TikTokを運営するByteDanceが電子書籍リーダーのZhangyueに約173億円を投資

ByteDanceはショートビデオのTikTokで売上を伸ばし中国のスタートアップを国際的に知らしめたが、テック大手が成長を加速させるために多くの新しい分野に進出しているのと同じことをByteDanceもしている。エンタープライズソフトウェアオンライン学習(未訳記事)に手を出してきたが、ここにきてByteDanceが中国最大の電子書籍サービスの1つであるZhangyue(掌阅)に投資するというニュースが届いた。

米国時間11月4日にZhangyueは、ByteDanceの完全子会社がZhangyueの株式の11%を11億元(約172億7000万円)で取得する計画を明らかにした。中国で上場しているZhangyueの現在の時価総額は120億元(約1884億円)で、上半期には同社のアプリで毎月1億7000万人のユーザー(Sina Finance記事)が小説や雑誌、漫画を読んだり、オーディオブックを聴いたりしている。

直接のライバルはTencentからスピンオフしたChina Literature(未訳記事)で、こちらは同期間の月間ユーザー数が2億1700万人であると主張している(China Literatureリリース)。

ZhangyueとByteDanceのパートナーシップは、中国でのスマートフォン普及により急成長しているオンライン書籍市場をターゲットにしている。市場調査会社のiResearchによると、2019年にユーザーは1日に1時間近く電子書籍アプリを利用していたという。サブスクリプションとライセンス料を含む電子書籍分野の売上は2020年に206億元(約3234億円)になると予測されている。これは2015年の66億元(約1036億円)からの増加だ。iResearchは、中国の電子書籍ユーザーは2020年中に5億1000万人に達すると予測している。

この株式取得で、Zhangyueと中国のデジタルエンターテインメントの巨人であるByteDanceが緊密に連携することになる。契約により、ByteDanceから1人がZhangyueの取締役となり、Zhangyueの知的財産のライセンスを受けられる。

一方のZhangyueは広告の購入、収益化、さまざまなテクノロジーなどの部分でByteDanceの支援を受ける。ByteDanceは、ショートフォームモバイルビデオアプリケーションのDouyin(抖音)やTikTok、ニュースリーダーのToutiao(今日头条)のユーザーが全体で数億人いるとしており、この成功により同社はブランドや広告主から人気を集める存在になった。

この提携により両社間の取引は株式取得の翌年に4億7000万元(約73億8000万円)相当になると見込まれ、これは株式取得前の年間2億7000万元(約42億4000万円)からの増加となる。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:ByteDanceZhangyue電子書籍中国投資

画像クレジット:Zhangyue

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(翻訳:Kaori Koyama)

ひと口サイズで読ませるクラウドソーシング小説の出版社Inkittが17億円を調達

伝統的な出版の世界は、デジタル革命の猛襲に見舞われてきた。タブレットやスマートフォンが急増し、そこで視たり遊んだりできるコンテンツが充実したこともあり、娯楽としての読書は大幅に数を減らしてしまった。その一方で、アマゾンは出版の経済学を変革しようと先陣を切った。その結果、本の売り上げによる利益も、出版社と作家への報酬も、電子書籍の宇宙では利ざや縮小に追い込まれた。

ベルリンを拠点とするスタートアップであるInkitt(インキット)は、この流れに対抗しようとクラウドソーシングによる出版プラットフォームを構築した。同社は、今の世にでも、適切なかたち(下で詳しく解説するが)で提供すれば、読書が楽しめる余地があると信じている。そして米国時間8月28日、今日までの成功を裏付けるように1600万ドル(約17億円)の資金調達を発表した。現在インキットは、160万人の読者、11万人の作家を有し、35万本以上の小説がアップロードされたコミュニティーを形成している。今年の初めにローンチしたGalatea(ガラテイア)という新しいひと口サイズの没入感あふれる読書アプリによるランレートは600万ドル(約6億3600万円)とされている。彼らの野心はこれに留まらない。

その野心とはどれほどのものなのか?インキットの創設者でCEOのAli Albazaz(アリ・アルバザズ)氏は、目標は21世紀のディズニーを作ることだと話している。デジタル小説はいまだ黎明期だ。彼の視野には、オーディオ、テレビ、ゲーム、映画への進出、「それにもしかしてテーマパーク」も入っている。

しかし、「The Millennium Wolves」、このプラットフォームでのベストセラーのひとつで、リリースから最初の6カ月間に100ドル(約1億600万円)を売り上げ、24歳の作者Sapir Englard(スピア・エングラード)氏は、その印税でマサチューセッツ州ボストンのバークリー音楽大学に入学しジャズを学んでいる、が作り上げたジェットコースターが走り出すまでインキットは小さな企業だった。

ガラテイアをうまく育ててくれる作家を探し続けながら、英語の他に10カ国語を新たに追加し、さらに読者層の拡大と、読者とその人が最も共感しやすい物語を結びつけるためのデータ科学を採り入れた。同社は、インドやイスラエルなどでよく売れた作品から資金を得ている。そのため、それらの国々の英語を読まない読者たちにもアピールする時期に来たと考えている。

「これは長期計画です。私たちは一歩一歩進めています」とアルバザズ氏は今週のインタビューに応えて話していた。「私たちは最高の才能と最高の物語を、あらゆる場所で探しています。彼らを探し出し、発掘し、世界で成功するシリーズ物にしたいのです」。

今回のシリーズAの投資はKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)氏の主導により、HV Holtzbrinck Ventures(HVホルツブリンク・ベンチャーズ)、エンジェル投資家のItai Tsiddon(イタイ・ツィドン)氏、Xploration Capital(エクスプロレイション・キャピタル)、Redalpine Capitalレダルパイン・キャピタル)、Speedinvest(スピードインベスト)、Earlybird(アーリーバード)が参加している。インキットは評価額を公表していないが、500万ドル(約5億3000万円)を調達している(レダルパイン率いる今回のシードラウンドを含む)。

みんなのためのフィクション

インキットは数年前、実に単純なアイデアからスタートした。人々(特に未契約の作家)が執筆中の話の抜粋を、またはフィクションの完成原稿(特に小説)をアップロードすると、それが読者に結びつけられ感想がもらえるアプリだ。インキットは読者からのデータを集計して、彼らが読みたがっている内容を詳しく洞察し、それをアルゴリズムに入力し、作家にフィードバックする。

これは、作家が未発表の作品を公開できる数ある場所(キンドルなど)に対抗できるシンプルなコンセプトだ。

しかし、その6カ月後、データベース化された作家と読者のクラウドソーシングというコンセプトは、ガラテイアの投入で面白い変化を迎える。

インキットは、この最初のアプリで最も高い効果を上げた、例えば、最も多くの読者を獲得し、もっとも多く読了され、もっとも多くフィードバックがあり、もっとも多く推薦を集めた作品を選び、内部の編集者と開発者のチームがそれをガラテイアに合ったフォーマットに作り変える。短く、ひと口サイズのミニエピソードに分け、1ページ読むごとにその内容に即した特殊効果を追加して没入感を高めるという仕掛けだ。

この効果にはサウンドの他に、衝突の場面ではスマートフォンが振動したり、鼓動が伝わったり、燃え上がる場面では画面いっぱいに炎が広がったりする。そのあとに、対のページに進むためのスワイプが指示される(このアプリにはうまい名称を与えたものだ。ガラテイアはピグマリオーンが作った象牙の彫像で、後に生きた人間に変身する)。

これはエロチックな話です。エピソード1はエロチックな音声から始まります。ヘッドホンを使用するか、プライベートな場所でお楽しみください。

アルバザズ氏が説明するように、ガラテイアは通知によって常に注意が移る世代の消費者に対応するように作られている。そうした人たちは、瞬間的に情報を得ることに長けている。

「現在、人々はスナップチャットやインスタグラムやいろいろなものを使っていて、それらすべてが通知を送ってきます。しかし、読書には強い集中力が必要です」と彼は言う。

そこで、ページサイズを縮小し、一度に一段落だけを表示するという方法をとった。

「通常の電子書籍アプリではページをめくりますが、こちらは段落をめくるようになっています」。こうすることで、画面の占有率は20%ト以下になると彼は話す。

読者は、ひとつの「エピソード」(およそ15分で読める数ページぶん)を1日に1回無料で読める。理論的にはガラテイアで本1冊が一切お金を使わずに読めるわけだが、多くの読者は、1日にもう少し読めるようにクレジットを購入している。その結果、本1冊につき平均でおよそ12ドルの利益が出る。現在、インキットの2つのアプリのユーザー数(インストール数)は、1日あたり数千単位で伸びている。

彼らは単に、今日の消費者が最も好む端末画面の使い方に合わせて読書アプリを作っただけではない。これは、そもそも作品を普及させるためのモデルを再構築するものでもある。

「小説はみんな大好きですが、その作られ方、読まれ方は、常に変化しています」とクライナー・パーキンスのIlya Fushman(イリヤ・ファッシュマン)氏は言う。「インキットの豊かでダイナミックな物語のフォーマットは、新世代の読者の想像力を即座に掴みます。彼らのコンテンツ・マーケットプレイスは、世界中の読者と作家を結びつけ出版の娯楽化と民主化を進めます」。

現在は、インキット自身が発掘したオリジナルの作品に大きく重点が置かれている。しかし、このモデルは基本的にもっといろいろな作品に対応できる。例えばそのひとつとして、すでに世界で出版されているが、読者の心にまだ響いていないもの、古典作品、人気はあるがガラテイアが手を加えることでもっと面白くなるものなどが考えられないだろうか?

だが一方、ガラテイアのモデルは、本質的に非常にわかりやすいヒット作品に偏っているようにも見える。最初から人気があるとわかっているものや、人気が出ることが証明されているテーマなどだ。すぐに読者を引きつけることはできなくても、読む価値のある作品や、いつか大傑作として認められるかも知れない作品にまで幅を広げることはないのだろうか。「ハリー・ポッター」シリーズも好きだが「フィネガンズ・ウェイク」や「ミルクマン」を読みたい人もいる。

この両方に対するアルバザズ氏の答えはこうだ。インキットはすでにたくさんの出版社から、彼らの独自作品をガラテイアを使って出版したいという申し出を受けている。そのため、ご想像のとおり、いずれはその方向へ進むだろう。ガラテイアでの今の大ヒット要因を把握してはいるものの、さらに成長して利用者が増えれば、より幅広い嗜好に応えられる作品を探さなければならなくなる。

彼らの事業は、ゴリアテであるアマゾンに立ち向かうダビデそのものだ。しかし、インキットにはひとつの強みがある。このプラットフォームでチャンスを掴もうとする人たちに、相応の報酬を約束している点だ。

ガラテイアでの作家の平均的な報酬は「出版社としては最悪のパートナー」とアルバザズ氏が批判するアマゾンで出版した場合と比較して30倍から50倍だという。彼は、インキットでの印税の分割に関しては明言していない。その高額な印税は、読者数が多いためか、取り分が多いためか、その両方なのかも明らかにされていない。ただ、作品に対して「読者が多い」ために「収入が増える」からだとのみ彼は話している。

これはとても柔軟なプラットフォームでもある。他の場所で同時に作品を発表することも許される。「誰も拘束しません」と彼は言う。「最も公平でもっとも客観的な出版社になることを、社内共通の使命として宣言しています。隠れた才能を発掘するには、その方法しかないのです」。

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(翻訳:金井哲夫)

韓国の電子書籍企業RidibooksがシリーズCで2000万ドル調達――市場は未だに年25〜30%のペースで成長

アメリカやイギリスでは電子書籍売上に陰りが見られるが、韓国では未だに多くの人が紙のページをめくる代わりにモバイル端末をスワイプしながら読書を楽しんでいる。ウェブ漫画の人気もあってか、同国の電子書籍売上は毎年増加傾向にあるのだ。そんな韓国で最大規模の電子書籍プロバイダーと言われているRidibooksが、成長を続ける市場でさらに攻勢をかけるべく、シリーズCで2000万ドルを調達した。

今回のラウンドにはPraxis Capital Partnersm、ShinHan Finance Investment、Company K Partnersらが参加していた。調達資金は各プロダクトのユーザーエクスペリエンスの向上に使われる予定だ。なお、彼らのビジネスはRidibooksと呼ばれるオンラインストアや電子書籍リーダーのRidipaper、そして1月にローンチされた連載小説・漫画用のプラットフォームRidistoryから構成されている。

Ridibooksで事業部長を務めるTaeWoo Kimによれば、韓国の電子書籍売上は毎年25〜30%も伸びているという。ちなみに、Ridistoryはシリーズものの小説や漫画を求めるユーザーの声に応えるかたちでローンチされ、売上1位の恋愛小説『Under the Oak Tree(ナラの木の下で)』のビュー数は既に100万回を突破している。

また、昨年のRidibooksの売上は5000万ドルで、250万以上のユーザーがこれまでに同社のプラットフォームから1億7500万冊の電子書籍をダウンロードしている。登録されているタイトルの総数は78万4000冊におよび、プラットフォームに参加している出版社の数は2000社にのぼる。さらに、2014年末に行われた800万ドルのシリーズBやそれ以前のラウンドを含め、Ridibooksがこれまでに調達した資金の合計額は3500万ドルとなった。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

カタルーニャの本と薔薇の日

紙の本が死んだと思う人は、 サン・ジョルディの日の前日にバルセロナの本屋を訪れたことがない人だろう。この守護聖人のためのフェスティバルは、カタルーニャではバレンタインデーに相当する日だ。しかしこの日、人びとは茎の長い赤いバラを贈るだけではなく、本も贈るのだ。本当に沢山の本だ。なにしろこの日だけで2000万ユーロ(約23億円)に相当する本が売られる(贈られる)のだから。

4月23日はまた、UNESCOの制定する「世界図書・著作権デー」(世界本の日)でもある。これは比較的最近(今年が20周年)の、本に対するお祝いだ。しかしともあれバルセロナでは、今日(23日)はサン・ジョルディの日だ

フェスティバルが近付く何日かの間、カタルーニャの州都バルセロナの書店には人びとが押し寄せ、ピカピカのペーパーバックが平積みに置かれ、完璧な文学の贈り物を求める買い物客たちで引きも切らない。ちょっと立ち止まってタイトルをざっと眺めようとすれば、文字への渇望を抱きながら縦横に行き来する人びとの波に押しのけられてしまうだろう。

今年は、ガウディのカサ・バトリョの乳白色のバルコニーが、このフェスティバルの到来を告げるために赤いバラで飾られ、グラシア通りに立ってロマンチックなセルフィーを取りたがる観光客たちの目を引いている。一方、通りの向かい側の書店カサ・デル・リブロの書架に挟まれた通路にも、別の愛の形が溢れ、キャッシュレジスタはクリスマスイブのように取り囲まれている。

市政府から提供された2015年の統計によればサン・ジョルディの売上は地域の書店の年間の売上の5から8%を占めている。その日だけで150万冊ほどの本が売られたのだ。今年私は、なんとか贈り物を選ぶことができた土曜日の買い物客たちを見た。彼らはまるで教会の儀式の順番待ちをする人たちのように通路に20人ほど蛇行した列を作っていた。もし支払い処理がこれほどまでのボトルネックではなく、需要に応えることができていたなら、どれほど多くの本が売れたのだろうと考えたくなるだろう。

スペイン最大の書店チェーンであるカサ・デル・リブロが、電子書籍コーナーを持っていたとしてもさほど驚きではない。ここでは同社自身による(Tagusという名の)電子リーダーが売られている。サン・ジョルディの前夜には、この明るく照らされたささやかなTagus専用コーナーは、紙の本を求めて通り過ぎていく人たちの前でとても色褪せて見えた。電子書籍を贈ってくれる恋人を待ち望んでいる人など居ないことは言うまでもない。おそらくこれが紙の書籍の販売が勢いを盛り返し電子書籍の勢いが鈍化してきた理由の1つなのだろう。

バルセロナのより小規模な書店では、あなたが購入した本を個別にラッピングしてくれる別のスタッフが待機している。私が立ち寄った書店では、ピエル・パオロ・パゾリーニの「バラのかたちの詩」(Poésie en forme de rose)を新しい赤い紙で包んで貰えた。店の奥には天井に届こうかというほどに古書が積み上げられ、本を眺める人たちで夜まで賑わっている。店の片隅ではピアニストが曲を奏でる。サン・ジョルディが、本を買うことだけの日ではないことは明らかだ。それは雰囲気と文学の祭典なのだ。4月23日が来るまで、街のそこここで、作家たちは話し、詩を読み、物語を語る。

その当日には、街路はさらに多くの人びとと彩りで満たされる。本屋と薔薇売りのテーブルとバスケット、その間をそぞろ歩く手を繋いだカップルたち。花びらが紙よりも何時でも安いわけではないが、薔薇の売店の数は、本屋の屋台の数を、おおよそ4対1の割合で上回っている。多くの屋台は、学生たちによる地元からの応援や、Save the Childrenのような慈善活動によって助けられている。カタルーニャ広場(Plaçade Catalunya)では、好きな作家が最新作に署名しているところに出くわす幸運を体験できるかもしれない。同じように、地元の人たちの穏やかな雑踏の中を、一緒にゆったりとした散策を堪能することもできるだろう。サン・ジョルディは、本の内容や咲き誇る花の美しさの助けを越えて、内に秘められていたものが立ち現れる様を祝うためのものだ。それは創造のプロセスへ、個々にそしてまとめて注ぎ込まれるエネルギーへの祝福だ。本や読書と同じくらい、感情と感覚に訴えるものなのだ。

電子書籍にも、紙の本同様の死が訪れるのかと尋ねる記事の数はもう数え切れない。私にしてみればそうした質問は、花はデジタル式にスクリーン上に表示できるのだから、デジタルスクリーンは本当の薔薇を不要にするのだろうか、と尋ねているようなものだ。明らかにスクリーンにふさわしい場所があり、紙にふさわしい場所がある。2つの異なるフォーマット、2つの異なるメッセージ、そしてその間に現れるあらゆる用途と有益さ。スクリーンを介して情報にアクセスできるように、書籍を購入すれば情報にアクセスすることができる。それと同じくらいに、本を買うことは根本的に異なるものにもなり得る。たとえば正確に言葉にする必要なしに、あなたの気持ちやあなたの希望を伝えたいときのように。メディアはメッセージの本質的な部分である、特に贈り物が関わるときには。常識に従えば、デジタル薔薇は本物のようには甘く匂わず、電子書籍には紙の深さと歴史は刻まれていない。

多分、いつか誰かが何処かで、単一フォーマットのシングルボタン枠の中に本を閉じ込めることのない、より良い電子リーダーを発明するだろう。また、実際のものにより近い感触と振舞を持つ、新しい電子ペーパーも必要だ。束ねて積み上げることができて、読み手が書き込むことができ、角を折ったりページを前後にめくったり、本の重みを感じたり、その中で自分の場所を熟考することができるようなものだ。私たちはまだそこに至っていない。なにしろテクノロジーが特に愛しているのはアップグレードで、歳月を経た風格ではないのだから。絶え間ない消滅に感傷的であり続けることは難しい。こうなると、人間の脳は、スクリーンの上で読み書きをするときよりも、紙の上で読み書きをする方が、情報をよく記憶し理解することができるかもしれないという学説(それがもし本当なら、紙は真に最先端のものとなるだろう)を考慮することもせずに、非常に虚無的な方向へ向かうかもしれない。

また、私たち人間が関わり合いをもちたいフォーマット(この場合はスクリーンと紙)同士の間にも興味深い相互作用の余地が沢山ある。それが意味するのは、印刷からデジタルへの流れがこれまでに沢山あったように、デジタルから印刷の方向へと重なる部分もあるということだ。ここで地元の関連する事例を紹介しよう。Yo Fuí a EGBは2011年に2人のジェネレーションXのスペイン人Jorge DíazとJavier Ikaztによって開設されたFacebookページだ。そこでは彼等が子供だったころの1980年代から典型的なスペインの小学校に至るまでの写真と動画が投稿され始めた。もしそれが少しばかりニッチに聞こえるとしたら、 ご注意を(cuidado) 、決してそうではないからだ。このFacebookページには120万以上のいいね!がつけられており、彼らがデジタルで構築したコミュニティから生み出された興味深い記録は、複数のベストセラー書籍やボードゲーム、さらにはテレビシリーズへと形を変えている(もちろん電子書籍もある)。こうして、人びとが集うデジタルコミュニティが、長い間失われていたものを巧みに複数の形式として甦らせたのだ。「昔なじみの」インクと紙のメディアも含めて。これに驚く人はいないだろう。

まあ別の言い方をするならば、薔薇は薔薇でも、あるときには本物の薔薇を欲し、また別のときには美しい薔薇の絵を愛でたいということだ。

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(翻訳:Sako)

本はまだ死んでいない―、ウェブメディアが出版業をはじめた理由

【編集部注】執筆者のChris Lavergneは、Thought.isのCEOでThought Catalogの創設者でもある。

2012年に私たちはThought Catalog Booksをローンチした。それ以前に、Thought Catalogと名付けられたウェブサイトを通して、ウェブ用の短い文章に関する技術をマスターした私達には、新たな挑戦が必要だったのだ。本を出版することで、デジタル出版という時流に乗ったThought Catalogブランドの対極にある、もっと観想的なブランドを構築しようというのが、Thought Catalog Books設立の狙いだった。

私たちはスタートアップを設立することで、あるふたつの問いに対する答えを見つけようとしていた。そのうちのひとつが、アルゴリズムとソーシャルメディアの時代に、クリエイティビティや知性の高さが重要視されるような世界を創り出すことができるか。そしてもうひとつが、広告主ではなく読者に焦点を当てた出版モデルを構築できるか、というものだ。

Thought Catalog Booksのことは、ウェブサイト(Thought Catalog)との関係性の中で捉えなければいけない。というのも2010年のローンチ当時、同ウェブサイトは、バイラルパブリッシャーではなかったからだ。”Thought Catalog”という名前からも、バイラルメディアというトレンドへの展望を持っていなかったことがハッキリわかるだろう。つまりThought Catalogは、”実験的なカルチュラルマガジン”として作られたのだ。

しかし、ジャーナリスティックな文章を使った実験的な試みは、悲惨な結果を生むことになった。ミュージシャンの特集書評カルチュラル・スタディーズといった内容の長い文章ではお金にならないため、私たちは方向転換を余儀なくされたのだ。すると、Facebookのデータを基にした読者層に関する情報が私たちにとっての出版社となり、Googleのデータがエディター・イン・チーフ、Twitterがマネージング・エディターに取って代わることとなった。その結果、Thought Catalogはソーシャルメディアの情報の上に成り立つウェブマガジンの先駆けとなり、BuzzFeedやその他のメディアと共に、デジタルパブリッシング初のゴールドラッシュを迎えた

しかし、お金だけが目的だったわけではない。どんな企業にとっても資本は重要だが、私たちはもっと崇高なゴールも持っていた。(ただの訪問者ではない)読者、芸術的な評価、ソーシャルメディア上のLike以外のものを私たちは求めていたのだ。このような欲求こそが、コンテンツ企業をメディア企業と区別するものであり、私たちは自分たちのことを後者として捉えていた。資金豊富なメディア企業は、”重要な文章”とされているものを、赤字覚悟の客寄せパンダとして使ってこの問題に対処しているが、自己資金で運営を賄っている私たちには、赤字を垂れ流す余裕はなかった。そこで、以下のふたつの理由から、本の出版を行おうと決めたのだ。

  • 本の出版には、長い文章の方が適している。5000ワードのウェブ記事の執筆を、1ワードあたり1ドルで外注した場合、広告を最適化したとしても、費用を回収するために約100万PV必要になる。バイラル化を目的としたリスト記事でも、なかなか100万PVに到達することはなく、調査報道や綿密につくり上げられた創作物であれば、なおさらそれは難しい。一方、本の出版であれば、4.99ドルの電子書籍を2000冊売るだけで投資分を回収できるのだ。
  • 書籍の形をとることで、ビジュアル面にもお金をかけることができる。ウェブ出版は執筆周りのコストを削減するだけでなく、文章に彩りを添える複雑なビジュアルの必要性さえ縮小させたのだ。現代のビジュアル界では、携帯電話上で作られたミームが、素晴らしいアーティストによって描かれた美しいイラストよりも多くのビュー数と利益を生み出すということがよくある。ウェブ上の経済がこのような状態を作り出したのだが、本のカバーやパッケージに関しては、目を引くようなビジュアルのためであれば予算を割くことができる。使い古された言葉だが、本当に人はカバーから本を判断するものなのだ。

上記から、本が私たちにとって最適なプラットフォームだと判断した。本の出版は、シンプルなお金の流れ、ビジュアルや文章のあり方への影響力、マーケットフィットを兼ね備えている。これこそ、私たちが過去5年間に業界全体に関して学んだ教訓だ。

メッセージとしての媒体

紙の本と電子書籍が、それぞれに独自のオペレーションモデルを持った、ほぼ別領域のビジネスであると知ったとき、私たちは驚いた。消費者に届けられるコンテンツは同じだが、両者はそれぞれのフォーマットを反映した正反対の性質を持っている。高級品としての書籍と実用品としての電子書籍。この性質の違いが、マーケティングや製造面における戦略・ワークフローに大きな違いをもたらしているのだ。

以下が、私たちの考える両媒体の違いだ。


この性質の違いは、消費者行動からも見て取れる。安価で即座にアクセスできる電子書籍は、一般的に紙の本に比べて6倍近い数が売れると言われている。その一方で、販売額に関して言えば、物理的な本は電子書籍の7倍だ。電子書籍から大きな売上を上げるのは難しい。というのも電子書籍の目的は、早く・安くコンテンツを提供することだからだ。逆にデジタル時代における紙の本は、紙の方が読みやすいという人や、ページをめくる感覚が好きだといった人を対象とした高級品として存在している。

そういった意味では、紙の本については今以上の実用性はそこまで望めないが、その分高級品としての機能でカバーできる。 恐らくこの考え方は、Thought Catalog Booksの成長を支えてきた重要な要素のひとつだ。つまり、紙の本を出版する主体は、高級品を販売している企業と同じように運営されなければならない一方で、電子書籍を扱う主体はテック企業のようなスタイルをとるべきなのだ。コンテンツは同じでも、媒体によってビジネスモデルは全く違うということだ。

書籍出版の驚くべき経済的メリット

思慮深い広告主は紙の本を気に入っているようで、Thought Catalog BooksはThought Catalogの営業部隊にとって、重要なツールになっている。ウェブ上のネイティブコンテンツは、短い物語を伝えるのには効果的だが、もっと深い物語を伝えようとしている企業にとっては、紙の本こそ完璧な媒体なのだ。ネイティブコンテンツやスポンサードコンテンツだと、読者(もしくは訪問者)がコンテンツに触れ合う時間は数分間程度しかない。しかし紙の本という、時代を超えて愛されているストーリーテリングの手段を利用することで、広告主はもっと深いところでブランドを構築できる可能性がある。実際に紙の本の読者は、一冊の本を読むことに何日とは言わずとも、何時間かを費やし、本自体は持ち主の本棚に一生残る可能性もある。

スポンサー付の本の販売だけでなく、私たちは現在爆発的に広まっているオーディオブックにも大きな売上のチャンスが眠っていると考えている。さらに、昔から存在する書籍の映画化にもまだまだ可能性がある。

書籍出版の世界にも存在する赤字覚悟の作品

商業的な成功と芸術を貫き通すという精神というのは、なかなか両立が難しいものだ。確かにホメーロスやシェイクスピタ、ヴァージニア・ウルフ、ジョナサン・フランゼンを含め、傑作は発表直後から”売れる”というのは間違いない。特にフィクション作品に関して言えば、傑作は発表直後から傑作として扱われることが多い。

そうは言っても、売上という側面ではフィクション作品に劣る、哲学やジャーナリズム、伝記といったジャンルの作品も、社会的には大きな意味を持っている。このような作品は、洗練された数学の問題のようなもので、ほとんどの人には関係がなくとも、アプローチの方法を知っている人にとっては大変有用なものなのだ。

そのような作品の例となる、Elizabeth Wurtzelが書いたメディア論の傑作Creatocracyや、自殺に関する悲痛な調査をまとめたSimon CritchleyのSuicide、ニューヨークのクイーンズにある悪名高いCreedmoor精神病院を描いたSabine HeinleinのThe Orphan Zooなどは、たとえポップカルチャーや市場の大部分が求めるものには合致していなくとも、お金には代え難い価値を持っている。本を出版することで、このような作品を世に送り出す手助けができ、著者にしっかりとお金を払い、恐らく利益は出せずとも、作品を求める人のところに届け、一冊の本というきちんとした形に残すことができるのだ。

Amazonも恐るるに足らず

Amazonは出版ビジネスのあらゆる側面に深く関わっているため、独占企業であるかのように感じられる。しかしAmazonの力も、以下の3つの重要な点において無限ではないと言える。

電子書籍市場における、Amazonにとっての本当の競合サービスはiBooksだ。Publishing Technologyが2014年に発表した調査では、iBooksが電子書籍市場の31%を占めるとされている。この数字は、電子書籍売上の33%がiBooks経由という、私たちの2016年のデータとほぼ一致する。さらに、消費者が従来の電子書籍リーダーを離れ、携帯電話やパソコンで本を読むようになっている中、この分野ではAmazonに大きく水をあけているAppleのiBooksが、さらに成長を続ける可能性が高い。

また、四大出版社のことも無視できない。Amazonは常に出版社という”門番”を取り除いて、著者と読者を直接結びつけることを夢見てきた。しかし、誰かにお気に入りの本は何かと尋ねたとき、その本が自費出版されたものである確率は、誰かのお気に入りのテレビシリーズがYouTubeシリーズである確率と同じくらいだ。現実として大手出版社は、映画やテレビ業界のように、クリエイティビティと資金のどちらの面においても、業界の中での重要な役割を担っているのだ。その役割は今後も変わることはないだろう。

そして電子書籍の人気が高まる中、Amazon上で紙の本を販売することの意味が薄れてきているのかもしれない。Thought Catalog Booksが製作する電子書籍や一部の紙の本に関して言えば、Amazonは夢のような流通パートナーだ。その一方で、高品質な書籍に関しては、私たちがAmazonと手を組む意味はあまりない。自前のサイトやインディペンデントな書店を通して書籍を販売した方が、私たち独自の色を演出することができるからだ。書籍が本当の意味での高級品だとすれば、ハイブランドがAmazon上で商品を販売しないように、スペシャルティ出版社としての私たちも、自社の商品をAmazonでは販売したくないと考えている。大手出版社もいつかはこのような動きをとり、少なくともAmazon上での販売数を制限するような施策に打って出るかもしれない。

本の明るい未来

Richard Nashは『What is the Business of Literature』の中で、「映像や音声がないというのは、本の機能であり、欠陥ではない」と記している。これこそまさに、Thought Catalogの出版に対する考え方だ。本は古びれたテクノロジーではなく、むしろ最先端のテクノロジーだ。実際のところ、本は現在世にでているものの中でも最高のVRマシンなのだ。Oculus RiftのようなVRデバイスが、ユーザーの脳を包みこんで別の世界を映し出す一方、本は読者の脳を働かせ、彼らと本の創造的なやりとりを通して、違う世界を映し出している。

書籍の存続というのは、出版社にとっては良い知らせとなるだろうが、私たちのような企業がFacebookや従来のテック企業のように驚くべきスピードで成長することはない。短期間での急激な成長というのがテック企業の魅力である一方、出版の世界では、深い関わり合いこそが重要なのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

日本のKindle Unlimited騒動をヨソに、米国ではAmazonがプライム会員向けPrime Readingを開始

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本日、米国Amazonはプライム会員のための新しい特典を開始した:Prime Readingという名のそのサービスは、1000冊を超えるKindleの書籍、雑誌、短編、コミックその他をプライム特典の一部として会員に読ませるものだ。本質的にはKindle Unlimitedのカタログが縮小されたものである(Unlimitedは100万冊を超える書籍、雑誌、そしてオーディオブックを提供している)が、既にプライム会員なら追加コストは不要だ。

サービスに含まれる書籍には、例えば「ホビット」「ハリー・ポッターと賢者の石」といったものも含まれているが、雑誌のラインナップはもっと魅力的だ。なぜならNational Geographic Traveler、People, Sports Illustrated、Popular Mechanics、その他が含まれているのだ。Prime Readingのコンテンツは、KindleアプリやAmazon自身のKindleデバイスを介してアクセスできる。

Prime Readingの主要セールスポイントは:コミックリストの最初のラインナップに「The Essential Calvin and Hobbes」が含まれていることだ。もう一つの重要なセールスポイント:もしプライム会員なら、既にそれはあなたのものであるということ。私はおそらく、この発表を受けてKindle Unlimitedを解約するだろう。おそらくそれはAmazonが最も望んでいない結果だと思う。しかし今でも私はUnlimitedをむしろランダムな暇つぶし読書に充てていて、例え少ないライブラリコンテンツだったとしても気軽な拾い読み目的には十分だからである。

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(翻訳:Sako)

AmazonがKindle読書基金を設立。世界でデジタル読書を推進する

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AmazonはKindle Reading Fund(Kindle読書基金)と呼ばれる新しいプログラムを発表した。世界中で電子書籍がより簡単に利用できるようにすることを目的としている。同基金は様々なパートナー組織と連携して、世界中のコミュニティへ電子書籍だけではなく、沢山のKindle電子書籍リーダー、Fireタブレットの寄付を行う。学校、図書館、PTA、病院その他の非営利団体に加えて、Amazonは現在、発展途上国での読書プログラムを支援するためにWorldreaderと協業している。

Worldreaderは世界中に読書とリテラシーをもたらすことを使命としている。同組織との協業に関するAmazonのアナウンスによれば、過去6年間にわたって、Worldreaderは400万人以上の読者が本のライブラリにアクセスすることを支援してきた。

Amazonは、Worldreaderとの新たな協業関係が、Amazonから発展途上国へ数千台のKindle電子書籍リーダーを寄付することにつながると言っている。しかし、両社は以前も一緒に働いたことがある。例えばAmazonは最近、Worldreaderによるケニア国内のLEAP 2.0ライブラリパートナーシップをサポートした。これにより国内61の図書館で50万人の人たちのデジタル読書が可能になった。

Amazonはさらに、数千台のKindle電子書籍リーダーやFireタブレットを、生徒と教師へ寄付している。そしてNational PTAと協力しながら、Family Reading Experience(家族読書体験)プログラム を通して、子供たちの読書体験に親たちを巻き込んでいる。それだけでなく、シアトル地域にあるSeattle Children’s Hospital、Mary’s Place、Rainier Scholars、Well Spring Family Servicesなどのような、病院や非営利団体にも寄付してきた。

Amazonは既存の、例えば出荷倉庫の近くで行われていた学校寄付などの、様々なプログラムはこのファンドに収斂していくだろうと言っている。しかし、過去に寄付をしていたWorldreaderのような組織に対しては、現在の寄付は新しい基金の一部として扱うだけだ。

Amazonは基金に充てられる金額についての回答を拒否している。

新しいKindle基金は、こうしたこれまでの活動を正式化する以上のものである。コミュニティ内の501(c)(3)組織と学校からの寄付要求に対してもAmazonは今や開かれている。基金のウェブサイト上のフォームを通じて、組織 – 米国拠点である必要はない – が手を伸ばしサポートリクエストを送ると、10日以内にAmazonから回答を受け取ることができる。


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(翻訳:Sako)