「デスクレス」ワーカーを対象とした企業向け学習プラットフォームの拡大に向けて英EduMeが約23億円調達

B2B市場で新たなチャンスを狙うテック企業が注目を寄せる「デスクレス」ワーカー。2022年1月、この分野を対象としたeラーニングツールのスタートアップが成長を促進するための資金調達ラウンドを発表した。

ロンドン発のEduMe(エジュミー)は、急成長中のテック企業やさまざまな場所から働く従業員やパートナーを抱える企業を対象に、企業が自由に構築できるオンライントレーニングや教育を「マイクロラーニング」モジュール形式で提供するスタートアップだ。今回のシリーズBラウンドで2000万ドル(約22億9000万円)を調達した同社は、これまで一定の成長を遂げてきた米国でのさらなる事業拡大を図るためにこの資金を活用する予定だという。

今回のラウンドはWorkday(ワークデイ)の戦略的投資部門であるWorkday Ventures(ワークデイ・ベンチャーズ)とProsus(プロサス)が共同でリードしており、EduMeのシリーズAをリードしたValo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)も参加している。HRプラットフォームであるWorkdayによる投資は、企業内学習やデスクレスワーカーをターゲットにした取り組みを同社が検討しているということの表れでもあるため(どちらも同社の現在のプラットフォームにとって最適な補足要素である)非常に興味深く、また将来M&Aにつながる可能性もなきにしもあらずである。一方EduMeは、IT分野でeラーニングをより使いやすくすることができれば、そこに成長のチャンスがあると踏んでいる。

EduMeのCEO兼創設者であるJacob Waern(ジェイコブ・ワーン)氏はインタビュー中で次のように話している。「デスクレスワーカーへのサービス提供方法のエコシステムが変化しています。アプリを10個持つのは邪魔なので、CRMプラットフォームなどと統合し、従業員が簡単に繋がれるコンテンツを提供したいと考えています」。

EduMeへの投資の他にもProsusは複数のEdTech企業に注力しており、同じく1月に同社は若い消費者ユーザーをターゲットとするオンライン家庭教師プラットフォーム、GoStudent(ゴースチューデント)の大規模ラウンドを主導すると発表した。

かつては敬遠されていたものの、今や主流となったデスクレスワーカー市場への着目は、EduMe自身のDNAを反映している。

もともとは新興国(現在はラテンアメリカ、当時はラテンアメリカとアフリカ)を中心に事業を展開する通信事業者、Millicom(ミリコム)により、通信事業者の顧客層にeラーニングを提供する目的で始まったのが同サービスだ。当時Millicomに在籍し、同サービスを構築したワーン氏は、同サービスが消費者や個人事業主ではなく企業に最も支持されていることを知り、先進国も含めたより広い市場でこの機会を倍増させるために事業のスピンアウトを決行した(EduMeはMillicomからの出資を受けていないとワーン氏は話している)。

急速に規模を拡大し、多様なチームとのコミュニケーション方法を必要としていたライドシェアリングや宅配業者などの業種を初期ユーザーとして見いだした同社。その後、物流、モバイルネットワーク事業者、小売、接客業、ヘルスケアなどの企業にも導入が進められ、現在では、Gopuff(ゴーパフ)、Deliveroo(デリバルー)、Deloitte(デロイト)、Uber(ウーバー)、Vodafone(ボーダフォン)など、約60社のグローバルな顧客を有している。EduMeは、総ユーザー数、使用されている学習モジュール、その他の指標を公開しておらず、評価額についても触れていない。

同社の成長の影には、B2Bのテクノロジー市場における一大トレンドが存在する。デスクレスワーカーは従来、いわゆるナレッジワーカー層に隠れ無視されてきた。1日中パソコンに向かっているナレッジワーカーは、オンライン学習ツールを購入して使用するターゲットとしてあまりにも明白だったからだ。簡単に言えば、こういったユーザーを対象に製品を開発し、販売する方がはるかに簡単だったのだ。

それがここ数年で大きく変わることになる。最も重要なのは、モバイルテクノロジーとクラウドコンピューティングの進歩によってこの進化が促進されたという事実だ。ナレッジワーカーもそうでない人も、今では誰もがスマートフォンを使って仕事をし、より高速な無線ネットワークを利用して小さな画面での利用を想定したアプリケーションを外出先で利用している。

そして最近、その変化を加速させたのが新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックだ。リモートワークが当たり前になったことで、より多くの人に向けたソリューションが民主化されるようになった。ワーン氏によると、現在世界の労働人口の約80%がデスクレスと推定されているという。

リモートワークの台頭が拍車をかけたのはそれだけでない。物理的な共通スペースでともに仕事をすることができなくなったため、オンライン学習ツールは、企業がチームとコミュニケーションをとったり、トレーニング、オンボーディングや専門的能力の開発に利用したりするための、最も重要かつ中心的な存在となった。

このトレンドの成長は非常に大きなビジネスへと変革しており、2020年の企業内学習関連の市場は、2500億ドル(約28兆6211億円)と推定されている。パンデミックの他、ビジネスや消費者の長期的な習慣の変化がもたらす成長の加速により、2026年には4580億ドル(約52兆4247億円)近くにまで膨れ上がる見込みだという。

リモートワーカーおよびデスクレスワーカーに焦点を当てているという点が、現在の市場におけるEduMe独自のセールスポイントだと同社は考えているようだが、実際はこの分野唯一のプレイヤーと呼ぶには程遠く、激しい競争に直面することになるだろう。企業内学習を促進するために多額の資金を調達したスタートアップには、360Learning(360ラーニング)LearnUpon(ラーンアポン)Go1(ゴーワン)Attensi(アテンシ)などがあり、さらにLinkedIn(リンクトイン)もこの分野に大きな関心を持っている。

「パンデミックによって私たちの働き方は、想像もつかないほどの変化を遂げました。それにともない、従来のようなデスクを持たない従業員を多く持つ急成長中の業界をサポートする必要性は高まる一方です」。Workday Ventures のマネージングディレクター兼代表の Mark Peek (マーク・ピーク)氏は声明中でこう伝えている。「EduMeの革新的なトレーニング・学習プラットフォームは、拡大し続けるデスクレスワーカーに対応しながら、組織が変化を乗り越えて成長するのを支援しており、弊社が EduMe をサポートする理由はそこにあるのです」。

画像クレジット:Smith Collection/Gado/Getty Images / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

プロトレーナーによるマンツーマンのダイエット指導をオンラインで提供するWITH Fitnessのウィズカンパニーが1億円調達

プロトレーナーによるマンツーマンのダイエット指導をオンラインで提供するWITH Fitnessのウィズカンパニーが1億円調達

プロトレーナー指導による、マンツーマンのオンライン・パーソナルトレーニングアプリ「WITH Fitness」(ウィズフィットネス)(iOS版)を提供するウィズカンパニーは2月1日、第三者割当増資により約1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は千葉道場、デライト・ベンチャーズ。

調達した資金は、新たなトレーナーやエンジニアといった人材の獲得、健康経営を実施している企業との連携も見据えたプロダクト開発にあてる。今後は、個人だけでなくジムや健康経営に興味を持つ企業との連携も視野にサービスを拡大する予定とのこと。

WITH Fitnessでは、厳選されたプロトレーナーが、ユーザーの目的や体質に合ったダイエット指導をマンツーマンで提供するというアプリ。徹底管理型のパーソナルトレーニングとしており、ユーザーごとに「今」必要なトレーニングメニューと日々の食事方針を指導するという。

食事の記録については、写真を撮影してアプリにアップロードするだけ、また運動の記録ではトレーナーが組んだメニューを実行するだけで完結する方式を採用。このため、忙しい人でも手間なく簡単に記録を続けられるよう設計しており、さらにこれが報告とシームレスにつながるようにしている。

また、Apple Watchなどのウェアラブルデバイスと連携してアクティビティを自動的に同期する機能も備えており、ユーザーが自身の状況を管理しやすいという。これらアプリの機能をパーソナルトレーニングに特化させることによって、プロのトレーナーによる指導価値がオンラインにおいても目減りしないダイエット経験が得られる。

さらに、好きな時間にZoomを使ったリアルタイムのオンラインレッスンを受講することも可能で、レッスン後には専属トレーナーから専用の運動メニューと食事方針が届くという。

2020年7月設立のウィズカンパニーは、「望む人がずっと理想の身体で生きられる世界を創る」というビジョンを掲げるスタートアップ。オンラインでもプロトレーナーの指導価値が120%で届く体験を目指し、アプリ開発およびサービスの改善を進めているという。

漕いで漕いで漕いでスマホを充電、トレーニングを電力に変えるSportsArtのジム用マシン

サプライチェーンからトレーニングジムのメンバー基盤まで、すべてをずたずたにしたパンデミックの中、プロフェッショナルグレードのジム用マシンメーカーのSportsArt(スポーツアート)が、電力網にエネルギーを戻せるローイングマシンを発売したのは、ちょっと夢のある話だ。風力発電やソーラーパネルと違うのは、動力が胸筋と三角筋と僧帽筋だというところだ。

このローイングマシンではマイクロインバーターで、ひと漕ぎごとの運動を携帯電話の充電に変える。同社の試算によると、放電状態のiPhoneをフル充電するには約2時間のボート漕ぎが必要だ。ちなみに私はバッテリーが切れそうな携帯電話をエクササイズマシンに乗るモチベーションに変えることにしばらくの間、興奮を覚えた。ハンドルバーのグリップには漕ぐ抵抗を増やすコントロールがあるので、ご想像のとおり、抵抗を増やせば発電力が高くなる。

同社はこのG260ローイングマシンを先週ラスベガスで行われたCESで披露し、漕手が出力したエネルギーの約74%を利用可能な電力に変換できると語った。私は今週、同社のCOOと話す機会があり、人力を使って電気を作ることになぜ意味があるのかを尋ねた。

「1時間のワークアウトで、概ね冷蔵庫の消費電力、約200ワット時が生み出されます」とSportsArtのCOOであるCarina Kuo(カリーナ・クオ)氏が説明した。ただし、ボートを漕いでTesla(テスラ)を充電するのはまだ無理だと彼女は認めた。ポイントはそこではない。「通常のトレッドミル(ランニングマシン)は1時間当たり約1000ワットの電力を消費します。ワークアウトするだけでなく、ワークアウトの消費電力を相殺する手助けができるというのが私たちの考えです」。

SportsArtは創業40年以上になる会社だ。本社は台湾で、米国の事業拠点はシアトルにある。さらに同社は、ドイツとスイスにも事業所を持ち、300人の従業員が世界に散らばり、80カ国で営業活動を行っている。主要なターゲットはトレーニングジムと体力をつけるためのリハビリテーション施設だが、現在ホーム市場も評価しているところだ。短期的には、マンションなどの共用ジムが同社にとって最適な対象だとクオ氏は言った。

「特にフィットネス業界では、新型コロナウイルス感染症のためにジムを稼働できないことが、家庭向け販売の爆発的増加につながっていることにまちがいありません。そこは競争が非常に困難な分野で、なぜならほとんどの購入者は安い製品のことを考え、必ずしも質を求めていないからです。これは当社が競争したい場所ではありません。私たちは品質の重要性を信じています」とクオ氏は説明し、同社が10~15年前に販売したエクササイズ器具を今でもメンテナンスしていること、今もジムや医療現場で業績をあげていることを話した。「私たちは最良の部品を使うことにこだわり、あらゆる部分を業界最高の保証で守っています。市場でこのような差別化要因を持てることは重要だと固く信じています」。

業務用マシンが主であることは、マシンがジムの片隅で95%の時間使われずにいるのではなく、発電し続けているほうがいいということを意味している。利用回数が大きく増えれば、マシンはジムの電気代にインパクトを与えられるかもしれない。

「私たちは家庭市場に進出しようとしているわけではありません。今は最適なターゲットを探しているところです」とクオ氏は説明し、同社の過去40年間のグリーンとリサイクルへの取り組みを強調した。「ジムでは特に違いが生まれます、なぜならサステナビリティのメッセージを発信できるからです」。

画像クレジット:SportsArt

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nob Takahashi / facebook

有名アスリートと一緒にトレーニングできるアプリ「Masters」

Mastersアプリのアスリートたち(画像クレジット:Masters)

2022年の現在は、スマートフォンのアプリの中でレッスンを受けて有酸素運動をしたり、筋肉を鍛えたりするアプリが実にたくさんある。(IPOした)Peloton(ペロトン)のようなプラットフォームの成功はよく知られているが、もちろん、900万ポンド(約14億円)を調達したFiiT(フィット)や、990万ドル(約11億3000万円)を調達したFitplan(フィットプラン)などの新興企業もある。加えて、コーチが自分でコースを作成するMoxie(モクシー)もある。しかし、いまだにあまり開拓が進んでいないのが、セレブリティフィットネスのクラスだ。MasterClass(マスタークラス)は、ハイアートの分野ではほぼ市場を掌握しているが、セレブリティフィットネスは相対的に未踏の分野である。もちろん、有名人が自分のフィットネスアプリを作ることはあるが、その魅力は限られており、有名人にとっては副業に過ぎない。

しかし今、2021年にベータ版を公開した新しいスタートアップ企業が、エリートアスリートから筆者のような凡人がトレーニングを受けられるプラットフォームになることを目指している。

Masters(マスターズ)」は、ユーザーが世界で最も有名なアスリートたちと一緒にトレーニングを行い、4週間のガイド付きオンデマンド・トレーニング・プログラムを通じて、彼らの仕事の秘訣を学ぶことができるアプリだ。

このスタートアップ企業は先日、シードラウンドで270万ドル(約3億900万円)の資金を調達した。このラウンドはKing.com(キング・ドットコム)創業者のファンドであるSweet Capital(スイート・キャピタル)が主導し、Mucker Capital(ムッカー・キャピタル)、Goodwater Capital(グッドウォーター・キャピタル)、Luxor Capital(ラクサー・キャピタル)が参加した他、Shaun White(ショーン・ホワイト)選手、Bam Adebayo(バム・アデバヨ)選手、Kai Lenny(カイ・レニー)選手、A’ja Wilson(エイジャ・ウィルソン)選手などのアスリートや、Anton Gauffin(アントン・ガウフィン)氏、Jakob Joenck(ヤコブ・ヨーンク)氏、Henrik Kraft(ヘンリク・クラフト)氏、Greg Tseng(グレッグ・ツェン)氏、Prerna Gupta(プレーナ・グプタ)氏、Hank Vigil(ハンク・ヴィジル)氏、Janis Zech(ジャニス・ツェッヒ)氏、Andreas Mihalovits(アンドレアス・ミハロビッツ)氏などのプロフェッショナル技術系エンジェル投資家もエンジェルキャッシュを投じた。

同社はすでに何人もの世界的に有名なアスリートと契約を結んでいる。例えば、X GAMES(エックスゲームズ)と3度のオリンピックに出場したスノーボードチャンピオンのショーン・ホワイト選手、3000メートル障害の世界チャンピオンで9度の全米チャンピオンであるEmma Coburn(エマ・コバーン)選手、サーフィンの世界チャンピオンであるカイ・レニー選手、サッカー界のスーパースターでゴールデンボールを獲得したAda Hegerberg(エイダ・ヘガーバーグ)選手、ウィンブルドンで2度の優勝を果たしたテニスチャンピオンのPetra Kvitova(ペトラ・クビトバ)選手などだ。

MastersのCEO兼共同設立者であるGreg Drach(グレッグ・ドラック)氏は次のように述べている。「学習の将来性とは『最高の人から学ぶ』ことであり、同じようにトレーニングの将来性は『最高の人と一緒にトレーニングする』ことです。優秀なトレーナーが指導する対面式のグループエクササイズクラスに10人が参加できるなら、オリンピックメダリストやNBAレジェンドが指導するバーチャルクラスには1000人、1万人が参加できるはずです。私たちの目標は、そんな勝利の方法を、誰もが取り入れることができる実践的なプログラムに変換することです」。

Mastersアプリ 画像クレジット:Masters

Mastersは現在、iOSアプリとして配信されている。各コースはコホートベースで、同じ道のりを歩む同輩と一緒に参加することになる。レッスンは高品質の動画で提供される。

このスタートアップ企業は、都市型ランニングコミュニティ「Midnight Runners(ミッドナイト・ランナーズ)」創業者のグレッグ・ドラック氏とChristian Dorffer(クリスチャン・ドーファー)氏、そして2020年にReddit(レディット)に買収されて2021年廃止された動画共有アプリ「Dubsmash(ダブスマッシュ)」の元CTO / 共同創業者だったDaniel Taschik(ダニエル・タシク)によって2021年に設立された。

Sweet CapitalのRiccardo Zacconi(リカルド・ザッコーニ)氏は次のようにコメントしている。「私はいつも、最高のプロスポーツ選手がトップに立つためにどんなことをやっているのかを知りたいと思っていました。例えば、彼らは実際にジムに行って何をしているのか?Mastersは、彼らのルーティンを、誰にでもできる具体的なプログラムに落とし込むことに成功し、多くの人の心に強く訴えたのです」。

Mastersが今回のラウンドで調達した資金は、新たなアスリートとの契約、Androidアプリの立ち上げ、製品の改良のために使われる予定だ。

ドーファー氏は筆者にこう語った。「人々は、テレビやソーシャルメディア、印刷物、オーディオブックなどで、スポーツ界のアイドルを追いかけるのが好きです。Mastersはまったく新しい出版フォーマットであり、私たちはこれを『インタラクティブ・トレーニング・ドキュメンタリー』と呼んでいます。私たちは、このプレミアムな教育フォーマットこそが未来であり、従来の悠長に構えたビデオフォーマットは競争に苦戦することになると信じています」。

 

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Sounding Boardが管理職向けコーチングをサービスからSaaSへ移行

組織のリーダーと彼らに指導を行うコーチを結びつけるマーケットプレイスとしてスタートしたSounding Board(サウンディング・ボード)は、新型コロナウイルス流行初期の頃に、メンターシップの刷新が必要であることに気づいた。

「私たちはこれまで、伝統的なサービス形式でコーチングを提供してきました」と、Sounding BoardのCEOで共同設立者のChristine Tao(クリスティン・タオ)氏は語る。「そう、私たちはもうオフィスにはいません。だから人材やリーダーをどのように育てていくかについて、これまでとは違った話をする必要があるのです」。この洞察は、ユーザーをコーチと結びつけるだけではなく、ユーザーが継続的に目標を追うことができるソフトウェアプラットフォームの起ち上げにつながった。

画像クレジット:Sounding Board

このビジョンに基づき、シリーズA資金調達を成功させてから1年近く経った今、Sounding BoardはシリーズBを3000万ドル(約34億円)でクローズした。Jazz Venture Partners(ジャズ・ベンチャー・パートナーズ)が主導したこのラウンドは、Gaingels(ゲインジェルズ)の他、theBoardlist(ザ・ボードリスト)のSukhinder Singh Cassidy(スキンダー・シン・カシディ)氏、Ancestry.com(アンセストリー・ドットコム)のDeb Liu(デブ・リュー)氏、Udemy(ユーデミー)のYvonne Chen(イヴォンヌ・チェン)氏、DocuSign(ドキュサイン)のTammy Aguillon(タミー・アギロン)氏などのエンジェル投資家も参加した。これまでの投資家の中には、Canaan Partner(カナーン・パートナー)、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)などが含まれている。

また、今回のラウンドでは、JAZZ Venture PartnersのJohn Spinale(ジョン・スピナーレ)氏が取締役に就任し、Sounding Boardの女性ばかりのチーム(および女性ばかりの取締役会)に加わることになった。「これは冗談ですが、私たちは実際に取締役会に多様性を加えなければなりませんでした……男性です」といってタオは笑った。

この資金調達は、Sounding Boardが過去7四半期にわたって、連続した成長を着実に遂げてきた結果によるものだ。タオ氏は収益の詳細については明らかにしようとしなかったものの、同社によると、過去の収益は「数百万ドル(数億円)」で、年間の予約件数は前年同期比で350%以上増加しているという。スティッキネス(粘着性)に関しては、Sounding Boardは同社の純収益維持率が200%を超えると主張。これはつまり、既存の顧客が時間が経ってもプラットフォームへの支払いを継続していることを意味する。

Sounding Boardの最大の競合企業であるBetterUp(ベターアップ)は最近、コーチングの背後にあるソフトウェアに、同じように焦点を移していることを示すような買収を繰り返している。Motive(モーティブ)を買収したのは、BetterUpのクライアントが、エンゲージメント調査や世論調査などですでに収集しているデータの背後にある感情的な背景を理解するために役立つからだ。このユニコーン企業はImpraise(インプライズ)も買収した。Impraiseは、リアルタイムのパフォーマンスレビューや、よりシームレスなフィードバックチャネルを通じて、管理職が直属の部下をよりよくサポートできるようにするためのテクノロジーを提供している。

BetterUpの成長は、投資家の間で、エグゼクティブトレーニングの重要性を高めることに貢献しているとタオ氏は考えているが、広範なコーチングツールよりも、よりリーダーシップに特化したサービスを提供できる余地がまだあると、同氏は見ている。Sounding Boardの共同設立者であるタオ氏は、2020年の間、精神的・感情的な状態をサポートすることで個人の能力を管理することに焦点を当てた多くのソリューションを目にしてきたという。例えばBetterUpの「care(ケア)」などだ。

「しかし、それと並行して、管理や効果的なコミュニケーションができる本物のスキルと能力も実際には必要です」と、タオ氏はいう。Sounding Boardでは、エグゼクティブトレーニングの能力面を解決することにより関心を向けており、現在のところはメンタルヘルス面に注力する計画はない。もちろんこれでは、競合他社が両方面に充実したソリューションを提供すれば、Sounding Boardからシェアを奪う可能性がある。今のところ、Sounding Boardの顧客はそちらの方面を意識してはいないようだ。

「(メンタルヘルスに関する)企業の福利厚生を考えると、それはもう少し無干渉なものではないでしょうか。用意されていれば、参加するかどうかを自分で選ぶという種類のものですが、それは従業員のためのものであるはずです」と、タオ氏はいう。「一方、能力開発に関しては、企業にとっての必要性があり、自ら投資したいと思うものであり、それを行う責任があるのではないかと私は考えます」。

Sounding Boardは現在、Plaid(プレイド)、Chime(チャイム)、Bill.com(ビル・ドットコム)など約100社ほどの顧客を持っている。

画像クレジット:Francesco Carta fotografo / Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「ハリウッドスタイル」の映像でサイバーセキュリティトレーニングを提供するArctic WolfがHabitu8を買収

「セキュリティオペレーションのコンシェルジュサービス」を提供するサイバーセキュリティ管理企業のArctic Wolf Networks(アークティック・ウルフ・ネットワーク)は、セキュリティに関するトレーニングとアウェアネス(意識向上)のためのコンテンツプラットフォームであるHabitu8(ハビッツエイト)を買収した。

Arctic WolfがシリーズF投資ラウンドで1億5000万ドル(約167億円)の資金を確保してから、わずか2カ月後に行われたこの買収の条件は明らかにされていないものの、この件に詳しい人物がTechCrunchに語ったところによると、買収は現金と株式の組み合わせで支払われたとのこと。Arctic Wolfは、この買収によって60から70の顧客を獲得するだろうと、この関係者は語っている。

Habitu8は、Sony Pictures Entertainment(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)、Walt Disney(ウォルト・ディズニー)、Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)でセキュリティトレーニングの取り組みを主導した経験を持つJason Hoenich(ジェイソン・ホーニッヒ)氏らが、2017年に共同で設立した企業だ。これまでに3回の資金調達を完了しているこのスタートアップは「ハリウッドスタイル」で制作された実写ドラマ形式の映像を使ってサイバーセキュリティ意識を高めるアプローチを取っている。この方法はセキュリティにおける人間的要素を強化するのに効果的であることが実証されていると、同社では主張している。

今回の買収により、Habitu8の学習プラットフォームと、Arctic Wolfが提供する「Managed Security Awareness(マネージド・セキュリティ・アウェアネス)」プログラム(同社によると、2021年5月のリリース以来「数百」の顧客に提供されているという)を組み合わせることで、業界初となるコンシェルジュ・サービスとしてのセキュリティアウェアネス / トレーニングのプログラムが誕生する。

「サイバーリスクをなくすためには、トレーニングとアウェアネスのプログラムが重要であることを、人々は知っています」と、Arctic Wolfの社長兼CEOであるNick Schneider(ニック・シュナイダー)氏は語っている。「しかし残念ながら、ほとんどのセキュリティ・プログラムで提供されているコンテンツは、低品質で退屈なものが多く、結局のところ、Netflix(ネットフリックス)のようなオンデマンドで高品質な体験を求める現代のユーザーのニーズに、効果的に応えることはできません」。

「Arctic WolfのプラットフォームにHabitu8が加わることで、現代的で高品質なセキュリティアウェアネス / トレーニングのプログラムをマネージドサービスとして提供し、それを当社の専門家によるコンシェルジュ指導と組み合わせることで、顧客のセキュリティ・オペレーション全体を大幅に強化することができます」。

ホーニッヒ氏はサービスデリバリー担当副社長としてArctic Wolfチームに参加し、セキュリティアウェアネスの管理と提供を主導することになる。

「データによると、人間がトレーニングのコンセプトを保持し、共感するためには、継続的で魅力的で記憶に残るコンテンツが必要だと言われています」と、ホーニッヒ氏はいう。「Arctic Wolf Managed Security AwarenessとArctic Wolfのプラットフォームに、私たちのハリウッドスタイルのコンテンツを組み合わせれば、あらゆる規模の顧客に向いた、市場で最も効果的で求められるソリューションになると、私は確信しています」。

Arctic WolfによるHabitu8の買収は、同社のロードマップに計画されている数多くの買収で、最初のものになる可能性が高い。同社は7月にTechCrunchの取材に対し、今後の12カ月間で「5~10件の買収」を行う予定であると述べていた。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Carly Page、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

外出先でのエクササイズもサポートする独Straffrのスマートレジスタンスバンド

スマートフィットネスギアは、固定されていて持ち運びができないという制約があることが多い。(Pelotonのスピンクラス用固定式自転車や、壁かけ式の筋力トレーニング機器「Tonal」などがそうだ)。自宅にいて、高級なホームジムに何千ドル(何十万円)も出す余裕があるならいいが、どこでもワークアウトをしたい場合はどうすればよいのか。

関連記事:Pelotonがエクササイズバイク上位モデルBike+とトレッドミルTreadを発売、価格はいずれも約26万円

今週のTechCrunch Disrupt Startup Alleyに出展しているドイツのスタートアップStraffr(ストラッファー)を紹介しよう。この会社は、バックパックに入れて外出時に持ち運べるスマートフィットネスバンドを販売している。

当初、ハードウェアスタートアップである同社は、2020年Kickstarter(キックスターター)でクラウドファンディングを選択した。2021年3月に製品を市場に投入して以来「数千個」のバンドを販売した。また、ビジネスエンジェルからも支援を受けており、フィットネスビジネスの拡大に向け、海外の投資家からの2回目のシードラウンドを完了したところだ。

Straffrのスマートレジスタンスバンドは、中強度と強強度の2種類のグレードがある。Bluetoothでコンパニオンアプリに接続し、伸身や屈伸を始めるとすぐにトラッキングを始める。CEOのStefan Weiss(ステファン・ワイス)氏によると、トレーニングセッションのフィードバックは、レップ数だけでなく、エクササイズの「質」にまで及ぶ。

バンド全体がセンサーになっており、伸縮可能なゴム製で導電性を持つ。Straffrのチームがこの素材を開発し、いくつかの特許を取得した。

「200%とか300%以上伸びる素材を探して開発するのは本当に難しい。そして壊れず、何も測定しません」とワイス氏はTechCrunchに話した。「Straffrフィットネスバンドを伸ばすと電気抵抗が変化するため、ある運動によってバンドがどれだけ伸びたかがわかります」。

「スマートでない」レジスタンスバンドを使って筋力トレーニングを試みたことがある人は、専門家の指導なしに集中して取り組むのはかなり難しいことだと知っている。基本的に、自分が最適な方法で動作を行っているのか、それともただ無心にゴムの音を鳴らしているだけなのかを知ることは困難だ。そこで、センサー機能が、この特別なフィットネスキットに大きな価値を与えてくれそうだ。

Straffrのスマートバンドは、トレーニングの回数、パワー、速度を記録し、アプリがトレーニング中にリアルタイムでフィードバックを提供する。また、ワークアウトの全体的な結果も表示されるため、フィットネスの数値管理が好きな方にもおすすめだ。

このアプリにはワークアウトビデオが用意されており、フィットネスバンドを使ったセッションの録画を見ることができる。セッションには、HIITを中心としたワークアウト、全身を使った筋力トレーニング、自宅での簡単なエクササイズなどがある。

画像クレジット:Image Credits:Straffr

ワイス氏によると、同社はプレミアムオンデマンドサービスの開発も進めている。最近では5人のパーソナルトレーナーを迎え、彼らによる1対1のトレーニングセッションを始めたという。これは将来、Pro機能として提供される予定だ。基本アプリは無料だが、ハードウェアは有料となる。

Straffrのバンドは99.99ユーロ(約1万3000円)強で「スマートではない」代替品(ベーシックなレジスタンスバンドは数百円で購入可能)と比較すると非常に高い。だが、これだけでは比較としてお粗末だ。というのも、この製品は、ただのゴムではなく、フィットネス全体のパッケージを手に入れることができるからだ。つまり、その追加金額は、関連するエクササイズのコンテンツやアプリ内でのパーソナライゼーション、ワークアウトの定量化、ライブフィードバックによるモチベーションの向上などに使われているのだ。

また、Straffrのスマートバンドは、Pelotonやその他のハイエンドのホームジムキット購入に比べ、かなり安いことも注目に値する。

そういう意味で、Straffrのスマートフィットネスは、お買い得のように見える。

これまでのところ、典型的な購入者は、ワイスによれば「自己の定量化」というトレンドにハマっているフィットネスに関心の高い男性か、ジムのフィットネスクラスの代わりを求めている中年女性だ。だが、地味でスマートなフィットネスバンドは、すべての人に何かを提供できる可能性がある。

「レジスタンスバンドを使ったトレーニングの将来は、パーソナルトレーナーとの組み合わせにあると思います」とワイス氏は付け加えた。「パーソナルトレーナーやプロのアスリート、オリンピック選手との1対1のデジタルトレーニングをオンデマンドで行い、ワークアウトルーティンの全体像やその効果を説明し、汗をかくようなトレーニングを一緒に行い、人々のモチベーションを高めます」。

レジスタンスバンドを使ったワークアウトが苦手な人向けに、Straffrはスマートフィットネスキットの追加開発を計画している。しかし、ワイス氏は、同社が開発している他のコネクテッドハードウェアの内容について詳しく語らなかった。

「現在、社内で開発中の製品があり、とても楽しみにしています」と同氏は話し「ただの縄跳びではないということは確かです」と付け加えた。

「私たちにとっては、機能的でポータブルなトレーニングと、トレーニングの質を追跡するという要素との組み合わせが常に重要です。例えば、自分の実力はどの程度か、実際に効果が出ているのか、といったことです。レップ数やステップ数を数えるだけでも、モチベーションを高めるという意味では良いと思いますが。私たちが知りたいのは、そのレップ数が本当に適切なのか、質は良いのか、今の自分の状態に合わせてベストを尽くしているのかということだと思います」。

画像クレジット:Image Credits:Staffr

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

発達障害支援VRのジョリーグッド社長が提言「職場・学校でもソーシャルスキルを学ぶ機会を」

ジョリーグッド代表取締役上路健介氏

少子高齢化に端を発する人手不足が深刻化する中、多様な人材に長く働いてもらうことが重要になってきている。発達障害や精神疾患を抱える人々も例外ではない。医療福祉系VRビジネスを開発・展開するジョリーグッドは、発達障害支援施設向けVRサービス「emou」(エモウ)を提供している。VRゴーグルを装着してバーチャルな環境でコミュニケーションを学ぶサービスだ。VR技術によって障害者支援はどう変わるのか。同社代表取締役の上路健介氏に話を聞いた。

「VRで発達障害支援」が事業化するまで

ジョリーグッドは2014年5月創業の医療VRサービス事業者だ。医師の手術を360度リアルタイムで配信・記録する医療VRサービス「オペラクラウドVR」、発達障害の方の療育をVRコンテンツで行う発達障害支援施設向けVRサービス「emou」、薬などを使わずにうつ病などの病気を治療するデジタル治療VRサービス「VRDTx」(未承認開発中)を中心にビジネスを展開している。

創業者でもある上路氏がテレビ業界出身だったことから、ジョリーグッドはメディアや制作プロダクション向けのVRコンテンツ作りのサポートから事業をスタートした。その後観光業向けのVRブームが起こり、それに関連したVR活用セミナーを開催したところ、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソンから高い評価を受けた。それがきっかけとなり、2018年11月に同社と医療研修VRを共同開発することを発表。医療VRビジネスを開始した。

そうこうしているうちに、ジョリーグッドの医療VRサービスのことを聞きつけた発達障害支援施設の関係者などから「ジョリーグッドの技術は発達障害の人が苦手とするソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に活用できるはず」と声をかけられ、emouを開発するに至った。

上路氏は「当時の私は発達障害のことをよく知りませんでした。ですが、こうして声をかけていただいて、VR技術の新しい活用方法を開拓することができました」と振り返る。

発達障害とソーシャルスキルトレーニング

では、発達障害とはどんな障害なのか。

厚生労働省によると、発達障害とは「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」だ。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害)、チック症、吃音などが発達障害に含まれる。

発達障害の人はソーシャルスキルに課題を抱えることが多い。ソーシャルスキルとは、社会の中で周りの人と協調して生きていくための能力だ。コミュニケーションを取るためのスキルとも言い換えられる。

「ソーシャルスキルとひと言でいっても、その内容は多岐にわたります。声の大きさ、話し方、会話をしている最中の相手への配慮などが含まれます」と上路氏はいう。

ソーシャルスキルが試される場面は数多くあるが、仕事でミスをした時の対応の仕方、周りの人が噂話をしているときの立ち回りなど「気まずい空気」に対処する時を想像してもらえるとわかりやすいだろう。

さらに同氏によると、ソーシャルスキルを鍛える機会がなかったために、学校や職場などでコミュニケーションに失敗し、その経験がトラウマとなって社会に出たくなくなってしまう発達障害者もいるという。そのため、ソーシャルスキルを身につけ、強化する訓練であるSSTは重要なのだ。

上路氏は「大切なのは、発達障害を抱える人たちが学校や職場などの『社会』で経験するであろうさまざまな場面を事前に予習し、人やコミュニケーションに対する恐怖を取り除くことです。SSTはいわば『社会の予習』なのです。発達障害を抱える人の状況はそれぞれ異なりますし、症状の重さも多様です。『人に向き合うのがもう無理』という方もいます。1人ひとりに合わせて『まずは外の景色を見せる』『動物を見せる』『人を見せる』というように、段階的に、何回でも安全なVR空間でコミュケーションを練習してもらうことがSSTでは重要です」と話す。

「発達障害者支援」の課題

「VRでSSTを行う」と聞くと、それだけで画期的に聞こえる。しかし、実際のところ、発達障害支援施設ではVRを必要としているのだろうか。発達障害支援施設にはどんな課題があるのだろうか。

上路氏は「支援施設ではSSTを行いたくても、SSTのマニュアルがなかったり、カリキュラムがなかったりする施設は珍しくありません。また、SSTを行う指導員の育成にも時間がかかります。VRを使用しないSSTは、指導員による寸劇や紙芝居で行われます。『Aさんがこんな行動に出ました。Bさんがこんなことを言っています。あなたはどうしますか?』という具合に、特定の状況を再現し、適切な対応を学んでいきます。この時、発達障害を抱える方は想像することが苦手なため、受講者の理解の深さは指導員の演技力や個人の能力に依存してしまいます」と問題を指摘する。

それだけではない。寸劇や紙芝居でのSSTは、現実に起きるであろうあらゆるシチュエーションを発達障害者に見せ、イメージさせることで、実際の「その場面」に備えさせるものだ。しかし「その場面」にまだ遭遇していない発達障害者にとっては、イメージすること自体が非常に難しい。

「中にはイメージ作業そのものが負担になり、SSTを嫌いになってしまう方もいるんです」と上路氏。

だが、VRを使ったSSTでは、発達障害者はVRを通して「その場面」を擬似的に体験できるため「イメージする」という作業がなくなる。さらに、没入感の強いバーチャル空間をゲーム感覚で体験することもでき、SSTを楽しむ人もいるという。

支援施設の課題はSSTだけではない。発達障害支援施設の数は年々増しており、当事者やその家族がより良い施設を選ぼうとしているのだ。施設間の差別化や競争が始まっている。

「現状、支援施設は独自のツールとノウハウでSSTを行っています。そのため、支援施設の違いや個性が見えにくかったり、指導員の質にばらつきが出ます。emouのようなVRとSSTコンテンツがセットになったものを使えば、同じクオリティのコンテンツで何人もの施設利用者にSSTを行えます。指導員の教育コストを下げることもできます。さらに、『VRを活用している』ということでプロモーションにもなります。実際、emouを導入した支援施設で、導入をきっかけにメディアに取り上げられたところもあります。支援施設のビジネスというのは、定員を満たさないと十分な利益が出せません。なので、プロモーションや差別化というのは非常に重要な問題なのです」と上路氏はいう。

コミュニケーションで問題を抱えているのは障害者だけ?

emouは、SSTコンテンツのサブスクリプションサービスだ。360度のVR空間で「挨拶」「自己紹介」「うまく断る」「自分を大事にする」「気持ちを理解し行動する」「仲間に誘う」「仲間に入る」「頼み事をする」「トラブルの解決策を考える」など、100以上のコンテンツを利用することができる。

emouには指導員向けの進行マニュアルと導入マニュアルも含まれており、SSTの実績がない施設や、SSTの経験が浅い人材でも一定の質でSSTを実施できる。

導入開始時に導入初期費(5万5000円)、VRゴーグルにかかる機材費(3台で19万8000円、こちらは導入施設が買取る)、月々5万5000円のサービス利用費がかかる。翌月からはサービス利用費の支払いだけで良い。導入施設で準備するのはコンテンツ管理 / SSTの進行管理のためのiPadのみとなる。

ここまで見てきたように、emouは発達障害者の支援のために開発されたサービスだ。しかし、emouの開発と活用が進むにつれ「SSTが必要なのは発達障害を抱える人だけではない」と上路氏は気づいた。

「うまく断るとか、自分を大事にするとか、頼み事をするとか、トラブルの解決策を考えるというのは、発達障害を持っていない人でも十分に難しいですよね。胸を張って『得意です』といえる人は多くないと思います。また、今はコロナ禍で学校に通えない子どももいます。これまでは学校がソーシャルスキルを学ぶ場として機能してきましたが、そうもいかなくなってきています。ソーシャルスキルは今や発達障害を抱える人だけではない、大人も子どもも巻き込んだ課題なのです。なので、企業の研修や、学校教育の一環として、emouが役に立つ可能性もあると思っています」と上路氏。

こうして発達障害者ではない層にも目を向ける中で、今上路氏が注目しているのがリワーク市場だ。

2020年に内閣府が発表した『令和2年版 障害者白書』によると、精神障害者数(医療機関を利用した精神疾患のある患者数)は2002年から2017年まで増加傾向が続いている。さらに、精神疾患による休職者のうち、職場に復帰できているのは半数以下だ。

上路氏は「復職者支援のために1企業にemouを1セット設置したり、emouのノウハウを生かしてVR産業医のようなサービスを展開することで、ソーシャルスキルに関わる課題を抱える人を助けることができるかもしれません。今後はリワーク市場を視野にサービスを充実させていきたいですね」と語った。

AIのためのリアルなバーチャルトレーニング環境をフェイスブックとMatterportが共同開発

ロボットが家の中を移動できるように訓練するには、何軒もの本物の家で、実際に何時間も訓練する、何軒もの仮想の家で、仮想的に時間をかける、という2つの選択肢があるが、後者の方が便利なのはいうまでもない。FacebookとMatterport(マーターポート)は共同で、研究者および学習過程にあり、データを必要としているAIに、何千ものバーチャルかつインタラクティブな、本物の家のデジタルツイン(仮想空間で再現されたリアル空間)を提供する。

Facebook側の大きな進歩は、新しいトレーニング環境「Habitat 2.0」と、それを可能にするために作成されたデータセットの2つだ。数年前に公開されたHabitatを覚えているだろうか。当時Facebookは「身体性を有するAI」と呼ばれる現実世界と相互作用するAIモデルを開発するために、AIが動き回ることのできる、写真のようにリアルに描写された仮想環境を大量に構築していた。

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これまで、たくさんのロボットやAIが、現実よりもゲームに近い、理想的かつ非現実的な空間で、動作や物体認識などの学習を行ってきた。現実のリビングルームは、バーチャルに再現されたものとはまったく異なる。現実に近い空間で動きを学習したAIのナレッジがあれば、家庭用ロボットなどへの実際の適用も実現しやすくなるだろう。

しかし結局のところ、バーチャル環境にはポリゴンの厚みしかなく、相互作用は最小限で、物理的にリアルなシミュレーションもない。ロボットがテーブルにぶつかっても、倒れて物をそこら中にこぼしたりすることもなく、台所で冷蔵庫を開けたり、流し台から物を持ち上げたりすることもできなかった。今回、Habitat 2.0および新しいReplicaCADのデータセットは、相互作用性を改善し、単に3Dの表面をなぞるのではなく、3Dオブジェクトを増やすことで、この問題を解決する。

シミュレートされたロボットは、これまでと同様に新しい住戸単位の環境を動き回るが、あるオブジェクトに到達すると、そのオブジェクトに対して実際にアクションすることができる。あるロボットのタスクが「ダイニングテーブルからフォークを拾ってシンクに置く」ことだと考えてみよう。数年前までは、フォークを適切にシミュレートできなかったので、フォークを持ち上げたり下ろしたりすることだけが想定されていた。Habitat 2.0では、フォークが置かれているテーブルやシンクなどが物理的にシミュレートされる。そのため、計算量は増加するが、格段に有意義なシミュレーションとなる。

この分野は急速に進歩しており、新しいシステムが登場するたびに新機能が追加され、同時に次の大きな改善点やチャンスが示される。この場合、Habitat 2.0の最も近い競争相手は、住戸単位の環境と物理的なオブジェクトのシミュレーションを組み合わせたAI2(エーアイツー)の「ManipulaTHOR」だろう。

Habitat 2.0はスピードでManipulaTHORに勝る。論文によると、シミュレーターの実行速度はManipulaTHORと比較しておよそ50~100倍。つまり、ロボットは1秒あたり50~100倍多くのトレーニングを実行することができる(これは厳密な比較ではなく、2つのシステムは他にも異なる点がある)。

ここで使用されるデータセットはReplicaCADと呼ばれ、基本的にはオリジナルの部屋のスキャンをカスタム3Dモデルで再現したものである。面倒な手作業であり、Facebookはスケールアップの方法を検討していると認めているが、非常に有用な結果を提供する。

オリジナルの部屋のスキャン(上)とReplicaCADによる3D再現(下)

基本的なオブジェクトや動き、ロボットの存在などはサポートされているが、現段階ではスピードを優先したため、再現性は失われている。そのため、より詳細でより多くの種類の物理シミュレーションが計画されている。

また、Matterportは、Facebookとの提携でも大きな動きを見せている。ここ数年でプラットフォームを大幅に拡大したMatterportは、3Dスキャンした建物の膨大なコレクションを持つ。これまでも研究者との共同研究を行ってきたMatterportだが、そのコレクションの大部分をコミュニティで利用できるようにする時が来たと判断した

CEOのRJ Pittman(アールジェー・ピットマン)氏は次のように話す。「私たちは、現存するあらゆる種類の物理的構造物、構造物のようなものに対し、3Dデータを作成しました。住宅、高層ビル、病院、オフィス空間、クルーズ船、ジェット機、マクドナルド……。デジタルツインに含まれる情報すべてが、研究には非常に重要です」「これらの3Dデータはコンピュータビジョン、ロボット工学、家庭内オブジェクトの識別など、あらゆる分野に影響すると確信していました。Facebookに事細かに説明する必要はありませんでした。Habitatや身体性を有するAIにとっては、あきらかに重要なデータだからです」。

Matterportが、不動産を閲覧する人が目にするような住宅のスキャンから企業や公共スペースまで、1000点ものインテリアを極めて詳細に3Dキャプチャーしたデータセット、HM3Dを作成したのはこれが目的だ。HM3Dは、一般公開されているコレクションとしては最大となる。

画像クレジット:Matterport

正確なデジタルツインでトレーニングされたAIがスキャンし、読み取った環境は、スケール的に非常に正確で、例えば窓の表面積やクローゼットの総容積の正確な数値が計算できる。これは、AIモデルにとって有益でリアルな遊び場で、出来上がったデータセットは(まだ)インタラクティブではないものの、現実世界のあらゆる不変性を非常によく反映している(Facebookのインタラクティブデータセットとは異なるが、拡張の基盤となる可能性がある)。

ピットマン氏は「(HM3Dは)極めて多様性の大きなデータセットです」「 私たちは、さまざまな実世界の環境を、豊富に、確実に集めたいと考えていました。AIやロボットのトレーニングで最大限の効果を得るには、このような多様なデータが必要なのです」と話す。

すべてのデータはその空間の所有者から提供されたもので、(極めて小さい文字で印刷された契約書の細則を使って)非倫理的に集められたという心配はない。同氏の説明によると「最終的には、より大きく、よりパラメータ化されたデータセット、すなわちサービスとしての現実的な仮想空間を作成し、APIでアクセスできるようにしたい」とのことだ。

ピットマン氏は語る。「米国風のB&B(ベッドアンドブレックファスト、比較的低価格で利用できる宿泊施設)での利用を想定したおもてなしロボットを作っているとしましょう。B&Bのデータが1000個あればすばらしいと思いませんか?」「この最初のデータセットでどこまでのことが可能かを確認し、学び、研究コミュニティや自社の開発者と協力して、さらに進化させていきたいと考えています。私たちにとって重要な出発点です」。

ReplicaCADとHM3Dはどちらも公開され、世界中の研究者が利用できるようになる予定だ。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:FacebookMatterportトレーニング

画像クレジット:Facebook

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

外科医の技をVRで磨くOsso VRが手術室チーム訓練をマルチプレイヤーゲーム化するため約30億円調達

パンデミックの際、VRは究極のオフィス代替テレプレゼンスマシンにはならなかった。そうしようとする努力が不足していたわけではない。しかし、VRを使った従業員トレーニングに力を入れているスタートアップの一部は、2020年、さまざまな業界の専門家がリモート環境から組織的な知識にアクセスする必要に迫られたことで、新たな評価を得た。

サンフランシスコを拠点とし、医療トレーニングに特化した仮想現実のスタートアップであるOsso VRは、パンデミックの間、Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、Stryker、Smith & Nephewなどの医療機器の大企業各社とのパートナーシップを強化したことで、投資家の注目を集めた。Osso VRがTechCrunchに語ったところによると、最近同社は、GSR Venturesが主導し、SignalFire、Kaiser Permanente Ventures、Anorak Venturesなどが参加したシリーズBで、2700万ドル(約30億円)の資金を調達したという。

創業者兼CEOのJustin Barad(ジャスティン・バラッド)博士はTechCrunchに、パンデミックによって顧客が同社のプラットフォームに新たな需要を見出したことで「非常に強いレベルの緊急性が生まれた」と語った。

Osso VRは、VRをベースにしたソリューションで、現代の外科手術のあり方を変えようとしている。このソリューションにより外科医は、腕を伸ばせるだけのスペースがあればどこにいても、新しい医療機器を3D空間で操作し、デジタルの解剖用死体に対して何度も手術を「行う」ことができる。Ossoの取り組みは、特に医療機器企業の顧客にとって有益なものだ。顧客はこのプラットフォームを利用して自社のソリューションに精通することができ、外科医はそれらを移植する経験を積める。

Ossoの大きな目標の1つは、ビデオゲームのマルチプレイヤー機能を仮想手術室に導入することだ。これにより、外科医と医療助手がリアルタイムで協力し合い、自分の担当する部分を把握するだけでなく、手術全体の中でどのように位置づけられるかを把握できるようになる。

「(手術は)オーケストラのようなもので、それぞれが異なる役割を担っているのと同時に、お互いにコミュニケーションをとる必要があります」とバラッド博士はいう。

バラッド博士は、これはVRの空間的な広がりを必要とするプロセスであり、それに加えて指導は常にテキストやビデオによって補完されると語った。

同氏は、スタートアップの目標を「明確に良いもの」と呼んでいる。そのおかげか、同社のチームは約100人の従業員を抱えるまでに成長し、その中には世界最大の医療イラストレーターチームも含まれている。このチームのおかげで、プラットフォームのコンテンツは、10の専門分野にわたる100以上のモジュールにまで拡大した。

近年、VR関連企業は、消費者や企業への普及がこの技術に対する初期の野心に比べて遅れているため、投資家の注目を集めるのに苦労している。その代わりに投資家は、ゲームやコンピュータビジョンなど、頭に装着する特殊なハードウェアを必要としない隣接技術への投資に注目している。Osso VRのプラットフォームは、Facebook(フェイスブック)のOculus for Businessプログラムを通して提供されるOculus Quest 2ヘッドセットで動作する。

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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:Osso VR医療手術資金調達トレーニングVROculus Quest

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(文:Lucas Matney、翻訳:Aya Nakazato)

テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

災害がすべて人災というわけではないが、災害に対応するのはいつも人間である。対応する緊急事態の規模が小さいとしても、さまざまなスキルと専門性が必要となる。防災計画や災害後の復旧時に必要となるスキルを除いたとしても、必要なスキルや専門性は多岐にわたる。ほとんどの人にとって割に合う仕事ではないし、ストレスからくる精神的な影響が数十年にわたって続くこともある。それでも、この終わりなき戦いへと多くの人が立ち向かい続けるのは、最も必要とされているときに人を助けるという、この仕事の究極の使命があるからこそだろう。

テクノロジーと災害対応の未来に関するこのシリーズでは、3回にわたってテクノロジーを中心に取り上げてきた。具体的には、新製品の販売サイクルモノのインターネット(IoT)が全面的に普及することによるデータの急増データをどこにでも拡散できる接続性について考えた。一方で、それに関わる人たちという側面についてはあまり触れてこなかった。つまり、災害に実際に対応する人たち、そうした人たちが直面している課題、およびそうした課題をテクノロジーで解決する方法といった点だ。

そこで、シリーズ4回目で最終回となるこの記事では、災害対応時に人とテクノロジーが交差する4つの分野(トレーニングと開発、メンタルヘルス、クラウドソーシングによる災害対応、非常に複雑な緊急事態が発生する可能性)と、この市場の今後の可能性を取り上げる。

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災害に対応するためのトレーニング

大半の分野では、トレーニングに対して線形的なアプローチをとる。ソフトウェアのエンジニアになるには、コンピューターサイエンス理論を学び、プログラミングの実践練習をすればよい(個人差はあるが)。医師になるには、学部のカリキュラムに加えて生物学や化学を履修し、医学部で本格的な解剖学などのクラスを2年間みっちりこなしてから、臨床研修ローテーション、研修医、必要に応じて研究職などを経験する。

では、緊急事態に対応する要員をトレーニングするには、どうすればよいか。

緊急電話対応オペレーター、EMT(緊急医療チーム)、救急救命士、緊急時計画策定者、さらには現場で災害対応を行う緊急救助隊員などが任務を適切に実行するために必要なスキルは数え切れない。ハードスキルに含まれるような、緊急隊員派遣用ソフトウェアの使い方や災害現場からの動画のアップロード方法に関する知識だけでなく、正確に意思を伝達する能力、冷静さ、高い敏捷性、臨機応変な対応と一貫性のバランスといったソフトスキルも極めて重要だ。一貫性がないという要素も非常に重要である。1つとして同じような災害は発生しないので、情報を入手することが難しく、極度のプレッシャーがかかる状況でも、これらのスキルを直感的に組み合わせて発揮する必要がある。

こうしたニーズに応えるのが「EdTech」と呼ばれるサービスだ。しかも、EdTechが役立つのは緊急事態の対応時だけではない。

コミュニケーションには、チーム内で意思の疎通を図ることに加えて、さまざまな地域でコミュニケーションを取ることも含まれる。RAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「このようなスキルは、ほとんどがソーシャルスキルです。さまざまな背景の人たちと、文化的にも社会的にも適切な方法でやり取りできるスキルです」と説明する。同氏によると、緊急時管理の分野ではこの問題に対する関心が近年高まっており「我々が必要としているスキルとは、災害発生現場に存在しているコミュニティとやり取りするためのもの」だという。

ここ数年のテック業界でも見られることだが、異文化とコミュニケーションを図るスキルは乏しい。経験を積むことでこのようなスキルを習得することは可能だが、共感するスキルや理解力を育むために、ソフトウェアを使ったトレーニングは可能だろうか。あらゆる条件下でコミュニケーションを効果的に取る方法について、緊急時対応要員(に限らずあらゆる人たち)を教育するために、効果的で良い方法を開発できないか。スタートアップにとっては、この問いに挑むことが大きなビジネスチャンスとなる。

緊急時対応は、キャリアパスとしても十分に成長している。「この分野の歴史は大変興味深く、今や専門性が高まっており、さまざまな認定資格も用意されている」とクラークギンズバーグ氏はいう。こうした職業化によって「緊急時対応が標準化されたため、さまざまな資格を取得することで、習得したスキルと知識の範囲が明確になる」という。認定資格を取得すると特定のスキルを証明することになるが、全体的な評価にはならい。そのため、新しいスタートアップにとっては、より良い評価を行う機会を提供するビジネスチャンスとなる。

誰にでも経験があることだが、緊急時対応要員は何度も繰り返して作業することで慣れてしまっているため、新しいスキルの習得がさらに困難でなる。緊急時データ管理プラットフォームRapidSOS(ラピッド・エス・オー・エス)のMichael Martin(マイケル・マーチン)氏によると、緊急電話対応オペレーターは作業を体で覚えてしまっているため「新しいシステムに切り替えるのはリスクが高い」という。インターフェイスがどんなにお粗末な既存ソフトウェアでも、新しいソフトウェアに変更すると個別対応が遅くなるだけでなく、エラーが発生する危険性も高まる。ラピッド・エス・オー・エスが年間25000時間のトレーニングやサポート、インテグレーションを提供している理由もそこにある。スタッフのトレーニングやソフトウェアの切り替えに関連するサービスの需要は依然として非常に高く、個別に提供されていることが多い。

このようなニッチ市場は別として、この分野では教育の抜本的な見直しが全面的に必要である。私の同僚のNatasha Mascarenhas(ナターシャ・マスカレーナス)は先に、Duolingo EC-1(デュオリンゴ・イー・シー・ワン)というアプリに関する記事を公開した。このアプリは、第2外国語の学習に関心がある学生がゲーム感覚で参加できるように設計されており、非常に魅力的なサービスである。初期対応救助員が取り組めるような、このようなトレーニングシステムはない。

Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、災害発生時の救助隊員を志望する退役軍人のチームを構成している非営利団体Team Rubicon(チーム・ルビコン)のCOO兼社長である。同氏の組織はこの問題について、これまでより多くの時間を割いて考えるようになったという。「災害復旧に不可欠な要素は、教育に加えて情報にアクセスできることです。我々は、このギャップを埋めていけるように取り組みます。(学習管理システムよりも)シンプルに情報を提示する方法を考えています」と同氏は説明し、定期的に新しい知識を提供すると同時に既存の考え方もテストする「フラッシュカードのような短期集中型の訓練」が救助隊員には必要だとする。

また、ベストプラクティスを世界中に急いで拡大する必要もある。Tom Cotter(トム・コッター)氏は、被災地や貧困地域の医療従事者をバックアップする非営利団体Project Hope(プロジェクト・ホープ)の緊急時対応準備担当ディレクターを務めるが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況では「さまざまな教育が(まず初期段階に)必要でした。臨床レベルで大きな情報格差があり、情報をコミュニティ全体に伝える方法を教える必要がありました」と話す。プロジェクト・ホープはBrown University(ブラウン大学のWatson Institute(ワトソン研究所)と、パワーポイント形式の対話型カリキュラムを開発した。このカリキュラムにより、最終的に新型ウイルスについて10万人の医療従事者を教育するために使用されたという。

利用できるさまざまなEdTech製品について考えると、1つ特殊なことに気づく。製品の対象が非常に狭いことだ。アプリには言語学習用、数学学習用、読み書き能力開発用などがある。医学生に人気のAnki(アンキ)などのフラッシュカードアプリ、よりインタラクティブなアプローチとしてLabster for science experiments(科学実験用ラブスター)Sketchy for learning anatomy(解剖学の学習用スケッチー)などもある。

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しかし、シリコンバレーで提供されているさまざまな短期集中トレーニングでも、本物の新入隊員訓練プログラムのような方法で学生を根本から訓練するようなEdTech企業は存在しない。ハードスキルを習得しながら、ストレスに対処するスキル、急速に変化する環境に対応するために必要な適応性、共感を持ってコミュニケーションを図るスキルも習得できるプログラムを提供するスタートアップは、いまだかつて存在したことがない。

こういう訓練は、ソフトウェアでは不可能なのかもしれない。あるいは、教育に対する考え方に革新を起こす気概をもって、全力で取り組む創業者がまだ現れていないのかもしれない。必要とされているのは、次世代の緊急時対応管理プロフェッショナルの教育、また最前線の作業員と同じくらい民間企業でストレスに対処するための教育、すばやく決断する必要があるすべての社員の教育を抜本的に変える方法である。

公的安全企業Responder Corp(レスポンダー・コープ)の社長兼共同創業者Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏が考えているのは、まさにその点だ。「私が個人的に気にいっている分野は、VRによるトレーニング空間です」と同氏はいう。消火活動などの「大きなストレスがかかる現場の環境を再現するのは非常に難しい」が、新しいテクノロジーを使えば「トレーニングで心拍数の上昇を体験することができる」。同氏は「VRの世界は大きなインパクトを与えることができる」と結論づける。

災害後の癒やし

トラウマという点では、緊急時対応の現場ほど大きなトラウマに直面する分野はあまりない。緊急時の現場では、想像し得る最悪の悲惨な光景に、作業員は直面せざるを得ない。死と破壊は当たり前だが、忘れられがちなのが、初期対応救助員がしばしば経験する、自分ではどうしてよいか分からない状況だ。例えば家族を救助できないため、最後の慰めの言葉をいうしかない緊急電話対応オペレーターや、現場に到着したものの必要な機器がないため、対応できない救急救命士などだ。

心的外傷後ストレスは、初期対応救助員が直面する精神異常として、おそらく最もよく知られた一般的なものだが、精神面に現れる異常はそれだけではない。こうした異常を改善し、場合によっては治療するサービスは投資対象となる急成長分野で、多くのスタートアップや投資家が事業を拡大している。

例えばRisk & Return(リスク&リターン)は、メンタルヘルスおよび社員の一般的なパフォーマンス改善に取り組む企業に特化したベンチャー企業だ。私が先に書いた同社の紹介記事で、代表取締役社長Jeff Eggers(ジェフ・エガーズ)氏は次のように語っている。「私はこの種のテクノロジーが気に入っています。というのは、現場の初期対応救助員に役立つだけでなく、コミュニティにもメリットがあるからです」。

リスク&リターンのポートフォリオ企業から、このカテゴリーで異なる成長経路をたどった2社を紹介しよう。まず、Alto Neuroscience(アルト・ニューロサイエンス)を紹介する。この会社は、Stanford(スタンフォード)大学で神経科学者および精神科医として学際的研究を行っているAmit Etkin(アミット・エトキン)氏によって創業された。水面下で活動してきたスタートアップで、脳波データに基づいて心的外傷後ストレスやその他の症状を治療する臨床治療法を新たに開発している。治療法に注力しているため、治験や規制当局による承認はおそらく数年先になると思われるが、これはイノベーションの最先端を行く研究である。

2つ目の会社は、アプリを使って患者のメンタルヘルスを改善するソフトウェアスタートアップNeuroFlow(ニューロフロー)だ。この会社のツールは、継続してアンケートやテストを実施し、開業医との協力を得ることで、精神面の健康をよりアクティブに監視し、最も複雑なケースでも症状や再発を特定する。ニューロフローのツールはどちらかというと臨床に近いが、近年はHeadspace(ヘッドスペース)Calm(カーム)などのメンタルウェルネス関連のスタートアップも頭角を現している。

治療法やソフトウェア以外の分野では、メンタルヘルスの最前線としてサイケデリックスのようなまったく新しい分野もある。これは、筆者が2021年始め、2020年の投資対象の上位5つとして挙げたトレンドの1つであり、この考えは今も変わっていない。また、サイケデリックスを重視した患者管理臨床プラットフォームであるOsmind(オスミンド)というスタートアップについても記事を掲載している

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リスク&リターン社はサイケデリックス分野に投資していないが、同社の取締役会長で9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は「政府機関がサイケデリックス分野に投資するのは難しいですが、民間企業であれば簡単に投資できます」という。

EdTech同様、メンタルヘルス系スタートアップは最初は初期対応救助員のコミュニティをターゲットにしているものの、対象を限定しているわけではない。心的外傷後ストレスやその他のメンタルヘルス疾患は、世界中で多くの人を悩ませる症状であり、あるコミュニティで効果があった治療法を別のコミュニティにも幅広く適用できる可能性は大いにある。市場規模は非常に大きく、大勢の人たちの生活が大幅に改善される可能性を秘めている。

話を進める前に、興味深い分野をもう1つ挙げておきたい。それは、治療に大きな影響を及ぼすコミュニティの構築だ。初期対応救助員や退役軍人たちは、現役時に使命感や仲間意識を感じることができるが、再就職後や社会復帰前の回復期には、そうした感覚が欠落してしまうことが多い。チーム・ルビコンのデラクルーズ氏によると、退役軍人を被災地の救援活動に参加させる目的の1つは、彼らがアイデンティティを取り戻し、コミュニティとの関わりを取り戻してもらうことであり、国に奉仕したこうした人たちはとても貴重な人材であると指摘する。患者ごとに1つの治療法を見つけるだけでは十分ではない。大抵の場合、目をさまざまな人たちに向けて、精神面の健康を損なう要因を確認する必要がある。

そのような人たちが目的を見つけるのを支援するのは、スタートアップが簡単に解決できる問題ではないかもしれないが、多くの人にとって重要な問題であることは間違いない。ソーシャルネットワークの評価がどん底まで落ちた今、この分野に新しいアプローチが次々と芽生えている。

クラウドソーシングによる災害対応

近年、テクノロジーの世界では分散化が主流となっている。TechCrunchの記事でブロックチェーンという単語に言及しただけで、トイレの染みに関する最新のNFTに関するPRメールが少なくとも50通は届く。さまざまな情報が混在していることは明らかだが、災害対応の分野でも分散化が役立つ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが証明したものがあるとすれば、それはインターネットの強みだ。インターネットには、データを収集して、データを検証し、ダッシュボードを構築して、複雑な情報を分かりやすく効果的に視覚化し、専門家と一般向けに配信できるという強みがある。このようなサービスは、世界中の人たちが自宅でくつろいでいる時に開発しており、問題が発生したときに対応できる腕を持つユーザーをクラウド上で迅速に集めることができることを実証している。

Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「新型コロナウイルスは、我々の想像をはるかに上回る最悪の事態をもたらした」と話す。しかし、オンラインで共同作業するさまざまな方法を利用できるようになったことについては「大変ワクワクしているし、実践的で非常に役に立っている」と指摘する。

ランドのクラークギンズバーグ氏は、この状況を「災害管理の次世代フロンティア」と呼んでいる。同氏は「テクノロジーを使って災害管理や災害対応に参加できる人数を増やせるなら」、災害に効果的に対応する革新的な方法を確立できるだろうと語る。「プロの現場作業員の形式的な体制が強化されることで人命が救われ、リソースを節約できているものの、一般人の緊急時対応要員を活用する方法については、まだまだ取り組むべき余地が残されています」と主張する。

クラウドソーシングによるさまざまな取り組みを支えているツールの多くは、災害対応を目的としていない。シュリー氏は、リモートで活動する一般人の初期対応救助員が使用しているツールの例として、Tableau(タブロー)とデータ視覚化ツールプラットフォームFlourish(フローリッシュ)を挙げる。表形式データを扱う極めて堅牢なツールはあるが、危機発生時に必要となるデータのマッピングを処理するツールの開発はまだ初期段階だ。筆者が2021年初めに紹介したUnfolded.ai(アンフォールデッド・アイ)は、ブラウザ上で動作するスケーラブルな地理空間分析ツールの構築に取り組んでいる。他にもさまざまなツールが開発途上だ。

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新型コロナに苦しむ人を救う開発者の卵が作ったDevelop for Goodが学生と非営利団体を繋ぐ

多くの場合、コーディネーターをまとめるにはさまざまな方法がある。筆者が2020年注目したDevelop for Good(デベロップ・フォー・グッド)という非営利団体は、野心のあるコンピューターサイエンス専攻の学生と、パンデミックで人手が不足している非営利団体および政府機関のソフトウェアプロジェクトやデータプロジェクトと結びつけることを目的としている。こうしたコーディネーターが非営利団体の場合もあれば、Twitter(ツイッター)のアクティブなユーザーの場合もある。分散的な方法でさまざまな取り組みを調整しながら、プロの初期対応救助員や公的機関と関わり合う方法については、試験的な取り組みが続いている。

分散化と言えば、災害対応や危機対応にブロックチェーンが役立つことさえある。ブロックチェーンを証拠の収集や本人確認に使用できる場合がある。たとえば今週始め、TechCrunchの寄稿者Leigh Cuen(リー・クエン)氏は、Leda Health(レダ・ヘルス)が開発した家庭内性的暴行の証拠収集キットについて詳しく報告している。このキットではブロックチェーンを使用して、サンプルが収集された正確な時刻を確認できる。

クラウドソーシングと分散化を利用する方法には他にもいろいろな可能性があるが、そうしたプロジェクトの多くは、災害管理自体とはまったく異なるさまざまな応用事例がある。これらのツールは実際の問題を解決するだけでなく、災害自体とはほとんど無縁だが他者を助ける活動に参加することには熱心な人たちのために、本物のコミュニティを作ることも可能だ。

未曾有の災害に備える

スタートアップに関して筆者が紹介した3つの市場(トレーニングの質の向上、メンタルヘルスの向上、クラウドソーシングによる(データ関連の)コラボレーションツールの向上)は、創業者にとって価値があるだけでなく、ユーザーの生活の質を向上させることができるため、極めて魅力的な市場となっている。

Charles Perrow(チャールズ・ペロー)氏は著書「Normal Accidents(普通の事故)」の中で、複雑さと癒着度が高まる現代の技術システムにおいては、災害が確実に発生するであろうと述べている。さらに、温暖化と毎年発生する災害の大きさ、頻度、異変性を考えると、人類はこれまでに対応したことがないまったく新しい形の緊急災害に直面する可能性が高い。最近では、テキサスの大寒波で送電網が弱体化し、数時間にわたって州全体が停電する事態となり、一部の地域では数日間続いた。

クラークギンズバーグ氏は「我々が目にしているこうしたリスクは、単なる典型的な山火事のようなものではありません。通常の災害であれば対応体制も整っており、容易に準備して危機を管理できます。よく発生する災害管理にはノウハウがあります。しかし最近では、これまでに経験したことがないような緊急事態が発生することが多くなっており、そうした事態に対応する体制を構築するのに苦戦しています。パンデミックはまさにそうした例の1つです」と説明する。

同氏はこうした問題を「境界線を越えたリスク管理」と呼んでいる。つまり、役所、専門性、社会性、行動や手段といった境界を越えた災害のことだ。「こうした災害に対応するには、敏捷性、迅速に行動する能力、お役所体制にとらわれずに作業する力が必要となります。これは大きな問題です」。

災害とその対応に必要となる個々の問題に対しては解決策を立てられるようになってきたものの、こうした緊急事態によって表面化する体系的な取り組みが無視されている現状を見逃すことはできない。最大の効果をあげる画期的な方法で人材を迅速に集めると同時に、ニーズに応える最善のツールを柔軟かつすぐに提供する方法を考える時期にきている。スタートアップ企業がこの問題を解決するというより、利用可能な情報を用いて斬新な災害対応を構築するという考え方が必要だろう。

Natural Resources Defense Council(天然資源保護協議会)の政策アナリストAmanda Levin(アマンダ・レヴィン)氏は次のように語っている。「温室効果ガスを削減したとしても、地球温暖化から受ける圧力と影響は極めて大きいものがあります。温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、その影響は続きます」。筆者がインタビューした政府関係者の1人は匿名を条件に、災害対応について「常に何か物足りない結果に終わっています」と語った。問題は難しくなる一方だ。人類は自分たちが作り上げてしまったこの試練に対応するために、今よりはるかに優れたツールを必要としている。それは、今後100年間の厳しい時代の課題であると同時に、試練を克服するチャンスでもある。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカメンタルヘルストレーニングクラウドソーシング

画像クレジット:Philip Pacheco/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)