もはや国境は意識しない、日本発IoTスタートアップの強みと課題

nes02

新経済連盟が開催するカンファレンス「新経済サミット2015」が4月7日から8日にかけて東京で開催された。初日となる4月7日には「世界を担う日本発のIoT 〜グローバルマーケットで日本企業はどのように闘うのか〜」と題するセッションが開催された。IoT(モノのインターネット)の時代、世界で勝つ為に求められるものは何か。官民それぞれの立場から意見が交わされた。

登壇したのは総務省 情報通信国際戦略局 通信規格課  標準化推進官の山野哲也氏、経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長の佐野究一郎氏、WiL 共同創業者ジェネラルパートナーの西條晋一氏、イクシー代表取締役社長の近藤玄大氏、Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏の5人。モデレーターはABBALab代表取締役の小笠原治氏が務めた。

国はIoTをどう見ているか

総務省や経産省は、IoTをどう捉えているのだろうか? 経産省の佐野氏は、ドイツの国策である「インダストリー4.0」やアメリカGE社のIoTプラットフォーム「Predix」といった、生産工程の自動化・デジタル化、センサー・人工知能(AI)を使った開発パフォーマンス向上施策を例に挙げ、海外でのIoTの急速な広がりを説く。

では日本はどうなっているのかというと、産業競争力会議においてビッグデータやIoT、AIの推進に取り組む事が決まった段階であり、具体的な政策のあり方は検討中とのこと。今後は「ベンチャー企業の力をいかに増やすかが重点事項」と課題を語る。

山野氏は総務省の観点から標準化について解説。IoTには4つの要素があるという。

・センサーで情報を集める技術
・収集した膨大なデータをネットワークに送る技術
・膨大なデータを解析し、意味あるデータを発掘する技術
・得られた意味をデバイスにフィードバックする技術

それぞれの要素別に見ると国際標準化は進みつつあるとし、M2Mの標準化団体oneM2Mを例として挙げた。ただ国内における標準化作業は出遅れている感が否めないとのこと。

IoTビジネスはに国境はない

「世界と戦う」という意味について、実際にIoTでビジネスを立ち上げているスタートアップはどう考えているのだろうか。

Cerevoの岩佐氏は、日本、海外という意識は全くしていないと言う。インターネットという世界共通プロトコル上で動作する「モノ」を販売しているため、発表すればおのずと世界中から注文が来るとのこと。むしろわざわざ「グローバル」と意識をすることなく、それで世界で成功できるのがハードウェアの良い点だと持論を述べた。

筋電義手「handiii」を手がけるイクシーの近藤氏は、「モノは分かりやすいので、コンテンツが良ければどこでも売れる」と説明。handiiiをSouth by Southwest(SXSW)でデモした時の反響の大きさを例に挙げた。handiiiは医療分野のプロダクトであり、国によって法律が異なるためローカライズは困難を極めるプロダクトだ。だがイクシーでは極力データも公開し、各国の研究機関と共同で開発を進めていきたいとした。

ベンチャー投資を手がける傍らでソニーと合弁会社「Qrio」を立ち上げ、スマートロックの開発しているWiLの西條氏も、「モノ(ハードウェア)は非言語なのでイメージされやすく、世界展開はしやすい」と語る。

日本でビジネスを行う3つメリット

スタートアップ側の登壇者3人が「国境はあまり意識していない」と語るが、モデレーターの小笠原氏は、日本でビジネスをすることの利点を尋ねた。

「そもそも僕ら(日本でビジネスをするスタートアップ)は有利」——岩佐氏はそう語る。その理由の1つめは「Japanブランド」。先代の方々(これまでの日本のメーカー)が築き上げてきた信頼のおかげで、全く同じ製品だったとしても日本製が選ばれるのは大きいとした。2つめは「家電設計者の多さ」。これだけ家電開発者が多い国は世界を見渡してもほかにない。これがIoT時代の武器になると話す。3つめは「時差」。家電やハードウェアのほとんどの工場は現在アジアに集中しており、時差も少なくいざとなれば3〜4時間で行ける距離にある日本は欧米と比較して地理的にも有利だとした。

また近藤氏は、「長期的に日本に留まるかは分からない」とは言うものの、「日本人のこだわり、職人気質はプロトタイプを開発する上でメリットになった」と言う。

IoTスタートアップ、挑戦するには「いい時期」

セッション終了後の囲み取材で、西條氏、岩佐氏、近藤氏から、ハードウェア、IoTスタートアップに挑戦する人に向けたメッセージを貰ったので、以下にご紹介する。

WiL 西條氏

起業するにもいろんな方法がある。イクシーやCerevoのように自力でやる方法もあれば、WiLのように大企業とコラボレーションする方法もある。「メンバーが不足しているからできない」と諦めて欲しくない。自分は文系人間でものづくりの経験も無かったが、今は非常に良いチームができている。いろんな山の登り方がある。やりたいという気持ちを大事にしてほしい。

Cerevo 岩佐氏

基本は「やりたいと思った時がやり時」だが、ここ1〜2年急激にハードウェアスタートアップがやりやすくなった。2007年当時はハードウェアスタートアップとか言うと笑われる時代だったが、今はDMM.make AKIBAの様なシェアオフィスもあり、興味を持ってくれる投資家も増えた。始めるにはいい時期。あと、ITでの起業というとエンジニアが起業するイメージが強いが、自分の周りでは文系、調整型の人間が立ち上げた企業が成功している。ぜひ文系の人にも挑戦してほしい。

イクシー 近藤氏

むしろ今の学生はすでに起業している。大学の研究室の成果をクラウドファンディングに乗せて製品化を目指すような流れが普通になってきている。逆に、定年退職したベテラン職人が起業するようになると面白いと思う。

nes03

左から小笠原氏、山野氏、佐野氏、西條氏、岩佐氏、近藤氏

 

CerevoがSxSWでお披露目したのはウェブサービスを繋ぐ鍵「Hackey」

米国オースティンでは現在、音楽や映像、ITなどを取り扱ったイベント「South By Southwest(SxSW)」が開催中だ。すでに米TechCrunchからQuirkyの翻訳記事も届いているし、続報もいろいろと出てくると思う。

そんなSxSWに日本のハードウェアスタートアップの雄、Cerevoが出展中だ。同社は3月16日、開発中の新製品「Hackey(ハッキー)」を発表。現地にて実物を展示している。

Hackeyは、無線でインターネット接続する手のひらサイズの鍵型スイッチだ。サイズは直径56mm、高さ51mm、重量は未定だ。無線LANを搭載、電源はACアダプタ、2015年夏頃のリリースを予定する。予定価格は90ドル前後。

ウェブサービス「IFTTT」に連携可能で、IFTTTのレシピ(特定の条件「トリガー」と特定の動作「アクション」を組み合わせてることで、さまざまなウェブサービスを連携してりようできるプログラムのようなもの)にHackeyのスイッチを組み込むことができる。

Cerevoのリリースでは、「帰宅した子供がキーをひねって会社にいる親に帰宅を伝える」「自宅に設置した鍵をひねって安否を伝える」といった使い方を紹介しているが、対応するのはTwitterやFacebookをはじめとした100以上のサービスなので、その可能性は幅広い。Cerevoでは開発者向けにHackeyの制御用APIを公開する予定で、対応サービスやガジェットの開発も可能になる。

そのほかウェブから情報を受け取ってLEDの制御も可能。さらに鍵ユニットは着脱可能で、市販の直径16mmパネルマウント型スイッチと互換性があるため、鍵ユニットを外してボタンに装着する、オリジナルのボタンを作るといったカスタマイズも可能だそうだ。


Cerevoの新デバイス「Listnr」は、常時「音を聞く」プラットフォーム

正月明け早々にスノーボード用バインディングで面白いデバイスを発表したCerevoだが、今日また米国で開催中のCESにおいて、新しいデバイス「Listnr」を発表した。部屋に置いておくと「音」を認識して、クラウド経由で何らかのサービスやデバイスをコントロールできるハブのようなもののようだ。すでにKickstarterでキャンペーンを開始している。

ListnrはInterphenomCerevoの共同開発によるもので、音声認識エンジンについてはパナソニックの研究開発部門が提供している。DMM.make AKIBAを拠点として新たに立ち上がった日本のハードウェア・スタートアップに対して大手電機メーカーが技術提供する事例としても注目だ。Cerevoは電子回路、組み込みソフトウェア、筐体設計を担当したそうだ。

Listnrは、ネット接続とマイクを搭載したデバイス。リビングやオフィスに設置することを想定している。設置場所付近で鳴った音を解析して、音に応じた指示をサーバーを介して遠隔地のスマートフォンやネットに接続した機器へ指示を送ることができるという。本体サイズは高さ68mm、幅112mm、奥行き68mm、重量は100g前後となる予定というから、小型のWiFiルーターぐらいだろうか。結構小さい。

音声認識エンジンは、当初は乳児の泣き声から「泣く」「笑う」「叫ぶ」、あるいは喃語(乳児が発する意味のない声)といった4パターンの感情を認識してスマートフォンへ通知する機能、スマートフォンからコントロールできる照明システム「Philips hue」をフィンガースナップの音で操作できる機能を提供するという(指をパチンと鳴らして電気をつけるってことだね)。APIを公開して、開発者がListnrに対応した製品やサービスを開発できる環境を整えるという。

常時音を「聞いていて」、それを何らかのコマンドとする汎用のプラットフォームということで、Amazonが2014年末に発表したAmazon Echoが似ている。EchoがSiriに似て人間が声で発する言語を認識するのに対して、Listnrは音や感情を認識するという違いがある。Echoが一般エンドユーザーをターゲットとしているために、やや唐突感があるのに対して、Listnrは当初は開発者に訴求するだろうから、そこも違いかもしれない。汎用的すぎて、まだぼくらのライフスタイルに入ってくる何かになるのかどうか分からない。そもそも赤ん坊の4つの感情が分かって、それが何っていうのもある。でも、ホームオートメーション市場が興隆してくるときに「音」がインターフェイスとして重要性を増すのなら、こうしたデバイスが活用される場面は増えていくのだろうし、開発者なら接続してみたいデバイスやサービスが思い浮かぶんじゃないかと思う。


Cerevoがスノボ用バインディング「SNOW-1」を発表、荷重を可視化

ネット家電スタートアップのCerevoが、スポーツ用品分野でちょっと楽しげな新製品を発表した。

スマート・スポーツ用品のブランド「XON」(エクスオン)を立ち上げ、第1弾としてスノーボードのバインディング「SNOW-1」を発表した。左右それぞれの足元に4カ所、合計8カ所に荷重センサーを搭載していて、スノーボーダーの荷重のかけ具合や重心位置を計測して、リアルタイムでスマホで確認できる。ボードの前後2カ所にしなり検知用の曲げセンサーも搭載している。

計測データのスマホへの転送はBluetoothで行う。これまで主観的な言葉による説明や、動画撮影による姿勢の確認程度しかできなかったものが、より詳細なデータとともに滑りの分析ができるようになる。面白いのは、GPSで測位した滑走軌跡や、以下のように撮影した動画と合わせて見ることもできること。

つま先には高輝度なLEDが搭載されていて、スノーボーダーの動きに合わせてLEDが光るという。電飾に凝るクルマ・バイク野郎を想像してしまって、個人的にはイケてないなと思ってしまったけど、これは、設定値の荷重を超えた時に光らせるフィードバック用のデバイスとしても機能するんだとか。

発売は2015年内というから来シーズンには間に合いそう。海外での販売想定価格は400〜600ドルの予定というから、国内でもそのくらいの値段になりそう。一般的なスノボのバインディングより2〜3倍のお値段だけど、ガジェットとしてみれば高くはない。

リリース時のメッセージでは、Cerevoは「上達に役立つ」というところに力点をおいているようだけど、数値化してみることが楽しいという層にもアピールしそう。上達に血道を上げる人たちといえば、ゴルフやテニスも思い浮かぶけど、このぐらいメジャーなスポーツジャンルだと、すでに色々な商品が市場に出ているそう。だから、「グローバルニッチ」(ニッチ市場だけど、グローバルに見ればそこそこの規模)を標榜するCerevoとしては、スノーボードに照準を合わせたんだとか。確かにスノーボーダーなら平均年齢もスマホ世代に合いそうだし、いいかも。XONシリーズの第2弾も楽しみだね。

ちなみに、荷重を見て実際に上達に役立つのか? という疑問もありそうなので、個人的な感想を書いておこう。

ぼくはかなりヘビーなスキーヤーで、腰まで埋まるような新雪が好きだったりする。先日行った新潟では積雪が205cmと激しかったのだけど、このとき友人の1人が雪に埋もれてしまって身動きが取れなくなる事態が発生した。スキー板を外すと1メートルも動けないし、スキーをはくとあっという間にバランスを崩して雪に溺れてしまう。新雪も深すぎると沼のような感じになるのだ。特に新潟のように湿った雪だと。ということで、「雪の浮力」とか「板の上にちゃんと乗らないと板先が雪に飲まれる」ということを言葉として説明するわけだけど、これも実際のところ本人には乗れてるかどうか分からないもの。難しい条件、とくに深い新雪に出たときに初めて分かるようなところがある。ちゃんと荷重のバランスが分かっている人は深い雪でも水上スキーのように滑っていけるけど、前後の荷重バランスが崩れた人には新雪は滑れない。というように、荷重の具合というのは本人の主観だけでは分からないことがあるので、数値化して可視化できれば上達に寄与することもあるのじゃないかと思う。


DMMが秋葉原にモノづくりの大拠点――3億円超の機材を揃え、CerevoやABBALabが入居


MAKERSムーブメント、IoT――言葉としてはよく聞くし、その動きは活性化している。多くの人たちは3Dプリンターにばかり目が行きがちだが、それだけの話ではない。ハードウェアスタートアップに必要な機材が利用できる場所が増え、そのノウハウを持ったプレーヤーも徐々に育ち、MoffRingといったプロダクトが世に出てきた。またそんなプレーヤーに出資したい投資家も現れている。

そんな中、DMM.comが日本のモノづくりスタートアップの中心地づくりに動いた。同社は11月11日に東京・秋葉原にてモノづくりの拠点となるスペース「DMM.make AKIBA」をオープンする。あわせて同スペースにはハードウェアスタートアップのCerevoやハードウェアスタートアップを対象にした投資を行うABBALabが入居。ノウハウや立ち上げ資金の提供を進める。

DMM.comでは、サイト上でデータをアップロードし、3Dプリンターでパーツやフィギュアなどの造形物を製作する「DMM.make 3D PRINT」を2013年夏にスタート。その後はIoT関連の情報を配信するオンラインメディア「DMM.make」も展開してきた。3Dプリント事業はすでに月間数千メデルを制作するまでになったが、「実際のところこれまでの事業は『入口』。これまでの我々の事業もそうだが、プラットフォームを作ることを目指している」(DMM.make AKIBA総支配人吉田賢造氏)とのことで、そのプラットフォームとしてDMM.make AKIBAを立ち上げるに至ったという。

3億円超の“本物”の機材が揃う「Studio」

DMM.make AKIBAの所在地は、秋葉原駅そばの富士ソフト秋葉原ビル10〜12階。10階は電子工作から量産向け試作品の開発・検証までが行える。「DMM.make AKIBA Studio」。11階は3Dプリンターを設置し、3Dプリンターや各種機材に関する法人向けのコンサルティングサービスを提供する「DMM.make AKIBA Hub」。12階はイベントスペースやシェアオフィスなどを展開する「DMM.make AKIBA Base」となる。なおCerevoは12階の一部に入居する(余談だが、Cerevoは今夏に株主が変わって以降、人材を大幅に拡大しており、現在自動車メーカーや電機メーカー出身のエンジニアも続々参画しているそうだ)。

Studioには合計180点以上の設備があるそうで、その金額は「機材だけでも3億円超」(吉田氏)だという。また、機材の監修をしたCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は、「機材は『本物』を揃えた、ということが重要。
5軸CNC(切削機)をはじめとして、小さな工場では高価で導入できないものも用意されている。また、水深30mまでに対応した耐圧潜水試験設備など、試験用設備もある。これがあれば最近出ているいわゆるハードウェアスタートアップの量産のほぼ一歩手前までができる」と語る。僕もそのリストの一部を読んだのだが、言葉の意味は分かるけど実物を見たことがない…というような試験設備も数多く並んでいた。

ハードウェアと聞くと僕らは機器そのものに目が行きがちなのだけれど、岩佐氏いわく配達までに壊れないよう梱包素材の選定だって重要だということで、そのための試験機までが用意されている。こういった試験機やハードウェア製作のための機器をスタートアップが一度に利用できる施設は国内では今までまずなかったそうで、岩佐氏は「1製品作るのに平均10カ月近くかかっていたが、うまくいけばそれが1〜1.5カ月短縮できるのではないか」と語る。

利用料金はStudioが月額1万5000円(初期費用3万円)から。オフィススペースのBaseと同時利用の場合、月額3万円(初期費用6万円)からとなる。この設備にたいしてこの料金設定でビジネスとして回るのか吉田氏に尋ねたが、「まだ投資フェーズだと考えている。施設単体でどうかというところだけでなく、ビジネスをより波及させることになる。まだまだ市場を広げて初めて価値を出す」とのことだった。

ハードウェアスタートアップ向けの支援プログラムも

また、ABBLab代表取締役の小笠原治氏は、ここでスタートアップ向けのシードアクセラレーションプログラム「ABBALab Farm Programing」を展開する。現在BoltやHighway1、HAXLR8Rなど、海外では20以上のハードウェア向けシードアクセラレーションプログラムがあるが、日本で大々的なプログラムはこれまでなかった(これについて小笠原氏は「これまでモノづくりができていなかった地域ほど、プログラムが活発だ」と教えてくれた。同時に「日本はモノづくりに強いが、個人や起業して作る人が少ない」とも)。

プログラムに参加するには、毎月開催される「トライアウト」と呼ぶプレゼンで合格する必要がある。合格すれば、業務委託や投資(基本的には評価額3000万〜5000万円で、50万〜1000万円を出資する)「スカラシップ」、自らが持つスキルでスカラシップを教育・支援して対価を得られる「フェロー」になることができる。なおプログラム参加者は毎月発表を行う場が用意され、そこで支援継続、支援追加、支援中止のジャッジを受けることになるという。プログラムはまず、並行して10社程度の参加を予定する。

プログラムでの目標を達成したプロダクトは、クラウドファンディングなどを通じて市場に出し、初期ロットの生産数を試算できるようになった時点で適量生産(大量生産の手前の段階、数を限定した生産)までを進める。もちろんABBALabや他のベンチャーキャピタル、事業会社と連携した追加投資も行うという。

岩佐氏は最後にこう語った。「大義名分にはなるが、海外は気合を入れてモノを作っている。我々はそれに負けてはいられない。日本はハードウェアの国だったのに海外にやられている状況。我々Cerevoが偉い、儲かっているとは言わないが、ハードウェアベンチャーとしては先を走っていて、ノウハウがある。ここにはDMM.comの機材があって、スタッフがいる。ここでこそ我々のノウハウが生きると思っている」


Kickstarterのようにプロジェクト調達が楽? 「3年前までそう思ってました」Cerevo岩佐氏

すでに別に記事にしているとおり、札幌で開催中のInfinity Ventures Summit 2014 Sprintのパネルディスカッションで、ハードウェアスタートアップの現場にいる4人のパネラーが、日本でハードウェアスタートアップをやる理由について議論した。

このパネルの最中、聴衆でありながら積極的に議論をしていた家電スタートアップのCerevo代表の岩佐琢磨氏が、ハードウェアスタートアップのファイナンスについて「プロジェクト単位か、会社単位か?」という点について興味深い持論を展開していた。

Cerevoは経営体制の変更と社員を約4倍にするということを昨日発表したばかりだが、takram desigin engineering代表の田川欣哉氏が「プロジェクト単位のファイナンスのほうが楽ですよね?」と水を向けると、岩佐氏はこう切り返した。

「3年前まで、そう思っていました。最初のファイナンスはシードも入れて1.2ミリオン(約1.2億円) 。そのときはワンプロダクトで、これが売れなきゃ終わりっていう感じだった」

2008年頃、ハードウェアスタートアップはプロダクトに投資するということはあっても、会社としての投資を受けるということは日本では難しかったと振り返る。そうしたこともあって、当初はプロダクトで投資を受けるプロダクト・ファイナンスだったが、今では「コーポレートファイナンスでいいと思っている」という。

Cerevoは、単体でUtream生放送をする「Live Shell Pro」やタブレットでライブ配信の映像スイッチをする「LiveWedge」など、市場自体はニッチだが、グローバルで見れば十分な規模となるような「グローバル・ニッチ」でやっていける手応えをここ2年ほど感じてるという。

「昨日、韓国の映像系イベントに行っていたんですが、ぼくらのファンが会場でCerevo製品を売ってくれたりしているんですね。あれ? オレたち卸してないよって」

Cerevoの個別製品というようりも、そのブランドにファンが付いているという。かつて「ソニーだったらワクワクするものを作ってくれるはず」というイメージがあったように、再び30年でグルっと回って、コーポレート単位のブランドで戦うのが有利ではないかという論点だ。最近、Kickstarterがプロジェクト・ファイナンスの典型として多くの華々しい成功が出てきているように見えるが、岩佐氏によれば、実際にはKickstarterから出てくるスタートアップの多くがブランドやコーポレートとして離陸していくところで苦労しているのだそうだ。

この岩佐氏のコメントに対して、「ひとりメーカー」のBsize代表取締役社長の八木啓太氏は、「ほかの産業だと、音楽にしても、ファッションにしても、ブランドを応援して、好きになって、そのコミュニティーの住人になりたいっていうのが大きい。ユーザーにコミットできるかというのが大事だと思っている。ハードウェアも同じ。繰り返せるかが重要と思っている」と応じた。Bsizeはたった一人の家電ベンチャーとして、最初はデザイン性に優れたLED照明をリリースしたが、その後も、木材を使っていて部屋に溶け込むワイレス充電器「REST」を2つ目のプロダクトとして発売。現在は、ソニーやパナソニックの技術者も入り、3つ目のプロダクトを準備しているという。「これまで家電は大きな投資をして、それを回収するビジネス。今は小ロットでスモールスタートできるようになったことが大きい」。

今後、Cerevoは人員を4倍に拡大してウェアラブルデバイスも開発すると発表したばかりだが、現在主力の映像系プロシューマ向け製品だけでなく、多様な製品ジャンルについて「グローバル・ニッチ」の開拓を進めていくことになりそうだ。


経営体制を一新するCerevo 人員を4倍に拡大してウェアラブルデバイスも開発へ

家電ベンチャーのCerevoが、6月より資本関係および経営体制を変更する。これまでCerevoに出資をしているイノーヴァ1 号投資事業有限責任組合、ネオステラ1 号投資事業有限責任組合、VOYAGE VENTURES、ならびに一部の個人株主が有する全ての弊社株式と、インスパイア・テクノロジー・イノベーション・ファンド投資事業有限責任組合の保有する優先株式をnomad代表取締役の小笠原治氏個人に譲渡する。

取得額や株式比率は不明だが、株式の3分の2以上を獲得することになるという。「岩佐さん(Cerevo代表取締役のの岩佐琢磨氏)と僕で会社の意思決定をできるようにする。既存株主としてはエグジットと言える額だと思う」と小笠原氏は説明している。またこれにあわせて取締役だった鈴木智也が辞任し、6月2日の株主総会の決議をもって小笠原氏が取締役に就任する予定だ。

Cerevoは今回の組織体制を機に開発体制を大幅に強化する。フロントエンドエンジニア、サーバサイドバックエンドエンジニア、電気回路設計エンジニア、組み込みソフトウェアエンジニア、デザイナーを中心に数十名を募集。Cerevoの社員は現在13人だが、2014年度内に50人体制にまで拡大する予定。さらに、今夏にも小笠原氏が設立する予定の20億円規模のハードウェアベンチャー向けファンドから資金を調達することを検討しているという。

小笠原氏はさくらインターネットの共同創業者であり、現在ではコワーキングスペースや飲食店運営、エンジェル投資家としても活躍する。2013年からは、ハードウェアスタートアップ向けの投資プログラム「ABBALab」なども展開している。

「今攻めないんだったらどこで攻めるんですか? という時期にきたと思う」Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏はこう語る。メイカーズムーブメントが起こり、ハードウェアスタートアップも徐々に増えてきた。また特に海外では、Kickstarterをはじめとしたクラウドファンディングでもハードウェア開発の資金が集まるようになってきている。これまで非常にニッチではあるが、世界的にニーズがあるという「グローバル・ニッチ」な家電を手がけてきたCerevoとしても、ここで組織強化をし、アクセルを踏んで事業のスピードを上げていきたいと語る。年内にはウェアラブルデバイスの開発にも取り組む予定だ。「みんなが欲しい物ではないが、ニッチな層ではものすごく欲しい製品になると思う」(岩佐氏)

今後Cerevoでは、自社製品の開発を進める一方で、これまで同社が得てきたハードウェア製造のノウハウを生かして、ハードウェアスタートアップ各社の開発支援なども手がける予定だという。


ウェアラブルなんてバズワードだ、まずはモノを作って出すべき–古参ハードウェアベンチャーの提言

ウェアラブルなんてテクノロジーの進化の一部を切り取ったバズワードでしかない。ハードウェアベンチャーはまず自らプロダクトを作って世に出して、そしてのノウハウを共有していって欲しい——2008年創業で、すでに古参のハードウェアベンチャーとなったCerevo代表取締役の岩佐琢磨氏は、イベントの壇上でこう語った。

これは、3月25日から26日にかけて開催されたイベント「Wearable Technology Expo in Tokyo 2014」での一幕。25日の午後に開催されたTelepathy CEO の井口尊仁氏と岩佐氏のセッションでの話だ。

ウェアラブルはバズワード

イベントのテーマでもあるウェアラブル。セッションの冒頭、井口氏にこの定義について尋ねられた岩佐氏は、この言葉を「あくまでバズワードに過ぎないのではないか」と語る。「NikeのFuelBandやJAWBONEのUP、Google Glassなどが出てきたということをウェアラブルと総称しているだけ。IoT(Internet of Things)もバズワードでしかない」(岩佐氏)。この流れの本質は、「モノ作りのハードルが以前に比べて下がった」ということにこそあるという。

iPhoneアプリを制作するように手軽にとはいかないが、ハードウェアの製造は5年前に比べれば格段にやりやすくなったと説明する岩佐氏。Bluetooth4.0 LEや省電力WiFiといった技術が出てくるという中で、一部の事象だけを切り取った見方が「どうやらウェアラブルが盛り上がってきた」という状況ではないかと続ける。

Cerevoが活動を始めたのは2008年。当時はまだクリス・アンダーソン氏が「MAKERS」を出版していなければ、ウェラブルデバイスも登場していない時代。岩佐氏はなぜハードウェアベンチャーを立ち上げたのか? その一番のきっかけはインターネットとの出会いだったという。

「インターネットに触れて後頭部をガーンと殴られるようなショックを受けて、世界や生活を変えたいと思った。だがもう楽天もヤフーも存在していたし、(スマホ)アプリでも、欲しいと思ったアプリは探せば見つかるような状況。でもハードウェアだとそうでもなかった。僕はネット連動の傘立てとかがあれば便利じゃないかとずっと言ってきた。雨の予報があれば青く光るとか。そんなものはまだ世の中にない。画面で完結しないことのほうがインターネットには多い」(岩佐氏)

「モノを作った人」こそが語るべき

モノ作りのハードルが下がったとはいえ、デバイスの種類によってはその難易度は異なる。たとえばTelepathyのようなアイウェアであれば、Cerevoで受託開発を請け負っても5000万円以上の規模になるという(ただしここは井口氏と岩佐氏の間で見解が違っており、井口氏は「1億円でも難しい」と語る一方で、岩佐氏は最初井口氏に構想を聞いた時点で「8000万円でできる」と語ったと主張していた)。

だがMoffやFuelBandのような、Bluetoothや簡素な液晶の組み合わせであれば、数千万円前半でも製造が可能になってきている。岩佐氏は「実際にはやらないが、仮に『今からFuel Bandのコピー品を作って欲しい』と言われた場合、千何百万円の資金と半年の期間で作れるのではないか。その金額ならエンジェルインベスターからのファイナンスだけでも実現できる」とも語る(なお、セッション後に岩佐氏に確認したところ、前述の金額はあくまで開発費であり、在庫品を抱えるコストなどは別であると付け加えられた)。

ではモノを作ればそれだけでいいのか? 井口氏は「ハードウェアは製品開発だけではなく、製造流通、販売のディストリビューションという課題がある」と指摘する。岩佐氏も、「無給でもいいからアプリ作るというスタートアップと(ハードウェアの製造が)違うのは、金型でも何でも外に出て行くお金がある。そうなるとベンチャーキャピタルやエンジェルからのファイナンスはどうしても必要。身も蓋もないが、1にお金が必要だ」と語る。

岩佐氏は、投資家から資金を獲得する際に聞かれることは、「プロダクトを作れるのか」そして「そのプロダクトは売れるのか」の2つだけだと続ける。「後者に関しては、『分かってくれ』と説得するのは無理なので、ケースバイケースで実証するしかない」と語る岩佐氏。たとえばCerevoは、その売り上げの半数以上が海外なのだが、それは自分たちしか作れないものを作っているからだという。「みんなが『売れる』と思うものものはみんなが作る」(岩佐氏)

だからこそ重要になるのは、もう1つの課題である「作れるのか」をいかに解決するかだという。どこの工場の品質が高い、どこのメーカーのチップが安価か——部品や工場、資金繰りといった泥臭いことにどこまでこだわれるかが大事だという。岩佐氏は「結局はものを作って出せた人だけが話せる。ウェアラブルはバズっている。『未来だ』とも言われるが、ちゃんと商品にして出して、手に持って語るのが大事」と語った。

ノウハウを共有してグローバルで戦え

井口氏は「正直に言うが、ログバー(のRing)だってTelepathyだって、最初に『これをやるぞ』と言ったときは誰も作れなかった。そこで事業計画を書いて、製品計画を書いて、(VCに)持ち込むのはある意味気違いざたではないか」と岩佐氏に尋ねる。

岩佐氏は「自分たちも最初はそうだった」と振り返るが、プロダクトを出した今となっては、「そのノウハウを教えるので、みんな来て欲しい」と語る。井口氏によると、岩佐氏はTelepathyを創業する際に相談した人物の1人であり「貸し借りで言うとめちゃくちゃ借りてる関係」(井口氏)とのことだが、岩佐氏はその“借り”を自分に返すのではなく、「井口さんもプロダクトを出して、プレーヤーになって欲しい」と続けた。

井口氏は、先日米テキサス州オースティンで開催されたSouth by Southwest(SXSW)でも岩佐氏と「グローバルで日本人がどう戦うのか? という点では情報を融通していくべき」と語りあったと振り返る。そしてまた、工場やチップメーカーとの接点作りの難しさにも言及。ベンチャーと彼らがつながることで、より優れた製品が生まれるとした。

早く見たいのはTelepathyのプロダクト

このセッションで一番で印象深かったのは、岩佐氏が「結局はものを作って出せた人だけが話せる」と発言したくだりだった。チップや工場の価格にまで言及した際、井口氏はセッションの趣旨に沿って会話の軌道修正をすべく「カッティングエッジなカンファレンスで、売り掛けとか工場とか資金繰りといった泥臭い話が——」と発言したが、岩佐氏はそれを遮るかたちで「(泥臭い話が)大事です」と断言し、前述の「ものを作って出せた人だけが…」という話をはじめたのだった。

正直なところ、僕はTelepathyがプロトタイプの制作にあたっていくつかのトラブルを抱えている、と複数人の業界関係者から聞いていた。直近のSXSWでのデモも非常にクローズドな形で実施されたとのことだし、今回のセッションでもプロダクトが披露されることはなかった。実はTelepathyについては、ここ最近の開発状況も、井口氏の“泥臭い”努力、苦労も聞けずじまいでいる。

周囲からの話ばかりが聞こえてくる状況だからこそ、きっちりプロダクトを完成させてみんなの前に披露してくれるのを楽しみしている。ビジョンについて語るだけでなく、日本人が手がけたウェアラブルデバイスが本当に世界を席巻するさまを見たい。2013年11月に開催された「TechCrunch Tokyo 2013」で2014年内にプロダクトを発売すると語ってくれたTelepathyの今後を追いかけていきたいと思う。もちろんCerevoも、これから登場するハードウェアベンチャーも同様だ。