仮想通貨急騰の背景に中国と日本の影――動き始めた政府と大手企業

【編集部注】執筆者のHugh Harsonoは元金融アナリストのアメリカ陸軍将校。

仮想通貨の価格がここ最近急上昇しており、特に過去数か月間はその傾向が市場全体に見られた。

主要通貨のビットコイン、リップル、イーサリアムは全て値上がりし、ビットコインは2588ドルの高値をつけたほか、リップルとイーサリアムの時価総額はそれぞれ100億ドル、200億ドル前後まで上昇した。

日本と中国は仮想通貨の需要・供給量が桁違いに多く、この価格上昇にも大きく関係している。

出金規制で揺れる中国

ハードウェアと電気料金の安さから、中国はマイニングのメッカとなった。BTCCをはじめとする取引所が運営する巨大なマイニングプールの力もあり、ビットコインネットワークの合計ハッシュレート(採掘速度)の60%は中国によるものだ。

しかし、今年はじめの中国当局による取り締まりの結果、投資家は各取引所から資金を引き出せなくなってしまった。中国は世界でも有数のビットコイン取引量を誇っているため、この影響は市場全体にまで及んだ。

先月には引き出しに関する規制緩和の話が浮上し、中国の経済紙CaixinはOKcoinHuobiBTCCで出金が再開される可能性があると報じていた。この報道を受けて、中国の消費者の間には仮想通貨に対する安心感が再度広がり、価格上昇に繋がった。

中国の穴を埋める日本

中国で仮想通貨の流動性が下がったことにより、日本のビットコイン市場は大きな盛り上がりを見せ、需要が膨れ上がった。

それまでビットコインの取引量全体における日本の割合は1%前後だったにもかかわらず、最近ではこの数字が6%近くまで伸び、日によっては全体取引の約55%が日本で行われていることもある。中国での規制を背景に日本での取引量が増加したことで、グローバル仮想通貨市場も勢いづいた。

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規制対策としての仮想通貨

人民元が中国政府によって厳しく管理されているのも、空前の価格上昇と関係している。中国政府は中国元の価値を完全にコントロールしており、以前から必要に応じて通貨の切り下げを行い国際的な競争力を保ってきた。

しかし、中国で個人資産が増加するうちに、代替資産としての仮想通貨の側面に注目が集まり始めた。つまり、仮想通貨はアクセスがしやすい上にボラティリティが低く、安定性も増してきたと中国の人々は考えており、その結果が価格に反映されているのだ。

一方日本では、日本銀行の量的緩和政策による金利低下(さらにはマイナス金利)も仮想通貨の価格高騰に繋がったと考えられている。

もともと量的緩和は経済成長を促すための政策だったが、日本円の価値は大きく下がり、投資家も日本円への投資を控えるようになった。出口の見えないこの金融政策を背景に、仮想通貨は代替資産として注目を集め、価格が上昇したのだ。

現地の投資家も予想がつかない政府の介入を危惧し、仮想通貨に逃げ道を見出している。

大手機関による仮想通貨の受け入れ

関係機関が仮想通貨を受け入れ始めたということも、価格上昇と大きく関係している。中国の杭州市で最近行われたGlobal Blockchain Financial Summitには、北京大学をはじめとする大学や金融機関などが大きな興味を寄せていた。なお、北京大学は現在イーサリアム研究所を発足しようとしており、そこでは同通貨のプロトコルの改善やアプリケーションへの応用に関する研究が行われる予定だ。

中国人民銀行(PBoC)の下部組織で、金融システムの電子化をミッションとしているRoyal Chinese Mintは、積極的にブロックチェーン技術の採用を提唱しており、予算と人員を一部を割いて人民元の電子化にまで取り組んでいる。

日本でも大手機関が仮想通貨を決済手段として認め始めており、日本全体での利用に耐えうるか調査が行われている。民間レベルで言えば、日本最大の取引所であるbitFlyerには、三大メガバンクの三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行が出資している。

消費者/小売レベルでいえば、ビックカメラがbitFlyerとパートナーシップを結び、一部店頭での決済手段としてビットコインの導入を決めた。さらにリクルートホールディングス傘下のリクルートライフスタイルも、コインチェックと呼ばれる取引所と共同で、モバイルペイメントサービスをローンチすると発表した。このように大手企業での採用が進むことで、仮想通貨は日常的な決済手段としてだんだん日本国民にも受け入れられつつあるようだ。

上記のような中国と日本の大手機関による仮想通貨の受け入れも、仮想通貨全体の価格上昇につながっている。

政府による仮想通貨の受け入れ

中国政府が仮想通貨の規制に乗り出したことで、数か月前にはビットコインの価格が1000ドル前後まで落ち込んでしまった。

しかし、PBoCによる規制の動きは、決済手段としての同テクノロジーの力を物語っているとも言える。さらに中国政府は独自の電子通貨さえ作ろうとしているのだ。

ビットコインの出金規制緩和の可能性に関する発表以外にも、PBoCは最近ブロックチェーンを利用した独自の仮想通貨の実験を終えた。この実験には中国初のオンラインバンクであるWeBankのほかにも、中国銀行や中国工商銀行など大手金融機関が参加していた。

日本政府も今年の4月1日からビットコインを正式な決済手段として認め、入札手続きへの仮想通貨導入に向けて動き出した。

さらに日本は中国に先駆けて取引所の登録制度を導入し、仮想通貨を金融庁の監視下におくことを決定した。bitFlyerをはじめとする大手取引所は既に申請済みのようで、制度面が整備されたことを受け、今後さらに日本国内外の仮想通貨取引が加速することになるかもしれない。

また、新しい資金決済法のもとでは仮想通貨に消費税が適用されないため、ビットコインの投資対象としての魅力がさらに増すことになる。

中国では独自通貨の開発が進められ、日本ではビットコインが正式な決済手段として管理されるようになるなど、両国で仮想通貨が受け入れられはじめたことで、市場は今後さらに盛り上がっていくだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

投稿者:

TechCrunch Japan

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