基礎研究を応援するANRIが給付型奨学金プログラム「ANRI基礎科学スカラーシップ」第4期生募集開始

基礎研究を応援するANRIが給付型奨学金プログラム「ANRI基礎科学スカラーシップ」第4期生募集開始

「未来を創る」起業家の支援を行うANRIは、特に研究開発型の大学発スタートアップを支援する中で、すぐに利益を生むことはないものの科学技術の発展には欠かせない基礎研究に資金が集まりづらく、学生には厳しい環境が続いていると感じていた。そこで、給付型奨学金プログラム「ANRI基礎科学スカラーシップ/The ANRI Fellowship」を立ち上げることにしたという。第4期となる今回は、奨学金受給希望者を最大10名募集している。

ANRIのジェネラル・パートナー、鮫島昌弘氏はこう話す。
「基礎研究すぎる? 成果が出るまで時間がかかる? 誰のためになってるの? そんな批判はもういいじゃない。自分がやりたい研究をトコトンやってほしい。もし君が周りからなかなか評価されずに暗闇の中でもがいているなら、僕らが小さなロウソクになれれば嬉しいなと思います」

「ANRI基礎科学スカラーシップ」の主な内容

  • 支給金額:1人あたり50万円(採択より1年間)
  • 募集対象:数学や物理学、生物学、化学などの分野において優秀な成績を収めた学生(年齢制限なし)
  • 募集人数:10名まで
  • 選定方法:書類選考。必要に応じて面接も実施
  • 応募締め切り:2021年8月31日
  • 発表:10月末ごろ
  • 応募注意事項:ANRIが提供可能な資料は「ANRI学生向け研究費支給通知書」「寄附金申込書」「研究費使用規定」の3点のみ

応募はANRI基礎科学スカラーシップ/The ANRI Fellowship」第4期生 応募フォーム」から。

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VCのANRIが独自の給付型奨学金、基礎研究に取り組む若手人材をサポートへ

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:ANRI学生(用語)基礎研究(用語)奨学金(用語)VC / ベンチャーキャピタル(用語)日本(国・地域)

「量子アニーリング」で計算困難な産業課題の最適化を図るJijが2億円を調達、目指すは世界の最適化

AIスタートアップのJijは8月27日、約2億円の資金調達を発表した。第三者割当増資による調達で、引受先はリード投資家を務めたANRIとDEEPCORE、みらい創造機構の3社。

Jijはイジングマシンや量子アニーリングをはじめとした最先端のハードウェア・研究手法を研究しているAIスタートアップ。従来の計算手法では計算困難な​産業課題の解決を図る技術開発を進めている。今回調達した資金は、企業向け最適化クラウド「Jij-Cloud」の開発強化、スマートシティの実現に求められる最適オペレーション計算のための新たなプラットフォームを構築の構築に投下するという。

まずは、おそらく多く読者が聞き慣れない「イジングマシン」「量子アニーリング」について簡単に説明しておこう。イジングマシンとは、質、量ともに膨大となった予想データや制約条件の中でに最適な判断を下す計算を実現するため、量子技術をベースにした計算手法のこと。量子アニーリングとは、その骨子となる、量子力学を使用した組合せ最適化向けのアルゴリズムを指す。と説明しても難解なのだが、同社は量子力学を活用して、これまではかなりの時間がかかったり、答えが出せなかった問題を解決するための技術を擁しているスタートアップだ。

同社はこれらの技術を使い、人の行動パターンの予測し、そこから生まれるであろう移動ニーズやエネルギー需給変動に対する新たなサービスなどを、従来以上に最適化することを狙っている。

Jij-Cloudは、事業会社向けのミドルウェアで、イジングマシンや量子アルゴリズムの専門知識を必要とせずに、簡単に最先端の量子最適化技術を扱えることを可能にする。2019年より一部アルゴリズムのライブラリは「Open Jij」としてオープンソースで公開している。また各種イジングマシンに対応するべく、NEC、日立、D-Wave、マイクロソフトなどとも提携を進めている。2020年5月当時、Jij はマイクロソフト開発のAzure QIOの利用を日本で唯一許諾された実績もある。

写真に向かって上段左から2人目がJijiの代表取締役社長を務める山城 悠氏、3人目がCTOの西村光嗣氏

このほか、各事業会社に対してコンサルティングや共同研究も進めている。例えば、ネットワークの安定化、電気ガスの供給安定化、生命保険のポートフォリオ最適化などの領域で同社の技術が使われているそうだ。直近では、豊田通商と「交通信号制御の最適化」をテーマとした共同研究も発表、信号機の点滅スケジュール制御によって自動車の待ち時間を20%削減 する試算を発表(Qmedia記事)した。

独立系VCのANRIが200億円規模の新ファンド、“シードVCのDNA”残しつつ積極的なフォローオンへ

独立系ベンチャーキャピタルのANRIは10月21日、新ファンドとなる4号ファンド(ANRI4号投資事業有限責任組合員)を設立したことを明らかにした。

同ファンドでは現時点で国内大手機関投資家などから約110億円を集めていて、最終的には総額で200億円規模まで拡大する計画。これまで通りシード期のスタートアップへの投資を中心にしつつ、積極的なフォローオンでグロース期まで一貫して起業家をサポートし、日本から大きな産業を創出することを目指すという。

具体的には1社あたり最大20億円まで投資をするほか、LPである機関投資家とも連携しながらそれ以降もサポートする構想とのこと。みずほ銀行、第一生命、ミクシィ、グリー、アサヒグループホールディングス、その他企業年金・金融法人等を含む国内大手機関投資家などがLPとして名を連ね、機関投資家比率は7割を超える。

投資領域は3号ファンドと同じくインターネット領域とディープテック領域が中心。渋谷と本郷三丁目にてインキュベーション施設を運営し、アイデアレベルのものも含めて創業期から近い距離でスタートアップを支援する。現在は投資メンバー6名+ミドルバック担当1名の体制だが、チームメンバーの拡充や外部顧問/スペシャリストの拡充も進めていくようだ。

今回TechCrunch JapanではANRIの3人のジェネラルパートナー(佐俣アンリ氏、鮫島昌弘氏、河野純一郎氏)に話を聞く機会を得たので、彼らの話も踏まえて新ファンドの方向性を紹介したい。

1社あたり最大20億円を投資、テーマは積極的なフォローオン

ANRIでは2012年に設立した1号ファンド以降、3号ファンドまでで累計約100億円を運用し、110社以上へ出資してきた(3号ファンド単体で63社に投資完了済み)。

今年7月に上場したツクルバや昨年上場したラクスル、PKSHA Technologyの子会社となったSapeetのほか、直近ではGracia(TANP)、one visaアルクラスミラティブなどのスタートアップへ投資を実行。量子コンピュータ関連のJijQunaSys、尿検査によるがんの早期発見を目指すIcariaなどディープテック領域への支援にも取り組んでいる。

今回の4号ファンドではこれまでの投資方針を継続しつつ、起業家の大きなチャレンジをより継続的に支援することを目指したもの。佐俣氏も「積極的なフォローオン」が1つのテーマになるという。

「(急速に成長するスタートアップに投資をする中で)フォローオンをしっかりやりきれていなかったことに課題感を持っていた。ここ数年スタートアップの進化の方がVCの進化よりも早く、スタートアップがどんどん目指せる規模が大きくなる一方で日本のVCが支えきれなくなり、そこをCVCや新たなVCがフォローしてきた」

「独立系VCとして起業家の成長をもっと先まで支えたいという思いが強く、たとえばこれまで(ANRIや河野氏が前職のITV時代に)支援してきたラクスルやメルカリ、ミラティブなどの企業を『リード投資家として責任ある立場でフォローオンするとしたらどれくらい必要か』を考えた結果、20億円くらいは必要だろうということで今回のファンド規模になっている」(佐俣氏)

1社あたりの投資額については、グロービス・キャピタル・パートナーズが4月に発表したファンドが最大50億円を投資する方針を掲げる。ANRIの場合は単体では20億円が最大となるが、LPの機関投資家と密に連携を取ることで(ANRIが出資した次のラウンドでLPが直接投資をするなど)、それ以降のサポートをしていきたいということだった。

また4号ファンドでは1社あたりの投資額が拡大するだけでなく、支援の幅も広げていく予定だ。6月に河野氏がジョインした際にも紹介した通り、シリーズAラウンドからの投資もその1つ。またシリアルアントレプレナーのネクストチャレンジや、ある程度大きな資本を必要とする事業に対しては早い段階から必要に応じて数億円規模の出資も行っていく。

上述したアルやミラティブはまさにそのケース。「シードVCとしての意志決定の速さとシリーズA・Bレベルの資金供給の両立が1つのポイント。具体的な社名は明かせないが先日も3億円の出資を決定した。これを3人のGPで極めて早いスピードで決められる」(河野氏)のは大きな特徴だ。

「アメリカでもファンドの大型化にともないシードをやめてシリーズA・Bへと移行していくVCが出てくる中で、Andreessen Horowitzなどはシードから継続してフォローオンしながら実績を上げてきた。自分たちもシードVCとしてのDNAを持ち続け、起業初期の大変なところから一貫して支援していきたい」(鮫島氏)

一方で“救済的なフォローオン”やスピードと数だけを重視した“バラマキ”投資はやらない。フォローオンに関しては前職でシリーズA・B投資の経験が豊富な河野氏を中心に、シード期とそれ以降のラウンドではそれぞれ別の投資基準を設定して判断をする。

河野氏は「仕組み化されたシードVC」という表現もしていたけれど、LPの構成やファンドサイズ、ガバナンス体制などはこれまで以上にトラディショナルなVCに近い体制になった一方で、シードVCとしての良さも保持していきたいという。

シードVCとしてのDNAを残しつつ、より大きなチャレンジを支援

投資領域についてはインターネットセクターと比べて回収期間が長くなることも想定されるディープテックにも引き続き積極的に投資をする。

3号ファンドでは鮫島氏を中心に、大学発の技術を用いたハイテクスタートアップに対する支援を強化。上述したQunaSysやIcariaのように投資テーマとなる技術を発掘し、ネット系企業での勤務経験がある起業家や、ネット系の事業で独立を考えていた起業家と結びつけるような事例もある。

同一ファンドからインターネット領域とディープテック領域双方に投資支援をしてきたのはANRIの1つの特徴。4号ファンドでは2つの領域の融合、特に「ディープテックスタートアップへネット系スタートアップの経営知見を展開していくこと」に取り組みたいという。

「日本ではスタートアップもそれを支援するVCも2つの領域で分かれてしまっている側面があった。世界を見ればFounders FundのようにSaaSに投資しつつ、創薬のような重たい領域もしっかり支援するファンドも珍しくない。たとえば大学発ベンチャーの中にはIT系のスタートアップに比べて(スタートアップ的な)経営知見のキャッチアップが遅れていることも多い。今後4号ファンドでは双方の融合をさらに加速させていきたい」(鮫島氏)

今回の4号ファンドはANRIにとって過去最大規模のサイズになる。6月に取材した際にも河野氏を仲間に加えてより高いレベルのファンドを目指すという話もあった。ただ、だからといってユニコーンになる企業だけに投資をするわけでもなければ、シリアルアントレプレナーばかりに投資をするわけでもない。

これまで通り若い起業家の最初の挑戦も応援するし、ディープテックの難しい領域に挑むスタートアップも支援する。今回取材をする中で「シードVCとしての哲学やDNAは変わらず持ち続けたい」という話は何度も出てきた言葉だった。

「国としても、VCの中でも『ユニコーンを作る』という考えが広まりつつある。ただ自分が過去に投資をしてその後大きな実績を残した起業家を見ても、最初の段階からユニコーンを目指せるレベルにあったかというと、正直そうとは限らない。事業を作る中で大きく成長し、素晴らしい起業家になっていったメンバーも多い」

「『ユニコーンしか狙っちゃダメ』という風潮が行き過ぎてしまうと、将来的にユニコーンを作れるような人も育てられなくなってしまうし、大きな市場を狙うSaaS企業にひたすら投資をするしかないということにもなりかねない。僕自身はスタートアップのエコシステムはそういうものではないと思っていて、だからこそ挑戦する起業家にとって1番最初の機会を提供するという自分たちのDNAは変わらず大事にしていきたい」(佐俣氏)

AIスタートアップのピッチコンテストHONGO AI 2019の最優秀賞はMI-6、材料開発に革新と効率をもたらす

AIスタートアップと本郷近辺の活性化を目指すHONGO AIは10月2日、アーリーステージのAIスタートアップを集めたピッチコンテスト「HONGO AI 2019」を東京・文京区本郷にある伊藤謝恩ホールにて開催した。

HONGO AIは、アーリーステージを中心としたAIスタートアップを支援するために2019年に結成された組織。 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催し、代表幹事として、経営共創基盤(IGPI)、ディープコア、Deep30投資事業有限責任組合、東京大学エッジキャピタル(UTEC)、TomyK、東京大学協創プラットフォーム開発(UTokyoIPC)、ANRIの7社が名を連ねている。

最終審査に残ったのは以下の14社(登壇順)で、最優秀賞(HONGO AI BEST AWARD)は素材産業向けに実験計画を効率化するサービスを提供するMI-6、経済産業省産業技術環境局長賞は3Dプリンターによる義足開発のインスタリムが獲得した。各社の詳細は追って記載する。

ソシウム

「薬のない人に薬を、薬の効かない人に薬を」をミッションに掲げ、AIによる創薬の効率化を目指すスタートアップ。

estie

オフィス探しをAIによって効率化するスタートアップ。

シンカー

ウェブサイトのアクセスログ分析に機械学習を組み合わせることで、ユーザーの行動を解析するためのツール「CACICA」を開発。

Mantra(NSG Group賞、ソフトバンク賞、博報堂賞)

マンガを高精度で自動翻訳するサービスを開発。AIによる画像認識より、マンガ内の吹き出しの位置やテキストを自動認識して該当部分を抽出する。

MI-6(HONGO AI BEST AWARD、SIBAZIBA賞)

素材産業向けに、実験計画を効率化するサービスを提供する。

Xamenis

カプセル内視鏡の読影支援AIを開発。

スペースシフト

地球観測衛星のデータをAIで解析する事業を展開。

AIQ(ベネッセ賞)

AIによるプロファイリング技術を活用したデジタルマーケティングツールを開発・販売。

ACES(フジタ賞)

人をデジタル定量化するツールを開発。人間の行動や感情の認識、物の検知などを行う画像認識のAIアルゴリズムを提供している。

Revcomm

AI搭載型クラウドIP電話サービス「Miitel」を開発。

日本データサイエンス研究所

不在配達の削減や書籍の返本率の改善などを独自のAIアルゴリズムを活用して実現。

インスタリム(経済産業省産業技術環境局長賞)

AIを活用した画像解析と独自の3Dプリンターを組み合わせた低価格義足の開発・販売をフィリピンで展開。

VCのANRIが独自の給付型奨学金、基礎研究に取り組む若手人材をサポートへ

「ANRI基礎科学スカラーシップ」給付生の3名と、ANRIパートナーの鮫島昌弘氏(写真右)

独立系ベンチャーキャピタル(VC)のANRIは、先端の基礎研究に取り組む若手研究者を対象とした給付型奨学金プログラム「ANRI基礎科学スカラーシップ」を始めることを明らかにした。

修士課程や博士課程の学生を始め、数学や物理学、生物学、化学などの分野において優秀な成績を収めた若手研究者に対して1人当たり50万円を給付する。具体的な年齢制限などはなく、最大で10人を支援する計画。対象期間は採択より1年間で、2019年8月末まで募集を受け付ける。

ANRIはこれまで3本のファンドを立ち上げ累計で約100億円を運用してきた独立系のVCだ。主にシードステージのスタートアップを軸に投資を実行。出資先はUUUMやラクスル、クラウドワークスなど現在はイグジット済みの企業から、WAmazingミラティブなど今年に入って大型の調達をしているスタートアップまで幅広い。

2017年の3号ファンド立ち上げ時にも詳しく紹介したが、近年は大学の研究を軸としたハイテク系スタートアップの支援も強化。今回のプログラムも、ANRIで主に大学発スタートアップへ投資してきたパートナーの鮫島昌弘氏が中心となって立ち上げたものだ。

鮫島氏によると奨学金プログラムを始めたのは「すぐには事業化に結びつかないけれど、素晴らしい基礎研究が日本にもまだまだ存在する」ものの、そういった領域に十分な資金が行き届かず、若手研究者にとって厳しい状況が続いているためだという。この点は同氏が執筆したnoteでも言及されている。

「専門領域の教科書は高価なものも多く、1冊あたり数万円かかるものもある。それを買うためや国内外の学会に参加するためだけに貴重な時間を使ってアルバイトをするのはもったいない。(本来時間を使うべき)基礎研究に少しでも多くの時間を投じられるような環境を整えたい」(鮫島氏)

鮫島氏自身も研究畑の出身で、かつて東京大学の大学院で電波天文学を研究していた。当時から周りの優秀な先輩や同級生が同じような理由でアルバイトをせざるを得ない状況に陥っていて、課題感を持っていたそうだ。

国内ではこのような取り組みをVCが主導でやる事例はまだあまり出てきていないが、海外ではピーター・ティールやエリック・シュミットを始め著名なエンジェル投資家、VC、起業家が独自の奨学金プログラムや寄付プログラムを実施している例も珍しくない。

基礎研究に特化はしたものではないけれど、ピーター・ティールの「Thiel Fellowship」は特に有名なプロジェクトの1つで、聞いたことがある人も多いだろう。

「VCは最終的にリターンを返していくファンド形態であり、事業としてやれる領域ではベンチャー投資を通じてアプローチしていく。ただ『将来的に社会の課題を解決し、より良い未来を創る』ことがVCの仕事の目的でもあるので、事業化には結びつかない基礎研究であっても、別の形でサポートしたいという思いがある。ベンチャー投資とはルートこそ異なるが、目的自体は変わらない」(鮫島氏)

今回はANRIにとっても初めての試みということもあり、トライアルも兼ねて最大10人に対して1人あたり50万円を給付する形で始める。50万円という金額については「大きなプラントを作るための資金などとしては全然足りないが、たとえば数学や物理など、紙とペンがあるだけで取り組めることがあるような分野では、少しの後押しにはなるのではないか」(鮫島氏)という。

まずは修士課程や博士課程に在籍する若手研究者で「実力はあるけど、数十万円がなくて困っているような学生さんたち」を中心に、研究に集中できるような支援をしていく計画だ。

「『VC = ベンチャー企業に投資をするだけ』というイメージを持っている人もいるかもしれないが、もっと広い範囲で社会課題を解決して、世の中を良くするための活動を続けたいし、(起業家や研究者など)そこに挑む人たちをしっかりとサポートする存在であり続けたい。僕ら自身もVCの枠を超えて未来を創るような取り組みにチャレンジしていく」(鮫島氏)

なお以下の3名についてはすでに給付生として決定済みで、給付を開始しているとのことだ(各自のコメントはANRIのプレスリリースより引用)。

■三上智之氏 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻在籍(生物情報科学、古生物学)

私は、理論やデータ解析をもとに化石を分析することで、はるか昔の生物がどのように進化を遂げたのか解き明かす研究をしています。“生物情報科学”とよばれる分野の視点で化石を見つめなおすことで、今まで見えなかった様々な情報を化石から抽出できるのではないかと考えています。

この奨学金は、若手の基礎研究を支えてくださる数少ないプログラムです。いただいた支援を活かして、これまでにない組み合わせの分野融合を進めることで、自分にしかできない、好奇心をくすぐる発見を目指します。

■須藤貴弘氏 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻在籍(高エネルギー天文学)

私の専攻している天文学は、社会や経済への利益に繋がるまでに長い時間がかかりうる基礎的な研究分野です。そのような研究を行う若手に対して支援をしていただける点がありがたいです。

私の主な研究対象は宇宙から飛来する高エネルギー粒子、特にガンマ線やニュートリノなどです。これらの粒子は起源が大きな謎であり、その研究を通して宇宙における様々な天体現象の理解が進むことが期待できます。更には、未知の物理法則の解明などにもつながる可能性があります。このように、天文学の研究を通して宇宙や物理学の知見を広げることを目標として、日々研究をしています。

■山口大器氏 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻在籍(素粒子物理学)

この度奨学金を受給することとなり、本当に感謝しています。自分にしかできない研究ができるよう努力していきます。このように、基礎研究を行なっている若手研究者を支援するプログラムはあまりないので、私たちのように基礎研究を行なっている若手研究者の方々にぜひ応募をお薦めしたいと思います。

私の研究は右巻きニュートリノの崩壊によって宇宙のバリオン(陽子、中性子)非対称性を説明する理論に関するものです。我々の体や星はバリオンでできていますが、宇宙がもっと高温だった時代、バリオンと反バリオン(反陽子、反中性子)はほぼ同数ありましたが、ほんのわずかにバリオンの量が多かった(その差は3億個に対してほんの1個程度)ため現在にはバリオンが残りました。このわずかに多かったバリオンの起源を探求しています。

大学発、量子コンピュータ用ソフト開発のJijがANRIから資金調達

従来型のコンピュータに対して、より効率よく計算ができる量子コンピュータは、カナダのD-Wave が実機を開発し、2013年にNASAとGoogleが共同で導入を決めたことで、広く注目されるようになった。機械学習や物流、金融など、さまざまな分野で「実際に使えるもの」として認識が進んだのだ。

しかし、D-Waveの量子コンピュータを使って実社会にある課題を解くためには、これまでのコンピュータのプログラミングとは異なる形で課題を定式化して、アプリケーションやアルゴリズムを用意しなければならない。

そうした実業務向けに、量子コンピュータのためのアプリケーションやアルゴリズムを開発する大学発スタートアップが、Jij(ジェイアイジェイ)だ。Jijは2月1日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円規模の資金調達を実施したと明らかにした。

D-Waveマシン実現で可能性が開けた「量子アニーリング」

そもそも、量子コンピュータは従来のコンピュータと何が違うのだろうか。

「0」か「1」のいずれかの状態を取る「ビット」を使って計算を行う従来型のコンピュータに比べて、量子コンピュータでは0と1の状態を同時に取る「重ね合わせ」状態が取れる「量子ビット」を使うため、効率よく計算ができる。

例えば30枚のコインを地面に投げる場合。1枚のコインは「表」と「裏」の2つの状態を取る。2枚では「表・表」「表・裏」「裏・表」「裏・裏」の4つ、3枚では8つと状態が増えていき、30枚では約10億にもなる。ここで量子ビットが30個あり、それぞれが「表」と「裏」の重ね合わせ状態にあるとしたら、約10億の状態を同時に表せる。「表」「裏」どちらの可能性も持つ重ね合わせ状態から計算をスタートすることで、状態を1つずつ計算して確認していくより、効率よく、高速で計算が行えるという仕組みだ。

量子コンピュータには、従来のコンピュータの論理回路(論理ゲート)の代わりに「量子ゲート」を使う量子ゲート方式と、自然現象を借用したアルゴリズムのひとつ「量子アニーリング」を使う量子アニーリング方式とがある。D-Waveが採用しているのは、この量子アニーリング方式だ。

D-Waveの量子コンピュータ「D-Wave 2000Q system」

量子ゲート方式の量子コンピュータはあらゆる目的で使えるという意味で「汎用型」と言われるが、量子ビットの重ね合わせ状態が壊れやすく、安定して動作させることが難しい。一方、量子アニーリング方式では、汎用性はないが、特定の問題なら高速に解くことができる。また、量子ゲート方式よりもシステムを安定して動作させることが可能だ。

量子アニーリングが得意とする「特定の問題」とは、組み合わせ最適化問題やサンプリングだ。組み合わせ最適化問題の例としては、巡回セールスマン問題が有名だ。

巡回セールスマン問題は、宅配便のドライバーやセールスマンが、複数の訪問地をどのようなルートで回れば距離が一番短くなるか、コストが最も低くなるか、というもの。訪問数が増えれば増えるほどルートの組み合わせが指数的に膨大になっていく。訪問数が5カ所の時にはルートの組み合わせが120だったものが、訪問数30カ所の場合ではすべての組み合わせは2.7×10の32乗になり、従来型のコンピュータですべての可能性をしらみつぶしに調べようとすると、高性能なスーパーコンピュータでも計算に何億年もの時間がかかる。つまり事実上、計算が終わらない。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

こうした計算を、量子アニーリングマシンではより現実的な時間で行うことができる、とされている。「ほかにもスケジュール調整や、ディープラーニングで必要となるサンプリングなど、量子アニーリングマシンを使った計算で解決できる課題にはさまざまなものがある」とJij代表取締役CEOの山城悠氏は説明する。

Jij最高技術顧問で東北大学 兼 東京工業大学量子コンピューティング研究ユニット准教授の大関真之氏も「人口縮小や人員削減にともなう生産性向上や、即時即応のサービスが求められていることを背景に、組み合わせ最適化問題の解決は社会の問題解決につながる」と語る。

「例えばUBERで、ドライバーがユーザーからの経路リクエストに瞬時に応えられ、また『ついでに買い物がしたい』といった思いつきのニーズにも対応できれば、サービスの密度が上がる。こうした問題にも量子アニーリングは使えると考えている」(大関氏)

量子アニーリングのためのアプリ開発

さて、組み合わせ最適化問題を量子アニーリングの手法で解くためには、問題を物理学でよく知られている「イジングモデル」という数学的モデルに書き換え、マッピングすることになる。Jijが行っているのは、このイジングモデルを使ったマッピングによる、アプリケーション開発だ。

Jijホームページより

イジングモデルは、磁石(強磁性体)の磁力が表れる様子を模した数学的モデル(模型)だ。格子上の点の上に「電子スピン」が配置され、スピン(自転)の右回り・左回りがそれぞれ「0」「1」に対応する。スピンが同じ方向にそろうと、強い磁力が生み出される。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

それぞれの格子のスピンの向きには、ほかのスピンとの相互作用がある。ペアになったスピンが同じ方向になった場合と、反対の方向になった場合とでどちらが安定する(エネルギーが低い、低コスト)かが、相互作用の値によって決まる。

各格子のスピンの最適な組み合わせを見つけるに当たり、量子力学の重ね合わせ状態を初期状態として使うのが、量子アニーリングだ。

D-Waveの量子アニーリングマシンは、計算手法として考案された量子アニーリングを、超伝導回路で実際のチップに実装したものだ。

D-Waveのマシンに組み込まれた格子状のチップ

Jijでは、クラウド契約でD-Waveの量子アニーリングマシンを利用している。実際の課題をイジングモデルに落とし込んでマッピングし、量子アニーリングマシンに送り込む。これが普通のコンピュータではプログラミングに相当する作業となる。マシンでは量子アニーリングを実際の物理現象として実行し、解を得ることができる。

山城氏によれば、「現実で起きている問題をイジングモデルに当てはめるのが難しい」とのことで、そこがJijのもつ技術力であり、優位性だということだ。

「量子アニーリングの手法には、リバースアニーリングや不均一量子アニーリングなど、いくつかの亜種があり、問題によって処理がより速くなる方法が研究されている。この量子アニーリングマシンの性能をフルで引き出すための調整が難しいところだ」(山城氏)

Jijでは、組み合わせ最適化問題の抽出、イジングモデルへのマッピング、シミュレーションと実機での実証実験、そして結果をもとにした性能評価を行っていくという。

アニーリングマシンのためのシミュレータをOSSで開発

D-Waveの量子アニーリングマシンは、NASAやGoogleに導入されたほかにも応用研究が行われており、日本の企業もリクルートが広告掲載順の最適化、デンソーが工場内の無人機の交通最適化などで、共同研究や実証実験に取り組んでいる。

また海外では、1QbitQC Wareといったスタートアップが、量子コンピュータのためのソフトウェアやアルゴリズムを開発。日本でも2018年設立のスタートアップQunaSysが量子ゲート方式のマシンのためのソフトウェア開発を行っており、同年4月に、Jijと同様にANRIから数千万円を資金調達している。

このように量子コンピュータ周辺の事業が盛り上がりを見せる中、これまでは計算が難しかった大規模な課題に、量子コンピューティングで取り組みたいという事業者は増えている。Jijでも他の事業会社と連携し、共同研究開発やコンサルティングによるソフトウェア開発を行っていくそうだ。

また、量子アニーリングマシンのD-Wave登場に触発されて、デジタル処理により、従来のコンピュータで用いられるアルゴリズム「シミュレーテッドアニーリング」に特化したハードウェアも誕生。より現実的に使えるアニーリングマシンとして、日本でも、富士通のデジタルアニーラや日立製作所のCMOSアニーリングマシンといった技術が開発されている。

量子アニーリングマシンでも、シミュレーテッドアニーリングマシンでも、組み合わせ最適化問題を今までのコンピュータより高速に解けることが期待されている。組み合わせ最適化問題の抽出とイジングモデルへのマッピングが利用のカギとなることにも変わりはない。

そこでJijでは、量子アニーリングマシンに限らず、シミュレーテッドアニーリングマシンも含めて、アニーリングを包括的に使えるシミュレータとして「OpenJij」を準備している。これはアニーリングマシン向けの開発を行う際に、異なるマシンでも、同じインターフェイスで同じベンチマーク機能が扱えるというもの。

OpenJijは、オープンソースソフトウェア(OSS)としてGitHub上にプロジェクトが公開されており、世界中の開発者からの貢献を得ながら、アニーリングマシンを使った開発に使用してもらうことを想定している。山城氏は「プロジェクトを進め、問題解決に最適なマシンが選定できるようにする予定だ」と話す。

世界的に注目される量子アニーリングにスピード感を持って取り組む

量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解くための量子力学を使った計算手法のひとつ。金属やガラスを高温に熱してからゆっくり冷やすことで、内部のひずみが除去できて構造が安定する、という自然現象「焼きなまし(アニーリング)」をシミュレートすることで解を得ようというものだ。この計算手法は1998年、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏によって提案された。

Jijは、西森研究室で学んだ大関氏を代表研究者として、2017年度、科学技術振興機構(START)の大学発新産業創出プログラムに採択されたプロジェクトの成果として設立された。2018年11月のことだ。

大関氏によれば、プロジェクト採択に当たってのヒアリングでは「量子アニーリングが世界的に注目されているタイミング。スピード感を持って取り組んでもらえるか」と問われ、支援期間が原則3年間のところを1年半で結果を出すよう求められたとのこと。「結局、それをさらに短縮して、1年強で成果を出すことができた」という。

このプロジェクトに参加していた代表取締役の山城氏は、現在も西森研で修士課程に在学中。同じく西森研に在学中の西村光嗣氏が研究・開発を担当し、東京工業大学、東北大学からのメンバーが中心となってチームに参加する。

今回のANRIからの調達資金により、Jijでは開発と人材強化に投資すると山城氏は述べる。「量子アニーリングは専門性の高い分野だ。その高い専門性の中でも技術力の高い人たちとやっていきたい」(山城氏)

大関氏は、量子力学を使った組み合わせ最適化問題の探索法と、シミュレータを使った探索法との違いについて「シミュレータを使った探索法では、スピンの配置(0か1か)はランダムでスタートして、移動しながら解を探索する。このため試し打ちが必要で無駄が出る方法だ。量子力学を使った探索法では、重ね合わせ状態からスタートして(スピーディーに)解を1つに絞ることができる」と説明する。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

現状ではシミュレータを使った計算のほうが安価で効率がよいケースも多いことは事実だが、大関氏は「今後のハードウェア、ソフトウェアの開発が進むことにより、こうしたコスト面の問題はいずれ解消できる」と考えている。このため「注力したいのは量子アニーリングのための開発」として、量子アニーリングに焦点を当てつつ、ほかのアニーリングマシンでも使えるソフトウェアを開発していくと述べている。

AIにぬくもりを!お笑いAI開発わたしはの次の挑戦が始まる

写真左手前がわたしはで代表取締役CEOを務める竹之内大輔氏

お笑いAIを開発しているわたしは(株式会社わたしは)は、ANRIと個人投資家5名からの資金調達を発表した。調達金額は4200万円程度。具体的なメンバーは50音順で、ANRI3号投資事業有限責任組合、日下部 雅謹氏(KITERETSU代表取締役社長)、佐藤裕介氏(ヘイ代表取締役社長)、SUDAX氏(個人投資家)、松本 大氏(マネックスグループ代表執行役CEO)、三木寛文氏(個人投資家)。

わたしはは2016年4月創業で、お題、回答、ツッコミが可能な「大喜利AI」をメインプロダクトとしつつ、大企業と共同開発やAI技術の提供といった事業を進めてきた。今回の資金調達により、LINE登録者数8万1000人(2018年12月現在)を突破している前述の大喜利AIや「都市伝説ジェネレータ」などのコミュニケーションAIの機能拡張、「合成音声AI」「音楽生成AI」を応用したユーザーとAIが一緒にコンテンツを作成できるサービスの開発に注力するとのこと。

同社で代表取締役CEOを務める竹之内大輔氏は、東京工業大学の博士課程で哲学や数理論理学を研究し、複雑系科学を専門とする人物。今回の資金調達については「これまでも弊社だけが開発できる、世界唯一のAIを作ってきました。今回、そんな弊社の『一見するとふざけたアイデンティティ』に共感してくださる方々に株主になっていただけて大変心強く思います。これからは、より一層、『わたしはが作るAIだから、最高に面白いAIに違いない』と期待し続けてもらえるようなオンリーワンのAIカンパニーとして成長を加速させていきます」とコメントしている。

なぜ「お笑いAI」なのか。「大学に在籍時していたころから、どうすればコンピュータにに感情を持たせられるのかを日々考えていた」と竹之内氏。GoogleアシスタントやAmazon Echo、AppleのSiriに代表される音声コミュニケーションAIは、ジョークを言ったり歌を歌うこともあるが、的確な処理を求められるため、どうしても画一的な回答になってしまう。対応できない処理があると「すみません、わかりませんでした」などというフレーズで謝ってくる。

大喜利人工知能公式LINEアカウントもある

竹之内氏は「AI(コンピュータ)に感情を持たせるには、直球的な回答の周辺にある少し外れた受け答えなのでは?」と考え、東京工業大学の工学博士で自然言語処理を専門とする同社CTOの小橋洋平氏と、お笑いAIの開発を進めてきたという。実は同社の「大喜利AI」のポテンシャルは、NHKのBSプレミアムの番組「AI育成お笑いバトル 師匠×弟子」で実証済みだ。この番組は、千原Jr、ロッチ中岡、大久保佳代子などが師匠、大喜利AIが弟子となり、それぞれのキャラクターに合ったAIに育てていくという内容。完成したAIはボッドとして、千原Jrなどがいかにも言いそうなフレーズを返してくれる。

「番組ではお笑い芸人さんのAIですが、例えばどこかの県のAI、どこかの市のAI、さらにはママ友仲間のAIなどコミュニティの大きさにかかわらず、さまざまAIを開発できます」と竹ノ内氏。音声によるAI(コンピュータ)とのコミュニケーションの機会は今後さらに増えていく。同社が開発する感情を持ったAIが、スマートスピーカーやロボットに搭載される日を期待して待ちたい。

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■関連リンク(外部)
大喜利人工知能公式アカウント(LINE)
大喜利人工知能 育成プロジェクト(Twitter)
大喜利β(Twitter)

スタイリングサービス/D2Cブランドの「SOÉJU(ソージュ)」がANRIなどから8500万円を調達

写真中央:モデラート代表取締役の市原明日香氏

パーソナルスタイリングサービス「SOÉJU Personal(ソージュパーソナル)」やD2Cアパレルブランドの「SOÉJU(ソージュ)」を展開するモデラートは12月19日、総額8500万円の資金調達実施を発表した。第三者割当増資の引受先はANRIポーラ・オルビスホールディングスと既存株主のフルコミットパートナーズの各社だ。今回の調達は、5月に実施した2480万円のシードラウンド調達に続くものとなる。

9月にも紹介したが、ソージュパーソナルは、30代、40代の女性をメインターゲットにしたファッションサービスだ。仕事や家事に追われて、なかなか毎日のコーデまで考えている余裕がない、という世代の女性に、プロのスタイリストが、個別にピッタリくる着こなしを教えてくれる。

サービスではまず、東京・代官山にあるサロンでアイテムを試着し、プロのスタイリストのアドバイスを受けられる(遠方などの場合はオンライン提案も可能)。体型に応じたサイズやスタイルの提案だけでなく、ライフスタイルに合わせた着まわしのコツも教えてもらえる。初回のカウンセリング料金は1時間5000円だ。

東京・代官山のスタイリングサロン「SOÉJU代官山」

その後は毎月、または3カ月に1度、手持ちの洋服とお勧めアイテムを組み合わせたスタイリング提案がオンラインで届く。お勧めアイテムはオンラインで購入も可能。迷ったときにはチャットでスタイリストに相談することもできる。こちらの料金は、1回の提案ごとに3000円のサブスクリプション型だ。

スタイリング提案では、自社アイテムだけでなく、ユニクロやZARAなどのブランドからリーズナブルなアイテムも合わせてコーディネートし、おすすめの服を教えてもらえる。モデラート代表取締役の市原明日香氏は「だいたい8割ぐらいの方で、ソージュブランドのアイテムだけでなく、別のアイテムも買っている」と述べている。

ソージュブランドのワンピースとユニクロの3Dニットの組み合わせを提案する市原氏

モデラートでは今年9〜10月の約1カ月間、MAKUAKEでクラウドファンディングを実施。ワンピースなど3種のベーシックアイテム販売とカウンセリング、スタイリングアドバイスを組み合わせたコースで支援を募ったところ、100万円の目標に対して150万円超を集め、プロジェクトを終了した。

市原氏は「クラウドファンディングでは通常、知り合いや知人の紹介で支援を得ることが多いと聞いていたけれども、面識がなく、紹介でもない方の支援が3分の1ほどになった。大きく宣伝したわけではなく、これだけ利用してみたいという方がいたということで、少し驚いています」と話す。

プロによるスタイリングというと敷居が高い感じもあるが、「MAKUAKEでは、(モノとして販売する)ファッションアイテムにアドバイスが付いてくる、という形でコースを用意したことで、スタイリングを身近に感じてもらうことができた」と市原氏。「商品からサービスも利用できるというのは、顧客にとっても分かりやすいようだ。MAKUAKEでの形式は今後も取り入れたい」(市原氏)

9月に行われた複数のVCと起業家の合宿プログラム「Incubate Camp 11th」のピッチイベントでは、「ベストグロース賞」を受賞しているモデラート。今回投資に参加したANRIからは、この時にもアドバイスを受けたそうだ。

今後のビジネス成長に向けモデラートでは、「機械学習を取り入れたスタイル提案にも取り組みたい」としている。ただ現時点では、ファッションスタイルにおいて「正解が何か」という点で、学習データづくりに課題があると市原氏はいう。

「Instagramなど、世にあるデータを使って正解データを作るか、それともスタイリストの提案を打ち出すか。事業をスケールするためには、スタイリストの作業を効率化したいので、機械学習は取り入れたいところだが、ソージュパーソナルのユーザーだけを対象にした“濃い”データが学習に適するのかどうか……」(市原氏)

当面は「スタイリストがInstagramなどのデータに正解を付ける、という形をひとまず検討している」と市原氏は言う。ただ「ライフスタイルは人それぞれだし、ユーザーの満足度にも自分軸だけでなく、『会社で評判のいいスタイル』や『家族や夫に評価されるスタイル』などいろいろな軸がある。最後はAIだけでなく、人が介入する必要はある」とも話している。

ソージュブランドでは「いろいろな軸に合わせられるという観点からも、『誰が来ても間違いじゃないもの』を基本アイテムとして用意している」という。これは「ZOZOとは違うアプローチ」と市原氏は説明する。

「ZOZOの場合は、ZOZOスーツの計測データから、体にピッタリ合ったものを用意しようというアプローチ。でもワンピースなど、30代、40代になってくると、女性はラインを気にする人も多く、ピッタリがよいとは限らない」(市原氏)

ワンピースを例にとると、ソージュのものはある程度の厚みと重みのある、しなやかな生地が使われているので、自分の好みやシーンに応じて、体の線に沿わせてスマートに着ることも、線を目立たせずに着ることもできる。

「アパレルでは『新しいものを出さなければ』という呪縛がある。でも、例えばユニクロは必ずしもそうではない。細かい色やモデルの変更はあっても、定番の形はいつでも揃っている。ベーシックでいろいろな着方ができるものを、ソージュでも定番アイテムとして用意している」(市原氏)

サロンに行ってアドバイスを受ける、というサービスの形については、市原氏は「その場で試着してみて、いろいろなアイテムを合わせてみることで分かることは必ずある。それがリアルの価値」と話す。しかし一方で、サロンに足を運ぶのが人によっては面倒と捉えられる部分もあることも、否定はしなかった。

「忙しい人にわざわざ来てもらって、手ぶらで帰るというのでは申し訳ないので、何か手に入れて帰ってもらいたい。特にサイズなどが揃っていない、ということはないように解決したい」(市原氏)

オンラインとオフラインサービスのちょうど良い落としどころとして、市原氏が注目しているのは、米国の「MM.LaFleur(エムエムラフルール)」のモデルだ。

MM.LaFleurでは、サロンやポップアップショップでの試着、ECショップでの通常の通販のほかに、「Bento Box」というセット商品の定期送付サービスがある。商品セットは、個人のスタイルやフィット感の好みに基づいて、スタイリストが選択。送付された商品の中から気に入ったものを購入し、合わなかったものは無料で返品できる。サブスクリプションモデルではないので、購入必須ではない。

MM.LaFleurの3カ月以内のリピート率は40%。創業から3年で年間売上高は約50億円に達し、「資金繰りがいいのでシリーズBラウンドの調達をキャンセルした」との噂もあるほど、好調にビジネスを伸ばしているサービスだ。

市原氏はこうした前例や、国内でエアクローゼットなどが展開する、レンタルサブスクリプション型のサービスも踏まえながら、「ソージュでは、自社ブランドや自社仕入れ商品だけでなく、他社のものからもスタイルを提案するところを特徴として打ち出している」と話す。

「高いものでなくても、ユニクロやZARAの製品で着心地の良いもの、スタイルの良いものもある。ソージュでは、スタイリストが有名ブランドとシルエットが似たジャケットをプチプライスブランドで見つけてきて、提案することもある。自社製品、自社扱い製品だけではなく、半分ぐらいは自社以外でいいものを伝えてもいいんじゃないかと思っているし、伝えるのが誠実だと考えている」(市原氏)

今回投資に加わったポーラ・オルビスホールディングスからは、こうした誠実さにもつながる、ビジネスのビジョンや美学を求められた、と市原氏はいう。「事業での協力が前提の出資ではないけれど、これをきっかけに、ポーラショップのスタッフらとの商品の共同開発や販売、店でスタイリングイベントを行うなど、コラボレーションもできればうれしい」(市原氏)

今回の調達資金については、スタイリストやデジタルマーケティング、アライアンスの担当者、エンジニアの採用に投資していくと市原氏は述べている。

独立系VCのANRIが総額60億円規模の新ファンド、シードステージとハイテク領域に注力

ANRIパートナーの佐俣アンリ氏(左)と鮫島昌弘氏(右)

YouTuberの支援やマネジメントを手がけるUUUMが8月30日に東証マザーズ市場に上場し、買い注文殺到で取引が成立せずに初日を終えたことが話題になったが、そんなUUUMにもシード期(創業期)から出資しているのが独立系ベンチャーキャピタルのANRIだ。そのANRIが第3号となる総額60億円規模のファンドを立ち上げる。

新ファンドの名称は「ANRI 3号投資事業有限責任組合」。LP(Limited Partner)としてミクシィやグリー、アドウェイズ、VOYAGE GROUP(いずれも2号までに出資している)、ヤフーといったネット企業に加えて、中小機構、みずほ銀行、西武信用金庫などが出資。現時点で約50億円を集めており、最終的に60億円規模までファンドを拡大する予定だ。すでに3号ファンドからの投資もスタートしており、これまで14社に対して投資を完了している。

シードステージのスタートアップに注力

UUUMのほかにも、クラウドワークスやペロリ、コネヒト、コインチェック(当時の社名はレジュプレス)、U-NOTEといったイグジット済み企業のほか、ラクスル、コイニー、スマートドライブ、CLUE、ハコスコなどに対してシードステージから投資を行ってきたANRI。新ファンドでも引き続き、シード、アーリーステージのスタートアップに対する投資に注力するという。

「60億円もあればミドル、レイターステージの投資もやると思われるが、あくまでシードに特化する。シードマネーというのはまだまだ足りない。歯を食いしばって投資をしているシードVCというのは少ない」(ANRIパートナーの佐俣アンリ氏)。大規模な独立系VCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、大学系VCなどがこの数年で立ち上がってスタートアップに流れる資金は全体としては増加しているが、その一方でイグジットまで時間がかかり、成功確率で言えば低くなるシードステージの投資についてはより一層の資金が必要だと語る。

シード投資とは言え、投資額については最大5億円(フォロー投資含む)までを想定しているという。「『シード投資は500万円』と誰が決めたわけでもない。たとえばイグジットした起業家がもう一度起業にチャレンジしたいとなった時などには、『1億円投資する』と言えるようにしたい」(佐俣氏)

本郷に拠点、ハイテク領域の支援も

またシード投資とあわせて強調するのが、大学や学術機関発のハイテク系スタートアップへの投資だ。元UTEC(東京大学エッジキャピタル)で、自身も東京大学の大学院で電波天文学を修めた研究畑出身の鮫島昌弘氏が昨年からパートナーとしてファンドに参画。これまで拠点としていた東京・渋谷に加えて、東京大学のある本郷にも拠点を立ち上げて、大学発のハイテクスタートアップへの投資やインキュベーションを進めている。今後は20代を対象としたアソシエイトの採用も検討しているという。

「Y Combinatorも数年前からバイオ領域への投資を進めているが、最近では日本でも宇宙やバイオといった領域での投資を進めているファンドがある。米国ではハイテクノロジーとインターネットが結びついてきている。日本では今までこれが分断されていたが、いよいよ(結びつく時期が)来る」(佐俣氏)

「ハイテク領域にもまだまだシードマネーが足りない。それはPOC(Proof of Concept:概念の実証)を越えるまでの研究は、あくまで公的な研究費などで行っていたから。『ここから1000万円あれば(実用化まで)いけるのに……』という事例は多い」(鮫島氏)

とはいえウェブサービスなどとは違い、ハイテク領域はピボットが難しい領域。倒産率だって高くなる。これについてはANRIでも想定しており、「基本的には死屍累々の領域。(リスクをとって)挑戦するための投資をしていくことをファンドの設計に組み込んでいる」(佐俣氏)としている。

さらに弁護士や弁理士、クラウド会計サービスなどと連携。シード期では社内に持ちにくいバックオフィス機能や法務などを支援していくほか、投資家が起業家予備軍の人材に対してビジネスプランを提案するインキュベーションプロジェクトなども展開する予定だとしている。

創業期のスタートアップとエンジェル投資家を結ぶ「Tokyo Angel Network」、ANRIが立ち上げ

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独立系ベンチャーキャピタルのANRIが、創業前後のスタートアップとエンジェル投資家のマッチング支援に乗り出した。2月3日より「Tokyo Angel Network」を立ち上げる。まずはGoogle Docs上で、スタートアップがエンジェルに対して事業や資本政策のメンタリングを希望するスタートアップを募る。

Tokyo Angel Networkに参加するエンジェル投資家は川田尚吾氏(ディー・エヌ・エー共同創業者)、木村新司氏(グノシー・アトランティス創業者)、山田進太郎氏(メルカリ・ウノウ創業者)、笹森良氏(フンザ創業者)、赤坂優氏(エウレカ創業者)、佐藤裕介氏(フリークアウト・イグニス創業者)、中川綾太郎氏(ペロリ創業者)の7人。応募するスタートアップの事業プラン対してANRIがスクリーニングを実施。一定基準(具体的には公開していないが、市場性や実現性、起業家の熱意といった話だろう)を満たしたスタートアップをエンジェルに紹介するという。ただしANRIはあくまでプラットフォームを運営するという位置付けになっており、応募するスタートアップへの投資の権利や義務を持たない。

このネットワーク、あくまでメンタリングのためのマッチングであり、それ以上の内容はうたっていない。だが、ここでエンジェルと話す機会を得てコミュニケーションをとることがきっかけとなって、将来的に投資や支援に繋がる可能性は決して低くないだろう。

VCとエンジェルで担えることは違う

ANRI代表パートナーの佐俣アンリ氏いわく、エンジェル投資をめぐる課題として、「スタートアップは良いエンジェルへのアクセス方法がない、一方でエンジェルはスタートアップからたくさんの連絡が来てしまうのが困る」ということがあるのだという。エンジェルへのアクセスがないゆえにシードVCからの調達を受けたあとにエンジェル投資を受ける、なんていうケースも少なくないそうだ。

日本でエンジェル投資家による出資といえば、数百万円程度というケースが少なくないので、シードファイナンスでバリュエーションが上がった後になると、エンジェルの持てる株式は非常に少なくなる。以前にも触れたが、そもそもエンジェル投資というのは「リターンありき」という話ではなく「スタートアップへの還元」という意味合いがある。なので持てる株式の割合がすべてではないのだが、それでもエンジェルこそが最初にスタートアップを支援すべき、というのがTokyo Angel Networkの考えだ。

「VCが担えることと、エンジェルが担えることは違う」と佐俣氏は語る。もちろんVCにはいろいろなバックグラウンドの人物がいるが、同氏は「僕は起業家出身ではないので、メンタルやチームの雰囲気について言ってあげるようなことしかできない」と自らについて語った上で、「例えばSEOの話なんかは3カ月でトレンドが変わる話。であれば現役でその領域を見ているエンジェルに力を貸してもらうのが一番いい。またイグジットして少し経った起業家したエンジェルなら、現役とは違う、達観したアドバイスもできる。何より尊敬している人のお金を預かることにこそ責任感と自信になるのではないか」とした。

米国ではAngel Listのようなエンジェル投資家のマッチングプラットフォームがある。もちろん日本では法律やエンジェルの数も違うので(そもそもこの数年で自らのスタートアップをイグジットさせた起業家が増えたことで、やっとエンジェルに関する話題も出てきたのではないか)そのまま持ってくるというわけにもいかないのだろうが、Tokyo Angel Networkも将来的にはそういったプラットフォームを目指すとしている。

photo by
Josh McGinn

TechCrunch Tokyoで若手独立系ベンチャーキャピタリスト2人にスタートアップの「今」を聞く

新聞やビジネス誌でも「ベンチャーブームの再来」なんて文字が踊るようになって久しい。たしかに数年前に始まったインキュベーションプログラムは成熟度が増して、そこから優秀なスタートアップが生まれつつある。10月末に開催されたのIncubate Campなども、僕は行けなかったのだけれども審査員やメディアからはサービスやプレゼンのレベルの高さについて聞くことも少なくなかった。またIPO市場を見ても、最近話題となった弁護士ドットコムとクラウドワークスのマザーズ上場を始めとして活況を呈している。もちろん上場までの期間を考えると、直近に創業した会社ばかりというわけでもないのだけれど。

佐俣アンリ氏

だが果たしてこれはブーム、つまり一過性のものなのだろうか。僕はそう思っていないし、そうならないためにできることはやっていきたいと思っている。僕たちがまず出来るのは、新しいプロダクト、サービスを生み出す人たちを取材して正しく伝えることだし、ベンチャー、スタートアップという東京の渋谷や六本木周辺を中心にしたコミュニティの”業界ごと”を“世の中ごと”にすることなんじゃないか。TechCrunchの編集部にジョインなんて記事で華々しくデビューしてしまった(させてもらった)者としてそう考えている。

僕が一過性だと思わない理由はスタートアップを取り巻くエコシステムの拡大だ。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家、インキュベーター、士業、監査法人、さらには大企業の新規事業担当者など、スタートアップを取り巻く環境はここ数年で大きくなり、正直取材をするだけでもひと苦労になっている。もちろん少なくないプレーヤーが失敗してはいるのだけれど、全体としてはより大きなものに成長している。投資額だってそれに合わせて大きくなっている。CrunchBaseにある地域ごとの投資マップ(こちらは2014年10月分)を見ても毎月の投資額がそれなりに大きいことが分かるし、CB Insightsの記事によると、東京での資金調達額も過去2年(2012年11月〜2013年10月と2013年11月〜2014年10月)を比較して約2割増だそうだ。

木下慶彦氏

さて、11月18日〜19日に開催するTechCrunch Tokyo 2014では、そのエコシステムの中から若手の独立系ベンチャーキャピタルにスポットを当てて、スタートアップを取り巻く環境について聞いてみたいと思う。11月18日夕方のセッション「独立系ベンチャーキャピタリストが語る投資の今とこれから」には、ANRI General Partnerの佐俣アンリ氏、Skyland Ventures 代表パートナーの木下慶彦氏に登壇頂く予定だ。2人はそれぞれ20代にして自らの手でベンチャーキャピタルを立ち上げ、投資を行ってきた。

ANRIは前述のクラウドワークスのほか、DeNAが買収したペロリなど、すでに投資先のイグジットの実績があるし、Skyland Venturesも投資先の八面六臂が7月にリクルートなどから4.5億円の調達。トランスリミットは対戦型脳トレアプリ「BrainWars」が現在世界500万ダウンロードを達成し、さらにLINEなどから3億円を調達。それぞれサービスの拡大を進めているところだ。

このセッションではそんな2人に、どうして自らベンチャーキャピタルを立ち上げるという選択肢を選んだのか、今どういった視点で投資を行っているのか、さらにはスタートアップを取り巻く環境の今とこれからについて聞いてみたいと思っている。開催まで間もないが是非とも2人の話を聞きにきて欲しい。

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若手独立系VCのANRIが20億円規模の新ファンド–ポートフォリオも公開

佐俣アンリ氏(前列左から2人目)と投資先の起業家たち

2年前のTechCrunch Japanに、「独立系ベンチャーファンドのANRIを立ち上げたのは28歳の若き投資家」という記事があったのだが、今年30代に入ったばかりの独立系ベンチャーキャピタリストである佐俣アンリ氏が、7月に入って2つめのファンドとなる「ANRI2号投資事業有限責任組合」を始動させた。

ファンド規模は20億円程度を目指すとのことだが、まずはIT系事業会社を中心にして、ファーストクローズで5億円を集めている。これは若手の独立系ベンチャーキャピタルが手がける金額としては大きな規模だ。投資の対象とするのはシード、シリーズAでの調達を目指すスタートアップで、1社につき500万円から最大で1億円程度と、柔軟に出資をしていく予定だという。「シードからシリーズAまでを一緒にやっていきたい。実はこの時期はプロダクトの急成長期。それなのにファイナンスのために経営者のリソースが大きく取られることが多い。その負担を減らすのが投資家の根本的な役割だと思う」(佐俣氏)

新ファンドは、国内スタートアップへの投資を中心にするものの、東南アジアや米国といった海外のスタートアップへの投資も視野に入れているとのこと。投資領域については、「PayPalマフィアは今、社会問題の解決のために投資をしている。同じように世界の大きな問題を解決したい」(佐俣氏)とのことで、「IT」と通貨や物流、交通といった「社会インフラ」とのかけ算に挑戦するようなスタートアップに注目していくという。また、これまで同氏は1人でファンドを運用してきたが、年内にももう1人のパートナーが参画する予定だという。

業界関係者からは漏れ聞こえてきたりするものの、実はANRIは投資先のポートフォリオを一部しか公開していなかった。今回の調達にあわせて改めて話を聞いたのだけれど、これまでにコイニー、クラウドワークス、ラクスル、uuum、スクー、ペロリのほか、U-NOTEやスマートドライブなどに対して、おもにシード期に投資を実行してきたという。新ファンドの投資領域と同じく、決済や印刷、クラウドソーシングをはじめとして、社会のインフラを目指すスタートアップが多い気がする。イグジットこそしていないものの、成長フェーズの企業が並んでおり、ファンドとしても順調だ。

実は僕は佐俣氏が学生の頃からの知り合いなのだけれど、正直ここ1、2年で人間的にも成長していると感じていたし、周囲のベンチャーキャピタリストからもそう聞くことが多くなっている(本人にも言ったので書いておくと、学生の頃などは「なんかやたら起業に詳しい、ツンツンした兄ちゃん」という印象だったし…)。

そんなことを正直に伝えたところ、佐俣氏はちょっと笑って「本質的には一生懸命なところは昔から変わらないんですが」と言いつつ、「昔はハンズオンという言葉を使って、『俺がやってやる』とも思っていた。でもそれはおごりだった。例えば、投資家として事業を分かっているつもりで投資先に半分だけコミットして、実はそれが邪魔になっていることに気づけなかったこともあった」と振り返った。

佐俣氏はこう続ける。「独立して自分の名前でお金を預かることで、そんな批評家からプレーヤーになったと思う。起業家と投資家の関係は太陽と月みたいなもの。投資家は起業家がいてこそ初めて輝くものだから、起業家に輝いてもらう環境を作りたい」