Triggerアプリはトランプがあなたの手持ちの株に関係する発言をすると教えてくれる

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自分のツイートで金融市場を動かせる人はごくわずかだが、そうした人びとに似ているか否かに関わらず、次期大統領ドナルド・トランプはそうできる人びとの1人だ。そして、あなたはそうしたとんでもない振舞を差し止めるためには何もできないが、Trigger Financeの新しいツールを使ってそれを追うことはできる。

もともとコーネル工科大学の学生プロジェクトだったTrigger」は、ニュースが彼らの株価を下げる場合にリアルタイムに警告が来るような設定がユーザーの手で簡単にできる。通常の設定には、収益予想報告や価格変動通知が含まれているが、同スタートアップは、トランプが自身のお気に入りのソーシャルネットワークであなたの関係する投資について発言したときに確実に通知されるように「トランプトリガー」を追加している。

140文字で公開市場に影響を与えるトランプの影響力の例を探しているなら、昨日(日本時間1月6日)のトヨタ騒動ほど分かりやすいものはない。トランプは、トヨタが生産の一部をメキシコに移した場合、同社に国境税(border tax)を課すと脅したのだ。

このツイートを受けて、ニューヨーク証券取引所での株価は瞬時に0.77ドルほど下落した、実際には、全体のパーセンテージとしては小さなものだったが、取引量が多い場合には問題になる。さらに重要なことは、次期大統領トランプと公的市場の間の因果関係について、世の中に認識させたことだ。

原因

トヨタ自動車は、米国向けカローラの新工場をメキシコのバハに建築すると言っている。とんでもない!米国に工場を作るか、高額な国境税を払うかのどちらかだ。

結果

トヨタ株価

WSJ Advanced Chartingからのデータによる(注:時刻の違いはPSTとESTに違いによるもの)

同社はMediumの投稿で新しい機能について「こうしたトリガーはこの先の大統領の発言に対する市場の反応に基いて、動きを捉えたり資産を管理したりする為に役立ちます」と述べている。

Triggerは、金融市場に影響を与えるイベントについての通知を行うツールとしては、最初のものでも最後のものでもないが、このようなタイムリーな懸念を素早く取り入れたという点は称賛に値する。

現実的には、ループの中に人間が含まれているので、あなたはVirtu Financialのような超高速トレーダーになれるわけではないが、それでも通知は役に立つ。ジャーナリストの立場からは、公開されているハイテク企業と就任間近の大統領の間の進化する関係を見守るためにはとても有用なツールである。

Trigger Financeは、昨年この時期にエンジェルラウンドで460万ドルを調達した。J.P.モルガンの元トレーダーであったRachel Mayerが経営している。

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(翻訳:Sako)

P2P送金のVerseがシリーズAで830万ドルを調達、ヨーロッパでのビジネス展開を加速

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既に多くのライバルがひしめき合っているP2P送金サービス界で、また新たな企業がシリーズAで830万ドルの資金を調達したと本日発表した。サンフランシスコとバルセロナに拠点を置くVerseは、ヨーロッパのVenmoになるべく、その動きを加速させている。そのVenmoはと言えば、未だアメリカ国外にモバイルソーシャルペイメントサービスを拡大しようとする動きを見せていない。

VerseのシリーズAでは、Greycroftがリードインベスターとなり、その他にもSpark CapitaleVenturesBoost VCがラウンドに参加した。また、以前同社はシードラウンドで、DFJ Dragonやアメリカ・ヨーロッパのエンジェル投資家から180万ドルを調達していた。

今回調達した資金は、製品開発チームの強化を含む増員や、Verseの成長を加速させるために使われることになると、共同ファウンダーのAlex Loperaは話す。

「私たちは決済サービスにおけるWhatsAppのような存在になろうとしています」と彼はTechCrunchの取材中に話していた。「何かの支払をするときや、友人に借りているお金を返そうとしたとき、インターネットバンキングはいまいちだし、うまく支払ができない時もあるから使いたくないと、とてもイライラします」

「その点、Verseだと簡単かつスムーズに送金を行えます。送金したい額を入力して、携帯電話の連絡先のリストから送金先を選んだ後に送金ボタンを押せば、もうお金は相手のもとに届いていることになります」

彼の話は、巷に溢れるモバイルソーシャルペイメントサービスの宣伝文句として、とても馴染みがある。しかもこの状況はアメリカだけでなく、ヨーロッパでもほんの数例を挙げれば、フランスのLydiaドイツのCookiesアメリカ発のCircleMoneyBeamの形で送金サービスを提供しているN26などが存在する。

しかし、私のTechCrunchの同僚であるRomain Dilletが簡潔に表現しているように、「ソーシャルペイメントはプロダクトではなく、一機能だ」。彼の発言は、上記のようなスタートアップの中で、どの企業がいち早くスケールしてヨーロッパ市場を独占するか、という競争が巻き起こっていると言い換えることもできる。そして競争が一段落した後に、勝者はその他の銀行サービスを利用してP2P送金をマネタイズすることができるのだ。中には本格的な銀行としてビジネスを展開する企業もでてくるだろう(その例として、N26は今年の夏に銀行のライセンスを取得している)。

LoperaはVerseのこれまでの成長について、競合他社との強みの違いがもたらしたものだと話す。同社は現在ヨーロッパの16ヶ国でオペレーションを行っており、ライバルと比較してより多くのユーザーにサービスを提供することができる。ほかの競争が激しい分野と同じく、ソーシャルペイメント業界でもヨーロッパの一国だけを考えるのではなく、もっと広い視点が必要なのだ。

実はVerseは当初サンフランシスコで登記され、地元のアクセラレータープログラムを経た後に、ほとんどのメンバーをバルセロナへと移し、今年の2月にアプリをソフトローンチした。Loperaによれば、Verseは現在AndroidとiOSを合わせて約55万人のユーザーを抱えており、現時点ではマーケティングにあまりお金をかけず、口コミの力に頼っている。

また、Verseのユーザー間でやりとりされる送金額の平均は25〜30ユーロだとLoperaは話す。

Verseは、複数のマーケットをカバーしながらも特定の銀行とはパートナーシップを結んでおらず、ユーザーのお金を各国の銀行口座におき、銀行口座を持っていない市場については、SEPA(単一ユーロ決済地域)を使ってユーロで決済している。そのため、Loperaはもちろんブレグジットが起きないことを願っている。

「私たちは、どの企業もまだヨーロッパ市場全体には入り込めていないと考えています」と彼は付け加える。「確かに一国の中でサービスをローンチしている企業は存在します。しかし、ヨーロッパの主要国全てでビジネスを展開し、国をまたいで問題なく機能するようなアプリを提供している企業はまだ見たことがありません」

「この分野に興味を持っている人の数は多く、競争も激しいですが、決済業界には変革が必要なところがたくさんあるため、私たちはとても大きなチャンスがあると感じています。ヨーロッパ中のミレニアル世代のソーシャルペイメントを掌握する勝者と呼べるような企業はまだ存在しません。そして、それこそ私たちが目指しているものなのです」

WhatsAppのような大手メッセージサービス企業が、P2P送金に参入して既存プレイヤーから顧客を奪ってしまうという心配はないのだろうか?例えば、WhatsAppの親会社であるFacebookは、アメリカ国内で既にMessenger内でのP2P送金サービスを提供している

これに関しLoperaは、「WhatsAppがVerseのようなサービスをリリースするにはとても時間がかかるでしょう。通話機能を追加するのにさえ、あれだけ時間がかかりましたからね…」と反論する。

しかし、P2P送金サービスを提供する規模の小さな企業が、将来的に大手メッセージサービス企業の買収先候補となる可能性は否定できない。

Verseは、P2P送金のほとんどのケースに関して手数料をとっていないが、送金が異なるヨーロッパ通貨間で行われる場合(ユーロとポンドなど)は、「通貨と国によって」1.5〜2%の手数料をとっている。

なお、Verseのメインとなる台帳システムにはブロックチェーン技術が用いられているが、送金時には使われていない(ビットコインウォレットとしてサービスをスタートさせたCircleなど、競合企業では送金にもブロックチェーン技術が使われている)。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

EUの新たな規制がフィンテックの繁栄につながるかもしれない

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【編集部注】執筆者のDennis Mitznerは、Tel Aviv在住でスタートアップやテクノロジートレンドを専門とするライター。

EUの金融市場に対する規制強化の動きは、グローバルに活動するフィンテック企業に新たなチャンスをもたらせた。というのも彼らは、28カ国から構成され、高収益が期待されるEU市場に入り込むため、共通基準の導入を待っていたのだ。過剰規制が経済の成長を抑制してしまう一方、消費者の信頼が必要なフィンテック業界は、規制フレームワークがきちんと定められることで多くを得ることができる。

「フィンテックスタートアップは、製品やマーケティング戦略のほかにも、とても明確な規制対応やコンプライアンスに関する戦略が必要になってきます。透明性の高さやデータインテグリティを支えに、データ駆動型のビジネスを開発しているフィンテック企業は、新しい規制環境から利益を享受することができるでしょう」とストックホルムを拠点とする投資会社、NorthzoneのMarta Sjögrenは語る。

ある地域でビジネスを行うために規制機関から認可を得る必要があるなど、各種の規制は企業にとって参入障壁となることが多い。事業拡大を目指すスタートアップにとっても、コンプライアンスは避けられない問題であり、特に金融システムはリスクを嫌う傾向にある。

「結果的に、フィンテック企業のファウンダーは規制機関と協力しなければならず、さらには回答までの長い期間を考慮に入れ、この長期戦に付き合いつつ成長の手助けをしてくれるような戦略的パートナーをみつける必要があります。フィンテックは短距離走ではなくマラソンのようなビジネスなんです」とFuture Asia VenturesのファウンダーであるFalguni Desaiは、最近の白書の中に書いている。

明確な規制環境を構築するまでにかかる長い期間や、フィンテックスタートアップ、銀行、規制機関の3者間でのやりとりは、消費者にとって安全な環境をつくりだすためにあるのだ。

さらに、融通の利かないことが多い銀行とは対照的に、柔軟なフィンテック企業が提供する価値全体が、より良い金融商品をより安く、より効率的に顧客へ届けることにかかっている。そして、もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。規制機関の役割はここで必要になるのだ。

「結局のところ、規制対応の目的は消費者の保護と共に、企業と消費者が信頼関係を築いていくことにあります。以前は、銀行がその役割を全て担っていましたが、これからは状況が変わってくるかもしれません」とSjögrenは言う。

近年、EUは新たな規制を多数導入しており、モバイル・インターネット決済基準(PSD2)や銀行の自己資本比率やストレステストに関する任意の規制フレームワーク(バーゼルIII)をはじめ、反マネーロンダリング指令(AMLD)、EU域内でのユーロ電子決済処理方法の標準化イニシアティブ(SEPA)、統一的投資規制(MiFID II)、EU全体での統一的保険規制体制(Solvency II)、会計基準(IFRS)のほかにも、そろそろ施行が予定されている電子請求書指令では、28加盟国に対して2018年11月27日までに、企業と政府・自治体間で行われる取引(B2G)では規定の基準に沿った電子請求書を利用するよう求めている。

もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。

現時点でのヨーロッパの電子請求書利用率は24%で、2024年までにはこの数字が95%まで増加することが予想されている。その結果、企業は1年あたり全体で約645億ユーロ(720億ドル)の経費を削減できるようになる。

経費削減もさることながら、2008年の金融危機が近年の規制強化に直接の影響を与えている。特にフィンテック企業のような新たなプレイヤーにとって、コンプライアンスは事業継続に欠かせないものであるため、新しい規制環境は天の恵みのようなものだ。

「2008年の金融危機の結果、ヨーロッパ・アメリカの両地域で規制機関が積極的な活動を行っており、新たなプレイヤーにとってのチャンスが生まれていますが、コンプライアンスは絶対的に必要なものです」とSjögrenは話す。なお、彼女の勤めるNorthzoneは、ヘルシンキを拠点とする電子請求プラットフォーム企業のZervantが行った450万ドルの投資ラウンドに最近参加していた。

Sjögrenによれば、昔から存在する金融機関が持つ何世紀分にもおよぶデータによって、静的モデルを通じて資本を守るための保守的なオペレーションモデルが確立されてきた結果、金融業界は旧来のインフラや、実際には機能していないプロセスに縛られてしまっている。これは、リスクを評価するためのリアルタイムなデータ解析とは対照的だ。

「旧来の金融機関は、経済の中心地となることで独占的な地位を獲得したのです」とSjögrenは話す。

PSD2のような規制によって、銀行は将来的に自分たちのシステムをフィンテック企業に公開しなければならず、さらにはAPI関連の規制のおかげでスタートアップは銀行と顧客を仲介する役割を担うことができるようになる。

「フィンテックはみるみるうちに、世界中で様々なビジネス間の結合組織として機能し始めています。散り散りになったシステムやプロセスがつなげ合わされることで効率性が上がるほか、迅速な金融・事業戦略を後押しする仕組みができ、全てのビジネスパートナーが恩恵を受けることができます。このおかげで、ますます競争が激化し不確実性が高まっている市場においても、各企業が経済成長に貢献しつつさらなる成功をおさめることができるようになります」とサプライチェーンファイナンス関連ソフトを開発するTauliaのCEO Cedric Bruは話す。

Zervantのような企業を含めた全てのプレイヤーにとって、新たな規制は参入障壁を下げることにつながる。例えば、電子請求書指令が成功すれば、ヨーロッパ市場が完全電子化の方向へ向かい、他のオンラインベースのソリューションが浸透しやすくなる。

「EUの電子請求書に関する指令は、請求関連分野の電子化を促進することにつながるため、私たちにとってはプラスだと考えています。私たちがコアターゲットとしているスモールビジネスは、この指令に基いて数年のうちに請求ソフトを使用しなければいけなくなります」とZervantの共同ファウンダー兼CEOのMattias Hanssonは話す。

将来の規制フレームワークがどのような形になるかについての共通見解が生まれつつある中、電子化によって、B2B、B2C、B2Gを問わず、フィンテックサービスを提供する全ての企業が活躍できる土壌が生まれようとしている。

「共通基準はビジネスの連携をスピードアップさせる力があるため極めて有益です。サイズや業界を問わず、全ての市場参加者がビジネスの連携によって利益を得ることを可能にする上で、大きな影響力を持つ関連基準やガイドラインを構築しようとしている官民パートナーシップにとっては大きなチャンスがあります」とBruは語る。

多くのフィンテック企業のファウンダーや投資家は、規制の複雑さや曖昧さに対する不安感を示しており、規制過多さえ叫ばれている一方、現在成長期にあるフィンテック業界にとっては、一握りの例外を除いて、規制は少なすぎるよりも多すぎる方がまだ良いのかもしれない。なお、規制サポートネットワークの献身的な活動のおかげで、イギリスはフィンテック界を率いるハブとして機能している。

EUのような規制機関にとっての課題は、過度な規制という官僚的な落とし穴を避け、その代わりにフィンテック企業に対してオープンで先進的なアプローチをとっていくということだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Yコンビネータからローンチ、Airfordableは航空券の「取り置き」販売サービス

Woman Looking Through Window While Traveling In Airplane

空の旅にはお金がかかる。

そこでYコンビネータのサマー2016バッチからローンチするのがAirfordableだ。航空券を予約し、代金は「取り置き方式」で出発日までに完済すれば良いというサービスを提供開始した。

その仕組みはこうだ。

旅行者はオンラインで(自分の好きな予約サイトを使って)希望する航空券を見つけ、そのスクリーンショットと航空券の詳細をアップロードする。

アップロードした情報が承認されると、Airfordableが最長3か月の支払いプランを算出してくれる。このプランは頭金の支払い後、出発日までに完済するように組まれ、支払いが完済すると同スタートアップから予約承認済みのeチケットが届くという流れだ。

問題は、利便性と引き換えに手数料がかなり高額になる点だ。Airfordableは需要、旅行日、航空券の料金に応じて10~20%の手数料をチャージする。仮に返済期間3か月、手数料20%の場合では、年率換算で80%という信じられないような高利率になってしまう。

しかし、この手数料を「利率」としてとらえるのは厳密な意味で正確さを欠いているかも知れない。Airfordableのようなサービスは「旅行に行けなかった人が旅行に行けるようになる」という金銭には換えがたい対価となり得るからだ。Airfordableの共同設立者Ama Marfoは、この感情的な部分について何度も触れ、「Airfordableの手数料は、その価値が分からない人々にとっては高いでしょう」と述べている。

この手数料の見返りとして、同社では購入者のクレジットスコア(訳注:米国でローン承認の際などに参照される、個人の信用情報)を確認しない。つまり、クレジットスコアが低い、または全くない場合でも、取り置き購入プランを利用できる可能性が開かれているのだ。

これまでのところサービスの利用者は約1万人で、返済率は95%という。この高返済率の背景には、Affirmのようなクレジットカードやローンサービスとは異なり、出発前に代金を完済する必要が挙げられるだろう。この方式の良い点は、購入者が旅行から戻った後で支払いに立ち往生しなくても良い点だ。

購入者が出発までに完済しなかった場合、航空券はキャンセルされる。しかし頭金を除いた支払い済みの代金は、次回以降の購入時にクレジットとして適用される。

Airfordableでは今後、バケーションパッケージやホテルの取り置き方式販売も展開したいと考えている。また、ユーザーが自分で旅程のスクリーンショットをアップロードしなくて済むよう、旅行商品の検索用プラットフォームも独自に構築中だ。

現状、すべての航空券は同社の運営資金で購入しているため、取り置き方式での販売を支援してくれる金融機関を探しているという。

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(翻訳:Ayako Teranishi)

サブプライム融資を行うElevateが5億4500万ドルをVictory Park Capitalから借入れ、IPOも視野に

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IPOの兆しが見えてきたサブプライムレンダーのElevateは、新たに5億4500万ドルの貸出枠を設定し、拡大する顧客層のサポートにあたる予定だ。

Elevateが現在融資のターゲットとしているのは、クレジットスコアが575から625の間にある借り主だ。拡大にあわせて、Elevateは現在の顧客層よりもさらにクレジットスコアの低い層への貸出を考えている。

Elevate CEOのKen Reesは、アメリカ人の65%がクレジットスコアが低いせいで、必要なサービスを受けることができていないと既に気づいている。貸出に関する追加情報のおかげで、もしかしたらこの65%にあたる人々に対しても自信を持ってローンを提供することが可能になるかもしれない。Elevateの誕生以前、現在の顧客にあたる人たちは、タイトルローン(車などの所有権を担保に借り入れるローン)かペイデイローン(短期の小口ローン)で借り入れを行わなければならなかった。

「タイトルローンを利用している人の20%が最終的に車を失っています」とReesは述べた。

年間借入コスト(APR)の顧客平均が減少しているにも関わらず、Elevateの売上ランレートは、5億ドル付近をただよっている。さらに、貸倒償却率が2014年初頭の17〜20%から今では10〜15%まで減少しているにも関わらず、ローン残高は昨年一年間で80%も増加した。貸倒償却率は、貸し出しを行っている企業が回収を見込めないと考えるローンの割合を示している。

このニュースが、サブプライム層を搾取するような貸し出しについて心配しているアナリストの気持ちを少し和らげることだろう。Reesが以前関わっており、SequoiaとTCVから資金調達を行っていたThink Financeは、昨年裁判沙汰に巻き込まれ、不法なローンの回収や脅迫で非難されていたのだ。

Elevateとその前身にあたるThink Financeの間には2つの大きな違いがある。ひとつ目は、Think Financeのモデルは、顧客への直接の貸し出しと、サードパーティーレンダーへのライセンシングの両方から成立していた。裁判で不良債権の原債権者として名前があがっていたペイデイレンダーのPlain Green, LLCは、Think Financeのサードパーティーレンダーだったのだ。一方、Elevateは顧客への直接貸し出しモデルのみで成り立っている。ふたつ目に、Elevateは、借り主の経済状況を向上させるような努力をすることで、持続可能な貸し出しを行っている。

Elevateの顧客は、金融リテラシーに関するビデオを見ることで、資金繰りの改善を目的とするRISEのような商品をより良い利率で利用できるようになる。同社はさらに、無料の与信モニタリングサービスも提供している。RISEの加重平均APRは160%と高いが、旧来のペイデイローンの500%という数字と並べると比較的低いといえる。RISEローンでは、借入開始から24ヶ月後にAPRが50%減少し、36ヶ月後には定額の36%までAPRが下降する。

ElasticやSunnyは、それぞれアメリカとイギリスで提供されている、その日暮らしをしているような人たちを対象とした商品で、Elasticも持続可能な金融を柱として作られている。借り主は、金融リテラシーに関する情報へもアクセスすることができ、実際に借入を行うまで手数料がとられることもない。

Elevateからお金を借りている人の65%がこれまでに利率の減少を経験している。このようなElevateの貸し出し方法で顧客の保持率が向上し、ローン返済を終えた人の60%が再度Elevateから借入を行っているのだ。そしてほとんどの場合、新しいローンの利率はさらに低くなる。

Elevateは以前にもIPOを考えたことがあったが、先送りにせざるを得なかった。最近の株式市場ではフィンテック恐怖症が巻き起こっており、C2Cの貸出プラットフォームを運営するLending Clubが、融資活動を行うスタートアップ固有のリスクを体現している。

しかしReesは、ElevateをLending Clubと比較するのは誤りだと考えている。Elevateと400人におよぶ従業員は既に上場企業のように機能しており、約1年にわたって定期的にディスクロージャー誌も発行されている。

「IPOで享受できる私たちにとっての主要なメリットは、デットファイナンスへの依存度が下がることです」とReesは付け加えた。「Victory Park Capitalは素晴らしいパートナーですが、無料で借入はできません。IPOでの資金調達によって、Elevateの成長をサポートすると共に資本コストを下げることができるのです」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Uberの東南アジアのライバルGrabがモバイルペイメントプラットフォームを開発中

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ライドシェアリングサービスを運営する企業が、車での移動という既存のサービスと全く異なる製品やサービスを提供できるということはめったにない。しかし、東南アジアでUberとの競争を繰り広げているGrabが、まさにそれを行おうとしている。

シンガポールを拠点とするGrabは、本日(米国時間7月22日)、同社のペイメントシステムを利用して、ユーザーがGrabのサービス以外の支払も行えるようにしていくと発表した。「GrabPay」はGrabのキャッシュレスデジタルウォレットサービスで、年初にはじめて発表されて以降Grabアプリ内に設置されている。

「Grabは、ペイメントプラットフォームをGrabPay内のモバイルウォレットオプションとして、Grabアプリ上に統合していきます。これにより、モバイルユーザーはGrabアプリを使って、日々の交通手段だけでなく、その他の生活サービスの支払も行えるようになります」と同社は説明した。

Grabは、はじめに2億5000万人の人口を誇る東南アジア最大の国インドネシアをターゲットとし、今年中に「ペイメントプラットフォーム」をインドネシアのユーザーに対して提供しようとしている。このプロジェクトでGrabは、インドネシアの10億ドル規模の小売コングロマリットLippoとパートナーシップを結んでいる。Lippoは、Grabの投資家でもあり、近年eコマーステック投資の分野へ進出している。GrabにとってLippoは初めての小売パートナーであり、Lippoのビジネス(デパート、映画館、オンラインショップなど)の顧客に対してGrabアプリを通じての支払サービスを提供していく。そのうち、他の小売企業もGrabのプラットフォームに加わっていくかもしれない。

ライドシェアリングからペイメントサービスというのは不思議な拡大路線のように感じられるが、市場全体を支配するひとつのペイメントシステムが存在しない新興市場においては、とてもロジカルな動きだといえる。ペイメントサービスを提供することで、今後さらにサービスの利用頻度が増えることが予想される既存顧客との結びつきを強めるだけではなく、もっと多くの人にサービスの魅力を伝えることでGrabのユーザーベースを拡大することにもつながる可能性があるのだ。東南アジアでは、「クラウド」という言葉には効き目がある。というのも、オンラインペイメント業界は、モバイルオペレータや銀行、Lineのようなメッセージアプリを運営する企業などがそれぞれのサービスを市場に売り込んでおり、細分化がかなり進んでいるのだ。Lippoとの協業は、間違いなくGrabにとって大きな後押しとなるが、決してそれで勝負が決まってしまうわけではない。

「東南アジアでのペイメントプラットフォーム開発の可能性は無限大です」とGrab CEOのAnthony Tanは、声明の中で語った。「東南アジアの人の大半が携帯電話を持っていながら、銀行口座を保有していません。私たちは、彼らにお金の管理ができるようなキャッシュレスソリューションを提供する必要があると考えており、モバイルウォレットはその一歩となります」

実は同様の動きは既にアジアで起きていた。Uberのインドのライバルであり、Grabと協力関係にあるOlaは、昨年11月にOlaアプリ内のペイメントシステムを、スタンドアローンのアプリとして展開していた。Grabは、少なくとも当面の間、ペイメントシステムをコアとなるGrabアプリ内にとどめておく意向だが、間違いなく同社は「アンチUber同盟」の仲間であるOlaにコンタクトをとり、ペイメントプラットフォームに関するヒントやアドバイスを求めていただろう。

Grabは、インドネシアがライドシェアリングの乗車数で最大の市場であると言っていたものの、同社のビジネスは今後インドネシアからさらに拡大していくと考えられ、今回のGrabPayのプラットフォーム構想が、どこかの時点でさらに5つの市場(シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア)への拡大を想定していることを示唆していた。

「私たちは、各地域のローカルパートナーと協力し、東南アジアの大部分でキャッシュレス決済を現実のものにしていきます」とGrabは声明の中で述べた。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

MasterCardが11億ドルでVocaLinkを買収、イギリスの決済サービスへ参入

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イギリス企業の動向を追っている人向けに新たなニュースが入ってきた。新たに一社、イギリスで生まれ育った大手テック企業が外国企業に買収されることが分かったのだ。本日(米国時間7月21日)MasterCard Inc.は、VocaLinkと株式の92.4%を取得することで合意に至ったと発表した。VocaLinkは、イギリス国内のATM、ダイレクトデビット、そして大手モバイル決済ネットワークを支える一大テック企業だ。買収額は総額11億4000万ドルにのぼり、全額現金で支払われる予定。まず7億ポンド(9億2000万ドル)が支払われ、さらにアーンアウトとして、業績に応じて最大1億6900万ポンド(約2億2000万ドル)が現金で支払われる。

残りの7.6%の株式については、少なくとも向こう三年間は引き続きVocaLinkの株主が保有するとMasterCardは発表の中で述べた。

VocaLinkは、2015年に1億8200万ポンド(2億4000万ドル)の売上と、110億件以上の決済処理数を記録している。

今回の買収は、今週発表されたイギリス企業のエグジットで2番目となる規模で、1位はソフトバンクが月曜日に発表した、半導体チップのリファレンスデザイン事業を行うARM Holdingsの320億ドルでの買収だった。

イギリスのEU離脱を決定づけたBrexitよるポンド安の影響で、多くの人が今後このような買収案件が増加するのではと問題視している。ソフトバンクCEOの孫正義は、ARM買収へのポンド安の影響を否定しており、MasterCardも同様の回答をしている。

「ご想像の通り、買収には何ヶ月もの時間をかけてきました」とMasterCardの広報担当者は今回の買収について語った。「MasterCardは、Brexitの投票が行われる何ヶ月も前からVocaLinkを買収したいと考えていました。そのためBrexitは買収の要因にはなっていません」

今のところ、MasterCardはVocaLinkの買収で「全ての種類の電子決済や、決済の流れに積極的に参画し、顧客やパートナーのためのサービス向上を行う」戦略を固めていくつもりだと話す。さらにMasterCardは、イギリスの決済エコシステム内で、重要な役割を担っていきたいとも語っている。

「イギリスという私たちにとって重要な決済市場で大きな役割を担うことができるという、今回の買収によって得られたチャンスに私たちは興奮しています」とMasterCardの社長兼CEOのAjay Bangaは声明の中で述べた。「VocaLinkは、素晴らしいテクノロジー、資産、社員を持つ類まれな企業です。私たちは、VocaLinkのテクノロジーを投資を通じて最大化し、イギリスそして世界中の私たちの製品やソリューションへ組み込むことをとても楽しみにしています」

今回の買収から、さらに多くの外国企業が、イギリスの決済サービスや、イギリスにおけるコンシューマリズムや消費文化の受容を利用しようとしていることがわかる。昨日のTechCrunchのニュースでも、Squareがようやくイギリスでの営業開始に向けて動いていることを示す証拠について報じられていた。

VocaLinkは、2007年に設立後も特にベンチャー投資を受けず、今ではATM、BACをベースとしたダイレクトデビット、そしてFaster Payments(モバイルテクノロジー)の3大決済ネットワークを運営しており、ほぼイギリス居住者全員分の決済をカバーしているほか、外国市場向けにもその他のサービスを開発してきた。

Fast ACH(高速小口決済システム)を利用したモバイル決済アプリのZAPPがそのうちのひとつだ。VocaLinkはソフトウェアをライセンシングし、スウェーデン、シンガポール、タイ、アメリカといった国々の小口決済サービスのサポートも行っている。

MasterCardは、今後もVocaLinkのビジネスではイギリスに焦点を当てていくつもりではあるものの、上記から今後どのように同社のビジネスを発展させていこうとしているか読み取ることができる。

「本日の発表は、私たちのパートナー、顧客、社員にとって前向きなニュースです」とVocaLinkのCEO David Yatesは声明の中で語った。「今後も、最高レベルの品質を保ち、イギリスの決済システムがスムーズに機能するよう注力していきます。同時に、これからはさらなるイノベーションへの投資を行い、世界中の企業や消費者向けの、高い競争力を持つ決済ソリューションを生み出していきます」

MasterCardは、株式取得後から最大24ヶ月間は株式の希薄化への影響があると予測しており、「VocaLinkの株式取得が2017年初旬に完了すれば、2017年と2018年の一株あたり当期純利益が、5セント分希薄化することを見込んでいる」と述べた。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

アマゾンプライム最新の特典はディスカウント学生ローン

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アマゾンプライムは、お急ぎ便に加えてその他の特典、とりわけプライムビデオを通した映画やテレビ番組の無料視聴、無制限の写真ストレージなどがよく知られている。しかしこれらの広がりつつあるプライム会員特典に新たなものが加わった。学生ローン割引だ。ウェルズ・ファーゴとアマゾンが発表したのは、Amazon Prime Student会員に対して、学生ローンに割引金利の提供を計画しているというものである。

この提携により、ウェルズ・ファーゴはAmazon Prime Student会員に対して0.50パーセントの金利割引を提供する。これは、ウェルズ・ファーゴの他のグローバル・プロモーションに結びついたあらゆる金利割引プランなどと同様に、月々の自動返済プランに加入すれば適用される0.25パーセントの金利割引に更に上乗せして適用することが可能である。

ウェルズ・ファーゴの個人融資グループのJohn Rasmussenは「私たちはイノベーションと顧客がいる場所での出会いに注力しています − 顧客とはデジタルスペースでの出会いが増えています」と語る。「これは2つの偉大なブランドを1つにまとめる素晴らしい機会です。アマゾンもウェルズ・ファーゴでも、優れた顧客サービスを提供し、顧客を支援することが活動の中心なのです」。

アマゾンが2010年に学生の顧客を対象にAmazon Studentプログラムを開始して以来、学生顧客向けにローン提供者と提携して割引を提供するのは初めてのことだ。現段階ではアマゾンの顧客に割引を提供することができるローンプロバイダーはウェルズ・ファーゴだけだ。これはライバルのローン提供者に比べて大きなアドバンテージである。

米国最大の銀行の1つであり、民間としては学生への貸付規模2番手のウェルズ・ファーゴは、現在学生とその親や家族を含む105万人以上の顧客を全国に抱えていて、それらの顧客をEducation Financial Services部門が担当している。顧客はオンラインと同様に、6000以上のウェルズ・ファーゴ銀行の窓口で申請を行うことができる。

学生ローン割引はAmazon Prime Studentの会員だけが利用出来るようになっていて、親がプライムメンバーだからといって適用されるわけではない。

よく知らない人のために説明すると、Prime Studentとは現在カレッジまたはユニバーシティに在籍していて有効な「.edu」メールアドレスを所有する学生のための、特別なプライム資格である。

プログラムは年間49ドルで通常のプライム会員の半分のコストだが、多くのキャンパスでの即日集荷に加えて、お急ぎ便や、無料ストリーミングなどの特典を受けることができる。このプログラムは現在Sprintがスポンサーをしていて最初の6ヶ月間は無料である。

Prime Student会員はすでに学校には登録済みなので、ウェルズ・ファーゴの金利割引を利用したい学生は、新規のローン申請するのではなく、むしろ現在のローンの借り換えを行うことになるだろう。しかしどちらの場合でも割引の適用は行われる。

WSJによれば 、アマゾンとウェルズ・ファーゴの提携は1年以上の議論を経た結果で、両社の間には複数年に渡る契約が締結されているそうである。同記事ではまた、お互いに損失の補償は行わないということが確認されている。

とは言え、このローン割引がAmazon Prime Studentの加入を促すことは確実でAmazonへの利益をもたらすし、一方ウェルズ・ファーゴにも数百万人以上の潜在的な借り手へのアクセスが与えられるのだ。

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(翻訳:Sako)

銀行業務をブロックチェーンで支える基幹システムVault OSを元Google社員がローンチ

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銀行には世界の富の圧倒的に膨大な量があるにも関わらず、あるいはそれゆえにこそ、最先端のテクノロジーが育つ場所にはなっていない。むしろ何十年も前からのシステムに頼って、日々の業務をこなしている場合が多い。そこで、Google出身のエンジニアPaul Taylorが率いるThoughtMachineは、ブロックチェーンを使った現代的で総合的な銀行オペレーティングシステムVault OSで、この状況を変えようとしている。

同社の勇ましいプレスリリースが発表している、同システムの2年間のステルス状態からの脱皮は、たくさんの約束を並べている: 同社はフィンテックの最大の課題を解決した;“Vault OS”は完全に未来志向である;自由性(柔軟性)が非常に大きい;破綻に瀕している銀行業界を再生し永遠の命を与える。

Vault OSのこれらの大言壮語が真実かどうか、それは今すぐには分からないし、銀行のレガシーなシステムは一朝一夕に変わるものではない。でも同社が指摘している問題が現実であることは、否定のしようがないし、同社が提供すると称するソリューションには、関心を持たざるをえない。

Profile - Paul Taylor

ThoughtMachineのPaul Taylor

Vault OSのメインの仕事は、銀行の中核的な機能を実行することだ。それは、巨大な台帳(元帳)を維持管理することに帰結する。そのために適している唯一の技術がブロックチェーンであることに、Taylorは固執している。Googleでは彼は、同社が今使っている音声認識のソフトウェア開発を率いていたのだが。

このOSは、一つ一つのインスタンスが自分のプライベートなブロックチェーンと暗号化された台帳を持ち、ThoughtMachineのサービスとしてホストされる。銀行は自分のもっとも基盤的なオペレーションを恒久的にアウトソースすることになるから、それに対する抵抗感も克服しなければならない。

でも、その利点が克服の契機になるかもしれない: ブロックチェーンはセキュアであり、スケーラビリティに富み、そして多用途である。通常のオペレーションの限界や遅延の原因となっているレガシーシステムを置換する動機に、十分なりうる。どんなトランザクションもリアルタイムで行われ、安全に集中保存される。銀行と消費者の両方が、詳細で深いデータ分析(deep data dives)をできるようになり、しかもそのためのAPIが提供されるだろう。

まだまだ未解決の細かい部分が多いし、顧客が納得する確実性も重要、規制もクリアしなければならない。銀行が開業にこぎつけるまでの過程は、ものすごくたいへんである。ThoughtMachineはコードを公開するのか、ホワイトペーパーや監察はどうなるのか、データのマイグレーションはどうやるのか、どんなタイムスケールで展開するのか、などなど、今同社に提示している質問に回答が得られたら、この記事をアップデートしよう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Brexitの悲劇はイギリスのフィンテックに必要な出来事だったのかもしれない

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【編集部注】執筆者のDamian Kimmelman氏は、企業情報データベースサービスを提供するDueDilの共同設立者兼CEO。

誤解しないで欲しいが、Brexitは悲劇だ。ヨーロッパの同盟国と課題に取り組んでいく代わりに、イギリスは正に誤った道を辿ろうとしており、経済に対して不必要に不透明感や否定感をもたらしている。

テック業界は特にBrexitで苦しむことになるだろう。国際的に活動するベンチャーキャピタルや、イギリスへ移住したいと考える技術を持った労働者たちに支えられてきたイギリスのスタートアップシーンは、グローバル企業や膨大な数の高給職を生み出そうとしているところであった。スケールするのに必要な資金調達や社員の雇用の問題から、その発展は今後行き詰まるだろう。

間近に迫ったロンドンテック業界の低迷に関する憂鬱な予測は、既に掃いて捨てるほどなされている。そして、イギリスを捨ててダブリン、パリ、ストックホルムやフランクフルトなど受け皿となる都市への移転準備を整えようとしている銀行やスタートアップの動きを受け、フィンテックに関する予測はとりわけ厳しい。

しかしこういった不安は大げさなものだ。実際のところ、Brexitはイギリスのフィンテック業界に必要な出来事だったかもしれず、同時にいくつかのイギリス企業を世界のリーダーへと成長させるきっかけとなる可能性を秘めているのだ。

その理由は簡単だ。ロンドンは世界の金融業界の中心地で、その背景には、銀行業界におけるイギリスの覇権や、外国為替の世界的なハブとしての役割、そして国際的な金融機関がEU各国でオペレーションを行うことを可能にするパスポート制度がある。

そのポジションが危ぶまれるということから、金融機関は社員やオペレーションを欧州にある他の金融センターへ拡散させることになるだろう。しかし、バックオフィスのテクノロジーや手厚く保護されている社員の観点から、移転は簡単ではない。大手銀行に関して言えば、どの機能をロンドンから移転するにしても膨大な時間と労力とお金がかかる。

対照的に、フィンテック企業はとても機動的だ。最小限の埋没費用かつ小さなチームと共に、スタートアップはすぐに方向転換することができ、日々変化する関連法令への対応や、新たな顧客・サプライヤーの発掘、データ解析を基にした意思決定など、Brexitによって新たに生まれるであろう様々な企業の課題を解決することができる。

そして、パスポート制度終了の可能性は、イギリスの金融セクターにとって大きな重荷となるが、銀行に比べればフィンテックへの影響は極めて小さい。

フィンテック企業のほとんどが拡大にあたって、EU各国の規制に対応した法人を作るのではなく、自分たちの製品を販売、トレード、決済できるような各国の金融機関と協業しようとしている。この戦略をとれば、規制変更にも大きく影響されないですむ。

つまり、動きの遅い銀行が形式主義的な規制に縛られる中、フィンテック企業は銀行の利益の大半を奪いながら、そのそばを通り過ぎて行くことができるのだ。Funding Circleのようなスタートアップは、制度からくる遅滞によって発生しているレンディング・ギャップを埋めようとしており、今後フィンテック業界中で、迅速に動ける企業が既存のプレイヤーを打ち負かす同様の動きが繰り返し発生するだろう。

ロンドンから世界を見据える

一方でフィンテック企業にとっても全てが簡単にいくわけではない。国ごとや企業ごとのデータ保護の考え方のすり合わせや、送金会社にとって大問題となる、ロンドンでユーロ建て証券の決済ができなくなる可能性など、大きな課題が残っている。スタートアップの中には、利益を生み出す仕組みが機能しなくなり倒産に追いやられる企業も出てくるだろう。

しかし、代表的な金融機関の全てが拠点を置いており、先進的でビジネス寄りな規制団体の下にある一大市場であることから、ロンドンは依然フィンテックの首都だと言える。さらに、EU圏内の技術をもった労働者が、マーケットを牽引する企業で働き、世界でも指折りの都市であるロンドンに住みたいと今でも思っていると私は考えている。

フィンテック業界の投資家は状況を理解し、一時的な混乱に対処する準備ができている。フィンテックへの投資に対するリターンは巨額だが長期的な目で見る必要があるのだ。ベンチャーキャピタルは辛抱強く耐え、強力なビジネスアイディアと明解なマーケットへの進出計画を備えた企業を支えていくことだろう。そういう意味では、うまく経営されている企業はこれからもスケールに必要な資金を手にすることができる。

Brexitがフィンテックにもたらす本当の影響は2つある。まず、投資家がリスクの高いスタートアップを避けて、ある程度名前の売れた企業に集中することで、各企業の質が重要になってくる。これに伴い、フィンテックバブルがはじけはしなくとも、しぼむことになるだろう。

次に、各企業はロンドン中心の考え方をやめ、海外に成長機会を見出すことになる。もはやイギリス国内向けの金融サービスを開発して、除々にその他の国へ展開していくという戦略は通用しなくなり、もっと早い段階で外国を意識する必要がでてくるのだ。この戦略の転換は、情報やデータなど簡単に国境をまたいで動かすことのできる商品を扱うフィンテック企業にとってはむしろ追い風となる。

結局、Brexitは市場に不透明感をもたらし規制の泥沼を生み出すだろう。これはイギリスや経済にとっては残念なことであるが、同時にフィンテック企業が成長するのに適した環境を作り出すことになる。イギリスのスタートアップが、金融機関の手の届かない分野で活動を行い、新たに生まれる問題に対しての解決策を提示することで、企業や消費者がもっと賢くお金が使えるようなサポートをしていくだろう。

以上が、なぜBrexitがイギリスのフィンテックにとって欠かせない出来事であったか、そうでなくとも総合的に見てイギリスにとって良いことであったと私が信じる理由だ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Brexit + fintech―英国のEU離脱でフィンテックはどうなるのか?

LONDON, UNITED KINGDOM - MARCH 17:  In this photo illustration, the European Union and the Union flag are pictured on a pin badge on March 17, 2016 in London, United Kingdom. The United Kingdom will hold a referendum on June 23, 2016 to decide whether or not to remain a member of the European Union (EU), an economic and political partnership involving 28 European countries which allows members to trade together in a single market and free movement across its borders for citizens.  (Photo by Dan Kitwood/Getty Images)

この記事の筆者はCrunch Networkのメンバー、Shefali Roy。彼女はStripeの前ヨーロッパ担当コンプライアンス、マネーロンダリング監視責任者。Stripe以前はAppleで同様の職にあり、Christie’s Worldwideで最高コンプライアンス・倫理責任者を務めた。Goldman Sachsでも同様の役割を果たした。RMIT〔メルボルン工科大学〕、オックスフォード大学、LSE〔ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス〕で学び、学位を取得。現在はオックスフォードのサイード・ビジネス・スクールのEMBA〔エグゼクティブMBA〕課程で学んでいる。

最近、英国の有権者はEUからの離脱に賛成した。それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない。当面の問題は、これによって次になにが起きるのかだ。

この離脱にともなって多数の条約が白紙化され、さまざまな影響が生じる。金融およびテクノロジーのビジネス関係者はその詳細を把握する必要がある。最終的な結果を予測する前に、まずは当面何が起きるのかを知らねばならない。

英国.は離脱にあたって、 50条を発動することになる。EUの基本条約の修正条約であるリスボン条約の50条は過去に一度しか適用されたことがない。それはEUの前身であるEEAが加盟国の脱退の手続きを定めたもので、過去には1985年にグリーンランドが〔デンマークの自治州に昇格したのを機に〕脱退した際に一度適用されたのみだ。デビッド・キャメロン首相は、辞意を表明した演説中で10月に保守党大会で選出される次期首相がEUに対して50条に基づく通告を行うことになるだろうと述べている。

しかしEU官僚は英国が50条を発動すのはそれより早くなると観測しているという報道があった。欧州議会議長のマルティン・シュルツは6月28日までに50条通告が欲しいと述べた。欧州委員会委員長のジャン=クロード・ユンケルは離脱交渉はただちに始められるべきだと語った。50条の通告がなされると英国は2年以内にEU離脱手続きを完了しなければならない。

2年というのは長い時間に思われるかもしれないが、金融ビジネス関係者はEU指令(EU directives)がいかに長期間かけて準備されているかを知っている。通常の場合それは2年よりはるかに長い。たった2年で一国が(それも英国はEU経済で2番目に大きい)まるごとEUを脱退できるとは考えられない。

しかしEUが英国に対して即刻行動に移るよう要求するのには根拠がある。さまざまな不安定さが生じて市場が混乱することを最小限に止めるためには離脱プロセスを素早く、スムーズに実行する必要がある。

50条の通告後、離脱交渉が開始される。英国は離脱後も現在保持している特権を最大限維持したいと考えるはずだ。EUという単一市場に対するアクセス、労働力の自由な移動、金融サービス規制、輸出入規則、さらにはEU政策の決定に対する発言権などだ。英国の今後の地位に関しては3つのモデルが考えられる。

  • Tノルウェイ・モデル: 英国は貿易とEU単一市場に関してメンバーと同様の特権を保持する。ノルウェイはEUには参加していないがEFTA〔European Free Trade Agreement=欧州自由貿易連合〕のメンバーだ。英国はEUのさまざまな規則を順守する代わりにEU市場へのメンバーなみアクセスの権利を保持する。ただしEUがどのような政策を採用するかについては発言権がない。
  • スイス・モデル: スイスと同様、英国はEUの事実上のメンバーという地位にはとどまらない。英国はスイスのように独自の金融サービスの規則を制定し、実行する。EU諸国とは個別に二国間協定を結ぶ。
  • 非EU諸国モデル: 英国はEUに参加していない世界中の諸国と同様の地位となる。EU市場への参入に関してはゼロからの交渉となる。簡単にいえば、英国の地位はシンガポールやペルーと変わりなくなる。

現時点ではどれが英国にとってもっとも有利な選択であるかについては議論の余地がある。また交渉者の能力による部分も大きい。ボリス・ジョンソン(あるいはマイケル・ゴーヴ)、ナイジェル・ファラージ、ジェレミー・コービンのいずれかが交渉に当たるのが英国にとって有利だろうか? コンセンサスはノーのようだ。英国のテレビは明らかにノルウェイ・モデルが英国にとって有利だとしている。しかし離脱交渉の当事者からはこのオプションは選択肢に入っていないという情報が聞こえてくる。

それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない

そういった前提はあるものの、金融、フィンテックの関係者はおおまなかにいって以下のような側面を考え、対策を練る必要がある。ちなみにこの記事でいうフィンテックとはEUの定めた電子マネー機関(EMI、eMoney Institutions)や決済サービス機関(Payment Institution、PI) に属するとしてイギリスの金融行動監視機構( Financial Conduct Authority、FAC)の規制下にあるような組織を言う。具体的なビジネス内容としては決済手続き、ピア・ツー・ピア決済、電子マネーの発行、オンライン・ウォレット、クラウドファンディング、オンライン貸付、一般的送金、FX決済、等々だ(このリストは一例にすぎない)。

人材: ロンドンは金融サービスに関してEU中の優秀な人材を集めていることで知られている。EUが単一市場であり、人の移動も自由であることから、EU諸国の人材は誰であろうと最小限の雇用上の規則さえクリアすればロンドンで働くことができる。フィンテックの急成長に伴い。金融サービスの消長を決定するのは人材の質となった。もし英国が非EU諸国モデルを採用するなら、金融分野はEUとの競争上の不利益を被るおそれがある。英国金融機関の中には業務の一部を海外に移す動きが始まっている。当然、その業務に従事する人間も移ることになる。

スキル:フィンテック・ビジネスは エンジニア、デベロッパー、サイバーセキュリティー専門家、優れたソフトウェア・ビジョナリストを奪い合い、激しく競争している。. EU離脱は、英国が5億人に近い労働力の供給源から切り離され、これにより競争力を維持し、もっと重要なことだが、最新の状態を保つことが困難になる。

投資: 投資、ことにベンチャーキャピタリストのフィンテック・スタートアップへのアクセスが著しく阻害される。これに加えて、スタートアップのプレゼンや投資を受ける機会に税制の変化がもたらす悪影響が及ぶ。スタートアップは自らのベンチャーキャピタリストよりアメリカや中国のベンチャーキャピタリストから投資を受ける方が有利になるかもしれない。

単一市場とデジタル市場へのアクセス: これも離脱交渉のテーマだが、ノルウェイ・モデルないしスイス・モデルが採用されるのでないと、英国はEU市場へ従来のような自由なアクセスを失い、イノベーションを起こすような未来志向のデジタル市場へのアクセスにも悪影響が及ぶ。たとえばインターネットを通じた支払のセキュリティー・システムであるe-KYC、また住宅に関するe-residencyや企業に関するe-corporationsなどのプログラムといった市場へのアクセスだ。

プライバシー/データ保護/セキュリティー: EUで活動するアメリカ企業にとってEUからアメリカへ大西洋を移転するデータの保護のあり方を定めたセーフハーバー協定が2015年10月に欧州司法裁判所によって無効とされたのは大きな打撃だった。新たに合意されたプライバシー・シールド(EU-U.S.
Privacy Shield)はともかく正しい方向への一歩だった。しかし新たな協定は欧州人のデータ、セキュリティー、プライバシーを十分に守れるものとなっていないとする批判がEU内に強くあった。英国は個人データとプライバシーの保護に関して新たにEUと協定を結ぶ必要があるだけでなく、アメリカとも合意しなければならない。EUで活動しようとする英国企業はEU向けのデータ保護規則に従う必要が出てくるが、同時にアメリカで活動することを望むjならアメリカ独自の規則にも従わねばならない。

規制: 現在多数のEU指令案がEU諸国間で協議されている。こうした案は諸国レベルで合意を見たうえで、EU指令として採択され、各国を拘束する。EU各国はこの指令に応じた国内法を整備して強制力を持たせることになる。これらのEU指令には、PSD2〔改訂版支払サービス指令〕、2EMD〔改訂版電子通貨指令〕、 MLD4〔第4版マネー・ローンダリング指令〕などの重要な指令が含まれ、インターネットを通じた支払と電子通貨の処理の基本を定める根本的な規則となっている。英国の離脱に伴い、指令案に関する各国の協議は今後の新しい方向が定まるまで事実上棚上げされる可能性がある。

英国のフィンテックにとって非常に重要となるのは各種サービスを「パスポート」する地位を失うという問題だ〔EU加盟国内に営業拠点を持つ企業は他のEU諸国内に営業拠点をもたなくてもEU企業として扱われ、全域で活動できる。現在ロンドンがEU域外の多数の金融サービスに「パスポート」を提供している〕。「パスポート」の失効はEU全域に活動の場を広げようとする英国フィンテック企業にとって破壊的影響をもたらす可能性がある。そこで問題は最初にもどってどの国からライセンスを得ればいいのかが重要となる。

英国のフィンテック企業は従来、金融行動監視機構〔Financial Conduct Authorit=FAC〕の規制を受けてきた。FACは先進的かつイノベーション志向であり、ビジネスに理解のある規制者だった。断固とした姿勢であると同時に現実的でもあり、EU全域に影響を与える金融上の規制の方向を決める他の国家的規制組織に対して十分な影響力があった。#Brexit後はFCAのこうしたEU全域へ権威は失われる。英国のフィンテックにとって、当面もっとも重要となるのは、EUという単一市場で活動を続けるためにはいったいどの国の規則当局の監督に服せばよいのかを決めることだ。

英国の一部のフィンテック・スタートアップはスペイン、イタリー、アイルランド、オランダからライセンスを得ようと動いている。フィンテックがすでにこれらの国で活動している、その国の法制を熟知している、などによりライセンス取得のコストが低いことがそうした国を選ぶという「倍賭け」の理由になっている。しかし他の国にも有能な規則制定者は多い。以下に述べるようないくつかの理由により、はドイツという選択がもっとも常識にかなう。

  • ドイツのBaFin〔Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht、英語名はFederal Financial Supervisory Authority=連邦金融監督庁〕は未来志向であり、効率的かつ強力な規制機関だ。
  • BaFinは昨年、フィンテックに関する多数のレポートを公刊している。Bitcoin、支払、インターネット送金手法、クラウドファンディング、フィンテックの現状などが分析されている。
  • 優秀かつ効率的な規制当局の管轄下に入ることはスタートアップにとって長期的に大きな利益となる。つまりビジネスに理解がなく有能でもない監督機関の下にあるライバルに比べて大きな競争上の優位を得られる。またユーザーは信頼できる規制機関の下にあるサービスを好む。そうした要素を考え合わせるとBaFinという選択はますます動かないものになる。
  • EU各国の規制機関はEuropean Banking Authority〔欧州銀行監督庁〕を通じてEU全域の規制を形作ることを助ける。ここでもBaFinは強力な存在だ。BaFinはEU指令にもとづいて国内法を整備する際にも諸国のリーダーとなる。この点も英国のフィンテック・スタートアップにとって有利に働く。フィンテックはBaFinの制定した規制に従うことで〔他国も同様の国内法を整備する可能性が高いので〕迅速かつ低コストの運営が可能になるだろう。
  • またこれと並行して、ドイツはテクノロジーとしても先進的な成長中かつ強力なフィンテック・ビジネスを持っている。このコミュニティは英国のフィンテック・スタートアップの参加に対して友好的だ。

EU離脱には英国にとって破滅的な悪影響をもたらす可能性のある上記のような要素が多数あるが、最終的にそれらがどういう結果をもたらすかについてはまだ多くの不明点がある。圧倒的なコンセンサスは「まだ誰にも分からない」だ。さて、何が起きるのか?

本稿で示された見解は筆者個人のものであり、筆者の所属する組織、企業の立場を反映するものではない。本稿に述べられた意見、方針等を実際の行動にあたっては採用しようとするなら、事前に専門的な法律的、税制的な助言を受けることを強く勧める。

画像: Dan Kitwood/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

三菱地所が仕掛けるスタートアップ支援の拠点「グローバルビジネスハブ東京」が大手町にオープン

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日本のスタートアップの集積地と言えば、1990年代からITベンチャーが集まる渋谷が一番に思い浮かぶだろう。数名で運営しているスタートアップから上場したメガベンチャーまで、あらゆるITスタートアップの住処になっている。だが、明治時代から日本を代表するビジネス街である東京、丸の内エリアも国内外のスタートアップ誘致に力を入れているようだ。三菱地所は今年4月に竣工した「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」の3階に「グローバルビジネスハブ東京」をオープンする。「グローバルビジネスハブ東京」は、海外の成長企業や国内の先端ベンチャー企業を誘致し、ビジネス支援を行うことを目的とした施設だ。7月4日のグランドオープンに先駆け、三菱地所は記者発表会を実施した。

「グローバルビジネスハブ東京」には全50区画(2名から20名用)の小割オフィスや全14室の会議室を始め、200名ほどを収容可能なイベントスペースや共有ラウンジといった設備がある。空間デザインは「City Camping」と題し、明るくてオープンなアメリカ西海岸のようなオフィスがコンセプトであると三菱地所、街ブランド推進部長の相川雅人氏は話す。7月4日のグランドオープンの時点で海外企業25社、国内企業17社の計42社が入居予定だ。

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オフィス家具、インターネット環境、清掃サービスなどオフィスのハード面が充実していることはもちろんのこと、ソフト面からもビジネスの後押しをすることが「グローバルビジネスハブ東京」の特徴だと相川氏は説明する。三菱地所は2007年から「EGG JAPAN」という取り組みを始め、事業の拠点となる「ビジネス開発オフィス」と「東京21cクラブ」というビジネスパーソンの交流を目的とした会員制ネットワークを構築してきた。「EGG JAPAN」は新丸の内ビルの9階と10階にあり、米国のLinkedInやBox、イギリス発のSkyscannerなど海外企業も多数入居している。「グローバルビジネスハブ東京」は「EGG JAPAN」と連携することで丸の内の企業とのネットワークを活かし、入居する海外成長企業、ベンチャーキャピタルなどの専門企業、国内成長企業とのコラボレーションとネットワーキングを加速させるという。

また今回の取り組みの一環として、米国のベンチャーキャピタルファンドにLPとして出資したと発表した。SOZO Ventures、DRAPER NEXUS Ventures、500 Startupsの3本のファンドに出資する。これによりシリコンバレーとの接点を強め、スタートアップ企業の事業開発を支援する計画と三菱地所は説明する。

「グローバルビジネスハブ東京」の他にも、三菱地所は電通と電通国際情報サービスの3社協業事業として今年の2月、東京丸の内にFINOLABを開設している。FINOLABはフィンテックにおけるイノベーションが生まれる環境とエコシステムの創出を目指した施設だ。三菱地所はこういったビジネス支援施設を開設する意図として、自社テナントに誘致できる優良企業の発掘につながること、そしてすでに丸の内エリアに拠点を構える企業にとっての付加価値を提供するためと説明する。現在、丸の内エリアには4000社以上が拠点を置き、上場企業の本社数は92社に上る。そういった大企業の多くはオープンイノベーションに取り組んでいて、国内の先端ベンチャーや海外の成長企業も同じエリアに集まることは、各企業間の交流を生み、イノベーションの助けとなるだろうと話す。

「グローバルビジネスハブ東京」のオフィスは2名から20名とあるが、入居予定の企業リストを見ると、日本進出を目指す海外企業やある程度確立した国内ベンチャー企業が多いようだ。「グローバルビジネスハブ東京」はゼロから新しいアイディアが生まれる場所というよりは、成長ビジネスを大手企業とつないだり、国内と海外の架け橋となったりすることで事業の応援をする拠点という位置付けのようだ。大手町という立地からして、賃料的にも設立間もないスタートアップにとっては高嶺の花かもしれない。

 

Apple Payのウェブ版を公開、PayPalを追随

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オンラインショッピングはもっと楽になりそうだ。

今日、サンフランシスコで開催しているWWDCで、AppleはようやくApple Payのウェブ版を公開すると発表した。MacユーザーはSafariで「Apple Payで支払い」ボタンからオンラインで決済を行うことが可能となる。購入は、スマホかウォッチのTouch IDで認証する。

これまで、Apple Payは限定されたiOSアプリでしか使用することができず、使用できる物理的な小売店も限られていた。

ではどうやって認証するのだろうか?オンラインで決済をする時、AppleのContinuity機能で、スマホかウォッチに通知が送られる。そこで購入を完了させる認証を素早く行うことができる。スマホのTouch IDかすで認証済みのウォッチをタップすることで決済を確認し、その後ブラウザが自動で処理を行う。

小売パートナーは、チェックアウトの工程の中にApple Payを実装する必要があるが、Appleはすでに自社の決済プラットフォームに大量の小売店を乗せる交渉を済ませたという。

この動きは、AppleがPayPalの立ち位置に狙いを定めていることを示す。PayPalはウェブでの決済の王者だ。Apple Payの方がPayPalより早く決済がすみそうなことを考えると、現在PayPal決済を提供している多くのウェブサイトがカスタマーのためにApple Payを決済手段に追加することが考えられる。

Appleがアプリをショッピングのためのプラットフォームに変えようとしても、平凡な古いインターネットで多くのEコマースが発生していた。つまり、これまでAppleは買い物客の大部分に訴求できていなかったのだ。Apple Payをウェブに持ってくることで、Appleは新たな買い物客の層に決済手段を提供できる。アプリから買い物をしない人、そしてウェブで買い物を望む人にだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

ライセンス切れによるPayPalのトルコ撤退、数十万人に影響

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国内の技術事業に対する地域的支配を強めているトルコの新たな犠牲者となったのは、アメリカの大手オンライン決済企業PayPalだった。同社は、サービスライセンスの更新ができなかったことから、6月6日をもってトルコでの事業運用を中止すると発表した

PayPalはTechCrunchに対し、この事業撤退により数万社の企業と数十万人の消費者に影響すると語った。

広報担当者もTechCrunchに対して今回の撤退を認め、2回に分けて撤退の裏にある理由を明かした。

最初は、金融監督機間であるBDDKによるライセンス申請の却下についてPayPalのローカルサイトに掲載されたトルコ語のメッセージを忠実になぞった文書だった。

「残念ながら、Paypalがトルコでの事業を中止することになったことをお知らせします」と、同社の文書には述べられていた。「2016年6月6日付で、トルコのお客様はPayPalを利用した送金や金銭の受領ができなくなります。お客様は、引き続きPayPalアカウントにログインしてアカウント残高をトルコ国内の銀行に引き出すことができます」。

「PayPalは、お客様をサポートすることを非常に大切にしています。しかし、トルコにおける支払機間としてのライセンス申請が現地金融監督機間によって却下され、トルコにおける事業を中止するように指導があったため、トルコにおける支払い処理を中止せざるをえなくなりました」。

ライセンスが却下された理由を聞かれた広報担当者は、ITシステムがトルコにローカライズされることを求めた新しい規則が原因であるとした。PayPalは幾つかのグローバルハブにITを分散させている。

「当社のサービス撤退は、BDDKが監督する新しい国家規則により、PayPalがITシステムを完全にトルコ向けにローカライズすることを求められた結果です」と、広報担当者は言う。「PayPalは、国内でITインフラを展開させたいというトルコの意思を尊重しますが、200以上の市場で運用されているグローバルな支払いプラットフォームを利用しており、単独国家において専用の技術インフラを持つローカルな支払いプラットフォームを保持してはいません」。

2015年に親会社のeBayから独立し、現在は460億ドルの資産価値があるとされるPayPalが、世界に何個のデータセンターを持っているのか、あるいはトルコの事業を扱っているのがどこのハブなのかは明らかになっていない。現在同社に質問中であるため、詳細がわかり次第アップデートする。

ここ数ヶ月、技術に関連してトルコが話題になっているが、特にポジティブな理由からではない。4月には、トルコ国民およそ5000万人分(全人口8000万人の過半数)の個人データがオンラインで流出した。これはデータを公表することでトルコのITインフラの老朽化を強調し、この問題についてレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とその技術政策を非難しようとする、ある活動家(あるいは複数の活動家)の仕業とみられる。

もちろん、単純に技術の話というわけではない。トルコはテロ攻撃の標的となっており、それがエルドアン大統領の鉄拳制裁アプローチを正当化する理由となると考える人たちもいる。

エルドアン政権は、前任者たちよりも技術分野での支配力を強めようとしており、現在までのところ、特にその動きが顕著な分野がソーシャルメディアである。TwitterFacebookRedditなどのサイトは、ポルノ、ドラッグ、テロリズム、違法なファイル共有、その他トルコの初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクに関するネガティブまたは疑義のあるコンテンツをホストするサイトをブロックする権限を監督官に与えるトルコの検閲法の対象となっている。

Twitterは、削除要請を拒否したツイートについて支払いを求められている罰金について抗議するため、トルコに対する訴訟を起こすに至っている。

TechCrunchでは、引き続きこの話題について他の企業に影響があるか、あるとすればどのようなものかを監視していく。PayPalの現地競合企業であるIyzicoは、現在もサービスを提供中である。

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(翻訳:Nakabayashi)

五輪選手が試合後すぐに買い物できるよう、VisaがNFC対応の決済リングを提供へ

XXXX on Thursday, June 2, 2016, in New York. (Charles Sykes/AP Images for VISA)

2016年リオ五輪に向かう選手の必要品リストにこの端末があったとしても、それはリストの大分下の方に位置しているだろう。けれど、VisaはVisaだ。Visaは人がいるところにあり、人生では頻繁にVisaを使う。

クレジットカード大手は、 NFC対応の支払いができるリングをTeam Visaのアスリートに提供する。きっと空気力学を考慮した陸上選手のユニフォームに物をたくさんに入れるポケットがないという課題にインスパイアを受けて開発した端末に違いない。

リングはバッテリー駆動で防水加工をしてある。ということは、Team Visaのアスリートで、金メダルをロンドンで獲得したメリッサ・フランクリンもプールから直行し、すぐにリングで支払いができるということだ。現実には水の中で誰もリングを着用しないだろうが、疲れた五輪選手が、汗を拭くより前にスタバへと直行して飲み物を買うことができるというのは良いことかもしれない。

モバイルでの支払いを支援するため、Visaは4000個のNFC対応のPOSターミナルを会場周辺に導入する。五輪は8月5日から開催予定だ。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

Tally、クレジットカード利用をより賢く快適にするアプリの開発に1500万ドルを調達

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サンフランシスコを拠点にするTally Technologiesは、クレジットカードの管理支援用アプリの立ち上げの為、1500万ドルの資金をシリーズAのラウンドで獲得した。このアプリはユーザーが良好なクレジットヒストリーを維持し、余計な手数料やペナルティーなどクレジットカードに付きものの忌々しい支出を回避する手助けをしてくれる。 Shasta VenturesがシリーズAのリードインベスターとなり、以前から参加しているCowboy VenturesAITVの他、Silicon Valley Bankも出資している。

Tally CEOで共同設立者のJason Brownによると、Tallyはもう1年以上ステルスで操業しており、このアプリを使ったサービスのベータテストは既に3ヶ月ほど進行中ということだ。

Brownによると、Tallyのアプリの利用手順は以下の通りだ。ユーザーは自分のクレジットカードを全部Tallyに読み込み、簡単なクレジットスコアのチェック後、Tallyのクレジットラインから買い物の請求を支払うことを承認する。

「アメリカの成人のほとんどは個人のクレジットカードを複数枚所持しています」とBrownは言う。「一人平均3.7枚です」。そして、アメリカ中で、少なくとも10家庭のうち4家庭の割合でクレジットカード残高の繰り越しが行われており、遅延料と付随する利子を支払う羽目になっている。

8名で運営してるTallyは、遅延料や手数料の問題に取り組む一方で、クレジットカード会社が設定する平均的APRよりさらに低いAPRを提供する。仮にTallyの顧客が、そのクレジットラインを使って購入した代金の支払いを期限内に行わなかった場合、Tallyは自社のAPRに準じて収入を得る。しかしその場合でも、Tallyに支払う料金は、元々のクレジットカード会社に支払ったであろう料金よりも低くなることを保証するという。

これまで、Cowboy Venturesは200万ドルを集めたシードラウンドでリードインベスターを務めた。Cowboy VentureのAileen LeeとShasta Venturesの常務であるSean FlynnはTallyの取締役会のメンバーも務めている。Flynnは、TallyがシリーズAの資金を使って、サービスの認知を広めること、そしてアプリを段階的に展開し、ユーザーを獲得することに期待しているとした。

Tally cofounders (L-R) Jasper Platz and Jason Brown.

Tally共同設立者Jasper Platz(左) と Jason Brown(右)

Tallyはクレジットラインを確保するために資本金を調達する必要がある。そのためにはTallyは自社の顧客の信用リスクが低いことを証明し、金融業界と良い関係を構築する必要がある。

Shastaは、社の方針としては、いわゆる新興系のピアーツーピア方式の貸付業態からは距離を置いている。ピアーツーピア方式はLending ClubやProsperが採用しているが、これらの会社は現在捜査を受けており、会社の成長は思わしくない

Flynnによると、Tallyは他のノンバンク系金融サービス会社とは一線を画しているということだ。Tallyのサービスは人々の日常生活における利用を想定しており、大学に行ったり家を買ったりといった人生の一大イベントでローンを組むとき以外にも日常的な利用が見込まれる。

「複数のクレジットカードを使っていると様々な問題が起こり、その結果手数料やペナルティーが発生してしまいますし、一体どれから払ったら良いのかさえ分からなくなります」とFlynnは言った。「Tallyのアプリの恩恵を受ける人は沢山いるでしょう」。

しかしながらTallyは、(ピアーツーピア方式の)新興系スタートアップ企業が先に成功を収めたことからの恩恵も受けている、とBrownは言う。

「投資家たちはノンバンク系企業が貸付資産を新規創出することに違和感を感じなくなりました」とBrownは言った。「そして、そのおかげで金融機関はスタートアップたちとAPIや他の新しい技術やシステムを介して協働することにも慣れてきたのです。」

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(翻訳:Tsubouchi)

Fintechは金融ビジネスを一変させる―2016年の予測、トップ4

2016-02-26-crystalballmoney

「ユニコーン」〔評価額10億ドル以上のスタートアップ〕やGrexit/Brexit〔それぞれギリシャ、英国のユーロ圏離脱〕に加えて「フィンテック(Fintech)が2015年の金融ビジネスのバズワードのトップ10 にランクインしているという。

しかし他の単語と異なり、フィンテックはこのリストへの新顔ではない。またそれには十分な理由がある。ここ数年でフィンテック企業は金融ビジネスの 周辺からメインストリームへと成長した。フィンテックはテクノロジーを利用して新しい金融プラットフォームを構築しようとしれている。目的は消費者に従来よりも優れたユーザー体験を提供することにあり、消費者反応を示しつつある。

私はフィンテックを利用した金融スタートアップ、CommonBondの共同ファウンダー、CEOとしてこの変化を間近に見てきた。この特等席から見れば、金融ビジネスに根本的なシフトが起きていることが分かる。

今年(またそれ以降)フィンテックが金融ビジネスにどのような影響を与えるかについての私の予測のトップ4は以下のとおりだ。

資本の重要性が増し、最良のプレイヤーに集中する 壮大なアイディア、いくつかのバズワード、よくできたパワーポイントのスライドを武器とした昨年のフィンテック企業には今年も来年以降も資金が集まりそうにない。資本は大量に存在する。しかし誰もがそれを得られるわけではない。信頼性のあるプロダクトの開発に成功し、消費者の信頼を得られるようなブランドを築いた企業には必要とする自然と資本が集中する。

登場しつつあるフィンテック市場では大型の貸し手が優位だ。ビッグ・プレイヤーはますます強くなり、小さい企業は大きい企業の傘下に入るか消え去るかとなるだろう。フィンテックを利用する融資を専門とする企業は200社もあるが、その中で生き残るのはトップ20社程度だろう。これは市場の健全化のためにはいいことだ。

有力テクノロジー企業が金融ビジネスに参入する それがどの企業となるか名指しする用意はないが、 2016年はそういうことが起きてよい時期だ。ファイナンスはわれわれ全員の生活に直接関係を持つ。しかし伝統的なファイナンス企業のテクノロジーは古臭く、現代化への動きは遅い。むしろ消費者の方がテクノロジーの進歩に対してオープンであり、現在かじられている問題点が解決されることを期待している。

The Millennial Disruption Indexのアンケート調査によれば、ミレニアル世代の73%は現在取引している銀行の新商品よりも、Google、Amazon、Apple、PayPal、Squareなどから新しい金融サービスが登場した場合の方がはるかに大きな興味を持つという。

フィンテックの動きは速い。しかもますます加速するだろう。

テクノロジー企業はさらなる成長の道を探しており、同時にわれわれの生活でテクノロジー企業の重要性は増す一方だ。. FacebookやGoogleはユーザーに関する膨大な情報を握っている。Appleは2000億ドル以上のキャッシュを持っている。この金額は金融ビジネスの貸し手側としてすぐにも2兆ドルの資産価値生み出すのに十分だ。

これを伝統的金融ビジネスと比較してみよう。 JP Morgan Chaseグループはアメリカ最大の資産を持つ銀行だが、その価値は2兆6000億ドルだ。金融ビジネスのバックボーンは資本とデータだが、巨大テクノロジー企業にはその双方が高いレベルで存在する。しかもテクノロジーで最先端の能力がある。

伝統的巨大銀行はジリ貧を続けるか、フィンテック企業と提携する おそらくそういうことになるだろう。一部の関係者には不快な驚きかもしれないが、今となれば必然のコースだ。自動運転車とと同様、テクノロジーはすでに存在する。そして市場圧力は何ももってしても押しとどめることはできない。

アメリカでは人口動態上、ミレニアル世代が最大のグループであり、9000万人に達する。若く、しかも購買力も増加中だ。にもかかわらず、ミレニアル世代の71%は「銀行と取引するのは歯科の治療を受けるより不愉快」だとしている。31%は銀行を使わずにすむようになると期待しており、その代わりに巨大テクノロジー企業が金融サービスを提供してくれるだろうと考えている。

ミレニアル世代の71%は「銀行と取引するのは歯科の治療を受けるより不愉快」だとしている

Aそして現に金融ビジネスの市場はその方向に動いている。融資、資産管理、支払などの各分野でProsper、Betterment、Affirmなどの新顔がテクノロジーを武器に市場に参入し、急速にシェアを広げつつある。成功の原因はこうしたスタートアップが伝統的金融機関より消費者のニーズに敏感であり、対応が柔軟で迅速だからだろう。

JP MorganのCEO、Jamie Dimonもこうした事態を非常に正確に認識している一人だ。このことは同グループがスモール・ビジネスへの対応を改善するために最近OnDeck Capitalと提携したことにも現れている。また JP Morganはテクノロジー金融スタートアップのLending Clubのローン、10億ドル分を購入している。

「アンバンドリング」のトレンドは一転して巨大な「リバンドリング」の波に変化するだろう CB Insightsのこのチャートは私のお気に入りだ。Wells Fargo銀行のホームページのスクリーンショットに、学資ローンから保険や資産管理まで、伝統的金融ビジネスのあらゆる部分を代替しつつあるフィンテック企業のロゴが無数に重ねられている。このトレンドは一般に銀行業務の「アンバンドリング〔個別機能への解体〕」として知られている。

しかし私自身はこの「巨大なアンバンドリングの波」は、テクノロジーを統合の力として、今後は「巨大なリバンドリングの波」に逆転するだろうと見ている。般にフィンテック企業は一もっとも得意とする単一の業務に特化してスタートする。

フィンテック企業が特定分野で成功したした後、他分野に水平に業務を拡大するとすれば、それが「リバンドリング」だ。フィンテック企業のリバンドリングは、うまく実行されるなら、伝統的銀行よりも消費者の期待によりよく応えられると思われる。その理由の大きな部分は、消費者のニーズを重視する点に加えて、優れたテクノロジーをシームレスに活用できる点にあるだろう。

フィンテックの動きは速い。しかもますます加速するだろう。そして勝者がますます強くなる年になる。しかしこれは消費者も含めて金融市場にとって良い方向だろう。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

フィンテックは金融ビジネスの根本的改革者になれるか?

NEW YORK, NY - DECEMBER 21:  People walk along Wall Street on December 21, 2015 in New York City.  The Dow Jones industrial average was up over 100 points in morning trading following Friday's huge drop as the price of oil continued its yearly fall.  (Photo by Spencer Platt/Getty Images)

Lawrence Uebel はAlliance Dataで信用リスクの分析を行っている.

『マネー・ボール』の著者、マイケル・ルイスの新しいノンフィクションは 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』としてブラッド・ピットらによって先ごろ映画化された。

あるレビューはこの映画から、2008年の金融危機に際して「家賃をきちんと払っているにもかかわらず、家主が債務の支払いを滞らせているというだけの理由で借家人たちが家から路上に叩き出されているl.というセリフを引用していた。

このエピソードはわれわれの金融システムがいかに不完全であり、かつ根本的に不公正であるかを印象的に描き出している。

なぜわれわれはこうしたシステムを必要としているのだろう? アメリカ人は銀行家のやり口を弁護士のやり口と同様によく知っており、毛嫌いしている。だが必要になれば彼らに頼るしかない。

ベストセラー、Other People’s Moneyの中で経済学者のジョン・ケイは「金融とは貸し手と借り手を適切に組み合わせ、貯蓄は投資として有効に活用されねばならないという社会の根本的な要請によって存在する」と書いている。つまり個人の資産を生涯にわたって管理可能とすると同時に、資産の運用に必然的に伴うリスクを軽減し、支払いのシステムとしては売買や賃金、報酬の支払いを容易にする。

金融ビジネスのこうした側面は一般消費者、会社経営者のよく知るところであり、そのメリットもまた明白だ。

しかし金融ビジネス全体にとってはこうした有用な活動は極めて小さい部分をなすに過ぎない。全体としてみると、ジョン・ケイが書いているように、「金融機関は、想像力の限界を試すかのように、相互に取引する」ことを本業とするにようになる。

金融ビジネスのこの部分がウォールストリートにカジノ賭博のイメージを重ねさせる主要な原因だ。ウォールストリートのプレイヤーたちの突拍子もない行動はマイケル・ルイスの別のノンフィクション、『フラッシュ・ボーイズ-10億分の1秒の男たち』〔文藝春秋〕に詳しく描写されている。トレーダーたちはある種の取引においては処理時間を極小化することでリスクなしに巨額の利益を手にできる。

フィンテックは自らをその鏡像のような存在に転化させるべきときが来ている

CDO〔collateralized debt obligation、債務担保証券〕がビザンチン宮廷風の陰謀として描かれ、悪名を高めたのは2008年の金融危機で決定的な役割を果たしたからだ。金融ビジネス関係者―われわれが老後の資産を預けるほど日頃頼りにしているその人々―が、かくも強い毒を含んだ仕組みを考えだし、その毒が存分に発揮されるような運用をしたという事実にはぞっとさせられるものがある。

ただし明敏な観察者なら、一般の人々にメリットをもたらす金融活動と有毒な金融活動ははっきり区別できるというだろう。金というものは、要するに、なんらかの価値に関する情報であり、誰がコントロールしているのかが重要だ。鳴り物入りの大騒ぎを別にして金融ビジネスのその側面を考察するなら、日常生活に不可欠の活動も含めて、情報テクノロジーとの親和性が極めて高いことが容易に見てとれるだろう。

しかし現在の金融ビジネスが非効率であり不公正な結果をもたらすことがあるからといって、それらが情報テクノロジーが改善すべき点だと考えるなら大きな間違いを犯すことになる。金融ビジネスで破壊的改革が求められているのは単なるアルゴリズムではない。金融ビジネスは以前から数学に強かった。それどころか数学者に最高給を支払ってきたのは金融ビジネスだった。金融機関の情報インフラもまた最大級の規模だ(ただし、新システムへの置き換えを深刻に必要としている)。

金融セクターがもっとも必要としているイノベーションは一般ユーザーの「どういう方法かは分からないが自分はカモにされている」という感覚をなんかしなければならないという点だ。なぜならこの感情がよって来るところは金融機関がリスクを分散する手法(その中にはもちろんビジネスとして不可欠な正当なものも多く含まれる)にあるからだ。この手法たるや、やむを得ない面もあるとはいえ、通常きわめて複雑怪奇なものになりがちだ。しかし複雑怪奇さは金融サービスに不可欠の要素などではない。この不必要な複雑怪奇さが、真面目に家賃を払っている人々を家から追い出し、路頭に迷わせるような不公正の原因をなしている。われわれはこうした不公正さを必要としていない。

フィンテックと呼ばれる高度な金融情報テクノロジーはまだ誕生したばかりのセクターだ。しかしフィンテックはそれ自身を軸として自らをその鏡像のような存在に転化させるべきときが来ている〔訳注〕。フィンテックに流れ込む資金は巨大だ。企業は自らがそうありたいと望むビジネスの本質とそれによってどんな根本的な便益が提供されるのかをはっきり決めねばならない。すでにそれらを決めた企業が現れているが、それがフィンテックの本質に合致しているかは別問題だ。

たとえばSindeoだ。このシリコンバレーのスタートアップは当局による規制のゆるい金融セクターで資金の貸し手となろうとする企業ならではの驚くべき感情を公言している。同社は「われわれわれは『やればできる』精神の産物だ。やってみて、うまくいくようなら、それから合法化を考えればいい」と述べている。多くのフィンテック企業が矢継ぎ早に発表する商品を観察すると、その多くは債務と証券を複雑な方法でバンドルしたもので、あまりにもサブプライム危機の原因となった住宅抵当証券に似ているという多くの専門家の観察はおそらく正しいだろう。

こういったアプローチはどれも金融の根本的な改革につながるもではない。こうした人々は2008年に馬脚を現した住宅抵当証券の強引なセールスマンと同じ種族であって、違いといえばウェブサイトが当時より優れていることぐらいだ。

規制当局はすでにフィンテックに重大な関心を寄せている.

経済学者のジョン・ケイはフィンテックに参入しようとする人々に良いアドバイスを与えている。「信用力の弱い証券と返済能力に疑念のある借り手の組み合わせは単にそういうものに過ぎない。それを改善できる錬金術などは存在しない」。金融セクターにどれほど新しいテクノロジーが導入されようと、昔も今も将来も、金融の実体は決して変わりはしない。

それとは逆に、Earnestのようなビジネスも現れている。 Earnestも債務の証券化を目的としているが、健全なビジネスプランに基いて、テクノロジーによってそれを論理的に進化させる方法を論じている。債務の買い取りや返済を障害のより少ない体験にしようというのがその目的だ。

もちろんEarnestなどのスタートアップの活動はまだメディアの記事の中が主だ。長期的に維持可能なビジネスプランであるかどうかの保証はない。それでもメディアがスタートアップの文化を正しく伝えているなら、Sideoのような企業ではなく、Earnestのような企業が結局は金融ビジネスに必要な根本的変革をもたらすものだと期待したい。

規制当局はすでにフィンテックに重大な関心を寄せている。当局の専門家はアルゴリズムから実際の取引行為まですべてを精査中だ。本質的に不健全なビジネスがこの精査に耐えて生き延びる可能性はごく少ない。そして長期的にみるなら、そういう商品の買い手も生き延びることはできないだろう。

ただリスクはフィンテックの外からもやって来る。 最近のフィンテック企業と大手銀行の提携やストレートな買収のラッシュはフィンテックのファウンダーの多数を富豪にするという別のリスクを顕在化させた。こうしたファウンダーたちはきわめて満足のいくトレンドと考えるだろう(そして当然ながらそれを責めることはできないが)。しかしフィンテックが銀行に吸収されることは、あれほど非難の対象となった銀行による不愉快な取引慣行にフィンテックが組み込まれる可能性が高まることを意味する。

フィンテック・スタートアップにとって、まさにこの点が最大のリスクだ。フィンテックが金融ビジネスの既存のツールにとって変わることなく、それに同化してしまえば、何のイノベーションにもならない。われわれ一般人の立場からすれば、フィンテック関係者が巨額の小切手を受け取るとき、一瞬でも立ち止まって、社会の利益に思いを馳せ、自分たちが会社を興したそもそもの目的がこれであったかどうかを反省する瞬間を持つよう切に期待するものだ。

画像: Spencer Platt/Getty Images

〔日本版〕原文は something of a reflection pointとなっている。原文コメント欄ではinflexion pointのタイプミスだろうという意見と、このままでよいという意見が対立している。inflexion pointは数学用語で変曲点(3次曲線などが増加から減少、あるいは減少から増加に転じる点)だが、relfexion pointであれば鏡像的対称の軸となる点を意味する。ここでは原文のまま訳した。

[原文へ] 

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+