【コラム】21世紀型の搾取となっている「ギグエコノミー」

編集部注:本稿の著者Rebecca Dixon(レベッカ・ディクソン)氏はNational Employment Law Projectのエグゼクティブディレクター。

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昨今のアプリベースのギグエコノミー、すなわちインターネットやスマートフォンを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態は、しばしば「現代のイノベーション」や「21世紀型のワークスタイル」という美辞麗句で語られるが、これは羊の皮をかぶった狼のようなものだ。

低賃金で不安定な仕事は今に始まったものではない。安い賃金かつ危険で「スキルがない」として解雇される仕事は昔からあった。有色人種の労働者は常に(そしてこれからも)、組織的な人種差別と歴史的に搾取的な経済が故に、最もブラックな産業に集中している。

従来と異なるのは、現在ではUber(ウーバー)、DoorDash(ドアダッシュ)、Instacart(インスタカート)などの企業が、デジタルアプリを使って労働力を管理(アプリベース)しているので規制に従う必要がないと主張している点にある。

いわゆる「ギグエコノミー」における労働者の権利は、現代的課題として位置づけられることが多い。しかし、ギグエコノミーやアプリベースの労働者(主に有色人種)が直面している問題を考えると、私たちは過去から学んで公正な経済に向けて前進する必要がある。

連邦政府は長期にわたり、労働者の大規模な搾取への対処に失敗している。全国労働関係法(米国)が成立してからも、有色人種の労働者が従事していた農業や家事などの仕事は、労働権や保護の対象から除外されてきた。今日の「独立請負人」も、その多くが有色人種の労働者で、同じカテゴリー、すなわち労働法で保護されない労働者である。黒人とラテン系の労働者の合計は、全米の総労働力の29%以下だが、アプリベースの企業の労働者に絞れば約42%を占めている。

ギグカンパニーは、自分たちのビジネスを構成し、指示を受け、自分たちが設定する賃金を受け取るドライバーや配達員、独立請負人などの労働者は、極小ビジネスの何百万もの集合体であり、基本的な手当や保護は必要ないと主張する。これにより、これらの企業は現場の労働者に対する責任を負わず、最低賃金、医療保険、有給休暇、損害賠償保険など、従業員にとって必要不可欠な基本的コストの支払いから逃げている。このような状況は、全国的な不平等を助長し、最終的には労働者の搾取と犠牲の上に成り立つ大きな欠陥のある経済につながっている。

アプリベースの企業は、ますます不穏な傾向を示している。過去40年間、連邦政府の政策により、労働者の交渉力は大幅に低下し、企業やすでに大きな富と力を持つ者に権力が集中するようになった。これにより、人種間の賃金や貧富の格差は悪化の一途をたどり、あまりにも多くの人たちの労働条件が劣悪になっている。

すべての人にとって働きやすい経済を構築するためには、ギグカンパニーやアプリベースの企業が「イノベーション」を口実に労働者を搾取することが許容されないことは明らかだ。これらの企業は、労働者自身が独立した契約者であり続けることを望んでいると主張するが、労働者が望んでいるのは、適切な賃金、雇用の安定、柔軟性、そして連邦法に基づく完全な権利である。これは合理的で正当な要求であり、世代間のジェンダーや人種による貧富の差を解消するためにも必要なことだ。

アプリベースの企業は、労働者を搾取するモデルを後押しする政府の政策を続けさせるために、多大な資金を投入している。Uber、Lyft(リフト)、DoorDash、Instacartなどのアプリベースの企業は、州議会、市議会、連邦政府でロビー活動を行い、誤った情報を大々的に売り込んでいる。選挙で選ばれたリーダーたちはあらゆるレベルで、これらの政策が自分たちに有利なように法律を書き換えようとする企業の企みであることを認識し、労働者を普遍的な保護から切り離す政策の庇護にある企業の利益を拒否する必要がある。

議会も、有色人種を基本的な雇用保護から締め出す除外規定を拒否し、アプリベースの労働者を含むすべての労働者に保護を拡大する法案を通過させねばならない。PRO法(Protecting the Right to Organize Act:団結権保護法)は、雇用主によって悪意を持って「独立請負人」と分類された労働者に交渉権の保護を拡大する、すばらしい第一歩だ。

アプリベースの労働者は、全米で健康と安全を保護するための組織を立ち上げ、労働者としての権利が認められ、保護されることを要求している。選挙で選ばれたリーダーたちは「21世紀型」のモデルを主張する企業のプロパガンダに騙され続けてはいけない。21世紀であろうとなかろうと仕事は仕事であり、アプリベースであろうとなかろうと、仕事は仕事なのだ。

私たちは議会に対し、すべての労働者の労働権と保護を認め、アプリベースの企業が「柔軟性」や「イノベーション」の名のもとに労働者の平等な権利を阻むことがないよう、大胆に行動することを求める。

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(文:Rebecca Dixon、翻訳:Dragonfly)

AIリスク情報配信FASTALERTの「リアルタイムAPI」機能がアップデート、災害ビッグデータの網羅性が国内最大級に

災害ビッグデータの網羅性が国内最大級に、AIリスク情報配信「FASTALERT」の「リアルタイムAPI」機能が大幅アップデート

SNSに投稿された災害や事故などのリスク情報を収集し、AIで精査して配信するウェブサービス「FASTALERT」(ファストアラート)を提供するJX通信社は6月29日、外部サービスやアプリでの「FASTALERT」のリスク情報を共有可能にする「FASTALERT リアルタイムAPI」の大幅アップデートを発表した。

FASTALERT リアルタイムAPIは、自然災害速報、火災速報、ライフライン速報、通信障害・システム障害速報、新型コロナウイルス感染症・ワクチン関連統計情報をすでに提供済み。今回新たに、鉄道運行情報、バス運行情報、航空運行情報、フェリー・客船運行情報、高速道路情報、停電情報、新型コロナ感染場所(事例)情報が追加しており、人々の関心が高い旅客インフラの遅延や高速道路の混雑状況などが、このAPIをサービスやアプリに組み込むことで提供可能になる。

たとえば、Yahoo! Japan、LINENEWS、FNNプライムオンラインは、このAPIを使って「新型コロナ ワクチン接種リアルタイム統計データ」を提供している。

FASTALERTは、TwitterなどのSNS投稿のほか、企業や官公庁からの公式情報、JX通信社の一般向けニュース速報アプリ「NewsDigest」からリスク情報を収集し、独自のAI技術でデマなどのノイズを排除した上で発生場所を特定し、「できごと単位」で即時配信するサービス。日本のすべての民放キー局とNHK、そのほかのマスコミおよびインフラ企業、警察、消防、自治体などでも広く導入されている。2016年9月にベータ版をリリース、2017年4月に公式リリースした後、ニュース番組などでの「視聴者提供動画」の定着に寄与したという。2018年には日本新聞協会「技術開発奨励賞」を受賞するなど、数多くの賞を獲得し、現在はSNS緊急情報サービスのシェア1位の業界標準とされている。

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デジタル障害者手帳「ミライロID」で障害者割引チケットのオンライ購入が可能に、第1号としてガンバ大阪が導入

デジタル障害者手帳「ミライロID」で障害者割引チケットのオンライ購入が可能に、第1号としてガンバ大阪が導入開始

ミライロは6月28日、2033事業者(2021年5月31日時点)が対応するデジタル障害者手帳アプリ「ミライロID」(Android版iOS版)で障害者割引チケットをオンライン購入できる「ミライロチケット」サービスの提供開始を発表した。

これまで、障害者割引を受けようとすると、チケット販売窓口で手帳を提示する必要があった。それには時間がかかり、新型コロナなどの感染リスクも高まる。なにより、オンライン購入ができないという不便さがあった。日本政府は、2021年6月18日「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定し、「障害者の負担軽減や均等な機会の提供のため、オンラインによる施設等の障害者割引入場券の予約・購入等への対応について、民間事業者等に対して要請を行う」とした。これを受けてミライロは、「ミライロチケット」の提供に至ったという。

ミライロIDに障害者手帳を登録している人なら、クレジットカードで障害者割引チケットが購入できる。イベント会場入場時は、スマートフォンの画面にチケットを係員に表示して、「入場確認」アイコンをタップするだけでよい。第1号として、7月11日からガンバ大阪が「ミライロチケット」の対応を開始し、「ミライロID」で観戦チケットが買えるようになる。

ジタル障害者手帳「ミライロID」で障害者割引チケットのオンライ購入が可能に、第1号としてガンバ大阪が導入開始

なおミライロでは、「障害者」を「障がい者」とは表記しない方針をとっている。コンピューターの画面読み上げでは「さわりがいしゃ」と読まれてしまうことがあるためだ。「障害は人ではなく環境にある」との考えから、「漢字の表記のみにとらわれず、社会における『障害』と向き合っていくことを目指します」とのことだ。

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EUが第三国へのデータ移転に関する最終ガイダンスを発表

欧州データ保護会議(EDPB)は現地時間6月22日、最終勧告を発表した。これは、2020年夏にCJEU(欧州司法裁判所)が下した画期的な判決(別名「Schrems II」判決)を踏まえて、EUデータ保護法を遵守しつつ第三国に個人データを移転するためのガイダンスを策定するものだ。

この最終勧告は、実際のところ48ページもあり、かなり長いのだが、その要旨は、第三国に(合法的に)データを移転することが不可能になる場合があるということだ。例えば、欧州委員会によって最近改正されたStandard Contractual Clauses(標準的契約条項)という、適法にデータ移転を行うための手段など、第三国へのデータ移転を行う場合に(理屈の上では)活用できる法的な仕組みが引き続き存在するのにも関わらず、である。

しかし、個々の移転事例の実行可能性を判断することはデータ管理者に任されており、ある特定のケースのデータフローが法的に許容されるかどうかを個別に決定する。例えば、ある企業が、外国政府の監視体制と、それが特定のオペレーションに及ぼす影響について複雑な評価を行う場合は、そのようなケース・バイ・ケースの判断が必要になるかもしれない。

EU加盟国外からEUユーザーのデータを定期的に収集し(米国などの)第三国でそれを処理している企業が、データの適法性に関する取り決めをEUと締結していない場合、最も楽観的なシナリオでも莫大な費用が必要になり、コンプライアンスを満たす面で課題に直面することになる。

移転されるデータの安全性を確かめるための実行可能な「特別措置」を適用できない場合は、データフローを停止することが義務付けられている。この義務を履行しないと、データフローの停止をデータ保護当局から命令される危険がある(さらに追加で制裁が科される可能性もある)。

そのような企業にとって代替手段となるのが、EUユーザーのデータをEU内でローカルに保管し処理する方法であるが、すべての会社がそれを実行できるわけではないのは明らかだ。

法律事務所は、この結果に非常に満足しているであろう。企業がデータフローの枠組みを作り、Schrems II判決後のやり方に適応しようと取り組むため、法律関連のアドバイスへの需要が高まるからだ。

一部のEU加盟国(ドイツなど)のデータ保護当局は、移転の差し止め命令が確実に遵守されるよう、活発にコンプライアンスチェックを実行している。

その一方で、欧州データ保護監督機関は、AWS(アマゾンウェブサービス)やMicrosoft(マイクロソフト)などのテクノロジー大企業がハイレベルな枠組みを持ち、合格レベルに達しているかを確認するため、EU機関自体の米国クラウドサービス大企業の使用について入念に調査することに注力している。

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CJEU(欧州司法裁判所)は2020年の夏、EU米国間の「 Privacy Shield(プライバシー・シールド)」制度を廃止した。適法性に関するこの重要な制度が制定されてから、ほんの数年後のことだ。それの前身となる「Safe Harbor(セーフ・ハーバー)」制度も、およそ15年持ちこたえたものの、同様の根本的な法的課題があり、同じ結末を迎えた。そして、プライバシー・シールド制度の廃止以降、EU委員会は、今度は応急措置となる代わりの合意を結ばないと何度も警告してきた。米国の監視法が大幅に改正されることを求めているのに他ならない。

米国とEUの議員はEU-USデータフロー協定の代替案について交渉中のままであるが、以前の2つの制度では解決できなかった法律的な課題に耐え得る実行可能な案をまとめるには、数カ月どころか、数年を要するであろう。

つまり当面は、EU米国間のデータフローは、法的不確定性に直面することになるということだ。

一方、英国は、ブレグジット後の計画がデータ保護の分野での規制を逸脱していると声高に指摘する一部の意見をよそに、データの適法性に関する一定の取り決めへの合意を欧州委員会から引き出した。

もし英国が、EUの法制度から受け継いだ主要な考え方を捨てる方針で突き進めば、数年以内に、高い確率で適法ステータスを失うことになる。つまり、英国も、EUとの間のデータフローに入るのを妨げる壁にぶち当たることになる(今のところは問題をなんとか回避しているようだ)。

適法性に関する取り決めをEUと締結していない他の第三国(中国やインドなど)へのデータフローも、現在見られる法的不確定性に直面することになる。

EU加盟国と非加盟国との間のデータフローに関する課題の背景には、発端となった申し立てがある。7年以上前に、NSA(米国国家安全保障理事会)の内部告発者であるEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が政府の大規模監視プログラムについて暴露したことを受けて、Max Schrems(マックス・シュレムス)氏が、自身の名前を冠した文書を作成し、EU米国間データフローの安全性に疑問を投げかけたのだ。

シュレムス氏の申し立ては、特にFacebookのビジネスに的を絞ったものであったが、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)がその執行力を用いて、Facebookによる欧州と米国間のデータフローを禁止する事態に至った。

規制が定まらずに揺れ動き、ついには、欧州最高裁判所での訴訟問題へと発展した。そして、最終的には、EU米国間のプライバシー・シールド制度の廃止につながったのである。CJEU(欧州司法裁判所)の判決では、情報が危険にさらされる場所にデータが流れていることが疑われる場合は、加盟国のデータ規制当局が介入して措置を講じるべきであることが、法律面での疑問の余地を残すことなく明示された。

Schrems IIの判決に続いて、DPCは(ついに)2020年秋、EU米国間のデータワークフローを停止するよう、Facebookに仮差し止め命令を通知した。Facebookは、すぐにアイルランド裁判所の命令に異議を申し立て、その動きを止めるよう求めたが、その試みは失敗に終わった。Facebookが、欧州と米国間のデータフローを実行できる時間はあとわずかしか残されていない

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Facebookは米国のFISA(外国情報監視法)第702項に従う義務があるため、同社が、EUデータ移転を補完するための「特別措置」を適用できるオプションは、控えめに言っても限られているように見える。

例えば、Facebookは、同社が確実にアクセスできない方法(ゼロアクセス暗号法)でデータを暗号化することはできない。それではFacebookの巨大な広告事業は機能できないからだ。また、シュレムス氏が以前に指摘したように、Facebookがデータ移転の問題を解決するには、そのサービスを連携させて、EUユーザーの情報をEU内に保管する必要がある。

Facebookのような企業がコンプライアンスを守るのに要する費用は非常に莫大で、その複雑性も相当なものだと言って間違いない。

しかし、CJEU(欧州司法裁判所)の判決の結果、何千もの企業はコンプライアンス費用と複雑性に直面することになる。欧州および米国のスタートアップ連合は、2021年6月初めのEU-USサミットに先駆けて議員あてに送った最近の公開書簡の中で、プライバシー・シールド制度の無効化をはじめとする、デジタル分野での最近の展開について言及し「このままでは、スタートアップのエコシステムが、競争の激しいグローバル市場で不利な立場に置かれたままになる危険がある」として、規制基準の整備における連携を図るよう政策立案者に要請した。

この懸念について、スタートアップ権利擁護団体Allied For StartupsでEU政策監督官を務めるBenedikt Blomeyer(ベネディクト・ブロマイヤー)氏は、TechCrunchに次のように語った。「スタートアップは起業初日からグローバルです。例えば、米国のスタートアップは、欧州のコンシューマーに提供できるものをたくさん持っています。市場がますます相互につながり合っていく中で、なぜデータ保護関連の法律が増え続け、デジタル経済においての貿易障壁が高まっているのでしょうか」。

しかし、EU米国間の規制の食い違い解消を求める意見を擁護しているスタートアップは、現時点で、例えば米国の監視法改正のような具体的な措置を目指して政府に働きかけているのか、とブロマイヤー氏に尋ねたところ、その点に関するコメントは今は控えたいとのことだった。

EDPB(欧州データ保護会議)による最終勧告の採択に関して、議長のAndrea Jelinek(アンドレア・ジェリネク)氏は次のようにコメントしている。「Schrems II判決が及ぼした影響は計り知れません。国際的なデータフローはすでに、それぞれのレベルで徹底調査を行う規制当局の厳しい監視の下に置かれています。EDPB最終勧告の目標は、個人データを合法的に第三国に移転するようデータ輸出者を導くことであり、それと同時に、欧州経済圏内で保証されているのと実質的に同じような一定レベルの保護が、移転されたデータに与えられるよう保証することです」。

同氏はさらに次のように語った。「利害関係者が表明した懸念を晴らし、特に第三国における公共機関の慣行を調査することの重要性を明確にすることによって、データ輸出者が、第三国へのデータ移転について評価する方法を簡単に学べるようにしたいと考えており、効果的な補完的措置を特定して、必要に応じて実行に移したいと考えています。EDPBは、今後発令するガイダンスにおいても、Schrems II判決の影響と、利害関係者から寄せられたコメントを引き続き考慮していきます」。

EDPB(欧州データ保護会議)は2020年、Schrems II判決への準拠に関する最初のガイダンスを発表した。

当初の勧告と今回の最終勧告の間に見られる主な調整点には「第三国の法律および慣行が、GDPR第46条で定められた移転手段の有効性を実際に侵害するかどうか、データ輸出者の法的評価において第三国の公共機関の慣行を調査することの重要性が強調されていること」「データ輸出者は、その評価において、具体的な補足情報など他の要素とともにデータ輸入者の実務状況を考慮に入れる可能性があること」「データの行き先となる第三国の法律が、データ移転へのアクセスをデータ輸入者の介入なしに関係当局に許可している場合にも移転手段の有効性が侵害される可能性があることに関する明示的な説明」などが含まれている。

法律事務所Linklaters(リンクレーターズ)は、声明の中でEDPB(欧州データ保護会議)の勧告について、このガイダンスがビジネスに与える今後の影響について危惧しながら、これは「厳しいガイダンスだ」とコメントした。

この国際的な法律事務所で弁護士を務めるPeter Church(ピーター・チャーチ)氏は、次のように説明する。「これらの移転に対する実用的なアプローチがあるとの証拠はあまり見られず、EDPBはデータがEU内にとどまるという結論であれば、それでまったく十分ではないかとも思います。例えば、企業は(ふさわしいデータ保護法がない状態で)第三国に個人データを移転する前に、法律だけでなく、法的処置と国家安全保障局が実質どのように運営されているかを考慮する必要があります。これらの活動は、通常は機密として扱われ、不透明であるため、このタイプの分析は数万ユーロを要し、時間もかかります。この分析が、比較的無害な移転に対しても必要になるようです」。

同氏はさらに「中小企業がこれらの要件をどの程度遵守すべきなのかという点が明確に示されていない」と付け加え「私たちは現在、国際化社会で取引を行っており、EDPBは、(王であっても海岸に押し寄せる潮を引き止めることはできないことを示したという逸話を残す)クヌート1世のように、それが持つ力の実際的な限界を考慮に入れるべきです。このガイダンスが、世界中でデータの波の満ち引きを止めることはありません。しかし、多くのビジネスは、この新しい要件に従うため相当苦しむことになるのです」と語った。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

質と量で世界初、工学院大学が約6360手話単語と10テーマ10件の対話を収録した高精度3D日本手話データベースを提供開始

工学院大学は6月28日、国立情報学研究所情報学研究データリポジトリ(NII IDR)「研究者等提供データセット」上で、「工学院大学 多用途型日本手話言語データベース(KoSign)」(コサイン)の提供を開始した。約6360手話単語と10テーマ10件の対話が収録された、工学院大学調べで「質と量において世界初のデータセット」とのことだ。

KoSignのデータは、手話ネイティブの家系に育ったろう者で、日本手話を母語とする男女1名ずつによって、2017年から2019年にかけて、東映東京撮影所のモーションキャプチャースタジオで収録された。正面と左右に4KまたはフルHDカメラを置いて手話映像を撮影すると同時に、光学式モーションキャプチャーによる3次元動作データ(BVH形式/C3D形式/FBX形式)とKinectセンサーによる深度データ(Kinect v2のxef形式)も取得した。手話では、顔の表情や視線も大切な要素となるため、顔に33カ所、体全体に112カ所のマーカーを付けて顔や体の動きをキャプチャーしている。

日本で使われている手話には、日本手話、中間型手話、日本語対応手話の3種類があり、なかでも生まれつきのろう者が伝統的に使ってきた日本手話は、音声の日本語とは異なる文法を持ち、言語学的にも工学的にも研究があまり進んでいない。日本手話を使う人たちには、手話通訳者が使用する、話し言葉の文法と語順を基本とした日本語対応手話や、顔の表情を交えて日本手話と日本語対応手話を混在させた中間型手話では、内容を十分に理解できない場合もあるという。工学院大学の解説では、英語がよくわからない人が、英語字幕の映画を見ているような感じだと話している。

手話では3次元的な手の動きが重要となるが、これまで3次元の動作を集めた手話辞書は存在しなかった。また、紙媒体や2次元の動画教材では学習しにくいという課題があった。任意の角度から手話の動きを見られる「KoSign」は、ろう者の日常生活におけるコミュニケーションの理解度を深めると同時に、健聴者の手話学習にも役に立つと期待される。KoSignは、研究者や開発者に無料で公開されるため、所属が異なる研究者による調査でも、共通動作を対象に研究を進められるとしている。

また、データベースの単語を組み合わせて手話文を作ることもできる。下の画像は、桜島観光案内用にアンノテーション支援システムで描画し字幕を付けた応用例。

データは研究目的でのみ提供され、対象は基本的に大学の研究室や公的研究機関となる。詳細はこちら

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英個人情報監督局が公共の場でのライブ顔認証による「ビッグデータ」監視の脅威に警鐘を鳴らす

英国のデータ保護規制当局最高責任者はライブ顔認識(live facial recognition、LFR)を公共の場で無謀かつ不適切に使用することについて警鐘を鳴らした。

公共の場でこの生体認証監視を使用することについて、個人情報保護監督官のElizabeth Denham(エリザベス・デナム)氏は「エンゲージメントの規則」と題する活動の開始点として見解を発表し、データ保護規制当局はLFRの利用計画に対して多くの調査を実施したが、すべてのケースで問題が発覚したと述べた。

「ライブ顔認証テクノロジーが不適切に、過剰に、あるいは無謀に使用される可能性について深く憂慮しています。機密性の高い個人情報が、本人の知らないところで、本人の許可なしに大規模に収集された場合、その影響は計り知れません」と同氏はブログの投稿で警告した。

「これまでの用途としては、公共の安全性の懸念に対応したり、生体認証プロファイルを作成して絞り込んだターゲットにパーソナライズされた広告を配信するといったものがあります」。

「調査対象となった組織の中でその処理を完全に正当化できた組織は1つもなく、実際に稼働したシステムのうち、データ保護法の要件に完全に準拠していたものは皆無でした。すべての組織はLFRの使用を中止する選択をしました」。

「CCTV(Closed-Circuit Television、監視カメラ)と違って、LFRとそのアルゴリズムは、映っている人を自動的に特定し、その人に関する機密性の高い情報を推測します。そして即座にプロファイルを作成してパーソナライズされた広告を表示したり、毎週食料品店で買い物をするあなたの画像を万引犯の画像と比較したりします」とデナム氏はいう。

「将来は、CCTVカメラをLFRで置き換えたり、ソーシャルメディデータやその他の『ビッグデータ』システムと組み合わせて使用する可能性もあります。LFRはCCTVの強化版なのです」。

生体認証テクノロジーを使用して個人をリモートから特定すると、プライバシーや差別のリスクなど、人権に関する重大な懸念が生じる。

欧州全体で、自分の顔を取り戻そうといった、生体認証による大衆監視の禁止を求めるさまざまな運動が起こっている。

顔認証にターゲットを絞ったもう1つのアクションとして、2021年5月、プライバシー・インターナショナルなどが、物議を醸している米国の顔認証企業Clearview AI(クリアビュー・エーアイ)の欧州での営業を停止するよう求める法的な異議申し立てを行った(一部の地域警察部隊も例外ではない。スウェーデンでは、2021年初め、Clearview AIの技術を不法に使用したという理由で警察がDPAによって罰金を課された)。

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欧州では生体認証監視に対して一般市民が大きな反対の声を上げているが、議員たちはこれまでのところ、この論争中の問題の枝葉末節をあれこれいじくりまわしているだけだ。

欧州委員会が2021年4月に提示したEU全体の規制では、人工知能の応用に関するリスクベースのフレームワークが提案されているが、法執行機関による公共の場での生体認証監視の利用については一部が禁止されているに過ぎない。しかも、広範な適用例外が設けられていたため、多くの批判を招いた。

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党派を問わずあらゆる欧州議会議員から、ライブの顔認証などのテクノロジーの公共の場での使用の全面禁止を求める声も上がっている。また、EUのデータ保護監督庁長官は、国会に対し、公共の場での生体認証監視の使用を、少なくとも一時的に禁止するよう求めている。

いずれにしても、英国はEUから離脱したため、EUが計画しているAI規制は英国には適用されない。英国政府が国のデータ保護体制を緩和する方向に舵を切るかどうかはまだわからない。

ブレグジット後に英国の規制体制の変更について同国政府が調査会社に依頼した最近のレポートでは、英国GDPRを新しい「英国フレームワーク」で置換して「イノベーションと公共の利益のためにデータを開放する」こと、そしてAIおよび「成長分野」に有利な修正を行うよう主張している。そのため、ブレグジット後、英国の官僚たちがデータ保護体制の修正に手を付けるかどうかが人権ウォッチャーたちの主要な関心事となっている。

「Taskforce on Innovation, Growth and Regulatory Reform(イノベーション、成長、規制改革に関するタスクフォース)」と題するレポートでは、自動処理のみに基づく決定に従わない権利を市民に与えるGDPRの第22項の完全削除を支持しており、(個人情報保護監督庁[INFORMATION COMMISSIONER OFFICE、ICO]からと思われる指導を受け)「自動化プロファイリングが合法かどうか、公共の利益を満たすものかどうかに焦点を移した表現」で置き換えることを提案している。ただし、英国政府はデナム氏の後任人事についても検討しており、デジタル相は、後任には「データを脅威ではなく、我々の時代の大いなる機会とみなす大胆な新しいアプローチ」を採って欲しいと考えていると述べた。つまり、公正、説明責任、透明性とはさようならということだろうか。)

プライバシー監視機関によると、現在のところ、英国でLFRを実装しようとする者は、英国のデータ保護法2018と英国一般データ保護規則(つまり、EU GDPRの英国版。ブレグジット前に国内法令となった)の条項に準拠する必要がある。具体的には、英国GDPR第5条に明記されているデータ保護原則(合法性、公正、透明性、目的の制限、データの最小化、保存の制限、セキュリティ、説明責任など)に準拠する必要がある。

この見解には、監督機関は個人が権利を行使できるようにしなければならないとも書かれている。

「組織は最初から高水準のガバナンスと説明責任を実証する必要があります。これには、LFRを使用することが、導入先の個々のコンテキストにおいて、公正、必要、かつ適切であることを正当化できることも含まれます。侵害性の低い手法は機能しないことを実証する必要があります」とデナム氏は書いている。「これは重要な基準であり、確固とした評価を必要とします」。

「組織はまた、潜在的に侵害的なテクノロジーを使用するリスクとそれが人々のプライバシーと生活に与える影響を理解し評価する必要があります。例えば正確性と偏見をめぐる問題によって、人物誤認が起こり、それにともなって損害が発生することを理解する必要があります」。

英国がデータ保護とプライバシーに関して進む方向についての広範な懸念という視点から見ると、プライバシー監視機関がLFRに関する見解を表明したタイミングは興味深い。

例えば英国政府が後任の個人情報保護監督官に、データ保護とAI(生体認証監視などの分野を含む)に関する規則書を喜んで破り捨ててしまうような「御しやすい」人物を任命するつもりだとしても、少なくとも、LFRの無謀で不適切な使用にともなう危険性を詳述した前任者の見解が公文書に記載されている状態では、そのような政策転換を行うのはかなり気まずいだろう。

もちろん、後任の個人情報保護監督官も、生体認証データがとりわけ機密性の高い情報であり、年齢、性別、民族などの特性を推定または推論するのに使用できるという明らかな警告を無視できないだろう。

あるいは、英国の裁判所がこれまでの判決で「指紋やDNAと同様、顔生体認証テンプレートは本質的にプライベートな特性をもつ情報である」と結論づけており、ICOの見解のとおり、LFRを使用すると、この極めて機密性の高いデータを本人に気づかれることなく取得できるという点を強調していることも当然認識しているはずである。

またデナム氏は、どのようなテクノロジーでも成功するには市民の信頼と信用が必要であるという点を繰り返し強調し、次のように述べている。「そのテクノロジーの使用が合法的で、公正かつ透明性が高く、データ保護法に記載されている他の基準も満たしていることに市民が確信を持てなければなりません」。

ICOは以前「警察によるLFRの使用について」という文書を公開しており、これがLFRの使用に関して高いしきい値を設定することになった(ロンドンメトロポリタン警察を含め、いくつかの英国の警察部隊は、顔認証テクノロジーの早期導入者の1つであり、そのために、人種偏見などの問題について法的苦境に陥った部隊もある)。

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人権運動家にとっては残念なことだが、ICOの見解では、民間企業や公的機関による公開の場での生体認証監視の使用の全面禁止を推奨することは避けており、監督官は、このテクノロジーの使用にはリスクがともなうが、極めて有用となるケース(行方不明の子どもを捜索する場合など)もあると説明している。

「テクノロジーにお墨付きを与えたり禁止したりするのは私の役割ではありませんが、このテクノロジーがまだ開発中で広く普及していない今なら、データ保護に然るべき注意を払うことなくこのテクノロジーが拡散しまうのを防ぐ機会が残されています」と同氏は述べ、次のように指摘する。「LFRを導入するいかなる意志決定においても、データ保護と利用者のプライバシーを最優先する必要があります」。

また、デナム氏は次のように付け加えた。現行の英国の法律では「ショッピング、社交、集会などの場で、LFRとそのアルゴリズムを使用することを正当化するには、高いハードルをクリアする必要があります」。

「新しいテクノロジーでは、利用者の個人情報の使い方について市民の信頼と信用を構築することが不可欠です。それがあって初めて、そのテクノロジーによって生まれる利点を完全に実現できます」と同氏は強調し、米国ではこの信頼が欠如していたために、一部の都市で、特定のコンテキストでのLFRの使用が禁止されたり、ルールが明確になるまで一部の企業がサービスを停止することになったことを指摘した。

「信頼がなければ、このテクノロジーによってもたらされる利点は失われてしまいます」と同氏は警鐘を鳴らした。

このように「イノベーション」というもっともらしい大義を掲げて英国のデータ保護体制を骨抜きにする方向へと慌てふためいて舵を切ろうとしている英国政府だが、1つ越えてはならない一線があることを忘れているようだ。英国が、EUの中心原則(合法性、公正、均整、透明性、説明責任など)から国のデータ保護規則を「解放」しようとするなら、EUとの規制同盟から脱退するリスクを犯すことになる。そうなると、欧州委員会は(締結したばかりの)EU-英国間のデータ適合性協定を破棄することになるだろう。

EUとのデータ適合性協定を維持するには、英国はEUと実質的に同等の市民データ保護を維持する必要がある。このどうしても欲しいデータ適合性ステータスを失うと、英国企業は、EU市民のデータを処理するのに、現在よりはるかに高い法的なハードルを超える必要が出てくる(これは、セーフハーバー原則プライバシー・シールドが無効化された後、米国が今まさに体験していることだ)。EUのデータ保護機関がEU英国間のデータの流れを完全に停止する命令を下す状況もあり得る。

このようなシナリオは英国企業と英国政府の掲げる「イノベーション」にとって恐ろしい事態だ。テクノロジーに対する市民の信頼とか英国市民が自らプライバシーの権利を放棄してしまってよいと思っているのかどうかといったより大きな問題について検討する以前の問題である。

以上の点をすべて考え合わせると、英国政府にはこの「規制改革」の問題について徹底的に考え抜いた政治家が本当にいるのかどうか疑わざるを得ない。今のところ、ICOは少なくとも政府に代わって考える能力をまだ維持している。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:イギリス顔認識生体認証個人情報

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【コラム】親愛なるEUへ、テックスタートアップ政策の優柔不断をやめてコミットする時がやってきた

EUは、その無気力、欠点の数々、官僚主義のフェティシゼーションなどを考慮に入れても、究極的には良いアイデアだ。欧州経済共同体が設立されて64年になるかもしれないが、マーストリヒト条約でEUが創設されて29年が経ち、この国際機関は今でも優柔不断なミレニアム世代のように振る舞い、テックスタートアップ政策を喜んでいじくり回している。EUはそろそろデジタルノマドをやめ、長年の懸案であるスタートアップへの対応について、1つの「場所」にコミットする時期に来ているのではないだろうか。

1つだけ誰もが同意できることがあるとすれば、それは今がユニークな時期であるということだ。新型コロナウイルスのパンデミックは世界的に、特にヨーロッパでテクノロジーの受け入れを加速させた。ありがたいことに、テック企業やスタートアップ企業は、確立した経済の大部分よりも回復力が高いことが証明されている。その結果、EUの政治指導者たちは、ヨーロッパのより持続可能な未来のために、イノベーション経済に目を向け始めた。

しかし、この時が訪れるまでには時間がかかった。

ヨーロッパのテックシーンは、スタートアップの設立数、テック分野の人材、資金調達ラウンド、IPO、イグジットなどの面で、米国やアジアに比べてまだ遅れをとっている。もちろん、ヨーロッパ市場が非常に細分化されていることも助けになっておらず、それは今後も長く続くだろう。

しかし、米国やアジアのテック巨人たちに対抗するために、スタートアップ企業の法律、税制、人材育成を改革するというEUの義務に関しては、言い訳はまったく存在しない。

だが率直に言ってEUは、スタートアップを取り巻く環境を整えることができないようだ。

これまであった提案の数々を考えてみよう。

古くは2016年に「Start-Up and Scale-Up Initiative」が発足した。同年には「Scale-Up Manifesto」も発表された。そして2019年には「Cluj Recommendations」、2020年にはオプション改革のための「Not Optional」という取り組みが行われた。

現実を受け入れよう。ヨーロッパのVC、創業者、スタートアップ協会コミュニティは、国やヨーロッパのリーダーに対して、何年も前からほとんど同じことを言っている。

2021年になってついに、これらの努力の集大成に近づくものが出てきた。

2021年前半のEU議長国であるポルトガルは勇敢に難局に立ち向かおうと決断し、EUが必要とするものの最終的な草案に近いものを作成した。

欧州のエコシステム関係者との綿密な協議を経て、同国はスタートアップの迅速な創出、人材、ストックオプション、規制の革新、資金調達へのアクセスなど、さまざまな問題を取り上げた上で、競争条件を整えるための8つのベストプラクティスを特定した。考えられる問題は網羅している提案だ。

これらは「Startup Nations Standard(SNS)」と呼ばれる立法文書としてまとめられ、2021年3月19日に行われたDigital Dayで、欧州委員会とともに、情報社会・メディア総局(DG CNECT)とその担当であるTierry Breton(ティエリー・ブルトン)委員に提出された。このことについては、当時書いた

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明らかに実現可能なこれらの提案に、EUはようやく理解を示し署名するだろうか?

少なくとも今回は、進展がありそうに思えた。この日、25の加盟国が宣言に署名し、おそらく初めて、この政策についての政治的コンセンサスが形成されたように見えたのである。

実際、ポルトガルのAntónio Costa(アントニオ・コスタ)首相は、このイニシアチブを統括するための機関(European Startup Nations Alliance、ESNA)の設立を発表している。この機関は、基準の監視、開発、最適化を行い、その成功と失敗に関するデータを加盟国から収集し、その結果を欧州理事会の議長国が変わるのに合わせ年2回の会議で報告するとのことだった。

冷えたバイラーダエスプマンテDOCでも開けて、これらの提案された政策のうち、少なくとも基本的な部分をEUがようやく実施し始めるかもしれないことを祝えそうなものだ。

しかし、そうは問屋が卸さない。パンデミックがいまだに続いている中、EUのリーダーたちはこれらのテーマについて考える時間を持て余していたようだ。

そこで今度はEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)仏大統領が、ヨーロッパの主要なテック創業者、投資家、研究者、企業CEO、政府関係者など150人以上の選りすぐりのグループを集めて、スタートアップについて考える「Scaleup Europe」というイニシアティブを打ち出した。また、研究・イノベーション総局(DG RTD)のMariya Gabriel(マリヤ・ガブリエル)委員による「Global Powerhouse Initiative」も出てきた。

そう、ご列席のみなさん、EUはまるで巨大な金魚のような記憶力で、再びすべて同じプロセスを繰り返していたのだ。

このような集団行動が悪いというわけではない。しかし、EUのスタートアップは、もっと断固とした行動を必要としている。

現状では、非常に合理的なポルトガルの提案を実行する代わりに、2022年にフランスが議長国になるまで、EUの歯車がゆっくりと回転するのを待たなければならない。

とはいえ、うまくいけば、La French TechStartup PortugalStartup Estoniaのような組織で構成される、欧州共同体から委任されたテックスタートアップ政策の実施を監督する機関がようやく手の届くところに見えてくるかもしれない。

しかし外から見る者にとっては、EUの政策の歯ぎしりはまだまだ続くのではないかと感じてしまう。フランスは「La French Tech for Europe」を提唱し、ポルトガルはESNAをすでに立ち上げているが、これらの取り組みは連携が取れているとは言い難い。

つまるところ、テックスタートアップの創業者や投資家たちは、この新しい組織がどこから来たのか、どこの国が立ち上げたのかなどということは気にしないだろう。

何年もの貢献、何年もの協議を経て、今こそ行動を起こすべき時だ。

今こそEU加盟国は合意して前進し、確立されたベストプラクティスに基づいて他の加盟国が追いつけるように支援する時だ。

待望のEUテック巨人が開花し、米国生まれのビッグテックに対抗し、EUがようやくその力を発揮してもいい時期が来たのだ。

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タグ:EUコラムヨーロッパ

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

アマゾンの物流労働者の組合結成に向けてチームスターズが積極的な支援を計画

米国で最も強力な労働組合の1つであるInternational Brotherhood of Teamsters(チームスターズ)は米国時間6月22日、Amazon(アマゾン)の倉庫労働者と運転手の組合結成を全国的に推進する計画を認めた。そしてそれは、穏やかにはすまないだろう。

このニュースはMotherboard(マザーボード)が最初に報じたもので、同メディアはこの取り組みを発表する動画と決議文を入手したという。チームスターズの説明によると、アマゾンの成長する物流事業で組合を結成する計画は以前から進められており、ベッセマーで組合結成が(草の根活動がアマゾン自身の激しい反対に遭い)失敗に終わったことは、なぜこのような試みが必要であるかを物語っているとしている。

チームスターズのアマゾン担当ナショナル・ディレクターを務めるRandy Korgan(ランディ・コーガン)氏は、ニュースサイトのSalon(サロン)に掲載された最近の論説の中で、この取り組みを示唆するような説明をしている。

全国のチームスターズ支部が、組合員の参加を促し、大規模なボランティア組織委員会を立ち上げ、地域社会と労働者の強力な連携を構築し、変革的な社会正義の組織化を自分たちの活動に取り入れることで、すでにこの課題に立ち向かっていることを、私は知っています。

注目を集めたアマゾンのアラバマ州ベッセマー倉庫で行われた全国労働関係委員会(NLRB)の選挙でわかったように、アマゾンは労働者が組合を結成するのを阻止するためには、法律に違反し、費用を惜しみません。

アマゾンで真の労働者の権利を構築するためには、アマゾンの労働者による現場での闘争心と、倉庫業や配送業のチームスターズとの連帯が必要です。

チームスターズの計画は、今週開催される第30回半期国際会議での可決を前提としており、特別にアマゾン部門を設け、全国のアマゾン従業員の組合活動に資金を提供して支援するというものだ。決議文には次のように書かれている(全文は記事文末を参照)。

IBT代表者会議は、アマゾンが我々の組合員にとって存在する脅威であることを認識し、組合員の関与、労働者と地域社会の関与、独占禁止法の施行と政策改革、グローバルな連帯といった中核的なプラットフォームで団結することに、組合のすべてのレベルで取り組む。

アマゾンは事あるごとに、安全で高給な労働環境にするための改善に取り組んでいることを声高に繰り返しているものの、従業員がひどい状況に置かれていたり、冷淡な人事管理を受けていたり、賃金が停滞しているといった報告が後を絶たない。アマゾンは最低賃金を時給15ドル(約1670円)に設定しているが、これは多くの倉庫作業員や運転手が他の仕事で得ている賃金よりもはるかに低いと指摘されており、今や他の事業主がアマゾンに追随して賃金を下げる動きも出ている。

アマゾンが組合潰しの戦術と汚い手口で伝統的な組合投票プロセスを潰したと非難されたベッセマーにおける紛争は、チームスターズが異なるアプローチを採ることを促した。

チームスターズはアマゾンの労働者を支持します。

アマゾンの労働者は生活向上のために団結しており、チームスターズは彼らを支援しています。なぜなら、彼らはそれに値し、私たちは組合員が懸命に取り組んできた基準を維持しなければならないからです。

ランディ・コーガン
チームスターズ アマゾン担当ナショナル・ディレクター

Motherboardによると、チームスターズはアマゾンが組合結成や交渉に応じたほうがよいと考えるようになることを期待して「業務停止、請願、その他の集団行動を含む一連の圧力キャンペーン」を計画しているという。この件について筆者は同社にコメントを求めており、返事があれば記事を更新する。

これはチームスターズが今後数年間に行う最優先の取り組みの1つだが、具体的なスケジュールや予算は明示されていない。その理由は間違いなく、現場の状況に大きく左右されるからだろう。しかし、アマゾンの何十万人もの従業員は、未開拓の巨大な労働者グループであり、その労働者が組合に加入すれば、それだけ巨額の資金がチームスターズにもたらされる可能性もある。

Teamsters Convention Resolu… by TechCrunch

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Amazon労働組合

画像クレジット:Jay Reeves / AP

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

全米で失業保険用に導入された顔認識システムが申請を次々拒否、本人確認できず数カ月受給できない人も

imaginima via Getty Images

米国では失業保険を不正受給しようとする詐欺行為を防止用に申請者が本人かどうかを確認するための顔認識システムを導入しています。ところが、この技術が本人を正しく認識できないケースが発生しており、失業手当の支給を拒否された人々からは不満の声があがっています。AIによる顔認識技術は、一般的に女性や有色人種を見分ける能力が白人男性に比べると劣ると言われています。

問題のケースでは、失業手当を申請した人がID.meにおける顔認識で本人確認ができなかったために手続きを保留され、問題解消のためにID.meにコンタクトを取ろうとしても数日~数週間も待たされたりしているとのこと。

SNSではID.meへの不満や苦情の投稿が数多く見受けられます。カリフォルニア州では昨年の大晦日、すでに失業手当を受け取っていた140万人のアカウントが突然無効化される現象が発生。再度ID.meで顔認識を通さなければ手当を受給できなくなりました。この手続きにも数週間待たされる人が相次ぎ、その間生活費のやりくりを強いられました。このような問題は各地で起こっており、コロラド、フロリダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、アリゾナ州でもID.me導入前は問題なく手当を受給できていた人が、ID.meに顔認識で弾かれ、長くて数か月も手当を受け取れない状態に置かれた例が報告されています。

ViceメディアのテクノロジーニュースサイトMotherboardはID.meのCEOブレイク・ホール氏への取材で、ホール氏がID.meの技術は「99.9%の有効性」があると述べたと伝えています。ホール氏によると、ID.meの顔認識は大量の顔写真サンプルから調べたい顔を探すのではなく、運転免許証などに表示される顔写真との比較を行うようになっているとのこと。また肌の色はこの顔認識には影響しないとのことです。

そのため、ホール氏は「顔認証の失敗は技術の問題ではなく、例えば、申請に使う写真の顔が一部見切れているような写真を使って認識に失敗している」と主張「ID.meで本人確認ができなかった対象者はいません」とまで述べています。

しかし実際に認識が通らなかった人にとっては、この説明は納得いくものではないでしょう。ある人は指示されたとおりに手続きをしたものの、認証拒否が3度も続き、何の説明もなくシステムから閉め出されてしまったと訴えています。どうしたものかと思いID.meのサポートチャットにコンタクトを取るも返答はなく、州の担当者に問い合わせてもID.meに確認せよの一点張りで3週間も放置されました。そして堪忍袋の緒が切れてSNSでID.meへの不満をぶちまけたところ、すぐに先方から連絡が来て数日後に身元確認が通ったと、この人は述べています。

Motherboardによると、ホール氏はID.meのシステムを売り込むため、米国の失業手当の不正受給の額を例に挙げて宣伝しています。しかしホール氏の言うその額は、この2月には1000億ドルと言っていたのが、その数週後には2000億ドルと述べられ、翌月には3000億ドルと主張するようになっていたとのこと。Axiosによる最新の報告では4000億ドルものお金が失業手当詐欺的に受給されているとID.meが述べていると伝えています。ホール氏はこの数値の変化について「データポイントが増えたためだ」と説明しています。しかし、この主張のどれに対しても、額をどうやって算出したかについては返答していません。

米労働省の報告では、2020年3月から10月の間に、不正の可能性がある失業手当の不正受給で摘発した額はを56億ドルとされています。より最近のデータでは損失額が実際にはもっと大きいことが示唆されていますが、省は 「数百億ドル」と見積もっています。

ID.meのテクノロジーで何が起こっているにせよ、この事件は、連邦政府と州政府が顔認識を制限したいと望んでいる理由のひとつを浮き彫りにしているようです。プライバシーやセキュリティに問題がなくとも、また「99.9%の精度」とうたわれるシステムであっても、多くの人々が本来得られるはずのサービスを拒否される可能性があるということです。本当に99.9%の精度でこれならば、特に市民の生活に関わる手続きを行うシステムには、今後はさらに高い精度を導入前に求めなくてはならなくなりそうです。

(Source:MotherboardEngadget日本版より転載)

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タグ:顔認証 / 顔認識(用語)生体認証 / バイオメトリクス / 生体情報(用語)プライバシー(用語)

米議会が警察による携帯電話の「基地局シミュレーター」使用を制限する法案を提出

【編集部注】本稿はEngadgetのライターであるIgor Bonifacic(イゴール・ボニファシック)氏による寄稿。

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BuzzFeed News(バズフィード・ニュース)によると、民主党のRon Wyden(ロン・ワイデン)上院議員とTed Lieu(テッド・リウ)下院議員は米国時間6月17日、警察によるIMSI(国際携帯電話加入者識別番号)キャッチーの使用を制限する法案を提出した。その装置はStingrays(スティングレイ)の呼称で知られており、警察はIMSIキャッチャーと基地局シミュレーターを使って容疑者の情報収集や通話、SMSメッセージその他あらゆる形態のコミュニケーションを傍受している。現在、米国の警察機関がこのテクノロジーを使うために令状は必要ない。Cell-Site Simulator Act of 2021(2021年基地局シミュレーター法)はそれを変えることが目的だ。

IMSIキャッチャーは基地局を偽装して携帯電話に接続させる。一度接続されれば、デバイスから送られるデータや位置情報、加入者識別番号を収集できる。基地局シミュレーターには二重の問題がある。

まず、これは監視の鈍器である。混み合った場所で使うと、IMSIキャッチャーは傍観者のデータを収集する恐れがある。第2に市民の安全上のリスクを高める恐れもある。なぜなら、IMSIキャッチャーは基地局のように振る舞うものの、本来の機能は果たさないため、通話を公共無線ネットワークに転送できない。このため、通話を911(警察への緊急電話)につなぐことができない。こうした危険をはらんでいるにも関わらず、Stingrayは広く使われている。2018年にAmerican Civil Liberties Union(米国自由人権協会)は、27の州およびワシントンD.C.の少なくとも75の機関がIMSIキャッチャーを保有していることを突き止めた。

こうした懸念に対応するために、提出された法案は、警察機関がこの技術を使うべき理由を裁判所で論証することを義務づけている。さらに警察は、他の監視手段が有効でない理由も説明しなくてはならない。また法案は、警察が令状に書かれていない対象から集めたデータをすべて削除することを保証するよう求めている。

法案はIMSIキャッチャーの利用について期限を定めていないが、機器の使用を最小限に留めるよう要求している。警察が令状なしで同技術を利用できる例外も詳しく書かれている。例えば爆破予告事件などでIMSIキャッチャーに遠隔爆破を防ぐ可能性がある場合の使用は制限していない。

「私たちの超党派法案はStingrayをはじめとする基地局シミュレーターを巡る秘密や疑念を払拭し、政府がこの種の侵略的監視装置を使用できる場面を定めた明確で透明な規則で置き換えるるものです」とワイデン議員がBuzzFeed Newsに話した。

同法案は一部の共和党議員からも支持されている。モンタナ州のSteve Daines(スティーブ・デインズ)上院議員とカリフォルニア州のTom McClintock(トム・マククリントック)下院議員は同法案を共同提案している。Electronic Frontier Foundation(電子フロンティア財団)とElectronic Privacy Information Center(電子プライバシー情報センター)などの組織も法案に賛成している。

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タグ:警察アメリカ民主党

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(文:Igor Bonifacic、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米上院議員が「データ保護局」新設を提案、米国人のデータを取り戻せ

民主党のKirsten Gillibrand(カーステン・ギリブランド)上院議員は、テック企業が自分の庭で行う自由な侵入行為から米国人を守るべく、新たな連邦政府機関を設立する法案を再提出した

ギリブランド議員(民主党・ニューヨーク州)は2020年、データ保護法を提案した。プライバシーおよび既存政府機関が十分に対応できないことがわかっているテック企業に関する法的措置を講じるための法案だ。

「米国はプライバシーとデータ保護のための新しいアプローチを必要としています。そして議会は、人命より利益を重んじる民間企業から米国人を守る有効な解決策を見つける努力をする義務があります」とジリブランド議員は言った。

改定された法案は「データ保護局」の新設を約束した主旨を維持しており、オハイオ州のSherrod Brown(シェロッド・ブラウン)民主党上院議員との共同提案で、いくつかの修正が加えられた。

現在進行中のあらゆるテック企業反トラスト規制を巡る議論の精神を受け、2021年バージョンの同法案は、大手テック企業によるデータ収集業者の関わる合併や、5万人以上のユーザーデータの移動をともなうその他の取引を審査する権限をデータ保護局に与えようとしている。

他に「データの正義を前進させる」公民権機関の設立や、アルゴリズム、バイオメトリック・データの利用、子どもなど立場の弱い人々からデータを収集するなどの高リスクなデータ利用行為を、同局が審査、処罰できる権利が追加されている。

ギリブランド議員は、最新技術に対応した規制改革を「極めて重要」と述べており、それは彼女だけではない。2021年に民主党と共和党はほとんど一致点を見つけていないが、数多くの超党派反トラスト法案は、テック業界で最強の諸企業を抑制することがいかに重要であり、さもなくば止めようがなくなることを、ようやく議会が認識したことを示している。

データ保護法は、一連の新テック法案のような超党派の支持を受けていないが、史上最高値のビッグテックとの戦いへの関心の高さから、多くの支持を得られる可能性がある。テック業界を標的にした法案が数多く進められ中、超党派の支持を増やすことなく本法案が前進することは考えにくいが、だからといってこの考えが考慮に値しないわけではない。

議会で検討中の他の提案と同じく、本法案はFTC(連邦取引委員会)がビッグテック企業の不品行に対して意味のある罰を与えていないことを認識している。ギリブランド議員の構想では、データ保護局はFTCにできなかった規制強化を実現できるという。別の法案では、FTCに新たな強制力を与えられたり、吠えるだけでなく噛み付くための資金を注入して強化しようとしている。

連邦政府機関の使える道具を現代風に変えるだけでは十分でないかもしれない。テック業界のデータ巨人たちが10年以上をかけて異常増殖させたものを削減するのは容易ではない。これらの会社をここまで裕福にした米国人データの備蓄は、すでに野に放なたれているのだからなおさらだ。

強力なテック企業の持つそのデータを規制する戦に特化した新たな政府機関は、欧州独自の強力なデータ保護法とこれまで米国に欠けていた連邦規制のギャップを埋めるかもしれない。しかし、何かが起きるまでは、シリコンバレーのデータ亡者たちが熱心にその権力の真空を埋めようとするだろう。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:プライバシーデータ保護アメリカ民主党独占禁止法

画像クレジット:Jaap Arriens / Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ナイジェリアのテレコム最大手MTNが治安悪化にともなうサービス停止を顧客に警告

ナイジェリア最大のテレコムプロバイダーであるMTNの加入者は、西アフリカの同国でまもなくサービス停止に直面する可能性があると、通知を見た一部のジャーナリストや報道機関が伝えている。

ロイター通信などは、カスタマーサービス担当者からの警告を引用して、ナイジェリアでの治安の悪化がMTNのサービスに支障をきたす可能性が高いと伝えた。2021年を通してナイジェリアの人々は、誘拐、農民と牧畜民の衝突、学生の大量誘拐、武装強盗などと闘うことを強いられている。

「残念ながら、ナイジェリアの各地で治安が悪化しているため、今後数日間、お客様の組織へのサービス提供に影響が出る可能性があることをお知らせします。これは、場合によっては当社のテクニカルサポートチームがお客様のサイトに行けず、障害管理における最適ターンアラウンドタイムをできるだけ早く達成できない可能性があることを意味しています」とMTNはメッセージの中で述べたと報じられている

MTNは現時点でコメントの求めに応じていない。

南アフリカのMTN Groupの子会社であるMTN Nigeriaが2021年第1四半期の財務報告書を発表した際、データ収入は前年同期比43%増の1060億N(約284億円)となり、総収入の28%に寄与するなど、力強い成長を示していた。

データ収入の増加は、有料データサブスクライバー数が前年同期比21%増の3250万人、スマートフォン普及率が前年同期比27%増の3630万人となったことなどに後押されている。これらの数字は、ナイジェリアにおけるMTNの優位性を反映している。ナイジェリア通信委員会(NCC、Nigerian Communications Commission)のデータによると、MTNはナイジェリアのインターネット加入者の43%、携帯電話加入者の38%を占めている。

ナイジェリアの他の通信事業者と同様に、MTNのサービスに関する体験談は、良いかまたは標準以下、と2分される。しかし、TechCrunchの取材に応じたナイジェリアの人々は、政府がTwitter(ツイッター)を禁止する決定を下した後のインターネット規制への懸念とともに、この数週間、後者を目の当たりにしてきた。

理由は異なるものの、現地メディアの報道もロイターの報道を裏付けるものとなっている。ナイジェリアの通信会社の幹部社員で構成されるPTECSSAN(Private Telecommunications and Communications Senior Staff Association of Nigeria)という組合は「恣意的な労働者の解雇と非正規雇用化」に抗議して、6月16日から3日間のスト権ストに入ることを発表した。

PTECSSANは声明の中で、いくつかの理由を挙げてナイジェリアの通信会社各社を非難している。第一に、結社の自由と労働者の組織化権の侵害、組合員の犠牲、そして低賃金と差別的報酬。また、通信事業者らが外国人枠を乱用し、脅迫行為を行い、従業員に嫌がらせや暴言を吐くなどの反労働行為を行っていると主張している。

TechCrunchが問い合わせたMTNのカスタマーケア担当者数人は、上記のメッセージを知らないと述べるか、否定した。「そのようなネットワーク不具合が起きる予定はありません」と1人はいった。別の担当者は「今後数日間のサービス停止に関する情報はありませんので、その旨ご了承ください。何か情報が入りましたら、できるだけ早くお客様にメッセージでお知らせします」と答えた。

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タグ:ナイジェリア労働組合

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Aya Nakazato)

バイデン政権が米国内テロ対策の「最前線」と呼ぶソーシャルメディアとの情報共有を拡大へ

バイデン政権は国内テロと戦う新たな計画の概要を発表した。1月6日の米国議会議事堂襲撃を受けてのもので、ソーシャルメディア各社にはそれぞれの役割が与えられている。

米国時間6月15日、ホワイトハウスは国内テロに対抗するための新たな国家戦略を発表した。計画は、オンラインプラットフォームが凶暴な考えを広める中心的役割を演じていることを認識し、ソーシャルメディアサイトを国内テロ戦争の「最前線」とまで呼んでいる。

「国内テロリストの勧誘がオンラインで容易に行える状況は、国家安全保障への脅威であり、その最前線の大部分を民間オンライン・プラットフォームが担っている状態です。我々はプラットフォーム各社がその前線を安全に保つためにいっそうの努力を重ねるよう促すことに注力します」とホワイトハウスは述べた。

バイデン政権は、オンライン過激主義の流れと戦うために、テックセクターとの情報共有を拡大することを約束している。これは過激派が凶暴集団を構成するよりもずっと前に介入する行動の一環だ。新たな対国内テロ計画の概況報告によると、米国政府は「テクノロジーセクターとの情報共有拡大」の優先度を高める予定であり、具体的には過激主義が醸成、組織化されているオンラインプラットフォームが対象だ。

「民間セクター、特にテクノロジーセクターに提供する国内テロ関連情報の拡大を続けていくことでこ、テロリストによるインターネット上のコミュニケーションプラットフォームを利用した暴力行為への勧誘に対抗する政府外の活動が強化されるでしょう」とホワイトハウスの計画書に書かれている。

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国内テロ戦略の発表に合わせて発表された所見でMerrick Garland(メリック・ガーランド)司法長官は、テック業界との協力は、オンラインプラットフォームで組織化と勧誘を行う過激派を阻止する上で「特に重要」であると断言し、潜在的国内テロ脅威に関する情報共有を強化する計画を強調した。

こうした新たな取り組みにも関わらず、国内テロの勧誘情報がオンラインに残ることは不可避であることをバイデン政権は認めている。削除の優先度を挙げていないプラットフォームでは特にそうだ。2021年1月以前のソーシャルメディアプラットフォームのほとんどがそうだったように、そしてエンド・ツー・エンド暗号化アプリには、ソーシャルメディア各社が米国内で過激派の取締りを強化した後、多くのユーザーが流れ込んでいる。

「つまり供給への対応は必要ですが十分ではありません。需要にも目を向ける必要があります」とホワイトハウスはいう。「今のデジタル時代が米国民に求めているのは、インターネットを利用するコミュニケーションプラットフォームの本質的側面を活用するだけでなく、国内テロリストの勧誘行為やその他の有害コンテンツに対する脆弱性を回避できる能力です」。

バイデン政権はオンライン過激派に対する脆弱性対策として、デジタルリテラシープログラムの利用も考えている。例えば米国人に国内過激派の勧誘を予防する「教材」や「技能強化オンラインゲーム」で、誤情報、偽情報全般への対応も含まれていると思われる。

計画書は、QAnon(キューアノン)や「Stop the Steal(選挙泥棒をやめろ)」運動といった国内テロ要因を具体的に名指しすることまではしていないが、小さな非公式集団から民兵組織まで、国内テロを起こす方法にはさまざまな種類があることを指摘している。

3月に国家情報長官官房が発表した報告書は、2021年の国内テロによる米国への脅威の高まりを認識し、国内過激派が大手ソーシャルメディア・サイトを活用して新規メンバーの勧誘、リアルイベントの開催、さらには暴力につながる資料の配布を行っていることを指摘した。

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

生命保険の約款や学校教材における漢字の誤読を低減、正確なイントネーションで音声合成を自動生成するAIシステム

生命保険の約款や学校教材における漢字の誤読を低減、正確なイントネーションで音声合成を自動生成するAIシステム

大日本印刷(DNP)とグループ会社のDNPコミュニケーションデザイン(DCP)は6月15日、人間の音声を人工的に作り出す「音声合成」の制作時に起きる読み間違いを減らし、人が読むナレーションのイントネーションやアクセント、間合いに近い自然な音声を自動生成できるAI(人工知能)活用音声合成システムを開発したと発表した。

今回開発したシステムは、音声合成の制作時に起きる漢字の「誤読」や、「橋/箸/端」(はし)など同じ読み仮名で異なる「イントネーションの違い」に関し、読み間違いを約50~70%削減したという(従来のDNPの音声合成の制作と比較)。これにより、高齢者や身体障がいの有無に関わらず、誰でも必要な情報に簡単にたどり着けるアクセシビリティの向上が期待される。また、音声合成が利用されている学校教材や電子書籍、生命保険・損害保険の約款や契約書、e-Learningや研修教材などへも広く活用できるとしている。

現在、多様な人々にわかりやすく情報を伝達する機器やサービスの開発が進み、その利用が拡大している。例えば、文字などを読むことが困難な人のための国際標準規格DAISY(デイジー。Digital Accessible Information System)に準拠したデジタル録音図書をはじめ、様々な手法で人間の音声を人工的に作り出す音声合成は、交通情報や施設のナビゲーション、電話の自動音声ガイダンスなどで幅広く利用されている。

ただ、音声合成の精度は年々向上しているものの、漢字の誤読や発音・イントネーションの間違いが依然として発生していることが課題となっているという。この課題に対してDNPとDCDは、多くの企業のマニュアルや約款、研修用コンテンツなどで音声合成を制作してきた技術・ノウハウを活かし、「単語の読みや発音で、間違いのない音声データ」を機械学習させて、誤読が少なくスムーズな発音の音声合成を自動生成できるDNP独自のAIシステムを開発した。

具体的には、DCDが保有する読み間違いのない音声データをAIに機械学習させることで、正確な読みを自動付与できるようになった。これにより、約款や契約書、自治体・行政機関等の公式文書、製品の解説書といった正しい情報提示が必要でテキスト量が多いものへの利用に適しているという。

また、イントネーションとアクセントについて文章の文脈を加味して自動生成するため、従来の方法と比較して、人が読むナレーションに近い自然な音声を生成できる。両社は、特に正しい読みやナレーションを重視する学校教材や電子書籍などに最適としている。

さらに、既存音声データに加え、追加学習によってデータを増やすほど、読みの正確性やイントネーション・アクセントの精度が向上するという。複数の生命保険会社の約款で汎用性の検証を実施したところ、「読み」「アクセント」「間」について約85%以上の正確性を確認したそうだ。

DNPとDCDは今後、AIの精度向上と適応分野の拡大に努めるとともに、AIを活用した音声合成の付加価値を高め、幅広い分野に向けてサービスを提供するとしている。

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欧州人権裁判所は「大規模なデジタル通信の傍受には有効なプライバシー保護手段が必要」と強調

欧州人権裁判所(ECHR)の最高院は、デジタル通信の大量傍受が人権法(プライバシーと表現の自由に対する個人の権利を規定)に抵触することを本質的には認定せず、欧州の監視反対運動家たちに打撃を与えた。

ただし、現地時間5月25日に下された大法廷判決は、判事がいうところの「エンド・ツー・エンドの保護手段」を備えた上でこうした侵入的諜報権限を運用する必要性について強調している。

そのような措置を講じていない欧州各国政府は、欧州人権条約の下、こうした法令を法的な異議申し立てに一層さらしていくことになるだろう。

大法廷判決はまた、2000年捜査権限規制法(通称RIPA)に基づく英国の歴史的な監視体制が、必要な保護手段を欠いていたため違法であったとする判断を下した。

裁判所は「エンド・ツー・エンド」の保護手段の内容について次のように説明している。「大量傍受を行う権限は、プロセスの各段階において、講じるべき措置の必要性と比例性の評価を伴わなければならない」「大量傍受は、運用の対象と範囲が定義される最初の段階で、独立した承認を受けるべきである」「運用は、監督および独立した『事後』検証の対象とすべきである」。

大法廷判決は、RIPAの時代の中で英国で運用されてきた大量傍受体制に、いくつかの欠陥があることを明らかにした。大量傍受は行政機関から独立した組織ではなく国務大臣によって承認されていたこと、捜査令状の申請に通信の種類を定義する検索語のカテゴリを含めなくてよいとされていたこと、個人に関連する検索語(メールアドレスなどの特定の識別子)の使用について事前の内部承認が不要であったことなどだ。

裁判所はさらに、機密の報道資料に対する十分な保護が含まれていなかったことを理由に、英国の大量傍受体制が第10条(表現の自由)を侵害したと判断した。

通信サービスプロバイダーから通信データを取得するために使用された当該体制は「法に従っていなかったため」、第8条(プライバシーおよび家族、生活 / 通信に対する権利)と第10条に違反するとしている。

一方、裁判所は、英国が外国政府や諜報機関に情報提供を要請できるようにしている当該体制が、濫用を防止し、英国当局がこうした要請を国内法や条約に基づく義務を回避する目的で利用していないことを保証するという点では、十分な保護手段を有していることを認めた。

「現代社会において国家が直面している多数の脅威のために、大量傍受体制を運用すること自体は条約に違反していないと判断した」と裁判所はプレスリリースで付言した。

RIPA体制は後に、英国の調査権限法(IPA:Investigatory Powers Act)に置き換わり、大量傍受権限が明確に法制化されている(ただし監視の層の主張が盛り込まれている)。

IPAは、数多くの人権問題にも直面してきた。2018年、政府は英国高等裁判所から、人権法と相容れないとされてきた法律の一部を改正するよう命じられた。

今回の大法廷判決は、RIPAの他、いくつかの法的な異議申し立てにも関連している。ECHRが一斉に聴取を行うことになった、NSAの内部告発者Edward Snowden(エドワード・スノーデン)氏による2013年の大規模監視暴露を受けて、ジャーナリストやプライバシー活動家、デジタル権利活動家が英国の大規模監視体制に対して提起したものだ。

2018年に行われた同様の裁定で、下級審は英国の体制のいくつかの側面が人権法に違反すると判断した。過半数の投票により、英国の大量傍受体制は不十分な監視(選別者とフィルタリング、検査のために傍受された通信の調査と選択、関連通信データの選択の管理における不適切な保護措置など)のために第8条に違反するとした。

人権活動家らはこれに続き、大法廷への付託を要請し、確保した。大法廷は今回、そのときの見解を採択したことになる。

通信事業者から通信データを取得する制度について、第8条違反があったことを全会一致で認定した。

しかし、12票対5票で、英国の体制が外国政府や諜報機関に対して傍受された資料を要求したことについては、第8条に違反していないと判断した。

別の全会一致の投票においては、大量傍受体制と、通信サービスプロバイダーから通信データを取得するための体制の両方に関して、第10条の違反があったと大法廷は認めている。

しかし、繰り返しになるが、12票対5票で、外国政府や諜報機関に傍受された資料を要求したことについては第10条に違反していないと裁定したのである。

今回の問題の当事者の一員であるプライバシー擁護団体Big Brother Watchは、声明の中でこの判決について「英国の大量傍受行為が何十年にもわたって違法であったことが明確に確認され」、スノーデン氏の内部告発の正当性が示されたと述べている。

同団体はまた、Pinto de Alburquerque(ピント・デ・アルバーカーキ)判事による異議を唱える意見も強調した。

対象を定めない大量傍受を認めることは、欧州における犯罪防止や捜査、情報収集に対する我々の見方を根本的に変えてしまうことになります。特定できる容疑者を標的にすることから始まり、すべての人を潜在的な容疑者として扱い、そのデータを保存、分析、プロファイリングすることになりかねません【略】こうした基盤の上に築かれた社会は、民主社会というよりは警察国家に近いものです。これは、欧州人権の創立者たちが1950年に条約に署名したときに欧州に求めていたものとは、対極に位置します。

Big Brother Watchでディレクターを務めるSilkie Carlo(シルキー・カルロ)氏は、判決についてさらに次のように述べている。「大規模監視は、保護を装いながら民主主義に損害を与えるものであり、裁判所がそれを認めたことについて歓迎します。ある判事が述べたように、私たちは欧州の電子的な『ビッグブラザー』の中で暮らす大きな危険にさらされています。英国の監視体制が違法であったという判決を支持しますが、裁判所がより明確な制限と保護措置を定める機会を逸したことは、リスクが依然として存在し、現実的であることを意味するものです」。

「私たちは、侵害的な大規模監視活動の終結に向けて、議会から裁判所に至るまで、プライバシーを保護するための取り組みを継続します」と同氏は言い添えた。

この件の別の当事者であるPrivacy Internationalは、大法廷はECHRの2018年の判決よりもさらに踏み込んで「新たな、より強力な保護手段を設けるとともに、大量傍受には事前の独立した、あるいは司法による承認が必要であるとする新たな要件を追加している」と述べ、判決の結果を前向きに解釈する姿勢を示した。

同団体は声明で「承認は意味のある厳格なものでなければならず、適切な『エンド・ツー・エンドの保護手段』が存在することを確かめる必要があります」と付け加えた。

また、Open Rights GroupのエグゼクティブディレクターJim Killock(ジム・キルロック)氏は、公開コメントで次のように語った。「2013年に私たちがBig Brother WatchとConstanze Kurzとともに法廷に持ち込んだ時点で、英国政府の法的枠組みは脆弱で不適切であったことを裁判所は示しています。裁判所は、将来の大量傍受体制を評価するための明確な基準を定めていますが、大量傍受が濫用されないようにするためには、将来的にこれらをより厳しい判断基準に展開していく必要があると考えています」。

「裁判所が述べているように、大量傍受の権限は巨大な力であり、事実上秘密主義的で、制御するのは容易ではありません。技術的な機能性が深まりを続けている一方で、今日の大量傍受が十分に保護されているとは到底考えにくいです。GCHQは、テクノロジープラットフォームと生データを米国と共有し続けています」とキルロック氏は続け、判決を「長期的な道のりにおける1つの重要なステップ」と評した。

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デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性
EUが大手テック企業の「新型コロナ偽情報対応は不十分」と指摘

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タグ:EUヨーロッパプライバシーイギリス監視

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

デジタルIDへ独自の道を歩む欧州、危ぶまれる実現性

欧州連合は、デジタル政策に関する最新の意欲的な取り組みの1つとして「信頼できる安全な欧州のe-ID(デジタルID)」のフレームワークの構築を提案した。これは、すべての市民、居住者、企業が公共サービスや商業サービスを利用する際に、EU内のどこからでも自分の身分を証明するために、公的なデジタルIDをより簡単に使用できるようにしたいとして、現地時間6月3日に発表された。

EUには、すでに電子認証システムに関する規則(eIDAS)があり、2014年に発効している。しかし、今回のe-IDに関する欧州委員会の提案の意図は、e-IDを展開することでeIDASの限界や不十分な点(普及率の低さやモバイルサポートの不足など)に対処することにある。

また、e-IDフレームワークにデジタルウォレットを組み込むことも目指している。つまり、ユーザーはモバイル機器にウォレットアプリをダウンロードして電子文書を保存し、銀行口座の開設やローンの申し込みなど、ID確認が必要な特定の取引で、電子文書を選択的に共有できるようにするものだ。その他の機能(電子署名など)も、こういったe-IDデジタルウォレットによってサポートされることを想定している。

欧州委員会は、e-IDに統合すれば便利になると考えられる他の例として、レンタカーやホテルへのチェックインなどを挙げている。また、EUの議員らは、市民が地方税の申告をしたりEU内の大学へ入学したりする場合の利便性を挙げ、各国のデジタルIDの認証に完全な相互運用性を持たせることを提案している。

一部のEU加盟国では、すでに国の電子IDを提供しているが、国境をまたぐ相互運用性には問題がある。欧州委員会によると、全加盟国の主要な公共サービスプロバイダーのうち、国境を越えた認証を許可している電子IDシステムは、わずか14%だが、そういった認証は増加しているという。

全EUで利用可能な「e-ID」は、理論的には、欧州の人々が自国以外で旅行したり生活したりする際に、本人確認を含めて商業的サービスや公的サービスへのアクセスが容易になり、EU全体にわたって単一市場としてのデジタル活動を促進する。

EUの議員らは、もし全欧州の公的デジタルIDについて統一的なフレームワークを作ることができれば、そこにデジタルパズルの戦略的なピースを「手に入れる」機会があると考えているようだ。消費者に(少なくとも一部の状況で必要な)物理的な公的IDや、特定のサービスの利用で必要な書類を持ち歩かずに済む、より便利な新しい手段を提供するだけではない。商業的なデジタルIDシステムでは提供できないであろう、自分のデータのどの部分を誰が見るかをユーザーが完全にコントロールできる「信頼された安全な」IDシステムというハイレベルな確約を提供しようとしている。欧州委員会は同日の発表で、それを「欧州の選択」と称している。

もちろん、すでにいくつかの大手テック企業は、自社のサービスにアクセスするための認証情報を使ってサードパーティのデジタルサービスにもサインインできる機能をユーザーに提供している。しかし、ほとんどの場合、ユーザーは、認証情報を管理するデータマイニングの大手プラットフォーム企業に個人情報を送る新たなルートを開くことになり、Facebook(フェイスブック)などは、そのユーザーのインターネット上の行動について知っていることをさらに具体的に把握することになる。

欧州委員会のステートメントでは「欧州の新しいデジタルIDウォレットによって、欧州のすべての人々が、個人的なIDを使用したり、個人データを不必要に共有したりすることなく、オンラインサービスにアクセスできるようになる。このソリューションでは、自分が共有するデータを完全に自分でコントロールできる」と、提案するe-IDフレームワークのビジョンを述べている。

同委員会はまた、このシステムが「信頼できる安全なIDサービス」に関連した誓約に基づく「広範な新サービス」の提供を支援することによって、欧州企業に大きな利益をもたらす可能性があることを示唆している。また、デジタルサービスに対する欧州市民の信頼を高めることは、欧州委員会がデジタル政策に取り組む際の重要な柱であり、オンラインサービスの普及率を高めるためには不可欠な方策だと主張する。

しかし、このe-ID構想を「意欲的」といったのは、実現性に対する危惧を、リスペクトを込めて表現したものだ。

まず、普及という厄介な問題がある。つまり、欧州の人々に(A)e-IDが知れ渡り(B)実際に使ってもらうためには(C)e-IDをサポートする十分なプラットフォームを用意し(D)強固な安全性を確保した上で、必要とされる機能を持つウォレットを開発するプロバイダーの参加も必要だ。それに加え、恐らく(E)ウェブブラウザーに、e-IDを統合させ効率よくアクセスできるよう、説得または強要する必要もあるだろう。

別の方法、つまりブラウザーのUIに組み込まれない場合は、普及に向けた他のステップがより面倒になることは間違いない。

しかし、委員会のプレスリリースは、そういった詳細にはほとんど触れておらず、次のようにしか書かれていない。「非常に大規模なプラットフォームでは、ユーザーの要求に応じて欧州のデジタルIDウォレットの使用を受け入れることが求められる」。

それにもかかわらず、提案は全体として「ウェブサイト認証のための適格証明書」の議論に費やされている。これはサービスの信頼性を確保するためであり、eIDASで採用されたアプローチを拡張したものだ。e-IDでは、ウェブサイトの運営者に認証を与えることでユーザーの信頼性をさらに高めようと、委員会が、熱心に取り入れようとしている(提案では、ウェブサイトが認証を受けることは任意としているが)。

この提案の要点は、必要とされる信頼を得るために、ウェブブラウザがそういった証明書をサポートし、表示する必要があるということだ。つまり、このEUの要求に対応するために、サードパーティは、既存のウェブインフラストラクチャとの相互運用性確保のために非常に微妙な作業が必要となる(すでに複数のブラウザメーカーがこの作業に重大な懸念を表明しているようだ)。

セキュリティとプライバシーの研究者であるLukasz Olejnik(ルーカス・オレイニク)博士は「この規制は、ウェブブラウザに新たなタイプの『信頼証明書』の受け入れを強いる可能性がある」と、委員会の提案に関するTechCrunchとの対話で述べている。そして次のように語る。

「この方式では、ウェブブラウザがそういった証明書を尊重し、何らかの方法で表示するようにウェブブラウザのユーザーインターフェイスを変更するという要件がともなう。このようなものが実際に信頼を向上させるかどうかは疑問だ。もしこれが『フェイクニュース』と戦うための仕組みだとしたら、厄介な問題だ。一方で、ウェブブラウザのベンダーが、セキュリティとプライバシーのモデルの修正を求められれば、これは新たな前例となる」。

欧州委員会のe-ID構想が投じるもう1つの大きな疑問は、想定されている認証済みデジタルIDウォレットが、ユーザーデータをどのように保存し、最も重要なことだが、どのように保護するのかということだ。初期段階である現時点では、この点について、決定すべきことが数多くある。

例えば、この規制の備考には、加盟国は「革新的なソリューションを管理された安全な環境でテストするための共同サンドボックスを設定し、特にソリューションの機能性、個人データの保護、セキュリティ、相互運用性を向上させ、テクニカルリファレンスや法的要件の将来の更新を通知する」ことが奨励される、という記述がある。

また、さまざまなアプローチが検討されているようだ。備考11では、デジタルウォレットへのアクセスに生体認証を使用することが議論されている(同時に、十分なセキュリティ確保の必要性に加え、権利に対する潜在的なリスクについても言及されている)。

欧州のデジタルIDウォレットでは、認証に使用される個人データについて、そのデータがローカルに保存されているか、クラウドベースのソリューションに保存されているかにかかわらず、さまざまなリスクレベルを考慮して、最高レベルのセキュリティを確保する必要がある。バイオメトリクスを用いた認証は、特に他の認証要素と組み合わせて使用すると、高いレベルの信頼性を確保できる識別方法の1つだ。バイオメトリクスは個人の固有の特性を表すため、バイオメトリクスを使用する処理については、人の権利と自由に及ぼす恐れのあるリスクに対応し、規則2016/679に準拠する組織的なセキュリティ対策が必要となる。

つまるところ、統一された(そして求心力のある)欧州のe-IDという欧州委員会の高尚で壮大なアイデアの根幹には、安全で信頼できる欧州のデジタルIDというビジョンを実現するために解決すべき複雑な要件が山積している。そして、ほとんどのウェブ利用者に無視されたり利用されなかったりといったことだけではなく、高度な技術的要件や、困難(広範な普及の実現が求められていることなど)が立ちふさがっていることは明らかだ。

成功を阻むものは、確かに手強いようだ。

それでもなお、議員らは、パンデミックによってデジタルサービスの導入が加速したことを受け、eIDASの欠点に対処し「EU全域で効果的かつユーザーフレンドリーなデジタルサービスを提供する」という目標の達成が急務であると主張し、努力を続けている。

同日の規制案に加え、議員らは加盟国に対して「2022年9月までに共通のツールボックスを構築し、必要な準備作業を直ちに開始すること」を求める提言を発表した。そして、2022年10月に、合意されたツールボックスを公開し、その後(合意された技術的フレームワークに基づく)パイロットプロジェクトを開始することを目標としている。

同委員会は「このツールボックスには、技術的なアーキテクチャー、標準規格、ベストプラクティスのためのガイドラインが含まれる必要がある」と付け加えているが、厄介な問題をいくつも抱えていることには触れていない。

それでもなお委員会は、2030年までにEU市民の80%がe-IDソリューションを使用することを目指すと書いているが、全面的な展開までのタイムフレームとして約10年の歳月を見込んでいることは、この課題の大きさを如実に表している。

さらに長い目で見れば、EUはデジタル主権を獲得して、外資系大手テック企業に踊らされないようにしたいと考えている。そして「EUブランド」として自律的に運営される欧州のデジタルIDは、この戦略的目標に確実に合致するものだ。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

データ活用で映画の多様性を促進するJumpcutがAtomicから資金調達

Jumpcut(ジャンプカット)の創業者であるKartik Hosanagar(カーティク・ホザナガー)氏は、ウォートンスクールの教授だが、10年ほど前、変わった方法で夏休みを過ごした。脚本を書いたのだ。インドを舞台にした同氏の脚本は、プロデューサーの関心を集めたが、初めて監督を務めるインド人の映画へ資金を提供しようとする人はいなかった。

今では、多様なキャストを起用した映画が注目を集めている。2021年、Chloé Zhao(クロエ・ジャオ)氏が有色人種女性として初めて、また女性としては史上2人目にアカデミー賞監督賞を受賞した。また、前回の授賞式では、Bong Joon-ho(ポン・ジュノ)氏の「Parasite(パラサイト 半地下の家族)」が、英語以外の言語の映画として初めてアカデミー作品賞を受賞した。それでも、マッキンゼー・アンド・カンパニーの最新レポートによると、ハリウッドは業界の多様性の欠如により、毎年100億ドル(約1兆1000億円)を逸している

「少数派の声、少数派のストーリーにどのように賭けるのか」。ホザナガー氏は問う。「意識はあっても行動がともなわない。誰もその方法を知らないからです。私がJumpcutを興したのはそのためです。この会社は、私が20年間取り組んできたデータサイエンスと起業家精神が、仕事以外の場で私という人間と出会うことができる珍しい会社なのです」。

ウォートンでホザナガー氏は「AI for Business」プログラムのファカルティリーダーを務めている。同氏は、2016年にweb.comに3億4千万ドル(約374億円)で買収されたYodleの創業者だ。しかし、その次のベンチャーでは、データサイエンスの経験を生かし、表現力の乏しいクリエイターが携わるメディアプロジェクトのリスクを取り除くことで、ハリウッドの同質性に挑戦したいと考えた。

「ビジョンは、グローバルなコンテンツ制作において、よりインクルーシブな時代を築くことです」とTechCrunchに話した。

ホザナガー氏は2019年にJumpcutに取り組み始めたが、米国時間6月10日、Atomicが投資するこの会社はステルスモードから抜け出し、映画における少数派の声を高めるために活動する初のデータサイエンス主導のスタジオとしてスタートする。すでにこのスタジオでは、合計36回アカデミー賞にノミネートされたLawrence Bender(ローレンス・ベンダー)氏(「Pulp Fiction(パルプ・フィクション)」「Good Will Hunting(グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち)」)、エミー賞受賞プロデューサーのShelby Stone(シェルビー・ストーン)氏(「Bessie(ブルースの女王)」「The Chi」)、ショーランナーのScott Rosenbaum(スコット・ローゼンバウム)氏(「CHUCK(チャック)」「The Shield(ザ・シールド ルール無用の警察バッジ)」)などのパートナーを得て、12のテレビや映画のプロジェクトが進行中だ。

Jumpcutは、Y Combinatorをモデルとしたアプローチで、新しい才能をバイヤーやプロデューサーとペアリングする。まずアルゴリズムを使い、YouTube、Reddit、Wattpadなどのプラットフォームから何十万ものビデオをスキャンし、有望な才能を探し出す。このアルゴリズムは、幅広い分野から絞り込みをかけ、常に新しい視聴者を獲得しエンゲージメントを高めるクリエーターを見つけ出す。そして、Netflix、BuzzFeed、CBS、ソニー、WarnerMediaのアドバイザーや出身者を含むJumpcutチームが、誰とつなげるべきか見極める。

ホザナガー氏は、このアルゴリズムの成功例として「The Expanse(エクスパンス)」や「Shadowhunters(シャドウハンター)」などの番組に出演している女優のAnna Hopkins(アナ・ホプキンス)氏を挙げた。ホプキンス氏はカメラの前で成功を収めているが、執筆活動もしたいと考えている。

「私たちは彼女の短編映画をいくつか発掘しました。アルゴリズムがそれらを割り出した理由は、人々がコメントで『心温まる。良い意味で』とか『ティッシュをちょうだい』などの強い感情的な反応を示したからです」とホザナガー氏は説明する。ホプキンス氏は作家として広く知られているわけではないため、脚本を売り込んだテレビネットワークを通じてJumpcutが見出したのだと同氏は思っていたが、そうではなかった。「私たちは『いえ、私たちのアルゴリズムがあなたを見つけたのです』と話しました」。

Jumpcutがクリエイターを見つけた後は、10万人以上の潜在的な視聴者を対象にアイデアのA/Bテストを行う。その過程で、データサイエンスにより、そのアイデアが売れることを出資者に証明することができる。

「構想としては、クリエイターが従来のハリウッドエージェンシーに見い出されるのを待つのではないということです。クリエイターがトップエージェントにアクセスする必要があるなら、また旧来のボーイズクラブに戻ってしまうからです」とホザナガーは話す。「私たちは、そうしたプロセスの多くを自動化し、ハリウッドのエージェンシーが見つけてくれるのを待つのではなく、視聴者の心に響くすばらしいストーリーを作っている人たちを発掘しています」。

クリエイターは、幅広い視聴者に受け入れられるアイデアを思いついたら、インキュベータープログラムであるJumpcut Collectiveに招待される。このプログラムで、アーティストは6週間かけてコンセプトからピッチまでアイデアを発展させる。次に、Jumpcutがプロジェクトを制作パートナーやバイヤーとマッチングする。

これまでに、Jumpcutは3つのインキュベータープログラムを開催した。ホザナガー氏によると、現在進行中の12のJumpcutプロジェクトのうち、9、10のプロジェクトがインキュベーターから生まれたものだ。例えば、あるプロジェクトでは現在、ディズニーのアジア太平洋部門と提携して制作を進めている。

Jumpcutは、今回のシードラウンドでの調達額を公表していないが、Atomicが唯一の投資家であることは認めた。

ホザナガー氏のこのプロジェクトには、かつての教え子であり、BuzzFeedの元プロダクトマネージャーであるDilip Rajan(ディリップ・ラジャン)氏と、Super Deluxeのオリジナル担当SVPを努め、CBSにも在籍したWinnie Kemp(ウィニー・ケンプ)氏が加わった。ケンプ氏は、ネイティブアメリカンが主役の初の番組「Chambers」や、耳の不自由なクリエイターとキャストを起用した初の番組「This Close」の制作総指揮を担当した。調達した資金のほとんどは、インキュベーターを運営するプロダクト側のエンジニア、データサイエンティスト、プロダクトマネージャー、クリエイティブ側の制作幹部などの給与に充てられる。

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

CEOの「企業文化メモ」公開後、Mediumの従業員が大量退職

MediumのCEOEv Williams(エヴァン・ウィリアムズ)氏は2021年4月、厳しい1年を経て同社の企業文化が変化していることを従業員に伝えるメモを記した。

「健康的な文化は、人の最高の部分を引き出します」と同氏は書いている。「そうした環境にある人々は、自分の考えを述べたり、どんな質問にも最適な答えを見つけ出そうと議論したりすることは、心理的に安全であると感じます。同僚が善意を前提に、そして同じ反応が得られることを意識して、疑わしいことを好意的に解釈してくれると認識しているのです」。

その数段落後にウィリアムズ氏は、反対意見や支持されない意見は意思決定において「常に奨励されている」ものの「建設的ではない、疑いを投げかける、悪意を持っている、根拠のない非難をするなど、ポジティブな環境に寄与しない対話を繰り返すことは、チームや職場環境に大きな悪影響を与える」と記した。

そして次のように付け加えている。「これらの行動は許容できるものではありません」。

TechCrunchが入手し、確認した内部メモは、Mediumのスタッフによる労働組合結成の試みが失敗してから約1カ月後に、そしてウィリアムズ氏が自社コンテンツよりもユーザー生成の仕事に重点を置くという編集方針の転換を発表した約1週間後に公開された。

Mediumの編集チームはシフトの一環として退職金の優遇をともなう希望退職を提示され、編集担当VPのSiobhan O’Connor(シボーン・オコナー)氏とGEN Magazineの全スタッフが退職している。

しかし、Mediumの大量流出の原因は、編集方針の転換というより「企業文化メモ」と銘打ったウィリアムズ氏のマニフェストにあると、複数の現従業員、元従業員がTechCrunchに語ってくれた。このメモが公開されて以降、コンテンツの優先順位の変化の影響は受けないと思われる非編集スタッフの数多くがプロダクトマネージャー、数人のデザイナー、数十人のエンジニアを含めて会社を去っている。

退職者たちは、ウィリアムズ氏が多様性に富んだ才能を犠牲にし、会社戦略のさらなるリセットを行おうとしていると主張する。エンジニア、編集スタッフ、プロダクトチーム、そして同社の人事および財務チームの一部が含まれる内部データを見ると、2021年Mediumに入社した241人のうち、約50%がすでに辞めていることがわかる。Mediumは、現在179人の従業員がいると述べてこれらの数字を否定したが、一部の欠員を埋めるために新規雇用を行っている。

Mediumによると、離職者の52%は白人で、同社の従業員の3分の1は非白人とアジア人である。TechCrunchが最初に話を聞いたエンジニアは、同社の離職者の中にはマイノリティが多く含まれていると語っている。また、Mediumに参加したとき、トランスジェンダーのエンジニアが3人いたと付け加えた。彼らも全員去ってしまった。

「愛される独裁者の雰囲気」

2021年2月、編集スタッフを中心としたMediumの従業員が、労働組合を結成する計画を発表した。労働組合化の試みは決議票で過半数に1票足りず最終的には敗北したが、これは中堅幹部が従業員に組合への反対票を投じるよう圧力をかけたためだと一部の従業員は考えている。

組合結成が失敗した翌月の3月に、Mediumは編集方針転換を発表した。同社は編集スタッフに新たなポジションや希望退職優遇措置を提示した。多くの従業員が退職したが、これは組合組織化の失敗や、明確で金銭的な保障のある退職勧奨のような緊迫した局面が続いた後では珍しいことではない。

そして4月にウィリアムズ氏は、会社の目的と運営原則に関する自身の見解をまとめた企業文化メモを投稿した。メモの中で同氏は「成長にはリスクテイキングが必要であり、リスクテイキングは時折失敗をともなう」とし「フィードバックは贈り物であり、厳しいフィードバックでさえも共感と厚情をもって届けることができるし、そうすべきである」としている。CEOはまた、多様性に対する同社のコミットメントと「機会や脅威に適応することが勝つための前提条件である」ことにも言及した。

顕著なことに、Mediumはこれまで数多くの編集戦略の変更を行ってきており、サブスクリプションや自社コンテンツの取り組みに紆余曲折してきた。そして今は、ユーザー生成コンテンツと有料コミッションに傾注している。

「チームの変更、戦略の変更、組織再編は避けられない。1人ひとりの順応性が会社の中核的な強みだ」とメモには書かれている。

メモでは組合結成の動きについて明確には言及していないが「建設的ではない、疑いを投げかける、悪意を持っている、根拠のない非難をするなど、ポジティブな環境に寄与しない対話を繰り返すことは、[しかしながら]チームや職場環境に大きな悪影響を与える」とし、そうした状況をMediumは容認しないと述べている。

TechCrunchが取材した従業員たちは、ウィリアムズ氏のメモは公式な投稿ではなく内部的なものだと考えているものの、これはCoinbaseのCEOであるBrian Armstrong(ブライアン・アームストロング)氏やBasecampのCEOであるJason Fried(ジェイソン・フリード)氏が出した声明を思い出させる。Mediumのメモは政治を全面的に禁止しているわけではないが、前出のエンジニアは声明の「基調」が「安全ではない職場環境」を生み出していると話す。不満を抱いた従業員らは、Mediumでの問題について語り合うためにサイドSlackを作った。

MediumはTechCrunchへの声明で次のように述べている。「多くの従業員がクラリティ(明瞭性)を評価しており、ディレクターやマネージャーもその形成に関わっています」。

TechCrunchが入手した内部データによると、このメモのあった月の同社の株価は前月比で3倍、1月の指標の30倍だった。

TechCrunchに話をしてくれた2人目のエンジニアは先月同社を去っているが、そのメモは一見したところでは「酷い」ものではないと語っている。

「それは愛される独裁者の雰囲気でした。つまり、記されている言葉はあまりにも曖昧で、他の何にも強要されることはなく、紙面上ではよく見えます」と彼は指摘した。「そのメモを見ただけで、他に何もないとしたら、それはCoinbaseのメモでもなければ、Basecampのメモでもありません」。

しかし、メモのタイミングを考えるとウィリアムズ氏のメッセージの意味は明確だとこのエンジニアはいう。

「(Mediumは)良い雰囲気を強制し、『ミッション』に疑問を持つものはすべてシャットダウンしたいと考えているのです」と彼は語った。

Mediumの究極

同エンジニアは「編集の方向転換を理由に去った人はほとんどいない」と考えている。その代わり、彼はMediumにおける問題の歴史的経緯を説明した。そこにはメモによって明らかに引き起こされたと思える離脱の波が見られた。

例えば2019年7月、Mediumは、トランプ支持者のJoy Villa(ジョイ・ヴィラ)氏のプロフィール付きのシリーズを「私はトランプを支持してきたが、黒人やラテン系であることで訴追されたことは一度もない」という見出しで公開した。

Mediumのラテン系コミュニティは、この見出しの不快感についてリーダーシップに話をしたとき、Slackの公開チャンネルで言及されるまで、編集部の幹部はそれに関して何もしなかったと主張している。ある編集者は、移民手続きを経験した人や、ラテン系アメリカ人コミュニティの一員である人に、部屋に入って自分たちの立場を説明して欲しいと頼んだ。この従業員は、彼らの立場が薄れていくように感じたのだ。ようやく見出しが変更されたのは、従業員たちがSlackの公式チャンネルに自分たちの懸念を投稿してからだった。

「彼らは思いやりがあれば十分だと思っています」とその従業員は話す。「そして、その傾聴は慈悲深く、実際に思いやりに満ちています。それゆえ、それが十分でないとき、彼らは大きなショックを感じてしまうのです」。

TechCrunchが話を聞いた3人目のエンジニアは、テクノロジー以外にも影響力のあるミッション重視の会社を求めて2019年に同社に入社した。彼は2020年夏、Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター、BLM)運動の中で、Mediumに「より深い問題」があることに気づいた。

「私自身がその一部ではないために耳にしたことがなかった、より深刻な問題がありました。それはまるでカーペットに滑り落ちたかのような感覚でした」と彼はいう。例えばトランプ支持者のプロフィールだ。この元従業員は、人事部がその時期にもNワードを発した従業員の報告について無視したことを知ったのだった。Medium側は、これは事実ではないとしている。

「彼らの本当の姿を真に理解するのにメモは必要ありませんでした」と彼は続けた。

The VergeとPlatformerがMediumの乱雑な企業文化と混沌とした編集戦略に関するレポートを公開したが、2番目のエンジニアは、この記事に関係していると思われる複数の従業員が辞任するよう圧力をかけられたと語っている。

「私の見るところでは、会社側は組合を負かすために汚い手を使ったと思います」と最初のエンジニアはいう。「しかし、それは完全な成功ではありませんでした。なぜなら、これらの人々は全員、その決定(組合結成の否決)の後に退職することを決めたからです。それはコストにつながります。残された人たちは、基本的にうなずいて微笑まなければならないと感じているでしょう。Mediumが明らかにしたのは、従業員が完全な自我を職場に持ち込むことを会社は望まないということです」。

同エンジニアによると、Mediumの審判的な文化は、同社のミッション指向の約束ゆえにCoinbaseとは異なるものだという。

「Coinbaseのようないくつかの企業は『政治や社会問題をもたらすことのない人たちが働くことを望んでいる』と表明しているので、Coinbaseに加わるなら、それはあなたが期待していることであり、問題はありません。しかしMediumは、世界と公平さを大切にし、言論の自由と透明性を信じる人々を特に採用したのです」。

このエンジニアはまもなく正式に退職する予定で、すでに複数の面接が決まっている。

「ソフトウェアエンジニアにとって良い求人市場があるのに、自社の従業員を不当に扱う会社で働く必要があるでしょうか?」。

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)

EUが大手テック企業の「新型コロナ偽情報対応は不十分」と指摘

欧州連合(EU)は、大手テック企業に対し、各社のプラットフォームにおける偽ワクチン情報の拡散に対する監視の取り組みについて、さらに6カ月間報告するよう要求した。

現地時間6月3日、欧州委員会は「EU全域でのワクチン接種キャンペーンが着実かつペースを上げながら進展する現在、できるだけ多くのワクチン接種を完了するためには今後数カ月が決定的な意味を持つ。この重要な時期に、有害な偽情報によってワクチン接種を忌避する気持ちが助長されないようにするために、監視プログラムの継続が必要である」とするレポートを公表した。

Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Microsoft(マイクロソフト)、TikTok(ティックトック)、Twitter(ツイッター)の各社は、EUの(法的拘束力のない)「偽情報に関する行動規範」に参加し、毎月報告書を作成しているが、今後は隔月で報告することになる。

欧州委員会は、4月の各社の報告書(最新版)を公表し、大手テック企業が「危険な嘘」を自分たちだけで取り締まることはできないことが示されたと述べ、ネット上の偽情報に対する取り組みについて、各プラットフォームから(自発的に)提供されているデータの質と内容に引き続き不満を表明した。

EUの価値観・透明性バイスプレジデントであるVěra Jourová(ベラ・ヨウロバー)氏は、声明の中で次のように述べる。「これらの報告書は、偽情報を減らすために各プラットフォームが実施している施策を効果的に監視することの重要性を示しています」「このプログラムを延長することにしたのは、危険な嘘がネット上に氾濫し続けていること、そして偽情報に対抗する次世代の規範の作成に有益であることが理由です。私たちは、強固な監視プログラムと、各プラットフォームの取り組みの影響を測定するためのより明確な指標を必要としています。プラットフォーム単独では取り締まることはできません」。

欧州委員会は2021年5月、自主的な規範を強化する計画を発表し、有害な偽情報を排除するために、より多くの企業、特にアドテック企業が参加することを望むと述べた。

この行動規範の取り組みはパンデミックより前、2018年に開始された。大規模な政治関連の偽情報スキャンダルを受けて「フェイクニュース」が民主主義のプロセスや公共の議論に与える影響に対する懸念が高まっていた年だ。今般、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による公衆衛生上の危機によって、危険な偽情報がネットで増幅されるという問題への関心が加速し、議員の間でも重要視されるようになった。

議員たちは、欧州委員会が「共同規制」と呼ぶ自主的なアプローチを継続することを希望していて、オンラインの偽情報に対する地域的な法的規制を確立することは(今のところ)計画していない。共同規制は、(違法ではないものの)潜在的に有害なコンテンツに対するプラットフォームの行動と関与を促すもので、例えばユーザーが問題を報告したり、削除を訴えたりするためのツールの提供を求めるが、プラットフォームが規制を遵守できなかったとしても直接的な法的制裁を受けることはない。

とはいえ、EUデジタルサービス法(DSA)という、プラットフォームへの圧力を高める新たな手段も用意されている。2020年末に提案されたこの法案は、プラットフォームによる違法コンテンツの取り扱いを規定するもので、欧州委員会は「偽情報に関する行動規範」に積極的に関与するプラットフォームは、DSA遵守の監督当局から好意的に見てもらえるだろうと示唆している。

また、EU域内市場担当委員のThierry Breton(ティエリー・ブルトン)氏は、現地時間6月3日の声明で「行動規範を強化してDSAと組み合わせれば『EUにおける偽情報対策の新たな1ページ』を開くことになる」と述べ、次のように続けた。

「ワクチン接種キャンペーンの重要な時期に、各企業が取り組みに力を入れ、私たちのガイダンスに沿う強化された行動規範への遵守を、できるだけ早く実現することを期待しています」。

規制当局にとって偽情報は依然として厄介なテーマだ。なぜなら、ネット上のコンテンツの価値は非常に主観的なものであり、問題となっているコンテンツがどれほど馬鹿げたものであっても、中央集権的な情報削除の命令は、検閲と見做される危険性があるからだ。

公衆衛生に対する明らかなリスク(反ワクチン接種のメッセージや欠陥のある個人用防護具の販売など)を考えると、新型コロナ関連の偽情報の削除には、確かに議論の余地は少ない。しかし、ここでも欧州委員会は、ワクチンに肯定的なメッセージを発信させたり、権威ある情報源を明らかにさせたりすることで、プラットフォームが行っている言論保護措置を前面に押し出そうとしているように見える。欧州委員会のプレスリリースでは、Facebookはワクチンのプロフィール写真フレームを用意してユーザーにワクチン接種を奨励したとか、Twitterは16か国で開催された世界予防接種週間の期間中にユーザーのホームタイムラインに表示されるプロンプトを導入して、ワクチンに関する会話で500万回のインプレッションを得たことなどが紹介されている。

2021年4月の報告書には、各社が実際に行った削除についても詳しく記載されている。

Facebookは、新型コロナウイルスおよびワクチンの誤情報に関するポリシーに違反したとして、EU域内で4万7000件のコンテンツを削除したと報告したが、欧州委員会は、前月に比べてわずかに減少したと指摘している。

Twitterは、新型コロナの偽情報に関する話題について、4月中に全世界で2779のアカウントに異議申し立てを行い、260のアカウントを停止し、5091のコンテンツを削除したと報告した。

一方、Googleは、AdSenseで1万549のURLに対して措置を講じたと報告しており、欧州委員会はこれを2021年3月(1378件)に比べて「大幅な増加」としている。

この増加は良いニュースなのか?悪いニュースなのか?疑わしい新型コロナ広告の削除数の増加は、Googleによる取り締まりの強化を意味するかもしれないし、Googleの広告ネットワークにおける新型コロナ関連の偽情報問題の大幅な拡大を意味するのかもしれない。

ネット上の偽情報について曖昧な線引きをしようとしている規制当局が今まさに抱える問題は、報告要件が標準化されておらず、プラットフォームのデータへの完全なアクセス権がない状態で、これらの大手テック企業の行動をどのように定量化し、その効果や影響を正しく把握するか、ということにある。

そのためには、各社が内容を選択できる自己申告ではなく、規制が必要なのかもしれない。

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タグ:EU新型コロナウイルス偽情報FacebookGoogleMicrosoftTikTokTwitter欧州委員会

画像クレジット:warodom changyencham / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

オフィス再開に向けて大手テック企業はそれぞれ柔軟なワークモデルを検討中

先週、Apple(アップル)は、2021年9月以降社員を週3日のペースでクパチーノのキャンパスに出勤させる予定だと発表した。自宅で仕事をするという柔軟性に慣れてしまった社員の中には、それに反対する者もいた。

パンデミック以前には、一部の例外を除き、ほとんどの社員が毎日オフィスに出勤していた。しかし、2020年3月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生し、従業員が在宅勤務を余儀なくされると、企業はすぐに同じ建物の中に座っていなくても、スタッフの高生産性は維持できることに気がついた。今やこの流れを押し戻すことは難しいように思える。

個々の企業にとって完全なリモート勤務と、個別に定義するハイブリッド(たとえばAppleのように、オフィスにいる日もあれば自宅にいる日もある)勤務とのバランスを取るのは決して簡単ではなく、一律の答えは存在しない。実際、今後は流動的になっていくのかもしれない。

そこで、各社のアプローチの違いを知るために、Apple以外の大手テクノロジー企業5社に、オフィス再開についてどのように考えているか聞いてみたところ、各社とも何らかのハイブリッドワークを採用しようとしていることがわかった。

  • Google(グーグル)はAppleと同じように、オフィスで3日、家で2日というアプローチをとっている。「私たちは、ほとんどのGoogler(グーグラー、グーグル従業員)が約3日をオフィスで過ごし、2日を自分の好きな場所で過ごすハイブリッドなワークウィーク体制に移行します。オフィスに来ている時間はコラボレーションに集中するため、製品分野や機能によって、チームがオフィスに集まる日を決めることができます。もちろん仕事の性質上、週に3日以上現場にいなければならない役割もあるでしょう」と、GoogleとAlphabet(アルファベット)のCEOであるSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)は、最近のブログ記事の中で書いている。
  • Salesforce(セールスフォース)は、社員の役割に応じて幅広い選択肢を用意している。ほとんどの社員は、ほとんどの時間を自宅で仕事をし、週に1~3日、同僚との共同作業や顧客とのミーティング、プレゼンテーションのためにオフィスに出社することができる。また、オフィスの近くに住んでいない人はフルリモートで、自ら選択した人や仕事でオフィスにいる必要がある人は週に4~5日出社することもある。
  • Facebook(フェイスブック)はリモートワークを拡大しており「6月15日より、Facebookは会社全体のすべてのレベルにリモートワークを開放し、リモートでできる役割の人は誰でもリモートワークを申請できます」と従業員に書面で伝えている。
  • Microsoft(マイクロソフト)はこの件をマネージャーに任せているが、ほとんどの役割は少なくとも部分的にはリモートで行うことになるだろう。最近のアナウンスでは従業員に対して「私たちは、現場にいることが必要な従業員もいれば、職場から離れた場所で働くのに適した役割やビジネスもあることを認識しています。しかし、ほとんどの職種では、マネージャーとチームがうまく機能していることを前提に、一部(50%未満)の時間の在宅勤務を、現在の標準だと考えています」と伝えている。
  • Amazon(アマゾン)は当初、ほとんどオフィス内での勤務という方針を検討していたが、今週従業員にもっと柔軟なワークスケジュールを提供することに決定したことを発表した。「当社の新しい基準は、週3日のオフィス勤務(具体的な勤務日はリーダーチームが決定)とし、週2日まではリモートで勤務できる柔軟性を残します」と、同社は従業員へのメッセージで述べている。

大手のテック企業は、ほとんどの社員が出社時間をある程度自由に決められるようになっているが、ポストパンデミックに向けてスタートアップ企業はどのように仕事を捉えているのだろうか。私が話を聞いたスタートアップ企業の多くが、オフィス中心のアプローチを想定しておらず、リモートファーストのアプローチをとっている。Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が最近、ポートフォリオのスタートアップ企業226社を調査したところ、ポートフォリオ内の企業の3分の2が、大企業と同様のハイブリッドなアプローチを検討していることがわかった。実際に、87社が週に1〜2日程度の出勤を考えており、また64社はオフィスをまったく持たず、集まりは社外で行うだけだった。一方「自宅での仕事は一切行わせない」と答えたのはわずか18社だった。

Constellation Research(コンステレーション・リサーチ)のアナリストで、長年にわたり分散型勤務を研究してきたDion Hinchcliffe(ディオン・ヒンチクリフ)氏は、テック企業はパンデミックの最中にその効果を確認できたことで、柔軟なワークモデルを採用する可能性が高まっていると述べている。

そして「多くのハイテク企業は、オフィスを再開するに当たりある程度の柔軟性を維持するでしょう。これは特に多くの従業員からの評判が良いからです。また、心配されていた生産性の低下も、ほとんど杞憂に終わったのです」と語る。しかし、彼はそれがすべての企業に当てはまるわけではないことも強調した。

「ある種の企業、特に保護すべき知的財産をたくさん持っていると考える企業や、その他の機密性の高い仕事をしている企業は、自宅で仕事を続けることには消極的になるでしょう」と続ける。しかし、そうした企業の多くは、この15カ月間、そのような活動を続けてきたのだ。Appleのようにハイブリッド化することは、その議論をさらに混乱させるだけだろう。

「その中にはもちろん、以前から在宅勤務を推奨していないことで有名なAppleも含まれています。週に3日はオフィスに出勤するという新しい方針は、彼らに少しは安心感を与えるでしょうが、実際には本当に安心することはできません」とヒンチクリフ氏はいう。

もちろん、企業はポリシーを設定することができるが、従業員からの反対がないとは限らない。Appleは今回それを確実に学んだ。労働者たちは、雇用主に指定された場所ではなく、自分で働く場所を選びたいと考えているようだ。特に、労働市場が逼迫しており、力が従業員側にシフトしているような状況では、在宅勤務のオプションを提供することが、競争上の優位性となる可能性がある。

これがどのように進んで行くのか、また従業員がどれだけ企業に対してより柔軟な働き方の実現を促す力を持っているのかを観察することは、興味深い。今のところ、ほとんどの企業はパンデミック以前に比べてはるかに大きな柔軟性を持っているものの、すべての企業がいつまでも従業員に完全に自宅で仕事をして欲しいとは思っているわけではないだろう。また企業は自社と従業員にとって何が最適かを判断していく必要がある。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:AppleGoogleFacebookSalesforceAmazonリモートワーク

画像クレジット:Susumu Yoshioka / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:sako)