窮地の留学生を支援するテックコミュニティ「CFGI」

本稿の著者であるソフィー・アルコーンは、シリコンバレーにあるAlcorn Immigration Lawの創立者であり、2019年Global Law Expertsアワードの「カリフォルニア州アントレプレナー移民サービス年間最優秀法律事務所」を受賞している。アルコーン氏は、人生を広げる企業やチャンスに出会えるよう人々を助ける活動を行っている。

筆者は、2020年の初め頃からExtra Crunchに毎週「Dear Sophie」というコラム記事を投稿するというすばらしい機会に恵まれている。このコラム記事のアイデアがひらめいたのは昨年12月、TechCrunch Disruptでの講演を終えてベイエリアに戻った日だった。髪をとかしていた時に、ふとこのアイデアが浮かんできたのを覚えている。具体的な形はまだはっきりしなかったのに、筆者はこのアイデアのイメージがすでに心の中で段々と膨らんでいくのを感じた。

この3年半は、移民たちと移民弁護士にとって地獄のような日々だった。思いやりの気持ちを持つ多くの移民審査官もおそらく同じように感じてきたに違いない。政府と移民はある種の虐待関係にある。つまり、政府からひどい扱いを受け続けている移民は、完全に無力で、投票権を持たないため発言権もない。多くの移民たちは、口を開いて何かを言ったら報復を受けて本国送還されるかもしれないという恐れの中で生きている。今こそ新しいパラダイムが必要だ。

米国では、領事館の閉鎖、H-1Bビザの停止に続き、先週、高度なスキルを持つ移民にさらなる追い打ちをかけるような動きがあった。新型コロナウイルス感染症の影響で高等教育機関において全課程がオンライン授業となる留学生数十万人について、本国送還になる可能性が高くなるとの発表があったのだ。

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ジョンズホプキンス大学などがこの措置に対して訴えを起こしており、学生たちの在籍登録を維持できるように資格コースを提供するプログラムもいくつか開設されているが、時間は押し迫っている。そのため、筆者が経営する法律事務所には現在、国内外を問わず、米国内に合法的にとどまる方法を模索する留学生からの依頼が殺到している。

また、実習ビザのOPTやSTEM OPTでの就労許可によって米国にそのまま滞在できるよう就職先を必死で探している学生たちもいる。最近多くの大学院生が利用しているH-1Bなどの就労ビザも停止される予定だ。多くの学生はこれまで何年間も本国送還になることを恐れてきたが、それが今、現実の問題となっている。

どうして本国に帰るのがそれほど難しいのだろうか。考えてみてほしい。移民も人間だ。あなたの友人や隣人でもある。あなたと同じなのだ。一部の大学院留学生は、最先端の研究のために10年近く米国に滞在しており、この地に根を下ろしている。妊娠している場合や米国国籍の子どもがいる場合もあるだろう。言うまでもなく、これまで何十年も働いてきていて、これから高給の仕事に就ける可能性がある者もいる。

さらに、このパンデミックの最中、国際線で米国を離れれば、途中で新型コロナウイルスに感染する危険もある。その上、本国が帰国者をすぐに受け入れていない場合もある。また、帰国する学生たちは、途方もなく高額な航空券を買うために長い順番待ちをする羽目になるかもしれない。そのため、米国および世界中の多くの留学生、家族、大学関係者たちが戦々恐々としている。

多くの移民たちが最善を尽くしているが、それでも、現政権下では果てしなく無駄なことをしているように思えてくる。いくら頑張っても不利な状況がたたみかけてくるため、きりがないからだ。

筆者は先週ずっと、Zoomに殺到する問い合わせを処理していた。「今、地獄にいる気分だ」と話す優秀なユーザーエクスペリエンスデザイナー、「米国は博士号を取得しても採用してくれない唯一の国だよ」と嘆く博士号修了者、自分のためにではなく、自分が創業した会社の全従業員とその家族を失望させないために特殊能力ビザが必要だと訴える才能豊かな女性実業家などからの問い合わせだった。

しかし同時に、何度も希望の光を目にしたし、私のクライアントに自分で決定するチャンスが与えられた場面を見ることもできた。また私自身も、移民はさまざまな選択肢、手段、戦略、希望を持つことができることを重要人物に伝える数多くの機会を持つことができた。

最も感動的だったのは、留学生や大学院生がビザを取得できるようサポートするためにスポンサーになることを申し出る経営者たちが次々と現れたことだ。これが5年前であれば、ビザ取得のためのスポンサーは単なる日常業務として必要なことで、予測可能かつ安全で障害もなく、大量の申請業務をただこなせばいいだけの仕事だった。それが今、団結して共に問題に立ち向かうために留学生のスポンサーになろうと意欲に燃える米国企業の経営者がいることに、筆者はとても感動している。これはとても勇気ある行為だと思う。

先週、あまりにも感動して涙が出そうになった出来事があった。筆者はその日、小学生の子どもたちを寝かしつけた後の夜遅い時間に仕方なくメイクアップをしていた。YouTubeライブ配信を行うためだ。そして、目をしょぼつかせながらF-1ビザの停止について留学生向けに長々と40分も説明するYouTubeライブ配信を行った。実はLinkedInで「In Sophie We Trust(ソフィアだけが頼りだ)」と何度も言われて、このライブ配信を引き受けたのだった(ちなみにこのスローガンのことはあまり気にしないでくださいね!)。ライブ配信中、Pranos.ai(プラノス)の創業者であるDavid Valverde(デイビッド・バルベルデ)氏から次のようなコメントが届いた。「私も留学生でした。私が創業したスタートアップは今、急成長しています。このスタートアップで留学生向けの求人を検討することを約束します」。

その週、デイビッドとはずっとLinkedInで連絡を取り合い、求職中のテック系留学生が途方にくれて連絡してくるたびに、私はデイビッドを紹介していた。金曜日になってようやくオンラインで話せた私たちは、この週末は自主的に2日半の「社会貢献ハッカソン」をやったらどうか、なんて互いにけしかけ合ったりした。

さて、その週末にはたしてどんな成果をあげることができたのだろうか。私たちは、Community for Global Innovation(CFGI)を発表する運びとなった。これは、世界中の企業と個人が留学生たちを支援し、誰もが成功する機会を与えられる資格があるという信念を実践するための取り組みだ。

CFGIには、一流のスタートアップ企業、VC、プロフェッショナル、非営利団体、留学生、大学院生などが参加している。私たちはこの取り組みを通して、留学生を支援し、現状を社会で広く認知してもらい、変化を起こすことを心に固く決意している。

このプラットフォームでは、どの企業も「あなたが留学生でも何の問題もない。当社のチームでは、すべての人にチャンスがある」というCFGIの誓いを立てて留学生を支援することになっている。

CFGIは米国有数の非営利団体Welcoming America(ウェルカミング・アメリカ)とも連携して、移民およびすべての在住者が米国で平等な機会を得られるようにするための寄付を受け付けている。

また、ボランティア、企業からの寄付金、コミュニティメンバー(今こそ体験を語るべき時だと感じているスタートアップの移民創業者など)による支援も積極的に募集中だ。

移民弁護士の娘そして移民として育った筆者は、イノベーションは本当にどこからでも生まれることを知っている。イノベーションにはダイバーシティが不可欠だ。

私たちが毎日利用しているテクノロジーの中には、自国を離れて新しい人生を始める勇気を持った人たち、つまり移民によって発明、創造されものが数多くある。グローバルにつながった経済へと移行する中で、こうしたテクノロジーにより世界中で継続的に雇用が生み出されており、私たちすべてがそれから恩恵を受けている。

人生はゼロサム・ゲームではない。多くの人が協力して1人の人を支え成功に導くことで、すべての人に利益がもたらされる。

すべての人はチャンスを与えられるべきである。

CFGI設立がきっかけでデイビッドの活動を知って、筆者は本当に感動した。そして、他の人がデイビッドの事業に貢献するのを見てワクワクしている。デイビッドの会社プラノスは、あらゆる窓を透明なデジタルHDディスプレイに変えてしまう革新的なマスメディアプラットフォームを開発している。彼は言う。

「特にアーリーステージのテクノロジー企業の場合、新しく採用する人すべてが会社の運命に大きな影響を与える。創業初期の段階で高度なスキルを備えたトップレベルの人材を採用することは、ギグ・エコノミーが拡大する中、プラノスが数百万とは言わないまでも数十万の仕事を世界中に創出するのに欠かせない条件となる」。

プラノスは、CFGI の誓いを立てた最初の会社となった。同社はすべての候補者に門戸を開き、在留資格に関係なく、その人の実績に基づいて採用を検討する。デイビッドは多様性のあるチームを作り、留学生たちを支援することに誇りを持っている。

Image Credits: pranos.ai

ここで、筆者が移民や留学生にここまで肩入れする理由について話しておきたい。

社会の「アウトサイダー」になるのがどういうことなのか、筆者はよく知っている。筆者はロースクールを卒業してすぐ移民弁護士として開業したが、2人の子どもの世話をするために何年間も仕事から離れていた。

産後うつを経験し、メンターでもあり友人でもあった父を突然亡くしてからは、あらゆる厄介ごとが雪だるま式に膨らんで襲ってきて、結婚生活も破綻した。プロフェッショナルの人脈を持たないシングルマザーがシリコンバレーで生き残れる方法なんてあるのだろうか、と考えていた。

さらに、劣等感や自信のなさによって自分が核心から大きく揺らぐのを感じた。また、起業したいとは思ったが、「コーディングについて何も知らない」等、起業できない理由ばかりを考えていた。

そこでまず、他の人に役立つことを何かやってみることに決めた。自宅のキッチンで移民法律事務所を開業し、クライアントとは、マウンテンビューのダウンタウン、カストロ通り(今はアパートが立ち並んでいる)にあるカフェPeet’s(ピーツ)で会うことにした。

そして、性別による迫害や家庭内暴力を経験してきた移民で、本国送還に直面している人たちに無料の移民サービスを提供し始めた。「他の人たちを支援することならできるのではないか」と考えたのだ。

しかし、自分ではまったく気づいていなかったが、実際はクライアントのほうが私を支えてくれていたのだった。おかげで、自分を信じて新しい人生を創り上げることができた。筆者は、移民たちが持つ驚くべき勇気と、自分の夢を追いかける勇気を持つ人たちの気概と粘り強さからエネルギーをもらっている。

困難なことはいろいろあったが、これまで「Dear Sophie」を通じて、情報や知識を広く伝えることができたことを、うれしく思っている。

そして今、CFGIを開設できた。企業はCFGIの誓いを立てることにより、純粋に実績に基づいて採否を判断していることを示せる。そのため、世界中の優秀な人材を引きつけることができるだろう。

次に何が起こるのか、楽しみで仕方がない。

一丸となって自らの隣人を愛し支援している皆さんに、この場を借りて心からの感謝を伝えたいと思う。宇宙から見れば青く美しい小さな点である地球の上では、皆が隣人である。地図にはいわば「壁」のように人々を分かつ境界線が描かれている。しかしその壁は、人間の精神、愛、思考、そしてウイルスさえも遮ることはできないことを私たちは痛感している。

世界は多くの困難とチャンスであふれている。移民を支援するこの戦いは、社会全体から見ればささやかな試みであることはわかっているが、もう元に戻ることはできないし、そのつもりもない。

シリコンバレーで生きていける私たちは、自分たちがいかに恵まれているかを認識している。未来はここから創られる。ここにはアイデアをすぐに実現できる環境がある。ここでは、頭で考えたことがあっという間に形になり、現実となる。

ここでは、皆が互いを対等に扱う。困難をチャンスだと考えて探し求める。そして、1つのことに集中する1人の人には、そうでない人が百万人集まってもかなわないパワーがあることを知っている。イノベーションはどこからでも生まれ、たった1人が世界を変える場合があることもわかっている。

サンアンドレアス断層と荒波の太平洋にはさまれた「シリコンバレー」という最先端の開拓前線で、私たちは今、以下のことを宣言したい。

私たちは、誰もが成功するチャンスを与えられるべきであると信じている。まずは力を合わせて、移民留学生と大学院生を、CFGIを通じて支援することから始めよう。1人を救うことがすべての人を救うことにつながる。この活動が勢いを増せば、移民拘置所の子どもたち、亡命希望者、不法移民者の子どもたち、そしてチャンスを与えられる資格のあるすべての人たちを支援できるようになるだろう。

なぜなら、神のご加護がなければ、自分が彼らの立場にいたかもしれないのだから。

CFGIの活動をこうして発表できることをうれしく思う。繰り返すが、人生はゼロサム・ゲームではない。皆が一丸となって1人を支援できれば、その波が広がって、すべての人が恩恵を受けることになる。

CFGIを通じて移民留学生に支援の手を。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:コラム 移民

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。