南アのクラウドソーシング「Zind」は現実の問題を解決するためにデータサイエンティストのコミュニティを構築、AIも活用

Zindi(ジンディ)は、AIを使用して企業や個人の現実の問題を解決することを目指している。そして、南アフリカを拠点とするこのクラウドソーシングスタートアップは、過去3年間それをずっと実践してきた。

ちょうど2020年、Zindiに参加するデータサイエンティストのチームが機械学習を用いてウガンダの首都カンパラの大気モニタリングを改善し、また別のグループはジンバブエの保険会社のZimnat(ジンマット)が行う顧客の行動予測(特に解約しそうなひとの予測や解約を思いとどまらせるための有効な手段の予測)を支援した。Zimnatは、他のやり方では解約していたであろう人びとにカスタムメイドのサービスを提供することによって、顧客の解約を防ぐことができた。

これらは、企業、NGO、政府機関がZindiに提示した、データ中心の課題に対して実現されたソリューションの一部だ。

Zindiはこれらの課題を発表し、データサイエンティストのコミュニティに対してソリューション発見コンテストに参加するよう呼びかけている。参加しているデータサイエンティストがソリューションを提出して、採用された者が賞金を獲得する。コンテストの主催者は、自身の課題を克服するために寄せられたもののうち最良の結果を利用することができる。たとえばウガンダ全土の大気汚染を予測するための解決策を模索しているAirQo(エアクオ)による大気質監視プロジェクトや、Zimnatの損失削減を支援することなどが解きたい課題だ。

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「このおかげで、いまやAirQoは、一般の人々が大気質と大気質の予測を確認できるダッシュボードが提供できています。このプロジェクトのエキサイティングな点の1つは、AirQoがプロジェクトの実装を支援するためにコンテストから2人の勝者を採用したことです」とZindiの共同創業者でCEOのCelina Lee(セリーナ・リー)氏は述べている。他には南アフリカのMegan Yates(メーガン・イエーツ)氏とガーナのEkow Duker(エコー・ダッカー)氏が、プラットフォームの共同創業者だ。

リー氏は「AirQoはまた、彼らが構築したソリューションに対してGoogleから資金を調達し、他のアフリカ諸国にもそれを展開していく予定です」と語る。このコンテストはバーミンガム大学のDigital Air Quality East Africa(DAQ EA)ならびにカンパラのマケレレ大学のAirQoプロジェクトと提携して開催されたコンテストだったのだ。

Zindiは、アフリカ全土のデータサイエンティストのデータベースだ。このクラウドソーシングスタートアップは、最近100万ドル(約1億1300万円)のシード資金を調達した(写真クレジット: Zindi)

Zindiを利用した他の注目すべき民間および公的組織には、Microsoft(マイクロソフト)、IBM、Liquid Telecom(リキッドテレコム)、UNICEF(ユニセフ)、および南アフリカ政府が含まれている。スタートアップの、発足以来の成長を目の当たりにして、リー氏はZindiが達成できたことに興奮しており、コミュニティの将来に情熱を注ごうとしている。このプラットフォームは現在、代替手段を提供しており、アフリカ全土で事業を展開し、しばしば高額な従来のコンサルティング会社との競争を激化させている。

Zindiのユーザーは、2020年の初めから3倍に増え、大陸の45カ国から3万3000人のデータサイエンティストを集めるまでになっている。また、データサイエンティストたちに対して30万ドル(約3384万円)の対価を支払った。

この数は、Zindiが2022年3月に、大学生たちがさまざまな解決策を求めて互いに競い合う、3回目の大学間Umoja Hack Africaチャレンジを主催することで増加するだろう。

Zindiは、この大学間コンテストを利用して、学生を実用的なデータサイエンスの経験に従事させ、AIを使って実際の課題を解決させている。2020年のイベントは、パンデミックのためにオンラインで行われたが、プラットフォーム上に約2000人の学生が集まった。

サンフランシスコ出身のリー氏は「学生は最初の機械学習モデルを構築して、そこから、キャリアと教育へのあらゆる種類の扉が開かれます」と述べている。

Zindiには現在「学習から稼ぎまでの道のりを短くする」ためのジョブポータルが用意されている。組織は、人材配置ポータルに人材募集を投稿することで、そこにある人材のプールを活用することができる。

このクラウドソーシングプラットフォームは、新進のデータサイエンティストにトレーニング資料を提供する学習コンポーネントの導入も計画している。これは、プラットフォームが知識のギャップとトレーニングの必要性を認識したためだ。一方リー氏は、Zindiのユーザーのほとんどは、学習経験を必要としている学生や、世界の問題を解決するために高度なスキルを必要とする人たちであるという。

新しい計画は、最近プラットフォームが調達した100万ドルのシード資金によって可能になる。

画像クレジット: Zindi

リー氏は「私たちにとって、それはコミュニティを拡大し、すべてのデータサイエンティストにとってより多くの価値を生み出すことなのです」と語る。

「私たちが理解していることの1つは、特にアフリカでは、データサイエンスが非常に新しい分野であるということです。そのため、この資金を使って、より多くの学習コンテンツを導入していきます。そして、私たちのデータサイエンティストの多くは、まだ大学生か、キャリアの非常に早い段階にいます。彼らは、とにかく自分たちのスキルを学び身につける機会を探しているのです」。

シードラウンドは、サンフランシスコを拠点とするVCのShaktiが主導し、Launch Africa、Founders Factory Africa、FIVE35が参加した。

リー氏によれば、これらの計画はすべて、アフリカ大陸で強力なデータサイエンスコミュニティを構築することを目的としていて、近い将来、プラットフォームのユーザーを100万人に増やすことを目指しているという。これは、キャリアの初期段階にいるデータサイエンティストにトレーニングの機会を提供し、コラボレーションとメンターシップを促進する強力なコミュニティを形成することによって達成可能だと彼女はいう。

リー氏は次のように述べている「そして、最終的にはアフリカで100万人のデータサイエンティストにリーチしたいのですが、そのためにはデータサイエンスを、この分野で成功するキャリアを追求することに関心のある若い人なら誰でも、必要なツール、つながり、経験にアクセスできるようしたいと考えています」。

「私たちのビジョンは、誰もがAIにアクセスできるようにすることです」。

画像クレジット:Zindi

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(文: Annie Njanja、翻訳:sako)

グーグルがケニアでクラウドソーシングアプリ「TaskMate」を展開、グローバル展開も検討

米国時間10月18日、Googleは、ケニアにTaskMateを立ち上げた。これはスマートフォンを利用して仕事を見つけ賃金をもらうというクラウドソーシングなアプリで、同社は成長途上のギグ経済を活用する。Googleはケニアで1年間の実験を経てこれからベータテストを行い、この大陸の他の国にも導入するための準備をする。このアプリはインドでもパイロットとして利用できる。

アプリTaskMateのユーザーは、企業が求める翻訳や写真撮影など、スキルを要する、あるいは要しないタスクを充足するが、求人が載るためにはGoogleの承認を必要とする。

TaskMateのような、人びとがサービスを実行して代金をもらうというタイプのGoogleのアプリは、他にもある。たとえば有料でアンケートの回答者になるというアプリや、またLocal Services Adsというアプリは企業に、その会社のサービスを必要としている知人等を見込み客として結びつけて謝礼を得る。

TaskMateのプロダクトマネージャーであるMike Knapp(マイク・ナップ)氏は「TaskMateをローンチしましたが、アフリカだけでなく、も世界でオープンするのもこれが初めてです」と挨拶している。

パイロット事業は2020年後半に始まり、ユーザーはペンシルベニア州立大学の研究プロジェクトのために植物の写真を撮ったり、その他いろいろな仕事をした。このアプリのギグワークには、在宅と現場仕事の両方がある。

ナップ氏は、パイロット事業について「パイロットでは1000名の人たちがアプリを使用し、とてもポジティブなフィードバックが得られました。そこで、今日からはベータ段階に移行します。より大規模な実験になるでしょう」と述べている。

「今は、実験に協力してくれる企業やスタートアップを探しています。彼らの難しい問題の解決にどれぐらい役に立つか、それを検証したい」。

このプラットフォームに求人をポストする企業は、求職者のグループを指定できるし、また特定のスキルを持つ人を招待できる。ケニアのTaskMateのユーザーは、稼いだお金をモバイル決済サービスM-Pesaから引き出せる。M-Pesaを運用しているSafaricomは、東アフリカで最大の通信企業だ。

「クラウドソーシング方式なので、求人を広めるのも、仕事を達成するのもシンプルです。このアプリはケニアの人たちに仕事と収入を得るチャンスを提供し、コミュニティの創成と副収入の獲得の両方の役に立ちます。これはGoogleのアフリカに対するコミットメントであり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の旅路でもある」とナップ氏はいう。

TaskMateの立ち上げと同時期にGoogleは、ガーナとケニアとナイジェリアと南アフリカの小規模企業を助けるための、1000万ドル(約11億4000万円)のローンを発表した。パンデミックによって停滞した経済の回復を助ける意図もある。ローンの提供は、サンフランシスコの非営利貸付組織Kivaを通じて行われる。この融資は、先々週に発表されたアフリカへの10億ドル(約1143億円)の投資の一部だ。

Googleの投資に含まれる海底ケーブルは、南アフリカとナミビアとナイジェリアとセントヘレナを貫き、アフリカとヨーロッパを結ぶ。それは高速インターネットを提供し、2025年までにナイジェリアと南アフリカに、デジタル経済の成長により170万の雇用を作り出す、と言われている。

アフリカのデジタル経済はこのような統合化の継続とともに一層の成長が期待され、接続人口の増加によっても成長の新たな機会が生まれる。アフリカのサハラ南部地域では、人口の28%、約3億300万人が現在、モバイルインターネットに接続している、と2021年のGSMAモバイル経済報告書はいう。そしてこの数字は2025年には40%にもなり、TaskMateのようなインターネット接続を利用するサービスや、アフリカの若い人口により、インターネットをベースとする企業やサービスにさらに大きな機会を提供する。

画像クレジット:SpVVK/Getty Images

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(文:Annie Njanja、翻訳:Hiroshi Iwatani)

テクノロジーと災害対応の未来4「トレーニング・メンタルヘルス・クラウドソーシング、人を中心に考えた災害対応スタートアップ」

災害がすべて人災というわけではないが、災害に対応するのはいつも人間である。対応する緊急事態の規模が小さいとしても、さまざまなスキルと専門性が必要となる。防災計画や災害後の復旧時に必要となるスキルを除いたとしても、必要なスキルや専門性は多岐にわたる。ほとんどの人にとって割に合う仕事ではないし、ストレスからくる精神的な影響が数十年にわたって続くこともある。それでも、この終わりなき戦いへと多くの人が立ち向かい続けるのは、最も必要とされているときに人を助けるという、この仕事の究極の使命があるからこそだろう。

テクノロジーと災害対応の未来に関するこのシリーズでは、3回にわたってテクノロジーを中心に取り上げてきた。具体的には、新製品の販売サイクルモノのインターネット(IoT)が全面的に普及することによるデータの急増データをどこにでも拡散できる接続性について考えた。一方で、それに関わる人たちという側面についてはあまり触れてこなかった。つまり、災害に実際に対応する人たち、そうした人たちが直面している課題、およびそうした課題をテクノロジーで解決する方法といった点だ。

そこで、シリーズ4回目で最終回となるこの記事では、災害対応時に人とテクノロジーが交差する4つの分野(トレーニングと開発、メンタルヘルス、クラウドソーシングによる災害対応、非常に複雑な緊急事態が発生する可能性)と、この市場の今後の可能性を取り上げる。

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災害に対応するためのトレーニング

大半の分野では、トレーニングに対して線形的なアプローチをとる。ソフトウェアのエンジニアになるには、コンピューターサイエンス理論を学び、プログラミングの実践練習をすればよい(個人差はあるが)。医師になるには、学部のカリキュラムに加えて生物学や化学を履修し、医学部で本格的な解剖学などのクラスを2年間みっちりこなしてから、臨床研修ローテーション、研修医、必要に応じて研究職などを経験する。

では、緊急事態に対応する要員をトレーニングするには、どうすればよいか。

緊急電話対応オペレーター、EMT(緊急医療チーム)、救急救命士、緊急時計画策定者、さらには現場で災害対応を行う緊急救助隊員などが任務を適切に実行するために必要なスキルは数え切れない。ハードスキルに含まれるような、緊急隊員派遣用ソフトウェアの使い方や災害現場からの動画のアップロード方法に関する知識だけでなく、正確に意思を伝達する能力、冷静さ、高い敏捷性、臨機応変な対応と一貫性のバランスといったソフトスキルも極めて重要だ。一貫性がないという要素も非常に重要である。1つとして同じような災害は発生しないので、情報を入手することが難しく、極度のプレッシャーがかかる状況でも、これらのスキルを直感的に組み合わせて発揮する必要がある。

こうしたニーズに応えるのが「EdTech」と呼ばれるサービスだ。しかも、EdTechが役立つのは緊急事態の対応時だけではない。

コミュニケーションには、チーム内で意思の疎通を図ることに加えて、さまざまな地域でコミュニケーションを取ることも含まれる。RAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「このようなスキルは、ほとんどがソーシャルスキルです。さまざまな背景の人たちと、文化的にも社会的にも適切な方法でやり取りできるスキルです」と説明する。同氏によると、緊急時管理の分野ではこの問題に対する関心が近年高まっており「我々が必要としているスキルとは、災害発生現場に存在しているコミュニティとやり取りするためのもの」だという。

ここ数年のテック業界でも見られることだが、異文化とコミュニケーションを図るスキルは乏しい。経験を積むことでこのようなスキルを習得することは可能だが、共感するスキルや理解力を育むために、ソフトウェアを使ったトレーニングは可能だろうか。あらゆる条件下でコミュニケーションを効果的に取る方法について、緊急時対応要員(に限らずあらゆる人たち)を教育するために、効果的で良い方法を開発できないか。スタートアップにとっては、この問いに挑むことが大きなビジネスチャンスとなる。

緊急時対応は、キャリアパスとしても十分に成長している。「この分野の歴史は大変興味深く、今や専門性が高まっており、さまざまな認定資格も用意されている」とクラークギンズバーグ氏はいう。こうした職業化によって「緊急時対応が標準化されたため、さまざまな資格を取得することで、習得したスキルと知識の範囲が明確になる」という。認定資格を取得すると特定のスキルを証明することになるが、全体的な評価にはならい。そのため、新しいスタートアップにとっては、より良い評価を行う機会を提供するビジネスチャンスとなる。

誰にでも経験があることだが、緊急時対応要員は何度も繰り返して作業することで慣れてしまっているため、新しいスキルの習得がさらに困難でなる。緊急時データ管理プラットフォームRapidSOS(ラピッド・エス・オー・エス)のMichael Martin(マイケル・マーチン)氏によると、緊急電話対応オペレーターは作業を体で覚えてしまっているため「新しいシステムに切り替えるのはリスクが高い」という。インターフェイスがどんなにお粗末な既存ソフトウェアでも、新しいソフトウェアに変更すると個別対応が遅くなるだけでなく、エラーが発生する危険性も高まる。ラピッド・エス・オー・エスが年間25000時間のトレーニングやサポート、インテグレーションを提供している理由もそこにある。スタッフのトレーニングやソフトウェアの切り替えに関連するサービスの需要は依然として非常に高く、個別に提供されていることが多い。

このようなニッチ市場は別として、この分野では教育の抜本的な見直しが全面的に必要である。私の同僚のNatasha Mascarenhas(ナターシャ・マスカレーナス)は先に、Duolingo EC-1(デュオリンゴ・イー・シー・ワン)というアプリに関する記事を公開した。このアプリは、第2外国語の学習に関心がある学生がゲーム感覚で参加できるように設計されており、非常に魅力的なサービスである。初期対応救助員が取り組めるような、このようなトレーニングシステムはない。

Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、災害発生時の救助隊員を志望する退役軍人のチームを構成している非営利団体Team Rubicon(チーム・ルビコン)のCOO兼社長である。同氏の組織はこの問題について、これまでより多くの時間を割いて考えるようになったという。「災害復旧に不可欠な要素は、教育に加えて情報にアクセスできることです。我々は、このギャップを埋めていけるように取り組みます。(学習管理システムよりも)シンプルに情報を提示する方法を考えています」と同氏は説明し、定期的に新しい知識を提供すると同時に既存の考え方もテストする「フラッシュカードのような短期集中型の訓練」が救助隊員には必要だとする。

また、ベストプラクティスを世界中に急いで拡大する必要もある。Tom Cotter(トム・コッター)氏は、被災地や貧困地域の医療従事者をバックアップする非営利団体Project Hope(プロジェクト・ホープ)の緊急時対応準備担当ディレクターを務めるが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況では「さまざまな教育が(まず初期段階に)必要でした。臨床レベルで大きな情報格差があり、情報をコミュニティ全体に伝える方法を教える必要がありました」と話す。プロジェクト・ホープはBrown University(ブラウン大学のWatson Institute(ワトソン研究所)と、パワーポイント形式の対話型カリキュラムを開発した。このカリキュラムにより、最終的に新型ウイルスについて10万人の医療従事者を教育するために使用されたという。

利用できるさまざまなEdTech製品について考えると、1つ特殊なことに気づく。製品の対象が非常に狭いことだ。アプリには言語学習用、数学学習用、読み書き能力開発用などがある。医学生に人気のAnki(アンキ)などのフラッシュカードアプリ、よりインタラクティブなアプローチとしてLabster for science experiments(科学実験用ラブスター)Sketchy for learning anatomy(解剖学の学習用スケッチー)などもある。

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しかし、シリコンバレーで提供されているさまざまな短期集中トレーニングでも、本物の新入隊員訓練プログラムのような方法で学生を根本から訓練するようなEdTech企業は存在しない。ハードスキルを習得しながら、ストレスに対処するスキル、急速に変化する環境に対応するために必要な適応性、共感を持ってコミュニケーションを図るスキルも習得できるプログラムを提供するスタートアップは、いまだかつて存在したことがない。

こういう訓練は、ソフトウェアでは不可能なのかもしれない。あるいは、教育に対する考え方に革新を起こす気概をもって、全力で取り組む創業者がまだ現れていないのかもしれない。必要とされているのは、次世代の緊急時対応管理プロフェッショナルの教育、また最前線の作業員と同じくらい民間企業でストレスに対処するための教育、すばやく決断する必要があるすべての社員の教育を抜本的に変える方法である。

公的安全企業Responder Corp(レスポンダー・コープ)の社長兼共同創業者Bryce Stirton(ブライス・スタートン)氏が考えているのは、まさにその点だ。「私が個人的に気にいっている分野は、VRによるトレーニング空間です」と同氏はいう。消火活動などの「大きなストレスがかかる現場の環境を再現するのは非常に難しい」が、新しいテクノロジーを使えば「トレーニングで心拍数の上昇を体験することができる」。同氏は「VRの世界は大きなインパクトを与えることができる」と結論づける。

災害後の癒やし

トラウマという点では、緊急時対応の現場ほど大きなトラウマに直面する分野はあまりない。緊急時の現場では、想像し得る最悪の悲惨な光景に、作業員は直面せざるを得ない。死と破壊は当たり前だが、忘れられがちなのが、初期対応救助員がしばしば経験する、自分ではどうしてよいか分からない状況だ。例えば家族を救助できないため、最後の慰めの言葉をいうしかない緊急電話対応オペレーターや、現場に到着したものの必要な機器がないため、対応できない救急救命士などだ。

心的外傷後ストレスは、初期対応救助員が直面する精神異常として、おそらく最もよく知られた一般的なものだが、精神面に現れる異常はそれだけではない。こうした異常を改善し、場合によっては治療するサービスは投資対象となる急成長分野で、多くのスタートアップや投資家が事業を拡大している。

例えばRisk & Return(リスク&リターン)は、メンタルヘルスおよび社員の一般的なパフォーマンス改善に取り組む企業に特化したベンチャー企業だ。私が先に書いた同社の紹介記事で、代表取締役社長Jeff Eggers(ジェフ・エガーズ)氏は次のように語っている。「私はこの種のテクノロジーが気に入っています。というのは、現場の初期対応救助員に役立つだけでなく、コミュニティにもメリットがあるからです」。

リスク&リターンのポートフォリオ企業から、このカテゴリーで異なる成長経路をたどった2社を紹介しよう。まず、Alto Neuroscience(アルト・ニューロサイエンス)を紹介する。この会社は、Stanford(スタンフォード)大学で神経科学者および精神科医として学際的研究を行っているAmit Etkin(アミット・エトキン)氏によって創業された。水面下で活動してきたスタートアップで、脳波データに基づいて心的外傷後ストレスやその他の症状を治療する臨床治療法を新たに開発している。治療法に注力しているため、治験や規制当局による承認はおそらく数年先になると思われるが、これはイノベーションの最先端を行く研究である。

2つ目の会社は、アプリを使って患者のメンタルヘルスを改善するソフトウェアスタートアップNeuroFlow(ニューロフロー)だ。この会社のツールは、継続してアンケートやテストを実施し、開業医との協力を得ることで、精神面の健康をよりアクティブに監視し、最も複雑なケースでも症状や再発を特定する。ニューロフローのツールはどちらかというと臨床に近いが、近年はHeadspace(ヘッドスペース)Calm(カーム)などのメンタルウェルネス関連のスタートアップも頭角を現している。

治療法やソフトウェア以外の分野では、メンタルヘルスの最前線としてサイケデリックスのようなまったく新しい分野もある。これは、筆者が2021年始め、2020年の投資対象の上位5つとして挙げたトレンドの1つであり、この考えは今も変わっていない。また、サイケデリックスを重視した患者管理臨床プラットフォームであるOsmind(オスミンド)というスタートアップについても記事を掲載している

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リスク&リターン社はサイケデリックス分野に投資していないが、同社の取締役会長で9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は「政府機関がサイケデリックス分野に投資するのは難しいですが、民間企業であれば簡単に投資できます」という。

EdTech同様、メンタルヘルス系スタートアップは最初は初期対応救助員のコミュニティをターゲットにしているものの、対象を限定しているわけではない。心的外傷後ストレスやその他のメンタルヘルス疾患は、世界中で多くの人を悩ませる症状であり、あるコミュニティで効果があった治療法を別のコミュニティにも幅広く適用できる可能性は大いにある。市場規模は非常に大きく、大勢の人たちの生活が大幅に改善される可能性を秘めている。

話を進める前に、興味深い分野をもう1つ挙げておきたい。それは、治療に大きな影響を及ぼすコミュニティの構築だ。初期対応救助員や退役軍人たちは、現役時に使命感や仲間意識を感じることができるが、再就職後や社会復帰前の回復期には、そうした感覚が欠落してしまうことが多い。チーム・ルビコンのデラクルーズ氏によると、退役軍人を被災地の救援活動に参加させる目的の1つは、彼らがアイデンティティを取り戻し、コミュニティとの関わりを取り戻してもらうことであり、国に奉仕したこうした人たちはとても貴重な人材であると指摘する。患者ごとに1つの治療法を見つけるだけでは十分ではない。大抵の場合、目をさまざまな人たちに向けて、精神面の健康を損なう要因を確認する必要がある。

そのような人たちが目的を見つけるのを支援するのは、スタートアップが簡単に解決できる問題ではないかもしれないが、多くの人にとって重要な問題であることは間違いない。ソーシャルネットワークの評価がどん底まで落ちた今、この分野に新しいアプローチが次々と芽生えている。

クラウドソーシングによる災害対応

近年、テクノロジーの世界では分散化が主流となっている。TechCrunchの記事でブロックチェーンという単語に言及しただけで、トイレの染みに関する最新のNFTに関するPRメールが少なくとも50通は届く。さまざまな情報が混在していることは明らかだが、災害対応の分野でも分散化が役立つ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが証明したものがあるとすれば、それはインターネットの強みだ。インターネットには、データを収集して、データを検証し、ダッシュボードを構築して、複雑な情報を分かりやすく効果的に視覚化し、専門家と一般向けに配信できるという強みがある。このようなサービスは、世界中の人たちが自宅でくつろいでいる時に開発しており、問題が発生したときに対応できる腕を持つユーザーをクラウド上で迅速に集めることができることを実証している。

Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「新型コロナウイルスは、我々の想像をはるかに上回る最悪の事態をもたらした」と話す。しかし、オンラインで共同作業するさまざまな方法を利用できるようになったことについては「大変ワクワクしているし、実践的で非常に役に立っている」と指摘する。

ランドのクラークギンズバーグ氏は、この状況を「災害管理の次世代フロンティア」と呼んでいる。同氏は「テクノロジーを使って災害管理や災害対応に参加できる人数を増やせるなら」、災害に効果的に対応する革新的な方法を確立できるだろうと語る。「プロの現場作業員の形式的な体制が強化されることで人命が救われ、リソースを節約できているものの、一般人の緊急時対応要員を活用する方法については、まだまだ取り組むべき余地が残されています」と主張する。

クラウドソーシングによるさまざまな取り組みを支えているツールの多くは、災害対応を目的としていない。シュリー氏は、リモートで活動する一般人の初期対応救助員が使用しているツールの例として、Tableau(タブロー)とデータ視覚化ツールプラットフォームFlourish(フローリッシュ)を挙げる。表形式データを扱う極めて堅牢なツールはあるが、危機発生時に必要となるデータのマッピングを処理するツールの開発はまだ初期段階だ。筆者が2021年初めに紹介したUnfolded.ai(アンフォールデッド・アイ)は、ブラウザ上で動作するスケーラブルな地理空間分析ツールの構築に取り組んでいる。他にもさまざまなツールが開発途上だ。

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新型コロナに苦しむ人を救う開発者の卵が作ったDevelop for Goodが学生と非営利団体を繋ぐ

多くの場合、コーディネーターをまとめるにはさまざまな方法がある。筆者が2020年注目したDevelop for Good(デベロップ・フォー・グッド)という非営利団体は、野心のあるコンピューターサイエンス専攻の学生と、パンデミックで人手が不足している非営利団体および政府機関のソフトウェアプロジェクトやデータプロジェクトと結びつけることを目的としている。こうしたコーディネーターが非営利団体の場合もあれば、Twitter(ツイッター)のアクティブなユーザーの場合もある。分散的な方法でさまざまな取り組みを調整しながら、プロの初期対応救助員や公的機関と関わり合う方法については、試験的な取り組みが続いている。

分散化と言えば、災害対応や危機対応にブロックチェーンが役立つことさえある。ブロックチェーンを証拠の収集や本人確認に使用できる場合がある。たとえば今週始め、TechCrunchの寄稿者Leigh Cuen(リー・クエン)氏は、Leda Health(レダ・ヘルス)が開発した家庭内性的暴行の証拠収集キットについて詳しく報告している。このキットではブロックチェーンを使用して、サンプルが収集された正確な時刻を確認できる。

クラウドソーシングと分散化を利用する方法には他にもいろいろな可能性があるが、そうしたプロジェクトの多くは、災害管理自体とはまったく異なるさまざまな応用事例がある。これらのツールは実際の問題を解決するだけでなく、災害自体とはほとんど無縁だが他者を助ける活動に参加することには熱心な人たちのために、本物のコミュニティを作ることも可能だ。

未曾有の災害に備える

スタートアップに関して筆者が紹介した3つの市場(トレーニングの質の向上、メンタルヘルスの向上、クラウドソーシングによる(データ関連の)コラボレーションツールの向上)は、創業者にとって価値があるだけでなく、ユーザーの生活の質を向上させることができるため、極めて魅力的な市場となっている。

Charles Perrow(チャールズ・ペロー)氏は著書「Normal Accidents(普通の事故)」の中で、複雑さと癒着度が高まる現代の技術システムにおいては、災害が確実に発生するであろうと述べている。さらに、温暖化と毎年発生する災害の大きさ、頻度、異変性を考えると、人類はこれまでに対応したことがないまったく新しい形の緊急災害に直面する可能性が高い。最近では、テキサスの大寒波で送電網が弱体化し、数時間にわたって州全体が停電する事態となり、一部の地域では数日間続いた。

クラークギンズバーグ氏は「我々が目にしているこうしたリスクは、単なる典型的な山火事のようなものではありません。通常の災害であれば対応体制も整っており、容易に準備して危機を管理できます。よく発生する災害管理にはノウハウがあります。しかし最近では、これまでに経験したことがないような緊急事態が発生することが多くなっており、そうした事態に対応する体制を構築するのに苦戦しています。パンデミックはまさにそうした例の1つです」と説明する。

同氏はこうした問題を「境界線を越えたリスク管理」と呼んでいる。つまり、役所、専門性、社会性、行動や手段といった境界を越えた災害のことだ。「こうした災害に対応するには、敏捷性、迅速に行動する能力、お役所体制にとらわれずに作業する力が必要となります。これは大きな問題です」。

災害とその対応に必要となる個々の問題に対しては解決策を立てられるようになってきたものの、こうした緊急事態によって表面化する体系的な取り組みが無視されている現状を見逃すことはできない。最大の効果をあげる画期的な方法で人材を迅速に集めると同時に、ニーズに応える最善のツールを柔軟かつすぐに提供する方法を考える時期にきている。スタートアップ企業がこの問題を解決するというより、利用可能な情報を用いて斬新な災害対応を構築するという考え方が必要だろう。

Natural Resources Defense Council(天然資源保護協議会)の政策アナリストAmanda Levin(アマンダ・レヴィン)氏は次のように語っている。「温室効果ガスを削減したとしても、地球温暖化から受ける圧力と影響は極めて大きいものがあります。温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、その影響は続きます」。筆者がインタビューした政府関係者の1人は匿名を条件に、災害対応について「常に何か物足りない結果に終わっています」と語った。問題は難しくなる一方だ。人類は自分たちが作り上げてしまったこの試練に対応するために、今よりはるかに優れたツールを必要としている。それは、今後100年間の厳しい時代の課題であると同時に、試練を克服するチャンスでもある。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカメンタルヘルストレーニングクラウドソーシング

画像クレジット:Philip Pacheco/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

Twitterが誤った情報と戦うためにツイートにコンテキストを追加する「Birdwatch」システムを開発中

Twitter(ツイッター)が「Birdwatch」(バードウォッチ)という名の新機能を開発している。同社はプラットフォーム上のツイートにノート形式でコンテキストを追加することで、誤った情報問題にアプローチしようとしていることを認めている。各ツイートの、現在ブロックや報告ツールが置かれているドロップダウンメニューから、対象のツイートを「Birdwatch」対象にすることができる(すなわちモデレートのフラグが立てられていることを意味する)。小さな双眼鏡ボタンは、Twitterタイムラインに公開されたツイート上にも表示される。そのボタンをクリックすると、ユーザーはツイートにつけられたノートの履歴を閲覧できる画面に移動する。

リバースエンジニアリング手法によって発掘されたBirdwatchのスクリーンショットによれば、「Birdwatch Notes」という名の新しいタブが、リスト、トピック、ブックマーク、モーメントなどの他の既存の機能とともにTwitterのサイドバーナビゲーションに追加される。

このセクションでは、「Birdwatch Notes」と呼ばれる、自分の書いたノートの履歴を追うことができる。

この機能は、この夏にTwitterのウェブサイト上で開発の初期段階のものが、リバースエンジニアのJane Manchun Wong(ジェーン・マンチュン・ウォン)氏によって初めて発見された。その時点では、Birdwatchには名前がなかったが、ツイートにフラグを付けたり、ツイートが誤解を招くものかどうかを投票したり、さらに説明のノートを追加したりするためのインターフェースが、明確に示されていた。

彼女による発見の数日後に、Twitterはウェブアプリを更新し、それ以上の調査はできなくなった。

しかし今週、今度はiOS上のTwitterのコードで、非常によく似たインターフェースが再び発見された。

モバイルでこの機能のスクリーンショットをさらにいくつかツイートした、ソーシャルメディアコンサルタントのMatt Navarra(マット・ナバラ)氏によれば、Birdwatchを使用することで、ユーザーはツイートにノートを付け加えることができるという、これらのノートは、ツイート自身の上にある双眼鏡ボタンをクリックすると表示される。

すなわち、ツイートに対して行われたノートによる追加のコンテキストが、一般に公開されるということだ。

はっきりしていないのは、追加のコンテキストでツイートに注釈を付けるためのアクセス権が、Twitterのすべての人に与えられるのか、承認が必要なのか、それとも一部のユーザーまたはファクトチェッカーのみが利用できるのかということだ。

Twitterの早い時期からの利用者でハッシュタグの発明者でもあるChris Messina(クリス・メッシーナ)氏は、BirdwatchがTwitterの偽情報を取り締まるためのある種の「市民による監視」システムになるのではないかという懸念を表明していた(Twitter投稿)が、彼は正しかったようだ。

彼がTwitterのコード内で見つけた情報によれば、それらのノート(Birdwatch Notes)は「contribution」(貢献)と呼ばれ、どうやらクラウドソーシングシステムを暗示しているようだ。(結局のところ、ユーザーは自分だけが見るためのメモを書くのではなく、共有システムに 貢献するようだ)。

画像クレジット:クリス・メッシーナ氏

クラウドソーシングによるモデレートはTwitterにとって目新しいものではない。数年にわたり、TwitterのライブストリーミングアプリPeriscope(ペリスコープは)不正利用を抑え込むためにクラウドソーシング技術に依存して、リアルタイムストリームへのコメントをモデレートしてきた。

ただし、Birdwatchが非技術的な観点からどのように機能するかについては、まだ多くのことがわからないままだ。たとえば、誰もがツイートに注釈を付ける同じ権限を持っているのかどうか、このシステムを荒らそうとする試みがどのように処理されるのか、多数のネガティブな注釈が付けられたときにツイートはどうなるのかなどはわからない。

この数カ月間Twitterは、誤解を招いたり、虚偽だったり、扇情的な内容を含むツイートに対して、より厳しい姿勢をとろうとしてきた。それはトランプ大統領のツイートの一部に、ファクトチェックラベルを適用するまでになっており、その他のツイートをTwitterのルールに違反していることを通知して非表示にすることも行っている。しかし、Twitterはまず規模の拡大を目指して開発され、その後有害コンテンツに関するポリシーと手続きを決定しようとしてきたため、Twitterが全体にモデレーションを拡大する準備は、十分には整っていない。

Twitterにコメントを求めたところ、同社はBirdwatch計画に関する詳細の開示は拒否したが、この機能が誤った情報の拡散を防ぐために設計されていることは認めた。

「私たちは誤った情報の問題に対処し、Twitter上のツイートにより多くのコンテキストを提供するための、多くの方法を模索しています」とTwitterの広報担当者はTechCrunchに語った。「誤った情報は重大な問題であり、それに対処するためのさまざまな方法をテストする予定です」と彼らは付け加えた。

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(翻訳:sako)

ナビゲーションプラットフォームのWazeが運転中の気分にフォーカスしたUIとデザインの大型アップデートを実施

クラウドソース型ナビゲーションプラットフォームであるWaze(ウェイズ)は、Google(グーグル)に所有されながら独立を保ちつつ、Googleマップと結びついた製品を開発している。この度同社は、これまでにない大幅なユーザーインターフェイスとデザインの変更を行った。それにともないドライバーが運転中の気分を表現するアイコン(最初は30種類)をシェアする「Moods(ムーズ)」を前面に押し出してきた。

Moodsは、ユーザーがカスタマイズに使うちょっとしたオプションのように思われるかもしれないが、実はクラウドソースで収集される情報の新しいデータ価値をWazeにもたらすという、大変に興味深い側面がある。この機能を解説したブログ記事(Medium記事)で、Wazeのクリエイティブ担当責任者であるJake Shaw(ジェイク・ショー)氏は、新たに追加されたMoodセットについて記している。これは以前からWazeに備わっていたMoods機能の上に構築されたもので、気分の表現の幅を大きく拡張している。

「Moodsの基本的な考え方は、常に変わりません。路上でのユーザーの気持ちを表現することです」と彼は書いている。「道路で人々が抱く感情の幅を探る作業は、大変に楽しいものでした。10人いれば、まったく同じ状況でもみんな違う感情を抱きます。そこで私たちは、そうした気分をできるだけ多く集めることにしました。これは私たちにとって大変に重要な情報となります。なぜならMoodsは、道路を走る我々全員が一緒に働いていることを思い出させてくれる視覚的リマインダーとして機能するからです」。

Moodsをより多様でパーソナルなものにすることで、視覚的魅力が高まることは確かだ。さらに、Wazeのユーザーコミュニティーのエンゲージメントを高める効果もあるだろう。同社はそれについて明言してはいないが、交通状況、天候、工事など、クラウドソーシングで集められるナビゲーション関連の詳細情報に感情の尺度としてそのデータが加わることで、より内容の濃いデータセットの構築が可能になり、その分析結果を道路計画、交通インフラの管理などに応用できるのではないだろうか。

今回のアップデートには、アプリ全体のインターフェイスのフルモデルチェンジも含まれている。グリッド上にカラフルな形状が配置されるようになり、道路の危険な状況を知らせるアイコンも新しくなった。明るい方向に大きく改善され、視覚的に兄弟分のGoogleマップとの差別化が増した。

ショー氏は、今回のデザイン変更を知らせるコミュニティーの声の価値について繰り返し語っていた。これは、コミュニティーへの帰属意識を高めることを念頭に置いていることは間違いない。そこが、他の交通系またはナビゲーションアプリと大きく異なる点だ。おもしろいことにこのデザイン変更で、考え方にもよるがグーグルの最も成功したソーシャルネットワーク製品はYouTubeを除くと、Wazeなのではないかと思えるようになった。

画像クレジット:Waze

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(翻訳:金井哲夫)