英国の国民保険サービスが6500万円の資金提供をかけた新型コロナ技術コンペを開催

英国の国民保険サービス(NHS)のイノベーション推進機関であるNHSXは、この新型コロナウイルスのアウトブレイクの間、デジタル技術で人々を支えられるプロジェクトを提案したイノベーターやスタートアップに50万ポンド(約6500万円)を出資するコンペを実施する。この資金は、メンタル面のサポートや公的介護を必要とする人々、さらに長期間の自宅待機によって大きな影響を受ける人々への支援活動に集中的に提供される。

Techforce19(テックフォース19)と題されたことのコンペはNHSXが主催し、GovTech(ガブテック)系ベンチャー企業PUBLIC(パブリック)によって運営される。両者とも、このコンテストからは一切報酬を受け取らないという。

申し込み期限は4月1日午後12時まで。入選プロジェクトは4月3日に発表される。資金は、ひとつの団体につき2万5000ポンド(約330万円)まで。数週間以内にそのソリューションを大規模に展開できることが条件だ。次のようなプロジェクトが求められている。

  • 遠隔介護の提供。例えば、有資格の介護士と介護を必要とする人たちの位置からマッチングを行い、介護施設へ管理とケアを提供する。
  • 介護とボランティアの最適化。たとえば、人材募集、訓練、地域のボランティアを医療ワーカーと非医療ワーカーに選別するためのツールを開発する。または、国中の医療ワーカーとケアワーカーの需要を予測し、人材の派遣と管理を改善するためのツールを開発する。
  • メンタルヘルスの支援を改善。たとえば、メンタルヘルスのためのサービスや支援を探しやすくする。または、メンタルヘルスと心の健康を自己管理できるツールを開発する。
  • その他、この時期にサービス提供者の負担を軽減し、人々の不安を解消できるもの。

英保健大臣のMatt Hancock(マット・ハンコック)氏は、この資金提供についてこう話している。「家に留まり他人との接触を避けることが、このウイルスの感染拡大を低減するためにはぜひとも必要なことであり、結果的に命を守ることになります。しかし隔離は、特に高齢者、独居者、メンタルな問題を抱えている人、誰かを介護している人にとって容易なことではありません。家から出られない人のために、我々は今すぐにでも彼らを助ける方法を見つけなければなりません。そこで本日、私はこの国の強力な革新的テクノロジー分野のみなさんに、その挑戦を受けて頂くよう呼びかけます」。

NHSX長官Matthew Gould(マシュー・ゴールド)氏はこう話している。「テクノロジーは、新型コロナウイルスが引き起こす難題に対処する国家の取り組みにおいて、重要な役割を果たします。このコンペでは、隔離がもたらす問題のうち、デジタル技術で解決できそうなものに焦点が絞られています。これを通じてNHSXは、孤独やメンタル、その他の問題に苦しむ隔離被害者を数週間以内に救済できるよう、解決策の開発を加速化させます」。

英政府は、国内のすべての人たち、とりわけ70歳以上の高齢者、基礎疾患を持つ人、妊婦に対して、ウイルスの拡散を最小限に抑えるために他人との接触を避けるよう強く勧めている。癌患者など、ウイルスによって重大な影響が出る恐れのある人たちは、ウイルスから自らの身を「遮蔽」するために、12週間の自宅待機が求められている。

PUBLICのCEOを務めるDaniel Korski(ダニエル・コースキー)氏はこう話している。「新型コロナウイルスの拡大は、英国人の生活を突如として一変させました。私たちの多くは日常の行動が制限され、他人との接触を避けるために自宅勤務をしています。とくに社会的弱者の場合、社会からの隔絶と孤立には大きな代償が伴います。TechForce19が、今いちばん助けを必要としている人たちを救うための、いち早く展開できる技術の発掘に向けた有意義な一歩になることを期待しています」。

画像クレジット:Scar1984 / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

社会保障制度のデジタル化が人権に与える影響に国連が警告

極度の貧困と人権に関する国連の特別報告者は、イギリスが、デジタル技術とデータツールを使って公共サービスの提供方法に関する国家規模の根本的な再構築を急いでいることに懸念を示し、本日(イギリス現地時間の11月16日)、デジタル社会保証制度が社会的弱者に与える影響は「計り知れない」と警告するステートメントを発表した。

特別報告者はまた、AIなどの技術を公共サービスの提供に利用することが、結果的に人々を傷つけることにならないよう、人権に基づく法的な枠組みを持つ、より厳格な法律を制定し施行することを求めた。

「政府の中で、この進展が生活保護手当給付制度よりも目立つようになった部分がいくつかある」と特別報告者Philip Alston教授は話している。「戦後のイギリスの社会保障制度は、ウェブページやアルゴリズムの影で次第に見えなくなり、そこにはデジタル社会保障制度が現れてきた。イギリスでもっとも弱い立場の人たちへの影響は計り知れない」

これは、よいタイミングの介入だった。今やイギリスの閣僚たちですら、デジタル技術を使って、窓口で料金を支払わずに済むイギリスの医療保健制度を改変しようと躍起になっているからだ。

Alstonのステートメントではまた、公的サービス提供の自動化(AI技術の積極的な導入)を推し進める姿勢には、不透明な部分があることも心配だと警告されている。

「イギリス政府による新技術の開発に関して、もっとも大きな問題は、不透明性だ。そうした自動化された政府システムの存在、目的、基本的な機能は、多くの部分に謎を残し、それらに対する誤解や不安を焚き付けている」と彼は書いている。さらに「そうした流れの中では、とくに、もっとも貧困な人たちや、もっとも弱い立場の人たちの人権が脅かされることが証明されている」

つまり、技術系巨大企業が無作法に破壊的な事業を強行するように、イギリスの政府機関も、きらびやかな新システムをブラックボックスで提供しようとしているのだ。そしてそれが、詳しい説明をできなくする理由にもなっている。

「自動化計画の情報公開を拡大すれば、商業的利益やAIコンサルタント会社との契約に、先入観による影響を与えてそまい、知的財産権は侵害され、個人に制度の抜け穴を与えることになると、中央政府機関も地方の政府機関も一様に主張する」とAlstonは書いている。「しかし、自動システムの開発と運用に関するより多くの知識を公開することが必要であることは明らかだ」

過激な社会再構築

彼によれば、2010年に整備された国内政策の「緊縮の尺度」の枠組みが誤解を招いたという。つまり、政府の意図はむしろ、国際金融危機を利用して、公共サービスの提供をデジタルに置き換え、社会を変えることにあると。

またはこうも指摘している。「証拠から示された結果として判明したのは、貧困に関連する政策の分野では、その推進力は経済ではなく、過激な社会再構築を進めたいという意欲にあった」

Alstonのイギリスでの調査は2週間にわたった。その間、彼はイギリス社会のさまざまな人たちに話を聞いている。それには、行政や市民団体による職業紹介所やフードバンクなどの施設、大臣から職員まで、どさまざまな階層の政府の人たち、さらには野党の政治家、市民団体の代表や現場で働く労働者なども含まれていた。

彼のステートメントには、イギリスの社会補償制度の全面的な見直しという批判の多い問題にも詳細に触れている。政府は、複数ある社会保障制度を「ユニバーサル・クレジット」と呼ばれるものに一本化する計画を進めている。とりわけ彼が注視したのは、「大いに議論の余地」がある「デフォルトがデジタル」というサービスの提供方法だ。なぜ、「もっとも弱い立場にいる人たちや、デジタルの知識を持たない人たちが、全国的なデジタル実験と思えるものに使われなければならないのか」

「ユニバーサル・クレジットは、大勢の人々の権利の行使を実質的に阻止する、デジタルの壁を作ってしまった」と彼は警告し、低所得者はデジタル機器の扱いに不慣れで、デジタルに関する知識も大変に乏しいと指摘している。そして、緊縮財政の対象とされているにも関わらず、市民が自分たちの命を支える役割まで担わされている現状を、詳しく述べている。

「現実には、こうしたデジタルの支援は公立図書館や市民団体に外注されいる」と彼は書いている。社会的に弱い立場にいる人たちにとって、光り輝くデジタル世界への入り口は、むしろファイヤーウォールになっているという。

「ユニバーサル・クレジットの権利を行使したいが、デジタル社会から排除されデジタルの知識を持たない人たちを救済する最前線に、公共図書館はある」と彼は言う。「国中の公共図書館の予算が大幅に削減されているが、それでも図書館員たちは、ユニバーサル・クレジットを求めて図書館に押しかけてくる大勢の人たちに対処しなければならない。オンラインの手続きでパニックに陥ることも少なくない」

さらにAlstonは、「デフォルトがデジタル」とは、実際には「デジタルのみに近い」と指摘している。政府が推奨しない電話相談などの別の手段では、「長い待ち時間」や「あまり訓練されていないスタッフ」による不愉快な対応に悩まされる。

自動化によるエラーに対処する人的コスト

彼のステートメントでは、自動化は大規模なエラーを引き起こす恐れがあることも強調されている。何人かの専門家や市民団体から聞いた話として、リアルタイム・インフォメーション(RTI)システムがユニバーサル・クレジットを支えている問題を挙げている。

RTIは、雇用主から歳入関税局に提出された給与のデータを取得し、それを雇用年金局と共有して月ごとの収入を自動的に計算している。しかし、給与データがに誤りがあったり提出が遅れた場合には、給付に影響が出る。Alstonによれば、政府は、請求者の訴えよりも、この自動システムの判断を優先させることを許している。

「コンピューターがダメと言っていますから」という対応は、すなわち、弱い立場の人たちの1カ月間の十分な食事と暖房が奪われることを意味する。

「雇用年金局によると、常時50名の職員が、月間数百万件にのぼる誤データのうちの2パーセントの処理にあたっている」と彼は書いている。「雇用年金局はそもそも、自動システムの判断を優先させる立場なので、請求者は適正な給付を受け取るまでに数週間も待たされることになる。システムが間違っていたという証拠を文書で示されても、そこは変わらない。昔ながらの給与明細も、コンピューターの情報と違っていたら無視されてしまう」という。

もうひとつ、自動化された社会保障システムの特徴として、「リスク対策の認証」などに関連して、請求者がリスクの高さによって分別される危険性について彼は論じている。

これには、「「リスクが高い」と判定された人たちが「その事実が判明していなくても、より厳しいセキュリティーと捜査の対象にされる」問題も含まれているとAlstonは言う。

「生活保護手当の請求者の推定無罪は、全面監視システムにより、悪いことをする可能性があると判断された時点で覆される」と彼は警告する。「自動システムの存在や仕組みが不透明なため、不服を訴えたり、実効性のある改善を求めても意味がない」

こうした彼の懸念を総合すると、自動化が政治的にも民主主義的にも良い結果を生み出すには、高いレベルの透明化を実現してシステムを評価できるようにする必要がある、ということになる。

倫理規範よりも法の支配を

「自動化を可能にする人工知能やその他の技術に、最初から人権や法の支配を揺るがす機能が備えられているわけではない。政府が意のままに政策を進める手段として、そうした技術を利用しているというのが本当だ。その結果は、良くもなれば悪くもなるのだが、自動システムの開発と運用が透明化されていなければ、その評価はできない。さらに、その分野での意思決定から市民を排除するなら、人工民主主義に基づく未来のためのステージを、私たちは提供することとなる」

「新技術の存在、目的、運用を、政府と国民との間で透明化しようという話し合いを重ね、技術がわかりやすく解説されるようになり、社会に与える影響が明確になるまでには、長い時間を要するだろう。新技術に、社会を良くする大きな可能性があることは確かだ。また、知識を高めれば、技術の限界を現実的に知ることができる。機械学習システムはチェスで人間を下せるだろうが、貧困といった複雑な社会の病を解決するまでには至っていない。

彼のステートメントは、現在イギリス政府が準備を進めているビッグデータとAIを管理する制度への懸念も示している。それは開発を導き、方向性を示すためのものだが、「倫理に大きく偏っている」と彼は指摘する。

「たしかに前向きな動きだが、倫理の枠組みの限界から目を離してはいけない」と彼は注意を促す。「たとえば公正さのよう倫理的概念は、定義とは相容れないものだ。法律で規定できる人権とは、性質が異なる。個人の権利が大幅に制限される恐れがある政府の自動化の推進は、倫理的規範だけでなく、法律によって縛るべきだ」

現行の法律を強化して、公共部門でのデジタル技術の使用を適正に制限することに対しても、Alstonはさらなる警鐘を鳴らしている。それは、公共部門のデータのためのプライバシーに関する法律の改正時に、政府が書き加えた権利に関する心配だ(今年の初めにTechCrunchが指摘した問題だ)。

それに関して、彼はこう書いている。「EUの一般データ保護規制には、自動化された意思決定に関する前途有望な条項(37)と、データ保護影響評価が含まれているが、2018年データ保護法では、政府のデータ利用と、政府によるデータ処理のための枠組みという図式の中でのデータの共有に関して、大きな迂回路ができてしまった」

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(翻訳:金井哲夫)

Uber、ロンドンにおける営業免許を失う

ロンドン市運輸局(TfL)は同市内におけるUberの営業免許更新の申請をさきほど拒絶した。この決定はイギリスのUberにとって大打撃となる。

TfLは声明を発表し、Uberは「ハイヤー業の免許を受けるのに適さない」として以下のように述べた。

ロンドンにおけるタクシーおよびハイヤー業の営業に関するTfLの規則は乗客の安全をを図るために設けられている。ハイヤー事業運営者は免許を更新するあたってこの厳正な規則を遵守する必要があり、またそうしてきたことをTfLに対して実証する必要がある。また事業運営者は免許を受け、保持することに適していることをTfLに証明する必要がある。

TfLはまた「Uberの事業運営に関する方法は公衆の安全を脅かすおそれのある事態〔の防止〕に関して十分な企業責任を果たしていないことを示すものだ」と述べた、次のような点を挙げた。

  • 重大犯罪の報告
  • 運転者の健康診断書の取得過程の説明
  • 重大犯罪歴がないことを確認するためのDBS(Enhanced Disclosure and Barring Service)条項による運転者の前歴調査
  • ロンドンにおけるGreyballアプリの使用( このソフトウェアは運輸当局が正しい情報を得て規制を実施することを妨害するために用いられる可能性がある)

TfLは1998年ハイヤー(ロンドン)規制法( Private Hire Vehicles (London) Act 1998)には「事業者が決定を不服とする場合には21日以内に訴訟を起こすことが可能であり、Uberは不服申し立ての手段が尽きるまで運営を続けることができる」と述べている。

Uberはただちに訴えを起こすものとみられる。

アップデート: ロンドンにおけるUberのゼネラルマネジャー、Tom Elvidgeが声明を発表した。

350万人のロンドン圏市民がわれわれのアプリを利用している。また4万人以上の免許を持ったドライバーがUberによって生計を立てている。こうした人々は今回の決定に驚愕している。

ロンドン市長とロンドン運輸局は少数の人々の権益を守るためにUberの運営を禁止し、市民から選択の自由を奪おうとしている。【略】

TfLは今回の決定に関してこれ以上のコメントは行わないという。サディク・カーン・ロンドン市長はTfLの決定を全面的に擁護する声明を発表した。【略】

カーン市長のTfLの決定を擁護する声明はFacebookページに掲載されたが、これに対してはUberのドライバーと名乗る多数の投稿者から「後ろ向き」、「4万人から生計の道を奪う」などとして激しい非難のコメントが寄せられている。「この決定は安く手軽にロンドン市内を移動する手段を市民から奪うものだ」としている。

ただし一方ではUberが現在のような安い料金を維持できるのはベンチャーキャピタルによる巨額の投資があるためだとする意見もある。つまり利益を上げるべきだとする株主の圧力が強まればUberの料金は大きく上昇するはずだという。

ドライバーに対する待遇や税の適正な処理に関してUberを批判するコメントも見られた〔下のツイートのコメント〕

【略】

原文には、超党派の議員がUberの免許更新に反対する書簡をTfLに送ったこと、労働組合、特にタクシー運転手組合が長らくUberの免許剥奪を主張しており、TfLの決定に全面的に賛成していること、逆に独立労働者のハイヤー運転手組合がTfLの決定を非難していること、などが紹介されている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

メルカリがイギリスでサービス開始、アプリダウンロード数は6000万件を突破

フリマアプリ「メルカリ」は着々と世界展開を進めているようだ。メルカリは本日、イギリスでアプリをローンチすると発表した。アメリカに続く海外展開で、今度はヨーロッパ市場を狙う。イギリスの現地時間、2016年3月15日からiOSとAndroidアプリを利用できる。

日本で2013年7月にローンチしたメルカリは、誰でも簡単にスマホで売りたいものを撮影し、リのマーケットプレイスに出品できるC2Cサービスだ。2014年9月にはアメリカでサービスをローンチし、海外進出を果たした。その後2016年に、海外2拠点目となる現地法人Mercari Europeをイギリスに設立し、ヨーロッパ市場への進出に向けて準備を進めていた。アプリダウンロード数は2016年12月末時点で6000万件を突破したという。その内訳は国内4000万、アメリカ2000万件だ。

イギリスでのローンチについて、メルカリのファウンダーでCEOの山田進太郎氏はリリースで以下のようにコメントしている。

2017年3月15日、イギリスでフリマアプリ”メルカリ”を正式にリリースいたしました。このような発 表ができることを大変嬉しく思うとともに、日本、アメリカ、そしてイギリスでメルカリを応援いただいている皆様に感謝申し上げます。 メルカリには、”新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションがありま す。このミッション実現のため、イギリスを皮切りにヨーロッパを始めとした他諸国へも進出し、世界 中でよりたくさんの人に使われるサービス作りを本気で目指していきます。

メルカリは2013年2月に創業し、これまでに外部から累計126億円を調達している。創業から4期目となる2016年6月期には売上高122億5600万円、営業利益32億8600万円で黒字化を達成した。

2016年11月に開催したTechCrunch Tokyoに山田進太郎氏が登壇した際、山田氏はメルカリの創業当初から世界展開を意識していると話していた。今回のイギリス進出で、メルカリはFacebookのような世界中で使われるサービスに向け、新たな一歩を踏み出したようだ。

イギリスのMonzoがシリーズCのクローズへ―、ヨーロッパで増え続ける”チャレンジャーバンク”

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最近増えているネット専門銀行(またはチャレンジャーバンク)のひとつで、イギリスに拠点を置くMonzoは、現在シリーズCのクローズ間近で、早ければ今週中にも資金調達が完了する予定だ。

複数の情報筋によれば、アメリカのThrive Capitalがこのラウンドのリードインベスターを務めているようだ。しかし調達額についてはまだわかっておらず、3000万ポンドという情報もあれば、それより少ないが2000万ポンドは超えるという情報もある。さらに、Monzoが近いうちに2回目のエクイティクラウドファンディングのキャンペーンを開始するということもわかっている。

Monzoの共同ファウンダー兼CEOのTom Blomfieldに、シリーズCの存在やリードインベスターについて尋ねたところ「現段階ではコメントすることはできません」という反応が返ってきた。

興味深いことに、イギリス人のシンガーソングライターTom OdellがMonzoに投資しているかもしれないという情報も入ってきている。ラッパー・プロデューサー兼テック起業家のWill.I.amが、イギリスの別のチャレンジャーバンクAtomとチームを組もうとしており、さらにAtomへ投資するかもしれないというSky Newsの報道を考えると、この話は一層面白くなる。

Monzo以外にも、ニューヨークに拠点を置くThrive Capitalから投資を受けたヨーロッパのフィンテック企業は存在する。Josh Kushnerが設立したThrive Capitalは、最近行われた独RaisinのシリーズCでもリードインベスターを務めていた。なおRaisinは、ヨーロッパ全体で利用できる貯蓄口座を提供している

Monzo(以前はMondoという名前で活動していた)はインターネット専門銀行、もしくはBlomfieldの言葉を借りれば「スマートバンク」として、今年中にユーザーが当座預金口座を開設できるよう準備を進めており、昨年8月にはイギリスの規制団体FCAおよびPRAから「条件付きで」バンキングライセンス取得した。

現在のところ、10万人以上のユーザーがMonzoのプリペイド版のMasterCardと、iOS・Android両OSに対応したモバイルアプリを利用している。Monzoユーザーは、リアルタイムでの出金記録や、カードの利用場所の地図表示、支出金額のカテゴリー別け、全ての出金情報がまとまったタイムラインといったサービスも利用できる。

Monzoはこれまでの資金の一部をクラウドファンディングから、そして大部分をロンドンのアーリーステージVCであるPassion Capitalから調達しており、累計調達額は1280万ポンドに及ぶ。昨年10月に公表されたブリッジファンディング(つなぎの資金調達)では480万ポンドを調達しており、その際の評価額は5000万ポンドだった。

一方で昨年末には、Monzoが大手銀行からの巨額買収提案を却下したと噂されていた。先週のインタビュー中にBlomfieldにこの件を尋ねたところ、彼はこの話が真実だと認めた。

提案を却下した理由について彼は、「彼らには別の目的がありましたし、そもそもとても厄介な会社なんです」とその銀行の古びたITシステムや、文化、考え方などを例に挙げながら話した。「古い体制が残っているとリスクをとらなくなり、根本的にはイノベーションが止まってしまいます。これこそが問題なんです」

さらにBlomfieldは、売却の可能性は完全には否定できないものの、スタートアップ銀行にとって早い段階で他社に事業を売却するということは、救済策をとることに等しいと言う。「早い段階での売却は、設立当初の目的を達成できなかったと言っているも同然です」

一方でシリーズCは依然進行中のため、Blomfieldや彼のチームの前にはまだ長い道が続いている。

Monzo共同ファウンダーTom Blomfieldとのインタビューの様子はこちらから。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

イギリスの自動車購入サイト「Hellocar」が125万ドル調達

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自動車購入サイトを展開するイギリスのHellocarは現地時間11日、資金調達ラウンドで100万イギリスポンド(約125万ドル)を調達したと発表した。本調達ラウンドをリードしたのは、Innocent Drinksの創業者が創始したJamjar Investmentだ。その他にも、Zoopla Property Group創業者兼CEOのAlex Chesterman氏も参加している。また、Founders FactoryのCEOであり、lastminute.comの創業チームの1人でもあるHenry Lane Fox氏がHellocarの取締役に就任することも同時に発表されている。Hellocarは今回調達した資金を利用して、イギリスのマンチェスターにビジネスを拡大するとともに、既存チームの強化を狙う。

Hellocarを創業したのは自動車業界のアントレプレナー、Nic Carnell氏だ。Hellocarで、彼は自動車の購買プロセスから自動車ディーラーを取り除いた。イギリスの自動車業界を対象にした調査結果によれば、自動車ディーラーを信用していると答えたのは全体のわずか7%であり、80%の人々が自動車の購買プロセスにストレスを感じると答えている。

Hellocarがディスラプトしようとしているのは、450億ポンド規模(約560億ドル)とも言われるイギリスの中古車マーケットだ。同社はこのマーケットに透明性と利便性をもたらすことが目標だと話す。Hellocarに掲載されている自動車はすべて、イギリスの自動車協会による168項目の審査をクリアしている。購入したクルマは自宅まで配送されるだけでなく、もし購入したクルマが気に入らない場合、購入後7日以内であれば返金してもらうことも可能だ。

その意味では、HellocarはCarspring(Rocket Internet出身)やbuyacar.co.ukなどの競合他社と似ている。しかし、その点についてCarnell氏は、「私が思うに、Carspringのアプローチは機能的でかつ非感情的なものだと思います。その一方で、Hellocarは顧客に寄り添うサービスを提供し、エンドトゥエンドのカスタマーエクスペリエンスにフォーカスしています。私たちのWebサイトを訪れてから、購入後30日のフォローアップ電話を受け取るまで、顧客はそれを体験することができるでしょう」と語る。また彼は、「私たちは自動車1つ1つのクオリティにフォーカスしており、Webサイトにできるだけ多くの自動車を掲載しようという気はありません」と加えた。

Hellocarはイギリス自動車協会とのパートナーシップによって自動車の審査と保証を、そしてAvivaとのパートナーシップによって自動車保険を提供している。

Carnell氏によれば、Hellocarは現在、カーリース企業などとのパートナーシップ締結に向けて協議を重ねている最中であるという。それが実現すれば、Hellocarにリース企業のクルマが掲載される可能性もある。これにより、Hellocarはハイクオリティの自動車を確保することができ、リース企業は顧客へのダイレクトチャネルを獲得することができる。

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(翻訳:木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

Ideal Flatmate、デートサイトのようなフラットメイト検索サービス

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一緒に住む家族や友だちがいないため、嫌々ながら新しいフラットメイトを探さなければ行けないロンドン在住者には、Ideal Flatmateのサービスがぴったりだ。

同社は、デーティングサービスのようにユーザーの趣向をもとに、ひとりひとりに合ったフラットメイト探しをサポートするサービスを提供している。ユーザーはまず、候補者を絞るために予め用意された文章にどのくらい同意するか(強く同意する〜強く反対する)を答えるようになっている。

既にアメリカでは、大学生に特化したroomsurfのように、似たようなサービスがいくつか存在するが、イギリスでこのようなサービスを提供するのは、Ideal Flatmateが初めてだと同社は話す。さらにIdeal Flatmateは学生以外もターゲットにしているが、今のところロンドン在住者だけが対象になっており、今年中にはイギリス全土にサービス網を広げようとしている。

昨年10月にソフトローンチされ、最近正式ローンチされたIdeal Flatmateには、現在3000人のユーザーと1000軒の物件が登録されており、これまでに3万人もの人が同社のサイトを訪れている。

現在までの運営資金は、ファウンダーと数名の個人投資家によって賄われており、「今年中には初めての投資ラウンドを開催しようと思っています」と共同ファウンダーのTom Gatzenは話す。

「2025年までには20〜39歳の人口の半分以上が、民間の物件を借りると予測されているので、市場規模はかなり大きくなるでしょう」と彼は付け加える。

確かに過去10年の間に、イギリスでは家を購入する人よりも借りる人のほうが増えており、この社会経済的な変化は「賃貸時代」と呼ばれることもある。この背景には、住居の需要が供給を上回っていることによる家賃の急激な上昇を含め、さまざまな要因がある。

今のところユーザー層に関して何かトレンドが見られるかという質問に対し、Gatzenは「サイトを利用しているユーザーや、物件をアップロードしている大家の層は多岐にわたっています」と答えた。「1番多いのは20〜35歳の層ですが、40才以上のユーザーもかなり多く、社会的な変化の結果、中年層でもシェア物件に住む人が増えているというのがわかります」

マッチメイキングのためにユーザーが最初に答える質問の中には、人との交際の仕方や掃除に対する考えなど、家の中の平和を維持するのに欠かせないものが含まれている。その一方で、外交的か内向的かを答えさせるような、ユーザーの人間性を確認するものもある。なおIdeal Flatmateは、ケンブリッジ大学の心理学者2名との協力を通じてこの質問集を作成した。

「私たちはフラットシェアをしている人たち500人を対象に、自分にあったフラットメイトを探す上で重要だと思われる100個の質問を投げかけました。その後、ケンブリッジ大学の教授と要因分析を行って回答を解析した結果、100個あった質問のうち20個が特に重要だということが分かりました」

まだ彼らのアプローチが正しいと断定できるほど、その有効性を証明するデータはないが、Ideal Flatmateは、「似たような人」とマッチしていると「感じる」という好意的なフィードバックをユーザーから受け取っているとGatzenは話す。

「今後の成長に向けて、マッチメイキングの機能を改良していき、ユーザーが自分に合ったフラットメイトを確実にみつけられるようにすることが重要だと考えています」と彼は言う。

まだ設立間もない同社だが、最近有料オプションをローンチし収益化にも取り組んでいる。その一方で、物件探しというのはとても短い期間しか発生しないイベントだ。何年にもわたってデートを繰り返す人はいるかもしれないが、ほとんどの人は長くとも1、2ヶ月以内には「家なき子」状態を脱したいと考えるものだ。

さらにロンドンで物件をシェアする場合、1年単位の契約を結ぶことがほとんどなため、収益機会にかなりの穴が空いてしまう。「賃貸時代」にあるとは言え、どう考えてもデーティングサービスのような市場規模は狙えないだろう。

そのため、Ideal Flatmateの閲覧自体は無料だが、ユーザーはフラットメイト候補と連絡をとるには有料会員登録しなければならない。1週間のアクセス権は4.99ポンドから準備されており、有料会員には条件(場所、予算、趣向)に応じて「ユーザーに合ったフラットメイトと物件候補」の情報が送られてくる。

さらに有料会員はサイト上のメッセージ機能も利用できるので、マッチしたユーザーやグループは、チャットを通じて交流を重ね、実際に顔を合わせてフラットシェアの相談をすることもできる。

新たな収益源となる仕組みも近々ローンチ予定で、今年の春から大家や不動産会社は、サイト上への物件情報掲載に対して料金を支払うようになるとGatzenは話す。

フラットメイトや物件を探している側、物件を提供している側の両方に課金するという同社の動きは、Ideal Flatmateのサービスを意味あるものにするために必要なユーザーに対して、同社のサービスにはお金を払う価値があると考えさせようとしているように見える。長期的にビジネスを継続させるには、ユーザー数を増やし十分な収益を獲得する必要があるが、このIdeal Flatmateの戦略は、ユーザー数の増加に歯止めをかける危険性をはらんでいる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ソーシャルレンディング界のユニコーンFunding Circleが新たに1億ドルを調達

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ヨーロッパでフィンテック企業に対する新たな大型投資が行われた。ロンドンに拠点を置き、小規模事業者に融資をしたいと考えている投資家と企業を結ぶソーシャルレンディングプレットフォームを運営しているFunding Circleが、1億ドルの資金調達を行ったのだ。Accelがリードインベスターとなった今回のラウンドには、以前からFunding Circleに出資していたBaillie Gifford、DST Global、Index Ventures、Ribbit Capital、Rocket Internet、Sands Capital Ventures、Temasek、Union Square Venturesも参加していた。

共同ファウンダー兼CEOのSamir DesaiはFunding Circleの評価額を公開せず、2015年の資金調達時より「すこし増加した」と話すにとどまった。なお、TechCrunchでは前回の資金調達時に、同社の評価額が既に10億ドルを超えていたことを確認した

今回の調達額は、2015年4月以降ヨーロッパのフィンテック企業を対象に行われたラウンドで最大だとFunding Circleは話す(2015年4月には他でもないFunding Circleが1億5000万ドルを調達していた)。今週だけでもモバイル決済のiZettleが6300万ドル、CompareEuropeGroupが2100万ドルを調達しており、全体的に2017年はフィンテックへの投資が加速していきそうな雰囲気だ。

シリーズFとなる今回のラウンドの結果、Funding Cicleの調達資金総額は約3億7500万ドルに達した。

そしてこの1億ドルの資金調達は、Funding Circleにとって面白いタイミングで起きた。

まず同社は猛烈な勢いで成長を遂げており、2016年の世界中での貸出額合計は11億ポンド(13億ドル)に及ぶ(Funding Circleはヨーロッパとアメリカで営業しており、Desaiによれば採算のとれているイギリスが同社にとって最大の市場だ)。そして合計額のうち4億ポンドがQ4単独の数字で、前年同期比で90%も増加している。

昨年のFunding Circleの成長度合いをわかりやすくするために書くと、2010年の設立からこれまでの貸出額の合計は25億ポンドだと同社は話している。

その一方でFunding Circleは特に追加資金を必要としていなかったが、Lending ClubWongaなど他社のスキャンダルを考慮すると、レンディングサービスを提供するスタートアップにとっては今がとても大事な時期なのだ。

「昨年の市況は、特にオンラインレンディング企業にとって厳しいものでした。それでも私たちはFunding Circleの状況を喜ばしく思っています。前回のラウンドで調達した資金の大半は未だに手元に残っていますが、私たちはさらに事業へ投資できるチャンスを利用したいと考えていました。今回の資金調達によって、イギリスやヨーロッパ当局に対して私たちが今後もビジネスを続けていこうとしていることをアピールできます。Funding Circleは旧来の銀行を代替し、信頼に値する企業という地位を確立しようとしており、今回のラウンドは私たちの進歩やFunding Circleのビジネスの未来を証明するものでもあります」とDesaiは話す。さらに彼によると、調達資金の一部は、同社のプラットフォームや「プラットフォームをさらに強力なものにする」アルゴリズムの開発にあてられる予定だ。

プラットフォーム上での貸出と、実業家コミュニティや労働市場、経済への貢献という、Funding Cirleの政府へのアピールはうまく機能しているようだ。

「Funding Circleはイギリスのフィンテックにおける、本当の意味での成功モデルになりました。そして8000万ポンドもの投資を受けることができたという事実が、フィンテックの重要性が増していることを証明しています。また今回のラウンドは、ビジネスの成長や雇用創出というイギリス経済における重要な役割を担った企業が、新たに信任を得たということを意味しています」と財務大臣のPhilip HammondはTechCrunchへの声明の中で語った。

現在Funding Circleのプラットフォーム上では、個人や地方自治体、中央政府、欧州投資銀行、年金ファンドといった金融機関を含む6万人の認定投資家が、2万5000もの企業へ貸し出しを行っている。Desaiによれば、今後は小口投資家の参加も目論んでいるようだ。さらにリターンについては、同社がこれまでに1億ポンド以上を払いだしており、年間の利回りは7%に達するとDesaiは話す。

次の一歩として、Funing Circleは現在の市場での売上を拡大すると共に、2013年にEndurance Lending Networkを買収してアメリカ市場へ進出したように、買収を通して新たな市場でビジネスを展開していくことも考えている。

Desaiは「現状IPOに関しては何も計画していない」と語っているが、長期的な目標としてはIPOも視野に入れている。「企業としての透明性や債権者ではなくプラットフォームであり続けることなど、私たちが大切だと考えている事項に加え、私たちはいつもFunding Circleを上場させたいと話してきました」

この継続性こそ、Funding Circleが新たな投資家を招かずに、既存の投資家との関係を保っているように見える理由なのだ。

「私たちは初期の投資段階から、Funding Circleのチームに感心していました。同社は中小企業が求める借入のオプションを準備するとともに、投資家に対しても魅力的なリスク調整後利益を提供することで、世界中の市場において大きな成長を遂げてきました。今回のラウンドの結果、Funding Circleは世界最大かつ最も自己資本の多い中小企業向けレンディングプラットフォームとなり、私たちは今後も同社をサポートしていけることを嬉しく思っています」とAccelのパートナーであるHarry Nelisは声明の中で語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ブレグジットで陰るイギリスのフィンテック業界にGoCardlessが見た一縷の望み

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イギリス政府は依然としてブレグジットの計画に関する詳細を明らかにしておらず、そもそも計画の存在自体を疑う人もいる中、イギリスに拠点を置く企業は、ブレグジットが持つ意味について分からないままでいる。

首相の「ブレグジットはブレグジットでしかない」という主張は上手い表現だが、ビジネスプランをつくろうとしている人にとっては何の意味もなさない。

イギリスのEU離脱による予算への影響を予測しようとしている予算責任局(OBR)にとってもそれは同じだ。

OBRよ、まさにその通りだ。「私たちが政府にブレグジットの意味を尋ねたところ、ブレグジットはブレグジットでしかないと、何の役にも立たたない回答が返ってきた」

しかし、ロンドンに拠点を置くGoCardlessは、少なくとも国内のフィンテク業界には一縷の望みがあると考えている。11月23日に財務大臣が発表した秋季財務報告書の中には、(ブロードバンドのインフラ、自動運転車、電気自動車、VCなどを強化する施策と並んで)フィンテックをサポートするいくつかの施策が明記されていたのだ。

その施策には、スタートアップ向けの特別予算年間50万ポンドや、各地域におけるフィンテック特使の任命、“State of UK fintech(イギリスフィンテック業界の現状)”年間レポートの発行、電子ID認証の近代化に関するガイダンスなどが含まれていた。

ブレグジットの広範囲に及ぶ影響を考慮すると(OBRはブレグジットにより、イギリスの公共財政に590億ポンドの悪影響があるとの概算を示している)、フィンテック業界に投じられる年間50万ポンドという額は大したことがないように映る。とはいえ、ブレグジットの悲劇の中でも、イギリスのスタートアップにとって何か良いことがあるべきだ。

「政府は、フィンテックが高成長を見込める業界で、多くの可能性を秘めていると示唆しようとしているのだと、私たちは考えています。数十億ポンドの予算を見込んでいれば、イギリス中の注意をフィンテックに向けようとしているサインになりますが、少なくとも政府自体がこの業界に注目しており、成長を促そうとしているのがわかります」とGoCardlessで法務部門のトップを務めるAhmed Badrは語る。

現行政府は、これまでにイギリスのフィンテックスタートアップの経済的な可能性に注目したことがあるのだろうか?という問いに対して、彼は「政府の公式な文書にそれが現れたのは、恐らく今回が初めてのことでしょう。しかし、財務報告書のように公式かつ重要な文書としてではないものの、これまでにも政府は、Innovate Financeのような団体を通じて、フィンテック業界の発展を促進しようとしていました。その活動は今でも続いており、これ自体はとてもポジティブなことです。今回そのような動きが、きちんと財務報告書の中に反映されたというのは、もちろんさらに喜ばしいことです」と答えた。

さらにBadrは、金融サービスへのアクセスに利用される(紙ベースのIDチェックとは対照的な)テクノロジーをサポートする目的で、政府が金融サービスの業界団体であるJoint Money Laundering Steering Groupと共に、電子ID認証システムの近代化を図っていることを、”極めて明るい話題”だと歓迎する。

そして「電子認証システムが導入されれば、サービス利用開始時やデュー・デリジェンスの業務がかなり効率化する可能性があります。利用者の中には本人確認のプロセスを面倒だと感じている人もいるため、カスタマーエクスペリエンスの向上に努めている私たちのようなフィンテック企業にとって、この施策は極めて重要です」と続ける。

「電子ID認証は、詐欺や身元詐称を阻止する上でも大変有効なツールです。古臭い紙の文書から、便利かつ正直なところ信用性も高い電子IDへのシフトが早く実現することを私たちは願っています」

もちろん、ブレグジットに関してフィンテック業界が1番心配しているのは、EU離脱に関する条件交渉をイギリス政府が進める中で、同国が金融パスポートを失うことになるのかどうかということだ(数年におよぶ条件交渉は、来年3月末までにスタートする予定)。金融パスポートとは、欧州経済領域(EEA)加盟国のいずれかで金融サービスを提供することを許された企業が、長期に渡る複雑な認証プロセスを繰り返すことなく、他加盟国でも同じサービスを提供することができる権利を指す。

Badrは、秋季財務報告書の内容から今後イギリスのフィンテックスタートアップにとってポジティブな流れが生じると考えているが、フィンテック業界を支える金融パスポートを、イギリス政府がなんとしても保持しようとしているかについてまでは確証を持っておらず、長引いているブレグジットの条件交渉に触れながら「現段階では、金融パスポートについて何も言うことはできません。何が起きるか全く分からないことについて無責任な予測もしたくないですしね」と語っていた。

「もちろん私たちは、政府に対して金融パスポートがフィンテックにとってどれだけ重要かという説明を行ってきました。恐らく私たちが言うまでもなく、継続的にヨーロッパ市場へアクセスできることが金融サービスにとって大切だということは政府も認識していると思います。金融パスポートであれ、他の形であれ、もしも政府高官の間でどのようにヨーロッパ市場へのアクセスを保つことができるかという議論が行われていないとすれば、むしろ驚きです」と彼は付け加える。

しかしGoCardlessは、ブレグジットの影響で金融パスポートが失効してしまったときのためのバックアッププランも用意している。最悪の場合同社は、他のEU加盟国のどこかに子会社を設立し、金融パスポートを保持しようとしているようで「必要であればそれも辞さない」とBadrもそれを認めている。

同時に、設立から5年が経ったGoCardlessは、イギリスから国外へ完全に脱出する必要もないと今の段階では考えている。ロンドンという街には、住みやすさや、例えば教育水準が高い大学のおかげで、優秀な人材へアクセスしやすいことなど、不変の良さがあるとBadrは話す。「このようなロンドンの長所は、ブレグジット後も無くなってしまうことはありません。本当に金融パスポートを保持することだけが、GoCardlessが後回しにしていたかもしれないことを、恐らく前進させるきっかけになると思っているんです」と彼は主張する。

ヨーロッパのフィンテック中心地としてのロンドンの地位が、ブレグジットによって危ぶまれることになると彼は考えているのだろうか?その答えとしてBadrは、ヨーロッパ中でフィンテック業界の競争が激化することで、ビジネスを国外へ移動させる動機が増えるだけでなく、イギリス国内の金融サービスのイノベーションが活発化すると期待している。

「誰も金融サービス企業にとっての金融パスポートの重要性を疑っていはないでしょう。ただ、それはイギリス企業だけの話ではなく、イギリス以外のヨーロッパ諸国に拠点を置く数々の企業が、イギリス市場で金融ビジネスを行う上でも同じです」と彼は語る。

「他国の金融サービス企業も、イギリス企業と同じを動きをとることになると思いますか?もしもイギリスの金融パスポートがなくなり、何の代替手段もないとすれば、きっと双方向に同じ動きが起きると私は思います。つまり、これまでヨーロッパ諸国で営業するために金融パスポートを利用していたイギリスの金融サービス企業は、他国に子会社を設立するでしょうし、イギリス国外の企業で、これまで金融パスポートを使って、イギリス市場にアクセスできていた企業についても、イギリスに子会社を設立して、営業を行うことになると思うんです」

「現在のところ、GoCardlessの売上の大半はイギリス国内で発生しているため、外国に子会社を設立してもしばらくの間は、小規模なオペレーションにとどまると思います。しかし同時に、イギリスでそうだったように、他国の子会社も急成長することを願っています。もしかしたら、将来的にはイギリス以外にも、フィンテックの”中心地”となるような国や都市が突如誕生したり、現在ある程度力を持っている地域が、徐々にヨーロッパ内での地位を高めていったりするかもしれません。また、イギリス企業が国外に出ていくにあたり、全ての企業があるひとつの街や地域に集中して移動するというのは考えづらいです。むしろ、移転候補先になりえる都市が、これからいくつか誕生してくるでしょう」

ブレグジットに関して明らかになっていない点は多々あるものの、Badrは現時点でGoCardlessが、この困難を乗り切る”ひそかな自信がある”と語っている。「困難という意味では、スタートアップはこういった問題に直面する運命にあります。私たちは、新しい環境や社内の変化に適応するのに慣れているので、今後も引き続き、私たちの順応性を証明していければと思います」と彼は話す。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter