フェーズドアレイ気象レーダーの複数展開で線状降水帯の予測精度を大きく改善できることを富岳のシミュレーションで確認

理研、フェーズドアレイ気象レーダーを使うことで線状降水帯の予測精度を大きく改善できると富岳によるシミュレーションで確認

仮想的なフェーズドアレイ気象レーダーネットワーク。赤点はフェーズドアレイ気象レーダーが設置された17の地点(九州の地方気象台と特別地域気象観測所)。オレンジ色部分はレーダーの観測範囲を示す

理化学研究所(理研)は、もし九州全土に最新鋭のフェーズドアレイ気象レーダーを配置した場合、2020年7月の線状降水帯による豪雨の予測に役立ったかを調べるため、スーパーコンピューター「富岳」を使ってシミュレーションを実施。その結果、予測精度が大幅に上がることが示されたと3月7日に発表した。

年々脅威を増す線状降水帯による豪雨に備えるには、観測強化や観測データを高度に活用する予測技術を開発し、シミュレーションによる気象予測(数値天気予報)の精度を高めることが重要となる。その候補となる技術の有用性を事前に評価できれば、効果的な観測予測システムの設計に役立つ。理研計算科学研究センターデータ同化研究チーム(三好建正氏、前島康光氏)は、これまでにゲリラ豪雨の予測方法をスーパーコンピューター「京」で開発し、その手法に基づき、埼玉県のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)による30秒ごとの雨雲の観測データとスーパーコンピューター「Oakforest-PACS」による首都圏の超高速降水予測のリアルタイム実験を行うなど、研究を重ねてきた。

そして今回、三好氏を中心とする理研の研究グループは、これまでに培ってきたフェーズドアレイ気象レーダーの観測ビッグデータを活かして、線状降水帯の予測精度の向上に取り組んだ。まずは、九州の地方気象台と特別地域気象観測所の計17カ所にフェーズドアレイ気象レーダーを設置したと仮定し、観測データのシミュレーションを行った。ここでは2020年7月に熊本県に豪雨被害をもたらした線状降水帯の観測データを使い、九州を中心とする600km四方のシミュレーションを「富岳」で行い、その結果を「正解データ」とした。

次に、線状降水帯をうまく再現しないシミュレーション実験(NO-DA)を行い、さらにフェーズドアレイ気象レーダーを使った30秒ごとのデータを用いた実験(30SEC)と、通常のレーダーで5分ごとデータを用いた実験(5MIN)を行った。その結果、NO-DAと5MINは線状降水帯は大きく南にずれてしまったのに対して、30SECは大きく改善し、正解データに近づいた。

2020年7月4日午前4時(日本時間)を初期時刻とした1時間先の雨粒量の水平分布。(a)線状降水帯をうまく再現しないシミュレーション結果(NO-DA)。(b)通常の気象レーダーによる、5分ごとの観測データを用いた実験(5MIN)。予測は改善されなかった。(c)フェーズドアレイ気象レーダーによる、30秒ごとの観測データを用いた実験(30SEC)。予測が改善された。(d)今回の研究における正解データ。赤・紫になるほど強い雨を表す

2020年7月4日午前4時(日本時間)を初期時刻とした1時間先の雨粒量の水平分布。(a)線状降水帯をうまく再現しないシミュレーション結果(NO-DA)。(b)通常の気象レーダーによる、5分ごとの観測データを用いた実験(5MIN)。予測は改善されなかった。(c)フェーズドアレイ気象レーダーによる、30秒ごとの観測データを用いた実験(30SEC)。予測が改善された。(d)今回の研究における正解データ。赤・紫になるほど強い雨を表す

このことから、そもそも狭い領域で発生するゲリラ豪雨の予測を目的としたフェーズドアレイ気象レーダーだが、複数の積乱雲からなる線状降水帯の大規模な現象にも対応できることが示された。これは「地球規模の温暖化により脅威を増す線状降水帯の予測精度の向上や被害の軽減に向けた新しい予測技術や観測システムの提案」につながると研究グループは話している。

日本海側に豪雪をもたらすJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)の実態を洋上気球観測で初めて解明

水産大学校練習船「耕洋丸」による洋上気球観測の様子

水産大学校練習船「耕洋丸」による洋上気球観測の様子

新潟大学は2月21日、日本に豪雪をもたらす日本海寒帯気団収束帯(JPCZ。Japan sea Polar air mass Convergence Zone)の実態を、洋上気球観測によって初めて明らかにしたことを発表した。

JPCZは日本海で発生し、朝鮮半島の付け根付近から日本列島にかけて数百kmに及ぶ帯状の雲を形成する(冬の北西季節風がシベリアから吹くと、北朝鮮北部の白頭山の下流に位置する日本海北西部から日本列島まで帯状の太い雲が伸びる)。これが上陸すると、狭い範囲に極端な豪雪をもたらし、ときには太平洋側に大雪を降らせることもある。JPCZの発生のメカニズムやその詳しい実態は、これまで現地観測されたことがなかったため、その構造は謎だった。

JPCZの発生メカニズムとしては、北朝鮮の山を迂回する気流が合流することで発生するなどいくつか提唱されているものの、現場での観測研究は実施されていないため確かめられていなかったという。

そこで、新潟大学、三重大学水産大学校東京大学からなる研究グループは、2022年1月19日から20日かけて、水産大学校の練習船「耕洋丸」を使い、JPCZ下の洋上を横断しながら気球による観測を実施した。気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、これに合わせて海洋の温度塩分観測も行った。

洋上観測の模式図。JPCZを横断しながら気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、上空の大気を観測

洋上観測の模式図。JPCZを横断しながら気温・湿度・風・気圧を測定する機器を搭載した気球を1時間ごとに打ち上げ、上空の大気を観測

その結果わかったのは、JPCZの中心部では、風向が90度に激変し、強風化し、周囲から気流が収束しているという事実だった。収束域は幅約15kmときわめて狭く、上空4kmまで風の急変域が続き、6kmの地点では気流が発散していた。こうした大気の急変は、規模数百kmの前線帯でも見られないという。またJPCZ中心部の雲の高さは、平均的な雪雲の高さが2kmなのに対して4kmもあった。

JPCZ中心部を横切った島根県沖での観測結果。矢印は1000m上空の風向と風速を示す。JPCZ中心部で風向が約90度変化し、周囲から高湿度の気流が収束することで、JPCZに集中し大雪がもたらされていることを観測

JPCZ中心部を横切った島根県沖での観測結果。矢印は1000m上空の風向と風速を示す。JPCZ中心部で風向が約90度変化し、周囲から高湿度の気流が収束することで、JPCZに集中し大雪がもたらされていることを観測

このときの海水温度は、暖かい対馬暖流の影響で14度。気温は3度。その温度差は11度。水面での風速は毎秒17m。これらにより海面から大量の水蒸気が吸い上げられ、気流の収束によりJPCZに集中して大雪を降らせていた。これを降雪に換算すると、1日の降雪量2mに相当するという。こうした大気と海洋の状態により極端な大雪をもたらされることが、今回の観測によって初めて示された。この観測結果は、JPCZの予報の精度向上に寄与すると、研究グループは話している。

海賊、麻薬、汚染、違法漁業など海上監視に最適化された産業ドローン用AI特化のTekeverが約26億円調達

産業用ドローンは、消費者が余暇に楽しむ無人航空機を事業用に補完するものである。その市場は、バッテリー寿命やリーチ、パフォーマンスを向上させるソフトウェアおよびハードウェアテクノロジーの新しい波と、データオペレーション活動の強化を目的にこれらのサービスに投資する企業の増加を追い風に、急速に拡大している。米国時間1月25日、海上展開向けドローンのAI開発に特化した企業が、そのデバイスとサービスに対する強い需要を見据えて、資金調達ラウンドを発表した。

水上の活動を監視および検知するAIを組み込んだドローンを手がけるTekever(テクエバー)が、2000万ユーロ(現在のレートで2300万ドル[約26億円]弱)を調達した。このラウンドをリードしたのはVentura Capital(ベンチュラ・キャピタル)で、Iberis Capital(イベリス・キャピタル)と海洋産業からの複数の匿名の戦略的投資家が参加した。同社は今回調達した資金を、人材の雇用拡大とテクノロジー開発の継続に活用する予定である。

歴史的な海洋大国ポルトガルのリスボンに本拠を置くTekeverは、2001年に設立され、2018年から商用サービスを開始した。だが同社はすでにかなりの期間にわたって収益性を確保しており、今後3年間でCAGR(年平均成長率)60%の成長を見込んでいる。そして実際、これは同社にとって初めての外部資金調達であり、ビジネス機会の増大にともない、テクノロジーの拡張、そしてより広範な組織への販売を視野に入れたものである。

Tekeverの顧客には、違法行為に備えて水域を監視する目的で同社のサービスを利用している各国政府および政府機関が含まれる。また、民間の船舶会社やその他の海洋関連会社も、気象パターンや水上交通など、事業にインパクトを与える可能性のある物理的活動をドローンで追跡している。

Tekeverを創業したのはインテリジェンスとAIの専門家チームで、共同創業者兼CEOのRicardo Mendes(リカルド・メンデス)氏は、自社を垂直統合ビジネスとして位置づけている。同社はドローンと塔載テクノロジー両方の設計と構築を手がけており、そのテクノロジーは、機体の下に広がる水上で起きていることの監視と「読み取り」、さらには次に何が起こるかの予測を行う。

垂直統合されたドローン会社はそれほど珍しいものではないが、より独自性のある側面として、Tekeverがそのスタックを構築した順序を挙げることができる。

「私たちは、ドローン業界の他のどの企業とも正反対の方向からスタートしました」とメンデス氏は冗談交じりに語った。同社はまず地形(同社の場合は水域)を読み取るテクノロジーの構築に着手し、その後、自社のソフトウェアを動作させる目的に適したドローンを構築した。それには機体自体に組み込まれる特別仕様のアンテナ、センサー、電力機能などが含まれている(このことは、現時点では、同ソフトウェアが他の航空機で動作することを本質的に不可能にしている)。一方でこのソフトウェアは、エッジAI、衛星通信、クラウドコンピューティングを組み合わせて使用するように設計されている。

ドローン専用のハードウェアを自前で構築するのは難しい(そして費用がかかる)。しかし、それは同社にとって意図されたものであった。Tekeverは両方のコンポーネントを販売しているが、最も広く展開されているのは、自社フリートのオペレーション、そして「Atlas(アトラス)」というブランド名の、メンデス氏が筆者に「サービスとしてのインテリジェンス」と形容した、ドローンを使った監視サービスの販売である。同氏によれば、このアプローチは同社のプロダクトを可能な限り広範にアクセス可能にするために特別に取り入れられたもので、翼幅2メートルから最大8メートル、飛行時間が20時間にも及ぶドローンは、最大規模の顧客以外にはコストが高すぎることが背景にあるという。

「私たちが答えを出そうとした問いは『富裕国に限らず、世界中で手軽にこれを利用できるようにするには、何をする必要があるだろうか』というものでした」と同氏は語っている。「ドローンはバリューチェーンの一部にすぎません」。

Tekeverがどのように利用されているかの例として、欧州海上保安庁(EMSA)と英国内務省の両方が顧客である一方、アフリカの小さな共和国も顧客に含まれている。こうした機関では、海賊行為、麻薬、人身売買、移民の密入国、汚染、違法漁業、インフラの安全上の脅威に関与する船舶を監視する目的で、同社のテクノロジーが幅広く使用されている。

The Guardian(ガーディアン)紙が最近報じたところによると、欧州の政府機関は難民グループの監視体制強化に向けて、ドローンやその他の軍事技術に数百万ユーロ(約数億円)を投資しているという。これらの投資は不法移民を抑止するものではなく、脆弱な人々に対してさらに危険なルートを取るよう促すだけであるという明確なメッセージがそこには記されている。この分野の他の企業の中には、Anduril(アンドゥリ)のように、彼ら自身の論争を踏み台にして莫大な金銭的報酬を得ていると思われる企業もある。しかし、TekeverのCEO兼創業者は、自身の会社が市場の特定の技術的ギャップを埋めるということだけではなく、その利用は害をもたらすよりも利益をもたらすものであることを確信している。

関連記事:Oculus創業者が起ち上げたAI防衛企業Andurilの評価額が約5000億円超に

「海のような広大な領域では、何が起きているのかわからないことが多く存在します」と同氏はいう。一般的に、組織は水上で起きていることの状況把握を衛星画像に頼ってきたが、ほとんどの衛星画像はユーザーが見るときには数日経過しているため、その方法は理想的ではない。「漁業、密輸、人身売買、移民、これらはすべて、リアルタイムのインテリジェンスが必要な分野です。当社のソリューションは単なる映像にとどまらず、問題解決の糸口になるものです。その目的は、悪い事象が発生する前に行動できることに置かれています」。Tekeverは予測的アナリティクスも使用しているため、何が起こるかを予見することができる。

「私たちが行っているのは、問題発生時にその問題を解決する膨大な量のデータを収集することです」と同氏は述べ、対応に5分余分に時間がかかっただけでも、水の状態が変化する速度のために違いが生じる可能性があると指摘した。例えば、英国内務省の場合、イギリス海峡で移民船を特定し、彼らを岸まで送る手助けをし、潜在的な悲劇的事故を回避することが優先事項の1つであると同氏は指摘した。「メディアは移民問題そのものに焦点を当てていますが、これは大きな人道的問題でもあると思います」と同氏は語る。

Tekeverが今後、そのテクノロジーを発展させる可能性のある方法は山ほどある(方法の海であふれている、ともいえようか)。水域を観察してその意味を理解するには膨大なデータを処理する必要があるが、同時にそれによって同社は大量のデータセットを利用できるようになる、とメンデス氏は説明する。遠洋航海用船舶に搭載されているライダーやレーダーで識別するような、海底での活動を読み取ることはまだできていない。だが同社はこの分野を開拓し始めている。他にも、原油流出の特定と分類が考えられる、と同氏は述べている。

Tekeverは現在、メンデス氏が筆者に「ブルーエコノミー」と表現したものに注力しているが、同社はまた地上においても地歩を固めつつある。その焦点は、極めて複雑な地形を観察する新しい方法の創造を追求し続けることに置かれているようである。同氏はさらに取り組みたい分野として、森林、特に熱帯雨林に言及している。同社は数年前にブラジルのドローン会社Santos Lab(サントス・ラボ)に投資しており、その分野に足場を築いている。

「Tekeverはとても型破りなUAS(無人航空機システム)企業であり、卓越したテクノロジー、何千時間ものオペレーション経験、経験豊富なリーダーシップチーム、そして急成長する市場において驚異的かつ収益力が強いビジネスビジョンを有するマーケットリーダーです」とVentura CapitalのマネージングパートナーであるMo El Husseiny(モ・エル・ハッシニー)氏は声明で述べている。「これらの特性は、VenturaがTekeverをフラッグシップ投資として位置づけた背景をなす要素であり、テクノロジー分野のディスラプターで構成される私たちのポートフォリオと整合するものです」。

「Tekeverは欧州で最も注目されているディープテックスケールアップの1社であり、このチームと協働し、彼らがグローバル市場のディスラプションを創出するのを支援していくことを大変誇りに思います」とIberis CapitalのパートナーであるDiogo Chalbert Santos(ディオゴ・チャルバート・サントス)氏は続けた。「Tekeverがすでに自力で成し遂げていることは驚くべきものであり、今回のラウンドで空は果てしなく広がる(可能性は無限に広がる)といえるでしょう」。(サントス氏は言葉遊びを使わずにはいられないようで、私の心にかなった投資家の1人である)。

画像クレジット:Tekever AR5

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

極域の観測網構築に向けた、安価な汎用ドローンによる高精度気象観測を実現

極域の観測網構築に向けた、安価な汎用ドローンによる高精度気象観測を実現

国立極地研究所は1月24日、安価な汎用ドローンを使った高精度な気象観測の実験に成功したと発表した。コストのかかるラジオゾンデに代えて、安価な汎用ドローンによる高層気象観測が高頻度で数多くの地点で行えれば、気象の予測精度は向上する。

北極での天気予報の精度の低さが、日本を含む中緯度域の台風進路の予測や寒波予測に影響しているという。それらの地域で観測頻度を高め観測箇所を増やすことが効果的であることはわかっているが、高層気象観測の手法として代表的なラジオゾンデ観測には、それなりのコストがかかるために、長期にわたって観察頻度や観察箇所を増やすことはできない。それに対してドローンは、「対流圏下層の大気に比較的容易にアクセスできる観測手段」として有望視されている。ただ、気象観測専用ドローンも高価であり、運用面を考慮すると費用対効果は決して高くない。

そこで、国立極地研究所の猪上淳准教授と、北見工業大学の佐藤和敏助教からなる研究グループは、民間会社でも入手しやすい汎用ドローン「Mavic2 Enterprise Dual」にIntermet製気象センサー「iMet-XQ2」を取り付けることを考案した。ただし、汎用ドローンを使うにあたっては、気象センサーがドローン自体による排熱などの影響を受けないよう工夫が必要となる。

ドローン底面側の気温・風速分布を調査するための室内実験。北見工業大学の体育館において、2020年10月26日・29日に実施(室内気温は約15度)。(a)アルミフレームに固定したドローンのプロペラを回転させながら気温を計測、(b)ドローン底部5cm付近の気温(色)と風速(等値線)、(c)赤外線カメラで撮影したドローン底部の熱画像

ドローン底面側の気温・風速分布を調査するための室内実験。北見工業大学の体育館において、2020年10月26日・29日に実施(室内気温は約15度)。(a)アルミフレームに固定したドローンのプロペラを回転させながら気温を計測、(b)ドローン底部5cm付近の気温(色)と風速(等値線)、(c)赤外線カメラで撮影したドローン底部の熱画像

研究グループは、まず屋内実験で、ドローンのバッテリーやモーターからの排熱の影響を受けず、ローターからの風が当たり通気がよい場所を特定し、そこにXQ2を配置した。さらに、XQ2の太陽放射による影響を排除し、雲粒、雨、雪の付着も軽減する放射シールドを開発し装着した。

そして屋外実験で、気象観測専用ドローン2機種も加え、10回分のラジオゾンデの観測データとの比較を行った。それによると、研究グループが開発した手法が、ラジオゾンデの観測データにもっとも近い値を示した(対地高度500m以下)。

実験に使用した気象センサーを搭載した汎用ドローン(DJI製「Mavic 2 Enterprise Dual」)。右前アームに気温、気圧、湿度、GPS位置情報を測定・記録できる気象データロガー(Intermet製「iMet-XQ2」)を取り付け、センサーには今回の研究で開発した放射シールドを装着。また、頂部にはエアロゾル粒子カウンターとパラシュートを搭載。写真撮影:国立極地研究所 猪上淳准教授

実験に使用した気象センサーを搭載した汎用ドローン(DJI製「Mavic 2 Enterprise Dual」)。右前アームに気温、気圧、湿度、GPS位置情報を測定・記録できる気象データロガー(Intermet製「iMet-XQ2」)を取り付け、センサーには今回の研究で開発した放射シールドを装着。また、頂部にはエアロゾル粒子カウンターとパラシュートを搭載

さらにこのドローンを使って、寒冷域での観測も試みた。日本でもっとも寒い町として知られる厳冬期の北海道陸別町で、気温マイナス20度以下の早朝、晴れた明け方に上空にいくほど気温が高くなる接地逆転層の観測に成功。また同時に搭載したエアロゾルカウンターは、日の出の数時間後までエアロゾル粒子の濃度が気温逆転層内で高い状態を観測し、極地特有の環境の計測も可能であることを示した。

今後は小型風速計を搭載するなど、「より総合的な気象観測が可能なシステム」を追求するという。国内のドローン開発の進展に伴い、観測データや通信の情報漏洩対策を講じたよりセキュアな国産ドローンにこの観測手法を適用することも視野に入れている。

また、ドローンには機体自身の高度の限界や、航空法による飛行制限などの問題があるため、専門家を交えた議論が必要だとも研究グループは話している。


画像クレジット:国立極地研究所 猪上淳准教授

【コラム】ヒートアイランド現象による影響を軽減するため、今、世界はAIを活用すべきだ

人類がこのまま何もしなければ、地球の温暖化はあとわずか数十年の間に少なくとも過去3400万年間前例のないレベルにまで達し、氷河が溶け、洪水がかつてないほど発生し、都市の熱波が我々に悲惨な影響を与えることになる。

米海洋大気庁によると、2021年には米国だけでもすでに18件の気候関連の異常災害が発生しており、それぞれに10億ドル(約1149億円)を超える損害が発生しているという。

世界中で起きた自然災害を結果や頻度の観点から見ると、洪水や地震は人や経済により大きな影響を与えるのものの、熱波よりも発生頻度は低い。熱波は一般的に都市ヒートアイランド現象(UHI)の形で発生し、ヒートポケットとも呼ばれているが、これは都市中心部の気温が周辺部より高くなる現象である。

都市部が急速に温暖化する中、世界各地のさらに多くの人々がヒートアイランド現象による致命的な被害を受けており、都市公衆衛生における格差が浮き彫りになっている。世界保健機関によると、2000年から2016年の間に熱波に影響を受けた人の数は1億2500万人急増し、1998年から2017年の間に16万6000人以上の命が奪われているという。

米国の市当局は現在、住民の中でも特に弱い立場にいる人々の生活レベルや状況が猛暑によって低下することを懸念しているが、影響を軽減するために活用できるようなデータは用意されていない。

デザイン主導のデータサイエンス企業で働く私は、組織のための持続可能なソリューションの構築や、ビジネス、社会、社会経済の複雑な問題は、高度な分析、人工知能(AI)技術、インタラクティブなデータ可視化を用いて解決できることを知っている。

とはいうものの、こういった新テクノロジーは、公衆衛生の専門家、企業、地方自治体、コミュニティ、非営利団体、技術パートナーの協力なくしては展開することができない。この分野横断的な介入こそが、テクノロジーを民主化し、都市ヒートアイランド現象の惨状を改善する唯一の方法なのである。それでは前述のプレイヤーは、都市ヒートアイランド現象を軽減するためにどのようにして協力しているのだろうか。

どの国が大きく貢献しているかを把握する

世界中のあらゆる企業、政府、NGOが熱波による問題の解決に取り組んでいる。

しかし、カナダでは1948年から2012年の間に平均1.6℃の上昇と、世界平均の約2倍の温暖化が進んでいるため、AIを使った熱波予測にはどこよりも力を入れている。もともとカナダの都市はテクノロジー主導で技術に精通しているため、世界中の都市はカナダの綿密な分析と革新的なアイデアから学べることが多くあるだろう。例えば、MyHeatは各建物における太陽光発電の潜在性を追跡し、熱波を持続可能なエネルギーの創出に利用している。

ヘルシンキやアムステルダムなどの欧州の都市もこの課題に積極的に取り組んでいる。EUの資金提供を受けているAI4Citiesは、カーボンニュートラルを加速させるAIソリューションを追い求めている欧州の主要都市を集結させるためのプロジェクトである。資金総額は460万ユーロ(約6億円)で、選ばれたサプライヤーに分配される予定だ。

こういったプロジェクトがAIを活用して気候変動問題を解決しようとしているが、二酸化炭素排出量の削減などのニッチな分野に集中して注目されているのが現状だ。気候変動の影響ではなく、原因の軽減に焦点が当てられているのである。

そのため、熱波の影響は依然として未解決のまま手つかずの状態だ。これは、すぐに甚大な被害をもたらす洪水など他の自然災害の方が注目されやすいからでもあるだろう。熱による不快感、エネルギー使用量の増加、停電などの問題を忍ばせたサイレントキラーとも言える熱波。最大の課題は、熱波に立ち向かうためのテクノロジーが自治体やNPOにオープンにされていないということだろう。

AIを用いたソリューションを活用

回復力のある都市を構築し、気候リスクを軽減することを目的とした非営利団体Evergreenとの協働を通じて、私たちはカナダの都市ネットワークを紹介された。調査と研究を重ねた結果、洪水や地震に対しては多くのデジタルインフラやデータ駆動の政策が存在しているが、熱波に対してはまったくと言っていいほどソリューションがないことが判明した。

依然として未解決の問題が多い熱波だが、拡張性の高いツールであるAIが都市に情報を提供し、それにより根拠に基づいた意思決定を行うことができたらどれだけ効果的だろうか。

Evergreenは地理空間解析、AI、ビッグデータを、MicrosoftのAI for Earthによる助成金で作成したデータ可視化ツールとともに使用して、あらゆる都市における都市ヒートアイランド現象を調査したさまざまなデータセットを統合・解析している。これにより自治体は、不浸透性の表面を持つエリアや植生の少ない問題地域をピンポイントで特定し、日よけの屋根や水飲み場、緑の屋根を設置することでヒートアイランドの影響を緩和することができるのである。

Microsoft Azure Stack上に構築された、AIを活用した解析・可視化ツールはさまざまな機能を備えている。マップ(地形図)を活用すれば地上30メートルブロックごとの地表温度を取得することができ、建物の数や高さ、アルベド値など、都市スプロールのパラメータを変更して将来の都市スプロールのシナリオを生成できるシナリオモデリングビューもある。

温室効果ガスをトラッキングできるこの多目的ツールは、すでにカナダ国内の気候変動に対する自治体の取り組みに良い影響を及ぼしている。今後は世界中の温室効果ガスや二酸化炭素の排出をめぐる政策転換にもプラスの影響を与えていくことだろう。

Sustainable Environment and Ecological Development Society(SEEDS)はMicrosoft Indiaと共同で、インドにおける熱波リスクを予測して費用対効果の高い介入策を提供するAIモデルの第2弾を発表した。熱波が発生した場合に、政府が市内のどの地域に対して特に支援や注意が必要かを知ることができるというものだ。SEEDSはグラウンドトゥルースデータを使用し、AIモデルは熱センサーなどのデバイスを使用して地上で検証した結果を生成する。

AIはスケーラブルな上、世界各地のどんな地域にでもすばやく採用できるため、各自治体は熱波対策への経済的な方法として積極的に活用すべきある。また、AIはデータソースを抽出するツールにパッケージ化できるため、部門や主要なステークホルダー間で知識を簡単に共有することができ、意思決定者にとっても状況が把握しやすい。

現実的なソリューションを提供し、ストーリーテリングモードで生き生きと伝えることができる一般向けアプリを作ることにより、AIがもたらすインパクトを地域社会に伝えたいというのがEvergreenのアイデアである。例えば、緑の屋根によって気温が下がるということをアプリで紹介すれば、ユーザーはデータ情報を分かりやすいストーリーとして見ることができ、彼らが取り組んでいる問題を取り巻く複雑な仕組みを理解することができるようになる。

信頼のスピードでAIの民主化とスケールアップを図る

AIや機械学習(ML)プロジェクトで複数のデータソースを扱うには、分野横断的なソリューションが欠かせない。テクノロジー関係者、企業、他の非営利団体、政府、コミュニティ、都市計画者、不動産開発業者、市長室などをつなぐパイプ役として、非営利団体やコミュニティビルダーが関与することが極めて重要である。

テクノロジーパートナーが突然AIソリューションを持って都市にやってきて、市の職員がそれにすんなり賛同してくれるというシナリオはまずない。さまざまな分野が関わり合い、ビジネスケースを作成し、すべての関係者が会話に参加しなければならないのである。

同様に、革新的なテクノロジー使うことになるステークホルダーも「ここにはヒートポケットがあるので緑の屋根を設置してください」と言われただけでは、自動的にそのツールを採用することはないだろう。

MicrosoftのAI for Earthの取り組みと連携して開発された、地理空間的ソリューションの良い例がある。ある都市の全人口をマッピングし、40メートルグリッドで100平方メートルのブロック内にリリースポイントを設け、病気を媒介する危険な蚊を退治するために遺伝子を組み換えた蚊を放つというソリューションが発案された。

これは、デング熱や黄熱病に苦しむ地域社会に解決策をもたらすことができるという、AIを活用したスケーラブルなソリューションなのだが、もし誰かが突然自分の家に来て、遺伝子組み換えの蚊を氾濫させると言ったら、ほとんどの人はノーと答えるのではないだろうか。地域が蚊で溢れかえるという発想に対しても抵抗がある上、進化するAIに対する世界的な抵抗感も反対理由の1つである。AIが進化することで個人情報の利用が拡大し、プライバシーの侵害が懸念されるからである。

成功するプロジェクトのほとんどが、コミュニティを教育した上で実行されるというのはこれが理由である。エネルギーを節約して環境にやさしいAI技術を採用することで気温を下げるというポジティブなメッセージを広めるには、地域社会とのパートナーシップが重要な鍵を握っている。

例えばカナダでは各都市が独自の気候チームと気象モデルを備えており、都市部の要所要所にセンサーを設置している。大規模なデータ会社やテクノロジー会社がこういった気象データを入手するのは難しく、都市が進んで共有する必要がある。高解像度・高品質の衛星画像で雲量を調べるのも同様だ。人口データや社会経済的な考慮事項については、データプロバイダーから情報を得る必要がある。

そのためプロジェクトには「信頼のスピード」感が不可欠だ。信頼性が確立されていれば、都市は現実的でスケーラブルなソリューションを提供できるテクノロジー企業にデータポイントを共有する傾向が強くなる。信頼関係がなければ、企業はNASAやCopernicusから入手可能な、一般的なオープンソースデータに頼らざるを得なくなる。

では、企業のプレイヤーやCEOにとってこのことは何を意味するのだろうか。都市向けのAIソリューションは自治体の気候チームやコミュニティを対象としているが、石油やガス会社はどうだろう。この業界の企業は都市の排出量の多くに貢献しているため、二酸化炭素排出量を報告するという大きな圧力がかかっている。

この分野へのAIソリューションでは、製油所や貨物が排出する二酸化炭素量をリアルタイムで追跡できるコマンドセンターが必要だ。製品ごと、従業員ごとの二酸化炭素排出量を減らすようCEOらは義務づけられているが、AIソリューションを導入することで環境への影響に対する説明責任を果たすと同時に、熱波の問題の一端を担っていると認識していることを示すことができるだろう。

熱波に注目が集まるようになったのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりオフィスで働くことよりも自宅で生活することの方が多くなったためというのもある。一般設備や快適なオフィスから離れた場所で、より顕著に不快感を感じるようになったからだ。

社会変革コミュニティのリーダーたちは企業、NGO、政府、テクノロジーパートナー、コミュニティリーダー間のコラボレーションを促進することにより、気候変動や熱波によるこうした悲惨な影響を逆転させることができるのである。もしかすると、事態が手遅れになる前に、AIとMLから生まれる潜在的なソリューションを実際に展開させることができるかもしれないのだ。

画像クレジット:instamatics / Getty Images

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(文:Shravan Kumar Alavilli、翻訳:Dragonfly)

ウェザーニューズ、電気事業者向けに1kmメッシュの高解像度な太陽光発電量予測データをAPIで提供開始

ウェザーニューズは、同社の日射量予測モデルを改善し予測精度を通常のものから11%向上させ、これを用いた太陽光発電量予測モデルを開発。電気事業者向けの1kmメッシュ(約1km四方)の高解像度な日射量予測データのAPIによる提供を開始した。現在は無料トライアルを実施している。

これは、企業向けの気象データの提供と分析を行うサービス「WxTech」(ウェザーテック)サービスの1つ。2021年4月からは、再生エネルギー発電の固定価格買取制度から、補助金が変動するFIP制度に切り替わる。そのため、高精度な太陽光発電量予測が今まで以上に重要になるという。そこでウェザーニューズでは、新たな太陽光発電量予測モデルを開発した。そして、このモデルを使った日射量予測データのAPI提供サービスを開始した。

電力取引に適した30分ごとの太陽光発電量の予測データを72時間先まで提供するというもので、「物理モデル」か「統計モデル」の2種類を用意があり、いずれか精度の高いほうを選択できる。なお新設の発電所の場合は、実績データが蓄積されるまで統計モデルは選択できない。

物理モデルでは、太陽光発電所の緯度・経度、ソーラーパネルの出力・方位角・傾斜角・パワーコンディショナー(PCS)の出力や効率といった情報をもとに、ピンポイントな太陽光発電量予測データを算出。統計モデルでは、過去の発電量実績データと気象データをAIに学習させて高精度な予測を行うという。

ウェザーニューズでは、2020年12月に機械学習を用いた日照量予測モデルを開発。従来は、雲の透過率を上空の湿度から推定していたが、このモデルでは、上空の湿度や温度から推定される雲の水分量、風向と風速から計算される収束量などで機械学習を行い、雲の透過率を高精度に推定している。今回はその大気濁度と雲透過率の算出方法を見直してバージョンアップし、2021年12月には、同社の従来予測モデルと比べて8.5%、気象庁(MSM)と比べ11%という精度改善を確認した。

予測解像度を1kmメッシュにしたことでも、データの精度は高まった。従来の5kmメッシュでは1つの区画の範囲が広く、その中で天気や発電量に大きな差が出ることがあったからだ。また、1kmメッシュの積雪予測、積雪実況データと過去の気象予測も追加された。太陽光発電に大きな影響を及ぼす積雪予測と積雪実況データは、30分ごとに更新され、積雪を加味した予測が可能になる。

太陽光発電予測データのサービス仕様

  • 単位:kWh
  • 空間解像度:1kmメッシュ
  • 時間解像度:30分間隔(72時間先まで)
  • 更新頻度:30分ごと、5回/日、1回/日から選択可
  • 提供方法:API提供、または専用ウェブサイトからCSVファイルをダウンロード

気象データを駆使し気候変動リスク下にある小規模農家向けマイクロインシュランスを実現可能にするIBISA

農業マイクロインシュランスのスタートアップであるIBISAは、150万ユーロ(約1億9000万円)のシードラウンドを調達したと発表した。今ラウンドは、ロンドンのインシュアテック専門VCであるInsurtech Gatewayが主導し、RockstartのAgriFoodファンドなどが参加した。

マイクロインシュランス(Microinsurance)とは、一般的に、低所得者を対象に、特定クラスのリスクに対する補償を提供することを指す。IBISAの場合は、残念ながら増加傾向にある不利な気候変動によって生活に影響を受ける可能性のある小規模農家を対象としている。

ルクセンブルクを拠点とするIBISAは、新興市場に焦点を当て、パートナーシップに基づくアプローチを行っている。「当社は、相互会社、保険会社、マイクロファイナンス機関、研究機関、農家・育種家協会、政府などと協力しています」とサイトでは説明されている。

2019年に設立されて以来、同社はフィリピン、インド、ニジェールのパートナーと協力してきた。今回の資金調達により、既存市場および新規市場での雇用とプレゼンスの拡大を図る予定だという。

農作物が被害を受けたときに補償を受けることで、農業従事者が安心するのは容易に想像がつく。しかし、農業保険に加入しない理由も根強くあり、IBISAによると、ほとんどの農家が加入していないという。オプションはコストがかかりすぎるかもしれないし、保険金を請求するための事務手続きは大変そうで不可能に思えるかもしれない。

そこで登場するのがテクノロジーだ。IBISAの保険金支払いは、迅速で手間のかからないものになっている。個別に請求するのではなく、集合的なインデックスに依拠しているからだ。これはインデックスベースの保険で、パラメトリック保険とも呼ばれている。例えば壊滅的な気象現象の通知など、特定のパラメータによって支払いが発生するというものだ。

Insurtech Gatewayの共同設立者であるStephen Brittain(スティーブン・ブリテン)氏は、このアプローチは保険会社側の運営コストの削減にもつながり、より低い料金を実現すると述べている。

「これまでマイクロインシュランスは、低い保険料、高額なクレーム処理費用、困難な販売、信頼性の欠如など、多くの理由により商業的に成立していませんでした」。

何が変わったのか?繰り返しになるが、テクノロジーである。

IBISAなどの企業がインデックスに信頼を置くとしたら、それはデータに裏付けられているからだ。共同設立者でCEOのMaría Mateo Iborra(マリア・マテオ・イボラ)氏は、衛星産業で数年間働いた経験がある。このスタートアップのアプローチの重要な要素は、軌道画像を利用して被害状況を把握することだ。さらに、現地の「ウォッチャー」からのクラウドソースデータも活用している。

宇宙テックとクラウドソーシングはさておき、IBISAにはブロックチェーンの要素もあり、同社はそれをコストを低く抑えるための手段と考えている。会社の名前は実際には「Inclusive Blockchain Insurance Using Space Assets(宇宙資産を利用した包括的ブロックチェーン保険)」の略で、欧州連合のブロックチェーンに特化したプロジェクト「Block.IS」によって加速されている

同社は最近、RockstartのAgriFoodのデモデイでもプレゼンテーションを行った。2020年9月に同プログラムに参加した際、IBISAの共同設立者であるJean-Baptiste Pleynet(ジャン=バティスト・プレネ)氏は、IBISAの保険、衛星、ブロックチェーンのコンポーネントや、ポジティブなインパクトをもたらす可能性について言及した

プレネ氏は同時に、興味深いシナジー効果のポイントを強調していた。「当社のソリューションは、食品産業にとって、サプライチェーンにレジリエンスをもたらし、気候変動リスクを管理する上で大きな価値をもたらすと考えており、その観点からもこの道を加速させたいと考えました」と同氏は説明した。

画像クレジット:Santhosh Janardhanan / 500px / Getty Images

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(文:Anna Heim、翻訳:Aya Nakazato)

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから路面・周辺気象情報を抽出する実証実験

スペクティ・日本気象協会・トランストロンがトラックの運行データから凍結・積雪など路面情報や周辺気象情報を抽出する実証実験

AIリアルタイム危機管理情報ソリューション「Spectee」を提供するSpectee(スペクティ)は10月18日、日本気象協会、ネットワーク型デジタルタコグラフのメーカー「トランストロン」と共同で、AIなどの先端技術を活用したトラックの運行データの解析から、路面情報、周辺気象情報などの抽出を目的とする実証実験を行ったことを発表した。

2021年2月から6月にかけて行われたこの実証実験では、トランストロンのデジタルタコメーターを導入している札幌市の幸楽運輸、富山市の池田運輸の協力のもと、走行中に取得した路面の画像データ、日本気象協会の気象データをスペクティのAIで分析し、乾燥、湿潤、凍結、積雪などの路面状況を判定した。これにより実用化に向けた有効なデータが得られたことから、さらに精度を高め、スペクティ、日本気象協会、トランストロンの3者で実用化に向けた検討を進めてゆくという。

ウェザーニューズが周囲50キロを30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

ウェザーニューズは10月14日、高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」を千葉県内に設置し、レーダーの有効性を確認する実証実験を開始したと発表した。2022年6月にかけてレーダーの精度評価と最終調整などを行う。

EAGLEレーダーは、周囲360度を高速スキャンし雲の立体構造を高頻度で観測するというもの。半径50km以内の積乱雲の発達状況をほぼリアルタイムに捉えられるため、ゲリラ豪雨や線状降水帯・大雪・突風・ヒョウなど、突発的かつ局地的に発生する気象現象をより正確に把握できるとしている。

道路の管理事業者における除雪作業判断の支援など新サービスも開発するほか、2年以内に日本を含むアジアの計50カ所への設置を計画。グローバルにおける気象現象の監視体制を強化する。

高頻度観測小型気象レーダー「EAGLEレーダー」

ウェザーニューズは、2009年に小型気象レーダー「WITHレーダー」を開発し、全国80カ所に設置・運用してきた。10年以上にわたり、ゲリラ豪雨や突風などの観測実験を行った結果、小型気象レーダーの有効性を確認できたという。しかし、従来のWITHレーダーでは、全方位を3次元で観測するには5分程度かかるため、雲が急激に発達する過程やその変化を詳細に捉えることは困難だった。

そこで、より高頻度な観測を可能にするため、WITHレーダーの後継機としてEAGLEレーダーを開発。同レーダーは、360度全方位を高速スキャンすることで、雨粒の大きさや雲の移動方向を立体的にほぼリアルタイムで観測できる独自の気象レーダーという。最短で5秒ごとに1回転し、半径50kmの詳細な3次元観測データを30秒で取得できる。これにより、ゲリラ豪雨や線状降水帯、大雪、突風、あられ、ひょうなど、局地的に発生する気象現象の把握が可能としている。

ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

千葉県内八街市に設置し実証実験を開始

同社は、同レーダーを千葉県八街市に設置し、実証実験を開始した。2022年6月にかけて、レーダーの精度評価と感度の最終調整などを行う。

レーダーの活用方法として、まずはウェザーニューズの予報センターでレーダーを監視し、観測データを数時間先の予報精度向上に活用する。また、従来のWITHレーダーと同様に雲の様子を3次元的に把握するだけでなく、実証実験と並行して、道路の管理事業者における除雪作業の判断支援や迂回ルートの推薦など、企業向けのサービスを開発する。

また同レーダーの展開を進めるため、総務省(情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 気象レーダー作業班)と無線免許の新制度策定について検討しているという。新制度が実現すると、同レーダーの設置が加速するとともに、観測データの販売も可能となる見込みとしている。気象データを扱う企業・研究機関などに活用してもらうことで、サービスへの利用や技術の発展に寄与できるとしている。ウェザーニューズが周囲50㎞を30秒で3次元観測する新型レーダーの実証実験、ゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上へ

2023年までに50台設置、日本・アジアの気象現象の監視体制を強化

同社は、2014年よりオクラホマ大学と共同でEAGLEレーダーの開発を進めてきたという。2017年6月には、航空宇宙向けの電子機器やシステムを設計・製造しているカナダNANOWAVE Technologiesとレーダーの量産に関する覚書を締結した。

気象レーダーの仕様変更や生産ラインの変更のほか、世界的な半導体不足による影響を受けて当初の計画からは遅れが生じたものの、現在の計画では、今後2年以内に日本を含むアジアの計50カ所にレーダーを設置する予定。引続きレーダーの設置を進め、観測データが十分ではないアジア地域における気象現象の監視体制を強化するという。

フィリピンの環境情報プラットフォーム「Komunidad」が約1.1億円のシード資金調達

フィリピンは台風、洪水、火山、地震、干ばつなどの災害に見舞われやすい地理的条件を備えており、世界で最も災害が多い国の1つだ。Felix Ayque(フェリックス・アイク)氏は、IT業界で働いていた頃、サイクロンのレポートをまとめ、Eメールでコミュニティに警告を送る仕事を始めた。彼の仕事はその後、環境情報プラットフォーム「Komunidad(コムニダッド)」へと発展した。Komunidadは、政府や民間の情報源からデータを収集し、カスタマイズ可能な分析結果に変え、顧客が潜在的な災害に迅速に対応できるようにしてくれるものだ。

マニラとシンガポールを拠点とするこのスタートアップは、アジアでの事業拡大と2022年1月にリリースを予定しているセルフサービス版を含むプラットフォームの機能追加のために、100万ドル(約1億1000万円)のシード資金を調達したことを発表した。Wavemaker Partners(ウェイブメーカー・パートナーズ)が主導し、アジア開発銀行のベンチャー部門であるADB Ventures(ADB ベンチャーズ)が参加している。

2019年に設立されたKomunidadは、フィリピン、インド、カンボジア、ベトナムに顧客を持ち、公益事業、農業、鉱業、教育、地方自治体、ビジネスアウトソーシングセンターなど、複数のセクターにサービスを提供している。スタートアップを立ち上げる前のアイク氏は、国有のニュージーランドMetService(メットサービス)を含む複数の気象機関でIT開発者として働いていた。2013年に、少なくとも6300人の犠牲者を出した台風18号(通称スーパータイフーン・ヨランダ)がフィリピンを襲った後、コンサルタントとしてサイクロンレポートの作成を始めるようになった。

もともとこのレポートは、企業が自然災害に対してより迅速に対応できるようにするためのものだった。台風18号が襲ったのは、フィリピンでビジネス・アウトソーシングの分野が急成長していた時期で、当時多くの外国企業がフィリピンに複数のオフィスを設置していた頃だった。台風の際には、企業は通常、業務を被災していない地域のオフィスに移管する。アイク氏が最初に送ったメールは、サイクロンの可能性を手動で分析したものだった。

しかし、エネルギー供給会社をはじめとする企業が気候変動への対応を迫られる中、アイク氏のレポートに対する需要が高まっていった。Komunidadは、事業を拡大するのに十分な収益を上げるようになり、アイク氏は、気象学者、データサイエンティスト、ソフトウェア開発者、インドや東南アジアを拠点とするビジネス開発チームなどの従業員を雇用するようになった。今回の投資は、スケーラブルなプラットフォームの構築に使用される。

Komunidadのデータソースには、2015年にIBMが買収したThe Weather Company(ザ・ウェザー・カンパニー)や、ウェザーインテリジェンスプラットフォームのTomorrow.io(トゥモロー.io)などの大手企業の他、いくつかの小規模な環境・気象データプロバイダーが含まれている。

フィリピン・マンダルヨン市のプロジェクトで作成されたKomunidadダッシュボードの一例

このプラットフォームは、データを悪天候、太陽、海洋、土壌水分、大気の質など、顧客のニーズに関連するダッシュボードに変換してくる。「私たちは、関連するデータだけを持ってきて、これが最も重要なデータであると顧客に伝えるシステムインテグレーターの役割を果たしています」とアイク氏は述べている。Komunidadでは、顧客が独自の警報システムを構築することも可能だ。例えば、フィリピンでは、多くの顧客が、フィリピンで最も人気のあるメッセージングアプリの1つであるViber(バイバー)や、インターネット接続が不安定な地域に届くようにSMSを使ってアラートを送信している。

エネルギー分野の顧客には、Komunidadのツールを使って、気温に基づいて電力使用量などを予測することもできる。また、地方自治体が学校の休校を決定する際にも利用されている。パンデミックの際には、Komunidadは都市が人の密集度をモニターし、どの地域でより多くの人をコントロールする必要があるかを判断するのに役立った。

Komunidadの競争力の1つは、さまざまな分野でどのようなデータが重要であるかを理解しているということだ。例えば、Komunidadは最近、アッサム州災害管理局(ASDMA)と契約を結び、インドで最も雷が発生しやすい州の1つであるアッサム州の雷と雷雨に関する警報に焦点を当てて協働することとなった。

「すべての国がそれぞれ異なる状況を持っており、私たちのアプローチは、コミュニティに焦点を当てたものでなければならず、その上でビジネスに拡大していかなければならないということを理解しています」とアイク氏は語っている。

Komunidadの顧客は迅速に対応しなければならないため、技術的なバックグラウンドを持たない人には理解できないことが多い生のデータレポートから、わかりやすいビジュアライゼーションを作成している。例えば、シンプルな棒グラフ、緑、黄、赤の警告、6時間以内に大規模な気象・環境イベントが発生すると予想される場合は赤に変わる地図などがある。

Komunidadの資金の一部は、Wix(ウィックス)やWordPress(ワードプレス)でウェブサイトを作成するのと同様に、顧客がウィジェットをドラッグ&ドロップすることができるセルフサービス型のカスタマイズ可能なダッシュボードを来年開始するために使用される。今回の資金調達により、Komunidadは、インド、タイ、カンボジアなどでの新たなビジネスチャンスの獲得、営業チームの増強、データソースの追加などを行えるようになる。

画像クレジット:John Seaton Callahan / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Akihito Mizukoshi)