タイのフィンテクスタートアップOmise、”節度を持った”ICOで2500万ドル調達

さすがにICOという言葉を聞いたことがないという人の数は減ってきただろう。今年に入ってからだけでもICOによる調達金額は5億ドル以上にのぼる。その一方で、未完成のプロダクトや、まだ真価が問われていないチームに不相応なほど巨額な資金が集められているとも言われている。

そんな中、この度ある企業が、ICOにも良識あるやり方が存在するということを証明できたかもしれない。

タイに拠点を置くフィンテックスタートアップのOmiseは、トークンの販売を通じて新たに2500万ドルを調達したと発表した。本日(現地時間6月5日)トークンの販売を終了した同社は、これまでICOを行った企業の中ではもっとも実績のあるテック企業だ。

ICO以前にもVCから2000万ドル以上を調達していたOmiseは、既存の金融システムに革新を起こすべく、調達資金を使ってOmise Goと名付けられた分散型の決済プラットフォームを開発する構えだ。銀行口座を持っていない人でも、諸々の手数料なしにネットワーク上で資金のやりとりをできるようにするというのがOmise Goの根幹にあるアイディア。P2P決済以外にも小売企業とタッグを組んで、ものやサービスを購入できるようにしたり、他の決済サービスと接続したりということも同社は考えている。

Omise Goは現在開発中で、第一弾となるサービスやプロダクトは今年の第4四半期中にはリリースされる予定だが、全てが使えるようになるのは来年の後半くらいになると同社は話す。Omise Go上では、ICOで売りに出されたERC20準拠のトークン、OMG(Omise Go独自の仮想通貨)が使われることになる。さらにOMGの所有者は、ネットワークの運営を手伝うことで収入を得られるような仕組みになる予定だ。これは昔のソフトウェアライセンスの考え方に近く、イーサリアムを開発したVitalik Buterinの意向もここには反映されている。なお、Buterinは現在「Casper」と呼ばれる、プルーフ・オブ・ステーク機能(日本版注:プルーフ・オブ・ワークの代替システムにあたり、トークンの保有割合でブロックの承認割合を決めるというもの)をイーサリアムに導入しようとしている。

OmiseのコアビジネスはStripeのようなオンライン決済サービスで、現在はタイ、日本、インドネシアの3か国で営業しているが、数年前からブロックチェーン技術に興味を持ち始めたとCEOの長谷川潤氏は語る。同社は2015年にEthereum FoundationのDevgratsプログラムに10万ドル出資し、Microsoftらとともに最初の支援企業のひとつとなった。しかも、このときはまだブロックチェーン技術を使ってOmise Goのようなビジネスを立ち上げるというアイディアは生まれていなかった(OmiseはEthereum Foundation出身者をOMG開発のために雇い、Buterinも顧問として同社に参加している)。

なお、発行されたOMGの65.1%がICOで売りに出され、5%が”エアドロップ”としてイーサリアム保有者に、残りは一部がOMGとOmiseの開発・運営資金に使われ、あとは投資家とチームメンバーに分配される予定だ。

Omise Goのチームと顧問のButerin、Lightning Network開発者のJoseph Poon

OmiseのICOは色んな意味で注目に値するものだった。まず、これまでは設立間もない若い企業が、確立されていないプロダクトと野心だけで資金を調達するために採用されることが多かったICOだが、Omiseは既に名の通った企業だ。

また、今回のICOはプロセスがきちんと管理された初めての例だった。

ICOで大きなリターンを得られるという評判が広がるうちに、ゴールドラッシュのようにいくつもの企業がICOに飛びつき、それぞれ何千万ドルという資金を調達したが、Omiseは調達額に2500万ドルという上限を設けたのだ。ここ数か月だけでも、ブラウザを開発するBraveが1分以内に3500万ドルを調達し、無名のフィンテック企業TenXが8000万ドルを、そしてICOを支える技術を開発しているBancorも1億5000万ドルを調達した。さらに、物議を醸したEOSも1年間におよぶキャンペーンを経て、ICO最高額とも言われる1億8500万ドルを調達した。

OMGのICOでは、上記の例とは対照的に上限が設定されていた。当初Omiseは調達額を2000万ドル未満におさえるつもりだったが、投資家からの需要に応えるため2500万ドルまで調達額を引き上げることに。また、最初は400万ドル分のOMGを、仮想通貨に興味を持った従来の投資家に向けて一般販売開始前に売り出そうとしていたが、これもあまりの需要に不可能だということがすぐにわかった。

長谷川氏によれば、一般販売はおろか事前販売への反応だけを考えても、やろうと思えば簡単に1億ドル調達することもできたが、Omiseは金額をおさえて「節度を持った」資金調達を行うことに決めたのだという。さらに同社は、他社のICOで見られたように潤沢な資金を持つ少数の投資家がトークンを独占するようなことがないよう対策を練っていた。

結果的に、当初予定されていた一般販売はキャンセルされ、より安定的で管理された手段をとろうということになった。そこでOmiseは、購入希望者は指定された証券会社に情報を登録しなければいけないようにし、ひとり(1社)が購入できる量にも制限を設けることにした。

「KYC(本人確認)を済ませた人に対してのみOMGを売り出し、少数のお金持ちがトークンを買い占めてしまうことがないようにした。(Braveの)Basic Attention Token(BAT)では実際に買い占めが起きていた」と長谷川氏は声明の中で述べた。

「他社のICOとは違い、私たちは上限額の2500万ドル以上調達する気はなかった。というのも、現状の目標を達成する上で、それ以上の資金は必要ないと判断したのだ」と彼は付け加える。「必要以上の資金を調達するのは、無責任だし非生産的だと考えている」

EOSの件もあり、ICOは単に企業と投資家がお金をつかむための手段だという認識が広がっている中、Omiseがこのようなアプローチをとったのは興味深い。ICOが多大な可能性を秘めているというのは間違いないが、コンセプトとしてかなり新しいため、まだその実態はつかめていない。しかしOmiseのように責任感を持って、きちんとICOのプロセスを管理する企業が増えてくれば、疑いの目を向けている人たちも納得し、テックコミュニティはICOの真の力を発揮できるようになるかもしれない。”腐ったミカン”をそのままにしておくにはもったいないということだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

仮想通貨急騰の背景に中国と日本の影――動き始めた政府と大手企業

【編集部注】執筆者のHugh Harsonoは元金融アナリストのアメリカ陸軍将校。

仮想通貨の価格がここ最近急上昇しており、特に過去数か月間はその傾向が市場全体に見られた。

主要通貨のビットコイン、リップル、イーサリアムは全て値上がりし、ビットコインは2588ドルの高値をつけたほか、リップルとイーサリアムの時価総額はそれぞれ100億ドル、200億ドル前後まで上昇した。

日本と中国は仮想通貨の需要・供給量が桁違いに多く、この価格上昇にも大きく関係している。

出金規制で揺れる中国

ハードウェアと電気料金の安さから、中国はマイニングのメッカとなった。BTCCをはじめとする取引所が運営する巨大なマイニングプールの力もあり、ビットコインネットワークの合計ハッシュレート(採掘速度)の60%は中国によるものだ。

しかし、今年はじめの中国当局による取り締まりの結果、投資家は各取引所から資金を引き出せなくなってしまった。中国は世界でも有数のビットコイン取引量を誇っているため、この影響は市場全体にまで及んだ。

先月には引き出しに関する規制緩和の話が浮上し、中国の経済紙CaixinはOKcoinHuobiBTCCで出金が再開される可能性があると報じていた。この報道を受けて、中国の消費者の間には仮想通貨に対する安心感が再度広がり、価格上昇に繋がった。

中国の穴を埋める日本

中国で仮想通貨の流動性が下がったことにより、日本のビットコイン市場は大きな盛り上がりを見せ、需要が膨れ上がった。

それまでビットコインの取引量全体における日本の割合は1%前後だったにもかかわらず、最近ではこの数字が6%近くまで伸び、日によっては全体取引の約55%が日本で行われていることもある。中国での規制を背景に日本での取引量が増加したことで、グローバル仮想通貨市場も勢いづいた。

Distributed ledger technology , bitcoin icon with hexagonal symbol blue background , cryptocurrencies or bitcoin concept , flare light , 3D illustration

規制対策としての仮想通貨

人民元が中国政府によって厳しく管理されているのも、空前の価格上昇と関係している。中国政府は中国元の価値を完全にコントロールしており、以前から必要に応じて通貨の切り下げを行い国際的な競争力を保ってきた。

しかし、中国で個人資産が増加するうちに、代替資産としての仮想通貨の側面に注目が集まり始めた。つまり、仮想通貨はアクセスがしやすい上にボラティリティが低く、安定性も増してきたと中国の人々は考えており、その結果が価格に反映されているのだ。

一方日本では、日本銀行の量的緩和政策による金利低下(さらにはマイナス金利)も仮想通貨の価格高騰に繋がったと考えられている。

もともと量的緩和は経済成長を促すための政策だったが、日本円の価値は大きく下がり、投資家も日本円への投資を控えるようになった。出口の見えないこの金融政策を背景に、仮想通貨は代替資産として注目を集め、価格が上昇したのだ。

現地の投資家も予想がつかない政府の介入を危惧し、仮想通貨に逃げ道を見出している。

大手機関による仮想通貨の受け入れ

関係機関が仮想通貨を受け入れ始めたということも、価格上昇と大きく関係している。中国の杭州市で最近行われたGlobal Blockchain Financial Summitには、北京大学をはじめとする大学や金融機関などが大きな興味を寄せていた。なお、北京大学は現在イーサリアム研究所を発足しようとしており、そこでは同通貨のプロトコルの改善やアプリケーションへの応用に関する研究が行われる予定だ。

中国人民銀行(PBoC)の下部組織で、金融システムの電子化をミッションとしているRoyal Chinese Mintは、積極的にブロックチェーン技術の採用を提唱しており、予算と人員を一部を割いて人民元の電子化にまで取り組んでいる。

日本でも大手機関が仮想通貨を決済手段として認め始めており、日本全体での利用に耐えうるか調査が行われている。民間レベルで言えば、日本最大の取引所であるbitFlyerには、三大メガバンクの三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行が出資している。

消費者/小売レベルでいえば、ビックカメラがbitFlyerとパートナーシップを結び、一部店頭での決済手段としてビットコインの導入を決めた。さらにリクルートホールディングス傘下のリクルートライフスタイルも、コインチェックと呼ばれる取引所と共同で、モバイルペイメントサービスをローンチすると発表した。このように大手企業での採用が進むことで、仮想通貨は日常的な決済手段としてだんだん日本国民にも受け入れられつつあるようだ。

上記のような中国と日本の大手機関による仮想通貨の受け入れも、仮想通貨全体の価格上昇につながっている。

政府による仮想通貨の受け入れ

中国政府が仮想通貨の規制に乗り出したことで、数か月前にはビットコインの価格が1000ドル前後まで落ち込んでしまった。

しかし、PBoCによる規制の動きは、決済手段としての同テクノロジーの力を物語っているとも言える。さらに中国政府は独自の電子通貨さえ作ろうとしているのだ。

ビットコインの出金規制緩和の可能性に関する発表以外にも、PBoCは最近ブロックチェーンを利用した独自の仮想通貨の実験を終えた。この実験には中国初のオンラインバンクであるWeBankのほかにも、中国銀行や中国工商銀行など大手金融機関が参加していた。

日本政府も今年の4月1日からビットコインを正式な決済手段として認め、入札手続きへの仮想通貨導入に向けて動き出した。

さらに日本は中国に先駆けて取引所の登録制度を導入し、仮想通貨を金融庁の監視下におくことを決定した。bitFlyerをはじめとする大手取引所は既に申請済みのようで、制度面が整備されたことを受け、今後さらに日本国内外の仮想通貨取引が加速することになるかもしれない。

また、新しい資金決済法のもとでは仮想通貨に消費税が適用されないため、ビットコインの投資対象としての魅力がさらに増すことになる。

中国では独自通貨の開発が進められ、日本ではビットコインが正式な決済手段として管理されるようになるなど、両国で仮想通貨が受け入れられはじめたことで、市場は今後さらに盛り上がっていくだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

ICOファンドとは?――業界に先駆け1億ドルのファンドを設立したVCに聞いてみた

多くの投資家がイニシャルコインオファリング(ICO)に関する情報をかき集めている。テック業界で野火のように広がるこの資金調達方法に、さまざまな人が期待すると同時に、困惑や恐れを感じているのだ。

簡単に説明すると、ICOとは独自の仮想通貨の発行・販売を通じて、ユーザーから資金を集める資金調達方法だ。ユーザーは購入した通貨を将来的に販売元のスタートアップのサービスに使ったり、取引所で売却したりできる。

まだ規制環境が整っていないため、ほとんどのVCはICOへの参加に慎重な姿勢を示している。自分たちのビジネスが脅かされようとしているにもかかわらずだ(顧客が喜んで出資してくれるというのに、わざわざ投資家に株式を売り渡す人はいないだろう)。

しかし、サンフランシスコに拠点を置くあるVCはICO投資に積極的に取り組んでいる。そのVCの名はPantera Capital。以前Tiger Managementに在籍していたDan Moreheadが14年前に設立したこのVCは、ビットコインをはじめとする仮想通貨に特化したファンドを業界に先駆けて立ち上げたことでも知られている。

他社が手を出せないでいる領域に、Panteraがいち早く進出するというのは、もはや驚くべきことではない(彼らは現在1枚あたり約2500ドルの値がついているビットコインに1枚65ドルの頃から投資し始め、大きな成功をおさめた)。しかし、常に前のめりなPanteraとはいえ、今回のファンドのサイズ(今年の夏中に1億ドルの調達を予定しており、既に3500万ドルが集まった)は大きすぎるようにも感じられる。

新しいファンドの詳細を知るため、MoreheadとPanteraパートナーのPaul Veradittakit、そして最近チームに加わったJoey Krug(Augur共同ファウンダー)に話を聞いたので、以下にその様子をお伝えしたい。なお、Augurは分散型の未来予測プラットフォームで、ICOという言葉が知られるずっと前の2015年にICOで530万ドルを調達している。

昨年Thiel FellowにもノミネートされたKrugは、Panteraの新しい投資ビークルでMoreheadと共に共同チーフインベストメントオフィサーを務める予定だ。

TC:ICOの件数は今年一気に増え、特にここ数か月はかなり盛り上がっています。ICOに特化した新しいファンドの準備にはどのくらいの期間をかけましたか?

DM:ファンドの骨子をつくるのに数か月かかり、その一部としてJoeyをチームに迎えました。彼は私と一緒にファンドの運用を行い、Paulは資金調達を担当する予定です。

TC:投資家の顔ぶれはいかがでしょうか? 個人投資家と機関投資家だと、どちらの方が多いですか?

DM:大手の戦略投資家は1社のみですが、名前を伝えることはできません。残りは仮想通貨に手を出したいと考えている個人・機関投資家の両方ですね。

TC:機関投資家の中にはVCも含まれていますか?

PV:はい、含まれています。皮肉なことですが、多くのVCはファンドの規約のせいで仮想通貨へ直接投資できないことになっています。しかし、仮想通貨やICOについてもっと知るため、そして(この新しい資産に)実際に投資するために、ICOファンドに参加しているVCやベンチャーファンドはたくさんあります。

TC:AngelListはICOでの資金調達を考えているスタートアップのために、新たなプラットフォームを他社と共同でローンチしましたし、仮想通貨に投資しているファンドも存在します。ただ、これだけICOに特化したファンドというのは聞いたことがありません。そもそも似たようなファンドは存在するんですか? また、ファンドの仕組みについても教えてください。

DM:ICOに特化したファンドが他にもあるかどうかはよくわかりません。ファンドの仕組みについては、まず一般販売が始まる前にトークンを購入し、その後販売が始まってから再度追加でトークンを購入するようにしています。

PV:つまり私たちは、創業チームとホワイトペーパー(プロダクトの技術的な部分や、スタートアップが取り組もうとしている問題、その解決策などについて書かれた文書)しか揃っていないような企業のICOにできるだけ早い段階で関わることで、トークンを安く手に入れようとしているんです。逆に私たちはそのような企業に対して、マーケティングや人材採用、ビジネス開発などに関するコネクション作りの手助けをしています。

TC:今のところ規制当局はICOの動向を傍観しているようですが、そのうちこの分野にも規制がかかってくると思います。ICOで販売されるトークンは、発行主体の情報開示や事業者登録が必要な証券ではなく、サービスや製品のような存在として扱われていると理解していますが、もしこの考え方が変わった場合はどうしますか?

DM:トークンの性質はさまざまで、商品先物取引委員会(CFTC)や内国歳入庁(IRS)を含む世界中の規制団体が、既に仮想通貨に対する明確なスタンスを示しています。まだ判断を下せていない団体も存在しますが、仮想通貨の売買と同じように、既存のルールに当てはめられるのか、もしくは新たなルールを導入しなければいけないのか、ということを判断するのにはある程度の時間がかかると思います。

TC:これまでにICOファンドから投資したスタートアップの数はどのくらいですか? また、投資先を決める際の基準について教えてください。

DM:これまでの投資先はKik(ICOはこれから行われる予定)、OxFunFairOmiseCivicの5社です。Civicに関しては、以前からエクイティ投資も行っています。

JK:投資先を選ぶ基準のひとつとして、仮想通貨がサービスに欠かせないような仕組みになっているかという点を重視しています。サービスネットワークの中で使われているのがその通貨のみかどうかということです。

TC:トークンの保有割合ついては目標値を設けていますか?

DM:特に具体的な基準は設けておらず、それぞれのICOを個別にチェックしています。出来る限り保有割合を大きくしたいとは考えていますが、トークンの発行数にもよります。KikとFunFairに関しては、恐らく私たちが筆頭”トークン主”ですが、他の企業に関しては私たちより多くのトークンを購入した投資家がいます。

PV:現状、トークン市場の規模はおよそ40億ドルと言われています。Kikは従来の方法で十分な資金を調達しながらも、ビジネスモデル全体をトークンベースに変えようとしており、今は彼らにとって大きな転換期だと考えています。もしもKikの試みがうまくいけば、グロースステージにある企業でもトークンの導入が進んでいくでしょう。そして彼らがトークンを使って何億ドルという資金を調達し始めれば、市場規模は一気に拡大していくと思います。

TC:エグジットに関してですが、Panteraではまず一般販売前にトークンを購入し、スタートアップがIPOに向けてプロダクトを開発する手助けをしていくということでしたよね。最終的には最近増えてきている取引所で、値上がりしたトークンを売却するんですか?

DM:その通りです。現在(Panteraが利用する可能性のある)取引所はKrakenPoloniexBittrexを含めて10か所ほどですが、今後新たな取引所が設立され、取引価格が妥当であればそこもオプションに加えていく予定です。

TC:一度に大体どのくらいの数の企業に投資していますか?

DM:10〜20社です。

TC:何か特定のバックグラウンドを持つファウンダーに投資するようにしていますか? というのも、かなりの数の企業がトークンを導入しているため、その中から有望な企業を見つけるのは難しいですよね。

JK:私たちがこれまでに話をした何百という数の企業のうち、今は30社の動向を追っています。トークンベースのビジネスを行う上で、起業経験は必ずしも必要ではありません。起業経験があるというのは、何かしらのビジネスのやり方を知っているという意味では価値がありますが、私たちが投資しているようなビジネスでは、そこまで重要なことではないんです。

トークンベースのビジネスは、普通のビジネスとは大きく異なります。トークンは株式と違いコミュニティーが保有するものなので、意思決定やガバナンスのプロセスもかなり違うんです。

TC:学歴に関してはどうですか?

JK:全ての条件が同じであれば、恐らく大規模なオープンソースコミュニティの構築経験があるかというのが重要なポイントになると思います。

TC:いずれICOの規模が株式を対価とするベンチャー投資の規模を上回ると思いますか?

DM:長期的に見れば、VCが資金調達を仲介する必要がなくなる可能性はあると思います。ウェブブラウザを開発するBraveのICOでは、24秒で3500万ドルが集まりましたからね。

2017年第二四半期のブロックチェーン企業による資金調達の様子を見てみると、ICOへの投資総額(2億1000万ドル)がVCの投資総額(1億8000万ドル)を上回っていました。この傾向が今後強まると考えているからこそ、私たちはICOファンドを立ち上げたんです。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Periscope、配信者がコンテンツを収益化できるスーパーハート機能をローンチ――仮想通貨ビジネスへの参入も?

Twitter傘下のPeriscopeは新機能をローンチし、新たな収益源と人気配信者の獲得を狙っている。本日(現地時間6月21日)ローンチされた、スーパーハートと呼ばれるアプリ内購入機能を使えば、ユーザーは好きな配信者に特別なハートマークを送り、コメント欄で注目を集めることができる。さらに配信者は、集めたスーパーハートの数に応じてTwitterから毎月現金を受け取れるようになる。

スーパーハートの収益は、まずiOS・Android版どちらについても30%のアプリストア利用料と決済手数料が引かれ、残りの金額の70%が配信者へ、30%がTwitterに入るようになっている。また、この機能は世界中のiOS・Androidユーザーが利用できるが、受け取った”チップ”を現金化できるのは現在のところアメリカに住む配信者に限られており、Periscopeは今後対象エリアを広げていこうとしている。

今回発表された新機能は、恐らく中国のライブストリーミングサービスで人気のバーチャルギフトからヒントを得たのだろう。中国のYingkeやYizhiboなどでは、ファンがバラのマークや種々のステッカーをアプリ内で購入し、お気に入りの配信者に送っている様子がよく見られる。先週には、チップや換金可能なバーチャルグッズをクリエイターに送れる機能の利用をAppleが正式に許可した。しかし、Appleの決定とPeriscopeの新機能に直接的な関係はなく、同社は「私たちがやろうとしていることを(Appleが)たまたまサポートしてくれた」と語っている。

スーパーハートの買い方、送り方、換金方法

残念ながら新機能は少し複雑だ。まず、視聴画面には新しくスーパーハートのアイコンが表示されるようになっており、ユーザーはそれをタップするとスーパーハート専用のストアに移動できる。しかし、スーパーハートを購入するためには、まず枚数に応じて0.99ドルから100ドルの値段がついたバーチャル”コイン”を購入しなければならない。スーパーハートは全部で3種類準備されており、ひとつめはベーシックなハートマークにプラスサインがついたもの、ふたつめは泡で囲まれた光り輝くハートマーク、そしてもっとも高価な3つめは、中央にユーザーの顔写真がフィーチャーされており、配信者に送ると小爆発を繰り返すもの。なお、購入したスーパーハートはどの配信者に対しても送ることでき、0.99ドルだと約30個のベーシックなスーパーハートを購入できる。

多くのゲームアプリでは、普通にプレイしているだけでも無料でコインを獲得できるが、Periscopeでコインを入手するためにはお金を使う以外の方法がなく、所得の少ないユーザーは新しい機能を十分に楽しめない可能性がある。

スーパーハートを送ったユーザーは、以前からある無料のハートマークを送ったユーザーに比べて配信画面上で目立つように表示される。さらに、配信中にスーパーハートを送ったユーザーの名前はリーダーボードに掲載されるため、配信者は誰に動画内で感謝すればいいのか把握できる。他のユーザーはその様子を羨望の眼差しで見つめることになりそうだ。今のところスーパーハートの購入や送信はPeriscope上でしか行えないが、配信をTwitter上で見ている人もやりとりの様子を確認することはできる。

配信者のプロフィールには、受け取ったスーパーハートに対応するコインの枚数が”スター”として表示されるようになる。そして、175ドル分のスター(約18万5000スター)が集まると、その配信者はPeriscopeのSuper Broadcasterプログラム加入申請できるようになり、申請が受け入れられれば、月末にスターを現金化してACH送金(日本版注:アメリカの一般的な国内送金の手段)で受け取れるようになる。また、ファンからお金を受け取りたくないという配信者であれば、スーパーハートの機能をオフにすることも可能だ。

料金設定やTwitterの取り分について、PeriscopeのSara Haiderは次のように語った。

「スーパーハートは、一定の要件を満たした配信者の中で、コンテンツから収益を得たいと考えている人のために作られた機能です。私たちは、配信者が最大限の収益を得られるように、この機能の様子を観察しながら改善していこうと考えています。アプリ内購入や決済にかかる手数料を除いた金額のうち、約70%が配信者の元に渡ることになりますが、手数料や為替レート等の変動によって、実際の割合は多少変化する可能性があります」

コインを購入し、そのコインでスーパーハートを購入し、さらにそれがスターに姿を変え、その後ようやく現金化されるというプロセスをややこしく感じる人もいるかもしれない。というか、これは大変ややこしいプロセスだ。ユーザーは自分がどのくらいお金を使っているのかわかりづらいし、どのくらいの金額がお気に入りの配信者の元に届いているかもよくわからないため、ユーザーと配信者どちらにとっても新機能を利用するには多少のハードルがあるかもしれない。

しかしコアなファンからしてみれば、自分の好きな配信者のコメント欄やリーダーボードで目立つことができ、さらには配信者から直接お礼を言われるかもしれないとなれば、多少の複雑さなど問題ではないのかもしれない。

Twitterは仮想通貨ビジネスへの参入を画策中?

もしもスーパーハートが広く利用されれば、好調な2017年度第一四半期の業績でカムバックを果たしたTwitterにとっては重要な収益源となる。さらに配信者からすれば、Facebook Liveで収益をあげるには邪魔な広告を動画の途中に挟まなければならず、SnapchatやInstagramではマネタイズの手段が準備されていないため、Pericopeで動画配信を行うインセンティブが生まれる。

しかし、配信者たちはこの機能が大きな収益に繋がるとは考えていないようだ。Periscope上で有名なある配信者は「素晴らしい第一歩ではありますが、現実的に考えるとスーパーハート機能で稼げるのはお小遣い程度でしょう。つまり、これは大金を稼げるようなマネタイズ機能ではないため、配信者側もあまり期待し過ぎない方がいいと思います」と語っている。

そのため、仕事として動画配信を行いたい人は、引き続き応援機能のあるTwitchや、クリエイターの収益を中心に考えて作られたBusker、最近課金ユーザーのみを対象にした限定配信オプションが追加された月額制会員プラットフォームのPatreonなどを利用することになるだろう。視聴者のコメントを目立たせるためのSuper Chatと呼ばれる機能や広告からの収益を考えると、YouTubeも有力なオプションだと言える。

もしかしたら、Periscopeは自分たちで新たなコンテンツを追加しなければならないかもしれない。というのも、同社はユーザー数や配信者数をここ2年ほど発表しておらず、これは悪いサインである可能性が高い。

さらに、彼らはスーパーハートを使ったアダルトコンテンツの配信にも気をつけなければならない。だからこそ、Super Broadcasterプログラムは許可制で、175ドルというハードルが設定されているのだろう。元からアダルトコンテンツを配信するつもりの人の申請は通らないだろうし、急にアダルトコンテンツで稼ごうと思った人も、現金を手にする前に一定額を稼ぎ、さらには申請が許可されなければならないのだ。

今後スーパーハート機能がTwitterからも利用できるようになるかや、Periscope上のコインを他の目的で使えるようになるかに関しては、Twitterはコメントを控えている。しかし、彼らにとって初となるバーチャルグッズの導入がうまくいけば、Twitterは特別なステッカーからプロフィールを飾るバッチまで、各ユーザーのツイートがより多くの人の目につくようなものを色々と販売できるようになるだろう。

さらに、もしもTwitterが多様な意見が受け入れられるプラットフォームという信念を曲げずに、ユーザーがお金を払いたくなるようなモノを発見できれば、広告収入のためにユーザー数を増やさなくとも、コアな一部のファンから十分な収益をあげられるようになるかもしれない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ICOは新しいエグジットの形――Kik CEOが語る仮想通貨の魅力

メッセージングアプリKikのCEOであるTed Livingtonが、本日(現地時間6月20日)中国の深センで行われたTechCrunchのイベントに登壇した。その中でモデレーターのJon Russelは、なぜ同社が最近資金調達手段としての人気が高まっているイニシャル・コイン・オファリング(ICO)を選択したのかを彼に尋ねた。

まず、LivingtonはICOが「外部から資金を調達し、企業に資金を供給するための新しい方法」だと語った。「欧米でマネタイズに困っていた私たちにとって、仮想通貨はとても魅力的でした」

ICOの結果、「Kin」と呼ばれるビットコインのようなKik独自の仮想通貨が誕生した。Livingtonによれば、Kikのコミュニティ内にKinベースの決済システムを導入することで、「Kikは何百万人という月間アクティブユーザーが参加する、ある種の経済に変化する」という。

最近多くのスタートアップがICOの道を選んでいる一方で、Kikがこれまでに多額の資金をベンチャーキャピタルから調達しているということは特筆に値する。ユニコーン企業であるKikが追加資金を調達できなかったのかという質問に対して、Livingtonはそれを否定し、ICOは新しいエグジットの形なのだと主張した。

ICOによって株主は十分なリターンを得られるため、結果的にM&AやIPOへのプレッシャーが弱まると彼は考えているのだ。

「いつかKikを売却しなきゃいけないと考えるのが嫌なんです」と彼は言い、IPOについては「しなくてもいいといいんですけどね」と話した。

ビットコインで一山稼いだ人もいれば、ボラティリティの高さゆえに仮想通貨のことを投資対象として信用していない人もいる。Livingtonは、仮想通貨がどちらの道にも進み得ると考えているようだ。

「私は最近頻発しているICOのことをドットコムバブルのように捉えています。当時はお祭り騒ぎのような状態で、大金をつかんだ人もいれば、大金を失った人もいました。でも、その中からAmazonやGoogleが誕生したんです」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

30歳未満の消費者の90%がターゲット――新興市場の人々の生活を支えるフィンテック

【編集部注】執筆者のJoshua Matemanは、中国本土を拠点に金融、アントレプレナーシップ、テクノロジー、消費動向、農業、ゲーム、スポーツ、アートに関する執筆活動を行っている。

国家が繁栄するにつれて、国民は郊外から大都市や海外に移り住み、経済力をつけながらグローバル経済に参加する。

そして彼らは食べ物を購入し、電気料金を支払い、交通機関のICカードをチャージし、オンラインサービスの料金を支払い、海外から商品を購入し、ローンを返済し、親戚に送金しなければならない。

しかし、国民の93%が銀行サービスを利用できるアメリカとは違い、発展途上国の市民の多くにとって銀行は縁遠い存在だ。世界中で約20億人の成人が正規の金融サービスにアクセスできない状態にある上、彼らが利用できるサービスはプロセスが複雑で料金も高いものばかりだ。

この問題を解決するために、フィンテックスタートアップはさまざまなオンライン・モバイルサービスを開発しており、消費者にも歓迎されている。特に若い世代は段々とネット銀行を受け入れるようになっており、30歳未満の消費者の約90%はいわゆる新興市場に住んでいる。

Paul Wuが、モバイル通信キャリアのためにアプリストアの開発を行うGMobiを立ち上げたのは、2011年のことだった。その後、同社は外部サービスのためのモバイルウォレットをローンチ。現在ではGMobiに在籍する100人の社員のうち、約3分の1が同社のモバイルペイメントサービス「Reach Pay」に取り組んでおり、このサービスはGMobiの新たな収益源として急成長を遂げている。

台湾発のGMobiは文化的、言語的に近いことから、まず中国本土への進出を模索したが、AlipayとTencent Payという二大サービスがすでに市場を席巻していた。「もう中国本土には進出できません」とGMobiの本社で台北郊外の山を眺めながらWuは言った。「中国の競争は死ぬほど厳しんです」

そこでGMobiはインドに目を向けることにし、数年間の準備期間を経て、プリペイド携帯のチャージや送金ができるモバイルウォレットOxymoneyをローンチした。ユーザーのほとんどは社会経済的地位の低い人たちでパソコンも持っていないため、GMobiはモバイルでのサービスのみ提供している。

例えば、ニューデリーに移り住んだ農村出身の労働者が、故郷の親にお金を送りたいと考えているとする。現状だと、普通は街中にある送金業者の店舗を訪れ、用紙に必要事項を記入し、どう計算されているのかよくわからない料金を支払って送金を行い、それから数日〜1週間経って親が住む農村部の銀行にお金が届く。

しかしOxymoneyを使えば、上記のプロセスにおける無駄や面倒くささがなくなる。WuはOxymoneyのプロセスを、GMobiの役員室でホワイトボードとマーカーを使って説明した。現状のフローは「消費者→業者→お店→消費者」へと簡略化できると彼は言うのだ。

ユーザーがOxymoneyを使って送金すると、まず大手の送金業者のもとにそのお金が届く。農村部に住む親も銀行口座を持っていない可能性が高いので、その後お金は銀行口座を保有している村のお店のもとに届き、親はそこでお金を回収することができるという仕組みだ。

このプロセス全体にかかる時間は約1日で、ユーザーは送金額の1%を手数料として支払う。ミニマム料金は設定されていないが、GMobiの1000万人におよぶインドのユーザーは、通常1件あたり15〜30ドルを送金している。

「私たちは金融サービスを効率化することで、中産階級〜下位中産階級の人々の経済状況を改善する手助けをしたいと考えています」とWuは語った。「まだまだ銀行の店舗を訪れる人が多いので、これからも積極的に消費者を教育していかなければいけません」

インド全体としての動向も同社を後押ししている。スマートフォン市場の伸びが世界一のインドでは、2021年までに携帯電話の契約数が14億件に達すると予測されている。さらに、インド政府はG20に送金手数料の削減を急ぐよう要請しており、インドの都市化が進むにつれて(現在人口の3分の1が都市部に住んでいる)送金額も増えていくだろう。

デジタル・インディア」構想のもと、政府は通貨や決済を含め、生活のあらゆる側面の電子化を推し進めている。

「この構想のおかげもあって、私たちは急成長しているんです」とWuは話す。

デジタル化構想がスタートアップの追い風となっている一方で、それに異議を唱える人もいる。コメディアンのBill Burrは、デジタル化構想が進むにつれて第三者に自分の情報が管理されるようになってしまうことを危惧しており、ポッドキャストの中で「全員にマイクロチップが埋め込まれるような世の中に向かって進んでいる」と語った。

現状、GMobiは国内送金だけ取り扱っている。海外送金についても考えてはいるが、実際に取り組むとなると、文化的にもオペレーション的にも規制的にもかなりの負担がかかってくる

「各国でライセンスを取得しなければならず、一定の資本金が必要になる上、現地の銀行と接続するために別のプロセスも経なければいけません」とWuは言う。「そのため、海外送金をはじめるのは簡単なことではないんです」

反マネーロンダリング規制が厳しさを増す中、海外送金には時間がかかるだけでなく、送金者が銀行の窓口を訪れなければいけないということもよくある。しかし、100人の社員を抱えるdLocalはその状況を変えようとしている。

送金用のインフラを開発するdLocalは、企業やお店(先進国が中心)が顧客(新興国が中心)からの支払いを受け取れるような仕組みを提供している。

例えば、FacebookやAirBnB、Uberといった企業がアジアや南米でサービスを提供した場合、それぞれの市場でオペレーション上の違いがあるため、支払いを受け取るのにも一苦労する。そこでdLocalは、SMSやモバイルウォレット、オンライン送金、クレジットカード、データカード、デビットカード、さらには現金まで含めた150種類以上の支払い方法をカバーする単一のプラットフォームを運営しているのだ。

dLocalの共同ファウンダーでCEOのSevastian Kanovichは、成功の理由について次のように語っている。「新興国に住む人たちは海外でも使えるクレジットカードを持っていないため、それ以外の方法で決済をしたいと思っています。しかも実際に彼らがどんな決済手段を使いたがってるかというのは、国によってさまざまです」

9年前、まだ南米のウルグアイに住んでいたKanovichは、dLocalのようなサービスの需要を目の当たりにした。当時、消費者はオンラインで商品を購入しても、海外で使えるクレジットカードをもっていなかったため支払いを完了することができなかったのだ。Kavonich自身は海外対応のクレジットカードを持っており、よく友人にそのカードを貸していた。

「消費者側はオンラインで商品を購入する気があるのに、お店側には彼らのお金を受け取る準備ができていなかったんです」とKavonichは言う。

個人間の送金だと顧客確認(Know-Your-Customer: KYC)や反マネーロンダリング(Anti-Money-Laundering:AML)規制をクリアするのが難しいため、dLocalは取引関連の決済のみを取り扱っている。彼が各国の中央銀行とP2P決済について話したところ、「全く別の話で、P2P決済だとさらに規制が厳しくなる」ことがわかったのだ。

国によっては規制変化の見通しが立ちづらく、これが彼らにとっての障害となっている。「ゲームのルールが完全に固まっているということはなく、政府がルールを変更することもあります」と彼は言う。「これこそ、私たちにとって最大の脅威なんです」

このような課題はいくつかあるものの、Kanovichはそれに怯むことなく前に進もうとしている。dLocalは現在18か国でサービスを提供しており、今年中にその数を30か国まで増やす予定だ。特にトルコ、コロンビア、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、チリで人気のdLocalだが、Kanovichはアフリカやアジア太平洋地域に大きなチャンスが眠っていると考えている。

dLocalは「グローバル化の波にのって進み、大きなチャンスをつかもうとしています」と彼は言う。

その他に成長が見込まれる領域といえば仮想通貨が考えられるが、dLocalは現時点では仮想通貨をサポートしていない。Kanovichは個人的にはビットコインを支持しているが、彼によれば新興国の銀行はそこまで乗り気ではないようだ。「仮想通貨がもう少し一般に普及するまで待ってからでないと、各国の中央銀行を説得するのは難しそうです」

最近資金調達を行ったフィリピンのCoinsは、公共料金の支払いや送金、プリペイド携帯のチャージ、世界中のサイトでのオンラインショッピングを携帯電話から行えるサービスを運営しており、決済手段のひとつとして仮想通貨を受け付けている。

そもそもCoinsは「金融サービスのギャップを埋めるため」に設立されたと、ビジネスオペレーション部門を率いるJustin Leowは話す。「特に発展途上国では利用できる金融サービスにかなりの格差があります」

彼らの提供するサービスのひとつにP2P決済がある。海外へ出稼ぎに出た人をターゲットに、Coinsは従来の送金業者よりも安く、効率的に、早く母国へお金を送る手助けをしているのだ。これまで10%近くかかっていた手数料も、Coinsを使えば2~3%の範囲に抑えられる。

例えば、香港に住む出稼ぎ労働者が毎月の所得700ドルの半分にあたる350ドルを母国のフィリピンに送金しているとする。彼にとって35ドル(10%)と10.5ドル(3%)の手数料の差は大きい。

統計によれば、世界中で毎年6010億ドルが送金されており、そのうちの約75%が発展途上国に関連したものだとされている。さらに、世界銀行のデータによれば、国民の10%が海外に住んでいるフィリピンだけでも、年に280億ドルが国境を超えて送金されており、二大送金先のインドと中国への送金額は年間600億ドルにのぼる。

フィリピンの銀行では最低預入残高が高く設定されているため、人口の3分の1以下しか銀行口座を持っていない。銀行口座の保有者よりもFacebookユーザーの方が多いくらいだ。

「つまり、銀行はかなりの数の人にサービスを提供できていません。しかし、私たちはこれまでに開発してきたモデルのおかげで、彼らの需要を満たすことができるのです」とLeowは言う。

CoinsはビットコインやStellarなどの仮想通貨もサポートしている。「仮想通貨を扱っているからこそ、世界中の送金を扱うプラットフォームとして機能できるんです」と彼は続ける。

Coinsのインフラにはブロックチェーン技術が採用されているが、顧客は裏で何が起きているかを完全に理解する必要はないとLeowは言う。「顧客が気にしているのは、送金先にきちんとお金が届くがどうかということですからね」

その一方で、Coinsが仮想通貨をサポートしているからといって、銀行のビジネスが脅かされるわけではない。「私たちのサービスには(銀行が)必要なんです。その代わりに、私たちはこれまで銀行がリーチできなかった人たちを取り込むことで、彼らのビジネスに貢献しています」

このような動きは結果的に消費者のメリットに繋がる。従来の銀行は顧客の情報を十分に把握できていないことが多いが、テック企業は顧客の趣向や行動に関するデータを収集し、ニーズに合わせたサービスを提供することができるのだ。

そして、銀行口座を持たない人を対象にサービスを提供している企業には、金銭的、そして社会的なメリットがある。

「Coinsがターゲットとしている市場には心躍るようなチャンスが眠っていますし、私たちは大勢の人の生活に良い影響を及ぼすことができるんです」とLeowは語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

仮想通貨市場で今何が起きているのか?――時価総額1000億ドルはバブルを意味するのか

仮想通貨の時価総額合計が最近1000億ドルを突破した。しかも、価格が急上昇したのはここ数か月のことで、4月1日時点の時価総額合計が250億ドルだったことを考えると、たった60日間で仮想通貨の価値が300%も上がったことになる。

その一部はビットコイン(上記期間の値上げ幅が160%)によるものだが、Ethereum(439%の値上げ幅)をはじめとする他の仮想通貨も時価総額の上昇に貢献している。

多様化が進む仮想通貨市場の様子を確認するには、ビットコインの”支配度”を見るのが1番だ。つまり、全仮想通貨の時価総額合計に占めるビットコインの割合をチェックすれば良いということだ。しばらくの間、ビットコインの支配率は80%を超えていたが、この2、3ヶ月でEthereumやRippleといった新興通貨が台頭しはじめたこともあり、その割合は50%以下まで下がってきた。

出典: coinmarketcap.com

これはバブルなのか?

経験豊富なプロの投資家であれ、別の仕事を持つパートタイムの投資家であれ、数か月のうちに400%も時価総額が上昇した資産を見れば、ものすごいバブルだと考えるのが普通だろう。歴史を振り返ってもそれは明らかで、これだけ急激に価格が上昇していれば、ほぼ確実にそのうち値崩れする。結局のところ市場はそこまで合理的ではないのだ。

そのため、何らかの補正が今後起きても驚かないでほしい。実は数週間前に、既に価格補正は起きており、ビットコインの価格は最高値の2700ドルから約2000ドルまで下がった。しかし、その後値段を戻し、本日(米国時間6/7)の時点では史上最高額の2850ドル前後で取引されている。

とは言っても、1年というスパンで仮想通貨市場を見てみると、ここ数か月の異常とも言える価格上昇は、バブルというより仮想通貨全体の復活なのではないかと気づく。

ビットコイン以外の通貨が全体の価格上昇に貢献していたというのも、これがバブルではなく仮想通貨一般への興味が再燃したことを意味している良いサインだ。さらに、Ethereumがその先頭を走っているというのにも納得がいく。技術的な面ではビットコインをも凌駕するこの通貨では、ブロックチェーン内に直接スマートコントラクトを埋め込めるようになっているため、全く新しいトークンを発行したりICO(イニシャル・コイン・オファリング)を開催したりできる。

仮想通貨ほど大きな可能性を持っていながら成長過程にあるテクノロジーに、一般の人々が直接投資できる機会はこれまで全くなかった。

同様に、銀行間の決済を主なユースケースとするRippleは、既に世界中の100社以上の金融機関で採用されている。たとえ実装までに時間がかかったとしても(金融機関で働いたことがある人であればよくわかるはずだ)、この具体的なニュースに心躍らせる人がいるのもよくわかる。

その一方で、上記のような仮想通貨の進化をもってしても、60日間で400%という価格上昇を説明することはできない。EthereumもRippleもリリースからしばらく経っており、これらの通貨を公開企業として考えると、株価が劇的に上昇する理由が(ほぼ)ないのだ。しかし、仮想通貨自体が新しい概念であり、EthereumやRippleなどはもちろんのこと、ほとんどの人がビットコインが何であるかさえもよくわかっていないというのもまた事実だ。

仮想通貨ほど大きな可能性を持っていながら成長過程にあるテクノロジーに、一般の人々が直接投資できる機会はこれまで全くなかった。

例えば1990年代であれば、インターネットが今後発展していくと予想していた人もいたかもしれないが、彼らは直接インターネットに投資することなどできなかった。また、保管・送受信されるデータを暗号化するというのも比較的新しい考え方だ。つまり、暗号技術によって守られた上記のようなブロックチェーンを支える仮想通貨を誰でも直接購入できるということは、黎明期のインターネットに投資するチャンスを掴んだようなものなのだ。

値付けの難しさ

もしも本当であれば、主要仮想通貨の急騰を説明できるような考え方がある。それは、もしかしたらこれらの仮想通貨には本当に時価総額分の価値があり、今後さらに何倍にも価格が上昇していくのではないかというものだ。

しかし、この考え方の問題は、仮想通貨の価値を割り出す方法がないということだ。企業と違い、仮想通貨には売上やコスト、一株当たり当期純利益といった価格の根拠となるものがない。Appleを例に考えてみると、彼らの会計報告をもとに簿価(会社を清算したときの価値)を算出することができる。そして、Appleの業績が今後も上がっていき、簿価も上昇すると考えている人がいるので、もちろん株価にはプレミアムが含まれる。

このような考え方は仮想通貨には当てはまらない。できることと言えば、通貨流通高や金の供給量との比較からその価値を推測するくらいだ。もしあなたが、仮想通貨を価値の貯蔵手段として考えているのであれば、世界中にある金の時価総額8兆ドル強というのが目安になるだろう。つまり、もしも将来的にビットコインが金に取って代わるとすれば、現在の時価総額はまだかなり低いと言える。

仮想通貨を本当の通貨のように考えている人であれば、M2と比較してみるといい。M2とはアメリカの通貨流通高のことで、ここには現金や当座預金のほか、貯蓄口座、投資信託、短期金融資産など”現金に近い”資産も含まれている。M2の総額は約13.5兆ドルにのぼり、この場合も上記と状況は同じだ。

仮想通貨のことをよく理解した”投資家”であれ

私は、仮想通貨の価値が上昇してくのを見て楽して儲けようと考えている読者(そして友人)に対し、仮想通貨の購入を控えるよう伝えてきた。過去数か月の価格急騰により、仮想通貨に興味を持つ人の数は一気に増え、CNBCやCNNといった主要メディアもビットコインをはじめとする通貨に”投資”する方法について説明するほどだ。

しかし、私は正しい理由で仮想通貨を購入してほしいのだ。仮想通貨自体について学ぶためや、仮想通貨を決済手段と見ている場合は全く問題ない。さらに、このテクノロジーが下記のような変化をもたらし、世界を変えていくと考えている人にも仮想通貨の購入は適しているだろう。

  • 価値の貯蔵手段として金を代替するような存在になる
  • 銀行間決済を変える
  • 海外送金にかかる費用を下げる
  • 資金調達やIPOのプロセスに革命を起こす

上記の変化は全体の一部に過ぎず、仮想通貨の動向を追っている人であれば無限大の可能性に気づいているだろう。そのため、何もしなくても価値が上がっていき、”投資”に対する十分なリターンが得られそうという理由ではなく、長期的な展開(もちろん表面上は金銭的なメリットを享受できる可能性もある)が望めるからこそ仮想通貨を購入するようになってほしいのだ。

注:筆者はビットコインやEthereum、さらに小規模な仮想通貨を複数保有している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

未来のインターネットは、非中央集権型のインターネットだ

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編集部注:本稿を執筆したOlaf Carlson-WeeはPolychain Capitalの創業者である。同社はブロックチェーン・ベースの資産に特化したヘッジファンドを運営している。

ブロックチェーン技術は、ビットコインを超えて急速に拡大しつつある。ブロックチェーンのことを既存の支払い方法や金の競争相手であると考えている人が多い一方で、まだ見ぬ世界の訪れを知らせてくれるのがブロックチェーンなのだと私は思う。

多くのブロックチェーンとトレード可能な何百種類ものトークンが創りだす世界では、産業はソフトウェアを利用して自動化され、ベンチャーキャピタルや株式市場は利用されず、アントレープレナーシップは合理化され、ネットワークは独自のデジタル・カレンシーを通して主権を獲得する。これこそが、次世代のインターネットなのだ。

これまでにビットコイン企業へ投下されたベンチャー資金は10億ドル以上だ ― この業界はVCによって支えられている。それなのに、分散型ネットワークを利用することで誰もが複雑な金融取引をエンコードしたり、正確に実行することができるブロックチェーン・プロトコル、「イーサリアム」へ投下されたVC資金はほんの僅かである。だが、その一方でイーサリアムは不特定多数が参加するクラウドセールを利用して世界中から2億5000万ドルもの資金を調達している。

では、なぜイーサリアムに投資するVCが少ないのだろうか?リスクが高すぎるということが理由かもしれないし、ビットコイン企業への投資が失敗したことによって、この業界に投資する意欲が薄れてしまったことが理由かもしれない。恐らく、という話だが。しかし、何よりも重要なのは、起業家が従来の資金調達方法とは違ったルートで資金を調達できるようになったということである。起業家たちは独自にトークンを発行することで、彼らのネットワークに必要な資金を調達している。従来の資金調達ルートを利用せず、ベンチャーキャピタルという世界を迂回しているのだ。この重要性は千言万語を費やしても表現し得ない。 ― この新世界では、企業というものは存在しない。あるのはプロトコルだけなのだ。

この新しいモデルを利用して、起業家はブロックチェーン技術にもとづいたトークンを発行する。このトークンは彼らが構築するネットワークの所有権を表すものであり、ネットワークの拡大を加速する燃料にもなる。投資家が手にするのは企業の株式ではなく、ブロックチェーン技術にもとづいたトークンだけだ。ブロックチェーンが拡大するにつれて、トークンの所有者は多大な利益を獲得するが、企業の株式を所有する出資者はその利益を得ることはできない。これらのトークンは、あるアプリケーションに特化したものである ― このトークンはビットコインのように汎用性のある価値の単位として創られたものではないのだ。イーサリアム上のトークンであるREPとGNTを例にすると、これらのトークンはそれぞれ、非中央集権型の予測マーケットとレンティング・コンピュテーションのP2Pマーケットで利用されている。

これらのアプリケーション特化型トークン(アプリトークン)は、ビットコインやイーサリアムのような既存の汎用型ブロックチェーン上に構築される。そして、オープンソースのプロジェクトの開発者たちは、彼らが開発したオープンソースのネットワークを直接マネタイズすることができるようになる。振り返ってみると、トレント・プロトコルやTorネットワークなどの成功したオープンソースプロジェクトは、プロトコルレベルで直接マネタイズされたものではなかった。今では、非中央集権型のファイルストレージ・ネットワークの開発者は、そのネットワークの所有権を表すブロックチェーン技術にもとづくトークンを発行することができるようになった。

ソーシャルメディアに貢献しながらお金を稼ぐこともできるなら、ユーザーはどうするだろうか?

しかし、これらのトークンと、所有権を表すがそれ以外の用途を持たない株式の性質は異なる。アプリトークンはネットワークに参加するために使われるものなのだ。ファイルストレージ・マーケットの例では、ファイルの所有権を示したり、ストレージ容量の購入や売却にトークンを利用する。多くの場合、ネットワーク開発者や開発チームは発行済みトークンの約10%を所有している。ネットワークの人気が高まれば、トークンの需要も高まる。すると、トークンの供給は一定なので、その価格は上昇する。つまり、ネットワークの開発者がトークンを所有し、ネットワークの有用性を高めることで、彼らのネットワークを直接マネタイズできることを意味しているのだ。追加の資金が必要になれば、トークンを公開市場で売却すればいい。

アプリトークンは開発者に報酬を与えるだけでなく、ネットワークの参加者にはその所有権を与える。この、ネットワークにおけるエクイティ型のオーナーシップは前例のないものだ。今や欧米のインターネットユーザーがどれだけのネットワークに参加しているか、考えてみてほしい ― Facebook、LinkedIn、Twitter、Uber、Airbnb、eBay、Etsy、Tumblr ― これらはそのほんの一部だ。これらすべてのネットワークにおいて、ネットワークが持つ価値はユーザーによって生み出される。しかし、それぞれのユーザーが生み出した価値はネットワークのオーナーが手に入れることになる。一方でブロックチェーン技術にもとづくモデルでは、その価値は貢献度に応じてユーザーに還元されるのだ。

過去10年間に生まれた主要なWebサービスをディスラプトするのは企業ではなく、P2Pプロトコルなのかもしれない。これは、かつてトレント・プロトコルがメディア企業に与えた影響と似ているが、それよりももっと大きな規模のものだ。結果として、企業としての「Twitter」ではなく、プロトコルとしての「twitter」が生まれ、「Facebook」ではなく「facebook」が、「Uber」ではなく「uber」が生まれることになる。

そして、投資家たちは史上初めて、インターネットの未来のインフラストラクチャーを担うネットワークの一部を所有することが可能になる。もし、1990年台初頭にTCP/IP(パケット)、SMTP(Eメール)、HTTPS(暗号化)などの低レベルのインターネット・プロトコルへ直接的に投資ができていれば、それが生むリターンは莫大なものとなっていただろう。

この話が複雑に感じてしまうのはしょうがない。なぜなら、これは複雑な話だからだ。確認のために述べておくと、ブロックチェーンは未だほとんどの部分が実験段階の分野である。しかし、ひとたび素晴らしいアプリケーションが生まれれば、それは爆発的に普及することになるだろう。なぜなら、ユーザーにはネットワークに参加する財政的なインセンティブがあるからだ。ソーシャルメディアに貢献しながらお金を稼ぐこともできるなら、ユーザーはどうするだろうか?

過去数年間でビットコインのシェアは徐々に低下している。ビットコインはこれからも成長を続けると私は信じているが、一方でブロックチェーン・エコシステムにおける他の構成要素が今にも急速な成長を遂げつつある。

現在、ブロックチェーン・ベースの資産の時価総額は、合計で130億ドルだ。ブロックチェーンの誕生によって衰退する可能性のあるシステムの現在価値と比べれば、この数字は丸め誤差ほどでしかない。非中央集権型のブロックチェーン・プロトコルが、現在のインターネットを独占する中央集権型のWebサービスに取って代わり始めたとき、私たちは本当の意味でのインターネット・ベースの主権を目の当たりにすることになるだろう。未来のインターネットは、非中央集権型のインターネットなのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter