インテルが今年出資したスタートアップ11社、年内に500億円超の出資を予定

半導体の巨大企業であるIntel(インテル)は、世界中の1582企業への投資と、同社の支援を受けて株式公開またはイグジットを達成した692社のポートフォリオ企業における実績を持ち、コーポレートベンチャーキャピタルの中ではハイテク産業で最も多産かつ先見の明がある投資家に数えられる。

同社は米国時間5月13日、新たに11社のスタートアップに1億3200万ドル(約140億円)を出資したことを明らかにした。これらの取引には、人工知能、自立型コンピューティング、チップ設計が含まれ、同社の現在と将来における最も戦略的な優先事項を反映している。

多くのコーポレートVCは彼らの活動とその親企業の活動とを明確に分けており、インテルにも同じことが言えるが、同社は同時にVCのメリットを活用して戦略的関係を広げ、最終的にはM&Aを通じて自社を拡大するための動きを見せている。今月初め、実際に同社はIntel Capitalのポートフォリオ企業であるMoovit(ムービット)を9億ドル(約960億円)で買収した。ただし、以前の投資を考慮し8億4000万ドル(約903億5000万円)に値下げされている。

「Intel Capitalは、私たちの働き方や生活の改善に取り組んでいる革新的なスタートアップを特定し投資しています。最新の各投資はAI、データ分析、自律システム、半導体イノベーションなどの分野における可能性を押し広げていくことでしょう。現在の世界の課題に対してこれらの企業と共に協力して舵を取り、持続可能で長期的な成長を推進していくことをとても楽しみにしています」とインテルの上級副社長兼IntelCapitalの社長であるWendell Brooks(ウェンデル・ブルックス)氏は発表の中で述べている。

スタートアップやベンチャーの投資の世界にとって危機的な時期に行われた今回の取引。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによって引き起こされた経済の減速が、その後のテクノロジーファイナンスの減速を意味するのではないかと懸念されている。しかしインテルは年内に3億ドル(約320億円)から5億ドル(約530億円)を投資する予定だと伝えており、過去数か月間に同サイトで取り上げた巨大取引や大型ファンドも考慮すると、この懸念は不要だと論ずることもできる。

発表されたリストには具体的な投資額は含まれていないが、スタートアップ自体が資金調達を発表し、ラウンドサイズの詳細を伝えているケースもある。ただし、これらの報告でもインテルの具体的な出資額は明らかにされていない。

以下が、インテルが投資したスタートアップのフルリストだ。

Anodot
アプリのパフォーマンスや顧客インシデントなどの領域において、機械学習を使用して自律的にビジネスオペレーションを監視。同プラットフォームを用いてこれらのインシデントを監視し、検出と応答時間の高速化を目指している。4月に合計3500万ドル(約37億円)のラウンドが発表されている

Astera Labs
データ中心システムの接続ソリューションに焦点を当てたファブレス型の半導体スタートアップであり、AIなどの領域での計算集中型のワークロードにおけるパフォーマンスの障害の解消を目的とする。PitchBookによると、同社は2週間前に金額未公開のシリーズBを発表し、これまでに600万ドル(約6億4000万円)を調達しているとのこと。

Axonne
コネクテッドカー向けの次世代高速自動車イーサネットネットワーク接続ソリューションを開発。レガシーシステムやプロプライエタリシステムと、高度な次世代アプリケーションのニーズとの融合問題に取り組んでいる。インテルは3月に実施された900万ドル(約9億6000万円)のラウンドに参加した。

Hypersonix
ビッグデータ分析を使用してeコマース、小売、ホスピタリティ分野における顧客の需要を特定し、予測する。Amazonは同社の顧客の1社であり、サプライチェーン部門でHypersonixのプラットフォームを使用している。これには驚く人も多いだろう。HypersonixのCEOによると、eコマース業界の巨人であるAmazonには社内の全部門をカバーする専門分析チームがいないため、サードパーティからサービスを購入する場合があるという。1150万ドル(約12億2000万円)のラウンドは5月の初めに発表されている。

KFBIO
中国を拠点とする同社は、インテルが賭けるバイオテクノロジー業界の1社である。同社は、ビッグデータとクラウドベースのAIを活用した情報を使用し、顕微鏡の代替となるデジタル病理スキャナーを設計、構築している。ここでのインテルの関心と関連性は明らかにプロセッサー寄りだが、これにより同社が今後AIアプリケーションやクラウドコンピューティングアプリケーションにおけるさまざまな領域で力を発揮できる可能性をもたらしてくれる。このディールは4月初旬に終了し、総額は約1420万ドル(約15億円)となった

Lilt
AIを活用する言語翻訳プラットフォームを構築している。これは消費者向けのGoogle翻訳などと競合するものではなく、国際的なウェブサイトやアプリを利用する人々を支援し、そういったコンテンツをより効率的にローカライズするためのものだ。同社は本日、インテルが主導する2500万ドル(約27億円)のシリーズBラウンドを発表した。

MemVerge
重いデータ処理を中心とするアプリケーションのデプロイを簡素化するアーキテクチャーである「インメモリー」コンピューティングに重点を置いている。同社は4月初めに2450万ドル(約26億円)のラウンドを終了している。同社は常にインテルのプロセッサーを業務に用いてきたが、インテルの投資は本日まで公開されていなかった。

ProPlus Electronics
さまざまなチップを大規模に製造する半導体企業のチップ設計と製造をスピードアップする電子設計自動化(EDA)中国スタートアップである。4月初旬にラウンドは終了している。正確な金額は、「数億人民元(数千万米ドル)」であったとのみ発表されており、明らかになっていない。

Retrace
AIを使用して「歯医者の意思決定」を改善する、あまり注目を浴びていない歯科データスタートアップである。同社のウェブサイトによると、他の医療分野にも焦点を当てているようだ。ラウンドサイズや終了日程は不明である。

Spectrum Materials
中国出身の同社は、ガスやその他の資源を半導体メーカーに供給するもう1つのステルス企業である。

Xsight Labs
イスラエルを拠点とする同社は、通常AIや分析アプリケーションに付随するデータ集約型のワークロードを加速するチップセットデザインを構築している。イスラエルには処理能力を多く必要とするアプリケーションの1つである自律駆動にフォーカスした巨大なR&Dセンターがあるため、これは明らかに戦略的な賭けのように見える。同社は2月に2500万ドル(約27億円)を調達しているが、インテルはそのラウンドでは公開されていない。

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Category:VC / エンジェル

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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