D-Waveが量子ゲート方式の量子コンピューター製造を計画中

20年以上にわたり、D-Waveは量子アニーリングの代名詞だった。早期にこのテクノロジーに賭けたことで、世界で初めて量子コンピューターを販売する会社になるとともに、同社のハードウェアが解くことのできる現実世界の問題をある程度限定した。それは量子アニーリングがタンパク質折り畳みやルート選定などの最適化問題で特に有効であるためだ。しかし同社は米国時間10月5日のQubitsカンファレンスで、超電導量子ゲート方式量子コンピューターをロードマップに載せたことを発表した。同じタイプをIBMをはじめとする他社がすでに提供している。

D-Waveは、アニーリングとゲート方式の量子コンピューターと従来型コンピューターの組み合わせこそ、同社のユーザーがこのテクノロジーから得るべき最大の価値だと信じている。「最初にアニーリングを追究すると決めた時と同じように、私たちは将来を見据えています」と同社がこの日の発表で語った。「私たちは当社の顧客が実務的価値を促進するために何を必要としているかを予測しており、実務的応用価値を備えた量子誤り訂正ゲート方式システムが、量子アプリケーション市場のもう1つの重要部分である量子シミュレーションシステムに必要であることを知っています。これは材料科学や医薬品研究などの分野で特に有効な応用です」。

画像クレジット:D-Wave

以前同社は、アニーリングは量子アプリケーションを作る最速の道だと主張していた。現在およそ250社のD-Waveユーザーが同社ハードウェアのアプリケーションを作っていて、事実上全ユーザーが同社のLeap(リープ)クラウドサービスを通じてアクセスしている。さらに、量子アニーリングにはそれ自体明確な価値があるので、D-Waveはそれを捨てるつもりはない。「アニーリングは今もロードマップの中心です」と同社は言い、今後も現行システムへの投資と開発を続ける計画だ。実際、D-Waveはアニーリング(およびそれが可能にする最適化への応用)が量子アプリケーション市場の約1/3を占めていると信じている。

しかし同社は、これが戦略の大転換であり、それには少し説明が必要であることもはっきりわかっている。そもそもD-Waveは何年も前から同社のアニーリング技術がいずれは汎用量子コンピューターにも利用できると発言していた。しかし、背景にある技術と理論が成熟し、関連する材料工学の課題をD-Wave自身が学習したことから、今こそ「技術、理論の両面から見て、ゲート方式の課題に真っ向から直面する最適な時期」だと会社は考えている。

D-Waveは、これが平坦な道のりではないことも公言してはばからない。何といっても、これはやはり量子コンピューティングなのだ。それを踏まえると、同社ゲート方式のプロセッサーのロードマップに日付がなく、最初のキュービットの開発(フェーズ1)から汎用量子処理装置(QPU)の開発までのフェーズだけが記載されていることも納得できる。

ゲート方式のニュースは今日の見出しを飾る出来事ではあるが、D-Waveは他にもいくつか発表した。同社は最新の5000+量子ビット、Advantage(アドバンテージ)クラスの機種の性能改善アップデートを公開した。同社は、Constrained Quadratic Model(CQM)ソルバーも発表した。D-WaveのLeapサービスで現在提供されているソルバー群を補完するものだ。

全体的ロードマップでは、D-Waveは、7000量子ビット以上を搭載し、新たなトポロジーで20-way connectivityを実現したAdvantageの最新機種(デザインも改訂される)を2023年または2024年に発売予定だ。また来年以降、混合整数問題を解くことで薬剤の臨床試験や化学プロセス最適化、流通、スケジューリングなどに利用できる新たなハイブリッド・ソルバーを公開していく予定だ。

しかし、真の最終目標は、顧客がさまざまなハードウェアとソフトウェアの組み合わせを利用して、事実上どんな問題にも量子コンピューティングで取り組める、深いレベルまで統合されたシステムを提供することだ。

「量子テクノロジーに対する当社の全力アプローチは、チップ製造からシステム開発まで、ハイブリッド・ソフトウェア・ソルバーから堅牢なオープンソース開発ツールまでを含むもので、これは当社が、定常的な製品イノベーションを繰り返しながらクロスプラットフォームのスタックをいち早く市場に届ける世界で唯一の会社であることを意味しています」とD-WaveのCEOであるAlan Baratz(アラン・バラッツ)氏は語った。

画像クレジット:D-Wave Systems

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nob Takahashi / facebook

NTTが数学の真理探求と長期的研究開発強化に向け「基礎数学研究センタ」設立、量子コンピューティングの速さの根源解明

NTTが数学の真理の探求と長期的研究開発強化に向け「基礎数学研究センタ」を設立、量子コンピューティングの速さの根源など解明

NTTは10月1日、長期的視野に立った基礎数学研究を推進するための組織「基礎数学研究センタ」(Institute for Fundamental Mathematics)を、NTT研究所内に新設した。現代数学の基礎理論体系構築に取り組みつつ、「量子コンピューティングの速さの根源」の解明や、未知の疫病の解明、新薬の発見などにおいて、「現代数学の手法を駆使した今までにないアプローチの提案を通じた貢献」を目指すという。

同センターのミッションは、「現代数学の多様かつ広範にわたる未知なる課題」に取り組み、「数学の真理の探求」を推進することであり、以下のような課題解決に貢献することだとしている。

  • 現代数学の未解決問題への挑戦を通じて新たな基礎理論体系を構築し、量子コンピューティングの速さの根源の解明、量子計算機でも破れない暗号方式の考案など、「デジタルを超える量子技術の革新に向けた研究」の加速
  • 生命科学、脳科学、社会科学などにおける現象の相互作用や未解明な振る舞いに関する、トポロジーと幾何学、数論、関数解析などの現代数学の発展と各研究領域の研究者との連携
  • 各研究分野での現代数学の数理的な記述方法を探索し、未知の疾病の解明、新薬の発見、超大規模シミュレーションとAIの融合による災害予測、災害救助を本格的に担えるアバターやロボットの構築
  • 人間の脳のダイナミクスや人の行動メカニズム、記憶、思考、意識が生まれるメカニズムの解明、新たな脳型計算機実現に向けた理論の発展への寄与

今後は、基礎数学分野の第一級の研究者を招き学術貢献すると同時に若手を育成し、NTTが提唱する光による高速大容量通信のネットワークと情報処理基盤を構築する「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現にまつわる諸問題の解決を目指すという。

N予備校が量子計算入門を9月15日19時開講、高校生以上からすべての者が量子コンピューターのアルゴリズムを無料で学べる

N予備校が「量子計算入門」を9月15日19時開講、高校生以上からすべての者が量子コンピューターのアルゴリズムを無料で学べる

ドワンゴは9月8日、教材・生授業・Q&Aをスマートフォンに最適化したオールインワン学習アプリ「N予備校」(Android版iOS版)において、「量子計算入門」を2021年9月15日に開講すると発表した。料金は無料。講師は、社会人のための数学教室「すうがくぶんか」の内場崇之氏。また監修を電気通信大学教授の西野哲朗氏が行っている。

受講の際は、N予備校にログイン後、ホームのサイドメニューの課外授業欄から
「数理科学」→「量子計算入門」→「量子計算入門」の順に選択する。

「量子計算入門」の特徴

  • 数学的側面を重視:量子コンピューターに関心があるものの、数学的な部分にハードルを感じて取り組めなかった人のために、生放送での授業や補講を通じ、数学的側面について、必要な部分を基礎的なところから丁寧に解説する。難しいものは具体的な例を挙げることで親しみを持てるようにするなど、数学に苦手意識がある人にも取り組めるような構成を採用
  • トピックを基本的な部分に限定:量子コンピューターについては多くの話題がある中で、代表的な話題に絞って基本的なトピックを解説
  • 電気通信大学の西野哲朗先生が監修:日本における量子コンピューター研究の先駆者の1人である西野哲朗教授が監修。また、生放送授業の初回と最終回には、特別ゲストとして登壇する

「量子計算入門」の授業スケジュール(授業は各回とも19時開始)

  • 初回特別講義(9月15日)
  • :「量子計算入門」ガイダンス(特別ゲスト:西野哲朗先生)
  • 第1講(9月22日): 量子ビットとは?
  • 第2講(9月29日):量子ゲートとは?その1
  • 第3講(10月6日):量子ゲートとは?その2
  • 第4講(10月13日):量子回路で足し算しよう
  • 第5講(10月20日):量子計算のテクニック(量子フーリエ変換)
  • 第6講(10月27日):15を素因数分解してみよう!その1
  • 第7講(11月10日):15を素因数分解してみよう!その2
  • 第8講(11月17日):量子機械学習に親しみを持とう
  • 第9講(11月24日):量子アニーリングとは?
  • 第10講(12月1日):量子アニーリングを使って最適化をしてみよう!
  • 最終回特別講義(12月8日):今後の展開について(特別ゲスト:西野哲朗先生)

従来のコンピューターでは計算量が多く解くことが難しかった問題を、短時間で解けるようになる可能性を秘めた次世代コンピュータとして、量子コンピュータの開発が世界各国で進んでいる。

量子コンピューターは、その計算原理に「量子力学」で扱われる微小な領域での物理現象を利用しており、現在のコンピューターの情報の最小単位である「ビット」とは異なる「量子ビット」と呼ばれる新しい情報単位を使って計算している。

2019年のGoogleの研究チームによる実証実験では、53量子ビットの量子コンピューターが用いられ、現在も実用化に向けたさまざまな取り組みが多くの企業や研究機関によって進行している。今回の「量子計算入門」では、このような量子コンピューターが実行するアルゴリズムの入門的な部分を、高校生でも取り組めるような形で提供する。

N予備校は、ドワンゴが独自開発した、授業、教材(問題集・参考書)、Q&Aシステムが1つになった学習アプリ。学費(料金)は、クレジットカード・キャリア決済の場合月額1100円(税込)。

インターネットを活用することで、いつでもどこでも学習を進めることが可能。ライブ配信の生授業では、コメント機能を使って挙手や質問が行えるなど双方向の参加型授業を受けることができる。またアーカイブされた映像授業では、ノートを取る時に一時停止したり、わからなかった所は何度も見返すことができたりと、自分のペースで学べるとしている。また大学受験の授業では、実力派予備校講師陣、プログラミングでは、現役エンジニアが講師を務めるという。

「量子オーケストレーション・プラットフォーム」でニッチな分野を開拓するQuantum Machinesが55億円調達

イスラエルのスタートアップであるQuantum Machines(クォンタムマシーンズ)は、量子マシンを動かすための古典的なハードウェアとソフトウェアのインフラを構築しており、現地時間9月5日、5000万ドル(約55億円)のシリーズBラウンドを発表した。

今回のラウンドはRed Dot Capital Partnersがリードし、Exor、Claridge Israel、Samsung NEXT、Valor Equity Partners、Atreides Management LPの他、TLV Partners、Battery Ventures、2i Ventures、その他の既存投資家の協力を得て実施された。Crunchbaseのデータによると、同社はこれまで約8300万ドル(約91億円)を調達した。

一般的に量子コンピューティングはまだ始まったばかりだが、Quantum Machinesは「Quantum Orchestration Platform(量子オーケストレーション・プラットフォーム)」と呼ばれるハードウェアとソフトウェアのシステムを構築することで、ニッチな分野を開拓している。

確かに、Quantum Machinesの共同創業者でありCEOのItamar Sivan(イタマール・シバン)氏は、これまでずっと量子分野の仕事に携わり、この技術の大きな可能性を感じている。「量子コンピューターは、古典コンピューターが合理的な時間内に完了することが不可能な計算を極めて高速化する可能性を秘めており、この分野への関心は現在、最高の水準に達しています。Quantum Machinesのビジョンは、量子コンピューターをユビキタスなものにし、すべての産業に革命をもたらすことです」と同氏は語る。

そのために、同社は古典コンピューターが量子コンピューターの発展に力を与えるシステムを開発した。同社はこの目的のために独自のシリコンを設計しているが、量子チップを作っているわけではないことに注意が必要だ。シバン氏の説明によると、古典コンピューターにはソフトウェアとハードウェアの層があるが、量子マシンには3つの層があるという。「心臓部である量子ハードウェア、その上に古典的なハードウェアがあり、さらにその上にソフトウェアがあります」と同氏はいう。

「我々が注目しているのは、後者の2層です。つまり、古典的なハードウェアとそれを動かすソフトウェアです。我々のハードウェアの核心は、実は古典的なプロセッサーです。これが量子スタックの最も興味深い点だと思います」と説明している。

同氏は、古典的なコンピューティングと量子コンピューティングの間のこの相互作用は、テクノロジーの基本であり、将来にわたり、あるいは永遠に続くものであるという。Quantum Machinesが構築しているのは、基本的には、量子コンピューターを稼働させるために必要な古典的なクラウドインフラだ。

Quantum Machinesの創業チーム。イタマール・シバン氏、ニシム・オフェク氏、ヨナハン・コーエン氏(画像クレジット:Quantum Machines)

これまでのところ、このアプローチは非常にうまくいっている。シバン氏によると、政府、研究者、大学、そしてハイパースケーラー事業者(Amazon、Netflix、Googleなどの企業が含まれる可能性があるが、同社は顧客であるとは述べていない)が、いずれも同社の技術に興味を持っているという。具体的な数字については言及していないが、同社は現時点で15カ国に顧客を持ち、名前を明かせない大企業とも協力関係にある。

今回の資金調達は、同社の活動を裏づけるもので、ソリューションの開発継続を可能にする。同社は研究開発にも多額の投資を行っている。開発の初期段階にあり、この先ずっと大きな変化が起こるこの産業では重要なことだ。

このソリューションは、わずか60人の従業員でここまで完成させることができた。今回の資金調達により、今後数年間でチームを大幅に増強することができる。シバン氏は多様性に関して、それが当然とされるアカデミックなバックグラウンドの出身であり、それを会社に持ち込み新しい人材を採用しているという。さらに、パンデミックのおかげで、どこからでも採用できるようになり、同社はこの機会を活用しているという。

「まず第一に、我々はイスラエルだけではなく、世界中で採用活動を行っており、特定の地域での採用に限定していません。当社には多くの国から人が集まっています」と話す。また「私個人にとっての多様性とは、できるだけ多くの人を採用プロセスに参加させることです。それが多様性を確保するための唯一の方法です」。

パンデミック期間中も、ハードウェアチームは、許可されている場合は必要な注意を払い、オフィスで対面のミーティングを行ってきたが、ほとんどの社員は自宅で仕事を続けていた。これは、定期的にオフィスに行くことが安全になったとしても続けていくアプローチだという。

「もちろん、ポストコロナ時代には、相当の仕事量がリモートワークによって行われます。【略】ですから、当社の本社でも(希望者には)リモートワークを認めることを想定しています」。

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画像クレジット:Quantum Machines

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表

東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表東京大学IBMは7月27日、日本初のゲート型商用量子コンピューティング・システム「IBM Quantum System One」が「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」(KBIC)において稼働開始したと発表。また発表会を開催した。

発表会では、東京大学総長 藤井輝夫氏、文部科学大臣 萩生田光一氏、科学技術政策担当大臣 井上信治氏、参議院議員および自由民主党量子技術推進議員連盟会長 林芳正氏、駐日米国臨時代理大使 レイモンド・グリーン氏、慶應義塾長 伊藤公平氏、東京大学教授・元総長 五神真氏、東京大学教授 村尾美緒氏、川崎市長 福田紀彦氏、QII協議会会長およびみずほフィナンシャルグループ取締役会長 佐藤康博氏 QII協議会メンバーおよびJSR名誉会長 小柴満信氏、IBM シニア・バイス・プレジデントおよびIBM Research ディレクター ダリオ・ギル氏、日本アイ・ビー・エム代表取締役社長 山口明夫氏が登壇した。

東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表

同システムの稼働は、2019年12月にIBMと東京大学で発表した「Japan–IBM Quantum Partnership」に基づくもので、東京大学が占有使用権を有している。東京大学は同システムを活用し、企業、公的団体や大学等研究機関と量子コンピューターの利活用に関する協力を進める。

「新川崎・創造のもり」地区に位置する産学交流によるインキュベーション施設であるKBICは、川崎市の全面的な支援により、電気・冷却水・ガスなどのインフラの安定供給や耐振動環境といった量子コンピューターの常時安定稼働に必要となる最適な環境を実現しており、同システムが安定稼働することで研究活動が加速することが期待される。

東京大学、川崎市、日本IBMは、量子コンピューティング技術の普及と発展に関する基本協定書を2021年6月に締結した。3者は、量子コンピューターの安定稼働、量子コンピューター利活用の拡大や普及促進、量子コンピューターを活用した人材育成について、引き続き協力するとしている。

東京大学総長の藤井輝夫氏は、「変化の早い量子技術分野において、世界に伍して高度な社会実装を実現するためには、量子技術に関する要素やシステムの開発だけでなく、次世代人材の育成が極めて重要です。本学は研究人材の裾野も広く、すでに学部学生からハイレベルな量子教育を進めていますが、この「System One」を活用して次世代の量子ネイティブの育成をより一層進めて参りたいと考えております」と述べた。

東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表

また、IBM シニア・バイス・プレジデント、IBM Researchディレクターのダリオ・ギル(Dario Gil)氏は、「IBMは、グローバルな量子エコシステムの成長と、さまざまな研究のコミュニティー間によるコラボレーションの促進に取り組んでいます」とコメント。「このグローバルな取り組みの一環として、日本の商用量子コンピューターを発表できることを誇りに思い、日本の世界クラスの学術、民間部門、政府機関による成果を楽しみにしています。共に私たちは、さまざまな分野で科学の進歩を加速するための大きな一歩を踏み出すことができるのです」とした。

東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表

また、同システムの稼働に加えて、東京大学とIBMは、量子コンピューターの普及と発展に向けた活動を強化する取り組みを実施している。量子コンピューター技術の研究・開発を行うハードウェア・テストセンター「The University of Tokyo – IBM Quantum Hardware Test Center」を、東京大学 浅野キャンパス内に2021年6月に開設した。2021年8月中旬には、東京大学が設立した「量子イノベーションイニシアティブ協議会」会員企業の交流・情報共有の場として、「コラボレーションセンター」(仮称)を東京大学本郷キャンパス(理学部1号館10階)に設置する予定。

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世界有数の量子研究センターであるパリのInstitut d’Optique Graduate School(IOGS。光学研究所)から2019年に独立し、基礎研究からビジネスまで広範に利用できる量子処理ユニット(QPU)の開発・製造・販売を行うスタートアップPasqal(パスカル)は7月20日、2500万ユーロ(約32億円)の資金調達を発表した。ベンチャーキャピタルのQuantonation(クアントネシオン)と仏国防省防衛イノベーション部門が率いたシリーズAラウンドとして、6月に実施された。これにより、QPU開発とともにアプリケーション共同設計の取り組みを強化し、ハイブリッドクラウドを介した量子コンピューティングサービスの構築を加速する。

Pasqalでは、すでに100量子ビットQPUを搭載した量子コンピューター1台を運用しており、フランス電力と共同開発したEV用充電スケジュールの最適化といった具体的なユースケースの検討に使われているという。さらに2台の100量子ビットQPU搭載量子コンピューターの用意を進めており、2022年の初めにはクラウドベースのアクセスを提供する予定。

また2023年には、欧州HPCプロジェクトへの参加などを目的にフランス政府が設立した企業GENCIと、ユーリッヒ研究所(ドイツ)のスーパーコンピューティングセンターに、オンプレミスで導入されることになっている。

EUでは、2018年10月に「量子技術フラッグシップ計画」が立ち上げられ、続く2021年1月にフランスが18億ユーロ(約2346億円)を投じる量子技術の国家戦略を発表している。これにより、人材育成、科学研究、技術実験を大幅に強化し、2023年からの第1世代汎用量子コンピューターの完全なプロトタイプ実現を目標に掲げている。

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タグ:QPU / 量子処理ユニット(用語)Pasqal(企業)量子コンピューター(用語)資金調達(用語)フランス(国・地域)

ソフトバンクが2030年代の「Beyond 5G」「6G」のコンセプトと12の挑戦を公開

ソフトバンクが次世代移動体通信規格「Beyond 5G」「6G」に向けた12の挑戦を公開ソフトバンクは、2030年代の商用化が期待されている、次世代移動体通信規格「Beyond 5G」および「6G」に向けた12の挑戦を公開しました。

内容としては、5Gの「ミリ波」よりもさらに高い周波数帯「テラヘルツ波」の利用や、無人の電気飛行機を使って成層圏に携帯基地局を浮かべる「HAPS」、LEO(低軌道通信衛星)を活用した、100%のエリアカバレッジなどが紹介されています。全文は下記の通りです。

(1)ベストエフォートからの脱却

これまでのモバイルネットワークでは、スマートフォンをインターネットに接続するベストエフォートなサービスを提供してきました。例えば、ネットショッピングや動画のストリーミング視聴といった、多少の遅延やパケットロスが発生しても生活に支障が生じにくいアプリケーションを提供してきました。6Gのモバイルネットワークでは、さまざまな産業を支える社会インフラの実装が期待されており、各産業が要求するサービスレベルに見合った、品質の高いモバイルネットワークを提供する必要があります。ソフトバンクは、日本全国を網羅するモバイルネットワークに、MEC(Mobile Edge Computing)やネットワークスライシングなどの機能を実装して、産業を支える社会インフラを実現していきます。

(2)モバイルのウェブ化

インターネットは、これまで多くのIT企業によってシステムやプロトコルの改善がなされ、進化を続けてきました。一方、モバイルネットワークは、クローズドなネットワークであるため、世界的に標準化される以上に進化を遂げることはありません。今後、モバイルネットワークのサービスの幅を広げるために、より柔軟なアーキテクチャーに生まれ変わることが期待されます。6Gでは、ウェブサービスのアーキテクチャーを取り込むことで、さらにお客さまに便利なサービスを提供できると考えて、研究開発を進めていきます。

(3)AIのネットワーク

AI技術は、画像認識による物体の検知や、音声認識・翻訳だけではなく、ネットワークの最適化や運用の自動化など、幅広く適用されるようなりました。同時に、無線基地局を含むモバイル通信を支えるネットワーク装置では、汎用コンピューターによる仮想化も進んできました。AI技術と、ネットワーク装置の仮想化は、いずれもGPU(Graphic Processing Unit)によって効率的に処理できるソフトウエアです。モバイルネットワーク上にGPUを搭載したコンピューターを分散配置することで、低コストで高品質なネットワークとサービスの提供が可能になります。ソフトバンクは、2019年からGPUを活用した仮想基地局の技術検証に取り組んでおり、AI技術とネットワークが融合したMEC環境を実現していきます。

(4)エリア 100%

6Gでは、居住エリアで圏外をなくすことや、地球すべてをエリア化することが求められます。ソフトバンクは、HAPSやLEO(低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星を活用した非地上系ネットワークソリューションを提供することで、この問題を解決します。これにより、世界中で30億を超えるインターネットに接続できない人々に、インターネットを提供することが可能になります。また、これまで基地局を設置できなかった海上や山間部、さらには上空を含むエリアにモバイルネットワークを提供することが可能になり、自動運転や空飛ぶタクシー、ドローンなど新しい産業を支えるインフラとなります。

(5)エリアの拡張

ソフトバンクの子会社であるHAPSモバイルは、2017年から成層圏プラットフォームと通信システムの開発に取り組んでいます。2020年にはソーラーパネルを搭載した成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider」(サングライダー)が、ニューメキシコで成層圏フライトおよび成層圏からのLTE通信に成功し、HAPSが実現可能であることを証明しました。このフライトテストで得た膨大なデータを基に、商用化に向けて機体や無線機の開発、レギュレーションの整備などを進めていきます。

(6)周波数の拡張

5Gでは、これまで移動体通信で利用されることがなかったミリ波が利用できるようにしました。6Gでは、5Gの10倍の通信速度を実現するため、ミリ波よりも高い周波数のテラヘルツ波の活用が期待されています。一般的に、100GHzから10THzまでがテラヘルツ帯とされ、2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)では、これまで割り当てられたことがなかった275GHz以上の周波数の中で、合計137GHzが通信用途として特定されました。この広大な周波数を移動通信で活用することで、さらなる超高速・大容量の通信の実現を目指します。

(7)電波によるセンシング

ソフトバンクは、これまで電波を主に通信用途で活用してきましたが、6G時代では通信以外の用途でも活用することが可能になります。例えば、Wi-Fiの電波を使用して、屋内で人の位置を特定する技術はすでに実用化されている他、Bluetoothを位置情報のトラッキングに利用するケースもあります。6G時代では、電波を活用して、通信と同時にセンシングやトラッキングなどを行うサービスの提供を目指します。

(8)電波による充電・給電

スマートフォンなどのデバイスは、Qi規格による無接点充電技術が多く使用されていますが、距離が離れてしまうと充電・給電ができないという欠点があります。6G時代には、電池交換や日々の充電から解放される未来がやってくると期待しており、距離が離れても電波を活用した充電・給電を行える技術の研究開発を進めていきます。

(9)周波数

周波数は、これまで各事業者が占有して利用することを前提に割り当てられてきましたが、IP技術を無線区間に応用することで、時間的・空間的に空いている帯域を複数事業者で共有することも可能になると考えます。Massive MIMOやDSS(Dynamic Spectrum Sharing)などの多重化技術がすでに確立されていますが、これらを含めた技術をさらに発展させて周波数の有効活用を進めていきます。

(10)超安全

2030年には、量子コンピューターの実用化まで開発が進むと言われています。量子コンピューターが実用化されると、現在インターネットの暗号化に使われているRSA暗号の解読ができるようになり、通信の中身を盗まれる可能性があります。将来、通信インフラの上に成り立つ産業全体を守るために、耐量子計算機暗号(PQC)や量子暗号通信(QKD)などの技術検証に取り組み、発展させることで、超安全なネットワークの実現を目指します。

(11)耐障害性

モバイルネットワークは、5G以降により一層社会インフラとしての役割が強くなってくると考えており、通信障害が発生した場合でも社会インフラとして維持し続ける必要があります。そこで、従来のネットワークアーキテクチャーを見直すことで、障害が起こりにくいネットワークを構築するとともに、万が一、障害が発生した場合でもサービスを維持できるようなネットワークの技術の研究開発を進めていきます。

(12)ネットゼロ

大量のセンサーやデバイスからのデータ、あらゆる計算機によるデータ処理によって、CO2排出量を常時監視・観察ができるようになると、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロの達成に大きく寄与できると考えられます。しかし、常にセンサーなどで監視されることになるため、プライバシー情報の取り扱いや情報セキュリティーといった課題を解決することも必要になります。また、基地局自体もカーボンニュートラルな運用を目指しています。現在、災害時でもネットワークを稼働させるため、基地局の予備電源の設置が義務付けられていますが、電源を普段から活用することや、日中に充電した電気を夜間に使うことで、温室効果ガスの排出量を抑えることができます。さらに、通信量に応じてリアルタイムな基地局の稼働制御を行うことで、消費電力を最小化することも可能になります。カーボンフリーな基地局の実現に向けて研究開発を進めていきます。

(Source:ソフトバンクEngadget日本版より転載)

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米国のIonQが史上最強の量子コンピュータを開発したと発表、IBMの量子ボリュームの記録を2桁も上回ると主張

イオントラップ型量子コンピュータの開発で注目を集めているスタートアップ、IonQが米国時間10月1日に「完全な32キュービット(qubit)で低ゲートエラーのコンピューターを開発した」と発表した。

IBMが用いるベンチマークでIonQは400万量子ボリュームを達成するものと期待している。これはIBM自身が記録した量子ボリュームを2桁も上回るもの(IBMリリース)で驚くべき飛躍だ。事実であれば、これが史上最も強力な量子コンピュータであることは間違いない。

スタートアップとして豊富な資金調達に成功している(未訳記事)同社だが、これまで量子ボリュームという指標を使ったことはなかった。同社の広報担当者によれば、IonQは量子ボリュームが必ずしもマシンの性能を表す最適の指標とは考えていなかったという。しかし業界全体がこの指標を使うようになったため、同社としても量子ボリュームの数字を発表したという。同社は キュービット相互作用の信頼性が99.9%であることがこの成果を生んだとしている。

IonQのCEOでプレジデントのPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は「単一世代のハードウェアの中で、IonQは11キュービットから32キュービットへの進化に成功しました。さらに重要な点は、32キュービットすべてを高い信頼性で動作させることに成功した点です。カスタマーやそのアプリケーションによって違ってきますが、量子コンピュータで80キュービットから150キュービットで高信頼性の論理ゲートを実現し、さらに毎年キュービット数を倍増ないしはそれ以上に増加させたいと考えています。2つの新世代ハードウェアをを開発中です。現在、量子テクノロジーを手がけていないコンピュータ企業は時代に取り残される危険性があります」と述べている。

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

IonQのイオントラップというアプローチは、これまでIBM(D-Waveもそうだ)が採用している方式とは大きく異なる。量子コンピューティングでは異なるメーカー、特に異なるテクノロジーを用いている場合におけるキュービット数の比較は難しい。しかし量子コンピュータのおおよその能力を測るものさしとして便利なために、広く用いられている。

IonQ共同創業者兼最高化学責任者のChris Monroe(クリス・モンロー)氏は「今回発表したシステムはこれまでの量子コンピュータでは不可能だったタスクを可能にします。さらに重要なのは新しい(イオントラップ)テクノロジーが、さらに処理能力を拡大していくことを可能にする方法に見極めがついた点です。新しいIonQシステムは量子コンピューティングの実用化における聖杯ともいうべき『複数キュービットを用いて耐障害性が高いシステムを構築する』という目標の達成に道筋を開いたものです」と述べた。

新しい誤り訂正技術を開発したことによりIonQでは「ほぼ完璧な」理論キュービットを実現するために13キュービットしか必要しないとしている。

現在、IonQの新しいシステムはプライベートなベータとして提供されている。こうした初期ユーザーからのフィードバックが同社の主張を裏づけるものであるかどうか興味深い(IonQの発表した数字が飛躍的な進歩を意味するため、量子コンピューティング関係者からも懐疑的な意見がいくつか出ている)。将来はパートナーであるAmazon(アマゾン)のAmazon BraketやMicrosoft Azureの量子クラウド、Quantum Cloudサービスを通じて提供していく考えだ。

次世代システムの筐体はどちらかというと平凡な印象を与える。しかし極めて高度なレベルで安定した環境(温度、振動、湿度など)を必要とするようだ。

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

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タグ:量子コンピュータIonQ

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

IBMが量子ロードマップを公開、2023年には1000量子ビットマシンを実現へ

IBMは本日、初めて同社の量子コンピューティングハードウェア開発に向けたロードマップを発表した。ここで把握すべきことはたくさんあるが、短期的に最も重要な情報は、同社が2023年末までに1000量子ビット(Qubit)以上(約10~50論理量子ビット)の量子プロセッサーを構築するということだ。

現在IBMの量子プロセッサーは65量子ビットで業界トップとなっている。同社は来年127量子ビットプロセッサーを、2022年には433量子ビットマシンを発売する計画だ。それに向けて、大容量チップを収容するまったく新しい希釈冷凍機を設計し、これらのユニットを複数接続してチップのマルチコアアーキテクチャーに似たシステムを構築する技術開発も進めている。

Image Credits: IBM

IBMのDario Gil(ダリオ・ギル)氏によると、同社はこのロードマップを発表するにあたり慎重に事を進めたという。そして同氏はそれを半導体産業の誕生になぞらえた。

「プロジェクトや科学的な実験を遂行して分野を前進させることとは対極にある、産業を確立するうえでの特異点に目を向けたとき、3つの文化を融合させたチームを築き上げることが必要であると私たちは認識しました。科学の文化、ロードマップの文化、アジャイルの文化です。当社はそのことを理念として持ち続けています」とギル氏は語る。

量子産業の究極の目標、すなわち大規模で耐障害性のある量子コンピューターを実現するために、同社は2つの異なる姿勢で臨んでいくとギル氏は唱える。1つは、アポロ計画のように10年単位で協働して問題に取り組み、様々な要素が結合することで突破口となる瞬間を迎えることだという。

「もう1つの方針は、 今できることは何かを問い、可能性を引き出すことです」と同氏は語る。「アジャイルの文化であるユーザー主導のフィードバックを確保して継続的にコミュニティへ還元するメカニズムを敷き、アジャイル文化を有するコミュニティを築きます。そして、進捗のロードマップを整備します。私たちはこの後者のモデルを固く信じています。科学の追究、ロードマップ、フィードバックを同時進行し、成果を創出していくのです」。

同氏はまた、我々は量子産業の新たな節目を迎えていると主張する。「私たちは、十分な総投資が行われているところまで来ています。このことは、調整メカニズムと信号メカニズムを通して、リソースの割り当てを大幅に誤ることなく誰もがその一端を担い貢献していくために、非常に重要です」。

量子産業の将来について、同氏は半導体産業の例を挙げて説明している。初期の半導体産業ではそれぞれがすべてのことを行っていたが、時を経てサードパーティーベンダーのエコシステムが誕生した。今日では、企業が極端紫外リソグラフィーのような新技術を導入するとき、IBMが量子産業に対して信念をもって現在展開しているような種類のロードマップが、各社の取り組みを調整するのに機能するのだ。

量子産業においても同様に、業界の複雑さの度合いが増し、個々のプレイヤーがすべてを自分で担うことは難しくなってきていると同氏は考えている。それは転じて、エコシステムに参加する各プレイヤーが、自分の得意分野を特化して追求していくことに注力できるということだ。

「必要なものは材料か、堆積技術か。その判断にはデバイスの専門知識が必要です。カップリング、包装、配線はどうするか。増幅器、低温工学、室温エレクトロニクス、そしてソフトウェアスタック全体をどのように配置するか。すべて自分たちで行う、というアプローチもとることはできます。いいでしょう。最初は、統合に向けあらゆることを自分たちで行う必要があります。しかし、時間の経過とともに、自分たちは同軸ケーブルの事業に参加すべきなのだろうか、というようなことになります」。

例えば同社はすでに、そうした状況に向けてQ-CTRLやQuantum Machinesとの協働を進めているという。

ギル氏は、2023年は業界の転換点となり、1121量子ビットマシンへの道はスタック全体の改善を推進していくと確信している。IBMが実施しようとしているパフォーマンス改善の中で最も重要であり、かつ野心的なのは、誤り率を現在の約1%から0.0001%近くに下げることだ。とはいえ、ほんの数年前に同社のマシンがどこにあったかの軌跡を見ると、その数字には説得力がある。

しかし、それは課題の一部にすぎない。「この技術がより豊かで洗練されたものになると、イノベーションスタックのあらゆる層が無限の広がりをみせます」とギル氏は指摘する。これは半導体業界に当てはまることであり、量子業界においてはさらにその様相を呈しているようだ。チップがより洗練されるにつれて、規模も大きくなる。つまり、IBMが現在開発中の10フィートの希釈冷蔵庫でも最大100万量子ビットの冷却を想定しており、将来的にはこれらのチャンバー間に相互接続を構築する必要があるという(1つのチャンバーを冷却するだけで14日近くかかると、適切な速度感をもった実験や反復がかなわない)。ギル氏のいう「量子イントラネット」を構築することは、決して簡単なことではないが、より大規模で相互接続されたマシンを構築するための鍵となるだろう。そして、それは発明が必要とされている多くの領域の1つにすぎず、これらのシステムが期待通りに機能するまでにはさらに10年の年月を要するかもしれない。

「私たちはこうした活動領域の追究を並行して推し進めています」とギル氏は続ける。「今から10年後にデバイスと機能が実現することを見据えて投資を行っています。問題を抱えたときに始めるのでは遅いのです」。

同社やその競合企業はハードウェアの構築に取り組んでいるが、量子コンピューティングのためのソフトウェアスタックの構築にも多くの課題がある。ギル氏がここで強調したのは、今こそ量子アルゴリズムや量子回路について考えるべき時だということだ。実際、同氏は開発者が量子ビットよりも回路に意識を向けることを望んでいる。

「開発者が関数を呼び出してクラウドに移行すると、水面下で何が起こるでしょうか。量子回路のライブラリができて、これらの回路には膨大な量のイノベーションと創造性、知的財産が生まれます」とギル氏は説明する。そして、それらの回路を適切な量子ハードウェアにマッピングする必要がある。実際、IBMのビジョンにおいて、量子プロセッサーは単一の種類のものではなく、様々なレイアウトとトポロジーを有しているようだ。

「私たちはすでに外部イニシアティブで1日あたり10億を超える量子回路を実行しています」とギル氏は語る。「将来的には、ソフトウェアアプリケーションに組み込まれたクラウド対応サービスを通じて、毎日何兆もの量子回路が量子ハードウェア上で稼働するようになるでしょう」。

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タグ:量子コンピューター IBM

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(翻訳:Dragonfly)

「あと5年でデスクトップ型量子コンピューターが登場する」と量子コンピューター企業CEOが発言

米国時間9月14日、TechCrunch Disrupt 2020で量子コンピューター系スタートアップのリーダー3名が、TechCrunchの編集者であるFrederic Lardinois(フレデリック・ラーディノイス)との座談会に出席し、量子コンピューター技術の将来について話し合った。そこでIonQ(アイオンキュー)のCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、現在からわずか5年でデスクトップ型の量子コンピューターを実現できると発言したが、この楽観的なタイムラインに他の参加者からの同意は得られなかった。

「今後数年以内、5年かそこらで(デスクトップ量子コンピューターを)見かけるようになります。私たちの目標はラックマウント式の量子コンピューターです」とチャップマン氏。

だがそれは、 D-Wave Systems(ディーウエイブ・システムズ)のCEOであるAlan Baratz(アラン・バラツ)氏にはやや楽観的に聞こえた。バラツ氏の企業が開発に取り組んでいる超伝導技術には、希釈冷凍機と呼ばれる特殊な大型の量子冷蔵ユニットが必要となるが、その点から見ても5年間でデスクトップ型にするというゴールは実現性が乏しいという。

Quantum Machines(クオンタム・マシンズ)のCEOであるItamar Sivan(イータマー・シバン)氏も、そうした技術を手にするまでには数多くのステップを踏む必要があり、実現には数多くの難関を越えなければならないと考えている。

「この挑戦は、決まった適切な素材を1つ見つければよいとか、特定の方程式を解けばよいといった性質のものではないのです。解決すべき問題は学際的なもので、まさにチャレンジなのです」とシバン氏。

チャップマン氏は、特殊な量子マシンが現れる可能性も想定している。例えばクラウドを通じて量子コンピューターに効率的なアクセスができない軍用機などに搭載されるものだ。

「クラウド内に組み込まれたシステムに依存できないのです。そうなれば、飛行機にそれを積むしかない。量子コンピューターを軍事利用するためには、辺境で使える量子コンピューターが必要になります」と彼は話す。

1つ指摘しておくが、IonQの量子コンピューターへのアプローチは、D-WavesやQuantum Machinesのものとは異なっている。

IonQでは、原子時計における先進的な技術がその量子コンピューター技術の中核となっている。Quantum Machinesは、量子プロセッサーの開発は行わず、そうしたマシンを制御するハードウェアとソフトウェアのレイヤーを開発している。それらは、従来型のコンピューターでは不可能なレベルに到達しつつある。

一方、D-Waveは「量子焼きなまし法」と呼ばれる方法を採用している。何千ものキュービットを生成できるが、その代償としてエラー率が高くなるというものだ。

今後数十年、技術がさらに進歩する過程で、これらの企業はみなパワフルなコンピューティングのスタート地点を顧客に提供することで、価値を提供できると考えている。そのパワーを制御すれば、昔ながらのコンピューティングという観念は一変する。しかしシバン氏は、そこに至るまでにたくさんのステップがあると語る。

「これは大変な挑戦です。しかも、量子コンピューティングのスタック内の各レイヤーごとに、そこに特化した高度に専門的なチームを必要とします」と彼は話す。その問題を解決する1つの方法として、こうした根本的問題のそれぞれを解決する幅広い協力関係の構築がある。今すぐ多くの人たちのために作ろうと決めたにしても、クラウド企業と協力しなければ、量子コンピューターは実現できない。

「この点において、2020年はとても興味深い提携関係がいくつか見られました。これは、量子コンピューターの実現に欠かせないものです。IonQとD-Wave、そしてその他の企業は、他の企業のクラウドサービスを通じて独自の量子コンピューターを提供するクラウドプロバイダーと提携しました」とシバン氏。彼の会社も、数週間以内に独自のパートナーシップを発表すると語っていた。

これら3つの企業の最終目標は、本当の量子パワーを発揮できる汎用量子コンピューターをいずれ完成させることだ。「私たちは、これまでのコンピューターではできなかったことを可能にするために、汎用量子コンピューターへの前進を続けることができ、また続けるべきなのです」とバラツ氏は話す。しかしバラツ氏も他の2人も、このゲームのラストに至る道程の、まだまだ序盤のステージにいるという認識は持ち合わせている。

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カテゴリー:ハードウェア

タグ:量子コンピューター IonQ D-Wave Systems Quantum Machines Disrupt 2020

画像クレジット:solarseven / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

Q-CTRLとQuantum Machinesが提携、量子コンピューティング開発を加速

Q-CTRLとQuantum Machines(カンタム・マシンズ)は量子制御分野で最もよく知られている2大スタートアップだ。米国時間9月9日、両社は新たな提携関係を結び、Quantum MachinesはQ-CTRLの量子ファームウェアを自社のハードウェア/ソフトウェアソリューションであるQuantum Orchestrationに統合すると発表した。

量子コンピューターの開発にはきわめて特殊な知識が必要なので、選り抜きのスタートアップ同士が協力するのは驚きではない。今回の提携はその典型例であり、今後このような提携が増えることが予想される。

「量子コンピューティングの魅力は、膨大なコンピューティングパワーであり、それを提供するべき量子コンピューターは存在してはいるが、まだ能力を引き出せていない。本格的な量子コンピューターはまだない」とQuantum Machinsの共同創業者兼CEOであるItamar Sivan(イタマール・シヴァン)氏は語る。

画像クレジット:Quantum Machines

これまで長い期間、プロセッサの開発、量子ビット(qubits)の寿命延長、古典的制御ハードウェア、ソフトウェアの開発といった基礎的な課題に焦点が当てられてきた。しかし、真の難題はこのすべてをまとめ上げることだ。

「これは多層的で多くの専門分野にまたがる非常に複雑な課題であり、量子コンピューターの夢を現実にするためには、高度に集中し高度に専門化された分野が密に協力して仕事をする必要がある」とシヴァン氏。

Quantum Machinesは、専用の従来型ハードウェアを使って複雑なアルゴリズムを量子コンピューターで動作させるQuantum Orchestrationというプラットフォームを通じて、統合されたソフトウェア、ハードウェアスタックを提供している。一方Q-CTRLが提供している量子制御基盤ソフトウェア(基本的に量子コンピューターのファームウェア)は、ユーザーがプロセッサーを較正してノイズやそのために起こるエラーを減らすために使用される。

シヴァン氏とQ-CTRLの創業者兼CEOのMichael J. Biercuk(マイケル・J・ビアクック)氏はしばらく前から知り合いだったことが役に立ったのは間違いない。。量子スタートアップの世界が広くないことを考えれば不思議ではないだろう。しかし、2つのテクノロジーは生来の補完関係にあることも事実だ。

「Quantum Machinesの作っていた量子コントローラーとパルスプロセッサー、およびQ-CTRLが作っていた量子制御ソリューションを使ってそれぞれのチームが解いていた問題に不思議なつながりがあることを我々は知っていた。そして、私には最近20年間この分野の学界にいた経験があり、私の学術研究チームは量子コンピューター・ハードウェアを作っている」とビアクック氏は。「こうした経験と、私がスタートアップを立ち上げようとした経緯から『すべてを自分で作ろうとするDIY方式と完全な垂直統合』という学界ではごく普通のやり方がこの世界では通用しないことはわかっていた」と続けた。

「この提携は自然な選択ではあったが、ここに至るためにはそれぞれのテクノロジーが成熟状態に達している必要があった」と両氏。提携は排他的なものでもなく、それはこの分野がまだまだ流動的であることを踏まえると十分理にかなっている。

画像クレジット:CIPhotos/ Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

米政府がAIと量子コンピューティングに1000億円超の投資を発表

ホワイトハウスは、これまでの公約をさらに発展させ、テクノロジーの最も有望な分野であるAIと量子コンピューティングに10億ドル約(1060億円)の投資を行うことを発表した。

昨年トランプ政権は、AIに関する大統領令を出し、この分野での米国の優位性をさらに強化する計画を宣言した。当時は具体的な支援額などをは明らかにされてなかったが、今年2月にトランプ政権は2022年までに20億ドル(2120億円)以上を非防衛AIと量子研究に投資するよう求めていた

トランプ政権の新しい取り組みは、連邦政府機関と連携した一連の学術・民間部門の研究開発ハブに資金を提供し、基礎的な問題に取り組み、量子コンピューティング、機械学習、コンピュータビジョンなどに分野にまたがって「変革的な進歩を追求する」としている。

大統領補佐官での米国の最高技術責任者(CTO)を務めるMichael Kratsios(マイケル・クラツィオス)氏は声明で「これらの研究機関を米国のイノベーションを加速し、21世紀の米国の労働力を構築するための世界クラスのハブ」と呼んでいる。

米国農務省(USDA)と提携している2つの研究機関を含む全米科学財団(NSF)傘下の5つのAI研究機関には、それぞれ2000万ドル(約21億円)が支給される。またAIセンターが新設され、コロラド大学、テキサス大学、オクラホマ大学、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大学デービス校、イリノイ大学の2つの異なるチームの既存の学術研究グループと連携する。

量子情報科学を専門とする5つの新しいエネルギー省関連センターは、5年間で新たに6億2500万ドル(約664億円)の資金提供を受ける。

米政府の今回の取り組みについて電話取材で米科学次官補のPaul Dabbar(ポール・ダバー)氏は「量子科学は米国の国益にとってAIよりもさらにインパクトのあるものであると証明できる可能性がある」と語り、「我々は、アポロ計画やヒトゲノム計画と同じくらいの成功を収めることができると確信している」と続ける。

DOE(米エネルギー省)の新しい量子センターは、ブルックヘブン、アルゴンヌ、フェルミ、ローレンス・バークレー、オークリッジの国立研究所に設置される。ダバー氏によると、DOEが割り当てた6億2500万ドルは民間企業の技術リーダーからの関心も集めているとのこと。パートナーの中には、マイクロソフトやインテルも含まれており、新しい研究所の設立を支援するためにスタッフと設備を提供しているとのことだ。

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(翻訳:TechCrunch Japan)

量子コンピューティングのRigettiが約83億円のシリーズCラウンドをクローズ

IBM(アイビーエム)やMicrosoft(マイクロソフト)、D-Wave(Dウェーブ)といった業界大手に挑む量子コンピューティングスタートアップのRigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)は米国時間8月4日、7900万ドル(約83億円)のシリーズC資金調達ラウンドをクローズしたと発表した。本ラウンドはBessemer Venture Partnersがリードし、Franklin Templeton、Alumni Ventures Group、DCVC、EDBI、Morpheus Ventures、Northgate Capitalが参加した。

BessemerのTomer Diari(トマー・ディアリ)氏、Veritas Softwareの前CEOのMark Leslie(マーク・リーズリー)氏がRigettiの役員会に加わる。

2020年初め、TechCrunchはRigettiが当時少なくとも7100万ドル(約75億円)の調達(未訳記事)を模索しておりダウンラウンドになるようだと報じた。Rigettiの広報担当は今回のラウンドでのバリュエーションについて詳細は明らかにしなかった。

「本ラウンドにより当社は量子のアドバンテージをマーケットに届けるという目標に一歩近づいた」とRigettiの創業者でCEOのChad Rigetti(チャド・リゲッティ)氏は述べた。「当社はスケーラブルで、エラーが修正される量子コンピューティングの構築にフォーカスしていて、クラウドを介した現行システムへの高パフォーマンスアクセスをサポートしている。実用的なアプリケーションのためにデザインされた特有のハイブリッドコンピューティングアクセスを提供する」。

Rigettiは現在、同社のマシーンへのアクセスのためにクラウドベースのサービスを提供している。また現在プレビュー中のAWSのBraketサービスを通じても提供している。Rigettiは最近、昔のコンピューターを上回る量子コンピューターを作るための860万ドル(約9億円)のDARPA(米国防高等研究計画局)賞を受賞した。

「ひと度、量子のアドバンテージが達成されると、量子コンピューティングが途方もなく価値あるものにならない分野はない」とFranklin Equity Groupの副社長でポートフォリオマネジャーのJonathan Curtis(ジョナサン・カーティス)氏は話した。「Rigettiは先端テクノロジー、素晴らしい専従チーム、そして重要な商業・政府・市場開拓の関係を備えていて、この重大な新興マーケットにおいて数少ないリーダーの1社だと確信している」。

量子コンピューティングは長い間多くの約束をしてきたが、過去数年は実際に前進している。さまざまな企業が現実世界のユースケースのほとんどにまだ十分に対応できないワーキングシステムを構築しているが、これは多くのことを約束している。Rigettiは、おそらく他社よりもそうだろうが、こうした現実世界のユースケースにフォーカスしてきた。

「我々が科学の境界をサイエンスフィクションの領域に押し込み続けるにつれ、量子コンピューティングは高パフォーマンスコンピューターにおけるパラダイムシフトを起こす」とディアリ氏は述べている。「量子テクノロジーは生物学、化学、ロジスティック、材料科学において目覚ましい発展を生み出す可能性を秘めている。Rigettiが生産レベルのシステムに向け、最もクリアな近道を提供すると我々は確信している」。

画像クレジット:Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

米国立科学財団が量子コンピュータ研究に約80億円を助成へ

量子サイエンスは実用化に向けて最近スタートを切ったばかりだが、すでに理論と応用の両面でいくつかの重要な達成が報告されている。もちろん基礎研究がきわめて重要であることに変わりはない。この観点からNSF(米国立科学財団)は量子サイエンスの進歩のために7500万ドル(80億円)の資金を3つのグループに投じることを決定(NSFプレスリリース)した。

NSFのSethuraman Panchanathan(セトラマン・パンチャナタン)理事長はプレスリリースで「NSFは量子サイエンスの発展のために組織されたコミュニティ、QLCI(Quantum Leap Challenge Institutes)を通じて資金を提供する。向こう5年間でこのコミュニティのメンバーはNSLを量子革命の時代に導くような明確な成果を挙げるものと確信している」と述べた。

資金提供は2500万ドル(約27億円)ずつに分割されるが、対象は個別組織ではなく多数の研究機関からなるコミュニティだ。これには16の大学、8つの国立研究所、22のパートナー組織が含まれている。

3口の資金援助はすべて量子サイエンスの理論、実用面での進歩の促進を目的とするが、それぞれ別個テーマを追求している。

  • 相関的量子状態によるセンサー及び情報利用研究機関(Institute for Enhanced Sensing and Distribution Using Correlated Quantum States)は量子サイエンスを利用して現在よりはるかに進歩したセンサーを開発し、科学のあらゆる基礎分野に貢献することを目標としている。コロラド大学がリーダーとなる。
  • ハイブリッド量子アーキテクチャ及びネットワーク研究機関(Institute for Hybrid Quantum Architectures and Networks)は比較的小数の量子ビット数の量子プロセッサをネットワーク化することにより新しい量子コンピュータを設計し実用化することをテーマとする。 イリノイ大学アーバナ・シャンペン校がリーダーとなる。
  • 現在および将来の量子コンピューティング研究機関(Institute for Present and Future Quantum Computing)は大規模かつ誤り耐性の高い現在よりさらに進歩した量子コンピューティングの実現を目指す。量子コンピュータの可能性に対して根強く向けられている疑念を一掃し、根本的な優秀性を実証するような新たなパラダイムの確立が目的9だ。 カリフォルニア大学バークレー校がリーダーとなる。

これらの組織は、基礎的研究の常として、科学を進歩させると同時に学部生、大学院生を研究者として育成できるような資金が確保できる活発な研究分野とすることを.望んでいる。

NSFは、これ以外にも量子コンピューティング分野における研究に対して小規模なプロジェクトであっても助成を行っている

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

量子コンピュータ対応の暗号化セキュリティ技術を擁するPQShieldが7.5億万円調達

量子コンピューターによって現在のサイバーセキュリティー技術の多くが使い物にならなくなる将来(未訳記事)のために、ハードウェア、ソフトウェア、通信システムの安全を守る暗号ソリューションの構築を目指すディープテックスタートアップが、米国時間7月8日に700万ドル(約7億5000万円)の資金を調達してステルスから姿を現した。同時に、量子コンピューティングが実用化された「ポスト量子暗号」の時代にも継続して利用できるシステムを構築することで、最も高度なシステムを持ってしてもハックできない暗号セキュリティを作り上げるという使命も公表した。

PQShield(ピーキューシールド、PQはポストクアンタムの略で「ポスト量子暗号」という意味)、はオックスフォード大学からスピンオフした企業だ。Kindred Capitalが主導するシード投資の支援を受けている。これにはCrane Venture Partners、Oxford Sciences Innovation、さらにドイツ銀行で株式取引グローバルヘッドを務めていたAndre Crawford-Brunt(アンドレ・クロフォード=ブラント)氏をはじめとするエンジェル投資家も複数参加している。

同社は2018年に創設されたが、身を潜めての企業活動には意味があった。このスタートアップは、学会や秘密機関を除いて、英国でも屈指の博士号を持つ暗号専門家を集め、学術機関や巨大テック企業と並んで、NISTサイバーセキュリティーフレームワークに最も貢献している団体のひとつだと主張している。そんな同社は、量子コンピューティングが現在使われている暗号化規格を瞬時にして無力化してしまうことを想定した新しい暗号化の規格を築こうとしている。

「そのスケールは莫大です」。オックスフォード大学数学研究所の研究フェローであり、Hewlett-Packard Labs(ヒューレット・パッカード研究所)の元エンジニアにしてPQShieldの創設者でCEOのAli El Kaafarani(アリ・エル・カーファラニ)博士は語る。「私たちは世界で初めて、公開鍵インフラを変更しようとしているのです」。

またカーファラニ氏によれば、同スタートアップには、ハードウェアやソフトウェアのサービスを構築する企業、機密情報を扱う通信システムを運営する企業、ハッキングで甚大な被害を被る恐れのある企業などを顧客にしているという。

その中には、名前は明かさないものの、金融系企業や政府機関も含まれている。最初のOEM供給先としてはBosh(ボッシュ)の名を挙げた。同氏はさらに「コミュニケーションとメッセージの大手サービス供給企業の少なくとも1社と、そのメッセージング・ネットワークにエンドツーエンドの暗号化を導入してセキュリティーを高めるための話し合いをしている」とインタビューで話していた。そのほかターゲットとする応用先には、自動車のキーレスシステム、IoT機器、クラウドサービスなどが考えられる。

PQShieldは、その市場の隙間を埋めようと考えている。最先端の暗号セキュリティーを開発する企業はすでに市場に溢れている。Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Hub Security(ハブ・セキュリティー)、Duality(デュアリティー)、そしてポスト量子暗号に焦点を当てているもう1つのスタートアップPost Quantum(ポスト・クアンタム)など数々あるが、心配されるのは、現在最もも進歩しているRSAやElliptic Curveといった暗号規格の解読に量子コンピューティングが使われてしまうという問題だ。

今までそれは、量子コンピューターが広く普及せず利用もされていなかった(未訳記事)ことから、さほど問題にはならなかった。しかし地平線の向こうには、いくつもの飛躍的進歩の兆候(未訳記事)が見え始めている。

カーファラニ氏は「そんな困難な状況にさまざまな使用事例を想定した、いくつもの枝を持つソリューションで初めて対処したのがPQShieldだ」と話す。ひとつには、現在の暗号規格を取り込み、彼らが考える次世代への移行経路を提示するというものがある。つまり、まだ量子コンピューターが商業的に実用化されていない今から商業的に展開でき、ポスト量子暗号時代の準備を整えておくということだ。

「現在暗号化されたものは、なんであれ収集できます。そして完全な量子コンピューター
が使えるようになったとき、それを使って、データや機密情報などを元に戻します」と同氏は説明する。

ハードウェアへの応用としては、同社はシステム・オン・チップ(SoC)ソリューションを開発した。これはハードウェアメーカーにライセンスされ、Boshが最初のOEM供給先となる。ソフトウェアへの応用としては、メッセージの安全を確保するSDKがある。これは、安全な信号から派生したプロトコルに基づく「ポスト量子暗号アルゴリズム」によって保護される。

「あらゆる応用の可能性を考え構築することが、PQShieldのアプローチの中核を成している」と同氏。「セキュリティーでは、エコシステム全体を把握することが重要です。コンポーネントのつながりこそがすべてだからです」。

テック業界には、新型コロナウイルスとそれに関連する問題の煽りを集中的に受けてしまった分野がある。その厳しい状況は、先が見えない世界経済への不安によって、さらに深刻化している。

一般に長期的な問題に取り組むことが多いディープテック企業は、今すぐに商業的な結果を出せないこともあり「特にいまの時期、ディープテックのスタートアップとして資金調達が難しかったのではないか」と私はカーファラニ氏に聞いた。

面白いことに彼は、それは当たらないと答えた。「私たちは、最初にディープテックに興味のあるベンチャー投資家に声をかけていたので、交渉は楽に進みました」と彼は言う。「私たちはセキュリティ企業であり、それが好調な分野だという事実もあります。すべてがデジタル化されるようになり、デジタルなつながりへの依存度が一層高まっています。私たちの役割は、デジタル世界をより安全にすることです。そこをよく理解してくれる人たちがいたため、この会社の重要性をわかってもらうのに、そう苦労はしませんでした」。

事実それは、Kindred CapitalのパートナーであるChrysanthos Chrysanthou(クリサンソス・クリサンソウ)氏の声明の中の「暗号と数学とエンジニアリングに最も詳しい人材を擁し、世界的に認められたソフトウェアとハードウェアのソリューションを誇るPQShieldは、この業界の先頭に立ち、企業の未来において最も深刻な脅威から事業を守るという独特な立場にあります」という主張と重なる。

「情報セキュリティーの新規格の確立に取り組み、量子コンピューティングの登場によるリスクを軽減しようとするこのチームを支援できることは、この上ない喜びです」とクリサンソウ氏は語る。

画像クレジット:ALFRED PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)