スタートアップがLiDARの先に見ている自動運転車両の知覚システム

2020年のCESはLiDAR企業の評価の場でもあった。その多くが(未だ)存在しない自動運転車産業からの需要がないために瀕死の状態である。専門性を高めて他社を引き離している企業はほんのわずかだ。さらに2021年はLiDARの先に目を向けなければならない状況だ。新たな方法のセンシングとイメージングを使ってレーザーベース技術に対抗するとともに補完することを目指さなければならない。

LiDARは、従来のカメラではできなかったことを可能にして進歩をもたらした。そして今、一部の企業がそれほど新しくない技術を用いて進歩を遂げようと試みている。

別の方法でこの問題、つまり知覚技術に対処している良い例に、Eye Net(アイネット)のV2Xトラッキングプラットフォームがある。これは5G(一般的にはまだいくらか新しい技術)関連で説明される技術の1つで、大げさな売り文句だとしても、短距離、低レイテンシのアプリケーションを可能にして救世主技術となる可能性がある。

Eye Netは同社の技術を装備した車両間で衝突警告をしてくれるが、車両にカメラや他のセンシング技術が装備されているかどうかは関係ない。例えば自動車で駐車場内を走行している際、ひどく危険な電動スクーターが前方に真横からきているのに気づかず、このままでは衝突しそうだが駐車されている車のせいでまったく見えない場合がある。Eye Netのセンサーは両車両のデバイスの位置を検出し、いずれか、または両方のブレーキが間に合うように警告を送る。

画像提供:Eye Net

こういったことには他社も取り組んでいるが、同社としてはホワイトラベルソリューションとして提供することにより大規模なネットワークを簡単に構築できるようにして、フォルクスワーゲン、そしてフォード、電動バイクという具合に広げていきたいと考えている。

ただし、自動車の運転や操作の未来像はまだはっきりせず、開発はあちこちで進められている。

例えばBrightway Vision(ブライトウェイ・ビジョン)は、実世界の多くの環境下で可視性が下がる通常のRGBカメラの問題にマルチスペクトル技術を採り入れて取り組んでいる。普通の可視光線画像に加えて、同社のカメラには近赤外線ビーマーが装備されており、決められた距離感覚で1秒間に何度も前方の道路をスキャンする。

画像提供:Brightway Vision

つまり、霧のためメインカメラで30メートル先が見えない場合でも、NIR画像では前方エリアを定期的にスイープして「スライス」をスキャンし、障害物や路面の状況がわかるという。従来のカメラのメリットとIRカメラのメリットを組み合わせているが、それぞれの欠点はうまく避けている。これ1つでより良い仕事をしてくれるのに、普通のカメラを使う理由はないというのが売り文句だ。同じことをもっとうまくやれて、センサーが1つ不要になることさえある。

Foresight Automotive(フォーサイトオートモーティブ)もまた、マルチスペクトル画像技術をカメラに採用している(数年もすれば、可視スペクトルのみの車載カメラはおそらくなくなる)。FLIRとのパートナーシップにより、サーマルイメージングにも手を出しているが、本当に売ろうとしているのは他のものだ。

周囲360度(またはそれに近い範囲)をカバーするには、通常、複数のカメラが必要である。しかし、そういったカメラは同じメーカーであってもコンパクトセダンとSUVでは取りつけ位置が異なり、ましてや自動運転の貨物車両はいうまでもない。それらカメラは連携して機能する必要があるため、完璧なキャリブレーションが求められ、他のカメラの位置を正確に把握している必要がある。各カメラがそれぞれが同じ木や自転車を見ているのであって、同じものが2つあるのではないということを認識している必要があるというわけだ。

画像提供:Foresight Automotive

Foresightの先進技術はキャリブレーション手順を簡素化するもので、製造業者、設計者、テストプラットフォームはカメラが同じ方向や別の方向に半インチ動く必要があるたびに面倒な再テストや認証を行う必要がない。運転前の数秒でカメラを車の屋根に取りつける様子がデモで紹介されている。

同様の企業に別のスタートアップ企業のNodar(ノダル)がある。こちらも3次元カメラを採用しているが、アプローチは異なる。2つの地点の三角測量から奥行きを導き出す方法は、同社が指摘するように、人の眼の仕組みと同じだと考えれば何十年、何万年前からあるものだ。このアプローチの利用がなかなか進まずにいるのは、光学カメラが自動運転車に必要な奥行情報を本来提供できないものであるからではなく、キャリブレーションが常に正しいという信頼がないことが理由である。

Nodarによると、同社の二対のステレオカメラは車両のボディに取りつける必要がないため、複数のカメラビュー間で見られるジッタやほんのわずかのずれが抑制される。同社の「ハンマーヘッド」カメラセットには幅があり(サメのように)、バックミラーに取りつけるとこのカメラの間隔の広さのおかげで高い精度が実現する。距離は2つの画像の差によって判断されるため、カメラが1台のソリューションの場合のように「これは何らかのかたちをしたもの、おそらく車で、たぶんこれくらいの大きさで、おそらくこれくらい離れていて」というような物体認識や複雑な機械学習は必要ない。

画像提供:Nodar

「ちょうど人の目と同じように、カメラを並べて使えば、ひどい悪天候もクリアできることがわかっています」とNodarのCOOで共同創設者のBrad Rosen(ブラッド・ローゼン)氏はいう。さらに「例えばDimler(ダイムラー)の技術者は、最新の3次元アプローチは、視点が1つの方法やLiDARで補完する方法よりも悪天候時の奥行きの推測が大幅に安定することを示す結果を公開しています。私たちのアプローチの利点は、使用するハードウェアがすでに入手できるもので、自動車産業で使える品質であり、製造業者やディストリビュータの選択肢も多いという点です」と続けている。

実際、LiDARの大きなハンディは本体のコストだった。「割安」とされるものでさえ通常のカメラの何倍もの値段で、何かしら追加すればすぐに高額になってしまう。しかし、LiDARのチームも何もせずじっとしているわけではない。

Sense Photonics(センス・フォトニクス)は、LiDARとカメラのいいとこ取りをしたような新しいアプローチでこの分野に参入した。比較的低価格でシンプルなLiDAR(複雑になりがちなスピンやスキャンとは対照的)を従来のカメラと組み合わせ、2つそれぞれで同じ画像を見ることでLiDARとカメラが連携して物体を識別し、距離を測ることができるというものだ。

関連記事:28億円調達でライダーシーンに登場した新しいアプローチ

2019年の登場以来、同社は製造やそれ以外でも技術を磨いている。最新の成果は、LiDARと従来のカメラで一般的に限界と考えられている最大200メートル先の物体を画像化できるカスタムハードウェアである。

「これまでは、弊社のレーザー源(Sense Illuminator)に既製品の検出器を組み合わせて使っていました。しかし、社内で検出器を開発したところ2年で完成し、大成功を収めました。これにより、弊社は短距離と長距離の自動車用製品を製造できるようになりました」とCEOのShauna McIntyre(シャウナ・マッキンタイア)氏は述べている。

「弊社では、LiDARをカメラと同じ「ビルディングブロック」形式で設計しています。つまり、さまざまな光学製品と組み合わせて多様なFOV、範囲、解像度などに対応できるようにしています。かなりシンプルな設計となっているため、実際に大量生産も可能です。ちょうどDSLRカメラのようなアーキテクチャだと考えていただければわかりやすいでしょう。ベースとなるカメラ本体にマクロレンズ、ズームレンズ、魚眼レンズなどを取りつければさまざまな撮影ができるのと同じです」と続けている。

おそらくすべての企業で意見が一致していると思われることの1つは、自動運転車産業全体で、1つのセンシング方式が優位になることはないということである。完全自動運転(レベル4~5)車両のニーズが、運転支援システムのニーズとかなり異なることはさておき、自動運転分野は変化が速すぎるため、1つのアプローチが長く優先されることはほとんどない。

「AV企業はプラットフォームの安全性を世間に納得してもらえない限り成功することはできません。安全マージンは、波長が異なるセンサー方式を重複して使うことでしか高められません」とマッキンタイア氏は述べている。

可視光線、近赤外線、サーマルイメージング、レーダー、LiDARのいずれかを使うにしても、この記事で登場したように2~3の方法を組み合わせて使うにしても、市場で注目される方法が次々と変わっていくのは明らかである。ただしそれは、LiDAR産業で数年前に見られた活況と不況の波と同様、統一までの道のりがそう遠くはないということの警告でもあるだろう。

カテゴリー:モビリティ
タグ:LiDARコラム

画像クレジット:Andrey Suslov / Getty Images

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

本稿の著者Joseph Heller(ジョセフ・ヘラー)氏は小規模企業の専門家でSuppliedShop(サプライド・ショップ)のCEOである。SuppliedShopは、小規模企業とブランド企業向けの卸売プラットフォームで、ブティックのオーナーはこのプラットフォームから高品質で手頃な価格の商品を買いつけることができる。

ーーー

人間にとって環境と背景はいつでも重要だ。俯瞰的に見ると、私には次のような持って生まれた特権があった。男性であること、世界で最も力のある国にその歴史上最も繁栄している時代に生まれたこと、両親はどちらも大学を出ていること、中流階級の隣人に囲まれていることなどだ。

私が父親の世代に生まれていた可能性だってある。当時は、白人至上主義がまだ残っており、黒人がいたるところで門前払いされていた。今でさえ、私にはユダヤ人の血が半分流れているおかげでまったくの「黒人」には見えないことで恩恵を受けている。

そうした恩恵は受けているものの、黒人の家系であることでベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が難しくなっていることもまた間違いのない事実だ。この現実は「完璧を目指して力を尽くし、常に向上する」というシリコンバレーの典型的な価値観と相反する。

起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだ。

この国では今、これはデータからも証明されていることだが、VCから資金調達する際に白人男性に不当な優位性がある。この所為で、巨大な企業を築き上げた白人男性企業家の地位が低下することはないが、同等の能力を持つ黒人創業者は存在しないも同然の扱いを受けてきた。

国が、個人の背景とは無関係に起業家精神を促進することには利点がある。起業家は仕事を生み出し、イノベーションを起こし、そのおかげでこの国は地球上で最も競争力のある国としての地位を維持できる。起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだが、この国は人種と性別の両方においてその目標達成には程遠い状態だ。

UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)を卒業してすぐ、私は中国南部に引っ越した。当時の私は大半の意思決定をどちらかというと無意識に行っていたが、黒人男性として、大企業で働いても公平な扱いを受けることはないだろうと常に感じていた。私の成功への道は起業家として自分の会社を立ち上げることだといつも思っていた。米国ではなく中国でならそれができるように思えた。

私は中国の起業家精神が大変気に入った。驚いたことに、中国で暮らす外国人として、私は人種的な差別を受けていないと感じた。中国人は、自国にビジネスチャンスをもたらす1人の米国人という視点だけで私のことを見てくれた。私がもたらす価値のメリットに基づいて、米国内よりも高く私を評価してくれていると感じた。それは新鮮な感覚だった。私はビジネスチャンスに駆り立てられ、中国で輸出入事業を立ち上げ成功させた。2、3年後には30人を超える従業員を抱えるまでになった。工場相手の仕事もとてもおもしろかった。米国人が使ったり身につけたりする製品が製造されるのを見て惹きつけられた。

当時、私の会社の顧客は、米国拠点の比較的大規模な小売企業やブランド企業だった。Shopifyの成長を目の当たりにした。小規模企業は複雑そうに見えて実はシンプルなeコマース製品とInstagramなどのマーケティングツールによって、自社製品をオンラインで販売しマーケティングできるようになった。そのような販売とマーケティングの手法は、数年前まで私の会社の顧客のような大企業にしかできなかったことだ。しかしその一方で、小規模企業が、ShopifyやInstagramを使ってビジネスを展開できても、サプライチェーンと製造業の巨大なリソースを自らのビジネスに生かす方法がないという現実が頭から離れなかった。

私がThe/Studio(ザ・スタジオ)を創業した理由もそこにある。The/Studioは、カスタム製品を生産するための製造業プラットフォームだ。小規模企業はこのプラットフォームを通して工場に製品の生産を依頼できる。このプラットフォームの目的は、小規模企業が製造業に関するさまざまな面倒ごとやリスクに対処することなく自社製品を簡単に少量生産できるようにすることだ。

当時、私はVCから資金を調達するという方法があることさえ知らなかった。資金調達では、まさに、有色人種であることが障害となっていた。VCを中心とする同心円の中心に近い人間ほどVCという存在を知っており、その利用方法もわかっていた。

同心円の中心から遠く離れた位置にいる人たちは、VCがどのようにして会社を成長させることができるのかを理解していない。ましてやその利用方法など知る由もない。日用品のようでありながら、一部の特別待遇の人間しか利用できない閉鎖的な資本があるとするなら、それはエリート主義であり縁故主義だ。そうした資本はシリコンバレーの理念とは正反対のものであり、グローバルな企業家基準をリードする米国の能力を低下させるものだと思う。

2016年までには、私は資本を調達することなく、会社の収益を数千万ドル(数十億円)台にまで自力で成長させた。従業員数は100名を超え、事業は黒字経営だった。Shopifyが手にしたのと同じような、大きなチャンスがあることもわかっていたが、当時は、現実的な方法や責任が持てると思える方法でビジネスを成長させるための財源も知識もないと考えていた。

テック企業がこの規模になると会社をさらに飛躍させるために、VCが本当に必要になるということがわかってきたのもこの頃だった。資金を獲得することだけが目的ではない。もちろん資金は重要だが、資金と同時にアドバイスも必要だった。

そこで私はサンフランシスコに居を移した。私の会社ならVCから簡単に数百万ドル(数億円)くらい調達できるだろうと楽観的に考えていた。TechCrunchの記事で、具体的な製品はなく単に良いアイデアだけで(ときにはとても良いとは思えないようなアイデアでも)数百万ドル、ときには数千万ドルを調達した会社があることを知っていたからだ。私はすでにかなりの規模の会社を作り、TAM(獲得可能な最大市場規模)も相当に大きく、実際に販売している製品もあり、黒字経営で規模拡大の準備は整っていた。起業家としての能力は証明済みだった。

まず、大学時代の友人の1人が書いてくれた紹介状と、以前VCを運営していた人物が前の同僚宛に書いてくれた何通かの紹介状を使って、資金調達活動を始めてみた。従来のシリコンバレーのやり方に従い、1通の紹介状を受け取り、そこでまた別の紹介状を書いてもらった。そのうち、VCというのはソーシャルゲームみたいなものだとわかってきた。私は以降2年間、このソーシャルゲームを続けることになる。

ジョセフ・ヘラー氏はSuppliedのCEO兼創業者だ(画像クレジット:SuppliedShop)

資金調達の過程において、VCの世界であからさまな人種差別を受けたことはないことを明言しておく。みな丁寧で親切に対応してくれた。しかし、プレゼンミーティングやVCのイベントなどに参加すると、ビバリーヒルズのロデオドライブにある高級カントリークラブや高級ショッピングストアで感じるのと同じ気持ちを味わった。VCのコミュニティとVCのお眼鏡にかなった一部の起業家たちが、外部の人間とのつながりを拒否する、結束の強いエリート集団であることは明白だった。

傲慢で、エリート主義で、排他的な雰囲気が文字どおりあらゆるやり取りに浸透していた。彼らはみな同じ話し方をし、こちらが彼らの側のネットワークで他に誰を知っているのかを探ってきた。そして、彼らのネットワークに属する人間ではないことがわかった時点で、面接は基本的に終了である。この感覚は、私の考えるシリコンバレーの理念と相反する。私のイメージするシリコンバレーは、良いアイデアを持っており聡明でハードワークを惜しまず、なおかつ肝の据わっている起業家が、資金を調達して成功を見出すことができるという理想的な世界だ。

しかし実際には、シリコンバレーというのは人種、性別、出身大学(カリフォルニア大学バークレー校でさえあまり高く評価されない)によって入会できるかどうかが大きく左右される排他的なクラブのような場所だった。白人でもなく、男性でもなく、ハーバード、スタンフォード、およびアイビーリーグに属する大学の出身でもない人は、自らのビジョンを何年も執拗に追求して裏口から入り込むしかなかった。

関連記事:年間売上高11億円のスタートアップがVCからの資金調達に18カ月かかった理由

The/Studioは最終的に、シリーズAで1100万ドル(約11億4000万円)を調達した。18カ月間で150回の面接を受け、145回失敗した末の結果だ。私のプレゼンの相手はほとんど白人男性のVCだった。彼らの偏見とこちらが彼らのネットワークで知っている人がいないという事実だけで、面接が始まる前に結果は「失敗」となる。より広範なデータを調べてみると、これには人種的偏見があることがよくわかる。私の面接経験からざっと計算してみてもやはり同じだ。私は、白人が運営する120社のVCの面接を受けたが、そのうち条件概要書を提示してくれたVCは1社もない。これに対して、少数民族出身者が運営する30社のVCの面接では、5社のVCから条件概要書を受け取った。つまり成功率17%だ。

2年後、私は、大規模なVCラウンドで資金を調達した排他的起業家グループの仲間入りを果たした。そして今、シリコンバレーの裏側がどういうものかを理解している。シリコンバレーには本当に聡明な投資家と起業家がいることは、データが物語っている。シリコンバレーでVCの支援を受けて上場した企業の数はそれ以外の上場企業数を大幅に上回っているが、それも当然だ。

また、あまり有能と思えない投資家でも単純にネットワークだけで投資家として活動できている人たちも大勢いる。同様に、世界トップクラスではないが、ネットワークがあるというだけで資金調達に成功している起業家たちも大勢いる。さらに、すばらしい投資家になったであろうに、シリコンバレーにネットワークがなく白人でないという理由だけで投資家になる機会さえ与えられなかった優秀な人たちにも多く出会った。同じように、大企業を上場に導いた人物と同等の能力を持つ優れた起業家であるにもかかわらず、ネットワークがなく有色人種であるという理由でVCからの資金調達に失敗した人たちも大勢知っている。

私は、シリコンバレーには、人種と家系の条件を満たしている人が最高の起業家であるという根強い感覚があると確信している。そして、その条件に当てはまる人に対しては「10%の投資先から利益を稼げれば、残りの90%は失敗しても問題ない」という考え方で動くシリコンバレーのVC投資業界の仕組みと、そこから生まれる悪循環が、この感覚を助長している。

もし、内輪で知られていない人物に投資すると、その決定を下した理由についてパートナーに問い詰められるリスクを負うことになる。そのような危険を冒すことで発生する個人的リスクは大きい。シリコンバレーで絶大な社会的信用を誇る人物に投資すれば、それが失敗に終わったとしても、誰からも叱責されない。それは最初から組み込まれているプロセスだからだ。

VCもしょせん人間だ。数十億ドル(数千億円)の資金があって、その資金を調達したいと思っている数千人の起業家がいるが、年に数人しか選択できない場合、反発のない方法、つまり自分が知っている人たちに投資するのが簡単だ。それは大抵の場合、白人男性だ。そのような選択は自己達成的予言となる。というのは、圧倒的多数を占める白人男性に対する投資案件でさえ成功するのが数件だけだとしたら、それよりはるかに少ない有色人種や女性に投資しても、成功件数がさらに少なくなるのは統計学的に当然だ。こうした数学的に「客観的な」意思決定を下すことで、投資先に対する人種的バイアスを自分の中に取り込んでしまうことになる。

ただし、女性に関しては、この問題がここ10年で解決の方向に向かい始めている。10年前、VCから資金を調達した女性起業家はごくわずかだった。最近のForbes(フォーブス)の調査によると、資金調達に成功した女性経営企業はわずか823社だった。VCの支援を受けた女性経営企業の数は今でも非常に少ないが、同調査によると2019年現在で3450社以上と10年前に比べればかなり増えている。別に10年間で女性が賢くなったわけではない。VCにも現状是正の圧力がかかり、先を見据えた投資活動を行うようになったのだ。

彼らは、女性も優れた起業家そして投資家にもなれることに気づいた。この10年で、女性を雇用する(さらには女性によって創業される)VC企業が増えた。それでもまだ11%程度ではあるが

人種間格差の方はどうだろうか。私の知人に、米国で5本の指に入る工科大学で電気工学とコンピューターサイエンスの修士号を取った優秀な黒人男性がいる。彼は数億ドルの資金を調達した会社のエンジニアリングチームでトップを務めている。さらには、法人向けのハイテクスタートアップを創業して100万ドル(約1億300万円)以上の収益を上げていて、黒字経営で、しかも自己資金のみで運営している。もし彼が白人だったら、間違いなくVCからかなりの資金を調達していただろう。だが黒人であるという理由だけでそれもできなかった。

繰り返すが、私はこれをあからさまな人種差別の問題とは思っていない。おそらく彼はVC社会に受け入れられず、彼自身居心地も悪いのだろう。資金を調達できる自信もなかったのかもしれない。自分の周りの黒人で資金を調達した人を見たことがないのだろう。こうした問題に加え、いわゆる「起業家らしい外見」を備えていないため、VCから門前払いされるだろう。

こうした事実はあるものの、起業家の側にも変化が起こり始めている。例えば当社では最近、Supplied(サプライド)という新サービスをリリースした。これは小規模企業やブティックが中国の工場から直接製品を大量仕入れできるようにするもので、顧客の約95%が女性、60%が有色人種だ。

この市場向けにサービスを開発するつもりはなかったのだが、顧客がSuppliedを積極的に活用するようになると、こちらも顧客を受け入れるようになった。最初、当社の取締役会(すべて白人男性)はこの市場を理解せず、少し慎重になっていた。私は彼らを責めるつもりはない。彼らのそうした想定や初期反応は何ら悪意のあるものではない。ただ、当社の顧客を理解できるような経験をこれまでにしていなかっただけだ。

しかし、私には少なくとも顧客ベースが直面する人種問題という意味では、その経験がある。私にはこの市場はビジネスになるという確信があった。同じような経験と野心を持つ有色人種の女性を大勢知っていたからだ。顧客は当社のプラットフォームに引き寄せられていた。法外に高い料金のため他社の卸売プラットフォームに入ることもできずにいたのだ。

また、私自身、顧客ベースを十分に理解できていないこと、顧客ベースを本当に理解できるだけの十分な多様性が自社チームにはないという事実にも気づかされた。そこで、組織の女性の割合を意識的に増やす努力をした。現在当社の経営幹部は女性が33%、黒人が33%、有色人種が77%だ。これは誇っていい数字だと思う。Suppliedの運営チームは、その顧客ベースと同様、女性が圧倒的に多い。

The/StudioとSuppliedのマーケティング部門のトップはどちらも黒人女性で、1人はナイジェリア、もう1人はガーナ出身だ。当社の有色人種の数は私の知っているどのテック企業よりもはるかに多い。ダイバーシティは当社にとって単なるお題目ではない。ダイバーシティは私にとって身近なことであるため、社内にも当たり前のように存在する。

シリコンバレーは信じられない結果を生み出してきた。だから、少数民族や女性を故意に締め出すこの人種差別主義的状況はあるものの、それだけでシリコンバレーを悪く言いたくはない。だが、あからさまな人種差別、歴史的要因、人の本性などを含む多くの要因のため、シリコンバレーが米国の人種と性別の多様性を反映していないことは依然として事実のままだ。

米国の多様性は増しており、世界はより豊かになっている。シリコンバレーがイノベーションの旗手としての地位を保つには、多様性を高めて米国および新興市場を理解できるようにすることが重要だ。有色人種の社員が増えることで現職者が締め出されてしまうゼロサムゲームにする必要はない。実際、多様性によって競争力が向上し、世界に対してより多様性のある見方ができるようになり、結果として、すべての人たちが利益とチャンスを得られる可能性が高まる。

黒人創業者およびリプリゼンテーションの低いその他の少数民族グループに属する人たちにも、自助努力を惜しまず、たとえ困難でも、起業家になる目的、資金を調達する目的を追求していく義務がある。今の世代が次世代の人たちを鼓舞し、雇用するようになる。資金調達に成功する黒人が増えるほど、黒人の起業家精神が正常化され、VCによる黒人創業者への投資が正常化されて起業家への道を進む黒人も増えるというフライホイール効果が生まれる。

私は、誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことは、最後の公民権運動だと確信している。我々は、シリコンバレーそして世界で、金銭的にも社会的にも本当の平等を作り出し、未来を築き上げる機会を与えられている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラムシリコンバレー差別SuppliedShop

画像クレジット:Larry Washburn / Getty Images

原文へ

(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

フィンテック企業は利潤追求とデータ倫理のバランスを取らなければならない

本稿の著者であるオーストラリア出身のRichard Steggall(リチャード・ステッグル)氏は、ニューヨークを拠点とするフィンテック企業Urban FTのCEO。フィンテック、資本成長、M&A、戦略的IPOアドバイザリーで20年以上の経験を持つ。

ーーー

金融機関は消費者の要求する利便を提供するテクノロジーに関して遅れており、Apple(アップル)、Amazon(アマゾン)、Google(グーグル)などの巨大テック企業が大衆の銀行になる道を空けている。2020年11月、Googleは同社の非接触決済サービスであるGoogle Payのデザイン変更を行い、既存銀行のサービスを統合し、ユーザーが大型テック企業に期待するようなシームレスで便利なユーザー体験を実現した。

ただし、そこには裏がある。

Googleが仕かけた巧妙なトリックの裏には、1つの事実がある。Googleは広告会社であり、広告は2019年の収入源の71%を占めている

広告会社が銀行になりたがると何が起きるのか?

気にかけるべきことがある。広告会社、それも私たちの個人メールや位置情報、歌の好みや買い物リストなどから集めたテラバイト単位のデータを持っている会社が、今、私たちの銀行になりたがると何が起きるのか。答は不安だ。特にここ。あるいはここ。そしてここで見られるような巨大テック企業による驚くべきプライバシー軽視を踏まえれば。

金融市場が新たなテクノクラートの触手に干渉され、それも金融サービスの核心ともなると、かつて消費者や企業が依存してきた伝統的な銀行は、自分たちが岐路に立たされていることに気づく。市場シェアを維持するために、金融機関は新たなライバルたちが提供する利便性とパーソナライズにレベルを合わせるためにフィンテックへの投資を続ける一方で、これまでの信用と透明性を守らなくてはならない。

伝統的銀行はデジタル化に失敗した

フィンテックには、金融サービス業界を根底から覆し、金融機関(FI)が運用をより効率的にして卓越したユーザー体験(UX)を提供できるようにする可能性がある。

しかし金融機関、中でも小規模な地方銀行や信用組合には、転換を引き止めるデジタル格差がある。その多くが、豊富な資金を持つ全国規模の銀行や、VaroMonzoといったテック指向の新興あるいはチャレンジャーバンクとの戦いに長年苦闘している。2016年から2019年の間に全世界で1兆ドル(約106兆円)以上を新技術に注ぎ込んできた主要銀行は、デジタル転換プログラムによる財政的恩恵を未だ受けていない、とAccentureは伝えている。

パンデミック下で多くの顧客がオンラインへと大量移動したことで、ギャップはこれまでになく広がっている。2020年4月だけで、モバイルバンキングの新規登録数は200%増加し、モバイルバンキングの総トラフィックは85%増えた、とFidelity National Information Services(FIS)は述べている。

データは巨大テック企業最大の成果で、金融サービスの収益ではない

当然、巨大テックは金融サービスに進出するチャンスを逃さずイノベーションの力を誇示し、銀行や信用組合は互角に戦うために大変な努力を強いられている。しかし、財産のデジタル化を考えている消費者は、伝統的な銀行に別れを告げてビッグテックの胸に飛び込む前に、用心しなければいけないことがある。

まず大型テック企業にとって、決済・金融サービスへの進出には多面的で意味があることを理解する必要がある。たとえば支払い代行機能は、小売やeコマースに焦点を当てている会社に新たな収入源を提供するだけでなく、ショッピングのプロセス全体により大きな力と制御をもたらすことを約束する。

米国における規制はこうした介入にある程度制約を与えるか、少なくとも会社が直接的に利益を上げることは制限するだろう。もちろん巨大企業たちは銀行設立許可についてくる規制の「お荷物」を望んでいない

しかし、テック企業は決済や資産管理などのサービスで直接利益を上げる必要がない、データさえ集められれば。ユーザーの支出パターンの傾向を収集することで企業のROI(投資利益率)は大きく上昇する。ユーザーがどのようにお金を使っているか、住宅ローンはあるか、どんなクレジットカードを使っているか、銀行はどこか、誰と取引しているかなどを知ることができる。

提供されるデータには、プライバシーに大きく関わるもの、たとえば医薬品、保険、さらには婚約指輪の購入情報が含まれる可能性もある。

消費者の懐に対する鋭敏な視界を得ることで、Googleの広告プラットフォームがいかに高い価値を持ち、支配的になるかを想像できる。

銀行はデータ倫理問題をリードすべきだ

金融サービスのデジタル化に関しては、「大いなる力には、大いなる責任がともなう」という古い格言に真実味がある。

顧客データは驚きべきツールであり、銀行はあらゆる財政状態の消費者にサービスを提供できる。たとえば顧客の消費傾向を分析することで銀行は、消費者が貯蓄、投資、消費をより賢く行うためのソリューションを提供できる。

しかし、そのサービスの利用者になることが、自分の検索や購入と直接結びついた広告が殺到することを意味するとしたらどうだろう。あるいはもっと狡猾に、もし銀行があなたのことをあまりにもよく知っていて、ペルソナを作りあなたのニーズや欲求を本人より早く予測するとしたら。それが、Googleの銀行の顧客になった場合のあなたの将来のように見える。

顧客データを使って提供するサービスを改善するだけでは十分ではない。セキュリティとプライバシーを保証するやり方で行わなければならない。水面下で収益をあげようとするのではなく、サービスをパーソナライズするためにデータを使うことによって、銀行は消費者ニーズの理解を深め、信頼を勝ち取ることができる。

信頼は銀行が自らの王座を守るための武器になる。消費者が自分のデータがどのように使えることができているかを気にかけ、それに反抗するようになればなおさらだ。プライバシーとセキュリティに関するPonemonの調査によると、成人の86%がFacebookとGoogleによる自分たちの個人情報の利用について「大変気にしている」。

データ収集が必要ではあるが賛否を呼ぶ状況で、銀行にとって最大の競争優位性は信頼と透明性だ。nCipher Securityの調査によると、消費者は自分の個人情報について未だにほかのどの業界よりも驚くほど銀行を信頼している。同時に、テクノロジーに対する信頼は落ちてきており、36%の消費者が情報共有に関して1年前よりも安心していない、と PwCは報告している。

銀行は、データ倫理戦略と人工知能(AI)テクノロジーの普及をリードしながら、消費者の必要とするものを提供する主要な位置にいる。そうすることで、長期的にデータ収集で巨大テック企業の上を行くことができる。

消費者中心のWin-Winの未来を目指せ

金融サービス業界は重要な岐路に立たされている。消費者は、伝統的銀行を離れて個人データを巨大テック軍団に手渡してデジタル体験とより大きな利便性とパーソナライズを享受する選択肢を与えられている。

しかし銀行は、デジタル化で消費者中心のアプローチを取れば、今からでも消費者を取り戻すことができる。

巨大テックが広告収入を支えるために消費者データを収集するのに対して、銀行はパーソナライズと優れたユーザ体験のためにデータを集めることで消費者の心をとらえることが可能だ。これは、地方銀行や信用組合には特に当てはまる。サービスに対する人間的触れ合いのアプローチは彼らにとって常に大きな差別化要因だ。データ収集の安全と透明性を確保しながらパーソナライズした対応を行うことで、銀行は市場シェアを取り戻し消費者の心を再びとらえることができる。

巨大テック企業は、私たちのデータに関してやってはいけないことの脚本を書く一方で、卓越した体験をどうやって作るかの足場を作ってきた。仮に銀行が、テクノロジーの専門知識もFacebook、Goolge、Appleのように豊富な資金も持っていなくても、倫理的データ利用と優れたユーザー体験の微妙なバランスを理解している責任感あるフィンテックとパートナーを組むことができる。

正しく行えば、誰でも勝者になれる。

カテゴリー:フィンテック
タグ:銀行コラム

画像クレジット:Viktor Kitaykin / Getty Images

原文へ

(文:ゲストライター、翻訳:Nob Takahashi / facebook

マイアミは次のシリコンバレーにはならない、次のシリコンバレーは不要だからだ

本稿の著者であるLaura González-Estéfani(ローラ・ゴンサレス-エステファニ)氏は、世界の起業家エコシステムをより多様で国際的なものにし、公正な資本の利用を可能にするためにデザインされた国際的な事業者主導のベンチャーアクセラレーションモデルであるTheVentureCityの創設者でCEO。

ーーー

創設者や投資家が西海岸からテキサス州やフロリダ州へと押し寄せていることは、市場で何十年にもわたって展開されている大きな動きの先駆けである。

スタートアップの未来は、分散化されたグローバルなエコシステムにある。富と知識が集中しておらず、共有され、開かれている。そこには資本ではなくネットワークがある。

マイアミは幸先の良いスタートを切った。

情勢を整理しよう。マイアミはすでに世界で最も有名な(伝統的でない)スタートアップハブの1つに位置づけられており、2020年にはテック界の大手がフロリダに拠点を移す動きが見られた。マイアミのFrancis Suarez(フランシス・スアレズ)市長は、非常に人気のあるツイッターのキャンペーンでこの流入に拍車をかけている。

マイアミはすでに世界で最も有名な(伝統的でない)スタートアップハブの1つに位置づけられており、2020年にはテック界の大手がフロリダに拠点を移す動きが見られた。

これはグローバル志向の事業家たちがすでに知っている事実の表れだ。世界はマイアミが将来のハイテクハブの先駆者となることを待っている。この都市は、ラテンアメリカに関心のある米国のスタートアップのための出発点であるだけではなく、西半球に進出したいグローバルなスタートアップの戦略的な足がかりとなっている。

世界中で、起業家にとって国際的な機会が拡大している。新興市場の起業家にとって、人生を変えるような製品を生み出すためのより大きな接続性と可能性が存在する。

こうした起業家たちは、どこで存在感を発揮したいと考えるだろうか?グローバルな投資家と起業家のネットワークの中心であり、真のメルティングポットであり、成熟市場と新興市場が交差するところではないだろうか。

現在、マイアミに注目が集まっているのはそのためだ。しかし、マイアミは、近々この世界的なトレンドの一部となりそうな数ある都市の中の最初の都市にすぎない。

ここでは、なぜマイアミがスタートアップエコシステムの新しいグローバルグリッドの先頭に立っているのかを解説する。

1.グローバルテクノロジーはもはや一極集中しておらず、世界中に分散している

世界の主要なスタートアップエコシステムの3分の2は北米以外の地域にある。それだけでなく、専門家の70%はテクノロジーの影響力がシリコンバレーから分散しつつあると考えている。Bloomberg Innovation Indexでは、米国は2013年のトップから2020年には第9位に転落したが、欧州とアジアではテクノロジーに関する知識と影響力が成長しており、上海やベルリンなどの都市ではその勢いが増している。

同様にマイクロビジネスも増加傾向にあり(すでに世界中で新たなビジネスが生まれている)、郵便番号のあるビジネスは減っていくだろう。

つまり大企業やVC企業がシリコンバレーや米国の外へ進出してきても、同様のM.O.を構築しようとしているわけではなく、シリコンバレーだけが唯一のM.O.ではないことを示している。新しいM.O.はボーダレスでつながっている、インクルーシブなネットワークだ。これは投資家により遠く離れたビジネスチャンスへの拡大されたアクセスを与える。起業家は会社を設立するために最も便利な場所を選ぶことができ、膨大な経費を節約すると同時に、より多くの専門知識を共有できる。

2.グローバル企業は新興のハブで生み出すことができる

新興市場のスタートアップは概して、米国のスタートアップが受けられる資金のほんの一部しか受け取っていない。つまり、資金が底をついたときには、生き残るための最も革新的な解決策を考え出さなければならないという大きなプレッシャーにさらされることになる。

こうした現地の起業家を支援するには、地域のソリューションが必要であるという事実がある。医療から物流に至るまで、これらの垂直市場の課題にはすべて、国内のインフラストラクチャとサービスに関する知識が必要になる。

ここでの可能性は大きい。新興市場は世界で最も人口の多い国であり(中国、インド、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアなど)、言語や接続性の壁は徐々に崩れつつあり、モバイルインターネットの利用は急増している

投資家はすでにアジアからラテンアメリカに至るまでの新興市場の巨大な価値に注目しており、その注目は特に米ドルの価値が下がるにつれて高まっている。Pitchbookによると、ちょうど2020年第4四半期にラテンアメリカへのVC投資は2019年第4四半期に比べて93%成長した。

これは新興のハイテクハブにとって何を意味するだろうか?第1に、数が増え、より分散され、より多くの資金を持つようになるだろう。第2に、実証された牽引力を持つサービスを米国の顧客に提供する新興市場のスタートアップの流れが強まるだろう。

これらの企業が開発し、国内の何百万人ものユーザーを対象にテストする革新的な製品は、米国だけでなく、同じようなニーズを持つ他の新興市場でも肥沃な市場を見つけることができる。このような企業の多くは、本社に技術チームを置きながら、戦略的な事業基盤として米国を利用したいと考えている。

これは創設者、アクセラレーター、投資家、サポート組織が、歴史的に国際化を経験しており、世界中にコネクションを持っているからだ。では、これらの外国企業はどこに着地するだろうか?デンバーやオースティンに興味を持つだろうか。あるいは国際的なハブとして有名になったばかりの都市であろうか。

マイアミは、海外のスタートアップが米国と同じようなトレンドを持つ新興市場との両方にアクセスできる場所である。同市は成熟市場と新興市場の間のインターセクションに位置するように大きく前進し、インクルーシブな(人口の半分は外国生まれである)エコシステムを作り、個人主義よりもコラボレーションを優先し、新規参入を奨励する。したがって、これは多様性のあるスタートアップ都市の(実用的な)モデルになるだろう。

3.お金は後からついてくる

シリコンバレーからの「脱出」が話題になっている中、このハブが常に堅調であったのは重要な機能である資本へのアクセスのためだと指摘する向きもある

しかし投資家は最良の機会を追う。つまり、テクノロジーへの投資はますますグローバル化することになる。簡単にいえば、シリコンバレーに富が集中していることは、世界中で高まるテクノロジーの需要と相容れない。シリコンバレーは滅びることはないが、市場規模は大きくなっている。そして、より多くの資本がすでに新興のテクノロジーハブに向かっている。

その兆候として、米国のベンチャーキャピタル大手が新興地域に進出していることが挙げられる。たとえばSequoia(セコイア)は最初のヨーロッパオフィスを開設し、SoftBank(ソフトバンク)はラテンアメリカに数十億ドル(数千億円)を投資している。

これは米国の投資家がマイアミのような世界的な機会に容易にアクセスできる地域を好むことを意味している。2020年、マイアミ地域へのVCによる投資はパンデミック中であるにも関わらず22億ドル(約2300億円)を超えた(スペイン全国で約1460億円だったことと対照的だ)。それだけでなく、新興市場の投資家からの資金調達も増えている。

ラテンアメリカでは、現地の資金提供者が有望な企業の支援に大きな役割を果たしている。2019年、ラテンアメリカに投資された記録破りの46億ドル(約4810億円)のVC投資のほぼ40%が、少なくとも1人のラテンアメリカの投資家との共同投資によるものであった。そして我々が見た限りでは、地域の投資家は米国を拠点とする組織にますます資金を提供している。

彼ら(そして同様の人々)が求めているのは、地域や外国の起業家とつながるエコシステムを確立し、市場を越えたパートナーシップを育むことだ。

マイアミのような場所はこうしたネットワークの拠点となる必要がある。南フロリダではすでに500 Startups(500スタートアップス)、Plug & Play(プラグ アンド プレイ)、TheVentureCity(ザ・ベンチャーシティ)など、グローバルなマインドを持つアクセラレーターやスタートアッププログラムを展開している。また、Ocean Azul(オーシャン・アズール)、Endeavor Catalyst(エンデバー・カタリスト)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)、Level VC(レベルVC)などの国際的なネットワークを持つVC企業に加えて、現在はソフトバンクが参加している。

4.マイアミはスタートアップの将来のニーズに対してより有利な場所にある

最後に、マイアミが国際的なコネクタースタートアップハブの米国におけるパイオニアであることを強調したい。

スタートアップは、より少ない費用で多くのものを5年に1度のペースで構築し、初日から国際的に展開することで、より多くの市場で製品をすぐにテストすることができる。これは世界レベルの接続性があれば実現可能であり、国境を越えて常に外に目を向けている環境にいることにつながっていく。

またタイムゾーンが南米の大部分と同じであり、ロンドンからわずか5時間遅れであることも便利だ(サンフランシスコがタイムゾーンを共有するのは、米国のその他の地域とバンクーバーだけである)。

成功を追い求めて生まれ育った土地を離れる人は、歓迎されることを望んでいる。彼らは、市長が「Cafecito(カフェシート、1杯のコーヒーほどの会話)」のために喜んで彼らに会い、他の創設者たちが彼らの到着を心から熱心に支持していることを評価している。成功するためにコネクション、資金、バックグラウンドが必要になりがちな、物価の高い都市には移り住みたくないと考えている。

マイアミは、グローバルなスタートアップハブの将来を映し出している。次のシリコンバレーにはならないだろう。なぜなら、次のシリコンバレーは不要だからだ。地球上のあらゆる場所で起業家の世界が繁栄するにつれ、新興市場の企業が米国やヨーロッパの市場を席巻し、その拠点となる都市が国際的なネットワークに参入していくことになるだろう。

カテゴリー:その他
タグ:Miamiコラム

画像クレジット:Buena Vista Images / Getty Images

原文へ

(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)

マッキンゼーやBCGも注目、自律分散型の「アジャイル組織」とは

著者紹介:本稿は加藤章太朗氏(Twitternote)による寄稿記事。同氏は慶應義塾大学卒業後、2009年にRELATIONSを共同創業。また、2021年にはコードシティを創業し、建設にかかるコストの劇的な削減を目指し、建設3Dプリンターの開発を行う。

ーーー

本稿では、自律分散型の組織の1つの形態である「アジャイル組織」について説明する。アジャイル組織は、SpotifyなどのIT企業やINGグループの巨大金融企業も取り入れていると言われ、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループなども研究を進めている組織構造だ。

アジャイル組織とは

アジャイル組織とは、ソフトウェア開発で取り入られているアジャイル開発の概念を、開発組織だけではなく組織全体に適応する考え方である。従来、ソフトウェア開発の世界では「ウォーターフォール開発」という考え方が主流だった。これは、最初にすべての機能を設計・計画し、計画に従って実装をし、テストをするという開発手法だ。

しかし、ウォーターフォール開発では完璧な設計や計画が求められ、リリースまでに長い期間がかかる。例えば、1ヶ月間で要件定義し、3ヶ月間で設計をし、6ヶ月間実装し、2ヶ月間テストをし、12ヶ月後にリリースするというようなイメージだ。

確実性の高い開発手法ではあるものの、変化が激しい世の中では、1年前に考えていたことが陳腐化しており「リリースしてはみたものの全く顧客に受け入れられない」という可能性もある。

これに対し、アジャイル開発とは、小さな単位で設計・実装・テスト・リリースを繰り返す開発手法である。これは例えば、ある特定のコア機能に絞って、2週間単位でリリースをしていくというような開発手法だ。アジャイル開発では単純計算で年間に26回のリリースが行われることになる。

アジャイルとは「素早い」、「機敏な」という意味だが、小さくても良いので素早く顧客に価値を届け、そこから顧客のニーズを学習することを重視する。アジャイル組織は、このアジャイル開発の考え方や働き方を開発チームだけでなく組織全体にスケールさせたものだこれを「Agile at scale(アジャイル・アット・スケール」と呼ぶ。

この組織構造を取り入れることで、組織のすべての領域で顧客に対し素早く価値を届け、学習を繰り返すようになる。

なぜアジャイル組織が求められているか

マッキンゼー・アンド・カンパニーが行っている「McKinsey Global Survey(ビジネスリーダー2500人へのアンケート)」によると、回答者の75%が「組織のアジャイル化」を優先事項のトップ3に挙げている。アジャイル組織への移行が求められるようになったのは、変化が激しい競争環境になったことが最も大きな理由だ。

1900年代初頭から広がった中央集権型の組織は、Frederick Taylor(フレデリック・テイラー)氏が提唱した「科学的管理法」が起源と言われているが、これは現代より100年以上前の「変化が少ない世の中」を前提に設計されたものだ。

テイラー氏が提唱した組織管理の手法は、中央集権型の素晴らしい組織形態ではあるが、当時から100年が経ったいま、企業を取り巻く競争環境が大きく変わっている。破壊的テクノロジーの出現により、ある業界の競争のルールが一気に変わるといったことも起きている。Uberが自動車業界に現れ、モビリティの概念が変わるというのもその一例だ。

実際、世界の時価総額の上位は短い期間で大きく入れ替わるようになった。2008年と2018年の世界の時価総額トップ10の比較が以下だ。

このような世の中では、変化に適応できない企業は生き残ることが難しく、組織の柔軟性や変化への適応力が求められるようになっているのだ。

中央集権型組織とはまったく異なる、スクアッド単位の組織形態

アジャイル組織は中央集権型組織のピラミッド構造とは全く異なる組織形態を取る。下の図で表しているのが、アジャイル組織の例としてよく取り上げられるSpotifyやINGグループの組織形態だ(参照URL時点)。ちなみに、INGグループはオランダ発祥の金融機関で、従業員5万人を抱える大規模組織だ。

この組織では、スクアッド(分隊)というチームを基本単位として運営が行われます。スクアッドの特徴として挙げられるのは以下の通りだ。

  • 9人以下のスタートアップのような雰囲気のチーム
  • 後述のトライブの優先順位を鑑みて、目的、権限、責務が設定される
  • 単独で顧客に価値を提供できる「End-to-Endの単位」で区切る
  • プロダクトオーナーが設置され、仕事の優先順位付け、プロジェクトマネジメントを行う

スクアッドは、自分たちだけでアイデアを考え顧客に価値を届けるため、エンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など様々な能力を持ったメンバーがアサインされる。機能別の縦割りのチームではないというのがポイントだ。下の例では、スクアッドごとにスマートフォンとPCに領域を分けていいる。自分達で単独で意思決定できる範囲で分割することがポイントだ。

そして、そのスクアッドがいくつも集まり、トライブ(部隊)となる。トライブの特徴は以下の通りだ。

  • スクアッドの集合がトライブ(部隊)となる
  • 最大で150人の規模
  • チャプター、トライブリード、アジャイルコーチという役割を設置し、アジャイル型のワークスタイルが成り立つよう支援する

トライブの規模の目安は150人だ。これは「ダンバー数」という人間が安定的な関係を維持できる数を元に決められている。トライブリードは、トライブ内の優先順位を決めたり、予算をスクアッドに分配する役割がある。また、他のトライブとの情報共有も行う。

トライブリードのほかにも、アジャイルコーチという、スクアッドが高いパフォーマンスを上げることを手助けする役割も存在する。

また、トライブやスクアッドの他に、チャプターというスクアッドを横断した職種ごとのグループがあり、ナレッジの共有を行う。チャプターリードは、各メンバーのコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行う。

アジャイル組織に移行するための5つのポイント

アジャイル組織に移行する上で重要なポイントは様々だが、特に重要なポイントは以下の通りだ。

  1. 変化に強い組織への移行の意思決定
  2. 素早い学習サイクル
  3. End to Endの単位での組織設計
  4. パーパス(目的)ドリブン
  5. ピープルマネジメント

1.組織形態の変更の意思決定

アジャイル組織は、変化への適応を前提として設計される組織であり、中央集権型の組織と組織形態や運営哲学が異なる。中央集権型の組織形態のまま、権限を分散したり、アジャイル型の仕事の進め方を一部取り入れてもうまくいかないことが多い。中央集権型の組織から、組織形態を変更するトップの意思決定が必要だ。

2.素早い学習サイクル

アジャイル組織では、変化に適応するために学習を重視する。そのため、壮大で完璧な計画をするのではなく、コアの価値を素早く顧客に届け学習する「俊敏性の高いアジャイル型の仕事」が求められる。開発の領域だけでなく、バックオフィスなど組織のすべてに、学習を重視するアジャイル型の仕事を浸透させる努力が必要だ。

なお、バックオフィスなど従業員にサービスを提供するチームの場合は、「顧客=従業員」と捉える考え方が有効だ。

3.End-to-Endの単位での組織設計

「End-to-End」とは「アイデアを考え顧客に価値を届けるまでの最初から最後まで」という意味を持つ言葉だ。組織として、素早い学習サイクルを担保するためには、アイデアから価値提供までを自律的に判断し、許可を取らずに迅速に実行できることが重要だ。そのため、スクアッドなど組織構造を設計する際にはEnd-to-Endを意識しなければならない。そして、各スクアッドには目的、権限、責務が設定される。

End-to-Endでチームを分割するので、そこにはエンジニア、デザイナー、マーケター、営業、など価値を届けるために必要なさまざまなメンバーがアサインされる。

4.パーパス(目的)ドリブン

End-to-Endで分割されたチームが自律的に動くためには、パーパス(目的)を明確にし、パーパスドリブンで動くことが非常に重要だ。組織全体の目的から、各トライブの目的が設定され、それを元にスクアッドの目的が設定される。目的が曖昧だと、各スクアッドが自律的に動けなくなってしまいます。

そのため、ミッションやビジョンが神棚に置かれている状態を脱却し、会社のメンバーが熱意を持って前進できるような魂のこもったミッションやビジョンが策定・運用されることが求められる。

5.ピープルマネジメント

アジャイル組織は、従来の中央集権型の組織のように上司がマネジメントをするという組織ではない。その代わりに、チャプターリードがコーチングやパフォーマンス・マネジメントを行う。これはメンバーの成功にコミットし、立て直しをする「ピープルマネジメント」と言えるだろう。人が自律的に動くためには、必ず立て直しをする役割が必要なのだ。

アジャイル組織への移行プロセス

アジャイル組織に移行する上では、パイロットチームでの施行後に組織にスケールさせることを繰り返していくことが一般的だ。

私が共同創業したRELATIONS株式会社が自律分散型の組織に移行する際も、上記プロセスを意識し、少しずつ組織に広げていった。

参考ソース:
Spotify Rhythm – Agila Sverige.pptx
ING’s agile transformation

関連記事:なぜスタートアップは自らを太らせるのか

カテゴリー:寄稿
タグ:コラム

悪天候や停電が示す米国の電力網最大の問題は再生可能エネルギーではなくインフラそのものにある

米国が、地球規模の気候変動による非常に現実的な影響を無視することは、ますます難しくなっている。そして否定論者の努力にもかかわらず、米国を席巻する停電は再生可能エネルギーが普及しているせいではない。それは米国のエネルギーインフラが原因だ。

地球温暖化が引き起こす厳しい気象条件は、現在、米国の最大の都市のいくつかで大規模な停電の原因となっている。米国の電力網(パワーグリッド)が異常気象によるストレスに耐えられないという事実が、エネルギーインフラをより回復力のあるものにするため大規模に更新する投資計画が必要であることを示している。

こうした問題は現在、テキサス州の2900万人の住民にとって痛々しいほど明白だ。彼らは現在、米国中を襲う極寒の気象が引き起こした計画停電に直面している。

テキサス州の電気信頼性評議会(ERCOT)は声明で、「緊急事態に入り、今日の午前1時25分に計画停電を開始した」と述べた。テキサス州のグリッドは10.5ギガワットの負荷を削減した。これは、ピーク時に200万世帯へ電力を供給するのに十分な量だ。

同評議会は声明で「異常気象により、燃料の種類を問わず多くの発電ユニットがオフラインになり利用不能になった」と述べた。

プリンストン大学のJesse Jenkins(ジェシー・ジェンキンス)教授によると、問題の一部はテキサス州のグリッドに電力の多くを供給する天然ガス発電機にある。同氏はプリンストン大学機械航空宇宙工学科とアンドリンガーエネルギー環境センターのジョイント・アポイントメント教員だ。

ジェンキンス氏はツイッターで市場参加者からの情報を引用し、天然ガスが電力ではなく熱を供給するために転用されているため、約26ギガワットの火力発電がオフラインになっていると述べた。同氏によると、氷結のためにオフラインになっている風力発電は約4ギガワットのみだ。

現在の停電は再生可能エネルギーとは何の関係もない。すべては凍結と暖房需要の急増により、寒冷な気候が天然ガス発電を遅らせたことに関係している。

ジョージア工科大学の土木環境工学の助教授であり、公共政策の助教授であるEmily Grubert(エミリー・グルーバート)博士が指摘したように、問題は再生可能電力に関連する問題というよりも、システム全体の問題だ。

「はっきりさせておきたい。今日グリッドに障害が発生するなら、それは既存の(主に化石ベースの)システムもこうした状況に対応できないことを示しています」とグルーバート氏はツイッターで述べている。「これらは恐ろしい気候変動の影響により生まれた状況であり、グリッドに非常に困難な課題をもたらします。既存のシステムでは簡単に処理できない状況が続く可能性があります。どの電力システムでも、適応するために大規模な改善を行う必要があります」。

再生可能エネルギーとエネルギーストレージが問題の解決策を提供し、より弾力性のあるグリッドに貢献する可能性がある。住宅用エネルギー開発業者のSwell Energyは2020年末に4億5000万ドル(約470億円)の資金を調達し、3つの州にまたがるいくつかのプロジェクトの開発を開始した。これらのプロジェクトでは、電力需要の増加の時代にあって、分散型の住宅用太陽光発電とバッテリーストレージを組み合わせる。

関連記事:住宅用再生エネルギー推進のSwell Energyが分散型電力プロジェクト建設に向け470億円調達

Swell EnergyのCEOであるSuleman Khan(スールマン・カーン)氏は発表時、「電力会社は分散型エネルギー資源が貴重な『グリッドエッジ』資産だとしてますます注目しています」と述べた。「個々の家庭や企業を仮想発電所としてネットワーク化することで、Swellは顧客の所有コストを削減し、電力会社が電力網全体の需要を管理できるよう支援します」。

Evolve EnergyGriddyといった他の企業は、電力を卸売りの料率で請求することで消費者のコスト管理を支援しようとしている。こうした企業は、卸電力の料金が低い場合にのみ経済的になる。Bloomberg EnergyのレポーターであるJavier Bias(ハビエル・バイアス)氏によると、現在電力需要が急増しているため、ERCOTのエネルギー価格はメガワットあたり5000ドル(約52万5000円)を超え、多くのノードで9000ドル(約94万5000円)の上限に達した。

今日のテキサス州と2021年1月のカリフォルニア州での停電は、米国の現在のグリッドを根本的に改善する必要があることを示している。カリフォルニア州のような厳しく規制された市場であろうとテキサス州のような自由市場であろうと、現在の政策では天候が大混乱を引き起こし人々の命を危険にさらすことを阻止できない。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:再生可能エネルギーコラム

画像クレジット:Orjan F. Ellingvag/Corbis via Getty Images) / Getty Images

原文へ

(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

話題の次世代写真SNS「Dispo」創業者デビッド・ドブリック氏インタビュー、完璧な世界から抜け出して今を楽しもう

【Japan編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する「Off Topic」の投稿の転載だ。Off Topicでは、最新テックニュースの解説やスタートアップについてポッドキャストYouTubeも配信している。ぜひチェックしてみてほしい。

はじめに

米国時間2月12日あたりからシリコンバレーや米国のテック業界でバズり始めた次世代写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」のベータ版だが、2月14日、日本からの大きな関心が集まりTestflightの利用可能人数である上限の1万人を超えてしまった。

今回は、Off Topicの宮武がDispoのCEOであるDaniel Liss(ダニエル・リス)氏とChief Fun OfficerのDavid Dobrik(デビッド・ドブリック)氏に直接Zoom上でDispoの創業物語、サービスが描いているカルチャー、そして日本に対しての思いについて話を伺った(Testflight版ではアプリのスクリーンショットの共有をしないようにユーザーにお願いしているが、今回は特別に許可を得てスクリーンショットを共有している)。

デビッド・ドブリックとは何者か?

Dispoを理解するにはまず人気YouTuberでDispo創業者のデビッド・ドブリック氏を理解しなければいけない。彼は元々Vineで人気になり、上手にYouTubeへ移行し、Vlog形式で現代版のシットコムを作った。メインチャネルだけで1880万人の登録者がいるが、コロナの影響で2020年4月25日以降、YouTubeに投稿していない。デビッド氏の動画スタイルは外に行って友達の人生を見せることでもあるため、新型コロナ期間中は動画を出せないと発表している。

しかし、彼の魅力はYouTube動画の制作だけではない。Off Topicでもたびたび「クリエイターが次世代ブランドである」と発言しているが、デビッド氏はこの仮説の理想的な事例である。デビッド氏は、YouTube動画以外にもInstagram、TikTok、Twitch、ポッドキャストなどのSNS以外にも、グッズ販売、テレビ番組の司会者、香水ブランドの立ち上げ、パズル商品の開発、ピザ屋、そしてアプリ開発の展開をするというマルチビジネスを行うクリエイターだ。

そんな中、デビッド氏は2019年6月から使い捨てカメラだけで写真を撮るInstagramアカウントを立ち上げた。

画像クレジット:davidsdisposable Instagram

この使い捨てカメラを使う理由は、後ほどDispoのアプリ展開に繋がるストーリーだとデビッド氏は語る。

LAのパーティーで使った使い捨てカメラ、「この瞬間を楽しむこと」の重要性

新型コロナ前にLAの友達のパーティーによく参加していたデビッド氏(Vlog撮影のため)は、ある行動が頻繁に行われていることに気づいた。それは、パーティーの途中にInstagram好きの女の子たちが50個ぐらいの使い捨てカメラを持って、「写真をとりあえずたくさん撮って!明日の朝に集めに行くね」とパーティー参加者に伝えてた。みんな飲んでワイワイして、翌日の朝に女性たちがいろんな場所に置いてある使い捨てカメラを回収して、その写真を参加者全員に送る流れがあった。

デビッド氏はこの話をしているときに、特に強調したのはパーティー中の使い捨てカメラの使われ方だ。スマホのカメラだとどのフィルターを使うか、ライティングの調整、顔の角度などを気にする人たちが、使い捨てカメラだと確認できないので撮ってすぐにみんながワイワイしている現場に戻ってくる。これは、彼が言う「Living in the moment(この瞬間を生きる)」が本当に実現されている瞬間だった。この瞬間、友達との楽しい時間を満足できるのはすぐに映えた写真が撮れるスマホではなく、使い捨てカメラなんだと気づいた。

同時に、映画「The Hangover(ハングオーバー!)』のエンディングで主人公たちが1つのデジタルカメラの周りに集まって、その日の夜の写真を一緒に振り返るシーンがデビッド氏の頭に残っており、その結果、この非同期の写真現像コンセプトが生まれたという。

デビッド氏は仮説として、写真を撮った瞬間その写真を見て「Instant gratification(瞬間的な満足)」よりも「Delayed gratification(待ってからのお楽しみ)」の方が強い感情を抱けるのかと考えた。そして「今」を失わない、邪魔しないことが大事だと話した。そこで生まれたのがアプリ「Dispo」だ。

「Dispo Beta」リリースまでの道のりとチーム体制

2019年末にリリースした「David’s Disposables(後にDispo)」はソーシャルアプリではなく、使い捨てカメラアプリだった。UIとしては使い捨てカメラと同じで、小さいカメラレンズ、常に点灯するフラッシュ、そして自撮りをするためのフロントカメラへの切り替えが使えないようになっている。特定のフィルターしか使えず、写真は使い捨てカメラっぽく少しレトロで色合いが粗くなる設定になっている。さらに使い捨てカメラと同じく、その瞬間では写真を見れず、次の日の朝9時に写真ができ上がるのを待たなければいけない仕組みとなっている。

画像クレジット:Tubefilter

ローンチしてからすでに260万回ダウンロードされたアプリだったが、デビッド氏はアプリを進化させたいと考え、アプリをSNS化できるチームと資金調達を行うことを決めた。

2020年10月初旬に新しい体制と400万ドル(約4億2000万円)の資金調達をWall Street Journalなどで発表した。デビッド氏と彼のアシスタントのNatalie Mariduena(ナタリー・マリドゥエナ)氏を含めて6名体制のチームは、元VCファンドを立ち上げFabFitFunのCo-CEOのコンサルを行っていたDispo CEOのダニエル・リス氏、写真編集ツールのAdobe Lightroomの作ったデザイナーの1人であるBriana Hokanson(ブリアナ・ホカンソン)氏(通称、Bhoka)元Twitterの機械学習エンジニアのRegynald Augustin(レジーナルド・オーガスティン)氏、そして動画系のスタートアップで経験があるiOSエンジニアのマローン・ヘッジズ氏となる。デビッド氏は「Chief Fun Officer」として加わり、アシスタントのナタリー氏は「Treasurer」の役割だ。

チームの写真もDispoらしく、少しレトロなイヤーブックっぽい写真にした。

画像クレジット:Business Insider

そして、ショート動画SNSプラットフォームのByteの創業デザイナーであるMichael S.(マイケル)氏もジョイン。

Dispoの400万ドルの資金調達は、元Reddit創業者で現在、Seven Seven Sixファンドを運営しているAlexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏がリードした。その出資額を活用して既存のDispoアプリにソーシャル機能を追加した結果、今回の「Dispo Beta」が誕生した。

そのため現在、Appleのアプリストアには「Dispo」というアプリは存在するが、このアプリはソーシャル機能が搭載されていない以前のカメラアプリとなる。今回、シリコンバレーや日本で話題になったのは、ベータ版を簡単にユーザーに試してもらえる招待制の「Dispo Beta」というアプリとなる。

Dispo Betaの使い方

アプリを開くと元のバージョンと同じくカメラ機能の画面が表示される。Dispo Betaでは、アプリ外で撮った写真以外をアップロードすることはできず、Dispo Betaカメラで撮影した写真だけがプラットフォーム内で使うことができる。

写真を撮ると、Dispoのオリジナルアプリと同じく、次の日の朝9時まで待たなければいけない。


プロフィールを開くと、下のような画面となる。ここで重要なのは、写真を単体ではなくRoll(アルバム)で表示していること。Dispoのダニエル氏とデビッド氏いわく、何かしらのテーマやイベントをRollとしてグルーピングして、そのテーマやイベントに参加している仲間たちを特定のRollに入れて、お互いRollに写真を追加する「共同アルバム機能」がRollとなるという。

このRoll機能は、Dispo Betaの最も象徴的な機能だ。Rollsを作った人がRollのモデレーターとなり、アルバムに参加している人や写真を取り除くことができる。Public(公開)Rollの場合は参加しているメンバーは誰でも他の人にそのRollに参加する招待を送ることができる。Private Rollの場合は。Rollを作った本人のみが招待を送ることができる。

Rollは、デビッド氏がLAのパーティーや「ハングオーバー!」のエンディングをアプリで再現しようとしている機能だ。友達同士が1つのイベントに対していろいろな角度や思い出を投稿し、それをみんな次の日の朝9時まで待って、同時にすべての写真を見ることができる。離れていても一緒の時間帯で写真を見るということは、今までにない強い体験でもあり、当事者全員を同じ時間軸とタイムラインに合わせる役割を果たしている。全員で一斉に開くからこそ、ダニエル氏とデビッド氏はこの瞬間を「クリスマスプレゼントを開ける時」に似ていると発言している。

さらにRoll内には。ソーシャル機能がある。それが「Scoreboard(スコアボード)」。スコアボードでは、各Rollのスコアボードで誰が最も写真を撮ったのかがわかる。


そのほかのRollについての質問や招待枠についての質問は、こちらのスレッドをご覧いただきたい。

イースターエッグが隠されてる楽しいUI/UX

このように、Dispoは「今、この瞬間を生きる想い」と「楽しく、良い人であること」を抱えながら「ある程度のスピードを持って開発する」という3つが同社のモットーとなっている。

画像クレジット:Dispo Notion

特に最初の棒線が引いてある2つ、「Don’t be evil」と「Move fast and break things」はGoogleとFacebookのモットーであり、Dispoは今までの「硬い、魂のない」大手企業とは真逆の楽しいUI/UXの設計を考えている。実際にDispoのアプリを見ると、いろいろな小さな評価されるべきUIやイースターエッグが隠されている。

まずはDispo Betaアプリを立ち上げた時のこのアニメーション。

また便利な機能として、自分のプロフィール概要欄に「Twitter」や「Instagram」の後にユーザー名を入れるだけでDispo Betaが自動的にアカウントへリンクしてくれるというものもある。


さらに、まだ知られていない機能もある。上記写真の「 」はSnapchat内で連続で特定の友達とSnapを送り合う機能と似ているとダニエル氏は話すが、どう計算されているかは教えてくれなかった。すべてのアイコンや機能がわからないのがアプリのおもしろさでもあるという。

Off Topicとして一番気に入ったイースターエッグは、アプリの設定画面を開くと「Baby Animals」というタブがあり、それをタップすると癒される、かわいい動物の写真が待ち構えているというものだ。


まだ見つけられていない機能やイースターエッグが隠されているとダニエル氏は言う。それを見つける楽しみも含めて、Dispo Betaは今までとは違う、若手層に合ったポジティブなメッセージやサプライズを組み込んだアプリ設計をしている。

日本市場への思いとリスペクト

ダニエル氏とデビッド氏に聞くと、アプリデザインへのこだわりは日本を参考にしているとのこと。デビッド氏は元々富士フイルムのカメラを愛用していることもあって、昔から日本が好きだという。オンボーディングで評判の高かったアニメーション自体も日本のモノやデザインからインスピレーションを受けたとダニエル氏は語る。

日本に対するリスペクトがあったものの、今回の日本からの需要にはかなりびっくりしたと2人とも話していた。LA時間の朝1時から2時の間に大量の日本ユーザーが入ってきてビックリした、と。ただ、それは非常にうれしいもので、今後も日本のユーザーがアプリをどう使うか気にしているという。2人は、日本は文化、デザイン、そしてSNSの力が強いと認識しているため、日本ユーザーへの期待値は高いとのことだ。

Off Topicからの感想

ダニエル氏は他社との比較はしたくないと語っていたが、個人的にはDispo Betaは今のZ世代とミレニアル世代にピッタリなサービスに見える。Instagram美学が求める理想的な世界からバーンアウトしているミレニアル世代に対して、少し昔を思い浮かばせるような使い捨てカメラを提供することによって、Dispo Betaはより自分らしい表現の仕方、友達とのプライベートな時間(世の中からの評価を受けなくていい)、そしてノスタルジアが組み込まれたアプリになっている。

Z世代では、「完璧な世界」を壊す動きがすでにTikTokやYouTube上で行われている。TikTokは変わった自分を表現しバズれるプラットフォームであり、YouTubeではスッピンでリアルな自分を見せるEmma Chamberlain(エマ・チェンバレン)氏が流行っているのは、このトレンドを証明している。だからこそ、Off TopicではDispo Betaのようなサービスを「次世代版Instagram」と呼んでもいいのかと感じる。

フェイク、ありえない映え、フォロワー集めではなく、友達や知り合いと一緒に何か1つの体験やイベントに没頭しながら、後で一緒に思い出を振り返るアプリこそ今流のSNS。プライベートとパブリックをうまく組み合わせて、リアルな自分をポジティブな面で見せられる。Dispo Betaはまだ新しいアプリだからこそいろいろなユースケースが生まれる。元々予想されていた何かのイベントや家族ディナーでの写真をまとめたRollもあれば、学生同士が学校のプロジェクトのメモを集めるユースケースもある。ダニエル氏いわく、インターンの採用もDispo Betaで決まったらしい。

Dispo Betaにはまだたくさんの課題があり、これからどうスケールするか、どう進化するかは定かではない。ソーシャルグラフやディスカバリー機能もまだ改善できるポイントではあるし、同じフィルターがどこまで流行るのかは疑問点としてある。ただ、新型コロナ後でも十分伸びることができる、ミレニアル世代とZ世代にフィットするアプリであることは間違いない。SNS上で大量のコンテンツを目にする中、今、この瞬間を楽しむことをプッシュするDispo Betaは特にZ世代の思いに響くはず。そしてDispo Betaは、何よりVine、YouTube、TikTok、Twitchなど数々のSNSプラットフォームを理解したZ世代のデビッド・ドブリック流のアプリである。彼は過去2〜3年ほど、Z世代の中で好きなオンラインのパーソナリティーの調査をすると、必ず1位になる人でもある。

画像クレジット:Piper Sandler

Off Topicは、今後もDispo Betaがどのように使われて、どう成長するかをウォッチしていきたいと想う。

最後に

ダニエルさん、デビッド氏、本当にインタビューさせていただき、ありがとうございます。サービスが進化するのを楽しみにしています!

Fortune favors the brave.

Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikikusano)

カテゴリー:ネットサービス
タグ:コラムDispo BetaSNS

(文:Tetsuro / @tmiyatake1、Miki / @mikikusano

Twitterの最新動向から見えてくる未来

【Japan編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する「Off Topic」の投稿の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやっています。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

Twitterには多大なる可能性があり、ものすごい価値を世の中に提供している会社・サービスだが、同じレベルの価値を捉えてない。そのため、多くの人はTwitterに対してフラストレーションを抱いている。ただ、そんなTwitterがここ数カ月でかなりおもしろい動きを見せている。

複数の会社の買収、そして自社開発している音声SNSはTwitterがこれから元々自社の優位性だったディスカバリー・ディストリビューションするサービスからコンテンツ制作およびエンゲージメントプラットフォームへ進化するように見える。これが本当にTwitterのビジョンであって、ちゃんとビジョンを実行できればTikTokやFacebookと対等に戦えるプラットフォームになるかもしれない。

今回の記事では、Twitterの最新動向から考えられる今後の戦略、その偉大なるポテンシャル、そして成功・失敗するかもしれない理由を解説する。

Twitterが買収した会社

昔、Twitterは多くの会社を買収していた。2011年から2015年の間で44社買収していたが、2016年では3社、2017年では0社、2018年では1社、2019年では3社、そして2020年では3社とペースダウンしている。そんなTwitterだったが、2020年12月と2021年1月の買収履歴を見てみると、

Wikipediaより

1カ月ちょっとで5社の買収はTwitterとしてはすごく早いペース。そのため、Off Topic含めいろいろなメディア企業はTwitterが大きく方向性を変える、新しい取り組みを行うと読んでいる。それを理解するために、まずTwitterが最近買収した会社を見てみよう。

Squad

2020年12月に買収されたソーシャルスクリーンアプリ「Squad」は、若者層から人気のアプリで、新型コロナの影響も追い風になりさらに伸びた。TechCrunchの記事によると、3月前半の2週間で利用が54%増え、3月後半には1100%増加となった。

画像クレジット:Business of Apps

Twitterは、Squad買収により、Squadとしてのサービスは終了し、Twitter内に組み込むことをプロダクト開発責任者のIlya Brown(イリヤ・ブラウン)氏が投稿した。

Ueno

2021年1月にTwitterはクリエティブエージェンシーのUenoを買収したと発表。Uenoは過去に何度もTwitterと一緒にプロダクトのデザインやUX改善を行ってきたが、Twitter以外にNew York Times、Apple、Slackなどの大型プロジェクトを担当してた。

Uenoを買収したのはチームのためなので、Twitterは今後Uenoのチームメンバーをいろいろな新規プロジェクトに関わってもらう予定。

Breaker

Uenoを買収する数日前にTwitterはソーシャルポッドキャストアプリのBreakerを買収。2016年に設立したBreakerは2020年末時点では番組数が70万超えていたが、ポッドキャストのアプリランキングでは10位とメジャーアプリにはなれなかった。

画像クレジット:9to5 Google

こちらもUenoと同じようにBreakerチームをTwitterが採用したかった。サービス自体は別の会社が引き取ることになり、BreakerチームはTwitterの音声サービス(Twitter Spaces)の開発に取り組むことがわかった。

Revue

2021年1月末にTwitterはSubstack競合のメルマガ配信サービスのRevueを買収。Revueは1700万ドル(約17億8000万円)の売上を持つSubstackと比較するとかなり小さいプレイヤーで、まだ6名体制だった。

画像クレジット:Medium

TwitterはRevueをそのままプロダクトとして開発し続けながら、Twitterとの連携を進めると語っている。今回の買収はTwitterがロングフォームコンテンツ(メルマガ・記事)の市場へ入り込むと噂されるきっかけとなっている。

この買収は個別で関係ないものに見えるかもしれないが、実はTwitterの今後の戦略に大きく繋がるものになるかもしれない。この戦略を理解するためには、まず最もTwitterが今後注力するであろう音声SNSとメルマガ配信をどうTwitterが侵入して拡大できるかを解説していきます。

Clubhouseに対抗する音声SNS:Twitter Spaces

2020年に音声SNSアプリのClubhouseが人気になり始めた。当初は音声版Twitterとも言われていたが、初期のユースケースはTwitterなどのニュースや何かの情報についてディスカッションするアプリとなっていた。そのため、多くの米国のVCはClubhouseを始めた当初はTwitterの利用時間が減ったこと発言していた。

Off Topicでも2020年4月からClubhouseを追っている中、Twitterが買収するべきことを語っていた。

それに気づいたのか、Twitterは2020年12月に音声ベースのチャットルーム「Twitter Spaces」を検証し始めた。

画像クレジット:The Verge

そもそもその前からTwitterは音声機能を追加したのと、会社の創業時(当時はOdeoというサービス名)もポッドキャストプラットフォームを作っていた。直近ではSquadやBreakerを買収したが、それはTwitterとしては本気で音声領域に入り込もうとしている証拠。

ベーシックな機能としては、ClubhouseやChalkのように話している人やリスナーのプロフィールアイコンが写り、音声ベースでの部屋を簡単に立ち上げられるプラットフォームとなる。Clubhouseと同じように、部屋に入って会話を聞きながらTwitterのアプリでブラウジングが可能で、他のアプリを開いても音声は途切れない。どのようなUIになっているかを見たい方は、以下の動画でご確認を。

現在、Twitterのストーリーズ機能のFleetsと同じ場所に出てくる。色合いを紫色にして、人数の表記やSpacesのアイコンを入れている。

画像クレジット:Transistor

今はTwitterのスマホアプリ内でしか対応しておらず、まだバグが多い。特に音声クオリティが低く、場合によっては途中で音声が聞き取れないケースも多々ある。特にAirPodsを使うと、音声クオリティが低いという噂も出ている。

そんな中、Clubhouseとはいくつか機能的な違いと、プロダクトの方針の違いがあることがわかる。

Clubhouseとのプロダクト方針の違い

Clubhouse創業者のPaul Davidson(ポール・デビッドソン)氏は1月後半にClubhouseは動画展開を絶対行わないとユーザーからQ&Aを受けるTownhallで発言した。そして、同時にClubhouseのroom(部屋)をプラットフォーム、会話の中心機能として活用し続けたいと話した。明確には語ってないが、これはおそらくClubhouseを音声メインとしたプラットフォームとして続けて、音声と一緒にその他の体験・コンテンツ提供をあまり考えていないということだと理解している。

Twitter SpacesのUI・機能を見ると、Clubhouseとはかなり違う戦略をとっているのがわかる。Clubhouseはroom、いわゆる音声の会話をコンテンツの中心にする予定だが、Twitter Spacesは音声だけではなく、いろいろな共有コンテンツをベースに会話ができるようなプラットフォームにしているのがわかる。

Clubhouseとの機能の違い

まず、最もわかりやすい違いはTwitter Spacesだと部屋のスピーカー・モデレーターがツイートを表示できること。ツイートがTwitter Spaces内のUIで現れ、それを他のスピーカーやリスナーが読んで、それについて会話ができるようになっている。


複数のツイートが共有された場合、スワイプして他のツイートを見ることができるようになっている。

画像クレジット:Chris Cantino Substack

今までだと会話につながるような情報、おもしろいMeme、プロダクトの紹介など、さまざまなユースケースが登場している。ほとんどの場合、新しいツイートが共有されると、当然ながらそのツイートをみんな見てそれについて話す。それを考えると、一切画面を見なくても良いClubhouseとは少し違う使われ方が想定される。

さらに、Twitter Spacesでは書き起こしボタンがある。

画像クレジット:TechCrunch

米国だと英語の書き起こしの精度がかなり上がっている。Google Hangoutsなども似た機能があるが、Twitter Spaceだと音声の質が悪いので、スピーカーの話が聞こえなく書き起こしに頼るケースもあった。

そして、Clubhouseだと基本的に誰もスピーカーが話していることに対してリアクションができない。唯一使われているのは、スピーカー同士でマイクのオンオフを激しく表示して、今話しているスピーカーに対して拍手や賛同の気持ちを見せるということだけ。リスナーは一切リアクションができないため、スピーカー側は話がリスナーにとっておもしろいのかがわからない。Clubhouseとしてはあえてこれをやっていると思われている。だからこそ、部屋の人数を部屋の中にいる間は表示しないUIに設計している。

それと比較してTwitterは他のスピーカーもリスナーも絵文字を使ったリアクションが可能だ。

引用:Transistor

今出せる絵文字は「 ✊✌ 」5つしかない。

絵文字を増やすリクエストはかなり多いらしく、モデレータースピーカー側とするとどの話が響いているかがわかりやすくて高評価。ベータ版であまり広がっていないからかもしれないが、Twitter Spacesユーザーにヒアリングしたところ、Clubhouseより小さい部屋で、友達同士で話しているイメージがあるという。

重要なのはツイートの表示、書き起こし、絵文字リアクションはすべて音声以外のインタラクション機能・方法であることが、Twitter SpaceとClubhouseの根本的な違いとなる。そうなると、もしかしたらTwitterはClubhouseと当初だけ競合して、最終的にはTwitch、Zoom、イベントサービスと競合するかたちになるかもしれない。Color CapitalのChris Cantino(クリス・カンティーノ)さんが予測するには、以下のようなユースケースがTwitter Spacesだと考えられる:

  • SpaceXのロケットの打ち上げイベントをElon Musk自身がライブ配信する
  • ミュージシャンが新しい音楽のリリースするタイミングで作る際にサンプルやNGテイクを見せる
  • 教育系のレクチャーをやる際に図やビジュアルを見せる
  • 投げ銭が一定数超える際にアンロックされるコンテンツ

この方針を考えると、Twitterは音声・会話をメインというより、共有できるコンテンツ体験を軸としてSpacesを作っていて、それを後々プラットフォーム化する戦略を取っていると思われる。

音声をきっかけにプラットフォーム化

Twitterは何故この方向性に向かっているのか?これは後ほど具体的に説明するが、Twitterは新規ユーザーの獲得、既存ユーザーのエンゲージメントの増加、そしてマネタイズオプションを増やす必要がある。その中でも特にプラットフォームが重要視しているのは既存ユーザーのエンゲージメントとマネタイズ。Twitter Spacesはどちらとも解決できる機能だ。

まずエンゲージメントを高める方法としては、Spacesを開発する際にTwitterは今後恐らく。ツイートの共有以外に、ライブ動画や他のコンテンツの共有を試せるようにするはず。


まずはライブ配信もしくはその他の動画コンテンツで、NetflixのWatch Party機能と似たようなユースケースが思いつく。それ以外にもTwitterが買収したRevue上で作られた記事を一緒に読むことも可能になる。記事以外にもスライドショーやプレゼンなども行われる可能性がある。将来的にはスタートアップがVCに対してピッチイベントも行えるようになる(クローズドルームだと営業などもTwitter Spacesで行える)。それ以外に既存のTwitter機能だと投票機能、そしてイベントなどでQ&Aとしてよく活用されるSlidoなどをコピーして質疑応答を出せるようにするなど、1つのスペースに参加者が全員集中できる共有体験をTwitterが試しそう。

そして、SnapchatのAR戦略と似たように、自社で試してから第三者に広げて、Twitterはさらなるユースケースやエンゲージメント方法を探してもおかしくない。

Twitter SpacesがSnap Mini化?

Spacesがエンゲージメントを上げられるとTwitterが確信した際に、次のステップはその共有コンテンツのスペースの上にいろいろな体験が作れるように第三者にオープン化する。これはWeChatのMini ProgramsやSnap Miniと似たような考えで、Spaces内でTwitterが持っていないアセットを繋ぎこむチャンスでもある。

ゲーム会社がミニゲームを開発したり、Hopinなどのイベント会社がTwitterで簡単にイベントの開催と管理ができるようにするなど、いろいろな新しいユースケースが考えられる。そうするとAppleやGoogleと似たようなアプリエコシステムを保有して、プラットフォームの価値を高めながらユーザーを他のプラットフォームへ流入させないようになる。

TwitterがSpaces Mini的なプラットフォーム的なポジションを取らないかもしれない理由は、会社がニュース・情報系のコンテンツにフォーカスしているからだ。元々Facebookに追いつけないと理解してニュースへフォーカスしたのがTwitterが成長した理由でもある中、再度他のプラットフォームと違うコンテンツで戦うのはTwitterとしては危険な動きかもしれない。

マネタイズ

Twitter Spacesのマネタイズはかなり幅広くなる可能性がある。今現在だとClubhouseが今後検証するマネタイズオプションと似ていて、イベントのチケット、投げ銭、そしてサブスクが考えられる。ただ、Twitter Spacesの強さは本当に共有コンテンツが人気になれば、そこでいろいろな新しいマネタイズ方法が生まれる。有料コンテンツ化、API使用料、アプリ内課金の手数料(AppleやGoogleと同じように)。

しかも共有コンテンツを見なく、Twitterのアプリ内をスクローリングさせることによって、Twitterは既存の広告ビジネスを見捨てずにSpacesを立ち上げることができる。

ディスカバリー課題の解決

Clubhouse含め、多くの音声スタートアップの大きな課題はコンテンツディスカバリーだ。Clubhouseだとフォロワーベースで通知が届いたり、roomがフィードで表示される。Twitter Spacesも同じくフォローしている人がTwitter Spacesを作ると、Fleetsと同じ場所に浮かぶ。ただ、これだけだとそこまで使われないかもしれないので、もし音声スペースが人気になれば、Twitterはいろいろな場所にSpacesのディスカバリー機能を入れられることが1つのアドバンテージポイントになる。

Twitter Spacesは共有コンテンツがツイート、記事、動画、画像などと考えると、そのコンテンツに対してSpacesを当て込むのが自然な流れだ。クリス・カンティーノさんは3つの事例を上げている。

  • ホーム画面のフィード内で1つのツイートの下にSpacesのアイコンが表示される
  • おすすめフィードのライブ配信動画にSpacesのアイコンが表示される
  • 検索結果で記事のツイートにSpacesのアイコンが表示される

画像クレジット:Chris Cantino Substack

結局、Twitter Spacesの使用が何かの特定のトピックや共有コンテンツに対しての会話・音声体験であれば、自社サービス内のコンテンツを軸としてSpacesへ誘導させられる。これは今現在の膨大なTwitterトラフィックを活用しているため、Clubhouseにはない力となる。

音声からの興味グラフの強化

Twitterはどのプラットフォームよりも興味グラフを作れる会社だ(TikTokは違うアングルから興味グラフを作っているが)。特にニュースや情報系の話はTwitter上では盛んで、ツイートのスレッドや返信などで会話データも一部取得はできている。ただ、Spacesはそれ以上の深いデータをTwitterが取得できるようになる。すでに書き起こし機能があるのはわかっているので、そのデータをTwitterが上手く分析・カテゴライズできると、今まで以上の興味グラフを作れる。

それは後々広告に繋げたり、Twitterの今後のサービスに活かせる、長期的なアセットとなるはずだ。

Substackにプレッシャーを与えるメルマガ連携

2020年に人気になったメルマガ配信プラットフォームのSubstackに対抗するためにTwitterは競合サービスのRevueを買収した。特にTwitterとして気になったのはニュースメディアの記者が独立してSubstackを始めたことだ。Twitterのコアビジネスはニュースコンテンツを扱うことでもあるので、ニュースや情報を提供する人たちがメディア企業から他のプラットフォームに移行するのは注意しているはず。その影響なのか、New York Times記事によると2020年にTwitterは社内でSubstackの買収を検討した。

Revueの買収はBreaker買収やTwitter Spacesの開発よりもはるかにTwitterと相性の良い買収になるかもしれない。TwitterはSubstackや他のメルマガサービスより圧倒的に強い優位性を持っている。その優位性とはディストリビューション、いわゆるユーザー獲得能力。

Twitterの強みはディストリビューション

今だとSubstackやMediumなどのユーザー獲得方法は主にTwitter。大体どのコンテンツ制作サービス、特にニュースや情報系のプラットフォームはTwitterを活用してコンテンツのディスカバリーが行われる。TwitterはSNSという見方もあるが、どちらかというとディストリビューションネットワークに近しいかもしれない。

Substackはメルマガ配信を始めるには的確なサービスだが、スケールするとSubstackの手数料を嫌がり、プラットフォームから離脱する人たちが増えている。StratecheryのBen Thompson(ベン・トンプソン)さんが言うように、あるメルマガ配信者が毎年100万ドル(約1億500万円)の売上を達成した際に、Substackはその10%を取るので、少なくとも10万ドル(約1050万円)分の価値をライターのために提供しなければいけない。Substackはそのためにライターが書きやすくするプログラムやリーガルサポートなどのインフラ周りを固めているが、結局、一番ライター側がほしいのはユーザー獲得。

今Substackの最も強いディスカバリー機能はコンテンツをTwitterにシェアして拡散させるか、Substack上で自分がTwitterでフォローしている人がSubstackを作っているかチェックできる機能だ。

画像クレジット:Substackブログ

特にこの2つ目のユーザー獲得方法はすばらしいが、両方ともTwitterに依存している戦略となる。Twitterがもし自社のメルマガ配信サービスを始めたら、Substackで作る理由はどこにあるのかが問われるようになる。

Twitterとの連携方法

Twitterが本気でメルマガ配信サービスを既存プロダクトに埋め込むと、いろいろな可能性が生まれる。まずTwitterはすでにメールアドレス情報を持っているため、メルマガを作るのがワンクリックでできるようになる。実際にRevueとはこの実装がすでに完了している。Revueのホームページにいって「Start a newsletter for free」をクリックすると、Twitterで登録ができるようになっている。

画像クレジット:Revue

次にTwitterはアプリ内にエンゲージメントが高いメルマガをフィード内に表示したり、場合によっては別のタブを作ることもできる。ニュースや情報系のツイートに関しては、関連するメルマガをプッシュすることも可能。そのプッシュを一部広告としてマネタイズもできるようになる。さらに、そのメルマガにクリックしたユーザーは場合によってはTwitterアプリ内でメルマガ自体も読めるようにしたり、メルマガ内のテキスト、画像、動画を簡単にTwitter上でシェアできるようになってもおかしくない。これはGeniusのアノテーション機能と似たようなものを想定できる。

画像クレジット:Genius

それに追加して、今後ユーザーがメルマガ記事を読むと、よくよくツイートされた部分をハイライトして、そこをクリックするとどういうツイートがあったかを見せることができる機能とかも開発が可能になる。

Twitterにはすでに、アプリ内でロングフォームのコンテンツが作られている。1回のツイートで140文字しか入れられないため、多くのユーザーはスレッド機能を使って長文を書いている。それを考えると、TwitterもThreaderアプリと同じように、長めのスレッドを書いた人にスレッドを記事化できるオプション、もしくは自動的に記事化するサービスを儲けてもよいかもしれない。

Substackとほぼ同じ機能を持つRevueを取り入れるだけで、Twitterは自社の優位性を活用してメルマガ市場のシェアを一気に増やすことができる。しかもこれはTwitter CEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)が過去に検討していたサブスクのよるマネタイズと合致している。コストは多少かかるが、将来的にTwitterが1つのサブスクで全Revueメルマガコンテンツにアクセスできる仕組みが考えられる(Netflix的なサービス)。Netflixとの違いはメルマガ配信サービスだと常にコンテンツ制作が必要なので、どういうコストストラクチャーを構成するかが気になる。これはまた別途記事にて書くかもしれない。

結果としてRevueなどと連携すると、新しいTwitterのマネタイズチャンスが生まれる。

画像クレジット:Creator Economy Substack

メルマガから第三者メディアのインフラ化

TwitterはRevueから始め、メルマガ市場に上手く入り込めば次の展開、より大きい展開が見えてくる。それはSpacesと同じように、第三者に同じインフラを提供すること。たとえば米国だとNew York TimesやWashington Post、日本だと日経などと連携して、各メディアで登録する際にTwitterでログインできるようにする。すでにTwitterアカウントを持っていてメルマガ課金していれば、そのまま自動決済できるし、今後Twitter上でおもしろいNew York Times記事を見ても、Twitterアカウントから見ているので別途ログインしなくていいようになる。場合によっては、Twitterはアプリ内で記事を読めるようにするかもしれない。

さらに考えられるのはメルマガと一緒に、いろいろなメディアのサブスクをすべてバンドル化すること。実際にそれがどういういで上手くいくかはまだ考え中だが、どのプラットフォームよりもTwitterにはこれができるチャンスがある。それはTwitterが今すでに情報フローのハブになっていて、どのメディア媒体よりもユーザーがいるからだ。

競合プラットフォームと縁を切る

お互いのコンテンツを見にくくするのは大手SNS企業の間では普通のことだ。今ではInstagram、Facebook、TikTokなどのURLをツイートしても、OGPや画像が反映されない。

上記スクリーンショットのように、New York Timesの記事はOGP(画像)は見えるが、TikTokだと見えないケースもあったり、YouTubeもURLをクリックしないと動画が見れない。

この3つの投稿を見てわかるように、Twitterがどのようにコンテンツを表示するかによって、よりクリックしたくなる・しなくなるかが変わる。今後はSubstackやClubhouseのOGPを一切表示せず、ただURLが表記されるようになる可能性もある。そしてそれ以上に、両者に対して重要なTwitter連携を切ることも可能だ。

Clubhouseの場合はTwitter IDを使ってログインすることができ、恐らく裏にあるフォロワーのオススメのロジックの一部に、Twitterのフォロワー数や誰をフォローしているかを考慮している。それ以上に、ClubhouseはTwitterを使って今後行われるトークを事前告知を簡単にできるようにしている。その事前告知が見にくくなると、Clubhouseへのトラフィックが減る可能性がある。

Twitterが連携を切ると一番困るのはSubstack。今は恐らくほとんどのSubstackコンテンツのディスカバリーがTwitter上で行われている。TwitterはSubstack記事をツイートする際にOGPを見にくくしてトラフィックを下げることもできるし、Substackの重要なユーザー獲得ツールのTwitterでフォローしている人たちがSubstackを使っているかをチェックするツールも止めることができる。そうするとSubstackがすでにあるディスカバリーの弱点がさらに深まり、Revueへ移行するユーザーが増えるかもしれない。

Twitterは過去に連携を止めたことがある。最も有名な事例はMeerkat。2015年2月にローンチしたMeerkatはTwitterフォロワーに簡単にライブ動画配信ができるサービスで、アプリリリース後に人気が急増した。Meerkatがローンチしたすぐ後に人気テックカンファレンスのSXSWで大絶賛され、すぐに50万ユーザーを達成した。過去にはTwitterなどがSXSWをきっかけとして爆発的に伸びた経歴もあったので、Meerkatはかなり期待されていた。期待値が高まる中、Meerkat CEOのBen Rubin(ベン・ルビン)さんがある土曜日にTwitter社から電話がかかってきて、Meerkatが使っていたTwitterのソーシャルグラフへのアクセスを取り消すと言われた(取り消す2時間前に電話があったとベンさんは語る)。

TwitterがMeerkatとの関係性を切った理由は明確。Meerkのローンチ直前にTwitterはMeerkatの競合サービスのPeriscopeを1億ドル(約105億円)ほどで買収していた。関係性を切って、Periscopeがローンチした際にTwitter上でのMeerkatとPeriscopeへの配信URL数を見ると、差が出たのがわかる。

画像クレジット:Marketing Land

Meerkatは200万ユーザーまで辿り着けたが、TwitterやFacebookがライブ配信へ展開をすると理解し、最終的にHousePartyへピボットした。

もちろん同じようなことをTwitterがやるとは限らないが、RevueとTwitter Spacesを持っている以上、SubstackとClubhouseは正式に競合となった。そして両者、特にSubstackはTwitterが非常に重要なパートナーであるため、多大なリスクを持つこととなる。

Twitterは自社が持つ優位性のディスカバリーをRevueやSpacesを通して次なるプラットフォーム展開がこれで可能になる。

すべてのサービスが統一される、ディスカバリーからエンゲージメントプラットフォーム

Twitterはすばらしいプラットフォームでありながら、最ももったいないSNSでもある。Twitterは現在ほとんどのオンラインコンテンツ(特にテキストコンテンツ)の最高のディスカバリープラットフォームとなっている。

画像クレジット:Digital Native Substack

コンテンツのユーザー獲得するのに最も優れたプラットフォームであるTwitterはかなりの価値を各メディアに提供しているが、自社のマネタイズには繋げられていない。

たとえばSubstack上でライターが記事を書けば、以下が1つのコンテンツに対して各ステークホルダーが提供する価値となる。

  • ライター:記事 / コンテンツを作る
  • Substack:簡単にコンテンツを作れるプラットフォーム
  • Twitter:ユーザー獲得と拡散するプラットフォーム

逆に、各ステークホルダーがもらう価値(お金)は以下となる。

  • ライター:新規登録者でマネタイズできる
  • Substack:新規登録者が課金すると10%もらえる。コンテンツ拡散によって新規ライターが登録するかもしれない
  • Twitter:ほぼマネタイズできていない

簡単に表現すると、このようになる。

画像クレジット:Not Boring Substack

もちろんコンテンツがツイートとして拡散すれば、Twitterは多少広告収入をもらえる。ただ、Substackなど記事のツイートの場合、そのURLをクリックしたらSubstackページに飛ぶので、結局数秒しかTwitterへエンゲージしてないため、ほとんど広告収益になっていない。

上記はSubstackの事例だが、これはYouTube、note、Medium、メディア媒体、Spotify、ポッドキャストなど、どのコンテンツでも同じ。Twitter上で拡散して新規ユーザーを獲得して、Twitterからユーザーを自社サイトやアプリや誘導させるのが今の現状だ。そしてそれに対してTwitterは一切税金を取っていない。

この問題を解決するために、Twitterはエンゲージメントを高めることにフォーカスして、マネタイズオプションを増やす方向性が自然な流れとなる。

Twitterのエンゲージメントへのフォーカス

実はTwitterのMAUはここ数年フラットになっているが、DAUが伸びている。まずMAUは2017年から3億2000~3億5000ユーザーのままで増えていない。

画像クレジット:Statista

ただ、DAUを見ると、2017年では1億900万人だったのが、2020年9月時点では1億8700万人まで伸びている。

画像クレジット:Business of Apps

TwitterとしてはMAUの成長もほしいところだが、売上向上のためにはDAUの成長の方がやりやすいと考えているはず。その第1ステップは、Twitterでコンテンツを見つけるのだけではなく、Twitter内でコンテンツ消費するプラットフォームになること。

ディスカバリーからエンゲージメントを増やすには、Twitterが自社でコンテンツ制作能力を持ち、その制作と消費がアプリ内で可能にするのがベスト。そう考えると、これからのTwitterの流れは以下のようになる気がする。

同期音声 + メルマガ + ポッドキャスト + ??? ➡ コミュニティのコンテンツ展開

今はSpacesとRevueと連携して、Twitter内でリアルタイム性の音声会話とロングフォームテキストを消費できるようにする。後にそこにポッドキャストと、後ほど話す新しいコンテンツが加わり、ツイートから外部コンテンツへ誘導させてたのをプラットフォーム内にキープする事が可能になる。そして、プラットフォーム内にいれば、コンテンツからツイートや他のコンテンツフォーマットへ誘導させることができる。たとえばTwitterに訪れるユーザーはバズっているメルマガ記事がバズっているのを見て、その記事をTwitter内で読む。その記事を読んでいる間、自分がフォローしている他のTwitterユーザーがこの記事についてSpacesでディスカッションしているのを見て、そこに参加する。そして参加している間に、その中で共有されるコンテンツ(ツイート、ゲーム、動画など)を消費して、さらに次の記事、友達、ツイートを消費するようになる。Twitterが元々ディスカバリープラットフォームであるからこそ、エンゲージメントできる機能を追加できると本当に強くなる。

実際に、Revueを買収した際に、Twitterはライターがオーディエンスと簡単に繋がれるように、Twitter上でライターが登録者と会話できるようにしたいと言っている。これはSpacesとRevueが連携する想定はできる。

ただ、今の流れで1つ足りてないところがある。それは非同期なかたちでクリエイターがファンと接する場所だ。Twitterが一部その需要を満たしているかもしれないが、機能として少し足りていない気がする。そのため、Off Topicの予想としては、2021年中にTwitterはどこかのコミュニティツールを買収すると考えている(Geneva、Circleなど)。

今後Spacesの会話を一部記録してポッドキャスト化したり、過去の記事やコンテンツを貯め込む場所が必要になるのと、ファンがお互い非同期でインタラクティブに話し合える場所が必要になる。それを既存のTwitterで解決するのか、それともTwitter内にそれ専用のコミュニティツールを開発・買収するのかはわからないが、少なくともTwitterはただのディストリビューションプラットフォームとして終わらない可能性が日々高くなっている。

サブスクコンテンツを第三者にオープンにしてマネタイズ戦略を拡大

Twitterの可能性は第三者を巻き込むとさらに大きくなる。しかもこの巻き込み方はいろいろなレベルがあるので、Twitterサブスクですべてのメディアやメルマガ登録ができなくても、各社のサブスクインフラとしてTwitterが入り込むだけでもTwitterとしては価値があるはず。最近だとForbesが自社の記者に対して給料を払いながら独立して課金型のメルマガを試せる試作を作っている中、それと似たような精度をTwitterはどのメディア企業とも作ることができる。さらに、TikTokやSnapchatのようなクリエイターファンドみたいなものを作れば、そこから給料分の支払いなどを行って、メディア企業の負担を削減することも可能となる。

そんな中、Twitterにはもう1つ新しい拡大戦略を取れると思っている。それは非同期型のショートフォーム音声領域だ。

Twitterが非同期型のショートフォーム音声領域に入るべき理由

どのフォーマットもロングフォームから始まって、ショートフォームへシフトしていった。動画だと映画・テレビ・NetflixからYouTube・Meme・TikTokなどへ流れ、テキストだと大手メディア・新聞・メルマガ・フォーラムからTwitter・SMS・チャットへ変わってきた。音声の場合はポッドキャスト・音楽(Spotify)、そして最近だとClubhouseが入ってきて、音声メッセージ(WeChat)や音声Meme(TikTok)のシフトが行われている。ただ、その中でまだショートフォームへシフトしてないコンテンツフォーマットは、パブリックな非同期型のショートフォーム音声。いわゆる音声メッセージのSNS・UGCプラットフォームだ。

元々Anchorは音声版のTwitterとしてローンチしたが、結果としてポッドキャスト制作ツールへとピボットした。音声メッセージが流行っている中、なぜ非同期の音声SNSが流行らないのだろうか?非常に興味深い領域で、今後もしかしたら新しいSNSが入り込める市場かもしれない。


この領域に。Twitterが入り込めると思われる。完全UGCプラットフォームにはならないが、上手くユーザーのコンテンツを非同期型のショートフォーム音声に変換して、新しいディスカバリー機能を作れるのではないだろうか。

まず、Twitterがこの記事で話したことを諸々エクセキューションしている前提で話すと、Twitterはディストリビューションからエンゲージメントプラットフォームへ進化していて、そこでいろいろなコンテンツへアクセスできるようになっている。そうすると、Twitterはツイート、メルマガ、Twitter Spacesコンテンツなどを音声化することが可能になる。

Twitterが最初に音声ツイート機能をローンチした時から個人的に気になっていたUIは、Twitterアプリの下にコントロールUIが出るため、Twitterをスクロールしながら音声コンテンツを聴けるようになっている。これは一部本来のTwitterフィードの広告を表示させてマネタイズすることでもあるが、同時にTwitterがどこかのタイミングでロングフォーム音声(ポッドキャストやバックグランド音声)を検討していると予想できる。

いろいろなコンテンツを音声化して、その中で最もエンゲージされそうな部分を切り取って編集ができれば、かなりおもしろいコンテンツ制作ができる。それができるとTwitterではツイート、Spaces、メルマガ制作だけではなく、それらのコンテンツをリミックスして違うフォーマットでも配信できる、TikTokやVineと近しい新しいコンテンツ制作フォーマットを作れる。

Twitterのコンテンツをすべて音声化 ➡ 自動編集 ➡ ショートフォーム音声の誕生

あまり想像ができないかもしれないので、事例で説明する。たとえばOff Topicが長めのツイートスレッドを出して、それをRevue機能などを通してメルマガの記事化する。その記事自体をTwitter上で将来ワンクリックで音声化もできるようになる。そうすると記事を読むのではなく、他のことをしながら聞くことが可能になる。しかも将来的にはクリエイターが自分の声をTwitter上で登録すると、もしかしたらそのクリエイターの声(もしくはユーザーが選んだ声)でその記事を聞くことができる。

そしてその記事を読んでおもしろいと思った読者はTwitter Spacesでその話をしたり、記事内でおもしろかったテキストをシェアするようになる。これも全部その記事を読んでいる最中に、簡単に作れるようにTwitterは設計できる。

ここからショートフォーム音声が入り込めるチャンス。Twitterは記事のどの部分がおもしろかったのかもしくは記事が一番伝えたいことだったのか、どの部分が最も共有されたのか、そしてTwitter Spacesでこの記事について何の会話が一番盛り上がったのかがわかる。それを1つずつ分けて音声コンテンツにする、もしくはまとめてハイライト音声コンテンツを自動生成できれば、非常におもしろい。Twitterがこれをできるようになると、どのコンテンツ(ツイート、ポッドキャスト、記事など)もより短縮されて配信されるようになるので、ディスカバリーに繋がる。

果たして、Twitterはこんなことができるのか?これを実行するには、Twitterはもう2社を買収する必要がある(もしくは自社で開発する)。1つは書き起こし・音声化ツール、もう1つは自動音声編集ツール。これを解決するソリューションは、実は最近、登場している。

書き起こし・音声化ツールのDescript

まずTwitterは音声の書き起こしや、コンテンツの音声化する必要がある。すでにGoogle HangoutsでもTwitter Spacesでも書き起こしを行っているが、書き起こしと音声化を上手くやっている会社をTwitterが買収すると一気にこの領域で勝てると思っているので、個人的にはTwitterはDescriptという会社を買収するべきだと思っている。

Descriptは音声や動画を簡単に編集できるツールだ。音声・動画ファイルをDescriptにアップロードすると自動的に書き起こされ、書き起こされたテキストを編集すると自動的に動画や音声ファイルも修正される。

英語だと音声で「umm」や「uh」(日本語だと「えっと」や「あー」など)を自動的に取り除いたりできるのと同時に、テキスト入力するだけで自分の声を自動生成して音声の中に入れることができる。実際にプロダクトのデモを見ると、Descriptのすごさがわかる。

TwitterがDescriptのようなサービスを買収すれば、Twitter上に存在するすべての音声データ(ポッドキャストやTwitter Spaces)の書き起こしができると同時に、自動編集で不要な言葉を取り除くことが可能になる。そして、テキストコンテンツ(ツイート、メルマガ、メディアの記事など)をすべて音声化することも可能になる。自分の声を使いたくない場合は、Descriptはすでにストック音声を用意している。

TwitterはこれでポッドキャストやTwitter Spacesを記事化してテキストコンテンツに作り返すことも可能なので、いろいろな可能性が感じられる。

自動音声編集ツールのPodz

コンテンツの書き起こしと音声化を行ったのは良いが、メルマガやロングフォームの記事を音声化するだけだと足りない。結局音声化しているだけだとポッドキャストのサプライを増やしているだけで、音声市場の最も高い課題を解決していない。ポッドキャスト(および音声)業界での1番の課題はディスカバリー、いわゆるコンテンツが見つけにくいことだ。

ポッドキャストの数は増えているのに、未だに解決されないのがディスカバリー、いわゆる良いポッドキャストを見つける方法だ。現在だとSpotifyとAppleのランキングやレコメンド、もしくは口コミでしか新しいポッドキャストと出会えない。実際にポッドキャストのダウンロード実績を見ると、トップ1%のポッドキャストは平均3万5000ダウンロードがあるが、トップ20%のポッドキャストでは各エピソードは平均1000ダウンロードしかない。中央値は124ダウンロードなので、これだと良いポッドキャストを作っても、結果として誰も聞いてくれない。

画像クレジット:Axios

Anchorなどで簡単にポッドキャスト制作ができるようになり、ClubhouseやTwitter Spacesで音声コンテンツが増えるのに、なぜディスカバリー問題が解決されていないのか?1つはコンテンツ消費のコストの高さが原因だ。ポッドキャストや長い音声コンテンツのクオリティレベルを事前にわかる術がない。ダメなポッドキャストを聞くだけで40分も時間を無駄にすると考えると、よりリスクの低いコンテンツフォーマットを選ぶのは当然。NetflixよりTikTokの方が見やすい理由の1つは、ダメなTikTok動画を見てもたったの15秒しか損しないからだ。つまり、1回のセッションで何回も見ることができ、なおかつレコメンドコスト(消費コスト)が低い音声コンテンツを作らなければいけない。

画像クレジット:Screenshot Essay

そこで出てくるのがPodzという会社だ。Descriptと同様に、TwitterはPodzを買収することで、Twitterは非同期型の音声SNS領域へ入り込むことができる。

Podzは機械学習を活用してユーザーの好みに合わせて音声コンテンツの最も良い部分を切り取ってミニコンテンツ化するサービスだ。今はポッドキャストで英語しか対応していないが、かなり制度が高く音声コンテンツの最も伝えたいことを自動的に選出して別コンテンツとして切り出すことができている。

画像クレジット:App Store

これを実現するためには、Podzは音声編集チームを作って、いろいろなフリーランスの記者を雇い5000以上のソースから10万時間分のポッドキャストコンテンツを切り取って、それを機械学習用のデータサンプルとして使った。しかもPodzのチームは過去SNS領域や検索エンジンを開発していた人たちなので、かなり特殊なアルゴリズムになっているはず。

TwitterがPodzを買収すると、長文テキストコンテンツをDescriptを音声化させるだけではなく、そのコンテンツの最もおもしろい部分をPodzの技術を活用して切り取って、動画や音声コンテンツとして投稿できるようになる。ポッドキャストやTwitter Spacesコンテンツであれば、それをショートフォームの音声コンテンツ、もしくはツイートスレッドにも変換が可能になる。

しかも、Twitter上でRevueとの提携によりメルマガをTwitterアプリ内で見ることができて、さらにその記事のテキストをハイライトするだけでツイートできるようになれば、おもしろい・共有されやすいデータをTwitterがPodzの機械学習のデータセットにインプットできる、非常に相性の良いループが生まれる。さらにTwitter Spacesでの絵文字のリアクションをベースに良いコンテンツを切り取るなど、Podzの精度を上げられるチャンスも出てくる。

これは非同期型のショートフォーム音声SNSとは若干違うかもしれないが、Twitterはロングフォームの音声・テキストコンテンツをショートフォームに変換させることができれば、今までのポッドキャストや音声業界で最も大きな課題だったディスカバリー問題を解決できるかもしれない。

Twitterが作ることができる世界:Before / After

今現在のTwitterはSubstack、Spotify、Clubhouseなどコンテンツプラットフォームのディストリビューションディスカバリーツールでしかない。そうなるとTwitterはプラットフォームとしては重要な立場であるものの、上手くマネタイズができない。さらに、クリエイターと直接繋がることも難しくなる。図にすると以下のようになる。


Twitterの最近のSpacesのプロダクト開発及びBreaker、Ueno、Squad、Revueなどの買収の動きを見ると、コンテンツプラットフォームの領域に入ろうとしている風に見える。コンテンツプラットフォームになると1つのコンテンツを自動的に他のコンテンツフォーマットへ変換したり、各コンテンツフォーマットに応じてマネタイズオプションが増える。そして、何よりもコンテンツクリエイターと直接繋がることができる。

コンテンツクリエイターと繋がるとクリエイターとファンのエンゲージメントプラットフォームを作ることができる。ここではコミュニティ、ビデオメッセージ、クリエイターへの投資など様々な可能性が生まれる。そしてすべてのデータをTwitterはソーシャルグラフ、興味グラフ、そしてトークグラフとして集計して、そのデータを元にクリエイターファンドを通して新・既存クリエイターへ金銭的支援をすることで全体像の循環が加速する。

これを絵にすると以下のようになる。


実際に上記絵のようにTwitterがエクセキューションできれば、どのプラットフォームよりもニュース・情報系コンテンツで強いプラットフォームとなり得る。それだけのポテンシャルをTwitterが持っている。

ただ、問題はTwitterが本当にこのようなビジョンをやり遂げられるか、だ。

Twitterの課題はTwitter自身

Twitterのポテンシャルに気づいているのはOff Topicだけではない。多くの人はTwitterはもったいないプラットフォームだと語っている。そしてTwitterも今までPeriscopeやVineなどかなりおもしろい買収を行っているが、それを上手く導入ができていない。そのため、15年前に開発したタイムラインからほとんど変わっていない。そもそも今のDM機能も本来はFacebook Messenger、WhatsApp、Snapchat、Signalと競合するべきものだったのが、ほぼ使われない機能となっている。Twitterは未だに興味グラフをTikTokみたいな使い方で行っていない(興味ベースでコンテンツのレコメンド)。

この課題はTwitter社内の政治、プライオリティ付け、そしてクリエイターとの関係性などが原因かもしれない。そもそも2014年から2018年の間でTwitterのHead of Productは6回変わった。プロダクトの方向性を決める人がそれだけ変わると、会社としてどう動くかがわからなくなる。そしてVineの買収で証明したのは、当時のTwitterはクリエイターのことをそこまで気にしていなかったこと。これはTikTokが人気になるまでは他のプラットフォームも同じだったので、今は変わっていると願うしかない。

これらを解決するにはTwitter社内がビジョンを統一して、長期目線を持って、クリエイターファーストで動く必要がある。Clubhouseも自社のマネタイズよりクリエイターのマネタイズにプライオリティをつけると同じように、Twitterもコンテンツプラットフォーム領域へ入る際にはクリエイターを軸としてすべてのアクションを取らなければいけない。とりあえずRevueの買収はその方向性に今向かっているように見える。元々Revueが6%の手数料をライターからとっていたのを、Twitter買収によりそれを5%に下げている。

TwitterはVineでできなかったクリエイターを今後の戦略の中心としておけば、もしかしたら今まで見えてこなかった成長と進化が待ち構えているかもしれない。今までの優位性であるディストリビューションの力を持ちながら、ニュース・情報系のクリエイターがマネタイズしてファンとエンゲージメントができるプラットフォームになり、Twitterは裏ではソーシャル、興味、トークグラフを描き合わせてクリエイターエコノミーへ投資しながら新しいプロダクト開発を行う、TikTok・FBと並ぶようなプラットフォームになる可能性を秘めている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Twitterコラム音声ソーシャルネットワーク

(文:Tetsuro / @tmiyatake1、翻訳:Miki / @mikikusano

ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

ミネソタ州ミネアポリス市警察は、2020年に同署の警察官がGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏を死亡させた後に暴動を誘発した暴徒らのアカウント情報提出をGoogleに要求する捜査令状を取得した。

2020年5月に白人警察官に殺された黒人男性フロイド氏の死は、市内全域の何千人もの人々による平和的抗議行動を呼び起こした。しかし、すぐに暴動が沸き起こり、警察が暴動のきっかけだとしている傘をさしたガスマスク姿の男がミネアポリス市南部の自動車部品店舗の窓ガラスを破壊する動画が広がった。そのAutoZone店舗は、翌日以降に市内で起きた数十軒の放火事件の最初の被害者だった。

関連記事:テック業界はジョージ・フロイドの死をどう受け止めたのか

この捜査令状によってGoogle(グーグル)は、フロイド氏死亡から2日後の5月27日に暴動が起きた時、同AutoZone店舗の「地理的地域内」にいたすべての人物のアカウントデータを警察に提出することを強制される。

この「geofence warrants(ジオフェンス令状)」あるいは「reverse-location warrants(逆ロケーション捜査令状)」などと呼ばれる捜査令状は、しばしばGoogleに対して発行されるが、主としてそれは、検索・広告の巨人が「位置情報履歴」をオンにしているアカウント保有者数十億人の位置情報を取得・保存している巨大データベースを持っているからだ。ジオフェンス令状によって警察は、犯行現場にデジタル捜査網を敷き、ある地理的地域に特定時間に侵入した人物の記録をテック企業から入手できる。しかし、こうした令状は罪のない通行人のアカウント情報も収集するため違憲であると批判する人たちもいる。

TechCrunchはこの令状の存在を、ミネアポリス市住民のSaid Abdullahi(サイード・アブドラヒ)氏から聞いた。同氏はGoogleから、彼のアカウント情報が捜査令状の対象であり、警察に提出される旨のメールを受け取った。

しかしアブドラヒ氏は、自分は暴動には関与しておらず、AutoZone店舗で暴動が起きた時に抗議行動のビデオを撮っていただけだと語った。

令状によると、警察がGoogleに要求したのは、5月27日午後5時20分から5時40分(中部標準時)の間にAutoZone店舗および同店駐車場の近くに存在した携帯電話あるいはデバイスの「匿名化された」アカウントデータであり、当時その場所には数十人が集まっていた。

ミネアポリス警察署の広報担当者であるJohn Elder(ジョン・エルダー)氏は本誌の取材に対し、現在捜査中であり、令状に関する個別の質問には、令状が発行された理由を含めて答えられないと語った。

警察の宣誓供述書によると、抗議行動はそれまで比較的平和的だったが、5月27日午後に傘をもったマスク男がAutoZone店舗の窓を割り始めて状況が変わった。同店舗はミネアポリス警察管区の通りを隔てた向かい側にあり数百人の抗議行動者が集まっていた、と警察は言っている。抗議行動者がマスク男と直面しているところの動画がいくつか撮影されている。

警察は膨大な人員を投入してその通称「アンブレラマン(傘男)」の特定を急いでいると語り、男が市内全域およ及んだ暴動のきっかけになったと言っている。

「これは、本署管轄区内外で一連の放火と略奪を起こすきっかけとなった火災である」と供述書に書かれている。騒動によって少なくとも2名が死亡した。宣誓供述書を書いたミネアポリス警察捜査官Erika Christensen(エリカ・クリステンセン)氏をインタビューすることはできなかった。

警察はアンブレラマンが「暴力を誘発する」ことのみを目的として「敵対心と緊張の雰囲気」を作り出したと非難している(TechCrunchは、容疑者が起訴されるかどうかわからないと警察が言っているため宣誓供述書へのリンクは掲載していない)。宣誓書は容疑者を、Aryan Cowboysと呼ばれる 白人至上主義集団、および数週間後にイスラム教徒女性が攻撃された事件とも関連づけている。

令状に書かれた時間帯に抗議行動を撮影した複数の動画に、窓ガラス破壊の場面が写っている。当時の別の動画には付近の数百人の人々が写っている。

全米の警察が、容疑者不明の犯罪解決にジオフェンス令状に頼る傾向が高まっている。警察は、犯罪が起きた地理的地域に侵入した潜在容疑者の特定に役立つとして令状の使用を正当化している。令状は通常「匿名情報」を要求するが、警察は特定の被疑者について詳細情報を再度要求できる。

法律で許可されると、Googleはアカウント保有者に対して、警察がそのユーザーのデータへのアクセスを要求していることを伝える。2019年の裁判所提出書類でGoogleは、受け取ったジオフェンス令状の数が2017年から2018年には1500%、2018年から2019年には500%以上増えたと述べているいるが、具体的な件数は明らかにしていない。

Googleは、2019年のある1週間に180件以上のジオフェンス令状を受け取ったと報じられている。Google広報担当者に最近の数字を要求したが、公式コメントを拒んだ。

人権擁護団体は包囲網的令状の使用を批判してきた。米自由人権協会は、ジオフェンス令状は「警察監視の憲法による審査を回避する」と批判した。バージニア州のある地方裁判所はジオフェンス令状を憲法に違反しているとし、データを収集された人物の大部分は捜査中の犯罪と「何ら関係ない」ためだと言った。

2020年に報じられた記事の中には、犯罪との関連は単に近くにいただけという人々の事例が複数あった。

NBC Newsの報道によると、フロリダ州ゲインズビル市のある住民は、彼のアカウント情報が強盗事件を捜査中の警察に渡されるとGoogleから伝えられた。しかしその住民は自身が強盗と関係ないことを証明することに成功し、それは携帯電話のアプリが彼の行動を追跡していたためだった。2019年、Googleはウィスコンシン州ミルウォーキー市で起きた複数の放火事件を捜査していた連邦警察に対し、1500件近くのユーザー情報をジオフェンス令状に応じて提供した。これは過去最大数のアカウントデータ提供だっと考えられている。

しかし立法者たちは抵抗を始めている。2020年ニューヨーク州の立法府は、州全体でジオフェンス令状を禁止する法案を提出し、警察が抗議行動者を標的にする危険性を挙げた。Kelly Armstrong(ケリー・アームストロング)下院議員(共和・ノースダコタ)は2020年に下院司法省委員会の聴聞会でGoogleのCEO Sundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏を厳しく追求した。「警察が一般逮捕状を持ってあらゆる場所であらゆる人々の情報を得られると知ったら、人々は恐怖に襲われるだろう」とアームストロングg氏はいう。
アブドラヒ氏はTechCrunchに、その日同氏は抗議行動のビデオを何本か撮ったこと、また弁護士を雇ってGoogleが彼のアカウント情報をミネアポリス警察に渡すのを防ごうとしていることを話してくれた。

「警察は、あの日あの場所にいた全員を犯人とみなしています」と彼は言った。「誰か1人が犯罪を犯した時、警察はブロック全体の人々を追いかけるべきではありません」。

関連記事:ジャーナリスト36人以上のiPhoneが「ゼロクリック」スパイウェアにハックされていたことが発覚

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Googleミネアポリス警察アメリカジョージ・フロイドコラム

画像クレジット:Stephen Maturen / Getty Images

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Nob Takahashi / facebook

なぜスタートアップは自らを太らせるのか

【著者紹介】本稿は冨田憲二氏による寄稿記事だ。冨田氏は、ランナー向けSNS「runtrip」などを提供するラントリップの取締役。前職ではSmartNews(スマートニュース)のマーケティング、人事を務め、同組織を200名体制まで成長させた。同氏のnoteではスタートアップに関するさまざなコラムを展開している。

ーーー

私が尊敬してやまない経営者の1人にPatagonia(パタゴニア)の創業者であるYvon Chouinard(イヴォン・シュイナード)氏がいる。彼には自らの有名な著書「Let My People Go Surfing(社員をサーフィンに行かせよう)」などがあり、彼を起点としたパタゴニアのユニークな経営哲学に直に触れることができる。その他にも、それほど多くないイヴォンの思想に触れるリソースとして、何度も聴き返すお気に入りのポッドキャストがある。

NPRの「How I Built This」がいかにすばらしいかはここでは割愛するが、約30分のインタビューでイヴォンがつぶやく、シンプルで削ぎ落とされた経営哲学が何度も心に刺さる。そして、聴く度に今、自らが事業で直面している課題に関する、学びがある。

先日久々に聴き返し、改めて学びのあった一節をご紹介しよう。

彼は「成長」には2種類あると前置きした上で以下のように主張している。

One where you grow stronger, and one where you grow fat. You have to look out for growing fat.(一方は力強い成長、もう一方は「肥満」だ。会社が肥満体型にならないよう十分に注意が必要だ)

パタゴニアは公開企業ではなく、100%イヴォンのプライベートな会社として経営されている。急激な成長を目指さず、社会全体・地球環境全体の利益に根ざした意思決定をし、結果として力強い成長を続けている。

先ほどの一節は、彼自身が急激な成長を追い求め、突然のリセッションに家族経営スタイルの社員を解雇した苦しさを猛省した結果の学びとして語られているが、はてと周りを見渡すと「人を増やすことが正義」「組織成長イコール事業成長」という偏った志向やバイアスに踊らされて痛い目を見るスタートアップが多いように思う(自戒の念も込めて)。

もちろん、新たな人的リソースを投入し続けないと組織が成長し続けることはできない。結果、事業も会社も成長できないというのは理解できる考えで、実際正しい部分も多いとは思う。ただ問題なのは、その視点一辺倒だと致命的な組織・会社がつまづきかねないということだ。そんなバイアスを正しい視点に強制するリトマス試験紙として、「Growing fat(太る)」という言い回しが、今回妙にしっくりきたのだ。

太らせずに身体を大きく成長させる

経営や組織は、ときに「筋肉質」などと身体のように例えられることが多々ある。

このような言い回しにおいては「太らせずに健康的に身体を成長させること」が重要だという志向性がある。これは組織を身体として考えれば、異を唱える人は誰もいないだろう。

しかし、一旦猛烈なスタートアップレースに駆り出されると、なぜか定量的に「より多い」ことが正義であるような錯覚に陥ってしまう。売上やユーザー数は当然大いにこしたことはないが、ここでも事業のコアと直結しておらず、リテンションしない一時的な売上増は中長期では無意味だ(キャッシュポジション的に生き残るためのラーメン代稼ぎは別だが)。

また、調達額も組織の頭数も、なぜか多い方が「すげぇ」となってしまう。しかし、当然これは資本政策におけるダイリューションや、人員余剰のリスクを大いに孕んでいる。

にも関わらず、スタートアップレースではこのアクセルをベタ踏みし続ける「定量拡大」のマジックに陥ってしまうのだ。さて、スタートアップのブレーキはどこに行ったのだろうか。

特にエクイティをレバレッジに会社を伸ばそうとすると、ステークホルダーの時間軸で短距離高速レースを強いられるのは避けられない。むしろエクイティを選んだ時点で創業者が自らそのレースへの参加を意思決定したわけなので、言い訳できる隙もないだろう。

ただ、個別の市場環境や内部要因を鑑みて「一辺通りの成長スキーム」をどのスタートアップも適用するべきではないのは明白だ。かつ、オンリーワンのその会社・組織に合わせた、文字通り「太らせない」成長メソッドがあるはずであり、その本質を忘れないように、そして最後は「自らの身体に耳を傾ける」ということを忘れないように、短距離高速レースを勝ち抜いていきたいものだ。当然、自らそのルールに乗ったのであれば、そのルールの元で何としても勝ち抜く気概が何よりも重要だが。

脱メタボなハイカロリー組織へ

基本的にエクイティでレバレッジをかけるスタートアップの航海は、前提として船底に穴が空いているようなものだ。そして、半定期的な(業界では「シリーズ」と称する)外部補給で修理をしながら船を大きくし、船員を増やしながら目的地へ向けて一目散に邁進し続けている。

そんな「スタートアップ航海」において「不健康な増量」がいかにボトルネックなのかということは、言葉を尽くさずとも想像に難くないだろう。時に新型コロナのような致命的な社会経済的後退をともなう大波に襲われれば、船底の浸水速度、つまり船の沈没へのカウントダウンは劇的に加速する。

ただ、こういった「外部環境」の大変化は稀であり、それは当然航海の運命を左右する一撃必殺な危機ではあるものの、「不健康な増量」がリスキーである理由は目に見えない「内部環境」に起因する。

内部環境、つまり組織内部は、基本的に外から見えないほど複雑な生態系であり、人が増えることによるコミュニケーションラインの増大は計り知れない。感覚的には、その複雑さは組織のヘッドカウントの2乗にも3乗にも膨れ上がり、時には組織の負債として積み上がってしまう。

しかし、身体の不調と同じで、暴飲暴食のつけが不具合・病として表面化するにはタイムラグがある。これが本当に厄介だ。

そして、メタボな身体(組織)は「何をやるにもハイカロリー」という問題もある。メタボな身体は、何をやるにも腰が重い。情報共有と意思決定のための会議やコミュニケーションも多い。クイックな意思決定とスピードが命のスタートアップにおいて足枷となってしまうのだ。

そして「重い・遅い」だけならまだ良く、目に見えない進行性の「ガン」が見つかったり、重要な部分が複雑骨折してしまうこともある。その途端、スタートアップの航海は完全にストップし、船底からただ水が溢れかえる事態になりかねないのがスタートアップの常なのだ。

つまり、不健康に太った組織というのは「図体が重い」「機敏に動けない」「スタートアップの強みを活かせない」の三重苦となってしまう。

ゆえに「採用」の重要さが際立つわけだが、これは当然「人員計画通りヘッドカウントを増やし続ける」というオントラックが重要な訳ではない。「そのポジションは本当に必要なのか?」「その人が本当に今必要なのか?」「船員として今背負っていくに値する人材なのか?」。こういったスタートアップの慣性に反する問いを、拡大本能に一瞬だけ蓋をして、自らの身体に問いかけなければならない。

「誰を採用するか」より「誰を採用しないか」のほうが、はるかに大事なのだ。

もっと手前のレイヤーでいえば、トップダウンの人員計画に対してフェアに戦うことができる強い人事やミドルマネジメントも必要だ。さもなくば、「アクセル」だと思っていた採用戦略が「ブレーキ」になりかねない。自らの身体(組織)に耳を傾けて健全な新陳代謝・増量が実現できれば、「ブレーキ」だと思っていたものが実は「アクセル」だったということに気づくだろう。

自戒の意味も込めてここまで述べてきたが、このアクセルコントロールに細心の注意を払いながら、時に大胆に、目線を上げ続けて壮大なる航海を爆進したいものだ。

関連記事:進出から7年半で6775億円投じたインドでアマゾンは多くの問題に直面している

カテゴリー:寄稿
タグ:コラム

進出から7年半で6775億円投じたインドでアマゾンは多くの問題に直面している

2014年にインドを訪れた際、Amazon(アマゾン)のCEOであるJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は派手な発表を行った。同社が業務を開始してまだ1年しか経っていないインドに20億ドル(約2080億円)投資するというものだ。

Amazonの発表は、インドがいかに外国企業に対してオープンになったかを印象付けた。1947年の独立から1991年の自由化までの間、外国大手企業にほぼ門戸を閉ざしてきたインドは自らをゆっくりと世界最大のオープンマーケットへと変身させていた。

2014年にテレビで放映されたインタビューで、ベゾス氏はインドが事業を行うのに簡単な場所ではないとの認識はあったと述べた。しかし同国におけるAmazonの成長は、そうした考えが正確でないことの証しだったと語った。

「障害があるでしょうか。常にあります。どこへ行こうとも、どの国にも規制や規則があります」とベゾス氏は述べた。

それから6年、追加で45億ドル(約4690億円)投資したAmazonは現在、これまでになくインドで障壁にぶつかっているようだ。インドは6億人超のインターネットユーザーを抱える世界第2位のインターネット市場だ。

インドの長年変わっていない法律は、まだインドで黒字化を達成していないAmazon、そして在庫を持たない、あるいは消費者に直接販売する他のeコマース企業を縛ってきた。こうした状況を回避するために企業は在庫を持つ会社として操業しているインド企業との合弁会社という迷路を通じて事業を展開してきた。

インド政府は2018年後半にそうした抜け穴を塞ぐ動きに出た。当時、インド国内ではAmazonに対するそれまでで最大の反対運動があちこちで見られた。AmazonやWalmart(ウォルマート)傘下のFlipkart(フリップカート)は急いで数十万ものアイテムを店舗のリストから除外し、関連会社への投資をより非直接的なものにした。

そしてインドは現在、アプローチをさらに厳しいものにしようとしている。ロイターは先週、関連会社が親会社を通じてセラーの非間接出資を持つことすら禁じる対策に変更を加えることをインド政府が検討していると報じた

8000万の事業者を代表しているとうたうインドの商業団体である全インド商業連合は、インドの商務大臣Piyush Goyal(ピユシュ・ゴヤル)氏が現在のルールの違反疑いについての懸念をすぐに解決すべく取り組んでいると同連合に保証したとロイターに語った

来るべき政策変更は、世界最大のeコマース会社がインドで抱える多くの頭痛の種の1つにすぎない。

インドの実在店舗小売事業者はAmazonがインドで不平等な慣行を採用していると長らく懸念を示してきた。2020年のベゾス氏インド訪問中に小売事業者たちは抗議を展開した(画像クレジット:SAJJAD HUSSAIN/AFP via Getty Images)

Amazonは同社と仲違いしているパートナーであるFuture Group(フューチャーグループ)とReliance Retail(リライアンスリテイル)の提携を阻止しようと果敢に戦っている。Future GroupとReliance Retailはインド第1位と第2位の小売業者だ。

2020年、Future Groupは小売、卸売、ロジスティック、倉庫業をReliance Retailに34億ドル(約3550億円)で売却すると発表した。2019年にFuture Group傘下の非上場企業の1社の株式を購入したAmazonは、Future Groupが契約を破り、インサイダー取引を行ったと主張している。

過去10年にテック大企業や投資家がインドにeコマースマーケットを創り出すために200億ドル(約2兆800億円)超を投じてきたにもかかわらず、オンライン小売がインドの小売全体に占める割合はまだ1桁だ。

近年、Amazon、Walmartそして数多くのスタートアップがこの事実を受け入れ、インド全国に点在する何万もの街角の小売店との協業を模索している。

インド最大の企業の1つ、Mukesh Ambani(ムケシュ・アンバニ氏)のReliance Industriesの子会社であるReliance Retailと通信大企業Jio Platformsはeコマースに参入し、2020年にFacebook(フェイスブック)やGoogle(グーグル)といった世界の大企業から出資を受けた。Future Groupへの大きな投資を追求することはAmazonがインドでの成長を加速させることができる方法の1つだ。

インド企業同士の取引を覆そうとする試みにおいて、これまでのところAmazonの旗色は芳しくない。2020年、Amazonは取引を阻止しようと、インドの独占禁止監視機関であるインド競争委員会(CCI)とインド証券取引委員会(SEBI)に判断を求めた。どちらの組織もFuture GroupとReliance Retailの取引を認めると裁定した

Amazonはこの結果を予見していたに違いない。というのも、法的手続きをシンガポールの仲裁裁判所で開始したからだ。同社がインド国外で法的手段を取ることを選んだのは驚くことではない。

シンガポール国際仲裁裁判所(SIAC)に持ち込まれるケースのほとんどは近年インドからのものだ。同裁判所で扱われているケースで有名なものとしては、インドに200億ドル超を投資し、そして何十億ドルもの納税を同国に求められたVodafone(ボーダフォン)がある。インドで敗訴した後、同社は2020年にシンガポールの仲裁裁判所で勝訴した。

Amazonは1月25日、デリー高等裁判所に請願を出した。請願の中で同社はSIACの裁定の執行(SIACは2020年、取引は一時停止されるべきと命じた)と、インド企業がCCIとSEBIの判断に基づいて取引を進めるのを防ぐことを求めている。

Amazonは、Future Groupが「故意に悪意を持って」SIACの国際仲裁の裁定に従わなかった、と主張している。請願の中でAmazonはFuture Groupの創業者で会長のKishore Biyani(キショール・ビヤニ)氏の拘束も求めている。

「自国のために声を上げる」

2020年、インドが新型コロナウイルス(COVID-19)の封じ込めに格闘していたとき、インドのNarendra Modi(ナレンドラ・モディ)首相は国民13億人にインドが「自立」して「声を発する」ことができるようにしようと呼びかけた。

内向きへの進路変更は、2014年に首相に就任してからの数年で約束したものとは対照的だ。かつてモディ首相はこれまでよりも外国企業を受け入れるようにすると約束した。近年、インドは米国企業を弱らせる規制を提案したり施行したりしたが、Amazonほどに苦しんでいる企業は他にない。

2020年にインド政府は同国で提供されるデジタルサービスの外国企業の請求書に2%の税金を課した。米通商代表部(USTR)は2021年1月初め、インドが「世界中で導入されている他のデジタルサービス税の対象ではない」デジタルサービスの数々の部門に税を課している、と述べた。

インドでの米国企業に対する税金の総額は年3000万ドル(約31億円)を超えるかもしれないことがUSTRの調査で明らかになった。結局、インドのデジタル税は国際税の原則と一貫性がなく、不合理で、米国の商業を苦しめたり制限したりするものだった。

モディ首相のインドにとっての新しい生き方は、Reliance Industriesの会長でモディ首相の仲間、そしてインドで最も裕福なアンバニ氏の耳に心地よいものとなるだろう。

200億ドル超のJio Platformsの株式、60億ドル(約6250億円)超のReliance Retailの株式を多くの海外投資家に売る前、アンバニ氏は2019年にかの有名なスピーチを行い、愛国的な言葉でインド人のデータを守る必要性を主張した。

「我々はデータの植民地化に対して、共同で新たな運動を立ち上げなければなりません。このデータ駆動型の革命でインドが成功するには、インド人のデータの所有をインドに移行させる必要があります。インド人の富をあらゆるインド人の手に戻すのです」とアンバニ氏は述べた。

なぜそんなにも多くの海外企業がReliance傘下の企業に投資したのかは、いまだに大きな疑問だ。米国企業のシニアエグゼクティブは匿名を条件に、4億1000万人超の契約者を抱えるインド最大の通信ネットワークであるJio PlatformsとReliance Retailへの投資はインドにとって既視体験であり、数十年前、インドで事業を展開する方法の1つが、政治的に大きな影響力を持つ地元企業との提携だった、とTechCrunchに語った。

Google(グーグル)の元ポリシー担当役員で現在は非営利のデジタル支援団体Access Nowで働くRaman Chima(ラマン・チマ)氏は一連のツイートの中で、Googleが2011〜2012年に「インド政治のリスクについて調べる」のにRelianceのような企業と提携し、投資することを検討していたと主張した。

この考えはGoogleの価値についての懸念を呼び起こした、と同氏は述べた。「その議論に加わっていた複数のエグゼクティブがRelianceの評判、特に政策に関わる公務員や政治家への影響力に対する問題のあるアプローチ、金、政府とビジネスの関係における倫理について懸念を示しました」。

Amazonは2020年にReliance Retailの数十億ドル(数千億円)もの株式の取得に興味があったと噂されたが、両社は互いに関わることを止めたようだ。

インド人民党(BJP)の議員Ram Kadam(ラム・カダム)氏と同党を支持する労働者によるバンドラクアラ警察署の外でのAmazon PrimeウェブシリーズTandavに対する抗議、2021年1月18日、インド・ムンバイ(写真:Pratik Chorge/Hindustan Times via Getty Images)

Amazonがこうした問題を整理している中で、先週、別の問題が持ち上がった。Amazon Prime Video向けミニシリーズのインドの制作会社とその上級役員が刑事訴追の恐れにさらされている。モディ首相が率いる党が、その番組がインドで大多数を占めるヒンドゥー教徒に不快感を与えるものだと判断した。

ヒンドゥー教の愛国主義者グループ、インド人民党の政治家、インドの下層カーストを代表するBJPグループのメンバーはミニシリーズ「Tandav」の9パートとAmazonを相手取って警察署に被害届を出した。同社は圧力に屈し、いくつかのシーンに手を加えた。

「『Tandav』に対する苦情の真の理由は、番組が不快なほどにインド社会やモディ氏の政権による問題を映し出しているからだろう。オープニングエピソードで番組は抗議する学生や不満を持った農民を取り上げ、ここ数カ月の出来事を映し出していた」とニューヨークタイムズ紙は書いている

Amazonの別の番組「Mirzapur(ミルザープル 〜抗争の街〜)」もまた信心や地域的な感情を傷つけ、町の名誉を毀損したとして先週、刑事告訴された。インド最高裁判所は「Mirzapur」の制作会社に通知を出し、回答を求めた。

前述のインタビューの中でベゾス氏は、Amazonの仕事は遵守が求められる各国独自のすべての規則に従い、「そうした規則に事業慣行を適合させる」ことだと語った。

インドで同社は、一体どれくらい事業慣行を進んで適合させようとしているのか尋ねられることが増えている。人々が気にかけるAmazonでなくなるのに、一体どれくらい事業慣行を進んで曲げるのだろうか。

関連記事
Amazonがインドのスモールビジネスのデジタル化促進のため約1100億円を投資
インド最大の小売Reliance Retailが2番手Future Groupの事業を3580億円で買収
インドのeコマースベンチャーJioMartが国内200市町村でサービス開始
インド独禁監視当局がGoogleによるJio Platformsへの4740億円出資を承認
Amazonに大打撃を与えるインドRelianceによるFutureの資産買収を同国証券取引所が承認
米通商代表部がインド、イタリア、トルコのデジタルサービス税を批判、ただし現時点で具体的な措置の計画なし
サウジアラビア政府系ファンドがインド最大の小売Reliance Retailに約1340億円出資

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Amazonインドコラム

画像クレジット:Indranil Aditya / NurPhoto / Getty Images (Image has been modified)

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

テック業界でのダイバーシティの向上には妥協点を見出すアプローチが必要

著者紹介:

Michelle Ferguson(ミッチェル・ファーガソン)氏はDream Corps(ドリームコープス)の国民共同体関係担当ディレクター。

Kasheef Wyzard(カシーフ・ウィザード)氏は、Dream Corps TECHの全国プログラミングイニシアチブ担当ディレクター。 

ーーー

パンデミックが再び米国を襲っている。昨年の状況から判断すれば、今回も全国的に大きな被害をもたらすだろう。とりわけ、有色人種コミュニティが受ける被害は今回も甚大なものになるだろう。

有色人種の感染者と死者は白人を上回り、有色人種が運営するビジネスとその従業員が受ける経済的打撃も白人経営企業に比べて大きなものになるだろう。

しかし、良いニュースもある。妥協点と具体的な解決策を見出そうとする動きもここへきて加速している。つまり、現在の泥沼的状況から脱する道筋が見えてきたのだ。

現状を見てみよう。パンデミックが長引くほど、現在の傾向に拍車がかかるだろう。新型コロナウイルス感染症が拡大する前から、オートメーションと先進のコンピューター技術は我々の働き方を変え、暮らしを弱体化させていた。2030年までには、テクノロジーとオートメーションは現存する何十万という仕事を絶滅の危機に追い込むだろう。

有色人種たちの場合、状況はもっと厳しい。オートメーションの対象となる職種では有色人種の割合が高いため、McKinsey(マッケンジー)の調査によると、アフリカ系アメリカ人の23.1%、ヒスパニック系アメリカ人の25.1%が、今後10年で自分たちの仕事が消滅したり大転換を遂げたりするのを目の当たりにすることになるという。パンデミックの前から見通しは暗かったのだ。

こうした変化によって、新しいハイテク系の仕事が生み出されるのだろうか。上記の有色人種たちは未来の経済環境で再教育を受け、新しいツールを習得して、仕事を見つけることができるのだろうか。

実際には、それはかなり難しい。2019年の時点で、オンラインのコーディングブートキャンプ(短期集中プログラマー養成サービス)の平均受講料は1人あたり14623ドル(約151万7501円)と高額だ。ローンや分割払い、所得分配契約(卒業後に一定期間受講料が給与から天引きされる)を利用したとしても、今の仕事が消えてしまう多くの人たちにとって手の届かない額だ。

パンデミックによって状況はさらに悪化している。低所得世帯の約80%が3か月暮らせるだけの貯蓄がなく、米国人の3分の1が今月の支払いにも窮することになるだろう。

良いニュースもなくはない。資金が豊富で高い利益を出している米国の大手企業は多様性のある人材を雇用し維持するのに苦戦している。良いニュースとは、そうした大手企業がそのことを自覚しているという点だ。彼らは、レプリゼンテーションの低い(過小評価された)コミュティに隠れている天才的な人材なくしては競争に勝ち残れないこと、そしてそうした人材の確保が現時点ではうまくいっていないことを認識している。

多くの企業がIT部門の1人の人材の採用活動に平均2万ドル(約207万円)を費やす用意があるが、多様性のあるコミュニティからIT部門の人材を雇用するにはその3倍の費用がかかる。そして採用後も、定着率という大きな問題が待ち受けている。2016年以来、大手テック企業における黒人およびラテン系社員の定着率は7%から5%に低下している。大手テック企業では多様性のある人材の入退社が日常茶飯事となっている。

言い換えると、多くの有能でクリエイティブな人材がハイテク職を求めており、その一方で、革新的な大手企業の多くがそうした人材を雇用し維持することに躍起になっているということだ。

このように相思相愛の状態から妥協点を見出すことができる。その1つのモデルが、今月開催されたドリームコープスのTECH Town Hallだ。TECH Town Hallでは、レプリゼンテーションの低いコミュニティ出身の活動家や教育者が業界のリーダーたちとパネルディスカッションを行う。彼らは互いに、単に質問や意見をぶつけ合うのではなく、双方が直面している問題と双方が協力する方法について話すために集まる。

たとえば、業界と教育界のリーダーが、奨学金とトレーニングプログラムに資金を出して、その後の仕事を保証することもできる。また、このパンデミックで子どもたちが学習の機会を奪われている最中、活動家とCEOたちは世界的なブロードバンドアクセス環境を推進して次世代のプログラマーに成功のチャンスを与えることができる。

企業はレプリゼンテーションの低いコミュニティに眠ったままの人材を採用することで、バイアスのあるアルゴリズムを排除し、多様性のあるグローバルな世界で競争を繰り広げ、パンデミック後に経済が変化する中、人々の暮らしを改善できる。

こうした妥協点を見出すアプローチを進めるには、成功のためにお互いが必要であることを双方が認識する必要がある。このアプローチは、そのほかの難題についても、必要な解決策を生む出すためのモデルになり得る。パンデミックの第二波が襲ってきていると同時に、妥協点を見出すことも緊急の課題となっている。どのように対応するかは我々次第だ。

関連記事:Human Capital:Instacartが約2000人を解雇へ、GitHubの人事責任者が辞任

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラム

[原文へ]

(文:Michelle Ferguson、Kasheef Wyzard 翻訳:Dragonfly)

反クラウド論、プライバシーを保護できていない現在のクラウドアプリ

過去10年間に我々が世界と関わり、対話する方法に大きな変化が見られた。職業別電話帳はすでに細かく説明する必要がある概念であり、そんなことを試みれば我々は年齢を思い知らせることになる。今の世界はスマートフォンとそのアプリの中にある。

我々はGoogle(グーグル)が約束したように「あらゆる情報を指先に」置いた世界のメリットを享受しているが、利便性と引き換えにプライバシーはそのかけらさえ放棄して顧みない。

我々は巨大テクノロジー企業があるときは無謀さで、あるときは計算づくで構築してきた線をまたいでいる。この線はアプリの開発者とアプリストアのさまざまな要求に我々が同意するにつれ、長い時間をかけてできてきた。

個人データを吸い込むブラックホール

SymantecによればAndroidアプリの89%、iOSアプリの39%が個人情報へのアクセスを必要としている。このデータの使用はリスクを孕んでいる。アプリケーションのパフォーマンスを改善させる(フィットネスアプリには各種の個人データが必要だろう)場合もあるが、、広告ターゲティングのためのデモグラフィックデータを得たい場合もある。どちらの場合の我々の個人情報はクラウドサーバーに送られる。

データを得た大企業は、長期にわたって保存されていない、あるいは悪用されていないと主張するだろう。しかしモバイルアプリを使えば、詳細な利用ログが残るのはまぎれもない事実だ。テクノロジー企業はデータが移動中に失われないよう(複数のコピーを)保持している。世界中のサーバーが互いにデータを流し続けるにつれて、我々の個人データはますます遠く離れたサーバーに移っていく。

我々はきちんと規約を読まないまま、アプリの利用条件に同意してしまうのが普通だ。すると私たちのプライベートデータはもはやプライベートではなくなる。データはクラウドの中にあるわけだが、このコンセプトは長年にわたって正確な理解をすりぬけてきた。

まず、クラウドベースのアプリとクラウドコンピューティングの違いを説明する必要がある。企業レベルでのクラウドコンピューティングは、長年に渡って議論が続いたものの、多くの企業にとって安全でコスト効率の高い選択肢であるというのがコンセンサスだ。

2010年の時点でさえMicrosoft(マイクロソフト)は、クラウドベースまたはクラウド関連のプロジェクトに取り組んでいるエンジニアは70%に上り、この数字は1年以内に90%にアップなると予測していた。しかしこれは一般ユーザーが極めて個人的かつプライベートなデータを保存するためにクラウドに頼るようになる前のことだ。

クラウドにかかる雲が混乱を増幅

この問題をさらに複雑にしているのは「プラバシー保護アプリ」だ。こうしたアプリは、その名の通り、スマートフォン上にある他のアプリの活動からプライバシーを保護するためのアプリだということになっている。しかしプライバシーという飾りを剥がしてみれば、プライバシー保護アプリ自体が驚くべきレベルで個人データへのアクセスを要求していることがわかる。「プライバシー保護」という糧語彙リーでなければ、ユーザーは眉をひそめて警戒したに違いない。

秘匿鍵でデータを暗号化する場合を考えてみよう。どんな方式で何段階にもわたって鍵を暗号化したにせよ、最後の鍵、最も重要な鍵は暗号化できない。ここには「Win-Win」のシナリオはない。医師がカルテを読んで病歴以外の個人データを知るのと同様の容易さで、プライバシー保護アプリはユーザーが他のアプリで何を購入したか発見できる。

クラウドは目に見えず、データの提供者である我々が直接アクセスする方法もない。企業は独自のクラウドサーバーを持ち、それぞれが似たようなデータを収集している。しかし我々はなぜこのデータを提供するのかよく考えておかねばならない。見返りに何を得るのか?アプリは生活を楽にしたり、より良いものにしたりするのだろう。しかしこれらは本質的にはサービスだ。クラウド上行われるこのサービス、トランザクションのサービス側こそが問題なのだ。

アプリ開発者は、個人データを保存する必要のないサービス提供の方法を見つけなければならない。これには2つの側面がある。まず第一にユーザーのローカルデバイス内で機能するアルゴリズムを作ることだ。クラウドに吸い上げられ他のデータと混在する方式はリスクが大きい。第二に個人データに関するテクノロジー業界の態度全般を変えねばならない。現在は個人データが無料提供されるサービスのコストを担っている(最終的にはターゲティング広告といった企業マーケティングに利用される)。

個人データの収集と企業マーケティングの統合によって成功してきた既存の巨大データ企業に、この点の変化を求めてもムダだろう。だからこそ、新しい企業のチャレンジに期待する。つまりクラウドにおいてもプライバシーを提供しつつ料金を支払う価値のあるサービスを提供するというチャレンジだ。これにはリスクがあるが、この変化はどうしても必要だ。世の中に無料のものはない。そもそもこの状況に陥ってしまったのは我々が「無料」という看板に釣られてしまったからだともいえる。

プライバシーにかかる雲を吹き払わねばならない

最低限、我々が個人としてできることは、まず健全な警戒心を持つことだ。個人データが世界中に散在するクラウドサーバーへ流れていくことを止めることができないにせよ、不必要に個人データを収集するバカげた構造のアプリの利用を控えることはできる。たとえばゲームアプリは作動するために連絡先へのアクセスを必要とするはずはない。Facebook(フェイスブック)が我々のことを異常によく知っている理由は、カメラアプリをはじめスマートフォン内のほとんどの機能にアクセスできるからだ。銀行口座と連動していれば、Facebookは口座の残高まで知っている。

このデータ収集はアプリとクラウドの双方のレベルで行われる。アプリを使う時の条件をよく考慮する必要がある例の1つだ。アプリにサインインするときに、Facebookのようなソーシャルアカウントを利用すると個人データの収集はいっそう容易なものになる。

クラウドは別に全能の悪魔というわけではないが、個人データの大量収集を可能にするツールであり、また口実としても使われている。

将来はデバイスやアプリが自己完結型となり、ローカルのデバイス内でユーザーが個人情報ををコントロールできるようになる方向に向かうだろう。クラウド上のアプリやデータへのアクセス方法も変化し、サービス提供方法の変更を余儀なくされるような機能が必要となるはずだ。クラウドは公共データストレージ機能に限定される。プライベートデータは本来あるべき場所、つまりユーザーのデバイス上にのみ保存されるのでなければならない。外部に残したデータのプライバシーが失われないよう、我々は一丸となってこの変化を推進しなければなならない。

【Japan編集部】著者のMichael Huth(マイケル・フート)博士はXaynの共同ファウンダーでCTO。インペリアル・カレッジ・ロンドン教授。専門分野はサイバーセキュリティ、暗号化、数学モデリング、機械学習におけるセキュリティとプライバシー。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:プライバシークラウドコンピューティングコラム

画像クレジット:PM Images / Getty Images

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

バイデン新大統領の労働政策とギグワーカーの未来

オバマ-バイデンの選挙戦で事務局長を務め、ホワイトハウスでは主席補佐官代理だった私は今、サンフランシスコに住んでテクノロジー分野の仕事をしている。そんな私がバイデン-ハリス政権に対して、スマートな政策と規制の安定性を導入することで、業界の大きな可能性をさらに引き出す能力を持っていることに期待している。もちろん、彼らの冷静で思慮あるリーダーシップによる、経済の拡大にも大いに期待したい。

新政権は、シリコンバレーが直面している最も重要な問題の多くに新しい展望をもたらす。確かに、イノベーションの経済とオバマ-バイデン政権のコンビは米国に繁栄をもたらしたが、今やテクノロジー分野は米国人の生活のほとんどあらゆる面に関わっている。

その結果として生じている緊張は、新政権が規制者としての役割を真剣に演じるべきだということを意味しており、投資家と企業はともにバイデン大統領の早急でタイムリーな政策執行を見逃してはならない。とりわけそれは、仕事の未来と米国経済の復興に関わっているからだ。

2020年がギグカンパニーにとって豊年だったことには、疑いの余地がない。ライドシェアの利用は大幅に減ったが、料理や食料品などあらゆるものがデリバリーされ、しかもカリフォルニアの州法Proposition 22の勝利により時価総額は跳ね上がり、多くのスタートアップが上場を目指した。ウェストコーストは大喜びしたが、ワシントンは別のことを考えていた。

議会は何カ月も前から、ギグワーカーの身分を法制化するPRO Actと呼ばれる法案を検討してきた。その法案は、カリフォルニアで叩かれた州議会下院の法案California Assembly Bill 5(AB 5)と酷似していたが、内容のほとんどはProposition 22によって否定された。しかしながらそれは、労働者から広く支持され2021年に息を吹き返す可能性もある。労働者側はすでに、さまざまな議会連合からの支持獲得に奔走しており、同時にギグエコノミーの企業は、彼らの豊かな財力でそれと戦う用意を整えている。

残る問題は、バイデン大統領はどうするかだ。かなり前に彼はAB 5の支持を表明し、選挙戦中にも労働者の分類の間違いを解決する計画を披露していたが、彼は政権スタッフに、テクノロジーに明るい人々を任命している。バイデン大統領は、ほとんどのスタートアップ創業者の年齢よりも長く政治と関わり、妥協の図り方をはじめとしたワシントンの力学を熟知している。法案をめぐる論争において、実際に議論されているのが、その法律の施行方法であることを彼はよく知っている。

法案の多くが何千ページもあるが、それでも具体的な規定は乏しい。詳細は省庁の仕事だ。バイデン大統領は米労働省を監督していたが、PRO Actが成立したら、中身をまとめるのは省の担当だ。

バイデン政権が労働省と業界を召集して、企業による労働者保護の制度化を実現する方法を検討しても意外ではない。バイデン大統領が労働長官に指名したボストン市長のMarty Walsh(マーティ・ウォルシュ)氏は、労働者の強力な支援者であると同時に、企業からは協力し合えるし、妥協に到達することも可能な人物として好感を持たれている。

そのような状況になりそうな理由は、州を見ればわかる。ギグカンパニーはすでに6つの州でProposition 22のような作戦を展開しているし、すでに州法が実効化している州も同程度ある。2021年内におよそ3分の1の州で、Proposition 22をモデルとする労働者保護が法制化されるだろう。

このような時代の勢いというものは無視できないし、労働者もそのことを知っている。労働者はPRO Actの支持では一致しているが、州のアクションに対しては曖昧だ。たとえば北東部の州の多くでは何十年も前からブラックカーとタクシーが参観だ。

したがって、たとえばニューヨーク州とニュージャージー州では、ギグの法律における労働者の位置づけがワシントン州やイリノイ州とはまったく異なる。後者の州ではギグワーカーというものが比較的新しくて、ほんの数年前にUberやLyftが支持した規制が書かれたインクもまだ乾いていない。労働者はPRO Actの支持に関しては一致しているが、全国的な運動はなく、妥協の余地を残している。

これはテクノロジー業界にとっては良いニュースだ。ギグエコノミーの原動力である労働者を、規制が最終的に保護することはないだろうと考えるのは夢物語だ。そしてそれは良いことだ。テクノロジー業界には労働者が正しく行動する道義的責任がある。しかしながら、そういう規制が簡単にテクノロジーに課せられることはありえない。むしろ何週間も、何カ月も運動と法案の審議が各州と議会で行われて、最後に交渉と妥協に辿り着くのだ。

あるいは、何年もかかって規制のプロセスが刷新されることもあるだろう。それらの過程のすべてを、新大統領が監督する。彼は自らの全キャリアを通じて、イノベーションが国を成長させ正常化することを目撃したきた人だ。

4年間続いたトランプ氏の頑固な否定主義と呪術的思考と経済的損害の後を継いだバイデン大統領は、革新的なソリューションに向けて協働するために、厳正な政策と公共の精神、そして民間部門の創意工夫を推し進めるだろう。それは困難な仕事で、しかも決してきれいごとにならないだろう。それでも私たちは、米国のテクノロジー主導のダイナミズムという新しい時代の幕開けを期待すべきだ。

【Japan編集部】本稿著者のJim Messina(ジム・メッシーナ)氏は政治と企業経営のアドバイザーで、The Messina GroupのCEOだ。2009年から2011年までBarack Obama(バラク・オバマ)大統領のもとで大統領主席補佐官代理を務め、2012年にオバマ氏が再選された選挙戦ではキャンペーンマネージャーを務めた。

関連記事:Uberが「ギグワーカーは個人事業主」というカリフォルニアの住民立法を世界展開

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ジョー・バイデンギグワーカーギグエコノミーコラム

画像クレジット:Chip Somodevilla/Getty Images

原文へ

(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

初のオールバーチャル開催となったCESについて思うこと

筆者は過去数年、実際の会場で開催されるトレードショーの価値についての疑問を口にすることに、自身が言及したいと思う以上により多くの時間を費やしてきた。多くの人を1カ所に押し込み、ブースからブースへと歩かせるというアイデアは、時代遅れのように思える。もちろん、過去においては重要なニーズを満たしてきた。しかし超コネクトしている世界においてそれらは遺物にすぎないのではないだろうか。

もしトレードショーがなくなるとしたら、それは段階的なプロセスとなり、本屋やレコード店のように(どちらも筆者が心から恋しく思っているものだ)文化的無意味の中にゆっくりと消えていくのではないかと筆者は常々考えていた。実際には、テクノロジーが社会におけるそうしたものの相対的価値を大きく減らした。

Spotify(スポティファイ)とKindle Store (キンドルストア)は、実在店舗にあるような存在感や魅力に欠けるというのはまぎれもない事実である一方で、利便性のために我々はそうしたものを喜んで犠牲にしている。

猛威をふるうパンデミックは、実にあっさりと会場開催のトレードショーなしの1年にした。つまり、我々はトレードショーに関するこの質問に、即時の制御変数以上のものを持っていた。2020年のCESはなんとかギリギリ開催できた。その次の大きな家電見本市であるMobile World Congress(モバイルワールドコングレス)は、かなり気を揉んだ末に結局中止となった。

2020年夏にベルリンで開催されたIFAの運営組織の動きと同様、CTA(CES運営組織)は2021年、規模を縮小しての会場開催を計画していた。しかし2020年7月にはそうした計画を実行できないことは明白だった。率直にいって、米国はウイルス拡大を食い止めるという点できちんと対応しなかった(この記事を執筆している日に、新型コロナによる米国の死者が40万人に達したということに触れないわけにはいかない)。

CES 2021はこの1年ですべてバーチャルで行われた初のテックショーというには程遠いものだったが、その一方でイベントの規模やスコープは比較的ユニークだ。CTAによると、2020年のショーには17万を超える参加者があった。筆者が2020年にバーチャルで参加したテックイベントの多くは1社によるものだった。CESは明らかに完全に異なるタイプのものだった。

業界におけるCTA(CESではない)の役割は、かなり親善的な意味合いが前提となっている。ショーの始まりは1960年代後半に遡る。その後衰退し、何年にもわたって拡大縮小はあるものの(2008年の金融危機のような外的要因の影響も受けた)が、続けられた。こうしたイベントにしばらく関わってきた私たちは、同じくらいの期待と恐れを胸に抱いてショーに臨みがちだ。しかしいつでも企業の参加がある。

CTAの数字によると、2000社近くが2021年のイベントでプロダクトを発表した。この数字は2020年の出展企業4419社よりも少ないが、それは想像できることだ。イベントの不確性に加えて、かなりの数の企業にとって著しく悪い年だった。私は疑問や疑念を持ち続けていた。その中でも主なものは、スタートアップにとっての、こうしたイベントの価値だった。実際に会場で行うという要素がなければ、スタートアップは騒音にかき消されるだけではないのか。

似たようなフィードバックをスタートアップからも聞いた。しかし最終的に700社近くが出展することを選択した。私はTechCrunchで取り上げる目的で最終的にそうしたスタートアップすべてに目を通したために知っている。この目を通すという体験は、ショーの隅々まで歩くのが困難だった年の記憶のようなものを筆者に思い出させた。結局、2021年は違う理由で困難を経験することになった。

究極的には、これは私が最も恋しく思うものだった。筆者にとってCESの最大の魅力は発見という要素だった。Sands ExpoでのスタートアップがひしめくEureka Parkは最高だ。展示者の大半は我々向けではないが、それでも筆者はそれまで見たこともない斬新でイノベーティブなものに刺激を受ける。自分の中に眠るブロガーの本能が目覚め、世界に伝えるためにすぐにノートパソコンの前に戻りたくなる。

2021年はEureka Parkがなかった。バーチャル版すらなかった。ショーのフロアをオンラインで再現させるいい方法はないのだ。少なくとも私は知らない。既知のスタートアップのいくつかは、筆者にプロダクトを郵送してきた。たとえばSensel(センセル)はトラックパッドの新バージョンを用意していた(同社は2021年1月19日にLenovoの最新ThinkPadに新トラックパッドが搭載されると発表した)。しかしスタートアップ全700社が、レビュー用のユニットをクイーンズにある筆者の寝室1つの住まいに送るなど不可能だ。

それにも増して、バーチャルイベントはこの規模でのイベントのテクノロジー面での限界を如実に示した。記者会見は非常にシンプルだった(CTAが展開したいくつかの異なるプラットフォームに私は不満を覚えたが)。多くの場合、記者会見は出展企業にとって長いコマーシャルのようなものだ。もちろん会場での開催の場合もそうだが、我々はショーに飲み込まれてしまう傾向にある。筆者自身の目的に関してはというと、プレスリリースでこれまで以上に効率的に完了させられなかったものはさほど多くなかった。

ニュースリリースの性質は2021年、はるかに曖昧なものだった。より多くの企業が、ショーに先立って大量のニュースを出すことを勝手に自分で判断したようだった。他の企業は独自にいわゆる裏番組を提供した。筆者の安心という視点では、こうしたイベントの最大のメリットの1つは、ニュースの流れのコントロールだ。かなりのニュースが発表された2021年初め、1本の髪の毛を引っ張るような難しい週になるだろうということはわかっていた。

重心に欠ける2021年のCESでは、筆者は整理されていないニュースの流れを目の当たりにすることを予想していた。筆者は過去数年、ハードウェアニュースに関して「低調なシーズンはもはやない」と同僚に話していた。そうした思いは増すばかりのようだ。明らかに物事を均等に広げることに良い面はある。しかし年間を通じたCESに似た一連の小規模イベントの開催に向かっているように感じる。こうした考えに、筆者は恐れを抱いている。

Apple(アップル)に続き、企業がCESのノイズの中から発信するより自社開催のイベントを好んでいるということは近年明らかになっていた。バーチャルイベントはそのアプローチを取り入れる完璧な機会だ。一方、Appleは1つのイベント開催から、これまでよりも小規模のイベントを年末に向けて複数回にわたって開催するスタイルへと移行した。イベントに出席するための国内移動、あるいは海外出張を控えなければならないとき、ニュースとしての価値の基準はかなり下がる。おそらく、何千もの企業が1つのイベントでメディアの関心を争う代わりに、何千ものイベントが開催されるというモデルに我々は向かっている。気が遠くなる。

CTAのフォーマットについて、筆者はかなり具体的な不満があるが、今後埋めることになるかもしれないイベント後アンケートのためにそれはとっておこう。それでも筆者は、バーチャルイベントに価値を見出した。馴染みのない数多くのスタートアップに話を聞くきっかけになった。しかし究極的には、CESのようなイベントには、あらゆる頭痛の種があることを証明するものになったと筆者は考えているが、それでも会場で開催するイベントには多くの価値がある。

CTAならびに似たようなイベントの開催組織が、会場でのイベント開催に戻りたくていら立っていることに疑いの余地はない。ワクチン接種が難航し、想定するタイムラインに大きな疑問符がついているにしてもだ。2020年、2021年を、トレードショー会場開催の終わりの始まりだと考える非常に良いチャンスだ。しかし2020年に我々が目の当たりにした限界のようなものを考えたとき、すぐに会場開催が完全になくなると宣言することはできない。

関連記事
MWCの開催中止が決定、主催者のGSMAが新型コロナウィルスを懸念
エレクトロニクス見本市CESの2021年1月のリアル開催中止、オンライン開催へ
やはり新型コロナウイルスの影響が色濃く出たCES 2021

カテゴリー:その他
タグ:CES 2021コラム

原文へ

(翻訳:Mizoguchi

Facebook Photosの元プロダクトマネージャーが反トラスト訴訟について思うこと

著者紹介:Samuel Odio(サミュエル・オディオ)氏はプロダクトリーダーで、2社を創業した経験を持つ。現在はFivestars(ファイブスターズ)のプロダクト担当副社長。後にFacebook(フェイスブック)に買収されたDivvyshot(ディビーショット)を創業し、TellApart(テルアパート)に買収されたFreshplum(フレッシュプラム)を共同創業した。

ーーー

Facebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)の買収まで、筆者はFacebook Photos(フェイスブックフォト)を担当するプロダクトマネージャーだった。Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏はそれまでに、筆者の前の会社であるDivvyshot(ディビーショット)を買収していた。ディビーショットは最初のiOS向け写真共有アプリの1つだ。筆者はマーク氏と緊密に協力して働いていたので、ソーシャル共有アプリや台頭していたモバイルアプリの将来についてよく話し合った。インスタグラムは一度ならず競合相手として現れた。

48州の検事総長と連邦取引委員会(FTC)がインスタグラム買収の件でフェイスブックを訴えている今、筆者はその件で一家言あるだろうと思われているかもしれない。フェイスブックフォトの元プロダクトマネージャーとして、またフェイスブックに会社を買収された者として、思うところは確かにある。いくつかの点で、筆者はその後のメインディッシュのアペタイザーだった。筆者は、米国の消費者として、FTCの勝利はイノベーションにとって間違いなく災いになるということが分かる。

この反トラスト訴訟の主な問題点は、フェイスブックは競争上の脅威を排除するためにインスタグラムを買収したのかということだ。マークがインスタグラムを脅威と認識していたことを示唆する文書がすでにリークされている。マークと話したときにも、彼がインスタグラムに対してそのように感じていることははっきりと伝わってきた。

筆者はフェイスブックに長くいたわけではない。20代半ばで自信にあふれていた筆者は、当時の会社を離れて別の会社を始めることにした。今になってみれば、退社は唐突で、考えが足りなかった。モバイル版のフォトプロダクトを改良する構想を開始して間もない、難しい状況の中でチームを去った(モバイル改良版が発売されることはなかった)。数か月後、マークはインスタグラムにアプローチし始めた。筆者の突然の退社からちょうど1年後、その取引が正式に成立した。

筆者は、競争を制限する意図を示唆するこうした事例だけでなく、最近の反トラスト訴訟が、競争を繰り広げるスタートアップのエコシステムや消費者全体のためになるとはまったく考えていない。

スタートアップの世界には「第一原理から考える」という格言があるが、この場合それが役に立つ。米国政府が独占を規制する主な理由は、「競争を確保して消費者の利益を図る」ことである。政府は、フェイスブックに対する最近の反トラスト訴訟により、表面上は、スタートアップのエコシステムにおいてフェイスブックの競合相手を保護している。

フェイスブックが違反したとして告訴されている主な法律は2つある。1つはシャーマン法で、独占を維持または獲得することを違法としている。もう1つはクレイトン法であり、さらに一歩踏み込んで、競争を制限する独占的な合併や買収を禁止している。

反トラスト法による告訴(シャーマン法第2条に対する違反。フェイスブックはこの違反で告訴されている)の必須条件は、企業が独占力を使って「生産を低下させたり、価格を上げたり、革新を停滞させたりして、市場が競争的な場合に比べて社会に損害を与えた」ことを証明できることである。また、司法省は、独占が成立する主な要素は、企業が「3分の2を超える市場占有率を長い期間にわたり保持しているかどうか」である、としている。

フェイスブックについて考える前に、勝訴した反トラスト訴訟の例を見てみよう。フェイスブックに対する批判では、米国政府対Microsoft Corp(マイクロソフト・コーポレーション)の件がよく先例として指摘される。この訴訟でマイクロソフトは、WindowsとInternet Explorerの抱き合わせ販売に端を発する独占の理由で告訴された。誤解のないように言っておくと、筆者はこの反トラスト訴訟に賛成である。マイクロソフトは独占力を持っていたからだ。1998年のオペレーティングシステムに関するマイクロソフトの市場占有率を調べれば分かるが、提訴の時点で市場の86パーセントを占めていた。Internet Explorerの市場占有率を人為的に上げるために不条理な抱き合わせ販売をしたことが容易に分かる。明らかに、社会の「生産を低下させ」、「革新を停滞させ」ている(Internet Explorerのことを好意的に懐かしむ人はいないだろう)。

フェイスブックがどんな点で独占力を持っているのか正確に判断することははるかに難しい。たとえば、FTCはインスタグラムを売却させようとしてフェイスブックを訴えている。インスタグラムの収益は主に、プラットフォーム上の広告主から得られる。独占に関するFTCの告訴では、インスタグラムのことが指摘されており、フェイスブックがデジタル広告市場で支配的なシェアを獲得したことが示唆されている。しかし、市場調査会社のEMarketer(イーマーケッター)によれば、この市場における2020年のフェイスブックのシェアは23パーセントである。3分の2の支配からはほど遠い。フェイスブックを独占企業とする訴えは、決して単純明快な訴訟ではない。

ここで、実際のところ誰がこの反トラスト訴訟から利益を得るのか、という疑問について考えてみよう。

それは、フェイスブックに取って代わる次の企業の創業者ではない。FTCが買収を規制すれば、スタートアップ創業の見返りは減少し、リスクは高まる。

シリコンバレーの新しい創業者はすべて、創造的破壊者たることを切望している。しかし、彼らも、彼らの出資者も、「打ち負かせないなら、一緒になれ」という格言の価値を理解している。銀行口座の残高がゼロになって間もなく、2010年にディビーショットをフェイスブックに売却したときに、筆者はそれが事実であることを理解した。

大手企業による高額買収の見込みがなければ、生活を賭ける創業者は減り、ベンチャーキャピタルの資金は縮小するだろう。大手テック企業は、新参のチームを買収するより、その製品をただコピーしようとするだろう。忘れてはいけない。買収されることは、ほとんどのスタートアップや起業家にとって「成功」なのだ(彼らにとって、それ以外に魅力的な成果はないことが多い)。

また、この反トラスト訴訟から利益を得るのは消費者でもない。消費者が利益を得るには、「インスタグラムはフェイスブックなしの方がもっと成功した」または「フェイスブックの行動はほかの競合スタートアップを落胆させた」という点のいずれかを確信している必要がある。

前者はよく議論されてきたが、少々主観的な議論だ。後者については、どのカテゴリーでも、競争が少なくなれば資金や創業者も少なくなる。だが実際には、あらゆる使用事例において、ホーム画面をたくさんのアプリアイコンでいっぱいにしているのは、その競争なのだ。インスタグラムが10億ドル(約1030億円)で買収される結果になったことで、Vine(バイン)、Flipagram(フリッパグラム)、VSCO、さらにはTikTok(ティックトック)のような模倣サービス、競合他社、イノベーターは奮起した。

マーク・ザッカーバーグ氏が自らの買収について述べたように、「この点を見る1つの方法は、我々が実際に買っているのは時間だということだ」。テクノロジーでトップにとどまり続けるのは大変なことである。ネット企業の歴史が何かを示しているとすればそれは、今日はリーダーでも明日はYahoo(ヤフー)になり得るということだ。的を外さないようVRのような新しいカテゴリーの革新的な製品に賭けるようにフェイスブックなどの企業を奮起させているのは、反トラストの脅威ではなく、今の時代の宿命であるそのプレッシャーなのである。

今こそ、新たなプランを立てるべきときが来た。はっきり言うと、我々はここ米国のテクノロジー業界内で競争を育んでいく必要がある。懲罰的な評価ではなく肯定的な成果に焦点を当てた、まったく新しい反トラスト法を探究すべきなのだ。

米国政府は、エコシステムの発展を通して企業による寛容な買収を考慮できるかもしれない。買収を停止するのではなく、買収者が大きな買収額の一定の割合を、恵まれない少数派の立場にいるほかの新しいスタートアップに投資するための要件を考慮するのだ。

これはドラマチックな考えだが、新しい動きが出てきて、イノベーションが圧倒的な勝者として生まれてくるかもしれない。巨大テック企業は、考えが凝り固まった競合相手に対抗しようとするスタートアップに資金を出すことができる。例えば、フェイスブックはこの冒険的な手段を使って、自分たちの領域外にあるFuture of Work(「仕事の未来」)のアイデアに資金を出して、マイクロソフトに対抗するライバルを生み出せるかもしれない。

既存企業からスタートアップへの資金の流れは競争を育むと同時に、既存企業がさらに規模を拡大することを可能にするだろう。忘れてはいけない。どの経済も手放したくないものである、低価格、質の高い生活、研究開発で促進されるイノベーションを我々消費者が享受できるのは、この規模の効果のおかげなのだ。

もっと重要な独占が危うくなっている。シリコンバレーは、世界で最も競争力があって革新的な地域だ。世界中の地域や政府が我々の「秘密のソース」をコピーすることを切望したが、多くの場合、規制や汚職、反資本主義の法律によって阻まれてきた。我々は自分たちがそれらをコピーするときだと本当に考えているのだろうか。

最近まで、その質問は仮想的なものにすぎなかった。イノベーションのリーダーというシリコンバレーの称号が危機にひんしたことはなかった。我々は、地理的な集積、よく機能する資金市場、軽い規制、寛容な移民政策という堀に守られていた(何しろ、シリコンバレーのスタートアップの50パーセントが移民の資金提供を受けているのだ)。我々はその勝利の方程式を強化したくないと本当に考えているのだろうか。

その一方で、中国は経済を自由化してきた。中国のテクノロジーイノベーションの拠点である深センの国内総生産(GDP)は直近の40年間、年平均20.7パーセントで成長し、最近香港を上回った。2020年に世界で最もダウンロードされたアプリケーションとしてティックトックが最近フェイスブックを王座から引きずり降ろしたことは、不吉なしるしだろう。

独裁政権によって支配される外国の企業に個人データを提供したいと思う人はいないだろうが、ほとんどのユーザーは、ソーシャルメディアで次のスクロールをすることの結果を考えていない。結局のところ、我々の中で、隔離期間中にティックトックの動画を楽しむ誘惑に負けない人が誰かいるだろうか。

我々が「独占」と呼ぶものについて、また、最も成功した自国企業をどのように抑制する(または罰する)かという点について、我々は因習にとらわれず分別のある対応をしなければならない。フェイスブックに戦いを仕掛けて勝つかもしれないが、もっと大きな戦いに負けるかもしれない。その戦いに負けたら、次のインスタグラムをシリコンバレーから追い出すことになるかもしれない。

そしてそのことは、いくぶん皮肉なことに、米国政府が反トラスト法で解体しようとしている二つとないテクノロジーの独占事業体は、実は米国自身だということを意味しているのかもしれない。

関連記事:反トラスト法に阻まれてVisaがPlaid買収中止、フィンテック関係者に落胆の声が広がる

カテゴリー:ネットサービス
タグ:反トラスト コラム Facebook

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

FireEyeとSolarWindsがハッキング攻撃を受けた今、フェイルセーフ設計をどのように見直すべきか

著者紹介:職業ハッカーのDavid “Moose” Wolpoff(デビッド「ムース」ウォルポフ)氏は、自動レッドチーム演習プラットフォームを構築している企業、Randori(ランドリ)のCTO兼共同創設者である。

ーーー

セキュリティ業界では、FireEye(ファイアアイ)へのハッキング攻撃のニュースと、SolarWinds(ソーラーウィンズ)へのサプライチェーン攻撃が原因で(または、少なくともそれが一因で)米国財務省、米国国土安全保障省などのいくつかの政府機関がハッキングされたという発表が関心を呼んでいる。

これらの攻撃は、「誰もリスクやハッキングを免れることはできない」という現実を思い出させてくれるものである。ファイアアイもソーラーウィンズもセキュリティに真剣に取り組んでいることは間違いない。しかし、どの企業も「セキュリティ侵害は避けられない」という同じ現実にさらされている。

筆者はこうした攻撃を、「誰かがハッキングされたかどうか」ではなく、「セキュリティ侵害を成功させるために攻撃者がどれほどの労力を費やす必要があったか」という視点で判断することにしている。ファイアアイは機密性の高いツールやアクセスの保護に力を入れているため、ロシアのハッキング集団は侵入するために驚くほどの労力を投入せざるを得ないと聞いたことがある。

ファイアアイがセキュリティに熱心に取り組んでいることは、対策ツールの公開に向けた動きが速かったことからも明白だ。ソーラーウィンズへの攻撃は即座に甚大な影響を及ぼしたが、攻撃全体の詳細がわかるまでは、ソーラーウィンズについての意見を述べるのは差し控えることにする。サプライチェーンを横断する侵害は非常にめずらしいケースとはいえ、これからも続くからだ。

これだけは言っておくが、このニュースは筆者にとって意外なものではない。セキュリティ企業は攻撃者にとって最高の標的であり、ロシアのような国民国家は、ファイアアイの顧客保護能力を阻害するためにどんなことでもやるだろうと思っているからだ。ファイアアイは多くの企業組織と信頼関係を築いていることから、スパイ活動の格好の標的になっている。政府機関や大企業の顧客を数多く抱えているソーラーウィンズは、能力を最大限に発揮することを目指す攻撃者にとっては理想的な標的である。

画像クレジット:David Wolpoff

ロシアのハッキング集団は、ソーラーウィンズを一度ハッキングすれば、同社の重要な顧客の多くにも侵入できるようになる。国民国家の支援を受けた攻撃者がサプライチェーンを攻撃するのはこれが初めてではないし、最後でもないだろう。

セキュリティ業界の大企業にとって、今回の攻撃はテクノロジーソリューションへの信用と信頼について再考する良い機会だ。このような侵害は、目に見えない危険を確かに負っていることへの注意喚起である。つまり、組織は、概して適切なリスク回避策を講じていないプロバイダーを通じて蓄積されたリスクにより、甚大な危害を被る可能性があるということだ。

人は「マネージドセキュリティサービスプロバイダー(MSSP)、セキュリティベンダー、またはテクノロジーベンダーが侵害されたらどうなるだろう」と問うべきだ。ソーラーウィンズのハッキングだけを見ず、自分の環境にアップデートをプッシュできるすべてのベンダーを見直すべきである。

絶対に侵害されないツールなど1つもないのだ。

ファイアアイやソーラーウィンズなど、自社の環境内のすべてのベンダーがいつかは侵害されることを想定しておく必要がある。障害が発生したとき、「残りの対策だけで十分だろうか。組織には回復力があるだろうか」ということを確認しなければならない。

障害が発生した場合のバックアップ計画の内容を、あなたは知っているだろうか。

セキュリティプログラムがファイアアイに大きく依存している(つまりファイアアイが主なセキュリティプラットフォームである)場合、セキュリティプログラムはファイアアイのプログラムの実装、実行、監査をファイアアイ自体に任せることになり、担当者も経営者もそのことを受け入れる必要がある。

多くの場合、組織は、VPN、ファイアウォール、監視ソリューション、ネットワークセグメンテーションデバイスなどの複数の機能をカバーするために、単一のセキュリティソリューションを購入する。しかしその場合、単一障害点を持つことになり、コンピューターが動作しなくなると(またはハッキングされると)、環境全体で障害が発生してしまう。

構造的な観点から見た場合、ソーラーウィンズのようなものが侵入ポイントになると、影響が広範囲に及ばないようにするのは難しい。しかし環境内のすべてのものと通信、連携するソーラーウィンズのOrionプラットフォームを信頼したということはつまり、「今回のような侵害が発生することはないだろう」と考えてリスクを負ったということである。筆者は、ツール(またはサービス)の利用について考えるとき必ず、「これが故障したりハッキングされたりしたときに、どのようにそのことを知り、どう対処すればいいのか」という点について考える。

「保険をかけておけばいい」といった単純な答えが出ることもあるが、筆者がもっと頻繁に考えているのは、防衛者に何らかのシグナルを送るための別の方法だ。今回のようにソーラーウィンズが侵入経路になった場合に、ネットワークがロシアにトラフィックを送信していることを示すシグナルがスタック内の何か他のものによって防衛者に伝えられるようにする仕組みが、何かないだろうか。

耐障害性の高いセキュリティプログラムを構築するのは簡単ではなく、実際、乗り越えるのが非常に難しい課題である。完璧な製品やベンダーがないことは何度も証明されている。制御層を幾重にも重ねる必要がある。「何が起こり得るか」を想定したシナリオを一通り確認してほしい。多重防御と前方防衛に重点を置いている組織は、より強い回復力を持つことになる。重要なデータがあっさりロシアの手に渡ることがないよう、ハッカーが欲しいものにたどり着くまでに何度も失敗するような対策を講じる必要がある。

確率と可能性の観点から考えて、基本的なセキュリティの偶発的な変更を防止するための管理体制を整えることが非常に重要である。最小権限の原則を標準とし、多セグメント化によって、急速な横方向の動きを防ぐ必要がある。また、監視と警告に基づいて攻撃への対応を開始すべきだ。異常な逸脱が発生した場合は、フェイルセーフを起動する必要がある。レッドチーム演習(現実に近い攻撃を実際に行ってセキュリティ対策の実効性を検証するテスト)を実施して、攻撃にどれだけ太刀打ちできるかを確認し、失敗から学ぼう。

ファイアアイに対するセキュリティ侵害の影響は大きな注目を集めた。実際、ロシアにはすでにファイアアイのツールと同等のツールがある。そのため、専門家たちはツール自体のことで大げさに騒ぎ立てたいのかもしれないが、実のところ、今回の件は2017年に米国国家安全保障局(NSA)のツールが流出したときと同じ事態にはならなそうだ。

NSAから流出したエクスプロイトは非常に優れており、敵側がすぐにでも利用できるものだった。また、Shadow Brokers(シャドー・ブローカーズ)によるハッキングにこのエクスプロイトが使われたため、業界は一時的に、以前よりも高いリスクに直面することになった。しかし、このエクスプロイトは、今回ファイアアイから窃取されたルートキットやマルウェアとは異なる。ファイアアイのケースでは、ゼロデイ脆弱性に関する情報やエクスプロイトは盗まれていないようなので、今回の侵害が甚大な衝撃波を引き起こすとは考えにくい。

このような大規模な侵害はこれからも起こるだろう。あなたの組織が侵害に対して高い回復力を持っている必要があるなら、今から侵害に備えておくことをお勧めする。

関連記事:欧州医薬品庁が不正に操作された新型コロナワクチンデータのリークを警告

カテゴリー:セキュリティ
タグ:ハッカー コラム

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

副次的監視の時代を終わらせよう

著者紹介:Vijay Sundaram(ヴィジェイ・スンダラム)氏は、ManageEngineの親会社であるZoho Corporation(ゾーホー)のCTO(最高戦略責任者)。企業戦略および執行からチャネル管理、事業開発、企業販売に至るまで、複数の領域を指揮/担当している。

ーーー

我々消費者は、自分たちが使いたいサービスやソリューションにアクセスする際、Google、Facebook、Twitterなどの企業に個人データを提供することを気にしないものだ。しかし多くの人は、水面下でこうした企業がデータ収集をビジネスモデルに統合し、データ収集監視組織として機能していることを理解していない。

ユーザーには認識されていないが、多くの企業はサードパーティが自社のウェブサイトに埋め込みコードを設置することを許可しており、そのコードはユーザーの行動を捕捉し、収集または販売するために利用されている。ZohoのチーフエバンジェリストであるRaju Vegesna(ラジュ・ヴェジェスナ)氏が指摘するこの「副次的な監視」は、ユーザーや投資家を始め、ビジネスリーダーたちからの抵抗を受けずに一般的な慣行となってきた。

こうした監視の振り子が大きく揺れすぎていることは、思慮深い人の間で重大視されてきている。つまり企業がなんの規制もなくユーザーデータ収集や共有を行うことへの懸念だ。実際、副次的監視に対する規制が厳しくなってきており、EUのGDPR、カリフォルニアのCCPA、ニューヨークのSHIELD法、ブラジルのLGPDなどのデータプライバシーに関する法律がここ数年で次々と制定された。

政府の規制強化と社会意識の高まりを受けて、企業のリーダーたちはこの問題に目を向け始めている。しかし、政治家や規制当局の動きに頼るだけでは不十分だ。また法律用語や細かい文字で埋め尽くされた通知文書を根拠として法を遵守しているとしても、それでは十分とは言えない。この種のマキャベリ的な手法は形式的には正当かもしれないが、道徳的ではない。

テック業界のリーダーたちにとって、プライバシーに関する誓約を正式かつ明白に遵守する立場を示す時期に来ているだろう。

ユーザーへの通知なく広告会社にユーザーを追跡させない

企業がユーザーデータをサードパーティの広告主に販売することで事業を成り立たせている場合、データがどのようなことに使用されるのかをユーザーに知らせることが重要だ。場合によってはそうした情報をユーザーに開示しないことが法的に認められる可能性はあるが、これは適切ではない。

1996年の創業以来、ManageEngine(当時はZohoとしてビジネスを行っていた)は自社のウェブサイトや製品にサードパーティーの広告を掲載することを拒否してきた。すべての副次的な監視を阻止するため、サードパーティーの追跡コードを自社サイト内に埋め込むことを一切許可していない。ソーシャルメディアのシェアボタンは無害に見えるかもしれないが、本質的にトロイの木馬として機能し得るため、同様に排除されるべきであろう。

サードパーティとの統合がユーザーデータの追跡につながる可能性のある場合は顧客に通知する

もし企業がそうした活動に財政的に依存しているのであれば、透明性を保つ必要がある。たとえばGoogle(グーグル)を例にとると、Gmailを使うことに問題はないとほとんどの人が認識しているが、それは検索大手にデータを提供するだけの価値をユーザーが見い出しているからだ。しかし、Googleがユーザーデータを利用してクレジットカード会社やヘルスケア会社との提携を密かに結んでいるとすれば、話はまったく別だ。

Googleは2018年に医療団体Ascensionと提携し、Ascensionの患者には知らされていなかったデータ共有プロジェクト「Project Nightingale」を開始した。その後の調査で、Googleは実用面でHIPAAやその他の法律に違反していないことが判明したが、このスクープがなければ一般の人々はこの計画について知ることすらなかっただろう。また、この種の非公式な健康データのパートナーシップは他にも広く行われている可能性が高い。

もう1つの例として、GoogleはMastercard(マスターカード)と秘密裏に提携し、Amazon(アマゾン)と競合して消費者小売支出データを収集していた。この秘密の提携関係が露呈した際、両社は顧客の個人情報を一切共有していないと主張した。Googleによると、ユーザーデータを統合し匿名化した形で保護するダブル・ブラインド式暗号化技術を利用したという。両社はユーザーの個人情報はすべて「身元が特定されていない」と繰り返し主張したものの、MastercardやGoogleのユーザーにこの契約が公表されたことは一度もなかった。おそらくこのMastercardとの提携はGoogleにとって単発のものではないだろう。GoogleはAdWordsのブログ(現在はGoogle広告コミュニティに統合)を通じて、クレジットカードとデビットカード所有者の情報のうち70%にアクセスがあることを言明している。

この話の教訓は何であろうか。Googleのようであってはならないということだ。

暗号化ツールを使用して、パブリックネットワーク経由で転送される顧客データを保護する

企業がパブリックネットワーク経由でユーザーデータを送信する場合、必ずすべてのサーバー接続で強力な暗号化を使用する必要がある。ハイパーテキスト転送プロトコルセキュア(HTTPS)およびトランスポート層セキュリティ(TLS)プロトコルに従って、ウェブブラウザ、企業のサーバー、およびすべてのサードパーティ製サーバー間に常に安全な接続があることを確実にする。TLSプロトコルは両者の認証を可能にするだけでなく、データを暗号化し、第三者がデータ転送プロセスを盗聴または妨害することを防ぐ。

社内データセンターへの投資を検討する

経済的に実現可能であれば、企業は自社のデータセンターに顧客データを保存するか、データセンター内のサーバーを所有するべきである。サードパーティのデータセンターやパブリッククラウドに依存しないことで、データプライバシーイニシアティブを強化できるだけでなく、時間の経過とともにコストも削減できる可能性がある。さらに、ユーザーデータを保護するために努力している企業を評価するユーザーが増えてくれば、企業にとってもメリットがある。

ManageEngineはプライベート企業であるため外部の株主に依存することはなく、経営者は財務的な視点ではなく理念的な視点で物事を見ることができる。創業当初からユーザーのプライバシーを重視する姿勢を貫いているが、現在の監視環境は組織内でかなりの反発を招いている。確かに同社はプライバシーに関するこのような強硬路線を取ることで、多少のビジネスチャンスを逃しているかもしれない。

しかし、ヴェジェスナ氏は次のように問いかけるという。「企業が金銭的に成功しても、道徳的に破綻した場合、価値はあるでしょうか」 。

関連記事:米上院議員クロブシャー氏がAmazonのフィットネストラッカーHaloについてプライバシー面の懸念を表明

カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラム プライバシー

[原文へ]

(翻訳:Dragonfly)

私は言論の自由の擁護者だがその意味がわからなくなった、技術と言論の自由に待ち構えているものとは?

米国の大統領はおそらく世界最強だといわれている。その彼がTwitter(ツイッター)に投稿できない。そしてFacebook(フェイスブック)にも。それだけでなく、先週私たちが目撃したように、その他の多くのソーシャルネットワークに対してもだ(まあ彼はまだ核ミサイルの発射コードを手にしているので、それはそれで熟考すべき興味深い力だが)。

先週行われた禁止の数々は異例のものだった。しかし、Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領だって異例だ。今世紀にはもう、ホワイトハウスの現在の占有者のような口調で、公にわめき立てる大統領は登場しないかもしれない(少なくともそう願うことができるだけだが)。しかし、トランプ大統領の危機全体が本当に例外的なものであるならば、それは単に無視することができる。ルールというものは、言論の自由に関するルールでさえも、例外的な状況に対処するための例外を常に持っていたのだ。大統領が暴力的な抗議を挑発して、その結果追放される。米国の行政リーダーシップ史における、ユニークな瞬間であることは間違いない。しかし、主役は別として、最高裁の判例の下で、暴力的な脅迫が何十年もの間禁止されてきたテック業界や出版社たちの反応は特に異例なものではない。

では、なぜそれを私たちは無視しないのか?何か大きなものが足元に埋まっていることを、実感しているからではないだろうか?私たちの世界の情報アーキテクチャ全体が変化して、現代の米国を支配してきた言論の自由をめぐるルールの構造を、完全に覆してしまったのだ。

言論の自由は、科学と合理性と実証主義をともなう人間の進歩主義と、深く絡み合っている。「marketplace of ideas(アイデアを公開討論する場)」の目的は、議論が相互の対話として行われ、自分たちの事実と推論が検証され、悪いアイデアがより良くより実績のあるものによって洗い流されるようにすることだ。もちろん時には論争になることもあるが、最終的には挑発よりも解明を目的としたポジティブな論争なのだ。

私が言論の自由に対する「絶対主義者」なのは、そうした人類の進歩を信じているからであり、「アイデアを公開討論する場」という概念が、世界を探求し自己を内省するために、人類が種として歴史的に構築してきた最良のメカニズムであると信じているからなのだ。だが、先週の出来事を目撃した今、私たちの情報共有地がうまく機能しているふりを続けることもできない。

どうやら、それは矛盾しているようなのだ。私は言論の自由を支持しているものの、「真の意味」では支持していないのだ、という意見は理解できる。それでも、システムの何かの間違いに対して、いくつかのより深い、より基礎的な質問をするためにの合理的な判断一時休止をすることはあるだろう。私の苦しみは、ACLU(米国自由人権協会)が公式声明で見せた苦しみと同じものだ。

それは「我々は(トランプ大統領を)非難するが、(ネット企業の対応も)懸念している」というような、生ぬるいどっちつかずの意気地なしの反応だ。言論を取り巻く環境が急速に変化する中での穏当な対応の1つではある。同じいい方をするなら、私は「アイデアを公開討論する場」の強い擁護者だ、しかし残念ながら、それはもう今は潰えてしまった「アイデアを公開討論する場」の「1つ」に過ぎなかったということだ。ともかく、うまくいってないことを全部考えてみよう。

  • 情報が多すぎて、どんな合理的な人間でもすべてを処理することは不可能だ
  • 溢れる情報の多くはゴミであり、明らかな詐欺であり、さらに悪いことにそれが配布されている情報システムそのものを、混乱させ弱体化させるためにデザインされた秀逸な心理的プロパガンダの断片だったりする
  • 私たちはこれまで、これほどまでに多くの人たちが、公共の場所に対してこれほど制限もほとんどなしに信念や、戯言や、侮蔑を撒き散らすことを許してこなかった
  • 対話の中にアイデアはほとんど残されていない。構成主義的な思考と同様に、協調関係は死にかけている。今や「ストア」は同じ公共の広場の中ではなく、それぞれの個人のフィードの中に置かれているので、もはや「公開討論する場(marketplace)」は存在しない
  • ひと握りの支配的な独占プラットフォームからの強制的な誘導がコミュニケーションのやり方を荒々しく傷つけ、慎重な議論や論争よりも、有力な「クリックベイト」の方を奨励している
  • テックプラットフォームで見られるユーザーのエンゲージメント数が非常に多いことを考えると、大多数の人がこれを気に入っているようだ

私たちは、何十年も前からこうした事態が訪れることには気がついていた。人間が処理できない、現代の工業化された世界の複雑さをテーマにした、Alvin Toffler(アルビン・トフラー)の「Future Shock(未来の衝撃)」が出版されたのは1970年のことなのだ。1980年代から1990年代にかけてのサイバーパンク文学やSFは、この迫りくる猛攻撃に向かって広範囲に応戦してきた。インターネットが急速に拡大する中で、Nicholas Carr(ニコラス・カー)の「The Shallows(ネット・バカ)」のような本が、インターネットがいかに私たちが深く考えることを妨げているかを問いかけていた。それが出版されたのは10年前だ。現在は、地元の書店に行けば(もし書店がまだ存在していて、読者が実際に1000ワード以上の文章を読む能力がまだあるとするなら)、メディアと通信の未来を分析し、インターネットが認知的に私たちに何をしているかを分析しているさまざまな書籍を見つけることができる。

私の「言論の自由」に対する絶対的な信念は、米国で言論の自由がどのように機能すると考えられているかに対する、いくつかの明確な仮定に基づいていた。残念ながら、それらの仮定がもはや成り立たないのだ。

私たちはもはや、市民が自分たちが直面している問題について、おそらく怒りながらでも議論を交わすことができるような、おなじみの公共の広場があると仮定することはできない。私たちはもはや、クズ情報が編集者によって、または出版社によって、または読者自身によってフィルタリングされると仮定することはできない。私たちはもはやメッセージを携えて私たちに接触してくる人たちが、ある程度身辺調査済で、真実や事実を基に語っていると仮定することはできない。

私たちはすでに公開討論の場のあらゆる場所が、ありのままに機能しているのだと仮定することはできないのだ。

それこそが仕事の場でも生活の場でも、言論の自由の権利に日々頼っている私たちにとって、この時代を厳しいものにしているものなのだ。そうした基本的な仮定がなければ、言論の自由の権利は、私たちが期待しているような、人間の進歩主義と合理性の砦とはならない。私たちの情報共有地は、必ずしも最高で質の高いアイデアが最上位に浮上し、私たちの全体的な議論を推進してくれることを保証してはくれない。

私は寛容な米国人の感覚として、言論の自由を心から信じている。なので私と同じように、私たちの「公開討論の場」の危険な状態を本当に心配している友人も多い。しかし私たちはみな、目の前にある現実に直面する必要がある。システムは現実として本当に壊れていて、単に「言論の自由を!」と叫ぶだけでは、それを変えることはできない。

今後とるべき道は、言論の自由をめぐる会話を、私たちの世界の情報アーキテクチャをどのように改善していくべきかというより広い問いかけへと転換させることなのだ。クリエイターや、アイデアを生み出す人や、それらを分析する人が、適切な経済状況の下にそれを行うことを保証するにはどうすればよいのか?それは、作家、映画製作者、小説家、研究者、その他のすべての人が質の高い仕事ができるようにすることを意味する。おそらく長期間にわたって、収入が減らないようにするために「トップに留まり」続けようと、新しい写真や考察を10分ごとにアップロードしなくてもいいようにするということだ。

事実と「真実」が常にすぐにではないにしても、徐々にでも最終的には勝利をおさめることを確実にするためには、コミュニケーションの各階層におけるインセンティブをどのように整えていけば良いのだろうか?情報の大量流通にともなう力が、正確性や合理性に対する公の義務という概念を少なくとも何らかのかたちで体現している人たちによって、きちんと持たれるようにするにはどうすればよいのだろうか?

何よりも重要なのは、読者や視聴者の1人ひとりが、自分の目にした情報を処理する能力を高め、主体的な行動を通じて合理性に向かって議論を進めていくにはどうしたらよいのだろうか?賢く勤勉な顧客がいなければ、どのような市場も生き残れない。情報のための市場も例外ではない。人々が嘘を要求するならば、世界は彼らにそれを与えるだろう。すでに私たちが目にしたように容赦なく。

テクノロジーだけではこの問題を解決することはできないが、テクノロジーがその解決の一部となることは絶対にできるし義務づけられてもいるのだ。適切なインセンティブを備えた代替プラットフォームは、人類が世界を理解する方法と、現在、起こっていることを完全に変えることができる。これは非常に重要で知的に興味深い問題であり、野心的な技術者や創業者にとっては取り組むに値する魅力的な対象となるはずだ。

言論の自由は必ず守る決意だが、今、目の前にあるような状態のシステムでは擁護できない。ならば唯一の防御策は、このシステムの再構築を行い、上手く機能し続けているコンポーネントを強化し、機能していないコンポーネントを修理または交換することだ。魂の救済への道筋が誤った情報で埋めつくされているべきだとは思わない。私たちはみな、このシステムをあるべき姿にするための道具と力を持っているのだ。

関連記事:トランプ大統領はこうしてプラットフォームを失った、テック業界にとって前代未聞の歴史的な1週間を振り返る

カテゴリー:その他
タグ:ドナルド・トランプソーシャルメディアSNSアメリカコラム言論の自由ACLU

画像クレジット:mercava / Getty Images

原文へ

(翻訳:sako)

ビットコイン擁護派がトランプ政権の性急な仮想通貨規制に反抗

全米のBitcoin(ビットコイン)ファンが、共通の敵である米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)に対抗して結集している。

Donald Trump(ドナルド・トランプ)大統領の側近の1人であるSteven Mnuchin(スティーブン・ムニューチン)米財務長官は感謝祭以降、バイデン政権が2021年1月20日に就任する前に、いくつかの暗号通貨規制を押し通すために残業を続けている。

FinCEN声明では、金融規制を設ける理由について、テロ資金調達、制裁回避、麻薬や武器の闇取引を抑制する目的があると例のごとく列挙しているが、今回のような異例の緊急性(Coin Centerサイト)を正当化する新たな根拠については一切言及していない。

これらの規制案には、暗号通貨の取引所に、個人のウォレットに送信された3000ドル(約31万円)以上の取引を含む記録を保存し、さらに1日で1万ドル(約104万円)を超える価値の取引を行ったユーザーをFinCENに報告することを義務づける提案(The Verge記事)が含まれている。比較のために挙げると、銀行は1万ドル以上の現金引き出しがあると米国内歳入庁に報告しなければならない(Zacksのサイト)が、銀行システム自体の中で処理を行う必要はなく、顧客がシステムから引き出した現金をどこで使うかを監視する義務はない。

さらに、補足的なFinCENの声明(CoinDesk記事)では、米国人が外国のサービスプロバイダーで保有している暗号通貨の価値が1万ドルを超えた場合も、報告を求めることが提案されている。この2つ目の新提案は詳細がまだ漠然としているものの、財務省が数千ドル(数十万円)の価値に相当するビットコインを扱っている人について、顧客情報の把握に特別な注意を払いたいと考えていることは明らかだ。

電子フロンティア財団は、これを令状や疑惑なしに「より多くの金融監視を推進するもの」として、懸念を表明している(ビットコインのユーザーは、他の資産と同じように、すでに保有額を税務上申告する義務がある)。このように、6万5615人を超える暗号通貨擁護者が、FinCENに批判的な声明を提出した。その中には、Fidelity(フィデリティ)やSquare(スクエア)などの企業も含まれる。Squareの声明によると、同社は「当社のサービスに加入していない、または当社の顧客としてサインアップしていない人々『受取人』について、信頼性の低いデータを収集しなければならなくなる」と述べている。

ワシントンD.C.の非営利団体Coin Center(コイン・センター)は声明を発表し、この提案はまた、ユーザーが取引相手やネットワーク運営者を知らない可能性がある分散型サービスへの米国人のアクセスを制限するだろうと述べた。

Coin CenterのリサーチディレクターであるPeter Van Valkenburgh(ピーター・ヴァン・ヴァルケンバーグ)氏は、他の金融機関よりも多くのデータ収集要件を暗号通貨企業に課す規則に対して、通常の60日間のコメント期間ではなく、15日間のコメント期間しか認めなかったことからも、この提案は非常に異例であるとTechCrunchに語っている。

「この規則は、暗号通貨の取引所に、取引相手の名前や物理的な住所など、現金取引では必要のない余計な情報を収集し、保持し、報告することを求めるものです」と、同氏はいう。「今のところ我々がわかっている限り、新政権に移行する前にこのプロセスを完了させるスケジュールになっています。つまり、この規則が確定するということです。新政権が新しい規則を発令し、過去の規則を覆すことは可能ですが、それははるかに困難なプロセスです」とヴァン・ヴァルケンバーグ氏は語った。

2021年1月の第1週に就任したCynthia Lummis(シンシア・ルムミス)次期上院議員は、米財務省がこのように異常に短いコメント期間を設けているのは「ばかげている」とツイートした。同様に9人の議員が、冬休みを利用したこの早計なルール作りがプロセスの正当性を損なっていると警告する書簡を発表した。

これらの提案は唐突というだけでなく、調査が不十分と思えるほど曖昧なものでもある。Square Crypto(スクエア・クリプト)の開発者であるMatt Corallo(マット・コラーロ)氏とMIT Media Lab(MITメディアラボ)のディレクターであるNeha Narula(ネハ・ナルラ)氏は、FinCENの提案はビットコインのアドレスがどのように機能するかについての基本的な技術的概念を混乱させるとの声明を発表。そのため、このような規制を実施することは難しく、法外に高いコンプライアンスのための注意事項は、米国の企業に負担をかけることになると述べた。

「政治的な動機を見極めるのは常に難しいですが、公衆の噂では一貫して、これはムニューチンによる個人的な後押しであり、それ以上でも以下でもないことが示されています」とコラーロ氏は述べている。「Jane Yellen(ジャネット・イエレン)次期財務長官の発言やFinCENの新しいリーダーシップがどうなるかによって、我々は今後の数年間がどのようなものなるか、多くを学ぶことができるでしょう。イエレン氏が決められることはたくさんありますが、有益で実用的な規制を構築する仕事で、ムニューチン氏の土壇場の試みよりも悪いことにはならないでしょう」。

ヴァン・ヴァルケンバーグ氏は、トランプ政権が立法プロセスに従わない場合、Coin Centerをはじめとする暗号通貨業界の団体は、法廷で判決に異議を唱える準備ができていると述べた。すなわち米財務省は提出されたパブリックコメントを、この独善的なルール形成者たち自身が設定した日付の2021年1月7日までにすべて読み、検討する必要があるということだ。

「財務省はその後、すべてのコメントを考慮したと最終規則を発行する権限を、法律上は持っています」とヴァン・ヴァルケンバーグ氏はいう。「しかし、もし彼らがすべてのコメントを考慮しなかったことが明らかであり、新政権が発足する前に確定的な規則が公表されたと感じられたら、すべてのコメントを読んで考慮するという要件が満たされていないと法廷で主張するのは非常に簡単でしょう」。

現在の状況だと、現政権は次期政権に「混乱」を「背負い込ませる」つもりのようだと、ヴァン・ヴァルケンバーグ氏は語った。

【Japan編集部】本稿を執筆したLeigh Cuen(リー・クエン)氏は、ViceやBusiness Insider、Newsweekなどに寄稿しているニューヨーク在住の記者。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Bitcoin暗号資産 / 仮想通貨コラム

画像クレジット:ismagilov/iStock / Getty Images

原文へ

(翻訳:TechCrunch Japan)