キャノーラ油やパーム油などの植物油は、否でも応でも私たちの食生活の主要な部分を占めるようになった。有用な物質ではあるが、体に良いとは言い難く、森林破壊の大きな原因になっている。Zero Acre Farmsは、微生物と発酵によって生産される、改良された代替品を提供することを目指す新しい企業で、その目標のために3700万ドル(約42億9600万円)を調達した。
調理に油を使うのは新しいことではないが、私たちの消費量は増えている。確かに私たちは何世紀にもわたって、オリーブ、アボカド、乳製品などの油性の食品を、脂肪として、また調理のために使用してきた。しかし、100本のトウモロコシの穂、あるいは同量の大豆、ひまわりの種などから1カップの油を絞り出すという技術革新が、その方程式を変えてしまった。
他の加工食品と同様、植物油は便利で持ち運びもできるが、体に良いということはほとんどない。フライパンの油引きに小さじ1杯、クッキーのレシピに大さじ1杯を使っても害はないが、これらの油は私たちが食べるカロリーのかなりの部分(5分の1にもなる)を占めるまでに浸透してしまっている。冷蔵庫やスナックの入った引き出し、あるいはファストフード店に行ってみると、いたるところに植物油が使われているが、それは最終的な材料として使われているわけではない。
マヨネーズは何からできているのだろうか?植物油だ。アルフレッドソース(チーズクリームソース)のとろみは何なのか?植物油だ。ポテトチップスを食べた後、指につくのは何か?ご想像のとおりだ。
体に悪いだけでなく、大量に、しかも無駄な工程を経て作られるため、大豆やパームなどの油糧作物が育つ熱帯地域の森林破壊の主な原因になっている。そしてそれを使って調理すると、有害なガスが発生することもある。要するに、植物油はナパーム弾ではなくとも、すばらしいものではない。より健康的で、より資源を必要としない代替品があればありがたい。
Zero Acreは、同じように「自然」でありながら、より健康的で環境に優しいまったく新しい油の開発に取り組んでいる。それは発酵によって行われるもので、基本的には微生物に餌を与え、微生物が出したものを収穫する。
「ビールをつくるようなものですが、エタノールをつくる代わりに、微生物が油脂を作るのです。それもたくさん」と、CEOで共同創業者のJeff Nobbs(ジェフ・ノブス)はいう。
もちろん、発酵は多くの産業でよく知られ、頻繁に利用されているプロセスである。微生物は、入力(通常は糖分やその他の基本的な栄養素)と出力(微生物の自然な傾向か遺伝子操作によって決定される)のある小さな工場のようなものだ。例えば、パン作りに使われる酵母は、二酸化炭素とエタノールを生産する。前者は生地を膨らませるのに十分な量だ。しかし、遺伝子操作された酵母は、新薬のような、より複雑な生体分子を作り出すかもしれない。
画像クレジット:Ashwini Chaudhary
この場合、微生物はエネルギーを油脂として蓄える能力を持つものが選ばれている。「こうした微生物はそれが好きで、得意なのです」とノブスはいう。
このような試みをしたのは彼らが初めてではない。C16 Biosciences(Y Combinatorの2018年夏のバッチで紹介した)は発酵によってパーム油を複製しようとしているし、Xylomeは現在のバイオ燃料生産技術に代わるものを探している。合成生物学は、いわゆる微生物を特定の目的に合わせて調整することだが、それを支えるバイオテクノロジーのインフラが進歩するにつれて、ますます実行可能になっている。
Zero Acreの場合、自分たちが市場で戦いやすくなるように工夫している。コーンビジネスやパームビジネスに対抗するのは難しい命題だ。その代わり、食料品店で倫理的な買い物をしようとする消費者をターゲットにしている。オーガニックの卵、フェアトレードのコーヒーなどを買う消費者だ。価格は高くなるが、ノッブスは、当社が社会的善の側面だけに傾いているわけではないことを注意深く指摘した。
彼は次のようにいう。「私たちは、環境に良い『だけ』の合成油をつくっているわけではないのです。これは新しいカテゴリーの油脂です。私たちはより食品に適した、人間にとってより良い組成物を作ることができるのです」。しかし、一部の代替品とは異なり、レシピの修正などは必要ないとも付け加えている。「小麦粉の代わりにアーモンド粉を使うようなものではなく、1:1の置き換えです。代替しようとしている製品の代わりに、それを使うだけなのです」。
それだけでなく、高温で変なガスを発生させないし(260度の熱に耐える生体分子を進化させる理由は植物にも動物にもないと彼は指摘した)、他の油のような加工や矯味を必要としないため、実は味もさっぱりしている。
しかし、このような合成油に多くの利点があるのなら、なぜ多くの資源を持つ他の企業は、今までこれを試みなかったのだろうか?
「もし、あなたが大企業なら、これは本当に些細なことに思えるでしょう」とノブスは説明した。油は食料品店だけでなく、ファストフードチェーンや基本的な材料として必要とする生産者に、1000ガロン(約3785リットル)のタンクで売られている。家庭用の高級食用油は、油の最大の供給源にとっては誤差のようなものなのだ。それに「私たちのメッセージは植物油は良くないものだということです」と彼は続けた。「大企業はそういうことはできません。彼らは経済的にそのように自分たちの首を絞めることはしません」。
Zero Acreのアプローチに関連して、最近、技術面でもいくつかの進歩があった。
「発酵プロセスには、温度、pH、酸素の量、餌など、たくさんの要素があります。共同創業者がジョークで言っていたように、実験室でどんな音楽を聴くのかというようなものです。些細なことが大きな効果を生みます。私たちには、そのような最適なパラメーターを見つけるためのプラットフォームがあります。まだ多くの研究が必要ですが、いくつかの進歩がありました。そして私たちはこれに対し、世界最高の生物を使っていると思います」とノブスはいう。
より変わった分子の精密発酵と比較すると、製造工程が比較的単純であるため、同社はすでに製造工程を「何千何万リットル」まで拡大し、2022年後半には消費者向けにデビューする予定だ。最終的なブランディングや包装については、まだ明らかにされなかった。公開は実際の発売に近い時期になるだろう。
この3700万ドル(約42億9600万円)のAラウンドは、継続的な研究と商業的立ち上げに充てられるもので、Lowercarbon CapitalとFifty Yearsが主導し、S2G Ventures、Virgin Group、Collaborative Fund、Robert Downey JrのFootPrint Coalition Ventures、そしてシェフのDan Barber(ダン・バーバー)が参加した。
画像クレジット:Tolgart/Zero Acre Foods
[原文へ]
(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)