新しいレーシングカーのためにF1がデータを収集した方法とは

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。

こんにちは!立ち寄っていただいたことに感謝したい。今日は材料がてんこ盛りだ。資金調達ラウンドのダイジェストや、スタートアップ市場のデータ(DocSend[ドックセンド]に感謝する)などをお届けする。だが、最初は個人的に大好きなものから始めよう。レースだ。

The Exchangeは、テクノロジーマネーがF1の世界に流れ込むことに関する、さまざまなジョークを飛ばしてきた。Splunk(スプランク)、Webex(ウェベックス)、Microsoft(マイクロソフト)、Zoom(ズーム)、Oracle(オラクル)というた企業が、チームやレース、そしてリーグそのものを後援している。

F1のパートナーとして注目されているのがAmazon(アマゾン)だ。例えば同社のパブリッククラウドプロジェクトのAWS(アマゾン・ウェブサービス)は、F1中継の画面上に現れるグラフィックを動作させている。もちろん、ファンの目からはAWSグループの計算機クラスターがどのようにして特定の指標を出しているのかが正確にはわからないこともあるが、AWSによるタイヤの摩耗に関するメモは有用でタイムリーなものだ。

しかし、F1の世界の舞台裏では、Amazonがこれまで私が理解していた以上に活躍していたことがわかった。要するに、これまで述べてきたテクノロジー企業とF1のお金の話は、大きなパズルの一部に過ぎなかったのだ。それはどのようなものなのだろう?実はF1の新しい2022年型マシンの設計過程で、AWSが重要な役割を果たしていたことがわかったのだ。

マシンはこんな感じだ。

画像クレジット:フォーミュラ・ワン

なかなかいいんじゃない?

なぜこんなにスラリとした形状なのか気になっていると思う。その答えは、この車両が非常に特殊な空力目標を持って設計されているからだ。例えばF1マシンの後ろに流れる空気の影響で、後続車のコースどりが難しくなる「ダーティエア」現象を減らすことなどだ。

現在のF1マシンは、現行世代のF1ハードウェアとしては最後のシーズンを迎えているが、大量のダーティエアを発生させている(頑張れランド!)。そのため、大切なダウンフォースを失うことを恐れて、コース上のクルマ同士が近づくことができないという、少々厄介なレースになっている。ご存知のようにダウンフォースは、クルマが壁にぶつからずコース上に留まることを助ける。

F1が次の時代の競争で求めていた、ダーティエアを削減しよりクルマ同士が接近したレースを可能にするベースカーを設計するためには、CFD(Computational Fluid Dynamics、計算流体力学)に多くのコンピューターパワーが投入されなければならなかった。そのとき、AWSがF1のコンピューティングニーズに対応していることがわかったのだ。

今回、初めてAmazon Chime(アマゾン・チャイム、Amazonのウェブ会議システム)を利用して、F1のデータシステム担当ディレクターであるRob Smedley(ロブ・スメドレー)氏とこうした統合について話をすることができた。元フェラーリとウィリアムズのエンジニアだったスメドレー氏によれば、F1とAmazonは2018年から新型車のプロジェクトを進めているそうだ。F1には自社の問題を解決するための多くの頭脳が集まっており、一方Amazonはトリッキーな計算をするために大量のコアを提供した。

スメドレー氏によると、もし彼のチームが、個別のF1チームに許されているものと同じコンピューティングパワーを使っていたとしたら、2台の車が前後を走る新しいモデルを計算するのに1回あたり4日かかっていただろうという(なにしろF1レースというスポーツには、チームをある程度平等にするための、あるいはメルセデスの足を引っ張るための規制がたくさんあるのだ)。

しかし、Amazonが2500個の計算コアを提供したことで、スメドレー氏とF1のデータ科学者たちは、同じ作業を6時間または8時間で終わらせることができた。つまり、F1グループはより多くのシミュレーションを行い、より良いクルマを設計することができるのだ。時にはより多くの計算パワーを使用することもある。スメドレー氏は2020年のある時点で、彼のチームが十数種類の繰り返しシミュレーションを同時に実行したこともあるとThe Exchangeに対して語っている。これを可能にしたのは、約7500個のコアによるデータ処理だ。このシミュレーションの実行には30時間かかった。

つまり、F1にはテック系の資金が多く投入されていて、各チームが仕事をすることを助けて、財政的に余裕がある状態にさせていることは事実だが、しかし、F1の本質的な部分にも多くの技術が投入されているのだ。また、F1オタクの私にとって、自分の好きなことが仕事に結びつくのはとてもうれしいことだ。

さて、いつもの話題に戻ろう。

中西部の最新ユニコーン

M1 Finance(M1ファイナンス)は、私の取材活動の中に何度も登場する会社だ。その大きな理由は、彼らがずっと資金を調達し、新しいパフォーマンス指標を発表し続けているからだ。今週、同社は1億5000万ドル(約165億円)のラウンドを実施し、評価額は14億5000万ドル(約1595億7000万円)に達した。この消費者向けフィンテックスーパーアプリの最新の資金調達ラウンドは、ソフトバンクのVision Fund 2が主導した。

関連記事:フィンテックM1 Financeがソフトバンク主導のシリーズEラウンドでユニコーンに

さて、なぜ私たちがこの会社気にするのか?M1の超おもしろい点は、同社の収益の成長を時間軸に沿って追跡する方法を教えてくれたことだ。私がこのスタートアップを取材しはじめた頃、同社のCEOは、運用資産(AUM)の約1%程度の収益を挙げたいと語っていた。つまり、AUMの増加を追跡することで、会社の収益成長を追跡することができるのだ。

そして、同社はAUMの数字を発表し続けている(世の広報担当のみなさん、長期的なデータを提供することは、私たちにスタートアップへの興味を持たせ続けるためのすばらしい方法なのだ!)

M1のAUMを時系列で見てみよう。

1%の目標値で換算すると、年間収益はそれぞれ1450万ドル(約15億6000万円)、2000万ドル(約22億円)、3500万ドル(約38億5000万円)、4500万ドル(約49億6000万円)となる。言い換えれば、2020年6月から実質的に収益が3倍になっている。これはとても良い数字で、投資家が支持したいと思うような成長だ。それが今回のラウンドとなり、そして、M1の新しいユニコーン価格となった。

Truveta

Truveta(トゥルベータ)を覚えているだろうか? 以前、同社が計画を発表したときに、記事を書いている。Microsoft(マイクロソフト)の元幹部であるTerry Myerson(テリー・マイヤーソン)氏がチームの一員であり、私もかつてMicrosoftの取材を生業としていたため、このスタートアップには初期の頃から注目していた。Truvetaは「医療機関から大量のデータを収集し、それを匿名化して集計し、第三者が研究に利用できるようにしたい」と考えていることを、前回お伝えした。

今週、このスタートアップは、新しいパートナーシップと9500万ドル(約104億5000万円)の資金調達を発表した。これはかなり大きな調達額だ!このスタートアップは現在、17のパートナーヘルスグループを抱えている。

多くのデータを1カ所に集めることで、医療の世界をより良く、より公平にすることを目指している。そして今、その目標を達成するために大金を手に入れたのだ。この先何ができるあがるのかを見ていこう。

関連記事:データは米国の不公平なヘルスケア問題を解決できるだろうか?

その他の重要なこと

文字数を適度に抑えて編集の手間を減らしたために、他の記事では紹介しきれなかった重要なものを紹介しよう。

Cambridge Savings Bank(CSB、ケンブリッジ・セービング・バンク)がフィンテックに参入:Goldman(ゴールドマン)が一般庶民向けのデジタル銀行Marcus(マーカス)を立ち上げたことを覚えているだろうか?同じこと狙うのは1社だけではない。今回はCSBが独自のデジタル・ファースト銀行のIvy(アイビー)を構築しローンチを行った。率直に言って、長い営業の歴史と、古典的な技術スタックとサービス群を持つ銀行から始めるというアイデアを私は気に入っている。そして、そのすぐ隣にもっとモダンなものを建てるのだ。古い銀行そのものに新しい技術を習得させるよりも、その方が良い解決策となるだろう。また、多くの銀行がこのようなことをすれば、ある程度ネオバンクの勢いを削ぐこともできるだろう。だよね?

Code-X(コードX)が500万ドル(約5億5000万円)を調達、評価額を公表しても大騒ぎにはならないことを証明:「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」を構築したフロリダのスタートアップ、Code-Xが、最新の増資により4000万ドル(約44億円)の価値を持つことになった。いや「ラティスベースのデータ保護プラットフォーム」が何であるかは知らない。しかし、Code-Xがアーリーステージ ラウンドの一環として評価額を発表したことは知っている。それは拍手喝采に値する。よくやった、Code-X。

最後にDocSendのデータ:その名の通り「文書を送る」同社が今週新しいデータを発表したので、ご紹介しよう。以下がその主たる内容だ。

DocSendのStartup Index(スタートアップインデックス)中の2021年第2四半期のデータによると、スタートアップのピッチ資料に対する投資家の関心とエンゲージメント(需要の代名詞だ)は、前年同期比で41%増加している。一方積極的に資金調達を行っているファウンダーが作成したピッチ資料へのリンク(供給の指標だ)は、2021年第2四半期に前年同期比で36%増加している。

なぜこれがおもしろいのかって?需要が供給を上回っているからだ!あははっ!それがすべてを物語っているような気がする。

ここ数週間、ベンチャー企業の第2四半期決算を調べてきたが、どうにも簡潔にまとめることができなかった。なぜスタートアップの評価額が上がっているのか?なぜ スタートアップ企業はより多くの資金を、より早く調達しているのか?なぜなら、ベンチャーの後援対象となる企業たちに対して、投資家の需要が供給をはるかに上回っているからだ。

それが2021年だ。

きょうのみなさんは素晴らしく、楽しそうで、とてもすてきだ!

来週は、バッテリーに特化した2つのSPAC、つまりEvonix(エボニックス)とSESについてご紹介する。バッテリー技術、エネルギー密度、そして未来について、多くのことを語ることができるだろう。そして、もちろんお金についても。

ではまた。

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画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

インドがMastercardに新規顧客の受付停止を命令、データ保存規則違反で

インド準備銀行(RBI)は、インドのデータ保存規則を遵守しなかったとして、Mastercard(マスターカード)の同国でのデビットカード、クレジットカード、プリペイドカード新規発行を無期限に禁止した。

禁止措置は7月22日に発効する。「かなりの時間と十分な機会が与えられたにもかかわらず、MastercardはStorage of Payment System Data(決済システムデータの保存)に関する規則を遵守しませんでした」とRBIは現地時間7月14日付の声明で述べた。

RBIによると、禁止措置はMastercardの既存顧客には影響しない。Mastercardはインドにおけるカード発行会社上位3社の1社だ。「Mastercardはカードを発行するすべての銀行とノンバンクにこれらの指示に従うよう通知することになります」。

インドのデータ保存規則を遵守しなかったために同国の中央銀行が企業に罰則を科すのはこれが初めてではない。データ保存規則は2018年に発表され、6カ月以内の遵守を義務化した。この規則では、すべてのインドでの決済データを同国内のサーバーに保存することを決済企業に求めている。

4月にRBIはこの規則に違反したとして、American Express(アメリカン・エキスプレス)とDiners Club(ダイナースクラブ)の新規顧客受付を禁じた

Visa(ビザ)、Mastercard、他のいくつかの企業、そして米政府は以前、この規則は当局に「自由な監督アクセス」を与えるためのものだと主張し、インド政府に再考を要請した。

Visa、Mastercard、American Expressは規則の大幅変更か完全撤廃を求めてロビー活動も展開してきた。

関連記事:インド中央銀行がデータ保存規則違反でアメックスに対し新規顧客の追加を制限

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画像クレジット:Roberto Machado Noa / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

ニューススタンドのコンセプトを取り入れた職場用アメニティでオフィス勤務に戻るモチベーションを高めるNew Stand

今後数カ月の間でオフィスに戻ってくる人が増えていくにつれて、企業は快適で魅力的な環境を確保するために、これまで以上に努力しなければならなくなるだろう。

居心地の良い自宅を離れ、快適なトップスとスウェットパンツで会議を行う利便性から遠ざかりつつある幾多の会社員たち。その憂いを和らげようとしているある企業が、目標達成のための新たな資金調達を行った。

ニューヨークに拠点を置くNew Standは、米国最大級の商業不動産所有者であるBrookfield Property Groupが主導するシリーズBラウンドで4000万ドル(約43億8000万円)を調達したと発表した。既存の支援者であるMaywic、Fantail Ventures、Raga Partnersも今回の資金調達に参加しており、これで2015年の設立以来の同社の調達総額は5600万ドル(約61億3000万円)強となった。

New Standが提供するのは「ニューススタンド」のコンセプトを巧みに取り入れたものだ。このスタートアップは、オフィスロビーからオフィスビル内の会社のフロア、ホテル、大学のキャンパス、空港に至るまで、あらゆる場所に設置できるモダンな外観のスマートな販売物理空間を構築した。最初の設置場所は、ニューヨークの地下鉄ユニオン・スクエア駅だった。New Standはこの物理的なプレゼンスに、ベーシックアイテム(スナック、書籍、傘や鎮痛剤といったパーソナルケア品など)を入手する際の利便性と「ロケーションベースのメディア」へのアクセスを提供するアプリを結び付けている。

それに加えて、New Standは企業と提携し、楽しさに溢れた、人を魅了するかたちで社内に新しい風を吹かせる手段として、自社のプラットフォームを提供したいと考えている。職場用のアメニティ「New Stand at Work」をローンチした同社は、オフィス業界に大きな一歩を踏み出そうとしている。

こうしたことから、全米最大の商業家主の1つであるBrookfieldが、テナントと従業員をより幸せにすることに繋がるような志を有する会社を支援したいと考えたのも驚くことではないだろう。

TechCrunchは、New Standの共同創設者でCEOのAndrew Deitchman(アンドリュー・ディッチマン)氏に新たな資金調達と資金計画について話を聞いた。同氏はNew Standについて、人々の日々の生活をより簡単に、より魅力的なものにすることを目的とする「毎日を向上させる会社」だと熱心に語っている。

「人々が必要とするベーシックなものを確保するだけではなく、人々が欲しいと思うものをキュレートすることで、その理念を実践しています」と同氏は続けた。「当社では、コンビニのような小さなショップやタッチポイントを、コンテンツを紹介するアプリと組み合わせています。他のインタラクションを通してポイントを蓄積したり、特典を享受することも可能です」。

「このように、New Standは実際、メディアとテクノロジーの会社を築いています。利便性の高いポイントを人々の生活にアクセスする手段として活用しながら、人々の毎日を少しずつ良くしているのです」とディッチマン氏は付け加えた。

New Standは、消費者向けビジネスから企業向けビジネスへの進化を図っている。

「私たちは基本的なニーズの対応に留まることなく、人々をより深い関係に引き込むこともできます」とディッチマン氏は語る。「雇用主が従業員と関わりを持ちたいと考えている場合、または家主がテナントとの関係をより良くしたいと考えている場合は、その実現を支援できます」。

同社は今回調達した資金を、主に新しいスペースやオフィスなどへの拡大に充てる計画だ。現在、約20カ所に展開している。

New Standはまた「人を魅了する新たなサービスとフォーマット」を作り「その流通を拡大し、密度を高めていく」ことも計画している。

Brookfield Propertiesは今回の出資を機に、New Standのオファリングを通じてニューヨーク、そして最終的にはその他の地域でも同社の不動産を「さらに活性化」する計画だと述べている。

Brookfieldの不動産グループの米国オフィス責任者でマネージングパートナーのBen Brown(ベン・ブラウン)氏によると、Brookfieldはすでにこの投資の前に、フラッグシップ物件であるBrookfield Place New Yorkで、テナント向けのアメニティとして、また従業員用のオフィススペースとしてNew Standと提携していたという。

「両方の面で、New Standは目に見えるメリットを提供し、エクスペリエンスを向上させました」と同氏はTechCrunchに語った。「米国および世界で最大規模とは言わないまでも、その1つに数えられる商業不動産所有者として私たちは、自分たち自身が利用する企業へ投資することに特別な関心を抱いており、そこに価値を見いだしています。時間の経過とともに、規模を拡大することができるでしょう」。

ブラウン氏によると、New Standが提供する物理的資産とメディアプラットフォームの組み合わせにより、Brookfieldは自社の従業員だけでなくテナントの従業員とのエンゲージメントも高める機会を得たという。

「世界をリードする企業が従業員を惹きつけ、維持し、モチベーションを高めるのを支援することは、これまでも長きにわたって私たちの大切な仕事の1つでした。企業がオフィスを自宅よりも魅力的なものにしたいと考えるようになってきた今日、その重要性はさらに強まっています」と同氏は言い添えた。

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タグ:New Stand資金調達オフィス

画像クレジット:New Stand

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

イーロン・マスク氏がSolarCity買収に関する訴訟で買収の正当性を主張

Elon Musk(イーロン・マスク)氏は米国時間7月12日朝、2016年の26億ドル(約2870億円)でのTesla(テスラ)によるSolarCity(ソーラーシティ)買収をめぐる訴訟で証言した。訴訟では株主のグループが、買収は業績が悪化していたSolarCityの「救済措置」だったと主張している。株主たちはSolarCity買収費用のTeslaへの返済を模索している。

2017年にデラウェア地方裁判所に提出された訴状では、SolarCityが買収当時、破産に近い状態だったと主張している。SolarCityの取締役会長で最大株主だったマスク氏は買収の恩恵を直接受け、同氏の一部の友人や家族も同様だったとも申し立てている。SolarCityの創業者のLyndon Rive(リンドン・ライブ)氏とPeter Rive(ピーター・ライブ)氏はマスク氏のいとこだ。

SolarCityは「一貫して利益を上げるのに失敗し、増大する債務を抱え、持続不可能なレートで現金を使った」と原告は主張している。訴状にはまた、SolarCityが10年で30億ドル(約3310億円)超の借金を抱え、その半分近くの返済期限が2017年末だったともある。Teslaによる買収は株主の85%が賛成して承認された。

マスク氏の弁護士は、買収はTeslaを輸送・エネルギー会社へと変えるCEOの長期的なビジョンの一部だったと話す。買収クロージングの頃にTeslaのウェブサイトに掲載された「Master Plan、Part Deux」というタイトルのブログ投稿の中で、マスク氏はSolarCityとTeslaの合体は、Powerwall(Teslaの家庭・産業用蓄電プロダクト)と屋根設置型ソーラーパネルを組み合わせたビジョンを実現するための鍵だと述べている。

カウアイ島のソーラーストレージ施設立ち上げで出席者による調査を受けるModel X。Teslaは2016年11月にSolarCityを買収した。

ワシントンポスト紙のWill Oremus(ウィル・オレマス)氏が法廷の外からツイートしたところによると、7月12日の証言の中でマスク氏はTeslaがModel 3の生産期限に間に合わせるためにソーラー事業からフォーカスをシフトせざるを得なかった、と述べた。USA Todayの記者Isabel Hughes(イザベル・ヒューズ)氏も、マスク氏が同社のソーラー事業部門の業績不振をパンデミックのせいにした、と法廷からツイートした。マスク氏は原告団の弁護士Randall Baron(ランドオール・バロン)氏の質問を受けた。バロン氏は2019年の宣誓証言でマスク氏を「恥ずべき人」と呼んだ人物だ。

マスク氏の弁護士は、同氏が買収に関する幅広い議論と交渉に関与していなかったと話すが、原告側は不関与が「表面的」だったと主張している。この訴訟の最大の疑問は、マスク氏が買収取引に過度の影響を及ぼしたかどうか、そしてマスク氏や他の役員メンバーが取引に関する情報を株主から隠したかどうかだ。

訴状に名前が挙がっている他の役員メンバー、Robyn Denholm(ロビン・デンホルム)氏、Ira Ehrenpreis(アイラ・エーレンプレイス)氏、Antonio Gracias(アントニオ・グラシアス)氏、Kimbal Musk(キンバル・マスク)氏、Stephen Jurvetson(スティーブン・ジャーベンソン)氏は2020年6000万ドル(約66億円)、そして弁護士費用と訴訟費用の1680万ドル(約19億円)を保険で支払うことで和解した。マスク氏が唯一の被告となった裁判は新型コロナウイルスパンデミックのために1年延期されていた。

裁判は10日間続く見込みだ。審理が行われているデラウェア地方裁判所は陪審員がおらず、代わりに裁判官副長官のJoseph Slights III(ジョセフ・スライツ3世)氏が審理を行う。スライツ氏が買収は不適切だったと判断しても、Teslaが当時SolarCityに払った26億ドルよりかなり少ない額を支払うようマスク氏に命じる可能性がある。

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タグ:イーロン・マスクTeslaSolarCity買収裁判

画像クレジット:Yichuan Cao/NurPhoto / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】テックコミュニティにおけるメンタルヘルスの偏見をなくすために

編集部注:本稿の著者Nigel Morris(ナイジェル・モリス)氏はQED Investorsの共同ファウンダーでマネージングパートナー。

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アントレプレナーシップ(起業家精神)への道のりは決して容易ではない。そのプロセスは、ストレスが多く、とてつもない規模の精力的行動、リスクテイク、そして不確実性の中で前進していくことが求められる。犠牲は計り知れないものがあり、時には精神面における健康を代償にすることもある。

創業者たちは、リソースが不足していて、過度にコミットしている状況に陥ることも多い。夢を追い求めることは心躍る魅力的な体験である一方、従業員、投資家、顧客に対する責任の重さに圧倒されることもあるだろう。

この問題をさらに複雑にしているのは、多くの創業者たちが「失敗者」と見なされたり、仕事をする能力がないと思われたりすることを恐れて、最も近しい人たちに自分がどのように感じているかを明らかにしたがらないことだ。会社経営にともなう要求事項や重圧のために、創業者が依存症や薬物乱用に苦しんでしまうことを少しの間想像してみて欲しい。そして、投資家にそうした状況を明らかにしなければならないことにより、その心配と不安が一層増してしまうことを考えてみよう。

精神科医で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の教授を務め、CEO職の経験を持つMichael Freeman(マイケル・フリーマン)氏は、起業家の間の、心の健康状態に関する罹患率と特性について調査を行った。

創業者は、人口統計的に適合した比較対象と比べて、うつ病にかかる可能性が2倍、ADHD(注意欠陥多動性障害)を患う可能性が6倍、薬物乱用に陥る可能性が3倍、自殺念慮に至る可能性が2倍高くなっている。

創業者は、人口統計的に適合した比較対象と比べて、うつ病にかかる可能性が2倍、ADHD(注意欠陥多動性障害)を患う可能性が6倍、薬物乱用に陥る可能性が3倍、自殺念慮に至る可能性が2倍高くなっているとフリーマン氏は結論づけている。起業家はメンタルヘルスの問題を抱えている可能性が50%高くなっており、創業者の間で驚くほど蔓延している特定の状況があることが、同氏の調査で明らかになった。

この統計には目を見張るものがあるが、実際に目に見えるインパクトは、真に衝撃的なものになる可能性がある。

私は、腕や肩に痛みがあるときには、仕事に出向いてそのことについて弱音を漏らすこともある。しかし、昨晩眠れなかったり、外出を不安に感じたり、あるいは睡眠薬を飲みすぎたり、ワインを飲みすぎたりした場合には、その話題に触れることはないだろう。

かかりつけの医者に肩を治療してもらうつもりだと伝えることはあっても、セラピストに相談するつもりであることは口にしないと思う。

QED Investorsでは、この沈黙がもたらした悲惨な結果を目の当たりにしている。私たちは2018年、パートナーのGreg Mazanec(グレッグ・マザネック)氏を失った。薬物乱用との長い闘いの末のことだった。それ以来、私たちはグレッグの家族と協力して、VCやスタートアップの世界にいる人々が同じ運命をたどるのを防ぐために、どのように自分たちの役割を果たせるかを検討してきた。

個人的な友人としても、また同僚としても、グレッグについて十分に語り尽くすことはできない。彼は、自らを通してすばらしい人間を定義づけているような人物だった。直交性のある思想家で、粘り強く、聡明で、斬新さを兼ね備えていた。私たちは彼をあまりにも早く失った。今もなお、私たちは彼の存在を傍らに置いている。

その当時の当社のチーム構成は15人だったことから、お互いがどれだけ親密であったかを想像していただけると思う。私は、機会があればいつでも彼の話をしようと、自分自身、そして彼の家族に誓った。だから、LPやポートフォリオ企業の前に出るたびに、この問題を表に出して、この腐食性を帯びたスティグマと正面から向き合うことにしている。

心の健康に関する議論を影の外に持ち出すことで、結果の軌道を大きく変えることができる。ベンチャーキャピタルの世界には、新型コロナウイルスのパンデミックが人々の不安や心配を増幅させる前から、このような困難を経験している人がたくさん存在する。人々は孤立感、抑うつ、不安、無力感を募らせており、オピオイドやその他の形式の依存症、または薬物の乱用に向かってしまった人もいる。

友人、仲間、同僚からの支援は、心の病を克服する上で極めて重要だ。企業がオフィス勤務を再開、あるいは自宅とオフィスのハイブリッド勤務を導入し始める中、経営陣は、自社の文化に再び焦点を当て、依存症に対する偏見を取り除き、メンタルヘルスを優先事項にする真の機会を手中にしている。それは、この問題に重点を置くためのまたとない好機である。

マザネック家は、グレッグのような創業者や起業家のコミュニティにとって最も大切なエコシステムにおける、薬物乱用や依存症の問題に取り組む目的で、Operation Lighthouseを設立した。このすばらしいイニシアティブを強力に支援することは、当社QEDにとって極めて自然な決断だった。

2021年の初めに、QEDはポートフォリオ企業3社とともに、Just Fiveと呼ばれるプログラムを試験的に導入した。Just Fiveは、全国的なメンタルヘルス非営利団体であるShatterproofによって作成されたもので、依存症に関する重要な概念と事実について、1レッスンにつき5分程度で伝えている。

そして、QEDの米国拠点のポートフォリオ企業50社すべての1万6千人を超える従業員に、同じ自己学習型の匿名制教育プログラムを無料で提供するに至り、大変喜ばしく思っている。

このプログラムは、メンタルヘルス教育を提供し、情報に基づく議論を促進することで、最終的にスティグマを低減することを目的としている。

2021年中にこのプログラムの対象を、海外のポートフォリオ企業や、創業者を支援したいと考えているその他のVCにも拡大していく意向である。スペイン語版はすでに計画段階に入っている。

レッスンは6つあり、それぞれにテーマが設定されている。最初の2つのレッスンでは、依存症の科学について触れ、初めて使用した年齢や、遺伝学、環境などの特定の要因によって、なぜ一部の人が依存症になり、他の人はそうならないのかについて説明する。

中間のレッスンでは、オピオイドの有害性、および薬物乱用の徴候、症状、治療の選択肢について説明し、最後の方のトピックでは、人々がどのように手助けできるかについて触れていく。私たちがこれまでに受け取った圧倒的にポジティブなフィードバックの大部分は、最後の2つのレッスンに集中している。私たちは、逸話的にすでに把握していたことから、大切なことを学び取った。人々は助けを求めているが、最も助けを必要としている人々は、助けを求める方法を常に知っているわけではないということを。

私はここ数年、メンタルヘルスについてあらゆる機会をとらえて議論してきた。心の健康に対する偏見を取り除くことで、人々はそれに対処できると心から確信している。これは解決可能な問題である。肩の痛みと同じように、治すことができるのだ。人々が最初の一歩を踏み出し、それについてオープンに話すことができる文化を作ることにおいて、より良い仕事をしなければならないと、私たちは強く感じている。

変化を起こすことはできるし、そうしなければならない。あなたの発する声を、私の声につなげて欲しい。

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タグ:コラムメンタルヘルス健康アメリカ

画像クレジット:olaser / Getty Images

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(文:Nigel Morris、翻訳:Dragonfly)

【コラム】社外取締役を務めるCEOが減少しているトレンドには、良い面も悪い面もある

編集部注:本稿の著者であるBJ Jenkins(BJ・ジェンキンズ)氏は、クラウド対応のセキュリティおよびデータ保護ソリューションのプロバイダであるBarracudaのCEO。また、SumoLogicGenerac Power Systemsの取締役会のメンバー。

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米国の企業では従来、双方向的な関係が盛んに行われていた。CEOは経験を広げ、影響力を拡大するために、あるいは単に良い気分がしたという理由から、他の企業の取締役会に加わっていた。取締役会がCEOを求めたのは、CEOがもたらす知識と、自社のCEOと対等に交流できる独特の能力を備えているからだ。

しかし、社外取締役の数は減り続けている。CEOの役割がより困難かつ要求の厳しいものになるにつれて、最高経営責任者の多くが社外取締役の役割を敬遠するようになり、また現在では多くの取締役会がCEOの取締役のアサインを制限している。

経営コンサルティング会社Korn Ferryのレポートによると、パンデミックによりこのトレンドが加速したという。同レポートでは「パンデミックによる前例のない要求により、多くのCEOが社外取締役を辞任し、自らの組織に専念するようになったことを示すエビデンス」を挙げている。現在、社外取締役に就任しているCEOは半数に満たないという。

同時に、多くの企業が取締役会にジェンダーや人種の多様性を取り入れることへのプレッシャーを感じており、これまでよりも幅広い候補者層にメンバーシップを提供している。

CEOの取締役会への参加が減少したことは、ポジティブなことなのか、それともネガティブなことなのか。興味深いことに、その両方である。

ここでCEOが取締役会で仕事をするメリットを4つ紹介しよう。

他の企業に助言することは、より良いCEOを生み出すことにつながる。自分自身の肥大化を恐れて取締役会の役員職から遠ざかるCEOや、同様の理由でCEOの取締役のアサインを制限している取締役会は、重要なポイントを見落としている。取締役会に時間を割くことで、より良いリーダーが育つのだ。

筆者は2社で社外取締役を務めている。他社の課題と機会、その盛衰、どの戦略が効果を発揮し、どの戦略が機能しなかったのかを内部で観察することで、自身の会社での適用につながる洞察が得られている。テーブルの反対側にいることが、自社の取締役会とのコミュニケーション方法についての理解を深めることにつながっている。

取締役会での役割を務めることで、近視眼的な視点に陥るのを防ぐことができる。デジタル破壊により、企業は競争力を維持するために前例のないペースで進まなければならない。最高経営者の第一の仕事は、会社の中で毎日この現実に取り組むことだ。しかし、自分の会社の経験だけを頼りにすれば、リーダーとして外の世界に向けた広い視野を持てなくなる。取締役会での職務は、それを確実に得るための秀逸な手段となるものだ。

取締役会のメンバーになることで、CEOは共感力を高めることができる。昨今、経営幹部レベルの役職の共感力を強化する必要性について多くの議論がなされているが、それには正当な理由がある。世界的な健康危機、人種的不正義、その他の重大なストレス因子には、McKinseyがいうところの「危機を管理し、組織を危機後のネクストノーマルに導く」4つの資質、すなわち意識性、繊細さ、共感力、思いやりを上級幹部が備えることが求められている。

このような時代にあって、CEOが可能な限り広範なレファレンスの枠組みを醸成することは極めて重要であり、取締役会を通じた他社との関与がそれを達成するのである。

他の企業を支援することは、より広がりのある利益を創出する。CEOが自分の会社の責任を超えて、他の会社の取締役会に価値をもたらす手段を有しているなら、それは世界全体にとってポジティブなものとなる。つまり、上げ潮はすべての船を持ち上げるのだ。

例えば、筆者が取締役を務めている会社は、かつては家庭用予備発電機の製造に専念していた。今ではデジタルにも対応しており、ユーザーのスマートフォン上でさまざまなサービスを提供する、Wi-Fi内蔵の発電装置をてがけている。筆者の専門分野である強力なサイバーセキュリティ戦略も求められるということだ。自分のガイダンスが会社、株主、顧客に恩恵をもたらすと確信し、充足感を覚えている。

それでは、CEOの取締役の数が減少したことがもたらす利点は何であろうか。その答えは簡単だ。CEO以外の人々や、女性や有色人種を含む伝統的に過小評価されてきたグループにとって、取締役会に加わる機会が増えることだ。

「あまり認知されていないが注目に値するシフトにおいて、多くの企業がコーナースイートをスキップし、別の場所で取締役を探している」とKorn Ferryは報告している。「最近のデータが示すところでは、2020年に就任した400人余りの取締役のうち、3分の2近くがCEO以外の人物によって占められている。専門家によると、企業は2020年に起きたパンデミックおよび人種平等の抗議活動を受けて、より多様な面を持ち、より具体的なスキルセットを備えた取締役会を作り上げる決意を固めている」。

Equilarが最近発表したジェンダー・ダイバーシティ・インデックスによると、2021年第1四半期末のRussell 3000企業における全取締役席に占める女性の割合は24.3%で、2016年末の15%から増加した。「上場企業の取締役会における男女の平等な構成への道筋は、何十年にもわたり行き詰まりを見せていたが、近年は顕著な改善を示している」とレポートには記されている。(とはいえEquilarは、2032年まで取締役会がジェンダー平等を達成することはできないだろうと警鐘を鳴らしている。)

CEO以外の取締役の多くはすばらしい仕事を遂行している。スタンフォード大学のRock Center for Corporate Governanceが行った調査によると、取締役の79%が、実際面において、現職のCEOたちがCEOではない取締役たちより優れているとは感じていない。CEOは取締役会に威信をもたらすかもしれないが、多くの非CEOが取締役としての実質的な仕事に貢献していると同調査は伝えている。

取締役会の多様性の増大は、それ自体が優れた進展というだけではない。取締役会の経験を持つことで、将来のリーダーとしての役割を担うメンバーをうまく配置し、より多くの女性や有色人種をコーナーオフィスに迎え入れるための代理人としての役目を果たすことができる。

Fortune 500企業のCEOの90%近くを占める典型的な白人男性CEO以外にも、幅広い層の候補者が取締役会のメンバーになることは、ビジネスリーダーの多様性が高まり続けることを期待させる。

総合的に考えて、このポテンシャルは、社外取締役を敬遠するCEOが増えることのネガティブな面を補って余りあるものだと思う。

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(文:BJ Jenkins、翻訳:Dragonfly)

神戸市と500 Startupsが2021年も「500 KOBE ACCELERATOR」をオンライン開催

500kobe

神戸市は、米国の著名ベンチャーキャピタル500 Startupsと連携した起業家育成オンラインプログラム「500 Founders Academy in partnership with Kobe」の参加募集を7月9日から開始すると発表した。

1期は2021年7月9日から月末まで応募を受け付け、9月6日から10月1日までプログラムを開催。2期は2021年9月から10月まで応募を受け付け、11月から12月の開催を予定する。シード、アーリーラウンドのスタートアップを国内外から1期あたり50社募集する。選考は500Startupsと神戸市が書類で行う予定。

オンラインだからこそ国境を超えてつながる

神戸市はこれまでも、2016年より、神戸からスタートアップ・エコシステムを生み出すことを目指し500 Startupsと連携して、短期集中型起業家支援プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」を開催。過去5回の開催では、1000 社以上の応募企業から厳選した計 88 社のスタートアップを育成支援し、参加者の累計資金調達額は120 億円を超える。2020 年度はコロナウイルス感染拡大に対応するため全編オンラインで実施となり、地理的制限を受けない自由度の高いプログラムとなった。

500 Startupsの投資プログラムではないが、同ファンドの専門家たちによるレクチャー動画やメンターによるQ&Aセッションが受けられ、必要に応じて翻訳サポートも付く。オフライン開催だった頃は6週間ほどの神戸滞在が必要だったが、1ヶ月のオンラインメンタリングに切り替えて柔軟性をもたせたとのこと。500 Startupsは仙台市などと連携した例はあるが、アクセラレータプログラムの実施は神戸市のみとのことだ。

オープン・イノベーションはまず運営元から

be kobe

神戸市はオープンイノベーションに実に意欲的で、全国の自治体とスタートアップのマッチングプラットフォーム「Urban Innovation JAPAN(UIJ)」の運用や「ANCHOR KOBE」の運営なども行う。今でこそデジタル庁の出現と副業浸透により、ビズリーチやエンジャパンで各自治体がDX副業人材を募集するようになったが、神戸市が新産業課を中途で募集し、地元の縁に囚われない新チームを組成したのはすでに4年も前だという。

かくいう同市もチーフ・エヴァンジェリストを募集した自治体のひとつだが、新産業課長の武田卓氏自身も民間企業で営業を勤めた経歴の持ち主。同課でイノベーション専門官を務める松山律子氏は元アパレルの新規事業担当だ。他のメンバーも神戸市出身者ばかりではなく、おもしろい仕事を探す中でたどり着いたという。神戸市は、各プログラムにおいても神戸市への誘致等を必須条件に入れているわけでないが、それでも圧倒的推進力で日本からスタートアップ・エコシステムを生むために、アクセラレータプログラム、コワーキング施設、実証実験の推進等を次々と実行に移していっている。オープン・イノベーションを掲げながらもZoomもままならない部署も多いものだが、市長の推進力とチームの組成方法に、神戸市のオープン・イノベーションへの本気度を見るかのように思う。

2021年5月に新IT規則を施行したインドのIT大臣と情報放送大臣が辞任

インドのRavi Shankar Prasad(ラヴィ・シャンカール・プラサッド)IT大臣と、Prakash Javadekar(プラカシュ・​ジャベードッカー)情報放送大臣が、現地時間7月7日に辞任し、Narendra Modi(ナレンドラ・モディ)首相の内閣改造に向けて地位を明け渡した同国の大物政治家のリストに加わった。

法務大臣を兼務していたプラサッド氏と、環境・森林・気候変動大臣および重工業・公営企業大臣を兼務していたジャベードッカー氏の辞任は、2021年5月下旬に施行されたインドの新IT規則をめぐり、米国のテクノロジー企業と厳しい対話を重ねていた最中のことだった。

プラサッド氏とジャバデカール氏が新IT規則を施行したことや、米国の巨大テクノロジー企業と公の場で会談したことが、両氏の辞任につながったという証拠はない。

「すべてのソーシャルメディアは、インドで事業を行うことが歓迎されています。ラヴィ・シャンカール・プラサッドや我々の首相、誰を批判しても構いません。問題はソーシャルメディアの乱用です。彼らの中には、我々は米国の法律に制約されているという人もいます。インドで事業を行い、多くの利益を得ているのに、米国の法律に管理されるという立場を取るという。これは明らかに受け入れられません」と、プラサッド氏は先週のオンライン会議で述べていた。

インドの新IT規則は「インドのインターネットユーザーのデータプライバシーとセキュリティに影響を与えるだけでなく、国内外のデジタルメディア企業に負担の大きいコンプライアンスフレームワークを課すことで、これまでインドの経済成長に多大な貢献をしてきたテクノロジー分野にも影響を与える」と、主要なテクノロジー企業を代表する業界団体であるAsia Internet Coalition(アジア・インターネット連盟)のマネージング・ディレクターを務めるJeff Paine(ジェフ・ペイン)氏は5月に述べている。

「ユーザーのインターネット利用とオンラインプラットフォームの説明責任を維持することは重要ですが、インドにおけるオンラインプラットフォームの運営や、ひいては個人、スタートアップ企業、国内のテクノロジーエコシステムへの影響を軽減するやり方で、この規則が施行されるように、政府が業界と緊密に協力することを強く求めます」。

この日、辞任した他の閣僚には、新型コロナウイルス感染拡大への対応が批判されたHarsh Vardhan(ハーシュ・ヴァルダン)保健・家族福祉相と同氏の副官であるAshwani Chaubey(アシュワニ・チャウベイ)氏が含まれている。

「大統領は、首相の助言に従い、辞任を受け入れました【略】これは即時適用されます」と、大統領報道官のAjay Kumar Singh(エージェイ・クマール・シン)氏は声明で述べている。

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画像クレジット:Sanjeev Verma / Hindustan Times / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【インタビュー】競合他社に差をつけるには創業初日からストーリーの構築を始めよう

かつては独自の製品を持つことで、競合相手よりも少なくとも数カ月のリードタイムを得ることができていたが、そうした優位性はますます少なくなっているように思える。例えばTwitter Spaces(ツイッター・スペース)がClubhouse(クラブハウス)よりも先にAndroid(アンドロイド)版をリリースした例を考えてみるだけでそれがわかる。

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このように、競合他社が自社の優れた機能をコピーするのは時間の問題であるとわかっている状況下では、どうすれば競合他社の先を行くことができるだろうか?

その解決策は「メッセージ」だと、コンバージョン最適化の専門家であるPeep Laja(ピープ・ラジャ)氏はいう。コピーしたりコモディティ化が可能な機能や特徴とは異なり、戦略的なナラティブ(物語、ストーリー)は長期的なアドバンテージとなり得る。以下のインタビューでは彼が、スタートアップ企業が初期の段階から、なぜそしてどのようにナラティブに取り組むべきかを説明している。

ラジャ氏は、CXLSpeero(スピーロ)、Wynter(ウィンター)といったマーケティングおよびその最適化を行うビジネスを起業した人物だ。彼は最近Twitter(ツイッター)に投稿したスレッドで「これまでのやり方に挑戦する」「偉そうな態度をとる」といった、スタートアップ企業が使うことのできる共通のストーリーやナラティブを取り上げ、そうした戦術を採用している企業の例を紹介した。今回私たちは、そうした彼の考えやスタートアップの創業者への提言を改めて聞いてみた。

編集部注:このインタビューは、長さとわかりやすさのために編集されている。

あなたのサイトのキャッチフレーズでは、スタートアップに対して「製品による差別化は消えつつある」と告げ「メッセージで引きつけるべき」と伝えています。その理由を説明していただけますか?

この有名な言葉は、2017年にDrift(ドリフト)のCEOであるDavid Cancel(デビッド・キャンセル)によって口にされたものです。

大まかに言えば、どんなスタートアップも、イノベーションかメッセージか、そして理想的にはその両方で勝負しています。通常は、新しいこと、より良いことをするイノベーションから始めたいと思うものです。しかし、機能での勝負は一過性の優位性に過ぎません。誰もやっていないことをやっていてもその優位性は長続きしません。遅かれ早かれ、大手企業や他のスタートアップ企業にコピーされてしまうので、イノベーションだけでは不十分なのです。機能は、せいぜい2年程度しか続かない一過性の優位性で、それ以上続くことはほとんどありません。一方、適切なナラティブとメッセージを持てば、長期的な優位性を保つことができます。

ストーリーで勝負するスタートアップは、もしそれば大胆なものであれば大きな優位性を得ることができます。なぜなら、大企業は安全であることに最適化し、それはしばしば非常に退屈なものになりますが、誰もそれをいちいち指摘しないからです。それに対して、スタートアップは、勇気を出してわざと極端な方向に走ることもできます。

理想的なのは、イノベーションから始めながらも、同時にブランドの構築も始めることです。そうすればたとえ競合他社が機能で追いついてきたとしても、ブランドで自社を選んでもらえるようにすることができるのです。他人よりも客観的に良く見られる状態を維持することは難しいのですが、客観的により悪い状態になることは絶対に避けなければなりません。

あなたは、スタートアップが戦略的なストーリーを見つけ、それを検証するためのリサーチを支援なさっています。このコンセプトを説明してもらえますか?

スタートアップは、規模が大きくなるにつれて、機能や特徴ではなくストーリーで伝える必要があることに気づきます。彼らのナラティブは、より大きなコンセプトにつながる戦略的なものである必要があるのです。「世界はかつてこうだったが、今は変わってしまった。私たちのスタートアップは、この新しいコンテクストであなたを助けます」ということです。

架空の例として、マーケター向けのAIのコースを販売することを考えてみましょう。理想的なのは、AIについて話すのではなく、AIや機械学習はすべてを変えてしまうような止められないものであることを、ストーリーでまず説明することです。未来はすでに到来しているものの、まだ均等には手に届いていません。この列車を止めることは不可能です。それに飛び乗るか、置き去りにされるかのどちらかです。AIを導入した企業は他を圧倒することになるので、マーケターはAIを学んで適応して行く必要があります。こうすれば「マーケターのためのAI講座、7時間のビデオ、最高の講師陣」といった特徴で売るよりもずっと魅力的な商品にすることができます。

これは、私の会社であるWynterでも行っていることです。SaaSの世界をみると、10年前に比べて53倍もの企業が存在し、どのカテゴリーでも何百ものツールが提供されています。たとえばEメール・マーケティングを考えてみてください。そして、各カテゴリーの競合他社の特徴は「同じ」ということです。ほとんどが同じ機能を提供しているのです。つまり、機能による差別化はもう通用しないのです。ほとんどの会社が同じように見えて、同じようなことを言っています。現在「同一性」が多くの企業のデフォルトとなっています。この「同一性」とは、企業が提供するサービスが似すぎていたり、ブランディングで差別化ができていなかったり、コミュニケーションが不明瞭であったりすることによって引き起こされる複合的な影響です。おそらくみなさんは、最近の企業は差別化を重視していると想像なさっているでしょう。しかし興味深いことに、実態はその反対なのです。

機能面での差別化が一時的なものであることを考えると、企業はブランドで勝負すべきなのです。これが私たちの生きる新しい世界です。そしてそこで勝つためには、観客が何を求めているのか、自分が伝えていることがどのように観客に届くのかを知る必要があるのです。【略】「私の会社はこういうことをしていて、こういう風に売り込んでいるんだ」という具合に。おわかりのように、これは先ほど説明した「世界がどのように変化したかを示し、これまでのやり方では、現れ始めた新しい現実に適応できないことを説明する」というナラティブに沿っています。

創業者が自身のスタートアップを成功に結びつけるには、どのようにしたらよいでしょうか?

世界が変わったことをデータも用いて証明し、そこで勝つためには新しい戦略が必要であることを訴えましょう。そして、これまで使ってきた戦略に基づいた勝者と敗者の姿を示し、新しい世界に最も適しているものが何かという新たな証拠として利用するのです。例えばPLG(Product-led Growth、製品主導の成長)をアピールする場合には、GTM(go-to-market)戦略として、実際に利用されている例を示すことができます、なぜならお客様がすぐにその製品を使い始めたいという新しい世界に生きているからです。上手くいっている例を挙げ、それをご自分のスタートアップに結びつけることができます。

他の例としては、HubSpot(ハブスポット)のCTOであるDharmesh Shah(ダーメッシュ・シャー)氏が行っているコミュニティ主導の成長も参考になります。

また、リモートワーカーにハードウェアを提供するスタートアップFirstbase(ファーストベース)もあります。同社のCEOであるChris Herd(クリス・ハード)氏のTwitterのタイムラインは、私の言っていることをよく表しています。彼が自分の会社ではなく、ナラティブを売りこんでいるところをよく見てください。

つまり、何よりもまず、ナラティブすなわち世界に対する視点を売るのです。そしてこの新しい戦略を使って、あなたの会社がお客様の勝利に貢献できることを説明するのは、もっと後になってからで良いのです。語られるナラティブは、機能などに対する文脈を与えます。

関連記事:リモートワークに必要なツールとサポートを提供するFirstbaseが約14億円調達、フィンテックから方向転換

スタートアップがそうした道を間違えないようにするにはどうすればいいのでしょうか?

ナラティブが的はずれなものになってしまうのは、たとえば外部の世界の変化ではなく、会社の内部だけの変化を語るものであったり、あるいは実際には起きていない変化に投資して、その信憑性を高めることができなかったりするときです。ブランドに引きつけるためには、ナラティブの効果を測定する必要があります。

それはどうやってテストすれば良いでしょうか?ダイレクトセールスの場合なら、フィードバックを得ることはとても簡単です。私のセールスデモでは、デモに入る前にストーリーをお話しします。もし聞いていた人たちが資料を欲しがったら、私の話がツボを突いたことがわかります。同時に、質問があるかどうかを尋ねたり、人びとがうなずいているかどうかなどを観察したりします。もしこのようなセールスプロセスに関わっていない場合、たとえばPLG(製品主導の成長)に注力している場合には、メッセージテストを行う必要があります。これは1対1の場合もあれば、定性的な調査の場合もありますが、いずれにしても、実際のターゲット層を対象にテストを行っていることを確実にしなければなりません。

それがWynterで行っていることです。ここではメッセージテストや顧客調査を行うことができ、発信しているメッセージだけでなく、世界に対する人びとの認識についても調査することができます。これによって、ウェブサイトに置かれたセールストークの何がヒットしているのか、何がうまくいっていないのか、競合とはどのように比較できるのかなどを知ることができるのです。

スタートアップがメッセージに取り組み始めるべき時期はいつでしょう?

イノベーションは一過性のものなので、企業は開業初日からナラティブを堅持していなければなりません。いつまでもイノベーションで競争に勝ち続けることは非常に稀な出来事です。ブランドで勝つほうが、より達成しやすいことです。つまり、プロダクトマーケットフィット(PMF)の前に、メッセージマーケットフィット(MMF)が必要なのです。潜在的な顧客はそれを見ています。それは防衛のための堀にもなり得ます。自分を日用品として位置づけるのではなく(革新的でない機能で売り込むと日用品になってしまいます)、人びとが感情移入できるストーリーを開発するのです。競合他社よりも高い価格での販売が可能になれば、それは堀であることがわかります。これは機能では生み出すことはできません。機能はやがてコモディティ化し、当然のものだと思われるようになるからです。この問題は、ブランドを堅持できている場合には、はるかに少なくなります。

時間の経過とともに、ナラティブはどのように進化していくべきでしょうか?

世界の変化に合わせてナラティブも変化させていく必要があります。常に何が起きているのか、どのような背景があるのかに目を向けておく必要があるのです。リモートの台頭はその一例です。たとえばHR企業であるLattice(ラティス)が、1つの機能からより広範なサービスへと拡大していく中で、リモートに対応するようになりました。

これは、マスマーケットからより小さなクラスターへという、より大きなポイントにつながっていいます。例えばかつては皆が同じ番組を見ていましたが、現在はニッチなコンテンツが増えてきています。多くの場合、スタートアップ企業は最初からマスマーケットに向けてアピールする余裕はありませんから、これはスタートアップにとっては良いことです。しかし成長するにともない、そのナラティブも進化しなければならないかもしれません。また、ブランドナラティブと戦略的ナラティブが同時に存在することもありますが、後者は時間とともに進化していくものです。

ストーリーという意味では、Twitterのスレッドで紹介したものの中には、時代を超えて通用するものもありますが、永遠には通用しないものもあるでしょう。例えば力の弱いものが力の強いものを打ち倒す「ダビデとゴリアテ」のストーリーは、スタートアップがある程度のステージに達すると現実味がなくなります。また別の例としては「人々のために立ち上がる」と言って銀行の手数料を破壊することに注力していたWise(ワイズ)は、自分自身の首を締めることとなりつつあり、そのナラティブを変えなければならないかもしれなくなっています。当初のナラティブから離れなくてもいい企業もあれば、離れなければならない企業もあるのです。

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画像クレジット:Peep Laja

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(文:Anna Heim、翻訳:sako)

ソフトバンクが日本における「Yahoo」商標の永久ライセンスを1785億円で取得

米国時間7月4日の晩、ニューヨーク港からは独立記念日を祝う花火が打ち上げられたが、数ブロック先のミッドタウンにあるVerizon(ベライゾン)本社では、まったく別のことが祝われていたようだ。

TechCrunchの親会社であるVerizon Media(ベライゾン・メディア)のApollo(アポロ)による買収が完了するまであと数週間、TechCrunchを所有しているVerizonは、日本のソフトバンクグループの一部門であるZ Holdings(Zホールディングス)との間で、日本市場におけるYahooブランドおよび関連する技術インフラの商標を約16億ドル(約1785億円)で売却する契約を締結したと夜間に発表した。

名前からは正体がわかりにくいZホールディングスはソフトバンクの日本におけるインターネット事業を所有しており、中でもヤフージャパンのウェブポータルは日本で最もアクセス数の多いニュースサイトとなっている。Verizon Media(旧Oath、旧AOL・Yahoo)との直近の契約では、ヤフージャパンは日本でのYahooブランドの使用権と関連技術に対して定期的にロイヤルティを支払っていた。一度に前払いしたことで、今後はロイヤリティの支払いなく商標・技術を利用できることになる。

この契約の解決は、ApolloによるVerizon Mediaの50億ドル(約5545億円)の買収において、残された重要なニュアンスの1つだった。Verizonは、2021年初めに529億ドル(約5兆9000億円)を投じてCバンド帯を取得するなど、無線スペクトルのオークションにつぎ込んできた負債の削減に取り組んでおり、今回の買収はVerizonに追加的対価を与えることになる。

Zホールディングスはプレスリリースでこう述べている。「なお、『ヤフージャパン ライセンス契約』は終了するものの、事業・技術面などにおいて引き続きVerizon Mediaとの協力関係は維持されます。また、ヤフーはこれまで通り変わらず、『UPDATE JAPAN』をミッションに、『Yahoo! JAPAN』ブランドの各種サービスを通じて、より便利で革新的なサービスを提供してまいります」。(UPDATE JAPANというからには)日本へのさらなるパッチがまもなく配信されることを期待しよう、ということか。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

IBM社長ジム・ホワイトハーストがわずか14カ月で退任

米国時間7月2日、IBMは、Red Hatの買収にともなって入社したJim Whitehurst(ジム・ホワイトハースト)氏が、社長就任からわずか14カ月で社長を退任するという驚きの発表を行った。

辞任の理由など、詳細は発表されていないが、声明には2018年にRed Hatの340億ドル(約3兆7740億円)の買収を成功に導いた功績と、彼がその後の両社の融合に努めたことが特記されている。「ジムはIBMの戦略の構築に力を発揮しました。また、IBMとRed Hatの協調関係を確実なものとし、弊社の技術的プラットフォームとイノベーションが顧客にもたらす価値を大きなものにしました」とある。

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ホワイトハースト氏は会長兼CEOであるArvind Krishna(アルヴィンド・クリシュナ)氏のシニアアドバイザーとして社に残るが、短期間で社長職を去る理由、および今後についての説明はない。通常、このクラスの大きな買収があると、上級役員の処遇に関する合意もあるはずだが、単純にその期限が過ぎただけなのか、ホワイトハースト氏が昇進を求めているのか、そのどちらかかもしれない。彼をクリシュナ氏の当然の後継者と見ていた者もいたが、その線で考えるとなおさらのこと、今回の異動は意外だ。

Moor Insight & Strategiesの創業者で主席アナリストのPatrick Moorhead(パトリック・ムーアヘッド)氏は「ジムはIBMの次のCEOだと思っていたから意外だ。IBMの生え抜きであるクリシュナ氏と外部からの人材であるホワイトハースト氏のコンビも、すてきだった」と語る。

とにかく、IBMを主にハイブリッドクラウドにフォーカスした会社に変える仕事をしていた彼を失うと、クリシュナ氏のリーダーシップチームに大きな穴ができる。ホワイトハースト氏は、その深い業界知識と、Red Hat時代に培われたオープンソースコミュニティの信頼を武器として、IBMの変化を推進する絶好の位置につけていたことは間違いない。彼は、簡単に代わりを見つけられるような人物ではないし、今日の発表も後任については触れていない。

2018年にIBMがRed Hatを340億ドルで買収した際、両社には滝のように連なる一連の変化が起きた。まず、Ginni Rometty( ジニー・ロメッティ)氏がIBMのCEOを降りアルヴィンド・クリシュナ氏に代わった。同時に、Red HatのCEOだったジム・ホワイトハースト氏が社長としてIBMへ移籍し、長年の社員だったPaul Cormier(ポール・コーミエ)氏がRed HatのCEOを引き継いだ。

今日は、その他の異動も発表され、その中では長年IBMの役員だったBridget van Kralingen(ブリジット・バン・クラリンゲン)氏が退社し、グローバル市場担当上級副社長としての役を降りることになった。また、IBMのクラウドとデータプラットフォーム担当上級副社長だったRob Thomas(ロブ・トーマス)氏がバン・クラリンゲン氏の役を引き受けることになる。

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

創業者が資金調達中にメンタルヘルスを管理する10の方法

編集部注:本稿の著者Adonica Shaw(アドニカ・ショー)氏は、健康とウェルネスに焦点を当てたプロフェッショナルな女性のためのソーシャルメディアプラットフォーム「Wingwomen」の創設者。

ーーー

パンデミック渦中、起業家のメンタルヘルスやストレスマネジメントが広く議論されるようになった。しかし多くのベテラン起業家にとってこの話題は未だタブーなトピックとなっている。世の中がニューノーマルに向かおうとしている今、創業者や投資家、メンタルヘルス専門家らは、パンデミック前には問題視されていなかったメンタルヘルスを今後考慮する必要があるのではないかという疑問を抱き始めている。

筆者もその1人である。実際、パンデミック前から問題だったのである。さらにいうと、起業家がリスクを受け入れる傾向にあるというのも、メンタルヘルスを助長させる原因だ。

「起業家は自分の仕事にさまざまな弱さを抱え込んでいますが、避けることのできないリスクとそれが相まって、リスクがうまくいかなかった際に悪化することがあります」。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の精神医学臨床教授であり、Econa(エコナ)の創設者であるMichael Freeman(マイケル・フリーマン)氏はそう話す。「そして実際、ほとんどの場合はうまくいかないため、傷つき、精神的な症状を感じたり、下降線をたどったりしやすくなるのです。その逆も同様で、うまくいっているときはうまくいっているときで、別の種の精神衛生上の問題が発生しやすくなります」。

それでは、例えば資金調達中に困難な状況に陥ったとき、起業家はこのような問題にどう対処し、どのようにして精神を研ぎ澄ませてそれを維持すれば良いのだろうか。

答えはシンプル、予防と認識の2つである。予防という点では、起業家のメンタルヘルスにおける違いを受け入れ、起業家のメンタルヘルスの優れた能力を称え、ダウンサイドを防ぐライフスタイルを取り入れることに尽きるとフリーマン氏はいう。

「あらゆる医療に同様のことが言えますが、メンタルヘルスにおいても、ほんの少しの予防は多大な治療に値します」とフリーマン氏。「起業家がメンタルヘルスの問題を予防したいなら、まずライフスタイルのリスク要因を評価することから始める必要があります」。

フリーマン氏によると、起業家がメンタルヘルスをサポートする方法は5つあるという。

  1. 睡眠をとる。睡眠の最も重要な役割は、脳をリチャージし、日中に起きていられるようにすることである。心と体を回復させるということには非常に大きな予防効果がある。目を開けていられないようではプレゼンなどできるはずがない。
  2. 運動をして汗をかくこと。起業家は最低でも1日45分間の運動をすべきであり、かつそのうち週2回は汗をかくほどの激しい運動であるべきだ。運動は健康に良いだけでなく、実行機能も高めてくれる。つまり集中力を高め、物事を成し遂げる能力を高めてくれるのだ。また、自身の気持ちをコントロールできるようになるため、たとえVCに自分のアイデアをめった斬りにされようと、電話をきってから落ち込むことがなくなる。資金調達の際にイエスかノーどちらを得られるかは、明確な思考能力が左右するだろう。
  3. ビジネスとは関係のない友人を得て、維持する。起業家は時に孤独な職業でもある。仕事とは別に友人や愛する人とのコミュニティを持つといい。また、人間関係が仕事のモヤモヤと混合してしまわないように気を付けたい。人間関係を維持し、仕事が大変な時には彼らが心の支えとなるような関係が理想である。
  4. 健康的かつ戦略的に食べる。多くの起業家はその道のりの中で、貧困生活を体験することがあるだろう。限られたリソースの中でプレッシャーにさらされているとき、ジャンクフードやファストフードを食べるのは間違ったトレードオフに他ならない。認知機能にも悪く、その他多くの健康上の影響がある。
  5. メンタルヘルスに関する懸念には、数カ月ではなく数週間単位で対処する。懸念事項を迅速に管理しない場合、好まざる結果に繋がってしまうことがある。「メンタルヘルスの症状が長引くと【略】より深刻なメンタルヘルスの状況につながる可能性があります」とフリーマン氏は述べている。「個人的な悪影響としては、より深刻なメンタルヘルス問題の発生、社会的な人間関係の崩壊、仕事上でのパフォーマンス低下などが挙げられます。ビジネス面では、倒産、従業員の流出、戦略的提携パートナーとの関係悪化、潜在的な投資家の喪失などが考えられます」。

認識に関しては、自分のストレスレベルを悪化させ、資金調達を成功させる能力に悪影響を与える可能性のある要因を理解し、それに応じた計画を立てることから始めるといい。ストレスレベルを上昇させる要因には、資金調達前の経済的状況や健康状態、性別、人種、業界のあり方、制度上の障壁、さらには市民権を得ているか否かなどが含まれる。

「有色人種、移民、女性の起業家はガラスの天井に対する懸念が非常に多い」とフリーマン氏はいう。「資金調達中のメンタルヘルス悪化の要因にもなります。【略】何らかの形で除け者にされてきたグループの人々は、メンタルヘルスの観点からだけでなく全体的に見ても、克服するのが困難な異なるハードルを抱えています」。

SaaSプラットフォームのMixtroz(ミクストロズ)の共同設立者であるKerry Schrader(ケリー・シュレイダー)氏は、こういったことがどのように資金調達に影響するかをよく知っている。同氏と同氏の娘であるAshlee Ammons(アシュリー・アモンズ)氏は最終的に100万ドル(約1億1000万円)以上の資金を集めることができたが「次の黒人女性」になるかもしれないというプレッシャーは相当のものだったという。

「100万ドル以上の資金を調達した37番目と38番目の黒人女性、というプレッシャーにとらわれるのをやめました」と同氏はいう。「もし私たちが成功しなかったら、他の黒人女性が資金調達できない原因になるのではないかと考えてしまいました。しかし正直なところ、私たちはそのような余分なストレスを排除することにし、人々に支持されるような収益性の高いビジネスを行うことに集中したのです。そして失敗したときには、白人男性と同じように、次のチャンスと資金を得れば良いと考えることにしました。もちろんそれが普通に得られるものではないということは分かっていましたが」。

シュレイダー氏によると、資金調達活動中におけるメンタルヘルスの管理方法に関する情報はほとんどなく、同親娘はさまざまな方法を試した結果、納得のいく方法を見つけることができたという。

同氏の経験をもとに、起業家が資金調達をしながらメンタルヘルスを管理する方法についてさらに5つ紹介したい。

  • カウンセラーやセラピストに相談して、ストレスレベルをコントロールする。セラピーについて、精神的に打ちのめされた時の対処法という考え方から、生き生きと生活するための予防的な方法という考え方に起業家らはゆっくりとシフトしてきているという。「私はBetterHelp(ベターヘルプ)を活用して資金集め中に誰かと話すようにしました」とシュレイダー氏は振り返る。「第三者に伝えることで、何でも言えるようになりました。プライベートで気持ちを吐き出すことで、投資家との会話もより効果的に伝えることができるようになりました。資格を持った専門家に相談してから、『私はあなたに助けてもらっている』という考え方から『私にはエキサイティングなチャンスがあるので、あなたには早期に投資してもらいたい』という考え方に変えることができました。カウンセリングはとても役に立ちました」。
  • 出口を用意しておく。目標設定は物事を軌道に乗せるためのすばらしい方法だが、有限の終着点を設定しなければ、決して成功できないような錯覚に陥ることもある。「当初、私たちはあるマイルストーンに到達しなかった場合、どのような行動を取るかという基準を置くようにしました。失敗するかもしれないと恐れるのではなく、ビジネスを終了して自分のキャリアに戻る時のルールを決めたのです。共同出資者との間で合意された『終了』の条件を設定するというのは私の精神衛生上すばらしいことでした。そして数年後の今、私たちはまだ戦っていますし、ほぼ正気も保っています」。
  • チームを頼る。1人で戦うことはできない。スタートアップを前進させ、自分の健康を守るためにチームを積極的に活用すべきである。「友人や家族からの資金調達を終えた直後に、私は乳がんと診断されました。資金調達をしながら放射線治療、手術、治療を受けていましたし、病院のベッドからもプレゼンをしました。しかし資金集めをしているときに、終わりなどありません。それがきっかけで、娘がフルタイムで取り組んでくれることになりました。家族として、長期的に成功するためには、お互いに助け合う必要があるということを実感しました」とシュレイダー氏は話す。
  • 計画に柔軟性を持たせる。起業したばかりの頃は、どうしても決められたプランに集中してしまいがちになる。しかし、著名な起業家たちの経歴を見てみると、彼らは必要に応じて方向転換を行い、常に学びを得ているということが分かる。「資金調達時には、週単位、日単位、さらには1時間単位で計画が変更され、それに常に対応しなければならない時期がありました」とシュレイダー氏は振り返る。「それは飛行機を買い、操縦を学び、燃料補給のための格納庫を同時に探すようなものだと私は思っています。好きなだけ計画を整理しようとすることはかまいませんが、どの程度計画ができるかなど計り知れません」。
  • お金のためにどの程度のストレスに対応できるか考える。当然のことながら、資金調達は小切手を確保することが目的だ。しかし起業家の中には、資金を得るために不可能な条件を飲んでしまう者もいる。資金調達の場に足を踏み入れる前に、自分の限界を知っておくことが大切だ。「自分が優位に立っていると感じている場合、人はどれだけ多くのものを得られるか試してみるものです。自分の理由を忘れてはいけません。自分を見失わずにできることがわかったら、やってみたら良いでしょう」とシュレイダー氏はいう。「そして覚えておいて欲しいのは、たとえ起業家であっても断るという選択肢は常にあるということです。特に、断るという決断が自分の正気を守ることにつながるのであれば、なおさらです」。

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(文:Adonica Shaw、翻訳:Dragonfly)

2021年上半期のモバイルアプリ支出額が過去最大の7兆円超え、ダウンロード成長は鈍化

消費者のモバイルアプリ支出が2021年上半期に過去最多の649億ドル(7兆1780億円)となったことがアプリストア調査会社Sensor Towerの予備分析データで明らかになった。App Store、Google Playでの支出額は前年同期に比べて24.8%増加した。しかし業界の専門家はパンデミックによるモバイルへの加速的なシフトは今後も継続するとみている一方で、これは指摘するに値するが、過去最多の支出額にもかかわらず支出額の成長率はわずかに鈍化し、ダウンロード数の成長率はさらに大幅に縮小した。

2019年上半期から2020年上半期にかけて、モバイルアプリでの支出額は405億ドル(約4兆4780億円)から520億ドル(約5兆7500億円)へと28.4%増えた。その前の成長率を24.8%下回った。

画像クレジット:Sensor Tower

2021年上半期のグローバル支出のうちAppleのApp Storeが415億ドル(約4兆5900億円)を占め、これはGoogle Playの234億ドル(約2兆5860億円)の1.8倍だった。

しかしGoogle Playは引き続き成長を加速させていて、App Storeが2020年上半期の340億ドル(約3兆7580億円)から22.1%成長したのに対し、Google Playは180億ドル(約1兆9890億円)から30%増だった。これは部分的には、フィリピンのように新型コロナウイルスによるパンデミックで事業閉鎖や自宅待機を余儀なくされたマーケットの需要による、とSensor Towerは指摘した。

ゲーム以外の消費者支出はスポーツ、金融、ビジネス、本、エンターテインメントのアプリに支えられた。トップ100にランクインしているサブスクベースのアプリ(ゲームを除く)が支出の大半を占め、83億ドル(約9175億円)だった。2021年上半期に売上が最も多かったアプリは引き続きTikTokで、YouTubeとトップ常連のTinderが続いた。

画像クレジット:Sensor Tower

もちろん、モバイルゲームが全体の支出額に最も貢献し、2021年上半期の支出額は447億ドル(約4兆9380億円)に達した。うち260億ドル(約2兆8720億円)がApp Storeでのものだったが、成長は2020年上半期の26.5%から2021年上半期には13.5%に減速した。

画像クレジット:Sensor Tower

2020年上半期に売上高が最も多かったゲームは順に、TencentのHonor of King(150億ドル超、約1兆6570億円)、PUBG Mobile(中国版も含め約15億ドル、約1660億円)、Genshin Impact(8億4800万ドル超、約940億円)、Roblox、Coin Masterだった。

モバイルアプリのダウンロードの成長は2021年上半期に大幅に減速したとSensor Towerは指摘した。

2020年、消費者はパンデミックの影響で仕事、教育、買い物、健康、グローサリーなどのためにアプリに目を向け、新しいモバイルアプリのインストールは世界中で大幅に増えた。2020年上半期、アプリインストールは前年同期比25.7%増の713億回に達した。しかし2021年上半期にはダウンロードはわずか1.7%増にとどまり725億回だった。

画像クレジット:Sensor Tower

App Storeではゲーム以外のインストールの前年同期からの減少はさらに顕著で、2020年上半期の183億回から2021年上半期は163億回に減った。これについてSensor Towerは、経済や対面での活動が再開した米国のようなiOSユーザーが多いマーケットでは消費者の注意をひく競争が激化していることの表れだと考えている。

一方、Google Playでの(ゲーム以外)のインストールは2020年上半期の530億回から2021年上半期は562億回へと6%増加した。これはいまだにパンデミックの影響を受けているインドのようなAndroidが主流のマーケットでのアプリに対する需要と結びついているかもしれない。結果として、Google PlayでのアプリインストールはApp Storeの3.5倍だった。

画像クレジット:Sensor Tower

ゲーム以外のアプリで最もダウンロード数が多かったのはTikTokで、2021年上半期中の新規インストールは3億8460万回だった。しかしこれは前年同期の6億1900万回から約38%減だった。2020年インドで禁止されたことが響いたのかもしれない。アプリダウンロードのトップ5の残りはFacebookがほぼ独占し、第2位がFacebook、第3位がInstagram、第4位がWhatsAppだった。そしてTelegramが第5位で、Messenger、Zoom、Snapchat、CapCut、Google Meetが続いた。

一方、モバイルゲームのダウンロードはApp Storeでは22.8%減の44億回だったが、Google Playでは前年同期比3.9%増の237億回と成長した。

発表されたデータは予備分析のものであり、今後より正確なものになるかもしれない。また全体像を把握するのに他の会社の分析レポートと比較する価値もあるだろう。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

ナノ加工された「十四面体」がケブラーを凌ぐ防弾性能を発揮

マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア工科大学(Caltech)の研究者は、ケブラーや鋼鉄よりも強靭なナノエンジニアリング素材を開発した。この素材は相互に連結した炭素の「十四面体」でできており、微小な弾丸の衝撃を見事に吸収した。

MITのCarlos Portela(カルロス・ポルテラ)教授が主導したこの研究は、ナノメートル単位で設計・製造されたナノアーキテクチャ材料が、超強靭なブラストシールドやボディアーマーなどの保護面として有効な手段となり得るかどうかを調べることを目的としている。

もっとも、十四面体をベースにした材料のアイデアは新しいものではない。複雑な14の面を持つ多面体(約15億通りのバリエーションがある)は、19世紀にLord Kelvin(ケルビン卿)によって、空間をそれ自体の複製で埋めるのに最も効率的な方法の1つとして提案された。

このような多面体を小さな空間にたくさん詰め込み、相互に連結することができれば、効率的なショックアブソーバーとして機能するのではないかと、ポルテラ教授たちは考えた。このような素材は、ゆるやかな変形ではテストされているが、弾丸や微小隕石のような強力な衝撃ではテストされたことがない。

そこで研究チームは、ナノリソグラフィ技術を用いて素材のブロックを組み立て、できあがった構造体を純粋な炭素になるまで焼き上げた。そして、この炭素構造体を、音速をはるかに超える幅14ミクロンのシリコン酸化物の弾丸で撃ったのだ。

画像クレジット:MIT/Caltech

特に密度の高いこの炭素構造体は、衝撃を非常によく吸収し、粒子の動きを止めた。重要なのは、粉々にならずに変形したことだ。

今回の発見についてポルテラ教授は、ニュースリリースで次のように述べている。「ナノスケールの支柱構造による衝撃圧縮の仕組みにより、この素材が大きなエネルギーを吸収できることがわかりました。ナノアーキテクチャではない、完全に高密度なモノリシック構造の素材と比較してということです。同じ質量のケブラーよりも、我々の素材の方が、はるかに効率的に弾丸を止めることができるでしょう」。

興味深いことに、研究者たちは、惑星の表面に衝突する隕石を描写するために一般的に用いられている方法が、衝撃と損傷を最もうまくモデル化できることを発見した。

今回発表されたのは初期実験の結果であり、今すぐに兵士が十四面体の防弾チョッキを着ることはないだろう。しかしこの実験は、このアプローチの有望な将来性を確実に示している。研究チームがこの素材を大規模に製造する方法を発見できれば、あらゆる産業分野で役立つ可能性がある。

この研究は、学術誌「Nature Materials(ネイチャーマテリアルズ)」に掲載された。

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画像クレジット:MIT/Caltech

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】オープンソースとオープン標準の統合を再評価しよう

編集部注:本稿の著者Guy Martin(ガイ・マーティン)氏は、世界で最も尊敬されている非営利標準化団体の1つOASIS Openの事務局長。ソフトウェアエンジニアおよびオープンソースストラテジストとして25年以上の経験をOASIS Openにもたらした。

ーーー

この世には解決すべき大きな問題があるが、是が非でも必要なのはオープンソース(open source)コミュニティとオープン標準(open standard)コミュニティの提携だ。

2020年の厳しい現実からの例を挙げよう。米国は2020年、およそ6万件におよぶ山火事が発生し、1000万エーカー(約4万500平方キロメートル)以上が焼き尽くされ、9500棟以上の家屋が全焼して、43人の命が失われた

私は10年間カリフォルニア州でボランティアの消防士をしており、消防士が効果的かつ迅速にセーフティクリティカルな情報をやり取りできる技術の決定的な重要性をじかに感じた。通常は複数の消防機関が火事現場に向かうのだが、それぞれさまざまなメーカーのラジオを携帯している。これらのラジオは専用ソフトウェアで周波数が設定されているので、チームがお互いにコミュニケーションを図れるようにするには、ラジオを再プログラミングする必要が生じる。このプロセスは不必要な遅延を生み、命を危険にさらす可能性もある。

すべてのラジオメーカーが標準に沿ったオープンソースの実装を採用すれば、ラジオはすぐに同じ周波数に調整できるだろう。ラジオメーカーは時間の無駄になる障壁ではなく、貴重な人命救助ツールを提供でき、そうしたソフトウェアの開発コストを共有できる。この状況では、他の多くの場合と同様に、独自の無線プログラミングソフトウェアから得られる競合上の利点や標準化によって得られる多くの貴重な利点はない。

一貫した標準とそれに相応するオープンソースの実装による利点は、山火事などのセーフティクリティカルな状況に特化したものではない。標準とオープンソースのより良い統合から多大なメリットを得られる分野は数多く存在する。

オープンソースとオープン標準の違い

「オープンソース」とは公的にアクセスでき、誰もが自由に使用、変更、共有できるソフトウェアを指す。またオープンなアイデアの交換、オープンな参加、ラピッドプロトタイピング、オープンなガバナンスと透明性を備えた、共同的なコミュニティ指向のソフトウェア開発哲学を指す。

それとは対照に「標準(standard)」という言葉は、取り決められた機能の定義を指す。要件、仕様、ガイドラインにより、製品やサービス、システムが品質、安全性、効率性を実現する相互運用可能な方法で実行されるようにする。

標準を制定し、管理するための組織は数多く存在する。例えば国際標準化機構(International Organization for Standardization、ISO)、欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute、ETSI)、ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム (World Wide Web Consortium、W3C)がある。OASIS Open(OASISオープン) もこのカテゴリーに属する。標準はオープンかつ公平で透明性の高い組織が指導する、合意形成プロセスを介して開発される場合「オープン」となる。ほとんどの人は標準作成プロセスは慎重かつ計画的であり、妥協を通じた合意を得て、長期的な仕様と技術的な境界に達していることに同意するだろう。

合意点について

オープンソースとオープン標準は明らかに異なるが、これらのコミュニティの目的は同じ「相互運用性、イノベーション、選択」だ。主な違いは目標の達成方法で、私がここで主に言及するのは、文化とペースについてだ。

IBMフェローであり、Open Technology(オープンテクノロジー)のCTOであるChris Ferris(クリス・フェリス)氏は、標準化機構では、物事を遅くすることが重要だと考えているように見えることが多いと話してくれた。時には正当な理由がある場合もあるだろうが、競合によって出し抜かれているようにも見える。オープンソースの場合は、より共同的で、論争や競合は少なく見える。だかこれは同じ分野で取り組まれる競合的なプロジェクトがないということではない。

ペースに影響を及ぼすもう1つの文化的特徴として、オープンソースはコードの記述に関するもので、標準化機構は散文の記述に関するものである。長期的な相互運用可能性に関しては言葉がコードを上回るため、標準の文化は標準を定義する散文を作成することからさらに計画的で考え込まれたものである。標準は技術的に静的ではないが、標準における意図は、長期的に重大な変更をせずに機能することに到達することだ。逆にオープンソースコミュニティでは反復的な考え方でコードを記述し、コードは基本的に継続的な進化の状態にある。この2つの文化はコミュニティが協調的に動こうとすると、衝突することがある。

もしそうなら、どうして調和しようとするのであろうか?

オープンソースとオープン標準の協調により、イノベーションに拍車がかかる

インターネットはオープンソースコミュニティとオープン標準コミュニティ間の調和により達成できることの最適な例だ。インターネットがARPANET(アーパネット)として始まったとき、TCP/IPより前の一般的な共有通信標準に依存していた。時間の経過、標準、オープンソースの実装とともに、TCP/IP、HTTP、NTP、XML、SAML、JSONなどが採用され、災害警報(OASIS CAP)や標準化されたグローバル取引インボイス(OASIS UBL)などのオープン標準とコードで実装される、主要グローバルシステムが作成できるようになった。

インターネットは完全に世界を変えた。オープン標準コミュニティとオープンソースコミュニティ間の協調精神を活性化できるのであれば、今後もこのレベルの技術的イノベーションや変化を遂げられる力はあるだろう。

調和と統合の自然な道を見つける

現在、リポジトリにはすべての重要なオープンソースプロジェクトがあり、そのソフトウェアの長期的な運用可能性を実現するには関連する標準で協力する機会が数多くある。OASIS Openのミッションの一部は、そのようなオープンソースプロジェクトを特定し、共同的な環境と、困難なプロセスにならずに標準が作成できるすべての足場を提供することである。

フェリス氏はこの統合への道の成長の必要性についても話してくれた。例えば、この必要性はアジアで技術を使用したい場合に顕著である。国際標準がなければ、アジアの企業は話も聞かないだろう。欧州共同体も標準に対して強い選好を主張しているように見える。これは確実にエコシステムで手強い相手と応戦できるオープンソースプロジェクトの推進力になる。

オープンソースプロジェクトがそれ自体よりも大きくなる場合も、統合の必要性が増していることが認識できる。つまりオープンソースプロジェクトが他のさまざまなシステムに影響を及ぼし始め、そうしたシステム間で調整が必要になる場合である。例えば遠隔測定データの標準がある。遠隔測定データは現在、可観測性からセキュリティまでさまざまな目的で使用されている。ソフトウェア部品表(SBOM)もまた別の例として挙げられる。ソフトウェアの出所を追跡する課題に対処するためにオープンソースの世界でなんらかのことが行われていることは分かっているが、これは成功するためには標準が必要になるまた別のケースだ。

チームとしての協力が必須

幸いなことに、オープンソースコミュニティとオープン標準コミュニティの最終的な目標は同じ「相互運用性、イノベーション、選択」だ。またインターネットからTopology and Orchestration Specification for Cloud Applications(TOSCA)などに至るまで、提携すべき方法とその理由は見事に証明されている。さらに主な利害関係者は特定のオープンソースプロジェクトでは戦略的な長期的観点が必要で、それには標準が含まれることを支持し、認識している。

これはチームとして協力する上で大切な開始点であり、各団体は進んでお互いや利害関係者と協力するときが来ている。

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(文:Guy Martin、翻訳:Dragonfly)

【コラム】DXを「エシカル」にリードする方法、倫理優先の考え方は従業員と利益を守る

【編集部注】本稿の著者Angela Love(アンジェラ・ラブ)氏はリーダーシップ開発のコンサルティング会社であるThe Daymark Groupの創設者。Fortune 50に名を連ねるスタートアップのリーダーやチームのために、明確さと成功を生み出す手助けをしている。

ーーー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ほぼすべての分野でデジタル変革(DX)の必要性が加速されたことは周知の事実だ。この状況下で、企業が成功を収めるために行っている活動は常に注目されている。しかし、企業がどのようにそれを行っているかについては、あまりわかっていない。

端的に言えば、イノベーションとデジタルソリューションの導入が爆発的に進む中で、倫理的配慮が犠牲になることは許されない。

これはモラルの問題でもあるが、同時に最終的な利益の問題でもある。社内外の利害関係者は、倫理的な境界を曖昧にする(あるいは無視する)企業に対して寛容ではなくなっている。このような現実は、組織のリーダーが新たな学習曲線、すなわち「設計段階からのエシックス(倫理)」を含むDXの取り組みを受け入れる必要があることを意味する。

倫理を後回しして生じる問題

エグゼクティブのライフスタイルやゴールデンパラシュート(敵対的買収を防止するために事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておくこと)の弊害を指摘するのは簡単だが、倫理違反のパターンは、リーダーシップだけではなく、会社全体の文化に起因することがほとんどだ。従業員個人の価値観に合致しているから(従業員が)倫理的な行動をとる、というのが理想的だが、最低限、倫理違反が組織に与えるリスクを理解しておく必要がある。

筆者の経験では、そのような議論は行われていない。コミュニケーション不足とか、ビジョンの欠如と言ってもいいかもしれないが、ほとんどの企業では、潜在的な倫理的リスクをモデル化することは、少なくとも公式には行われていない。議論があるとしても、上層部のメンバー間で、密室で行われることが多い。

倫理的な問題はなぜもっと大々的に扱われないのだろうか?答えの1つは、ビジネス上のヒエラルキーに関する従来の考え方を捨てたくないことかもしれない。また、積極的な姿勢が支配する強い(かつ皮肉なことに有害な)文化的メッセージに関係しているかもしれない。リーダーが「破壊的思考の文化を作りたい」と話す例もあったが、単にそれを「成長思考が不足している」と発言した従業員に伝えただけだった。

では、どうすればいいのだろうか?筆者が効果的だと思う解決策は3つある。

  • 倫理観を組織の中核的価値観にする
  • 透明性を確保する
  • 倫理的な課題や違反に対処するための戦略を積極的に策定する

これらのシンプルな解決策は、DX以降の倫理問題を解決するために最適な出発点となり、リーダーが会社の中核をよく検討し、今後何年にもわたって組織に影響を与えるような決断をするきっかけとなる。

DXの分野では対人関係の力学が懸念される

DXは、本質的には技術的な作業で、AIやデータ運用などの分野の高度で多様な専門知識を持つ人材が必要とされる。この分野のリーダーには、困難な課題に取り組めるだけの複数のドメインを扱える能力が求められる。

ここに大きな課題がある。技術的に優れた人材を集めれば、専門用語を知らない人を委縮させ、質問することを躊躇させる専門知識に傲慢な文化が生まれるからだ。

DXは、単にインフラやツールの問題ではなく、本質的にはチェンジマネジメントの問題であり、健全な変革を実現するためには、多機能なアプローチが必要だ。企業が犯しうる最大の過ちは、技術的な専門家だけで議論するべきだと思い込んでしまうことだ。その結果、サイロ化が進み、エコーチェンバー(反響室)のようになって、倫理に関する会話ができなくなってしまう。

どれほど技術的な問題であっても、DXを急ぐ場合でも、基本的に人を第一に考えて解決しなければならない。

エシカルなDXには出発点が必要である

DXに関連する倫理的要請のすべてが「人を第一に考えなければならない」という提言のように議論の余地があるわけではない。中には「そこに到達するための出発点はここ」というような、もっと白黒がはっきりしたものもある。

幸いなことに「そこに到達する」のにゼロから始める必要はない。ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)の基準を利用することで、解釈の余地がほとんどない高度に構造化されたフレームワークを構築し、デジタルソリューションの設計と導入に向けた強固な基盤を準備することができる。

GRCモデルはスタートアップ企業にも多国籍企業にも有用で、単なるガイダンス以上のものを提供する。よく検討してGRC基準を適用すれば、リーダーシップの評価、進捗報告、リスク分析にも利用できる。ボウリングのバンパーのように、ストライクは保証できないものの、ボールが絶対に溝に落ちないようにすることが可能になる。

GRCベースのフレームワークの作り方を知らない企業もあるかもしれない(ボウリングのバンパーを作れと言われても困るのと同じ)。そのため、多くの企業が、IBM OpenPages、COBIT、ITILなどのあらかじめ製作された基盤を提供している。これらの「スターターキット」に共通する目的は、組織が属する業界や組織に関連するポリシーや統制を特定し、そこから重要なコンプライアンスポイントに線を引くことである。

一般的にクラウドベースで開始されるGRCプロセスは、少なくとも部分的には自動化されているが、組織全体の意見と透明性を必要とする。特定の部門による主導や、厳密なトップダウン方式では、効果的な運営はできない。実際、GRC基準の導入に際して理解しておくべき最も重要なことは、組織のリーダーシップと組織全体の文化の両方がGRCの方向性を完全に支持しない限り、GRCはほぼ確実に失敗するということだ。

倫理を優先する考え方が従業員と利益を守る

経営者、起業家、インフルエンサーなど、今日の社会におけるリーダーは、デジタル競争に「勝つ」ことだけを考えるべきではない。変革は短距離走ではなくマラソンのようなものだが、いずれにしても技術が重要である。競争上の優位性という最終目標を達成するためには「何を行うか」と同様に「どのように、なぜ行うか」が欠かせない。

これは、組織のすべての部門に当てはまる。オーナーや従業員などの内部の利害関係者は、倫理に対する周縁的アプローチを黙認することで、自分のキャリアや評判を危険にさらす。顧客、投資家、サプライヤーなどの外部の利害関係者も、内部の利害関係者と同様に多くのものを失う。この事実をお互いに理解しているからこそ、業界・業種を超えた透明性の追求が可能になる。

自身の監視下での倫理的堕落を許容した個人や企業に対する大規模な攻撃を観たことがあるだろう。同じような経験をするリスクを完全に排除することは不可能だが、リスクを管理することはできる。危険なのは、DXの「技術面から目をそらす」ことによって、全体像を見渡せなくなってしまうことだ。

このリスクを軽減し、真に倫理的な方法でデジタル時代の課題に立ち向かおうとする企業は、組織の内外で、倫理性、透明性、包括性の意味についてシンプルに話し合うことから始める必要がある。そして、必要に応じて行動を起こし、組織全体で先入観を持たずにその会話をフォローしていく。

組織がかつてないほど急速に活動し、変化している今、イノベーションの遅れを心配するのは賢明だが、適切なすべての倫理的配慮を行う時間はある。それを怠ると組織の先行きは危うい。

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(文:Angela Love、翻訳:Dragonfly)

SF作家に聞く「スペキュレイティブ・フィクション」はこのクレイジーな世界で何かを教えてくれるのだろうか?

マーク・トウェインが「Truth is stranger than fiction(真実は小説より奇なり)」という言葉を残しているが、私たちはこの1年、極めて奇妙な現実を経験してきたと言っても過言ではない。このような混乱と変化の中で、私たちは根本的な疑問に導かれた。それは、スペキュレイティブ・フィクション(現実世界と異なった世界を推測、追求したもの)、そして隣接するジャンルのSFやファンタジーが向かうところだ。私たちの世界の大部分が、これらの作品が描くファンタスティックな世界をすでに体現しているように見える。

そこで筆者は、Eliot Peper(エリオット・ぺーパー)氏とGmailを介して対談する機会を得て、2020年の振り返りと、スペキュレイティブ・フィクションの意義、そして芸術の未来について語り合った。ぺーパー氏は不定期に執筆活動をするフィクションコラムニストで、著書に「Veil」やAnalogシリーズ3部作などのスペキュレイティブ・フィクション小説がある。

この会話は一部編集の上、要約されている。

Danny Crichton(ダニー・クライトン):スペキュレイティブ・フィクションの将来に注目しています。私たちは、パンデミックと数々の深刻な気候変動という、このジャンルの素材ともいえる出来事に直面する1年を経験しました。現実が想像の生み出す扁桃体と隣り合わせのように思われる中で、どのように推測(スペキュレーション)を続けていますか?

エリオット・ぺーパー氏: 現在の事象を通して痛感することは、現実は、フィクションと違って現実的である必要はないということです。世界は複雑であり、いかに理知に富んだ人でも、実際に起きていることをほんのわずかしか理解していません。次に何が起こるかは、誰にもわからないのです。サイエンス・フィクションの中で生きているように感じるかもしれませんが、それは私たちが常にサイエンス・フィクションの中で過ごしてきたからです。あるいは、スペキュレイティブ・フィクションは、いわゆる現実的なフィクションよりも現実的かもしれません。明日は今日とは異なり、私たちが予想するものとは異なるという唯一の確実性があるからです。根本的な変化のない世界を描写することが、空想的なものとなっています。

スペキュレイティブ・フィクションの作家として、私は歴史の熱心な読み手です。過去について読み、求知心を満たして将来の可能性を想像する中で、現在というのは極めて偶発的で、魅力的で、一過性であることを認識しました。私にとって、スペキュレイティブ・フィクションは予想というよりも、ジャズミュージシャンがスタンダードを越えて即興するように、世界の移り変わりをリフするものです。正確という概念は間違いの存在により生じます。この上なく魅力的な演奏は、人々の思い、夢、感情をかきたてるものがあるから、魅了するものとなります。そして、テクノロジー的なレバレッジがあるからこそ、人々はより大きな広がりをもって、良い方向にも悪い方向にも未来を創り出していくのです。

ですから私は、現実がスペキュレイティブ・フィクションに追いつくことを懸念していません。スペキュレイティブ・フィクションは人間の現実体験に根ざしています。すべてのブラックスワン・イベント(連鎖反応を引き起こす予期せぬ事象)は、新しい素材でしかありません。

クライトン:そのことは、現実的なフィクションとスペキュレイティブ・フィクションの境界を曖昧にしてしまい、作品の分類を難しくしているように私には思われます。私にとってパンデミックの現実は、地球全体に新しいウイルスが定着するというブラックスワンではなく(つまるところパンデミックは歴史上広く存在する)、私たちが目の当たりにした「混乱に満ちた対応」というブラックスワンであり、そうした対応はことごとく不秩序を極めたものとなりました。

もし私がスペキュレイティブ・フィクションのシナリオを描くとしても「医学の進歩により治療法が飛躍的なスピードで開発されるが、人々による日常の対応が、自らの行動を通じて死者の数を大幅に増やすことに帰する」と考えることはできないと思います。私はスペキュレーション的なものを思うとき、劇的なもの、例外的な何かを想像しますが、今回のブラックスワンは、私たちの生活のありふれた行動が、事象の流れに影響を与える力を持つことを示しています。

ぺーパー氏:スペキュレイティブ・フィクションは「what if?(もし~だとしたら)」という問いにまつわるものです。もし宇宙飛行士がひとり火星に取り残されたらどうなるか?遺伝子工学者が恐竜を復活させ、アミューズメントパークに閉じ込めたら?すべての人がシミュレーションの世界で生活しているとしたら?私の最新小説Veilのもとになった問いは「億万長者が地球工学を駆使して地球の気候を支配したらどうなるか」というものでしたが、こうした問いは人の心を引きつけます。想像力を呼び起こし、好奇心を刺激します。これも良いことですが、出発点に過ぎません。

スペキュレーション的な設定を成功させるには、ストーリー全体に2次、3次、4次の効果が波及するようにドミノを配置する必要があります。モメンタムを構築するのです。漸進的な複雑性がラチェットのように締め付ける働きを担います。予期しない逆転により、読者を前に進めます。地震がサンフランシスコを平らにするというストーリーであれば、ベイブリッジの崩壊、湾岸高速鉄道の洪水、停電、ガス漏れ、火災など、物理的な影響の可能性を想像するのは簡単です。社会的影響の可能性を想像することは、あまり明確なものではありませんが、少なくとも同等の重要性はあります。人々は隣人を救出するために命を危険にさらすのか、それとも限られた緊急物資のために戦いを繰り広げるのか。知事や大統領は、それぞれの個性、インセンティブ、選挙区を考慮しながら、どのように対応するのか。こうした事象は、ベイエリアの社会構造をどのように再構築していくのだろうか。(これも重要なことだが、Dwayne Johnson[ドウェイン・ジョンソン]氏はどこにいるのか?)人々が事象にどのように反応するかは、事象がどのように展開するかにとって欠かせない要素です。

2020年4月に発表されたLawrence Wright(ローレンス・ライト)氏の「The End of October」は、世界的なパンデミックに対する社会的・政治的反応の複雑で連鎖的な事象の推定という点で不気味なほど的確な作品となっています。Kurt Vonnegut(カート・ヴォネガット)氏の「Galápagos」は、現実的であることが不条理と感じるような世俗的で荒廃した人間の近視眼によって導かれる終末論的なシナリオを描いています。サイエンス・フィクションの中にはテクノロジーの変化における指標に主眼に置くものもありますが、Ada Palmer(エイダ・パーマー)氏の秀逸な「Terra Ignota」シリーズは、想像を絶する厳格さを持つ架空の未来の文化的、政治的、社会学的側面を映し出しています。人間の行動は往々にして、元のシナリオの影響に変化と増幅をもたらし、その過程で新しい世界を形作るXファクターとなるのです。

ただ、これはより深い疑問を示唆しています。フィクションは何のためにあるのでしょうか?

私はフィクションを描くとき、現実の正確な描写や予測を意図してはいません。私は、読者を感動的で、驚異的で、充足感のある旅に導くための体験を生み出そうとしています。現実世界の特に興味深い側面に根ざしたシナリオを推定することにも楽しさはあるかもしれませんが、その成功が正しい方向に向かうとは限りません。成功は、読者が夜深くまで読み進めて、自分では表現できない、忘れられないストーリーの先に何が起こるのかを見い出すことにあります。

Neil Gaiman(ニール・ゲイマン)は、おとぎ話は真実以上のものだと好んで主張しています。それは、ドラゴンが存在することを伝えているからではなく、ドラゴンを倒すことができることを伝えているからです。スペキュレイティブ・フィクションでは、私は深い感情的な真実を明らかにしたり、歴史の流れを形作る根底にある力を明らかにしたりするストーリーに惹かれます。たとえそれが、壮大でありながら、文字通りの詳細についてはおかしいくらい間違っていたとしてもです。これは、テクノロジー的な正確性を追求することが悪いということではなく、単にそれが常に重要なことではないということです。重要なことは、世界の違いを考えさせ、感じさせ、想像させることではないでしょうか。

クライトン:最後の点について、想像力とその変化への力についてあなたがどのように考えているかに興味があります。明らかに、芸術は歴史を通して人々の想像力に持続的かつ強力な影響を与えてきましたし、大きな社会的、文化的、政治的変化にはしばしば芸術的な先例が存在します。しかし、歴史的に見て、少なくとも私の観点からは、その力の一部は、その希少性と意外性にあると思われます。

私たちは今、テレビゲームから映画、テレビ番組のストリーミング、本やグラフィックノベルなど、想像力に富んだ世界に囲まれています。時間の使い方に関する研究を読むと、アメリカ人は起きている時間の大半を想像力に満ちたコンテキストの中で過ごしている可能性があるということです。芸術における想像力の広がりの極まりと、日常生活における変化の極微さとのギャップをますます感じるようになってきたと私は感じます。それは芸術が変化を引き起こす力を脅かしているのでしょうか?スペキュレーションは依然として、行動につながり得る活動でしょうか?

ぺーパー氏:スペキュレーションは、人間であるということの一部です。私たちは選択をする前に、起こり得る結果を想像します。潜在的な未来を空想の中でシミュレートしてから、それを現実にコミットします。私たちの頭の中の予想は往々にして間違っていることもありますが、有用であることも多くあります。良くも悪くも、思考の実験は、私たちの内的生活の基礎になっています。この個人の動的な性質は、人々の集合体へと拡大していきます。より良い未来を想像することは、それを構築するための第一歩です。

芸術は想像の手段です。映画製作者は、人々が鑑賞し、鑑賞する中でそれぞれの想像力を発揮することができるように、自分のビジョンを映画に体系化します。時には文化と呼ばれるものを形成する、さらに多くのプロジェクトへとスピンオフする新たな創造的な試みを生み出すことさえあります。テクノロジーのおかげで、これまで以上に多くの映画、本、歌、詩、写真、絵画、コミック、ポッドキャスト、ゲームが、より多くの人々にとって入手しやすくなりました。想像の世界は、経験するにつれて現実世界の不可欠な部分となり、実際の事象に意味や可能性を重ねていきます。私たちは常にお互いの現実を解釈し、その過程で変換させています。この過程の密度と強さが増しているのは、より多様な次元に沿ってお互いをより緊密に結びつけようとする個体群の増加の結果といえるでしょう。

しかし、テクノロジーは新しい芸術メディアを実現し、人々が芸術を創造し、発見し、体験する方法を変えただけではありません。テクノロジーは人間の選択がもたらす影響を増幅します。ヒポクラテスはmRNAワクチンの発明には至らず、チンギス・ハンは核の黙示録を始めるボタンを押すこともなく、オデュッセウスはコードではなく木でトロイの木馬を作りました。

私たちのツールは、祖先が想像もしなかったような強大な力を私たちに与え、私たちの決定の結果はそれに応じて拡大します。テクノロジーの創意は道徳的に中立であるため、テクノロジーの発展は、時代を超えた人間の営みの問題を解決する上で重要な役割を担っています。良い生活を送り、より大きな善に貢献し、良い祖先になることは何を意味するのでしょうか。それは芸術家が多様で、不完全で、矛盾し、時には非常に価値のある地図を提供するような、道徳的地理学ともいうべきものです。ある意味、テクノロジーが私たちに力を与えるほど、私たちは芸術を必要とするのです。

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(文:Danny Crichton、Eliot Peper、翻訳:Dragonfly)

NYのトップホテルMint House、新型コロナの影響でそのおもてなしビジネスに変化

ニューヨーク市内の一流ホテルはどこであろう?TripAdvisor(トリップアドバイザー)ユーザーによると、それは Mint House at 70 Pine(ミントハウスアット70パイン)だ。写真を見てみるとその理由は明らかだ。ニューヨーク市内のホテルの部屋は基本的には、必要なすべてのものがコンパクトに収まったお弁当箱のようなものだが、Mint Houseの客室は違う。Mint Houseの客室はまるでマンションの部屋のようであり、旅行者はそれに注目している。

新型コロナのパンデミックにより、Mint Houseの業務形態が変わったが、各国で経済再開が始まる中、同社は出張者と観光客を迎え入れる状態にある。

Mint Houseは2017年に創業し、サービスを拡大しながら2019年には1500万ドル(約16憶円)の資金を得た。当時、Revolution Venture(レボリューションベンチャー)の管理パートナーでMint Houseの投資家であるTige Savage(タイグ・サベージ)氏は同社について「Mint Houseはホテルの良いところとAirbnb(エアビーアンドビー)の良いところだけを併せ持つ最高のホテルだ」と説明した。

同社は従来のホテルとは異なり、Airbnbで借りられる部屋のような客室を提供しているが、ホテルのようなサービスも提供しているのだ。Lyric(リリック)と呼ばれる別の企業も同様のサービスを提供しようとし、最終的に廃業する前に 1億5000万ドル(約164億円)調達していた

Mint Houseはそもそもセカンダリーマーケット(訳者注:ニューヨーク市以外)の出張者をターゲットにしていた。新型コロナが流行する前は主にインディアナポリス、デンバー、ナッシュビル、マイアミ、デトロイトで部屋を提供していた。Mint HouseのCEO Will Lucas(ウィル・ルーカス)氏は当時、こうした市場は、主な市場よりも宿泊状況が悪い場合が多いため、機会があったと説明した。

コロナ禍により、Mint Houseの軌道に変化があった、とルーカス氏はTechCrunchのインタビューで語った。パンデミックになったばかりのころ、サービス業は落ち込んだ。Mint Houseでも利用率が60%から一桁台に落ち込み、顧客への返金に応じて、従業員を一時解雇する必要があった。だが新しい営業チームメンバーを通じて徐々にMint Houseの提供するサービスがパンデミックに適していることがわかった。職場に行けなくなった人々は住む場所と仕事をする場所が必要だったのだ。出張する医療専門家には、第2の我が家が必要になった。一部の大学生は学生寮から追い出されても、授業には出席しなければならなかった。Mint Houseのマンションの一室のような客室は、キッチンといえばコーヒーメーカーと小さな冷蔵庫だけといった従来のホテルの客室と比べて、魅力的なものであった。Mint Houseの客室には、キッチンとリビング、そして最近需要が高まっている仕事スペースが付いているのだ。

パンデミックの状況に慣れてくると、Mint Houseでは宿泊数に大きな変化が見られた。コロナ禍になる前の平均宿泊数は4泊だったが、コロナ禍における平均宿泊数は21泊であった。これは宿泊者のニーズが変わったためだ。会議のために飛ぶ代わりに、長期的にリモートで働く場所が必要とされていた。パンデミックの真っただ中では、宿泊客の81%がリモートワーカーであった。

Mint Houseの主な特徴は、ソーシャルディスタンスを実践するためのようにも見えるが、これはパンデミックの前から採用されていたものだ。宿泊客はフロントデスクでチェックインをする必要がなく、カードキーもない。また食品等を注文して、到着前に部屋に運んでもらうようにできる。このサービスはビジネス旅行者用のホテル以外ではほとんど見かけることはないが、今や観光旅行者にも需要がある。またすべてのロケーションでカスタマーサービスが一元化されている。

2020年はサービス業のほとんどが弱っていたが、Mint Houseはすばらしい成長を遂げていた。パンデミックが始まってから数カ月後、Mint Houseの利用率は新記録を達成した。6月までには、客室の84%が予約で埋まり、2020年はその後も平均して80%以上の利用率を保った。また2020年後半にはポートフォリオを50%以上倍増し、成長した。

パンデミックのどん底からおよそ1年経った現在、Mint Houseは13の市場で24棟のホテルを展開している。

同社はニューヨーク市内では大手と競合しているとCEOのルーカス氏は言及した。

「ニューヨーク市内では2021年、平均して2.2倍のRevPAR(販売可能客室売り上げ)を上げている」と同氏。「当社のCompSet(競合社、この場合は競合ホテル)は、2つのThompson(トンプソン)ホテル、3つのMarriott(マリオット)ホテルとHilton(ヒルトン)ホテルなど、非常に手ごわい大手ホテルだ。当社は利用率ナンバーワン、ADR(平均販売価格)ナンバーワンで、総合してもCompSetを上回っている」。

ルーカス氏は、これらのランキングはMint Houseの強みと従来のホテルブランドからの差別化を示していると確信しているが、さらなる成長のために老舗ホテルブランドからエグゼクティブを迎え入れた。

Mint Houseは最近、新しく数名のエグゼクティブが加わったことを発表した。Domio(ドミノ)、Hilton(ヒルトン)、MGM Hospitality(MGMホスピタリティー)、Marriott(マリオット)で働いていたJim Mrha(ジム・マルハ)氏をMint HouseのCFOとして迎え入れ、TPG Hotels & Resorts(TPGホテルズ&リゾーツ)とStarwood(スターウッド)の元投資担当者兼エグゼクティブのPaul Sacco(ポール・サッコ)氏は最高開発責任者(CDO)として加わった。また、トラベルeコマーススタートアップPorter & Sail(ポーター&セイル)のエグゼクティブであったJess Berkin(ジェス・バーキン)氏は新しくマーケティングおよび通信のエグゼクティブに就任した。

「当社はこれから本当に猛進すると思う」とルーカス氏は自慢げに語った。

世界が再開へと進む中、Mint Houseはアグレッシブな成長戦略に取り組もうとしている。同社は販売可能客室数を倍増し、1カ月以内のロンドンへの進出から初め、最終的には南米まで、全国に進出することを考えている。

2021年も半分を過ぎ、パンデミックも落ち着く中で旅行が再び変化し始めている。Mint Houseの平均宿泊数は2020年の21泊から6泊程度に下がっている。ルーカス氏によると、これは観光旅行者が増加しており、短期出張も戻っている。そしてホームオフィスから離れて、マイアミなどの新しい場所でリモートワークをする新しいタイプのビジネス旅行者もいる。

Mint Houseはホテルと、Airbnbが提供するような短期レンタルの中間に位置付けられる。ホテルが提供する利便性と信頼を提供しながら、短期レンタルのスタイルと心地よさも提供するのだ。同社がその計画を遂行できるのであれば. 最近行ったエグゼクティブの雇用が役に立つはずで、ニューヨーク市内、そして全米ならびに世界でHiltonやMarriottと十分に渡り合っていける。

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画像クレジット:Mint House

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(文:Matt Burns、翻訳:Dragonfly)

AIで心を癒すあなただけのアロマを調合、コードミーが「香りのトータルコーディネート」など新展開

AI技術を駆使してパーソナライズされた香りを届ける「CODE Meee ONE」が人気だ。同サービスを提供するコードミーは2017年4月に創業。BtoC向けにフレグランス関連商品の企画・開発・販売を、BtoB向けに香りの空間デザインなどを展開している。2020年度はBtoC、BtoB合わせて、売上ベースで対前年比約400%増になったという。コードミーの太田健司代表に、事業内容や新たな展開について話を聞いた。

コードミーが扱う「香り」とは

誰でも、ある香りを嗅いだ瞬間、その香りにまつわる記憶が一瞬でよみがえるといった経験があるのではないだろうか。国内最大手の香料会社で10年間フレグランス開発などを行ってきた太田氏は「人間の五感で唯一、嗅覚は感情と記憶に直接結び付いています」と説明する。

脳には、喜怒哀楽などの感情や記憶をつかさどる器官を持つ大脳辺縁系がある。大脳辺縁系には、匂いだけがダイレクトに伝達される。このため、香りを嗅げば無意識のうちに、過去の情景が呼び起こされるといった現象が起きるのだという。

太田氏は「香りはパワフルなツールですが、まだ完全には解明されていない部分も多いものです。例えば、人が亡くなるとき、最後に残っている感覚は嗅覚だといわれています。原始的で神秘的な香りの可能性は、とても大きいと思っています」と話す。

ストレス課題の解消を狙う「CODE Meee ONE」

CODE Meee ONEは、毎月アロマが届くサービスだ。サブスク型で1カ月税込1800円。年齢や性別の他、睡眠不足・疲労・二日酔いといった自身のストレス課題、香りの好みなどをウェブ診断で答えれば、3000パターン以上の中からパーソナライズされた3つのアロマが提案される。

サービス利用中は香りの再診断もできる。「季節や自身のライフステージに合わせ、抱えるストレス課題や、香りの好み、香りに期待する機能性などは変化するという前提です。その時々の診断結果に合わせて『今のあなたに最適な香りが作られる』ことになります」と太田氏はいう。なお、お試しとして単発でも購入可能で、その場合は税込2800円となる。

CODE Meee ONEでのウェブ診断後、パーソナライズされたアロマの代表的な素材3つがユーザーに表示されるようになっているが、それぞれの配合比なども個人によって変わる。

太田氏は「CODE Meee ONEで出来上がるアロマは、その人にしかない香りになります。素材の配合比や濃度など細かく分けていけば、実質的にそのパターンは無限に近くなります」と語った。

また、パーソナライズのためにサービスをTwitterと連携することもできる。直近の投稿データ200件分をAIが解析し、現在の精神状態をグラフでビジュアル化。この結果に基づいてさらにアロマをもう1つ提案している。

太田氏は「Twitterによる分析は、IBMの人工知能『Watson』と連携しています。直近の投稿データ200件分に出てくる単語ごとに分析しています。『Twitterは本心ではなく、建前も多い』とよく言われますが、人は使う単語にクセが出ます。本人も意識していない、しっかりとしたインサイトが単語から分析できるのです」と説明する。

CODE Meee ONEはサービスローンチから2年近く経つが、新型コロナが蔓延する中、顧客の幅が一気に広がったという。「コロナ禍で『自分の心身を労わろう』という考えが広がり、家の中でより豊かな時間を感じたいと、新たに香りに着目している人が増えました」と太田氏はみる。現在、数千人がサービス利用している。

CODE Meee ONEで蓄積したユーザーデータはパーソナライズの精度を上げることはもちろんだが、BtoB事業にも活かしている。

「BtoB向けの空間デザインでは、ターゲット層に対して、香りによって『集中力を上げる』『リラックスする』などの機能を期待したいといったとき、蓄積したデータを活用しながら、香りを開発しています」と太田氏。

BtoB向けの空間デザインも基本的にはサブスク型で提供し、価格は企業や案件によりその都度カスタマイズする。コードミーは東急不動産ホールディングスなど、すでに数十カ所以上で空間デザインを行っている。

科学に裏打ちされたデータに基づく香り

コロナ禍において、コードミーはマスク専用のプレミアムアロマスプレーの販売も始めた。

太田氏は「マスクに吹きかけるアロマスプレー自体はすでに世の中にありました。ただ、それらは単にいい香りがするというものが多いです。我々は、脳波を測定し、感性科学的に『快適度の向上』『ストレス値の軽減』といった結果が出たオリジナルの調合香料を開発しました。科学に裏打ちされたアロマスプレーとして人気が集まり、売上向上にもつながりました」と説明する。

コードミーでは2017年の創業時から、バイタルデータと香りの相関性を重要視し、研究を進めてきた。バイタルデータの中でも特に着目しているのが脳波だ。2019年には電通サイエンスジャムとの連携により、脳波による感性把握技術に基づく香りで、快適な職場環境をデザインする実証実験も行った。

さらに2020年には、東京・江戸川病院と連携し、臨床研究も始めた。医療・介護施設には、疾患や薬剤などに関連する医療現場特有の匂いがある。特にがん医療の現場では、がん組織に由来する特有の腫瘍関連の匂いが日常生活に関わる問題となっていながらも、いまだに根本的な解決策は確立されていないという。

コードミーではコロナ渦の過酷な状況で働く医師、看護師、介護士らを対象に、マスク専用プレミアムアロマスプレーを提供して効果検証を行った。

太田氏は「結果として、総合的な快適度が上がり、医療施設特有の匂いに対するネガティブな感覚も改善傾向が見られたことが、定性と定量の両データで示されました。今後はデータに基づくソリューションフレグランスを、医療施設内の空間デザインへと展開し、患者様、ご家族などのQOL(生活の質)向上に対する取り組みを計画中です」と述べた。

新たな「香りのトータルコーディネート」

コードミーは新たな展開として、生活のあらゆるシーンにパーソナライズした香りで寄り添う「香りのトータルコーディネート」を展開する。2021年内にはファーストプロダクトも出す予定だという。

シャンプーや石鹸、洗剤、柔軟剤、ルームフレグランス、ハンドクリームなど、日々の暮らしの中で香りを感じる場面は多くある。これらの商材をパーソナライズして提案し、好みの香りを1日を通して楽しめるようにするのだ。

現在はウェブ診断などの質問項目や販売方法なども検討段階だ。入浴剤などはサブスク型でも良いが、香水はそれほど利用率が高くないため、プロダクトにあったカタチで販売方法を検討する必要があるとする。

太田氏は「ウェブ診断でも、例えば香水なら『どんな自分を表現したいか』といったように、設問も大きく変えていく必要があります。このサービスは、完成形に至るまで時間がかかるかもしれません。ただ、年末にはまず新しいプロダクトを、また来年以降にもいくつか出せるよう動いていきます」と語った。

その上で「香料会社で培ったスキルと経験がある私だからこそできることがしたいと考えています。パーソナライズされた香りのトータルコーディネートが実現すれば、日本初のサービスになると思います」と太田氏は自信を見せる。

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タグ:コードミー香りパーソナライズ人工知能Watson日本

画像クレジット:コードミー

【コラム】核廃棄物のリサイクルはエネルギー革新の最重要手段だ

編集部注:本稿の著者Tristan Abbey(トリスタン・アビー)氏は、Comarus Analytics LLC社長。米国上院エネルギー天然資源委員会の上級政策アドバイザー、および国家安全保障会議の部長を務めた。

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米国のエネルギー・環境政策を語る上で、核廃棄物ほど悩ましいものはない。そう、気候変動は邪悪な問題かもしれないが、一方で膨大な数の苦悩を打ち消す話題が注目を浴びている。

この話題を正面から語るのは難しい。まず、物語の3つの要素から始めよう。

第1に、米国内の原子力発電所は年間約2000トンの核廃棄物(「使用済み燃料」とも)を生み出している。それらは生来の放射能ゆえに、国内のさまざまな場所に、注意深く保管されている。

第2に、これをどうすべきかの責任を負っているのは連邦政府である。実際、原子力発電事業者は核廃棄物基金に400億ドル(約4兆3900億円)以上をつぎ込んでおり、そのおかげで政府は対応が可能になっている。それは、ネバダ州ユッカマウンテンにある「地層処分処理場」に埋めるという考えだったが、政治的に不可能であることが証明された。にもかかわらず、事前調査やヒヤリングなどに 150億ドル(約1兆6470億円)が費やされた。

第3に、エネルギー省の廃棄物管理能力欠如のために、核廃棄物は蓄積される一方である。同省の最新公表データによると、およそ8万トンの使用済み燃料(数百万本の燃料棒を擁する数十万基の燃料集合体)が最終目的地を待っている。

そして、予想外の結末はこれだ。問題の原子力発電事業者らは政府を契約違反で訴え、2013年に勝訴した。毎年何億ドル(何百億円)という賠償金が、一連の和解と判決の一環として米国財務省から支払われている。支払総額は80億ドル(約8780億円)を超えている。

このストーリーが少々どうかしていることに私は気がついている。私は次のようなことを本当に言っているのだろうか?米国政府は核廃棄物を処理するために数十億ドル(数千億円)を集め、次に数億ドル(数百億円)を実現可能性調査に費やしながら埃をかぶらせ、今度はこの失敗のために数十億ドルの上を行く金額を支払っている。そのとおり、そう言っている。

幸い、集められた廃棄物のすべては比較的少ない場所を占めており、一時的保管場所は存在している。行動を起こす緊急な理由がなければ、政策立案者は動かないのが普通だ。

長期的保管場所を見つける試みを続ける一方で、政策立案者はこの「廃棄物」を使用可能な燃料にリサイクルすることを考えるべきだ。実はこれ古くからあるアイデアだ。発電のために消費されるのは核燃料のごく一部でしかない。

再利用推進者らは「再処理」使用済み燃料を使って燃焼後に残ったエネルギーの90%を抽出する原子炉を構想している。批判派たちさえも、リサイクルを支える化学、物理学、および工学は技術的な実現可能であることを認めており、批判の矛先は、経済性の疑問と安全性の潜在リスクに向けられている。

いわゆる第4世代原子炉と呼ばれるものが、あらゆる形とサイズで存在する。その設計は古くからあるが(ある部分は核エネルギーの夜明けにさかのぼる)、政治、経済、および戦略的理由によって軽水炉がこの分野を支配してきた。例えばSouthern Company(サザン・カンパニー)がジョージア州で建設中の2基の従来型加圧水型原子炉は、それぞれ1000MW(1GW)をわずかに超える能力を有しており、これはウェスティングハウスのAP1000設計の標準的な値である。

それに対し、次世代原子炉設計は大きさも容量も数分の一で、さまざまな冷却方法を利用可能だ。オレゴン拠点のNuScale Power(ニュースケール・パワー)の77MW小型モジュール式原子炉、カリフォルニア州サンディエゴ拠点のGeneral Atomics(ゼネラル・アトミックス)の50MWヘリウム冷却高速モジュール式原子炉、カリフォルニア州アラメダ拠点のKairos Power(カイロズ・パワー)の140MW溶融フッ化物塩冷却炉など、企業や政策の目的に合わせてさまざまな構成が可能だ。

多くの第4世代設計が、再生使用済み燃料専用あるいは使用する構成が可能になっている。米国時間6月3日、TerraPower(テラパワー、ビル・ゲイツ氏が出資)、GE Hitachi(日立GE)、ワイオミング州の3者は、ナトリウム冷却高速炉である345MW Natrium設計の実証炉建設に合意した。

Natrium設計は、再生燃料を発電に使用する技術的能力をもっている。すでにカリフォルニア州拠点のOklo(オクロ)は、Idaho National Laboratory(アイダホ国立研究所)とともに、使用済み燃料を使う1.5メガワット「マイクロ原子炉」の運用で合意している。ニューヨーク拠点のElysium Industries(エリシウム・インダストリーズ)による溶融塩炉設計は、自称「優先燃料」として、使用済み核燃料を使用しており、アラバマ州拠点のFlibe Energy(フライブ・エナジー)は、自社のトリウム原子炉設計の廃棄物燃焼能力を宣伝している。

次世代原子炉の成否は、行き詰まり状態にある核廃棄物問題の解決には依存してない。新たな原子炉は使用済み燃料を消費する能力をもってはいるが、必ずしも使わなくてはいけないわけではない。それでも、廃棄物リサイクルを奨励することで経済性を改善できるだろう。

ここでいう「奨励」は「金」を意味している。政策立案者は、再生燃料を使ったほうが、カナダやカザフスタン、オーストラリア、ロシアなどの諸外国から燃料を輸入するより発電所が儲かる仕組みを政府が作る方法を考えるべきだ。

リサイクルを含む次世代核技術に対する政治的支援は、想像以上に奥が深い。2019年、上院はRita Baranwal(リタ・バランワル)博士をエネルギー省(DOE)原子力エネルギー担当次官補に任命した。材料科学の教育を受けた同氏は、すぐリサイクル推進者なった

バイデン新政権は、新型原子炉に対する支援を広く超党派的に継続してきたことに加えて、会計2022年度予算要求ではエネルギー省原子エネルギー部の予算を3億5000万ドル(約384億2000万円)近く増額する提案を出した。提案には原子炉コンセプトの研究開発(3200万ドル[約35億1000万円]増)、燃料リサイクルの研究開発(5900万ドル[約64億8000万円])および新型原子炉実証実験(1200万ドル[約13億2000万円]増)、多目的試験炉の予算3倍増(前年の4500万ドル[約49億2000万円]から1億4500万ドル[約159億2000万円]へ)など具体的な予算増が盛り込まれている。

2021年5月、エネルギー省のエネルギー高度研究計画局(ARPA-E)は、高度原子炉の廃棄物処理「最適化」の研究を支援する4000万ドル(約43億9000万円)の新たなプログラムを発表した。重要なのはこの発表が、現在の核廃棄物ソリューションの欠如が、第4世代原子炉の未来に「難題を突きつけている」ことを明確に表明していることだ。

この議論は、一般にリサイクルが非常に厄介なプロセスであることのリマインダーである。それは化学、機械、エネルギーすべてが集約されたプロセスだ。希少鉱物からPETボトルまで、あらゆるリサイクルは新たな廃棄物も生み出す。現在、連邦および州政府はさまざまな廃棄物のリサイクルに極めて積極的だが、核廃棄物にも同じように関与すべきだ。

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カテゴリー:その他
タグ:原子力 / 核電力エネルギーアメリカコラム

画像クレジット:Micha Pawlitzki / Getty Images

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(文:Tristan Abbey、翻訳:Nob Takahashi / facebook