都市型温室のGotham Greensが2022年中に設置面積の倍増を計画

ニューヨークの多くの人々と同様、筆者もブルックリンで初めてWhole Foods(ホールフーズ)に設置されたGotham Greens(ゴッサム・グリーンズ)の温室に興味を惹かれた。ゴーワヌスの巨大なレンガ造りの建物の上に、4つのガラス張りの構造物がある光景は、都市型農業の背後にある考え方の非常に優れた縮図だ。

特に、既存の建物の上に建てることで、より貴重な地上の面積を独占する必要性を排除することができる。また、農場から食卓までの直接的なパイプラインという概念も説得力がある。より新鮮な農産物を確保するためだけでなく、レタスを満載したトラックを何千キロも走らせるという環境破壊的な影響を排除するという意味においても、この部分は重要だ。Gothamの温室は、垂直農法と定義できるものではないが、同じ根本的な原理をいくつか利用している。

このニューヨークの企業は今週、2022年中に温室の面積を倍増させる計画を発表した。Gothamは2022年中に、温室の生産能力を60万平方フィート(約5万5750平方メートル)から120万平方フィート(約11万1500平方メートル)まで拡大する予定だという。これにはテキサス州、ジョージア州、コロラド州で現在建設中の施設や、シカゴとロードアイランド州での拡張工事が含まれる。これらが、ニューヨーク州、ロードアイランド州、メリーランド州、イリノイ州、コロラド州、カリフォルニア州にある既存の施設に加わる。

従来の農業に比べると、温室は年間を通じて栽培できるなど、多くの利点がある。特にオランダをはじめとする欧州諸国では広く普及しており、現在は関連分野である垂直農法と並び、さらなる注目を集めている分野だ。垂直栽培は、当然ながら同じ面積でより多くの作物を栽培することができる。一方、温室はLEDに頼らず、より直接的な太陽からの光で栽培することができる。

「私たちの目標は、Gotham Greensの新鮮な野菜を、我々の温室から車で1日以内に、全米の90%の消費者に届けることです。今回の戦略的な温室拡張プロジェクトによって、私たちはこのマイルストーンにさらに近づくことができます」と、共同設立者でCEOのViraj Puri(ヴィラージ・プリ)氏は述べている。

ニューヨークのような都市部への進出が標準的であると考えると、Gothamのカリフォルニア州への進出は、当初は少々謎だった。同州では、すでに米国の農作物の13%以上が生産されているからだ。しかし、同社によれば「気候変動の影響を受けている米国の地域に、意図的に事業を拡大している」とのことだ。

画像クレジット:Gotham Greens

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ロボタクシーZooxがイチゴ収穫ロボットのStrio.AIを買収、知覚技術の取得が目的

Amazon傘下のロボタクシー企業Zooxが今週、Strio.AIを買収したことを発表した。このボストンのロボティクス企業は2020年にMIT出身者らが創業し、イチゴの収穫と剪定を自動化する。同社はパンデミックの間に短期間で立ち上がり、6カ月のうちに最初のプロトタイプをカリフォルニアとフロリダの農家に納めた。

今回の買収は人材獲得が主な目的で、Strioの共同創業者でCEOだったRuijie He(ルイジエ・ヒー)氏がパーセプション(知覚)部長としてZooxに参加し4人の上級エンジニアがチームに加わる。Strioのチームの獲得は、ベイエリアのZooxにとって初めてのイーストコーストの研究開発サイトの招聘になる。

Zooxはブログで次のように述べている。「RJやStrioの他のメンバーと話をするたびに、彼らの技術力と起業家精神と高度な知覚システムを開発するアプローチに感銘を受けました。彼らを迎えることで私たちの自動化技術の前進を継続できることに喜んでいます」。

この買収でStrioのアグリテックの部分は、Zooxの幅広いロボタクシーのプランにそれの知覚技術などが統合されるというよりむしろ、縮小されるだろう。この買収の数週間前にはBowery FarmingがTrapticのイチゴ収穫ロボットを買収し、それを屋内の垂直農場に組み込むことになった。Zooxの場合と同じくBoweryの買収も、Trapticのロボットを農場から奪った。

一般的には、自動化ロボットはアグテックにいろいろな活躍の機会があると思われているが、その主な選手たちの多くがあまり前進していない。Abundantのリンゴ収穫ロボットも、もう1つの見逃せない例だ。しかしそれでも、一般的にロボットというカテゴリーは、むしろ買収に活路を見出す例が多い。Strioのような若い企業では特にそうだ。

一方、Zooxにとって今回の買収は人材を獲得しボストンのロボティクス研究ハブに座を得る機会になる。

関連記事:りんご収穫ロボットを復活させるために、Abundantの新オーナーがエクイティクラウドファンディングを計画

画像クレジット:Zoox

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

垂直農業の米KaleraがSPAC上場を検討

垂直農法(バーチカルファーミング)の企業がまた1つ、SPACを利用してNASDAQに上場する計画を明らかにした。今週、米国フロリダ州に本社を置くKalera(カレラ)が、Agrico Acquisition Corp.(アグリコ・アクイジション・コープ)との合併計画を発表したのだ。この合併により同社の評価額は3億7500万ドル(約433億1000万円)となる。現在、Euronext Growth Oslo(ユーロネクスト・グロース・オスロー)取引所に上場しているKaleraの株価はこの1年下落が目立っていたが、今回の動きは、このカテゴリーに多くの期待が寄せられていることを示している。

Google Finance(グーグル・ファイナンス)のデータによれば、同社の評価額の下落は際立っている。同社の株価はこの52週間の最高値である1株あたり5.99ドルから、直近ではわずか0.91ドルにまで下降しているのだ(ニュースリリースによれば、同社は今回の取引の一環として、現在の取引所からの上場廃止を予定している)。

すでに上場しているのに、なぜSPACを行おうとしているのか?この取引により、同社は現在の4つの農場を10に増やすための資金を得ることができる。2021年12月の投資家向けプレゼンテーションによれば、同社は「2022年の資金調達要件を満たすために、さまざまな資金調達の選択肢を積極的に追求している」と述べている。

その理由を納得することは難しくはない。同社の2021年第3四半期決算報告書によると、2021年の1~9月に営業活動で870万ドル(約10億円)の支出があったが、同時期の投資キャッシュフローはより厳しく、マイナス1億1000万ドル(約127億1000万円)となった。Kaleraは6150万ドル(約71億円)の資金調達により、これらの不足を一部相殺したが、2021年第1四半期の純現金収支は5720万ドル(約66億1000万円)の赤字となった。9月の四半期決算では、5620万ドル(約64億9000万円)相当の現金および現金同等品を保有していた。より簡単に言えば、事業の赤字が深刻で、純利益の黒字化はおろか、キャッシュフローが損益分岐点に到達するのもはるかに遠いため、同社が拡大を続けるためにはさらなる資金が必要だということだ。

Kaleraが合併を予定しているSPACのAgricoは「1億4660万ドル(約169億3000万円)の現金が信託されている」という。これにより、Kaleraは、現在のキャッシュポジションが許すものよりもはるかに長い時間をかけて、業績を改善することができるだろう。

成長する市場

今回の買収は、急成長中のカテゴリーの健全性を示す指標となるだろう。2021年、AeroFarms(エアロファームス)はSpring Valley Acquisition Corp.(スプリング・バレー・アクイジション・コープ)とのSPACを計画していたが、AeroFarmsが最終的に「株主の利益にならない」と発表したことを受けてSPAC取引は中止された

AgricoのCEOであるBrent De Jong(ブレント・デ・ジョン)氏は「Kaleraは、稼働中または建設がほぼ完了している10の施設と、環境制御に特化したシード事業である子会社のVindara(ビンダラ)により、垂直農法業界のリーダーとしての地位をすでに確立しています」と述べている。「提案されているAgricoとの合併によって、Kaleraは葉菜類の垂直農法企業としては初めて、地元に密着しながら、米国内に拠点を持ち全米規模の長期供給契約を確実に結べるようになります」と述べている。

「米国内に拠点を持ち」という表現は興味深い。確かに、AeroFarmsやBowery(バワリー)など、地域的に成功を収めている企業は少なくない。垂直農法は地域密着型の性質を持つので、米国本土に拡大するには多くの農場を建設する必要がある。結局このカテゴリーは、一般的な農場を展開できない都市部でのサービスが大きなセールスポイントとなっている。そうした都市部の中もしくは隣接地に屋内農園を建設すれば、農産物を遠隔地から輸送する際の排気物を十分に削減することができる。

Kaleraは現在、地元オーランドをはじめ、アトランタ、ヒューストンで農場を運営しており、さらにデンバー、シアトル、ホノルル、コロンバス、セントポールでも農場を建設中だ。特に最後の2つは、米国の伝統的な農場地帯である中西部に事業を立ち上げるという点で興味深い。また、Kaleraはミュンヘンとクウェートで海外農場を運営しており、シンガポールには3つ目のファームを建設中だ。

両社は、SPAC取引を2022年の第2四半期中に完了させる予定だ。現在の暫定CEOであるCurtis McWilliams(カーティス・マクウィリアムス)氏は引き続き同社を率いる予定である。

画像クレジット:JohnnyGreig / Getty Images

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(文:Brian Heater、Alex Wilhelm、翻訳:sako)

Upward Farmsがペンシルバニア州に広大な垂直農場の開設を計画

ブルックリンに本拠を置くUpward Farms(アップワード・ファームズ)は今週、25万平方フィート(約2万3000平方メートル)の巨大な垂直農場を建設する計画を明らかにした。2023年初頭のオープンを目指しており、場所はペンシルバニア州北東部のルザーン郡に設けられる予定だ。限られた土地の有効活用を謳っているはずの垂直農場としては非常に大きな面積であり、競合他社の施設と比べると数倍の広さだ。この場所はUpwardにとって3番目の農場となる。

この農場では、特にマイクログリーン(若芽野菜)に注力することになっている。マイクログリーンは、他の作物に比べて柔軟性が高く、必要な空間が小さくて済むため、屋内栽培する作物としては人気が高い。競合他社の多くが採用しているハイドロポニック栽培やエアロポニック栽培ではなく、Upwardではアクアポニックスを採用する。これは魚を利用した循環型システムで、天然の肥料を生成して植物を育てるというものだ。

このシステムのおもしろい工夫点は、同社がそのアクアポニックスで育てた農作物だけでなく魚(バス)も販売するということだ。ニューヨークのWhole Foods(ホールフーズ)の一部店舗で農産物を販売するのに加えて、ブルックリンのGreenpoint Fish & Lobster(グリーンポイント・フィッシュ・アンド・ロブスター)で、ストライプバスの販売も始めるつもりであることを、同社は2021年12月に発表した。

画像クレジット:Upward Farms

「この新しい施設により、これまで西海岸から作物を受け取るまで1週間かかっていたのに対し、私たちは全米で最も人口の多い地域の1億人近い米国人に、1日で届けることができるようになります」と、共同創業者兼CEOのJason Green(ジェイソン・グリーン)氏は声明の中で述べている。「これは、食物をどこでどのように栽培するかということについて、世界的に大きな影響を与えるローカルなサクセスストーリーであり、また同時に、次世代の製造技術でもあります」。

Upwardは、2023年の初めにこの農場で穫れた作物の販売を開始する予定だ。2021年のシリーズBラウンドで1億2100万ドル(約138億円)の資金を調達した同社は、2023年にはさらなる市場への拡大も計画している。

画像クレジット:Upward Farms

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

垂直農法スタートアップInfarmがカタールに果物の栽培センターを計画

欧州の垂直農法企業であるInfarm(インファーム)は今週、シリーズDラウンドで2億ドル(227億円)を調達したことを発表した。カタール投資庁(QIA)の主導した今回のラウンドは、2020年の1億7000万ドル(約193億円)の資金調達に続くもので、これにより社の資金調達総額は6億ドル(約680億円)を超えた。評価額も10億ドル(1134億円)を「大きく」超え、欧州初の垂直農法ユニコーン企業としての地位を確立している。

関連記事:垂直農業ネットワークの構築継続に向けInfarmが株式と負債で170億円超を調達、日本の紀ノ国屋でも買える

「気候変動に強い垂直農法でグローバルな農業ネットワークを構築することは、Infarmの中核的な使命です。だからこそ、今回の資金調達を発表できることに私たちは興奮しています」と、共同創業者兼CEOのErez Galonska(エレツ・ガロンスカ)氏はリリースの中で述べている。「今回の戦略的な投資は、当社の急速なグローバル展開を支え、研究開発を強化するものです。それによって私たちは、欧州、アジア、北米、中東の消費者の近くで、より多くの種類の作物を栽培できるようになります。それは、近い将来、果物と野菜のバスケット全体を栽培し、高品質な生産物を手頃な価格ですべての人に提供するという当社の野望を達成するための新たな一歩です」。

今回調達した資金の多くは、米国、カナダ、日本、欧州などを視野に入れたInfarmの国際的な事業拡張計画に充てられる。また、同社はアジア太平洋地域や中東へのさらなる拡大も予定している。

QIAが今回のラウンドに参加したことが、後者の大きな原動力になることは間違いない。今回の提携の一環として、同社はカタールにトマトやイチゴなどの果物を栽培するための栽培センターを設立する計画を発表した。制御された屋内環境で比較的容易に栽培できることから、これまで主流であった葉物野菜やハーブの栽培からの脱却を目指している多くの垂直農法企業にとって、果物は強力な後押しとなっている。

「責任ある長期投資家として、QIAの目的は将来の世代のために価値を創造することです。私たちは、垂直農法を、世界のあらゆる地域の食糧安全保障を向上させる手段であると考えています」と、QIAのMansoor bin Ebrahim Al-Mahmoud(マンスール・ビン・エブラヒム・アル・マフムード)氏は、同じリリースで述べている。「私たちは、Infarmと協力してカタールに同社初の栽培センターを開発し、カタールの食糧安全保障と経済の多様化に貢献できることを楽しみにしています」。

垂直農法は確かにこの地域にとって理に適っている。生産者は、標準的な農法よりもはるかに少ない水で、気候制御された建物内で作物を生産する能力を得られるからだ。2018年には、Crop One(コープ・ワン)が、UAEに13万平方フィートの農業施設を開設すると発表している。もちろん今後、このような懸念は、1つの地域に留まるものではなくなるだろう。

画像クレジット:Infarm

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

もっと地下へ、GreenForgesは地下農場システムで野菜を栽培

垂直型農場と聞けば、空に向かって伸びているさまを思い浮かべるのが一般的だろう。例えばAerofarms(エアロファームズ)、Plenty(プランティー)、Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)などの企業は、高層のプラントに栽培装置を満載して農業に革命を起こそうとしている。しかし、ある人物は地下に着目しているようだ。その人物とはPhilippe Labrie(フィリップ・ラブリー)氏。2019年に設立されたプレシード(シード以前のステージ)の地下農業スタートアップ、GreenForges(グリーンフォージズ)のCEOかつ創業者である同氏は、垂直型農場技術を地下に導入することを考えている。同氏もキャリアの初期には、屋上の温室で農業の可能性を求めて空を見ていたが、空には限界があることに気がついたという。

ラブリー氏は次のように話す。「都市部の屋上温室にはどのくらいの食料生産能力があるか、という分析を行っている論文を偶然見つけました」「2050年で2~5%、という低めの数字でした。誰も『地下で栽培できないか?』とは考えなかったようです」。

空間を利用した事業である農業には常に制約があった。農耕が始まったとされる1万2000年前、人々は森を切り開いて農地にしていた。この自然破壊的なプロセスは現在も続いている。農家がより多くの食物を育て、より多くの利益を得るためには、さらに多くの土地が必要である。従来の垂直型農場は、都市部にプラントを設置し、栽培装置を積み重ねることでこの農地転用という問題を解決しようとするものだ。しかし、それでもプラントの用地という問題が残る。そこでGreenForgesは、私たちの足元にある、使われていないスペース(地下)を利用しようとしている。

2年間の研究開発を経て、同社は農業技術のインキュベーター、Zone Agtech(ゾーンアグテック)と共同で、2022年春にモントリオール北部で最初の試験的な地下農場システムを稼働させることを計画している。GreenForgesの農業システムは、LED照明のコントロール、水耕栽培(土を使わない栽培)、湿度と温度の管理など、既存の屋内農業の管理技術の他にも、斬新なアプローチを採用している。

GreenForgesのシステムでは、大きなプラントを利用するのではなく、新たに建造される建物の下の地面に直径1メートルの穴を開け、そこに栽培装置を降ろす。メンテナンスや収穫の際は、それを機械で地表に引き上げ、人が修理や収穫を行う。今回の試験的なプログラムでは地下15メートルのシステムを利用するが、地下30メートルまでの農場システムを計画済みだ。

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    GreenForgesのシステムでは、地下の垂直型農場から栽培装置が機械で引き上げられ、利用者は地上で簡単に葉物野菜を収穫できる(画像クレジット:GreenForges)
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges

ラブリー氏によると、垂直型農場を地上から地下に移すことには多くの利点があるが、その中には、環境制御型農業が直面する最大の障害であるエネルギーコストを解決できるものもあるという。

「暑さ、寒さ、降雨、乾燥など、外の気候の変化に合わせて空調システムを常に稼働させなければならないことが、垂直型農場にとって最大のエネルギー負荷となっています。室内の環境を安定させるために、空調システムが必要なのです」とラブリー氏は話す。

このエネルギーコストという問題により、垂直型農場は従来の農法と比較して、二酸化炭素排出量と金額の両面で高くつく場合もあり、これが、多くの垂直型農場が葉物野菜のみを栽培している理由の1つだ。つまり、他の作物の栽培はエネルギーコストがかかり過ぎて割に合わないのである。しかし地下に潜ると「天気が変化しても室内で安定した環境を維持しなければならない」という課題が一気に解決される。

GreenForgesのエンジニアリングマネージャーであるJamil Madanat(ジャミル・マダナト)氏は次のように話す。「地下に潜った途端に季節に関係なく栽培できるようになります」「地下こそ が省エネの聖地です」。

マダナト氏によると、世界中どこでも、いつでもどんな環境でも、地下は温度が安定しているという。地上の温度変化に関係なく、マレーシアでは深度10メートルで温度は安定して20℃になり、カナダでは深度5メートルで温度は安定して10℃になる。

「電気やエネルギーの供給に関しては、条件が安定していれば経済的にもメリットがあります」とマダナト氏。「一度に大量のエネルギーを消費し、それをいきなり停止するのは電力網にとって良くありません。安定的な需要(供給)のほうが電力網にとっても好ましいのです」。

地下施設は外気温が安定していて、その結果エネルギーの需要も安定すれば、大規模な省エネと持続可能性につながるだろう。GreenForgesでは、植物の半分には昼間、残りの半分には夜間に照明を当てることで、照明にかかるエネルギーが常に同じになるようにして、さらなる安定化を実現している。

さらに、GreenForgesは、化石燃料の燃焼による環境への二酸化炭素排出を増やさないために、エネルギーのほとんどが太陽光や水力などの再生可能エネルギーで賄われている地域のみをターゲットにしている。

「単に、何かを燃やして屋内で食べ物を育てるのは理にかなっていないからです」とラブリー氏。

GreenForgesは、地下システムでは従来の垂直型農場に比べてエネルギー効率が30~40%向上する、と予測している。現在、同社は葉物野菜、ハーブ、ベリー類などの伝統的な屋内作物だけを扱っている。同社の計画では、地下30メートルの農場ではレタスを毎月約2400個、年間では約6400kg生産できる。しかしラブリー氏は、GreenForgesの効率が上がれば、将来的には他の野菜や作物、それも小麦のように代用肉になるような作物にも対応できるようになるだろうと期待している。

地下での栽培に障害がないわけではない。マダナト氏によると、トラックのタイヤ2本分しかないトンネルに収まる栽培装置の設計が課題だという。このような小さなスペースにシステムを収めるためには、独自のハードウェアソリューションを開発する必要がある。また、地下の湿気との戦いも残っている。

垂直型農場の先駆者であるPlentyやAerofarmsとは異なり、GreenForgesは食料品ブランドになることを望んでいない。その代わりに、高層ホテルやマンションの建設業者にアピールし、宿泊客や入居者に新鮮な野菜を提供することで、新たな収益源を生み出すことにフォーカスを当てている。

「建築物に組み込むことで、多くの可能性が見えてきました。ホテル会社や不動産開発会社にも関心を寄せてもらっています」とラブリー氏は話す。「建物の中に食料生産システムを組み込むことは、見た目ほど簡単ではありません。平米単価が非常に高い商業施設やマンションのスペースが犠牲になるからです。私たちのソリューションを利用すれば、地下の空間を収益化することが可能です」。

画像クレジット:GreenForges

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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)

初版から10年、その間何が起こったか?書評「垂直農場」10周年記念版

最初のメールを出してから初回のZoomチャットまで、ほぼ2時間が経過している。まさに日曜日である。ジムの後にシャワーを浴びたり、野球帽をかぶったりするのはやめておこう。いつ好機が再び訪れるかわからない。

20年以上にわたり世界中で垂直農法の利点を提唱してきたDickson Despommier(ディクソン・デポミエ)博士は、今でも筆者と同じように、このテーマについて熱心に語っているようだ。2020年末に「The Vertical Farm(垂直農場)」の10周年記念版が発売されたことも少なからず影響しているだろう。ほとんど不可逆的に記念日にこだわっているように見える文化の中にあって、この本のオケージョンは、主にその間の10年間に起こったあらゆる出来事を反映して得られたものだと感じられる。

「現時点では垂直農場の事例は存在しないが」とデポミエ氏は初版に記している。「私たちは進める方法を心得ている。複数階建ての建物に水耕栽培と空中栽培の農法を適用して、世界初の垂直農場を作ることが可能である」。

「The Vertical Farm:Feeding the World in the 21st Century by Dr. Dickson Despommier(邦訳:垂直農場―明日の都市・環境・食料 / ディクソン・デポミエ著)」、Picador、2020年、368ページ(画像クレジット:Picador)

この本の最新版では「And Then What Happened?(それから何が起こったのか)」というタイトルの第10章の形式をとったコーダ(音楽用語で終結部をさす)が提供されている。その問いの答えは、筆者自身も垂直栽培の世界との関わりの中で見出していることだが、1つの章で扱えそうにないと思われるほど長く、さらにいえば、テクノロジー系ウェブサイト上の短い書評で対処できるものでもない。

「この本が最初に出版された2010年当時、垂直農場は存在していなかった」とデポミエ氏は新しい章の冒頭に記し、始まりは米国とアジアにおける緩やかな細流であったと説明する。「この記事を書いている時点では、非常に多くの垂直農場が見られるようになっており、実際にどれほどの数になるか正確なところはわからない」。

続く垂直農場のリストは4ページ半にも及ぶが、あまり網羅的ではない。日本については同国最大の垂直農法企業Spread(スプレッド)だけを掲載するなどスペースの面で多少の譲歩を示し、日本には少なくとも200の垂直農場があると説明している。一方、米国のリストでは、TechCrunch読者にはおなじみのAeroFarms(エアロファームズ)とBowery Farming(バワリー・ファーミング)から始まっている。

網羅的なリストがなくても、気候変動の危機的状況に対処する潜在的な方法として垂直農法の概念を採用する国や企業の数の多さは、多くの人にとって、適切な時期の適切なアイデアであることの驚くべき証となるだろう。作物を密に植え込み垂直方向に積み重ねて都市環境で栽培するという概念を、万能の解決策だと考える人は(もしいるにしても)少ないだろうが、そのパズルの重要なピースになるかもしれないという考えには十分なモメンタムがある。

2021年に「垂直農場」という本を手にした人の多くにとっては、人間が作り出した気候変動という点に説得力はさほど必要ないと思う。しかしデポミエ氏は、自身の提唱の中の懸念、特に人口増加や過剰農業への危惧に関連する精微な論及を、今も精力的に行っている。食肉生産を明確に(そしてしかるべき価値があると筆者は考えている)ターゲットとすること以上に、一般的な食品生産のインパクトに関して、おそらく依然として認識を高めていく必要があるのだろう。

これらの大きな課題が、垂直農法の概念を造成する触媒的な要素となった。この考え方の現代的な定義が生まれたのは、コロンビア大学でデポミエ氏が率いた1999年の授業での思考実験からである。類似したタイトルの書 「Vertical Farming(垂直農法)」が1915年に出版されているが、それは突き詰めると、私たちが理解しているこの用語の意味とほとんど一致しない(米国の地質学者 Gilbert Ellis Bailey[ギルバート・エリス・ベイリー]氏が執筆したこの本はオンラインで無料で入手可能。爆発物を使った農業についてのおもしろいアイデアなどが掲載されていて、1時間を楽しくつぶすことができる)。

デポミエ氏はアイビーリーグの名誉教授(現在81歳)というステータスにあるが、その著書「垂直農場」は非常にわかりやすい言葉で書かれている。この本は、同氏のクラスの初期の思考実験の続きとなるような、ブループリントやハウツーガイドには至っていない。これもまた、最初の出版時には主要な垂直農場がなかったという事実を考えれば理解できる。この本の本質は、著者のユートピア的理想主義の観念に通じるものがある。

Bowery FarmingのCEOであるIrving Fain(アービング・フェイン)氏は、2014年の会社立ち上げを前にデポミエ氏に会っているが、最近の筆者との会話の中で、その所感の一端をうまくまとめて語ってくれた。

どの業界でも、ある時点でノーススター(=北極星、正しい方向を知るための目印のような存在)が必要になると思います。私が思うに、ディクソン(・デポミエ氏)はこの産業界の並外れたノーススターであり、いくつかの点で、屋内農業に対する人々の意識が高まる以前からその役割を果たしていました。彼が思い描くことはすべて実現するでしょうか?必ずしもそうはならないかもしれませんが、それは実際のところ、ノーススターのゴールではないのです。

これは「垂直農場」のような本にアプローチする正しい方法だと思う。デポミエ氏は気候変動、過剰人口、過剰農業の脅威に関しては確かに現実主義者だが、その解決策を論じるときには理想主義者だ。ある意味、そうした実存的な課題に直面したときに多くの人が(理解できると思うが)はるかに暗い何かに傾きがちな時代に、新鮮な息吹を吹き込んでいるのである。

この力学の最も強力な例示となるのは、屋内で植物を育てる上で太陽からの直接のエネルギーの代わりとして必要になる、エネルギーとコストに関する重要な問いである。この本の新しい章では、その答えとして、透過性の高い太陽光発電窓、雨水集水、炭素隔離などのグリーンな解決策を示している。農場のオンライン化が進めば、そのような解決策が正味プラスであるかを判断する複雑な計算を割り出す機会が増えてくるであろう。よりスケールの大きい、より優れたテクノロジーが、私たちを目指すべきところへと近づけてくれることを願ってやまない。

一方、筆者はスタートアップについて記事にする中で、グリーンテクノロジーにおける利他的なモチベーションについて、シニカルとは言わないまでも少なからず懐疑的になった。私の中の現実主義者は、少なくとも米国では、資本主義的な推進力の制約をまず取り除く必要があると固く信じている。企業は、垂直農場が積極的に収益を生み出せることをしっかり検証する必要がある。そうすることで、希望的観測ではあるが、この考慮すべき事柄の持続可能性の面で真の進歩を見ることができるのではないか。

BoweryのCEOの言葉を借りれば、ノーススターとして、この仕事は非常に効果的である。10年前に農業革命的なデポミエ氏と「垂直農場」が触媒的な作用を果たしたことの他に、その例証を語る必要はないだろう。

「The Vertical Farm:Feeding the World in the 21st Century by Dr. Dickson Despommier(邦訳:垂直農場―明日の都市・環境・食料 / ディクソン・デポミエ著)」、Picador、2020年、368ページ

画像クレジット:JohnnyGreig / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)