“アフリカ版BuzzFeed”、OMG Digitalがシードラウンドで110万ドル調達

OMG Digitalの共同ファウンダー:Dominic Mensah、Prince Boakye Boampong、Jesse Arhin Ghnsah

ガーナ発のメディアスタートアップで「アフリカ版BuzzFeed」とも呼ばれているOMG Digitalが、シードラウンドで110万ドルを調達したと本日発表した。メインのサイトであるOMG Voiceは、既にガーナ以外にもナイジェリアとケニアに進出しており、今回調達した資金はさらなる市場拡大に使われる予定だ。

今回のラウンドには、Kima VenturesやSoma Capital、Comcast Ventures Catalyst Fund、Social Capital、M&Y Growth Partners、Macro Venturesのほか、Mino GamesのJosh BuckleyやWill Sternlicht、エンターテイメント分野で活躍する弁護士のKenneth Hertz、Off-Grid ElectricファウンダーのFrances Xavier Helgesenなど、エンジェル投資家も参加していた。ちなみにOMG Digitalについては、彼らが昨夏Y Combinatorのアクセラレータープログラムに参加した際にTechCrunchでも紹介していた

OMG Voiceは、Jesse Arhin Ghansah、Prince Boakye Boampong、Dominic Mensahの3人によって2016年2月にローンチされ、現在の月間ユニークユーザー数は450万人にのぼる。25人のチームに成長した彼らは、現在南アフリカ、ウガンダ、ザンビア、タンザニアへの進出を計画しおり、シード資金は市場拡大や動画コンテンツの制作、広告・マーケティング部門の増強に使われるという。

Ghansahとふたりの共同ファウンダーは、大学在学中の2012年にOMG Ghanaを立ち上げた。当時スマートフォンが一般に普及し始めていたものの、Ghansahはネット上に面白いコンテンツがあまりないと感じていた。

「インターネットをチェックしても、つまらないニュースや政治に関するコンテンツばかりだったので、かなりフラストレーションが溜まったのを覚えています。その経験から、リスティクル(まとめ記事)や軽めな内容の記事のように、私たちの世代に合った何かをつくりたいと思ったんです。その頃、スマートフォンが一般に広まり、Facebookがかなりの人気を呼んでいたこともあり、私たちはOMGを立ち上げることにしました」とGhansahは話す。

「その頃インターネットを利用していたのは、私たちのような若者ばかりでした。BuzzFeedやMashableはミレニアル世代に向けたコンテンツを発信していましたが、私たちは彼らのコンテンツにあまり共感できなかったので、自分たちで別のものを作ろうと考えたんです」

当初共同ファウンダーの3人は、OMG Ghanaをメインのプロジェクトとは考えておらず、マイクロレンディングプラットフォームを立ち上げようとしていた。しかし資金調達が上手くいかず、その一方でOMG Ghanaの読者は増え、収益も発生し始めていた。そこで彼らはメディア企業を設立することに決め、Y Combinatorのアクセラレータープログラムに参加したのだ。Ghansahは、昨年参加した同プログラムで「超大胆」になる方法を学んだと話す。

「まずはガーナから始めようと思っていたんですが、YCでは外国に進出しろと言われました。参加者は自分の限界を超えて大きなリスクをとるよう彼らに促されるんです」

さらにGhansahは、アフリカの人口の3分の1以上がミレニアル世代にあたるため、OMG Digitalの潜在的な読者はかなりいると付け加える。その一方で、BuzzFeedにはない問題として、彼らはアフリカ各国の文化や言語の違いという課題に取り組んでいかなければならない。

ほとんどのコンテンツは各国のサイトで共有できるような内容だが、それぞれのサイトオリジナルのコンテンツもたくさんある。例えば、ガーナのサイトでは「『Bye Felicia』というフレーズがピッタリな14場面」や「6人のかっこよすぎるガーナ戦士」といったオリジナル記事があり、ケニア版だと「ケニヤ人が『Game of Thrones』を好きな10個の理由」や「今後ケニアではプラスチック袋を持っているだけで刑務所送りに」といった見出しがサイトを飾っている。

「種々の文化的な違いやニュアンスが存在する一方で、中には共通点が見られる国もあります」とGhansahは言う。「例えばガーナとナイジェリアは文化的に近いため、この2国をターゲットにしたコンテンツをつくるのは比較的簡単です。ケニヤとタンザニアも似た文化を持っています。つまり、私たちは(市場拡大にあたって)既存の市場からできるだけ文化的に近い国へ進出しようとしているんです」

OMG Digitalは英語圏をカバーした後にフランス語や他の言語が公用語となっている国へと進出するつもりで、最終的にはアフリカ大陸の全ての国でメディアを運営したいと考えている。また、OMG Voiceの下には既にServePotと名付けられた料理関連のメディアブランドも存在し、今後はテクノロジーやライフスタイル関連のメディアも創刊される予定のようだ。彼らはほかにも、ミートアップイベントやスタートアップカンファレンスなどを開催するイベント業に取り組もうとしている。

BuzzFeedやその他のウェブメディアのように、OMG Digitalはデジタル広告から主な収益をあげている。現在は同社の売上の80%をバナー広告が占めているが、アフリカ以外の市場と同じように、広告主は投資に対する十分なリターンを得られていないと感じており、もっとモバイル端末に合った広告形態を求めているようだ(OMG Digitalのユーザーの90%がモバイル端末から同サイトにアクセスしており、特にAndroidユーザーの比率が高い)。

ユーザーの60%が18〜24歳の若者というOMG Digitalは、それぞれの市場でアフリカの若者にどうリーチすればよいか(国によってはFacebookよりもTwitterの方が人気のため、国ごとに戦略を考えなければならない)考えあぐねている海外企業にとっては魅力的な存在だ。既に同社は、Coca ColaやHuawei、KFC、Philips、Pringlesのほか、MTNを含むアフリカの大手通信会社数社とマーケティングキャンペーンやスポンサードコンテンツに関するパートナーシップを結んでいる。

「私たちは有名ブランドとタッグを組んで、アフリカのデジタル広告ビジネスのパイオニアになりたいと考えています。今のところいい感じにきています」とGhansahは話す。「ブランドも私たちの価値に気づき始めたようなので、これから2年間が大きな勝負になると思います」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

本はまだ死んでいない―、ウェブメディアが出版業をはじめた理由

【編集部注】執筆者のChris Lavergneは、Thought.isのCEOでThought Catalogの創設者でもある。

2012年に私たちはThought Catalog Booksをローンチした。それ以前に、Thought Catalogと名付けられたウェブサイトを通して、ウェブ用の短い文章に関する技術をマスターした私達には、新たな挑戦が必要だったのだ。本を出版することで、デジタル出版という時流に乗ったThought Catalogブランドの対極にある、もっと観想的なブランドを構築しようというのが、Thought Catalog Books設立の狙いだった。

私たちはスタートアップを設立することで、あるふたつの問いに対する答えを見つけようとしていた。そのうちのひとつが、アルゴリズムとソーシャルメディアの時代に、クリエイティビティや知性の高さが重要視されるような世界を創り出すことができるか。そしてもうひとつが、広告主ではなく読者に焦点を当てた出版モデルを構築できるか、というものだ。

Thought Catalog Booksのことは、ウェブサイト(Thought Catalog)との関係性の中で捉えなければいけない。というのも2010年のローンチ当時、同ウェブサイトは、バイラルパブリッシャーではなかったからだ。”Thought Catalog”という名前からも、バイラルメディアというトレンドへの展望を持っていなかったことがハッキリわかるだろう。つまりThought Catalogは、”実験的なカルチュラルマガジン”として作られたのだ。

しかし、ジャーナリスティックな文章を使った実験的な試みは、悲惨な結果を生むことになった。ミュージシャンの特集書評カルチュラル・スタディーズといった内容の長い文章ではお金にならないため、私たちは方向転換を余儀なくされたのだ。すると、Facebookのデータを基にした読者層に関する情報が私たちにとっての出版社となり、Googleのデータがエディター・イン・チーフ、Twitterがマネージング・エディターに取って代わることとなった。その結果、Thought Catalogはソーシャルメディアの情報の上に成り立つウェブマガジンの先駆けとなり、BuzzFeedやその他のメディアと共に、デジタルパブリッシング初のゴールドラッシュを迎えた

しかし、お金だけが目的だったわけではない。どんな企業にとっても資本は重要だが、私たちはもっと崇高なゴールも持っていた。(ただの訪問者ではない)読者、芸術的な評価、ソーシャルメディア上のLike以外のものを私たちは求めていたのだ。このような欲求こそが、コンテンツ企業をメディア企業と区別するものであり、私たちは自分たちのことを後者として捉えていた。資金豊富なメディア企業は、”重要な文章”とされているものを、赤字覚悟の客寄せパンダとして使ってこの問題に対処しているが、自己資金で運営を賄っている私たちには、赤字を垂れ流す余裕はなかった。そこで、以下のふたつの理由から、本の出版を行おうと決めたのだ。

  • 本の出版には、長い文章の方が適している。5000ワードのウェブ記事の執筆を、1ワードあたり1ドルで外注した場合、広告を最適化したとしても、費用を回収するために約100万PV必要になる。バイラル化を目的としたリスト記事でも、なかなか100万PVに到達することはなく、調査報道や綿密につくり上げられた創作物であれば、なおさらそれは難しい。一方、本の出版であれば、4.99ドルの電子書籍を2000冊売るだけで投資分を回収できるのだ。
  • 書籍の形をとることで、ビジュアル面にもお金をかけることができる。ウェブ出版は執筆周りのコストを削減するだけでなく、文章に彩りを添える複雑なビジュアルの必要性さえ縮小させたのだ。現代のビジュアル界では、携帯電話上で作られたミームが、素晴らしいアーティストによって描かれた美しいイラストよりも多くのビュー数と利益を生み出すということがよくある。ウェブ上の経済がこのような状態を作り出したのだが、本のカバーやパッケージに関しては、目を引くようなビジュアルのためであれば予算を割くことができる。使い古された言葉だが、本当に人はカバーから本を判断するものなのだ。

上記から、本が私たちにとって最適なプラットフォームだと判断した。本の出版は、シンプルなお金の流れ、ビジュアルや文章のあり方への影響力、マーケットフィットを兼ね備えている。これこそ、私たちが過去5年間に業界全体に関して学んだ教訓だ。

メッセージとしての媒体

紙の本と電子書籍が、それぞれに独自のオペレーションモデルを持った、ほぼ別領域のビジネスであると知ったとき、私たちは驚いた。消費者に届けられるコンテンツは同じだが、両者はそれぞれのフォーマットを反映した正反対の性質を持っている。高級品としての書籍と実用品としての電子書籍。この性質の違いが、マーケティングや製造面における戦略・ワークフローに大きな違いをもたらしているのだ。

以下が、私たちの考える両媒体の違いだ。


この性質の違いは、消費者行動からも見て取れる。安価で即座にアクセスできる電子書籍は、一般的に紙の本に比べて6倍近い数が売れると言われている。その一方で、販売額に関して言えば、物理的な本は電子書籍の7倍だ。電子書籍から大きな売上を上げるのは難しい。というのも電子書籍の目的は、早く・安くコンテンツを提供することだからだ。逆にデジタル時代における紙の本は、紙の方が読みやすいという人や、ページをめくる感覚が好きだといった人を対象とした高級品として存在している。

そういった意味では、紙の本については今以上の実用性はそこまで望めないが、その分高級品としての機能でカバーできる。 恐らくこの考え方は、Thought Catalog Booksの成長を支えてきた重要な要素のひとつだ。つまり、紙の本を出版する主体は、高級品を販売している企業と同じように運営されなければならない一方で、電子書籍を扱う主体はテック企業のようなスタイルをとるべきなのだ。コンテンツは同じでも、媒体によってビジネスモデルは全く違うということだ。

書籍出版の驚くべき経済的メリット

思慮深い広告主は紙の本を気に入っているようで、Thought Catalog BooksはThought Catalogの営業部隊にとって、重要なツールになっている。ウェブ上のネイティブコンテンツは、短い物語を伝えるのには効果的だが、もっと深い物語を伝えようとしている企業にとっては、紙の本こそ完璧な媒体なのだ。ネイティブコンテンツやスポンサードコンテンツだと、読者(もしくは訪問者)がコンテンツに触れ合う時間は数分間程度しかない。しかし紙の本という、時代を超えて愛されているストーリーテリングの手段を利用することで、広告主はもっと深いところでブランドを構築できる可能性がある。実際に紙の本の読者は、一冊の本を読むことに何日とは言わずとも、何時間かを費やし、本自体は持ち主の本棚に一生残る可能性もある。

スポンサー付の本の販売だけでなく、私たちは現在爆発的に広まっているオーディオブックにも大きな売上のチャンスが眠っていると考えている。さらに、昔から存在する書籍の映画化にもまだまだ可能性がある。

書籍出版の世界にも存在する赤字覚悟の作品

商業的な成功と芸術を貫き通すという精神というのは、なかなか両立が難しいものだ。確かにホメーロスやシェイクスピタ、ヴァージニア・ウルフ、ジョナサン・フランゼンを含め、傑作は発表直後から”売れる”というのは間違いない。特にフィクション作品に関して言えば、傑作は発表直後から傑作として扱われることが多い。

そうは言っても、売上という側面ではフィクション作品に劣る、哲学やジャーナリズム、伝記といったジャンルの作品も、社会的には大きな意味を持っている。このような作品は、洗練された数学の問題のようなもので、ほとんどの人には関係がなくとも、アプローチの方法を知っている人にとっては大変有用なものなのだ。

そのような作品の例となる、Elizabeth Wurtzelが書いたメディア論の傑作Creatocracyや、自殺に関する悲痛な調査をまとめたSimon CritchleyのSuicide、ニューヨークのクイーンズにある悪名高いCreedmoor精神病院を描いたSabine HeinleinのThe Orphan Zooなどは、たとえポップカルチャーや市場の大部分が求めるものには合致していなくとも、お金には代え難い価値を持っている。本を出版することで、このような作品を世に送り出す手助けができ、著者にしっかりとお金を払い、恐らく利益は出せずとも、作品を求める人のところに届け、一冊の本というきちんとした形に残すことができるのだ。

Amazonも恐るるに足らず

Amazonは出版ビジネスのあらゆる側面に深く関わっているため、独占企業であるかのように感じられる。しかしAmazonの力も、以下の3つの重要な点において無限ではないと言える。

電子書籍市場における、Amazonにとっての本当の競合サービスはiBooksだ。Publishing Technologyが2014年に発表した調査では、iBooksが電子書籍市場の31%を占めるとされている。この数字は、電子書籍売上の33%がiBooks経由という、私たちの2016年のデータとほぼ一致する。さらに、消費者が従来の電子書籍リーダーを離れ、携帯電話やパソコンで本を読むようになっている中、この分野ではAmazonに大きく水をあけているAppleのiBooksが、さらに成長を続ける可能性が高い。

また、四大出版社のことも無視できない。Amazonは常に出版社という”門番”を取り除いて、著者と読者を直接結びつけることを夢見てきた。しかし、誰かにお気に入りの本は何かと尋ねたとき、その本が自費出版されたものである確率は、誰かのお気に入りのテレビシリーズがYouTubeシリーズである確率と同じくらいだ。現実として大手出版社は、映画やテレビ業界のように、クリエイティビティと資金のどちらの面においても、業界の中での重要な役割を担っているのだ。その役割は今後も変わることはないだろう。

そして電子書籍の人気が高まる中、Amazon上で紙の本を販売することの意味が薄れてきているのかもしれない。Thought Catalog Booksが製作する電子書籍や一部の紙の本に関して言えば、Amazonは夢のような流通パートナーだ。その一方で、高品質な書籍に関しては、私たちがAmazonと手を組む意味はあまりない。自前のサイトやインディペンデントな書店を通して書籍を販売した方が、私たち独自の色を演出することができるからだ。書籍が本当の意味での高級品だとすれば、ハイブランドがAmazon上で商品を販売しないように、スペシャルティ出版社としての私たちも、自社の商品をAmazonでは販売したくないと考えている。大手出版社もいつかはこのような動きをとり、少なくともAmazon上での販売数を制限するような施策に打って出るかもしれない。

本の明るい未来

Richard Nashは『What is the Business of Literature』の中で、「映像や音声がないというのは、本の機能であり、欠陥ではない」と記している。これこそまさに、Thought Catalogの出版に対する考え方だ。本は古びれたテクノロジーではなく、むしろ最先端のテクノロジーだ。実際のところ、本は現在世にでているものの中でも最高のVRマシンなのだ。Oculus RiftのようなVRデバイスが、ユーザーの脳を包みこんで別の世界を映し出す一方、本は読者の脳を働かせ、彼らと本の創造的なやりとりを通して、違う世界を映し出している。

書籍の存続というのは、出版社にとっては良い知らせとなるだろうが、私たちのような企業がFacebookや従来のテック企業のように驚くべきスピードで成長することはない。短期間での急激な成長というのがテック企業の魅力である一方、出版の世界では、深い関わり合いこそが重要なのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

ローンチから2週間で黒字化―、インドのビジネスメディアThe Ken

元記者や元起業家から成る4人のチームが、インドの”崩壊した”ビジネスメディアに変革をもたらすと共に、高品質のジャーナリズムに対してお金を払う個人・企業がインド国内にも存在するということを証明しようとしている。

欧米ではサブスクリプションベースのメディアの人気が高まっており、The New York Timesデジタル版のユーザー数も、トランプ大統領の当選後急増した。テック業界で言えば、元Wall Street Journal編集者が創刊したThe Informationが、トレンド情報とニュースの融合で人気を博しているほか、台湾在住のライターBen Thompsonが発行している、分析記事を中心としたニュースレター兼ブログのStratecheryも、サブスクリプションモデルが儲かるということを証明してきた

しかし今回の話は、大人気のプロダクトでさえマネタイズに苦しむと言われているインドが舞台だ。iPhoneを例にとれば、インドの年間売上台数よりも、新モデルがローンチされたときの週末の売上台数の方が多く、Netflixのような中毒性の高い(かつiPhoneよりもずっと安い)サービスでさえ、これまでのところインドでは大衆の支持を集めることができていない。

まずはビジネス報道から

そんな状況の中、バンガロール発のThe Kenはサブスクリプションベースのニュースサイトを運営しており、1日1記事を有料会員のもとに届けている。年間の利用料は、インド国外のユーザー向けが108ドル、国内ユーザー向けが2750ルピー(42ドル)。

月額10ドルや四半期額25ドル/900ルピー(13.5ドル)のプランも準備されているThe Kenのサービスは、これまでインドで誕生したサブスクリプションベースのメディアとしては、1番注目を浴びている。記事のカバー範囲は、創刊メンバーの経歴に沿って、今のところテクノロジーやビジネスが中心だが、将来的に彼らは他の分野の情報も扱っていこうとしている。

「私たちは、単にスタートアップの情報だけを扱っていると思われたくないんです。そうなってしまっているメディアは多く見かけますしね」と共同ファウンダー兼CEOのRohin DharmakumarはTechCrunchの取材に対して語った。「今後は記事のカバー範囲を拡大して、毎日読んでも退屈せず、ちょっと意外性もあるニュースを読者に届けたいと考えています」。

古い英語で「知識」を意味する「ken」という単語を名前に冠したThe Kenは、読者のコミュニティをビジネスの中心に据えている。主なコミュニケーション手段としてはメールが使われ、11人のThe Kenのライターが交代しながら、それぞれのユーモアや考察が含まれたニュースレターを、有料・無料ユーザー両方に対して毎日送付している。また、誰でも読める週刊の無料記事も発行されており、彼らはそこから新たな有料ユーザーの獲得を狙っている。

毎日ユーザーに送られるニュースレターの例

またThe Kenは、広告収益モデルを採用せずに読者を増やすため、単純な有料購読以外のモデルも色々と試している。これまでに彼らは、モバイルウォレット大手のPaytmからの支援を受けて1週間分のフリーパスを提供するなど、スポンサーの協力を得つつも、広告や販促記事を掲載せずに、無料のコンテンツを公開してきた。さらに現在は、企業向けの購読プランの導入準備も進められている。

記事を読むだけのプランや1日限定のプランは、The Kenが提供するエクスペリエンスを薄めてしまい、長期的なビジョンやコミュニティの創生を妨げることにつながる可能性があるため、そのようなプランを準備する予定はないとDharmakumarは説明する。

Make Media Great Again

実は私もThe Kenの有料ユーザーだ。情報収集が私の仕事の一部ということ以外にも、私はテクノロジーが日常生活にディスラプションを起こす様子を観察するのが好き、というのが購読の理由だ。テクノロジーが日常生活のほぼ全ての側面を刻一刻と変化させている新興市場の様子は、見てて飽きることがなく、特に10億人以上の人口と多様な文化を誇るインドでは、テクノロジーの持つ影響力が新興国の中でも最も大きいと言われている。一方で、その様子を明瞭に、面白く、そして何より正確に伝えられるメディアがインドにはほとんど存在しない。

最後の点に関連し、Dharmakumarはインドの消費者全体がメディアに対して関心を失っていると考えており、それがThe Ken誕生のきっかけになったと彼は説明する。

「インドのビジネスジャーナリズムが崩壊してしまったというのは明らかでした」と彼は話す。「市民は実質的に新聞を読まなくなり、新聞からの情報収集をやめてしまったんです。しかもこれは若い人に限ったことではなく、経験豊富な投資家でさえ、最新情報をソーシャルメディア経由で集めるようになってしまいました」。

「記事の内容は低レベルかつバイアスがかかっている上、文字がぎっしりと詰まっており、次第に消費者は報道内容に共感できなくなり、新聞に何の価値も見いだせなくなってしまったんです」とDharmakumarは付け加える。

そこで、先述のサブスクリプションベースのメディアからヒントを得た(特にDharmakumarはThe InformationとStratecheryを例として挙げている)創刊メンバーの4人は、「インドのビジネスメディアに関して誰かが何かをしなければいけない」と感じ、The Kenをはじめたのだ。当初はソーシャルメディア上にポストの形で記事を配信していたThe Kenだが、その後、読者とコンテンツの間に購読というバリアを設けようと、サブスクリプション制のニュースレターの発行を開始した。

有料ニュースレターがうまくいったことを受け、彼らは有料ユーザー向けにThe Kenのウェブサイトを立ち上げることにした。

現在どのくらいの数の購読者がいるかについては明らかにされていないが、Dharmakumarによれば、現時点で彼らが予測していた購読者数は超えているという。確かにThe Kenは、ウェブサイトのローンチから2週間で黒字化し、2月には合計40万ドルを複数の著名エンジェル投資家から調達していた。さらに投資家の中には、インドの有名テックスタートアップPaytmやTaxiForSure、Freshdeskのファウンダーも含まれていた(Paytm CEOのVijay Shekhar Sharmaは、The Kenの他にもFactorDailyを筆頭とした複数のインドのニュースサイトに投資している。なおTechCrunchでは、The Kenと並ぶ野心的なメディア系スタートアップのFactorDailyについて、以前公開された記事の中で触れていた)。

「最近のスタートアップ界の基準から見れば、40万ドルというのは大した金額ではないかもしれませんが、対象を絞った効率的なメディアビジネスをつくる上ではかなりの金額ですし、私たちは初日から売上をあげることができました。またこれまで私たちはジャーナリストとして、早い段階で多額の資金を調達した企業が、目的や情熱を失っていく姿を何度も見てきました」とDharmakumarは、読者宛の資金調達に関するニュースの中に記した。

「何年も前に方向性を失いだしたインドのビジネスジャーナリズムでは、新鮮味に欠け、一方的でレベルが低く、面白くない記事が量産されてきました。私たちは、このような既存のビジネスメディアとは全く逆の記事を読者に届けるために、どんな苦労も惜しみません」とも彼は書いている。

メインストリームメディアへの成長

現在のメディア界について批判的な意見を表明している一方で、CEOのDharmakumarは、The Kenがインドの既存のメディアシステムを壊そうとしているのではなく、むしろ既存のシステムの中でビジネスを展開しようとしていると語った。

「私たちは新聞を含む従来のメディアを完全に代替しようとしているわけではありません。The Kenは、既存のメディアを補完するような存在です」と彼は話す。「新聞やニュースで何が起きているか知った人に対して、私たちは、その次に何が起き得るのか、誰がどう関わっているのか、何が狙いなのかといった情報を提供しようとしているんです」。

これから半年程度は、現状のサービスを続けつつ、購読者数およびコンテンツ量の拡大に努める予定のThe Kenだが、その後はカバー範囲を拡大して、読者に幅広い情報やニュースを伝えられるようにしたいと考えている。

さらにDharmakumarは、当初のターゲットだったビジネスマンやテック業界に注目している人以外にも、読者層を広げようとしている。

「ビジネスニュースは自分に関係ない、と考えているような若い人にも私たちのニュースを届けていきたいと思っています」と彼は説明する。

直近のニュースとして、Android・iOS対応のアプリが近々公開予定で、読者はメールやウェブサイト以外の方法でThe Kenのニュースにアクセスできるようになる。他にも、各記事へのコメント欄の設置や、読者が記者と直接やりとりできるSlackチャンネルの開設などが予定されており、将来的にはこれらの新機能が編集の方向性や記事内容に影響を与える可能性もある。

The Kenの詳しい情報については、彼らのウェブサイトで確認してみほしい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter