券会社、クレジットカード会社、携帯キャリア、年金、ポイント提供会社などの口座から情報を取得して、現在の資産状況や日々のお金のやりとりを自動的に分類して、レポートしてくれる機能を持っている。日毎や月毎の資産の現状把握をビジュアル化して表現することに長けている。サービスはウェブサイトだけでなく、iPhone向けのアプリも提供していて、ファイナンスカテゴリーでのダウンロード数では上位に付けている。

彼らは今回の資金調達によって、ユーザーに対して資産運用のためのレコメンデーションの仕組みなどを開発するという。お金のことは一般の人に取っては正直言えば考えなくてはならない問題だが、考えるのが面倒だと感じる人もいるだろう。なので、その人の収入やお金の使い方、持っている資産状況などから合わせて資産運用のアドバイスを自動的に行うようなものを考えているようだ。

マネーフォワードはマネックス証券に務めていた辻庸介氏によって設立されている。ほかにも金融にかかわってきた専門知識を持つメンバーが集まっているスタートアップだ。辻氏によれば、レシピならクックパッド、レストランなら食べログのようにお金ならマネーフォワードというインターネットサービスの存在になりたいと語っている。

今回の1億円のシードラウンドに出資したのは、早稲田情報技術研究所に加えて個人投資家数名、そして創業メンバーだそうだ。このラウンド以前に同社はマネックスのインキュベーション企業のマネックス・ビジネス・インキュベーションと創業メンバーから4,080万円を集めている。