巨額損失のソフトバンク・ビジョン・ファンドは毎日100億円超を投資していた

ソフトバンクグループの2019会計年度(2020年3月31日終了)の財務状況の発表で、ソフトバンク・ビジョン・ファンドについていくつか興味深い情報が判明している。衛星通信会社のOneWebが倒産し、コワーキングスペース運営のWeWorkと配車・デリバリーサービス運営のUberが苦境に追い込まれ、大株主であるソフトバンク本体とビジョン・ファンドの損失が巨額となる見通しはTechCrunchでもすでに触れた。新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックが将来の見通しにも逆風となっている。

ビジョンファンドの財務諸表(PDF)に埋め込まれていた注によれば、ビジョン・ファンド1号が新規投資を終了したのは2019年9月だった。この時点で投資可能なキャッシュをすべて投資し終わったためだ。

注によれば最初のビジョン・ファンドの管理者は、2019年9月12日にファンドがその資本の85%を使用したと判断した。残る15%の資金は 追加投資、義務的支出、ファンド管理手数料をカバーするために残された。ファンドの約款によれば新規投資は2022年11月20日まで投資を続けることが可能だったが、それを待たずこの時点で新規投資は打ち切られた。

ソフトバンクグループの文書で簡単に振り返ると、ビジョン・ファンドは2017年5月20日に初回の出資クローズを発表し、総額968億ドル(10兆円)を調達した。つまりビジョンファンドは845日間で投資と手数料合計で838億ドル(9兆円)を費やしたことになる。簡単な計算で1日あたり1億ドル弱(106億円)を投じていたとわかる。

週末も含めて毎日1億ドル(約100億円)だ!

昨年、ソフトバンクグループは合計で1080億ドル(11.6兆円)とさらにさらに規模の大きいビジョン・ファンド2号を立ち上げる計画を発表した。しかしその資金集めが難航していると報じられており、これは今後も変わりそうにない。

ソフトバンクグループは今年3月31日を終期とする会計年度でビジョン・ファンドが174億ドル(1.87兆円)の価値の減少となったことを決算発表で正式に認めた。その前年度にソフトバンクグループは128億ドル(1.37兆円)の価値増加を発表していた。つまり2019会計年度の運用はこの利益を完全に帳消しにしたわけだ。

しかし重大な問題点はファンドのポートフォリオ企業のパフォーマンスそのものだろう。現在、ビジョン・ファンドには上場や売却などによるイグジットが行われていないポートフォリオ企業が88社ある。うち19件については価値が合計約34億ドル(0.36兆円)増加している。しかし50社は合計207億ドル(2.2兆円)の損失だ。19社については価値の変動はなかった。

初期段階(シード、アーリー)の投資に特化したファンドが赤字になることはよくある。しかし後期段階(レイター)向けファンドがこの種の巨額の損失を被るというのは非常にまれだ。企業価値の評価新型コロナウイルスが世界経済に大打撃を与える前に行われたことはほぼ確実だろう。そう考えるとポートフォリオ企業の57%が1年間でこれほど価値を減少させたというのは驚くべきことだ。しかもこうした企業の大部分は、それぞれの成長段階に応じて短期的、中期的に何らかのかたでイグジットを目指していたのだから驚きはなおさらだ。

もちろんポートフォリオ内にはいくつかの勝利もあるし、明るい面もある。しかし、結局のところ、ポートフォリオの価値を決めるのは各部分の総和だ。残念ながら現在その総和は上に見たような状況となっている。

画像:Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

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