孫正義氏がアリババの取締役会を去りソフトバンクグループの投資戦略を擁護

ソフトバンクグループの創業者である孫 正義氏は6月25日、Jack Ma(ジャック・マー、馬雲)氏率いる中国のeコマース大手のAlibaba Group(アリババグループ)の取締役会を去ると声明した。これは、マー氏がソフトバンクの取締役会を去ってから1カ月後の出来事になる。

孫氏は今回の動きを、これまでで最も成功した投資先であるアリババグループの取締役会からの「卒業」だと捉えていると説明した。またここ数週間、世間からの批判や嘲笑の対象となっていた日本グループの投資戦略を擁護するために迅速に動いたと言える。

孫氏によると、ソフトバンクグールプの株価は新型コロナウイルスの感染拡大前のレベルに回復している。同社は、アリババグループやT-Mobileと合併後のSprintの株価上昇から利益を得ており、同氏によるとソフトバングールプは25%の内部収益率(Internalrate ofReturn、IRR)があるとのこと。内部収益率とは、VCが用いる投資効率判定測度のひとつだ。

本日行われた株主総会で孫氏は「ソフトバンクは『終わった』と考えている人が多く、いまや『ソフトパンク』と呼ばれていることに困惑している」と語った。日本語のパンクは、壊れている、敗れているという意味だ。しかし彼によると、すべてを合わせるとソフトバンクの株主が保有している価値は2180億ドル(約23兆3870億円)に相当する。

孫氏の主張によると、彼は2005年以来その席にあったアリババグループの取締役会を友好的に去るのであり、同氏とマー氏との間にはいかなる意見の相違もない。

今回の孫氏の決定の前月には、アリババグループの共同創業者であるマー氏が13年在籍したソフトバンクの取締役会を去っている。20年前に孫氏がアリババに2000万ドル(21億4560万円)を投資したことは有名な出来事だ。今年初めにソフトバンクは1000億ドル(約10兆7280億円)相当のアリババの株を保有していた。

ソフトバンクの最近の投資は、その対象が絞りきれていないことが投資の世界を不安がらせた。巨額な小切手を書くことで知られている同社は、ライドシェア大手のUberやオフィススペースを管理するWeWork、およびそのほかの多様なスタートアップへの投資が同社が望んだリターンを提供していないことを公言していた。

しかも、インドの低価格ホテルOyoなどいくつかの投資先企業はパンデミックの被害が大きかった。T-Mobileの株を売って200億ドル(約2兆1450万円)を調達した孫氏は「最近のそのほかの取引も合わせるとソフトバンクは350億ドル(約3兆7500億円)を積み上げており、それは投資売却計画額の80%に相当する」と語った。

画像クレジット: Kiyoshi Ota/Bloomberg/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

オンラインM&AマッチングのM&Aクラウドが2.2億円調達、マッチング後の成約サポート機能を強化

M&Aクラウド

オンラインM&Aマッチングプラットフォームを展開するM&Aクラウドは6月24日、シリーズBの投資ラウンドにおいて、総額約2.2億円の資金調達を実施したと発表した。

引受先は、トグル、野口哲也氏(アイモバイル 代表取締役社長)、岩田真吾氏(三星グループ 代表取締役社長)、文野直樹氏(イートアンド 代表取締役会長)、高谷康久氏(イー・ガーディアン 代表取締役社長)、柳橋仁機氏(株式会社カオナビ 代表取締役社長)、インキュベイトファンド、SMBCベンチャーキャピタルなど。

今回調達した資金は、同社プラットフォーム「M&Aクラウド」の新機能として、売り手企業の概要と買収メリットをまとめた企業概要書の自動生成機能、M&Aクラウド上以外の案件も含めて管理できる案件管理機能などの開発に利用。あわせて、M&A仲介の経験豊富なスタッフの知見を活用した売り手サポート体制を整備し、マッチングから成約までをトータルに支援するプラットフォームとして成長させる。

M&Aクラウドは、売り手が無料かつオンラインで、買い手の情報を閲覧し、直接打診できるM&Aおよび資金調達のマッチングプラットフォーム。2018年4月ローンチからの約2年間で、掲載買い手企業は約250社、登録売り手企業は2600社超に達した。また累計1000件超の面談を実現したという。

一方で同社は、マッチング後M&Aや資金調達の成約に至るプロセスに関しては、これまで積極的にサポートする仕組みを設けてこなかった。ファイナンス知識が不足しているユーザーの中には、プレゼンやデューデリジェンスにのぞむ際別途サポートを必要とするケースがあることから、これらを一貫してM&Aクラウド上で行うことで、マッチング成立した企業が成約まで至る率を高め、「希望のM&A/資金調達が成立する」プラットフォームに進化させることを目指すとしている。

横浜市が「ベンチャー企業成長支援拠点YOXO BOX」の参加スタートアップを募集開始

横浜市YOXO BOX

神奈川県横浜市は6月24日、第2期YOXO(よくぞ、YOKOHAMA CROSS OVER)アクセラレータープログラム支援企業の募集を発表した。新型コロナウイルス感染症の影響など経済や働き方・ライフスタイルの転換を迫られ、ビジネスのあり方も変革を求められる中で、ウィズ/アフター コロナ時代に向けたイノベーションをテーマに、新時代を切り開くスタートアップを募集する。

プログラム募集期間は令和2年(2020年)7月27日17時まで。企業支援数は10社程度(費用負担なし。選定審査あり)。プログラム提供期間は2020年9月から2021年2月。希望者は、同プログラム公式サイトよりエントリーを行う。参加資格者は以下のとおり。

    • 横浜市内に拠点を有する起業3年程度内のスタートアップ企業
    • 3年程度の間に横浜市内への立地を考えているスタートアップ企業や起業を検討している者など
    • 独自性や将来性があり、市場の見込める社会的課題解決を目指しているなど、成長可能性を有しているスタートアップ、起業家、学生
    • 企業の社員や大学の研究者・学生などによる事業化を目指すプロジェクト単位の参加も可

また、プログラムのメリットとしては、伴走者1名による事業の進捗管理とフォローアップ、専門の知見・経験を有するメンターによるスポットメンタリング、オープンイノベーションを志向する事業会社などとのマッチング、支援企業同士・支援者・横浜市との交流会によるネットワーク構築、成果報告会での資金調達や企業との連携・協業機会の提供などを挙げている。

横浜市は、「~横浜での”クロスオーバー″からイノベーションの創出~」を目指しYOXOのテーマのもと、ベンチャー企業や起業家、イノベーション人材を支援。

YOXOは、横浜のエコシステムの一躍を担うベンチャー企業成長支援拠点YOXO BOXにおいて、専門家によるメンタリングやパートナー企業・支援者などとの連携・協業機会の提供、事業会社とのマッチング、専門家によるセミナーなど多様なメニューを用意し、スタートアップの成長加速を支援するアクセラレータープログラムとなっている。

VC業界のダイバーシティ推進は不況に負けてしまうのか

ベンチャーキャピタル(VC)企業による投資パートナーの採用は、本質的に排他的なものである。投資家がパートナーとしてファンドに参加するには自分の資本を投資することが法律で定められており、その額は数十万ドルのこともあれば、数億ドルのこともある。つまり、シニアパートナーになるには通常、それなりの額の個人資産が必要ということだ。投資業界の男女比は極めて偏っており、シニア投資家の84.6%が男性だというデータがある。VC業界も投資業界と非常に似ていて、Harvard(ハーバード大)やStanford(スタンフォード大)などの有名大学を卒業した特権階級の出身者が圧倒的多数を占める。そして、図らずも彼らは皆、白人だ

ここ数年は、VC企業に入る女性や自らVCを立ち上げる女性が増えたため、男女比の偏りは改善してきた。女性起業家の支援団体All Raise(オール・レイズ)が2月に発表したデータによると、2019年に米国企業が新たに採用した女性のパートナーまたはジェネラルパートナーの数は52人だった。ちなみに前年度は38人だった。有色人種の採用も徐々に増えてきているが、まだ十分ではない、という声が多い。Equal Venture(イコール・ベンチャー)のパートナーであるRichard Kerby(リチャード・カービー)氏によると、VCパートナー総数に占める黒人の割合はわずか2%だという。

最近、数々のVCが投資見込み企業のダイバーシティを向上させようとBlack Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター)運動に寄付したり他の方法で参加したりして、ダイバーシティを推進する動きが再び活発になっている。非黒人VCがダイバーシティを向上させるには、黒人パートナーを雇用する、あるいは黒人創業者に投資するなどの方法があることを訴える、「Make the hire. Send the wire.(もっと雇用を。もっと投資を。)」というフレーズが生まれ、スローガンとして広く使われるようになっている。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによって引き起こされる恐れがある経済不況のせいで、女性や黒人、過小評価されている他のグループのVC業界における地位向上を推進する動きが、ただでさえ遅々としていたのに、さらに鈍化する危険がある。ここ数年で遂げた進歩を台無しにせずにさらに発展させていくには、VC業界全体が意識的かつ意欲的に黒人の雇用を進めていく必要がある。

新世代VCが直面する新たな課題

設立して間もないVC企業は、ダイバーシティの面では名の通ったVCよりも進んでいる。VC企業に入るために「生涯資本家」である必要はない、とKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)に入ったばかりの投資家Monica Desai Weiss(モニカ・デサイ・ワイス)氏はいう。デサイ・ワイス氏のように前職がオペレーターでも、場合によってはジャーナリストでもVCパートナーになることは可能だ。

しかし、長引く不景気のせいで、ベンチャー業界は比較的新しいVCが数多く失われるリスクに直面している。有名VCとは異なり、新しいVCには知識や勘を裏付けできる数十年にわたる実績がない。また、機関投資家との関係も確立されていない。機関投資家は密な関係を築くが同じような背景を持つ者どうしで固まることが多い。つまり、多様性を持つ企業に投資するために設立されたVCをはじめ、ここ10年ほどの間に出現してきた、より優れたダイバーシティを持つ新世代のVCが、やっとの思いで参入したVC業界というエコシステムから消滅する危機に瀕しているのだ。

ボストンを拠点とするAccomplice(アコンプリス)の元パートナーであるChris Lynch(クリス・リンチ)氏は、景気が早い時期に持ち直さなければVC業界内の「権力交代」は進まないと懸念し、「新しいボスも前のボスと何も変わらないことになる」という。

ベンチャー投資家として何らかの形で投資先を現金化し優れた手腕を持つことを証明するには8年から10年かかるため、新しいVCは難しい状況に直面する、とリンチ氏は指摘する。もし市場が今より保守的になったら、リミテッドパートナー(LP)は実績のない新しいファンドよりも、名の知れた老舗ファンドに戻っていくからだ。

そのような投資家(年金基金、大学、同族経営事業などの資産を運用している場合が多く、どの投資家や企業が資金を調達できるかは彼らによって決まる)はすでに、現在の景気では新しいファンドマネージャーに出資する可能性は通常より低くなると警告している。初心者プレーヤーに運用を任せずに、老舗VCなど、確実なリターン実績を持つVCに運用を託すことで資産を守ろうとしているのである。

そのようなリミテッドパートナーにとって、今のところダイバーシティはそれほど喫緊の問題ではないかもしれない。その理由の1つは、筆者の同僚であるConnie Loizos(コニー・ロイゾス)が最近指摘したように、公的資金を運用するLPには、出資金のうち一定の割合を多様性のあるスタートアップに投資するよう出資先のベンチャーマネージャーに要請する法的義務が課されているためだ。

そのような法的義務がなければ、LPが経済不況の中で革新的に動くことはないのではないか、とアコンプリスの元パートナーであるリンチ氏は考えている。「LPが運用するのは、従来型の組織から委託された資産だ。これまでの出資ポートフォリオが体に染みついている。そして変化を嫌う」とリンチ氏は語る。

テック業界のCEOやVC企業向けの人材を長年ヘッドハンティングしてきたJon Holman(ジョン・ホルマン)氏も、もし不景気が長引けば、新興ベンチャー投資家は苦闘を強いられることになり、VC業界への社会経済的な影響が最低でも5年間は続いた2000年の不況のときと同じような状況になると懸念している。

2000年の不況時、リミテッドパートナー(機関、年金基金、大学、生命保険会社)は、VCは投資リターンが少な過ぎて運用先の選択肢にはならないと考えていた。そのため、運用資金はVCから引き揚げられて不動産や金相場などに再投資された、とホルマン氏は回顧する。

「その頃、設立したばかりで足場が固まっていないベンチャーファンドで、まだリターンを出したことがないとなれば、2回目の資金調達は不可能だった。ベンチャー資本家の人数が劇的に減少した」とホルマン氏は語る。

そのため、もし不景気あるいは不況が長引いて米国経済が打撃を受けたら、ベンチャー企業による雇用そのものが停止する可能性がある。停止して動かないということは、前に進むこともできないということだ。

「Sequoia(セコイア)が、Accel(アクセル)が、あるいはAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が廃業することはない」とホルマン氏はいう。

最悪の場合、黒人や過小評価されている人材に確実に投資しつつ、自社の人材のダイバーシティ化も継続するという責任がすべて有名VCの肩に置かれてしまう。VC企業はこれを言い訳にすることはできない。仮に強者だけが生き残るのであれば、その強者こそが使命を確実に果たすことを決意すべきだ。

Human Utility(ヒューマン・ユーティリティ)の創業者兼エグセクティブディレクターであるTiffani Ashley Bell(ティファニ・アシュリ・ベル)氏は6月5日にMediumに投稿した「It’s Time We Dealt With White Supremacy in Tech(仮訳:今こそテック業界から白人至上主義をなくすとき)」と題する記事の中で、VCが黒人投資家をサポートするためのさまざまな方法を紹介している。

「もしあなたが経営するVC企業に黒人のパートナーがいないのなら、2022年までに最低でも1人の黒人パートナーを必ず採用することを決意するだろうか。もし決意しないのなら、それはなぜだろうか。黒人パートナーは、あなたの知らない場所や分野に眠っている投資チャンスを発掘してくることだろう。ちょっと立ち止まって考えてみてほしい。VC企業に現在在籍しているパートナーは、白人であれアジア系であれ、はじめからずば抜けた運用能力を持っていただろうか、あるいはエグジットさせる能力をはじめから持っていただろうか。高い即戦力の有無は採用しない理由にはならない。もしあなたが非黒人投資家で、よりよい経営を続けていくことを決意しているのであれば、同僚たちにも説明責任を求めるだろうか。言うだけで行動がともなっていない同僚たちに、そのことを指摘できるだろうか。」

ベル氏はまた、黒人が経営するVCファンドのリミテッドパートナーになるよう投資家たちに勧めた。GVからスピンアウトしたPlexo Capital(プレクソ・キャピタル)は、多様な投資家が経営する企業とアーリーステージの創業者の両方に投資するハイブリッド型のVC企業として、この課題に取り組んでいる。

Cleo Capital(クレオ・キャピタル)の創立パートナーであるSarah Kunst(サラ・クンスト)氏は、「黒人の人材に投資することは、難しい問題でも、解決不能な問題でもない。ファンド側に、この問題を解決したいという意志が必要なだけだ」と指摘する。

「テック業界で黒人の人材を発掘し、雇用し、出資する方法は、他のグループの人材を発掘し、雇用し、出資する方法と何ら変わらない。そのグループに属する人たちと関係を築き、コミュニティの中でそれぞれの分野の第一人者を探し、そこから学んでいく。『このファンドには、これこれの分野の専門知識が足りない』と雇用担当チームと投資担当チームに話して、その足りない部分を埋めるだけだ」とクンスト氏は続けた。

関連記事:テック業界はジョージ・フロイドの死をどう受け止めたのか

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ 

タグ:差別 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

品川区がITスタートアップ支援事業「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の募集開始

五反田バレーアクセラレーションプログラム

東京都品川区は6月22日、令和2年度(2020年度)品川区ITスタートアップ支援事業「五反田バレーアクセラレーションプログラム」の参加者募集を開始した。募集期間は2020年6月22日~7月27日午後5時。プログラム提供期間は2020年9月~2021年3月末予定。定員は20社(1社から2名参加も可能)で、書類審査後に決定(オンライン面接の可能性あり)。受講費用は無料。受講対象者は以下のとおり。

  • IT分野の製品・サービスを提供するシード・アーリーステージの事業者および個人事業主
  • サービス開始の準備を進めている、もしくはサービス開始後おおむね1~2年程度で従業員がおおむね10名以内の企業
  • 創業後、おおむね5年以内の事業者
  • 原則として、品川区内に拠点があること、または今後拠点を設ける見込みがあること
  • 学生も参加可能

品川区の五反田・大崎エリアは、ITベンチャー・スタートアップ企業が集中していることから「五反田バレー」と呼ばれている。また、創業機運の高まりとともに、区内外からの注目も集まっている。そこで品川区は、スタートアップ集積地「五反田バレー」の認知度アップや地域活力向上、区内産業全体の活性化を図るため、スタートアップや起業家の事業成長を支援するプログラムを実施する。

同プログラムでは、品川区と、スタートアップ・投資家・アドバイザーからなるコミュニティを運営するCrewwとが連携し、スタートアップ企業の事業成長につながる研修やメンタリング、ビジネス支援を行う。また今回のプログラムのゴールとしては、「研修によるスタートアップのスケールに必要な知識・ノウハウの習得」、「個別メンタリングによるビジネスプランの強化」、「Demo Dayなどによるビジネス支援」を挙げている。

また、品川区内に立地するSHIP(品川産業支援交流施設)やAWS、Innovation Space DEJIMA(伊藤忠テクノソリューションズ)、WeWork Japan、ソニー、三井住友銀行などのスタートアップ企業を支援するパートナー企業と連携した取り組みも実施していく。

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FirstMark Capitalが計690億円の新ファンドを発表、医療技術とゲームに注力

米国ニューヨークを拠点とするVCであるFirstMark Capital(ファーストマークキャピタル)は米国6月16日、2つの投資ビークルのクロージングについて発表した。同社のポートフォリオには、Shopify、Riot Games、Pinterest、Airbnb、InVisionなどが含まれる。

FirstMark VはシードおよびシリーズA投資を対象とする3億8000万ドル(約400億円)のアーリーステージのファンドであり、FirstMark Opportunity IIIはポートフォリオ企業への追加投資とグロースステージの投資に特化した2億7000万ドル(約290億円)のビークルだ。FirstMarkの投資ビークル全体で管理する総資産は22億ドル(約2400億円)に上る。

FirstMarkの投資チームは5人のパートナーで構成する。Rick Heitzmann(リック・ハイツマン)氏、Amish Jani(アミシュ・ジャニ)氏、Matt Turck(マット・ターク)氏、Beth Ferreira(ベス・フェレイラ)氏、Adam Nelson(アダム・ネルソン)氏だ。

FirstMarkはニューヨークのエコシステムのみに絞っているわけではないが、 取引の少なくとも半分は東海岸で行われ、特にニューヨーク、ボストン、トロント、オタワ、フィラデルフィア、ワシントンD.Cなどの東海岸沿いのテクノロジーハブに重点を置いている。

同社は新型コロナウイルスのパンデミックによって追い風を受けた業界に早めの賭けをいくつか行った。ヘルスケア(Kinsa、Parsley Health)、ゲーム(Discord、Riot Games)、エンタープライズワークフロー(InVision、JustWorks、Pendo、Guru)、自動化(Ada、nextmv、Hyperscience)などだ。これらの分野で投資機会を引き続き探しているが、特に医療技術とゲームに力を入れる。

ゲーム業界には大きなチャンスがあるものの、プラットフォーマーと製作会社が大きな力を持っているため、割って入るのは難しそうだ。それでも、パートナーのジャニ氏は、業界内の勢力が分散しつつあると考えている。

「UnrealやUnityが現れる前の世界について考えてほしい。その頃はゲームエンジンを含め、すべてを開発する必要があった」とジャニ氏は語った。「結局その部分は独立した機能になった。ストリーミング用のゲームインフラサーバーもそうだ。コミュニケーションについて考えるとき、Discordはゲームにおけるオーバーレイメッセージングフレームワークの大部分を占めている。それも1つのレイヤーとして独立したようなものだ。市場が膨らんで非常に大きくなるにつれ、ゲームの多くの要素がバラバラになってきた。我々は確かにツルハシとシャベルを信じている(最終製品市場ではなくそれを作り出すのに必要な道具やインフラに投資する戦略)」。

同社はまた、Brooklinen、Airbnb、Roなど、D2Cでいくつか大きな勝利を収めている。「一般的に、D2Cは規模を追うかニッチに行くかのいずれかになる傾向がある」とジャニ氏は述べる。「サプライチェーンがある程度差別化されており、自らの力で成長できる本当にユニークなブランドを見つける必要がある。多くの場合、その条件を満たすのはコマースエクスペリエンスを提供できる非常に大きなコミュニティからなる組織だ。購買という行為は、何かを単に買うことでなく、ブランドが提案するライフスタイルや体験、その周辺にあるコミュニティを共有することだ」。

場合によってはAirbnbのように、規制の変更が絡むこともある。

FirstMarkは単に小切手を切るだけでない。ポートフォリオ企業を育成・成長させる包括的なアプローチを取っている。その基盤となるFirstMarkプラットフォームは「人材ネットワーク」「企業ネットワーク」「専門家ネットワーク」で構成されている。

専門家ネットワークは、GitHub、Grubhub、Looker、Cloudera、Twilio、Zendesk、Cloudflare、Mailchimp、PagerDutyなどの企業のCEO、CTO、CRO、CMOが率いる100以上のイベントで構成されている。人材ネットワークは、専門家ネットワークと有機的に結びついている。スピーカーとして参加してもらったり、CXOや独立の立場としての役員、場合によっては創業者としてFirstMarkのポートフォリオ企業に加入することもある。一方、企業ネットワークは、ポートフォリオ企業が大企業と取引を行う支援をする。

FirstMarkプラットフォームの戦略の一環として、データ、デザイン、エンジニアリングに関する複数の公開イベントのシリーズも実施している。

同社はまた、George Floyd(ジョージ・フロイド)氏事件の抗議行動とより広範なBlack Lives Matter運動を受け、パイプラインとポートフォリオを多様化する使命も持つ。2019年以降、FirstMarkの取引の半分は、女性や有色人種の創業者など、白人男性以外に関わるものだった。ただし、「過小評価されている」創業者はFirstMarkのポートフォリオ85社の約3.5%を占めるにすぎない。3社だけが黒人またはラテンアメリカ系の創業者だ。

ジャニ氏はTechCrunchに、ポートフォリオにおける真の多様化はパイプライン段階での測定から始まると説明した。資金を提供する多様性ある創業者の数や彼らに投資された金額だけではない。これはBLCK VCのSydney Sykes(シドニー・サイクス)氏の思いとも一致する。同氏は最近TechCrunchに対し、ファンドがもっと包摂的になるために取りうる行動が何かについて語った。ネットワーク効果のサイクルを打破し、VCが多様性ある創業者に資金を拠出する流れを作るには、資金調達プロセスの最上流まで含めて測定する必要があると述べている。

同社は、VC業界における人種差別問題全般に対処するため、週1回の常設タスクフォース会議を設置し、多様性ある創業者が「ドアに入り込む」にはどうすればよいのかについて社内でより深く考える機会を設けた。ドアの先にはさまざまなスタートアップが机を用意し、ゆくゆくはその数を1%に伸ばす。

ジャニ氏はまた、熟考の末、FirstMark CapitalがJuneteenth(米国の奴隷解放記念日)を休日とするのではなく、会社の従業員がコミュニティにボランティアやメンターなどの形で恩返しをする奉仕の日にすると決定したとも述べた。

画像クレジット:FirstMark Capital

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(翻訳:Mizoguchi

気候問題にフォーカスしたスウェーデンのアーリーステージファンド「Pale Blue Dot」がデビュー

スウェーデンのマルメに拠点を置く「気候限定」の新ベンチャーキャピタル会社であるPale Blue Dot(ペール・ブルー・ドット)が6月16日正式にデビューし、初のファンド5300万ユーロ(約64億円)をクローズした。差し当たっては欧州拠点のプレシード期またはシード期のスタートアップを対象とし、気候問題を解決するのにテクノロジーを使っている企業を支援する計画だ。最初のファンドから最大40社を支援することを目標としていて、出資額のレンジは20万〜200万ユーロ(約2400万〜2億4000万円)だ。

このファンドは他のファンドが特化していないところに目を向けており、気候に大きな好影響をもたらすソフトウェアやテクノロジーへの投資を検討する。現在フォーカスしているのは、食糧・農業、産業、ファッション・アパレル、エネルギー、輸送の分野だ。

「我々は、気候への貢献を拡張できるスタートアップを求めている。気候への貢献の拡張というのは往々にして、多くのインターネット企業がそうであるようにソフトウェア、データ、ネットワークの効果で達成できるものを意味する」と Pale Blue Dotの創業パートナーであるJoel Larsson(ジョエル・ラーソン)氏はTechCrunchに語った。「こうした企業がどんどんデジタル化している。我々や他のベンチャーファンドも自然豊かな世界への変化を加速するためにそうした企業に投資できることを期待している」。

Pale Blue Dotの3人の創業パートナーであるHampus Jakobsson(ハンパス・ヤコブソン)氏、Heidi Lindvall(ハイディ・リンドヴァル)氏、そしてラーソン氏は北欧のテックエコシステムでは比較的よく知られている。

ヤコブソン氏は2012年にBlackberry(ブラックベリー)に売却されたTAT(The Astonishing Tribe)を共同創業し、北欧では主要なエンジェル投資家のひとりだ。直近ではBlueYard Capitalでベンチャーパートナーを務めている。

リンドヴァル氏はFast Track Malmöのアクセラレーター・投資のチームの前責任者で、人権とメディアを専門としてきた経歴を持つ。

そしてラーソン氏はFast Track Malmöの前マネージングディレクターで、テックを専門とし、ファンドマネージメントの経験がある。

特筆すべきは、Pale Blue Dotは専門分野を持つ数ある新たな欧州VCの1つであるということだ。これは北欧の成熟したエコシステムを証明するものだろう。つまり、多数の一般VCも程度の違いはあるが明らかに気候テックに賭けている。

「すべてのファンドは『地球に優しく』、より良い世界のためになるものであるべきだと考えている。しかしこのフォーカスが主流となるには時間を要する」と「気候限定」VCの必要性についてリンドヴァル氏は語る。「それでも、大半のファンドは評価の後期にポジティブな影響の可能性を調べ、スタートアップが世界をよい方向へと大胆に導くようでなかったとしてもディールを断らない」。

「素晴らしいLP(リミテッッドパートナー)たちを獲得できて幸運だった。新型コロナ禍中での資金調達だったために、彼らの多くが我々と実際に顔を合わせていなかった」とヤコブソン氏は付け加えた。「資金の50%弱がスウェーデンからで、主要なLPはスウェーデンのVCであるSaminvestだ。また素晴らしい起業家と投資家のリストも手にしている」。

リストにはSupercell、Zendesk、Navision、Unityといったユニコーン企業の創業者や前従業員のファミリーオフィス、Albert Wenger (USV)、Staffan Helgesson (Creandum)、VC fund Atomicoといった投資家が含まれるようだ。

Pale Blue Dotはすでに3件に投資した。ロンドンに本部を置く会社で計算生物学と合成生物学を活用して新たな作物を生み出すPhytoform、サンフランシスコ拠点で従来型と最新の「炭素除去」手法に融資するカーボンオフセットプラットフォームのPatch、アムステルダム拠点のスタートアップで、森林火災や停電のリスクを抑制するのに役立つ樹木の理解に機械学習と衛星データを活用している20tree.aiだ。

画像クレジット:Pale Blue Dot

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(翻訳:Mizoguchi

個人が非上場のスタートアップ・ベンチャーに投資できる「イークラウド」サービスとは?

イークラウド

イークラウドは6月17日、インターネットを通じて非上場のベンチャー企業に投資を行える「イークラウド」サービスの投資家登録の受付を開始した。

従来、創業期のベンチャー企業に投資できたのは、エンジェル投資家など一部経営者・資産家に限られていた。これに対してイークラウドでは、個人投資家が創業期ベンチャー企業に投資できるようにしており「株式投資型クラウドファンディング」と名付けている。

1号案件は7月に募集開始予定で、投資家登録を済ませると、案件の事前告知など最新情報を受け取れる。大きく成長する可能性のあるベンチャー企業を案内する予定という。

イークラウド

また同社では、ベンチャーキャピタルでの投資経験者、急成長したベンチャー企業のメンバー、金融機関出身のメンバーで構成。また、スタートアップスタジオを運営するXTech(クロステック)を母体に設立されており、新規事業創出・起業家支援のノウハウを保有しているという。XTechは関連会社を通じ、これまで2年間で約40社のベンチャー企業に対して出資を行ってきたそうだ。

イークラウド

ベンチャー企業発掘のノウハウを持ったプラットフォームとして、イークラウドは個人投資家にプロの目で厳選した有望なベンチャー企業への投資機会を提供するとしている。

関連記事:元サイバー西條氏が率いるXTech、株式投資型クラウドファンディングへ参入

シンガポール拠点のVC「BEENEXT」がアジア・日本向けに総額約170億円の2ファンドを組成

BEENEXTは6月16日、アジア向け、日本向けに2つのファンドの組成を発表した。合計総額は1億6000万ドル(約170億円)で、アジア向けの「Emerging Asia Fund」は1.1億ドル(約117億円)、日本向けの「ALL STAR SAAS FUND」は5000万ドル(約53億円)となる。

同社は、2015年設立でシンガポールを拠点するベンチャーキャピタル。180社超の国内外の企業への投資と日本企業との共同事業の創出をサポートしており、5年間の投資実績は17カ国で、企業数は180社超となっている。これまで、新興市場と日本における、Eコマース、フィンテック、ヘルステック、アグリテック、エデュテック、AI・データ技術、SaaS事業などを展開するスタートアップ企業への投資を進めてきた。日本を含めた各国の事業会社、投資家、政府機関とも幅広く連携しており、新たな事業機会をともに創出するグローバルコミュニティも形成しているという。

今回組成するファンドで同社は、アジア各国でのWithコロナ、Afterコロナ時代の新たなイノベーションの発掘・投資・支援に活用していくという。具体的には、各産業、各業種のデジタル化を推進する起業家への投資・支援を通じ、各地域特有の課題解決に専念するローカルの起業家を支援していく。
BEENEXTのこれまでの主な投資先は以下のとおり(2020年6月1日現在)。

  • インド
    NoBroker(ノーブローカー):インド最大の売買・賃貸不動産直接取引マーケットプレイス
    Droom(ドゥルーム):インド最大の中古車取引マーケットプレイス
    BharatPe(バラぺ):インドの全国統一標準QRコードモバイル決済プラットフォーム
    Bank Open(バンク オープン):中小企業向けの銀行サービスプラットフォーム
    Mobile Premier League (モバイルプレミアリーグ):インド最大のeスポーツプラットフォーム
    Healthians (ヘルシアン):オンデマンド健康診断プラットフォーム
  • 東南アジア各国
    Zilingo(ジリンゴ):東南アジアのファッション・アパレル業界向け サプライチェーンデジタルプラットフォーム
  • ベトナム
    Sendo (センドー):ベトナム最大のローカルオンラインショッピングモー ル
  • 日本
    Smart HR(スマートHR):日本シェアトップクラスのクラウド人事労務サービス

アジアならではのスタートアップへの投資を進めるEmerging Asia Fund

同社のこれまでのアジアの投資先はインドが中心だが、今回組成するEmerging Asia Fundについて同社創業者の佐藤輝英氏は「注目している国は、インドに次いで東南アジア各国になります。実際、インドと東南アジアはほぼ同規模の投資になる見込みです」と語る。Emerging Asia Fundの1社あたりの出資額は数千万から数億円の規模になる見込みだ。

また新興国では欧米のサービスを現地最適化した事業が多い点については「新興国ではインターネットといえば『モバイル』インターネットを示しますので、モバイル主体のサービスが多いです」と佐藤氏。具体的には「モバイルデータを活用し数億人のクレジットスコアリングをするTrusting Social(トラスティング・ソーシャル・ベトナム)、モバイルで年間百万人以上のブルーカラーのジョブマッチングをするWorkIndia(ワークインディア・インド)、統一QRコード決済の最大手でサービス開始から1年半で300万店舗をカバーしているBharatpe(バラぺ・インド)といった、短期間で大型のプラットフォームに育った会社も多くあります」とのこと。

統一QRコード決済の最大手のBharatpe

佐藤氏は、さらにインドらしいスタートアップとして「すでに100万人のデータ蓄積している、在宅健康診断サービスで家に血液サンプルを取りに来てくれるHealthians(ヘルシアン・インド)、新型コロナウイルス蔓延後にインドでも規制が緩和され急激に伸びているオンライン診療大手のmfine(エムファイン・インド)、昔懐かしい毎朝の牛乳配達に合わせて日用品をドアまで運んでくれるmilkbasket(ミルクバスケット・インド)などがあります」と具体例を挙げてくれた。

家に血液サンプルを取りに来てくれるHealthians

そのほか、農業大国のインドで170万人の零細酪農家世帯に対して生乳の生産管理のIoT SaaSを提供するStellapps(ステラップス・インド)や、クラウドカメラで交通違反を割り出すAI企業のNayanTech(ナヤンテック・インド)などにも注目しているそうだ。

クラウドカメラで交通違反を割り出すAI企業のNayanTech

日本では事業よりも起業家のキャラクターなどを重視して出資を決める投資家も多いが、Emerging Asia Fundでも両方を大切しているとのこと。「新興国では人口増加にともなって対象マーケットが毎年急速に伸びることが多いので、個人向けであれば数千万人から数億人単位のユーザー規模を狙う企業、事業者向けであれば数百万規模の事業者のように、大きな事業ドメインを狙う、いい意味で野心的な起業家に投資をすることしています」と佐藤氏。

今後の海外からの日本のスタートアップへの投資は増える

多くの海外投資家が参加する予定の日本向けのALL STAR SAAS FUNDについて、BEENEXTパートナーの前田紘典氏は「海外投資家の日本SaaS企業への注目度は、確実に高まっていると思います」と語る。そして、その背景には以下3つのポイントが挙げられるという。「今後も引き続き、プライベート、パブリックに関わらず、海外資金の供給は増えると考えています」と前田氏。

  1. 日本が世界で2番目に大きいクラウド市場であること
  2. 労働人口の減少によって自動化の効率化の需要が上がっていること
  3. コロナによってデジタルシフトへの需要が上がっていること

ALL STAR SAAS FUNDの投資対象となるのは「業界を支える『インフラ』的な存在になれる一流のSaaS企業を支援することです」と前田氏は語る。海外投資家も入っていることから投資先企業はグローバル展開が前提ではという問いについては「グローバル展開の可能性については、その企業が目指す先にある場合はもちろん支援をしていきますが、この点は投資実行の要件としては重きを置いていません」とのこと。「これまでの投資例としてはSmartHRのほか、コールセンターやカスタマーサポート業界に特化したAIチャットボットを提供するカラクリや、建設業界に特化したバーティカルSaaSのANDPADなどがあります」。

なお、Emerging Asia Fundとは異なり、ALL STAR SAAS FUNDでは1社あたりの投資額の上限は決めてない。「ALL STAR SAAS FUNDは、自分たちが持つ、資金、人などを含めたリソースを最大限に投資先企業に提供し、企業の成長に貢献することが最重要ミッションとしています。そのため、1社あたりの投資額においても金額に上限は設けておらず、その企業のポテンシャルに合わせた判断をしています」と前田氏。「昨年7月には、ALL STAR SAAS FUNDが共同リードとなり、SmartHRのシリーズCラウンドで10億円以上を出資しています。その他にも、シードラウンドで数千万円の出資を行った事例もあります。資実行の対象となる企業のステージ、そして投資額の両面において、柔軟な体制をとっていきたいと考えています」と続ける。

世界的なコロナ禍でも堅調に成長するSaaSビジネス

最後に新型コロナウイルスのパンデミックによる影響について前田氏に質問したところ「デジタルシフトへの緊急性が高まったため全体的にSaaS業界はプラスの影響が出ているのですが、その度合いはカテゴリーによって異なります。ZoomやSlackのようなコラボレーションSaaSは非常に大きな追い風を受けています。CRMやマーケティング関連のSaaSは、特に目立った影響を受けることなく顕著に成長を続けている印象です」と語る。

ニューヨーク株式市場やNASDAQ、日経平均株価は乱高下しながらも徐々に新型コロナウイルス蔓延前の数値に近づいている。予断は許さないものの、どんな状況であってもそれをチャンスとして成功を掴む企業は歴史的に見ても多い。コロナ不況下が叫ばれる中、今回アジアと日本に2つの大きなファンドが組成されたことで、さらなるスタートアップ企業の登場や躍進を期待したいところだ。

シリコンバレーは黒人の起業家と投資家を応援している

警察による残虐行為と体系的人種差別から生じる経済的不平等への抗議行動が米国で続くなか、テクノロジー業界がこの大義への支持を表明しており、ベンチャーキャピタル企業もこの輪に加わっている。

テクノロジー企業の経営陣や彼らを支持する投資家たちは、この抗議運動とBlack Lives Matter(黒人の命の大切さを訴える)運動を支持する声明を発表している。Benchmark(ベンチマーク)、Sequoia(セコイア)、Bessemer(ベッセマー)、 Eniac Ventures(エニアックベンチャーズ)、Work-Bench(ワークベンチ)といった企業、そして SaaSTR Fund(SaaSTRファンド)の起業家であるJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏などがこの大義を支持し、ベンチャーキャピタル業界での人種的偏りを改善する手立てを講じるとツイートした。

しかし、一部の黒人起業家および投資家は、テクノロジーおよびベンチャーキャピタル業界が歴史的不平等に対しこれまで何らのアクションも起こしてこなかった事実を踏まえ、これらの企業の動機に疑問を呈している

「テクノロジー業界で黒人を見出し、雇用し、資金を融資するのは、他のグループを見出し、雇用し、資金を融資するプロセスと同じです。まずそのグループに属する人々と関係を築き、そのコミュニティーのオピニオンリーダーを探し、彼らから学んだ上で、採用チームや投資チームに対し融資の専門知識に欠けた部分があることを伝え、それを埋めるのです。一人の人物に形ばかりの関与をしたり、一度きりの取り組みに資金を提供したり、情報ルートの問題として処理するのは正しいやり方とは言えません」と、Cleo Capital(クレオキャピタル)のマネージングパートナーであるSarah Kunst(サラ・クンスト)氏はメール上でTechCrunchに語る。「これらのファンドが持つ有り余るスキルやリソースを使って学び、関係を構築し、資本を展開する。これこそが重要な点です」。

「採用し、資金を提供する」

投資家の取るべきステップは主に2つに絞り込まれるという。人々を採用し、投資するというアクションだ。

Mediumへの投稿で、ニューヨークを拠点とする投資会社Work-Benchは黒人起業家や投資家への支援を確実に行うための詳細な手順を示した。

同社は、Equal Justice Initiative(イコールジャスティスイニシアチブ)Southern Poverty Law Center(サザンポバティローセンター)Color of Change(カラーオブチェンジ)といった組織への経済的支援に加え、 自社の事業が黒人起業家や投資家支援につながることを保証する新しいステップを導入中である。

同社は、「関心のある場合」に取るその他数々のステップについても詳しく述べている。そのステップには、他のエンタープライズVCのためにエンタープライズスタートアップに取り組んでいる黒人起業家の公開データベースを照合したり、HBCUvc(VCやテクノロジー産業でのキャリアのために黒人を訓練する非営利組織)や黒人が関与するその他のVC企業と協力したりするといったことが含まれている。

一部の企業は、HBCU(歴史的黒人大学)から発生した企業に独占的に焦点を当てる専門プレシード投資ファンドを創設するなど、さらに一歩進んだ手段を講じている。

これらのイニシアチブは始まったばかりの初期段階にあり、投資家たちは彼らの取るステップについて明らかにする準備が整っていないが、彼らは独占的ファンドの枠を大きく拡大している。投資家たちはHBCUやランドグラント大学での採用活動を強化し、多様な候補に目を向けポートフォリオ企業内での社内トレーニングに力点を置き、広範囲かつ強力な社内起業家プログラムを通じて新世代のマイノリティ起業家を生み出そうとしている。

またこういった企業らは、進捗状況を監視し、企業内やポートフォリオの足りない部分を見出すためにベンチマークを設けることや社内調査を実施することを検討している。これを開始するには、まず企業が今まで何人の黒人起業家に投資したかを年次フォローアップとともに透明性と説明責任をもって公開するとよいだろう。

投資家たちはこれらのデータに内々でアクセスできるが、こういった統計を一般公開している企業は稀だ。Initialized Capital(イニシャライズドキャピタル)は月曜日、 最新のファンドのうち、黒人の起業家に率いられている企業は7%であることを発表した

Backstage Capital(バックステージキャピタル)の起業家Arlan Hamilton(アラン・ハミルトン)氏が我々へ送ってくれたメッセージの中で書いていたように、多様性の問題はファンド自体にも及んでいる。

「どこへ行っても投資家たちは、自分たちに何ができるだろうかと私に尋ねてきました。なにも複雑なことではありません。黒人の起業家に投資してください。『すべての』黒人起業家に投資する必要はありません。日頃のセオリーや、いわゆる『基準』を維持して、投資する黒人起業家を何人か見つければよいのです。必要とあらば私のところに130社のポートフォリオ企業がありますし、さらに雇用をおすすめできる数十人の黒人投資家をまとめた厳選リストを紹介することもできます。私のメールアドレスは、ARLAN@BackstageCapital.comです。もうこれで言い訳はできないでしょう」。

VCパートナーを採用する内部活動は、本質的に偏りのあるものだ。これをドミノ効果として考えていただきたい。LPが白人のGPだけに融資する場合、白人のGPは採用すべき他のパートナーを既存のネットワークの中で探すことになる。多様性に欠けるVC企業が、採用担当者または過小評価グループに属する起業家を通じて既存のネットワークを打ち破らない限り、このドミノ効果は今後も続いていくだろう。

「小切手を切りたい」

ベンチャー企業のパートナーたちは、黒人起業家のコミュニティを今後より強くサポートしていくことを約束している。

「私は一年の内そうたくさんの投資をする方ではありませんが(私はじっくり型の静かな投資家です)、あなたの会社の説明資料をメールしてください。6月は黒人起業家とだけ会う、またはZoomミーティングをするつもりです」とJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏はTwitterに投稿した

ニーヨークを拠点とするEniac Ventures(エニアックベンチャーズ)の起業家Nihal Mehta(ニハル・メタ)氏はTwitterで、一対一のビデオ通話サービスを提供するSuperpeerを使用して、黒人起業家から無料でアポイントメントを受け付けると発表した。メタ氏のツイートから24時間以内に夏の間の予約がすべて埋まった。彼は黒人起業家と103回のミーティングを今後行う。

「これは相当な需要があり、黒人起業家とテックコミュニティーの間に埋めなければならない大きなギャップがあることを意味します」とメタ氏は言う。

Eniac Venturesチームは全社で、黒人起業家と話し投資を行うための無料の専用Superpeerコンサルティングスロットを設けている。

Spero Ventures(スペロベンチャーズ)のパートナー、Ha Nguyen(ハ・グエン)氏は金曜日に黒人起業家向けの朝食会とAMA昼食会を主催している。また、グエン氏は黒人起業家に対し、資金調達プロセス、会社説明、次のチェックのための紹介文について支援が必要なときには連絡を取るように提案した。「そして私は小切手を切りたいと思っています」とグエン氏はLinkedInに投稿している

Hustle Fund(ハッスルファンド)のElizabeth Yin(エリザベス・イン)氏は同社のポートフォリオ企業の15%がネットワーク外の企業であると述べ、起業家に対し同社に今後も完全なインバウンドピッチを送るよう促している。

またイン氏は、Score 3で働いている同社のベンチャーアソシエイトインターンJasmin Johnson(ジャスミン・ジョンソン)氏、あるいはBackstageの元プリンシパルであり、自身の投資家マッチングプログラムを立ち上げたLolita Taub(ロリータ・タウブ)氏のような、多様なネットワークを持つ起業家と非公式な取引フロー関係を築こうとしているところであると伝えた。

タウブ氏は、固定ツイートGoogleフォームを掲載し、そこでスタートアップからの投稿をレビューしている。その企業が彼女のお眼鏡にかなう場合には彼女から連絡し、他の投資家(Backstage Capital、Harlem Capital、Hustle Fund、WXR Fund)にふさわしいようなら、タウブ氏は両者を引き合わせる。

タウブ氏はテック業界とベンチャーキャピタル業界において華麗な実績を持っているため彼女のネットワークは広範囲に渡る。しかし彼女の投資プログラム自体はシンプルだ。これは多様なネットワークを持つバレーのスーパーコネクターなら、誰にでも再現可能な手法だ。

「才能はいつも身近にあった」

投資コミュニティーが黒人コミュニティーへのサポートを先を争って表明する中、黒人投資家やスタートアップ起業家はそうした動きに疑問を投げかけている。

抗議運動が長引き、数え切れないほどの黒人男性や黒人女性が警察の手によって命を失って後、やっと投資家がこの業界、そして国全体が直面する問題について行動を始めたという点にこの問題の深さが表れている。

黒人投資家が率いる企業、Precursor(プリカーサー)は日曜日次のような声明を発表した。

MaC Venture Capital(マックベンチャーキャピタル)のMarlon Nichols(マーロン・ニコラス)氏、Upfront Ventures(アップフロントベンチャーズ)の Kobie Fuller(コビー・フラー)氏といった投資家は、自らの投資活動とアフリカ系アメリカ人の人材ネットワークであるValence(ヴァレンス)のようなスタートアップの創設を通じて、優先事項として多様な起業家グループの育成を行ってきた

ニコラス氏が本日の投稿で指摘したように、業界における不平等を示すデータは驚異的である:

  • 黒人はスタートアップの幹部ランクにおいて82%過小評価されている
  • 調達された全ラウンドの75%以上が白人の融資チームに渡っている
  • 人種的に多様性のある創設チームおよび経営陣チームは、全員が白人の創設チームおよび経営陣チームよりも、買収とIPOにおいて高い実現倍数(RM)を生み出している(それぞれ3.3倍対2.5倍、および3.3倍対2倍)

ですから、心から人種差別に反対であるなら、今すぐに始めることができるのは、黒人男性や黒人女性が率いるスタートアップやファンドに投資しない理由についてあれこれ言い訳するのをやめることです。そのかわりに投資し、ネットワークを広げ、我々をリーダーシップ/意思決定ポジションで雇用し、白人が率いるスタートアップやファンドに適用している基準を我々にも適用してください。

改善への道のりは長く、投資家が現状を変えるためにできることは山程ある。

「あらゆるトップMBAプログラムには黒人の学生組織があり、あらゆるトップテック企業には黒人ERGがいます。まずはこの集団に対し採用活動を行ってください。黒人テックリーダーが率いるUlu(ウル)、Precursor、そして私自身のファンドCleo Capitalなど、とても有力なファンドがあります。 Chris Lyons(クリス・ライオンズ)、Ken Chenault(ケン・シュノー)、Adrian Fenty(エイドリアン・フェンティ)、そしてMegan Maloney(ミーガン・マロニー)といった非常に優秀な投資家もいます」とクンスト氏は書いている。

「私たちは皆、テック分野の黒人を見出しサポートするためどういったところで時間を費やしているか、熱心に発言しています。私たちはCulture Shifting WeekendやBlack Women Talk Techといったイベントで話し、Code2040やHBCUVC、Blck VCといった団体をサポートしています。簡潔に言うと、私たちは活動に尽力してきましたし、人材は常にそこあったのです。あとは何が残っているかというと、大規模ファンドがこの流れに乗って黒人のVCを雇用したり黒人の起業家に融資をするために真摯な取り組みを行ったりし、また彼らのポートフォリオ企業に対し、リーダーシップポジションに黒人を採用するよう促すことです」。

大規模なベンチャーキャピタル企業が過去数日間で発表した取り組みにより、過小評価グループに属する起業家がベンチャーキャピタル資金や意思決定者にアクセスする機会が拡大し、それが小切手につながるかもしれない。しかし、カレンダー上のアポやメールだけでは人種差別の問題は解決しない。黒人起業家に限定し、1ヶ月間独占的なミーティングを行っても、ベンチャーキャピタル業界に体系的に巣食った問題を解決するには至らない。

それゆえ、ベンチャーコミュニティーはより強固なアクションを取る必要がある。なぜなら言葉だけの声明は、小切手を切ったり採用を行うことほどの力を持たないからである。

関連記事:シリコンバレーは黒人が経営する企業の支援で組織的人種差別と戦うことができる

Category:パブリック / ダイバーシティ

Tag:差別 アメリカ

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(翻訳:Dragonfly)

コロナ禍で進化する学生起業

編集部注:本稿はEric Tarczynski(エリック・タルツィンスキ)氏による寄稿記事。同氏は、フェイスブック、テスラなど多数の企業の創業者から支持されているネットワーキング主体のベンチャー企業Contrary(コントラリー)のマネージングディレクター。

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California State University(カリフォルニア州立大学)は2020年秋に始まる新学期の授業はすべてオンラインで行うと発表した。Northeastern University(ノースイースタン大学)は通常体制で再開する。UT Austin(テキサス大学オースティン校)は、感謝祭の休暇までは対面授業を行い、その後にやってくるインフルエンザの流行期にはオンライン授業に切り替えるというハイブリッド型の対応策を予定している。

これは学生起業家にとって、今までに経験したことのない状況だ。従来のリソースやネットワークはまったく機能していない。しかし、起業への意欲に燃える学生たちにとってこれまでは最も希少なリソースであった「時間と集中」が、今はかつてなく豊富に使える。

Facebook(フェイスブック)もMicrosoft(マイクロソフト)もハーバード大学の試験勉強期間(学生が試験準備に集中できるよう授業が休講になる週)に創業されたというのは有名な話だ。今年の春は、いわば長い試験勉強期間のようだった。大学によっては通常の試験勉強期間より課題が少ないところもあった。

低下する授業の優先度

Stanford University(スタンフォード大学)の学部生Markie Wagner(マーキー・ワグナー)さんは、大学が導入した必修単位の「合格・不合格」評価制度をうまく利用している。合格しさえすれば単位が取得でき、レター・グレードによる評価を気にしなくてよいため、マーキーさんと友人たちは思うままに、講義への出席は二の次にして、起業家に会うことやビジネスのアイデアを試すことに力を注げる。

「今学期は完全ハッカソンモードで動く予定。これまでにたくさんの創業者やVCに会って勉強してきたわ」とマーキーさんは語る。最終学年となる来年度は会社の設立に時間をあてたいと考えているマーキーさんにとって、一足先にリサーチや人脈作りを始められるいい機会になっているようだ。

新型コロナウイルスのパンデミックにより大学の閉鎖が長期化した場合、学生たちは、履修単位数が少ない期間が1学期とはいわずもっと長く続く事態に直面せざるを得なくなる。

オンライン授業になっても学費が減額されないことについて、腹立たしく思っていない人はほとんどいない。Contrary(コントラリー)のネットワークに参加している学生の多くがギャップ・イヤー制度の利用を計画している。または、Austin Moninger(オースティン・モニンガー)さんのように、最終学年を丸ごと飛び級しようとしている学生もいる。Rice University(ライス大学)でコンピューターサイエンスを専攻している大学4年生のオースティンさんは当初、2021年春の卒業を予定していたが、今後もオンライン授業が続く見込みを踏まえて卒業を早めることを決めた。現在、フルタイムのソフトウェアエンジニア職に就こうと求職中だ。「結局は経験や人脈を得るために学費を払っているということにみんな気づいたんだ。大学で経験と人脈が得られなくなったんだから、自分の時間とお金は別のところで使った方がいいよね」とオースティンさんは語った。

これは大学の立場を揺るがす事態だ。休学や入学延期を許可してクラス規模や財務状況を危険にさらすか(実際に、Dartmouth’s Tuck School of Business(ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス)はこの理由から、入学延期を許可しないことを決めた)、今後も学費を減額せずにブランドイメージを危険にさらすか、どちらかを選ばなければならない。

一方で、キャンパス閉鎖や授業のオンライン化の影響を大学以上に受けている学生たちもいる。バイオテクノロジーやハードウェアなどの分野でリサーチ主導の起業を目指す学生にとって、目標に向かって進むには高価な実験器具が備わっている大学のラボを使うことが欠かせない。大学で起業と聞くとフェイスブックやSnap(スナップ)などの、純粋にソフトウェアだけが必要な業態を最初に思い浮かべるかもしれないが、すべての学生起業家がそのように設備をあまり必要としない事業を立ち上げているわけではない。

長引くキャンパス閉鎖やオンライン授業が教育そのものに及ぼす影響や、それが創業者に与える長期的な影響も不透明だ。これまで創業者は本格的に起業して利益をあげようとする前に、学位取得に必要な単位をほぼ履修し終えていることが多かった。2020年に入ってから現在までの間に、市場が必要としているスキルと大学が教育しているスキルとのギャップについて観察する機会はまだ得られておらず、この状況は年末まで続くだろう。

高度に技術的なスタートアップを起業する場合を除き、起業に必要な技術的または財務的知識を独学と実践によって習得できる起業家であれば、会社を興すことは可能だ。それを示す絶好の例が、Malwarebytes(マルウェアバイツ)のMarcin Kleczynski(マーチン・クレジンスキー)CEOである。クレジンスキー氏はThe University of Illinois at Urbana–Champaign(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)の1年生だった時に、のちに有名企業となるサイバーセキュリティ企業マルウェアバイツを起業したが、大学ではC評価を得るのに必要最低限の勉強しかしていなかった。

キャンパス環境のバーチャル化

大学のキャンパス閉鎖が始まってからも学生起業家に対するシード投資は鈍化していないとはいえ、起業は相変わらず簡単な仕事ではない。

22歳の学生起業家たちにとって最大の障壁は通常、スタミナ不足でも生意気な性格でもなく、適切な共同創立者を起用し、初期チームを採用するのに必要な人脈を築くことだ。キャンパスにいれば、そのような人材と幸運にも自然に出会える確率は十分高い。しかし、大学の閉鎖が長期化し、オンライン化がその穴を埋めることができなければ、新規起業数も停滞することだろう。

知り合って1年以内の創業者たちが共同でスタートアップを立ち上げることはほとんどない。現時点では、この問題が顕在化するほどの時間はまだたっていない。しかし、学生仲間と深く知り合うことができないキャンパスでは、長期にわたる絆を築くのは不可能だ。

この問題を解決する1つの手段として、コントラリーは今年の春に創業者のためのバーチャルコミュニティを開設した。1つのコミュニティルーム(実際にはSlackのチャンネル)に100人が参加できるようにし、参加者どうしが一緒に時間を過ごす機会や起業のためのツールを提供するというシンプルな仕組みだ。

このコミュニティで参加者がさまざまなアイデアやプロジェクトを試した結果、6週間で150以上のコラボレーションが生まれた。参加した創業者の75%は、リモート作業に移行して以来こんなに生産的に仕事ができたのは初めてだと述べ、コミュニティプログラム終了後には参加者の約70%が自社の業務を続けよう、あるいは新しいプロジェクトを始めようと計画していた。

おそらく、最も特筆すべきは、形成された人脈の幅広さだろう。参加者による交流のほとんどは別の大学に通う学生たちとのものだった。たとえ世界トップレベルといわれる大学でも、1校だけでは全国にいる優秀な人材のうち数パーセントしか集めることができない。バーチャルコミュニティにより、有望な人材をつなぐ人脈をはるかに拡大することができたのである。

Reddit(レディット)のSteve Huffman(スティーブ・ハフマン)氏やKayak(カヤック、現在はLola(ロラ))のPaul English(ポール・イングリッシュ)氏などの成功した起業家によるオフレコ講演会も開催したが、参加者にとって最大の収穫は、このコミュニティに参加しなければ出会えなかったであろう、同じ目的を持つ仲間とつながることができたことだった。このコミュニティプログラムは、大学の閉鎖により失われた幸運な出会いを人工的に創り出し、それを「話すよりも行動する実際の機会」という、起業に欠かせないもう1つの材料と混ぜ合わせたのである。

大学はツールセットのようだと考えることができる。教育、人脈、資格、社会的学習などすべてが1つの総合的な経験を形成している。

しかし、ここ10年ほどは、大学が提供していたそのような価値の大部分が他の組織に侵食されてきていた。

例えば、Thiel Fellowship(ティール・フェローシップ)に応募するか、有名企業の実績あるインターンシップに参加すれば才能があることを証明できるし、Scott Kupor(スコット・カーパ)氏の著作Paul Graham(ポール・グレアム)氏のブログを読めばベンチャー起業について学ぶことができる。

つい最近まで、大学が提供する主な「ネットワーク効果」は、優れた実績を持つ人物に会うためにはキャンパスに行かなければならない、という事実の上に成り立っていた。しかし、新型コロナウイルスの影響で人との交流の大部分がクラウド上へとシフトした今、その定石に従わなくても人脈が作れるようになったのだ。

学生起業家の未来は明るい

新型コロナウイルス感染者数が横ばいになり、いずれはゼロになることを誰もが望んでいる。しかし、その時が来るまで、学生起業家は資金調達、人脈や信用の構築、学習の場を学外で探して集中的に活用していく必要があるだろう。

コントラリー、Slack(スラック)、Y Combinator(ワイ・コンビネーター)、AWSの無料クレジットがもし存在していなかったら、大学の閉鎖は学生起業家にとって死刑宣告と同じだっただろう。しかし、シリコンバレーとつながってビジネスを始める方法は大学以外にも数多くある今、意外なことに状況はコロナ禍前後でほとんど変わっていないのである。

関連記事:ザッカーバーグの才能を見出した投資家、次は「優秀な学生は大企業へ」を覆す

Category:VC / エンジェル

Tag:コラム アントレプレナーシップ

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(翻訳:Dragonfly)

a16zが十分な支援を受けていない創業者に投資する2.4億円のファンド創設へ

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ=a16z)は米国6月3日のブログ投稿で、過小評価され、十分な支援を受けていない創業者らに投資するファンドを立ち上げると発表した。

a16zが6カ月にわたり準備してきたTalent x Opportunity(TxO)ファンドは、同社のパートナーらからの220万ドル(約2億4000万円)の寄付でスタートする。TxOは初年度にシードステージのスタートアップ数社に投資し、将来的には規模を拡大する予定だ。

「当社は、人生でファストトラックにアクセスできなかったが大きな可能性を秘めている起業家を探している。プロダクトは非技術的なものでも技術的なものでも構わない。起業家は十分な支援を受けていないコミュニティ出身である必要がある(あらゆる出自を歓迎する)。理想的には、ニッチな市場を対象とする事業で、興味深いモデルを持っており、見込みと可能性を示す力が多少あることが望ましい」と同社は投稿した

a16zはTxOの目標について「まだ見出されていない人を対象としたアクセラレータのようなもので、目指す成果はVCの資金を獲得すること」だと述べ、起業家にネットワークとトレーニングプログラムを提供するという。同社はスタートアップの後続ラウンドに投資するかどうかについてはコメントしなかった。

a16zは全ファンドで120億ドル(約1兆3000億円)の運用資産を有しているため、220万ドル(約2億4000万円)のファンドは金額面では画期的ではない。ただし、TxOの投資方針は注目に値するものだ。

同社は寄付をベースとしたファンドから企業へ出資する。収益は将来の起業家に資金を提供するためファンドに残す。

TxOの立ち上げは、ミネアポリスの警察によるGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の殺害と、それに続く先週の全国的な抗議活動に対する警察の暴力に続く形となる。

抗議から数日経ち、ベンチャーキャピタルコミュニティからBlack Lives Matter(黒人の命も大切だ)運動への支援の動きが相次いだ(未訳記事)。ソフトバンクは、ポートフォリオ企業で最近人種差別に関わる論争(未訳記事)を抱えていたが、今週、有色人種の創業者に投資する1億ドル(約110億円)の「オポチュニティー・グロース・ファンド(未訳記事)を立ち上げた。

さまざまな起業家に日々投資している黒人の起業家や投資家は、他人からの反応の洪水に疑念を抱いている。ベンチャーキャピタル業界は不平等に直面しても変化が遅いからだ。

無数の黒人男性や女性が死んで始めてテクノロジー業界が多様性ある起業家への投資方法を変えるのでは遅いと多くの人が言う。新たな動きが増えているが、善意というよりは日和見的に見える。

ベンチャーキャピタル業界全体が、基本的に2つのことを行う必要がある。人を雇うこと、投資を通じて資金を供給することだ。

「難しいことではない。黒人の創業者に投資してほしい。すべての黒人創業者に投資する必要はない。自分の仮説や『基準』を維持したまま投資対象の黒人創業者を探すことは可能だ」。Backstage Capital(バックステージキャピタル)のArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏は米国6月2日、TechCrunchに対しそう書いた。「必要なら、私には130のポートフォリオ企業があるし、雇うべき黒人投資家の厳選リストをお見せできる」。

黒人の創業者が率いる企業をターゲットとするプレシード投資ファンドについてブレーンストーミングしている企業もある。計画段階のため早すぎるとして匿名を希望したある企業は、同社のファンドは歴史的黒人大学(HBCU)出身経営者の企業に注力すると述べた。

a16z自身は対象企業をどう探すのか明らかにしなかったが、ブログ記事で「過去6カ月間を、シリコンバレーでは見られないような隠れた天才創業者の探索に費やした」と語った。

ソーシング戦略は、多様性のある起業家に投資するというファンドの目標を達成するために不可欠だ。ベンチャーキャピタルのネットワークは主に男性と白人で構成されているため、特別なパイプラインが必要だ。HBCUからソーシングするのか。才能を見出すために黒人のためのテックカンファレンスに参加するのか。Cleo Capital、Backstage Capital、Precursor Ventures、Harlem Capitalなどの黒人が主導するファンドと共同投資するのか。

これらの質問への答えは、a16zが小切手に限らず創業者をどのようにサポートできるかを理解する上で不可欠だ。

TxOファンドは、a16zに5年間在籍したNaithan Jones(ネイサン・ジョーンズ)氏が主導する。ジョーンズ氏は、シードステージのスタートアップであるAgLocal(アグローカル)を経営していた。同氏は、同社に投資していたAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロヴィッツ)のパートナーであるBen Horowitz(ベン・ホロヴィッツ)氏に引き抜かれた。2017年のブログ投稿(Midium記事)でジョーンズ氏は会話の様子を詳しく語っている。

「ベンは、私がa16zポートフォリオ企業の1つで働くか、それともa16z自体で働くことに興味があるかを知りたがっていた。驚いた。彼らが電話で採用の打診をしてくるなんて思いもよらなかった。 私の会社が倒産に向かっている頃に、彼らは私のことを見聞きするようになった。a16zやそのネットワークで私のスキルと才能が役に立つと思ったようだ。彼らは私の本質を調べた。『黒人で、大学の学位がなく、アウトサイダー』であることには関心がなかった。彼らが見ていたのはネイサン・ジョーンズという私自身だった」。

a16zは以前、黒人起業家に資金を提供すべく金銭面で献身的な努力をしてきた。同社は2018年、Cultural Leadership Fund(CLF)を設立した。規模未公開のこのファンドは、WillとJada Smith、Chance the Rapper、Kevin Durant、Nasir Jones、Shellye Archambeauなどの限られた人数の著名なパートナーによって創設された。CLFは、アフリカ系アメリカ人のテック分野への進出支援を行う非営利団体に、年間のマネジメントフィーをすべて寄付している。

TxOファンドはCLFとは異なりLPにリターンを分配しない。リターンはすべてファンドに戻され再投資される。

画像クレジット:Malte Mueller / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

イノベーティブな起業家を動かすものは「金」か「利他主義」か?

新型コロナウイルス(COVID-19)に完全に飲み込まれたこの新しい世界では、難局を打開しようとさまざまなイノベーションが湧き上がっている。3Dプリンターは医療用具を次々に作り出す(Technology Review記事)。検査方法は急速に進歩(Bloomberg記事)し、5分で結果がわかるようになった。教師たちは完全なオンライン授業のためにカリキュラムを作り変えた(Quartz記事)。これは人類とウイルスとの戦いだ。世界はできる限り迅速に対応しようとしている。

そんな中で先日、シリコンバレーを代表する投資家と起業家精神を鼓舞するものについて話し合った。彼の場合、そしてシリコンバレーの彼の仲間たちも含め、答は明らかだった。人はヒーローへの憧れに突き動かされる。その野望は、勝者として認められたい、そしてそれがもたらす富を享受したいという永遠に満たされぬ渇きに根ざしている。

だがこの認識には問題がある。新型コロナウイルスに対処している数多くのイノベーターたちは、そこに含まれないからだ。貧困、公衆衛生、教育といった難しい問題の解決に情熱を燃やす人々だ。MIT Solveで、100人を超える国際的な社会起業家たちと密接に仕事をしてきた私は、シリコンバレーのヒーローたちとはまったく異なる人物像があることに気がついていた。私が知る起業家たちは、本当の問題を解決したいと考えている。インフルエンサーやNetflixのスターを目指してはいるわけではない。

例えば、子供の発達を促すツールを両親に提供する「Kinedu」(キネデュー)アプリの開発者であるLuis Garza(ルイス・ガーザ)氏だ。中南米の育児チェーンで働いていた彼は、初めて子どもを持った親たちの、赤ちゃんの育児に対する不安を感じていた。彼は、何をすべきかをみんなに教え「自分はいい親だと自覚させる」ための方法はないかを模索した。開発以来Kineduは、400万人の生活に大きな影響を与え、いまは新型コロナウイルス対応として、家で孤立して助けを求めているすべての親に無料のサブスクリプションを提供している。

イノベーションの誘因を評価する目的で最近行ったコロンビア・ビジネス・スクールとカーネギーメロン大学との共同実験では同じ結論が示された。すべての起業家が富と名声のために動いているわけではないというものだ。もし富と名声が誘因だとすれば、そうでない人たち、つまり「ヘルパー」起業家たちは排除されてしまうことになる。

我々は世界76各国の1万1000人の起業家に電子メールを送り、Solveが主催する「Global Challenges」(グローバル・チャレンジズ)への参加を呼び掛けた。独自のビジネスソリューションを提出し、審査に合格すれば資金、指導、援助が受けられるというプログラムだ。各自には、次の3つのメッセージのうちひとつがランダムに送られた。ひとつは社会的影響を強調するもの。ひとつは賞としての資金援助を強調したもの。もうひとつは神経抑制的なものだ。私たちは彼らからの申し込みメールを見て、どのメッセージがもっとも響いたかを評価した。

その結果、女性には社会的影響がもっとも大きな誘因になり、一方男性は資金が誘因になることが多いことがわかった。国の文化も影響していた。利他的な文化を持つ国の人たちは社会的影響に動かされることが多く、そうでない国の人たちは資金が誘因になることが多かった。

性別、文化、経歴などに関して真にインクルーシブになるためには、意図的に起業家を刺激し支援する方法を考えるなければならない。私たちはそのヒーローとヘルパーという2つの本能に訴える必要がある。だが、多様な参加者を呼び寄せるための言葉選びは、第一段階に過ぎない。ここに、多様なイノベーターを意識的に鼓舞したいと考える投資家や支援者のための3つのガイドラインを示そう。

起業家の参入のハードルを下げる

申し込み書には難解な業界用語を使わない。イノベーターにピッチの指導をして準備させる。使命によって突き動かされたことをアピールする言葉を選び、単に金目当てのイノベーターでないことを示す。以上のことを守れば、MBAやハイテク業界での経歴を持たないイノベーターも、いつでも気軽にプログラムに申し込めるようになる。その代表がコメディアンからスタートアップ創設者に転身したArturo Hernández(アルトゥーロ・エルナンデス)氏だ。彼はSupercívicos(スーペルシビコス)という、都市インフラで問題のある地点を記録し、行政が対応できるようクラウドソース化するという、150万人の利用者を擁するアプリを開発した。

起業家の「有望性」の定義を広げる

「右肩上がり」の急成長で次なるユニコーン企業を築く有望なベンチャーの判断基準はパーカーを着た起業家、というのはいつ決まったのだろうか? シマウマ(利益と使命という2色の目的を生き残りのために協調させている起業家が実際にいる)ではダメなのか? Nicole Bassett(ニコール・バセット)氏はThe Renewal Workshop(ザ・リニューアル・ワークショップ)を共同創設した。彼女は、アパレルと繊維ブランドのために廃棄物ゼロの循環型ソリューションを提供している。彼女は衣服のリサイクルとアップサイクルのための新しいビジネスモデルを急成長させ、営利目的のスタートアップとして利益を追求しながら、およそ45万トンの繊維製品を埋め立て処分から救い出した。

資金提供を超える支援を

新しいベンチャーを興すには、資金はきわめて重要だが、社会起業家には技術的専門性や指導も同じぐらい重要であると認識しなければいけない。一流の起業家から指導を受けた創設者は、自社を一流企業を育てられる可能性が3倍高くなる。データと分析の技能を訓練するプラットフォームRefactored.ai(リファクタード・エーアイ)を作り上げたRam Katamaraja(ラム・カタマラジャ)氏の場合を見てみよう。彼は規模の拡大のためのマーケティングとブランディングの支援を必要としていたが、指導によって「大混乱と恐怖に陥りがちなそのプロセスが、満足のいく、非常に生産性の高いものに変わった」と話している。Refactored.aiは8000人以上のユーザーの技能を高めてきた。

有望な起業家に対する理解を広げ、プログラム参加へのハードルを下げ、個々に即した支援を行わないかぎり、戦局を変えてこのパンデミックを克服する数々のアイデアを、私たちは無視してしまうことになる。その結果、大きな問題が解決されないまま残され、大きなコミュニティーが放置されることになる。

【編集者注】著者のHala Hanna(ハーラ・ハンナ)は、社会的インパクトのあるイノベーションのマーケットプレイスMIT Solveのマネージング・ディレクター、コミュニティー担当。

画像クレジット:Luisella Sem/EyeEm / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

スタートアップ経営者のためのCVCタイプ別アプローチ・交渉ガイド

編集部注:本稿はスコット・オーン氏とビル・グローニー氏による寄稿記事である。スコット・オーン氏は、スタートアップCFOへのコンサルティングサービスで急成長を遂げているKruze Consulting(クルズコンサルティング)のCOO。ビル・グローニー氏は、Goodwin’s Technology & Life Sciences(グッドウィンテクノロジーアンドライフサイエンス)グループのパートナーだ。

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いま、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が熱い。CVCによる投資額は2018年だけで500億ドル(約5兆4000億円)を上回った。Corporate Venturing Research Data(コーポレートベンチャーリングリサーチデータ)によると、CVCによる投資額は2013年から2018年の間に400%増という驚異的な拡大を記録した。現在、アクティブなCVC投資会社が100件以上あるが、一部の情報筋によると、ベンチャー企業への投資ラウンド全体の約半分に戦略的投資家が関わっているという。

CVCが急拡大した背景には2つの要素がある。1つ目は、テクノロジー業界の発展スピードが加速しており、市場ニーズに応えるにはより迅速なイノベーションが必要だと大企業が考えていること、2つ目は、従来型のVCファンド投資による事業拡大以上の価値を求めてCVCによる投資を希望するスタートアップ創業者の数が増えていることである。

Kruze Consulting(クルズコンサルティング)Goodwin(グッドウィン)は、CVCからの出資を含め、数百社のスタートアップの資金調達を支援してきた。両社およびそのトップには、資金調達時およびその後の段階にいる創業者へのコンサルティング業務において数十年の実績がある。

スタートアップがCVCとの取引を首尾よく行うための一助になればと、ここに「CVCアプローチ・交渉ガイド」を作成した。この記事では、CVCのタイプと、タイプ別の最適なアプローチ方法、交渉初期の段階で創業者が留意すべき点について紹介する。

3タイプのCVC

CVCは大きく3つのカテゴリに分けられる:

1. ベンチャー機関投資プラットフォームの大企業版。この「機関型(Institutional)」CVCは、親会社の戦略的資産を活用してポートフォリオと実利益を拡大することを目的とする。Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)を親会社とするCVC、SE Ventures(SEベンチャーズ)のジェネラルパートナーであるGran Allen(グラン・アレン)氏は「このタイプのCVCは財務リターンを第一に追求するVCとよく似ているが、異なる点は、大企業が親会社としてバックにいることと、実際のチャネル収益獲得へのチャンスが開かれることだ」と語る。

2. 「戦略型(Strategic)」CVCは財務リターンだけではなく、価値あるイノベーションの実現を目指す。このタイプのCVCは、外部に投資することによって、最先端の情報を収集し、親会社に利益をもたらす可能性がある新たなテクノロジーについて学びたいと考えている。もちろん財務リターンを重視する場合もあるが、ROIに対する考え方は従来の投資家とは少し異なる。

3. いわゆる「ツーリスト型(Tourist)」CVCは、設立されたばかりで比較的経験が浅いCVC。ベンチャー投資の経験はほとんどなく、プロセスや投資案件フロー戦略が確立されていない。

CVCの世界では、専門化が進むにつれて1つ目の「機関型」に当てはまるCVCが増えている。CVCからの資金調達を検討している起業家にとって、「機関型」あるいは「戦略型」のCVCは多大な価値を提供してくれる可能性がある投資家である。ただし、スタートアップは、アプローチするCVCがどのタイプであるかを認識し、CVCの目指すものや強みに沿った明確な目的を持ってCVCとの面会に臨むことが重要だ。

アプローチするCVCがどのタイプかを見きわめる

CVCとの関係を築き始める前、さらに言えば、見込み投資家と接触する前はいつでも、最も重要なステップとなるのは事前リサーチである。面会するCVC側担当者は誰か。相手の背景や現在所属するCVCでの投資実績はどのようなものか。こうした点は、CVCとの最初の面会に臨む前に必ず押さえておきたい。

交渉の初期段階に入ったら、CVC側担当者に、出資金を親会社の指示の下に運用しているのか、それともCVCとして自律的に投資決定ができるのかを尋ねてみよう。その答えによって、機関型CVCであるか戦略型CVCであるかが判断できる。

前述のアレン氏は「大企業がバックにいるベンチャーファンドの場合、どのようなファンドであるかを事前に確認しておくことは非常に需要だ。いわゆるCVCと呼ばれる非従来型の投資家であればどこでもやみくもにアプローチするのは危険だ。他と比べてはるかに厳密な財務リターンを求めるところもある。ほとんどのCVCはある程度の戦略リターン目標を設定しているが、財務リターンを目的とする投資を増やしているCVCも多い」と語る。

次に、アプローチするCVCが「財務リターンを第一とするCVCか、戦略リターンを第一とするCVCか」という点を考える必要がある。創業者として、面会しているCVCが、「優秀な人材、巨大なマーケット、わが社の投資資金と人脈を駆使する機会を発掘して、ビジネスを最大限に発展させたい」という目線で案件を見る投資家なのか、それとも「親会社が活用できる、あるいは親会社が新たな市場やテクノロジーに参入するのを助けるような、ソリューション、プロダクト、プラットフォームを探している」という目線で案件を見る投資家なのかを見きわめる必要がある。

ここでも、アプローチしているCVCのタイプを判別するには、的確な質問をすることが必要だ。最初の面会では、投資プロセスや実際の投資方法、さらに、投資審査案件について戦略的事業部門の賛同が必要かどうかを尋ねる。その答えから、CVCがグループ1の機関型かグループ2の戦略型かを判断でき、そのCVCが出資者として適切かどうかについて、より優れた決定ができる。

「創業者のビジネスを理解してくれる人、創業者に実際に会って、単に出資すること以上の価値を見いだして関係を築こうとしてくれる投資家を探すことだ。現在のベンチャー市場を見ると、創業者は資金と価値の両方を求める傾向がある。貴重な経験をシェアしてくれるCVC、同様の事業領域で実際に投資案件を扱ったことがあるCVC、または価値ある知見や経験を提供してくれるCVCを選ぶとよい」とComcast Ventures(コムキャストベンチャーズ)のマネージングディレクターRick Prostko(リック・プロストコ)氏は言う。

CVCとの取引を進める前に留意すべきこと

創業者として最初の段階ですべきことを終え、CVCとの関係を築き、自社のビジネスに最適な投資者となるCVCを決めたら、次の段階に進む前に留意しておくべき重要な事柄がある。次にその点について説明しよう。

プロダクトや技術面に関するより詳細な審査に対する用意をする。CVCは技術、プロダクト、マーケットに関する社内の専門家と一緒にこのデューデリジェンスを行うことがある。そのため、プロダクトに関する審査は、従来のVCよりも厳しくなる傾向が強い。その道のプロによる鋭い指摘を受けることを覚悟しておこう。裏を返せば、この審査プロセスのおかげで、CVCの親会社内に顧客やパートナーが見つかる可能性がある。ぜひ自社にとってプラスになるようにこの機会を活用しよう。

自社の機密情報を大企業に開示するという点に留意する。「どのCVCも、評判の重要性を理解している。そのため、機密情報を悪用するCVCはめったにない。そんなことをすれば、たちまち悪い評判が広まってしまうからだ」とTouchdown Ventures(タッチダウンベンチャーズ)のEric Budin(エリック・ブディン)氏は語る。

とはいえ、創業者としては、何を開示するかについて慎重かつ戦略的に熟考すべきであり、財務・技術に関する情報や競争力のある情報をCVCに提供する前に、CVCが自社への投資に本当に関心を持っているかを見きわめなければならない。CVCの親会社内の事業部門が、創業者がCVCに開示した情報を見て不当に利益を得る可能性もあれば、CVCを利用して競争に有利な情報を得ようとする可能性もある。

一方で、自社の情報を開示することで、CVCの親会社内のチームとつながるまたとない機会が開かれるかもしれない。重要なのは、開示を求められている情報は何か、誰に開示するのかという点を注意深く検討し、デューデリジェンス開始前に、開示情報に関する基本ルールをCVCとの間で決めておくことだ。

「CVCの組織構造と開示情報の扱い方を理解しておくことは重要だ。創業者のビジネスについて知ることから恩恵を受けるCVC親会社内の事業部門とつながることが、創業者にとっても有利に働く場合がある。裏を返せば、CVCが競合他社となる可能性がある場合は、慎重に情報開示をする必要があるということだ」とプロストコ氏は語る。

CVC側の組織変更によるリスクが存在する。大企業には、何というか、大企業ならではの動き方がある。人は去り、役員は変わり、会社としての優先順位も変化する。投資案件を担当する事業マネージャーがその職を去った場合は誰が同案件をサポートするのか、CVCのトップが解雇された場合にCVC自体はどうなるのか、投資案件を進める担当者が離職した場合、CVCはそれまでと同様の割合で出資を継続してくれるのか、進行中の営利取引案件がある場合はどうなるのか、といった点については最初に確認しておこう。CVCと取引を始める前に、CVC社内のダイナミクスについて詳しく理解しておくことが重要だ。

「一般的に、成功している企業ほど、そのCVCも息が長い。CVC側担当者の会社における経歴、勤続年数、ファンドからファンドへ渡り歩いた経験があるかどうかを必ず確認すること。もし投資担当者が親会社という『母艦』から出向してきたような人で、ベンチャー投資に関する信頼できる実績がないなら、創業者は用心すべきだ」とアレン氏は言う。

CVCには順守すべき規制があることが多い。業界にもよるが、政府が定める規制が投資案件の仕組みに影響を及ぼす場合がある。例えば銀行は、所有できる議決権株式の割合を制限する規制に従わなければならない。外国資本の投資家は、対象となるテクノロジーを提供している企業に投資する場合、CFIUS規制を順守する必要がある。一般的に、どのCVCも順守すべき規制が何かは理解しているが、プロセスがだいぶ進んだところではじめてその話題を持ち出すことがあり、その後の進行を遅らせる原因となる場合がある。

親会社の投資部門であるCVCとの営利取引は交渉を遅らせる原因になる場合がある。純粋に戦略型(グループ2)のCVCは、ベンチャー投資取引の成立と同時に営利取引も成立させたがることが多い。そのような取引は資金調達プロセスより長い時間がかかる傾向があり、そのラウンドにおいてCVCが(単独ではない)メイン投資家である場合に問題になることがある。グループ2の戦略型CVCと取引する際は、投資取引と営利取引を切り離して、営利取引の前に投資取引を締結させることができるかどうか、CVCと事前に協議しておこう。

CVC投資に対する相応しいマインドセットとは

CVCはスタートアップに豊富な資金、人材、企業間のパートナー関係を提供してくれる。しかし、創業者は、CVCから出資を受けるかどうかに関わりなく、同じ領域あるいは少しでも関係がある領域の事業を運営しているCVCにアプローチしてみるだけでもメリットが得られる。CVCとの最初の面会では、創業者は自社のビジネスを宣伝できるし、CVCはプロダクトやチームを吟味でき、その案件に関するいくらかの知見も得られる。これは創業者にとって、またとない最高の営業チャンスとなる。CVCにアプローチしなければ、このような機会にこぎつけるまでに数か月あるいは数年かかるだろう。

「CVCから『投資はできない』と言われたとしても、この最初の面会がきっかけで良好なビジネス関係が構築され、それが近い将来に商機へと変わる可能性もある」とプロストコ氏は語る。

一方で、CVC投資会社へのアプローチについて「財務リターンを追求するVCからは資金を調達できなかったから、次の選択肢としてCVCを試してみよう。CVCの方が『イエス』と言ってくれる、あるいは、より好条件を提供してくれるだろうから」と考えているなら、それは間違っている。このような態度ではチャンスの扉は閉ざされ、ビジネスの戦略的な成長に必要な価値あるパートナー、資本、機会から切り離されてしまうだろう。

パートナーを選ぶ過程で何よりも重要なのは継続的な情報収集である。結局のところ、創業者として自社のビジネスに最適な投資パートナーを選ぶ責任は創業者自身にある。

関連記事:社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由

Category:VC / エンジェル

Tag:コラム CVC

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(翻訳:Dragonfly)

イスラエル拠点のOurCrowdが新型コロナ対策ソリューション向けファンドを設立

イスラエルのクラウドファンディングベンチャー投資プラットフォームのOurCrowd(アワークラウド)は6月2日、計1億ドル(約108億円)を調達する計画のパンデミック・イノベーションファンド立ち上げを発表した。調達した資金は「グローバルのパンデミックやその他の健康危機による医療、ビジネス、教育、社会の喫緊の需要に応えるテクノロジーソリューション」に投資する。

ワクチンや検査、治療法、リモート監視、デジタルヘルス、個人保護具などの開発を手掛けるスタートアップに資金を注ぐ。加えて、リモートワークや遠隔教育、事業プロセス自動化、在宅エクササイズ、サイバーセキュリティにフォーカスした刷新的なマネジメントに取り組むスタートアップにも目を向けている。ファンドはかなり幅広い対象を抱えるが、これによりパートナーはさまざまな産業に投資することができる。

「新型コロナウイルスの急速な感染拡大は、デジタルでつながった世界がグローバルコミュニケーションと迅速な対応を通じてあらゆる危機を解決するという我々のビジョンが正しかったと証明した」とOurCrowdCEOを務めるJon Medved(ジョン・メドベジ)氏は話した。「世界が元に戻れるようにするために、イノベーションが今すぐ必要だ。今回の危機で生じている問題の多くをテクノロジーを使って解決できる。テックが迅速に対応し物事を直す時だ」

OurCrowdはすでに新規ファンドにうってつけそうな多くの企業に投資してきた。この中には、新型コロナワクチンの開発のために1200万ドル(約13億円)をこのほど調達した(未訳記事)MigVaxやSight Diagnostics、SaNOtizeTytoCareなどが含まれる。

新規ファンドの代表は、ヘルスケアのエグゼクティブとして知られるMorris Laster(モリス・ラスター)博士、OurCrowdベンチャーパートナーで医学顧問委員会の委員長を務めるMorry Blumenfeld(モリー・ブルーメンフェルド)氏、OurCrowdのベンチャーパートナーであるDavid Sokolic(デイビッド・ソコリック)氏だ。

「ともに現在のパンデミックに取り組み、また将来のパンデミックにも備えなければならない。といのも、物語は始まったばかりだからだ。起業家は我々が直面している最も困難な問題に対し、迅速かつ効果的なソリューションを提供するのに比類なく長けている。新規ファンドは我々が必要とするイノベーションと、世界をより良くするのに必要なリソースを提供できる遠くを見据えた投資家の間に橋を渡すことになる」とラスター博士は述べた。

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(翻訳:Mizoguchi

社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由

編集部注:本稿はJohanes Lenhard博士による寄稿記事である。Lenhard博士は、ベンチャーキャピタル業界における倫理を専門にしたケンブリッジ大学の研究者だ。

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ロンドンにある有名企業のVCパートナーの1人が率直にこう話してくれた。

ベンチャーキャピタルは金そのものだよ(笑)。ハイリスクで、おそらく最も先が読めない資産クラスだけど、リターンは最高だね。

他の記事で詳しく書いたことがあるが、筆者は、しばしば株主価値資本主義に起因する即時回収のメンタリティを超越して、それよりさらに価値のあるものに関心を向けることは(経済的にも倫理的にも)意義深いことだと考えている。ただし、筆者の議論は規範的、イデオロギー的なもので、VC投資の現状を説明するものではない。これまで、ベルリンからシリコンバレーまで150を超えるVCにインタビューする機会があったが、彼らの話を聞けば聞くほど、ほとんどのVCは環境・社会・ガバナンス(ESG)、社会貢献、サステナビリティ、環境保全技術(Nicholas Colin(ニコラス・コリン)氏が言うところの Safety Net 2.0)など気にもかけていないことが明確になってくる。昨年のVC資金の大半は、フィンテックに投資された。不動産、オートメーションにも引き続き多額の資金が投資されている。これらの分野で少しでも「社会貢献」事業と言えるものはわずかしかない。

では、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、BlackRock(ブラックロック)、JPMorgan Chase(JPモルガンチェース) などの、決して進歩的ではないとされる大手資産運用会社や投資ファンドが、社会貢献投資に関心を示す(意向がある)と宣言し始めているのは一体なぜだろうか。

資本主義の中心に鎮座するこれらの企業が、ESGガイドラインに注目し、規制強化を叫び、気候にやさしい企業をポートフォリオに加えているのは何を目論んでのことだろうか。大企業のCEOが株主価値だけを追求するのを止めて、すべてのステークホルダーの利益を考えるようになったのはなぜだろうか。その理由が金であること、つまり新しい投資機会が絡んでいることは間違いない。「社会貢献すること」が利益に結び付く時代になりつつあるのだ。しかし、先進的なビジネスモデルで時代を先取りして投資することを常とするはずのVCが、この大波に乗ろうとしないのはなぜなのか。

誤解しないでほしいのだが、社会貢献投資や「ソーシャルグッド(社会や地球環境を良くしようとする活動・製品・サービスなど)」への投資に特化する決断を下した新しいクラスのVCは確かに存在する。DBL(ディービーエル)は例外としても、こうした新しいクラスの投資ファンドの多くは最近設立されたものばかりだ。現時点で大手ファンドと呼べるものは1つもない。例外は、ルールが存在することを示すだけだ。

Twitter(ツイッター)の共同設立者Ev Williams(エヴァン・ウイリアムス)氏などが率いるB-Corp認定企業Obvious(オブビアス)がBeyond Meat(ビヨンドミート)のIPOを成功させる一方で、Greylock Partners(グレイロックパートナーズ)などの既存大手投資ファンドでは、投資チームの性別多様性を達成できていない(同社投資チームの女性メンバーは1人のみ)。ドイツでは、社会貢献投資に特化していることをうたう投資会社はAnanda(アナンダ)1社のみで、Holtzbrinck(ホルツブリンク)、Earlybird(アーリーバード)、Point9(ポイントナイン) などの大手投資会社は今でも、eコマースとSaaSから今後も利益をあげるために奮闘を続けたり、3倍のリターンが得られる方法としてゲーム業界をやっと見いだしたりしている。

なぜなのか。考え得る最大限の利益を追求するためだけに集められたバカみたいに莫大な運用資金を扱うKKRがESGガイドラインを適用する一方で、頭の切れる何百人ものVCジェネラルパートナーたちが、まるで見て見ぬふりをするかのように、過去の成功例にとらわれて、「ソーシャルグッド」と「社会貢献」以外のあらゆる分野で革新的企業を追いかけているのはなぜなのだろうか。

以下に6つの仮説と口実を挙げてみる。

1.「社会貢献」の定義があいまいである。GIIN(グローバルインパクト投資ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、UN(国連)などが、ESGと社会貢献レベル測定基準を毎日のように更新している(関連する用語も改訂される)ため、現場の投資家たちはついていくのが難しい状況だ。筆者は社会貢献投資を専門とする多数の投資家たちに話を聞いたが、その基準の解釈は十人十色だった。筆者がインタビューしたVCの中には比較的安直な結論に達しているところもある。何を目指すべきか定義が明確でないのだから、取り組むことなどできない、というわけだ。

2.VC業界では、社会貢献投資の利益率について信頼できるデータがまだ存在していない。VCには強い群本能がある。VCは新しい分野への挑戦に慣れているように見えるが、財務的リターンのことになると、実績のない収益パターンは見て見ぬふりをする。リターンの点でも、LP出資者への説明の点でも、「社会的に優良な企業」がVC業界に財務的利益をもたらすことを証明するデータがない限り、多くのVCは動かないだろう。

3. 今のやり方で利益が出ているため変える必要性を感じない。テクノロジー業界やバイオ業界を中心にハイリスク投資を行うというVCビジネスモデルはこれまで非常にうまく機能してきた。実のところ現在、低金利の影響で、ますます多くの資金がそのような資産クラスに流れ込んでいる。まさに従来のVCモデルによって生み出されてきた平均以上の利益を得るためだ。今、この投資方法を変える必要性が見当たらない。

4. VC以外の投資企業も社会貢献投資を実行に移していない。多くの資産運用会社やプライベートエクイティ投資会社が「ESG投資への参入」や「社会貢献投資の実施」を広く表明しているが、具体的に多額の資金が投資された例はまだない。Bain(ベイン)の運用資産総額は300億ドル(約3兆2000億円)だが、同社の社会貢献投資部門Double Impact(ダブルインパクト)のファンド総額は3億9000万ドル(約‭417億円)である。また、KKRの運用資産総額は2070億ドル(約22兆円)にのぼるが、同社の社会貢献投資部門Global Impact Fund(グローバルインパクトファンド)のファンド総額は13億ドル(約1400億円)にすぎない。

5. 他の運用先への圧力のほうがずっと強い。LP出資者は大手資産運用会社に対してより強い影響力を持っている(その影響力が変化を推進する場合も多い)。しかし、その一方で、KKRやBlackStones(ブラックストーンズ)などの大手は、世間の悪評を埋め合わせるために過補償する必要がある。CSRのような美徳アピールは、(経済的な利益をともなう場合は特に)その良い方法だ。

6. 多くのVCはあえて社会貢献投資をしないという選択をしている。有名なSV企業の元パートナーの1人が「今の若者は『社会的に良い会社』を作るためではなく、財を成し権力を振るうためにVCになる」と話してくれたことがある。テクノロジー業界にもかつてはSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏のような理想を追求する経営者がいたが、今は、海上都市を建設し、ニュージーランドの土地を買い占め、(時として)トランプ大統領を支持する(そして、観察期間を延長することでそのコネから金もうけをする)ようなテクノ自由主義の経営者が多い。蒔かぬ種は生えぬ、のだ。

営利の社会貢献投資はまだごく小規模な資産クラスでしかない(最新のGIINの統計を参照)など、上記の理由のいくつかは納得できるものだとしても、VCというのは本来、誰よりも早く先陣を切るものではないのか。逆張り投資的に、従来の型を破るチャンスを探し求めるものではないのか。新たな投資機会や投資分野をいち早く見つけ出すことこそがVCの仕事ではないのか。そして何より、信頼性が高く社会貢献度が高い企業を求める消費者の声は強まる一方だが、そうした声をVCはいつまで無視し続けるのだろうか。

結局のところ、2000年代のKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)以降初めて、大手VCが「社会貢献テクノロジー企業」に特化した投資を発表するのは一体いつになるのか、という筆者の疑問に対する答えはまだ見つからないままだ。

関連記事:シリコンバレーが今必要とする、倫理を学ぶための新たな取り組み

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Tag:倫理 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

アドビがクリエーター向け1億円ファンド創設、新型コロナ禍で創作活動が制限されているクリエイターを支援

米アドビ システムズ社の日本法人であるアドビ システムズは5月26日、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で厳しい状況に置かれたクリエイターの創作活動を支援するためのファンドを創設した。「Creative Residency Community Fund」と名付けられた約1億円(100万ドル)のファンドで、グローバルでクリエイターからのプログラムへの参加募集を開始する。

プログラムは2020年5月から12カ月間実施され、候補者は毎月新しいクリエイティブプロジェクトを進めていく。国内からの申請は専用サイトから受付を開始している。申請は3カ月ごとに締め切り、選考期間を経て随時結果を候補者に連絡するという流れになる。

参加資格などの詳細は以下のとおり。

申請資格
・日本プロジェクトへの申請:日本語でのコミュニケーション
・グローバルプロジェクトへの申請:英語でのコミュニケーション
・18歳以上(学歴不問)
・ビジュアル制作が可能なクリエイター

クリエイティブ分野
・ビデオ
・写真 / フォトアート
・グラフィックデザイン
・イラスト
・3D
・モーションデザイン
・プロダクト / インターフェイスデザイン (UI/UX)

スケジュール

NYのスタートアップ育成アクセラレーター「ERA」から13社が卒業

世界の動きが止まっているように思われる中でも、新しいスタートアップは変わらずに出現している。米国時間5月22日、13の企業がニューヨークを拠点とするEntrepreneurs Roundtable Accelerator(ERA)を卒業する。卒業にあたって、13社はERAからそれぞれ10万ドル(約1080万円)の資金援助を受ける。

彼らはERAの18期生となる。ERAは設立以来200以上の企業を世に送り出し、総額で5億ドル(約538億円)以上を調達している。

それでは卒業生たちをご紹介しよう。

Artists on Goはフリーランスの美容師とサロンオーナーを繋ぐマーケットプレイスプラットフォームだ。美容師は1時間20ドル(約2150円)でサロンオーナーからスペースを借り、売上はサロンオーナーと分けるのではなく自分のものとなる。サロンオーナーは予約が空いているときにスペースを提供することで利益を得る。

Coinapolyは、家を借りながらその家の所有者になれるよう支援する資産管理プラットフォームだ。借主には長期的にその家を部分的に購入できるようにし、不動産投資家にはより良いリスク調整後収益を提供する。Coinapolyは管理対象の物件に対し手数料を請求する仕組みだ。

FieldClixは遠隔建設プロジェクト向けのSaaSプラットフォームで、無線、ソーラー、ブロードバンド通信の建設プロジェクトに特化している。通信会社が5Gの展開を急ぐ中、作業員はFieldClixを使用して、プロジェクト計画や現場のリソース管理、原価管理などを協力して行えるようになる。現在は30社が同社プラットフォームを利用しており、ライセンスごとに段階的なサブスクリプション料金を毎月請求している。

Hailifyは、配車サービスドライバーの空き時間を利用するB2Bプラットフォームだ。ドライバーが次の客を待つ間を活かして収入が得られるよう、宅配の仕事を提供する。Hailifyはオンデマンド配車サービスを運営する企業に料金を請求し、プラットフォームから発注された宅配ごとに、手数料を差し引いた料金をドライバーに支払う。

Hazelは、女性の尿漏れに対応する、フィット性と機能性が高く見た目にも気を配ったまったく新しいタイプの大人用紙おむつを製造している。新しい素材と新しい技術を使用し、見た目も履き心地も本当の下着と変わらない使い捨て商品を提供するこのD2Cビジネスは、2020年秋のローンチを予定している。

Mouth Offは口臭を防ぐことを目的とした溶けるタイプのガムだ。口臭を別のにおいでごまかすのではなく、口臭の元になる口腔内の分子に作用する。Mouth Offは植物性で、糖分や人工的な原材料は使用していない。2020年秋にローンチが予定される同社は、D2Cサブスクリプションと小売りオプションを提供する。

Nayyaは、雇用主が従業員に最適な健康保険を見つけられるように支援する企業だ。データを使って透明性を高め、費用削減に関する情報や最寄りのプロバイダーネットワークに関する情報を提供する。従業員はNayyaのCompanion(コンパニオン)を通じてプランに登録し、1年を通じて補償内容や医師の検索、追加補償オプションの確認などが行える。またNayyaでは給与管理の統合サービスも行っている。

企業の従業員にとっても雇用主にとっても育児休暇がますます重要視されている中で、Parentoは、従業員向けに、保険に基づいた有給育児休暇のプラットフォームを提供する。従業員が16週間まで休めるように予想価格設定を導入し、新米パパママ向けのコーチングや生活の変化におけるサポートを提供する。同社は、顧客の従業員の給与と既存の有給育児休暇ポリシーに基づいて変動する価格設定のB2Bモデルを採用している。

RillaVoiceは食料品店やファストフードチェーン、病院、実店舗を持つ企業に、顧客との会話を記録し、分析できる機会を提供する。会話は小型マイクと機械学習技術により分析され、匿名かつ安全そしてコンプライアンスに準拠した方法で、カスタマーエクスペリエンスや会話の内容などの理解を深めることができる。サービスは1ライセンスあたり月額50ドル(約5380円)から350ドル(約3万7660円)で提供される。

Salusionは消費者とその雇用主のためにHSA(医療用貯蓄口座)の税優遇を最大限にすることを重視したSaaS企業だ。同社はHSAのプロセスを改善することで、ユーザーには「その都度使えるHSA」を提供し、HSA口座管理費として雇用主に対して従業員あたりの手数料を毎月請求する。

Spotterは長距離トラック業界をターゲットにしたソフトウェア企業だ。歩合やスケジュール、燃料コストなどの入力条件に基づき、トラックと運転手に最適な積荷を割り当てることができるプラットフォームを提供する。また運転手に荷積みと荷降ろしの指示も伝えることができる。同社はトラック1台ごとのサブスクリプション料金を運送業者に請求する。

Topは、ブランド向けのマルチチャネルエンゲージメントプラットフォームだ。ブランドはCookieを使用せずに、プライバシー保護に準拠するデータを収集できるようになる。Topを使用すると、投票やゲーム、コンテストなどのインタラクティブコンテンツを作成し、そのデータを収集して顧客プロファイルを作成できるようになる。顧客プロファイルには買い物の傾向や購入意思などのデータが含まれる。同社ではデータとエンゲージメントプラットフォームの使用料をクライアントに毎月請求する。

Undockは、会議のスケジュールと調整に重点を置いたSaaSビジネスだ。予測機械学習モデルによって、空き時間、優先事項、行動を比較し、参加者に最適な会議時間を見つける。またUndockプラットフォームは、あらゆる会議プラットフォームに対応する共同アジェンダとメモ機能を提供する。Undockはフリーミアムモデルを導入している。

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Category:VC / エンジェル

Tag:アクセラレータープログラム ERA

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(翻訳:Dragonfly)

巨額損失のソフトバンク・ビジョン・ファンドは毎日100億円超を投資していた

ソフトバンクグループの2019会計年度(2020年3月31日終了)の財務状況の発表で、ソフトバンク・ビジョン・ファンドについていくつか興味深い情報が判明している。衛星通信会社のOneWebが倒産し、コワーキングスペース運営のWeWorkと配車・デリバリーサービス運営のUberが苦境に追い込まれ、大株主であるソフトバンク本体とビジョン・ファンドの損失が巨額となる見通しはTechCrunchでもすでに触れた。新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが将来の見通しにも逆風となっている。

ビジョンファンドの財務諸表(PDF)に埋め込まれていた注によれば、ビジョン・ファンド1号が新規投資を終了したのは2019年9月だった。この時点で投資可能なキャッシュをすべて投資し終わったためだ。

注によれば最初のビジョン・ファンドの管理者は、2019年9月12日にファンドがその資本の85%を使用したと判断した。残る15%の資金は 追加投資、義務的支出、ファンド管理手数料をカバーするために残された。ファンドの約款によれば新規投資は2022年11月20日まで投資を続けることが可能だったが、それを待たずこの時点で新規投資は打ち切られた。

ソフトバンクグループの文書で簡単に振り返ると、ビジョン・ファンドは2017年5月20日に初回の出資クローズを発表し、総額968億ドル(10兆円)を調達した。つまりビジョンファンドは845日間で投資と手数料合計で838億ドル(9兆円)を費やしたことになる。簡単な計算で1日あたり1億ドル弱(106億円)を投じていたとわかる。

週末も含めて毎日1億ドル(約100億円)だ!

昨年、ソフトバンクグループは合計で1080億ドル(11.6兆円)とさらにさらに規模の大きいビジョン・ファンド2号を立ち上げる計画を発表した。しかしその資金集めが難航していると報じられており、これは今後も変わりそうにない。

ソフトバンクグループは今年3月31日を終期とする会計年度でビジョン・ファンドが174億ドル(1.87兆円)の価値の減少となったことを決算発表で正式に認めた。その前年度にソフトバンクグループは128億ドル(1.37兆円)の価値増加を発表していた。つまり2019会計年度の運用はこの利益を完全に帳消しにしたわけだ。

しかし重大な問題点はファンドのポートフォリオ企業のパフォーマンスそのものだろう。現在、ビジョン・ファンドには上場や売却などによるイグジットが行われていないポートフォリオ企業が88社ある。うち19件については価値が合計約34億ドル(0.36兆円)増加している。しかし50社は合計207億ドル(2.2兆円)の損失だ。19社については価値の変動はなかった。

初期段階(シード、アーリー)の投資に特化したファンドが赤字になることはよくある。しかし後期段階(レイター)向けファンドがこの種の巨額の損失を被るというのは非常にまれだ。企業価値の評価新型コロナウイルスが世界経済に大打撃を与える前に行われたことはほぼ確実だろう。そう考えるとポートフォリオ企業の57%が1年間でこれほど価値を減少させたというのは驚くべきことだ。しかもこうした企業の大部分は、それぞれの成長段階に応じて短期的、中期的に何らかのかたでイグジットを目指していたのだから驚きはなおさらだ。

もちろんポートフォリオ内にはいくつかの勝利もあるし、明るい面もある。しかし、結局のところ、ポートフォリオの価値を決めるのは各部分の総和だ。残念ながら現在その総和は上に見たような状況となっている。

画像:Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

インテルが今年出資したスタートアップ11社、年内に500億円超の出資を予定

半導体の巨大企業であるIntel(インテル)は、世界中の1582企業への投資と、同社の支援を受けて株式公開またはイグジットを達成した692社のポートフォリオ企業における実績を持ち、コーポレートベンチャーキャピタルの中ではハイテク産業で最も多産かつ先見の明がある投資家に数えられる。

同社は米国時間5月13日、新たに11社のスタートアップに1億3200万ドル(約140億円)を出資したことを明らかにした。これらの取引には、人工知能、自立型コンピューティング、チップ設計が含まれ、同社の現在と将来における最も戦略的な優先事項を反映している。

多くのコーポレートVCは彼らの活動とその親企業の活動とを明確に分けており、インテルにも同じことが言えるが、同社は同時にVCのメリットを活用して戦略的関係を広げ、最終的にはM&Aを通じて自社を拡大するための動きを見せている。今月初め、実際に同社はIntel Capitalのポートフォリオ企業であるMoovit(ムービット)を9億ドル(約960億円)で買収した。ただし、以前の投資を考慮し8億4000万ドル(約903億5000万円)に値下げされている。

「Intel Capitalは、私たちの働き方や生活の改善に取り組んでいる革新的なスタートアップを特定し投資しています。最新の各投資はAI、データ分析、自律システム、半導体イノベーションなどの分野における可能性を押し広げていくことでしょう。現在の世界の課題に対してこれらの企業と共に協力して舵を取り、持続可能で長期的な成長を推進していくことをとても楽しみにしています」とインテルの上級副社長兼IntelCapitalの社長であるWendell Brooks(ウェンデル・ブルックス)氏は発表の中で述べている。

スタートアップやベンチャーの投資の世界にとって危機的な時期に行われた今回の取引。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによって引き起こされた経済の減速が、その後のテクノロジーファイナンスの減速を意味するのではないかと懸念されている。しかしインテルは年内に3億ドル(約320億円)から5億ドル(約530億円)を投資する予定だと伝えており、過去数か月間に同サイトで取り上げた巨大取引や大型ファンドも考慮すると、この懸念は不要だと論ずることもできる。

発表されたリストには具体的な投資額は含まれていないが、スタートアップ自体が資金調達を発表し、ラウンドサイズの詳細を伝えているケースもある。ただし、これらの報告でもインテルの具体的な出資額は明らかにされていない。

以下が、インテルが投資したスタートアップのフルリストだ。

Anodot
アプリのパフォーマンスや顧客インシデントなどの領域において、機械学習を使用して自律的にビジネスオペレーションを監視。同プラットフォームを用いてこれらのインシデントを監視し、検出と応答時間の高速化を目指している。4月に合計3500万ドル(約37億円)のラウンドが発表されている

Astera Labs
データ中心システムの接続ソリューションに焦点を当てたファブレス型の半導体スタートアップであり、AIなどの領域での計算集中型のワークロードにおけるパフォーマンスの障害の解消を目的とする。PitchBookによると、同社は2週間前に金額未公開のシリーズBを発表し、これまでに600万ドル(約6億4000万円)を調達しているとのこと。

Axonne
コネクテッドカー向けの次世代高速自動車イーサネットネットワーク接続ソリューションを開発。レガシーシステムやプロプライエタリシステムと、高度な次世代アプリケーションのニーズとの融合問題に取り組んでいる。インテルは3月に実施された900万ドル(約9億6000万円)のラウンドに参加した。

Hypersonix
ビッグデータ分析を使用してeコマース、小売、ホスピタリティ分野における顧客の需要を特定し、予測する。Amazonは同社の顧客の1社であり、サプライチェーン部門でHypersonixのプラットフォームを使用している。これには驚く人も多いだろう。HypersonixのCEOによると、eコマース業界の巨人であるAmazonには社内の全部門をカバーする専門分析チームがいないため、サードパーティからサービスを購入する場合があるという。1150万ドル(約12億2000万円)のラウンドは5月の初めに発表されている。

KFBIO
中国を拠点とする同社は、インテルが賭けるバイオテクノロジー業界の1社である。同社は、ビッグデータとクラウドベースのAIを活用した情報を使用し、顕微鏡の代替となるデジタル病理スキャナーを設計、構築している。ここでのインテルの関心と関連性は明らかにプロセッサー寄りだが、これにより同社が今後AIアプリケーションやクラウドコンピューティングアプリケーションにおけるさまざまな領域で力を発揮できる可能性をもたらしてくれる。このディールは4月初旬に終了し、総額は約1420万ドル(約15億円)となった

Lilt
AIを活用する言語翻訳プラットフォームを構築している。これは消費者向けのGoogle翻訳などと競合するものではなく、国際的なウェブサイトやアプリを利用する人々を支援し、そういったコンテンツをより効率的にローカライズするためのものだ。同社は本日、インテルが主導する2500万ドル(約27億円)のシリーズBラウンドを発表した。

MemVerge
重いデータ処理を中心とするアプリケーションのデプロイを簡素化するアーキテクチャーである「インメモリー」コンピューティングに重点を置いている。同社は4月初めに2450万ドル(約26億円)のラウンドを終了している。同社は常にインテルのプロセッサーを業務に用いてきたが、インテルの投資は本日まで公開されていなかった。

ProPlus Electronics
さまざまなチップを大規模に製造する半導体企業のチップ設計と製造をスピードアップする電子設計自動化(EDA)中国スタートアップである。4月初旬にラウンドは終了している。正確な金額は、「数億人民元(数千万米ドル)」であったとのみ発表されており、明らかになっていない。

Retrace
AIを使用して「歯医者の意思決定」を改善する、あまり注目を浴びていない歯科データスタートアップである。同社のウェブサイトによると、他の医療分野にも焦点を当てているようだ。ラウンドサイズや終了日程は不明である。

Spectrum Materials
中国出身の同社は、ガスやその他の資源を半導体メーカーに供給するもう1つのステルス企業である。

Xsight Labs
イスラエルを拠点とする同社は、通常AIや分析アプリケーションに付随するデータ集約型のワークロードを加速するチップセットデザインを構築している。イスラエルには処理能力を多く必要とするアプリケーションの1つである自律駆動にフォーカスした巨大なR&Dセンターがあるため、これは明らかに戦略的な賭けのように見える。同社は2月に2500万ドル(約27億円)を調達しているが、インテルはそのラウンドでは公開されていない。

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(翻訳:Dragonfly)