正直に言えば、このiPad Airには最初少し戸惑った。AppleのiPadのラインナップは、追加されるたびに、さらに多くの価格帯を埋め尽くし、競合他社が参入する余地を少なくしている。しかもそれだけではなく、ラインナップも複雑化させている。
適正なデバイスを買おうとしている消費者にとって、2022年のiPadは少し戸惑いを招く。もし安価なものが欲しいなら、普通のiPadを買えばよい。子ども用に買うものだ。ハイエンドならiPad Proを黙って選ぶだけだ。オフィスで使う人やクリエイティブな仕事をしている人、ノートパソコンの代わりとして使っている人などがその対象となる。
今回登場した、AppleのM1チップを搭載したiPad Airは、これまでの機種以上にパワフルなものになった。最も厳しいものを除くほぼすべての操作で、iPad Proに匹敵する性能を発揮する。ベンチマークの結果をみる限り、中間程度のグレードが欲しい人にとって、iPad Proより200ドル(約2万4000円)安い新しいiPad Air(日本では税込7万4800円から)は、最高のパフォーマンスオプションになる。では、200ドルと引き換えに何を失っているのか?(なお日本のストアでの価格差は2万円)。ディスプレイには、円滑な表示を行う120hz対応のProMotion(プロモーション)技術が搭載されていない。iPad Proの強化されたカメラアレイも搭載されていない。
また、ストレージ量もおおよそ半分だ。おそらくこれが、iPad Airをラインナップに並べる際の最大の弱点だろう。まあ次のiPadとの価格差がこれだけあれば、基本構成で64GBのストレージしか搭載していない理由も納得だ。しかし、基本構成より上を考え始めると、iPad Proに飛びつかない理由を見つけることはすぐに難しくなる。
そのことは後で少し考えることにして、まずは新しい機能と仕組みについて整理しておこう。
まず、Appleの第1世代「インハウス」シリコンであるM1が手に入る。これはすごい。2021年M1を採用したiPad Proのラインアップと基本的に同じ性能ということだ。そして従来のiPad Airと比較して、約60%のスピードアップ が果たされている。この性能は、M1版MacBook Airに匹敵するもので、それほど驚くべきことではない。だが、ミドルレンジのiPadで大きな性能ロスがないのはうれしい。
フロントカメラも12MPにアップグレードされ、以前のAirから確実に改善されている。FaceTime(フェイスタイム)には、2021年のiPad Proで採用されたセンターフレーム機能の強化が施されている。他のレビューでも書いたように、これはビデオチャットを頻繁にする人にとっては、かなりの改善につながる。iPad Airをランドスケープモードにしたときに、自動トリミング機能とトラッキング機能によって、カメラの片側が空く奇妙な配置が軽減されるからだ。全体的に角度が自然で、ぎこちない感じがしない。色合いやコントラストに関わるビデオ通話品質も向上している。
画像クレジット:Matthew Panzarino
以上のことから、iPad Airは、Appleが現在市場に出しているFaceTimeデバイスの中でも高性能で多機能なものの1つになった。
2022年のカラーも注目すべきだ。私はブルーモデルを試用したが、これまでのブルー仕上げの中でも特にきれいで良い仕上がりだった。明るく、きらびやかで、本当にきれいに仕上げられている。基調講演を見ていたときには色に少し疑問を感じたが、実際に見てみるととても良いものだ。
画像クレジット:Matthew Panzarino
Touch IDはこれまで同様に高速に動作し、起動時に2本の指を登録するよう促されるため、初めてのユーザーにとっては、縦向きでも横向きでも、腕を捻ることなしに簡単にiPadのロックを解除できるようになるはずだ。利便性やシームレスさではFace IDに勝てないが、Touch IDが電源ボタンに搭載されたことで、ほとんどのユーザーにとっては大きな違いを感じさせないものになった。
AppleのiPhone以外のポータブルラインナップでのUSB-Cへの切り替えは、2020年のiPad Airで行われた。USB-Cの普及にともない、必要ならどこでもiPadを充電することがこれまで以上に簡単にできるようになった。デスクトップとの同期・転送を試したところ、Lightning対応デバイスよりもはるかに速いことがわかった。でも、これを行うカジュアルな消費者の数は日々減っていると思う。それよりも、MDMソリューションを使用してメンテナンスと導入を行うために、ドッキングされたiPadを定期的に消去して再インストールする可能性のある法人顧客にとって、これははるかに重要な問題だ。そのような顧客は、今回のiPadがより速く、より汎用的なポートを手に入れたことを大いに喜ぶだろう。
最後のポイントは、iPad Airの位置付けに関する質問の核心を浮かび上がらせる。iPad Proを800ドル(日本では税込9万4800円)で買う代わりにiPad Airを600ドル(日本では税込7万4800円)で買う顧客は誰だろうか?
Creative Strategies(クリエイティブ・ストラテジーズ)のCEOで主席アナリストのBen Bajarin(ベン・バジャリン)氏は、iPad Airの市場について「iPad Airは、高等教育機関や最前線で働く人々や高度なモバイルワーク環境で働く人々が有能なタブレットを必要とする一部の企業で、良い市場を見つけたと思います」と語る。
「M1を搭載した新しいiPad Airは、性能の向上と優れたバッテリーライフによって、さらに多くの法人購入者にアピールするでしょう」。
画像クレジット:Matthew Panzarino
さて、200ドル(約2万4000円)が200ドルであるということも重要なポイントだと思う。これは決して少なくない金額だ。また、バジャリン氏が指摘するように、このデバイスの顧客の多くが大規模なデプロイメントのために購入するのであれば、その差額の累積はすぐに大きなものとなる。
また個人で購入する場合、予算が限られていて、Proとの価格差にどうしても抵抗がある場合には、これとキーボードがあれば、Proが提供する機能の9割は手に入れることができる。これまでProMotionを使ったことがなければ、おそらく物足りなく思うことはないだろう。しかし、もし使ったことがあるなら、大きな喪失を感じることになる。iPad Proと並べてテストしたところ、ProMotionは、特に長時間のブラウジングやゲーム、ドローイングなどを行う際の使い勝手で、明らかに優位であることがわかった。高級なディスプレイほど高価で、実現が難しいのには理由があるのだ。とにかく優れている。しかし、AppleのLiquid Retina(リキッドレティナ)ディスプレイの色再現性などは、ここでもしっかりと発揮されている。
iPad Airと11インチのiPad Proは価格も性能も近く、iPad Miniも価格的にはそれに続いているため、400ドル(約4万7000円)を超えるあたりから、ラインナップが少し混み合ってくる感じがする。しかし、価格的な位置付けはさておき、iPad Airは非常に高機能で、しっかりした感触があり、使い心地の良いデバイスだ。繰り返しになるが、ProMotionを搭載したスクリーン、特に10インチ以上のスクリーンを使う機会がない方は、ここでは違いを感じないかもしれない。
画像クレジット:Matthew Panzarino
現在、iPadのラインナップが少し混雑していると感じる理由の1つは、AppleのiPad Proの2022年版モデルがどのようなものかまだ見えていないことだ。第3四半期になったら、新しいモデルが登場し、機能強化が図られ、小型のiPad ProとiPad Airの価格差が少し広がる可能性は十分にある。
2021年登場したiPad miniに、ヒントを見ることができるかもしれない。もちろんマジックキーボードはないが、主に本を読んだり、ビデオを見たり、メディア消費のための携行デバイスとして使ったりしている人にとっては、miniはすばらしい選択肢だ。iPad miniは最安のモデルではないので、低価格のiPadとまったく競合することなく、高価で高機能なものにすることができる境界に居るという点で興味深い。しかしiPad Airは、上のProと下のminiに同時に競合している。
そして2022年も、毎年と同じように、Appleのタブレット端末のラインナップは、市場で購入する価値のある唯一の製品であるという事実に立ち返ることになる。たとえ日頃はAndroidを中心とした携帯電話を使っていたとしても、他のプラットフォームを試してみたいと思っても、iPadのような機能、使い方、信頼性を提供するタブレット端末の選択肢は他にない。
そのためAirは、価格は似ているものの、(依然として売れ筋の)エントリーレベルの第9世代iPadを除けば、Appleのベストセラーの1つになる可能性があるので興味深い。とはいうものの、11インチiPad Proは、ストレージ容量とより良い画面を考えると、予算に敏感なユーザーの一部を誘惑するのに十分な価格に近い存在だ。
関連記事:【レビュー】iPhone SE(第3世代)は観念的なスマートフォンの理想像
画像クレジット:FMatthew Panzarino
[原文へ]
(文:Matthew Panzarino、翻訳:sako)