レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指すEX-Fusionは3月31日、第三者割当増資による3100万円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、OUVC2号投資事業有限責任組合(大阪大学ベンチャーキャピタル。OUVC)。調達した資金を活用して、連続的に核融合反応を発生させるための装置開発および技術実証を進める。

EX-Fusionは、レーザーにより発生させた核融合反応によって発電する「核融合発電」の実現に挑戦する大阪大学発のスタートアップ企業。長年にわたりレーザー核融合を研究してきた大阪大学レーザー科学研究所や光産業創成大学院大学の研究者らによって設立されており、レーザー核融合発電の実現に向けた課題である、連続的・効率的に核融合反応を発生させる技術を活用した核融合商用炉の開発を進めている。

同社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとして、実用化に必要な技術開発を加速していきながら、商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野の技術開発に貢献するとしている。

日本原子力研究開発機構、原子力施設の耐震安全性を詳細な3Dモデルで解析する手法を標準化して公開

日本原子力研究開発機構、原子力施設の耐震安全性を詳細な3Dモデルで解析する手法を標準化して公開

日本原子力研究開発機構は、原子力施設を3次元モデル化し、地震の揺れに対する影響を詳細に解析する手法を整備。実測データとの比較によりモデル化方法の妥当性を確認し、耐震解析手法の精度向上を実現した。さらに、この手法を標準的な解析要領にまとめ、外部専門家の確認を経て公開したと3月25日に発表した。

原子力施設の3次元モデルを用いた耐震解析には、国際原子力機関(IAEA)が、柏崎刈羽原子力発電所7号機原子炉建屋を対象に2007年の新潟中越地震の実測データを用いて実施した国際ベンチマーク解析「KARISMAベンチマーク解析」があるが、解析者による結果のばらつきが大きく、観測記録との差が大きいという問題がある。そのため、モデル化方法と解析方法を標準化し、耐震安全性の信頼性向上が求められてきた。

同機構の崔炳賢副主任研究員ら研究グループは、3次元詳細モデルによる耐震解析手法に関係する複数の重要因子を特定し、それぞれの詳細モデル化の方法を明確にした。この手法を用いることで、原子力施設の耐震安全性の評価手法の1つである、地震を原因とする確率論的リスク評価に必要な、建屋の局部応答も表現できる。つまり、重要機器や配管が設置されている建屋の床や壁といった局部の振動が再現され、建屋の揺れが精緻化された。これにより、「局部から始まる建屋のより現実的な損傷評価が可能」となり、建屋、機器、配管などの損傷確率を示す地震フラジリティー評価手法の高度化が期待できるという。この解析結果を実際の観測記録と比較したところ、再現性が向上していることが確認され、このモデル化方法の妥当性が明らかになった。

重要機器の設置位置などの建屋の注目部位(床や壁)のフラジリティ評価のイメージ

研究グループは、こうした3次元詳細モデルを用いた耐震解析の手法、考え方、手順、技術的根拠などを取りまとめ、国内初となる標準的な解析要領を整備した。これを利用することで、解析者ごとの解析結果のばらつきが抑えられる。また、プラント公開情報をもとに、この標準的解析要領の手順に沿ったモデル化と解析を行い、解析事例として整備した。そしてこれを適用事例としてまとめ、外部専門家の確認を経て、標準的解析要領とともに公開した。

電力会社のメーターをスマート化するCopper Labsが6.5億円調達

電力会社は問題を抱えている。電力会社の「スマートグリッド」は10年前の請求問題を解決するために作られたもので、電気自動車、ソーラーパネル、そしてリアルタイムデータへのこだわりを持つ2022年の消費者のニーズや期待に応えるためのものではないからだ。この問題を解決すべく、処理能力の低いスマートメーターと消費者のインターネット接続の間を橋渡しする、エレガントで小さなハードウェアデバイスを展開するCopper Labs(コッパーラボ)が550万ドル(約6億5000万円)を調達した。

「問題は、現在最も洗練されたSmart Grid(スマートグリッド)でさえ、昨日起こったことを15分間隔でしか電力会社に伝えられないことです」とCopper LabsのCEOであるDan Forman(ダン・フォーマン)氏はいう。「多くの電力会社は、30日に1回しかそのデータを取得できません。電力だけでなく、ガスや水道の場合も、30日に1回しかデータにアクセスできないところがほとんどです。送電網のディスラプションのペースは、技術革新のペースに見合っていません。当社は、電力会社が必要なソリューションを提供するために、より費用対効果の高い方法を見つける手助けをしています」。

Copper Labsは、アーリーステージの気候に特化した技術革新に資金を提供するベンチャーキャピタルClean Energy Ventures (CEV)がリードしたラウンドで550万ドルを調達した。同ラウンドには既存投資家のNational Grid PartnersBlue Bear Capitalも参加した。新たに調達した資金により、Copper Labsは2023年にかけて営業、エンジニアリング、マーケティングの各チームを増強し、公益事業全域での浸透を加速させる計画だ。今回の資金調達に加え、同社はClean Energy Venturesのベンチャーパートナーで米連邦エネルギー規制委員会の元コミッショナーのNora Mead Brownell(ノラ・ミード・ブロウネル)氏を取締役に迎える。

ブラウネル氏は「Copper Labsのチームは、電力会社が逼迫し限られた資源で将来を計画し、目的に合った供給システムを再構築できるよう支援することを使命としています」と述べた。「このチームが顧客に力を与え、より持続可能な未来のために急速に変化する外部性に適応している成熟した産業と提携するのをサポートすることを楽しみにしています」。

Copper Labsは基本的に、電力会社がこれまでアクセスできなかったデータの宝庫を解き放つ。リアルタイムデータが行動の変化の潜在的推進力となる世界では、特に重要なことだ。例えば、11日前のピーク時にTesla(テスラ)車両を充電していたと消費者に伝えても、その時点ではエンドユーザーはなぜ車を接続したのか思い出すことができず、意味がない。充電時点で、電気代や環境に対するダメージはすでに終わっている。

「これまで家庭用の需要管理プログラムは、主にスマートサーモスタットに接続し、ピーク時の負荷を軽減することを目的としていました。そうすることで、電力会社は高価で汚れたガスで稼働する尖頭負荷発電所(電力需要が急激に高まったピーク時にだけ運転する発電所)への依存を減らすことができます。しかし、スマートサーモスタットが設置されているのは米国の家庭の20%未満であり、そのうちの半数程度がこうした制御プログラムに申し込んでいるのが現状です」とフォーマン氏は説明する。「スマートサーモスタットは例えばEVの充電器など、今後発生するであろう他の問題をすべてカバーできるわけではありません。グリッドエッジのリアルタイムな情報だけでなく、ターゲットとなるユーザーを引き込むチャンネルが必要です。例えば、ピーク時に誰がEV充電器を使っているかがわかれば、電力会社にとっては価値の高い情報です。そして、その人をターゲットにして、負荷を抑えるインセンティブを与えることができます」。

Copper Labsのモバイルアプリは、住宅所有者に電力消費の最新情報を提供し、電力・水・ガスを節約するための実行可能な洞察とインセンティブを提供する(画像クレジット:Copper Labs)

既存のスマートメーターをインターネットに接続する家庭内ブリッジや、数十軒から数千軒の住宅に対応する近隣規模のソリューションなど、いくつかのソリューションがある。

「スマートグリッドのメーターには、ZigBeeホームエリアネットワークが内蔵されているものがあります。当社は安全なハンドシェイクを行い、翌日まで待つことなく約30秒間隔でデータを取り戻すことができます。設置するには、電力会社から郵送でデバイスが送られてきます。Copperのモバイルアプリをインストールし、すべてを接続します」とフォーマン氏は説明する。「これを壁に差し込むだけで、すべてをワイヤレスで行えます」。

近隣型ソリューションも同様で、有線または既存の無線ネットワークによる独自のインターネット接続が必要だ。電柱に設置し、より多くの家庭にサービスを提供することができる。

「当社の近隣レベルの装置では、1台の装置で数百軒の家庭から約1分間隔のデータを取得します」とフォーマン氏は話す。「その価値は、明らかに家庭のハードウェアコストを劇的に削減することです。消費者に何もしてもらう必要はなく、専用のブロードバンドやワイヤレスネットワークがあるので、消費者のWi-Fiに頼る必要もありません」。

クールなのは、Copperのデバイスは、太陽光発電メーターを追跡し、どのような電気が発電されグリッドに供給されているかを示すこともできる点だ。分散型の屋根上の太陽光発電アレイを可視化できない電力会社にとって、これは特に強力な独自の視点だと同社は主張する。また、このアプリは異常検知、使用状況データ、さらなる洞察をも可能にする。

「スマートメーターの有無にかかわらず、Copper Labsは迅速な意思決定を可能にすべく消費者、電力会社、スマートホームプロバイダーにとって高頻度データの宝庫を開きます」とBlue Bear Capitalのパートナー、Carolin Funk(キャロリン・ファンク)博士は述べた。

つまり、Copper Labsが解決しようとしている課題は、メーターベンダーの遅いイノベーションサイクルを回避して、古いグリッドを最先端のスマートグリッドよりも賢くすることだ。さらに、同社のソリューションは電柱に設置するため、、家庭レベルでまったく問題なく使用できる100個の電力メーターを交換するよりもはるかに安く、早く、そして環境にも配慮したものだ。

画像クレジット:Copper Labs (Merrick Chase Photography) under a license.

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

PG&Eとフォード、家庭用バックアップ発電機としての電動トラックの可能性を開拓へ

Pacific Gas and Electric Company(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー、PG&E)とFord Motor Company(フォードモーターカンパニー)は、Fordの新しい電動ピックアップトラックF-150 Lightningが、カリフォルニア州の電力会社サービスエリア内の顧客宅にバックアップ電源を供給できるかを共同で調査する。

今週初め、PG&EはGeneral Motors(ゼネラルモーターズ)と共同で似たような試験を行うと発表した。停電時に送電網からEVのバッテリーに電気を送ったり戻したりする双方向充電機能のテストが含まれる。電力会社は2021年、危険性の高い気象条件下で送電線が山火事を引き起こすのを防ぐために、何百、何千もの家庭や企業への送電を停止しなければならなかった。そこで、電力会社は自動車メーカーと協力して送電網に過度の負担をかけない方法を模索している。

PG&EのCEO、Patti Poppe(パティ・ポッぺ)氏は「私たちは今日、エネルギー産業と輸送産業が交差するところで、画期的な機会を目にしています。より多くの電気自動車と新しい充電技術が利用できるようになるにつれ、電気自動車と電力網の相互作用について理解を深め、どのように顧客をサポートするのが最善かを考えることが重要です」と声明で述べた。

Fordは、2021年5月に双方向充電機能を備えたLightningを製造する計画を発表した。Lightningでデビューするピックアップの9.6kWの車載発電機「インテリジェント・バックアップ・パワー」は、家庭の電力使用状況にもよるが停電時に最大10日分の電力を供給できるとPG&Eは話している。Fordはこれまで、フル充電で最大3日間、家庭の電力を供給できると発表していた。

Fordのインテリジェント・バックアップ・パワーは、停電時にLightningが接続されていれば自動的に家庭への電力供給を開始し、電力が復旧すれば再び充電に切り替えるというもので、2022年春に最初の設置が行われる予定だ。太陽光、バッテリー、エネルギーサービスを提供するSunrun(サンラン)がサポートする。同社はFordと提携しており、80アンペアのFord充電ステーションProとホームインテグレーションシステムを設置する。

少数の顧客宅への初期導入を通じて、PG&EはFordの技術を研究し、電力網への接続方法と、送電停止時の顧客の回復力を支援する方法を学ぶことを目指している。両社はその後、双方向充電技術のさらなる使用例を検討する予定だ。

画像クレジット:Ford Motor Company

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

トランジスタ以来の大発明?Menlo Microsystemsのスイッチはあなたが触れる全デバイスの電力供給を変える

従来の電気技術者は、信頼性が低くて遅い大電力スイッチか、大電力は扱えないが高速・高精度なスイッチのどちらかを選択しなければならなかった。Menlo Microsystems(メンロー・マイクロシステムズ)のIdeal Switch(アイデアル・スイッチ)は、そのような従来の電子設計のパラダイムを完全に覆す新しいタイプのスイッチだ。同社は、自らが「トランジスタ以来の大発明」と呼ぶものを開発し、さらなる変革を遂げるべく準備を進めている。ずいぶん大胆な主張だが、1億5千万ドル(約174億2000万円)の新規投資を集めたということは、少なくとも投資家の一部は同社が何かを掴んでいると考えているのだろう。

電気技術者でなければ、この会社の技術革新がどれほど大きなものかを理解するのは難しいだろうし、この技術がどれほど重要なものになるかを誇張して話すことも難しいだろう。このスイッチは、ある種の回路を100倍小さく100倍効率的にするという、非常に大きなインパクトを持っている。スマートライトのスイッチを自宅に設置したことがある人は、使われている電子機器が巨大で、力技とワセリンを使い悪態をつきながらでないと壁にスイッチを埋め込めないことにお気づきだと思う。これは、電源のON / OFFをリレーに頼っているためだ。同社の技術があれば、こうしたライトのスイッチを、大きさもコストもはるかに小さなものにすることができる。実際、同社の技術があと少し値下がりすれば、あなたが足を踏み入れるすべての設備、建物、車両に、同社のスイッチあるいはそれに相当するものが使われるようになる可能性がある。

フットプリントがはるかに小さいことに加え、Ideal Switchは作動に要する電力が大幅に少なく(1ミリワット未満)、通電時の消費電力も少なく、スイッチング速度がとても速く(10マイクロ秒未満)、数百万回の作動で故障することが多い通常のスイッチと比較して、数十億回の作動に耐えられるといわれている。つまり、これまでのコンポーネントとは大きく異なるタイプのコンポーネントなのだ。さらに同社は、それが数千ワット相当の電力を扱える部品であるとしている。

同社は米国時間3月9日、1億5000万ドル(約174億2000万円)のシリーズCを発表し、Menlo Microの累計資金調達額は2億2500万ドル(約261億3000万円)超に達した。Vertical Venture PartnersFuture Shapeが、このラウンドを主導し、既存投資家に加えて新規投資家としてFidelity Management & Research CompanyDBL PartnersAdage Capital Managementが参加した。今回の投資は、国内の製造とサプライチェーンの拡大に充てられる。

Menlo MicroのRuss Garcia(ラス・ガルシア)CEOは「今回の資金調達は、あらゆるものの電化を促進し、1000億ドルを超える21世紀のRF通信、電力スイッチング、保護デバイス市場を近代化する、Menlo Microの変革的技術に対する投資家のみなさまからの信頼を裏付けるものです」という。「今回の調達で、米国での生産を拡大し、世界の喫緊の課題を解決するためのパワーロードマップの開発を加速させることができるようになります。私たちは、世界の老朽化した電力網のアップグレード、スマートビルや工場の近代化、従来の電力インフラの非効率性を解消できる立場にいるのです」。

毎年200億台以上の配電盤が出荷されており、同社はこの広大な市場での変革を促進するための地位を得ようと躍起になっている。

「Ideal Switchは、電力を分配するすべてのスイッチに取って代わるものです」と、Future Shapeの立場でラウンド主導したTony Fadell(トニー・ファデル)氏は語る。彼はスイッチについては良く知っている。彼はしばしば「iPodの父」と呼ばれ、Nestの創業者および前CEOでもあった人物だ。「単純な話です。Ideal Switchは、都市、ビル、家庭、電気自動車から照明器具に至るまでの電力供給に関する基本的な計算を変えてしまうのです。また、エネルギー効率に優れているため、コスト削減、長寿命、スマートな動作、気候変動の原因となる排出物の削減が期待できます。Menlo Microは、現代最大の既存技術破壊者の1つなのです」。

世界が電化に向かう中、大幅な効率向上を約束する技術は、大きなインパクトを与えることができる。同社は、そのインパクトをある例で説明している:天井ファンは全世界に10億台以上ある。既存のファンコントローラーをIdeal Switchに置き換えることで、約17基の発電所が不要になるほどの省エネが実現できるのだ。

「ご想像の通り、これは最も普遍的なデバイスです。速度、コスト、性能の面で桁違いの向上が可能なデバイスを手にしたときには、スケーリングが最大の課題となります。今後2〜3年で非常に大きな成長を見込んでいます」とガルシア氏は予測する。「最初の成長は、ワイヤレスが中心に行われました。これはもっとも手を出しやすい分野でしたが、スマートな電力管理や制御の分野では、はるかに多くの普及が見込まれます」。

Menlo Micro CEOのラス・ガルシア氏。画像クレジット:Menlo Microsystems

このデバイスは、他のコンポーネントを単純に置き換えるものではないので、回路基盤は再考され再設計されなければならないが、同社の創業者たちは、そもそもサイズが違うために、既存の技術のピン配置に合わせて置き換えることには意味がないと主張している。

「Ideal Switchは、ほとんどの場合、大幅に小型化されたデバイスとなります。20アンペア、240ボルトの電気機械式デバイス、あるいは半導体デバイスと比較しても、かなり大きな違いがあることがわかります。同じ機能を10×20mmのプラスチックパッケージに組み込むことができるのです」とガルシア氏は説明する。「当社の製品を古いパッケージに入れて、エンドユーザーが信頼性と性能を活用できるようにしているお客様もいらっしゃいます」。

Menlo Microsystemsが生産を拡大し、競合他社が参入してくる中で、同社のボトルネックが何になるのかは興味深いところだが、1つだけ確かなことがある。それは消費者(ひいては環境)が最大の勝者になる可能性が高いということだ。

画像クレジット:Menlo Microsystems

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

大阪大学レーザー研究所、核融合に不可欠な固体トリチウムの新しい物性値を60年ぶりに解明

大阪大学レーザー研究所、核融合に不可欠な固体トリチウムの新しい物性値を60年ぶりに解明

大阪大学レーザー研究所(山ノ井航平助教ら研究グループ)は2月14日、固体状態の重水素トリチウム(D-T)混合体の屈折率の測定に、世界で初めて成功したと発表した。核融合発電の注入燃料として利用される予定の重水素とトリチウムの混合体だが、トリチウムが放射性物質であることから取り扱いが難しく、その物性値は60年にわたり測定されてこなかった。

固体の重水素とトリチウムの混合体は、効率的な核融合発電を行うためには、その形状と組成のコントロールが必要になる。光を用いて分析を行えば、形状と組成を一度に知ることができるのだが、もっとも基礎的なデータである屈折率の測定が困難だった。そのため、軽水素などの値から推測された経験式から得られるデータで代用するしかなかった。

レーザー研究所では、約4テラベクレル(TBq)のトリチウムと重水を1対1の割合で混合し、密封セル内でマイナス255度以下に冷やして固化し、その屈折率を測定した。さらに温度を下げることで、屈折率の温度依存性も明らかにした。これができたのは、同研究所が蓄積してきた高度なトリチウムの取り扱い技術と、レーザー測定の技術と知識のおかげだ。

この研究成果により、将来の核融合における固体重水素トリチウム燃料の検査手法が確立され、核融合炉の設計が進むことが期待されるという。また、高い安全性を確保した上での「大容量のトリチウムを取り扱った技術的知見が得られた」ことで、今後の放射性物質を使った研究開発に貢献できると研究所は話している。

ウェザーニューズ、電気事業者向けに1kmメッシュの高解像度な太陽光発電量予測データをAPIで提供開始

ウェザーニューズは、同社の日射量予測モデルを改善し予測精度を通常のものから11%向上させ、これを用いた太陽光発電量予測モデルを開発。電気事業者向けの1kmメッシュ(約1km四方)の高解像度な日射量予測データのAPIによる提供を開始した。現在は無料トライアルを実施している。

これは、企業向けの気象データの提供と分析を行うサービス「WxTech」(ウェザーテック)サービスの1つ。2021年4月からは、再生エネルギー発電の固定価格買取制度から、補助金が変動するFIP制度に切り替わる。そのため、高精度な太陽光発電量予測が今まで以上に重要になるという。そこでウェザーニューズでは、新たな太陽光発電量予測モデルを開発した。そして、このモデルを使った日射量予測データのAPI提供サービスを開始した。

電力取引に適した30分ごとの太陽光発電量の予測データを72時間先まで提供するというもので、「物理モデル」か「統計モデル」の2種類を用意があり、いずれか精度の高いほうを選択できる。なお新設の発電所の場合は、実績データが蓄積されるまで統計モデルは選択できない。

物理モデルでは、太陽光発電所の緯度・経度、ソーラーパネルの出力・方位角・傾斜角・パワーコンディショナー(PCS)の出力や効率といった情報をもとに、ピンポイントな太陽光発電量予測データを算出。統計モデルでは、過去の発電量実績データと気象データをAIに学習させて高精度な予測を行うという。

ウェザーニューズでは、2020年12月に機械学習を用いた日照量予測モデルを開発。従来は、雲の透過率を上空の湿度から推定していたが、このモデルでは、上空の湿度や温度から推定される雲の水分量、風向と風速から計算される収束量などで機械学習を行い、雲の透過率を高精度に推定している。今回はその大気濁度と雲透過率の算出方法を見直してバージョンアップし、2021年12月には、同社の従来予測モデルと比べて8.5%、気象庁(MSM)と比べ11%という精度改善を確認した。

予測解像度を1kmメッシュにしたことでも、データの精度は高まった。従来の5kmメッシュでは1つの区画の範囲が広く、その中で天気や発電量に大きな差が出ることがあったからだ。また、1kmメッシュの積雪予測、積雪実況データと過去の気象予測も追加された。太陽光発電に大きな影響を及ぼす積雪予測と積雪実況データは、30分ごとに更新され、積雪を加味した予測が可能になる。

太陽光発電予測データのサービス仕様

  • 単位:kWh
  • 空間解像度:1kmメッシュ
  • 時間解像度:30分間隔(72時間先まで)
  • 更新頻度:30分ごと、5回/日、1回/日から選択可
  • 提供方法:API提供、または専用ウェブサイトからCSVファイルをダウンロード

漕いで漕いで漕いでスマホを充電、トレーニングを電力に変えるSportsArtのジム用マシン

サプライチェーンからトレーニングジムのメンバー基盤まで、すべてをずたずたにしたパンデミックの中、プロフェッショナルグレードのジム用マシンメーカーのSportsArt(スポーツアート)が、電力網にエネルギーを戻せるローイングマシンを発売したのは、ちょっと夢のある話だ。風力発電やソーラーパネルと違うのは、動力が胸筋と三角筋と僧帽筋だというところだ。

このローイングマシンではマイクロインバーターで、ひと漕ぎごとの運動を携帯電話の充電に変える。同社の試算によると、放電状態のiPhoneをフル充電するには約2時間のボート漕ぎが必要だ。ちなみに私はバッテリーが切れそうな携帯電話をエクササイズマシンに乗るモチベーションに変えることにしばらくの間、興奮を覚えた。ハンドルバーのグリップには漕ぐ抵抗を増やすコントロールがあるので、ご想像のとおり、抵抗を増やせば発電力が高くなる。

同社はこのG260ローイングマシンを先週ラスベガスで行われたCESで披露し、漕手が出力したエネルギーの約74%を利用可能な電力に変換できると語った。私は今週、同社のCOOと話す機会があり、人力を使って電気を作ることになぜ意味があるのかを尋ねた。

「1時間のワークアウトで、概ね冷蔵庫の消費電力、約200ワット時が生み出されます」とSportsArtのCOOであるCarina Kuo(カリーナ・クオ)氏が説明した。ただし、ボートを漕いでTesla(テスラ)を充電するのはまだ無理だと彼女は認めた。ポイントはそこではない。「通常のトレッドミル(ランニングマシン)は1時間当たり約1000ワットの電力を消費します。ワークアウトするだけでなく、ワークアウトの消費電力を相殺する手助けができるというのが私たちの考えです」。

SportsArtは創業40年以上になる会社だ。本社は台湾で、米国の事業拠点はシアトルにある。さらに同社は、ドイツとスイスにも事業所を持ち、300人の従業員が世界に散らばり、80カ国で営業活動を行っている。主要なターゲットはトレーニングジムと体力をつけるためのリハビリテーション施設だが、現在ホーム市場も評価しているところだ。短期的には、マンションなどの共用ジムが同社にとって最適な対象だとクオ氏は言った。

「特にフィットネス業界では、新型コロナウイルス感染症のためにジムを稼働できないことが、家庭向け販売の爆発的増加につながっていることにまちがいありません。そこは競争が非常に困難な分野で、なぜならほとんどの購入者は安い製品のことを考え、必ずしも質を求めていないからです。これは当社が競争したい場所ではありません。私たちは品質の重要性を信じています」とクオ氏は説明し、同社が10~15年前に販売したエクササイズ器具を今でもメンテナンスしていること、今もジムや医療現場で業績をあげていることを話した。「私たちは最良の部品を使うことにこだわり、あらゆる部分を業界最高の保証で守っています。市場でこのような差別化要因を持てることは重要だと固く信じています」。

業務用マシンが主であることは、マシンがジムの片隅で95%の時間使われずにいるのではなく、発電し続けているほうがいいということを意味している。利用回数が大きく増えれば、マシンはジムの電気代にインパクトを与えられるかもしれない。

「私たちは家庭市場に進出しようとしているわけではありません。今は最適なターゲットを探しているところです」とクオ氏は説明し、同社の過去40年間のグリーンとリサイクルへの取り組みを強調した。「ジムでは特に違いが生まれます、なぜならサステナビリティのメッセージを発信できるからです」。

画像クレジット:SportsArt

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nob Takahashi / facebook

数分の1のコストで何日分も電気を蓄えられるというForm Energyのバッテリー、秘密主義な同社CEOがその理由と歩みを語る

現在の数分の1のコストで何日分も電気を蓄えることができる充電池を開発していると語るForm Energy(フォーム・エナジー)は、2017年にひと握りの創業者によって設立されて以来、優良な支援者から3億6000万ドル(約410億9600億円)以上の資金を得ているにもかかわらず、秘密主義に走りすぎていると非難されてきた。

その創業者の1人であるForm EnergyのCEOであるMateo Jaramillo(マテオ・ジャラミロ)氏は、テスラのエネルギー貯蔵グループの創設を主導した人物だ。先に開催されたイベントでジャラミロ氏は、元TechCrunchの記者で現在はCNBCの特派員であるLora Kolodny(ローラ・コロドニー)に、同社が一種の社外秘を貫いてきた理由について話した。ジャラミロ氏はフォーム・エナジーの運営方法について説明した他、テスラでElon Musk(イーロン・マスク)の下で働いた7年以上の期間を振り返り、なかなか厳しい時間であったことを語った。

インタビューの全編は以下から視聴できる。以下は、そのインタビューからの抜粋となる。

なぜ今、再生可能エネルギーの波が押し寄せ、フォーム・エナジーは別としても多くの企業が注目され、投資資金を集めているのか。

現在、世界で最も安価に入手できる電力源は再生可能資源であり、つまり地域にもよりますが、太陽光や風力です。しかし最も安い電気料金を探しているのであれば、現在では再生可能エネルギーになるでしょう。もちろん、再生可能エネルギーは天候によって左右され、天候はある程度しか予測できず、しかも断続的に変化します。つまり完全に再生可能な脱炭素の送電網を実現するためには、関連するすべてのタイムスケールにおいて断続的なエネルギー源を蓄えることができなければならないのです。

そう、太陽は毎晩沈み、毎朝戻ってくるため、その間を繋がなくてはなりません。また、季節や長い期間の気象パターンに関連したギャップについても考える必要があります。再生可能エネルギーは過去15年から20年の間に非常に大きな進歩を遂げたため、現在の普及レベルでは、電力系統の最後の30%から40%について、再生可能エネルギーや発電機を使ってどのように信頼性とコストを提供するかを真剣に考えなければなりません。

画像クレジット:Dani Padgett

ジャラミロ氏は、フォーム・エナジーが採用している鉄空気の技術が、50年近く前に連邦政府機関によって調査されたが(一度も商業化されなかった)、突然エネルギー貯蔵の方法としての意味を持つようになった理由についても言及している。

まず、最も普及している技術は揚水発電です。現在、世界にあるエネルギー貯蔵技術の中では圧倒的に揚水発電が多いのです。ですがその上を行く技術は、もちろんリチウムイオンです。このイベントにいる全員が5つのリチウムイオン電池を持っていると思います。それだけリチウムイオン電池が普及しているということです。

しかし、再生可能エネルギーの普及が進むと、リチウムイオンの能力とは異なるものが必要になってきます。風力、水力、太陽光などの再生可能エネルギーを100%使用するだけでなく、数時間を超える電力供給の中断についても考えなくてはなりません。そのためには、リチウムイオンよりもはるかに安価である必要があります。

(一方)鉄は非常に豊富な金属物質です。地球上で最も多く採掘されている金属です。人間は鉄についてよく知っています。鉄をいじくり回して、鉄にちなんだ名前が付いた時代もありました。そして多くのことがわかりました。そして現在も、もちろん鉄鋼生産の主原料として使用しています。鉄はまた、非常に安価です。どの大陸にも豊富にあり、世界最大級の規模を誇る産業でもあります。そして、これは新しい化学ではないというのはその通りです。フォーム・エナジーは鉄空気を化学的に発明したわけではありません。私たちがやったことは、2つの国立研究所が最初に研究したともいえる化学物質を、50年先の未来に引っ張り出し、現代の技術と方法論、電気化学、腐食、金属工学に関する現代の知識を適用して、40~50年前に存在していた性能を今日において可能なところまで引き上げたのです。つまり、将来のリチウムイオンの10分の1のコストのデバイスに取り組んでいるのです。(つまり)深い脱炭素化、高度な再生可能性、安価で信頼性の高い電力網を実現することができるということです。

「鉄空気電池」とはどういう意味でしょうか。簡単に言えば、電気化学的に鉄を錆びさせ、錆びていない状態に戻すということです。それが私たちのやっていることです。非常に可逆的なプロセスですが、非常に優れたやり方で行わなくてはなりません。

さらにジャラミロ氏は、同社がシステムの効率性について秘密にしてきた理由についても言及した(「秘密にしてきたのだとしたら、それは私たちのやっていることが不必要に誇張されるのを避けようとしてきたからです」)。

彼は、技術がどのように機能するかについてより正確に話してくれた。現在、鉄鋼業界で年間1億トンもの大量生産が行われているブルーベリーサイズの「高純度の」鉄ペレットをフォーム・エナジーがどのように活用しているのかが気になる方は、10分前後の部分をご覧いただきたい。

さらにコロドニーは、テスラで学んだことのうち、フォーム・エナジーで再現しようとしていること、そして自動車メーカーでのキャリアから学んだことのうち、再現したくないことを尋ねた。

私はテスラに約7年半いました。2009年に入社して、2016年末に退社しました。テスラはレッスンの工場です。クルマを作っているともいえますが、実際にやっていることは人々にレッスンを提供することです。その弧の中にいるのはすばらしい場所でした。私が入社したときの社員数は数百人でしたが、私が退社するときには3万人、4万人といった規模になっていました。

私が退職したのは、当時、テスラのエネルギー事業であるPowerwall(パワーウォール)とPowerpack(パワーパック)をすでに立ち上げていたからです。私は結婚しています。妻と私の間には3人の子どもがいます。結婚生活を続けたいですし、子どもたちの人生の一部でありたいと思っています。イーロンと一緒に働いた7年半は、私にとっては十分でした。また、私は意図的にイーロンと良い関係のまま退社したいと思っていましたし、物事は良い方向に向かっていましたので、私にとってはそれで良かったのです。

画像クレジット:Dani Padgett

私は後悔なく退社しましたが、多くのことを学びました。それは一緒に仕事をする人たち、そしてその人たちの質ほど重要なものはないということです。彼らは、取り組んでいる仕事のミッションに対して、可能な限り情熱的にコミットしていなくてはなりません。

もう1つの教訓は、時には人をその人自身から守らなければならないということです。それは転倒する可能性があるからです。美徳も行き過ぎれば悪徳になります。だからこそ、会社にコミットし、ミッションに熱心に取り組んでいる人に求めることには限界があり、限界を置くべきということを認識することが大切です。フォーム・エナジーでは、現在約200名の社員が働いていますが、全員が非常に情熱的で、献身的で、使命感を持っているという文化を作り、かつ家庭などを維持できていることを願います。この2つは相反するものではありません。

画像クレジット:Dani Padgett

原文へ

(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

Energy Domeは太陽エネルギーの貯蔵に二酸化炭素を利用する

長時間にわたるエネルギー貯蔵は厄介だ。だが多くのバッテリー技術は「EVをさらに数百マイル走らせるために、バッテリーをどれだけ速く充電できるか」に焦点を当ててきた。急速充電は、月が夜空をゆっくりと散歩している12時間に使う電力を、昼の12時間で太陽から得ようとすることとは根本的に異なる問題だ。

米国時間11月30日、Energy Dome(エナジードーム)は、拠点を置くイタリアのサルデーニャ島での実証プロジェクトで、世界初の商用CO2(二酸化炭素)バッテリーを設置するために、1100万ドル(約12億5000万円)のシリーズA資金調達を行ったことを発表した。

同社によれば、CO2バッテリーの最適な充電 / 放電サイクルは4〜24時間であり、日次および日中のサイクルに最適だという。また、これは現在急成長している市場セグメントであり、既存のバッテリー技術が十分にカバーできていなことも指摘している。具体的には、太陽光発電の余力がある日中にCO2バッテリーを充電しておいて、電力需要が太陽光の供給量を上回る夕方や夜間のピーク時に放電することを想定している。なぜなら──まあ当たり前過ぎてわざわざ書くのもはばかられるが──夜は太陽が出ていないからなのだ。

同社は、市販のコンポーネントを使用して構築されているそのCO2バッテリーが、75〜80%の充放電効率を達成していると主張している。しかし、おそらくもっと興味深いのは、バッテリーの動作寿命がおそそ25年程度になると予測されていることだ。他の電力貯蔵ソリューションの事情をよく知っている人なら、ほとんどのソリューションの動作性能が、10年を超える頃には大幅に低下し始めることに気がついているだろう。同社は、製品のライフサイクルコスト全体を考慮した場合、エネルギーを貯蔵するコストが、同じサイズのリチウムイオン電池で貯蔵するコストの約半分になると予測している。

この技術は非常に優れており、同社はCO2をガスから液体に、そしてまたガスに戻す閉ループサイクルで利用する。ソリューションの一部となる、ガス状のCO2を充填した膨張可能なガス容器部品にちなんで、会社は「ドーム」と命名されている。

充電時には、システムは電力網から電力を引き込む。この電力を用いてドームからCO2を引き出して圧縮するコンプレッサーを駆動し、熱を発生させるのだ。この熱は蓄熱装置に蓄えられる。次に、CO2は圧力下で液化され、環境と同じ温度で液体CO2容器に保管され、充電側サイクルが完了する。放電時には、このサイクルが逆になる。液体のCO2を気化させ、蓄熱装置から熱を回収し、高温のCO2をタービンへ送り込んで発電機を駆動する。電気はグリッドに戻され、CO2は大気に放出されることなくドームを再膨張させ、次の充電サイクルに使われる準備が整えられる。このシステムの貯蔵容量は最大200MWhだ。

今回のラウンドはディープテックVCの360 Capitalが主導し、他の多くの投資家が投資ラウンドに参加した。その中には、インパクト投資アプローチを採用する大手銀行バークレイズの一部門であるBarclays’ Sustainable Impact Capital プログラム、ジュネーブを拠点とするマルチファミリーオフィスのNovum Capital Partners、そしてRMIとNew EnergyNexusによって設立されたグローバルな気候テクノロジースタートアップアクセラレーターのThird Derivativeが含まれている。

画像クレジット:Energy Dome

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)