AI革命は人間性回復のための契機となるか?

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編集部注:本稿執筆はAidan Cunniffe。氏はDropsourceの共同ファウンダー兼CEOを務めている。

1万年前、職業には3種類しかなかった。すなわち狩猟、採集、そして育児だ。

そこから、職業の種類は大幅に増えていった。種類が増えるだけではなく、どんどん細分化されもした。

人類の進化と、それから引き起こされたイノベーションの結果として現状がもたらされたと言えよう。人類が進化するに連れ、人類が望むもの(ないし必要とするもの)も変化していったのだ(もちろん望みを実現するための手法なども変化していった)。

当初は人類も「生きる」ことを最優先に行動することが必須だった。しかし徐々に「生きる」こと以外にさまざまなニーズに注力できる状況となり(そのような状況を自ら生み出し)、そのような中から仕事についてもさまざまなものが生まれてきたのだった。生きることに直結する行動から離れ、そして繁栄を手に入れたのだった。20世紀になって、人類は空を飛んだり、月に到達したり、あるいはデジタル革命などを引き起こすこととなった。もしも人類が知の最前線を探るような余力をもたなければ、そうしたことも起こりえなかったに違いない。

そして私たちは、また新しい時代を迎える、いわば革命前にあるように思われる。AIの真価により、ロボットがさまざまな仕事を担う時代になって、人間でなければ不可能だろうと思われていた仕事もロボットのものとなりつつある。

ある意味で、「人間の領域」に対する侵犯は既に始まっているのだ。

90年代には「不可能」とされていたAIの進出

未来がいったいどのようなものになるのかについて、実は現在の様子を見ることでうかがい知ることができる。人間にかわり、AIが任される仕事範囲が大いに広がってきているのだ。

キーワードは流行りの「深層学習」で、これによりAIは分析・判断面でも人間を凌駕しつつある。X.aiなどの企業は、組立ラインのみならず管理業務においてもAIを活用しつつある。また、よく例に出されることではあるが、ジャーナリズム業界においても革命がおきつつあり、AIによって記事が執筆されるような事態となっている。

ロジックに基づいて行うことのできる仕事について、AIは既に人間に近いクオリティを示すまでになっている様子だ。さらにAIは利口になってきていて、できる仕事も増やしつつある。担いうる職種はほとんど全分野におよびつつあると言っても過言ではない。たとえば会計業務から運輸系サービスにも進出しており、また情報技術分野でももちろん能力を発揮しつつあり、セキュリティ分野での有効性が証明されつつある。

AI革命は、はやければ15年のうちにやってくる。

ただ、AIにもまだ今後の課題として残されている分野もある。すなわち「創造性」が必要となる場面で、これについてはまだまだであるのが現状だ。

人間が行う作業を大きくふたつにわければ、創造性を必要とする分野と、そこで生み出されたものを実現する(実装する)分野にわけることができるだろう。私たちは「創造性」を使ってモノやストラテジーなどさまざまなアイデアを生み出す。そしてそれらを「実現」するわけだ。「実現」という場合、何か物理的なモノを作ることもあれば、プログラムを書いたり、あるいはサプライチェーンを構築したりということがある。いずれにせよ「創造」した物事を「実現」しているわけだ。

その「創造性の実現」のために「テクノロジー」を用いる。かように「テクノロジー」の活用範囲は「実装」面にあり、まだまだ「創造」の面では活用できないケースが多い。

人間の領分

AIの進化は、人間社会における「仕事」の性質も変えることになりそうだ。仕事とはすなわち「創造性」を必要とするものとなるだろう。あるいは「創造性」はさほど必要としないものの「人間性」が求められるものも仕事として存続しそうだ。

「仕事」がそのような変化を被るなかで、「教育」の意味も変わってくるに違いない。たとえば「テスト」も暗記する能力を問うものは減り、創造性を問うものとなっていくことだろう。人間に求められるのは、コンピューターに担えないことであるからだ。

進化するコンピューターないしAIの中で、「人間」が求められるのはどのような分野だろうか。

遠い将来のことはわからないものの、近未来までの範囲では、人間によるクリエイティビティを必要とする分野はまだまだ多いように思える。

エンターテインメント:AIは人類のためにパンを焼くことはできても、サーカス的娯楽を提供するようになるのはまだ当分さきの話だろう。映画やテレビ、ビデオゲームの分野はまさに人間が活躍する分野として存在している。さらにVRという新しい分野も生まれ、これまで以上に人気を集める技術として発展する可能性をもっている。ひとたび体験すれば決してやめたくなくなる没入型の世界を提供する。

サービス業界:実際のサービスはコンピューターが提供することになるにせよ、「人間」の存在が求められる分野もある。いわば人間がAIの「外交大使」的な役割を果たすわけだ。家庭や職場でAIテクノロジーを使うことの利便性や安全性を伝えることが、まず最初の重要任務となる。

コンピューターの教育係:サービス業界の「大使」的役割にも似ている面もあるかもしれないが、こちらは特定の業務に精通し、かつコンピューターが業務を行えるようにするトレーナーの役割をも担う。たとえばコンピューターに壁塗りの作業やエンジンの修理を行わせるような場合、何をどのように行うのかについて教えてやる必要がある。AIを相手に行うとなれば、動物の飼育員のような機微が必要となる。

ビジネス開拓:AIは現在のビジネスの様子を大きく変えることになるだろう。製造管理やマーケティングないしセールスはAIの仕事となり、起業家としての役割が増していくこととなる。ビジネスの運用主体が企業ではなく、個人の手に渡るケースが多くなるだろう。

現在のところ、何かモノを作りたいような場合は3Dプリンターを使って設計から製造までを自分自身で行えるようになった。ただ、販路拡大となると人力に頼る面が大きいのだ。AIが発展することで、製造管理を行いつつ輸送管理も行い、そして適切なマーケットキャンペーンを実施して、それら一切にかかわる財務管理などもAIにて行うことができるようになるだろう。

大企業が(たとえば潤沢な広告宣伝費などを使って)得ていた優位性などは消え失せていくこととなる。AIアシスタントは広告やブランドなどに関係なく、たとえ作り手が12歳の女の子であったとしても、そのプロダクトがニーズに応じたものであればレコメンドしてくるということになるだろう。

新しいエコノミーの誕生

AIの普及により仕事がなくなった人のすべてが、異なる分野における仕事を行うことができるというわけではないだろう。多くの仕事が永遠に失われてしまうという話もある。それにともなって家計収入は大幅に減ってしまうことともなるだろう。

機械による作業はたいていの場合、人間によるものよりも安上がりになるはずだ。労働単価は下がり、収入はこの面からも低下する。ただし生産にかかる費用も低下するわけで、モノやサービスの値段も下がることになる。すなわち職を失っても生活水準がむしろ向上するような社会に繋がっていくだろうという考えも広く見られるようになってきている。

新しい仕組みへの移行は迅速に成し遂げられるものと思われる。産業革命には1世紀を要したが、AI革命はこの15年のうちに世界中に広がっていく可能性がある。AI革命の障害となるのは、コンピューターに自分の存在を脅かされるのではないかと考える人々の気持ちだろう。

AI革命は、技術の進化により必然的にもたらされるというわけでもないかもしれない。政治や文化的にもAIの進出を受け入れるようになって、はじめて実現するのかもしれない。そうした変化を受け入れる気持ちが人々の中に育てば、きっと人間性の本質たる創造性を存分に発揮できる未来が訪れるのではないかと期待している。

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(翻訳:Maeda, H

テック業界の女性雇用をめぐる本当の問題とは?

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【編集部注】この記事の執筆者、June Sugiyama氏はVodafone Americas FoundationのDirectorを務めている。

私は20年以上をテック業界で過ごし、現在はシリコンバレーで新たなイノベーションを促進すべく、ある財団法人に所属している。これまでの活動の中で、多くの起業家との協業や社会的貢献を目指すいくつものスタートアップの成長促進をサポートする機会があったが、女性として今もテック業界で働いていること、更には指導的立場にいることの意味が、私にはよくわかる。

今では、紅一点であることに慣れてさえきた。そして、設立間もないスタートアップや、巨大なハイテク企業に入った際に、受付の女性を見て、彼女がオフィスで唯一の女性であると気付ことにも違和感を抱かなくなった。これまで訪れた交流会やネットワーキングイベントのいくつかは、志を同じくする技術者の集まりというよりも、男子学生の社交クラブのように感じた事もある。誤解しないで頂きたいのは、優秀なスタートアップは存在し、製品やサービスはマーケットの要望に応え、世界をより良いものにしているという意味で、成すべきことは成されている。ただ、もっと業界を良くすることができるのではないだろうか。

何がシリコンバレーから、またテック業界全体から女性を遠ざけているのだろうか?男性優位の環境に、有能な女性が威圧されてしまっているのか?米国における大学卒業生のうち、半数以上を女性が占めているにも関わらず、大手テック企業における女性社員の割合は30%でしかない。

広く報道されている、雇用をめぐった「タレント争奪戦争」や、法的措置につながってしまうような採用プロセスが蔓延する業界において、この事実は警告として捉えられるべきだ。一方で、大手テック企業が女性求職者を締出したり、無視したりしているという訴訟さえ起きているなど、かなりの二極化が見られる。

この問題は複雑で、答えが一つにまとまらないのは目に見えているが、テック業界で働く女性の数を増やすためには、短期・長期の両時間軸から問題をみつめ、制度的に女性の締出しを生じさせている壁を打破する必要がある。

テック業界における問題

最初のステップは、問題があるという事実を認めることだ。シリコンバレーの大企業の一部は、雇用における多様性の欠如の責任を負うべき立場にありながらも、そのうちの多くは、未だに採用方針は公平で、労働環境も女性にとって問題ないものであると考えている。しかし、驚くべきスピードで女性の流出が起きている事が数字からわかる。実際にハーバード・ビジネス・レビューよれば、STEM分野(理数工系分野)で働く女性の50%が、将来的には不利な労働環境を理由に職場を去ることとなる。

ほとんどの女性が、性別によるあからさまな差別を受けることはないものの、その代わりに、表面には現れない女性軽視への直面から孤独を感じることがある。全てのテック企業にとって、この問題を認め、真正面から取り組む時が来たのだ。女性に対してオープンな文化を作り、彼女たちのキャリア形成のサポートができるような採用方針を、男性も一緒になって実施していくべきだ。

これまで訪れた交流会やネットワーキングイベントのいくつかは、志を同じくする技術者の集まりというよりも、男子学生の社交クラブのように感じた事もある。

 

仕事への柔軟な復帰ができるような、画期的な産休制度を提供することで、優秀な女性を社内に留めることができる。また、これによって産休からの復帰後や、キャリアか子供かの選択に迫られた女性たちのバーンアウトを抑制することもできる。更に、より女性に優しい環境づくりに向けて、意識的に女性を指導的立場に置くという努力も必要だ。様々な人がその設計に関わってこそ、全ての人にとってより良いテクノロジーが生まれるというのは言うまでもない。(テック企業の皆さん、マーケットの半分は女性ですよ!)。

VCサイクル改革の必要性

女性起業家にとって、ベンチャーキャピタルからの資金調達は頭痛の種となっており、このままでは女性が次世代のテック企業を率いていくのは難しい。ベンチャーキャピタルのパートナーのうち、わずか9.7%が女性で構成されていることを考えると、2014年に設立されたベンチャーキャピタルが出資する米国のハイテクベンチャーのうち、わずか8.3%にしか女性CEOがいないというPitchBookの調査結果も不思議ではない。

民間VCの出資プロセスにおける男性優位の構図は、様々な話題が飛び交うテック業界でもあまり話されることのないトピックの一つだ。男性のベンチャー投資家は、男性主導のスタートアップに投資し、その取締役に名を連ねる。更には、投資を受けたスタートアップが、男性主導の一大テック企業へと成長していくのだ。男性優位のテック企業の悪循環を断ち切るためには、この男性優位のVCサイクルにも目を向ける必要がある。女性を加入させることで、VCは人口の残り半分に役立つよう投資先を多様化することができるのだ。

若者をターゲットに

人材のパイプラインにより多くの、才能ある若い女性を送りこむことが我々には必要であり、そうすることで業界に対して長期的かつ大きな影響を与えるチャンスが生まれる。Girls Who Codeによれば、女子中学生のうち74%がSTEM科目への興味を示しているにも関わらず、大学での専攻を決める際、コンピュータサイエンスを選択する女子高校生の数は0.4%しかいない。では、なぜこの変化が中学校と高校の間に始まるのだろうか?その答えの一部は、中等教育におけるテクノロジーという選択肢の欠如のほか、女生徒が持つ理数工系分野へのイメージの問題に起因する。

我々は、女生徒に対して科学や数学等の分野で活躍する女性のロールモデルを提示するとともに、テクノロジーに関する様々な実地体験をさせることで、科学や数学が男性向けの分野だというイメージを払拭しなければなならないのだ。Girls Who CodeやTechGirlzといった素晴らしい組織は、既に上記の問題に対しての取り組みを行っており、将来のテック企業はその利益を享受することができる。

STEM教育は、女性に活躍の場を準備するためだけの手段として必要なわけではない。拡大を続ける労働力の需要に対して、単純に男性だけでは数が足りないのだ。米国労働省は、2020年までにコンピュータ技術者の求人数が140万件に及ぶと予測しているが、現状を変えない限り、その頃には米国内の大学の卒業生でこれらの求人に適う人の数は、求人数の29%にしかならないだろう。

私からの簡単なアドバイスは、部屋の中に誰がいて、そのうち何人が女性かということに気づきはじめるということだ。まずは、今自分のいる職場から観察し始めるのも良いだろう。テクノロジーは、我々の職場を多様化するために重要な役割を担っている。

最近、私があるイベントで目にしたKapor Cpitalの取り組みは良い例だ。そのイベント内でKapor Capitalは、アーリーステージのベンチャー企業数社を紹介しており、彼らは、人材開発や人事管理、生産性向上のプロセスにおける一部に改革を起こすことで、テクノロジーをテコに、大規模な人事面でのバイアス軽減に取り組んでいた。そこでは、求人から面接、業務割当、人事評価、昇進、報酬、苦情処理、トレーニング等のプロセス全てについての議論がなされていたのだ。このような考え方に沿った形で、企業は女性参画に向けた数値目標を掲げ始めており、これによって我々も本当に変化が起きているのかというのを測定し、確認することができるようになる。

テック業界における女性の必要性は上記のとおりだが、問題は各企業が女性獲得に必要な改革に取り組む気があるかということだ。変化の波は、徐々に確実に押し寄せている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake 500px

 

DeepMindがプロ棋士に勝利する時代におけるAIの成長段階とは?

South Korean professional Go player Lee Sedol reviews the match after finishing the second match of the Google DeepMind Challenge Match against Google's artificial intelligence program, AlphaGo in Seoul, South Korea, Thursday, March 10, 2016. The human Go champion said he was left "speechless" after his second straight loss to Google's Go-playing machine on Thursday in a highly-anticipated human versus machine face-off. (AP Photo/Lee Jin-man)

編集部注:本稿はOlapicのCTO兼共同ファウンダーのLuis Sanzによる寄稿。

1997年のこと。アメリカではバックストリート・ボーイズが大ヒットとなったアルバムをリリースした。市場ではマイクロソフトが評価されており、評価額は過去最高の2610億ドルとなっていた。IBMのDeep Blueは世界最高位であったガルリ・カスパロフを下し、世界チャンピオンの称号を得た。

人類がコンピューターに敗れたのはこれが最初というわけではにが、しかしIBMが成果を世に喧伝して世界中で繰り返し報じられることで、「コンピューターの勝利」が大いに騒がれることとなった。この頃からAIの可能性が「現実的」なものとして語られるようになったのだった。技術の進化を喜ぶ声もあったし、またロボットが人類を凌駕する危険性を主張する声も多く出てきた。そして、当時意識された「未来」が「現在」となり、なるほどさまざまな技術が進化した。

GoogleのDeepMindは、大方の予想に反して囲碁界のレジェンドである李世ドルをやぶるまでになった。囲碁は19路x19路の盤を用いて行う。それもあってチェスよりも相当に複雑なゲームとなっている。このゲームで人間(プロ)に勝つのは相当先の話だと思われていたのだった。チェスでは「すべてを計算する」というコンピューター的なアプローチが有効だったが、囲碁では無限ともいえるバリエーションがあり、人間に打ち勝つのは相当に大変なことだと思われていたのだ。

DeepMindと李世ドルの対戦をみて、いよいよ真のAI時代が到来したのだと言う人もいる。世間にはDeepBlueがカスパロフに勝利した20年前と同じような熱狂があるようだ。しかし、木を見て森を見ない議論が繰り返されているようにも見える。コンピューターは確かに大きく進化している。しかし社会生活に大きな変化をもたらす「自律的」AIの実現はまだまだ先の話だ。

コンピューターが進化することで人間の生活がますます便利になっているというよりも、コンピューターが人間を凌駕するとか駆逐するというような話の方が注目を集めやすい意味はある。Deep BlueやDeepMindの成果は確かにAIの進化を物語るものではある。しかしチェスや囲碁での勝利がすなわち、AIが人間に対して有意にたったということを意味するのではない。AIがIA(知能拡張:Intelligence augmentation)の面でどのように人類をサポートすることができるようになったのかという点に注目することの方が、AI評価の面でははるかに有意義なことなのだと思う。

たとえばDeep Blueの話だ。カスパロフがDeep Blueに負けたことにより、プロフェッショナルなチェスプレイヤーたちがチェスの研究にコンピューターを使うようになった。実はカスパロフ自身は以前から自身のチェス研究にコンピューターを活用していた。コンピューターを拒否するのではなく利用することで、自身の生み出す戦略思考を強化していくことができることに気づいていたのだ。

チェス界で受け入れられたコンピューターは、他の分野でも広く受け入れられるようになった。人力では扱い切れないデータに対処できるようになり、さまざまな面に進化がもたらされつつある。カスパロフは一般社会や、あるいはチェスのライバルたちよりもはるかにはやくコンピューターの有効性に目を向けていた。それが彼をしてながらくチェスチャンピオンの座に君臨させた一員でもあったのだ。

AIは急速に発達しつつあるものの、現在のところはまだ「人間レベル」を実現する目処はたっていない。

特定分野で力を発揮するようになったAIは現在、さまざまな分野で実用的に使用されるようになっている。ただし最終的な判断は、人間の行う「総合的見地」からの「状況判断」によって行われることが多い。AIが自律的に事業を運営したり、あるいはさまざまな分野で同時に有能さを発揮するアシスタントとして利用することができるようになるのは、まだまだ先の話であるように思われる。そのような中でAIは、知能拡張(IA)ツールとして実用に供されているのだ。

クイズ番組の「ジェパディ!」で活躍したIBMのワトソンは、最も有名なAIだと言えるかもしれない。しかしワトソンはトリビアクイズに対応できるということよりも、たとえば医療面において、はるかに重要な役割を担っているのだ。医者の診療を助け、多くの命を救っている。医療分野でのIAツールとして活用され、医者の能力を高めることに寄与しているのだ。

たとえば医療分野においては写真の果たす役割が非常に大きい。しかし画像には数多くの情報が含まれ、そこから重要な兆候を引き出すのは医者にとっても難しい作業となりがちだ。ここで活用されるのがワトソンで、膨大な量の医療画像から医師の判断に役立つ重要な特徴を抽出して知らせることができるのだ。

さらに、患者からの質問に対して正確で本人にぴったりの回答を行うために、リアルタイムで数多くのセラピーデータなどを検索して活用することもできるようになっている。

現状のデジタルアシスタントは、AIが生活の質を高め得ることの証明となっているように思う。コンピューターが知性を持つ(コンピューター・インテリジェンス)の最高の可能性のひとつだろう。真のAI技術が育つ前段階としての知能拡張(IA)技術は、現在の技術レベルでの最高の到達点ということもできる。たとえばAppleのSiriは楽曲を認識したり、提供する情報を取捨選択するのに機械学習の技術を使っているあたりではAIであるといえば。ただ自ら何かを決定して行うようなことはできない。情報を探すときにSiriはなかなか便利に使うことができる。しかしそのような場合、最終的に働いているのは人間側の知能であるのだ。

FacebookのMは、そもそもの最初から知能拡張(IA)を狙って構築されたものと言うこともできそうだ。Mは情報を検索するためのツール以上の機能を持っている。しかしMの提供情報の調整には数多くの人手がかかっているようなのだ。知能拡張ツールとしての能力を発揮するため、AIの能力のみに依存するのではなく、Facebook社員の力も借りて対処しているという話だ。

自動運転についてもAIの活躍が期待されている。コンピューターの視覚能力が向上し、自動車運転の一部自動化ないし完全自動化が視野に入ってきている。ただし、コンピューターを使う技術が大幅に向上しているのは間違いないところながら、AIの操縦する自動車に完全な信頼をおく人は未だ少ないようだ。そのような中、テスラなどは知能拡張(IA)の活用を進めようとしている様子。テスラの開発した自動運転においては、AIが速度や車間距離を適切に保ってくれたり、あるいは走行レーンを正しくトレースしてくれる。しかし車線変更の決定などは人間の側で行うようになっているし、コンピューターの行う運転動作をいつでも人間側が奪取できるようにもなっている。

AIの進化が著しいことは誰もが認めるところだ。しかし現在のところはまだ「人間レベル」を実現する目処はたっていない。

AIには確かに大きな可能性がある。しかしチェスのチャンピオンをやぶったり、ジェパディ!や囲碁の世界で驚くようなことを成し遂げるコンピューターが、「人類の未来」を具体的に見せてくれるわけではない。いつの日か、真のAIがもたらしてくれるであろう変化を感じさせてくれるほどの能力は、まだ持っていないのだ。真のAIが活躍する社会になれば、仕事も人類の手から奪われてしまうケースが増えていくことだろう。現在のところ、AIのレベルは人類の能力をアシストするレベルにあるといえる。私たちは、まだAIの活躍を単純に喜んで良い段階にいるのだと思う。

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(翻訳:Maeda, H

IoT(物のインターネット)からインターネットは切り離せるか?

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【編集部注】この記事の執筆者、Daniel Myers氏はFLAIRのCEO

IoT(インターネットオブシングス、物のインターネット)とインターネットは表裏一体であるように見える。しかし、IoTデバイスはどのようにお互いに機能していて、もしインターネット接続がダウンしたら何が起こるのか、という問いが増えてきている。

ユーザーは自身のデータを企業のサーバーに蓄積していることに関連してプライバシーの問題を心配しているし、またインターネット接続が致命的な障害発生点となり得る状態を不安に感じている。こうした声は理にかなっているが、2000年頃を思い出せば、皮肉にも現在のオンラインショッピングは実際のお店での買い物よりもはるかに安全と言える。

何故デバイスメーカーがインターネット接続とクラウドサービスに依存しているのかを理解するためには、どのようにIoTデバイスが機能しているのかを見る必要がある。私たちは、データソース、データ処理、デバイス間通信、そして最終的に一つのデバイスが他のデバイスをどのように活用するのか、を理解する必要がある。

データソース

温度調節のデバイスのメーカーにとって、重要なデータソースは少ない。人、彼らの環境(屋内と屋外)、そして光熱費だ。

人は快適に過ごしたいと思っている。つまり、それは特定の温度、放射温度、湿度で過ごすということだ。人は様々な地形に住んでいて、屋外と屋内の気象状態にも大きな違いがある。その屋内外の差を埋め快適にするにはエネルギーを要する。しかし、エネルギーは供給と需要の影響を受けて変動するため、エネルギーを賢く利用するにはその価格をいつでも把握しなければならない。

このことを具体的なデータソースに落とし込んで考えてみよう。スマホは現代の究極的なウェアラブルである。これは、家か外かのマクロレベル(自宅や屋外)から、どの部屋にいるかなど(私たちの温度調節デバイスのように更に進んだシステムに対応するような)マイクロレベルに至る位置情報をデータソースになる。それだけでなく、入力した情報、加速度センサーの動き、そして時にはマイクからも情報を得ることができる。

電気スイッチをタップするごとにクラウドを経由してあなたの明かりをオンする必要があるか?

センサーは生の物理的な状況を示す環境データ(屋内、屋外)を取得する。大抵の場合、コストと電力の制限があるため、その時点でのデータ処理は多少あるかないかだ。私たちの場合では、気温、湿度、周辺光とその他その空間がどのような環境かということをデジタルに落とし込む。また、例えば公共料金から取れる電気とガスの利用度合いや、第三者機関から出される天気予報など、外部のデータソースもある。

すでに現在、例えば食料品を買いに出かけた時の携帯の位置情報、Yahooの天気予報、ガス会社からの料金など、離れたデータソースを最も理想的に活用出来る事例が沢山ある。さて、この生のデータは次に、どこに送られるべきで、どのように使われるべきか、という問いへと繋がる。
この全てのデータには行き先が必要だ。自宅でサーバーを持つことも可能だが、それに投資したいとは思わないだろう。スケールメリットはAmazonが圧倒的に得意としているし、データ転送のために自分のルーターを設定するのはまさに悪夢だ。拡張性があり常時バックアップを取っているAmazonのクラウドサーバーの方が、実際に自宅で何かを持つよりも圧倒的によい。

データ処理

しかしデータ処理に関してはどうだろう?例えば、あなたの今いる場所をGPSで取得し、自宅までどのように行けばいいかを理解し、仮に今出発したとして自宅までどれくらい時間がかかるのかを割り出す必要があるとする。それらの情報と異なる気象状況においてアパートを快適にするまでの時間を組み合わせて、適切な設定を行わなければならない。

このロジックは複雑で、しかもセンサーや背景(時間帯や日光など)などデータソースを加えると、更に複雑にしかならない。もう一度言うが、この作業を処理するサーバーを自宅で保有することも可能だが、サーバーをIoTデバイスごとに持つか、デバイスごとに「アプリ」を持つ必要がある。中にはこれこそまさにスマートハブ(スマートスイッチ)のすること(もしくはすべきこと)だと主張する人もいるかもしれない。しかし、多くのハブが突然現れたことから見ても、外部のデータソースからデータを取得し処理するためだけに、全てのデバイスメーカーがハブ用のアプリを開発するのは現実的だろうか?

インターネット企業はこれまで以上にサポートレベルを完璧に近い状態にまで上げる必要がある。

事実、無限に拡張可能なクラウドサービスのデータベースと比べるとスマートハブのストレージ容量は0であるし、データ転送の無駄を省くためにデータと近いところでデータ処理をした方が効率が良い。もちろん、毎秒気温のデータを取る必要はないが、Dropcamから来るデータの量や、自動で通知やトリガーをビデオストリーム上で出すためにどれくらいのデータ処理が必要かを考えてみるといい。

データ通信

そしてデバイス間の通信についてはどうだろうか。全てのデバイスがそれぞれ、もしくはゲートウェイがWi-Fiチップを搭載しているのは本当に意味があるのか?もしくは全てのデバイスは常時接続されたゲートウェイを通すべきなのだろうか?データのレートやレンジ、電力の強さなどの要件が「規格」として増えてきている中で、IoTデバイスにはある程度まとまった設計規格のようなものは現状存在しない。なぜなら、時によってデバイスが単純に携帯電話と接近していることをレポートする必要があったり(beaconsを考えてみてほしい)、もしくは時に、厳しい周波数環境下で動いているデバイスが、ThreadやZigbeeに使われるような技術的にも理想的でない高ラジオ周波数で正常に作動しなかったりするからだ。

多くの場合、ゲートウェイと様々なセンサーはうまく機能している。しかし、ゲートウェイが市場により浸透し幅広いプロトコルに対応しない限り、今や誰しも1ドルでWi-Fiチップを購入し5〜10ドルで自分のゲートウェイを作れてしまうので、デバイスメーカーにとって特定のゲートウェイを選んだり、1つに賭けたりすることは躊躇われる。

これが何を意味するのか?電気スイッチをタップするごとにクラウドを経由してあなたの明かりをオンする必要があるか?もちろんそんな必要はない。これが意味するのは、メーカーは「物のイントラネット」ではなく今後もHTTPへの統合を好み続けるだろうということと、インターネット接続がダウンした時に備え適切なフォールバックと対応が必要とされる、ということだ。

インターネット企業はこれまで以上にサポートレベルを完璧に近い状態にまで上げる必要がある。そして、家庭にも第二のインターネット接続がある場合が想定されるだろう(すでに多くの企業に見られるように)。つまり、インターネットオブシングス(物のインターネット)はインターネットなしでは存在しないだろう。

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(翻訳:Kana Shiina)

「記録」から「反応」へ。自律的にデータを処理する、監視カメラの新世代

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編集部注:本稿はコンピューター・ビジョン関連企業であるMovidiusのマーケティングコミュニケーション部門のディレクターであるJack Dashwoodによるもの。

アメリカには現在、3000万台の監視カメラがあると言われている。ただし、その3000万台のカメラのうち、常に人間が画面を確認しているのはわずか5%なのだとのこと。その他のカメラはただ映像を記録し、そして犯罪や事故などを捉えたと考えられる場合にのみ画像が確認されるという使い方になっている。

すなわち、現在のセキュリティシステムのほとんどは、ひたすら映像を録画してハードディスクに保存し続けるデバイスネットワークにより構築されているということになる。95%のカメラについては、単純に人的資源不足を理由に、リアルタイムの確認がなされずにいるわけだ。

国内に存在するすべての監視カメラをリアルタイムでチェックできればどうなるか?

すべてのカメラについて、そのカメラをリアルタイムで監視する人を雇うようなことができれば何が変わるだろうか。何らかの事件が起きそうなときに、発生に先立って通報できるようになる機会も増えることだろう。発生しつつある犯罪の被害を最低限におさえるような機会も生まれてくることだろう。

リアルタイムで情報を得ていれば、他のデバイスからの情報と比較しながら状況を解釈することができるようにもなる。最近になって数を増しているテロなどに対しても有効となるケースが出てくるように思われる。

膨大な数が存在する監視カメラも、さらに有効に使えるようになるはずだ。映像を保管するだけの現状よりも、はるかに便利に使えるようになるに違いない。

アメリカにおいては、1週間で40億時間以上の映像が記録されている。

リアルタイムで監視できるようになれば便利になるはずだと、そこには多くの人が同意することだろう。しかし実現しようとなると、9000万もの人をリアルタイム監視のために雇い入れる必要が出てくる。これは大雑把に計算して、国内労働人口の半分程度にもなる規模だ。これはさすがに実現不可能な話だろう。しかし監視カメラにニューラルネットワークの機能が搭載されれば、あたかも9000万人の労働力を投入したのと同様の結果を得ることができるようになる。セキュリティ性能が大幅に向上することとなるのだ。

「ニューラルネットワーク」とは、人工知能関連の研究(機械に、より人間に近い知性をもたせようとする研究)から生まれてきた概念だ。コンピューターを「計算」分野のみでなく、事前に定めたデータ形式にとらわれない、さまざまな内容をもつデータを「解釈」できるようにしようとしたものだ。たとえばビデオの中に現れるモノを把握したり、会話の中に現れるトピックやテーマを把握できるようにしようとしている。人間にとっては当たり前の能力ではあるが、コンピューターにこうした能力をもたせようとするのはかなり難しい話なのだ。

技術の進歩により、監視カメラの台数や録画時間を増やすことなく、有効な情報を取得できるようになる。

保存だけしておいて後に再生するのではなく、リアルタイムで情報解析を行うようにすれば、事故や犯罪により迅速に対応できるようになる(事前に対応したり、あるいは進行中の対応が可能となる)。空港や銀行、あるいは学校などで発生した緊急事態にもより迅速に対処できるようになる。あるいは事故や犯罪を未然に防ぐことすらできるようになる可能性もある。そうした世界を支えるのに、具体的にどのようなテクノロジーが必要なのだろうか?

新しく生まれつつある「ディープ・ニューラル・ネットワーク」などにも大きな注目が集まっている。映像内に人が映っているかどうかだけでなく(それだけでも調査・操作などにはかなり役立つ)、映っている人物が何をしているのかといった情報も理解できるようになってきている。

映像に映っている人が何をしているのかを理解することは、セキュリティ面に大きな進化をもたらすことになる。この技術について、たとえばGoogleは映像内に映る人の姿勢を把握することに成功している。銀行強盗に襲われたような場合にも、警報ボタンを押したりするのではなく、画像内の人物の振る舞いによって自動的に警報を発するようなことができるようになるわけだ。カメラ側で合図や振る舞い自体を解釈することができるようになり、人手を介することなくよりタイムリーにセキュリティ面からの対応が可能となる。

Google Deep Pose

Googleの開発したDeepPose”。深層学習により、被写体の姿勢を解釈することができるようになる。

また、進化した顔認識技術もあわせることで、多くの人の中から侵入者を見分けることも可能となりつつある。近接して配置されたカメラ映像から、怪しい人物の移動の様子などを把握することも可能となっている。さらに研究者たちは歩き方から武器や爆弾を隠していないかを判断したり、あるいはそれを検知するレーダー監視システムなども開発しつつある。

プライバシー面への対応は?

監視カメラのリアルタイム性を強化するという話になると、当然ながらプライバシー問題を危惧する意見も出てくる。もちろん行き過ぎは警戒すべきだが、空港、病院、銀行、および学校などの公共の場所に設置される監視カメラについては、社会的にも許容する意見が優勢になりつつあるように思われる。リアルタイム性を導入しても、既に監視対象となっている場所が効率的に見張られるようになるだけで、新たに監視対象が増えるわけではないという見方もあるのだろう。取得している情報を、公共のために活用しやすくするのだという説明もなされる。

インテリジェント・カメラの広がり

監視カメラは、クラウドコンピューティングの力を活用することで、過去のものよりもはるかに便利でパワフルなものになってきた。しかしカメラに「インテリジェンス」がもたらされることで、さらなる新時代を迎えようとしている。クラウドでのデータ共有を超えて、高性能のセンサーを備えることで、カメラ自体にできることが増えてくる。これによりデータをセンターに移して確認するような必要も少なくなる。通信帯域を気にしながらデータ圧縮を行ったりするような複雑な仕組みは不要となり、カメラのコストがさらに低下することにもつながっていくだろう。

10年前には理論でしか存在しなかったものが、現実として大いに活躍しつつあるのが監視カメラ技術の現在だ。監視カメラにリアルタイム性が備わることにより、犯罪や事件の内容を確認するのみならず、事前にそれらを抑制するような社会が訪れつつあるのだ。

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(翻訳:Maeda, H

AI不信が強まる中、望まれるのは人類−機械のコラボレーション

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編集部注:本稿はRobert Daleによる。氏はArria NLGのCTO兼チーフ・ストラテジー・サイエンティストを務めている。

AIが進化するにつれ、人類の滅亡の日が近づいているのではないかという話をきくことが増えてきた。

ビル・ゲイツ、イーロン・マスクあるいはスティーブン・ホーキングたちも人工知能の進化に対しては警告を発しており、楽観的進化論者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)などはおされ気味であるのが現状だ。またスウェーデンの哲学者であるニック・ボストロム(Nick Bostrom)もAIがもたらす恐怖についての思考実験を行なっている。もちろん、そのような勢力が力を得ていることには理由はある。

たとえばキューブリックの「2001年宇宙の旅」では、人工知能のHALが宇宙船のドアを開けることを拒否していた。映画が登場して50年を迎えた現在、そのような状況もあり得るように思える時代となった。私たちは、自動化された軍事ドローンが殺害相手を自律的に判断したり、あるいは自動運転車が子供をはねるべきか、あるいは路傍の木に衝突していくべきかを主体的に判断するような世界で生きているのだ。

しかし実は、AIがすなわち人類に敵対するものだと考える必然性はない。人類とAIが補完的な存在である可能性はあるし、私はそのように考えている。

結論からいえば、機械(AI)が人類のような「スマートさ」を身につけることはないと考える。もちろんチェスをプレイする人工知能もあれば、「ジェパディ!」で活躍するものもある。あるいはまだまだ先だろうと思われていた囲碁界でもAIが躍進しつつある。しかし、人間の「スマート」さは、そうした面にのみあるのではないということが通説的に扱われて久しい。

ダニエル・ゴールドマンが「こころの知能指数」(EQ)の概念を提唱したのは20年前のことだ。EQについて簡明にかつ誰もが認める形で定義するのは難しい。そもそも「知能」と呼んでよいものなのかどうかについても議論がある。しかしEQ(ないしEI)が知能なのかどうかが問題なのではない。人間が持ち、しかし機械が持ち得ないものがあるということが大切なポイントなのだ。人類の考え方や振る舞い方は、機械とは大幅に異なったものになるのだ。

古典派の経済学者たちなら、私たち人類がもっぱら「合理的」に判断して行動すると考えたくなることだろう。しかし行動経済学は、私たちの行動には経済的合理性には沿わないところがあることを示し、また合理性自体も後付的なものであることが多いことを明らかにした。

結局、機械のインテリジェンスと人間のインテリジェンスは別物であると思うのだ。その両者に同じ「知性」という語をあててしまっては、単に混乱を招くだけであると思う。AIについては「賢くなった」というように、人間と共通するような評価をすべきではないと思うのだ。「賢い」という言葉の意味がわかりにくくなってしまうとも思う。

もちろん、機械にできることが増えつつあることを否定するものではない。駆使するロジックも飛躍的な発達をとげている。複雑な状況にも対応できるようになってきているし、また変化の多い状況にも適切に対処することができるようになってきている。しかし、われわれ人類とは、多くの情報を用いて物事を合理的に解決するというためだけに存在するのではない。異なる強みを持つ両者は、競合的にではなく共生的に存在していくべきだ。

たとえば個人的にはNLG(自然言語生成)を使ったレポート生成システムなどを運用している。数多くのデータを入力すると、そこからデータを分析した文書を生成するものだ。しかし文書生成アルゴリズムは人間と同じようには動作しない。

自然言語生成アルゴリズムを実際に使うにあたっては、人間と協業することで双方にとってベストの結果を生み出すことができる。たとえば人間の側で読者層を把握し、その対象に適したニュアンスを採用した書き方を心がける。そして機械の側は人間のみで作業していたならば膨大な時間がかかり、かつもしかすると見過ごされてしまうような分析を行なって情報を細かくかつ正確に提示することができるのだ。

他にも人間と機械のコラボレーションが期待される分野がたくさんある。たとえばアドバンスト・チェス(Advanced ChessないしCentaur Chess)もそのひとつだ。温暖化や地政学の話などにも有力とされている。機械が処理しやすい形にできるものについては、積極的に機械の助けを得るようにしていけば良いのだ。ただし、少なくとも近未来の範囲では、人間の介入が必要となる。

我々は機械ではない。もちろん機械もまた人類とは「異なる」存在だ。私たちは協働してコトにあたるべきなのだ。機械の側に「協働」の意識はないかもしれないが、それはまた人類の強みを示すものと理解すれば良いのだと思う。

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(翻訳:Maeda, H

プラットフォームを持つ企業こそが、シリコンバレーで最も影響力をもつ

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編集部注:本稿を執筆したVivek WadhwaはCrunch Networkのコントリビューターである。彼は学者、起業家、執筆者である。Stanford、Duke、Singularity Universityでの教員の職も兼ねる。

シリコンバレーの企業が学び、ビジネスに戦略的アドバンテージを与える数多くの教訓の一つとは、単なる製品やビジネスモデルを超えた思考だ。そしてそれがプラットフォームを創り出す。

歴史上もっとも早いスピードで成長し、破壊的な力をもつ企業のGoogle、Amazon、Uber、AirBnb、eBayなどの企業は、製品を売ることではなく、プラットフォームを構築することにフォーカスしている。

テック企業だけではない。Walmart、Nike、John Deere、GEなどの企業もまた、それぞれの業界においてプラットフォームを構築しているのだ。

たとえばJohn Deereは、農作物を集積するハブを構築している。すべての情報がデジタル化されて、あらゆるものがIT化し、従来の業界が破壊されている状況下において、プラットフォームは重要なものになりつつある。

オープンかつ包括的で、それ自体が戦略的な意味を持つものを構築するというプラットフォームのコンセプト自体は古くから存在する。道端にある店舗と、ショッピングモールの違いを考えてみるといい。ショッピングモールにはサイズと規模において優位性があり、モール内のすべての店舗は、他の店舗が展開するマーケティングやプロモーションから恩恵を受ける。

彼らはインフラとコストを分かち合うのだ。ショッピングモールのオーナーは、ひとつの大きな店舗を持つこともできたはずだ。だがそれではテナント料を得る機会や、テナント店舗が呼び込んできた大勢の顧客から得られる恩恵を失ってしまう。

プラットフォームビジネスでは生産者と消費者の間で高い価値の取引が行われる。その最も主要な資産が情報と交流だ。

先日発売された「Platform Revolution: How Networked Markets are Transforming the Economy and How to Make Then Work for You」(著:Geoffrey Parker、Marshal Van Alstyne、Sangeet Choudary)では、プラットフォームが持つパワーについて説明されている。この本の中で著者たちは、Appleがどのようにプラットフォームを活用し、iPhoneを展開するモバイル分野において最も収益性の高い存在となったのかを説明している。

つい最近の2007年まで、この業界全体の収益の90%をNokia、Samsung、Motorola、Sony Ericsson、LGが握っていた。そのうちに、美しいデザインをもつiPhoneが、iTunesとApp Storeというマーケットプレイスをひっさげて参入してきた。2015年までに、iPhoneは世界中のモバイル市場全体の収益の92%を獲得し、そして他社はその後塵を拝することとなった。

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Nokiaや他の企業は当時、彼らがもつ伝統的な競争優位性に守られているはずだった。その優位性とは、良く差別化された製品、信頼のあるブランド、時代の先端をいくオペレーションシステム、素晴らしい流通システム、保護規制、巨大なR&D予算、そして彼らが持つ巨大な規模といったものだ。

しかしAppleは、iPhoneとiOSを単なる製品だとかサービスを提供するための手段とは考えていなかった。彼らにとってそれは、アプリ開発者とユーザーという2つのマーケット参加者をつなげるためのものだった。

それは両方のグループにとっての価値を生み出すと同時に、Appleにそれぞれの取引から料金を徴収することを可能にした。開発者が増えれば、ユーザーも増える。生産が消費を増やし、そしてその増えた消費が今度は生産を促して、プラットフォームが生み出す価値が雪だるま式に増えていった。「ネットワーク・エフェクト」を創り出したのだ。

2015年1月までにApp Storeには140万のアプリが存在し、開発者はそこで250億ドルもの価値を生み出してきた。

ショッピングモールが消費者と店舗をつなげてきたように、新聞は長らく購読者と広告主をつなげてきた。これまでと変わったのは、テクノロジーのおかげでインフラと資産を持つ必要がなくなり、デジタル・プラットフォームの構築と拡大のためのコストが著しく下がったことだ。

Parker、Van Alstyne、Choudaryが「パイプライン」とよぶ伝統的なビジネスは、直線的につながったプロセスをコントロールすることによって価値を生み出す。インプット、つまりサプライヤーから提供された原材料はバリューチェーンの片端から投入され、それが何度も形をかえることで付加価値をつける。

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Appleのモバイル端末ビジネスそれ自体は、伝統的なパイプラインである。だが、開発者とユーザーをつなげるマーケットプレイスのApp Storeと端末が組み合わさることで、それはプラットフォームへと変化した。そしてネットワーク・エフェクトのおかげで、そのプラットフォームは加速度的に成長したのだ。

前述した本で著者たちは、パイプラインからプラットフォームへの進化には3つの重要な変化がともなうと語る:

  1. 資源のコントロールから、オーケストレーションへ。パイプラインの世界では、鍵となる資産は鉱山や不動産といった実体的なものだ。プラットフォームでは、知的資源やコミュニティーの中にこそ価値がある。ネットワークは、アイデアやデータといった、デジタル経済において最も価値をもつ資産を生み出す。
  2. 内部の最適化から、外部との交流へ。パイプラインのビジネスは、労働力とプロセスを最適化することによって効率性を手に入れる。プラットフォームでは、生産者と消費者のあいだの交流を最大限促すことが鍵となる。ビジネスの効果と効率性を高めるためには、エコシステムそのものを最適化させなければならない。
  3. 個人よりエコシステムに価値を置く。従来のビジネスのように単一のカスタマーにフォーカスするのではなく、プラットフォームの世界では、循環し、反復可能なフィードバックに基づくプロセスにおいて拡張するエコシステムの全体価値を高めることにフォーカスしている。これはつまり、成功という指標も刷新しなければならないということだ。

Harvard Business Reviewの記事で「transitional business platforms(移り変わるビジネスプラットフォーム)」の説明において、Kellog School of ManagementのRobert Wolcott教授は、Netflix創業者であるReed Hastingsが1997年に同社のプラットフォームを構築する際に抱えていた問題を説明している。

長い間、Hastingsはオンデマンド・ビデオを提供したいと思っていた。しかし、当時はテクノロジー面においてインフラがまだ整っていなかった。そこで彼は、現在のNetflixのプラットフォームの姿を長期戦略として描きながらも、DVDを郵便で届けるビジネスを始めたのだ。

Wolcott氏によれば、Uberには自動運転車を提供するという戦略的な意図があるものの、テクノロジーが発達する間は人間のドライバーによるビジネスを展開しているのだという。テクノロジー、消費者行動、規制の変化と共に爆発的な進化を遂げるプラットフォームを構築している。

プラットフォームの構築にはビジョンが必要だが、将来を予測する必要はない。必要なのは、道端の店舗ではなくショッピングモールを構築する機会を捉えることと、ビジョンまで到達する方法に柔軟性を与えることだ。現在では製品よりビジネスモデルだが、これからはビジネスモデルよりプラットフォームだということを覚えておいてほしい。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉/ Website / Twitter

ロボット革命ないしAI革命ののちに現れる経済システムとは?

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編集部注:本稿の執筆はゾルタン・イシュトヴァン(Zoltan Istvan)

自ら立ち上げた「トランスヒューマニスト党(Transhumanist Party)」より2016年の大統領選挙にも名乗りをあげている。

これまでにも「The First International Beauty Contest Judged By Robots」、「人工知能に『憎悪』をプログラミングする正当性と倫理的な問題」などを寄稿してもらっている。

経済の専門家たちは、いよいよロボットによって90%の仕事が奪われるような事態について真剣に考えざるを得なくなりつつあるようだ。20年ほど前には誰も真面目には考えなかった事態が現実になりつつある。そしてそのような現実の中、果たして「資本主義」が生き残るのかどうかという問題も議論の俎上にのぼりつつある。今の段階で正解など誰にもわかるまい。しかし誰もがこの問題に取り組まざるを得ないような状況になっているのだ。エコノミスト以外の人々も、果たしてどのような未来を望ましいと考えるのかについて、態度表明を迫られるようになってきている。

米・ロ間の冷戦がアメリカの勝利に終わり、ほとんどの人は資本主義こそが経済発展およびデモクラシー維持のために最善の(ないしは最もましな)システムなのだと考えるようになった。以来、資本主義のメリットを疑うものはほとんどいないという状況になった。グローバリゼーションの世の中となり、全世界の富が増大していくようにもなり、ますますその傾向は押し進められることとなった。ちなみにベルリンの壁が崩壊した1989年には、世の中にビリオネア(資産が10億ドルを超える人)は198人しかいなかった。それが2016年には、なんと1826人に増加している。

ただし、富裕層が増える中でも2007年からは世界金融危機を迎え、より細やかな経済政策が必要とされているのではないかとも考えられるようになった。さらに21世紀のパラダイム・シフトがおこりつつあり、「仕事」が賃金の安い他の国に移ってしまうのではなく、まるっきり消滅してしまうような事態が発生しつつあることに、経済学者たちは注目し始めている。その原因と考えられているのは、ロボット(およびソフトウェア)だ。

当初はこの事態についてあまり深刻に考える人はほとんどいなかった。エコノミストや企業も、新しいテクノロジーの勃興は時代の流れであり、その中から金の稼ぎ方などが変化して、新たな経済(および仕事)拡大に繋がると考えていたのだ。しかし昨年辺りから転換点を迎えたのではないかという声が大きくなってきた。10年以内に、もしかすると5年程度のうちに、数千万の仕事が失われてしまうのではないかという人が現れてきたのだ。世界金融危機当時に多くの人が仕事を失ったが、それをはるかに上回るペースで、仕事自体が消えてしまうという話だ。

たとえば既に、無人トラックで荷物の配送を行おうとしている国々もある。アメリカでもトラック運転に従事する人は多く、無人トラックが行き渡れば350万人が職を失うこととなる。人手を必要としない乗り物がハイウェイを自在に移動して配送業務を行うようになったとき、それで失われた仕事の代わりを見つけることはできるのだろうか。

失われると予想される仕事は車の運転のみではない。ウェイター、銀行の出納業務、図書館員など、数多くの仕事が失われると予想する人もいる。そうした仕事に人の手は必要なくなってしまうというのだ。

アメリカンドリーム的成功を夢見る経済活動の今後

資本主義とはそもそも「競争」を前提とするものだ。仕事がなくなるのも、他者との競争に敗れたせいだとみる人もいるだろう。しかし訪れつつある競争は、これまでのものとは異なる。すなわち職自体が消えてしまうこととなり、いったん敗れた人は二度と自分の仕事を取り戻すことはできなくなるのだ。ドライバーやウェイターとして仕事をしてきた人は、競争により仕事を取り戻すことも不可能で、他の仕事を見つけざるを得なくなる。職を見つけられず生活保護を受けるようになる人も多くなるに違いない。あるいは、仕事を求めた暴動が発生するというようなこともあるだろう。

そしてこの混乱は、過去のものよりも大きな広がりを見せることになるかもしれない。問題が「貧者」のみのものではないからだ。20年もたてば、かなりの人の仕事が存在を脅かされることとなる。たとえば私の妻は大学で19年間学んで産婦人科医となった。返済すべき奨学金もまだ10万ドルほど残っている。しかしロボットが進化して、出産を手伝ったり、あるいは子宮頸癌の治療なども人間より上手に行えるようになることはあり得る。税理業務などを行なっている人も、ソフトウェアに仕事を奪われることになりそうだ。記事などを書くのもニュースアグリゲーションプログラムなどの方が正確に記述できるようになる可能性がある。

結局のところ、大統領すら含む全員が、機械に仕事を奪われる可能性を持つのだ。そして無職無収入の身となってしまうのだ。

そのような時代を迎えるにあたって、私たちは仕事なしでも幸せに過ごすためのシステムについて考えるべきなのかもしれない。そのシステムが「資本主義」というシステムでないことはあまりにも明らかだ。

新たに登場するシステムが、人類および社会を幸せにするようなものでなければならないことは言うまでもない。個人的にはベーシックインカムに興味がある。ロボットに仕事を明け渡しつつも、人間社会が困窮して行かないための方策であると感じているのだ。しかしロボット革命後の世界に、そのような社会が実現するのだとも想像しにくい。

働くことはすべてロボットに任せる共産的社会を考えた人も多い。テクノロジーが働き、私たちはただ自分たちの欲望充足を考えれば良いという世界が訪れるとするものだ。しかし、共産主義的社会がうまくいくと考える人は少ない(資本主義社会の中で、何度か起業してきた私自身もその一員だ)。

ただし、私たちは21世紀になって、個々人が社会と密接に、より緊密に繋がるといった状況を招きつつある。21世紀になって生まれたイノベーションの多くが、個人を「ソーシャル」に結びつけるものだったとも言えるだろう。私たちはこれまでとは比較にならないくらいにテクノロジーに依存するようになった。そんな中、仕事も機械に任せる時代が訪れるというのは必然であるのかもしれない。他者に迷惑をかけない限りは社会の中に温かく迎え入れられ、そして寸暇を惜しんで稼ぐ必要もなくなりつつあるとは言える。

そうした状況が進めば、「金」(money)すら今世紀を生き残るのは難しいのではないかと考えてしまう。万物と交換し得る地位は、より効率的な機械やソフトウェア、あるいは技術を活用するナレッジのみに認められるようになるのかもしれない。「技術的特異点」が訪れ、人類は常に人工知能と繋がり続ける状況となり、情報の中を漂う存在となる。そのような未来が2075年よりは前に訪れるだろうと予測する人も多いようだ。

それほど将来の話をするのではなく、話を2016年の現在に戻してみよう。経済システムがどのように変容していくにせよ、この25年間にもたらされるものは、これまで誰も想像し得なかったものであるに違いない。巨人たるカール・マルクスも、あるいはアダム・スミスも、疲れ知らずに働き続けるロボットの存在など考慮に入れていなかった。世界にマイクロプロセッサーが溢れ、あらゆる情報が0と1で処理を行うコンピュータによって扱われるようになるなど、誰も考えていなかったのだ。

これからの経済的パラダイムが、どのような変化を被るかについては「何もわかっていない」と考える方が良かろう。これまではとにかく経済を回し続け、そして豊かな人生を送るアメリカン・ドリームの実現に価値をおく人が多かった。しかし、これまで多くの人に認められてきた価値すら変質し、人生はよりシンプルなものへと変わっていくのかもしれない。そういうライフスタイルを実現する全く新しい経済システムが、今後の世の中には育っていくことになるのだろう。時代は、そうした変革に向けて着々と準備を整えつつあるようにも見える。

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(翻訳:Maeda, H

非技術者が機械学習を評価する時に考えるべき3つのこと

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編集部記:Aria Haghighiは、Crunch Networkのコントリビューターである。AriaはPioneer Square LabsのCTOとチーフ・アーキテクトを務めている。

ここ数年、機械学習とそれを活用できる潜在的なアプリへの関心が急速に高まっている。専門外の人は、自社のプロダクトや事業に取り入れる、あるいは投資すべきかを検討するに辺り、機械学習技術を評価する必要が出てくるだろう。機械学習技術に関する専門用語は大量にあって、複雑だ。さらに強気のセールスチームにハイジャックされつつあって、分かりづらくなっている。

この投稿は、機械学習技術への入門編にするつもりはない。この投稿はディープラーニングや特定の技術に関する説明をするものでもない。なぜなら、これらのコンセプトは頻繁に変わるものであり、意思決定にはほとんど関係がないからだ。その代わり、この投稿では技術をどのように評価できるか、そしてビジネスに実用的な価値をもたらすかを判断する方法を提案したい。

タスクを理解する

突き詰めて言えば、機械学習はなにかしらのタスクのために使用されるものだ。課題にはインプットがあり、アウトプットがどのくらい正しいか、間違っているかは客観的に判断できる。使用している技術を理解できなくても、このタスクを理解することは重要なことだ。

曖昧な説明や「文章の意味を理解します」といったタスクの定義が乏しいものを認めてはならない。もし、その人が自分の手がけている機械学習ができることを、他では通用しないような技術的な業界用語なしに説明できないのであれば、それは注意すべきだろう。

機械学習のタスクの種類には共通するものがいくつかあると言える。それは「分類」「回帰」「ランキング」だ。例えば、ImageNetのような画像認識は、分類タスクだ。インプット画像があり、機械学習で画像に映っている重要な被写体を特定することが目標だ(これは犬、あるいは車の写真といったように)。

使用している技術を理解できなくても、このタスクを理解することは重要なことだ。

「回帰」は、インプットから実質的な数値や数列を予測する。例えば、未来における住宅価格や株投資のポートフォリオの価値などだ。「ランキング」は、特定の状況に則した「ベスト」なアイテムを予測し、順位を算出する。例えば、検索ランキングだ。検索エンジンでは、ユーザーが検索している単語、プロフィール、履歴からそのユーザーにとって最も関連性のある結果を表示することを目標とする。

機械学習のピッチを聞く時に最も大事なことは、一歩引いて説明を聞くことだ。

評価軸を理解する

タスクを理解したら、次にタスク処理における機械学習システムの評価方法を理解することが重要だ。通常、機械学習システムがどの程度上手く特定のタスクをこなすことができるかを数値で示す評価軸を定義する。画像認識であれば、画像を正しいカテゴリーに分類できた割合を報告する(機械学習が画像に映っているのが犬と正しく判断できた)といった具合だ。一般的な機械学習タスク(分類、回帰、ランキング)であれば、全て標準となる評価軸があるので、慣れておくと良いかもしれない。

評価軸がないことは悪い兆候だ。

残念ながら、課題を解決するためにとても複雑なアルゴリズムや技術を開発しているが、それに合わせた客観的な評価軸を考えていないというのは良くあることだ。評価軸がないことは悪い兆候だ。それでは開発した「スーパー・ディープラーニング」が実際に明白な利用価値を出せるか客観的に知る方法がない。機械学習、そして基本的には他のいかなる技術の開発に対しても、ビジネス価値を考えるのなら、評価軸にフォーカスし、それを元に動く人と仕事した方が良いだろう。

さらに機械学習技術が複雑なほど、評価軸が良くなるとは限らない。このようなもどかしい現実には頻繁に直面するだろう。特に、データが限定的な場合、シンプルな技術の方が複雑なものよりパフォーマンスが良いということはよくある。

つまり、機械学習を構築するのなら、まずはシンプルな方法を開発して、それを試すということを常に心がけた方が良い。私は個人で機械学習に多くの投資がなされているプロジェクトのコンサルティングに携わってきたが、はるかにシンプルなもの(ナイーブベイズ分類器で良いと分かったのは1回だけではなかった)でもパフォーマンスは同じ水準にあり、その方が劇的にスピードが早く、開発時間も少なくすむことが分かったということが度々あった。

機械学習技術の進歩がビジネスの指標に及ぼす影響を理解する

機械学習技術を評価するのに最も難しい最後の要素は、機械学習技術のタスク解決を改善することが、ビジネスの指標にどのような影響をどの程度及ぼすかを知ることだ。その関係性がとても直接的な場合もある。例えば、検索結果の広告プレースメントであれば、機械学習の指標は、広告のクリックスルー率を予測するものだろう(そして、予測クリック単価の重み付けも考慮していることだろう)。

利益を生み出すクリックスルーとクリックスルー率は、ビジネスにとってコアビジネスの指標、あるいはそれに近いものと成りうる。その場合、機械学習に多く投資することは理にかなうことだ。その進歩は、ビジネスの指標を改善することにつながるのだから。

他の状況では、この関係性は分かりやすいものではないかもしれない。例えば、Netflixにとって映画のレコメンド精度を0.5%改善することは難しいことだが、月毎のサブスクライバーのリテンションの上昇は伴わないかもしれない(他のエンゲージメントといった指標は変わるかもしれないが)。

プロダクトオーナーや投資家であるなら、どのビジネス指標を動かしたいのかを理解すること、そしてその変化を機械学習の改善で成し遂げられるのかを理解することは重要なことだ。

もちろん、Googleがなぜ機械学習に多くの投資する理由の一つはこれだろう。機械学習の改善は、彼らの主要ビジネスと財政面の指標と強く関連しているからだ。一方、AppleがSiriを1%改善したところで、それはiPhoneの販売台数とは弱い、あるいは些細な関連性しかないだろう。

プロダクトに機械学習を実装したり、この分野に投資したいと考えるのなら、機械学習がビジネス上の指標を動かせるものであるかを考慮すべきだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

ブロックチェーンで不動産売買が変わる

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編集部記:Don Oparahは Venture AviatorのCEOを務めている。

専門家はブロックチェーン技術による改ざん不能なデータ記録の活用でより安全になるニッチな市場をいくつか挙げている。例えば、 国際間のアート作品の取引、医薬品や高額商品の取引などだ。しかし不動産市場に与える影響はさほど注目されていない。

HomeInsightによると、一般的な住宅保有者は5年から7年で自宅を売却し、個人は一生の中で平均11.7回の引っ越しをするという。普通のアメリカ人にとって国際間におけるアート作品の取引が変わったからと言って何か影響があるわけではないだろうが、不動産市場の変更は毎年何百万人に直接的な影響を及ぼすことになる。

住宅を購入することは、多くの人にとって人生最大の買い物だろう。しかし、これまで購入までのプロセスを早めたり、購入者、貸出主、住宅保有者にとって安全な取引をしたりするためのテクノロジーの進化はほんの少ししか見られなかった。この記事ではブロックチェーンが不動産市場をディスプラトする3つの面を検討する。システムを加速させ、透明性を担保し、関わる全員にとって安全な投資ができるという点だ。

プロセスを加速させる

2014年の「鈍い」販売の後、住宅価格は急上昇し、2015年の秋には何人かの専門家が不動産市場はバブルに突入しているとして、グレート・リセッション(訳注:2008年の世界的な景気後退)までの急上昇よりさらに酷い状況だと警告するほどだった。住宅への需要はこれまで以上に高くなってるが、新しい住宅建設は少ないため、今ある物件価格が高騰している。2015年8月には住宅販売の一時的な低下があったものの、専門家は今後も住宅価格は上昇し続けると予想している。

販売住戸が足りていない状態で、アメリカの不動産市場がバブルにあるかどうか判決を考えている間にも、購入者と販売者はどちらもなるべく早く書類にサインをして、取引を完了させたいと願っている。しかし、古典的な不動産市場に「簡単で早い」というイメージはない。不動産取引はいつも複雑で面倒なものなのだ。

国の政府機関は不動産の取引や権利の引き渡しに数多くの規制やコストを課し、システムの速度が遅くなっている。設備や住宅全体の検査を含む販売時の義務や多様な販売制限により、購入者と販売者が取引の締結に合意していたとしても、住宅取引はかたつむりほどのスピードしか出せない。

古典的な不動産市場に「簡単で早い」というイメージはない

ブロックチェーンが地域の定める販売制限に与える影響はわずかだが、販売プロセスの経済的な認証の部分については大きな影響を与えるだろう。現在、多くの購入者と販売者は双方が取引を確実に遂行し、詐欺のリスクを低減させるためのセイフティーネットとしてエスクローや第三者機関による保証を利用している。

第三者による保証にはコストが伴うことも見過ごせない重要な要素だ。通常、物件総額の1%から2%かかる。そして、時間もかかるものだ。ブロックチェーンを使えば、仲介者(ここではエスクロー企業)を効果的に抜くことができる。ブロックチェーンの分散型データベースを使って認証を行い、第三者機関の保証のために費用をかけずとも、すぐに物件保有者は合法的に所有権を引き渡すことができるようになる。

詐欺のリスクを低減

これまで購入者と販売者がエスクローや第三者機関による保証を利用してきた主な理由は不動産詐欺に遭って損害を負うリスクを減らすためだ。

不動産詐欺は毎年何も知らない購入者に何百万ドルの被害を与えている。購入者と販売者が早急に取引を完了させたいという思いから、踏むべき安全手順を飛ばしてしまうことで被害が悪化している。さらにインターネットとコンピューターテクノロジーの進化で偽造書類や偽物の物件の告知が容易になっている。

「違う人物を物件所有者であるかのように装う偽造書類の作成が唯一の問題なのではありません」とサンフランシスコのBarbagelata Real EstateのオーナーであるPaul BarbagelataはMarketWatchに話している。「テクノロジーが進化し、インターネットを使って公証人の判子や物件の譲渡証明書の複製を作ることがこれまでより容易になってしまいました」。

最も頻繁に起きる不動産詐欺の1つがレンタル詐欺だ。

ForbesのMorgan Brennanが記事で取り上げたように、最も頻繁に起きる不動産詐欺の1つがレンタル詐欺だ。これは詐欺師が本当に掲載されている物件情報の詳細と写真をコピーして、別のサイトにあたかも自分たちがその物件売買のエージェントであるかのように装うものだ。なりすまし犯は、興味を持った購入者から価格の前払いを要求、あるいは安全な取引のためと偽りデポジットや「サービス料金」を請求する。購入資金があることを証明するために第三者(これも詐欺師の一員)にいくらか送金することを要求する場合もある。被害者が送金した資金を取り戻せることは稀だ。

送金者と受け取り主のログ、そして「デジタル上の物件所有権」を保存する100%改ざんすることができないリソースを持つブロックチェーンで効果的に物件の偽造証明書や詐欺師による物件掲載を過去のものとして葬ることができるだろう。固有の「デジタル上の物件所有権」を複製することはほぼ不可能となり、システムの中で1つの物件に直接紐付くようになる。詐欺師は保有していない物件を販売したり、告知したりすることが実質不可能となる。

完全な透明性を提供

数少ない一部の人たちだけが住宅を即時に購入する。そして購入者がモーゲージやローンに適格かどうかを証明するのは、管理体制と事務手続きの問題で苛立つほど遅く時間のかかるものだ。インターネットにはこのプロセスを早めるための情報で溢れているが、ブロックチェーンならそれを解決できるだろう。

ブロックチェーンを使って、人々は不動産、そして購入者と販売者自身にデジタルIDを付ける。これによりモーゲージのプロセスと所有権の受け渡しはスームレスにつながり、プロセスにかかる時間を大幅に短縮できるだろう。

購入者の場合、彼らのクレジット履歴と収入もすぐに認証できるようになり、銀行や弁護士、不動産仲介事業者へ手続きに行く時間を短縮できる。住宅の保有者は物件を所有していた期間などを含め、まとまった記録でその物件を所有していることを証明することができる。物件の所有者の履歴、修繕や改装箇所をリスト化した書類、住宅の保有と管理に付随する予想コストが紐付いたデジタル上のアイデンティティーを物件に紐付けることができるだろう。

一晩でこれらの変化が起きることはない。ブロックチェーン技術はまだ誕生したばかりで、革新的で先進的な考え方を持つ不動産企業が先陣を切って実例を生み、ブロックチェーンが取るべき正しい道であるとマスを説得しなければならない。しかし将来的に、この新しく安全なテクノロジーは物件の購入や売却、モーゲージや住宅ローンの申請の手間を減らし、そのプロセスも安全で透明性の高いものにするだろう。そして人々は自分たちと家族のために新しい家庭を築くという最も重要なことに注力できるようになる。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

今年注目のプログラミングのトレンド

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編集部記Martin PuryearはCrunch Networkのコントリビューターである。
Martin PuryearはCoding Dojoの筆頭指導者で、プリンシパル・エンジニアを務める。Coding Dojoは、14週間でフルスタック開発を教えるコード・ブートキャンプだ。

世界中の技術者や開発者にとってこれ以上面白い時代はないだろう。実用的な開発言語やフレームワークと共に開発ツールや学習の場が複数台頭している。

こんなにも近くにリソースがあるにも関わらず、私たちの向かう業界トレンドがどのようなものか分かりづらくなっている(潤沢にあるのが原因とも言えるかもしれないが)。コード・ブートキャンプの指導者という立場から、最新の強力なテクノロジーを支えている技術に日々接している。今後数年におけるプログラミングのトレンドは次のように考えている。

最新版JavaScript

2015年6月に正式にリリースされた、ECMAScript (ES6)の最新版(JavaScriptの名前の方が知られている)は、ウェブ開発環境において2009年にリリースされた前のバージョン(ES5)以降、最も大きな影響をもたらすものになるだろう。

JavaScriptは世界で最も広く使われているプログラミング言語で、ウェブブラウザを持つほぼ全てのパーソナル・コンピューターやモバイル端末が対応している。つまりES6、そしてそれがもたらす様々な機能が現代のウェブ開発に与える影響は計り知れない。

代表的な機能は、ブロックスコープ変数と関数、定数クロージャ・シンタックスを簡略化する矢印ストリングへの加筆クラスモジュールなどだ。

普及しているブラウザも最新のJavaScriptに早くも対応し始めている。Microsoft Edgeのバージョン13は、先行してすでに80%の機能に対応済みだ。今年はEdge、Chrome、Firefoxで対応が急速に進むだろう。

その間、開発者はES6が提供する機能の大部分を使用して開発を始めることができる。Babelなどのトランスパイルを使うことで、ES6のコードを現在のブラウザが対応しているES5 JavaScriptに問題なくコンパイルすることが可能だ。

「サービスとしてのバックエンド」が台頭

今後、アプリケーションは全てを自社で管理し、完全に閉じられた開発ではなくなるだろう。代わりに、開発にはサード・パーティのサービスを活用して、プロジェクトの共通する必要な要素の大部分を委託するようになる。例えば、クラウドストレージ、プッシュ通知、ユーザー管理の部分などだ。

サービスとしてのバックエンド(BaaS)は、このような用途ではお馴染みのものであり、それらが普及することは保証されている。特に法人分野でスケールすることが重大な課題となる大規模アプリケーションについて言える。ParseといったBaaSを使用することで、エンジニアとオペレーションのチームは、自社と競合を引き離すための仕事に注力できる。その間、基本的な機能とそれに伴うオーバーヘッドは別のところに引き渡すことが可能となる。

イメージマネジメントとデプロイメント

サービスとしてバックエンドは、プロジェクトのクラウドストレージやソーシャル・ネットワークのAPIとの連携を簡単にするが、多くのアプリケーションが正しく機能するにはまだローカルの開発スタックとサーバーを慎重にプロビジョニングすることが求められる。残念ながらサーバーのプロビジョニングは構造的に難しく、時間がかかる作業だ。そのため、驚くことではないが、プロビジョニングの自動化とコンテナが彗星のごとく登場した。

PackerDockerといったサービスは特定のOS、ライブラリ、言語、フレームワークに応じたマシンイメージを生成することができる。このマシンイメージはコンテナと呼ばれ、既存のサービスを拡張するために複製したり、新規に制作したりすることも可能だ。もし、オペレーションチームがこのことについて話しあっていないのなら、するべき時期に来ている。他の人もその話を聞いていないのなら、積極的に聞くべきだろう。

関数プログラミング言語の重要性が増す

現代のアプリケーションはより多くの通信帯域幅、ストレージ、処理を必要としているが、単一処理モデルでは、要件を満たしてスケールすることはできない(これまでもできない場合が多々あった)。システムをスケールさせるためには、出来る限り並列処理を進める必要があり、HaskellClojureScalaErlangといった関数プログラミング言語の重要性が増している。それに伴い、これらのテクノロジーを有効活用し、生産性を発揮できる開発者も必要となる。

命令型プログラミングは、状態を書き換える(オブジェクトの値を実行時に変更する)方式に依存しているが、関数プログラミングは不変の状態が軸になっている。宣言されたオブジェクトの値は全ての過程の中で同じままだ。そのため関数言語は、命令型やオブジェクト指向の言語より大幅に有利である。関数言語は、並列処理や並行処理に対応できるような仕組みなのだ。

実行時にデータが変更されないことは確実で、さらに関数に直接アクセス(不変であることが効果を発揮)することができるため、関数言語を使用することで制作するアプリケーションのスケールや分散コンピューティングを楽に行うことができるようになるだろう。

オブジェクト指向プログラミングは今後数年は業界の標準のままだろうが、ユーザーがより早い検索結果を望んだり、リサーチャーがさらに正確な計算を望んだりするほど、関数プログラミングは明らかで分かりやすいソリューションとして、光が当たることになるだろう。

マテリアルデザインと共通パターンへの移行

近年、現代的なUIとしてミニマリストのアプローチであるフラットデザインが席巻していたが、2016年はマテリアルデザインに焦点が移るだろう。Appleはフラットデザインの強力な支持者で3次元的なデザインを補足する要素を取り除いてきた。Microsoftは10年前に発表したZuneに実装した「Metro」デザインで最初にそこにたどり着き、次にWindows Phone 7、そして現在ではWindows 10に受け継がれている。

AppleとMicrosoftにとって最大の競合となるGoogleがマテリアルデザインへとそのトレンドを推し進めた。3次元的な奥行きを出す効果、例えばグラデーションや光の当たるデザインだ。この新しい見た目でデジタルな構成パーツが奥行きを取り戻した。例えば、ドロップシャドウを使うと、アプリケーションの各エレメントがクリックできるものなのか、動かないものなのかが分かりやすくなる。

Left: iOS, courtesy Apple Inc. // Right: Android, courtesy Wikipedia

今年はマテリアルデザインが前面に出ることが予想され、クリエイティブ(ソフトウェアデザイナーが)レスポンシブデザインに対応し、新たなUIデザインのパターンが一気に溢れることになるだろう。ウェブUIに関してもそれに似てくることが予想されるが、それも悪いことではない。デザイナーはログイン画面、ナビゲーションメニューといった共通タスクは、どんなユーザーにとっても馴染みのある見た目と感触であることが求められていることに気がついているからだ。

まとめ

今年はウェブソフトウェアにとって期待が持てる年になるだろう。基本となるテクノロジーからユーザー・エクスペリエンスまでの全ての部分にそれが言える。ECMAScript6で、どこでも使われているウェブ言語がアップグレードする。BaaSとデプロイメントのコンテナでコストや基本機能、プロビジョニングという頭痛の種の大部分が取り除かれるだろう。関数言語がメインストリームへと移行し、並列処理へのアプローチを変えることになる。

マテリアルデザインは、ユーザーが使うパーツに命を吹き込むことを目指している。そして新しい共通フレームワークで、デバイス間のユーザ・エクスペリエンスが統合することになるかもしれない。エンジニアリング分野や業界に問わず、これらの新しい技術がどのような価値をもたらすかに注目すると良いだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

Eコマースにおけるカスタマーの性格カテゴリー

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編集部記Liraz MargalitはCrunch Networkのコントリビューターである。Liraz Margalitは、ClickTaleのカスタマー体験を分析する心理学者であり、ウェブサイトとユーザーのインタラクションを最適化を担っている。

私たちを取り巻く小売の環境では、カスタマーがどんな人かを知るのは難しい。昔ながらの店舗とは違い、オンラインショッピングのマーケットプレイスは、無名ユーザーの欲しい物や需要、特定のショッピングスタイルといった情報の層が分かれていて、キーボード操作とIPアドレスで振り分けなければならないものだ。

これは多くのウェブ企業に大きなマーケティングの問題をもたらす。カスタマーについて何も知らないのに、どのような対応をすべきなのだろうか?ターゲットが見えていないのに、どのようなオンラインキャンペーンを展開すべきなのだろうか?

私たちはオンラインで買い物をする時の特有の性格がある。そしてオンラインの行動は個別のサインを出している。それは私たちの現実世界における洋服、外見、所作のようなものだ。企業がこれを理解するのは、ユーザーをターゲッティングするのに重要なことだ。

では、オンライン上の性格にはどのようなカテゴリーがあるだろうか?

ウィッシュリスト愛好家

ショッピングカート放棄については知っているかと思うが、Eコマースにとって最も歓迎されないユーザーはこの1つのカテゴリーにあてはめることができる。

ウィッシュリスト愛好家は、現実世界でのウィンドーショッピングする人と似ている。彼らは、ずっと夢を見ていて、永遠とPinterestで画像をピンするショッパーで、商品を探してはいるが、購入することはほとんどない。

オンラインのショッピングカートは仮想のものであるため、ウィッシュリスト愛好家はそこに商品を入れるだけで、それらを所有した気分に浸れる。実際に料金を払わずとも、何か素敵なものを購入した時の高揚感を楽しんでいるのだ。

ウイッシュリスト愛好家にはどのような対応ができるだろうか?たくさん商品を入れたショッピングカートを何も購入せずに放棄したのなら、その中の1つか2つの商品に割引を提案することができるだろう。次回そのユーザーがサイトに購入は考えていないがブラウズするために訪れた時、そのインセンティブで決済画面に進むことを促すことができるかもしれない。

ブランド志向型

ブランド志向型のユーザーに対応するのはやや難しい。このカテゴリーのユーザーは究極の衝動買いユーザーだからだ。形状や機能ではなく、ステータスやブランドを重んじるユーザーであり、感情で買い物をする。ブランド志向型のユーザーにとって、「この商品はどのような気分にさせてくれるだろうか?」ということの方が、その商品が必要であることより重要なのだ。

ブランド志向型ユーザーは買い物履歴で判別することができる。既に購入した経験があって良かったデザイナーの商品を中心に見たり、オンラインで違う色の商品やアクセサリーを何時間も試しているようなら、そのユーザーはブランド志向型であると言えるだろう。

ターゲットが見えていないのに、どのようなオンラインキャンペーンを展開すべきなのだろうか?

ブランド志向型ユーザーにはどのような対応をすべきだろうか?ユーザーの感情に訴えることだ。商品情報は最低限にし、様々な統計情報や数値で買い物客を圧倒しない方が良いだろう。このタイプのユーザーはそのような情報に興味がない。美しい画像や夢中にさせる文言を提示することに注力すべきだろう。ブランド志向型ユーザーは直感で買い物をするため、サイトはユーザーに合わせるようにしよう。

合理主義ユーザー

ブランド志向型ユーザーの対局に位置するのは合理主義ユーザーだ。このような買い物客はたいてい予算に合っているかの一点に着目している。このユーザーは商品価格と商品を使うことで得られる満足度の比率を注意深く検証し、実用的で適切な購入判断をしようとする。

合理主義ユーザーが多いのならブランド志向型ユーザーとは正反対の施策を取る必要があるだろう。商品の価値、満足できる点を箇条書きで明示し、それらが最初から前に出て分かりやすくすると良いだろう。詳細情報も合理主義ユーザーにとっては重要な要素だ。彼らのニーズを尊重し、情報はなるべく提示すると良いだろう。提示する情報が多いほど、合理主義ユーザーは知識を得て満足することができる。最終的に購入に至り、競合サイトへの流出を防ぐことができるだろう。

徹底調査型

全ての商品レビューを閲覧したり、統計情報を眺めたり、ページを上から下までじっくり見る行動を取るカスタマーは、別のカテゴリーに分類している。彼らは「徹底調査型」のショッパーで、このようなユーザーは、出来る限り最良な購入判断をしたいと考えている。決断をする前にはユーザー自身も疲れてしまうほど調べる傾向にある。

このようなカスタマーの課題は不安感にある。Eコマースのサイトであまりに多くの選択肢が提示される場合、徹底調査型のショッパーはパニックを起こし、結局全てのブラウザーを閉じることになってしまう。選択肢と情報を全て提示することは彼らにとってエンターテイメントでも安心感につながるものでもなく、怖がらせるものになる。

サイトの説明文は賢く計画すべきだろう。徹底調査型のユーザーには、提示する選択肢を限定すると良いかもしれない。フィルターを使って分かりやすく分類したり、一度に表示する商品を5つに限定したり、購入を促進させる工夫や各ユーザーの買い物履歴に合わせた商品を提案することでちょっとした買い物の「はずみ」を付ける工夫をすると良いだろう。

目的志向型

Clicktaleでウェブサイトのトラフィックを分析する時、ページの上からスクロールしていき、ページの中程でも条件に合う商品があれば、すぐに購入を決断するユーザーを見かける。検索条件に合っている商品が他にもまだあるにも関わらず、ユーザーは即決する。このようなショッパーは目的志向型と呼んでいる。彼らは、特定のニーズが頭にあってEコマースのサイトを訪れているため、ニーズを満たす商品を見つけた瞬間、購入を決断するのだ。

買い物客の傾向が分かれば、彼らを向かってほしい所に上手く誘導するサイト設計を検討することができるようになるだろう。

目的志向型のユーザーは商品を探すために無駄な時間を使いたくないと考え、商品が見つかれば満足する。このようなショッパーのためには、商品の選択肢をフィルターで絞り込み、常に目的の商品に焦点が当たるようにすべきだろう。

他に目的志向型を助けるツールは、サイズ、色、ブランドでの検索を実装することで、すぐに探しているものを見つけ出し、検索にかかる時間を短縮できるようなものだ。また、他の関係のないデータはページに表示しない工夫もできる。

躊躇い型

購入する気でいて、商品を探すのを楽しみ、ショッピングカートに商品を入れるが「購入」ボタンをクリックする時に立ち止まるユーザーもいる。

このようなユーザーにもカテゴリーを付けた。私たちはこのようなユーザーを「躊躇い型」と呼んでいる。カスタマーは買い物を楽しみ、購入する意志もあるが、誤った判断をするのを恐れて進むことができず、バイヤーズリモース(購入したことへの後悔)に陥る。このようなユーザーはオンラインの行動から分かる。最後の購入画面に進むためのコール・トゥ・アクションのボタンの上で迷い始め、商品の入ったカートをそのままに、他のタブをさまよって、どうしようかと考える傾向にある。

このような「躊躇い型」に購入判断を後押しするためには、報酬が紐づく行動を促すサイト設計を検討すると良いだろう。買い物体験の各ステップにフィードバックやポジティブな促進を与えるようなウェブサイトのデザインを検討することだ。例えば、中立的な「サイトにようこそ」というような文章ではなく、ユーザーの判断を肯定するような表現「このサイトを選んで正解です」などを検討すると良いだろう。

また、途中で離脱するタイミングを減らすサイト設計が重要だ。チェックアウトまでのページを最小限にし、「購入」ボタンをクリックした後に前に戻ることが難しくなるような工夫が必要だ。

まとめ

実店舗の時代では販売員は買い物客の特性をボディーランゲージや外見で分かるシグナルを読み取って判別していた。現代のオンライン・ショッピングではこのあり方は大きく変わったが、ビジネスは無名のオンライン・ショッパーでも商品を探し方やクリックの傾向で多くのサインを出していることを知る必要がある。

買い物客の傾向が分かれば、彼らを向かってほしい所に上手く誘導するサイト設計を検討することができるようになるだろう。つまり、チェックアウトページを通過し、コンバージョンへと導く道筋を見つけることができるということだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

e-Sportsの魅力はエンターテイメントにある

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編集部記Daniel LiはCrunch Networkのコントリビューターである。Daniel Li はMadrona Venture Groupで投資を行っている。

e-Sports業界は大きくなっている。かなり大きい。CNNよりTwitchを見る人の方が多いのだ。Riot、Valve、Activision-Blizzard、EAもe-Sportsの取り組みを行っている。e-Sports最大のトーナメントは何千万人の視聴者を惹き付け、League of LegendsやDota 2といったゲームの最強プレーヤーには、何千万ドルに及ぶ賞金プールが用意されている。

しかし、スーパースターのプレーヤー有名トーナメント、そして一般的なスポーツとの比較にしか目を向けていないのなら、e-Sportsの最も興味深い要素を見逃しているかもしれない。e-Sportsとストリーミングの分野を詳しく見てみると、ゲームが上手いことよりエンターテイメント性がある方が利益を得られることが分かる。

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参照: Madrona Venture Group

これまでe-Sportsのプロ選手の収入の大部分は、トーナメントの優勝賞金が占めていた。ゴルフやテニスといったスポーツのモデルを継承し、プレーヤーは世界の主要なトーナメントに参加して、賞金のために競っていた。

例えば、e-Sportsで400番目に多い賞金を獲得している韓国人のLeague of LegendsのプレーヤーSpiritの場合、2013年から13のトーナメントに参加し、8万ドルを獲得した。2014年のLeague of Legendsのワールド・チャンピオンシップのトップ3に入った時の賞金も含んでいる。

しかし、近年、ライブストリーミングのサービスが普及したことにより、サブスクリプション、寄付、クラウドファンディングといった新たな収入モデルが出てきた。これらの新しいモデルは、プレーヤーに賞金を獲得するのではなく、エンターテイメント性や視聴者のエンゲージメントを獲得することに注力することを促すものだ。

例えば、Twitchで400番目に人気のストリーマーはDestinyだ。彼は、2011年から参加しているトーナメントの賞金では2444ドルしか獲得していないが、Twitchで年間10万ドル以上の収入を得ている。そのほとんどはサブスクリプション(月に5000ドル)と寄付(月1500ドル)が占める。下記のグラフは彼の月々の収入を示すもので、The Daily Dotのインタビューで彼が共有したものだ。

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参照: The Daily Dot、Destiny

e-Sportsのストリーマーにとってこのモデルが機能するのは、プロゲーマーになって、ゲーム動画の配信を始めるコストがほぼゼロに近く、オーディエンスがそんなに多くなくとも、ある程度の収入を得ることができるからだ。

ストリーマーは、何年もの練習やコーチングを必要としたり、配信するためのインフラを整えたりするのに何千ドルのコストを払う必要はない。誰でも、いつでもストリーミングを無料で始めることができる。KittyPlaysGamesの記事では、法律を専攻している学生がプロのストリーマーになり、2500人のサブスクリプション(これは月々サブスクリプション収入だけで最低6250ドルになる)で、50人以上のファンが1000ドルの寄付をその学生に贈った話がある。

会社の法務で仕事をするなら、収入は少し下がることになる
— KittyPlaysGames

サブスクリプションの収入とストリーマーが直接受け取る寄付のおかげで、ストリーマーは広告収入をあてにすることはなく、比較的少数でもエンゲージメントの高いオーディエンスを獲得するだけで、自分たちの生活を賄うのに十分な収入を確保することができる。

例えば前述のDestinyは、サブスクリプションと寄付で月々6500ドルの収入がある。Destinyの平均の同時視聴ユーザーは2000人から2500人だ。KittyPlaysGamesも通常の同時視聴ユーザーは2000人から5000人だが「会社の法務で仕事をするなら、収入は少し下がることになる」と話している。

e-Sportsのこの特徴的な始めやすさとチャンスには多くの可能性があり、より多くの企業がe-Sportsの競技ではなく、エンターテイメント性に着目している。Jonathan PanのESportsマーケットエコシステム・マップを参照すると良いだろう。

まだe-Sportsは始まったばかりで、企業がこのカテゴリーを成長させ、確立していくチャンスは多くある。Madronaが注目しているアイディアをいくつか挙げたい。

次のTwitch

Twitchはゲームのコミュニティーにとって素晴らしいプラットフォームだ。しかし、他の軸でもTwitchが勝てるかどうかは分からない。YouTubeで最も視聴される動画カテゴリーは以下の通りだ。これらのカテゴリーをユーザーはライブで視聴するようになるだろうか?その場合、ユーザーはそのコンテンツ制作者とどのように関わるようになるだろうか?

Source: ESPN and FiveThirtyEight

参照: ESPNとFiveThirtyEight

Twitchで急成長するメディア

ESPNはケーブルテレビで始まり、BuzzFeedはFacebookで始まり、VICEはYouTubeで始まった。これらの企業は、そのチャネルを把握して急成長し、他のチャネルに進出していった。Twitchや他のストリーミングプラットフォームで急成長を遂げるのはどのようなメディアだろうか?

ストリーマー用のツール

ストリーマーは毎週50時間以上、動画配信をしている。フルタイムの仕事だ。ストリーマーはオーディエンスのエンゲージメントを獲得してマネタイズするために、独創的な方法を見つける必要がある。Madronaが最近投資したMatcherinoはこのカテゴリーに入る。彼らは、ストリーマーが配信していない時でもオーディエンスのエンゲージを促す施策を提供し、またファンがお気にい入りのストリーマーを支援するためにクラウドファンディングの仕組みも活用できるようにしている。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

スタートアップはオンライン教育にどのように取り組んでいるか

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編集部記Roshan ChoxiはCrunch Networkのコントリビューターである。Roshan ChoxiはBlocの共同ファウンダーでCEOを務めている。

1984年、教育心理学者のベンジャミン・ブルームは、教え方に関する調査内容を公表した。これは、一般的にブルームの2シグマ(σ)問題と呼ばれている。Wikipediaはこれについて次のようにまとめている。「1対1で完全習得学習(マスタリー・ラーニング)に基いた指導を受けた生徒は平均的に、既存の指導方法を受けた生徒より標準偏差2領域分パフォーマンスが向上した。言い換えれば、平均でチューターの指導を受けた生徒は統制群となるクラスで指導を受けた生徒より98%パフォーマンスが良かった」。

「2シグマ(σ)」という名称はこの研究結果から来た名称だ。1対1のメンターと完全習得学習を組み合わせた指導を受けた生徒は、既存の教室環境での指導を受けた生徒より、パフォーマンスが2標準偏差(標準偏差を表す記号がシグマ)高くなった。

別の言い方をするのなら、1対1のメンターによる完全習得学習の指導を受けたほぼ全ての生徒(98%)が、比較対象となる教室で授業を受けた生徒の平均より成績が良くなった。

choxi

ブルームの研究はこのような結果を得るには2つ必要な要素があると示している。

  1. 生徒は1対1で指導を受けること
  2. 指導者は完全習得学習による指導を行うこと

完全習得学習とは教育方法を指している。完全習得学習では、教育者は生徒が1つの課題やスキルを習得するまで必要なだけ指導を行い、習得できてから次に進む。完全習得学習は少人数のクラスや1対1のメンターシップの場で行うことができる。

ブルームは個別指導が最も学習に効果的だが、広く採用するのにはコストがかかり過ぎると結論付けていた。彼は以下のように述べている。

この教育方法は、ほとんどの生徒が高いレベルの学習を習得することができることを示しています。研究と施策における最も重要な課題は、1対1の教育指導をより実用的で現実的な方法を探ることです。1対1の教育方法を大規模に採用するコストを社会が負担することは難しいでしょう。

テクノロジーで2シグマ問題を解決する

ここ5年の間にいくつかのテクノロジースタートアップが「オンライン・メンターシップ(個別指導)」のプロダクトをローンチしている。Thinkfulは構造的なオンライン・メンターシップ・プログラムを2012年に制作し、AirPairとHackHandsもオンデマンド・メンターシップのサービスを2013年にローンチした。

Udacityも自社のオンラインプログラムに「コーチ」を導入した。PluralsightはHackHandsを買収しUdemyは昨年CodeMentorと提携している。これらのプロダクトはテクノロジー特有の強みを活かし、メンターシップを多くの人に届け、2シグマ問題を解決しようとしている。

リモートの動画カンファレンスの実現で、メンターと生徒の流動的なマーケットプレースが生まれた。生徒がいる地理的な位置という制限がない場合、生徒は容易に最適なメンターとつながることができる。

ブルームはきっとメンターがその場で授業を行ったり、レクチャー指導を行ったりすることを前提にしていたのだろうが、レッスンやレクシャーは録画することができる。(ライブ授業より高品質のレクチャー動画を残すことができるだろう。)そのためメンターは個別の生徒の対応に注力することができる。

教室という制限がなくなれば、生徒は自分のペースで教材での学びを進めることができる。これにより、指導者は各生徒に合わせた完全習得学習と個別指導を提供することができる。

また、オンラインプログラムにおける生徒の学習過程の全ての要素は最初から量的に測定することができ、メンターは生徒の進捗を詳細に知ることができる。毎月試験を実施しなくても、指導者は生徒のエンゲージメントや進捗をリアルタイムでモニタリングすることができるのだ。

スケジュール管理、メッセージの送受信といったやりとりを自動化するツールのおかげで指導者はより多くの生徒を担当することができるようになる。(それでもそれぞれの生徒に注意を向けることが可能だ。)既存の教室環境より多くの生徒を見ることもできるかもしれない。

  • Screenshot of a HackHands session (source: CrunchBase).

    HackHandsセッションのスクリーンショット(参照: CrunchBase

    ブルームの研究は、指導者の教育方法が生徒の学習能力に大きな影響を与えることを示唆するものだ。これは、特定のスキルの学習が上手くできる生徒を判別することにあまり意味がないと示すものでもあるだろう。教室環境では平均以下のパフォーマンスの生徒でも、チューターによる個別指導に切り替えることで大きく向上することが期待できる。テクノロジーを持ってメンターシップを広めることで、このような良い結果を増大させることにつながるだろう。

    教育ブレークスルー

    ブルームの研究は、90%の生徒が通常の教室環境で学ぶ生徒の上位20%が獲得するのと同じ成績を残す方法を提示した。最近の研究もこれを裏付ける研究結果を出している。2004年、 ハーバードの研究では、数学の個別指導を受けた生徒が比較対象となる教室環境の学生より、州の共通数学テストで200%上回る成績を残した。これらの統計が支持するアプローチを実践することができれば、ブルームの2シグマ問題を解決し、ソクラテスの時代から現在までで最も偉大な教育におけるブレークスルーをもたらすことができるだろう。

    すでに多くのスタートアップはオンライン・メンターシップでテクノロジーの強みと個人がそれぞれに持つ能力を活かし、教育方法に根本的な変革をもたらそうとしている。

しかし無作為抽出された実験ではない、統制されたオンラインのメンターシッププログラムと既存の教室環境を比較する場合、オンラインのプログラムでどのようにブルームの調査結果を実証し、再現することができるだろうか?オンライン・メンターシップはブルームが特定した課題を解決するものだが、オンラインでの教育環境は1対1の個別指導と完全習得学習の効果を相殺してしまうようなトレードオフとなるマイナス要素はないのだろうか?

例えば、MOOCs(広範囲に開かれたオンラインコースの略。edXやCourseraといったサービス)は、 学生のエンゲージメントの獲得に苦戦し、リテンション率もとても低いことが知られている。オンラインプログラムには物理的な教室に通うという制限がないため、学生のエンゲージメントを保つのが困難になるのだろう。

「オンライン・メンターシップ」の特定の構造に関する研究はないが、一般的なオンライン教育に関する研究ならいくつかある。サンノゼ州立大学はedXと協力し、「逆転クラスルーム」モデルを試験的に行った。そのモデルで修了率が46%向上したという。しかしこの検証は無作為抽出のトライアルではなかったため、「逆転クラスルーム」モデルに参加すると表明した生徒はそのモデルでパフォーマンスが上がる素地があったのかもしれない。

アメリカ合衆国教育省の研究では、オンライン教育は対面での教育と同レベルであることが示唆されたが、双方を組み合わせたモデルの方がどちらか単体の教育方法よりも良いとした。

最近の実験と実験研究に近い検証から、オンラインと対面での指導を組み合わせた指導方法と、既存のクラスでの対面の指導方法を比較した結果、双方を組み合わせた指導方法の方が効果的であり、そのアプローチの実装を検討することが合理的であることが判明した。オンラインだけの場合、既存の教室での指導と同程度の効果があったが、それ以上ではなかった。

もう一度言うが、これらの研究はオンライン・メンターシップに特化した研究ではなく、オンライン教育全般に関するものだ。この研究における対面は「オフラインでのクラスルーム環境」という意味だ。しかし、このオンライン教育と対面指導の要素を組み合わせるモデルは、オンライン・メンターシップの利点を示唆するものだ。

このアプローチに関する研究の余地は多く残されている。しかし、すでに多くのスタートアップはオンライン・メンターシップでテクノロジーの強みと個人がそれぞれに持つ能力を活かし、教育方法に根本的な変革をもたらそうとしていることに変わりないだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

「コンテンツのVR」と「現実生活のAR」の競争

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編集部記Ricardo DiazはCrunch Networkのコントリビューターである。Ricardo DiazはZambeziのデジタル部門のディレクターである。

仮想現実と拡張現実は数十年前から存在してきたものだが、ようやく最近になってメインストリームの注目を得ることができた。

VRは現在急速に伸びているし、そのコンテンツとハードウェアの進化を目の当たりにして、わくわくしている。

短期間の内にコンテンツクリエイターは、この新しいテクノロジーを活用して素晴らしいストーリーを制作するようになった。ブランド、映画スタジオ、ゲーム会社、新しい組織はどこもこのツールとチャネルの活用方法を試している。

2016年を通してARよりVRに注目が集まるだろうが、その後ARが私たちの毎日の生活により密着したテクノロジーになると私は考えている。

コンテンツに最適なVR

The New York Timesは最近、100万個以上のGoogleカードボードをデジタル版の購読ユーザーに送った。YouTubeとFacebookは、オンラインのデジタル動画再生でもVRを視聴できるようにした。VRがクリティカルマスを超えるための準備は全て整った。

VRだけがユーザーの全ての注意をコンテンツに向けることができるメディアだ。他に注意をそらすものはなく、ユーザーはメールやテキストメッセージをチェックしたり、SNSのステータスのアップデートに気を取られることはない。伝えるストーリーに最も没入できる方法がVRだ。ヘッドセットの中の体験はユーザーの脳、心、五臓六腑に訴えるものだ。

しかしVR最大の強みは同時に最大の弱点でもある。VRの没入する体験はその性質上、ユーザーは周囲と関わることができなくなる。その場からユーザーを隔離するものなのだ。ユーザーは歩いたり、すぐ隣に何があるかを知ることはできず、他人の目を見て、その人のボディーランゲージを読み取ることはできない。VRはコンテンツを体験するのには強力な方法だが、現実世界と関わるのには実用的な方法ではない。

VRもARも私たちの現実感に影響を与える。ARは現実を増強し、VRはユーザーを現実から逸らす。

もう1つVRには大きな問題がある。コンテンツが王者だ。これは疑いようのないものであり、広告業界はこの没入体験を提供することを望んでいる。しかし、VRは私たちの毎日の生活の一部になることはない。

広告の本来の目的はユーザーのタスクや体験を中断することではなく、広告主の代わりとなってブランドに価値を付加することだ。VRはすでにコンテンツの視聴方法に革新をもたらし始めたが、私たちの毎日の生活に革新をもたらすテクノロジーにはならないだろう。

現実世界に最適なAR

ARは私たちの毎日の体験にリアルタイムで情報を付加する。私たちはハリウッド映画の中に未来を見た。アバター、マイノリティー・リポート、アイアンマン、ウォーリーなどの映画で描かれたことは近い内に現実のものとなるだろう。

しかし、ARには実装の問題があり、体感がぎこちない。スマートフォンをAR広告に向けて、品質の低いコンテンツを見たことはないだろうか?Google Glassは先進的なARアプリケーションを見せたが、最終的に失敗した。それは彼らが制作したハードウェアとテクノロジーの使い道が広すぎて、コンシューマーが抱えている問題を解決するという焦点がぼやけてしまったからだ。彼らの試みはARがもたらす未来を示したが、ユーザーのいる状況に則した利便性を届けることに失敗した。

それでもARの未来は明るい。他にも数社がARのプロダクトを制作している。MicrosoftはARのヘッドセット眼鏡のHoloLensを制作している。デベロッパーキットは2016年の早い段階でローンチする予定だ。GoogleはMagic Leapに投資した。彼らの技術は、ユーザーの虹彩に映像を投影することでARを体験できるというものだ。もう一年ほどすれば、その世界が現実のものとなるだろう。

VRもARも私たちの現実感に影響を与える。ARは現実を増強し、VRはユーザーを現実から逸らす。ARは2017年にも市場に到着し、マーケッターには状況に紐づくデータを、そしてコンシューマーには利便性を届けるだろう。

それが約束された未来で、すぐそこまで来ている。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

ビットコインがブロックチェーンより重要な理由

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今世紀、最も画期的な決済が行われたのは2010年5月22日だった。ウォール街、ロンドンの金融街とも関係ない、フロリダ州ジャクソンヴィルでのことだ。保証された負債契約もクレジット・デフォルト・スワップもない。ピザ店Papa John’sの2枚のピザと引き換えに現在の価値で400万米ドルを超える支払いがなされた。

この決済で最も注目すべきことは、ピザの提供者だった18歳のJeremy Sturdivantが取引に応じたことだ。彼が受け取った1万ユニット分の通貨はインターネットの世界から誕生したばかりで、どこかの銀行や国がその価値を担保するものではない。この通貨が初めて、パンとチーズの交換に値する価値を持った。現実世界で初めて、ビットコインがペパロニの乗ったピザと交換されたのだ。

バズワード「ブロックチェーン」

昨年、多くの人がビットコインを構築するテクノロジー「ブロックチェーン」の話をするようになったが、ビットコイン自体は影に追いやられているようだ。Financial Timesは興奮気味に「銀行はブロックチェーン技術の獲得のために競い合っている」という内容の記事を出し、Forbesも「ブロックチェーンが金融サービスをディスラプトすると全員の考えは一致しているようだ」と熱っぽく伝えた。しかしビットコイン自体の話になると、この弟分の名前は最後に少し出てくる程度だ。まるで誰もがビットコインをなかったことにしてしまえば楽なのにと思っているかのようだ。

ソフトウェアエンジニアである私にとってこれはとても奇妙でねじれているように思える。ブロックチェーンはデータ構造に過ぎない。確かに画期的で強力なものだが、それ単体では革新をもたらすものにはならない。「連結リストスタートアップ」や「B-tree構造が銀行業務を変える」と賞賛する記事の見出しがあるのだろうか。私たち自身が興味深い技術と価値あるアプリケーションを履き違えているのではないだろうか?

この現状に異議を唱えたいと思う。最新の既成概念をもう一度考え直したい。ビットコインの方がブロックチェーンより重要なのではないだろうか? もし、20年前の企業内イントラネットにおけるインターネットの存在と現在の金融サービスブロックチェーンにおける分散型で承認を必要としないビットコインの存在がほぼ等しいものと考えるならどうだろうか?

ビットコインの価値

ビットコインには何故価値があるのだろうか?「金」に価値があるのと同じ理由だ。では、なぜ金に価値があるのだろうか?金そのものに価値があるのではない。「金本位制」を語る者はそれが自明なものであると考えている。人の集合的な幻想だとは思っていない。そして、1オンスの金の価値がそのものよりも大きくなっていることも忘れてしまう。金の価値をその輝き、扱いやすさ、伝導性だけで計るのなら、その価値は今の水準より大幅に低くなるだろう。

金が何世紀にも渡って価値あるものとして存在してきた理由は、価値を示すのに最適なものであったからだ。そのようなものを他に探すことは非常に難しい。金は偽物を作ることが困難だ。一方で、純化したり、分割したり、合わせたりすることが簡単で、運びやすい。そして何より希少なものだ。(これまでに採掘された金の量を全て合わせてもオリンピックの競泳プール4つ分に満たない。)これらの要素を満たしていることが効率的な交換の媒体共通貨幣単位、そして価値を保蔵するものになる。つまり、 通貨になりうるということだ。

そしてビットコインもまたこれらの要件を完璧に満たしている。

Cypherpunkのアルケミストは何十年にも渡って、金の代わりとなるデジタル通貨を探し続けた。それが見つかった今、一般の人もその素晴らしさを理解することを期待している。しかし、それは間違いだ。多くの人はビットコインを使う必要はない。金だって使わないのだから。彼らは(まだ)「スマート・コントラクト」を必要としてない。これはビットコイン特有で最も興味深い要素だ。一般の人がビットコインを毎日の生活で使用することになる理由は国とその通貨に裏切られた時だけだ。

しかし、だからといってビットコインと無縁であるということではない。一般の人でも20世紀に作られた、外見は磨き上げられているグローバル金融システムという機械の裏側は錆びつき、綻んでいることを時折垣間見ることがある。その時、インターネットが長距離電話を刷新したように、ビットコインが金融サービスを刷新する可能性を感じることができる。

グローバル化に逆行

20世紀の大型装置の綻びが分かるのは旅行の時だ。国際送金する際、多額の手数料がかかったり、ひどい為替レートだったりしたことはないだろうか?ATMはすぐに使えるのに送金の時は何時間、時には数日かかったりするのを疑問に思ったことはないだろうか?別の国からATMを使う場合は、さらにひどい為替レートで、その上5ドルの手数料が引かれることを疑問に思ったことはないだろうか?

まだある。 自国から離れるとデビットカードが使えなくなった知人はいないだろうか?人口の大半が銀行口座を持たない国に旅したことはないだろうか?やみ市場で通貨を交換しなければならなかったことはないだろうか?帰国するとき、ほとんど価値がなく、交換することもできない貨幣をたくさん持っていたことはないだろうか?輸出規制やハイパーインフレの問題に直面したことはないだろうか?

私は発展国を長い期間をかけて旅行した時、このようなことを多く経験してきた。他にも何十億人が同じ状況に直面していることも知った。(中国インドは外貨管理を行っている。世界銀行の推定によると、2014年、2億5000万人の移住者が行った海外送金の額は5830億ドルになるそうだ。)

これらの問題を回避できる方法がある。金を使うことだ。そしてビットコインも使えるようになりつつある。さらに、ビットコインは金ではできないこともできる。例えば、ビットコインは世界のどこにいても、一人の人から別の人に仲介を必要とせず、数分で送金することができる。

キラー・アプリケーション

もしかしたら金融業界がその膨大な知識でブロックチェーンのキラー・アプリケーションを作ることができるかもしれない。あり得るだろう。しかしもうすでに1つ、ビットコインが存在していることを無視するのはとても不思議なことのように思う。何もないところから60億ドルの価値を創出したのだ。

私は、固有のデータ構造を使っているから革新的なものだと主張するアプリケーションや大手銀行、企業連合のブロックチェーンの取り組みにさほど魅力を感じない。(Ethereumのような本当に適用可能な取り組みについては関心があるが、彼らの取り組みはブロックチェーンに限定していることではない。)同様に一般の人にもビットコインを使うことを期待するアプリケーションにも魅力を感じない。

私が魅力を感じるのは、現在の凝り固まって継ぎ接ぎだらけのグローバル金融の配管に取って代わるようなビットコインのアプリケーションだ。TechCrunchのJohn BiggsのFreemitやKleiner Perkinsが投資するAlign Commerceなどがある。ビットコインに関係する全てのものの領域を広げることに特化したBlockstreamサイドチェーンを開発し、初めての試みを行ったことは注目に値する。大手銀行のブロックチェーンの取り組みの先に将来の決済手段があるのではないのかもしれない。このようなスタートアップの動向に注目したいと思う。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

人工知能分野の投資環境、最前線を分析

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編集部記Nathan BenaichはCrunch Networkのコントリビューターである。Nathan Benaichは、Playfair Capitalのパートナーを務めている。

現在、人工知能は最も胸の踊る、革新をもたらす技術の1つであると言える。私はPlayfair Capitalのベンチャー投資家でAIのコミュニティーを構築するための投資に注力している。その立場からすると、今の時代は投資家がAI分野の企業を助けるのに最適な時期だと言える。それには3つの理由がある。

1つは、世界の人口の40%はオンラインにいて、20億台以上のスマートフォンが使用され、毎日の利用頻度も増加している(KPCBの調査より)。それにより、AIを構築する素材となるユーザーの行動、興味関心、知識、つながりやこれまで存在しなかったありとあらゆる細かなアクティビティのデータ資産が集まるようになった。

2つ目は、コンピューター演算やストレージのコストが大幅に下がったことだ。反対にプロセッサーの処理容量は増え続け、AIアプリケーションは手頃な価格で構築することが可能となった。

3つ目は、最近のAIの学習システム、アーキテクチャ、ソフトウェアのインフラストラクチャの設計が大幅に改善されていることだ。これらは将来におけるインベーションを加速することを保証するだろう。私たちはまだ明日がどのような形でどのように感じるか、そしてそれがどれほどのことかを完全には理解できていない

また、AIを軸としたプロダクトはすでに市場に解き放たれ、検索エンジン、レコメンドシステム(例えば、Eコマースや音楽サービスにあるようなレコメンド機能)、アド配信と金融商品の取引のパフォーマンスの改善に役立っていることに注目すべきだ。

AIに投資するリソースのある企業は、他の企業が後を辿る道を切り拓いている。他の競合他社が同じ場にいないことのリスクも負っている。それにより、コミュニティーはより深くAIを理解し、多岐にわたる複雑なタスクを担う学習システムを構築するための機能的なツールを手にすることができるようになった。

AI技術を何に使うか?

多様なことに応用できる強力な技術を持って、AI企業は各社、それぞれの方法で市場に参入している。ここには6つの道とそのルートを選んだ会社を何社か挙げた。

  • 市場には多くの企業があり、彼らのウェブやオンプレミスに保存したオープンデータを活用することができるようになった。これらのデータをつなげることで、複雑な課題の全体像を捉えられるようにする。そこから新しい洞察を得て、未来予測に役立てている。(例:DueDil*、Premise 、Enigma
  • チームの専門分野を活かして、特定分野において高頻度で発生する重要な課題を、AI技術を使って、人では管理しきれない部分を補う。(例:オンライン詐欺探知のSift ScienceRavelin*
  • これまでのAIフレームワークをプロダクトにしたり、新規のAIフレームワークを様々な商業的な課題の解決のために提供する。例えば、特徴選択、ハイパーパラメーター最適化、データ処理、アルゴリズム、モデル学習、デプロイメントなどのフレームワーク。(例:H2O.aiSeldon*、SigOpt
  • 知識労働者が行っているもので繰り返し発生する作業、構造化されているが、人的ミスの余地があり、時間のかかる作業を日常的な状況判断を行い自動化する。(例:Gluru, x.aiSwiftKey
  • ロボットや自立して動くエージェントが物理世界で物事を感知、学習、意思決定する力を与える。(例:TeslaMatternetSkyCatch
  • 長期の視点に立ち、学界が担うような分野での研究開発(R&D)に注力する。学界の予算は厳しく、発展しずらいため、その分野に進出するリスクを取る。(例:DNN ResearchDeepMind 、Vicarious)。

これについての議論は別の記事でもまとめられている。つまり重要なことは、大手データ所有者(Google、Microsoft、Intel、IBM)による技術のオープンソース化と多様な企業がAI技術を安価に提供し始めているということでこれらの技術的なハードルが急速に下がっていることを意味する。AIの発展に向けて進むには、専有データへのアクセスやデータ構築、経験豊富な人材の獲得、そして魅力的なプロダクト開発が必要だ。

AI企業や投資家が懸念する課題は?

AI企業と投資家は、AI分野に足を踏み入れる際に注意を払う業務上、商業上、財務上の課題がある。考慮すべき重要なポイントは以下の通りだ。

業務上の課題

  • 長くかかる研究開発と短期のマネタイズのバランスをどのように取るか?解放されるライブラリやフレームワークの数は増えているが、それでもプロダクトのパフォーマンスを十分なものにするためには最初に多額の開発費用を投じる必要がある。ユーザーは、人が行った場合に得られる結果をAIのパフォーマンスのベンチマークとすることが多いだろう。まずAI開発は人と競うのだ。
  • 人材が足りない。スキルと経験をバランス良く持っている人は少ない。どこで人材を確保し、その人材を離さないようにするにはどうすべきか?
  • 開発、プロダクトリサーチ、デザインのバランスを最初の段階から検討する。プロダクトの美しさとエクスペリエンスを後から考えるということは、豚に口紅を塗るようなものだ。豚であることは変えることはできない。
  • AIシステムを便利に使うには、ほとんどの場合データが必要だ。データが大量にない場合、初期段階のシステムはどのようにブートストラップすべきか?

商業上の課題

  • AIプロダクトはまだ比較的市場にとって新しいものだ。そのため購入者は技術者でない場合が多いだろう。(あるいは、開発者側が制作しているプロダクトの肝を理解するための専門知識が足りないかもしれない。)販売するプロダクトを初めて購入しようと思っている人かもしれない。販売サイクルにおける全てのステップとハードルを細かく検討する必要があるだろう。
  • どのようにプロダクトを提供するか?SaaSなのか、APIなのか、オープンソースなのか?
  • プロダクトには有料のコンサルティングや初期セットアップ、あるいはサポートサービスを付けるべきか?
  • クライアントのデータから深く学習し、他のユーザーのためにそれを活用できるか?

財務上の課題

  • どのような投資家が、そのビジネスを高く評価する立ち位置にあるだろうか?
  • 投資可能と判断される成果の段階はどこだろうか?最小限の機能を備えたプロダクト、出版物、ユーザーのオープンソースコミュニティー、あるいは定期的な収入源の確保だろうか?
  • コアとなるプロダクト開発に注力すべきか、クライアントに寄り添いカスタマイズに応対すべきか?
  • 価値あるマイルストーンに届く前に新たな資金調達をしなくてもすむよう、予め余裕ある資金調達を計画する。

開発ループの中にユーザー入れる

AIがベースのプロダクトにユーザーが参加することで、プロダクトの価値は高まる。それには2つの理由がある。1つは、機械の認知はまだ人間の認知には及ばないからだ。ソフトウェアの弱点を補うには、ユーザーの助けが必要となる。もう1つは、ソフトウェアの購入者やユーザーには限りなく多様な選択肢があることに関連する。そのため乗り換えも頻繁に起きる。(アプリの平均の90日内リテンション率は35%だ。)

プロダクトを使うことをユーザーの習慣にするハイパーパラメーター最適化も役立つ)には、プロダクトが提供すると示した価値をすぐにユーザーが感じられるようにすることが重要だ。以下のプロダクトは、開発ループにユーザーを入れることでパフォーマンスが改善することを証明した。

  • 検索:Googleは予測入力を言葉の意味の違いや検索用語の意図を理解することに役立てている。
  • 画像認識Google TranslateMapillary道路標識検知では、ユーザーが内容を修正することができる。
  • 翻訳Unbabelのコミュニティーの翻訳者は、機械の翻訳結果を修正することができる。
  • EメールのスパムフィルターGoogleはここでも大活躍だ。

機械学習が導き出した結果がどのように得られたかを説明することで、さらにユーザーを巻き込むことができると私は考えている。例えば、IBM Watsonは、患者に腫瘍の診断を示す際、関連する内容も合わせて提示している。そうすることでユーザーの満足度も向上し、システムを長期的に利用することやそれに投資することを促す信頼関係を作る助けとなる。理解できなものを信頼するのは一般的に難しいことなのだ。

近年のAIへの投資環境は?

この話と最近の投資環境と照らし合わせるため、まず世界におけるVC市場がどうなっているかを見てみようと思う。2015年のQ1からQ3では472億ドルの投資が行われ、ここ20年間の内17年間の年間の投資額を上回った(NVCAより)。

来年には550億ドルを超えることが予想される。AI市場にはおよそ900社がビジネス・インテリジェンス、金融やセキュリティーといった分野の問題解決に取り組んでいる。2014年Q4には、功績があって名高い高等教育機関から誕生したAI企業が多くあった。VicariousScaled InferenceMetaMindSentient Technologiesなどだ。

2015年1月1日から2015年12月1日まで、AI企業(ビジネスの説明に人工知能、機械学習、コンピュータービジョン、NLP、データサイエンス、ニューラルネットワーク、ディープラーニングといった単語を含む会社という定義)におよそ300の投資が行われた(CB Insights)。

イギリス企業のRavelin*、SignalGluru* らはシードラウンドを調達した。投資としては20億ドルが行われたが、コンシューマー向けローンとビジネス向けローンを提供する企業に投資が集中した。例えば、Avant(デットファイナンスと融資で3億3900万ドルを調達)、ZestFinance(デットファイナンスで1億5000万ドルを調達)、LiftForward(2億5000万ドルの融資)、Argon Credit(7500万ドルの融資)などで、デットファイナンスと融資が調達の大部分を占めた。重要なことに投資案件の80%は投資額が500万ドル以下であり、投資額のおよそ90%がアメリカ企業に向かった。資金調達ラウンドの75%もアメリカで行われた。

AI企業の資金調達とエグジット規模はまだ小さい。

エグジットに関しては33件のM&Aと1件のIPOがあった。その内6つの案件はヨーロッパの企業であり、1つがアジア、そして他は全てアメリカ企業の案件だった。最も大きな案件は、TellApartをTwitterが買収(買収額5億3200万ドル、調達額1700万ドル)、ElasticaをBlue Coat Systemsが買収(買収額2億8000万ドル、調達額4500万ドル)、SupersonicAdsをIronSourceが買収(買収額1億5000万ドル、調達額2100万ドル)だった。これらは投資額の数倍という固いリターンを産んだ。他の案件の多くは人材採用が目的だったようだ。買収時のチーム人数の中央値は7人だった。

しかし、AI分野への投資は、2015年のVC投資の合計5%を占めた。2013年の2%より高くなったが、他のアドテク、モバイル、BIソフトウェアには遠く及ばない。
AI企業の資金調達とエグジット規模はまだ小さく、ラウンドも取引額も低いということだ。そして、ほとんどの案件がアメリカに集中している。AI企業はアメリカ市場で訴求することが必要だと言える。

AIで取り組むべき課題

ヘルスケア

私はいくつかの夏を大学で過ごし、3年間を大学院で身体の中のがんの広がりに関連する遺伝子要素について研究した。そこで学んだことがある。治療法を確立するのはとても難しく、高額で時間がかかり、規則も厳しい。また多くは病を一時的に抑えるようなソリューションだ。

私は日々の心理状態やライフスタイルの細かな変化を長期的にモニタリングすることで、将来の健康状態を向上することができると考えている。将来的にほぼリアルタイムで健康状態を素早く検知し、健康状態を向上させながら、患者の長期に渡る治療コストを抑えることができるだろう。
現在のデジタルにつながったライフスタイルを考えてみてほしい。私たちが毎日使っているデバイスは、私たちの動き、生体情報、運動、睡眠、さらに生殖における健康をトラックすることができる。私たちがインターネットに接続していない時間はオンラインにいる時間より少なく、クラウドに様々なデータタイプを保管することに抵抗感も少なくなっていると私は考えている。(例えば、サードパーティーからアクセスする方法や、コンセントを得る方法についてだ。)ニュース媒体は同じストーリを別の角度から伝えるだろう。しかし、私たちがウェブを使って、そこから得られる恩恵を受けていることには変わりない。

集団レベルでは、これまで存在しなかったデータセットを活用するチャンスが生まれる。これらのデータにより、どのような個体の特徴や環境で病が発生し、進行するかについての洞察を得ることができるだろう。これは非常に大きなことだ。

AIを軸としたプロダクトはすでに市場に解き放たれている。

現代の治療モデルでは、患者は身体に異変を感じてから病院を訪れる。医者は何種類もの検査を行って初めて診断ができる。これらのテストは一定の段階(通常は末期の状態)を検出することができるが、その時点ではすでに病を治療する術は限られてしまう。(がんの場合は。)

では、将来はどうなるだろうか。身体に負担をかけない方法で継続的に心理状態やライフスタイルのモニタリングが可能となるだろう。そうすれば、初期の病や進行具合、患者に表れる症状、多様な治療法への患者の反応を調べることができる。ここに人工知能を用いる余地が多く残されている。人工知能を駆使したセンサー、信号処理、異常検出、多変量分類、細胞間の影響のディープラーニングなどだ。

いくつかの企業はこれらの問題に取り組んでいる。

  • Sano: センサーとソフトウェアを使って、血中のバイオマーカーを継続的にモニタリングする。
  • Enlitic/MetaMind/Zebra Medical: 医療判断をサポートする画像解析システム。(MRIやCT)
  • Deep Genomics/Atomwise: 遺伝子が健康状態や病にどのような影響があるかを学習、モデリング、予測する。また、新しい病状にどのような医薬品が効果があるかを提案する。
  • Flatiron Health: 患者と病院が、研究から得た腫瘍のデータを処理するための共通テクノロジーインフラ。
  • Google針なしで採血できる発明の特許を申請。これはウェアラブル・サンプリング・デバイス誕生に向け、小さな前進だ。

データのアクセスに関してはイギリスの方がやや有利なようだ。例えば、U.K. Biobank (50万の特許記録)、Genomics England (10万のゲノム解読が進んだ)、HipSci (幹細胞) 、NHS care.dataプログラムが、この分野を牽引し、公衆衛生や治療研究のためにデータを集約したレポジトリを構築している。

法人のオートメーション
今後、ビジネスが自立して運営することが可能になるのか?知識労働をAIで自動化することにより、人件費が2020年までに9兆ドル削減できるという(BAML)。また、ロボットによる作業の効率化で合計1兆9000億ドルが浮くという試算があることを考えると、将来的にいくつかの反復的なビジネスの中核機能を自動化する会社が出てくるのではないかと思う。

CRM、マーケティング、請求や支払い、物流、ウェブ開発、カスタマーインタラクション、金融、採用、BI分野ですぐに利用できるSaaSツールを思い浮かべてほしい。そして、ZapierTray.ioといったアプリケーション同士をつなげたり、ビジネスの工程をプログラムすることができるツールがある。これらは、意思決定のために状況に関するデータを活用することで、さらに応用の幅が広がるだろう。

最終的に、eBayのあり方を変えることができるかもしれない。つまり、商品の仕入れ、価格設定、商品の掲載、翻訳、レコメンド機能、決済処理、カスタマーとのやりとり、梱包、配送準備に出荷まで全て自動化できるかもしれない。実現するのはまだ先の話ではあるが。

人工知能は最も胸の踊る、革新をもたらす技術の1つであると言える。

人工知能が私たちの個人的な人生、そして仕事において多大な価値を生むことになると私は前向きに考えている。価値が生まれるに足る投資が行われていないことをみると、この分野におけるVCのリスク許容度は低いのだろう。大学内でも取り組みが少ないことを考えると、長期に渡るイノベーションを起こすためには、AI企業へのより多くのサポートが必要だ。VCは、ロケットのごとく急成長する企業に投資するために誕生したのだから。

テクノロジーへのアクセスは時間を経るとコモディティ化することを覚えておかなければならない。そのためプロダクトのユースケース、ユーザー、そしてどのような体験をどのように届けるか、そしてそれがどのように評価されるかを理解することが重要となる。提供するプロダクトを他の競合が簡単に真似することがないよう、持続可能な優位性を構築する戦略が必要となる。

この戦略の要素は、もしかしたらAIに関連するものでも、技術的なものでもないかもしれない。(ユーザーエクスペリエンスの部分など)。核となる基本に改めてフォーカスが当てられるだろう。コンシューマーやビジネスにとって意味が大きいが、まだ解決していない、あるいはこれまでの解決法が乏しい課題に注力することだ。

また、アメリカ市場への訴求が必要だ。アメリカはAIの価値に早くに気付き、世界でも多くの開発が行われているからだ。ヨーロッパにもAI分野を急成長させるチャンスがあるが、それでも全世界の業界内で何がうまくいって、何がうまくいっていないかを注視していおくことは必要だろう。

*Playfairの投資企業

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

起業家の旅路は圧倒的に険しい

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編集部記Ben Narasinは、Crunch Networkのコントリビューターである。Ben Narasinは25年間起業家として活躍し、その後8年間を投資家として活動し、現在はCanvas Venturesのジェネラルー・パートナーを務めるベンチャーキャピタリストを務めている。

投資先であるシード段階の会社のファウンダーの1人が私に連絡してきた。今週末、すぐにでも話がしたいとのことだった。彼は「会社が崩れ落ちそうで」アドバイスが必要だと言った。

その会社はシードラウンドを調達し、そのほとんどの資金がまだ銀行口座にある状態だった。会社のミッションに深く共感する、とても優秀なエンジニアを採用することもできた。エンジニアは妥当な給与を受け取っていた。しかし、ファウンダー間の折り合いがつかない対立のために会社は崩れようとしていた。

問題について彼と話をしたところ、どうやらその難局を抜け出せる道筋はなさそうだということが明らかとなった。私は両者が決裂したことを互いに認め、いずれかがビジネスを先に進める道を探した方が良いだろうとアドバイスした。それが不可能なのであれば、会社に関わった全ての人たちの将来の可能性を守るため、解散するのに最も後腐れがない方法を探すことを提案した。

彼の返答は、気が滅入るような内容だった。もう一方のファウンダーは、将来の可能性を守ったり、新たな道を探すことに全く関心がないという。彼は、ここに来たのは起業家としての旅路を進むためであり、それが失敗に終わるなら、自宅に帰るだけだと話したのだそうだ。

彼らが迷い込んだそのような難局は紛れもなく起業家の旅路そのものだ。

スタートアップを外側から見る分には、スタートアップゲームは、そう、ただの「ゲーム」だと捉えることは容易い。大勝する人がいて、成功への階段をまたたく間に駆け上がる。何百億ドルのバリュエーションに世界制覇を成し遂げる。何億人のユーザーが使うアプリを提供し、その栄光には何世代にも渡って家族を潤す資金が伴う。

しかし、起業はゲームではない。起業家の旅路の大半は(私もその旅路を通ったことがあり、今もそこに生き、没頭し、心の底から敬愛している)懸命な努力が求められ、痛みや争い、葛藤に満ちた時間でもある。例えば、次のようなことが起きる。

  • カスタマーのコンバージョンが起きない
  • 重役が会社を去る
  • パートナーとなる予定だった企業の優秀な担当者が契約締結の前に仕事を去り、振り出しに戻る
  • 共同ファウンダーと意見が対立する
  • テクノロジーがスケールしない
  • 重要な空きポジションを埋める人材を採用できそうにない
  • 採用が決まった途端、採用予定の人に提示したボーナスの5倍をその人が働く大手企業が提案し、採用が妨げられる
  • リソースの域を超える請求書が溜まる
  • 人件費をもう一度資金調達しなければ払えなくなる
  • 資金調達がなかなか合意に至らなかったり、予想より長くかかる
  • 自分たちより優れているとは言えない競合他社がプレスで露出を獲得しているのに、自分たちにはない

ぱっと思い浮かんだのはこれくらいだ。起業家の旅路は険しい。本当に難しいものだ。

難局に立たされたファウンダーからの相談を何回も受けたことがある。その中の一部は成功への道を辿り、一部は失敗への道を辿った。けれども私のメッセージはいつも一緒だ。上昇する前に状況が悪くなると言うが、この旅路では最悪に最悪が重なる。それでももし踏みとどまって、なお前に進もうとするのなら、いずれ道が開けてくるかもしれない。ただ、ひたすら前を目指すことだ。良くても悪くても、素晴らしい状況でも、どん底な状況でも、それは全部起業家の旅路の一部に過ぎないのだから。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

Eコマースとオフラインの買い物体験の共生関係

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編集部記Sanjit Dangは、Crunch Networkのコントリビューターだ。Sanjit DangはIntel Capitalのインベストメント・ディレクターを務めている。

興味深い現象がある。1990年代からEコマースは順調に伸びているものの、私たちはまだショッピングモールや店舗に足を運ぶ。ワンクリックで注文できて、翌日には商品が配送されるようになってもなお、毎日の消耗品やサービスをオフラインで買うのだ。

その大きな理由は、私たちはショッピングで周りの広い世界と関わることができることにある。数人の友達とショッピングモールに行って、試着したり、買いたいものを話し合ったり、ショッピングが終えた後は映画を見たり、ワインを飲んだりする。

「ショッピングで満足感が得られます。価値のあるものです。完全に没入した体験で、濃いソーシャルな体験でもあります」とインドのオンライン小売販売大手、Flipkartのチーフ・プロダクト・オフィサーであるPunit Soniは、TiECON 2015のカンファレンスでそう話した

しかしSoniを始め、他のコンシューマーテクノロジーに着目している人たちは、オフラインの体験とオンラインでの体験が対局に位置しているということを目の当たりにしている。オンラインコマースで買い物客は、画面を見ながらキーボードを使い、一人の状況で疲れるほどたくさんのクリックをしている。

実際はオンラインとオフラインのコマースは共生する関係にある。新しいテレビを購入する時、人はオンラインで商品の情報を調べ、店舗で購入する。そして、友人の家にあったシャンデリアは写真を撮って、ウェブから注文する。

オンラインとオフラインコマースをゼロサム・ゲームに押し込めるのではなく、この関係を強化するには何ができるかに目を向けた方が良さそうだ。

私たちは、オンラインショッピングの体験はよりパーソナライズし、感情的にもソーシャルな体験的にもオフラインの買い物体験に近くなる必要があると考えている。テクノロジー投資家として長年やってきて、現在3つのテーマに注目している。全体のカスタマー体験を向上させること、人工知能技術、そしてユーザーに対してよりパーソナライズ化した体験を提供することだ。

クリックを最小限に

あまりに多くのコマースサイトのデザインが、昔のウェブデザインのままだ。サイトはツリー構造で、ユーザーは特定の商品を探すのに何層ものページを進まなければならない。古めかしい上に、面倒で、ショッピングは忍耐力を試されるものになってしまった。

過剰なクリックを減らす方法はないだろうか。つまり、ユーザーが欲しいと思ってから、購入までの距離を縮めるということだ。特にそれは、瞬時に購入できることが満足度につながるモバイルコマースで重要になってきている。アメリカにおけるショッピング体験の重要な部分にもなってきた。すでにアジアを始めとする他の地域ではそれが定番となっている。

Google Suggest機能は、このコンセプトを素晴らしい形で実現している。ユーザーが検索ワードをいくつか入力すると、すぐに選択肢を提示し、ユーザーはそこから選ぶことができる。商品を探すのためのクリックを省くことができるのだ。

オンラインのコマースサイトでも同様のテクノロジーを採用していないのか?もちろん、使い始めている。中には、さらに進んだ検索を提供しているところもある。例えばAlgoliaは、ユーザーが検索ワードを入力している間も商品を提案する機能を既存の小売店のサイトに追加できるサービスだ。

オンラインとオフラインのコマースは共生する関係にある。

しかし多くの場合、サイト内検索だけでは十分でない。例えば、Googleで「女性用の赤いセーター」と入力した場合、女性用のセーターが大量に表示される。もちろん全て赤い。しかし、アメリカでメジャーなオンライン小売サイトで同じ言葉を検索したのなら、女性用の様々な色合いのセーターが表示されるだろう。

検索は買い物客ほど賢くはないのだ。

オンラインで見つけた赤いセーターを近くの店舗で購入しようとする時も課題がある。まず気に留めておいてほしいのは、人が近くの店舗で買い物をするには様々な理由があることだ。少し遠出をする予定だったり、出かける用事ができたり、旅行で町を離れたり、誰もが商品の配送を待てるわけではない。

そこでオンラインで見つけた赤いセーターを近くの店舗で購入しようとする。火曜日の夜8時にショッピングモールに行ったことがあるなら、そこがどのような状況になっているか知っているだろう。稼働しているレジの数は少なく、最低でも1回はエスカレーターに乗って、香水売り場や10代向けのジーンズ売り場を通り、ようやく欲しい商品をみつけることができる。

ここでの体験を快適にする方法は2つあるだろう。

1つは、タブレットコンピューターを店舗の入り口に設置し、買い物客は検索ワードやプロダクトIDを入力して、セーターの画像を探し、その商品がある場所までの最短の道のりを示すことができる。これは、インタラクティブなウェイ・ファインディング(道のり検索)というコンセプトで知られている。2つ目のアプローチは、このタブレットと店舗での体験をスマートフォンに移すことだ。ユーザーの自宅から、店舗の商品棚までのルートを地図で示すことができるだろう。

クリックの回数をできるかぎり減らすことで、これらの技術はオンライン上のカスタマー体験を良くするだけでなく、オフラインの体験との結びつきをより強いものにすることができる。

過去のことを参照しない

昨今のEコマースの体験で最も不合理だと思うのが、広告がいつも遅れていることだ。私が今この時点で見ているスマホ画面の広告は、先週、私が何かの商品を購入するためにした検索情報を反映している。私はもうその商品を購入しているのだが、広告アルゴリズムだけは過去の情報を見たままだ。

人工知能はこの状況を一変させる可能性を持っている。人工知能は情報を素早く処理するだけでなく、買い物客を包括的に理解しようと積極的に考えている。

人工知能アルゴリズムの開発は始まったばかりだ。次の数年で人工知能は普及し、細かい情報を読んで、包括的に理解することができるようになるだろう。それが、Intel CapitalがReflektionを自社のポートフォリオに加え、追加投資を行った理由だ。Reflektionは機械学習を活用し、Eコマースで買い物客にリアルタイムでぴったりの商品だけをレコメンドする。

機械学習アルゴリズムが本当にブレークスルーを起こすには、もう一つ変わらなければならないことがある。小売店が得るカスタマーの情報は断片的なものから包括的なものにすることだ。

世界はパーソナライズ化の方向に進んでいると私たちは考えている。

例えば、お気に入りの洋服のオンラインストアの場合、そのサイトは私が好きなシャツの種類を知っているが、私がダウンロードした音楽については何も情報を持っていない。私が良く利用している旅行サイトは、私がどこに旅行したいと考えているかは知っているが、私が読んだEブックが何であるかは知らない。そして、これらのオンラインサイトは、私が近いうちに出張でインドとシンガポールに行くと電子カレンダーに入力したことを知らない。オンラインサイトは限られた接点からでしか私が置かれている状況を知ることができず、それに基づいた提案しかすることができない。

私たちの先月の生活や私たちのほんの少しの情報を元にした提案を一旦止めると、オンラインの買い物体験はオフラインの体験と似ていることが分かるだろう。つまり、私たちは私たちがどのような生活をおくっているかという包括的な視点に基づいた、思慮深く、細いレコメンドが必要ということだ。

そして、3つ目の話につながる。

私のことを良く知る

多すぎるクリックは、今日のデジタルコマースの世界における魔物だ。昔ながらの店舗なら、試着室での無駄な時間や商品棚に戻す作業と同じようなものかもしれない。

それは、アパレル自体「すぐに試着できる」できるものに近く、「すぐに着て生活できる」ものとは少し違うからだ。デザインはおおよその想定体型に基いて作られるもので、私たちは入手できるものの中で自分に合った服を選ぼうとしている。

言い換えれば、実際の小売店のパーソナライズ化はまだ進んでいないということだ。

これを解決する興味深い案の1つは、より正確な身体の寸法を測定し、商品選びをカスタマイズすることだ。あるいは、せめて入らない服を検索結果から除外することができるだろう。測定を元に、このシャツは胸部のラインが細身になっているデザインで寸法が足りない、あるいはこのジーンズはヒップが細く作られていて合わないと予め分かったらどうだろうか。

ハイレゾのカメラをを使用することで、正確な測定が可能となる。IntelのRealSenseは、このような3Dで輪郭を正確に測定できる端末の内の1つだ。

検索機能、店舗やスマホが、ユーザーの特定のサイズの寸法にアクセスがあるとしたらどうだろうか。

複数社、この計測市場に飛び込んだ。Body Labsはマンハッタンに拠点を置くスタートアップで、Intel Capitalのポートフォリオに最近加わった。彼らのサービスでは、1分以内に3Dボディースキャンで寸法を測定することができる。 True Fit は、服がそれぞれの買い物客にフィットする度合いを示したり、適切なサイズをレコメンドする。 Intervisualは、詳細な3D画像で異なるジーンズがどのようにユーザーの身体にフィットするかを提示する。

赤いセーターの例に戻って、考えてみてほしい。もし、検索機能、店舗やスマホが、ユーザーの特定のサイズの寸法にアクセスがあるとしたらどうだろうか。その寸法の情報を基いて、大きすぎたり、小さすぎたりするセーターを検索結果から除外することができたらどうだろうか?あるいは、ユーザーの寸法に合ったセーターを製造することができるようになったら?

NikeのCOOは、それが彼らのビジョンであると最近話している。いつの日か、カスタマーはデジタルファイルを受け取り、自分の靴を自宅の3Dプリンターで作る未来が来るだろうと言う。世界最大級の靴の会社が、これまでより少ない数の靴を製造することになる。それがパーソナライズの可能性だ。

この時、パーソナライズ化のためのデータを誰が所有するかという問題が出てくるだろう。どこに情報を保存し、誰がその使用許諾をするかといった問題だ。私たちは、買い物客自身が、小売店が情報を得る方法やどのように使うかに関する全てのコントロールを持つべきだと考えている。

世界はパーソナライズ化に向かって進んでいると私たちは考えている。何故なら小売において、ユーザーの置かれている状況が最重要だからだ。ユーザーが現在何を読んで、何を聞き、来週誰に会って、来月どこに旅行するといった情報が鍵なのだ。

これらの情報を尊重した上でテクノロジーを開発することが、オンラインEコマースの体験をオフラインの買い物体験に近づけるために重要なことである。そしてオンラインとオフラインのどちらもより便利なものとなるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

タトゥーシールのようなヘルスケアトラッカーに曲がるバッテリーがウェアラブルの未来を作る

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編集部記Don Basileは、Crunch Networkのコントリビューターである。Don Basileは起業家でベンチャーキャピタリストであり、テクノロジー、ヘルスケア、通信業界で20年以上の役員経験がある。

2009年にFitbitといったマス向けのウェアラブルデバイスが登場した時、多くの人はコンシューマーが歩数やカロリーを計測することに必要性を感じるのか疑問に思ったかもしれない。しかし、テクノロジーが進化し、デバイスもかっこよく使いやすくなるほど、ウェアラブル市場は急激に成長した。

世界のウェアラブル市場は2019年に1億2600万個が出荷されるまで拡大することが予想されている。2014年は1960万個が出荷された。ウェアラブルのアプリはフィットネストラッカーだけに留まらない。ここでは、ウェアラブルテクノロジー分野に革新をもたらすだろう、3つの先進的なテクノロジーを紹介しようと思う。

バッテリー革命

ウェアラブルのテクノロジーがスマートフォンやタブレットほどユビキトスになるほど、バッテリーも小型で長い時間持つようになる必要がある。それに加え、薄く、柔軟性に優れてなくてはならない。Samsung SDIやLG Chemはこの分野で一歩先を進み、ソウルで開催されたInterBattery 2015で新製品を出展した。

Samsungは2つの新しいバッテリーを発表した。0.3mmのStripeはとても薄くしなやかなバッテリーで、バッテリーのシール幅を最小限にすることで市場に出ている他のバッテリーより高密度なエネルギー電池を実現したとSamsung は主張する。薄く柔軟なStripeの実現で、ネックレスや衣類といった形のウエアラブルデバイスの可能性が広がる。

もう1つの製品Bandは、元のスマートウォッチのバッテリー容量に最大50%追加することができるものだ。バッテリーを5万回以上曲げて耐久性を検証したという。Samsungはこの製品を2017年頃コンシューマー市場に投入する予定だ。このバッテリーの形状と機能は市場に大きな影響をもたらすかもしれない。

2012年から開発を進めているLG Chemも新しいフレキシブルなスマートウォッチ用のバッテリー を公表した。このバッテリーは、半径15mmに収めることができる。これは、市場にある一般的なバッテリーの半分のサイズだ。ワイヤー型バッテリーで自由なスマートウォッチのデザインが可能となるだろう。

ウェアラブル・ヘルスパッチ

タトゥーシールのように肌に貼る薄いウェアラブルデバイスでバイタルサインをモニタリングすることができるようになる。SFの話のようだが、数年前から実用化が進んでいる。最近までこのようなトラッカーを制作するのには高額なコストと多くの時間がかかった。テキサス大学の研究者は「カット・アンド・ペースト」方式でトラッカーをお手軽な価格で制作時間も20分に抑える方法を開発した。

Don Basile Wearable Tech

(出展– Shutterstock)

ポリマー接着剤に乗せた金属片を切り取り、接着剤の上に電子回路を印刷する方法だ。このようなパッチはまだヘルスヘアの領域で使用されてはいないが、ゆくゆくはこの最新の技術革新で、医師が患者のバイタルシグナル、心拍数、筋肉の動きをトラックするためにいつでも使用できるようになるだろう。

ナノテクとウェアラブル

原子や分子レベルで物質を組み替える技術は、ウェアラブルテクノロジーにさらなる機能を与えることができる。Google Xは2年前、血中のがん細胞を検出するとスマートなリストバンドに光信号を送る磁気性のナノ粒子を開発した。今年の初めに、Nanoparticle Phoresis(ナノ粒子泳動)という名前で特許を申請している。Googleはがんや他の病を検出して治療する方法に革新をもたらすという非常に高い目標に向かって進みだした。

Don Basile Nanotech

(出展: Syda Productions – Shutterstock)

また、炭素を六角形格子構造で結合した1原子の厚さのシートである魔法のグラフェン素材は、研究所で作られた素材の中で最も薄く、強い素材だ。2003年に発明されて以来、2万5000の関連特許が誕生した。グラフェン素材の最新の使いみちはウェアラブルである。布をコーティングし、空気中の危険な気体を検知すると、着用している人にLEDライトの点灯でアラートを出すことができる。

韓国の韓国電子通信研究院と建国大学校の研究者がこの研究を牽引し、空気環境が健康に被害を及ぼす可能性のある業界での活用が期待される。計測装置を着用することで、そのような脅威に素早く対処することが可能になる。グラフェンはさらに、電子製品の熱を抑える機能があることが証明され、このナノ素材はウェアラブルテクノロジーにおいて次の大きなカギとなるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter