食料供給の未来を守るため、屋内栽培をスマート化するSource.ag

アグテックスタートアップのSource.agは米国時間3月1日、温室をよりスマートにするために1000万ドル(約11億6000万円)の投資を獲得したと発表した。創業者たちは、気候変動と人口増加にともなう世界的な食糧需要の急増により、より多くの作物が屋内で収穫量を確保せざるを得ないという地平を見据えている。温室に関する記事を書いていると、種(たね)とシード資金(seed)でダジャレを書きたい誘惑に駆られるが、ここではもう1つのダジャレ、成長産業(growth industry、栽培産業)についてご報告しよう。

1000万ドルの投資ラウンドをリードしたのはAcre Venture Partnersで、E14 fundと、食品専門のベンチャーであるAstanorが参加した。他に、同社の顧客ともいえるサラダ菜栽培の国際的な協同組合Harvest Houseやトマト専門のAgrocare、ピーマン専門のRainbow Growersなどもこの投資に参加している。

同社は、温室、いわゆるハウスをよりスマートにするためのソフトウェアを開発している。同社の主張では、温室農業(ハウス栽培)は安全で信頼性があり、気候耐性のある食糧生産方式として、従来の農業の最大15倍の収量を、20分の1の水量で可能にする。Sourceがさらに独特なのは、データとAIを利用して温室の生産効率を上げ、各作付けの高い収量を維持できることだ。

AcreのマネージングパートナーであるLucas Mann(ルーカス・マン)氏は「食糧のグローバルな供給は気候変動でその希少性と難度が増しています。今後はそれがもっと苛酷なものになると思われます。そのため効率の良い大規模な栽培方式により、農業のフットプリントを軽くすることを目指さなくてはなりません。温室農業はすでに実証済みの有効なソリューションですが、イノベーションがなければ需要に応えることができません。その点でSource.agは、グローバルなスケーラビリティを実現するための重要な役割を担うことができるはずです」と語る。

資金は、製品開発の加速と商用化コラボレーションの拡張に充当される。

SourceのCEO、Rien Kamman(リエン・カンマン)氏は次のように説明する。「ひと口でハウスと言っても、いろいろなかたちや方式があり、いずれも技術的には大なり小なり進歩しています。しかしハイテクともなれば、湿度や潅水や栄養分など、人が思いつく限りのあらゆる環境要素をコントロールしたいものです。たとえばトマトは、土ではなくロックウールのようなものが最適です。そのような育て方は、農地に依存しません。しかも十分にコントロールできるため、毎日の細かい管理も可能です。農家が日々調整するパラメータは60から70ほど存在します。それにより作物の育ち方が決まるのですが、植物に何を与えるべきか、植物固有のパラメータはどれも最適状態か、わき芽かきや整枝はどこをいつやるべきかなど、毎日、正しい決定をしなければなりません。本来であればこの決定は一種の職人技になるため、これまでの農業と同じく難しいものです。1人前になるには、数十年が必要です」。

栽培の難しさは歴然としたものだが、Sourceはこれらすべての成長パラメータを監視し、それを収量の履歴データや市場価格と組み合わせて農家の体験を改善する。

「私たちのシステムには2つの側面があります。1つは、植物の現状を評価するレコメンドシステム。リソースの価格や天候などを先読みして予想、それに基づいて極めて具体的なレコメンドを農家に提供します。サステナビリティと収量を最大化するために、植物自身と温室内の気象に対して今日、明日何をすべきか、たとえば刈り込みや枝下ろしはどうすべきかなどをレコメンドします」とカンマン氏はいう。

「もう1つは、計画通りにいかないときにどうするかということです。そこで登場するのがアルゴリズムです。さまざまな制御システムと協力して、その戦略を取り、実際に最も効率的な方法で実行することを確認します」。

インドア農業はまだ相当量の人力労働を必要とし、特にトマトやキュウリ、ピーマンなど、大きく枝や蔓を張る作物は大変だ。しかし同社によると、そんな作物でもSourceは役に立つ。例えばいつどこを整枝すべきか、どれとどれを摘果すべきか教えてくれるし、植物の生長のいろいろな側面を細かく最適化できる。しかもSourceが興味深いのは、リアルタイムの価格データを利用して、熟度とその進捗の早い遅いを調整できることだ。さらに、競合する他の農家の熟度の進捗をモニターして、少ない収量を高く売ったりできるのではないかといったことも考えられる。気温や天候の条件を見ながら生産コストを抑えることも可能だろう。

同社のサービスはSaaSで提供され、料金は栽培の規模で決まる。

「農業は今、歴史の転換点にあると私たちは考えています。人類をここまで導いてきた農業は、現在、100億人もいる人類を激しい気候変動の世界へ導いてくれることはないでしょう。しかも現在、そのマーケットは巨大です。したがって、気候耐性のある食糧システムの必要性が増しているのです。数十年後のより厳しい時代には、いうまでもなくその他の伝統的農作物も屋内へと移行しているでしょう。私たちの投資家と私たちのチームを結びつけているものは、スマートインドア農業の利点が短期的なものではなく、グローバルにスケールできる知識を構築できることです」とカンマン氏はいう

同社は、プロダクトのスクリーンショットを公開することを拒否したが、「競争上の機密事項」のためだという。

画像クレジット:Source Ag

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hiroshi Iwatani)

もっと地下へ、GreenForgesは地下農場システムで野菜を栽培

垂直型農場と聞けば、空に向かって伸びているさまを思い浮かべるのが一般的だろう。例えばAerofarms(エアロファームズ)、Plenty(プランティー)、Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)などの企業は、高層のプラントに栽培装置を満載して農業に革命を起こそうとしている。しかし、ある人物は地下に着目しているようだ。その人物とはPhilippe Labrie(フィリップ・ラブリー)氏。2019年に設立されたプレシード(シード以前のステージ)の地下農業スタートアップ、GreenForges(グリーンフォージズ)のCEOかつ創業者である同氏は、垂直型農場技術を地下に導入することを考えている。同氏もキャリアの初期には、屋上の温室で農業の可能性を求めて空を見ていたが、空には限界があることに気がついたという。

ラブリー氏は次のように話す。「都市部の屋上温室にはどのくらいの食料生産能力があるか、という分析を行っている論文を偶然見つけました」「2050年で2~5%、という低めの数字でした。誰も『地下で栽培できないか?』とは考えなかったようです」。

空間を利用した事業である農業には常に制約があった。農耕が始まったとされる1万2000年前、人々は森を切り開いて農地にしていた。この自然破壊的なプロセスは現在も続いている。農家がより多くの食物を育て、より多くの利益を得るためには、さらに多くの土地が必要である。従来の垂直型農場は、都市部にプラントを設置し、栽培装置を積み重ねることでこの農地転用という問題を解決しようとするものだ。しかし、それでもプラントの用地という問題が残る。そこでGreenForgesは、私たちの足元にある、使われていないスペース(地下)を利用しようとしている。

2年間の研究開発を経て、同社は農業技術のインキュベーター、Zone Agtech(ゾーンアグテック)と共同で、2022年春にモントリオール北部で最初の試験的な地下農場システムを稼働させることを計画している。GreenForgesの農業システムは、LED照明のコントロール、水耕栽培(土を使わない栽培)、湿度と温度の管理など、既存の屋内農業の管理技術の他にも、斬新なアプローチを採用している。

GreenForgesのシステムでは、大きなプラントを利用するのではなく、新たに建造される建物の下の地面に直径1メートルの穴を開け、そこに栽培装置を降ろす。メンテナンスや収穫の際は、それを機械で地表に引き上げ、人が修理や収穫を行う。今回の試験的なプログラムでは地下15メートルのシステムを利用するが、地下30メートルまでの農場システムを計画済みだ。

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    GreenForgesのシステムでは、地下の垂直型農場から栽培装置が機械で引き上げられ、利用者は地上で簡単に葉物野菜を収穫できる(画像クレジット:GreenForges)
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges

ラブリー氏によると、垂直型農場を地上から地下に移すことには多くの利点があるが、その中には、環境制御型農業が直面する最大の障害であるエネルギーコストを解決できるものもあるという。

「暑さ、寒さ、降雨、乾燥など、外の気候の変化に合わせて空調システムを常に稼働させなければならないことが、垂直型農場にとって最大のエネルギー負荷となっています。室内の環境を安定させるために、空調システムが必要なのです」とラブリー氏は話す。

このエネルギーコストという問題により、垂直型農場は従来の農法と比較して、二酸化炭素排出量と金額の両面で高くつく場合もあり、これが、多くの垂直型農場が葉物野菜のみを栽培している理由の1つだ。つまり、他の作物の栽培はエネルギーコストがかかり過ぎて割に合わないのである。しかし地下に潜ると「天気が変化しても室内で安定した環境を維持しなければならない」という課題が一気に解決される。

GreenForgesのエンジニアリングマネージャーであるJamil Madanat(ジャミル・マダナト)氏は次のように話す。「地下に潜った途端に季節に関係なく栽培できるようになります」「地下こそ が省エネの聖地です」。

マダナト氏によると、世界中どこでも、いつでもどんな環境でも、地下は温度が安定しているという。地上の温度変化に関係なく、マレーシアでは深度10メートルで温度は安定して20℃になり、カナダでは深度5メートルで温度は安定して10℃になる。

「電気やエネルギーの供給に関しては、条件が安定していれば経済的にもメリットがあります」とマダナト氏。「一度に大量のエネルギーを消費し、それをいきなり停止するのは電力網にとって良くありません。安定的な需要(供給)のほうが電力網にとっても好ましいのです」。

地下施設は外気温が安定していて、その結果エネルギーの需要も安定すれば、大規模な省エネと持続可能性につながるだろう。GreenForgesでは、植物の半分には昼間、残りの半分には夜間に照明を当てることで、照明にかかるエネルギーが常に同じになるようにして、さらなる安定化を実現している。

さらに、GreenForgesは、化石燃料の燃焼による環境への二酸化炭素排出を増やさないために、エネルギーのほとんどが太陽光や水力などの再生可能エネルギーで賄われている地域のみをターゲットにしている。

「単に、何かを燃やして屋内で食べ物を育てるのは理にかなっていないからです」とラブリー氏。

GreenForgesは、地下システムでは従来の垂直型農場に比べてエネルギー効率が30~40%向上する、と予測している。現在、同社は葉物野菜、ハーブ、ベリー類などの伝統的な屋内作物だけを扱っている。同社の計画では、地下30メートルの農場ではレタスを毎月約2400個、年間では約6400kg生産できる。しかしラブリー氏は、GreenForgesの効率が上がれば、将来的には他の野菜や作物、それも小麦のように代用肉になるような作物にも対応できるようになるだろうと期待している。

地下での栽培に障害がないわけではない。マダナト氏によると、トラックのタイヤ2本分しかないトンネルに収まる栽培装置の設計が課題だという。このような小さなスペースにシステムを収めるためには、独自のハードウェアソリューションを開発する必要がある。また、地下の湿気との戦いも残っている。

垂直型農場の先駆者であるPlentyやAerofarmsとは異なり、GreenForgesは食料品ブランドになることを望んでいない。その代わりに、高層ホテルやマンションの建設業者にアピールし、宿泊客や入居者に新鮮な野菜を提供することで、新たな収益源を生み出すことにフォーカスを当てている。

「建築物に組み込むことで、多くの可能性が見えてきました。ホテル会社や不動産開発会社にも関心を寄せてもらっています」とラブリー氏は話す。「建物の中に食料生産システムを組み込むことは、見た目ほど簡単ではありません。平米単価が非常に高い商業施設やマンションのスペースが犠牲になるからです。私たちのソリューションを利用すれば、地下の空間を収益化することが可能です」。

画像クレジット:GreenForges

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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)