配達ロボが歩道を占拠してしまったら障がい者はどう対応したらいいのか

車輪のついた大きなクーラーボックスのようなロボットが私の方に向かって勢いよく進んできた。私の左手は盲導犬ジャーマンシェパードの滑らかな皮のハーネスを握り締めた。「Mylo(マイロ)、前へ」。マイロの短い四つ足のスピードは、マイロのものより長い私の足の歩幅に合わせられている。6フィートフォックストロット(約180センチの距離を4分の4拍子で駆けること)。そして私とマイロは対決を回避することにした。

ロボットは背後にいて、レースの様子を録画していた。マイロ1、ロボット0。

マウンテンビュー市議会は今年5月5日にStarship Technologies(スターシップ・テクノロジーズ)のロボットの市道走行を許可(Mountain View Voice記事)した。2014年創業のStarshipは世界いくつかの都市で非接触型配達のロボットを展開している。顧客は食べ物やグローサリー、その他もろもろのパッケージの配達をStarshipのアプリを通じて予約できる。

小さなロボットとのお遊びは興味深いものになった。米国障がい者法(Americans with Disabilities Act of 1990)の制定から30年が経ったが、多くのテック企業はいまだに障害者向けのデザインに対応できていない。自動走行のロボットは障がいを持つ歩行者にどのように反応するのか。

歩道を3mほど行き、私は立ち止まり方向転換した。マイロは緊張していた。私の腕にはい上がるのはその証拠だ。白い外観のロボットはマイロの鼻先で止まった。

ロボットが歩行者を認識してどこかに行ってくれたらと願った。しかしロボットはそこに居続けた。マイロはお座りの姿勢をとった(盲導犬訓練の学校はマイロにロボットの登場について教えていなかった)。私はマイロの耳をこすり、マイロは私の腕に寄りかかってきた。ロボットは動かなかった。

米国の6100万人超が障がいを抱えていて、その多くが車椅子、スクーター、歩行器、他のモビリティデバイスを使用している。電動車椅子を利用するピッツバーグ大学の博士課程の学生Emily Ackerman(エミリー・アッカーマン)氏は交通量の多い4車線道路を横断しているときにStarshipロボットに出くわした。彼女はカーブカット(車道と歩道の間の縁石をなくしたところ)が必要だったが占領されていた。「パニックになりながらもなんとか歩道に入りました。車道から早く逃れたい一心で、カーブカットではなく縁石を越えました。すごい衝撃で、気をつけていなければ途中で引っかかっていたかもしれません」とアッカーマン氏は2019年の記事に書いた。

1960年代と1970年代に、障がいを持つ運動家たちはアクセスしやすい歩道がないと抗議した。この運動がその後のADAへと道を開き、国中の歩道にカーブカットが設けられ、壊れた歩道が修復されることになった。車椅子利用者、ベビーカーを押す親、スケートボードに乗る子供、そしていまロボットすらも、苦労して勝ち取ったカーブカットの恩恵を受けている。障がい者が利用することを想定したデザインはコミュニティ全体のエクスペリエンスを向上させている。

私のロボットとのにらめっこが起きたのは、Starshipが障がいを持つ歩行者への配慮を欠いているとアッカーマン氏が記事で指摘してから6カ月後のことだった。私は辛抱強くStarshipロボットが後退するのを待ったが、わんぱくなロボットはその場から動かなかった。動くことができる盲ろう者として私はロボットを避けて通ることができた。重い足取りでロボットを通り過ぎ、いつもの物理的距離を保ちながらの歩行を続けた。

パンデミックの前は、マイロは私の海外行きや、ブックトーク、社交ダンスに付き添っていた。スウィングやサルサを踊りながら、ダンス相手の手や肩を通じてビートを感じることができた。そうした夜はもうノスタルジアになった。私のインターラクションの多くは研ぎ澄まされた触覚に頼っている。現在繰り広げられている「ノータッチ」の世界で、盲ろう者がこれまで味わった以上の孤独を私は感じている。

私の家は触ることを基本とするソリューションで成り立っている。電子レンジや洗濯機に取り付けた触覚スティッカーによって誰かの助けを借りずに私はそれらを使うことができる。コーヒーマシーン、ブレンダー、コンロなどは物理的コントロールを備える。電話すらも触覚アクセスに対応する。電話のVoiveOverはコンテンツを読み上げ、接続している点字コンピューターに点字を送り、ジェスチャーを通じた非ビジュアルのタッチスクリーンナビゲーションを可能にしている。私はニュースを読み、研究を行い、VoiveOverが利用できるウェブサイトやアプリで投稿を予約する。

外の世界とつながる主要チャンネルとしてインターネットに頼っていると、絶えずバリアを突きつけられる。多くのウェブやアプリのデベロッパーはアクセシビリティガイドラインやADAを無視している。ニュースフィードは描写なしの画像、キャプションや表記なしのビデオ、そして皆の役に立つ新しいアプリのレコメンデーションであふれている。私の経験からするに、「皆」という言葉は障がい者以外の人を指している。

非接触の配達ロボットは目の不自由な人の役に立つかもしれないと思い、私はiPhoneのVoiceOverでアプリをテストした。StarshipアプリはVoiceOverを受け付けず、非接触ソリューションに対する私の望みは断たれた。

パンデミックで障がいを持った人の暮らしが過度に追いやられているいま、目の不自由な人を排除し、自由に動けない歩行者を危険な目にあわせるテックを受け入れる街などあってほしくない。ADAの約束された平等は、実行するかどうかに左右される。推進者たちはすでにADAをNetflixのビデオストリーミングScribdのデジタルライブラリー、Dominoのオンライン注文、その他のテックサービスに適用した。

行政やテック企業は、ソリューションを考えている障がい者や公開された多くのアクセシビリティガイドラインのレビューを含め、デザインプロセスの初期段階でアクセシビリティを計画する必要がある。マイロと私がもし次にロボットに出くわしたときには、ジャンプして回転し、そして走って逃げた方がいい。

【編集部注】著者のHaben Girma(ハーベン・ギルマ)氏は国際的な障がい司法弁護士。回顧録「Haben: The Deafblind Woman Who Conquered Harvard Law」を出版(未邦訳)。

画像クレジット: Haben Girma

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(翻訳:Mizoguchi

多様性、公平性、機会均等を実現するための初心者向けガイド

米国でミネアポリスの警察がGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏を殺害し、それに続く人種的正義の蜂起が起きた後、テック業界の多くの人々が自社では黒人やラテン系の人々の地位が低いにもかかわらず、「Black Lives Matter」と声高に叫んでいた。一部の企業の「Black Lives Matter」宣言は、トランプ氏に対する各社のスタンスや法執行機関への各社技術の販売とは対照的に、そういう姿勢を見せているだけであると感じた。

それでも、この動きはテック業界における多様性(ダイバーシティー)、機会均等(インクルージョン)、公平性(エクイティー)への関心の高まりにつながっている。もしあなたが「黒人や褐色の人材はどこで見つけられるのか」とか「黒人やラテン系の人材を見つけることができれば投資したい!」と思っているのであれば、この記事は参考になるだろう。

以下では、この分野で活動している主要な組織や、テクノロジーにおける多様性、公平性、インクルージョンの分野でよく使われる用語集を紹介しておく。

データ

  • 大手テック企業の従業員比率は白人男性が圧倒的に多い。例えばFacebookは、黒人がわずか3.9%、ラテン系が6.3%、女性が37%だ。
  • 2018年に女性起業家が投資を受けたのは米国のベンチャーキャピタル資金のわずか2.2%だった。
  • 米国のVCファームの意思決定者のうち、女性は10%に満たない。
  • マッキンゼーの2020年レポートによると、エグゼクティブチームの性別が多様な上位4分の1の企業は、下位4分の1に含まれる企業よりも平均以上の利益を上げている可能性が25%高い。
  • マッキンゼーによると、民族的・文化的多様性で上位4分の1に入る企業は、収益性で下位4分の1に入る企業を36%上回っている。
  • Digital Undividedによると、ラテン系の女性が女性主導のスタートアップ企業の2%未満を占めている。
  • Digital Undividedによると2009年以降、黒人女性はベンチャー企業からの資金調達の0.06%しか受けていない。
  • Hiredによると、白人男性がテック業界で稼ぐ1ドルに対して、黒人女性が稼ぐのは79セント。

用語集

ここでは多様性、公平性、機会均等について議論する際によく使われる用語を紹介しておく。

  • Ableism(エイブリーズム:健常者を優遇する差別。
  • Accomplice(共犯者:BIPOC、女性、障害者などに関連して、自分の特権を使って積極的に変化を主張する人。例としては、職場で人種差別を訴える白人が挙げらる。
  • Ally(同調者:共犯者のより受動的なバージョン。同調者の例としては、大義は支援しているが自分自身を危険にさらしたくない人が挙げられる。
  • Anti-racist(人種差別反対主義者:米国の人種差別政策の学者であるIbram X. Kendi(イブラム・X・ケンディ)氏によると「人種差別反対主義者であるということは、どの人種集団に対しても、行動的に間違っていたり、正しかったり、劣っていたり、優れていたりするものは何もないと考えることです。人種差別反対主義者が個人の行動を肯定的に見たり否定的に見たりするときはいつでも、次のような点を注視する。個人が肯定的、あるいは否定的に行動しているときは、全人種を代表しているわけではない。人種差別反対主義者になることは、行動を非人種化することであり、刺青(タトゥー)などに対する偏見などもすべて取り除くことです」。
  • BIPOC:黒人(Black)、先住民(Indigenous)、有色人種(People of Color)の略、この用語は、米国の黒人(奴隷)と先住民(大量虐殺)といった特有の過去における経験と困難を踏まえずに、「有色人種」という言葉の代わりに使われる。
  • Cisgender(シスジェンダー:性別が出生時に指定された性別と一致する人。
  • Culture fit(カルチャーフィット:職場で同じ目標や熱意を持てること。
  • Diversity report(ダイバーシティレポート:テック企業が従業員の人口構成を示す年に一度の報告書。
  • Equality(平等):差別の構造的障壁に関係なく、すべての人を同じように扱うこと。
  • Equity(公平性):制度的な差別やその他の構造的な障壁を考慮した、公平公正な方法で人々を扱うこと。
  • Gender nonconforming(ジェンダー・ノンコンフォーム):特定の性別を認めない人々。
  • Imposter syndrome(インポスター症候群:個人が自分の価値や業績に疑いを持ち、自分を過小評価してしまう傾向。
  • Intersectionality(インターセクショナリティ):人種、性別、階級、性的指向など複数の要因によって、人々がさまざまな差別に直面するという概念。女性や有色人種のトランスジェンダーの人々にとっては、人種差別、性差別、同性愛嫌悪、トランスフォビア(性同一性障害やトランスジェンダーに対する嫌悪)といったなどが該当するが、個別の問題に分けて考えることが難しい。
  • Microaggression(微小な攻撃):特定の人種、性別、セクシュアリティ、またはその他の特徴についての根底にある偏見によって生まれた、何気ないコメント、行動、行動のこと。典型的な例としては、黒人に対して「あなたはとても聡明だ!」とか「あなたは私が知っている中で最も白人的な黒人だ!」などと言うことが挙げられる。前者は、黒人が聡明であることが珍しいことを暗示し、後者は、黒人の行動が社会の固定観念に合わないことを暗示している。
  • Performative(パフォーマティブ):行動を起こさずに発言をすること。
  • Pipeline problem(パイプライン問題):テクノロジーの多様性がないのは、テクノロジーに興味を持つ黒人やラテン系の人々が少なすぎるためだという誤解。
  • Transgender(トランスジェンダー):出生時に決められた性別と性自認が一致しない人。
  • Unconscious bias(無意識のバイアス):暗黙のバイアスとも呼ばれ、特定のグループについて人々が持っている根底にある信念のことで固定観念を原動力とする。しかし、長年にわたり、これらのバイアスはすべて無意識のものではないと主張する人もいる。
  • White privilege(白人の特権):社会の中で白人であるという理由だけで人々が持つ利点。詳細はこちら(TEACHING TOLERANCE記事)。
  • Woke(覚醒):社会における社会正義や人種的正義の問題を認識していること。

多様性、機会均等、公平性の背景

多様性、機会均等、公平性とは、黒人や褐色人種の雇用や採用だけを意味するものではない。これは、ベンチャーキャピタルやギグエコノミーを含むテック業界のあらゆる側面に影響を与えるもので、労働者の多くは黒人、先住民、または有色人種である。

一般的には、スタートアップの多様性と機会均等への取り組みには、遅れるよりも早く着手したほうがいいというのが常識だ。そして「すぐに」というのは「いますぐ」という意味だ。

以下に、この分野で活動している組織の概要を紹介する。採用活動の強化、無意識のバイアスや同調関係のトレーニングの実施、メンターシップの模索、資金調達、ほかのギグワーカーとのつながりなど必要な情報が見つかるはずだ。

画像クレジット:TechCrunch

このガイドは包括的なものではないが、どこから始めればいいかわからない読者のための出発点となるように設計されている。次のステップとして、あなたの興味を引く上記の組織のいずれかに連絡を取ることをお勧めする。

関連記事
The future of diversity and inclusion in tech(未訳記事)
A diversity and inclusion playbook(未訳記事)

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(翻訳:TechCrunch Japan)

AMCが8月20日に全米約100カ所で映画館を再開、1日限りでチケット価格1920年時の15セントに戻す

ほとんどの業界と同じく、過去5カ月間は映画館にとって壊滅的な状況だった。その規模において、世界最大の劇場チェーンほど打撃を受けたところはほかにない。AMC(AMCシアターズ)は、以前から映画館再開の計画を立てていた。しかし物事は変わる、特に不確定で常に変化を続ける世界的なパンデミックが相手のときは。

関連記事:AMC will close all US theaters for six to 12 weeks(未訳記事)

今週、AMCは8月20日に米国で100館を超える映画館を再開する計画を発表した。これは再開計画の第一波だ。当然ながら復帰に慎重な顧客のために、1日限りで全チケットを15セント(16円)で販売する(ソーシャルディスタンスを確保するため、枚数限定)。この金額は一時的に1920年のチケット価格に戻すもので、同劇場チェーン創立へのオマージュである。

しかし、まだまだ課題は残る。中でも大き問題は、選ぶべき新作がないことだ。これは、鶏と卵の話の一種である。映画スタジオは同じくらい映画を配給したくてたまらないが、規制によって映画館は閉じたままだ。度重なる遅れを経て、ワーナー・ブラザーズはクリストファー・ノーランの「TENET テネット」を米国より先に海外で公開する異例の手段を選んだ。これこそこの国の新型コロナウイルスへの対応状況を表している。

関連記事:7月15日に再開する大型映画チェーンで任意だったマスク着用が猛反対により義務に

TENETや「The New Mutant」といった作品が控える中、AMCは観客の復帰をかつての大ヒット作品に頼ろうとしている。近日上映予定なのは「スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」や「ブラック・パンサー」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ゴーストパスターズ」「グリース」などの作品だ。料金は1本5ドルに設定されており、新作であるかどうかにかかわらず映画館に戻るのを待ちきれない人たちがターゲットだ。

関連記事:Theaters are ready to reopen, but is America ready to go back to the movies?(未訳記事)

AMCといえば、観客にマスクの着用を義務付けなかったと発表して議論を呼んだが、オンラインで激しい批判を浴びて即座に方針転換した。劇場再開のリリースには、消毒と安全対策に関する項目が掲載されている。

AMCは安全・清潔対策として、各上映回の販売チケットの大幅な減少、予約席の一部封鎖によるソーシャルディスタンスの確保、入れ替え時間を延長することによる清掃の徹底、静電スプレーを使用した夜間の殺菌、高度なHEPA掃除機の使用、MERV 13フィルターを可能な限り使用する空気清浄の改善、来場者および職員全員のマスク着用を義務付けた新たな安全基準、手指消毒の劇場全体への配置、来場者への殺菌拭き取り紙の配布などを行います。

上映館の一覧はこちら(BusinessWire記事)から参照できる。ごく一部の年と州に限定されているほか、カリフォルニア、ニューヨークなどの主要都市は新型コロナウイルスの安全規制のために除外されている。

画像クレジット:Ben Gabbe / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

民主党副大統領候補ハリス氏はテクノロジーの震源地を大統領選に持ち込む

カリフォルニア州選出の上院議員Kamala Harris(カマラ・ハリス)氏を、トランプ大統領の席を奪うクエストで副大統領候補として指名したJoe Biden(ジョー・バイデン)氏の決定は、次の副大統領が初めて、黒人でアジア系米国人女性の候補者から選ばれるかもしれないことを意味するだけではない。

もちろんそれだけでも歴史の大きな節目であることは確かだが、彼女がテクノロジー産業でキャリアを築いたカリフォルニア人でもあることも意味している。

オークランドで生まれたハリス氏はサンフランシスコの地区検察官、そのあとカリフォルニアの司法長官を務めてから、2016年に上院議員に選ばれた。新たに指名された副大統領候補としてテクノロジー業界に関する深い理解を選挙戦に持ち込むこともありえるが、もっと重要なのは強力な複数のテクノロジー企業が前例のないほどの厳しい批判を浴びているこの時期に、民主党政権はどのように振る舞うのか、それに対し彼女がどのような立ち位置で臨むのか、という問題だ。それに関しては、まだ何ひとつ明らかでない。

ハリス氏はシリコンバレーの経営者から、民主党の指名を争うレースで大きく支持され、大手テクノロジー企業の社員たちからの寄付(The New York Times記事)でも、早くから他の候補を抜いている。その支持はレースが進むにつれて変わり、テクノロジー業界の寄付者たちの多くは複数の候補を支持したが、業界はバイデン氏の選択に満足しているだろう。

注目すべきは、ハリス氏が2010年にカリフォルニア州の司法長官に選ばれて2期を務め、テクノロジー産業の最大の爆発的成長期の間に彼らを監督したことだ。テクノロジー業界の規制に向かう彼女のスタンスを予知するには、選挙戦の期間中に彼女が言うことよりも、州の司法長官時代の経験や見聞が重要だ。

でもそれは、シリコンバレーにとって間違いなく単純な時代であり、今のように、選挙の妨害とか誤報合戦、反トラストの執行のような問題をめぐって厳しい会話や論争が生じている時代の、ずっと前のことだ。

慎重な発言

予備選が進み、当時ライバルだったElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)氏が大手テクノロジー企業を批判する立場(未訳記事)を取り続けているとき、ハリス氏はテクノロジー業界の規制をめぐる難しい問題にはあまり言及しなかった。10月のディベートでハリス氏は、巨大テクノロジー企業が分割された場合に生ずる副次的影響に関する質問を避け、代わりにトランプのTwitterアカウントという、より安全な政治的話題に方向を変えた(The New York Times記事)。テクノロジー企業の説明責任という重い話題を避けたハリス氏は、ルールに違反している大統領のアカウントを停止するよう、Twitterに呼びかけた。そして、その問題は「安全とTwitterという企業の説明責任の事案だ」と述べた。

Kamala Harris:トランプのツイートは暴力を教唆し、目撃者を脅し、正義を妨害している。Facebookを強力に取り締まることはできなくても、Twitterに対し目を閉じているべきではない。大手テクノロジー企業は、そのプラットホームの悪用を彼に許していることに関して、説明責任を負うべきである。

今年の早い時期のインタビューで、FacebookやGoogle、Amazonのような企業は分割されるべきかという直接的な質問(The New York Times記事)に対してもハリスはやはりそれをかわしたが、「それらの企業のユーザーデータの扱い方は気になる」とは語っていた。

「テクノロジー企業は、米国の消費者が自分のプライバシーが侵されることはないと確信できるように規制されるべきと思う」とハリス氏は説明している。彼女は2018年のTwitterのスレッドでも、ユーザーのプライバシーに関する懸念を表明している。

そのスレッドで同氏は「Facebookがユーザーの位置やIPアドレス、いつどこのサイトを訪れたかなど、自分のさまざまなデータを集めていることを知らない人が圧倒的に多い。それは現実の世界では、あなたが今何をしているか、どこへ行ってるか、どこにどれだけ居たか、誰と一緒に居たかなどを監視されているのと同じだ。そんなことをされたら、プライバシーの侵害だと感じる人がほとんどだろう」と述べている。

Facebookへの関心

テクノロジーに関するそのほかの批判では、ハリスはFacebookに言及することが多い。そんなときとくに強く非難するのは、2016年の大統領選でロシアからの偽情報の拡散に果たした同社の役割だ。同氏は同社が集めたデータをどのように取り扱っているのかを気にしている。

Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏に直接会った際にハリス氏は、Cambridge Analyticaによるユーザーデータの悪用をFacebookがどう取り扱ったかに焦点を当てた(未訳記事)。さらに最近では、コロラド州選出上院議員Michael Bennett(マイケル・ベネット)氏との共同書簡(ハリス氏のサイトのプレスリリース)で聴聞の結果が概してよくなかったFacebookのCEOに対し、今度の選挙ではもっとしっかりするよう圧力をかけている。

関連記事:Sen. Harris puts Zuckerberg between a rock and a hard place for not disclosing data misuse(未訳)

二人の上院議員は、その書簡で「最近の新型コロナウイルスに関する偽情報に対しては、同社は抑止の意思を示しているが、2016年の選挙に関しては今だに、事件から学び、有権者に対する抑圧と対決する決意を示していない。われわれは、Facebookが自分が自由に利用できるツールとリソースを使って積極的に有権者に対する抑圧と戦い、市民の権利を保護することに失敗しているという、聴聞者たちの懸念を共有するものである」と書いている。

同社に当てた別の書簡でハリス氏は、The New York Times紙の記事を引用しながら、気候関連の誤報に対するFacebookの事実確認のポリシーを批判(ハリス氏のサイトのプレスリリース)している。

厳しい言葉づかいにもかかわらず同氏は、FacebookのCOOであるSheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)氏とは仲がいい。サンドバーグ氏は米国時間8月11日にハリス氏の副大統領候補指名を祝った。2013年にハリス氏は、サンドバーグ氏の書籍「Lean In」のマーケティングに協力(HuffPost US記事)して自分自身の話を共有したようだ。ハリス氏はまた、2015年にメンロパークのFacebook本社で行われたサイバーいじめ対策の集会でもスピーチを述べ、会場で二人の写真を撮られた(HuffPost US記事)。

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Today @kamalaharris became the first Black woman to be nominated for Vice President of the United States. This is a huge moment for Black women and girls all over the world – and for all of us. Our nation has a history of great women like Shirley Chisholm who have fought to lead and now, for the first time, we’ll see a Black woman on the ticket for the highest office in the land. In a world where there are still far too few Black women leaders in our companies and government, that really matters – because you can't be what you can't see. Research shows that women running for office face obstacles that men don’t. People are more likely to question their qualifications, criticize their looks, or simply dislike them. For women of color, this gender bias is compounded by racial bias. Black women candidates face double discrimination on the campaign trail, including criticisms of being “too ambitious” or “out for herself.” There’s no denying that Kamala Harris is ambitious – and that’s something we should be celebrating. Today, I am hopeful that many more Black women and girls will be inspired to run for office at every level. It’s only when everyone can compete and get a fair shot that we’ll get a government that truly represents all of us.

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反トラストは後回しか?

ハリス氏のテクノロジー観は、公表されている声明がわずかにあるだけで、未知の部分が多い。予備選における他の候補との差別化努力の中には、副大統領になってからの施策の優先順などは出てこないと思うが、しかしそれまでに分かることも少なからずあるだろう。

目下、次の政権のためのテーブルの上に極めて多くの危機がある。大手テクノロジー企業の規制は、2020年のパンデミック以前の政治情勢の中では選挙戦の大きなテーマだったが、今では警官の暴力をめぐる会話と、コロナウイルスの封じ込めにおける米国人の壊滅的な失敗が前面にある。反トラストの規制や、テクノロジーの力に対する介入が後回しの問題になるのか、それもまだ分からない中で、その間に消さなければならない特A級の大火が全国いたるところにある。

ハリス氏がこの国の次の副大統領になったからといって、テクノロジー産業のための政策形成や反トラスト努力の推進が最優先課題になるとは限らない。しかし同氏がテクノロジー産業の地理的なハブ(シリコンバレー)と深いつながりがあったことが、バイデン氏の大統領府とその優先施策に、何らかの結果をもたらすことは確実だろう。

ハリス氏の政策アプローチには疑問符がいくつか付くとはいえ、テクノロジー業界にとって既知数だ。シリコンバレーを理解している人物であり、また、過去の例から見ても、話は厳しくても業界の最大手に対して過激な施策を取ることはない。バイデン・ハリスコンビの選挙戦からどんなテクノロジー政策が登場しても、この生きのいい副大統領候補には、他の候補と比べてずっと意味のあるテクノロジーとの関わりがある。そのことだけでも、注目の価値があるだろう。

関連記事:Elizabeth Warren, big tech’s sworn foe, drops out of 2020 race(未訳記事)

画像クレジット: Daniel Acker/Bloomberg via Getty Images/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

トランプ大統領のTikTok発言ネタで人気のサラ・クーパー氏がNetflixにも登場へ

ライターでコメディアンのSarah Cooper(サラ・クーパー)氏にとって、新型コロナウイルスのパンデミックは悪いことばかりではない。悲惨な状況の中で最良の結果を得るために、TikTokカウントを開設し、在宅を維持しながら、トランプ大統領のしばしば奇怪な発言を吹き替えして、そのバカバカしさを強調している。トランプの発言を見て「私の見ていることは現実なのか?」と感じることの多いこの国のはけ口になっている。

そして、3月以来数百万人のフォロワーを集めたことに加えて、ジャマイカ系米国人でかつてGoogle(グーグル)で働いたこともあるクーパー氏は、このたびNetflix(ネットフリックス)のコメディースペシャルに登場することになった。

「Sarah Cooper: Everything’s Fine」(サラ・クーパー:すべて順調)という題されたその番組は、ライターでプロデューサーのNatasha Lyonne(ナターシャ・リオン)が制作を指揮し、サタデー・ナイト・ライブでカマラ・ハリス上院議員を演じるのに忙しい(Entertainmennt記事)がコメディアンのマーヤ・ルドルフが統括責任者を務める。

これはクーパー氏にとって、新たな名声の1つにすぎない。ニューヨークで一緒に暮らすソフトウェアエンジニアの夫について、自分のトランプネタに我慢の限界が来ていそうだ、と笑う。「ドナルド・トランプの声を何度も何度も聞かなくてはならないから」とこの夏Vanity Fair(ヴァニティ・フェア)に語った。「いつか窓から飛び出すんじゃないかと思う」。

さらにクーパー氏は、タレント事務所のWMEと最近契約し、6月にJimmy Fallon(ジミー・ファロン)氏と「The Tonight Show」(ザ・トゥナイト・ショウ)に出演、Jimmy Kimmel Live(ジミー・キンメル・ライブ)ではゲスト・ホスト(@sarahcpr投稿)まで務めた。

Vanity Fairのインタビューによると、クーパー氏はほかにもテレビでの挑戦として「あちこちで失敗を繰り返した挙げ句、なぜかまた何かしでかす」自信過剰な上司を描いた脚本を書いている。

このNetflixのスペシャルがどこまで追求するのかわからないが、トランプ嫌いの多くの人やいく人かの支持者が番組の内容に注目していることは間違いない。Netflixは詳細について多くを明かさなかったが、政治、人種、性別、階級などの問題やその他の軽い話題についてさまざまな短編を集めたバラエティースペシャルになると語った。

ちなみに下のビデオでは、以前の勤め先を冗談めかしく批判している。

「誰もが私に、Googleで働くことは楽しかったと尋ねるが、実際それは楽し〈かった〉。楽しかったのは、四半期ごとにどれだけ楽しむべきかを言われ続けたからだと私は知っている。そうしないとクビになるから」

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

UberとLyftにドライバーを従業員として扱うようカリフォルニア州最高裁が命令

カリフォルニア州最高裁判所のEthan Schulman(イーサン・シュルマン)判事はUber(ウーバー)とLyft(リフト)にドライバーを従業員として扱うよう、仮差し止め命令を出した。この命令は10日以内に発効することになっている。

「差し止めでコストが発生することを裁判所は認識している」とシュルマン判事は命令書に書いた。「被告人はA.B. 5に則るために、ドライバーを雇用・管理するための人事担当スタッフを雇うなどして事業慣行の在り方を大きく見直さなければならないことに疑いの余地はない」。

差し止め命令の発効まで10日の猶予があり、Uberはすぐさま上訴すると同社の広報担当はTechCrunchに述べた。

「ドライバーの大半は独立して働きたいと考えている。当社はカリフォルニア州法に則るためにすでにアプリにかなりの変更を加えている」と広報担当は話した。「カリフォルニア州の300万人超が失業しているいま、選挙で選ばれたリーダーたちは経済低迷中に産業を潰そうとするのではなく、雇用創出に注力すべきだ」。

今回の判決に先だちシュルマン判事は先週、双方の主張を聞き取った。カリフォルニア州司法長官であるXavier Becerra(ザビエル・べセラ)氏、それからロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコの法律顧問がUberとLyfthにAB 5法の遵守と、ドライバーを独立請負業者として分類することをただちに止めるよう求めて提訴していた。

「ドライバーは従業員になりたいとは思っていない。それがすべてだ」とLyftの広報担当はTechCrunchに語った。「当社はただちに上訴し、ドライバーの独立のために引き続き戦う。究極的にはこの問題はカリフォルニアの選挙民によって決められるもので、人々はドライバーの味方だと確信している」。

命令の中でシュルマン判事は、UberとLyftがAB 5に違反しているとの原告の訴えが勝る、と述べている。AB 5はDynamex Operations West(ダイナメックスオペレーションウェスト)対ロサンゼルス最高裁判所の裁判で2018年に下された裁定を成文化している。この裁判で裁判所はABCテストを適用し、Dynamexが「雇用主のためにサービスを提供する労働者は賃金や福利厚生について主張できる従業員である」という推定に基づいて労働者を誤って独立請負業者と分類したと裁定した。

ABCテストによると、雇用主が労働者を法的に独立請負業者として分類するには、A:労働者は雇用主の管理や指示を受けていない、B:雇用主の事業以外の業務も行っている、C:定期的に独立性が確立された仕事に従事している、という3点を証明しなければならない。

UberとLyftが労働者を独立請負業者として誤って分類することで不公平で違法な競争優位を得ている、として仮差し止めを求める訴訟が2020年5月に起こされた。訴訟はUberとLyftが労働者から最低賃金や超過労働手当、有給傷病休暇、傷害保険、雇用保険を奪っていると主張している。サンフランシスコ上級裁判所に起こされた裁判では、不正競争防止法に基づいて各違反ごと、ドライバー1人あたりに対して2500ドル(約27万円)の罰金を求めている。

「何年もの間、労働者は法に従わない巨大ギグ企業による誤った扱いに対し、団結して声を上げてきた」とUberのドライバーでGig Workers RisingのメンバーであるEdan Alva(エダン・アルヴァ)氏は声明で述べた。「我々が直面している不当な扱いがあまりにひどく、正義を待てないと司法長官は主張してきた。今日、裁判所は企業ではなく労働者の肩を持った。誤って分類された何千ものギグワーカーは賃金、福利厚生、保護、法的根拠のある従業員ステータスを手に入れる。UberとLyftが法に従わなければならないのは明白だ。ギグ企業が投票イニシアチブProposition 22に1億1000万ドル(約117億円)を注ぎ込み、そうした資金を尊厳と敬意を持った適切な労働者の扱いに再投資するという我々の要求は揺るぎないものだ」。

画像クレジット:Photo by Lane Turner/The Boston Globe via Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

米政府のTikTok、WeChatの排除命令の全文とその背景

トランプ米大統領が署名した、TikTokの親会社であるByteDance(バイトダンス)と、米国人・米国企業との取引を禁じる大統領行政命令(米政府リリース)、WeChatに関するほぼ同様の命令(米政府リリース)が公開されている。ホワイトハウスではTencent(テンセント)が運営する中国で広く利用されているチャットサービスのWeChatとの取引も禁じたと発表している。ただし米国ではTikTokに比べてWeChatの利用は極めて少なく、在住中国人コミュニティが中心だ。

これらの大統領行政命令は45日後に発効するが、最大の問題は文言が不明確なことだ。伝えられるところによれば、どのような行為が禁止の対象になるのかについてウィルバー・ロス商務長官でさえ現在は答えられず、今後45日間で検討するという。さらにこれらの命令が米国におけるTikTok、WeChatおよびTencent製アプリなどの中国系アプリの運営そのものに与える影響も明瞭でない。

命令の文言自体はTikTok、WeChatの運営そのものを直接に禁じていないが、政府はこれらを他の方法で間接的に禁じることができる。トランプ大統領は8月6日に「中国の信頼できないサービスを追放する」と発表した。 このクリーン・ネットワーク・プログラムはWeChatとTikTokの禁止が含まれるものと考えねばならない。

Tencentの広報担当者は「影響を判断するために大統領行政命令の検討しているところだ」と述べた。

TikTokは「この命令の根拠は誤っており、デュープロセス(適正な手続き)を欠いている。これは世界のビジネスに対し米国が法治主義であることを疑わせる危険がある」と反論している。

大統領行政命令は冒頭で国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)と国家非常事態法(National Emergencies Act)を根拠として挙げている。ここで「合衆国におけるアプリの運営」を安全保障上の脅威と認定しているのは極めて異例で、おそらくは適法性を巡って訴訟が予想される。ByteDanceはインド政府による禁止を解除させる努力(未訳記事)を続けている。インドは7月にTikTokと59のアプリを一括して禁止した。米国同様、インドもこれらアプリによる個人データの収集が国家安全保障に脅威となるとしている。

一方、Microsoft(マイクロソフト)はTikTok事業をByteDanceから買い取る交渉を進めていると発表した。交渉の期限は9月15日だ。大統領命令が発効するのはマイクロソフトが発表した交渉期限の直後だ。ByteDanceはTikTokの所有権をマイクロソフトに引き渡すことに原則的に同意している(ロイター記事)と報じられた。ただし少数株主の地位を求めているようだ。.

ByteDanceに関する大統領命令は「中華人民共和国の企業によって製造、所有されるモバイルアプリ利用の拡大は、米国の安全保障、外交政策および経済をは脅かしている。現時点では、これらのモバイルアプリ、特にTikTokによる脅威に対する措置が必要と認められる」と述べている。

これに続いて行政命令は、発表から45日以降、 米国の司法権がおよぶいかなる人物あるいは組織もByteDanceおよび一切の子会社と取引が禁じられるとしている。ただし「関連ある放棄によって特に許される場合」は除かれる。命令はTikTokの位置情報、閲覧履歴、検索履歴を含むよるユーザーデータへのアクセスについて「中国共産党による米国人の個人データおよび知的所有権を持つデータへのアクセスを許し、連邦政府職員並びに契約諸機関の位置情報ならびに個人に対する詳細情報を取得させ、 こうしたデータが脅迫、産業スパイ行為のために利用される危険がある」と認定している。

トランプ大統領は先月末、行政命令によって Tiktok の利用を禁止するつもりだと述べた。大統領とマイケル・ポンペオ国務長官を含む政府高官はこの数週間、TikTok が米国の安全保障に対する脅威であることで次第に強い表現を使っていた。TikTokは北京に本拠を置く企業、ByteDanceが開発、所有しており、Tiktok の中国版であるアプリ(Douyin)も運営している。これに対しByteDanceはikTokの運営をできるかぎり中国から遠ざけようと努力し、そのデータも中国国外に保存されているとした。

Tencentのアプリも全面禁止の可能性

トランプ大統領のWeChatを禁止命令は、 TikTok 禁止に比べればやや意外だったが、完全に驚きというわけではなかった。ポンペオ国務長官が今週大統領は近くTikTokに対して措置を取るとした発表の中で、対象としてWeChatその他の中国製アプリも挙げているからだ。 ByteDanceの場合と同様大統領はWeChatのデータ収集は中国共産党にユーザーデータへのアクセスを許す危険性があり米国の安全保障にとって脅威であると述べている。またこの命令の中でWeChat は中国政府にとって政治的に問題のあるコンテンツを検閲しているとも述べている。

命令の禁止範囲はWeChatだけにとどまらず、米企業に対してがTencent Holdingおよびその子会社との取引を全面的に禁ずるものとなっている。

商務長官が今後45日の間にどのようにして禁止される取引の具体的な範囲を決定できるのも大きな疑問の一つだ。Tencentが米国のテクノロジー企業、エンタテインメント企業に対して行っている投資を考えると、行政命令は結果としてこれらのビジネスに多大な不利益を与えるおそれがある。Tencentの米国における投資は広汎さや巨額さでソフトバンクの投資と比較されることがある。過半数株主は株式への配当以外にも取締役への特別ボーナスなど様々な方法で利益の還元を得ることが可能だ。

例えばTencentは長年、Spotify、Snap、Reddit, Tesla, Warner Music、Universal Music、reddit、Teslaなどの大企業を始め、Fortniteの開発元のEpic GamesやLeague of LegendsのRiot Gamesのような高収益のゲーム企業にも投資を続けてきた。

この点に関してLos Angeles Timesは、ホワイトハウス高官が「行政命令による禁止はWeChat に関連する取引のみに限定され、他のTencent Holdingsとの取引には関連しない」と説明(Los Angeles Times記事)したと報じている(。しかし命令の文言からこのように読み取れるかどうは不明だ。

TechCrunchの取材に対してマイクロソフトはコメントを避けた。TechCrunchはホワイトハウスにも取材を続けている。

画像:Costfoto / Barcroft Media / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

映画会社の映画館所有を禁止する70年前のパラマウント同意判決が廃止に

連邦裁判所は70年前のパラマウント同意判決を廃止する司法省の決定を承認した。映画会社に対して映画館所有などさまざまな反競争行為を禁止した裁判所命令だ。

連邦地方裁判所のAnalisa Torres判事は、Netflix(ネットフリックス)などのストリーミングサービスが増加したことを裁定の理由の一つに挙げた。

命令の対象外であった映画配給会社が、1940年以降市場に参入し始めた。中でもThe Walt Disney Company(ウォルト・ディズニー・カンパニー)の存在は巨大であり、2018年には約30億ドルの国内興行収入を上げる最大の映画配給会社となった。命令の対象外の配給会社には、Lionsgate(2018年に20作品を公開)、Focus Features(13作品)、Roadside Attractions(12作品)、STX Entertainment(10作品)などがある。インターネット・ストリーミングサービスのNetflix、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)など、映画を制作・配給している会社は命令の対象である。つまりその他の対象企業は、ライバルたちには適用されない法的制約を受けることになる。

この決定が大手のストリーミングサービスに影響を与えるかどうか定かではない。Torres判事は、ある映画会社が命令に対象でなかったとしても、「容認可能な行動の基準となり、関わっていない業界関係者に対する規範となる効果がある」ことを指摘した。

しかし、2020年に映画ビジネスへの参入を考える者がいることは想像しにくい。米国内の観客数はすでに減少方向にあり、これはCOVID-19パンデミック以前からそうだ。

NetflixとAmazonは、これ以前に劇場を所有することに興味を示したことがあった。数年前にAmazonは映画館チェーンのLandmark Theatresの買収を試みていると報じられたことがあり、今年はAMCを買収するという噂によって、映画館チェーンの株価が上がった。しかし買収の発表はなく、その間にAMCの財務は安定した

一方Netflixは昨年、 ニューヨークのパリ劇場と長期賃貸契約を結び、昨年はロサンゼルスのエジプシャンシアターにも関心を持っていたらしい。しかし、一連の行動は大きな映画館戦略の始まりというより、Netflixがストリーミングの映写やプレミアイベントを行うための一回限りの契約だろう。

裁定の影響を本当に受けるのは、別の業界かもしれない。たとえば、作品の抱合せ販売や系列独占などの排除だ(2年間猶予期間あり)。こうした制約がないと、映画会社は儲けの多い作品を上映したい映画館に、人気の低い作品も一緒に買うことを強要する可能性がある。

関連記事:
Netflixがニューヨークの古い映画館「Paris Theatre」の権利を長期リースで取得

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

米テック企業のモラルが損なわれている今、カナダは正しい価値観の中でテックを構築するのに最適の場所だ

拠点であるシリコンバレーが生み出す輝きや利益など、米国のテック産業は最近まで科学、発展、起業家精神といったもので米国を素晴らしい国にしているまぶしい存在だった。しかしテック大企業に対する世論は驚くほど急激に厳しいものになった。否定的な見方が2015〜2019年の間に17%から34%に倍増した(Pew Research Center記事)。懸念材料は多く、そこにはプライバシー、労働者の待遇、マーケットプレイスの公正さ、広告入り媒体の惨状、パブリック・ディスクロージャー(公共政策に関わるような報道や発言)の悪意などが含まれる。

しかしこれらの背後に1つの大きな問題がある。業界が成長、利益、パワーに貪欲で、従業員や顧客、社会全体の住人を人間として適切に扱わなかったことだ。プロダクト、企業、エコシステムは人々によって人々のために作られているということを心に留めておかなければならない。そうしたものは社会の価値を反映する。そして現在、米国の価値は酷い状態だ。

筆者2人は、マイクロプロセッサーやエレキギターを生み出した米国に対し多くの尊敬の念と愛着を抱いている。我々は米国でテックキャリアを追求することができたが、度重なる誘いを断って母国カナダに留まることを選んだ。もし、一部の人のための自由やインクルージョンではなく、多くの人のための公平、ダイバーシティ、社会の進歩に活用されるテクノロジーを構築したいのなら、カナダは絶好の場所だと我々は考えている。

正確にいえば、米国のテック大企業はあまりにも多くの資金、パワーを持ちながら、さほど責任を負っていない。トップのテック企業は明らかにイノベーションの恩恵を最大限に受けているが、社会的コストにはほとんど目を向けていない。テック大企業は素晴らしいものを作っている。しかし彼らはまた暮らしを崩壊させ、プライバシーを侵害し、自社のプラットフォームを乱用している。

筆者2人はテックは物事を良くするものだ、という時代に育ってきた。今日のテック大企業の一部も同様だ。テック大企業4社のCEOがつい最近、議会で証言した。彼らは独占禁止法違反の疑いで質問攻めにあったが、その様子を見ていた人の多くが、そうした企業に関連する他の害について考えていた。その害とは、税金逃れ、プライバシー侵害、データマイニング、監視、検閲、虚偽の拡散、有害な副産物、従業員福祉の軽視などだ。

しかし業界の問題はプロダクトそのものではない。あるいは、それらを作っている人々でもない。テック労働者は、働いている企業よりもかなり進歩的な傾向にある。例えばFacebook(フェイスブック)のスタッフはDonald Trump(ドナルド・トランプ)大統領の投稿に対して仕事をボイコットして反対の姿勢を見せた。

テック大企業の問題には、米国が対応に苦慮している問題が凝縮されている。テック大企業の財務諸表にも反映されている経済格差、テック業界がマイノリティや優秀な移民を擁するのを阻む人種差別的な政治などだ。

我々は特に、トランプ政権のH-1Bビザ保有者の機会を取り上げるという最近の動きに衝撃を受けた。家族が何年も離れて暮らした後のビザ発行禁止と反移民レトリックであり、これは世界中からのIT専門家やエンジニア、プログラマー、研究者、医師、起業家、未来のリーダーつまり米国の現在の繁栄を築いた才能ある新規転入者たちをもっと受容力のある国に送ると判断したものと受け取れる。

そうした受容力のある国の1つが、筆者が居住し働いているカナダだ。カナダは長らく移民を受け入れてきたが、近年は米国で不快な思いをしたり必要とされていないと感じている優秀な人材をすくいとる政策で長年続いていた頭脳流出の問題を転換させた。カナダにはGlobal Talent Streamという移民プログラムがある。これはイノベーティブな企業が専門スキルを持った外国人労働者をすばやく採用できるようにするものだ。トロント、モントリオール、ウォータールー、バンクーバーといった都市は、トランプ政権になってからテック関係の雇用創出で北米をリードしている。雇用の創出は、国際的なテック大企業による前哨部隊設置、そして物事をカナダ流に行うソフトウェアデベロッパーのOpenText(オープンテキスト、筆者の1人が共同創業者だ)やeコマースの大企業Shopify(ショピファイ)といったカナダ企業(BNN Bloomberg記事)によるものだ。

「カナダは素晴らしい。試してみて」。ShopifyのCEOであるTobi Lütke(トビー・ルトケ)氏は最近Twitter(ツイッター)で不満を抱いている米国のテックワーカーに呼びかけた(Bloomberg記事)。

しかし素晴らしいのは政策だけではない。根本的な価値観についてもそうだ。カナダはダイバーシティが理論的にも(移民政策に表れている)、現実にも(バンクーバーやトロントの街を歩けばわかる)かなり浸透している。我々はパーフェクトではない。しかし対処する必要がある問題の認識においてはしっかりと導かれ、当然成功してきた。そしてカナダの社会契約は協調的で包括的だ。

つまり、それは自己負担のない公的医療制度を意味し、さらには持続可能性、共同責任、資本主義の共同的な取り組みを意味する。カナダ連邦政府と州政府はパンデミック期に零細事業者やテック人材を支えようと刺激的な賃金補助や助成を大胆に打ち出し、称賛されてきた。一方で米国政府の対応はといえば、エリートに公金が注ぎ込まれてきたことが今になって明らかになっている。

米国のテック企業はモラル的に狂っていて、これはかつてシリコンバレーが意味して価値観の中で暮らすことを望む才能ある人々の逸失につながる。富、自由、選ばれた少数の人のためではなく、包容性、ダイバーシティそして多くの人のためという価値観だ。カナダは米国モデルに代わる1つの選択肢にすぎない。しかし多くのテック業界求人があり、ベストでかつ国境を超えただけのところにある選択肢だ。

より多くのテック難民が米国を離れて態度を明確にすることになっても驚きではない。

【ゲストラーター紹介】
Tim Bray(ティム・ブレイ)氏はブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー在住のソフトウェアテクノロジスト。Amazon Web Serviceで副社長を務め、Distinguished Engineerでもあった。

Iain Klugman(イアン・クルーグマン)氏はオンタリオ州ウォータールーにあるイノベーションハブ、 CommunitechのCEO。Tech for Good Declarationの賛同者。

画像クレジット:kuriputosu / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

Instagramのハッシュタグ検索はバイデン氏よりもトランプ氏に有利な結果を返していた

どうやらInstagramは、2人の大統領候補に関連した人気のハッシュタグの検索を、異なる方法で処理していたようだ。ジョー・バイデン氏に関する検索クエリに対してしばしば否定的な関連ハッシュタグを出し、トランプ大統領に関連する検索ではそのような扱いをしていなかった。

Tech Transparency Projectによる新しいレポートが、プラットフォームの奇妙な動作を詳しく説明している。レポートの中で、このテック業界監視役はトランプ氏とバイデン氏のキャンペーンに関連する20の有名ハッシュタグの検索結果を比較し、#donaldtrump、#trump、#draintheswamp、#trump2020といったトランプ氏に関連する検索に対しては、ハッシュタグ提案が無効になっていることを発見した。

#Biden、#biden2020、#joementum、#teambidenといったバイデン氏に対応するハッシュタグの検索では、Instagramは明らかにアルゴリズムで生成されたハッシュタグのリストが提案された。これらの関連した提案の内容は様々だったが、その中には数多くのバイデン氏のキャンペーンを批判するハッシュタグが含まれていた。たとえば#sleepyjoe(眠たいジョー)、#neverbiden(バイデン不可)というものや、さらには#covid19isahoax(covid19は陰謀)、#georgesorosisevil(ジョージ・ソロスは悪)といった直接は関係しない陰謀論的なハッシュタグなどだ。

画像クレジット:Tech Transparency Project

Buzzfeedが、この新しいTech Transparency Projectの調査結果を真っ先に報告し、不一致の警告を行ったが、Instagramはこの問題を「バグ」だと説明した(Twitter投稿)。

Instagramのコミュニケーションチームは、ツイッター上でのBuzzfeedのRyan Mac(ライアン・マック)氏に対する返信の中で「これは政治的なものではありません」と強く否定している(Twitter投稿)。Instagramはまた「センセーショナルな物語」となる事例を好んでとりあげていると、レポーターを非難した。

Instagramのチームは、この候補者に対する検索の不均等な取り扱いを重視せず、同じバグは#menshair(男性の頭髪)や#gumdisease(歯周病)などを含む、はるかに重要性の低い他の多くのハッシュタグにも影響を与えたと主張した。現在Instagramは、関連するハッシュタグ提案機能を全面的に無効にしている。

現在の大統領であるトランプ氏の地位が、取り扱いの違いとして現れていたのだと考えることもできるが、#fucktrump(くたばれトランプ)はもちろんのこと、トランプ氏の選挙スローガンである#draintheswamp(問題を取り除け)でさえ無効になっていた。この機能は、#obama、#tedcruz、#jaredkushnerなどの他の数人の政治家ハッシュタグに対してもオフになっていた。

この不一致がInstagramによって意図的に行われたかどうかは明らかではないが、この特にトランプに有利な検索の癖は、主要なソーシャルメディアサイトが反共和党に偏っているという説(ソーシャルプラットフォーム上には右寄りコンテンツが一方的に多い(Twitter投稿)ことからその正しさが疑われている、根拠のない決り文句)とは矛盾する。そして、これまで私たちが何度も何度も見てきたように、ある会社の意図は、製品を厄介なものにするアルゴリズムによる提案の、意図していなかった結果とはほとんど関係がない。

関連記事:フェイスブックとトランプ大統領の間には「何の取引もない」とザッカーバーグ氏が明言

画像クレジット: Bryce Durbin>

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(翻訳:sako)

米国障害者法は施行30周年を迎えるが、テック業界のアクセシビリティ対応はまだ始まったばかり

Americans with Disabilities Act of 1990(1990年障害のあるアメリカ人法)が制定されて以来、数十年にわたり、建物、企業、法律は、さまざまな障害を持つ人たちに合わせて、徐々に変化を遂げてきた。今週で施行30周年を迎える同法がテック業界に与えてきた影響は極めて大きいが、やるべきことはまだ山積みだ。

ADAは施行当初、主に、建物や政府資源(公共サービス)に適用されていたが、時の経過とともに(改善や改正が施され)その適用範囲はかなり広範囲に拡大された。家庭用コンピュータ、ウェブ、そしてアプリが普及するにつれ、これらもADAの対象となったが、どの程度まで適用するかについてはまだ議論が続いている。

この記事では、テック業界が障害者の生活をどのように改善してきたか、現時点で何が不足しているか、という点について、いくつかの有名企業や障害者擁護団体に意見を尋ねた。

回答の内容を見ると、テック企業が障害者の生活にどのくらい貢献してきたか、という話題がやはり最も多かったが、同時に、最近ようやく製品開発プロセスに何らかの意味ある形で障害者を加えるようになった(が、まだ多くの点で十分とは言えない)テック業界に対する提言(とご批判)も頂いた。

Claire Stanley(クレア・スタンリー)氏、米国視覚障害者協議会、擁護/支援活動スペシャリスト

「テック企業は本当に多くの扉を開けてくれた」とスタンリー氏は言う。「例えば書籍。視覚障害者用の書籍を手に入れたい場合、10年前であれば、米国議会図書館が音声に変換してくれるまで待たなければならなかった。今は、Kindleや電子書籍リーダーがあるので、発売と同時に購入できる。以前より格段に早く手に入るようになった」。

「視覚障害者が職場でできることも増えた。ただ、アクセシビリティテクノロジーの使用を前提に設計されていないソフトウェアも数多く存在する、という点は指摘しておきたい。最初からスクリーンリーダーの使用を念頭に置いて設計してくれると大変助かるが、そうでない場合、別の新しい問題が起こる」とスタンリー氏は言う。

「テック企業はアクセシビリティなど念頭にない。だから、スクリーンリーダーがまったく使えない製品を設計する。私の理解では、最初からスクリーンリーダーを念頭に置いて設計すれば、互換性を持たせるのは簡単なはずだ。WCAGというガイドラインがある。プログラマーなら、このガイドラインをざっと眺めるだけで、『なるほど。わかった』となるはずだ。それに、よく聞く話だが、視覚障害者が使える製品を作れば、それは健常者にとっても優れた製品になる」とスタンリー氏は付け加えた。

まさにこの問題を緩和しようとしたのがFable(フェイブル)だ。フェイブルは、QAプロセスでアクセシビリティ対応についてテストすることを事前に考えていなかった企業のソフトウェアテスト担当者を対象に、さまざまな障害を持つ人たちの声をサービスとして提供している。

関連記事:障がい者が開発段階から参加して使いやすい製品デザインを目指すFableプラットフォームとは?

新しく登場した各種デバイスやサービスも視覚障害者の世界を一変させている。

「音声読み上げソフトを使う人が増えているため、点字を読める人は少なくなっているが、新しい設計の点字リーダーが登場しており、価格も安くなっている。私も自分の点字リーダーをいつも持ち歩いている」とスタンリー氏は言う。

もちろん、視聴覚障害者にとって、点字は今でも欠かせないものだ。最近、ある父親が娘に点字を教えようとして、自力で安価な点字教育デバイスを作ったという例もある。20年前には決してできなかった話だ。

「4年前にはAira(アイラ)というアプリが発売された。基本的には、スマートフォンの動画画面を介して、電話の相手が質問に答えて、必要なことを教えてくれるという仕組みだ。私も日頃から使っている。最近のバージョンではAIが組み込まれ、標識を読むといった簡単なことならAIが対応してくれるようになった」とスタンリー氏は言う。

「私たちは自律走行車の分野についても精力的に取り組んできた。自律走行車が実用化されれば、視覚障害者だけでなく、他の障害を持つ人たち、高齢者や子どもにも、多くの可能性が開けるだろう。実用化にはまだ時間がかかることはわかっているが、幸いにも、企業の担当者や議員と実際に会って、自律走行車のアクセシビリティについて話し合う機会を持つことができている」と同氏は付け加えた。

Eve Andersson(イブ・アンダーソン)氏、Google(グーグル)、アクセシビリティ担当取締役

「私が最も注目すべきだと感じているのは、キャプション技術の進歩だ。私がグーグルに入社してから2年後の2009年に、グーグルではAIを使ってYouTube(ユーチューブ)上で自動キャプション機能を導入した。その8年後には、音響効果(笑い、音楽、拍手など)をキャプションする機能を導入して、動画コンテンツをより視聴しやすくした」とアンダーソン氏は言う。

同氏によると、キャプションは当初、聴覚障害者や難聴者のアクセシビリティを実現するために開発されたものだが、音声をオフにした状態や他の言語で動画を観たいという多くの健常者の間でもすぐに利用されるようになったという。

「言語を理解して表示または翻訳できるようにコンピュータをプログラミングすることにより、あらゆる人に役立つさまざまな技術を進歩させることができる。例えば、音声認識や音声アシスタントにより、現在利用されている音声テキスト変換機能(Google Docsの音声入力機能やChrome OSの書き取り機能など)が実現した」と同氏は語る。

ライブの文字起こし機能もテック企業が開発した技術の1つだ。この機能により、聴覚障害者は相手とその場で直接会話できるようになった。

「ADAが施行される前は、物理世界の中に視覚障害者や弱視者がアクセスできない部分が残されていた。しかし現在、米国では、ほぼすべての標識の下に点字が表示されている。おかげで、Google BrailleBackTalkBack点字キーボードなどの製品を開発する道が開けた。どちらも点字ユーザーが必要な情報を入手し、周囲の世界と効率的にコミュニケーションすることを可能にする。『物理世界を障害者がアクセスできるものにする』というADAの精神のおかげで、イノベーションが促進されている。例えば、Lookoutというアプリを使えば、視覚障害者は自分の周りに何があるのかを知ることができる」とアンダーソン氏は言う。

「最近グーグルが検討している領域の1つに、テクノロジーを活用して認識障害者にやさしいものを作るという分野がある。これはさまざまなニーズがある本当に広い分野だが、ほとんど未開拓のままだ」と同氏は言う。Androidの「アクションブロック」はこの分野の初期の試みで、複数の手順からなるプロセスを1つのボタンで簡単に実行できるようにするものだ。アクションブロックの開発チームは、スマート機器を使いこなすのに苦労している人たちに役立つような機能にするために、大規模な改良を予定している。

「従業員、コンサルタント、ユーザーの中で障害を持つ方々に、製品の開発プロセス、研究分野やイニシアチブに常に最初から参加してもらえるよう、業界として取り組む必要がある。障害者や、家族に障害者がいる方々にチームに加わってもらうことで、その体験を開発の場に持ち込んでもらい、結果としてより良い製品ができるようにしたい」と同氏は語る。

Sarah Herrlinger(サラ・ヘリンガー)氏、Apple(アップル)、グローバルアクセシビリティポリシー担当ディレクター

「アクセシビリティは基本的に文化の問題だ。アップルは創業当初から、アクセシビリティ機能を人権と考え、この基本理念は現在でもアップルが設計するすべてのものにおいて明白に実践されている」とヘリンガー氏は語る。

月並みな声明に聞こえるかもしれないが、アップルの歴史はこの声明が実践されてきたことを証明している。アップルが他社に先立つこと数十年前からアクセシビリティ機能の開発に取り組んできたことはよく知られている。TechCrunchのコラムニストSteve Aquino(スティーブ・アキノ)氏は数年にわたり、アップルのアクセシビリティ機能への取り組みについて取材してきた。概要をわかりやすくまとめたのがこちらの記事だ。

Image Credits: Apple

発売当初からアップルの主力製品となっているiPhoneは、アクセシビリティを実現するメインプラットフォームでもある。

「主流の消費者向け製品としてのiPhoneがもたらした歴史的影響について書かれた記事はよく目にする。しかし、iPhoneとその他のアップル製品が障害者の人生を一変させてきたということはあまり理解されていない。iPhoneは、時と共に、最もパワフルで人気のあるアシスタントデバイスとなった。iPhoneは、あらゆる人が日常的に使うデバイスにアクセシビリティをシームレスに組み込むことができることを示したという意味で、従来の枠にはまった考え方を打ち破った」とヘリンガー氏は言う。

最も多くの人が助けられている機能はおそらくVoiceOverだろう。VoiceOverは画面の内容をインテリジェントに読み上げて、視覚障害者のユーザーがOSを簡単に操作できるようにするものだ。最近、VoiceOverのユーザーが自身の体験を投稿して、数百万ビューを獲得している。

一方、テック業界に不足している部分について、ヘリンガー氏は次のように説明してくれた。「レプリゼンテーション(自分が社会の構成員として認識されている状態や感覚)とインクルージョンは必要不可欠だ。アップルは、障害者コミュニティでよく言われる『Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)』というスローガンが真実だと確信している。アップルはアクセシビリティ専任チームを1985年に設置したが、インクルージョンに関するすべてのことがそうであるように、アップルではアクセシビリティもすべての社員の仕事だ」。

Melissa Malzkuhn(メリッサ・マルツクーン)氏、Gallaudet University(ギャローデット大)

Motion Light Lab(モーションライトラボ)創業者兼クリエイティブディレクター
「アクセシビリティを保護する法律がなければ、誰もそれを実装しようとしないだろう」とマルツクーン氏は率直に語る。「ADAはアクセシビリティの推進に大いに役立ったが、同時に、人々の考え方や社会的責任のとらえ方も大きく変わった。ソーシャルメディアでは、自分の投稿のアクセシビリティを向上させることは社会的責任であると認識する人が増えている。すべての個人、さらには、大小問わずすべての企業が、社会的責任を果たすようになることを願う」と同氏は言う。

ギャローデット大学は、「聴覚障害者と難聴者にとってのバリアフリー」を目指して、聴覚障害者・難聴者コミュニティ向けに膨大なリソースと教育を提供している。同大学の職員が長年使用してきたテクノロジーの多くは大きく進歩している。多くの主流ユーザーたちがビデオ会議の類いをこぞって利用するようになり、聴覚障害者向けの機能に改善の余地があると感じたためだ。

「ビデオ会議ではかつてないほど多くのオプションが使えるようになっており、継続的に改良されている。また、ビデオリレーサービスの使い勝手も着実に向上している」とマルツクーン氏は説明する。同氏によると、音声テキスト変換も大きく進歩しており、実用化も本格的に行われている。例えば、ギャローデット大学のTechnology Access Program(テクノロジーアクセスプログラム)はGoogleのLive Transcribeと共同研究を進めてきた。

「言語マッピング処理や、ジェスチャーや手話の認識に関する初期の先駆的な研究にはワクワクする」とマルツクーン氏は付け加えた。ただ、ジェスチャーや手話の認識については実用化はまだ先の話だ。一方で、手話グローブに関するさまざまな試みについて、同氏は、「手話グローブにはうんざりしている。聴覚障害者にこれを着けさせればコミュニケーションの問題はなくなる、という一方的な考え方を助長するだけだ。コミュニケーションにかかる負荷を障害者側に一方的に押しつけても問題は解決しない」と、手厳しく批判する。

「AppleのiPadは聴覚障害を持つ子どもたちの読書体験に対する考え方に革命をもたらしたと言ってよいと思う。当学のモーションライトラボでは、手話による動画と文章を同じインターフェイスで操作できるバイリンガルのお話し本アプリを開発した。ただし、テクノロジーが、誰にもある思いやりの心に取って代わることは決してない。必要なのは、テクノロジーの有無に関係なくコミュニケーションしたいという姿勢があるかどうかだ。少し手話を覚えるだけでもコミュニケーションに大いに役立つ」と、マルツクーン氏は語る。

また、マルツクーン氏はインクルージョンの価値を強調し、聴覚障害者の雇用や対応にまったく手つかずの状態の企業を手厳しく批判した。

「聴覚障害者を雇用している企業は正しく理解している。インクルーシブな設計とアクセシビリティは重要かつ製品設計に『不可欠』なものと考えて注力している企業も、正しく理解している。そのような企業の製品は例外なく、アクセシビリティの低い製品より優れている」と同氏は語り、アクセシビリティの低い製品を作る企業は『深刻な不作為』という罪を犯していると指摘する。「多くの企業が聴覚障害者の助けになる製品を作ろうとしているが、開発の初期段階から聴覚障害者が参加していなければ、障害者にとって良いものはできない。インクルーシブな設計にはまずインクルーシブなチームが必要だ」と同氏は言う。

投資家もアクセシビリティと聴覚障害に取り組むスタートアップに目を向ける必要がある。成長中の聴覚障害コミュニティがそうであるように、聴覚障害に特化したスタートアップも資金と助言を必要としている。

また、マルツクーン氏は、企業が聴覚障害者や難聴者を、最終製品の消費者としてだけでなく、一人前のユーザーとして考えるようになってほしいと指摘する。

「これは私の仕事の原動力になっている。私たちは誰もがテクノロジーを設計できるように常にツールを提供する必要がある。そして、聴覚障害者にトレーニングと教育を施し、それらのツールを使えるようにする責任がある。そうすることにより、設計や構築が行えて、システムのアーキテクトとなり、システムをプログラミングすると同時にテクノロジーのエンドユーザーにもなれる、次世代の若い聴覚障害者たちを育成できる」とマルツクーン氏は語った。

Jenny Lay-Flurrie(ジェニー・レイフレリー)氏、Microsoft(マイクロソフト)、アクセシビリティ担当最高責任者

「個人的には、ADAによって、キャプショニングと通訳のテクノロジーが一段と高いレベルで認識され提供されるようになったと感じている。どちらも私にとって、職場でも家庭でも、そして医療など生きていく上で不可欠なサービスを受ける上でも欠かすことのできないテクノロジーだ。テクノロジーによって、ADAの精神の下、これまで不可能だったことを可能にする力を障害者に与えるソリューションを開発する道が開かれ、万人を益する素晴らしいイノベーションが生まれる。一大変革をもたらすには、まずアクセシビリティの向上に優先的に取り組む必要がある」とレイフレリー氏は語る。

グーグルのイブ・アンダーソン氏と同様、レイフレリー氏も、最近の大きな進歩としてキャプショニングに注目している。

「キャプショニングは、他のアクセシビリティ技術と同様、ますます日常生活に溶け込んでいる。キャプショニングは過去30年で大きく進化を遂げ、この5年間は、AIとMLのおかげで進化がさらに加速した。AIキャプショニングはTeamsにも統合されており、コロナ禍の最中、Teams Captioningの使用率が数か月前の30倍になるなど、その効果を目の当たりにしている」と同氏は言う。

「Seeing AI、Learning Tool、Xbox Adaptive Controllerなど、アクセシビリティ技術も多様化が進んでいる。マイクロソフトがインクルーシブな設計を重視するようになったためだ。上記の製品も障害者の協力を得て、障害者のために開発され、視覚障害、識字障害、運動障害のためのブレイクスルー技術も生まれている」と同氏は語る。

Adaptive Controllerは、ここ数年で最も驚かされたハードウェアの1つだ。これは、ゲームをプレーし、コンピュータとコンソールを操作するための極めて互換性の高いデバイスで、多大な努力と多額の投資が生み出した成果であることは間違いない。

アクセシビリティは「まだ閉じたままだが、何が何でも早急に開けなければならない扉」の1つだとレイフレリー氏は言う。「Seeing AIはAIの大きな可能性を示していると思うが、今後、AIとML、およびARmによって、身体障害の分野で広く何ができるようになるのか、今後が楽しみだ。マイクロソフトは、障害者が直面している最大の課題のいくつかをAIによって解決できると確信している。AI for Accessibilityプログラムが、インクルージョン改革を推進するためのマイクロソフトの取り組みで重要な役割を果たしている理由もそこにある」と同氏は続ける。

レイフレリー氏は、インクルーシブ性を会社のプロセスに組み込む方法についても話してくれた。マイクロソフトがこの問題に関してリーダー的役割を果たしてきたことを考えれば、当然のことだ。

「アクセシビリティを避けて通ることはできない。それは、ビジネスとエコシステムに組み込まれていなければならず、管理と調整を必要とする。アクセシビリティを実現するにはまず人だ。我々は、インクルーシブな文化と人材のパイプラインをどのように創り上げるかに注力してきた。まだ成長と学習を続けている段階だが、Autism Hiring Playbook(自閉症を持つ人材の採用ガイド)、Accessibility at a Glance(アクセシビリティ早わかり)トレーニングリソース、Supported Employment Program Toolkit(援助付き雇用プログラムツールキット)、Inclusive Design Toolkit(インクルーシブ設計ツールキット)といったリソースを介して学習した内容を、他の組織と共有するという対策も講じてきた」と同氏は言う。

「当然だが、どこから始めて、どのようなペースで進めるのかは組織によって異なる。まずは、アクセシビリティを設計に組み込む必要性を認識することが第一歩だ。アクセシビリティというレンズを通して製品開発のライフサイクルの成熟度を評価し、障害者支援機能を後付けで追加するのではなくプロセスに最初から組み込むようにすることが特に重要だ。ここでやるべきことはまだある。それが完了するまでは、『アクセシビリティが確保されているかどうか判断に迷う場合は、確保されていないということだ』というのが私のモットーだ」とレイフレリー氏は語った。

Mike Shebanek(マイク・シェバネク)氏、Facebook(フェイスブック)、アクセシビリティ担当部長

「スマートフォンの可搬性、使いやすさ、値ごろ感、組み込みのアクセシビリティのおかげで、障害者の接続性、モビリティ、自立性は今、30年前は誰も可能と思わなかったレベルまで向上している。デバイスの音声合成、音声認識、音声制御などの音声テクノロジーが登場したことで、障害者の生活の質は格段に改善された」とシェバネク氏は言う。

「フェイスブックはReact Nativeを開発し、オープンソースにすることで、デベロッパーがアクセシビリティ対応のモバイルアプリを作成できるようにした。また、ウェブアクセシビリティのグローバルなデジタル規格を策定して、すべての人がアクセシビリティの高いインターネット体験を得られるようにした」と同氏は続ける。

他の回答者と同じように、シェバネク氏もテック企業は開発の初期段階からアクセシビリティのニーズと手法を検討する必要があること、開発プロセスとテストプロセスに参加させる障害者の数を増やすことを提案する。

機械学習はいくつかの大きな問題を自動的に解決するのに役立っている。「フェイスブックではMLを使って自動動画キャプショニングを実行し、代替テキストを自動作成して、視覚障害者向けに音声による写真の説明を提供している。しかし、これらのイノベーションが実現されたのはごく最近のことだ。テック業界は今やっと、障害者のニーズに真剣に向き合い始め、これから30年で実現できそうなサービスの、ほんのさわりを形にし始めたところだ」とシェバネク氏は語る。

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(翻訳:Dragonfly)

Geoloniaと不動産テック協会が日本全国の住所マスターデータをオープンデータとして公開

Geolonia ジオロニア 不動産テック協会 日本全国の住所マスターデータ オープンデータ

Geolonia(ジオロニア)不動産テック協会は8月5日、日本全国の住所マスターデータ「Geolonia 住所データ」を誰でも無料で利用できるオープンデータとして公開した。不動産テック協会は、同データを不動産ID整備に向けて活用するという。

Geolonia ジオロニア 不動産テック協会 日本全国の住所マスターデータ オープンデータ

Geolonia 住所データは、ユーザーが持つ顧客データベースなどに含まれる住所データの正規化に活用できるほか、住所から緯度・経度への変換 (ジオコーディング)、各種GISソフトウェアなどで利用できる。利用に際して条件はなく、誰でも無料で利用可能。ライセンスは、「CC BY 4.0」。GitHubリポジトリに同梱されているデータ生成用のスクリプトのライセンスは「MIT ライセンス」となっている。

日本の住所は、「丁目」「番地」「号」という表記が一般的だが、「大和大路通正面下る大和大路2」といった京都の通り名に代表される特殊な表記も多く、ひとつのルールで標準化することができないという。また、「3丁目」「三丁目」と数字や漢字で表記が異なるなど、日本の住所はルールというよりも自然言語に近い文法であり、コンピュータで処理するデータとしては非常に扱いにくい状態となっている。

こうした日本全国の住所を正しい表記で網羅したデータが住所マスターデータとなる。住所マスターデータには日本の住所が町丁目まで網羅されているほか、代表点の緯度経度も含まれており、利用者は住所マスターデータを使うことで自身が持つ顧客情報などを位置情報の観点で分析可能となる。

また、従来の住所マスターデータは金額が数百万円と高価なため、個人・中小企業の利用には向いていなかった。さらに、ジオコーディングを行うには事実上Googleしか選択肢がない状態にあり、Googleのデータを利用した場合はストレージへの保存ができない、他の地図への再利用が禁じられているなど利用に制限がかかっている状態にある。

そこで今回、オープンデータとして住所マスターデータを公開することで、利用者は自身が持つ住所データを有効活用できるようにした。

同データは国土交通省のWebサイトからダウンロードできる「国土数値情報」に基づいているものの、「国土数値情報」の更新が1年に1回であるのに対して、Geoloniaは月単位のアップデートも独自に実施している。更新は、「国土交通省位置参照情報ダウンロードサイト」「郵便番号データダウンロード – 日本郵便」を元に行っているという。

不動産テック協会は、このデータを用いて不動産IDを整備することで、不動産取引における企業間での情報連携やデータ連携などを実現するとしている。また、Geoloniaはデータ公開によって地図コミュニティに貢献するとともに、地図を用いた技術開発の基盤データとしてこのデータを活用するという。

不動産テック協会は、不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産にかかる事業ならびに不動産業の健全な発展を図り、国民経済と国民生活の向上・公共の福祉の増進に寄与するための活動を展開。

Geoloniaは、WebGLを利用した自由度の高い地図と、顧客が持つ位置情報を検索・解析するためのAPIを提供するホスティングサービスを公開している。

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英国のUber運転手らがアルゴリズム説明責任をめぐりUberを提訴

英国のUber(ウーバー)運転手の一団が、オランダにある同社の子会社に対し、個人データを開示しアルゴリズムに関するアカウンタビリティー(説明責任)を果たすよう求める訴えを起こした

ウーバーの運転手とUber Eats(ウーバーイーツ)の配達業者は、同社がプロファイリング、およびデータに基づくアルゴリズムによって、欧州のギグワーカーをどのように管理しているかを公開するよう求めるこの訴訟に加わることができる。この訴訟を起こしたプラットフォーム労働者たちはまた、EUデータ保護法で定められている、データ開示に関する他の権利も行使することを求める考えだ。

折しも欧州委員会が人工知能の利用をリスクの重大さに基づいて規制するための枠組みを早急に策定しようとしている中で起きた今回の訴訟は、既存の法的な保護体制の下で、自動化された決定がどこまで規制されているのかを確認できる非常に興味深い事例になりそうだ。

AI技術の利用事例の多くに適用されるのは、今後も引き続き、現存の一般データ保護規則(GDPR)で定められている保護規制のみになると予想される。そのため、最先端のデータドリブン型プラットフォームという文脈において現行の保護体制の規制力がどこまで及ぶかを確認することは重要である。

欧州委員会はまた、今年末にも成立させたいと考えている「デジタルサービス法」によって、プラットフォーム運営企業の責任を明確化する規制の強化を図ろうとしており、その一環として、データモビリティやプラットフォーム労働者の権利などの関連事項についても積極的に取り組んでいる。そのため、今回のウーバーに対する訴訟は非常にタイムリーだと言える。

ロンドン、バーミンガム、ノッティンガム、グラスゴーのウーバー運転手で構成される原告団は、本日(米国時間7月20日)、アムステルダムの地方裁判所で申し立てたこの訴訟を通して、巨大テック企業ウーバーがGDPRを順守していないことを訴え、直ちにGDPRを順守することと、順守が遅れる場合には罰金として1日あたり1万ユーロ(約124万円)を支払うことを同社に命ずる判決を求める考えだ。

原告団はまた、ウーバーのプラットフォームが持つ個人データを、同原告団が設立を希望するデータトラスト(非営利団体が運営)に移すことを可能にする要求に従うよう同社に命じる判決も求める予定である。

Uber U.K.(英国ウーバー)側は、データ開示要求に従うべく鋭意努力していると話し、さらに、要求されたデータを開示できない場合はその理由を説明している、と主張している。

データ権はAIのブラックボックスをこじ開けられるか

EU市民には、GDPRに基づき、自分の個人情報の開示を求める権利が与えられている。これには、自分が提供したデータの複製を他の場所で再利用するために入手する権利も含まれている。

GDPRではさらに、完全に自動化された決定プロセスに服することによって法的あるいは類似の側面で重大な影響を受ける個人に付加的なデータ開示要求権を与えることが定められている。これは今回のウーバー訴訟にも関係している。なぜなら、同社のプラットフォームでアルゴリズムが配車・配達リクエストの中からどのように仕事を割り振るか(または割り振るのを控えるか)によって、運転手や配達業者の収入額が決まるからだ。

2年前にTechCrunchの記事でも書いたように、GDPR第22条は、AIブラックボックスが人間の動き方を決める力を制限する方法を定めた条項である。同条項では、影響を受ける個人のデータを処理する際のロジックについて情報を提供することをデータ管理者に義務づけている。しかし、データ管理者がどの程度詳しく情報を提供すべきかについては明確に述べられていないため、今回のウーバー訴訟は、GDPR第22条の限界はどこなのかを見きわめ、GDPRで規定されているより全般的な透明性およびデータ開示要求権についても確認できる機会になりそうだ。

ウーバーの運転手で、今回の訴訟を支持するひとりであるJames Farrar(ジェームズ・ファーラー)氏によると、この訴訟はGDPRに定められているすべての権利を対象にしているという。ちなみに同氏は、英雇用審判所がウーバーの運転手に雇用された労働者としての権利があることを認めるという画期的な判決が下された訴訟でも、原告団を代表する人物のひとりだった(関連する報道によると、2016年のこの判決後もウーバーが控訴を続けたため、この件については英最高裁判所で明日から審理が始まる)。

原告団のウーバー運転手たちは昨年、同社に対して「データ主体によるデータ開示要求」を行い、同社のアルゴリズムのプロファイルとパフォーマンスが運転手を管理している方法に関する詳細なデータを開示するよう求めた。しかし原告団はプレスリリースの中で「複数の運転手が、まったく不備のない要求を提出し、要求対象のデータについて明確で詳細な説明を提示したにも関わらず、データはほとんど、あるいはまったく開示されなかった」と書いている。

ファーラー氏は、昨年ウーバーが同氏に対していくらかのデータを開示したことを認めているが、それも同氏いわく「何度も継続して要求し続けた」末のことだったという。また、開示された情報には欠落している部分がいくつもあった。例えば、GPSデータは勤務した2年間のうちの1カ月分しか開示されず、乗車完了後に乗客が同氏に対して行った評価および同氏のプロファイルや関連付けられているタグについては、何の情報も開示されなかった。

ファーラー氏はTechCrunchの取材に対し、「ウーバーが私のプロファイル情報を持っていることは分かっているが、彼らはそれを開示したことがない」と語り、パフォーマンスタグについても同じ状況だと付け加えた。

「GDPRによると、ウーバーはデータ処理の根拠について説明する義務がある。しかし、運転手を管理するアルゴリズムや、そのアルゴリズムが運転手にどのように作用するのかについて、同社はこれまでまともな説明を行ったことがない。私自身も、例えば私のプロファイル情報に関連付けられている電子的なパフォーマンスタグがどのように処理されているのかという点について、ウーバーから説明を受けたことは一度もない」(ファーラー氏)

「偽の『不正使用』申し立てがウーバーのシステムによって検知された結果、運転手としての登録を解除された人がたくさんいる。これもまた法律で透明性を義務づけられている領域だが、ウーバーはその法律を順守していない」(ファーラー氏)

今回の訴訟は、App Drivers & Couriers Union(アプリ運転手および配送業者組合、ADCU)も支持している。ADCUはウーバーの運転手が業務中にパフォーマンスを監視されていることも争点として取り上げるつもりだという。

ADCUはまた、ウーバーがパフォーマンスに関する電子タグ(「到着遅延・到着予定時刻オーバー」、「乗車拒否」、「態度」、「不適切な行動」など)を運転手のプロファイル情報にどのように関連付けてきたかを示す証拠を提示する予定だ。

「このことは、ウーバー運転手の雇用形態について世界各地の裁判所で行われてきた数多くの訴訟の中で同社が繰り返してきた『運転手は自営業者であるため管理統制の対象にはならない』という主張と矛盾する」と原告団はプレスリリースの中で付け加えている。

原告団側の弁護士であるEkker Advocatuur(エッカー法律事務所)のAnton Ekker(アントン・エッカー)氏は、発表した声明の中で、「Uber BV(ウーバーBV)はウーバーのプラットフォーム運営者としてオランダで登記されている企業であるため、オランダの裁判所には今、ウーバーがGDPRを確実に順守するよう見届ける重要な役割が課せられている。今回の訴訟は、ギグエコノミーの労働者が、労働者としての権利を向上させるためにデジタル権に訴える画期的な事例である」と述べている。

さらに、International Alliance of App-based Transport(国際アプリベース運輸労働者連合、IAATW)に加盟している労働者も、ADCUが「史上初の国際的なコラボレーション」と呼ぶこの訴訟を支持している。

今回の訴訟に関してTechCrunchがウーバーにコメントを求めたところ、同社からメールで以下のような回答が得られた:

当社のプライバシー担当チームは、個人が知る権利を持ついかなる個人データも要求に応じて開示すべく、鋭意努力しております。データが存在しない場合や、そのデータを開示することにより他の人が持つGDPRに基づく権利を侵害する場合など、特定のデータを開示できない時にはその理由を説明いたします。GDPRの下で、個人はその懸念についてウーバーのデータ保護責任者に申し立てる権利または各国のデータ保護関連当局に再審査を求める権利を保障されています。

ウーバーはまた、同社の運転手らが昨年行った「データ主体によるデータ開示要求」に対してはすでに回答済みであり、その後、それらの運転手からは何の連絡もない、とTechCrunchに語った。

さらに同社は、実際に法廷で申し立ての内容を確認するのを待ちたい、と付け加えた。

今回の訴訟を支援している前述の各団体は、原告団の運転手らが運営したいと考えているデータトラストに運転手のデータを引き渡すようウーバーに強く要請している。

実は、ファーラー氏が運営する非営利団体Worker Info Exchange(労働者情報取引所、WIE)が、団体交渉を行うためにデータトラストを設立したいと考えているのだ。

「当団体はデータトラストを設立したい考えだが、ウーバーが一貫性のある方法で情報を開示せず、設立準備の妨害を止めない現在の状況が続く限り、実現は難しい。最善の方法はAPIだ」とファーラー氏は語り、「しかし大きな問題は、99.99%の運転手が適切なデータ開示またはアルゴリズムに関する説明をほとんどあるいはまったく受けていないことだ」と付け加えた。

運転手側の弁護士の事務所ウェブサイトに掲載されている声明の中で、同事務所は、他のウーバー運転手も、データ開示要求を本人の代理で行う権限をWIEに委任すれば原告団に加わることができるとしている。以下がその声明の抜粋だ。

労働者情報取引所(WIE)は、大手プラットフォームではなく、そのようなプラットフォームの運営企業が毎日好調な業績をあげる原動力となっている人々、つまり労働者たちに有利に働くように、勢力の均衡を変えることを目指しています。

ウーバー運転手の方は、本人の代理でGDPRにデータ開示要求を行う権限をWIEに委任することにより、この訴訟に加わることができます。

原告の運転手らはさらに、クラウドファンディングサイトのCrowdjustice(クラウドジャスティス)で、訴訟費用3万ポンド(約410万円)を集めるキャンペーンも開始した。

今回の訴訟とそれがウーバーに与える影響について、Newcastle University(ニューカッスル大学)法学部のLilian Edwards(リリアン・エドワーズ)教授は、「この訴訟の争点がGDPR第22条であることを考えると、ウーバーは同社のアルゴリズムについて『適切なセーフガード』を配置していることを示す必要がある」と指摘する。

「GDPR第22条は通常、例えばウーバーのアルゴリズムのように、自動化された情報処理にのみ基づく決定が行われないように要求する、あるいはそのような決定を人間が行うことを要求する権利を付与するものだ。しかし今回の訴訟では、ウーバーが、それなりの成果を出していることを理由に、運転手との関わりにおいて同社のアルゴリズムは必要不可欠だったと主張する可能性がある」とエドワーズ氏はTechCrunchに語った。

「しかしこれでウーバーにとって問題がすべて解決するわけではない。同社は依然として『適切なセーフガード』を設ける必要がある。そのうち最大のものは、これまで散々議論されてきた、アルゴリズムの仕組みに関する説明を受ける権利だ。しかし、それをどのように実現できるのか、具体的な方法についてはまだ誰も知らない」(エドワーズ氏)

「アルゴリズムが動く大まかな仕組みについて一般的な説明をするだけで十分なのだろうか。労働者が求めているのはそんなことではなく、アルゴリズムが本人のデータに基づいてどのように決定を下しているか(場合によってはどのように本人にとってマイナスになる、あるいは不利になる決定を下しているか)を具体的に理解することである。ウーバーは、そんなことは無理に決まっている、今でも企業秘密を十分すぎるくらい開示している、と反論してくるかもしれない。それでも、GDPR導入後、ついにこれらの争点が徹底的に議論される機会が開けたことはすばらしいと思う」(エドワーズ氏)

英国のデータ保護当局International Commissioner Office(個人情報保護監督機関、ICO)のウェブサイトに掲載されている、GDPR第22条の規定に関するガイダンスには、データ管理者は「特定の決定に至ったロジックと、その決定が個人に意味する重大性および想定される影響について、意味ある説明を提供しなければならない」と記されている。

さらに同ガイダンスには、自動化された決定に服する個人は、GDPR第22条により、希望すれば同決定の結果について人間によるレビューが行われるよう要求する権利を有することが記されている。同条項はまた、アルゴリズムによる決定に異議を申し立てることを可能にしている。該当する方法で決定を自動化しているデータ管理者は、偏見と差別を防止するための措置を講じなければならない。

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タグ:Uber 訴訟

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(翻訳:Dragonfly)

米下院はアマゾンのハードウェア事業を反競争的と攻撃

大手テクノロジー企業の反競争的行為に対する米国時間7月29日の議会の審問は、もっぱら各社のコアビジネスが対象だったが、その長時間にわたる質問の中ではAmazon(アマゾン)のハードウェアも厳しく審議された。

これは小さな一歩だが重要な意見交換だ。なぜなら、同社のサービスの幅広さに触れているほか、ある部分での優勢がアマゾンビジネスのほかの部分における反競争的な行為を意味していることもありえるからだ。

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メリーランド州選出の下院議員であるJamie Raskin(ジェイミー・ラスキン)氏にとっては、アマゾンのベストセラー製品であるEchoFire TVデバイスの両方が、両デバイスをめぐる同社の事業戦略と他社との交渉に関する最近の報道の影響でターゲットになった。

Echoは同社がスマートホーム市場へ進出するための製品であり、その市場は消費者向けテクノロジーの次の主戦場であると多くの人が見なしている。Echoは、アマゾンのテクノロジーの中でも人気の高い製品であり、ラスキン氏によるとスマートホーム市場の約60%を捉えている。

議員はアマゾンのCEOあるJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏を、Echoに関する2つの点で攻撃した。第一は同社の価格政策で、Echoの価格は製造原価を相当下回っているので、他社が競合製品を出すのが不可能なこと。

「Echoの高い普及率のため、アマゾンはそのほかの反競争的な行為に関与している」とラスキン氏は主張した。その一部は、コロラド州選出下院議員のKen Buck(ケン・バック)氏がWall Street Journalの記事を引用しながら前の質問で概説している。それによると、アマゾンは同社のEcho製品と音声アシスタントAlexaにフォーカスした投資部門を用いて、小さなスタートアップ企業の技術をコピーした。

しかも他社の知財のコピーだけでなく、Amazonは、顧客が同社の音声サービスを利用したときにEchoのプラットホームを使って自社製品を他社製品よりも良いと宣伝した。

ラスキン氏は、「Alexaはアマゾンの製品を気に入るように訓練されているのですか?」とベゾス氏に尋ねた。ベゾス氏は、Alexaがアマゾンのサービスを第一とするように、あるいは同社のブランドの製品を宣伝するように特に訓練したかは定かではありませんが、そうだとしても意外でありません」と答えた。つまり同氏「Alexaがときどきアマゾンの製品を宣伝したとしても意外ではない」と述べた。

ラスキン氏はまた、最近のWarnerMedia(ワーナーメディア)との交渉でもベゾス氏を責めた。ワーナーメディアは、大手映画会社とストリーミングサービス、巨大ネットワーク企業から成る大企業グループ。ラスキン氏が特に問題にしたのは、ワーナーメディアのストリーミングサービスであるHBO MaxをアマゾンのFire TVデバイスへの配給する際の交渉で、ワーナーメディアが所有する映画コンテンツの供給をめぐる議論が含まれていたことだ。

ラスキン氏は「金銭的条件だけでなく、ワーナーメディアのコンテンツも求めている。ストリーミングデバイスの市場における指導的立場を、コンテンツの優先的な配給入手権などのビデオストリーミングの市場における競争者としての立場を有利にするために利用することは公正だろうか?」と述べた。

ベゾス氏は、その交渉は「通常の商談だった」と答えたが、ラスキン氏は、Fire TVへのアクセスをめぐる交渉が、1つの市場での優位を別の業界の競争者に対する同社の不正なアドバンテージとして利用しようとするやり方の例だったとして、同社をあくまでも追及しようとした。

ラスキン氏は「要するに、アマゾンによる管理を人々のリビングルームに適用しようとしている。そのデバイス市場での優位性を利用して、アマゾンが望むクリエイティブなコンテンツを優先的に得ようとしている。1つの領域でのアドバンテージを、無関係な別の領域における優勢へと変換しているのではないか?」と指摘した。

ラスキン氏の意見や質問は、この公聴会の主題とされる「米国の4大テクノロジー企業が振り回す反競争的で独占の可能性もあるパワー」を追撃したと思われる、濃密な質疑合戦の一部だ。Facebook(フェイスブック)とApple(アップル)、Alphabet(アルファベット)も議会の質問責めで古い話を蒸し返されたが、反競争的な行為に対する最も支持された批判はベゾス氏とアマゾンに残されていたようだ。

関連記事:Bezos ‘can’t guarantee’ no anti-competitive activity as Congress catches him flat-footed(未訳)

画像クレジット: GRAEME JENNINGS/POOL/AFP/Getty Images

米独禁法公聴会

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

FacebookザッカーバーグCEOはInstagram買収前に従業員にライバル排除の戦いを訓示

米国時間7月30日、主要テック企業を迎えて開かれた米国連邦議会の独占禁止法ヒアリングで真っ先に持ち出された重要な案件として、2012年のFacebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)買収(未訳記事)にまつわる問題が持ち出され、当時のFacebook内部の方針がいくつか明らかにされた。

すでに1年間継続している独占禁止法違反の疑いによる捜査(未訳記事)の一環として同委員会に提出された新資料(House Judiciary Committeeサイト)を示唆しつつ、米連邦議会の下院司法委員会議長Jerry Nadler(ジェリー・ナドラー)氏は、当時Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏とFacebookの企業幹部との間で交わされた電子メールには「非常に憂慮すべき話」が書かれてると語った。

続けてナドラー氏は、FacebookによるInstagram買収は独占禁止法に違反すると言及した。「取引が行われた当時、この合併が違法であったならばInstagramを別会社として分割させない理由はどこにあるのか?」とナドラー氏は問いかけた。

Instagram買収の発表の3日前である2012年4月6日に行われた質疑応答の動画(House Judiciary Committeeサイト)でザッカーバーグ氏は、Facebook自身の製品はユーザーが「我慢できる程度」の「あまりパッとしない」モバイルアプリだと自認しながら、このソーシャル写真共有アプリの脅威について話している。

彼らはうまくやっている。我々はこの穴から脱出しなければならない。いいニュースとしては、それが進んでいるということだ。悪いニュースは、彼らは急速に成長し、大変な力を付け、排除が難しくなっていることだ。これから先、厳しい戦いが待っている。

委員会が入手した電子メールからナドラー氏は「スタートアップで言えるのは、たいていが買収可能であることだ」というザッカーバーグ氏の言葉を引用した。Instagramを手始めにFacebookは実際にそれを続けてきた。委員会が公開できるようにする前から、The Vergeは、そうした通信をいくつも伝えている。

関連記事:Facebook Buys Instagram For $1 Billion, Turns Budding Rival Into Its Standalone Photo App(未訳)

「私はいつでも、Instagramはライバルであり、我々のサービスの一要素でもあると公言してきました」とザッカーバーグ氏は米国時間7月30日に述べ、ナドラー議員の批判をあしらった。「あの当時、それが一般向けのソーシャルネットワークになるなど誰も思っていませんでした」とザッカーバーグ氏は主張した。

だが現実は、Instagramはすでに大人気となり、Apple(アップル)のApp Storeだけでも1日あたり10万ダウンロードを数えるに至っている。「iOSだけでも2700万人の登録ユーザーを擁するInstagramは、単なる写真共有アプリとしてではなく、それ自身がソーシャルネットワークとしての地位を固めつつある」とTechCrunchのライターSarah Perez(サラ・ペレス)も当時の記事(未訳記事)に書いていた。

取引の状況を考慮すれば、8年経過した今でも、合併を解消させることは可能だと下院司法委員会議長は警告する。「FacebookはInstagramを、Facebookから事業を奪い取る強力な脅威と見ていた。そのため、競合することを止め、買収したのです」とナドラー氏は話す。そして「これは、独占禁止法がその主目的として禁じている反競争的行為そのものです」と続けた。

米独禁法公聴会

画像クレジット:Chip Somodevilla / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

アップルのクックCEOが他社のスクリーンタイムアプリを排除した理由を米独禁公聴会で弁明

昨年Apple(アップル)は、iOS 12の公開(未訳記事)に合わせて、初の自社製スクリーンタイム監視機能をリリースした。その直後、サードパーティー製のスクリーンタイム監視アプリとペアレンタルコントロールアプリをApp Storeから大量に排除した。米国時間7月29日に開催された米連邦議会による独占禁止法公聴会で同社のCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏は、競争の制限が疑われるとしてその判断について問われた。

アップルが自社開発した一連のスクリーンタイム機能が発表されて間もなく、複数のサードパーティーのアプリ開発業者は、スクリーンタイム監視アプリをApp Storeで販売するための審査が突然厳しくなったことに気がついた。更新が認められなかったり、アプリ自体がApp Storeから削除される例も少なくなかった。この影響を受けたのは、公式な方法が存在しないため、いろいろな工夫をしてスクリーンタイムの監視を行ってきた開発業者だ。そこでは、バックグラウンドでの位置情報、VPN、MDM(モバイルデバイス管理)を利用したソリューションが用いられていた。これらを複数組み合わせたものもあった。

当時アップルは削除したアプリについて「デバイスの位置情報、アプリの利用状況、電子メールアカウント、カメラの使用権限などにアクセスする必要があり、ユーザーのプライバシーとセキュリティーを危険にさらす恐れがあった」と弁明していた。

だが米議会議員たちは、その多くのアプリが何年も前から市場に存在していたにも関わらず、なぜ突然、ユーザーのプライバシーに気を配るかのように見える態度に出たのかを同社に尋ねた。

ジョージア州選出で民主党のLucy McBath(ルーシー・マックバス)下院議員は質問の冒頭で、ある母親がアプリの削除を残念に思う気持ちをアップルに伝えた電子メールの一文を読み上げた。それには、同社の処置で「子どもたちの安全を守り、精神的な健康を保つために極めて重要なサービスの利用が制限される」と書かれていた。そしてマックバス議員はアップルに対して、独自のスクリーンタイム監視ソリューションをリリースした途端にライバルのアプリを削除した理由を尋ねた。

クック氏は「アップルは『子供のプライバシーとセキュリティー』を重視しており、それらのアプリに使われていた技術には問題があった」と昨年とほぼ同じ答弁を繰り返した。

「その当時使われていた技術はMDMと呼ばれるもので、子供が見ている画面を乗っ取り、第三者が覗くことができる。そのため、子供の安全に心を痛めていました」とクック氏は話す。

MDMを、ユーザーに知られずに遠隔操作ができる機能だと説明するのは、MDMの仕組みを正確に表現しているとは言えない。実際、MDM技術はモバイルエコシステムで合法的に使われており、今も変わらず利用されている。ただし、これは業務用として開発されたもので、一般消費者のスマートフォンではなく、例えば会社の従業員のデバイスを一括管理するといった用途に用いられる。MDMツールは、企業が従業員のデバイスの安全を守るための対策のひとつとして、デバイスの位置情報、アプリ使用の制限、電子メール、数々の認可にアクセスできるようになっている。

子供のデバイスの管理やロックを行いたい保護者にもこれが応用できると考えるのは、ある意味理解できる。一般向けの技術ではないのだが、アプリ開発者は市場の空白を見つけ、そこを自由に手に入るツールで埋める方法を編み出す。市場はそのようにして回るものだ。

アップルの主張は間違ってはいない。問題のアプリのMDMの使い方にはプライバシー上のリスクがあった。しかし、それらのアプリを完全に閉め出してしまうのではなく、代替策を提案してやるべきだったのではないか。つまり、ライバルをただ追放して済ませるのではなく、純正のiOSスクリーンタイム管理ソリューションのための開発者向けAPIを消費者向け製品とは別に準備すべきだった。

そんなAPIがあれば、アプリ開発者はアップルの純正スクリーンタイム管理とペアレンタルコントロールの機能を借りてアプリを製作できる。同社は、彼らのビジネスに引導を渡すのではなく、期限を区切って作り直させるべきだったのだ。そうすれば、開発者もその利用者も傷つけることはなかった。そうすることでサードパーティーのアプリで心配されるプライバシー問題にも対処できたに違いない。

「削除は、まったく同じタイミングだったように思えます」とマックバス議員は指摘した。「もしアップルが自社製アプリを売り込むためにライバルを傷つけようとしたのではないと言うならば、App Storeを運営するPhil Schiller(フィル・シラー)氏は、なぜライバルのペアレンタルコントロールアプリの削除を嘆くユーザーにスクリーンタイムアプリを勧めたのですか?」と同議員は質問した。

クック氏は、現在App Storeには30種類のスクリーンタイム管理アプリがあり「ペアレンタルコントロールの活気ある競争が展開されている」と答えた。しかしマックバス議員は、6カ月後には、プライバシー上の目立った変更もないままApp Storeに復活したアプリもあると指摘している。なお2019年6月、MDMアプリに関するアップルの新しい規約(アップル開発者サイト資料)が発効されている。

「6カ月とは、倒産に瀕した中小企業にとっては永遠とも言える時間です。その間に、ライバルの大企業に顧客を奪われていたとすれば、なおさら事態は深刻です」とマックバス議員は言う。

しかしマックバス議員の質問が、アップルのiBooksの外で独自のアプリを使って電子書籍を販売しようとしたRandom House(ランダムハウス)の方法を拒否した問題に移ってしまったため、クック氏にはスクリーンタイム管理アプリに関する質問へのそれ以上の弁明の時間は与えられなかった。

クック氏はRandom Houseの質問を、技術的な問題の可能性があると指摘しつつ、「アプリがApp Storeの審査を1回で通過できない理由はたくさんある」とかわした。

米下院公聴会
画像クレジット:Graeme Jennings-Pool / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

「テック企業大手は新型コロナ蔓延で利益を得ているので規制が必要」と米議員が主張

米国時間7月29日に開催されたテクノロジーに関する歴史的なヒアリングにおいて、その議長が開会声明で「さらに多くの米国人の生活をオンラインに追い込んだ現在進行中の新型コロナウイルスのパンデミックの最中においては、テクノロジー分野の最も優勢な大企業を規制することが重要不可欠」と主張した。

下院司法委員会独占禁止小委員会の議長David Cicilline(デビッド・シシリン)氏は「新型コロナウイルスのパンデミックの前から、これらの企業はすでに我々の経済における巨人として突出していた。そして、新型コロナウイルスの発生により彼らは、より広範な勢力を持つ強力な存在になろうとしている」。

新型コロナウイルスの危機がテクノロジーを利するという議論は、適確でもあり、時宜を得ていて反論は難しい。ほかの産業では多くの大企業が苦しみ、レイオフに直面し、倒産もしている。その中でテクノロジー分野の大企業の多くがこの経済の嵐を、有利にとは言えないまでも明らかに無傷で切り抜けようとしている(Washington Post記事)。

筆頭委員のJim Sensenbrenner(ジム・センセンブレナー)氏は彼自身の開会の挨拶で「米国人はかつてなかったほどオンラインに多くを依存しているので、パンデミックという側面からもテクノロジーの勢力を検証すべきだ」と述べた。そして「我々には、あなた方の市場支配を今まで以上に詳細に精査する責任がある」と続けた。

「新型コロナウイルスの危機という苦しみの中でテクノロジー企業がさらに勢力を拡大している」という議論は前からある。一部の議員たちはパンデミックの間に計画されている合併に対して注意を喚起した。彼らは、すでに巨大であるテクノロジー企業が、さらに大きくなり支配力を増さないか、その懸念をめぐって適切な監視が必要と主張した。

関連記事:AOC and Elizabeth Warren call for a freeze on big mergers as the coronavirus crisis unfolds(未訳)

4月には、マサチューセッツ州選出で民主党のElizabeth Warren(エリザベス・ウォーレン)上院議員とニューヨーク州選出で民主党のAlexandria Ocasio-Cortez(アレクサンドリア・オカシオ-コルテス)下院議員の2人が、Pandemic Anti-Monopoly Act(パンデミック独占禁止法)を発議した。これは危機の間の合併を凍結することが目的で、とりわけ大手テクノロジー企業を対象にしていた。オカシオ-コルテス氏はTwitterで「少なくとも、新型コロナウイルスの間の大型合併を阻止して業界の合従連衡を防ぐことだけは、やらなければならない」(@AOC投稿)。

シシリン氏も前に「巨大合併」の凍結を提議し「議会を通過する経済振興パッケージにはそのような禁制の法制化(CNBC記事)が含まれるべき」と主張した。

同氏は「どんなに困難に見えても、我々の経済が前よりももっと集中し強化された形でこの危機から立ち上がることは可能だ。米国の家族が仕事と買い物とコミュニケーションをオンラインへシフトしていくことから、これらの巨人たちは利益を得ているのだ」と述べた。

米下院公聴会

画像クレジット: Andrew Harrer/Bloomberg via Getty Images/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

米下院公聴会でザッカーバーグ氏はライバルのコピーを認めるも反競争的利用は否定

米国時間7月29日の米下院反トラスト小委員会の公聴会でFacebookのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOはライバルのアプリや機能をコピーする戦略について質問された。また「これを買収・合併のの交渉の際に武器として使ってこなかったか」と正された。同氏は明白な点については認めざるを得ず、「ライバルが実現した機能を自社でも採用したことはもちろんある」と述べた。

しかしFacebookがライバルをコピーする戦術を反競争的な方法、つまり競争するのではなくFacebookに売却するようライバルに圧力をかけるなど目的で使用したとする意味付けは全面的に否定した。

ワシントン州選出で民主党のPramila Jayapal(プラミラ・ジャヤパル)下院議員は、2012年にFacebookがInstagramを10億ドルで買収した件について具体的に質問した。今回の公聴会を通じて、Instagramの件はFacebookが買収によって巨大な市場支配力を得た例として繰り返し提起(未訳記事)されていた。

ジャヤパル議員はInstagramの買収について、「Facebookの経営幹部は他社のアプリをコピーすることが有力なビジネス戦略であるという点で一致していた」と述べた。

同議員はまた、ザッカーバーグ氏がCOO(最高業務責任者)であるSheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)氏に送った2012年のメール(PDF)を取り上げ、ザッカーバーグ氏が「Facebookはスピードアップすることでライバルが足場を固めるのを防ぐことができる」と書いているとした。このメールに対してサンドバーグ氏は「この戦略がFacebookからユーザーを奪うようなライバルが存在しないことを意味するのであれば、我々のスピードが速ければ速いほどいいという点には同意せざるを得ない」と返信している。このメールには「Facebookがライバルをコピーするのは『できるだけ軽快に素早く動くべきだ』というプライベートメッセージが付けられていたとジャヤパル議員は指摘した。

 

このメールは Facebookの幹部と中国版のFacebook、人人網(Ren Ren)の創業者で、百度の共同創業者であるロビン・リー(李彦宏)氏との間の会話についても触れており、Facebookがライバルをコピーするという戦略を誕生させた経緯についても需要な資料となるという。

これらのやり取りの中でFacebookの幹部は、中国のアプリ市場ではライバルのプロダクトをクローンすることが普通であることを学んだという。「人人網は、PinterestとTumblrの中国版を構築しており、メール、ゲーム、音楽ストリーミングなども含まれている」とメールは述べていたとされる。また当時Tencentには米国のトランシーバーアプリのVoxerをクローンしたメッセージングアプリのQQがあった。メールは「中国ではみんな他人のコピーをしているのだからそうするのが素早く動く一番いい方法だろう」と示唆していた。
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ザッカーバーグ氏はこのメールをサンドバーグ氏に転送し「興味あるメールだ。あなたもおそらく同感だろう」と書いた。そして実際サンドバーグ氏はこれに賛成した。ザッカーバーグ氏は「Facebook は2012年のメール以後、以来何回ライバルをコピーしたか」という質問に対し、この質問の前提自体が誤りであるとして答えることを拒否した。

そして同氏は「Facebook の任務はユーザーが大切な人々とのつながりを得るためにもっとも適したサービスを構築することです。 この任務はイノベーションによって何か今までにないものを作る」と述べたところで遮られた。

続いてジャヤパル議員は「Facebookは他社を買収する交渉中、プロダクトをクローンするぞと脅したことがありますか」と質問した。「私の知る限りありません」とザッカーバーグ氏は答えた。

同議員は、FacebookはInstagramを買収する交渉で、FacebookカメラをInstagramに対して使うと脅迫していたように見えると述べた。「ザッカーバーグ氏は、Instagramの共同創業者のKevin Systrom(ケビン・シストロム)氏とのチャットで『Facebook自身も写真戦略を持っており、我々の関係のあり方によってパートナーとなるかライバルとなるかも決まってくる』と述べていました」と議員は説明した。ザッカーバーグ氏はシストロム氏とのメールのやり取り(Scribdアーカイブ)で「ある時点であなたは我々と実際に協力する意思があるのかどうかはっきりさせねばならない」と述べている。

シストロム氏は投資家の一人に対して (Scribdアーカイブ)、「『ザッカーバーグ氏のコメントは脅しだと感じた』と打ち明けていた」とジャヤパル議員は述べた。議員は「シストロム氏が買収に賛成しない場合、 Facebookは『殲滅モード』に入ることを暗示したのではないか」とした。ザッカーバーグ氏はシストロム氏とのやり取り自体は否定しなかったが、「我々は自由な競争が可能な市場にいた」として脅迫という意味づけは否定した。

議員はSnapchat買収の際にも同様の戦術が用いられたのではないかと質問した。ザッカーバーグ氏は「このときの会話の内容は詳しく記憶していませんが、これ(チャットサービス)も両者が新しいものを作る余地がある分野だったことは明らかです」と述べた。ジャヤパル議員は「これらの行動を検討するとFacebookは独占であると考える」として質疑を締めくくった。

「ここで問題とされるのは、市場支配力があるプラットフォーム企業がライバルとなる可能性のある企業を脅迫するのは通常のビジネス慣行とは見なしがたいという点です。Facebookは、こうした企業の行動を判断するひとつのテストケースです。Facebookはユーザーのデータを利用して収益を上げ、そのデータでライバル企業をスパイし、ライバルを買収することによって根絶やしにしようとする独占的勢力であると私は考えます」とジャヤパル議員は結論付けた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

GAFAの全CEOが出席する米議会の反トラスト公聴会は東海岸時間7月29日に開催

議会とテック企業最大手数社のCEOによる公開対決というレアな出来事は、先週延期された後も順調に進んでいる。当初米国時間7月27日の月曜日に予定されていた下院司法委員会の公聴会は、東海岸時間7月29日正午(日本時間7月30日午前2時)に開催されることが決定した。日程変更は、人権運動のリーダーでジョージア州選出のJohn Lewis(ジョン・ルイス)下院議員の死去を受けたもので、同氏の葬儀は27日に議事堂で執り行われた(The New York Times記事)。

オンラインプラットフォームと市場支配力:Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、およびGoogle(グーグル)の支配力を検証する」と題された公聴会は、テック業界で最強のリーダーが勢揃いした異例の顔ぶれが議会と対峙する。

テック企業のCEO1人(未訳記事)だけでも(バーチャルであれ)ワシントンDCに呼び出すことは注目に値するが、29日の公聴会では4名のCEOが証言する。Amazon(アマゾン)のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏、Apple(アップル)のTim Cook(ティム・クック)氏、GoogleのSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏、およびFacebook(フェイスブック)のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が、各社のビジネス慣習、および反競争的行為がテック界の重要市場に負の影響を与えている懸念について質問を受ける。

この公聴会は下院司法委員会反トラスト小委員会が2019年に発表し、数多くのテック界最大最強企業に対して進めている反トラスト捜査(米国下院委員会リリース)の最終章である。

「6月以降、当小委員会は少数のデジタルプラットフォームの支配状況、および既存の反トラスト法と執行方法の妥当性を調査してきた」と下院司法委員会のJerrold Nadler(ジェロルド・ナドラー)委員長と反トラスト小委員会のDavid Cicilline(デビッド・シシリン)委員長は共同声明で語った。

「これらの企業が米国市民の生活で中心的役割を果たしている状況を踏まえると、各社のCEOが包み隠さず話すことは極めて重要だ。当初から述べてきたように、彼らの証言は我々がこの捜査を完了するために不可欠である」。

本誌は7月29日の公聴会を詳しく取材する予定だ。また当日、以下のリンクからストリーミング中継を見られるはずだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

窮地の留学生を支援するテックコミュニティ「CFGI」

本稿の著者であるソフィー・アルコーンは、シリコンバレーにあるAlcorn Immigration Lawの創立者であり、2019年Global Law Expertsアワードの「カリフォルニア州アントレプレナー移民サービス年間最優秀法律事務所」を受賞している。アルコーン氏は、人生を広げる企業やチャンスに出会えるよう人々を助ける活動を行っている。

筆者は、2020年の初め頃からExtra Crunchに毎週「Dear Sophie」というコラム記事を投稿するというすばらしい機会に恵まれている。このコラム記事のアイデアがひらめいたのは昨年12月、TechCrunch Disruptでの講演を終えてベイエリアに戻った日だった。髪をとかしていた時に、ふとこのアイデアが浮かんできたのを覚えている。具体的な形はまだはっきりしなかったのに、筆者はこのアイデアのイメージがすでに心の中で段々と膨らんでいくのを感じた。

この3年半は、移民たちと移民弁護士にとって地獄のような日々だった。思いやりの気持ちを持つ多くの移民審査官もおそらく同じように感じてきたに違いない。政府と移民はある種の虐待関係にある。つまり、政府からひどい扱いを受け続けている移民は、完全に無力で、投票権を持たないため発言権もない。多くの移民たちは、口を開いて何かを言ったら報復を受けて本国送還されるかもしれないという恐れの中で生きている。今こそ新しいパラダイムが必要だ。

米国では、領事館の閉鎖、H-1Bビザの停止に続き、先週、高度なスキルを持つ移民にさらなる追い打ちをかけるような動きがあった。新型コロナウイルス感染症の影響で高等教育機関において全課程がオンライン授業となる留学生数十万人について、本国送還になる可能性が高くなるとの発表があったのだ。

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ジョンズホプキンス大学などがこの措置に対して訴えを起こしており、学生たちの在籍登録を維持できるように資格コースを提供するプログラムもいくつか開設されているが、時間は押し迫っている。そのため、筆者が経営する法律事務所には現在、国内外を問わず、米国内に合法的にとどまる方法を模索する留学生からの依頼が殺到している。

また、実習ビザのOPTやSTEM OPTでの就労許可によって米国にそのまま滞在できるよう就職先を必死で探している学生たちもいる。最近多くの大学院生が利用しているH-1Bなどの就労ビザも停止される予定だ。多くの学生はこれまで何年間も本国送還になることを恐れてきたが、それが今、現実の問題となっている。

どうして本国に帰るのがそれほど難しいのだろうか。考えてみてほしい。移民も人間だ。あなたの友人や隣人でもある。あなたと同じなのだ。一部の大学院留学生は、最先端の研究のために10年近く米国に滞在しており、この地に根を下ろしている。妊娠している場合や米国国籍の子どもがいる場合もあるだろう。言うまでもなく、これまで何十年も働いてきていて、これから高給の仕事に就ける可能性がある者もいる。

さらに、このパンデミックの最中、国際線で米国を離れれば、途中で新型コロナウイルスに感染する危険もある。その上、本国が帰国者をすぐに受け入れていない場合もある。また、帰国する学生たちは、途方もなく高額な航空券を買うために長い順番待ちをする羽目になるかもしれない。そのため、米国および世界中の多くの留学生、家族、大学関係者たちが戦々恐々としている。

多くの移民たちが最善を尽くしているが、それでも、現政権下では果てしなく無駄なことをしているように思えてくる。いくら頑張っても不利な状況がたたみかけてくるため、きりがないからだ。

筆者は先週ずっと、Zoomに殺到する問い合わせを処理していた。「今、地獄にいる気分だ」と話す優秀なユーザーエクスペリエンスデザイナー、「米国は博士号を取得しても採用してくれない唯一の国だよ」と嘆く博士号修了者、自分のためにではなく、自分が創業した会社の全従業員とその家族を失望させないために特殊能力ビザが必要だと訴える才能豊かな女性実業家などからの問い合わせだった。

しかし同時に、何度も希望の光を目にしたし、私のクライアントに自分で決定するチャンスが与えられた場面を見ることもできた。また私自身も、移民はさまざまな選択肢、手段、戦略、希望を持つことができることを重要人物に伝える数多くの機会を持つことができた。

最も感動的だったのは、留学生や大学院生がビザを取得できるようサポートするためにスポンサーになることを申し出る経営者たちが次々と現れたことだ。これが5年前であれば、ビザ取得のためのスポンサーは単なる日常業務として必要なことで、予測可能かつ安全で障害もなく、大量の申請業務をただこなせばいいだけの仕事だった。それが今、団結して共に問題に立ち向かうために留学生のスポンサーになろうと意欲に燃える米国企業の経営者がいることに、筆者はとても感動している。これはとても勇気ある行為だと思う。

先週、あまりにも感動して涙が出そうになった出来事があった。筆者はその日、小学生の子どもたちを寝かしつけた後の夜遅い時間に仕方なくメイクアップをしていた。YouTubeライブ配信を行うためだ。そして、目をしょぼつかせながらF-1ビザの停止について留学生向けに長々と40分も説明するYouTubeライブ配信を行った。実はLinkedInで「In Sophie We Trust(ソフィアだけが頼りだ)」と何度も言われて、このライブ配信を引き受けたのだった(ちなみにこのスローガンのことはあまり気にしないでくださいね!)。ライブ配信中、Pranos.ai(プラノス)の創業者であるDavid Valverde(デイビッド・バルベルデ)氏から次のようなコメントが届いた。「私も留学生でした。私が創業したスタートアップは今、急成長しています。このスタートアップで留学生向けの求人を検討することを約束します」。

その週、デイビッドとはずっとLinkedInで連絡を取り合い、求職中のテック系留学生が途方にくれて連絡してくるたびに、私はデイビッドを紹介していた。金曜日になってようやくオンラインで話せた私たちは、この週末は自主的に2日半の「社会貢献ハッカソン」をやったらどうか、なんて互いにけしかけ合ったりした。

さて、その週末にはたしてどんな成果をあげることができたのだろうか。私たちは、Community for Global Innovation(CFGI)を発表する運びとなった。これは、世界中の企業と個人が留学生たちを支援し、誰もが成功する機会を与えられる資格があるという信念を実践するための取り組みだ。

CFGIには、一流のスタートアップ企業、VC、プロフェッショナル、非営利団体、留学生、大学院生などが参加している。私たちはこの取り組みを通して、留学生を支援し、現状を社会で広く認知してもらい、変化を起こすことを心に固く決意している。

このプラットフォームでは、どの企業も「あなたが留学生でも何の問題もない。当社のチームでは、すべての人にチャンスがある」というCFGIの誓いを立てて留学生を支援することになっている。

CFGIは米国有数の非営利団体Welcoming America(ウェルカミング・アメリカ)とも連携して、移民およびすべての在住者が米国で平等な機会を得られるようにするための寄付を受け付けている。

また、ボランティア、企業からの寄付金、コミュニティメンバー(今こそ体験を語るべき時だと感じているスタートアップの移民創業者など)による支援も積極的に募集中だ。

移民弁護士の娘そして移民として育った筆者は、イノベーションは本当にどこからでも生まれることを知っている。イノベーションにはダイバーシティが不可欠だ。

私たちが毎日利用しているテクノロジーの中には、自国を離れて新しい人生を始める勇気を持った人たち、つまり移民によって発明、創造されものが数多くある。グローバルにつながった経済へと移行する中で、こうしたテクノロジーにより世界中で継続的に雇用が生み出されており、私たちすべてがそれから恩恵を受けている。

人生はゼロサム・ゲームではない。多くの人が協力して1人の人を支え成功に導くことで、すべての人に利益がもたらされる。

すべての人はチャンスを与えられるべきである。

CFGI設立がきっかけでデイビッドの活動を知って、筆者は本当に感動した。そして、他の人がデイビッドの事業に貢献するのを見てワクワクしている。デイビッドの会社プラノスは、あらゆる窓を透明なデジタルHDディスプレイに変えてしまう革新的なマスメディアプラットフォームを開発している。彼は言う。

「特にアーリーステージのテクノロジー企業の場合、新しく採用する人すべてが会社の運命に大きな影響を与える。創業初期の段階で高度なスキルを備えたトップレベルの人材を採用することは、ギグ・エコノミーが拡大する中、プラノスが数百万とは言わないまでも数十万の仕事を世界中に創出するのに欠かせない条件となる」。

プラノスは、CFGI の誓いを立てた最初の会社となった。同社はすべての候補者に門戸を開き、在留資格に関係なく、その人の実績に基づいて採用を検討する。デイビッドは多様性のあるチームを作り、留学生たちを支援することに誇りを持っている。

Image Credits: pranos.ai

ここで、筆者が移民や留学生にここまで肩入れする理由について話しておきたい。

社会の「アウトサイダー」になるのがどういうことなのか、筆者はよく知っている。筆者はロースクールを卒業してすぐ移民弁護士として開業したが、2人の子どもの世話をするために何年間も仕事から離れていた。

産後うつを経験し、メンターでもあり友人でもあった父を突然亡くしてからは、あらゆる厄介ごとが雪だるま式に膨らんで襲ってきて、結婚生活も破綻した。プロフェッショナルの人脈を持たないシングルマザーがシリコンバレーで生き残れる方法なんてあるのだろうか、と考えていた。

さらに、劣等感や自信のなさによって自分が核心から大きく揺らぐのを感じた。また、起業したいとは思ったが、「コーディングについて何も知らない」等、起業できない理由ばかりを考えていた。

そこでまず、他の人に役立つことを何かやってみることに決めた。自宅のキッチンで移民法律事務所を開業し、クライアントとは、マウンテンビューのダウンタウン、カストロ通り(今はアパートが立ち並んでいる)にあるカフェPeet’s(ピーツ)で会うことにした。

そして、性別による迫害や家庭内暴力を経験してきた移民で、本国送還に直面している人たちに無料の移民サービスを提供し始めた。「他の人たちを支援することならできるのではないか」と考えたのだ。

しかし、自分ではまったく気づいていなかったが、実際はクライアントのほうが私を支えてくれていたのだった。おかげで、自分を信じて新しい人生を創り上げることができた。筆者は、移民たちが持つ驚くべき勇気と、自分の夢を追いかける勇気を持つ人たちの気概と粘り強さからエネルギーをもらっている。

困難なことはいろいろあったが、これまで「Dear Sophie」を通じて、情報や知識を広く伝えることができたことを、うれしく思っている。

そして今、CFGIを開設できた。企業はCFGIの誓いを立てることにより、純粋に実績に基づいて採否を判断していることを示せる。そのため、世界中の優秀な人材を引きつけることができるだろう。

次に何が起こるのか、楽しみで仕方がない。

一丸となって自らの隣人を愛し支援している皆さんに、この場を借りて心からの感謝を伝えたいと思う。宇宙から見れば青く美しい小さな点である地球の上では、皆が隣人である。地図にはいわば「壁」のように人々を分かつ境界線が描かれている。しかしその壁は、人間の精神、愛、思考、そしてウイルスさえも遮ることはできないことを私たちは痛感している。

世界は多くの困難とチャンスであふれている。移民を支援するこの戦いは、社会全体から見ればささやかな試みであることはわかっているが、もう元に戻ることはできないし、そのつもりもない。

シリコンバレーで生きていける私たちは、自分たちがいかに恵まれているかを認識している。未来はここから創られる。ここにはアイデアをすぐに実現できる環境がある。ここでは、頭で考えたことがあっという間に形になり、現実となる。

ここでは、皆が互いを対等に扱う。困難をチャンスだと考えて探し求める。そして、1つのことに集中する1人の人には、そうでない人が百万人集まってもかなわないパワーがあることを知っている。イノベーションはどこからでも生まれ、たった1人が世界を変える場合があることもわかっている。

サンアンドレアス断層と荒波の太平洋にはさまれた「シリコンバレー」という最先端の開拓前線で、私たちは今、以下のことを宣言したい。

私たちは、誰もが成功するチャンスを与えられるべきであると信じている。まずは力を合わせて、移民留学生と大学院生を、CFGIを通じて支援することから始めよう。1人を救うことがすべての人を救うことにつながる。この活動が勢いを増せば、移民拘置所の子どもたち、亡命希望者、不法移民者の子どもたち、そしてチャンスを与えられる資格のあるすべての人たちを支援できるようになるだろう。

なぜなら、神のご加護がなければ、自分が彼らの立場にいたかもしれないのだから。

CFGIの活動をこうして発表できることをうれしく思う。繰り返すが、人生はゼロサム・ゲームではない。皆が一丸となって1人を支援できれば、その波が広がって、すべての人が恩恵を受けることになる。

CFGIを通じて移民留学生に支援の手を。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:コラム 移民

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(翻訳:Dragonfly)