最近、Twitter(ツイッター)にアクセスしている人なら、赤い旗のミームが広まっているのを目にしたことがあるだろう。誰かに「レッドフラグ(危険、それはない)」と言われるようなフレーズを引用し、赤い旗の絵文字を大量に追加するというものだ。Twitter自身をはじめ、Dr.Pepper(ドクターペッパー)、MTV、NFLのHouston Texans(ヒューストン・テキサンズ)などのブランドもこれに同調している。
しかし、スクリーンリーダーやナレーション技術を使っている視覚障害者にとって、赤い旗のミームは意味をなさない。
「あのミームが出てくるたびに『triangular flag on a post(投稿上の三角旗)』とボイスオーバーが流れます」と
目の不自由なTwitch(ツイッチ)ゲーマーでアクセシビリティ推進者のSteve Saylor(スティーブ・セイラー)氏はいう。「これは絵文字の説明ではあるのですが、ミームの意味を損なっています。その意図には旗の色が関係していますから」。iPhoneのナレーション画面では、絵文字を1つずつ読むのではなく「投稿上の三角旗」の数を教えてくれるが、スクリーンリーダーの中には絵文字を1つ1つ読み上げるものもあり、スクロールダウンしない限り「投稿上の三角旗」を48回聞く必要がある。
「会話に含まれる感情や、誰かが投稿したことに反応できるという点で、ミームの存在はコミュニケーションにおいて非常に意義があります」と語るのは、テキサス大学オースティン校でアクセシビリティを研究するAmy Pavel(エイミー・パベル)助教授だ。「そのため、会話への参加を十分なものにするために、ミームの意味を理解することが重要になるのです」。
インドに拠点を置き、サービスが不十分な貧しいコミュニティにおける盲目や失明の問題に取り組む非営利団体Tej Kohli Foundation,(テジ・コーリ財団)は、10万件のツイートを分析し、絵文字がオンラインでどのように使われているかについて調査した。そのデータセットによると、絵文字を含むツイートの中で、10%が3つ以上重なる絵文字を含んでおり、40%は絵文字を反復している。特に「Face with tears of joy(喜びの涙を流す顔)」の絵文字は、使用されるうちの93%が反復表現になっている。同財団は推奨事項として、文の最後に絵文字を配置すること、単語の置き換えに絵文字を使用しないこと(「今日はとても」ではなく「今日はとてもよく晴れている」と表現)、そして3つ以上絵文字を重ねないことを提言している。
レッドフラグミームは先に、ミームアクセシビリティについての議論を巻き起こした。しかし、スクリーンリーダーを使う人々にとって厄介な存在であるにもかかわらず、ソーシャルメディア上でミームが広まったのはこれが初めてではない。
「拍手する手のミームは読むのにとても疲れます。それぞれの単語の後に手を叩く音声が流れますので、完全な文章が何であったかを正確に思い出すことが難しくなります」とパベル氏はTechCrunchに語った。同氏はまた「in this house(この家で)」ミームや「bunny holding a sign(看板を持つウサギ)」ミームなど、ASCIIアートから作られたミームだけでなく、一般的ではない文字を使って異なるフォントで書くことをシミュレートする社会的トレンドにも言及した。「すべての文字を読み上げ、その中にはキリル文字、ギリシャ文字、漢字などが含まれていますから、まったく意味をなさないように聞こえます」。
パベル氏が期待しているのは、研究者や開発者が人工知能と機械学習を活用し、デジタルコミュニケーションにおける一般的な傾向を特定して、ボイスオーバーでそれらを簡単に説明できるようにすることだ。例えば、単語間に手を叩く絵文字がある場合、スクリーンリーダーは各単語の間に「手を叩く絵文字」と発するのではなく、文章読み上げ後に絵文字が存在することを示す、などの方法が考えられる。しかしこの技術にはまだ長い道のりがあるため、その間にもアクセシビリティの専門家たちは、技術が追いつくのを待つのではなく、ミームをもっとアクセスしやすくする方法について人々に伝えていこうと取り組んでいる。
「私はミームの真意を十分理解しています。レッドフラッグについては特にそうです」とセイラー氏は話す。「誰かの創造性を抑圧したくはありません。『そのミームを使わないで欲しい』とは誰にも言いたくありません。ただ、より多くの人にミームを楽しんでもらいたいのであれば、スクリーンリーダー用の代替テキストを追加したり、ビデオにキャプションを付けたりするなど、そうしたことを必要としている人のアクセス性を高めることを考えて欲しいのです」。
絵文字ベースのミームやASCIIアートのミームの場合、回避策の1つとして、ミームのスクリーンショットを写真として投稿し、その写真を説明する代替テキストを追加することが挙げられる。Twitterでの代替テキストの追加は比較的簡単で、画像をアップロードした後、その画像の直下に置かれている機能の「説明を追加」ボタンをクリックすれば、ツイートを送信する前に代替テキストを挿入できる。しかしInstagramでは、画像を投稿する前に画面を下にスクロールし、小さな「詳細設定」ボタンをクリックする必要がある。それから「アクセシビリティ」までスクロールして「代替テキストを書く」というボタンをクリックし、画像の説明を追加する。
「デジタルマーケターやプロのコミュニケーターたちに必要な知識や教育が十分ではないと思います。問題の一端は、私たちがアクセシビリティについて把握していないということにあるのです」と、ソーシャルメディアマネージャーでアクセシビリティ推進派のAlexa Heinrich(アレクサ・ハインリッヒ)氏は述べている。「マーケターやコンテンツ制作者、そして日常的なユーザーがコンテンツを制作するとき、誰もが同じようにインターネットを体験するわけではないということを少しでも心に留めてくれることを望みます」。
ハインリッヒ氏とセイラー氏はTechCrunchに対し、Twitterはよりアクセスしやすいソーシャルメディアプラットフォームの1つだと考えていると述べたが、その水準は高いとは言えない(なぜかClubhouse[クラブハウス]にはまだライブキャプションが存在しない)。2020年の夏、Twitterは音声ツイート機能を試験的に導入したが、クリップにはキャプションがなく、耳の不自由なユーザーのツイートへのアクセスを妨げる結果となった。障害のある人たちがそのアクセシビリティ機能の展開における大きな手落ちについて指摘したとき、Twitterは専用のアクセシビリティチームを有していないことが明らかになった。その後、Twitterはアクセシビリティチームを立ち上げた。
「Twitterは間違いなく、アクセシビリティとプラットフォームに関する取り組みについて最も熱心で透明性の高いプラットフォームです。彼らはフィードバックを受け入れており、それは本当にすばらしいことだと思います」とハインリッヒ氏。それでも、Twitterはその後、アクセシビリティを妨げる主要なアップデートを発表している。「どのようにしてアクセシブルなコンテンツを作ることができるかについて、プラットフォーム自身が提携するブランドやマーケターをより良く教育する必要があります」と同氏は付け加えた。
アプリ研究者のJane Manchun Wong(ジェーン・マンチュン・ウォン)氏によると、Twitterは、ユーザーが代替テキストなしで画像を投稿しようとした場合に表示されるポップアップ通知をオプトインできる機能に取り組んでいるという。TwitterはTechCrunchに対し、この機能を開発中であり、年内には公開する予定であることを認めた。
画像クレジット:Spider-Man
しかし、ユーザーが代替テキストを追加する方法を知っていても、画像を説明する最善の方法を見つけるのは難しい場合がある。例えば、スパイダーマンが指を差しているミームは単純明快で、セイラー氏はそれを「まったく同じ2人のスパイダーマンがお互いを指している」と表現するだろうと述べている。しかし、銀河系の脳や蝶のミームのようなものはどのように描写できるだろうか?
「特にミームの場合、実際に重要なことは、対象とされるものが画像そのもののコンテキストにおいて何であるかということです。写真やアニメーションGIFのように、さらに複雑なものも存在します」とセイラー氏。「ただし、写真に写っているものすべてを説明する必要はありません。要点を伝えるのに十分な情報だけです。多くの場合、その余分な情報はまったく不要なものになります。対象が何であるか、前景にあるものは何か、その写真のコンテキストは何か、あるいはなぜその写真を投稿するのかを説明してくれたら、私たちは簡潔に要点を把握できます。そうすれば、写真全体を説明する1000文字もの言葉に耳を傾けることなく、スクリーンリーダーが伝える画像の内容を理解できるようになるのです」。
スパイダーマンが指を差しているミームについてセイラ―氏が説明したとき、スパイダーマンは青い床の上に立っていて、その背景にはニューヨーク市警のトラックがあり、赤い壁の隣にはドアが開いていて、木製の箱がいくつかあると言っていないのはそういう理由からだ。ミームを理解するのにこれらの詳細は必要ないのである。
しかし、アクセシビリティは画一的なものではなく、すべての障害が同様であるとは言えない。障害が同じ人でも、インターネットをどのように体験したいかについての嗜好は違ってくるだろう。
「障害は本当に個人的な経験ですので、特にアクセシビリティに関して、自分が何を望んでいるかは、各ユーザーが一番よくわかっていると思います」とパベル氏は話している。
2020年10月、パベル氏は「Making GIFs Accessible(GIFをアクセシブルにする)」という論文を発表した。同氏は研究の中で、参加者にアニメーションGIFを体験する複数の方法を提供し、どの方法を好むかについて調査した。その年にTwitterはGIFの代替テキストを追加している。
「GIFは多くの場合、音声を持つ既存のメディアから取られているので、かなり興味深いものがあります。例えば『The Office(ジ・オフィス)』のMichael(マイケル)が『ノー、ノー、ノー』と叫び、それが次第に長く大きくなっていくのはおもしろいですよね」とパベル氏。同氏の実験では、代替テキストの1つのバージョンが、画像の代替テキストを記述するのと同じ方法でアニメーションを簡潔に説明した。別のイテレーションでは「The Office」の音声をそのまま文字化した。3つ目のオプションでは、ボイスオーバーで「The Office」のMichaelのGIFであることを説明した後に「ノー、ノー、ノー」と叫ぶ文字化された音声を再生した。
「私たちに返ってきた主な感想は『確かにこうしたものはすべて必要だが、そこにあるものを常に選ばなければならないというのは望ましくない』というものでした」とパベル氏は語る。「スクリーンリーダーをカスタマイズするオプションをユーザーに提供することが重要であると考えています。GIFに対する関心の度合いに応じて、設定を変更したいと思うこともあるでしょう」。
当面の間、コンテンツをよりアクセスしやすくするための最も迅速な方法として、一般の人々が自分自身の投稿方法を改善する必要があると専門家たちは述べている。
「人々は『それはそんなに多くのエンゲージメントを得ることになるのか?』という議論を求めているようです」とハインリッヒ氏。「ですが、私の答えとしては、それは気にしていない、というものになります。アクセスできなければ、それが私の気にすることです。私が気にかけているのは人であって、数字ではありません」。
画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch
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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)