Appleが「耳」の健康に関する研究結果を公開

去る2019年、Apple(アップル)はResearch(リサーチ)を公開した。そのアプリはAppleがユーザーの健康に一層真剣に取り組むことを目指したもので、(当然ながら)iPhoneとApple Watchから集めたデータに基づいている。アプリは4部門の研究対象とともにスタートした。心臓の健康、女性の健康、運動および聴覚だ。

米国時間3月2日、同社は ミシガン大学公衆衛生学部と協力して、聴覚の研究結果を発表した。この日はWorld Hearing Day(国際耳の日)の前日にあたる。聴力の喪失は同社が力をいれている問題であり、ヘッドフォン分野への関わりが益々大きくなっていることが主な理由だ。

ヘッドフォンは、その普及とともに長期的聴覚障害の主要原因になっている。Appleは、同社のモバイルOSに騒音レベルの測定機能を組み込み、周囲の騒音が大きいときに警告できるようにした。この情報はヘルスアプリにも組み込まれ、ヘッドフォンと環境音両方の音量を表示する。後者も程度こそ低いが聴覚障害の要因の1つだ。

Appleの米国内「数千人」を対象とした研究によると、回答者の1/4がWHO(世界保健機構)の推奨する1日当たりの環境騒音暴露制限を超えていた。また50%が騒がしい環境で働いているあるいは働いていたと答えた。多くの人々がパンデミック下で在宅勤務に移行したにもかかわらず、その数値は大きい。

「パンデミックで多くの人々が在宅する中でも、被験者の25%が高い環境騒音への暴露を経験しています」とミシガン大学のRick Neitzel(リック・ナイツェル)准教授がこのニュースを伝えるリリース文で語った。「この研究結果は害を与える恐れのある暴露に対する我々の理解を深め、積極的に聴覚を保護する方法を見つけるのに役立つでしょう」。

なお、調査対象者の10%が1週間当たりの推奨ヘッドフォン利用時間を超過しており、1/4が週に数回以上耳鳴りを経験していた。

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タグ:Apple聴覚ヘッドフォン

画像クレジット:Apple

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

欧州司法裁判所で異議申立てされた「オーウェル的」AIうそ発見器プロジェクト

EU出資の研究プロジェクトが議論の的になっている。そしてこのプロジェクトに関して2021年2月初旬、欧州司法裁判所で法的な異議申し立てが行われた。プロジェクトの目的はというと、顔の表情に基づく「うそ発見」に人工知能を使用して入国審査をスピードアップすることである。

欧州連合(EU)の資金調達プログラムを監督する研究執行機関(REA)に対して行われた透明性に関する訴訟は、2019年3月にドイツ海賊党の欧州議会議員で人権擁護活動家のPatrick Breyer(パトリック・ブレイヤー)氏が起こしたものである。同氏は以前にも文書の開示拒否をめぐって欧州委員会に勝訴している。

同氏はこのプロジェクトの倫理的評価、法的許容性、マーケティング、および成果に関する文書の公開を求めている。さらに、公的資金を投入した研究はEUの基本的権利を遵守しなければならないという原則を規定し、その過程でAIの「まやかし」により公的資金が浪費されることを阻止したいと考えている。

この度の公聴会に続く声明でブレイヤー氏は「EUは危険な監視、統制技術を開発させ続けており、将来的には兵器研究にも資金を提供することになるでしょう。私的な利益のために公的資金が使われている非倫理的な研究に対し、公的な監査と議論を可能にする画期的な判決を期待しています」と述べた。「納税者や科学者、メディア、議会議員には、公的資金に基づく研究に関する情報を取得する権利があることを、今回の透明性に関する訴訟で裁判所にきっぱりと裁定してもらいたいと思っています。『iBorderCtrl(アイボーダーコントロール)のビデオうそ発見器』のような疑似科学的でオーウェル的(権威主義や監視社会を表す表現)な技術についてはなおさらです」。

裁判所はまだこの件について判決日を指定していないが、裁判官からREAに対し「1時間以上にわたって集中的かつ批判的な」質問があったとブレイヤー氏は述べた。また同氏が明らかにしたところによると、関連するAI技術についての文書は、公開はされていないが裁判官によりその内容が検討されている。この文書には「人種的特徴」に関する記述なども含まれ、多くの疑問が投げかけられているということだ。

ブレイヤー氏によると、裁判長は続けて、物議を醸しているiBorderCtrlプロジェクトについて、より多くの情報を公開しREAに隠蔽するものが何もないと証明することは、同機関の益にもなるのではないかと問いただしたという。

AI「うそ発見器」

問題の研究が議論の的となっているのは、正確なうそ発見器という概念はいまだサイエンスフィクションの域を出ず、人がうそをついてることを示す「すべての人に共通の心理学的サイン」の存在は立証されていない、という正当な理由からである。

しかし、このAIを駆使したビデオうそ発見器(ウェブカメラで被験者の顔の表情をスキャンしながら、バーチャル入国審査官からの質問に答えるように求め、欧州理事会(EC)のプロジェクト公式概要で「嘘のバイオマーカー」と表現されているものを検出することで、被験者の表情の真実性をスコア化するというもの(本当にこういう仕様なのである)を構築するための商業研究開発の「実験」は、EUのHorizon 2020(ホライゾン2020)計画の下で450万ユーロ(約5億7000万円)以上の研究資金を獲得している。

iBorderCtrlプロジェクトは2016年9月から2019年8月までの間に実施され、資金調達は多くの加盟国(英国、ポーランド、ギリシャ、ハンガリーなど)において13の民間または営利団体の間で広く行われた。

欧州委員会が2020年公表するとしていた公開調査報告書であるが、透明性の欠如に異議を唱えるブレイヤー氏の質問に対する書面での回答によると、まだ公開されていないようだ。

2019年、米国のインターネットメディアであるThe Intercept(インターセプト)が、iBorderCtrlのシステムを実際にテストした。このビデオうそ発見器は被験した記者に嘘をついているという無実の罪を着せた。彼女が16の質問のうち4つに、虚偽の回答をしたと判断し、総合スコア48という数字を与えたのだ。この結果をチェックした警察官によると、この記者は追加チェックの対象になるとシステムにより判断を下されたという。もちろん、このシステムが実際の入国審査で稼働されたわけではなかったので、再チェックになることはなかったのだが。

The Interceptはこの記者に対するテスト結果のコピーを入手するため、EU法により定められた権利であるデータアクセス要求を提出する必要があったと述べた。The Interceptはレポートで、ダービー大学の犯罪捜査学教授であるRay Bull(レイ・ブル)氏の言葉を引用している。同氏はiBorderCtrlプロジェクトには「信憑性がない」と述べ、人の顔のマイクロジェスチャーをモニタリングすることで嘘を正確に測定できるという十分な証拠はない、という理由を挙げている。

「REAはこのうそ発見器に実質的効果があると都合のよい解釈をし、多くの資金を浪費しています。この技術の根底には、真実を述べている人と、うそをついている人の振る舞いについて、根本的な誤解があります」ブル氏はこのようにも語っている。

十分なデータを入力するだけでAIが人間の特徴を自動予測できるという考えは、とても広く浸透している。とても嘆かわしいことだ。機械学習を応用して顔の形から「人格的特徴」を導き出すことで骨相学を復活させようとする最近の試みからも、そのことは明らかだ。こうして、顔をスキャンするAI「うそ発見器」は、非科学的な「伝統」に従っているのだ。そうした恥ずべき伝統は長い間はびこっている。

21世紀になって、何百万ユーロ(何億円)もの公的資金が粗悪な、古いアイデアの焼き直しにつぎ込まれているのは、率直にいって信じ難いことだ。こうした公的資金の無駄遣いは、EUが資金協力するこのうそ発見器の研究に内在する倫理的・法的な盲点について検討しようとする以前の問題だ。またこの研究は、EU憲章に定められた基本的権利に反している。そして、この研究が開始されるに至るうえで誤った判断が多く下されたことを考えると、とても情けない気持ちになる。

このような怪しげなAIの応用システムに資金を提供することは、データ駆動型テクノロジーが偏見や差別を広げるリスクを抱えていることを示す、過去の優れた研究をすべて無視しているようにも見える。

ただし、このAI応用実験における倫理的側面への配慮について、iBorderCtrlを支援するコンソーシアムが下した評価については、非常に限られた情報しか公開されていないため、確かなことはわからない。この倫理的側面への配慮というのは、ビデオうそ発見器に対する訴状の中核となる部分だ。

ルクセンブルクにある欧州司法裁判所での異議申し立ては、欧州委員会にとって非常に厄介な疑問を提起している。EUは疑似科学的な「研究」に公的資金を投入すべきなのか?本当の科学に資金を提供するべきではないか?そして、EUの珠玉となる主力研究プログラムが、なぜこれほどまでに公的な監視を受けていないのか?といった疑問である。

一方で、このビデオうそ発見器がEUの「倫理的自己評価」プロセスをパスしたという事実から「倫理面の問題がないかチェックする」とされているこのプロセスが、まがい物であることがうかがい知れる。

「研究開発の申請を受け入れるかどうかは、まず加盟国の代表者が判断を下し、最終的にはREAが決定します。したがって公的な監視がなく、議会やNGOは関与していません。そういったプロジェクトのすべてを審査する、独立した倫理団体もありません。研究開発に関連した全体的な仕組みは、非常にお粗末なものなのです」とブレイヤー氏は語る。

「この研究開発の目的は科学に貢献することでも、公共の利益に寄与することでも、EUの政策に貢献することでもなく、産業を支援することであり、つまり販売できる製品を開発することであるというのがREAの基本的な主張です。成り立ちからして、これはまさに経済支援プログラムなのです。そしてこうしたプログラムのあり方の是非、プログラムの妥当性の有無について私たちは議論すべきだと思っています」。

「EUはAIを規制しようとしていますが、実際のところ、非倫理的で違法な技術に資金を提供しているのです」と同氏は付け加えた。

外部からの倫理的監視がない

EUが自らの定める権利に反するような研究に資金を提供することは、偽善である。さらに、批判者たちが主張するように、本当に有用な研究(安全保障目的の研究、もっと広く見れば公共利益に寄与する研究、EUの議員が好んで言及する「欧州的価値観」を促進する研究など)に費やされるべき公的資金の無駄遣いであるといえる。

「この研究は正常に機能しない、非倫理的である、違法であるといった理由からまったく活用されることがない上に、本当に重要で有用な他のプログラムに使われるべき資金を浪費しています。こうした点について私たちは知り、理解する必要があります」とブレイヤー氏は主張する。

「例えば保安対策プログラムに投資して警察官の安全装備を改良できるかもしれません。あるいは犯罪防止対策として国民への情報提供システムを改善できるかもしれません。つまり資金を適切に利用すれば、多くのことに貢献できるのです。怪しげな技術に資金が無駄遣いされるようなことがあってはならないのです。AI「うそ発見器」に類する技術が決して実用化されないよう祈るばかりです」。

EUの主力研究およびイノベーションプログラムの今回の具体化は、Horizon 2020を引き継いでおり、これには2021年から2027年の期間で約955億ユーロ(約12兆円1700万円)の予算が計上されている。またデジタルトランスフォーメーションの推進とAIの開発は、EUが 公表している研究資金投入の優先事項にあたる。そのため「実験的」AIに利用できる資金は莫大にあると考えられる。

しかし、アルゴリズムによるまやかしに資金が浪費されないよう監視するのは誰なのか。研究開発がEUの基本的人権に関する憲章に明らかに反している場合、このアルゴリズムによるまやかしは危険なものになるのだ。

欧州委員会は、これらの問題に関する説明を求める再三の要請を拒否したが、公になっている項目(下記)と、文書へのアクセス(これが訴状の中核なす)に関する背景情報をいくつか発表した。

「研究における倫理」に関する同委員会の公式声明は「EUが資金提供する研究においては倫理が最優先される」という主張から始まる。

「Horizon 2020の下で行われるすべての研究やイノベーション活動は、倫理的原則、および基本権憲章や欧州人権条約を含む関連する国内法、EU法、国際法を遵守しなければならない」とも述べ、さらにこう続く。「すべての計画は特定の倫理評価を受ける。この評価により、その研究プロジェクトが倫理的規則および基準を遵守しているかどうかが検証され、その遵守を契約により義務づけられる」。

この声明は尊厳やプライバシー、平等、無差別の権利といったEUの基本権を「ビデオうそ発見器」が遵守することができるのかという点について、詳しく述べてはいない。

そして注目すべきは、欧州データ保護監督官(EDPS)が、EUの資金提供する科学研究とデータ保護法との間のズレについて懸念を表明したことだ。2020年の予備的意見書にはこう書かれている。「我々は、データ保護当局と倫理審査委員会が活発な議論を行い、共通理解を深めることを提言する。議論すべき内容には次のものが含まれる。真正な研究に該当する活動を判定する基準、科学研究を対象とするEUの行動規範、EUのフレームワークプログラム(EU加盟国および関連国を対象とした研究助成プログラム)とデータ保護基準との緊密な連携、民間企業が保有するデータを研究者が公共の利益という観点に基づいて活用できる状況を定義するための話し合いの開始、といったことである」。

とりわけiBorderCtrlプロジェクトについては、研究において倫理的側面が関係する部分を「研究開始当初に定められた倫理要件を遵守」しながら進めていけるよう監督する倫理アドバイザーを任命した、と欧州委員会はTechCrunchに語った。「アドバイザーについては、コンソーシアムからの自律性と独立性を確保しながらその職務を果たす」と主張しているが、プロジェクトの(自薦の)倫理アドバイザーが誰であるのかについては明らかにしなかった。

「倫理的な部分については、プロジェクトの遂行中、同委員会やREAが常に管理し、成果物を適宜改正している。報告期間の終わりに行われる技術審査会議では、外部の独立した専門家の協力を得て慎重に分析を行っており、2019年3月に十分な倫理チェックが行われた」と記載されている。

この自主規制的な「倫理チェック」についての詳細は明らかにされなかった。

「これまでのところ、基本的に倫理チェックは欧州委員会が、提案や要請に応じて設置した専門家グループにより行われています」とブレイヤー氏は言い、EUの研究プログラムの構成に言及している。「研究プログラムは業界の専門家が大半を占めており、議会議員は1人もおらず、市民社会の代表者は、私が考えるところでは1人しかいません。つまりそもそも最初から構成が間違っているのです。それから研究執行機関(REA)があり、実際の決定はEU加盟国の代表者によって行われます」。

「研究提案を奨励する動き自体は調べてみると非常に一般的なもので、問題はないようです。本当の問題は提出された研究提案の方なのです。そして私が理解している限り、こういった提案は独立した専門家によって審査されていません。つまり、倫理の問題に自己評価で対処しているのです。プロジェクトに高い倫理的リスクがあるかどうかは、基本的に研究の提案者が申告することになっています。提案者が倫理的リスクがあると申告した場合のみ、REAによって選出された専門家が倫理評価を行います」。

「我々には誰の研究提案が採用されたのかも、その研究の内容もわかりません。そうした情報は非公開なのです。後になってプロジェクトに倫理的な問題があることがわかったとしても、資金援助を取り消すことはできません」。

欧州委員会がAIの応用に関してリスクベースの規定を策定中であることから、偽善を暴こうとするブレイヤー氏による告発は大きな注目を集めている。またEUの議員たちは、人工知能技術がEUの価値観や権利に沿って適用されるようにするためには「ガードレール」が必要であることを何年も前から主張してきた。

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例えば欧州委員会のEVP(エグゼクティブバイスプレジデント)であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、人工知能が「倫理的に使用され」「人間の意思決定をサポートし、それらを損なうことがない」ようにするための規定の必要性について語っている

しかしEUの諸機関は、EUで実施されれば明らかに違法となるようなAI研究に公的資金を投入していることも事実である。市民社会の批評家たちは「うそ発見」の有効性を裏づける科学的根拠がないことを考えると、この研究は明らかに非倫理的であると非難している。

iBorderCtrlのウェブサイト内にあるFAQセクションでは、同プロジェクトで開発された技術の一部は実際に導入された場合、既存のEUの法的枠組みの範囲を超えてしまうことを、プロジェクトを推進している商業ベースのコンソーシアムが認めている。そしてこれは「法的根拠を確立する政治的決定が民主的になされない限り、そうした技術は導入できない」ことを意味する、と付け加えている。

言い換えれば、そのようなシステムを実際に欧州の入国審査に使うことは、法律を変えなければ違法になるということだ。それにもかかわらず、ヨーロッパの公的資金がそうした技術の研究に投入された。

欧州データ保護監督官(EDPS)の広報担当者はブレイヤー氏のケースについて具体的にコメントすることを控えたが、それでも科学研究とデータ保護に関するEDPSの予備的見解は重要な意味を持つことを認めた。

また、EU全体における健康データの研究目的の共有を奨励する欧州委員会の最近の動きに対応した、さらなる関連研究についても触れた。これについてEDPSは、データ保護の予防措置は「最初に」定義されるべきであり、また、研究が開始される前に「考え抜かれた」法的根拠が確立されるべきであると助言している。

「EDPSは健康データ共有の枠組み内でデータを倫理的に使用することに留意するよう勧告しており、そのために、既存の倫理委員会および国内法に照らした同委員会の役割を考慮に入れることを促している」と、EUの主任データ監督官は書いている。また「健康データ共有計画の成功には、EUの価値観(基本的権利の尊重など)に根ざし、合法で、責任ある倫理的管理を保証する強力なデータガバナンスメカニズムの確立が鍵となることは確実だ」と加えている。

(長文を嫌う人のための)要約:データの法的・倫理的な使用は、最初から研究努力の大前提である。データが法的・倫理的に使用されているかどうかを、研究開始後にチェックするようなことがあってはならない。

検証不可能な技術

EUの資金が投入された研究プロジェクトに対して独立した倫理的監視がないことに加え、営利目的とされる研究について現状懸念されるのは、外部の人間がその研究の技術を独立して検証する(つまり誤りを立証する)方法がないことだ。

iBorderCtrlの技術の場合、プロジェクトの成果に関する有意なデータは公開されておらず、情報公開法に基づいてデータを要求しても、商業的利益を理由に認められない。

ブレイヤー氏は2019年にこのプロジェクトが終了して以来、その成果に関する情報を取得しようと試みているが、果たされていない。ガーディアン紙は2020年12月に同氏が反撃したことについて詳しく報じている。

プロジェクトの成果に関する情報を公開する、しかも終了後、長い時間を経てからそうするための要件は、EUの研究に関わる法的枠組みの下では非常に限られているとブレイヤー氏は述べている。したがって同氏が望むのは「商業的利益」を盾に公共の利益になる情報開示をすべてにおいて拒否することはできない、という主張に司法裁判所が合意することである。

「REAは基本的に、プロジェクトが実際に実用化できるかどうかを検討する義務はないので、実用化できない研究に資金提供する権利があると主張しています」と同氏はTechCrunchに語った。「それに、情報を公開することで技術の販売に悪影響が及ぶ場合、それは情報公開を拒む十分な理由になると主張していますが、これは商業的に機密性の高い情報を極端に拡大解釈しています」。

「ソフトウェアプログラムのソースコードや、内部計算など、本当に商業上の秘密が含まれている情報を除外することなら私も認めます。しかし、例えばあるプロジェクトに倫理的な問題があるとされている場合は、商業的利益を理由に情報公開要求を拒否できるようなことがあってはなりません。倫理的な問題があるプロジェクトであれば、たとえ公開された情報に商業上の秘密が含まれていなくても、確かに技術の販売に悪影響が及ぶでしょう。しかしREAの主張のような解釈はあまりにも極端です」。

「今回の法的措置が前例となり、倫理的な問題があり、実際に使用されたり導入されたりした場合に違法となる技術に関する情報を明らかにし、公衆の「知る権利」は技術を販売するための商業的利益よりも優先されるということが明言されるよう願っています」とブレイヤー氏は付け加えた。「REAは情報を公開することで技術が売れる可能性が低くなるためにそうしないと言っています。こうした主張について知ったとき、今後、彼らは情報公開要求すべてに対して同じような主張で対抗してくるはずですから、このケースは間違いなく法廷に持ち込む価値があると考えました」。

市民社会団体も、iBorderCtrlプロジェクトに関する詳しい情報を入手しようという試みに失敗している。The Interceptが2019年に報じたところによると、ミラノに拠点を置くHermes Center for Transparency and Digital Human Rights(透明性とデジタル人権のためのエルメスセンター)の研究者が情報公開法を利用してiBorderCtrlのシステムなどに関する内部文書を入手したが、彼らが得た何百ものページは大幅に修正されており、その多くは完全に黒塗りにされていた。

「その他の怪しげな研究プロジェクトについて調べようとして失敗したジャーナリストから、REAが情報を大量に隠しているという話を聞いたことがあります。倫理報告書や法的評価のようなものでさえも隠匿されており、そうした情報自体に商業的な機密は含まれていません」とブレイヤー氏は続ける。「ソースコードもいかなる機密情報も含まれていません。REAはこうした情報に関しては部分的にも公表していません」。

「EU当局(REA)は実際のところ、利益が減る可能性が判明すれば情報はすぐに非公開にするのだから、どのような関心に基づく情報公開要求があっても我々には関係がないと述べているのです。これには開いた口がふさがりません。自分たちの税金が何に使われているのかを知りたいという納税者の関心、および「虚偽検出」の実験をテスト、検証すべきだと求める科学的な関心の観点からも、REAの主張は容認できません。さらに、『虚偽検出』については本当に機能するのかという点を焦点に激しい議論が交わされています。科学者が虚偽検出の技術を検証したり誤りを立証したりするためには、当然ながら、この実験の詳細情報が必要です」。

「また、民主的にいえば、議会議員がこのようなシステムの導入を決定する場合や、研究プログラムの枠組みを決定する場合にさえも、詳細情報を知る必要があります。例えば、誤検出の数はどれくらいだったのか、システムの実際の精度はどの程度か、顔認証技術などは特定の集団にはあまりうまく機能しないことを考慮すると、差別的影響があるのか、といった情報です。私たちが本当に今すぐに知る必要があるのは、こういった情報で十分なのです」。

EUが資金提供している研究に関連する文書へのアクセスについて、欧州委員会は「各ケースは慎重かつ個別に分析される」と付け加えながらも、規則1049 / 2001を参照するよう我々に促した。欧州委員会によると同規則が「一般的な原則と制限を規定している」という。

しかしHorizonプログラムの規則に対する同委員会の解釈は、情報公開法の適用を、少なくともiBorderCtrlプロジェクトのケースでは完全に排除しているように見える。

ブレイヤー氏によると、情報公開は研究結果の概要に限定されている。この概要はプロジェクトの完了から約3、4年後に公開可能となる。

「どこかの科学雑誌でこのプロジェクトについて5、6ページの論文が掲載されますが、もちろんそれを使って技術の検証や誤りの立証をすることはできません」と同氏はいう。「プロジェクト関係者による具体的な取り組みや、プロジェクトへの協力機関は不明です。そのため研究結果の概要は科学的にも民主的にも何の意味も持たず、一般市民にも利益はありません。しかも、公開までに時間がかかりすぎます。ですから、将来私たちがより多くの情報を把握し、できれば公開討論が行われることを私は期待しています」。

EU研究プログラムの法的枠組みは二次法である。そのため、ブレイヤー氏は「商業的利益」の保護に関する包括的条項が、透明性に関するEUの基本的な権利より優位になるようなことがあってはならないと主張している。しかしもちろん、決定は裁判所次第だ。

「透明性、それに情報へのアクセスは、実際EUの基本的権利であり、EU基本権憲章に記載されているため、私にも大いにチャンスがあると考えています。そしてこのホライズンの法規はあくまでも二次法であり、一次法から逸脱できません。二次法は一次法に沿って解釈される必要があります」とブレイヤー氏は語る。「ですから、おそらく裁判所が私の主張を認め、公共の利益の優先を前提としつつ商業上の情報も保護する情報公開法の観点から、うまくバランスの取れた判断を下すと思います。裁判所がちょうどよい妥協点を見つけ、うまくいけば、これまでよりも多くの情報が公開されるようになり、透明性も増すだろうと思います」。

「おそらくREAは文書の一部を黒く塗りつぶし、一部は修正するでしょうが、原則として文書にアクセスできるようになると期待しています。そして、将来的にこの研究に関して要求される情報の大半を、欧州委員会とREAは必ず提供しなければならないことになります。この研究に関連して怪しげなプロジェクトがまだたくさんあるからです」。

ブレイヤー氏によると、資金提供申請を承認する委員会を産業界とEU加盟国の代表者(彼らは当然、EUの資金が常に自分たちの地域に入ってくることを望んでいる)中心に構成するのではなく、議会の代表者、より多くの市民社会の代表者、科学者も含めて構成することで、研究プロジェクトを監視できる優れたシステムをスタートさせることができる、とのことである。

「研究プロジェクトの監視システムには独立した参加者が必要で、そうした参加者が過半数を占めるべきです」と同氏はいう。「それは、研究活動の舵を取り、公共の利益、EUの価値観の遵守、そして研究の有用性といったことを促進する上で意味があることです。私たちは、効果がなかったり、倫理的な問題であったり、違法であったりするために決して利用されない研究について知り、理解する必要があります。そうした研究によって、とても重要かつ有用な他のプログラムに使うべき資金が浪費されているからです」。

ブレイヤー氏はまた、防衛に焦点を置く新しいEU研究プログラムが立ち上げ中であることを指摘している。この研究プロジェクトの構造は、これまでと同じである。つまり資金提供の決定や情報開示に対する適切な公的監視体制が整えられていない。同氏は次のように述べている。「REAは防衛技術の研究プロジェクトにおいても、iBorderCtrlの場合と同様のことを行おうと考えています。そして、この研究プロジェクトでは致死技術さえ扱われるのです」。

ブレイヤー氏によると、これまでのところiBorderCtrlに関して唯一開示されているのはそのシステムの技術仕様の一部と通信レポートの一部のみで、同氏はどちらも「大幅に修正されている」と述べている。

「REAは、例えば、このシステムを導入した国境機関も、このプロジェクトに関与している政治家も明らかにしていません」とブレイヤー氏は語る。「興味深いのは、EUから資金提供を受けたこのプロジェクトの一環としてEUの国境当局や政治家に技術が披露されているということです。なぜこの点が興味深いのかというと、欧州委員会は、iBorderCtrlの目的の研究に限られるため、開発された技術が導入され、問題が起こるようなことはないと主張し続けているからです。しかし実際のところ、REAはすでにプロジェクトを利用して技術の導入と販売を推進しているのです。そしてたとえこの技術がEU国境で使用されることはないとしても、開発に資金を提供するということは、他の政府で使用される可能性があります。つまり、中国やサウジアラビアといった国々に販売されることもあり得るということです」。

「また、虚偽検出技術を販売している会社(マンチェスターに拠点を置くSilent Talker Ltd)は、この技術を保険会社に提供したり、就職面接で利用できるかたちで販売したりしています。銀行もローン申請の際にこの技術を利用することがあるかもしれません。つまりAIシステムは嘘を見抜けると信じられているため、虚偽検出技術が民間企業で広く使われるリスクがあるということです。まったく信頼性に欠ける虚偽検出技術でうそを見抜こうとすることはいわばギャンブルであり、この怪しげな技術のせいで多くの人が不利益を被るリスクがあります」。

「EUがそのような『インチキ』技術に資金提供することを誰も阻止しないというのは言語道断です」とブレイヤー氏は語る。

欧州委員会は「The Intelligent Portable Border Control System(インテリジェント・ポータブル・ボーダー・コントロール・システム、iBorderCtrl)」の研究では「陸路での国境検問の効率性、利便性、安全性を高めるための新しいアイデアを探求した」と述べ、他のセキュリティ研究プロジェクトと同様「セキュリティの課題に対処するために、新しいアイデアや技術をテストすることを目的としている」とした。

「iBorderCtrlのプロジェクトに期待されていたのは、すぐに実用化できる技術や製品を提供することではなかった。すべての研究プロジェクトが、実用化できる技術の開発につながるわけではない。研究プロジェクトが終了した後、さらに研究を進めるか、プロジェクトで研究対象となったソリューションの開発に着手するかどうかは、加盟国の判断に委ねられてる」とも述べている。

また、次世代技術の具体的な応用については「基本的権利や個人データの保護に関するEUの規則を含むEU法と国内法、保護条項を常に遵守しなければならない」とした。

しかしブレイヤー氏はまた、同委員会が「研究開発に過ぎない」「特定の技術についてその用途は定めていない」などと主張して、世間の目をそらせようとしているのはずる賢いと訴えている。「もちろん実際のところ欧州委員会は、開発された技術が有用であること、機能することが判明した場合、その技術に対して賛意を表明するよう議員に圧力をかけます」と同氏は主張する。「また、EU自体で使用されていなくても他の国に販売されることになるでしょう。だからこそ、この研究に対する監視と倫理的評価の欠如は本当にあってはならないことだと思います。特に公共の場での大規模な監視など、監視技術の開発と研究が繰り返し行われているため、とりわけそういえます」。

「欧州委員会はインターネットから大量にデータを収集して処理するプロジェクトを進めています。しかし、この研究はプライバシーの権利という基本的な権利への干渉に関するものであるため、同委員会のセキュリティに関する方針の欠陥が大きな問題となってきます」とブレイヤー氏は続ける。「その方針では、監視社会といった非倫理的な方法を禁止する制限が定められていません。またそうした物理的な制限のみならず、倫理面で問題のあるプロジェクトを端から排除できる制度上の仕組みもありません。そして倫理面で問題のあるプログラムが考案され開始されると、同委員会はプログラムに関する情報を公開することすら拒否するでしょう。そのようなことは本当に言語道断であり、さきほども言ったように、裁判所が適切なバランスを取ってより多くの情報が開示されるようになり、それによって我々は、こういった研究計画の成り立ちについて、公開討論を実施できるようになって欲しいと願っています」。

ブレイヤー氏は、防衛研究開発基金を設立しようとする、欧州委員会の計画について再び言及した。この基金は、虚偽検出技術の場合と同様、産業中心の意思決定構造と「欠陥のある倫理評価メカニズム」の下で運営されていく。自律型兵器に資金を提供できるEUの研究には制限があるものの、大量破壊兵器や核兵器など、他の分野では公的資金の投入を申請できると指摘している。

「ですから、これは非常に大きな問題となるでしょうし、当然、これまでにも増して同じような透明性の問題が出てくるでしょう」と同氏は付け加える。

透明性全般に関して、欧州委員会は「可能な限り成果を公表するよう、プロジェクトに常に促している」とTechCrunchに述べた。特にiBorderCtrlについては、CORDDIS(コミュニティの研究開発情報サービス)ウェブサイトと専用ウェブサイトでプロジェクトに関する詳細な情報が提供されているとのことだ。

iBorderCtrlのウェブサイト内「publications(資料)」ページをじっくり閲覧すると「ethics advisor(倫理アドバイザー)」「ethic’s advisor’s first report(倫理アドバイザーによる第一次報告)」、「ethics of profiling, the risk of stigmatization of individuals and mitigation plan(プロファイリングの倫理、個人の不名誉のリスク、およびそのリスクの軽減計画)」「EU wide legal and ethical review report(EU全体の法・倫理審査報告書)」など、多くの「deliverables(成果物)」が見つかる。これらはすべて「confidential(機密)」としてリストされている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EUうそ発見器AI

画像クレジット:mark6mauno / Flickr under a license.

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

ダイバーシティとインクルージョンの促進に注力する投資会社Kapor Capitalが約133億円調達

有色人種の創業者やソーシャルインパクトベンチャーへの資金提供に力を入れている投資会社のKapor Capital(ケイパー・キャピタル)が「Fund III(ファンド3)」と呼ばれる1億2500万ドル(約133億円)の資金を調達していると、事情に詳しい関係者がTechCrunchに語った。

このファンドで注目すべきは、Kapor Capitalがファンドのために投資家から外部資金を受け入れるのは初めてということだ。これまで資本は、Kapor Capitalの創業者であるMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏とFreada Kapor Klein(フリーダ・ケイパー・クライン)氏から直接もたらされてきた。

この資金調達は、Kapor Capitalの共同経営者であるBrian Dixon(ブライアン・ディクソン)氏とUlili Onovakpuri(ウリリ・オノバクプリ)氏が主導することになる。2人は共同マネージング・パートナーを務める。

オノバクプリ氏は2018年に、社長から共同経営者になった。当時、彼女は低所得者への償還や補助金による支払いを通じて、ヘルスケアをもっと利用しやすいものにするテクノロジーに興味があると話していた。人材面では、インクルーシブな文化の創造を支援するスタートアップへの投資に注目していると語っていた。

「多様な背景を持つ人々を受け入れ、幸せにするためには、もっと多くのことをする必要があるとわかりました。だからそのために私は投資するのです」と、オノバクプリ氏は語った。

彼女が最初に投資したのは、世界の格差を特定するためのテキストメッセージプラットフォームとしてスタートしたmSurvey(エムサーベイ)と、企業のインクルージョン化促進を支援することを目的としたtEQuitable(ティーエクイタブル)だった。

彼女の共同マネージャーであるディクソン氏は、2015年にベンチャーキャピタルの共同経営者に昇格した最初の黒人投資家の1人となった。ディクソン氏は当時、Kapor Capitalのポートフォリオの中で、女性や有色人種とされる創業者の数を半数以上に増やすことに注力していると話していた。

「共同経営者として、それを継続していきたいと思っています」と、当時ディクソン氏は語っていた。「私たちは今でも最高の企業を探しています。影響力のある企業を目指しながら、VCのようなリターンを得られる企業を探し続けています。それがKapor Capitalのユニークなところであると私は考えています。アーリーステージの会社でこのような目標を持つ会社は多くないのですが、私たちは非常に上手くやっていると思います」。

現在、Kapor Capitalのポートフォリオに含まれる企業の59%は、創業者が女性や有色人種とされる人々だ。Kapor Capitalは、テック業界におけるダイバーシティとインクルージョンの促進に尽力してきた。例えば、2016年には新規投資先企業に対し、創業者コミットメントの一環として、ダイバーシティとインクルージョンへの投資を義務づけている。

Kapor Capitalはこれまで、Blocpower(ブロックパワー)、Bitwise(ビットワイズ)、Promise(プロミス)、Aclima(アクリマ)などの企業に投資してきた。

この件についてKapor Capitalはコメントすることを辞退した。

カテゴリー: パブリック / ダイバーシティ
タグ:Kapor Capital資金調達

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Sentropyがソーシャルメディア上の攻撃から人々を守るツールをローンチ、Twitterを皮切りに展開

2020年、米国大統領選挙キャンペーンが特に激しさを増していた中、人々をオンライン上の会話に集結させるソーシャルメディアや企業に向けてAIベースのプラットフォームを提供するSentropyというスタートアップが現れた。

Sentropyは自然言語処理と機械学習を利用して一連のアルゴリズムを構築し、これらのプラットフォーム上で暴言や嫌がらせなどの有害なコンテンツが出現してきたときにそれを検知し、問題になる前に対処できるように支援している。

同社が米国時間2月9日、コンシューマー向けの新製品を発表した。

Sentropy Protectは、同社のエンタープライズプラットフォーム用に開発されたものと同じ技術を使用した無料のコンシューマー向け製品だ。個人のソーシャルメディアのフィード上で有害なコンテンツを検出し、ダッシュボードを介してそうしたコンテンツとそれを生成する人々を適切に制御できるようにしてくれる。

当初はTwitterからスタートし、徐々にソーシャルフィードの数を増やしていく計画で、初期段階ではSentropyとソーシャルフィードを統合するためのAPIを提供するサービスをベースに展開する(すべてのソーシャルメディアがそういったAPIを提供しているわけではない)。

SentropyのCEOであるJohn Redgrave(ジョン・レドグレイブ)氏は、コンシューマー向け製品のローンチは方向転換ではなく同社が構築しているものの拡張であると述べている。

Sentropyは今後もエンタープライズ顧客と協働していく考えで、同分野では2つの製品を展開している。Sentropy Detectは、APIベースの悪用検知技術へのアクセスを提供する。Sentropy Defendは、モデレータのエンドツーエンドのモデレーションワークフローを可能にするブラウザベースのインターフェースだ。

しかし一方で、コンシューマー向け製品であるProtectは人々に新たな選択肢を提供する。Sentropyが特定のプラットフォームで利用されているかどうかに関わらず、制御を握り、ハラスメントのグラフを実質的にコントロールできるようにしてくれるというものだ。

「私たちはエンタープライズをスタート地点として一貫して追い求めていく強い信念を持っていましたが、Sentropyはそれ以上のものになっています」と同氏はいう。「サイバーセーフティには企業向けとコンシューマー向けの両方のコンポーネントが必要です」。

何百万もの人々に影響を与える可能性のあるサービスを構築し、かつ個人の自己決定の要素を維持しようとする姿勢のあるスタートアップの誕生は実に爽快である。

単に「サービスXを利用するかしないかはあなた次第です」ということだけではない。特に人気のサービスにおいては、プラットフォームがユーザーの最善の利益を常に考慮してくれているという期待感だけでなく、ユーザーにも自身でコントロールできるようなツールを提供すべきだという概念が重要なのだ。

これは消えつつある問題ではなく、複雑なコンテンツを処理する方法を模索し続けている現在最もホットなプラットフォームだけでなく、新興のプラットフォームにも共通する問題といえるだろう。

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例えば、Clubhouseの最近の人気はソーシャルプラットフォームにおける新たな領域として注目されているが、Clubhouseは会話のための「room」をベースとし、やりとりのためテキストではなく音声に依存する新しいモデルであるため、嫌がらせやハラスメントの問題にどう対処しているかという点を浮き彫りにしている。いくつかの注目すべき例は、これまでのところ、問題が大きくなる前に対処する必要があることを示している。

Protectは現在無料で利用できるが、Sentropyはその有料化の方法と可能性を検討中だとレドグレイブ氏は語っている。考えられるシナリオとしては、強化されたツールを備えた「プロ」サービスを持つ個人向けの無料限定版製品となるフリーミアムの層と、1人または複数のハイプロファイルの個人に代わってアカウントを管理する企業向けの層で提供される可能性がある。

もちろんTwitter、Reddit、Facebook、YouTubeなどのサービスはここ数年(特に最近)、より多くのルール、モデレーター、自動化されたアルゴリズムを導入し、トラック内の不正なコンテンツを特定して阻止したり、ユーザーがコンテンツを入手する前にレポートして阻止したりできるようにすることで、大きな成果を上げている。

しかし、もしあなた自身が定期的あるいは時折ターゲットにされたりするような経験を持っていれば、それだけでは十分ではないと感じるだろう。Sentropy Protectもそのような考え方に基づいて構築されているようだ。

実際、レドグレイブ氏によると、同社は当初からコンシューマー向け製品のロードマップを作成していたが、2020年6月にエンタープライズ向け製品を発表して以降その戦略は加速したという。

「私たちは『オンラインで虐待を受けています。御社のテクノロジーにアクセスするにはどうすればよいですか?』という人々からの問い合わせを受けるようになりました」。同氏はSentropyが企業のリストを精査して顧客として彼らを勝ち取り、製品の統合を成功させるだけでは解決できない問題があることに気づいたと振り返る。

「私たちは難しい決断を下しました。100%の時間を企業のために費やすのか、それともチームの一部を使って消費者のために何かを作り始めるべきなのか」。同社は後者の道を選んだ。

エンタープライズ分野では、Sentropyはソーシャルネットワークをはじめ、ゲーム体験や出会い系アプリに接続されたメッセージボードなど、人と人の交流をホストする企業との提携を続けている。現時点では顧客名を公表していないが、大手の有名プラットフォームではなく、主に小規模で急成長中の企業だとレドグレイブ氏は説明している。

Sentropyのプロダクト担当バイスプレジデントであるDev Bala(デヴ・バーラ)氏(アカデミックな経験を持ち、Facebook、Google、Microsoftで働いていた)は、より大きなレガシープラットフォームもSentropyの範疇外ではないと説明している。しかし大抵の場合、そうした企業はより大きな信頼と安全戦略に取り組み、少数のエンジニアを社内に配置して製品開発に取り組んでいることが多い。

大手ソーシャルネットワークがサービスの特定の側面にサードパーティーの技術を導入することもあるが、それらの契約が完了するまでには、たとえオンライン上での不正行為に対処しなければならないような緊急性の高い場合であっても、通常は長い時間がかかる。

「虐待や嫌がらせは急速に進化しており、Facebook、Reddit、YouTubeやその他の企業にとっては実存的な問題になっていると思います」とバーラ氏はいう。「これらの企業は、信頼と安全だけを考えている1万人の組織を持つことになり、世界はそれを実行しないことの弊害を目にしています。外部の人々にはあまり明らかにされていませんが、彼らは多数のモデレーターとあらゆるテクノロジーを持つポートフォリオアプローチを採用しています。すべてが社内で構築されているわけではありません」。

「Sentropyには大きな企業にとっても価値があると信じていますが、私たちのような製品を使っている企業の周りには多くの世論が存在していることも認識しています。ですから、対象となっている企業がFacebookではなく、あまり洗練されていないアプローチを採用していない場合、より先に進むチャンスがあると考えています」。

市場の潮流とセンチメントの変化の兆候である。虐待やコンテンツへの取り組みがビジネスコンセプトとして真剣に受け止められ始めているようだ。このビジネス機会に取り組んでいるのはSentropyだけではない。

Spectrum LabsL1ghtという2社のスタートアップも会話が行われているさまざまなプラットフォームを対象としたAIベースのツールセットを開発しており、これらのプラットフォームが有害性、ハラスメント、虐待を検知し、より適切な事例を検出できるようにしている。

関連記事:有害コンテンツと戦うAIプラットフォーム開発のSpectrum Labsが1000億円超を調達

もう1社のBlock Partyは、さまざまなソーシャルプラットフォームでユーザー自身が有害性への接触をコントロールできるようにしたいと考えているが、Sentropy同様、まずTwitterにフォーカスしている。

関連記事:SNSでのオンラインハラスメントや虐待に対抗するBlock PartyがTwitterでサービス開始

Protectを使用すると、コンテンツが検出されてフラグが設定された後、ユーザーは特定のユーザー(Protectを使用してミュートすることも可能)またはテーマに対してより広範で恒久的なブロックを設定したり、フィルタリングされた単語を管理したり、悪用の可能性があることを示すフラグが自動的に設定されたコンテンツを監視したりできる。これらのフラグを無効化して「信頼できる」ユーザーを作成することも可能だ。身体的な暴力の脅威、性的な攻撃、アイデンティティ攻撃などのように、Sentropyによって捕捉されたツイートにはラベルが付けられる。

機械学習プラットフォームをベースにしているため、Sentropyはフラグの付いたツイートを含むすべてのシグナルを収集し、Protectにそれらを使って将来のコンテンツを識別させている。このプラットフォームは他のプラットフォームでのチャットも常時監視しており、それが検索結果やモデレートに反映される。

Twitter自体の不正利用防止策を知っている人なら、Twitterが提供するコントロールよりもこれがさらに一歩進んでいることが分かるだろう。

ただし、これはまだ初期バージョンに過ぎない。今のところ、Protectではタイムライン全体を見ることはできず、実質的にはProtectとTwitterクライアントを切り替えることになる。面倒だと思う人もいるかもしれないが、一方でバーラ氏は、Sentropyの成功の兆候はバックグラウンドで動作させて人が常にチェックする必要性を感じなくなることだという。

レドグレイブ氏はまた、ダイレクトメッセージをフィルタリングする機能など、他の機能を追加する方法についてもまだ検討中だと語っている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Sentropyハラスメント機械学習SNSソーシャルメディア

画像クレジット:Towfiqu Photography / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

性的嗜好や支持政党が顔認識アルゴリズムでわかる研究が物議を醸す

顔の特徴だけで個人の支持政党をかなりの精度で判別できるという機械学習システムが研究者によって構築された。この研究は、性的嗜好も同様にして推測できる可能性があることを示したグループによって行われたものだが「現代版骨相学」であることを率直に述べ、その罠に陥らないよう慎重を期した上で、外見は我々が思っているよりも多くの個人情報を表している可能性があるという心地の悪い結論に到達している。

先のNature journal Scientific Reportsに掲載されたこの論文は、スタンフォード大学のMichal Kosinski(マイケル・コジンスキー)氏によって執筆された。個人の性的嗜好は顔データから推測できるという内容の同氏の論文は、2017年にもトップニュースを飾ったことがある。

この研究は批判を招いたが、その理由はその手法ではなく、概念上非身体的な(見た目ではわからないはずの)ことをこのような方法で検出できるという考え方にある。そもそもコジンスキー氏は、本人もずっと説明しているとおり、そうしたことは不可能だということを証明しようとしたのだが、結果は他の人にとっても、コジンスキー氏自身にとっても驚くべき、困ったものとなってしまった。この研究目的は、ゲイかどうかを識別する能力をAIで実現することではない。その反対である。研究チームが発表当時に寄稿したように、このようなテクノロジーが研究以外の目的で関心を持つ者によって開発されるリスクがあることを一般の人たちに警告する意味で、今回の研究結果を公開する必要があった。

この結果には本当に困惑しており、この事実を公開すべきかどうか判断に迷いました。公開することにより、我々が警告しているリスクが現実になってしまうのを避けたいと考えました。性的指向を公表するタイミングと相手をコントロールできることは、その人の幸福だけでなく、安全性のためにも極めて重要です。

政治家とLGBTQコミュニティに今直面しているリスクを早急に認識してもらう必要があります。我々はプライバシーを侵害するツールを開発したのではなく、広く利用されている基本的な方法が重大なプライバシー侵害を招くことを示したのです。

所属政党についても同様の警鐘を鳴らすことができるだろう。少なくとも現時点の米国では所属政党は性的嗜好ほど敏感または個人的な問題ではないが、敏感で個人的な問題であることは確かだ。政治的または宗教的に「反体制派」であるという理由で逮捕または殺害された人たちのニュースを1週間以上聞かないことはまずない。たとえばメッセージを傍受するといった方法ではなく、単に「アルゴリズムによって過激主義者と特定された」というだけで、抑圧的な政府が(逮捕または捜索するための)相当な理由を得られるとなると、そうした圧政的行為を非常に簡単かつ大規模に行えるようになってしまう。

このアルゴリズム自体は決して最先端のテクノロジーというわけではない。コジンスキー氏の論文では米国、カナダ、英国の出会い系サイトや米国のフェイスブックのユーザーの100万件を超える顔写真を収集し、機械学習システムに取り込んで学習させるというごく通常のプロセスが説明されている。顔写真が使用された人たちは、そのサイトのアンケートで政治的に保守派かリベラル派であることがわかっている。

このアルゴリズムは、オープンソースの顔認識ソフトウェアに基づいて開発されたもので、まず、顔だけを切り出す基本的な処理を行った後(これにより背景がアルゴリズムの処理対象から除外される)、さまざまな特徴を表す2048個のスコアで顔を単純化する。他の顔認識アルゴリズムと同様、この特徴は必ずしも「眉毛の色」とか「鼻のかたち」といった直感的なものではなく、よりコンピューターネイティブな概念だ。

画像クレジット:Michal Kosinski / Nature Scientific Reports

上述のユーザーから収集した所属政党データをこのシステムに取り込むと、保守派とリベラル派の顔に関する統計データの違いを細かく分析し始める。実際、両者の間には明らかな違いがある。

もちろん、これは「保守主義者は眉毛が濃い」とか「リベラル派にはしかめっ面が多い」といった単純なものではない。かといって、人口統計でもない。それではあまりに簡単で単純過ぎる。結局、支持政党が年齢や肌の色と関係があるなら、簡単な推測アルゴリズムができあがるはずだ。しかし、コジンスキー氏が使用したソフトウェアのメカニズムは極めて標準的なものであるが、この研究が前回のように疑似科学として片づけられないように同氏の考えたあらゆるケースを慎重に網羅するようにした。

これを実現する最も明白な方法は年齢、性別、人種が同じ人たちの支持政党をシステムに推測させるというものだ。このテストでは、2つの顔と2つの支持政党を提示し、どちらの顔がどちらの政党を支持しているか推測させた。偶然当たる確率は当然50%だ。人間はこの種の作業が苦手であり、結果は確立よりもわずかに高い55%程度であった。

このアルゴリズムで、年齢、性別、人種が一致する2人の支持政党を推測させた場合、正解率は71%の高確率となり、年齢、性別、民族性が任意の2人について推測させた場合(ただし、どちらかが保守派でどちらかがリベラル派という点は同じ)、正解率は73%に達した。

画像クレジット:Michal Kosinski / Nature Scientific Reports

4分の3という正解率は最近のAIにしては大成功とは言えないかもしれないが、人がやるとコイン投げより少し高い程度の正解率しか得られないことを考えると、検討するに値する何かがあるように思える。コジンスキー氏はその他のケースについても慎重に網羅した。確かに、この数字は、統計に現れた変則性や分離された結果の誇張ではないように思う。

支持政党が顔に現れるという考え方にはドキッとさせられる。ある人が右寄りか左寄りかということは最も個人的な情報とはいえないが、実体のない情報とみなされるのも当然だ。帽子、ブローチ、Tシャツなどで政治的信条を表現することはあるかもしれないが、人の顔というのは一般に無党派(政治的信条とは無関係)だと考えられてる。

顔のどの特徴に特に政治的信条が現れるのか知りたいと思うかもしれないが、残念ながらこのシステムではそこまで説明されることはない。コジンスキー氏は副次的な研究で、顔の特徴(顔の毛、凝視の程度、さまざまな感情)を数十個取り出し、それらに政治的信条がよく現れているかどうかをテストしたが、どの特徴も確率や人が推測したときよりも少し正解率が上がる程度だった。

「顔の向きや感情表現は際立った特徴だった。リベラル派は顔をカメラにまっすぐ向ける傾向があり、驚きの表情をする可能性が高いが、嫌悪感を見せることは少なかった」とコジンスキー氏は論文の執筆者ノートに書いている。しかし、こうした点を考慮しても、正解率の10%以上は説明がつかないままだった。「つまり、顔認識アルゴリズムは政治的志向を示す顔の特徴を他にもたくさん見つけたということだ」。

「そんなことがあるはずがない。骨相学はインチキだった」という反射的防御反応はここではあまり意味がない。これが真実であると考えるのは怖いが、極めて重要な真実である可能性があることを否定しても有益ではない。このアルゴリズムは人に対して非常に簡単に使える可能性があるからだ。

性的指向の研究と同様、ここでの問題は、こうした情報の完璧な検出システムを開発することではなく、それによって生まれるリスクを人々が認識し始めるような方法で実装できることを示すことである。例えば圧政的な神権体制が、性的指向がストレートでない人たちや特定の政治信条をも持つ人たちを厳重に取り締まる必要があると考えた場合、このようなテクノロジーは、そうした取り締まりを「客観的に」実施するための妥当な技術的手法を為政者に与えてしまうことになる。そのうえ、このやり方ならほとんど作業することなく、また、対象者に関する情報を取得することなく実施できてしまう。ソーシャルメディアの履歴を探ることや、購入品(ここにも政治的信条がよく現れる)を分析するといった作業も不要だ。

中国が追い詰められたウイグル族の宗教的少数派を見つけるための顔認識ソフトウェアを配備するというニュースが流れている。米国でも、当局はこの種のAIを信頼している。警察がこうした「最新のテクノロジー」を使って抗議行動の参加者の顔を分類し「この10人はシステムによって最もリベラルであると判定された」などと言っている様子は容易に想像できる。

数人の研究者がオープンソースソフトウェアと中規模の顔データベースを使うことで(政府にとって、この程度のシステムを構築するのは造作もないことだ。というより、おそらくすでに構築してしまっているだろう)世界中のどこでも、目的が何であれ、顔認識システムを実現できてしまうというのはゾッとする話だ。

「お門違いな非難は止めて欲しい。私は論文で、広範に利用されている顔認識アルゴリズムのリスクについて警鐘を鳴らしている。こうしたAI人相システムがすでに、性的指向の判別に使用されているのは懸念される。学者、政治家、市民は目を光らせる必要がある」とコジンスキー氏は語る。

関連記事:ポートランド市の顔認識技術禁止条例は民間企業も対象になる

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:顔認証機械学習

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

NTTドコモとKDDIが解約手続きページに「noindex」タグを挿入、検索で非表示にしていたと判明

  1. NTTドコモとKDDIが解約ページに「noindex」タグを挿入、検索で非表示にしていたと判明

総務省は2月26日、NTTドコモとKDDIが解約ページのHTMLに「noindexタグ」を埋め込み、検索エンジンで検索した際に表示されないようにしていたと明かしました。

これは、モバイル市場の競争活性化をめざす総務省の「スイッチング円滑化タスクフォース」の事業者間会合で指摘されました。

なお、KDDIは昨年12月25日に、NTTドコモは今年1月20日に同タグを削除しました。ソフトバンクはもともと「noindex」タグを挿入していませんでした。

(Source:総務省Engadget日本版より転載)

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タグ:NTTドコモ(企業)KDDI(企業)総務省(組織)日本(国・地域)

誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

本稿の著者Joseph Heller(ジョセフ・ヘラー)氏は小規模企業の専門家でSuppliedShop(サプライド・ショップ)のCEOである。SuppliedShopは、小規模企業とブランド企業向けの卸売プラットフォームで、ブティックのオーナーはこのプラットフォームから高品質で手頃な価格の商品を買いつけることができる。

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人間にとって環境と背景はいつでも重要だ。俯瞰的に見ると、私には次のような持って生まれた特権があった。男性であること、世界で最も力のある国にその歴史上最も繁栄している時代に生まれたこと、両親はどちらも大学を出ていること、中流階級の隣人に囲まれていることなどだ。

私が父親の世代に生まれていた可能性だってある。当時は、白人至上主義がまだ残っており、黒人がいたるところで門前払いされていた。今でさえ、私にはユダヤ人の血が半分流れているおかげでまったくの「黒人」には見えないことで恩恵を受けている。

そうした恩恵は受けているものの、黒人の家系であることでベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が難しくなっていることもまた間違いのない事実だ。この現実は「完璧を目指して力を尽くし、常に向上する」というシリコンバレーの典型的な価値観と相反する。

起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだ。

この国では今、これはデータからも証明されていることだが、VCから資金調達する際に白人男性に不当な優位性がある。この所為で、巨大な企業を築き上げた白人男性企業家の地位が低下することはないが、同等の能力を持つ黒人創業者は存在しないも同然の扱いを受けてきた。

国が、個人の背景とは無関係に起業家精神を促進することには利点がある。起業家は仕事を生み出し、イノベーションを起こし、そのおかげでこの国は地球上で最も競争力のある国としての地位を維持できる。起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだが、この国は人種と性別の両方においてその目標達成には程遠い状態だ。

UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)を卒業してすぐ、私は中国南部に引っ越した。当時の私は大半の意思決定をどちらかというと無意識に行っていたが、黒人男性として、大企業で働いても公平な扱いを受けることはないだろうと常に感じていた。私の成功への道は起業家として自分の会社を立ち上げることだといつも思っていた。米国ではなく中国でならそれができるように思えた。

私は中国の起業家精神が大変気に入った。驚いたことに、中国で暮らす外国人として、私は人種的な差別を受けていないと感じた。中国人は、自国にビジネスチャンスをもたらす1人の米国人という視点だけで私のことを見てくれた。私がもたらす価値のメリットに基づいて、米国内よりも高く私を評価してくれていると感じた。それは新鮮な感覚だった。私はビジネスチャンスに駆り立てられ、中国で輸出入事業を立ち上げ成功させた。2、3年後には30人を超える従業員を抱えるまでになった。工場相手の仕事もとてもおもしろかった。米国人が使ったり身につけたりする製品が製造されるのを見て惹きつけられた。

当時、私の会社の顧客は、米国拠点の比較的大規模な小売企業やブランド企業だった。Shopifyの成長を目の当たりにした。小規模企業は複雑そうに見えて実はシンプルなeコマース製品とInstagramなどのマーケティングツールによって、自社製品をオンラインで販売しマーケティングできるようになった。そのような販売とマーケティングの手法は、数年前まで私の会社の顧客のような大企業にしかできなかったことだ。しかしその一方で、小規模企業が、ShopifyやInstagramを使ってビジネスを展開できても、サプライチェーンと製造業の巨大なリソースを自らのビジネスに生かす方法がないという現実が頭から離れなかった。

私がThe/Studio(ザ・スタジオ)を創業した理由もそこにある。The/Studioは、カスタム製品を生産するための製造業プラットフォームだ。小規模企業はこのプラットフォームを通して工場に製品の生産を依頼できる。このプラットフォームの目的は、小規模企業が製造業に関するさまざまな面倒ごとやリスクに対処することなく自社製品を簡単に少量生産できるようにすることだ。

当時、私はVCから資金を調達するという方法があることさえ知らなかった。資金調達では、まさに、有色人種であることが障害となっていた。VCを中心とする同心円の中心に近い人間ほどVCという存在を知っており、その利用方法もわかっていた。

同心円の中心から遠く離れた位置にいる人たちは、VCがどのようにして会社を成長させることができるのかを理解していない。ましてやその利用方法など知る由もない。日用品のようでありながら、一部の特別待遇の人間しか利用できない閉鎖的な資本があるとするなら、それはエリート主義であり縁故主義だ。そうした資本はシリコンバレーの理念とは正反対のものであり、グローバルな企業家基準をリードする米国の能力を低下させるものだと思う。

2016年までには、私は資本を調達することなく、会社の収益を数千万ドル(数十億円)台にまで自力で成長させた。従業員数は100名を超え、事業は黒字経営だった。Shopifyが手にしたのと同じような、大きなチャンスがあることもわかっていたが、当時は、現実的な方法や責任が持てると思える方法でビジネスを成長させるための財源も知識もないと考えていた。

テック企業がこの規模になると会社をさらに飛躍させるために、VCが本当に必要になるということがわかってきたのもこの頃だった。資金を獲得することだけが目的ではない。もちろん資金は重要だが、資金と同時にアドバイスも必要だった。

そこで私はサンフランシスコに居を移した。私の会社ならVCから簡単に数百万ドル(数億円)くらい調達できるだろうと楽観的に考えていた。TechCrunchの記事で、具体的な製品はなく単に良いアイデアだけで(ときにはとても良いとは思えないようなアイデアでも)数百万ドル、ときには数千万ドルを調達した会社があることを知っていたからだ。私はすでにかなりの規模の会社を作り、TAM(獲得可能な最大市場規模)も相当に大きく、実際に販売している製品もあり、黒字経営で規模拡大の準備は整っていた。起業家としての能力は証明済みだった。

まず、大学時代の友人の1人が書いてくれた紹介状と、以前VCを運営していた人物が前の同僚宛に書いてくれた何通かの紹介状を使って、資金調達活動を始めてみた。従来のシリコンバレーのやり方に従い、1通の紹介状を受け取り、そこでまた別の紹介状を書いてもらった。そのうち、VCというのはソーシャルゲームみたいなものだとわかってきた。私は以降2年間、このソーシャルゲームを続けることになる。

ジョセフ・ヘラー氏はSuppliedのCEO兼創業者だ(画像クレジット:SuppliedShop)

資金調達の過程において、VCの世界であからさまな人種差別を受けたことはないことを明言しておく。みな丁寧で親切に対応してくれた。しかし、プレゼンミーティングやVCのイベントなどに参加すると、ビバリーヒルズのロデオドライブにある高級カントリークラブや高級ショッピングストアで感じるのと同じ気持ちを味わった。VCのコミュニティとVCのお眼鏡にかなった一部の起業家たちが、外部の人間とのつながりを拒否する、結束の強いエリート集団であることは明白だった。

傲慢で、エリート主義で、排他的な雰囲気が文字どおりあらゆるやり取りに浸透していた。彼らはみな同じ話し方をし、こちらが彼らの側のネットワークで他に誰を知っているのかを探ってきた。そして、彼らのネットワークに属する人間ではないことがわかった時点で、面接は基本的に終了である。この感覚は、私の考えるシリコンバレーの理念と相反する。私のイメージするシリコンバレーは、良いアイデアを持っており聡明でハードワークを惜しまず、なおかつ肝の据わっている起業家が、資金を調達して成功を見出すことができるという理想的な世界だ。

しかし実際には、シリコンバレーというのは人種、性別、出身大学(カリフォルニア大学バークレー校でさえあまり高く評価されない)によって入会できるかどうかが大きく左右される排他的なクラブのような場所だった。白人でもなく、男性でもなく、ハーバード、スタンフォード、およびアイビーリーグに属する大学の出身でもない人は、自らのビジョンを何年も執拗に追求して裏口から入り込むしかなかった。

関連記事:年間売上高11億円のスタートアップがVCからの資金調達に18カ月かかった理由

The/Studioは最終的に、シリーズAで1100万ドル(約11億4000万円)を調達した。18カ月間で150回の面接を受け、145回失敗した末の結果だ。私のプレゼンの相手はほとんど白人男性のVCだった。彼らの偏見とこちらが彼らのネットワークで知っている人がいないという事実だけで、面接が始まる前に結果は「失敗」となる。より広範なデータを調べてみると、これには人種的偏見があることがよくわかる。私の面接経験からざっと計算してみてもやはり同じだ。私は、白人が運営する120社のVCの面接を受けたが、そのうち条件概要書を提示してくれたVCは1社もない。これに対して、少数民族出身者が運営する30社のVCの面接では、5社のVCから条件概要書を受け取った。つまり成功率17%だ。

2年後、私は、大規模なVCラウンドで資金を調達した排他的起業家グループの仲間入りを果たした。そして今、シリコンバレーの裏側がどういうものかを理解している。シリコンバレーには本当に聡明な投資家と起業家がいることは、データが物語っている。シリコンバレーでVCの支援を受けて上場した企業の数はそれ以外の上場企業数を大幅に上回っているが、それも当然だ。

また、あまり有能と思えない投資家でも単純にネットワークだけで投資家として活動できている人たちも大勢いる。同様に、世界トップクラスではないが、ネットワークがあるというだけで資金調達に成功している起業家たちも大勢いる。さらに、すばらしい投資家になったであろうに、シリコンバレーにネットワークがなく白人でないという理由だけで投資家になる機会さえ与えられなかった優秀な人たちにも多く出会った。同じように、大企業を上場に導いた人物と同等の能力を持つ優れた起業家であるにもかかわらず、ネットワークがなく有色人種であるという理由でVCからの資金調達に失敗した人たちも大勢知っている。

私は、シリコンバレーには、人種と家系の条件を満たしている人が最高の起業家であるという根強い感覚があると確信している。そして、その条件に当てはまる人に対しては「10%の投資先から利益を稼げれば、残りの90%は失敗しても問題ない」という考え方で動くシリコンバレーのVC投資業界の仕組みと、そこから生まれる悪循環が、この感覚を助長している。

もし、内輪で知られていない人物に投資すると、その決定を下した理由についてパートナーに問い詰められるリスクを負うことになる。そのような危険を冒すことで発生する個人的リスクは大きい。シリコンバレーで絶大な社会的信用を誇る人物に投資すれば、それが失敗に終わったとしても、誰からも叱責されない。それは最初から組み込まれているプロセスだからだ。

VCもしょせん人間だ。数十億ドル(数千億円)の資金があって、その資金を調達したいと思っている数千人の起業家がいるが、年に数人しか選択できない場合、反発のない方法、つまり自分が知っている人たちに投資するのが簡単だ。それは大抵の場合、白人男性だ。そのような選択は自己達成的予言となる。というのは、圧倒的多数を占める白人男性に対する投資案件でさえ成功するのが数件だけだとしたら、それよりはるかに少ない有色人種や女性に投資しても、成功件数がさらに少なくなるのは統計学的に当然だ。こうした数学的に「客観的な」意思決定を下すことで、投資先に対する人種的バイアスを自分の中に取り込んでしまうことになる。

ただし、女性に関しては、この問題がここ10年で解決の方向に向かい始めている。10年前、VCから資金を調達した女性起業家はごくわずかだった。最近のForbes(フォーブス)の調査によると、資金調達に成功した女性経営企業はわずか823社だった。VCの支援を受けた女性経営企業の数は今でも非常に少ないが、同調査によると2019年現在で3450社以上と10年前に比べればかなり増えている。別に10年間で女性が賢くなったわけではない。VCにも現状是正の圧力がかかり、先を見据えた投資活動を行うようになったのだ。

彼らは、女性も優れた起業家そして投資家にもなれることに気づいた。この10年で、女性を雇用する(さらには女性によって創業される)VC企業が増えた。それでもまだ11%程度ではあるが

人種間格差の方はどうだろうか。私の知人に、米国で5本の指に入る工科大学で電気工学とコンピューターサイエンスの修士号を取った優秀な黒人男性がいる。彼は数億ドルの資金を調達した会社のエンジニアリングチームでトップを務めている。さらには、法人向けのハイテクスタートアップを創業して100万ドル(約1億300万円)以上の収益を上げていて、黒字経営で、しかも自己資金のみで運営している。もし彼が白人だったら、間違いなくVCからかなりの資金を調達していただろう。だが黒人であるという理由だけでそれもできなかった。

繰り返すが、私はこれをあからさまな人種差別の問題とは思っていない。おそらく彼はVC社会に受け入れられず、彼自身居心地も悪いのだろう。資金を調達できる自信もなかったのかもしれない。自分の周りの黒人で資金を調達した人を見たことがないのだろう。こうした問題に加え、いわゆる「起業家らしい外見」を備えていないため、VCから門前払いされるだろう。

こうした事実はあるものの、起業家の側にも変化が起こり始めている。例えば当社では最近、Supplied(サプライド)という新サービスをリリースした。これは小規模企業やブティックが中国の工場から直接製品を大量仕入れできるようにするもので、顧客の約95%が女性、60%が有色人種だ。

この市場向けにサービスを開発するつもりはなかったのだが、顧客がSuppliedを積極的に活用するようになると、こちらも顧客を受け入れるようになった。最初、当社の取締役会(すべて白人男性)はこの市場を理解せず、少し慎重になっていた。私は彼らを責めるつもりはない。彼らのそうした想定や初期反応は何ら悪意のあるものではない。ただ、当社の顧客を理解できるような経験をこれまでにしていなかっただけだ。

しかし、私には少なくとも顧客ベースが直面する人種問題という意味では、その経験がある。私にはこの市場はビジネスになるという確信があった。同じような経験と野心を持つ有色人種の女性を大勢知っていたからだ。顧客は当社のプラットフォームに引き寄せられていた。法外に高い料金のため他社の卸売プラットフォームに入ることもできずにいたのだ。

また、私自身、顧客ベースを十分に理解できていないこと、顧客ベースを本当に理解できるだけの十分な多様性が自社チームにはないという事実にも気づかされた。そこで、組織の女性の割合を意識的に増やす努力をした。現在当社の経営幹部は女性が33%、黒人が33%、有色人種が77%だ。これは誇っていい数字だと思う。Suppliedの運営チームは、その顧客ベースと同様、女性が圧倒的に多い。

The/StudioとSuppliedのマーケティング部門のトップはどちらも黒人女性で、1人はナイジェリア、もう1人はガーナ出身だ。当社の有色人種の数は私の知っているどのテック企業よりもはるかに多い。ダイバーシティは当社にとって単なるお題目ではない。ダイバーシティは私にとって身近なことであるため、社内にも当たり前のように存在する。

シリコンバレーは信じられない結果を生み出してきた。だから、少数民族や女性を故意に締め出すこの人種差別主義的状況はあるものの、それだけでシリコンバレーを悪く言いたくはない。だが、あからさまな人種差別、歴史的要因、人の本性などを含む多くの要因のため、シリコンバレーが米国の人種と性別の多様性を反映していないことは依然として事実のままだ。

米国の多様性は増しており、世界はより豊かになっている。シリコンバレーがイノベーションの旗手としての地位を保つには、多様性を高めて米国および新興市場を理解できるようにすることが重要だ。有色人種の社員が増えることで現職者が締め出されてしまうゼロサムゲームにする必要はない。実際、多様性によって競争力が向上し、世界に対してより多様性のある見方ができるようになり、結果として、すべての人たちが利益とチャンスを得られる可能性が高まる。

黒人創業者およびリプリゼンテーションの低いその他の少数民族グループに属する人たちにも、自助努力を惜しまず、たとえ困難でも、起業家になる目的、資金を調達する目的を追求していく義務がある。今の世代が次世代の人たちを鼓舞し、雇用するようになる。資金調達に成功する黒人が増えるほど、黒人の起業家精神が正常化され、VCによる黒人創業者への投資が正常化されて起業家への道を進む黒人も増えるというフライホイール効果が生まれる。

私は、誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことは、最後の公民権運動だと確信している。我々は、シリコンバレーそして世界で、金銭的にも社会的にも本当の平等を作り出し、未来を築き上げる機会を与えられている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムシリコンバレー差別SuppliedShop

画像クレジット:Larry Washburn / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

シカゴ警察の武力行使における黒人警官と白人警官の差が新データで明らかに

シカゴ警察から抽出された莫大なデータを分析した結果、黒人警官と白人警官、男性警官と女性警官の間で、実際に法を執行する方法に大きな違いがあることが明らかになった。この貴重な同一条件での比較分析は、警察における多様性を拡大することで、警察の質も向上する可能性があるという考えを裏づけるものとなった。

従来、警察署からハードデータを入手するというのは、さまざまな理由から非常に困難とされてきた。今回の調査を行った研究者らは論文の中で次のように述べている。

警官の配置や行動に関する詳細なデータが十分になく、比較対象となる警官が職務中に共通の状況に直面していることを確認することが困難、または不可能であるという理由から、警察の多様性の影響に対する厳密な評価はこれまでなされてこなかった。

……現状、米国にある約1万8000の警察機関では記録の管理法がまちまちである。またその情報開示に対する慣習もあいまって、広範な評価の実施がさらに妨げられる結果となっている。

しかし、Bocar A. Ba(ボカール・A・バ)氏らによるこの研究は、3年間にわたってシカゴ市警察に依頼し続けたことが実を結び、非常に詳細な記録に基づいたものとなっている。本件はカリフォルニア大学アーバイン校、ペンシルバニア大学、プリンストン大学、コロンビア大学の研究者による共同研究で、本日Science誌に掲載された(アクセスは無料)。

同記録には2012年から2015年までの数百万件ものシフトとパトロール歴が含まれている。それを研究グループが慎重に選別し、分析を可能にする情報が浮き彫りになるまで削ぎ落とす作業を行った。その待ち望まれた分析とは、デモグラフィック以外のすべての点で似ている警察の仕事や行動を比較するというものだ。

たとえば3月のとある月曜日、同じ地区の同じ時間帯における黒人警官と白人警官の行動に深刻な差が見られなければ、警察の仕事ぶりに大きな影響を与えているのは人種ではないと暫定的に断定できる。一方、もしそこに深刻な差があったとすれば、制度的な偏りがある可能性を示唆しているとして、さらに掘り下げた調査が行われる。

この分析では、他のすべての変数を分離した結果、予想されたとおり、警官の人種のみに関連した大きな違いがあることが判明した。この結果を明白だと感じるか、微妙だと感じるかは人それぞれかもしれないが、この研究のポイントは仮説を推測したり確認したりするものではなく、人種に関連した格差が存在し、調査と説明を必要とするというをことをデータで明確に示すことである。

具体的な結果としては、以下のようなものがある。

  • 自称黒人およびヒスパニックなどのマイノリティー警官の「パトロール任務には大きな違い」がある。これは他の調査結果との効果的な比較を提供するためには、考慮しなければならない点である
  • 黒人警官が武力を使う確率は平均的に白人警官よりも35%少なく、その差の大部分は黒人の民間人に対して使われた武力によるものである
  • 「不審な行動」を理由にした黒人警官による「職務質問」は、はるかに少ない
  • ヒスパニック系の警官も同様、または黒人よりも少ない結果となった
  • 女性警官は男性警官と比べて武力を使うことが極端に少なく、またここでも黒人の民間人に対しての差は特に顕著である
  • 引き留め、逮捕、武力の行使における格差の多くは、特に黒人が多数派の地域での軽犯罪の取り扱いに対する違いに起因している

上記を言い換えると、データによると白人男性警官は特に有色人種に対して、引き留め、逮捕、武力行使をすることが多く、それは軽犯罪や正当性が曖昧な職務質問の結果として起きることが多い。

収集されたデータのサンプリング:シカゴのウェントワース地区で行われた警官による引き留め、逮捕、および武力行使を示している(画像クレジット:Science)

パターンは決定的に見えるものの、因果関係のメカニズムについては調査されておらず解明もされていないことを理解すべきであると研究者たちは指摘している。実際、同データは2つの方向に解釈される可能性があるという。

このような格差の説明の1つには、白人警官が黒人警官よりも黒人市民に対して不必要に強い扱いをする傾向が強いという人種バイアスが挙げられる。もう1つの説明は、進行中の犯罪の様子を観察している際、黒人警官はより寛大な対応をする、ということである。

さらなる研究が必要だが、黒人警官が軽犯罪に対してより寛大な対応をするという前述の説明は公共の安全にはほとんど影響がないと指摘されている(凶悪犯罪は、人種や性別に関係なくほぼ同じように対処されている)。一方、もう1つの説明である制度的人種差別は著しく有害である。この2つの説明は、データとしてみれば「実測的には同等」であるが、結果からみると同等ではない(同等である可能性もないし、お互いにまったく相容れない)。

関連記事:ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

論文とその意味合いについての貴重な解説で、イェール大学のPhillip Atiba Goff(フィリップ・アティバ・ゴフ)氏は、この研究結果は我々が見落としがちな重要な意味合いを含んでいるという。

このデータから示された違いの大きさは、少なくともいくつかの都市では、マイノリティー警官の数は警官の行動を予測する上で重要であると証明している。これで問題が解決するわけではないが、この研究が、警官全体に対する同一条件での比較を示していることには間違いない(その原因は救命できていないものの)。

地域の暴力に対する警官の対応においては人口統計学的な違いはほとんどないことを考えると、職務質問でここまで大きな違いがあるという事実に、読者は自問することになるに違いない。白人警官によるこれらの過剰な職務質問は必要なのだろうか?社会的に弱い立場に立たされている地域社会に対し、権力の乱用の恐れがあることが実証されていることを考えれば、警察は警官たちに職務質問をさせるべきなのだろうか?

白人警官による過剰な武力行使は必要なのか?過剰な武力行使が公共の安全のために必要でないとしたら、なぜ白人警官はこれほどまでに黒人コミュニティを標的にして武力を使うのか?こういった質問は、警察活動とその制限を目的とした幅広い取り組みの中で答えを見つけて行く以外ないだろう。

つまり、こういった問題の核心に迫るためにはさらなる研究が必要なのかもしれない。しかし警察の方でもリソースを必ずしも効果的に使用できていないと言えるのではないか。実際、もしかすると警察の仕事の多くが地域社会にとってほとんど価値のないものである可能性(またはまったく価値のないもの、さらには逆にいない方が安全かもしれないという可能性)に直面するかもしれない。ゴフ氏は次のようにまとめている。

暴力は過去30年間で減少傾向にあり、そのほとんどは一定の地域で起きている。また暴力への対処が警察活動のごく一部しか占めていない可能性がある中で、警察の役割は今後どうあるべきなのだろうか。その答えが「飛躍的に減少させるべき」であるという可能性を真剣に受け止めない限り、ほとんどの研究者よりもはるかに長い間この問題を問い続けてきた一部の研究者や一般市民の両方を苛立たせることになるだろう。

この研究は、論文の著者達とシカゴの法務当局がシカゴ警察にデータを公開するよう圧力をかけたからこそ可能になったものである。上述したように、全国規模で分析するために複数の警察署から大規模なデータを収集するということは非常に困難である。著者らは、シカゴに特化して得られたこの知見が他の都市に同様に適用されない可能性があることを認めている。

しかし、これは行動を起こすための呼びかけにはなっている。いつか実際のデータへのアクセスを得ることができ、研究者がこういった大きな問題を発見した場合、国内すべての警察は不透明性を継続することの利点とリスクを、透明性と協力的に振る舞うことの利点と比較するべきなのである。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:警察アメリカシカゴ

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

Robinhood、議会に召喚される

アップデート:これから第2部が始まるのだろうか? ああ。

アップデート2:聴聞会は延々と続いた。本稿執筆中も。しかし、報告すべきことが出てきた! 議会はRobinhood CEOのVlad Tenev氏に、彼の会社が売上の50%以上が “payment for order flow”(PFOF)、すなわち顧客の注文データの売却によるものであることを認めさせた。RobinhoodのPFOF売上が前四半期に約2億2000万ドルだったことを踏まえると、会社の2020年Q4の最大売上は4億4000万ドルになるはずだが、実際には3億ドル台くらいと推測しておこう。

米国時間2月18日、下院金融サービス委員会は議場にRedditのCEO、Cato [Network]のオタク、ソーシャルメディアの象徴、Dtata,DeepFuckingValue、およびRobinhood CEOのVlad Tenevを(バーチャル)に呼び出した。Tenev氏は、個人投資家たちがDeepFuckingValueのヘッジファンドつぶしに乗っかった結果、彼の会社の資産要件が増大し、市場の混沌を引き起こした。

あまり役にたたない質疑だった。Zoomの度重なるトラブル(ミュート、誤ったミュート解除、無効だったグリーンスクリーン、さらにはダウン)に関して、議員たちは5分間の割当時間を使って自らの恥をさらしただけで、本質をつくことができなかった。

聴聞は本格的な質問形式にはならならず、ほとんどの質問は長すぎて、たとえストライクゾーンに入っても、正確すぎて意図が伝わらないか、不正確すぎるかのどちらかだった。私は今ここで、そこから得たことを一つ思い出そうとしている。RobinhoodのCEOは、自分の会社がユーザーと結んでいる調停同意書の詳細をよくわかっていなかったと私は思う。あとおそらく、数あるユーザー取引オプションについて少々わかったこと。あとRedditのCEOが素敵なスーツを着ていたこと。

関連記事:
Amidst Robinhood’s planned service changes, a tension between growth and safety

一部の議員はこの成り行きをあざ笑い、政治劇場だと評した。その発言は下院金融サービス委員会議長、Maxine Waters氏の叱責を買った。

もう少しで意味のあることを聞けそうだった議員もいた。しかし、殆どの場合質問のしかたは稚拙で、用意されていた答えが返ってくるだけで何も暴露されなかった。

どうすればよかったのか? 私が思うに、議会は本物のエキスパートを何人か呼び、ゲストの人数を減らし、PFOFの倫理性、Robinhoodアプリの仕組み、そして目新しい証券ツールをいかに簡単に提供しているかなどに関する質問を浴びせることもできただろう。

代わりにこんな素晴らしい結果を手に入れた。

[私は、投資は投資だと信じています]

あまり役に立ちそうにない。とはいえ、ちょっといいミームやジョークなので、われらの選んだ代議士に腹を立てるより、こちらを楽しむことにしよう。

[「GameStockを買ったのはPFOFを知らなかったから?」というのは驚くべき単語の連続だ。]

[ほんとに? 本物のグリーンスクリーン?]

[「なぜRobinhoodは顧客の損の責任を取らないんだ?」という無能なブーム投資家の声を待っています]

こんなところだ。時間の無駄だった。真の問題はまだまだ残っている。そのほとんどが質問されることなく、もちろん答えられてもいない。

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画像クレジット:https://techcrunch.com/2021/02/18/robinhood-goes-to-congress/

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nob Takahashi / facebook

黒人従業員の企業満足度はアップルが最高、Glassdoorの企業評価が人口統計でフィルター可能に

企業が公平な環境づくりに努めていても、黒人女性など一部の層は、同僚と非常に違った体験をすることがときにある。Glassdoorはそういった体験を浮き彫りにするために、企業評価をレイヤー別に比較できる機能を設けた。

関連記事:GoogleのAI倫理研究チームの共同リーダーが部下宛てメールが原因で解雇されたと語る

これまでGlassdoorの評価は企業の全体的な評価であり、黒人女性は男性と同じように感じているかや、ラテン系の男性はアジア系の男性と同じ感じ方をしているかといったことがよくわからなかった。この度、Glassdoorでは人種だけでなく、ジェンダーのアイデンティティ(性の自己認識)や親または介護者のステータス(実の親かなど)、障害、性的指向性、退役軍人のステータス(現役か退役かなど)で分類できるようになっている。

Glassdoorの新しい調査方法によると、全般的に黒人の従業員は全従業員と比較して満足度が低い。今回はレイヤーデータで協力してくれた3300社の18万7000名ほどの従業員に対して、調査を行っている。

画像クレジット:Glassdoor

調査によると、黒人従業員からの全体的な評価が最も高い企業はApple(アップル)で、5点満点で4.2だった。Appleの全従業員からの評価点は3.9だった。

GlassdoorのデータサイエンティストであるAmanda Stansell(アマンダ・スタンセル)氏とチーフエコノミストであるAndrew Chamberlain(アンドリュー・チェンバレン)氏は、調査報告書の中で次のように述べている。「直近4カ月で集めた最新のデータであり、初期的なデータに基づく拙速の結論になりがちだ。しかし、私たちが先に報告した平均値は、企業のワークフォースの代表的な確率標本から得られたものではない。当時のGlassdoorユーザーが匿名で共有したデータだ。したがって、人種と従業員の満足度のステータスに関する最終的で全社的な推定を導くには、注意が必要だ」。

関連記事:2021年働きがいのある米国のテック企業、スタートアップベスト10(Glassdoor調べ)

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Glassdoor

画像クレジット:MoMo Productions/Getty Images

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

NY州司法長官がアマゾンを提訴、新型コロナ対策の不備と従業員への報復的措置を指摘

ニューヨーク州のLetitia James(レティシア・ジェームズ)司法長官は、Amazon(アマゾン)が同州にある2つの施設で適切な健康安全対策を怠ったこと、そして苦情を言った従業員を不当に懲戒解雇したことを主張し、ニューヨーク州最高裁判所に提訴した

ジェームズ氏は2020年3月にAmazonの調査を開始した。同氏の事務所によると、当初はスタテン島の発送センターとクイーンズ区の配送センター(合計5000人以上の従業員を雇用)の状況に焦点を当てていたが、後に従業員の解雇や懲戒処分にまで調査を拡げることになったという。

関連記事:NY州司法長官がAmazonの新型コロナ対策を不適切でぞっとする労働方針と呼ぶ

声明の中で、ジェームズ氏は次のように述べている。

AmazonとそのCEOは、この危機の間に数十億ドル(数千億円)の利益を上げましたが、勤勉な従業員は危険な環境に耐えることを余儀なくされ、そしてこれらの懸念を正当に表明した従業員は報復を受けました。新型コロナウイルス感染流行が始まって以来、Amazonが人々よりも利益を重視し、従業員の健康と安全の確保を怠ったことは明らかです。パンデミックの間も、この国を動かし、それを維持してきた労働者が、最悪の待遇を受け続けているということです。私たちがAmazonの行動に対して責任を追及しているように、私の事務所は、あらゆる形での搾取や不公正な扱いからニューヨークの労働者を守ることに、引続き専念していきます。

Amazonは先週、ジェームズ氏を先制して提訴し、職場の安全は米連邦に属する問題であり、彼女には提訴する権限がないと主張していた。

「先週の提訴で示した通り、私たちは従業員の健康と安全を深く気にかけており、司法長官の提訴は、Amazonの業界をリードするパンデミックへの対応を正確に表現したものではないと考えています」と、Amazonの広報担当者であるKelly Nantel(ケリー・ナンテル)氏は声明で述べている。

今回の訴訟では、Amazonが適切な清掃・消毒や接触者追跡について定めた州法に違反し、従業員が「保健、衛生、社会的距離、必要な清掃に取り組める時間が取れるように」生産性の方針を改めなかったことなどを訴えている。

この訴訟はまた、Christian Smalls(クリスチャン・スモールズ)氏の解雇(自身も同社を提訴している)と、Derrick Palmer(デリック・パーマー)氏への警告を「労働者の不満に対する迅速な報復的措置」であると指摘している。

関連記事:Amazonはパンデミック中に労働者に個人防護具を提供しなかったと訴えられる

ジェームズ氏の事務所によると、この訴訟ではAmazonの方針の変更、スモールズ氏への未払給料および損害賠償の支払いと同氏の復職、パーマー氏への損害賠償、そして「Amazonが違法行為の結果として得た利益の放棄」を求めているという。

関連記事:2020年の注目すべき労働問題を振り返る

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Amazon新型コロナウイルス裁判ニューヨーク

画像クレジット:ANGELA WEISS/AFP / Getty Images

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(文:Anthony Ha、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

犯罪歴のある人にコーディングを教える社会復帰をサポートする無料プログラム「Justice Through Code」

刑務所や留置所にいたことのある人は、安定職や住居の取得や金融サービスの利用においてしばしば障壁にぶつかる。この種の障壁は、刑務所から釈放された年間60万人以上の人々を再犯へと誘導する主要因となっている。米国司法省司法統計局によると、2005年から2014年までの期間に、2005年に釈放された人の推定68%が3年以内に再び逮捕されている。同じく2005年釈放された83%の人々が9年以内に再び逮捕されている。

Justice Through Code(ジャスティス・スルー・コード)はコロンビア大学で開催される一学期間にわたるコーディングと対人能力の集中講義で、社会復帰しようとする人たちに新たな道を与えることを目的にしている。

プロクラムを通じて、学生はPython(パイソン)やその他のコンピュータサイエンスの基礎を学ぶ。他にも職業指導、人前で話す訓練、交渉スキル、履歴書の書き方などを学ぶ。修了した学生は、パートナー企業で有給インターンの機会を与えられる。Justice Through Codeは2020年最初の学期を終え、30名強の学生を送り出した。

2020年卒業して仕事またはインターンを希望した学生のうち、80%が6カ月以内に関連する職に就いた、とJustice Through CodeのファウンダーであるAedan Macdonald(エーダン・マクドナルド)氏がTechCrunchに話した。Antwan(アントワン)氏(上の写真)はプログラムの後にインターンシップの機会を得た1人だ。同氏はコロンビア大学のIT部門で2020年12月からフルタイムのインターンとして働いている。

「Facebookで(Justice Though Code)のフライヤーを見つけてから1年以内にコロンビア大学でインターンとして仕事をしていることが信じられません」とアントワン氏がTechCrunchに語った。「とにかくすばらしい。1日1日が勉強の連続です」、

それ以前、アントワン氏はEmergent Worksで過ごした。

「Emergent Worksは、プログラムで学んだ理論を仕事の場で使う最初のチャンスを与えてくれました」とアントワン氏はいう。

Justice Through Codeは、少数のテック企業パートナーからプログラムと学生のサポート協力を得ている。たとえばAmazon Web Service(AWS)は必要とする学生にノートパソコンを提供し、Google(グーグル)、Slack(スラック)、Coursera(コーセラ)の技術者は、テック企業での経験を学生に話している。

AWSは同プログラム出身者をまだ雇用していないが、卒業生に機会を与えるのを楽しみにしている、と広報担当者は話した。

「このプログラムの人たちを雇うことは間違いなく当社の目的です」と広報担当者はTechCrunchに語った。

現在、Justice Through Codeは3回目のクラスを募集中で、最大60名受け入れる予定だとマクドナルド氏は言っている。Justice Through Codeに応募するためにコーディング経験は必要ないが、コンピューターの使用が苦痛でないことは前提だ。選考過程では、応募者がコーディングを学ぶ上で体験するフラストレーションに対処する能力も試される。

「コーディングを学ぶ期間の大部分は、自分がすべてを知っているわけではないという状態にあります」とマクドナルド氏は言った。「そしてそれは非常に欲求不満を募らせます。このため私は、人々が問題に向き合う過程を見ることが有意義だと思っています。面接では2~3の論理的問題を出しますが、その人が正解するかどうかは実は重要ではありません。問題はペアーになっていて、もし誰かが最初の質問に苦労していたら、どうやって説くかを我々が詳しく説明し、同じ原理を使った次の質問に、受講者が原理を適用する過程を見ます。そうやって、学習環境への対応や業界に対する興味の種類、プログラムに参加したときに成功しようという意欲などを見極めます」。

刑事司法制度の対象となった人々を支援するプログラムはJustice Through Codeだけではない。The Last Mile(ザ・ラスト・マイル)は、収監中の人たちにビジネスとコーディングのスキルを教え、社会復帰した人たちが職を探すためにテック企業との提携も行っている。

関連記事:サン・クェンティン刑務所のプログラミング学校を訪ねてみた、入所者に自尊心を与えている

自身も収監された経験をもつマクドナルド氏は、Justice Through Codeが「犯罪歴者の将来には最低賃金の職しかない、という負の固定観念」を消してくれることを期待している。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Justice Through Codeコーディング

画像クレジット:Courtesy of Justice Through Code

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

反人種差別デモの発端となったミネアポリス市が警察による顔認識技術の使用を禁止

ミネアポリス市議は米国時間2月12日、同市警察による顔認識ソフトウェアの使用を禁止する条例案を可決し、論争を引き起こしているこの技術に地域的な制限を施行する主要都市のリストを増やした。禁止条例案が週初めに承認された後、市議会議員13名は全員が賛成票を投じ、反対票はなかった。

新しい禁止条例は、ミネアポリス警察がClearview AIによるソフトウェアを含む顔認識技術を使用することをブロックすることになる。同社は、多くの場合大手SNSから収集した顔画像の大規模なデータベースへのアクセス権を連邦法執行機関、民間企業、そして米国のたくさんの警察署に販売している。ミネアポリス警察署はClearview AIとの関係があることで知られており、ミネアポリスのあるミネソタ州ヘネピン郡の保安官事務所も同様だが、後者が新しい条例によって制限されることはない。

関連記事:物議を醸したClearview AIが再び米政府機関と顔認識ソフトウェアで契約

今回の議決は、ミネアポリスの警察官が2020年George Floyd(ジョージ・フロイド)氏を死亡させた後、全米各地で反人種差別の抗議デモを巻き起こした同市の画期的な決定といえる。同市はそれ以来、警察改革の渦中に置かれており、全米に先駆けて2020年6月に市の警察部門の予算凍結を誓約した後、同年後半にはその約束を撤回し、より段階的な改革を行っている。

顔認識技術の使用を禁止することは、攻勢的取り締まりに対する新たな懸念を抑えることができる1つのターゲットを絞った措置である。多くのプライバシー擁護者は、AIを搭載した顔認識システムが有色人種のコミュニティを不釣り合いな割合でターゲットにするだけでなく、この技術は白人以外の顔を識別する上で技術的な欠点があることが実証されていると懸念している。

この賛否の分かれる技術を禁止しようとする動きは米国各地の都市で活発化しており、さまざまな方法で制限が実施されている。オレゴン州ポートランドでは、2020年に可決された新しい法律により、市当局が顔認証を使用することを禁止する一方で、民間企業が公共の場で顔認識技術を導入することも禁止している。それ以前のサンフランシスコオークランドボストンの法律では、市政府が顔認識ツールを使用することを制限していたが、民間企業に対する同様の規定は含まれていなかった。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Clearview AIミネアポリス顔認証警察

画像クレジット:Stephen Maturen / Stringer / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Aya Nakazato)

Facebookの監督委員会がプロジェクトが成功すれば「他ソーシャルネットワークの参加も歓迎」

Facebook監督委員会はまだ発足したばかりだが、すでに今後のことを考えている。

関連記事:賛否両論を呼ぶFacebook監督委員会が削除コンテンツの再審査を開始

米国時間2月11日にカーネギー基金が主催した集まりで、監督委員会の共同議長で元デンマーク首相のHelle Thorning-Schmidt(ヘレ・トーニング=シュミット)氏は、同委員会はFacebookの政策意思決定の策定に留まらないというもっと広いビジョンを提示した。

彼女によると、このプロジェクトが成功と評価されるならば「他のプラットフォームや他のテクノロジー企業が、私たちに可能な監督行為に参加することが歓迎される」という。

トーニング=シュミット氏は、この種のモデレーション機関のより幅広いビジョンはいずれにしても今後生まれるだろうが、現委員会の当面のミッションは企業という「閉じた箱」の中で政策の意思決定を策定することから脱出することだと強調した。

「これまでコンテンツのモデレーションは、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やその他のディレクターたちといったFacebookやTwitterでそれを最もやりそうもない人物が行ってきた」とトーニング=シュミット氏はいう。「しかし史上初めて、コンテンツモデレーションを大手ソーシャルメディアの外で行えるようになった。そのこと自体は、歴史的だと表現しても過言ではない」。

このようなコメントは、Facebookの監督委員会の大望を表しているのかもしれない。そもそも現在は、ウェブサイト上に「Oversight Board(監督委員会)」とあるだけで、Facebookの「F」の字もない。

今回の集まりでは、監督委員会の関係者たちで構成されるパネルの全員がプロジェクトを擁護した。グループは当初、懐疑論者たちからの批判を浴び、Facebookから生まれた団体が真の自律性を持てるわけがない、といわれていた。

監督委員会のコミュニケーション担当であるDex Hunter-Torricke(デックス・ハンター-トリッケ)氏は「監督委員会を直ちに否定して、新しいものを求める人がとても多い」という。

ハンター-トリッケ氏は4年間、Facebookのコミュニケーションチームの役員を務め、ザッカーバーグ氏とSheryl Sandberg(シェリル・サンドバーグ)氏のスピーチ原稿を代筆してきた。その彼も、次のように、監督委員会のより広いビジョンを示唆している、

「これは私たちが今テストしているモデルであり、Facebookの一部の領域と同社が直面するコンテンツモデレーションという課題に対して、この種の機関がインパクトをおよぼすことができるのか検証しようとしている」。ハンター-トリッケ氏によると、委員会は「進化し、成長することを」望んでおり、そのためにFacebookのモデレーションを扱った経験を生かしたいという。

ハンター-トリッケ氏は、さらに次のように述べている。「コミュニケーションの専門家としての私たちの能力と、Facebookを扱って得た経験により、委員会の能力は今後より強力なものになると予想しています。今は、その旅の途中です。しかもその旅は、目的地がわかっておらず、モデルをテストしながら微調整していくものです」。

TechCrunchは現在、監督委員会に対して、今後Facebookに限らず、ソーシャルネットワークに対する一般的で外部的な統治機関を目指すのかと質問している。

関連記事:Facebookの監督委員会は4件の削除を無効と決定、コミュニティ基準に対し9項目を勧告

Facebookの監督委員会は現在、ドナルド・トランプ前大統領のアカウントを復活するのかという、微妙で難問に直面している。トランプ氏は2021年1月初めに、米国議会を襲撃した暴徒を扇動したとしてFacebookから削除されていた。

関連記事:Facebookの監督委員会がトランプ前大統領のアカウント停止決定について再審議

グループの20名のメンバーの内5名が、トランプ氏のケースを評価しているが、それが誰であるかは公表されていない。5名が結論に達したら、委員会全体の多数決にかけられる。評決が出るのは2カ月後だ。

監督委員会における最も突出したトランプ批判者は、法学者のPamela Karlan(パメラ・カーラン)氏だったが、彼女は先週、委員会を去りバイデン政権に加わったので、決定には関与しない。カーラン氏は、トランプ氏の弾劾に関する最初の聴聞会で、トランプ氏の行為は弾劾に値する違反だと主張している。

委員会は米国時間2月12日まで、決定過程において「多様な見方」を考慮するためトランプ氏のケースに関するコメントを受けつけている

関連記事:Facebookの監督委員会がトランプ氏のアカウント停止に対するパブリックコメントを募集

2月11日にはFacebookの元セキュリティ最高責任者Alex Stamos(アレックス・ステイモス)氏が公開書簡に署名して、監督委員会がFacebookの決定と歩を揃えてトランプ氏を排除せよと主張した。「ソーシャルメディアがトランプ氏の声明を拡散しなければ、これらの事件はほとんど起き得なかっただろう」と書簡では述べられている。

「極端な状況下で政治的リーダーをソーシャルネットワークのプラットフォームから排除できるポリシーがあっても、もしかしたら扇動と動員は可能だったかもしれない。しかしこれは、そのような事案ではなかった」。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Facebook

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ユニバーサルデザインのソリューション提供や障害者手帳アプリ「ミライロID」のミライロが2.8億円調達

ユニバーサルデザインのソリューション提供や障害者手帳アプリ「ミライロID」のミライロが2.8億円調達

障害のある当事者の視点を活かし、ユニバーサルデザインのソリューション提供や、障害者手帳アプリ「ミライロID」(Android版iOS版)を運営するミライロは2月12日、第三者割当増資による2億8000万円の資金調達を発表した。

引受先は、大阪市高速電気軌道、京王電鉄、さくらインターネット、住友林業、西武鉄道、ゼンリンデータコム、東京海上日動火災保険、ヤマトホールディングスなど。

調達した資金は主に、ユニバーサルデザインやユニバーサルマナーの普及啓発、新規顧客獲得のためのマーケティング、サービスの開発と強化にあてる予定。

ユニバーサルデザインのソリューション提供や障害者手帳アプリ「ミライロID」のミライロが2.8億円調達

新型コロナウイルス感染症の拡大により、障害者やその家族は様々な制約を受けており、障害者の就学や就労、日常生活の選択肢を増やすことが喫緊の課題になっているという。

ミライロは、2009年5月の創業以来環境・意識・情報のバリアの解消を進めてきたが、今こそこれらの歩みをより加速させなければという思いから、今回の資金調達に至ったとしている。

同社は、2000年以降、交通機関を中心とし日本のバリアフリーは大いに発展を遂げたものの、障害者が必要とするサービスや商品は充足していないと指摘。障害者が不安なく、不自由なく生活できる社会でなければ、国が掲げる障害者雇用の目標達成、障害者が活躍できる社会の実現はかなわないという。

同社ビジョンに賛同した各社と、障害者やその家族の生活がより豊かになる新たなソリューション開発を進め、障害を価値に変える「バリアバリュー」が広がる未来を目指す。

なお同社は、プレスリリースにおいて「障害者」という表記を採用している。「障がい者」と表記すると、視覚障害のある方が利用する画面読み上げソフトウェア「スクリーン・リーダー」では「さわりがいしゃ」と読み上げてしまう場合があるためという。「障害は人ではなく環境にある」という考えのもと、漢字の表記のみにとらわれず、社会における「障害」と向き合っていくことを目指すとしている。

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タグ:アクセシビリティ(用語)資金調達(用語)ミライロ
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「もう黙っていない法」で守秘義務合意があっても虐待や嫌がらせを告発可能に

元Pinterestの社員で、同社を人種的および性的差別で訴えたIfeoma Ozoma(イフェオマ・オゾマ)氏が、職場で差別や嫌がらせを経験している人たちに力をつける新しい法案の作成でカリフォルニア州上院議員Connie Leyva(コニー・レイバ)氏らに協力している。米国時間2月8日、議会に提出されたその「Silenced No More Act(SB 331)」(もう黙っていない法)は、あらゆるかたちの差別と嫌がらせが含まれる職場の状況で、守秘義務合意(Non-Disclosure Aagreements、NDA)の使用を妨げることを目的とする。

「いかなる雇用主も、労働者が人種や性的指向、宗教、年齢などの特性を理由とする何らかのかたちでの嫌がらせや差別の被害者であったことを理由に、彼または彼女を黙らせようとすることは、受け入れられない。SB 331は、発言を望む生存者が発言できるように勇気づけ、それにより加害者に説明責任を負わせ、できる限り虐待者が他の労働者に対するいじめや虐待行為を継続できなくすることが狙いだ」とレイバ氏は声明で述べている。

この法案は、同じくレイバ氏が起草し2019年に成立したたStand Together Against Non-Disclosures Actで享受している労働者が現在受けている保護を拡張するものだ。オゾマ氏と元の同僚であるAerica Shimizu Banks(エアリカ・シミズ・バンクス)氏は2020年、人種と性による差別を訴えた。彼女たちは最終的にPinterestとの和解に達したが、前記Stand法は彼女たちを、性的差別の告発に関して保護しているだけだった。今回の新法は、労働者を人種的差別の告発に関しても保護する。

人種差別と性差別の両方に関して、守秘義務合意に署名していても告発できるとするこの新法は、オゾマ氏によると「法律のギャンブル」だった。またオゾマ氏によると、Pinterestはオゾマ氏とバンクス氏の両方をNDAを理由に告訴できたはずだが、しかしそうすると会社が自分の悪行を認めることになっただろう。

「現行の法律では私たちは人種差別については発言しないことになっている。多くの企業が、それをあてにしている」とオゾマ氏はいう。

「だから今回の新法は重要であり、テクノロジー業界だけの問題ではない。性なら性だけという、分野を特定する法律では本当の進歩がない。複数の分野を横断するようなやり方でないと差別やハラスメントに対する真の効果がない。私たち全員が学んだのは、このことだ」と彼女は述べた。

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Salesforceの元マネジャーが同社内の「自覚なき差別」と不平等を告発

Salesforce(セールスフォース)の元デザイン研究上級研究員で2021年2月始めに退社したCynthia Perry(シンシア・ペリー)氏は、自身の辞職届けをLinkedIn(リンクトイン)に掲載し、彼女に対する会社の不快な対応を詳細に記した。Protocol誌が最初に報じた。文中、ペリー氏は黒人である彼女が在籍中「無数のマイクロアグレッション(自覚なき差別)と不平等な扱い」を経験したことを訴えた。

最終的にペリー氏は会社を辞め、その理由について彼女が一部の社員らから、「正気ではないように見せかけられ、操られ、いじめられ、無視され、ほとんど協力を得られなかった」ためだと語った。相手の名前は明らかにしていてない。

「Salesforceは、私にとって安心して仕事に来られる場所ではありません」と彼女は書いた。「そこは本当の自分でいられる場所ではありません。そこはこれまで自分を投じてきた場所ではありません。そこはチャンスに満ちた場所ではありません。そこは万人が平等な場所ではありません。そこは健全な生活が尊ばれる場所ではありません」。

Salesforceは平等の重要性を長年主張してきた。2016年、SalseforceはTony Prophet(トニー・プロフェット)氏を史上初の最高平等責任者に任命した。その約1年前、CEOのMark Benioff(マーク・ベニオフ)氏は、同社の多様性に関する最大の関心事は「女性の問題」だと語っている。

Salesforceはジョージ・フロイド氏の死亡の後、黒人支持を表明した数ある会社の1つだった。

関連記事:テック業界はジョージ・フロイドの死をどう受け止めたのか

「今、私たちはこれまで以上にお互いを仲間として助け合い、正義と平等のために声を上げなくてはなりません」と当時同社はツイートで述べている

しかし会社内を見ると、Salesforceでは米国において黒人はわずか3.4%であり、管理職の黒人はわずか2.3%であることを2020年11月のダイバーシティレポートが示している。

「プライバシー上の理由から、従業員の個人的問題についてはコメントできませんが、『平等』は当社にとって最重要な価値の1つであり、22年ほど前に創業して以来、会社の内外両方でその推進に専心しています」とSalesforce広報担当者がTechCrunch宛の声明で語った。

ペリー氏の1件は、テック企業での不快な経験について黒人女性IT技術者が意見を述べた最新事例だ。2020年、Ifeoma Ozoma(イフェオマ・オゾマ)氏とAerica Shimizu Banks(エアリカ・シミズ・バンクス)氏はPinterestの人種差別と性差別を訴えた。その後、Timnit Gebru(ティムニット・ゲブル)博士はGoogleのAI部門における多様性問題について発言したことで解雇されたと語った。それはGoogleの元多様性採用担当者、April Curley(エイプリル・カーリー)氏が、会社を「人種差別のでたらめ」と非難したことでGoogleが自分をクビにしたと主張した直後のことだった。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Salesforce差別

画像クレジット:Ron Miller

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

総務省が携帯大手3社に接続料の引き下げ要請

武田良太総務大臣は2月9日の閣議後の記者会見で、格安スマホ事業を手がける各社がNTTドコモなどの携帯大手3社から通信回線を借りる際に支払う接続料について、早期に引き下げるよう携帯大手3社に要請する考えを示しました。

接続料については、総務省が3年間で5割減らす計画を示していましたが、そのスケジュール感では競争力の維持が難しいとして、格安スマホ各社が計画の前倒しを求めている状況です。

そうした状況を踏まえ、総務省は携帯大手3社に対し、来年度以降に適用される接続料を速やかに引き下げるよう要請しています。2月末には、携帯大手3社から接続料の届け出がある予定です。

武田良太総務大臣は、携帯大手3社が発表した20GBの新料金プランについて『家計負担の軽減につながる』と評価する一方で、『競争環境に重大な影響を与える可能性がある』と指摘しました。そのうえで『接続料の適正性の確保がこれまで以上に重要』と述べました。

Engadget日本版より転載)

ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

ミネソタ州ミネアポリス市警察は、2020年に同署の警察官がGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏を死亡させた後に暴動を誘発した暴徒らのアカウント情報提出をGoogleに要求する捜査令状を取得した。

2020年5月に白人警察官に殺された黒人男性フロイド氏の死は、市内全域の何千人もの人々による平和的抗議行動を呼び起こした。しかし、すぐに暴動が沸き起こり、警察が暴動のきっかけだとしている傘をさしたガスマスク姿の男がミネアポリス市南部の自動車部品店舗の窓ガラスを破壊する動画が広がった。そのAutoZone店舗は、翌日以降に市内で起きた数十軒の放火事件の最初の被害者だった。

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この捜査令状によってGoogle(グーグル)は、フロイド氏死亡から2日後の5月27日に暴動が起きた時、同AutoZone店舗の「地理的地域内」にいたすべての人物のアカウントデータを警察に提出することを強制される。

この「geofence warrants(ジオフェンス令状)」あるいは「reverse-location warrants(逆ロケーション捜査令状)」などと呼ばれる捜査令状は、しばしばGoogleに対して発行されるが、主としてそれは、検索・広告の巨人が「位置情報履歴」をオンにしているアカウント保有者数十億人の位置情報を取得・保存している巨大データベースを持っているからだ。ジオフェンス令状によって警察は、犯行現場にデジタル捜査網を敷き、ある地理的地域に特定時間に侵入した人物の記録をテック企業から入手できる。しかし、こうした令状は罪のない通行人のアカウント情報も収集するため違憲であると批判する人たちもいる。

TechCrunchはこの令状の存在を、ミネアポリス市住民のSaid Abdullahi(サイード・アブドラヒ)氏から聞いた。同氏はGoogleから、彼のアカウント情報が捜査令状の対象であり、警察に提出される旨のメールを受け取った。

しかしアブドラヒ氏は、自分は暴動には関与しておらず、AutoZone店舗で暴動が起きた時に抗議行動のビデオを撮っていただけだと語った。

令状によると、警察がGoogleに要求したのは、5月27日午後5時20分から5時40分(中部標準時)の間にAutoZone店舗および同店駐車場の近くに存在した携帯電話あるいはデバイスの「匿名化された」アカウントデータであり、当時その場所には数十人が集まっていた。

ミネアポリス警察署の広報担当者であるJohn Elder(ジョン・エルダー)氏は本誌の取材に対し、現在捜査中であり、令状に関する個別の質問には、令状が発行された理由を含めて答えられないと語った。

警察の宣誓供述書によると、抗議行動はそれまで比較的平和的だったが、5月27日午後に傘をもったマスク男がAutoZone店舗の窓を割り始めて状況が変わった。同店舗はミネアポリス警察管区の通りを隔てた向かい側にあり数百人の抗議行動者が集まっていた、と警察は言っている。抗議行動者がマスク男と直面しているところの動画がいくつか撮影されている。

警察は膨大な人員を投入してその通称「アンブレラマン(傘男)」の特定を急いでいると語り、男が市内全域およ及んだ暴動のきっかけになったと言っている。

「これは、本署管轄区内外で一連の放火と略奪を起こすきっかけとなった火災である」と供述書に書かれている。騒動によって少なくとも2名が死亡した。宣誓供述書を書いたミネアポリス警察捜査官Erika Christensen(エリカ・クリステンセン)氏をインタビューすることはできなかった。

警察はアンブレラマンが「暴力を誘発する」ことのみを目的として「敵対心と緊張の雰囲気」を作り出したと非難している(TechCrunchは、容疑者が起訴されるかどうかわからないと警察が言っているため宣誓供述書へのリンクは掲載していない)。宣誓書は容疑者を、Aryan Cowboysと呼ばれる 白人至上主義集団、および数週間後にイスラム教徒女性が攻撃された事件とも関連づけている。

令状に書かれた時間帯に抗議行動を撮影した複数の動画に、窓ガラス破壊の場面が写っている。当時の別の動画には付近の数百人の人々が写っている。

全米の警察が、容疑者不明の犯罪解決にジオフェンス令状に頼る傾向が高まっている。警察は、犯罪が起きた地理的地域に侵入した潜在容疑者の特定に役立つとして令状の使用を正当化している。令状は通常「匿名情報」を要求するが、警察は特定の被疑者について詳細情報を再度要求できる。

法律で許可されると、Googleはアカウント保有者に対して、警察がそのユーザーのデータへのアクセスを要求していることを伝える。2019年の裁判所提出書類でGoogleは、受け取ったジオフェンス令状の数が2017年から2018年には1500%、2018年から2019年には500%以上増えたと述べているいるが、具体的な件数は明らかにしていない。

Googleは、2019年のある1週間に180件以上のジオフェンス令状を受け取ったと報じられている。Google広報担当者に最近の数字を要求したが、公式コメントを拒んだ。

人権擁護団体は包囲網的令状の使用を批判してきた。米自由人権協会は、ジオフェンス令状は「警察監視の憲法による審査を回避する」と批判した。バージニア州のある地方裁判所はジオフェンス令状を憲法に違反しているとし、データを収集された人物の大部分は捜査中の犯罪と「何ら関係ない」ためだと言った。

2020年に報じられた記事の中には、犯罪との関連は単に近くにいただけという人々の事例が複数あった。

NBC Newsの報道によると、フロリダ州ゲインズビル市のある住民は、彼のアカウント情報が強盗事件を捜査中の警察に渡されるとGoogleから伝えられた。しかしその住民は自身が強盗と関係ないことを証明することに成功し、それは携帯電話のアプリが彼の行動を追跡していたためだった。2019年、Googleはウィスコンシン州ミルウォーキー市で起きた複数の放火事件を捜査していた連邦警察に対し、1500件近くのユーザー情報をジオフェンス令状に応じて提供した。これは過去最大数のアカウントデータ提供だっと考えられている。

しかし立法者たちは抵抗を始めている。2020年ニューヨーク州の立法府は、州全体でジオフェンス令状を禁止する法案を提出し、警察が抗議行動者を標的にする危険性を挙げた。Kelly Armstrong(ケリー・アームストロング)下院議員(共和・ノースダコタ)は2020年に下院司法省委員会の聴聞会でGoogleのCEO Sundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏を厳しく追求した。「警察が一般逮捕状を持ってあらゆる場所であらゆる人々の情報を得られると知ったら、人々は恐怖に襲われるだろう」とアームストロングg氏はいう。
アブドラヒ氏はTechCrunchに、その日同氏は抗議行動のビデオを何本か撮ったこと、また弁護士を雇ってGoogleが彼のアカウント情報をミネアポリス警察に渡すのを防ごうとしていることを話してくれた。

「警察は、あの日あの場所にいた全員を犯人とみなしています」と彼は言った。「誰か1人が犯罪を犯した時、警察はブロック全体の人々を追いかけるべきではありません」。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Googleミネアポリス警察アメリカジョージ・フロイドコラム

画像クレジット:Stephen Maturen / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

黒人の業界リーダーがMasterClassのようなコースを提供するBeGreatTV、差別への対処法まで

「ブラックやブラウン」の講師がクラスを教えるオンライン教育プラットフォーム「BeGreatTV」は先日、Stand Together Ventures Lab、Backstage CapitalのArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏、女優のTiffany Haddish(ティファニー・ハディッシュ)氏などからの参加を得て45万ドル(約4740万円)のプレシードラウンドを終了した。

BeGreatTVの目標は、才能ある黒人や有色人種のイノベーターやリーダーから誰もが学べるようにすることだと、創業者兼CEOであるCortney Woodruff(コートニー・ウッドラフ)氏はTechCrunchに語った。

「黒人や有色人種の個人が、(自分と同じような)黒人や有色人種の人から学びたいと考えたとき、異なるビジネス分野の用語集を提供してくれて、あらゆる組織レベルでの(自分の人種の)代表者をうまくまとめたものは存在しません」とウッドラフ氏はいう。「それだけでも、今まで誰も投資していなかった、または見せてこなかった情報がたくさんあるということで、当社の市場はその分、大きくなります」。

同社のコースは、特定の業界でどのように実績を上げ、成功するかを人々に教えるために設計されており、受講者たちはその業界のビジネス面をよりよく理解できるようになる。同時に「その部屋の中で(黒人または有色人種)唯一の存在であることにともなう社会経済的、人種的な不公平に対処する方法」も教えるという。「たとえばあなたがメイクアップ業界に入りたいと思っている黒人の男性または女性だったら、世間には必ずと言っていいほど偏見があります」。

BeGreatTVが数カ月後にローンチされると(4月に開始する予定)、同プラットフォームでは、アート、エンターテインメント、ビューティーなどに焦点を当てた少なくとも10種のコース(それぞれ15エピソード程度)が提供されることになる。開始時には、L’Oréal(ロレアル)のセレブメイクアップアーティストであり、Beyoncé(ビヨンセ)のパーソナルメイクアップアーティストでもあるSir John(サー・ジョン)氏、リル・ウェインやドレイクのマネージャーでもあるBeGreatTVの共同創設者Cortez Bryant(コルテス・ブライアント)氏、ゼンデイヤのスタイリストであるLaw Roach(ロー・ローチ)氏などがコースを提供する予定だ。

ウッドラフ氏によると、ハミルトン氏とハディッシュ氏は、それぞれビジネスとエンターテインメントに関するコースも教えることになるという。これまでにBeGreatTVは、3分間から15分間までの長さの40以上のエピソードを制作している。

画像クレジット:BeGreatTV

各コースの価格は64.99ドル(約6850円)で、同社はゆくゆくは、コースの数をもう少し増やした後、オールアクセスのサブスクリプションモデルを提供する計画だ。インストラクターに関しては、BeGreatTVは彼らとロイヤリティを共有しているという。

「最終的にはこのプラットフォームに、単にブラックとブラウンだけではない、より多様なインストラクターを含めることも考えています」とウッドラフ氏はいう。しかし今のところは、「『彼女 / 彼は私たちの最初の黒人インストラクターです』というパターンを『彼女/ 彼は私たちの最初の白人インストラクターです』という方向に、プラットフォーム上で反転させようとしているのです。

BeGreatTVのチームはわずか15人で構成されているが、音楽界の重鎮Cortez Bryant(コーテズ・ブライアント)氏や俳優のJesse Williams(ジェシー・ウィリアムズ)氏のような大物が含まれている。現在、BeGreatTVはシードラウンドの終了に向けて作業を進めており、年末までには6桁のユーザー数を見込んでいるという。

MasterClass(マスタークラス)が、おそらくBeGreatTVの最大のライバルとなるだろう。Gordon Ramsey(ゴードン・ラムゼイ)氏、Shonda Rhimes(ションダ・ライムズ)氏、David Sedaris(デイビッド・セダリス)氏などが講師を務めている前者が、8億ドル(約843億円)以上のバリュエーションを得たのも不思議ではない。MasterClassの場合、年間180ドル(約1万9000円)のサブスクリプションが、同社の収益のすべてを占めている。

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「もしあなたが(BeGreatTVを)MasterClassと比較するのなら、我々はそれぞれの業界で、世界で最も優れた仕事をしている人材というだけでなく、多くの場合、パイオニアとして壁を打ち破った人々を起用しています」とウッドラフ氏は語った。「彼らは、周りに自分と似たような人間が1人もいない環境でそれを達成したのです」。

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Aya Nakazato)