アプリの使用時間を追跡したり、ペアレンタルコントロール機能を実現しているいくつかのサードパーティアプリのデベロッパーは、Appleがこの数週間でアプリの審査を厳しくしているのは偶然ではないと危惧している。Appleは、iOS 12に独自のスクリーンタイムの追跡とペアレンタルコントロール機能を組み込んで発売した。それとほぼ時を同じくして、サードパーティ製のスクリーンタイムアプリに対するAppleの審査は厳しくなり、場合によっては不合格となったり、App Storeから削除されたりしている。
それに該当するデベロッパーは、スクリーンタイムを追跡するために、さまざまな方法を駆使してきた。というのも、そのデータを得るための公式な方法が用意されていないからだ。たとえば、バックグラウンドでの位置情報検出や、VPN、さらにはMDMベースのものがあり、複数の手法が組み合わせて使われることもある。
数人のデベロッパーが、ここ2、3ヶ月の間に集まって、自分たちが抱えている問題について話し合った。しかし、その内容を公表しようという人ばかりではない。結局のところ、Appleを公に批判することに抵抗を感じるデベロッパーは多い。特に彼らのビジネスが危険にさらされているときにはなおさらだ。
しかし、彼らの生きる道が閉ざされたと判断したときに、ブログでこの問題について報告した会社も何社かあった。
たとえば10月には、Muteと呼ばれるデジタルデトックスアプリが、App Storeから削除されたことを公表したが、それは他の多くのスクリーンタイム追跡アプリが警告を受けたのとほぼ同時期だった。
その後、3年間も使われてきたスクリーンタイムアプリのSpaceも、11月になってApp Storeから削除されたことを明かした。
それだけではない。名前を出されることを望まない他の何社かも、審査不合格に直面していた。
我々が知り得た範囲でも、何社かのデベロッパーは、App Storeのデベロッパーガイドラインの2.5.4条に違反していると告げられている。これは、マルチタスクで動作するアプリが、バックグラウンドで位置検出などを実行してもよい条件を規定したものだ。細かく言えば、そうしたデベロッパーは、「位置情報機能とは関係ない目的で位置情報のためのバックグラウンドモードを濫用している」と指摘されたのだ。
他に、デベロッパーガイドラインの2.5.1条に違反していると言われたデベロッパーもある。それは、公式のAPIを、承認されていない方法で使ってはならないとするものだ。
さらに他のデベロッパーは、彼らがスクリーンタイムやペアレンタルコントロールを実装している方法は、もはや許可されないとはっきり告げられた。
奇妙なことに、SpaceとMuteが公式ブログで不平を表明した後、彼らはAppleから連絡を受け、彼らのアプリはApp Storeに復活することになった。
Appleの担当者は、彼らがデータのプライバシーをどのように扱っているかを尋ね、位置情報ベースのサービスを必要とするユーザー向けの機能がなければ、そのような手法を採用していることを正当化することはできないと念を押したとされる。
SpaceのCEO、Georgina Powellは、「もちろん、Appleが我々の事業を継続できるようにしてくれたことには、大いに感謝している」と言う。
しかし、それらは個別の案件ではないのだ。サードパーティ製のスクリーンタイムアプリの業界では、何年もの間、何の問題なく動いてきたアプリが、精査の対象となりつつある。
しかし、その一方で、審査を通過するアプリもある。まるでAppleは、個別の案件として判断しているかのようだ。
たとえば、TechCrunchがこれまでの4年間に何度も取り上げ、Apple自身がフィーチャーしたこともあるアプリ、Momentも、Appleから連絡を受けたという情報がある。
AppleはMomentにいくつかの疑問を抱いたものの、彼らの答えはAppleを納得させたのだった。このアプリは、削除されていないし、その危険もない。
このように審査が厳しくなっていく状況について不安を感じているかという質問に対し、Momentのクリエーター、Kevin Holeshは「Appleと話をして、Momentの将来が安泰だと感じた」と答えている。しかし彼は、「この問題が進展するについれて、今後どうなっていくのか、ほとんど静観しているところだ」と付け加えた。
ハードウェアデバイスCircle with Disneyと組み合わせたスクリーンタイムアプリのメーカーも、何も影響はないと言われている。(とはいえ、99ドルで購入したホームネットワークのデバイスが突然機能しなくなった場合の消費者の反感も想像してみよう)
すべてのアプリが締め出されたわけではないとしても、AppleはMDM(モバイルデバイスマネージメント)やVPNを利用して動作するスクリーンタイムアプリを問題視しているように思われる。
たとえば、Kidsloxのデベロッパーは、MDMとVPNの組み合わせによって、スクリーンタイムとペアレンタルコントロールを実装していた。このアプリは、デバイスがVPNに接続している時間を監視することで、スクリーンタイム機能を実現していたが、それはAppleがもはやしてはならないと言っている。
KidsloxのCEO、Viktor Yevpakは、スクリーンタイムのためだけにVPNが必要なのではないと説明する。このアプリは、VPNを通して接続することで、ウェブサイトをブラックリストと照合し、子どもたちが安全にブラウズできるようにする機能も備えている。
「どこかに妥協点が必要だ。でなければ、会社全体を殺してしまうことになる、と言ったんだ」と、Appleのアプリレビュー担当者との会話の内容について、YevpakはTechCrunchに明かした。「このアプリには、30人以上の人間が取り組んできた。それでも止めてしまえというのか」とも言ったと。
Kidsloxという1年の実績のあるアプリのアップデートが何度も拒絶された後、そのデベロッパーは、ついに会社の公式ブログという手段を通して、これはサードパーティ製のスクリーンタイム管理の業界の「計画的破壊」であると、Appleを非難した。
実際に話を聞いた多くの人と同じように、彼もAppleの審査が厳しくなったのは、iOS 12が自らスクリーンタイム機能を装備したのと時を同じくしていると、強く信じている。
Kidsloxは今もApp Storeで入手可能だが、そのアップデートは未だ承認されていない。そろそろ時間切れなので、会社のビジネスの方向転換について話し合っているところだと、Yevpakは明かした。
もちろん、Appleはスクリーンタイムの追跡やペアレンタルコントロールのためにVPNが利用されることは意図しておらず、ましてやエンタープライズ向けのMDM技術が、コンシューマベースのアプリに実装されることは望んでいない。そして、そのようなアプリで、これまでそうした利用方法を許してきたということは、Appleはそのデバイスがコンシューマーにどのように使われるかをコントロールすることをあきらめていたことになる。
しかし、そのポリシーはApp Storeの承認と矛盾したものだった。Appleは、何年もの間、ガイドラインに違反するような方法でMDMを使ったスクリーンタイムアプリを通過させてきたが、そのことにはっきりと気付いていたはずだ。
その典型的な例の1つがOurPact(特にOurPact Jr.の方)だ。そのアプリは、MDM技術を使って、保護者が子供にスマホの特定のアプリを使わせるかどうか、テキストメッセージをブロックするか、ウェブをフィルタリングするか、その他さまざまなことを、時間帯の指定も含めてコントロールできるようにする。そのアプリは、保護者用に設計されたものも、子供向けのものも、すでに4年間も使われてきた。OurPactによれば、Appleはもはや、そうした目的のためにMDMを利用することを許してくれなくなったという。
「われわれのチームがAppleに確認したところによれば、iOSの純正スクリーンタイム以外のアプリが、他のアプリとコンテンツへのアクセスを管理することは、Apple製デバイスのエコシステムの中では許されない、ということだ」と、OurPactの親会社であるEturi Corp.のAmir MoussavianはTechCrunchに対して文書で明らかにした。「青少年のスクリーンタイムの管理が必要不可欠なものであると認識され始めた今になって、AppleがiOSのペアレンタルコントロール市場を解体することを選択したことは、返す返すも残念だ。」
同社によれば、子供のデバイス用に設計されたアプリ、OurPact Jr.は、この変更による打撃を受けるという。しかし、保護者用のアプリは動作し続けることができそうだ。
Appleが、これらの「ルール破り」のアプリを許可するという寛容性を見せたことは、ある条件ではMDMの利用が暗黙に認められている、というメッセージを、新たにスクリーンタイムの世界に参入しようとするデベロッパーに対して送ってきた。もちろん、Appleによる契約条項にそう書いてあるわけではない。
ACTIVATE FitnessのデベロッパーAndrew Armorは、何年も前から他の多くのデベロッパーがそうしていたのを見て、iOS用のスクリーンタイム管理のためにMDMを導入することを決断した、とTechCrunchに語った。
「私は、このモバイルアプリの開発に、これまでの蓄えのすべてを注ぎ込んだんだ。このアプリは、家庭向けに、スクリーンタイムの管理と運営のためのより優れた方法を提供し、同時に体を動かすことを促すものになるはずだった」と、そのアプリがApp Storeから拒絶されたことについてArmourは語った。「2年もの間、必死の思いで仕事をしてきたのに、ACTIVATE Fitnessを世に送り出すという、私の起業家としての夢は絶たれてしまった。それもAppleの欠陥のある不公正な審査による拒絶のためだ」と、彼は嘆いた。
Appleは、正式なスクリーンタイム用のAPIを公開したり、MDMやその他の技術を使うにしても、スクリーンタイムアプリ用の例外枠を設けたりすることもできるはずだ。しかし、その代わりに、独自のスクリーンタイム機能を実現し、サードパーティに対しては通告するという決断をした。それは、今やApple自身がiOS上のスクリーンタイムの監視機能をコントロールして、サードパーティ任せにはしたくないという意志の現れのように見える。
結局のところ、この決断は一般のユーザーにとってもメリットがない。なぜならAppleが提供する機能は、ペアレンタルコントロールの方に焦点を合わせたMDMベースの方法が提供する機能に比べて劣っているからだ。たとえば、サードパーティ製のスクリーンタイム機能を利用すれば、保護者は特定のアプリを子供のホーム画面から見えなくしたり、そのアプリが動作する時間帯を制限することもできる。
Appleは、この件に関するコメントを拒否した。
しかしながら、Appleの考え方に精通した情報筋によれば、これはサードパーティのスクリーンタイムアプリを狙い撃ちにした締め付けではないという。そうしたデベロッパーに対する差し止めは、進行中のAppleのアプリ審査プロセスの見直しの結果であり、そうしたアプリが違反していたルールは、何年も前から存在していたことに注意すべきだというのだ。
それも一理あるだろう。Appleは、いつでもそのルールの適用を強化することができる。そうしたルールに違反するアプリを開発することは、けっして素晴らしいアイディアとは言えない。特に、Appleが意図していない方法であることを知りながら、デベロッパーが意図的にそうした技術を濫用しようとする場合にはなおさらだ。
とは言え、サードパーティ製のスクリーンタイムやペアレンタルコントロールアプリをApp Storeから駆逐するという決断は、そうしたアプリを実際に使っていたユーザーへの影響を考えると、後味の悪いものになる。
最近の数ヶ月で、FacebookやGoogleなどの大手テック企業は、我々が使っているデバイスやアプリには中毒性があり、精神的健康に対して悪影響もあるという認識を新たにした。彼らは、この問題に対処するために、さまざまな解決策を提示してきた。シリコンバレー全体が気付く前に、何年も前からまさにこうした問題に取り組もうとしてきたアプリを、今になってAppleが抑え込もうとしているように見えるのは、あまり良いことではない。
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(翻訳:Fumihiko Shibata)