AllSpiceの創業者、カイル・デュモン氏とヴァレンティナ・ラトナー氏(画像クレジット:Harvard Innovation Labs)
AllSpice(オールスパイス)はハードウェア開発のためのコラボレーションハブだ。GitHub(ギットハブ)に触発され、DevOpsエコシステムを構築することを使命として、プライベートベータ版から登場した。
創業者のValentina Ratner(ヴァレンティナ・ラトナー)氏とKyle Dumont(カイル・デュモン)氏は、2019年にハーバード大学で出会い、2人とも工学修士とMBAの両方を取得した。2人は、物事を進めるのにPDFや電子メールに頼るという、ソフトウェア開発に比べて遅れているハードウェア業界でのそれぞれの仕事に対するフラストレーションで意気投合した。
「ソフトウェア業界は強力なコラボレーションと自動化を備えている優れた開発者ツールで一斉にスタートしているように感じていました」とデュモン氏はTechCrunchに語った。「私がヴァレンティナに会ったとき、私たちはどのようにこの業界を修正することができるか、市場の規模にどのような影響を与えることができるか、アイデアを出し始めました」。
未だに手作業で行われているタスクが多く、エンジニアは書類作成やスプレッドシートにかなりの時間を費やしているため、エンジニアがハードウェア製品の設計や構築に大半の時間を割けるようにすることが、AllSpiceの背景にある考え方だとラトナー氏は話した。
AllSpiceのデザインレビュー機能(画像クレジット:AllSpice)
リモートワークや近年のチップ不足を背景に、AllSpiceや他の企業は「ハードウェアのためのGitHub」が必要だと考えている。リモートでほとんど何でも作ることを可能にするコラボレーションツールを作っているWikifactory(ウィキファクトリー)は、2020年末に300万ドル(約3億5000万円)の資金調達を発表した。2021年10月に1200万ドル(約13億8000万円)を調達したFlux(フラックス)は、ブラウザベースのハードウェア設計ツールを開発中だ。
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AllSpiceのツールで、エンジニアリング専門の人は自分のプロジェクトを管理し、チーム内の関係者と共同作業ができるようになる、とデュモン氏は話す。AllSpiceは、GitHub、GitLab(ギットラボ)、Bitbucket(ビットバケット)などのツールと互換性があり、ハードウェアチームが修正、レビュー、リリースを1カ所で管理するための一種のホームベースとして機能する。
AllSpiceは2020年にプレシードラウンドを調達した。そして、Bowery CapitalとRoot Venturesが共同でリードし、Flybridgeとエンジェル投資家が参加した320万ドル(約3億7000万円)のシードラウンドをこのほどクローズした。累計調達額は380万ドル(約4億4000万円)となった。
2021年は、数百の企業向けユーザーコメント、30以上のプロジェクト、数百のプロジェクトリポジトリが作成され「信じられないような採用」があったとラトナー氏は述べた。この勢いを維持するために、新しい資本は継続的なインテグレーションとデリバリーのためのエンジニアリングとマーケティングの新規雇用に投入される予定だ。
「私たちは、開発者主導のアプローチをとっています。これは、ソフトウェア業界ではしばらく前からしっかりと確立されていることですが、ハードウェア業界では、まだかなり営業が強いのです。業界に追いついていない販売手法もあるため、私たちはまずエンジニアに役立つ製品を提供することを心がけています」。
AllSpiceはツールに依存しない。幅広い企業にアピールできるよう、統合のための別のCADツールをもたらし、そしてより多くのものがデジタルで非同期であることから、環境の変化にハードウェアチームが迅速に対応できるようにする、というのがAllSpiceの計画だとラトナー氏とデュモン氏は話す。
一方、Bowery CapitalのゼネラルパートナーであるLoren Straub(ローレン・ストラアブ)氏は、AllSpiceを紹介されたとき、同社は製品主導の成長アプローチに注目していたと述べた。ストラアブ氏が最もよく目にしたものは、サプライチェーン、製造、オートメーションと関係があり、ハードウェアも含まれていた。
ストラアブ氏は、創業者たちがソフトウェアとハードウェアのエンジニアリングの経験を持ち、ハードウェア開発がいかに困難で時代に遅れを取っているかを目の当たりにし、それを経験していたことに魅力を感じたという。
「事前調査を進めていくなかで、今まで見たこともないようなフラストレーションが溜まっているのを目にしました。人々は、そのエクスペリエンスがいかにクリエイティブな体験であるかを聞いて、いくつかのソフトウェアツールに自分達のワークフローを無理やり取り込もうとしたが、うまくいかなかった、とさえ言っていました」と付け加えた。「ヴァレンティーナとカイルは、ハードウェアのために適切なツールが作られれば、どれだけ良くなるかを深く理解していたのです」。
「VCになる前、私は10年以上ハードウェアエンジニアリングに携わっていました」と、Root Venturesのパートナー、Chrissy Meyer(クリッシー・メイヤー)氏は電子メールで述べた。「Appleのような大企業がスタートアップと共通していたのは、スクリーンショットを使ってデザインレビューをまだ行っていたことです。ハードウェアエンジニアがGitHubやJIRAのようなソフトウェアツールを寄せ集めるのを見たことがありますが、それらのツールはコードのために作られたもので、CADのためのものではありません。ヴァレンティーナとカイルに初めて会ったとき、私はすぐさま興奮しました。というのも、あったらいいなと私がいつも思っていたツール を彼らが説明してくれたからです」。
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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi)