【コラム】社外取締役を務めるCEOが減少しているトレンドには、良い面も悪い面もある

編集部注:本稿の著者であるBJ Jenkins(BJ・ジェンキンズ)氏は、クラウド対応のセキュリティおよびデータ保護ソリューションのプロバイダであるBarracudaのCEO。また、SumoLogicGenerac Power Systemsの取締役会のメンバー。

ーーー

米国の企業では従来、双方向的な関係が盛んに行われていた。CEOは経験を広げ、影響力を拡大するために、あるいは単に良い気分がしたという理由から、他の企業の取締役会に加わっていた。取締役会がCEOを求めたのは、CEOがもたらす知識と、自社のCEOと対等に交流できる独特の能力を備えているからだ。

しかし、社外取締役の数は減り続けている。CEOの役割がより困難かつ要求の厳しいものになるにつれて、最高経営責任者の多くが社外取締役の役割を敬遠するようになり、また現在では多くの取締役会がCEOの取締役のアサインを制限している。

経営コンサルティング会社Korn Ferryのレポートによると、パンデミックによりこのトレンドが加速したという。同レポートでは「パンデミックによる前例のない要求により、多くのCEOが社外取締役を辞任し、自らの組織に専念するようになったことを示すエビデンス」を挙げている。現在、社外取締役に就任しているCEOは半数に満たないという。

同時に、多くの企業が取締役会にジェンダーや人種の多様性を取り入れることへのプレッシャーを感じており、これまでよりも幅広い候補者層にメンバーシップを提供している。

CEOの取締役会への参加が減少したことは、ポジティブなことなのか、それともネガティブなことなのか。興味深いことに、その両方である。

ここでCEOが取締役会で仕事をするメリットを4つ紹介しよう。

他の企業に助言することは、より良いCEOを生み出すことにつながる。自分自身の肥大化を恐れて取締役会の役員職から遠ざかるCEOや、同様の理由でCEOの取締役のアサインを制限している取締役会は、重要なポイントを見落としている。取締役会に時間を割くことで、より良いリーダーが育つのだ。

筆者は2社で社外取締役を務めている。他社の課題と機会、その盛衰、どの戦略が効果を発揮し、どの戦略が機能しなかったのかを内部で観察することで、自身の会社での適用につながる洞察が得られている。テーブルの反対側にいることが、自社の取締役会とのコミュニケーション方法についての理解を深めることにつながっている。

取締役会での役割を務めることで、近視眼的な視点に陥るのを防ぐことができる。デジタル破壊により、企業は競争力を維持するために前例のないペースで進まなければならない。最高経営者の第一の仕事は、会社の中で毎日この現実に取り組むことだ。しかし、自分の会社の経験だけを頼りにすれば、リーダーとして外の世界に向けた広い視野を持てなくなる。取締役会での職務は、それを確実に得るための秀逸な手段となるものだ。

取締役会のメンバーになることで、CEOは共感力を高めることができる。昨今、経営幹部レベルの役職の共感力を強化する必要性について多くの議論がなされているが、それには正当な理由がある。世界的な健康危機、人種的不正義、その他の重大なストレス因子には、McKinseyがいうところの「危機を管理し、組織を危機後のネクストノーマルに導く」4つの資質、すなわち意識性、繊細さ、共感力、思いやりを上級幹部が備えることが求められている。

このような時代にあって、CEOが可能な限り広範なレファレンスの枠組みを醸成することは極めて重要であり、取締役会を通じた他社との関与がそれを達成するのである。

他の企業を支援することは、より広がりのある利益を創出する。CEOが自分の会社の責任を超えて、他の会社の取締役会に価値をもたらす手段を有しているなら、それは世界全体にとってポジティブなものとなる。つまり、上げ潮はすべての船を持ち上げるのだ。

例えば、筆者が取締役を務めている会社は、かつては家庭用予備発電機の製造に専念していた。今ではデジタルにも対応しており、ユーザーのスマートフォン上でさまざまなサービスを提供する、Wi-Fi内蔵の発電装置をてがけている。筆者の専門分野である強力なサイバーセキュリティ戦略も求められるということだ。自分のガイダンスが会社、株主、顧客に恩恵をもたらすと確信し、充足感を覚えている。

それでは、CEOの取締役の数が減少したことがもたらす利点は何であろうか。その答えは簡単だ。CEO以外の人々や、女性や有色人種を含む伝統的に過小評価されてきたグループにとって、取締役会に加わる機会が増えることだ。

「あまり認知されていないが注目に値するシフトにおいて、多くの企業がコーナースイートをスキップし、別の場所で取締役を探している」とKorn Ferryは報告している。「最近のデータが示すところでは、2020年に就任した400人余りの取締役のうち、3分の2近くがCEO以外の人物によって占められている。専門家によると、企業は2020年に起きたパンデミックおよび人種平等の抗議活動を受けて、より多様な面を持ち、より具体的なスキルセットを備えた取締役会を作り上げる決意を固めている」。

Equilarが最近発表したジェンダー・ダイバーシティ・インデックスによると、2021年第1四半期末のRussell 3000企業における全取締役席に占める女性の割合は24.3%で、2016年末の15%から増加した。「上場企業の取締役会における男女の平等な構成への道筋は、何十年にもわたり行き詰まりを見せていたが、近年は顕著な改善を示している」とレポートには記されている。(とはいえEquilarは、2032年まで取締役会がジェンダー平等を達成することはできないだろうと警鐘を鳴らしている。)

CEO以外の取締役の多くはすばらしい仕事を遂行している。スタンフォード大学のRock Center for Corporate Governanceが行った調査によると、取締役の79%が、実際面において、現職のCEOたちがCEOではない取締役たちより優れているとは感じていない。CEOは取締役会に威信をもたらすかもしれないが、多くの非CEOが取締役としての実質的な仕事に貢献していると同調査は伝えている。

取締役会の多様性の増大は、それ自体が優れた進展というだけではない。取締役会の経験を持つことで、将来のリーダーとしての役割を担うメンバーをうまく配置し、より多くの女性や有色人種をコーナーオフィスに迎え入れるための代理人としての役目を果たすことができる。

Fortune 500企業のCEOの90%近くを占める典型的な白人男性CEO以外にも、幅広い層の候補者が取締役会のメンバーになることは、ビジネスリーダーの多様性が高まり続けることを期待させる。

総合的に考えて、このポテンシャルは、社外取締役を敬遠するCEOが増えることのネガティブな面を補って余りあるものだと思う。

関連記事
【コラム】「脳の多様性」を活用してサイバーセキュリティのスキルギャップを解消する
創業者が資金調達中にメンタルヘルスを管理する10の方法
【コラム】21世紀型の搾取となっている「ギグエコノミー」

カテゴリー:その他
タグ:コラムCEO

画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

原文へ

(文:BJ Jenkins、翻訳:Dragonfly)

中国語パソコン1号機を実現した技術者魂、限られたメモリに数千の漢字を詰め込むためSinotype IIIの発明者は限界に挑む

中国は、今や世界で最も裕福なデジタル経済大国の1つとなった。ハードウェアのサプライチェーンは他の追随を許さず、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)、ByteDance(バイトダンス)など、莫大な利益を上げている超一流企業が世界で主導的な役割を果たしている。しかし、このような最先端のイノベーションは、40年前にさかのぼる「中国語ワープロの開発」という、コンピューティングの大きな課題に対するソリューションの上に成り立っている。

1980年代初頭、中国は米国や欧米からのコンピューターの購入を飛躍的に伸ばした。1980年には600台しかなかった外国製マイクロコンピューターの輸入が、1985年には13万台にまで増加した。当時、日米欧の企業は、この「爆買い」にあやかろうと躍起になったものだ。

しかし、中国のコンピューターユーザーにとっても、欧米のメーカーにとっても、大きな問題があった。それは、欧米のパソコン、プリンター、モニター、OS、プログラムなどが、漢字の入出力に対応していなかったことだ。1980年代前半から中盤にかけて「そのまま」では、まったく使えなかったのだ。大量生産されたパソコンは、大がかりな改造をしない限り、中国語での処理をしたいユーザーにとっては、事実上、役に立たなかった。

最も重要な理由の1つはメモリの問題、特に中国語フォントを格納するためのメモリ容量が不足していたのだ。アルファベット用のコンピューターが登場したとき、欧米のエンジニアやデザイナーは、英語のフォントは5×7のビットマップグリッドで表現できると判断し、記号1つにつき5バイトのメモリしか必要としなかった。このグリッドは、見た目には美しいとはいえないものの、コンピューターの端末や紙の印刷物にアルファベットの文字を読みやすく表示するのには十分な解像度を備えていた。米国のASCII規格の95文字を格納するのに必要なメモリは475バイトで、これは例えばApple II(アップル・ツー)の当時のマザーボード上のメモリ48KBに比べればごくわずかだ。

しかし、漢字を最低限読めるレベルで表現するには、5×7のグリッドでは小さすぎた。中国語のビットマップフォントをデザインするには、アルファベットのグリッドサイズである5×7ピクセルから16×16ピクセル(256ピクセル)以上に幾何学的に大きくする、つまり漢字1文字あたり32バイト(256ビット)以上のメモリを搭載する以外方法はなかった。漢字のビットマップだけでも(簡体字、繁体字のどちらの場合も。ただし両方同時ではなく、メタデータも含まず)最もよく使われる8000の中国語の文字を格納するには、合計約256KBのメモリが必要となり、これは1980年代初頭に一般に市販されていたパーソナルコンピューターの総メモリ容量の4倍にも及んだ。しかもこれは、オペレーティングシステムやアプリケーションソフトウェアに必要なメモリを考慮する前の話だ。

デジタル入力に向けて用意されたSinotype III用中国語フォントの手書きビットマップ(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

こういった背景から、現代のコンピューティングにおける偉大なエンジニアリングの歴史の1つが生まれた。ここでは、果敢な起業家魂とエンジニアリングの創意工夫がもたらしたデジタル革命の世界的発展をユニークな視点で描いていく。

この記事は、TechCrunchに掲載する2つの記事のうちの1つで、中国語の入出力が可能な最初のパーソナルコンピューターとなる実験機Sinotype III(サイノタイプ・スリー)について調査したものだ。サイノタイプIIIは、市販のアップルIIをベースに、独自に開発したワープロソフトウェアとOSを実装したもので、欧米製のコンピューターを中国語に「翻訳」することで、新しい巨大市場の開拓に向けた「概念実証」の役割を果たした。

前編では、サイノタイプIIIの開発者らが直面したコンピューターのメモリ、フォント、OSなど、深刻な技術的課題と、それを克服するための斬新なソリューションを生み出した過程を見ていく。

「差し迫った仕事があるはずもない、ほやほやの新卒社員の図太さ」

このエピソードは、チャイニーズ・コンピューティングの原点ともいえるGraphic Arts Research Foundation(GARF、グラフィック・アーツ・リサーチ・ファウンデーション)から始まる。1950年代後半、MITの電気技師Samuel Hawks Caldwell(サミュエル・ホークス・コールドウェル)氏は、GARFの資金提供を受けて「Ideographic Composing Machine(イディアグラフィク・コンポージング・マシーン)」通称「Sinotype(サイノタイプ)」を発明した。1960年に同氏が若くして亡くなり、プロジェクトは暗礁に乗り上げたが、1960年代から70年代にかけて、Itek(アイテック)、RCA(アール・シー・エー)、そしてやはりGARFなど、いくつかの団体によってサイノタイププロジェクトは受け継がれた。

1950年代後半、サミュエル・コールドウェル氏が設計したSinotype Iのキーボード(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

サイノタイプの里帰りには、1人の男の存在が大きかった。Louis Rosenblum(ルイ・ローゼンブラム)氏だ。1921年にニューヨークで生まれた同氏もまたMITファミリーの1人で、1942年に応用数学の学士号を取得して卒業した。電気工学の教授として世界的に有名なHarold Edgerton(ハロルド・エジャートン氏、1930年代に有名な「ミルククラウン」の写真を撮影した人物)に師事したローゼンブラムは、卒業後すぐにPolaroid(ポラロイド)に就職し、Edwin Land(エドウィン・ランド)氏とともにインスタント写真の開発などさまざまなプロジェクトに携わった。1954年にはPhoton(フォトン)に転職し、非ラテン語系文字の写真植字に取り組んだ。ローゼンブラム氏は、故コールドウェル氏のサイノタイプの先駆的な取り組みに詳しかったため、このプロジェクトを効果的に採用し、1970年代半ばにGARFにコンサルタントとして参加した際に、このプロジェクトを復活させた。

Nova 1200(ノヴァ1200)のCPUで動作するSinotype IIシステムの構成図(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

GARFは、1980年代初頭においてもサイノタイプ・プロジェクトを継続しており、それまでに中国に精通した学者や著名な学者を顧問として迎えていた。ハーバード大学の言語学者であるSusumo Kuno(久野暲)氏や、1972年のRichard Nixon(リチャード・ニクソン)元米国大統領の訪中で重要な役割を果たしたことで知られ、当時RAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学部門の責任者だったRichard Solomon(リチャード・ソロモン)氏などが参加した。

しかし、この顧問団に劣らぬ輝きを放つ新星によって、サイノタイプ・プロジェクトは大躍進を遂げる。1979年にGARFでサイノタイプIIプロジェクトのデータ管理に2週間携わっただけの大学生の参加がきっかけとなり、サイノタイプは、ミニコンピューターベースのシステム(Sinotype II[サイノタイプ・ツー])からマイクロコンピューターベースのシステム(サイノタイプIII)へと大きく前進したのだ。その大学性は、ルイ・ローゼンブラム氏の息子、Bruce Rosenblum(ブルース・ローゼンブラム)氏だ。

サイノタイプIIIシステムを使用するブルース・ローゼンブラム氏(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

ペンシルバニア大学でフォトジャーナリストを目指していたブルース氏は、学業と、学生が運営する独立系新聞「Daily Pennsylvanian(デイリー・ペンシルバニアン)」のフォトエディターとしての役割を両立させていた。この新聞は、使用する機材や担当する学生の深い専門知識の面で、非常に先進的なものだった。

ブルース氏が3年生の秋に、既存の植字機(Compugraphic[コンプグラフィック]製の植字機2台)が寿命を迎え、交換が必要になった。ブルース氏は同僚の学生3人と一緒に、代替機の調査を行い、最終的に2社と総額12万5000ドル(当時約2800万円)の契約を結んだ。カンザス州Wichita(ウィチタ)のMycro-Tek(マイクロ・テック)とマサチューセッツ州Wilmingto(ウィルミントン)のコンプグラフィックだ。

サイノタイプ・プロジェクトについては、ブルース氏は父親のおかげでよく知ってはいたものの、自身はまったく関与していなかった。しかし、1981年5月初旬、重要な転機が訪れる。期末試験を終えたばかりのブルース氏は、新聞社のオフィスを訪れた。そこには同僚のEric Jacobs(エリック・ジェイコブス)氏がいて、RadioShack(ラジオシャック)で買ったTRS-80 Model II(ティー・アール・エス・エイティ・モデル・ツー)というマイクロコンピューターと格闘していた。ジェイコブス氏は、このマイコンを新聞社の運営に利用する方法を考えており、ブルース氏は、その様子を30分ほど観察した後、自分の仕事に戻った。

しかし、この30分がブルース氏の心を掴んだ。「マイクロコンピューターを扱う人を見たのは初めてだった」とブルース氏は著者への電子メールで述べ「この30分に感化されてサイノタイプIIIのプロジェクトを開始し、最終的にコンピューターの世界に入ることになった」と語る。

その週末、ブルース氏は父親との電話でちょっとした思い付きを話した。ブルース氏は、サイノタイプIIの製作に使用していたData General(データ・ジェネラル)製のハードウェアに対してGARFが莫大な費用をかけていたことに触れ、マイクロコンピューターであれば同等以上のプログラムを作ることができるのではないかと勧めたのだ。当時、GARFが支出していた10万ドル(当時約2200万円)以上に対して、1万ドル(同約220万円)程度に抑えられることになる。

父親のルイ氏も強い関心を持ち、ブルース氏にそのような機械のプログラミングができるかどうか尋ねた。ブルース氏は、コンピューターサイエンスの正式なトレーニングは受けていなかったが、高校時代にコンピューターに親しみ、PDP-8(ピー・ディー・ピー・エイト)のアセンブリ言語とBASICを独学で学んでいた。「差し迫った仕事があるはずもない、ほやほやの新卒社員の図太さ」ゆえ、同氏は父親の問いに「もちろん」と答えた。

ブルース・ローゼンブラム氏は、世界旅行の間も、ニューデリーで入手したメモ用紙などを使って、サイノタイプIIIプロジェクトを進めた(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

1981年6月、ブルース氏はニューヨークでBill Garth(ビル・ガース)氏、Prescott Low(プレスコット・ロー)氏、そして父のルイ氏と正式な会合を持ち、サイノタイプIIIの提案を説明した。その時、ブルース氏は、スリーピースのスーツだった。ブルース氏の提案書には、ハードウェアの7500ドル(当時約165万円)に加え、プログラム料として5000ドル(同約110万円)の合計金額が記載されていた。アップルIIで動く中国語のワープロを、約4カ月で納品するというものだ。それが上手くいけば、中国語ワープロのコストは桁違いに安くなる。

ブルース氏はこの仕事を受注し、1981年6月から11月まで、フィラデルフィアの独立記念館で国立公園局のツアーガイドの仕事と両立させながら、サイノタイプIIIのプログラミングを行った。昼間の休憩時間には手書きでアセンブリコードを書き出し、夜にはそれを入力していた。1981年のレイバーデーにツアーガイドの仕事が終わり、ブルース氏はその後2カ月間ひたすらコーディングに専念し、サイノタイプIIIをGARFに納品した。

メモリハック

GARFとローゼンブラム両氏が最初に直面した問題は、コンピューターのメモリ容量の不足だった。初期の中国製パソコンの開発者たちは、システムからできるだけ多くのメモリを搾り取ろうと、あらゆる手段を講じていた。ここでは、単独で採用されることもあったが、主に同時に利用された2つの戦略を紹介する。「アダプティブメモリ」と「漢字カード」だ。

サイノタイプIIIのシステムは、5つのコンポーネントで構成されていた。Sanyo(三洋電機)の12インチモニターDM5012CM、Epson(エプソン)のプリンターMX-70、漢字のビットマップデータベースとそれに対応する「記述子コード」を格納するCorvus(コルバス)の10MB「Rigid Disk Storage(リジッド・ディスク・ストレージ)」「テキストファイル格納用」のApple Disk Drive(アップル・ディスク・ドライブ)、そしてアップルIIの本体だ。

標準のアップルIIには32KBのメモリが搭載されていたが、マザーボード上で48KBまで拡張することができた。ブルース・ローゼンブラム氏は「アップルIIが店から出る前に最大にした」と電子メールで語る。ブルース氏は、48KBのメモリではまだ足りなかったため、当時の「パワーユーザー」と呼ばれる人たちがよく行なっていた、16KBの増設メモリボードをスロット0に追加して64KBのメモリにするという、メーカー標準のアップグレードをおこなった。

しかし、それでもまだ足りなかった。「エンコーディングシステムのすべてを格納するためには、より多くのメモリが必要だった」と同氏はいい「頻繁に使われる漢字100種の16×16ビットマップを格納するためには、さらに多くのメモリが必要だった」と続ける。

そのため同氏は、それまで誰も試したことのないであろうアップルIIの「改造」を始めた。「なんとか、アップルIIのスロット2に16KBのボードをもう1枚入れて、合計80KBにすることができた。まったく仕様外だが、市販の部品を使うことができた」と同氏はいう。

しかし、この改造はマシンの限界を超えるものだった。アップルIIに搭載されている6502マイクロプロセッサーは、64KBのメモリにしか直接アクセスできなかった。つまり、ブルース氏がなんとか2枚目のメモリボードを組み入れ16KBのメモリを追加しても、アップルIIにはこの追加されたメモリアドレスに一度にアクセスする方法が組み込まれていなかったのだ。ブルース氏がアップルの技術者と何度も相談している中で、アップルの技術者にそのことを伝えたところ、その技術者は「そんなことをするなんて、聞いたことも考えたこともない」とショックを受けたほど「規格外」の改造だった。

ブルース氏は、アップルIIが64KBのメモリだけではなく80KBのメモリにアクセスできるようにするために、純正のOSは諦め、自分でアセンブリ言語を使ってプログラムを作った。そのカスタムプログラムの秘訣は「アドレスが重複する16KBのメモリバンクを個別に選択できる」ということだ。つまり、一度にアクセスできるメモリは64KB分しかないが、2枚の増設メモリボードを非常に速いタイミングで交互にアクセスすることにより、ユーザーから見ればコンピューターが両方のメモリにアクセスしているように動作させるというものだ。これにより、システムから25%の追加メモリをひねり出し、400字程度の漢字を増設メモリボードに格納することができた。

ブルース氏は、感謝祭の前の週にGARFに最終コードを納品し、その後、ヨーロッパとアジアを縦断するワールドバックパッカーズツアーに出発した。それ以降、サイノタイプIIIの開発は、ルイ・ローゼンブラム氏とGARFが中心となって進めていったが、ブルース氏もコンサルタントとして関わり続け、ヨーロッパ、中国、インドなど、どこにいても父親と頻繁に連絡を取り合っていた。

リアルタイムの中国語タイピングを目指した高速化

しかし、ブルース氏の巧妙な改造によっても、ルイ氏とブルース氏が試算したところでは、増設メモリボードに格納できる漢字の数は600~1000字程度だった。サイノタイプIIIのOS、アプリケーション、漢字に必要なメモリ容量を考えると、システム辞書に登録されている漢字の大部分は、フロッピーディスクや外付けハードディスクなど、他のハードウェアに保存する必要があった。

サイノタイプIIIコンピューターのモニター画面(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

ブルース氏は当初、PROM(プログラマブル・リード・オンリー・メモリ)チップの使用を考えたが、このアイデアはすぐに行き詰まってしまった。1981年から1982年当時、市場に出回っていた最大のPROMチップのメモリ容量は2KBで、漢字に換算すると28~51文字にしかならなかった。これでは、7000字の漢字を記憶させるためには、138~250個のPROMチップが必要になってしまう。「これは大変な量だ」と、ブルース氏は気づいた。

次に同氏は、フロッピーディスクに漢字を格納することを考えた。しかしこれも、実用的ではないことがわかった。多くのフロッピーディスクが必要なだけでなく、その遅いアクセススピードのため、フロッピーディスクに保存されている漢字のビットマップを取り出すのにも時間がかかるためだ。そこでGARFはサイノタイプIIIに、当時のマイクロコンピューターの周辺機器としてはほとんど例がなかった、外付けハードディスクを接続するという第3の方法をとった。深刻なメモリ不足の問題を解決するため、GARFは使用頻度の低い数千の漢字を外付けハードディスク(10MBのコルバス製「Rigid Disk Storage[リジッド・ディスク・ストレージ])つまりシステム本体とは別の「倉庫」に保存した。

しかし、これはサイノタイプIIIの動作が遅くなるという副作用をもたらした。コンピューターの内部では、ほとんどの処理がミリ秒単位の速さで行われるため、ハードディスクは厄介な代物だった。特に当時のハードディスクは「プラッター」と呼ばれる硬い磁気ディスクがレコードプレイヤーのように内部で回転しており、レコードの溝を針で読み取るように、各トラックの内容をヘッドで読み取るものだ。そして読み取り速度は、ヘッドの位置と、読み取り要求があった時点でのディスクの回転位置によって決まる。停留所に着いたらバスが出発していた、というのと似たようなもので、またバスが回ってくるまで待たなければならない。

実際、ハードディスクに保存されている漢字の読み取り速度は、メモリに保存されている漢字の読み取り速度に比べて10倍以上も遅かった。具体的には、メモリに保存された漢字の読み取り時間は、1文字あたり約100ミリ秒と、タイプする人にとって気になる遅延ではない。一方、外部ハードディスクに保存されている漢字の場合、1文字入力するたびにフォントの読み取りに1秒もの時間を要し、これは人間の感覚では無視できないレベルだ。

1980年代半ばのパーソナルコンピューターの世界では、英語圏のユーザーはリアルタイムタイピングに急速に慣れてきていたため、1文字の入力に1秒かかるというのは壊滅的な遅さだった。そして、1秒は100ミリ秒の10倍の長さであるため、一般のユーザーは使用頻度の低い漢字を入力するたびに、この大きな差を感じてしまうことになる。

この問題を軽減するために、ルイ・ローゼンブラム氏は「アダプティブ一時ストレージ」というアイデアを思いついた。サイノタイプIIIでは、ユーザーが直近に入力した文字に応じて、メモリに保存される文字セットを調整できるようにしたのだ。起動直後は、サイノタイプIIIの増設メモリには、あらかじめ決められた使用頻度の高い漢字だけが記憶されるようになっている。ハードドライブに格納されている頻度の低い文字の入力には、前述のように最大で1秒かかる。しかし「頻度の低い漢字をキーボードで入力すると、そのコードとドットマトリックスパターンがランダムアクセスメモリに記憶される」と、同氏は当時の手紙で説明している。つまり、そのような文字は一時的にハードドライブから増設ボードに割り当てたメモリキャッシュにコピーされ、その後の検索時間を短縮することができる。

サイノタイプIIIの文字データベースとメタデータが記載されたGARFの内部資料(画像クレジット:Louis Rosenblum Papers、Stanford University Special Collections)

チャイニーズ・オン・ア・チップ

メモリバンク切り替えやアダプティブメモリを駆使しても、そういった工夫だけでは手に負えない何千もの文字が残されていた。実際の漢字入力では、使用頻度の高い漢字が全体の大きな割合を占めているが、技術的な内容や専門的な内容の文章を作成する場合には、ユーザーは必ず「倉庫」の漢字リポジトリに繰り返しアクセスすることになる。中国語のコンピューターを英語のコンピューターと同じように、快適なスピードで使えるようにするためには、これらの「低頻度文字」をより多く「現場」に運び入れておく必要があった。

1970年代後半から1980年代前半にかけて、エンジニアたちは別のハードウェアソリューションを模索し始めた。「Chinese Character Cards(Hanka)[漢字カード]」「Chinese Cards(Zhongwenka)[中国語カード]」「Chinese Character Generators」(漢字生成機)「Chinese Font Generator(Hanzi zimo fashengqi)[漢字フォント生成機]」、そしてある記事では「Chinese-on-a-Chip(チャイニーズ・オン・ア・チップ)」などと呼ばれていた。こういった「漢字カード」類は、メモリーボードやグラフィックボードのように、マザーボードの拡張スロットに直接実装するように設計され、何千もの中国語のビットマップとキー入力をビットマップに対応させるエンコーダーが論理回路として組まれていた。実際、漢字カードは、外付けのハードディスクと同じ役割を果たすと同時に、より高速で安定した性能を発揮した。

しかし「チャイニーズ・オン・ア・チップ」カードは、GARFの研究対象ではなかった。というのも、漢字カードは、パーソナルコンピューターが普及する前の中国語システムの専用機向けに開発されたものだったからだ。そういったシステムは、Chan Yeh(チャン・イェー)氏のIdeographix IPX(イディアグラフィク・アイ・ピー・エックス)やOlympia 1011(オリンピア・テン・イレブン)などが挙げられ、漢字ビットマップの生成と入力記述子の保存のみを目的としたマイクロプロセッサーを搭載していた。中国語ワープロ「オリンピア1011」は、電動の中国語タイプライターであるが、3個のIntel 8085(インテル・エイティ・エイティファイブ)プロセッサーの内1個が漢字生成専用であったという。

1980年代初頭には、この漢字生成機がコモディティ化し、市販品として単体で販売されるようになった。そのため、漢字生成機の恩恵を受けるためにオリンピア1011のような本格的なワープロを買う必要はなくなり、代わりに「漢字カード」を購入して、それを自分のパソコンにインストールするだけでよくなった。

最も早くから漢字カードに取り組んでいた中国コンピューティングの中心の1つである清華大学では、約6000種類の中国語ビットマップパターンを32×32ドットマトリックス形式で格納できる先駆的なカードを開発した。そして、1980年代半ばから後半にかけては、日本、中国、台湾、香港、米国などの企業によって製造・販売された数十種類の「Hanka(漢字カード)」類似製品が市場に出回ることになった。

また同時に「チャイニーズ・オン・ア・チップ」のアプローチは非常に重要かつ一般的なものとなり、特に中国語や日本語に対応したコンピューターでは、何らかの文字生成カードが搭載されるようになっていた。

このように、1950年代のコールドウェル氏のサイノタイプから、1980年代のローゼンブラム親子とGARFのサイノタイプIIIに至るまで、漢字に関わるメモリ問題を解決することは、コンピューティングにおける中国市場の幕開けの重要な基盤となった。コンピューターの改造によるメモリの拡張、文字の優先度に適応するメモリ管理アルゴリズムの考案、問題の解決のための専用ハードウェアの構築、それらすべてが中国におけるコンピューター革命の引き金となったのだ。

しかし次のステップは、コンピューター本体だけではなく、コンピューターに接続されるすべての機器に、漢字対応をどのように拡大していくかということだった。TechCrunchでまもなく公開されるこのシリーズのパート2では、中国語のテキスト出力に対応した初期のコンピューターモニター、プリンター、その他の周辺機器で見られた、設計とプログラミングにおける課題について深く掘り下げていく。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:中国コンピューター中国語コラム

画像クレジット:Louis Rosenblum Papers, Stanford University Special Collections

原文へ

(文:Tom Mullaney、翻訳:Dragonfly)

【コラム】プログラマティック広告における広告詐欺と消費者プライバシー乱用との戦い方

編集部注:本稿の著者Jalal Nasir(ジャラール・ナセル)氏は、広告詐欺調査とマーケティング・コンプライアンスの国際プラットフォームであるPixalate(ピクサレート)のファウンダー兼CEO。以前はAmazonの詐欺防止およびリスク管理チームで初期のエンジニアの1人として働き、アドテックや企業プライバシーテクノロジーの構築でさまざまな製品を指揮した。

ーーー

プログラマティック広告(運用型広告)は、急成長中の大規模に広がりつつある2000億ドル(約22兆1135億円)の世界市場であり、Connected TV(CTV、スマートテレビ)が最近の加速要因となっている。しかし残念ながら、そこには詐欺と消費者プライバシーの乱用が蔓延し、CTV、モバイルをはじめとする新興メディアで特にその傾向が強い。

全世界における広告詐欺による損害は2020年350億ドル(約3兆8700億円)を超え、2025年には500億ドル(約5兆5287億円)に達するとWorld Federation of Advertisers(WFA、世界広告主連盟)は推測している。WFAによると、広告詐欺は「麻薬取引に次ぐ第2位の組織犯罪の収入源」だが、広告詐欺対策のための万能戦略はない。

モバイルやCTVにおけるビデオ広告を活用し、信頼できる広告効果測定を行うために、経営者は自分たちが、ボットではなく、顧客にリーチ(到達)することで事業目標を達成すべきであり、同時に最新の規制と法律を遵守する必要がある。

ビジネスリーダーが自らの評判と広告費用を守るための重要なステップがいくつかある。

  • 高度なツールを利用して、自社の広告費が餌食となっている広告詐欺のタイプを突き止める。
  • 予算を「質対リーチ」の観点から分析する。詐欺師たちは広告主の「歴史的なリーチへの強迫観念」につけ込んでいる。
  • 「プライバシーの時代」が到来したことを認識する。ビジネスリーダーはルールを守り、広告市場における自社ブランドのイメージを守らなくてはならない。

スマートテレビとモバイルアプリ広告のさまざまなタイプの広告詐欺を知り、自らの広告費を守る

貴重な広告費が不正なトラフィックに浪費される方法にはさまざまなタイプがあることを知っておく必要がある。現在米国世帯の78%がプロバイダーCTV広告を通じてリーチ可能となっている中、広告詐欺比率は2020年第4四半期に24%という高い数字を維持している。「なりすまし」(別のパブリッシャーのふりをする)や偽サイト、偽アプリなどの伝統的な広告詐欺攻撃は、CTVデバイスファームなどの高度な手法に取って代わられつつある。

広告詐欺が自分の広告費を蝕んでいることを知るのは第一歩だが、ビジネスリーダーはさまざまな策略を理解して、正しい方策を正しいタイミングで実行できるようにする必要がある。

質というレンズを通してリーチを見る

歴史的に、広告測定の標準的手法はリーチ(到達度)に焦点を当ててきた。しかし今や、トラフィックの質と結び付いていないリーチは「バニティメトリクス(虚栄心の指標)」でしかない。

質を無視してリーチを求めることは、広告詐欺に格好の機会を与える。偽トラフィックを生んで「リーチ」の幻想を作りだすやり方は、多くの広告詐欺の主要な方法であり、CTV詐欺の中にはボットを使って1日当り6億5000万回の入札を捏造するものもある、とThe Drumが伝えている。

実際の売上に結びつかない高インプレッション数と異常なプライシング(競争相手と比べて)は、トラフィック品質問題の有力な前兆だ。

CTVエコシステムの成長につれて高騰するプレミアム価格のために、広告主はバーゲンを探したくなる衝動に駆られるかもしれない。しかし、XUMOとPhiloをはじめとする大手ストリーミングTVプロバイダーは広告主に対し、うますぎる価格は詐欺行為の証かもしれない、と警告している。疑わしいデータを見たらトラフィックの出どころを確かめ、問いただす努力をすべきだ。

広告業界自身も、広告詐欺を阻止するためのツールをビジネスオーナーに提供することで応戦している。業界ではMedia Rating Council、Interactive Advertising Bureau、Trustworthy Accountability Groupなどの作業部会や監視機関が、特定のプラットフォームやサプライヤーを認定することで広告詐欺と戦っている。これらの組織は、詐欺行為に対処するための業界標準やプログラムも定期的に公開している。たとえばAds.txtというイニシアティブは広告主が合法的な第三者から広告枠を買う手助けをすることを目的としている。すべてのビジネスオーナーは、認定済みプラットフォームや新たなプログラムや標準を利用することで、広告詐欺の最新トレンドを掌握すべきだ。

ビジネスリーダーはブランドの安全とコンプライアンスを優先すべきだ

ブランドは広告品質の複雑な世界を安全に巡航することに加えて、付き合っているパブリッシャーがブランドにとって安全であり最新の消費者プライバシー・コンプライアンス法を遵守しているかどうかを検討すべきだ。

Pixalate(ピクサレート)の2021年予測によると、Apple App Store(アップル・アップストア)アプリの22%、Google Play Store(グーグル・プレイ・ストア)アプリの9%が、プライバシーポリシーを持たないプログラマティック広告を配信している。これが重要なのは、消費者データが広告詐欺策略の一部で悪用されたケースがすでに報告されているからだ。そしてGoogle Play Storeアプリの70%は、Googleが「dangerous permissions(危険な許可)」と呼ぶ要素を1つ以上含んでいて、これは2020年に5%増えた数字だ。また、プログラマティック広告を配信しているアプリのうち、Apple App Storeアプリの80%、Google Play Storeアプリの66%が、ユーザーの中に12歳以下の子どもを含んでいることから、COPPA(児童オンラインプライバシー保護法)遵守も視野に入ってくる。

ブランドの安全性に関してビジネスリーダーやブランドが知っておくべきことがいくつかある。最も重要なのは、あるブランドとって何が「安全」なのかはそのブランドのみに基づくということだ。黄金律は存在せず、なぜならブランドごとにビジョンもミッションもゴールも異なるからだ。ブランド安全性は主観的である。しかし、成功には不可欠である。

広告詐欺、ブランド安全性、およびデータコンプライアンスは常に進化を続けているので、リーダーは数値を追いかけ、市場の変化に遅れをとらず正しいパートナーに投資することで、最も影響力と効果のあるコンテンツに、ボットではなく、消費者が関わってくれるよう力を尽くさなくてはならない。

関連記事
Pinterestが広告ポリシーを改訂、減量を促す言葉や画像は掲載禁止に
グーグルがトラッキングクッキー廃止を2023年後半まで延期
アップルは検索広告で中国での売上増を狙う

カテゴリー:ネットサービス
タグ:コラム広告スマートテレビ詐欺プライバシー個人情報コンプライアンス

画像クレジット:wenmei Zhou / Getty Images

原文へ

(文:Jalal Nasir、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】エネルギーエコシステムは不安定な未来に適応する「エネルギーインターネット」の実現に向かうべきだ

編集部注:本稿の著者Brian Ryan(ブライアン・ライアン)は、多国籍エネルギー企業National Gridのイノベーションおよび投資部門であるNational Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデント。

ーーー

National Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデントとして、私はNational Gridの現在の事業に有益なだけでなく、独立した事業になる可能性を秘めたイニシアティブの開発を担っている。だから私は、エネルギー産業の未来について確かな見解を持っている。

しかし、私は未来を映し出す水晶玉は持っていない。持つ人はいないだろう。イノベーションポートフォリオを適切に管理する職務において、私の仕事はすべてを挙げて1つに投じるというものではない。有限の資産を複数のバスケットに最適に配分し、最大の集合的アップサイドを実現するものだ。

別の言い方をすれば、世界や地域のトレンドは「次なる潮流(Next Big Thing)」が単一ではないことを明白に示している。それよりも、エネルギーサプライチェーン全体にわたるオープンイノベーションの推進と要素の統合が、未来に大きく関わっている。このようなオープンエネルギーエコシステムがあって初めて、エネルギー産業が直面する極めて不安定な(予測できないとさえいう人もいるかもしれない)市場状況に適応することができる。

このオープンでイノベーションを可能にするアプローチを「エネルギーインターネット」と捉え、それが今日のエネルギーセクターで最も重要なオポチュニティであると私は確信している。

インターネットアナロジー

エネルギーインターネットのコンセプトが有用だと思う理由はここにある。デジタルインターネット(ここで使用する用語にはその構成要素であるすべてのハードウェア、ソフトウェア、標準が含まれる)が登場する以前は、メインフレーム、PC、データベース、デスクトップアプリケーション、プライベートネットワークなど、複数のテクノロジーがサイロ化されていた。

しかし、デジタルインターネットの進化にともない、これらのサイロの壁は取り払われた。メインフレーム、コモディティハードウェア、クラウド内の仮想マシンなど、デジタルサービスのバックエンドにある任意のプラットフォームを利用できるようになった。

デジタルペイロードは、速度、セキュリティ、キャパシティ、コストの最適な組み合わせを選択して、世界中のあらゆる顧客、サプライヤー、パートナーと接続するネットワーク間で転送できる。ペイロードにはデータ、音声、動画があり、エンドポイントとしてデスクトップブラウザ、スマートフォン、IoTセンサ、セキュリティカメラ、小売店のキオスクなどが挙げられる。

この種々さまざまな物がうまく組み合わされた(mix-and-match)インターネットは、オープンなデジタルサプライチェーンを生み出し、オンラインイノベーションにおける画期的なブームを牽引した。起業家や投資家は、サプライチェーン全体のどこにいても特定のバリュープロポジションに集中することができ、サプライチェーン自体を継続的に見直す必要はない。

エネルギーセクターも同じ方向に向かうべきである。サーバープラットフォームのように、さまざまな世代のモダリティを扱えることが重要だ。データネットワークと同等にアクセス可能な送電網が必要であり、あらゆる消費エンドポイントに柔軟にエネルギーを供給できることが求められる。テクノロジー業界と同様に、こうしたエンドポイントでもイノベーションを促進する必要がある。

デジタルインターネットが、優れたアプリの構築や洗練されたスマートフォンの設計など市場に貢献するあらゆる場面でイノベーションに恩恵をもたらすように、エネルギーインターネットも、エネルギーサプライチェーン全体でより優れた機会を提供する。

5Dの未来

ではエネルギーインターネットとはどのようなものだろうか。まずデジタル化、分散化、脱炭素化という既存のモデルから始めて、さらに先を見据えた見解を示したいと思う。

デジタル化(Digitalization):イノベーションは需要、供給、効率、トレンド、イベントに関する情報に依存する。こうしたデータは正確性、完全性、適時性、共有性を備えていなければならない。IoE、オープンエネルギー、そしていわゆる「スマートグリッド」のようなデジタル化の取り組みは、エネルギー供給の物理、ロジスティクス、経済性を継続的に改善するために必要な洞察をイノベーターに提供する。

分散化(Decentralization):インターネットが世界を変えた理由の1つとして、集中管理された少数のデータセンターからコンピューティング力を取り出し、適切な場所に分散させたことが挙げられる。エネルギーインターネットも同じように機能するだろう。デジタル化は、オープンエネルギーサプライチェーンに資産を統合することで、分散化を促進する。しかし分散化は既存の資産の統合にとどまらず、必要な場所に新しい資産を広げることにもつながる。

脱炭素化(Decarbonization):脱炭素化はもちろんこの運用における核心だ。徹底したエネルギー活用を通じてあらゆる場所でエネルギー需要を満たす分散型インフラの上に構築される、よりグリーンなサプライチェーンを推進しなければならない。市場はそれを求めており、規制当局も要請している。したがって、エネルギーインターネットは単なる投資機会ではなく、実存的な必須事項である。

民主化(Democratization):インターネットに関連するイノベーションの多くは、テクノロジーを物理的に分散させることに加えて、テクノロジーを人口統計学的に民主化したという事実から生まれた。民主化とは、力(この場合は文字通り)を人々の手に委ねることである。エネルギー業界の課題に取り組む頭脳と手腕を大幅に拡充することは、イノベーションを加速し、市場のダイナミクスに対応する能力を高めるだろう。

多様性(Diversity):先に述べたように、未来を映す水晶玉を持つ人はいない。したがって、大規模なイノベーションに投資する際には、リスクを低減し、リターンを最適化するためだけでなく、可能性を高めるための戦略として多様化が必要となる。つまり、もしエネルギーインターネット(あるいは用語を選ぶならグリッド2.0)により、エネルギーサプライチェーンのすべての要素の協働が必要になると真に信じるのであれば、相互運用性と統合を促進するために、これらの要素にまたがるイノベーションイニシアティブを多様化しなければならない。

デジタルインターネットはまさにそのようにして構築された。標準化団体は重要な役割を果たしたが、標準化とその実装を主導したのはMicrosoftやCisco、さらにはトップVCたちであり、こうした業界プレイヤーがサプライチェーン全体の統合を推進することで、エコシステムの成功が実現した。

エネルギーインターネットでも同じアプローチを取る必要がある。そのための力と影響力を持つものは、個々の要素の改善とともに、エネルギーサプライチェーン全体にわたる統合の積極的な推進を支援すべきである。この目的を達成するために、National Gridは2020年、NextGrid Allianceという新しい業界団体を立ち上げた。この団体には、世界中の60を超える電力会社から上級幹部が参加している。

また、エネルギーエコシステムにおける思考の多様化も不可欠であると私たちは考えている。National Gridは、エネルギー産業に携わる女性とSTEMプログラムの学部に占める女性の割合が著しく低いことに警鐘を鳴らしてきた。その一方で、Deloitteの調査では、多様性に富むチームは革新性が20%高いことが示されている。NGPに在籍する私のチームの60%以上は女性であり、その視野の広さは、National Gridが全社的なイノベーションへの取り組みについて強力な洞察を得るのに大きく貢献している。

予測を超える多くの勝利

エネルギーインターネットのコンセプトは、抽象的な未来の理想というものではない。それがどのように市場を変えるのか、具体的な例を私たちはすでに目にしている。

グリーントランスナショナリズム:エネルギーインターネットは、デジタルインターネットと同じようにグローバルに展開しつつある。例えば英国は現在、ノルウェーとデンマークから風力発電による電力供給を受けている。国境を越えて分散化されたエネルギー供給を活用するこうした取り組みは、各国経済に大きな利益をもたらし、エネルギーのアービトラージに向けた新たな機会を創出するものだ。

EV充電モデル:電気を送り出すのはガソリンをくみ上げるようなものではないし、そうあるべきでもない。スマート計測および高速充電エンドポイント設計におけるイノベーションの適切な組み合わせにより、オフィスビルや住宅地などの自動車と利便性が同等の価値を持つ場所において、エネルギーインターネットが新たな機会を生み出すだろう。

災害緩和:テキサスで起きた最近の出来事は、エネルギーインターネットが存在しないことによる弊害を浮き彫りにした。責務を負う公益事業および政府機関は、インフラストラクチャのトラブルシューティングと地域社会の保護をより効果的に行うために、デジタル化と相互運用性を積極的に取り込む必要がある。

ここに挙げたものは、オープンでany-to-any型のエネルギーインターネットがイノベーションを促進し、競争を活性化し、大きな勝利を生み出すという、限りない進展のほんの一部にすぎない。その大きな勝利が何であるかを正確に予測することは誰にもできないが、確実に多く存在し、すべてに恩恵をもたらすだろう。

だからこそ、未来を映し出す水晶玉はなくても、私たちはデジタル化、分散化、脱炭素化、民主化、多様性にコミットすべきである。そうすることで、エネルギーインターネットを協働して構築し、公平で、経済的で、クリーンなエネルギーの未来を実現するのである。

関連記事
さくらインターネットが石狩データセンターの主要電力をLNG発電に変更、年間CO2排出量の約24%にあたる約4800トン削減
【コラム】核廃棄物のリサイクルはエネルギー革新の最重要手段だ
グーグルが米国とアルゼンチンを結ぶ新海底ケーブル「Firmina」発表、電力供給能力で前進

カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムエネルギー産業電力脱炭素自然災害電気自動車National Grid

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

原文へ

(文:Brian Ryan、翻訳:Dragonfly)

【コラム】SPACブームは止まるところを知らず、消費者向けテクノロジーに変化をもたらしている

編集部注:本稿の著者Mike Murphy(マイク・マーフィー)氏はベンチャーキャピタルとプライベートエクイティの機会に焦点を当てたニューヨーク市に拠点を置く投資会社Rosecliff Venturesの創設者兼CEO。

ーーー

消費者向けテクノロジーは本質的にリスクの高い投資分野だ。最良のアイデアであっても、製品のストーリーがエンドユーザーに適切に販売されなければ、失敗に終わる可能性がある。統計ではその時点までのことしかわからない。結局は、顧客はその製品を信頼したいと思っている。

ストーリーをうまく伝え、市場のリーダーになった企業は従来、新規株式公開のルートを選んできた。つまり、自分たちのストーリーを、自分たちの商品を購入する人々ではなく、銀行主導の舞台で機関投資家に売り込んできたのだ。

しかしこの18カ月の間に、金融機関を通さず、優れた経営者と提携し、より直接的に公的資本にアクセスしようとする企業に新たな扉が開かれた。SPAC(Special Purpose Acquisition Company、特別買収目的会社)との合併だ。

適切な消費者向けテクノロジー企業にとって、SPACとの提携は公共資本へのより直接的なアクセスを提供するものとなる。これらの企業は、P&Lを通じて機関投資家を説得するのではなく、製品を利用している個人投資家を含む投資家に対して、長期的にどのような企業になり得るかを説明するためにより多くの時間を費やすことができる。

このような手段が証券取引所で人気を集めていることは間違いない。2020年には200社以上の企業がSPACとの契約を通じて株式を公開した。しかし、どのような資産が注目を集めたとしても、それが爆発的に拡大することを期待する関係者が出てくるだろう。

教訓はすでに得られており、おそらくさらに多くのことが起こるだろうが、SPACを景気回復の終わりを示すものとして扱う人々は間違っている。これらの手段は、従来の門番を排除し、個人投資家が企業のストーリーを買うか売るかを決定できるようにする一方で、公開市場への正当なルートを提供する。

SPACバブルの主張

まず、否定論者の懸念に対処することが重要だ。SPACの活動が急激に増加していることから、アナリストらはこの傾向は誇張されていると推測している。企業の上場が早すぎ、資金を失った者が公的資本を受ける前にそれにアクセスできるようになっていると主張している。

しかし、どのような時期に市場に参入するのが「早すぎる」のだろうか?2020年に最も成功したSPACのストーリーの1つであるDraftKingsは設立から約8年後に株式を公開し、FacebookはIPOまでにほぼ同じ期間非公開だった。一方、世界で最も利益率の高いAppleは、設立から4年に満たない時期に上場した。テニュアは投資家の心を動かす要因かもしれないが、テニュアがなかったからといって上場が止まることはなかった。

収益性がIPOの要件となることも稀であり、Uber、Tesla、Amazonはいずれも損失を計上しながら上場した不採算事業の代表例である。

こうした事例すべてにおいて、明確で一貫性のあるビジョン、強力なリーダーシップチーム、そしてリーダーがビジョンを実行するのを見届ける投資家の忍耐力が、従来的な成功のための財務指標を打開している。

市場はストーリーの評価方法を認識している

株式市場は四半期決算に執着している。1株当たり利益に対するアナリストの予想をわずか1セント下回るだけで、株価は急落する。しかし、すべての企業がこのように評価されているわけではない。多くの企業は、将来のビジョンと目標に向けた進捗状況を評価されている。SPACは、従来の投資を支援する十分な財務データがない場合でも、強力なチームやビジョンに投資する効果的な方法である。

バイオテクノロジー企業は、投資家が市場、特にパンデミック後の市場をどう見ているかを示す優れた時宜を得た例である。バイオテックは通常、開発中の治療法と、それが役立つ可能性のある患者について説明する対象となる市場の推定値、請求可能な価格、臨床試験のスケジュールなどを提供する。しかし、初期段階のバイオテクノロジー企業が医薬品を販売するのは何年も先になる可能性があり、利益を上げること自体は難しい。FDAは、承認申請前の最終段階である第II相および第III相試験の完了までの期間を最長6年と見積もっている。

それでも投資家はこれらの企業に資金をつぎ込んでいる。アナリストらは、詳細な調査の結果、新薬の臨床試験が進行する可能性があるとみているが、これらの企業は損失を出しながらも、株価が何年も上昇する可能性がある。市場はこれらのリスクをとることに対して高いリターンを期待するが、一定の価格に達する可能性がある。

消費者向けテクノロジーのストーリーテラー

SPAC路線は消費者向けテクノロジー企業にとって理想的な選択だ。SPACは従来のIPOよりも経営陣とビジョンに重点を置いており、この業界は常に先見の明のある企業に支配されてきたため、同セクターに恩恵をもたらしている。

SPACに投資している投資家たちは今後、Direct-to-Consumer(直接消費者に繋がる)テクノロジーに注目すると思われるが、それは従来の限られた意味でのD2Cではない。

消費者は、これまで以上に迅速かつ確実にアクセスできる商品やサービスを求めている。幸い、テクノロジーによってこれらの選択肢を増やすことに成功する傾向のある企業は、自社製品をエンドユーザーに直接届ける方法を知っている自然なストーリーテラーだ。必然的に、これらの企業はSPACの投資家から注目されることになる。

例えばフィンテックは、顧客の携帯電話に直接バンキング機能を提供し、多くの側面においてDirect-to-Consumerとなっている。2020年には、遠隔医療の革新により、ほとんどの医療予約が待合室からリビングルームに移行し、旧式の医療管理手法がデジタルシステムを採用することを余儀なくされた。

マットレスのような実店舗でしか入手できなかった商品が、CasperやPurpleなどの企業によって自宅に直接配達されるようになった。自動車メーカーの中には、ピザを注文するのと同じくらい簡単にクルマをデザインして購入できるところもある。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、テクノロジーを活用したより迅速なサービスへのアクセスの必要性が顕在化したことで、この傾向はさらに加速している。そして私たちが「平常に戻る」ためには、この傾向が高まることが必要だ。SPACは、これらのアイデアをより早く市場に投入し、これらの企業が需要を満たすために必要な資金を提供するために存在する。

この先にある道筋

憶測、否定、そして「バブル」のような印象にもかかわらず、SPACは何十年も前から存在しており、一瞬にして消滅することはなさそうだ。実際のところ、SPACとの契約のペースは落ち着くかもしれないし、トレンドが続くにつれてリスクプレミアムも高くなるかもしれないが、消費者向けテクノロジーの変化と同じように、SPAC自体も消費者に最良のサービスを提供するために進化するだろう。

SPACモデルは多くの点で、消費者向けテクノロジーの発展と非常に類似している。つまり、確立された構造の破壊を促進するものであるということだ。さらに、取得前のSPACへの投資家は、そのような投資に従来必要とされていた資本を必要とせずに、ベンチャーのような機会にアクセスすることができる。

最終的には、企業の成功は、目標を達成するか上回るか、あるいは何らかの要因で需要が引き伸ばされるかにかかっている。ルールは変わっていないし、リスクも報酬も変わらない。

関連記事
巨大なSPACが現われるかもしれない
世界最大のSPAC合併で配車サービスGrabがNASDAQ上場へ
SPACの作るグラフは誇大広告の限界を探るものになっている

カテゴリー:その他
タグ:SPACコラム

画像クレジット:PM Images / Getty Images

原文へ

(文:Mike Murphy、翻訳:Dragonfly)

【コラム】「脳の多様性」を活用してサイバーセキュリティのスキルギャップを解消する

編集注:本稿の著者Cat Contillo(キャット・コンティロ)氏は、HuntressのThreat Analyst IIで、誇り高き自閉症のクィア。LGBTQ+の権利、自閉症、神経多様性、DEI、サイバーセキュリティに情熱を注いでいる。

ーーー

組織はさまざまな考え方や視点からサイバーセキュリティのスキルギャップに対処し、さまざまな能力や思考プロセスを持つ人材を取り入れてセキュリティチームを強化する必要がある。その際の最初のステップとなるのがニューロダイバーシティ(脳の多様性、神経多様性)の理解である。ニューロダイバーシティを持つ人には、未開発の可能性があることをご存じだろうか?

ニューロダイバーシティが意味するところは私たち1人ひとりで異なる。ニューロダイバーシティとは、ADHD、自閉症、失読症、トゥレット障害などの認知障害や発達障害などの神経学的差異を、人間の脳の自然なバリエーションとしてとらえ、脳の違いはただの多様性でしかないと考える概念である。

私は、自分が人とは異なるオペレーティングシステムを持っているという自覚を常に持っていた。Mac OSで育てられた、Windows専用OSのような感覚だ。自閉症と診断されて初めて、なぜ自分がこのように感じていたかを理解し、目的を持つことができた。そして社会に出て、ニューロダイバーシティを持つ人々がサイバーセキュリティ業界にとって重要視されることを知ることができた。

自閉症の人には、サイバーセキュリティの分野での業務に適した特性がたくさんある。例えば自閉症の人の多くはパターン思考を持ち、細部にまでこだわる性格である。自閉症の人は、脅威ハンティングで悪意のあるコードとそうでないコードの微妙な違いを見つけ、自動化されたツールが見逃してしまうような脅威をキャッチすることができる。過集中という特性では、問題解決に集中し、他の人が投げ出したくなる複雑な問題にも粘り強く取り組むことができる。

もちろん、私たちが持つ能力、興味、強み、弱点は1人ひとり異なる。しかし、適切なサポートや環境があれば、サイバーセキュリティにプラスに働く特性もある。

自閉症の大人がテクノロジーやサイバーセキュリティに興味を持っていれば、特にその傾向が顕著である。興味があることで細部へのこだわりがさらにアップし、防御チームの優秀なサイバー専門家になることができるのだ。サイバー脅威の数や種類は常に変化している。明らかに排除できるものもあれば、もっと巧妙なものもある。コンピュータにもともと備わっているアプリケーションや実行ファイルのようなネイティブファイルを利用する「Living off the Land(LOTL:自給自足型、環境寄生型)」という攻撃手法もある。このような情報、何を探すべきか、どこに注目すべきかさえわかれば、ニューロダイバーシティ人材は、最も巧妙な脅威に対しても、集中して検査、調査、追跡することができる。

利点を受け入れる

私たちは、ニューロダイバーシティ人材の「違い」に注目するのではなく、異なる考え方や視点がサイバーセキュリティの分野にもたらすメリットを受け入れるべきである。実際、世界はさらに多くのサイバーセキュリティの専門家を必要としている。チームの多様性を確保するには、ニューロダイバーシティを受け入れることが必要だ。細部にこだわる人、規則にこだわる人、論理的な人、人とは違う考えを持つ人など、ユニークな才能を融合したチームは、サイバーセキュリティにおける競争力の源泉であり続けることになる。

サイバーセキュリティ分野でキャリアを積むには、論理性、規律性、好奇心、そして問題解決やパターン発見の能力が必要だ。この業界は、ニューロダイバーシティ人材に、特に脅威分析、脅威インテリジェンス、脅威ハンティングといった幅広いポジションとキャリアパスを提供している。

ニューロダイバーシティ人材は、干し草の中から針を見つけるように、潜在的な脅威を探し出して分析するのに欠かせない、小さな危険信号や細かな情報を見つけることができる。パターン認識、既成概念にとらわれない思考、細部へのこだわり、鋭い集中力、論理的な思考、誠実さなどの長所もある。

チームの多様性が高まれば高まるほど、チームの生産性、創造性、成功率は向上する。また、ニューロダイバーシティ人材が存在することで、サイバーセキュリティを強化できるだけでなく、異なる考え方や視点を採用してコミュニケーションの問題を解決し、チームや企業全体にプラスの効果をもたらすことができる。

米国労働省労働統計局によると、サイバーセキュリティ専門家の一般的なキャリアパスの1つである情報セキュリティアナリストの需要は、2029年までに31%増加すると予想されているが、これは他の職業の平均成長率4%をはるかに上回る。サイバーセキュリティ分野の重要な業務に空席がある一方、その業務に理想的な人材が何百万人も失業したままで取り残されている。

第一歩を踏み出す

今こそ「優秀な人材=神経学的定型(ニューロダイバーシティの逆の意味)」という思い込みを改める時である。職場における包括性と帰属意識を高める方法は数多くある。いずれも、求人情報が最初のステップだ。

求人情報には、求める人材や業務の要件を明確に記載する。より包括な求人情報を作成し、制限を減らしてみよう。配慮を必要とする応募者がアクセスできる連絡先のアドレスを記載し、必要な配慮を提供して、従来の方法とは異なる働きかけを行う。

ニューロダイバーシティ人材にとって一般的な面接は難しく、雇用に向けた最初のハードルになることが多い。面接時の質問のリストをガイドラインとして提供すれば、応募者の緊張を和らげることができるだろう。アイコンタクトの異常で人を判断しないことはさらに重要だ。

職場でニューロダイバーシティ人材を受け入れる包括的な文化を促進するためには、職場でさまざまなニーズに対応できるようにする必要がある。あらゆるレベルの従業員が、多様性のあるチームの力を引き出せる、風通しがよく包括的な職場環境を構築するための知識と理解を持つことが不可欠である。そのためには、全従業員を対象とした多様性、公平性、包括性、帰属意識を目的としたトレーニングが必要である。コミュニケーション手段を変更することも検討しなければならない。ニューロダイバーシティ人材は人によってコミュニケーションの仕方が異なるので、手段を考えないと職場内でのコミュニケーションの断絶につながりかねない。

サイバーセキュリティの分野で活躍したいニューロダイバーシティを持つ人や自閉症者にもアドバイスしたい。学習を続け、サイバーセキュリティの専門家とつながってネットワークを作り、決してあきらめるな。企業の大小を問わず、あらゆる面で意識を高め、包括的な対応を求め続ければ、成功のチャンスは増えるはずだ。

関連記事
【コラム】サイバーセキュリティ分野における次の11兆円市場とは
【コラム】サイバーテロを終わらせるために政府は民間セクターとの協力を強化すべきだ
【コラム】多様性、公平性、包括性の面から評価した現在米VC業界の進歩

カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラム自閉症多様性LGBTQ+

画像クレジット:Chris Madden / Getty Images

原文へ

(文:Cat Contillo、翻訳:Dragonfly)

【コラム】サイバーセキュリティ分野における次の11兆円市場とは

編集部注:本稿の著者Kara Nortman(カラ・ノートマン)氏はUpfront Venturesのパートナー。

ーーー

筆者は1999年、Battery Ventures(バッテリーベンチャーズ)のアソシエイツとして、Red Herring、InfoWorld、The Industry Standard、および筆者のお気に入りのStorageWorld、Mass High Techなど(他のVCアソシエイツでこの2誌を読んでいる人はほとんどいなかった)の紙媒体雑誌に毎晩目を通してマーカーを付けていた。

23才のとき、自分よりはるかに年配のIBM、EMC、Alcatel(アルカテル)、Nortel(ノーテル)といった企業のCEOたちの名前を丸で囲んで、彼らが何をしているのかを詳しく学んだ。これらの企業は、メインフレームからサーバーへの複製テクノロジー、IPスイッチ、そして最上層に当時まだ登場したばかりのウェブ / セキュリティサービスを構築していた。

あれから22年が経過したが、ある意味、何も変わっていない。インターフェイスは、コマンドラインからGUI、そしてAPIへと革新的変化を遂げてきた。しかし、私達のインターフェイスに対する要求は終わることなく、今まで以上にさまざまなタイプの人たちの、さまざまなタイプのデバイスで動作するインターフェイスが求められている。OSIスタックの話をしているのではない。今は分散ブロックチェーンスタックの時代だ。昔はメインフレーム上で実行されていた計算、データ・ストレージ、分析も、今はクラウド上ですべてが実行される。

課題と機会は昔も今もほとんど変わらないが、市場と機会の規模ははるかに大きくなった。AWSとAzureのクラウドビジネスだけで2020年のランレート収益は230億ドル(約2兆5530億円)増となっており(AWSが32%増、Azureが50%増)、すでに巨大規模となっている市場で高い成長率を達成している。

ソフトウェアが世界を席巻し、より多くの人たちが地球上のどこにいても(さらに近い将来には、宇宙からでも)イスに座ってコンピューターを操作できるようになっているため、サイバーセキュリティの市場規模は飛躍的に拡大している。

この数カ月間、筆者と同僚のSpencer Calvert(スペンサー・カルバート)は、この市場の機会がこのように急速に拡大している理由について、マルチクラウド環境の台頭誰も追いつけない速さで生成され格納されるデータ組織の事実上すべての機能に利用されているSaaSアプリケーション政治力と戦略的責任におけるCISO(最高情報セキュリティ責任者)の台頭など、何本か記事を書いた。

これらの要因をすべて考慮すると、控えめに見積もっても、2025年までに新しく生まれる市場価値だけで1000億ドル(約11兆500億円)に達し、市場全体の規模は2800億ドル(約30兆9500億円)に達する。

言い換えると、サイバーセキュリティ分野では莫大なビジネス価値が創造される機が熟している。この分野で多くのユニコーン企業が誕生すると思われ、市場はまだ初期の段階だが、当社が投資先として考えている分野がいくつか(および開発中の大局的な分野が1つ)ある。アップフロントでは以下の分野で基盤を構築している企業を積極的に探している。

  • データセキュリティとデータ抽象化
  • ゼロトラストの広範な適用
  • サプライチェーン

データセキュリティとデータ抽象化

データは新しいテーマではないが、筆者は初期のサイバーセキュリティという視点から見たデータスタックの変化を目の当たりにしてワクワクしている。セキュリティをスタックの上層部または側面部のアプリケーションとしてではなく、基盤部分にあるものとして見るとどのような機会が生まれるだろうか。

画像クレジット:Upfront Ventures

例えばデータは拡大速度が速過ぎて保護が追いつかない。我々は今、データ(構造化および非構造化)の存在場所、データの格納場所をまず認識し、セキュリティに関する方針を確認し、最も重要な問題を適切な速度で修正することを優先する必要がある。

これを規模を拡大して実施するには、賢明な受動的マッピングと、ますますデータが豊富になる(ノイズが増える)世界でノイズから信号を抽出するためのヒューリスティックとルールが必要になる。当社のポートフォリオ企業であるOpen Raven(オープンレイブン)は、構造化、非構造化を問わずデータをクラウド環境全体で大規模に検出および保護するためのソリューションを構築している。データセキュリティの分野では、制御ポイントがネットワーク層からデータ層に移行するにつれて、新しい大規模プラットフォーム企業が登場するだろう。

当社はオープンレイブンがこの分野でリーダー的存在になり、新しい世代の「アウトプット」、つまりこれから投資対象となるアプリケーション企業に推進力を与えることになると確信している。こうした企業はSalesforce(セールスフォース)やWorkday(ワークデイ)と同じ規模で、最初から異なる方法で抽象化および管理されたデータで構築される可能性がある。

作成または検出された時点のセキュリティデータを目を向けると、オープンレイブンのような新しいプラットフォームは、まったく新しいアプリエコシステムの登場につながる可能性がある。このエコシステムの範囲は、オープンレイブンによって構築される可能性が最も高いコンプライアンスワークフローなどの社内製アプリから、昔から我々が使用してきたアプリ(人材管理システム、CRM、製品分析、マーケティング属性ツールなど)を再構築するまったく新しい企業まで、幅広い。

セキュリティ最優先の基本方針を持って業界をリードするプラットフォームは、顧客エンゲージメント層つまり「アウトプット」層という一点に集中し、データカタログ作成、オピニオン編入データモデル、データアプリケーションなどを、データマッピング、セキュリティ、コンプライアンスを処理するサードパーティーに一任することで、新世代のアプリケーション企業に推進力を与える潜在性を備えている。

画像クレジット:Upfront Ventures

簡単に言えば、フルスタックのアプリケーション地球を構成する層に見立てると、UXは地殻に相当する。下層の基盤水平企業が個人識別情報やGDPR(GDPR対応は、現在至る所にデータを保持している企業に押し付けられている)などのすべての要件に対応するようになると、その地殻部分が拡充され、分厚くなる。これにより、新興アプリケーション企業は、自社の創造的な人材を、人間対ソフトウェアエンゲージメント層に重点的に配置する時間的な余裕が生まれ、既存のあらゆるカテゴリで人間の能力を超えるアプリを構築できるようになる。

ゼロトラスト

ゼロトラストは2010年に最初に登場した造語だが、アプリケーションは未だに、この考え方で検出されており、大企業はこの考え方を基盤に構築されている。ご存じない方に説明しておくと、ゼロトラストとは、自身のシステム、デバイスなどにアクセスしてくる者はすべて信頼しないという前提を指す。

いささか被害妄想気味に思えるかもしれないが、前回みなさんが大手テック企業を訪ねたときのことを思い出して欲しい。受付とセキュリティを来客用の入場許可証や名札なしで通過できただろうか。絶対にできないはずだ。仮想スペースや仮想アクセスでも同じことだ。筆者がゼロトラストセキュリティに深い関心を持つようになったのはFleetsmith(フリートスミス)に関わるようになったのが最初だった。筆者は2017年にフリートスミスに投資した。当時のフリートスミスはアップル製デバイスをビジネスに活用していた組織向けにアプリ、設定、セキュリティ設定を管理するためのソフトウェアを開発していた若いチームだった。フリートスミスにとってのゼロトラストとはデバイスの設定とアクセス許可についてのことだった。フリートスミスは2020年半ばにアップルに買収された。

ちょうどフリートスミスが買収された頃、筆者はArt Poghosyan(アート・ポグホスヤン)とそのチームにBritive(ブリティブ)で会った。このチームはクラウドで動的なアクセス許可を実現するためにゼロトラストを導入していた。ブリティブは、ゼロトラストのジャスト・イン・タイム(JIT)アクセスを前提として構築されている、この方法では、ユーザーは、従来の「チェックアウト」および「チェックイン」資格情報の代わりに一時的なアクセス許可を動的に付与される。

ブリティブでは「常時オン」の資格情報の代わりに一時的な特権アクセスを付与することで、過剰特権アカウントにともなうサイバーリスク、特権アクセスとワークフローの管理に要する時間を大幅に軽減することができるため、マルチクラウド環境における特権アクセス管理を簡素化できる。

ゼロベーストラスト(ZBT)の次には何が登場するのだろうか。社員は作業によってデバイスと位置を変えるため、当社はデバイスとアクセス権が新しい境界になると考え、最初はフリートマン、今はブリティブに投資している。しかし、ZBTが日常的なプロセスに浸透するにはまだまだやらなければならないことがたくさんあると考えている。パスワードは、(自分が誰であるかを毎回証明する必要があるため)理論上はゼロトラストであるが、パスワ                      ードだけでは十分というにはほど遠い。

画像クレジット:David Ulevitch on Twitter

パスワードを盗むフィッシング詐欺は、データ漏洩の最も一般的な原因だ。しかし、ユーザーに、パスワードマネージャーを使用させたり、パスワードを定期的変更させたち、2要素認証、さらにはパスワードなしのソリューションを採用させるにはどうすればよいだろうか。当社は、ZBT要素を一般的なワークフローに組み込むというシンプルでエレガントなソリューションを支持する考えだ。

サプライチェーン

最近のソフトウェアはサードパーティーやオープンソースのコンポーネントを使用して組み立てられている。この公開コードパッケージとサードパーティー製APIによる組立ラインはサプライチェーンとして知られている。この組立ラインをターゲットとした攻撃はサプライチェーン攻撃と呼ばれる。

一部のサプライチェーン攻撃は、Snykなどの既存のアプリケーションセキュリティツールやオープンソース依存性をチェックするその他のSCAツールで低減できる。具体的には、セキュリティエンジニアリングを自動化し設定ミスを修正するBridgecrew(ブリッジクルー)やセキュリティスキャンを実施するVeracode(ベラコード)などがある。

しかし、その以外の脆弱性を検出するのは極めて困難になることが多い。サプライチェーン攻撃が注目を集めた2020年のSolarWindsハックでは、SolarWindsアップデートの小さなコード片が変更され、1万8000社に拡散してしまった。これらの企業はすべて、ネットワークの監視やその他のサービスにSolarWinds製のソフトウェアを導入していた。

画像クレジット:Upfront Ventures

自社のセキュリティオンボーディングにすべて合格した信頼できるベンダーのバージョンアップデートに悪意のあるコードが隠されているとしたら、一体どのようにして自社を保護すればよいだろうか。サプライチェーン全体の可視性を維持するにはどうすればよいだろうか。このように今は答えよりも疑問のほうが多い状態だが、当社は、サードパーティー製ベンダー、モジュール、API、その他の依存性を入念に検査し、導入、監視、削除を実行する大企業が出現すると予測している。

上記のいずれかの領域やその関連領域で起業を考えている読者は、当社までご連絡いただきたい。当社は、サイバーセキュリティの分野が急速に変化していることは十分に認識している。本記事の内容について、ご意見、反論などあれば、ご連絡いただきたい。

関連記事
【コラム】サイバーテロを終わらせるために政府は民間セクターとの協力を強化すべきだ
【コラム】上司は「オフィスのほうがセキュリティ的に安全」と言うがそれは従業員を職場に戻す理由にならない
【コラム】パブリッククラウドにおけるセキュリティ課題の解決に向けて

カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラムOpen Ravenゼロトラスト

画像クレジット:guirong hao / Getty Images

原文へ

(文:Kara Nortman、翻訳:Dragonfly)

創業者が資金調達中にメンタルヘルスを管理する10の方法

編集部注:本稿の著者Adonica Shaw(アドニカ・ショー)氏は、健康とウェルネスに焦点を当てたプロフェッショナルな女性のためのソーシャルメディアプラットフォーム「Wingwomen」の創設者。

ーーー

パンデミック渦中、起業家のメンタルヘルスやストレスマネジメントが広く議論されるようになった。しかし多くのベテラン起業家にとってこの話題は未だタブーなトピックとなっている。世の中がニューノーマルに向かおうとしている今、創業者や投資家、メンタルヘルス専門家らは、パンデミック前には問題視されていなかったメンタルヘルスを今後考慮する必要があるのではないかという疑問を抱き始めている。

筆者もその1人である。実際、パンデミック前から問題だったのである。さらにいうと、起業家がリスクを受け入れる傾向にあるというのも、メンタルヘルスを助長させる原因だ。

「起業家は自分の仕事にさまざまな弱さを抱え込んでいますが、避けることのできないリスクとそれが相まって、リスクがうまくいかなかった際に悪化することがあります」。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の精神医学臨床教授であり、Econa(エコナ)の創設者であるMichael Freeman(マイケル・フリーマン)氏はそう話す。「そして実際、ほとんどの場合はうまくいかないため、傷つき、精神的な症状を感じたり、下降線をたどったりしやすくなるのです。その逆も同様で、うまくいっているときはうまくいっているときで、別の種の精神衛生上の問題が発生しやすくなります」。

それでは、例えば資金調達中に困難な状況に陥ったとき、起業家はこのような問題にどう対処し、どのようにして精神を研ぎ澄ませてそれを維持すれば良いのだろうか。

答えはシンプル、予防と認識の2つである。予防という点では、起業家のメンタルヘルスにおける違いを受け入れ、起業家のメンタルヘルスの優れた能力を称え、ダウンサイドを防ぐライフスタイルを取り入れることに尽きるとフリーマン氏はいう。

「あらゆる医療に同様のことが言えますが、メンタルヘルスにおいても、ほんの少しの予防は多大な治療に値します」とフリーマン氏。「起業家がメンタルヘルスの問題を予防したいなら、まずライフスタイルのリスク要因を評価することから始める必要があります」。

フリーマン氏によると、起業家がメンタルヘルスをサポートする方法は5つあるという。

  1. 睡眠をとる。睡眠の最も重要な役割は、脳をリチャージし、日中に起きていられるようにすることである。心と体を回復させるということには非常に大きな予防効果がある。目を開けていられないようではプレゼンなどできるはずがない。
  2. 運動をして汗をかくこと。起業家は最低でも1日45分間の運動をすべきであり、かつそのうち週2回は汗をかくほどの激しい運動であるべきだ。運動は健康に良いだけでなく、実行機能も高めてくれる。つまり集中力を高め、物事を成し遂げる能力を高めてくれるのだ。また、自身の気持ちをコントロールできるようになるため、たとえVCに自分のアイデアをめった斬りにされようと、電話をきってから落ち込むことがなくなる。資金調達の際にイエスかノーどちらを得られるかは、明確な思考能力が左右するだろう。
  3. ビジネスとは関係のない友人を得て、維持する。起業家は時に孤独な職業でもある。仕事とは別に友人や愛する人とのコミュニティを持つといい。また、人間関係が仕事のモヤモヤと混合してしまわないように気を付けたい。人間関係を維持し、仕事が大変な時には彼らが心の支えとなるような関係が理想である。
  4. 健康的かつ戦略的に食べる。多くの起業家はその道のりの中で、貧困生活を体験することがあるだろう。限られたリソースの中でプレッシャーにさらされているとき、ジャンクフードやファストフードを食べるのは間違ったトレードオフに他ならない。認知機能にも悪く、その他多くの健康上の影響がある。
  5. メンタルヘルスに関する懸念には、数カ月ではなく数週間単位で対処する。懸念事項を迅速に管理しない場合、好まざる結果に繋がってしまうことがある。「メンタルヘルスの症状が長引くと【略】より深刻なメンタルヘルスの状況につながる可能性があります」とフリーマン氏は述べている。「個人的な悪影響としては、より深刻なメンタルヘルス問題の発生、社会的な人間関係の崩壊、仕事上でのパフォーマンス低下などが挙げられます。ビジネス面では、倒産、従業員の流出、戦略的提携パートナーとの関係悪化、潜在的な投資家の喪失などが考えられます」。

認識に関しては、自分のストレスレベルを悪化させ、資金調達を成功させる能力に悪影響を与える可能性のある要因を理解し、それに応じた計画を立てることから始めるといい。ストレスレベルを上昇させる要因には、資金調達前の経済的状況や健康状態、性別、人種、業界のあり方、制度上の障壁、さらには市民権を得ているか否かなどが含まれる。

「有色人種、移民、女性の起業家はガラスの天井に対する懸念が非常に多い」とフリーマン氏はいう。「資金調達中のメンタルヘルス悪化の要因にもなります。【略】何らかの形で除け者にされてきたグループの人々は、メンタルヘルスの観点からだけでなく全体的に見ても、克服するのが困難な異なるハードルを抱えています」。

SaaSプラットフォームのMixtroz(ミクストロズ)の共同設立者であるKerry Schrader(ケリー・シュレイダー)氏は、こういったことがどのように資金調達に影響するかをよく知っている。同氏と同氏の娘であるAshlee Ammons(アシュリー・アモンズ)氏は最終的に100万ドル(約1億1000万円)以上の資金を集めることができたが「次の黒人女性」になるかもしれないというプレッシャーは相当のものだったという。

「100万ドル以上の資金を調達した37番目と38番目の黒人女性、というプレッシャーにとらわれるのをやめました」と同氏はいう。「もし私たちが成功しなかったら、他の黒人女性が資金調達できない原因になるのではないかと考えてしまいました。しかし正直なところ、私たちはそのような余分なストレスを排除することにし、人々に支持されるような収益性の高いビジネスを行うことに集中したのです。そして失敗したときには、白人男性と同じように、次のチャンスと資金を得れば良いと考えることにしました。もちろんそれが普通に得られるものではないということは分かっていましたが」。

シュレイダー氏によると、資金調達活動中におけるメンタルヘルスの管理方法に関する情報はほとんどなく、同親娘はさまざまな方法を試した結果、納得のいく方法を見つけることができたという。

同氏の経験をもとに、起業家が資金調達をしながらメンタルヘルスを管理する方法についてさらに5つ紹介したい。

  • カウンセラーやセラピストに相談して、ストレスレベルをコントロールする。セラピーについて、精神的に打ちのめされた時の対処法という考え方から、生き生きと生活するための予防的な方法という考え方に起業家らはゆっくりとシフトしてきているという。「私はBetterHelp(ベターヘルプ)を活用して資金集め中に誰かと話すようにしました」とシュレイダー氏は振り返る。「第三者に伝えることで、何でも言えるようになりました。プライベートで気持ちを吐き出すことで、投資家との会話もより効果的に伝えることができるようになりました。資格を持った専門家に相談してから、『私はあなたに助けてもらっている』という考え方から『私にはエキサイティングなチャンスがあるので、あなたには早期に投資してもらいたい』という考え方に変えることができました。カウンセリングはとても役に立ちました」。
  • 出口を用意しておく。目標設定は物事を軌道に乗せるためのすばらしい方法だが、有限の終着点を設定しなければ、決して成功できないような錯覚に陥ることもある。「当初、私たちはあるマイルストーンに到達しなかった場合、どのような行動を取るかという基準を置くようにしました。失敗するかもしれないと恐れるのではなく、ビジネスを終了して自分のキャリアに戻る時のルールを決めたのです。共同出資者との間で合意された『終了』の条件を設定するというのは私の精神衛生上すばらしいことでした。そして数年後の今、私たちはまだ戦っていますし、ほぼ正気も保っています」。
  • チームを頼る。1人で戦うことはできない。スタートアップを前進させ、自分の健康を守るためにチームを積極的に活用すべきである。「友人や家族からの資金調達を終えた直後に、私は乳がんと診断されました。資金調達をしながら放射線治療、手術、治療を受けていましたし、病院のベッドからもプレゼンをしました。しかし資金集めをしているときに、終わりなどありません。それがきっかけで、娘がフルタイムで取り組んでくれることになりました。家族として、長期的に成功するためには、お互いに助け合う必要があるということを実感しました」とシュレイダー氏は話す。
  • 計画に柔軟性を持たせる。起業したばかりの頃は、どうしても決められたプランに集中してしまいがちになる。しかし、著名な起業家たちの経歴を見てみると、彼らは必要に応じて方向転換を行い、常に学びを得ているということが分かる。「資金調達時には、週単位、日単位、さらには1時間単位で計画が変更され、それに常に対応しなければならない時期がありました」とシュレイダー氏は振り返る。「それは飛行機を買い、操縦を学び、燃料補給のための格納庫を同時に探すようなものだと私は思っています。好きなだけ計画を整理しようとすることはかまいませんが、どの程度計画ができるかなど計り知れません」。
  • お金のためにどの程度のストレスに対応できるか考える。当然のことながら、資金調達は小切手を確保することが目的だ。しかし起業家の中には、資金を得るために不可能な条件を飲んでしまう者もいる。資金調達の場に足を踏み入れる前に、自分の限界を知っておくことが大切だ。「自分が優位に立っていると感じている場合、人はどれだけ多くのものを得られるか試してみるものです。自分の理由を忘れてはいけません。自分を見失わずにできることがわかったら、やってみたら良いでしょう」とシュレイダー氏はいう。「そして覚えておいて欲しいのは、たとえ起業家であっても断るという選択肢は常にあるということです。特に、断るという決断が自分の正気を守ることにつながるのであれば、なおさらです」。

関連記事
ストレスと白髪には顕著な相関、心理的負荷取り除けば元の色に戻る可能性をコロンビア大学の研究者が確認
サイケデリック療法とテックが融合したメンタルヘルスソリューションのNUE Life Health
カウンセリングやコーチングなど相談援助業務の支援アプリ「ソラハルClientFirst」がトライアルユーザー募集

カテゴリー:その他
タグ:メンタルヘルスストレスプレッシャー健康コラム

画像クレジット:Massonstock / Getty Images

原文へ

(文:Adonica Shaw、翻訳:Dragonfly)

【コラム】21世紀型の搾取となっている「ギグエコノミー」

編集部注:本稿の著者Rebecca Dixon(レベッカ・ディクソン)氏はNational Employment Law Projectのエグゼクティブディレクター。

ーーー

昨今のアプリベースのギグエコノミー、すなわちインターネットやスマートフォンを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態は、しばしば「現代のイノベーション」や「21世紀型のワークスタイル」という美辞麗句で語られるが、これは羊の皮をかぶった狼のようなものだ。

低賃金で不安定な仕事は今に始まったものではない。安い賃金かつ危険で「スキルがない」として解雇される仕事は昔からあった。有色人種の労働者は常に(そしてこれからも)、組織的な人種差別と歴史的に搾取的な経済が故に、最もブラックな産業に集中している。

従来と異なるのは、現在ではUber(ウーバー)、DoorDash(ドアダッシュ)、Instacart(インスタカート)などの企業が、デジタルアプリを使って労働力を管理(アプリベース)しているので規制に従う必要がないと主張している点にある。

いわゆる「ギグエコノミー」における労働者の権利は、現代的課題として位置づけられることが多い。しかし、ギグエコノミーやアプリベースの労働者(主に有色人種)が直面している問題を考えると、私たちは過去から学んで公正な経済に向けて前進する必要がある。

連邦政府は長期にわたり、労働者の大規模な搾取への対処に失敗している。全国労働関係法(米国)が成立してからも、有色人種の労働者が従事していた農業や家事などの仕事は、労働権や保護の対象から除外されてきた。今日の「独立請負人」も、その多くが有色人種の労働者で、同じカテゴリー、すなわち労働法で保護されない労働者である。黒人とラテン系の労働者の合計は、全米の総労働力の29%以下だが、アプリベースの企業の労働者に絞れば約42%を占めている。

ギグカンパニーは、自分たちのビジネスを構成し、指示を受け、自分たちが設定する賃金を受け取るドライバーや配達員、独立請負人などの労働者は、極小ビジネスの何百万もの集合体であり、基本的な手当や保護は必要ないと主張する。これにより、これらの企業は現場の労働者に対する責任を負わず、最低賃金、医療保険、有給休暇、損害賠償保険など、従業員にとって必要不可欠な基本的コストの支払いから逃げている。このような状況は、全国的な不平等を助長し、最終的には労働者の搾取と犠牲の上に成り立つ大きな欠陥のある経済につながっている。

アプリベースの企業は、ますます不穏な傾向を示している。過去40年間、連邦政府の政策により、労働者の交渉力は大幅に低下し、企業やすでに大きな富と力を持つ者に権力が集中するようになった。これにより、人種間の賃金や貧富の格差は悪化の一途をたどり、あまりにも多くの人たちの労働条件が劣悪になっている。

すべての人にとって働きやすい経済を構築するためには、ギグカンパニーやアプリベースの企業が「イノベーション」を口実に労働者を搾取することが許容されないことは明らかだ。これらの企業は、労働者自身が独立した契約者であり続けることを望んでいると主張するが、労働者が望んでいるのは、適切な賃金、雇用の安定、柔軟性、そして連邦法に基づく完全な権利である。これは合理的で正当な要求であり、世代間のジェンダーや人種による貧富の差を解消するためにも必要なことだ。

アプリベースの企業は、労働者を搾取するモデルを後押しする政府の政策を続けさせるために、多大な資金を投入している。Uber、Lyft(リフト)、DoorDash、Instacartなどのアプリベースの企業は、州議会、市議会、連邦政府でロビー活動を行い、誤った情報を大々的に売り込んでいる。選挙で選ばれたリーダーたちはあらゆるレベルで、これらの政策が自分たちに有利なように法律を書き換えようとする企業の企みであることを認識し、労働者を普遍的な保護から切り離す政策の庇護にある企業の利益を拒否する必要がある。

議会も、有色人種を基本的な雇用保護から締め出す除外規定を拒否し、アプリベースの労働者を含むすべての労働者に保護を拡大する法案を通過させねばならない。PRO法(Protecting the Right to Organize Act:団結権保護法)は、雇用主によって悪意を持って「独立請負人」と分類された労働者に交渉権の保護を拡大する、すばらしい第一歩だ。

アプリベースの労働者は、全米で健康と安全を保護するための組織を立ち上げ、労働者としての権利が認められ、保護されることを要求している。選挙で選ばれたリーダーたちは「21世紀型」のモデルを主張する企業のプロパガンダに騙され続けてはいけない。21世紀であろうとなかろうと仕事は仕事であり、アプリベースであろうとなかろうと、仕事は仕事なのだ。

私たちは議会に対し、すべての労働者の労働権と保護を認め、アプリベースの企業が「柔軟性」や「イノベーション」の名のもとに労働者の平等な権利を阻むことがないよう、大胆に行動することを求める。

関連記事
Postmatesの元グローバル公共ポリシー担当副社長が語るギグワーカーの将来
バイデン政権の労働長官はギグワーカーを従業員待遇にすべきと考えている
新しいデジタル屋外広告「Stchar !」を手がける学生企業Wanna technologiesが1100万円のシード調達

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ギグエコノミーギグワーカーアメリカコラム

画像クレジット:SpiffyJ / Getty Images

原文へ

(文:Rebecca Dixon、翻訳:Dragonfly)

【コラム】深層強化学習は私たちが知る製造業を変革する

編集部注:Chris Nicholson(クリス・ニコルソン)氏は、深層強化学習を産業オペレーションとサプライチェーンに適用する企業であるPathmindの創業者兼CEO。

ーーー

通りを歩きながら、目に入るものすべての名前を大声で叫んでみたとしよう。「ごみ収集車!」「競輪選手!」「プラタナスの木!」  多くの人は、そんなあなたを特に賢いとは思わないだろう。一方で、例えば障害物コースを通るときに、一連の障害をうまく切り抜けて無傷で最後までたどり着く方法を示したなら、人々の評価は変わってくるはずだ。

ほとんどの機械学習アルゴリズムは、街中で名前を連呼するようなものである。人間が1秒たらずで行えるような知覚的な作業を実行する。しかし、もう1つのAIである「深層強化学習」は、戦略的なものだ。目標を達成するための一連のアクションを実行する方法を学習する。これはパワフルかつスマートな手法であり、多くの業界を変革しようとしている。

AIトランスフォーメーションの最前線にある2つの業界は、製造とサプライチェーンだ。物を作り、出荷する方法は、協働する機械群に大きく依存しており、その機械の効率性とレジリエンスは、経済と社会の基盤となっている。それがないと、生活や仕事に必要な基本的な物を手に入れることができなくなる。

CovariantOcado傘下のKindredBright Machinesなどのスタートアップは、機械学習と強化学習を用いて工場や倉庫での機械の制御方法を改変し、ロボットにさまざまな大きさや形の物体をビンの中から検出して拾わせるなど、極めて難易度の高い課題を解決している。これらの企業はまさに巨大な市場に挑んでおり、2020年には産業用制御および自動化市場は1520億ドル(約16兆7530億円)、物流自動化市場は500億ドル(約5兆5110億円)を超える価値を示した。

技術者としては、深層強化学習を機能させるには多くのことを行う必要がある。最初に考えるべきことは、どのようにして深層強化学習エージェントに、求めるスキルを実践させるかだ。これには、実際のデータを活用する方法と、シミュレーションを使用する方法の2つの手法のみ存在する。各アプローチにはそれぞれ独自の課題がある。データは収集して整理する必要があり、シミュレーションは構築して検証することが求められる。

いくつかの例を挙げて、これが何を意味するかを示そう。2016年、Google Xはロボットの「Arm Farm」を公開した。モノをつかむことを学び、他者にも同じことを教える、複数のロボットアームで満たされた空間である。これは、強化学習アルゴリズムが実際の環境で動きを練習し、動作の成功を測定するための初期の方法の1つだった。このフィードバックループは、目標指向アルゴリズムの学習に欠かせないものである。つまり、連続的な決定を行い、その決定が導く対象を把握することが必要だ。

多くの場合、強化学習アルゴリズムが学習できる物理環境を構築することは現実的ではない。複数の工場から数多くの小売店に商品を輸送する数千台のトラック群をルーティングするための、異なる戦略をテストすることを想定しよう。可能なすべての戦略をテストするには莫大な費用がかかるだけでなく、実行に失敗した場合、多くの顧客に不利益をもたらしかねない。

多くの大規模システムにとって、最適なアクションパスを見つける唯一の方法はシミュレーションを使用することである。その際、データ強化学習のニーズを生成するために、理解したい物理システムのデジタルモデルを作成する必要がある。これらのモデルは、デジタルツイン、シミュレーション、強化学習環境とも呼ばれるものだ。これらはすべて、製造とサプライチェーンの用途において、本質的に同じことを意味する。

物理システムを再作成するには、システムの動作を理解しているドメインエキスパートが必要である。このことは、単一のフルフィルメントセンターのような小規模システムでは困難な課題となり得る。というのも、システムを構築した人々が退職していたり、あるいは亡くなっている可能性があり、後継者はシステムの運用方法は習得しているものの、再構築は行っていないからだ。

多くのシミュレーションソフトウェアツールは、ドメインエキスパートによる物理システムのデジタルモデル作成を可能にする、ローコードのインターフェイスを提供する。ドメインの専門知識とソフトウェアエンジニアリングのスキルを同じ人物が兼ね備えることは難しいため、これは重要である。

なぜ1つのアルゴリズムにこれほどの労力がかかるのだろうか。つまるところ、深層強化学習は、他の機械学習や最適化ツールでは実現し得ない結果を一貫して生成するからである。DeepMindも当然ながら、囲碁の世界チャンピオンを倒すために深層強化学習を使用した。強化学習は、チェス、タンパク質フォールディング、Atariのゲームにおいて、画期的な成果を達成するために不可欠なアルゴリズムの一部となった。同様に、OpenAIは「Dota 2」で、最高水準の人間チームに勝利するための深層強化学習を訓練した。

Geoffrey Hinton(ジェフリー・ヒントン)氏がGoogleに、Yann LeCun(ヤン・ルカン)氏がFacebookに入社した後の2010年代半ばに、深層人工ニューラルネットワークがビジネス用途を開拓し始めたように、深層強化学習も業界に大きな影響を与えるようになるだろう。囲碁で見たのと同じように、ロボットの自動化とシステム制御の飛躍的な向上がもたらされ、我々の持っている中で最高の、しかも他と大きくかけ離れたものになることが大いに期待される。

その恩恵を受けて、製品の製造とサプライチェーンの運用における効率性とコスト削減が大幅に促進され、炭素排出量と労働災害の低減につながっていくだろう。明らかに物理的世界の難問や課題は、我々の周りに存在している。2020年だけでも、新型コロナウイルス(COVID-19)、ロックダウン、スエズ運河の崩壊、異常気象によって、社会は複数のサプライチェーンの混乱に見舞われた。

新型コロナに着目すると、ワクチンが開発され承認された後も、多くの国でその製造や迅速な供給が困難になっている。これらは、過去のデータでは対応できない製造やサプライチェーンの問題だ。何が起こるかを予測するシミュレーションと、危機が発生したときに最善の方法で対処するためのシミュレーションが必要だったと、Michael Lewis(マイケル・ルイス)氏は最近の著書「The Premonition」の中で指摘している。

まさにこのような、工場やサプライチェーンで発生する制約と新たな課題の組み合わせにこそ、強化学習とシミュレーションがより迅速な解決をもたらすのである。そして、我々は将来、その数々のブレイクスルーを目にすることになるだろう。

関連記事
宇宙船や先進的製造の未来をより良くより早く実現する工場を建設するHadrian
新しいコンセプトのロボティクスに挑むRapid Roboticsが13.2億円調達
製造業を立て直すために米国は中小企業技術革新研究プログラムを強化せよ

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:機械学習深層学習強化学習コラム製造業サプライチェーン

画像クレジット:rozdemir01 / Getty Images

原文へ

(文:Chris Nicholson、翻訳:Dragonfly)

【コラム】サイバーテロを終わらせるために政府は民間セクターとの協力を強化すべきだ

編集部注:本稿の寄稿者はMark Testoni(マーク・テストニ)氏とJoseph Moreno(ジョセフ・モレノ)氏。テストニ氏は、SAP National Security Services, Inc.のCEO。それ以前はSAPおよびOracleで指導的立場を務め、米国空軍に20年間勤務した。モレノ氏はSAP National Security Services, Inc.の法律顧問。それ以前は連邦検事およびFBIの9/11レビュー委員を務めた。米国陸軍予備軍中佐。

ーーー

次の戦争に負ける最善の方法は、今の戦いを続けることだという。中世における要塞が効果的な防御であったのは、火薬と大砲が攻囲戦のやり方を永久に変えるまでだった。単純な兵士の数に基づく戦場の優位性は、大砲と機関銃の威力に取って代わられた。

第一次世界大戦中、戦車は19世紀のテクノロジーで作られた要塞を文字通り踏み潰す革新だった。軍事史を通じて、革新者たちが戦果を享受する一方で、順応の遅かった者たちは押しつぶされ、敗れ去った。

サイバー戦争も何ら変わらない。伝統的兵器は、我々の経済と国家安全にとっても同様に致命的なテクノロジーに屈している。軍事的優位をもち、サイバー分野でも先端を行っていながら、米国はデジタル敵と今もアナログ的思考で戦っている。

これを変えなくてはならない。そのために政府はまず困難な選択を決断する必要がある。その攻撃力を影の中に潜む敵に対してどうやって使うのか、民間部門とどう協力していくのか、そして、私たちの日常生活を脅かす悪役から国を守るにはどうすればよいのか?

コロニアル・パイプラインは一歩前進、二歩後退

Colonial Pipeline(コロニアル・パイプライン)に対するランサムウェア攻撃の後、ロシアと繋がりのあるハッキング・グループDarkSide(ダークサイド)は活動を休止し、Federal Bureau of Investigation(連邦捜査局、FBI)は支払われた身代金4400万ドル(約48億7000万円)の一部を取り戻したと報じられた。これは明るい展望であり、我が国の政府がこの種の攻撃を深刻に捉えている証だ。しかしそれは、何年も前から知られている技術を使って罰を受けることなく敵対国で活動するサイバーテロリストが、国で最大の石油パイプラインを機能停止に陥れ数百万ドル(数億円)の身代金を持ち去ることに成功したという事実を変えるものではない。彼らはおそらく永久に裁かれることがなく、ロシアは結果を正視することなく、こうした攻撃は間違いなく続いていくだろう。

現実はといえば、企業はサイバー防御に関してより賢くなり、ユーザーは自分たちのサイバー衛生行動をより慎重にできるようになったものの、テロリストの活動を止める権力をもっているのは政府だけである。

国境内でサイバー犯罪者の活動を許している国々は、即刻犯人を引き渡し、さもなければ厳しい経済制裁を与えられるべきだ。そのような個人やグループに対し、避難場所やその他の支援を与えている国は、認定テロリスト組織を支援する者と同様に物質的支援の罪に問われるべきだ。

規制当局は、暗号資産(仮想通貨)取引所とウォレットが違法な取引や組織の捜査に協力することを強制し、従わなければ米国金融システムから除外すべきだ。警察や軍部、諜報機関は、サイバーテロリストの活動を著しく困難で危険で利益のないものにすることで、米国の産業や重要インフラに対して次の攻撃を仕かける意欲を失せさせるべきだ。

政府は民間セクターとの協力を促進すべきだ

我が国最大の脆弱性であり、逸している機会は、公民一体となってサイバー戦争に対する統一戦線を組めていないことだ。政府と民間セクターがサイバーリスクと事象情報をリアルタイムで共有することは、防御と攻撃どちらにとっても極めて重要だ。現在それは行われていない。

企業は、脆弱性を明らかにすることで、本来攻撃から守ってくれるべき政府自身から、訴訟され、捜査され、さらに被害を受けることを恐れすぎている。連邦政府は、情報の過剰な機密扱い、官僚制度の重複、民間産業と積極的に情報や技術を共有するインセンティブを与えないカルチャーの壁といった諸問題に対して、未だに答えを持っていない。

その答えは、強大な企業がやってきて一方的な情報の流れを要求することではない。民間人が自発的に名乗り出て、訴訟や規制措置を恐れることなく情報共有できるようにすべきだ。リアルタイムに自己開示されたサイバーデータは秘密を守られ、防御と応戦のために使用されるべきであり、被害者をさらに傷つけるべきではない。相互協力のためにあってはならないことだ。

そしてもし、連邦機関や軍部や諜報機関が、将来の攻撃やその防御方法に関する知識を手に入れたなら、用無しになるまでじっとしているべきではない。民間セクターと安全で、時宜を得た、双方に利益をもたらす方法で情報を共有する方法は必ずある。

企業は、サイバー事象情報の交換だけにとどまるべきではない。民間セクターと学術界はサイバースペースの膨大な発展に貢献しており、過去20年間に研究開発に費やされた金額の民間と公共セクターの割合はおよそ90%対10%だ。

我々の民間セクターは、シリコンバレーからテキサス州オースチン、バージニア北部のテクノロジー地域にいたるまで、最優秀な人材を擁し、政府に与えるられる膨大な資源をもっているが、そのほとんどが活用されていない。民間セクターの利益を押し上げているのと同じ革新が、国家安全保障の強化にも使われるべきだ。

中国はすでにこれを認識しており、もし我々が民間セクターの革新と米国の若い才能を活用する方法を見つけられなければ、後れをとることになる。バイデン政権と議会の民主党と共和党が政治的駆け引きをやめて採用すべき超党派的ソリューションを要請することがあるとすれば、これこそがそうだ。

軍事防御産業モデルを見よ

ありがたいことに、さまざまな形でうまくいっている公共・民間の活動モデルがある。現在兵器システムはDefense Industrial Base(防御産業基盤)がほぼ独占的に製造しており、戦場に配備された際には、脆弱性、脅威、効果の改善点などについて、兵士と定期的な双方向会話がなされている。この関係は一夜にしてできたものではなく、完璧にはほど遠い。しかし数十年にわたる努力の結果、堅牢な協業プラットフォームが開発され、セキュリティ検査の基準が制定されたことで、信頼が築かれた。

同じことを、連邦政府のサイバー担当機関と民間セクター全体の人々との間でも行うべきだ。金融機関もエネルギー企業も小売業も製造業も製薬業も、政府と協力してサイバーデータをリアルタイムに双方向で共有できるはずだ。政府はもし攻撃グループや脅威となる技術を見つけたら、攻勢に出て封鎖するだけでなく、その情報を安全かつ迅速に民間セクターに伝えるべきだ。

FBIや国土安全保障省や軍部に、プライベートネットワークをサイバー攻撃から守ることを求めるのは現実的ではないが、政府はそのための密な協力パートナーになれるし、なるべきだ。我々は、これを共同の戦いでもあり責務でもあることを認識した関係を受け入れるべきであり、正しく行うための年数は多くない。

政府は行動を起こせ

戦争の歴史を見ると、優位は常に最初に革新した者にもたらされている。サイバー戦争に関して、答えは人工知能や量子コンピューティングやブロックチェーンなどの先端技術だけにあるのではない。現代のサイバーテロリズムに対する戦争における最も強力な進歩は、幼稚園で習うほど簡単なものかもしれない。共有と協力の価値だ。

政府とテクノロジー産業、そして広く民間セクターの人々は、我々の競争優位性を維持し、クラウドコンピューティングや自動運転車や5Gなどの先端技術を利用するだけでなく、私たちの生活様式を守り持続していくために一致団結すべき。これまでこの国は公共と民間の協力体制構築に成功しており、アナログな関係からデジタルへと進化することが可能だ。しかし、そのためには政府が先頭に立って道を開く必要がある。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラムランサムウェアサイバー攻撃アメリカ

画像クレジット:YinYang / Getty Images

原文へ

(文:Mark Testoni、Joseph Moreno、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】親愛なるEUへ、テックスタートアップ政策の優柔不断をやめてコミットする時がやってきた

EUは、その無気力、欠点の数々、官僚主義のフェティシゼーションなどを考慮に入れても、究極的には良いアイデアだ。欧州経済共同体が設立されて64年になるかもしれないが、マーストリヒト条約でEUが創設されて29年が経ち、この国際機関は今でも優柔不断なミレニアム世代のように振る舞い、テックスタートアップ政策を喜んでいじくり回している。EUはそろそろデジタルノマドをやめ、長年の懸案であるスタートアップへの対応について、1つの「場所」にコミットする時期に来ているのではないだろうか。

1つだけ誰もが同意できることがあるとすれば、それは今がユニークな時期であるということだ。新型コロナウイルスのパンデミックは世界的に、特にヨーロッパでテクノロジーの受け入れを加速させた。ありがたいことに、テック企業やスタートアップ企業は、確立した経済の大部分よりも回復力が高いことが証明されている。その結果、EUの政治指導者たちは、ヨーロッパのより持続可能な未来のために、イノベーション経済に目を向け始めた。

しかし、この時が訪れるまでには時間がかかった。

ヨーロッパのテックシーンは、スタートアップの設立数、テック分野の人材、資金調達ラウンド、IPO、イグジットなどの面で、米国やアジアに比べてまだ遅れをとっている。もちろん、ヨーロッパ市場が非常に細分化されていることも助けになっておらず、それは今後も長く続くだろう。

しかし、米国やアジアのテック巨人たちに対抗するために、スタートアップ企業の法律、税制、人材育成を改革するというEUの義務に関しては、言い訳はまったく存在しない。

だが率直に言ってEUは、スタートアップを取り巻く環境を整えることができないようだ。

これまであった提案の数々を考えてみよう。

古くは2016年に「Start-Up and Scale-Up Initiative」が発足した。同年には「Scale-Up Manifesto」も発表された。そして2019年には「Cluj Recommendations」、2020年にはオプション改革のための「Not Optional」という取り組みが行われた。

現実を受け入れよう。ヨーロッパのVC、創業者、スタートアップ協会コミュニティは、国やヨーロッパのリーダーに対して、何年も前からほとんど同じことを言っている。

2021年になってついに、これらの努力の集大成に近づくものが出てきた。

2021年前半のEU議長国であるポルトガルは勇敢に難局に立ち向かおうと決断し、EUが必要とするものの最終的な草案に近いものを作成した。

欧州のエコシステム関係者との綿密な協議を経て、同国はスタートアップの迅速な創出、人材、ストックオプション、規制の革新、資金調達へのアクセスなど、さまざまな問題を取り上げた上で、競争条件を整えるための8つのベストプラクティスを特定した。考えられる問題は網羅している提案だ。

これらは「Startup Nations Standard(SNS)」と呼ばれる立法文書としてまとめられ、2021年3月19日に行われたDigital Dayで、欧州委員会とともに、情報社会・メディア総局(DG CNECT)とその担当であるTierry Breton(ティエリー・ブルトン)委員に提出された。このことについては、当時書いた

関連記事:EUが「スタートアップに優しい法案」を加盟国に今週提案、何カ国が署名するのか?

明らかに実現可能なこれらの提案に、EUはようやく理解を示し署名するだろうか?

少なくとも今回は、進展がありそうに思えた。この日、25の加盟国が宣言に署名し、おそらく初めて、この政策についての政治的コンセンサスが形成されたように見えたのである。

実際、ポルトガルのAntónio Costa(アントニオ・コスタ)首相は、このイニシアチブを統括するための機関(European Startup Nations Alliance、ESNA)の設立を発表している。この機関は、基準の監視、開発、最適化を行い、その成功と失敗に関するデータを加盟国から収集し、その結果を欧州理事会の議長国が変わるのに合わせ年2回の会議で報告するとのことだった。

冷えたバイラーダエスプマンテDOCでも開けて、これらの提案された政策のうち、少なくとも基本的な部分をEUがようやく実施し始めるかもしれないことを祝えそうなものだ。

しかし、そうは問屋が卸さない。パンデミックがいまだに続いている中、EUのリーダーたちはこれらのテーマについて考える時間を持て余していたようだ。

そこで今度はEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)仏大統領が、ヨーロッパの主要なテック創業者、投資家、研究者、企業CEO、政府関係者など150人以上の選りすぐりのグループを集めて、スタートアップについて考える「Scaleup Europe」というイニシアティブを打ち出した。また、研究・イノベーション総局(DG RTD)のMariya Gabriel(マリヤ・ガブリエル)委員による「Global Powerhouse Initiative」も出てきた。

そう、ご列席のみなさん、EUはまるで巨大な金魚のような記憶力で、再びすべて同じプロセスを繰り返していたのだ。

このような集団行動が悪いというわけではない。しかし、EUのスタートアップは、もっと断固とした行動を必要としている。

現状では、非常に合理的なポルトガルの提案を実行する代わりに、2022年にフランスが議長国になるまで、EUの歯車がゆっくりと回転するのを待たなければならない。

とはいえ、うまくいけば、La French TechStartup PortugalStartup Estoniaのような組織で構成される、欧州共同体から委任されたテックスタートアップ政策の実施を監督する機関がようやく手の届くところに見えてくるかもしれない。

しかし外から見る者にとっては、EUの政策の歯ぎしりはまだまだ続くのではないかと感じてしまう。フランスは「La French Tech for Europe」を提唱し、ポルトガルはESNAをすでに立ち上げているが、これらの取り組みは連携が取れているとは言い難い。

つまるところ、テックスタートアップの創業者や投資家たちは、この新しい組織がどこから来たのか、どこの国が立ち上げたのかなどということは気にしないだろう。

何年もの貢献、何年もの協議を経て、今こそ行動を起こすべき時だ。

今こそEU加盟国は合意して前進し、確立されたベストプラクティスに基づいて他の加盟国が追いつけるように支援する時だ。

待望のEUテック巨人が開花し、米国生まれのビッグテックに対抗し、EUがようやくその力を発揮してもいい時期が来たのだ。

関連記事
LinkedInがヘイトスピーチの削除に関するEUの行動規範に正式署名
「音声認識AIの競争に対する懸念が高まっている」とEUが発表
グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EUコラムヨーロッパ

画像クレジット:picture alliance / Getty Images

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】オープンソースとオープン標準の統合を再評価しよう

編集部注:本稿の著者Guy Martin(ガイ・マーティン)氏は、世界で最も尊敬されている非営利標準化団体の1つOASIS Openの事務局長。ソフトウェアエンジニアおよびオープンソースストラテジストとして25年以上の経験をOASIS Openにもたらした。

ーーー

この世には解決すべき大きな問題があるが、是が非でも必要なのはオープンソース(open source)コミュニティとオープン標準(open standard)コミュニティの提携だ。

2020年の厳しい現実からの例を挙げよう。米国は2020年、およそ6万件におよぶ山火事が発生し、1000万エーカー(約4万500平方キロメートル)以上が焼き尽くされ、9500棟以上の家屋が全焼して、43人の命が失われた

私は10年間カリフォルニア州でボランティアの消防士をしており、消防士が効果的かつ迅速にセーフティクリティカルな情報をやり取りできる技術の決定的な重要性をじかに感じた。通常は複数の消防機関が火事現場に向かうのだが、それぞれさまざまなメーカーのラジオを携帯している。これらのラジオは専用ソフトウェアで周波数が設定されているので、チームがお互いにコミュニケーションを図れるようにするには、ラジオを再プログラミングする必要が生じる。このプロセスは不必要な遅延を生み、命を危険にさらす可能性もある。

すべてのラジオメーカーが標準に沿ったオープンソースの実装を採用すれば、ラジオはすぐに同じ周波数に調整できるだろう。ラジオメーカーは時間の無駄になる障壁ではなく、貴重な人命救助ツールを提供でき、そうしたソフトウェアの開発コストを共有できる。この状況では、他の多くの場合と同様に、独自の無線プログラミングソフトウェアから得られる競合上の利点や標準化によって得られる多くの貴重な利点はない。

一貫した標準とそれに相応するオープンソースの実装による利点は、山火事などのセーフティクリティカルな状況に特化したものではない。標準とオープンソースのより良い統合から多大なメリットを得られる分野は数多く存在する。

オープンソースとオープン標準の違い

「オープンソース」とは公的にアクセスでき、誰もが自由に使用、変更、共有できるソフトウェアを指す。またオープンなアイデアの交換、オープンな参加、ラピッドプロトタイピング、オープンなガバナンスと透明性を備えた、共同的なコミュニティ指向のソフトウェア開発哲学を指す。

それとは対照に「標準(standard)」という言葉は、取り決められた機能の定義を指す。要件、仕様、ガイドラインにより、製品やサービス、システムが品質、安全性、効率性を実現する相互運用可能な方法で実行されるようにする。

標準を制定し、管理するための組織は数多く存在する。例えば国際標準化機構(International Organization for Standardization、ISO)、欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute、ETSI)、ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム (World Wide Web Consortium、W3C)がある。OASIS Open(OASISオープン) もこのカテゴリーに属する。標準はオープンかつ公平で透明性の高い組織が指導する、合意形成プロセスを介して開発される場合「オープン」となる。ほとんどの人は標準作成プロセスは慎重かつ計画的であり、妥協を通じた合意を得て、長期的な仕様と技術的な境界に達していることに同意するだろう。

合意点について

オープンソースとオープン標準は明らかに異なるが、これらのコミュニティの目的は同じ「相互運用性、イノベーション、選択」だ。主な違いは目標の達成方法で、私がここで主に言及するのは、文化とペースについてだ。

IBMフェローであり、Open Technology(オープンテクノロジー)のCTOであるChris Ferris(クリス・フェリス)氏は、標準化機構では、物事を遅くすることが重要だと考えているように見えることが多いと話してくれた。時には正当な理由がある場合もあるだろうが、競合によって出し抜かれているようにも見える。オープンソースの場合は、より共同的で、論争や競合は少なく見える。だかこれは同じ分野で取り組まれる競合的なプロジェクトがないということではない。

ペースに影響を及ぼすもう1つの文化的特徴として、オープンソースはコードの記述に関するもので、標準化機構は散文の記述に関するものである。長期的な相互運用可能性に関しては言葉がコードを上回るため、標準の文化は標準を定義する散文を作成することからさらに計画的で考え込まれたものである。標準は技術的に静的ではないが、標準における意図は、長期的に重大な変更をせずに機能することに到達することだ。逆にオープンソースコミュニティでは反復的な考え方でコードを記述し、コードは基本的に継続的な進化の状態にある。この2つの文化はコミュニティが協調的に動こうとすると、衝突することがある。

もしそうなら、どうして調和しようとするのであろうか?

オープンソースとオープン標準の協調により、イノベーションに拍車がかかる

インターネットはオープンソースコミュニティとオープン標準コミュニティ間の調和により達成できることの最適な例だ。インターネットがARPANET(アーパネット)として始まったとき、TCP/IPより前の一般的な共有通信標準に依存していた。時間の経過、標準、オープンソースの実装とともに、TCP/IP、HTTP、NTP、XML、SAML、JSONなどが採用され、災害警報(OASIS CAP)や標準化されたグローバル取引インボイス(OASIS UBL)などのオープン標準とコードで実装される、主要グローバルシステムが作成できるようになった。

インターネットは完全に世界を変えた。オープン標準コミュニティとオープンソースコミュニティ間の協調精神を活性化できるのであれば、今後もこのレベルの技術的イノベーションや変化を遂げられる力はあるだろう。

調和と統合の自然な道を見つける

現在、リポジトリにはすべての重要なオープンソースプロジェクトがあり、そのソフトウェアの長期的な運用可能性を実現するには関連する標準で協力する機会が数多くある。OASIS Openのミッションの一部は、そのようなオープンソースプロジェクトを特定し、共同的な環境と、困難なプロセスにならずに標準が作成できるすべての足場を提供することである。

フェリス氏はこの統合への道の成長の必要性についても話してくれた。例えば、この必要性はアジアで技術を使用したい場合に顕著である。国際標準がなければ、アジアの企業は話も聞かないだろう。欧州共同体も標準に対して強い選好を主張しているように見える。これは確実にエコシステムで手強い相手と応戦できるオープンソースプロジェクトの推進力になる。

オープンソースプロジェクトがそれ自体よりも大きくなる場合も、統合の必要性が増していることが認識できる。つまりオープンソースプロジェクトが他のさまざまなシステムに影響を及ぼし始め、そうしたシステム間で調整が必要になる場合である。例えば遠隔測定データの標準がある。遠隔測定データは現在、可観測性からセキュリティまでさまざまな目的で使用されている。ソフトウェア部品表(SBOM)もまた別の例として挙げられる。ソフトウェアの出所を追跡する課題に対処するためにオープンソースの世界でなんらかのことが行われていることは分かっているが、これは成功するためには標準が必要になるまた別のケースだ。

チームとしての協力が必須

幸いなことに、オープンソースコミュニティとオープン標準コミュニティの最終的な目標は同じ「相互運用性、イノベーション、選択」だ。またインターネットからTopology and Orchestration Specification for Cloud Applications(TOSCA)などに至るまで、提携すべき方法とその理由は見事に証明されている。さらに主な利害関係者は特定のオープンソースプロジェクトでは戦略的な長期的観点が必要で、それには標準が含まれることを支持し、認識している。

これはチームとして協力する上で大切な開始点であり、各団体は進んでお互いや利害関係者と協力するときが来ている。

関連記事
Google協力、QunaSysが量子プログラミングや量子アルゴリズムを学ぶイベント「Cirq Bootcamp」開催
ファーウェイ独自OS「HarmonyOS 2.0」のオープンソース版がIoT機器向けに公開、Linuxか独自カーネルを選択可能
必要な場所にデータを移動させるオープンソースのデータコネクタープラットフォームAirbyteが28.3億円調達

カテゴリー:その他
タグ:オープンソースオープン標準コラム

画像クレジット:David Malan / Getty Images

原文へ

(文:Guy Martin、翻訳:Dragonfly)

【コラム】さらなる電化の普及にはまったく新しいバッテリー技術へのアプローチが必要だ

世界経済の広範な電化への移行により、輸送、家電、医療機器、家庭用エネルギー貯蔵などの業界にわたって、長寿命で高速充電のバッテリーに対する需要が高まっている。この移行のメリットは十分理解されているものの、実際には、バッテリーのイノベーションは社会の大望に追いついていない。

世界の気温が今後5年間で「パリ協定で示された1.5℃の制限を超えて上昇する」可能性は40%と予測する報告もあり、完全に商業化するまでにさらに10年かかることも考えられる次世代バッテリーの開発には、無駄な時間を費やす余裕がほとんどないことは明らかである。

電力供給への圧力の高まりに対応する上で、充電式バッテリーを迅速に拡張して温室効果ガスの排出を世界的に抑制し、気候危機の最悪のシナリオを回避する唯一の方法は、バッテリー構築に対するまったく新しいアプローチである。

バッテリーイノベーションへの挑戦

過去数十年にわたり、バッテリーの専門家、自動車メーカー、Tier 1サプライヤー、投資家などが、主にバッテリー化学に焦点を当てた次世代バッテリーの開発に世界中で数十億ドル(約数千億円)を費やしてきた。しかし、業界は依然として、バッテリーの普及を妨げている2つの大きな技術的課題に取り組んでいる。

  1. エネルギーと電力のトレードオフ:現在製造されているバッテリーはいずれも、電力とエネルギーとのトレードオフに直面している。バッテリーは、より多くのエネルギーを蓄えるか、さもなくばより高速で充電 / 放電を行うか、である。つまり、電気自動車に関して言えば、1つのバッテリーで航続距離の長さと高速充電を両立させることはできない。
  2. アノードとカソードのミスマッチ:今日最も有望とされるバッテリー技術は、リチウムイオンバッテリーセルを構成する一対の電極の負極であるアノードのエネルギー密度を最大にする。しかし、アノードはその正極であるカソードよりもすでに大きなエネルギー密度を有している。一定のバッテリーサイズから最大のエネルギー貯蔵容量を得るには、カソードのエネルギー密度が最終的にアノードのエネルギー密度と一致する必要がある。カソードのエネルギー密度を向上させる突破口がなければ、今日最も期待されているバッテリー技術の多くは、その潜在能力を十分に発揮することができないであろう。現在のところ、一般に使用されているリチウムイオンバッテリーは、オール電化の将来の幅広い用途のニーズを満たすことができない。多くの企業が新しいバッテリー化学を通じてこれらの要求に取り組み、高電力対エネルギー密度比をさまざまな成功の度合いに最適化しようと試みてきたが、大規模化と商業化に必要な性能指標の達成に近づいている企業はほとんどない。

固体バッテリーは究極の目標だろうか?

バッテリーの研究者たちは、高エネルギー密度と安全性の向上を実現する能力を持つ固体バッテリーを、バッテリー技術の究極の目標としてきた。しかし最近まで、この技術は実用性に欠けていた。

固体バッテリーは非常に高いエネルギー密度を有し、可燃性の液体電解質を使用しないため、潜在的により高い安全性が見込まれる。しかし、この技術はまだ初期段階にあり、実用化までの道のりは長い。固体バッテリーの製造プロセスは、特に今後数年間に50ドル(約5500円)/kWhという積極的な低コスト化の実現を目指す自動車業界にとって、コスト低減に向けて改善される必要がある。

固体状態技術の具現化における別の実質的な課題は、単位体積当たりのカソードに蓄積され得る総エネルギー密度の限界である。このジレンマに対する明白な解決策は、より厚いカソードを備えたバッテリーを得ることであろう。しかし、カソードが厚くなると、バッテリーの機械的および熱的安定性が低下する。この不安定性は、層間剥離(材料が層に破壊される破壊モード)、亀裂、および分離を引き起こし、これらすべてが早期のバッテリー故障の原因となる。さらに、カソードを厚くすると拡散が制限され、電力が減少する。その結果、カソードの厚さには実用的な限界があり、アノードの電力を制限している。

シリコンを使用した新しい素材の採用

ほとんどの場合、シリコンベースのバッテリーを開発している企業は、グラファイト(黒鉛)にシリコンを30%まで混ぜてエネルギー密度を高めている。Sila Nanotechnologies製のバッテリーは、シリコン混合物を使用して高エネルギー密度を実現している。別のアプローチは、Ampriusの製品のように、非常に薄い電極と高い製造コストという制約を受ける100%純粋シリコンのアノードを使用して、さらに高いエネルギー密度を生成することである。

シリコンはかなり大きなエネルギー密度を提供するが、これまでその採用を妨げてきた重大な欠点が存在する。この材料は、充放電時の収縮と膨張に起因するバッテリー寿命と性能の制限をともない、製造業者が商業的に採用する前に解決しなければならない劣化の問題につながっている。こうした課題にもかかわらず、一部のシリコンベースのバッテリーはすでに商業的に導入されており、自動車分野ではテスラがEVへのシリコン採用をリードしている。

電化の必須条件は、バッテリー設計に新たな重点を置くことである

バッテリーアーキテクチャとセル設計の進歩は、既存および新興のバッテリー化学による画期的な改善の可能性を大いに示している。

メインストリームの観点から最も注目すべきは、おそらくTeslaが2020年のバッテリーデーに発表した「ビスケット缶(円筒形)」バッテリーセルだろう。リチウムイオン化学を引き続き採用しているが、アノードおよびカソードとバッテリーケーシングの間の正極と負極の接続点として機能するタブを外し、代わりにセル上端すべてを電極にする設計を施している。この設計変更により、航続距離を向上させながら製造コストを削減し、DC電力で高速充電する際にセルが遭遇する可能性のある熱障壁の多くを取り除くことが可能になる。

従来の2D電極構造から3D構造への移行は、業界で注目を集めているもう1つのアプローチである。3D構造により、あらゆるバッテリー化学において、アノードとカソードの両方で高エネルギーおよび高出力性能が得られる。

3D電極はまだ研究開発と検証の段階にあるものの、市場競争力のある価格で高性能製品を製造することにより、2倍のアクセス可能容量、50%の充電時間短縮、150%の長寿命化を実現する。したがって、広範な用途のためのエネルギー貯蔵の可能性を最大限に引き出すべくバッテリー性能を向上させるためには、バッテリーの物理的構造を変更することに力点を置いた解決策を開発することが重要である。

バッテリー競争を勝ち抜く

性能の向上だけでなく、生産性とコスト削減も完璧に実現することが、バッテリー競争における優位性につながる。2027年までに2797億ドル(約30兆円)に達すると予測されている、急速に拡大するバッテリー市場で大きなシェアを獲得するには、世界各国が低コストのバッテリー製造を大規模に展開する方法を見つけていく必要がある。既存の組み立てラインや材料に組み込むことができる「ドロップイン」ソリューションと革新的な生産方法の優先順位づけが鍵となる。

バイデン政権による米国の雇用計画は、野心的な炭素削減目標を達成しつつ、電化のリーダーになるという米国の目標にとって、国内のバッテリー生産の重要性を強調している。こうした取り組みは、バッテリー市場で重要な競争力を維持し、1620億ドル(約18兆円)規模の世界EV市場で最大のシェアを獲得する能力を確立する上で重要な役割を果たすだろう。

突き詰めて言えば、完全な電化に向けた競争で勝利する技術は、性能に最大の影響度を有し、低コストで、既存の製造インフラとの互換性を備えたものとなる。総合的なアプローチを採用し、最先端の化学を微調整しながら、革新的なセル設計にさらに注力することで、世界が切望しているバッテリー性能と迅速な商業化における次のステップに到達することができるであろう。

関連記事
テスラがカナダ企業の特許を使い安価で環境に優しい新バッテリーを開発中
フォードとBMWが全固体電池のSolid Powerに142.2億円を投入
デュポンとVCはリチウム採掘が電動化が進む未来に向けての超重要な投資先だと考える
Fraunhoferがリチウムイオン充電池の10倍のエネルギー密度で水素を蓄えられる素材を開発
次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」開発のAPBが追加調達、福井県での第一工場設立目指す
テスラは材料科学の革新でバッテリーコストのさらなる低下を目指す、シリコンやニッケルを再研究
テスラが10テラワット時の生産を目指すタブレス構造バッテリーの概要を公開

カテゴリー:ハードウェア
タグ:バッテリーコラム電気自動車Tesla

画像クレジット:PlargueDoctor / Getty Images

原文へ

(文:Moshiel Biton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】SEO担当者はGoogleアルゴリズムアップデートに慌てる必要はない

編集部 注:本稿の著者Eli Schwartz(イーライ・シュワルツ)氏は、10年以上にわたりB2BおよびB2Cの大手企業で働いてきた経験を持つ、SEOの専門家でありコンサルタント。

ーーー

Googleのアルゴリズムアップデートの噂が流れるたびに、SEOコミュニティは大パニックに陥る。皆数字が分析されるまで息をひそめ、アルゴリズム・アップデートを(願わくば)無傷で乗り切ったときには、安堵のため息がもれる。

アップデートが公開され、特にGoogleによる承認があった場合には、Googleが何を変えたのか、新しいパラダイムで勝つにはどうすればいいのかを分析しようとする記事や専門家の分析が相次ぐ。

私はこの悩みはまったくの杞憂だと思う。

Googleアルゴリズムは、あたかも研究室で作られたようなある種の神秘的な秘密のレシピであり、不思議な全知の魔法使いの気まぐれでサイトを盗んだり、サイトに報酬を与えたりするかのように思われている。この時代遅れのスキーマにおけるすべてのSEOとウェブマスターの目標は、この魔法使いを騙して、すべてのアップデートの勝者になることだ。

この考えは、Googleアルゴリズムのアップデートで何が起こるのかに関する根本的な誤解、そしてGoogleに対する根本的な誤解に根ざしている。実際のところ、アルゴリズムは私たちの敵ではない。アルゴリズムは、より良い、より正確なユーザーエクスペリエンスを実現するために設計されているのだ。ここでは、アルゴリズムとの関係を再構築するためのいくつかの視点を紹介する。

Googleは力になろうとしているだけ

まず確認したいのは、Googleは、あくまでも手助けをしようとしているということだ。Googleは、検索する人に快適で高品質なユーザー体験を提供したいと考えている。それ以上でもそれ以下でもない。Googleは魔法使いではないし、そのシステムは恣意的にサイトを奪ったり、報酬を与えたりするためのものでもない。

それを念頭に置いて続けたい。

Googleのアルゴリズムは、大規模で複雑なソフトウェアプログラムであり、実際のシナリオに基づいて常に更新される必要がある。そうしないと、まったくの恣意的なものになってしまうからだ。ソフトウェアのバグが報告されて修正されるように、検索エンジンは何が機能していないかを発見し、解決策を生み出さなければならない。

Googleのアップデートは、他のソフトウェア企業と同様に、自社の製品やサービスを大きく飛躍させるものだ。ただし、Googleの場合は、単なる製品アップデートではなく「メジャーアルゴリズムアップデート」と呼ばれている。

これで、Googleのアルゴリズムアップデートとは何かという知識が身についたことだろう。慌てる必要がないというのはありがたいことではないだろうか?

検索トラフィックが減少しても、必ずしも不利になるとは限らない

大規模なアルゴリズムアップデート後にサイトの検索トラフィックが減少したとしても、それがサイト全体を対象としたものであることはほとんどない。通常、1つのURL群の検索順位が下がっても、他のページは改善されていることが多いようだ。

改善されたページを確認するには、Google Search Consoleを深く掘り下げて、どのURLでトラフィックが減少し、どのURLで増加したかを調べる必要がある。アップデート後にサイトが急激に落ち込むことは確かにあるが、それは通常、そのサイトで勝者よりも敗者が多かったためだ。

トラフィックが減少したとしても、それはアルゴリズムがサイトを懲らしめたからではないことは間違いない。

多くの場合、実際のトラフィックは減少しておらず、クリックに結びついていないインプレッションが減少しただけの可能性がある。最近のアップデートで、Googleは強調スニペットを掲載していたサイトの検索結果を削除した。その結果、インプレッション数は大幅に減少したが、クリック数はほとんど変わらなかった。アップデート後にサイトが勝った、あるいは負けたと決めつけるのではなく、詳細なデータを集めて研究し、より明確な情報を得るようにしたい。

Googleを見習い、優れたユーザー体験を重視する

ユーザーへの高品質ですばらしい体験の提供に注力しているウェブサイトは、アルゴリズムのアップデートを恐れる必要はない。むしろ、アップデートは優れた結果を出すために必要な原動力となることもある。怖がる必要があるのは、ユーザー体験の質が低いために、そもそも検索で上位に表示されるべきではなかったウェブサイトだけだ。

ウェブサイトがユーザーに優れた体験を提供しているのであれば、アップデートによって質の低いサイトが淘汰されるため、アップデートが実際に味方に付いてくれる可能性が高い。

ユーザー体験の質を重視していれば、アルゴリズムの更新でトラフィックが減少するページもあるだろうが、ほとんどの場合、全体としてトラフィックが増加するのが普通だ。何が変化したのかという詳細なデータを調べれば、ウェブサイトはアルゴリズムの更新によって苦境に陥ったり、影響を受けたりすることもなく、特定のURLだけが影響を受けるという見解が裏付けられるだろう。

アップデートは検索エンジンにとっての現実

Googleはアルゴリズムを継続的に更新していくであろうし、そうするべきだ。Googleの一番の目的は、ユーザーを満足させ、維持し続けることができる進化したプロダクトを提供することなのだ。

Googleがアルゴリズムを放置すれば、抜け道を利用したスパマーに蹂躙されるリスクがあることを考えてみて欲しい。スパム的な検索結果を多く提供する検索機能は、AOL、Excite、Yahoo、その他の検索エンジンのように、機能的にもはや存在しないものとなってしまうだろう。Googleは、アルゴリズムを更新することで、関連性を維持しているのだ。

アップデートは検索という行為の一部なのだ。

アルゴリズムではなく、ユーザーを追いかける

オーガニック検索に依存しているすべてのウェブサイトは、必ず変化するアルゴリズムを追いかけるのではなく、もっと重要なところ、つまりユーザー体験に焦点を当てるべきだと私は考える。

ユーザーは、結局のところ検索における顧客だ。サイトがユーザーに貢献していれば、検索体験を保護するために設計されたアルゴリズムの更新に対する免疫がつくだろう。アルゴリズムにおける魔法使いは存在しない。存在するのは、サイトに最適なプロセス、手順、行動を適用する方法を見出したSEOマスターだけだ。

アルゴリズムやアップデートの目的はただ1つ、ユーザーが求めるものを正確に見つけられるようにすることだけだ。サイトがユーザーの役に立っていれば、何も恐れることはない。

【編集部注】この記事は「Product-Led SEO:The Why Behind Building Your Organic Growth Strategy」(製品中心のSEO オーガニック検索における成長戦略を築く際の根拠)からの抜粋となる。

関連記事
グーグルがEUの圧力を受けAndroid検索エンジンの選択画面オークションを廃止、無料化へ
グーグルがモバイル検索のデザインを変更、違いはわずかだがよりわかりやすくモダンに

カテゴリー:ネットサービス
タグ:GoogleSEO検索Google検索アルゴリズム検索エンジンコラム

画像クレジット:

原文へ

(文:Eli Schwartz、翻訳:Dragonfly)

【コラム】3億円のNFTを買っても著作権は手に入らない

編集部注:本稿の著者Harrison Jordan(ハリソン・ジョーダン)氏は、HP.LIFEの創設者兼CEO。

ーーー

現代アーティストにとって、作品を非代替性トークン(NFT)という形でブロックチェーンに紐づけることは、アートをオンラインで販売するための安全で検証可能な方法のように思えるかもしれない。

いくつかの点では、それは正しい。ブロックチェーンは本質的に、すべてのトランザクションについてタイムスタンプ付きのデータを記録し、分散型台帳上で所有権を永続的に示すものだ。ブロックチェーンのトランザクションを見れば、NFTがいつ取引されたのか、誰がその取引に関わったのか、いくら使われたのかを知るのに、必要な情報がすべて得られる。

しかし、NFTのオーナーシップの実態は、想像以上に複雑だ。新しい暗号資産クラスであるNFTは、現行の規制システムにほとんど縛られずに存在しているように見える。しかしアートと組み合わせた場合、考慮すべきオーバーラップがある。現代のNFTエコシステムの法的落とし穴を理解することが、その可能性を引き出すための最初のステップとなるだろう。

ブロックチェーンに著作権は存在するのか?

NFTが著作権の代替となる可能性に大きな期待が寄せられており、NFTが著作権そのものであると信じている人も多い。額面通りに見れば、その混乱は容易に理解できる。

実際には、NFTは資産を表すトークンに過ぎず、資産そのものとはまったく別物だ。すべてのNFTは唯一無二の資産であるため、オリジナルと同じ価値を維持したまま複製することはできない。多くの人はこの独占的な所有権を作品そのものの所有権と同一視しているが、その違いを強調しておく必要がある。

この誤解はさらに奥深くなる。NFTになり得るものの範囲は、著作権の対象となる作品と驚くほどよく一致している。「著作物」の定義は各国・地域で異なるが、本質から大きく外れることはない。例えばカナダでは、著作権の保護は、文学的、芸術的、演劇的または音楽的な作品に加えて、演奏、録音、その他の関連作品にまで及ぶ。創作者がこれらの保護を申請する必要はなく、作品の創作時に国が本質的に提供するようになっている。

もちろんこの保護は、NFT化されるオリジナル作品に対しても保証されている。アート作品が制作され、NFTマーケットプレイスでオークションに出品された場合、その著作権はアーティストに帰属し、対面での取引とほぼ同様に機能する。国際法に準拠した著作権取引のインフラが整っていないため、現在のプラットフォームでNFTの著作権をやりとりすることは不可能だ。

つまり、アーティストと購入者の間で外部契約が交わされない限り、NFTのさまざまな著作権はオリジナルアーティストに帰属することになる。NFTの購入者が所有するのは、ブロックチェーン上のユニークなハッシュと、トランザクション記録、作品ファイルへのハイパーリンクだけだ。

法的パラメータがなければ、不正行為は避けられない

盗難や詐欺の可能性を考えると、NFTの著作権追跡の問題はさらに厄介なものになる。NFTがブロックチェーンに追加されるためには、アップロードした者が「署名」する必要がある。画家が自分の絵にサインするのと同様に、この機能はNFTとその作成者を結びつけることを目的としている。しかし、トークン鋳造者が自分の身元を偽った場合には問題が起こる可能性もある。多くのNFTプラットフォームでは、これは珍しいことではない

この問題は、NFT市場に強力な法的枠組みがないことに起因する。プラットフォームによっては、作成者本人でなくてもツイートやアート作品、ニャンキャットのgif画像でさえもNFT化することができる。その結果多くのアーティストが、自分の作品が盗用され、同意なしにNFTの形で販売されていると報告している。従来のアート市場であれば、明らかに著作権侵害となるところだ。

この問題は、特にNFTツイートのやり取りの中で広まっている。2021年初めには、@tokenizedtweetsと呼ばれるTwitterボットが大量にNFT鋳造を行い、Twitter(ツイッター)とNFTコミュニティに衝撃を与えた。このボットは、作者の同意や通知なしにバイラルツイートからNFTを作成するという方針をとったため、俳優やアーティストなどのクリエイターから反発を買った。「スタートレック」で知られる俳優のWilliam Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏は「@tokenizedtweetsがコンテンツを盗み、私がアップロードした画像や私のツイートなど、すべて私の著作権のもとにあるものが無断でトークン化され、販売されている」と懸念を表明した。

強力な法的インフラを持たないプラットフォームでは、盗難や詐欺は当然の結果だ。現在Twitterの利用を禁止されている@tokenizedtweetsの行為は、この問題をよく表している。

何が足りないのか?国際的なコンプライアンス

これまでのところNFTプラットフォームは、NFT販売が表すアートの著作権について、国際的なコンプライアンスの領域に踏み込んでいない。それが起これば、NFTのエコシステムにとって非常に大きな飛躍となるだろう。著作権の行使を強化することで不正行為を最小限に抑えるだけでなく、国際的なコンプライアンスを実現することにより、ブロックチェーン上でのトークンによる著作権交換が可能になるからだ。

1886年に締結されたベルヌ条約は、179の加盟国において著作物が創作された時点で標準的な著作権保護を保証する国際協定であり、そのおかげですでに下地はできている。例えば2014年にはシンガーソングライターのTom Petty(トム・ペティ)が、Sam Smith(サム・スミス)のヒット曲「Stay With Me」が自身の「I Won’t Back Down」とメロディがほぼ同じであるとしてサム・スミスを著作権侵害で訴え、この条約が試された。この訴訟と、トム・ペティの財産へのロイヤルティ支払いを含む和解は、ベルヌ条約の継続的な機能を証明している。

1996年のWIPO著作権条約により、デジタルアートの領域にベルヌ条約の原則が正式に導入されたが、ベルヌ条約加盟国の多くはこの条約に署名しなかった。新たな条約の目途が立たない中、世界政府が残した不足を民間セクターが補わなければならないかもしれない。

国際条約で統一が図られているにもかかわらず、NFTの世界では世界各地の著作権法の多様性に対応できていないのが現状だ。業界を投機的なものからグローバルな機能性へと移行させるためには、国際的な著作権コンプライアンスをこの新興エコシステムに組み込む必要がある。

関連記事
「キャプテン翼」原作・高橋陽一氏代表のサッカークラブ「南葛SC」がFiNANCiEでクラブトークン販売開始
NFTマーケットプレイスを手がける暗号資産取引所コインチェックがCyberZとエンタメ領域で協業
ミレニアル世代が熱狂?NFTを使ったコレクターズアイテムへの投資が今アツいワケ

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:コラムNFTアート著作権アーティスト

画像クレジット:John M Lund Photography Inc / Getty Images

原文へ

(文:Harrison Jordan、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】DXを「エシカル」にリードする方法、倫理優先の考え方は従業員と利益を守る

【編集部注】本稿の著者Angela Love(アンジェラ・ラブ)氏はリーダーシップ開発のコンサルティング会社であるThe Daymark Groupの創設者。Fortune 50に名を連ねるスタートアップのリーダーやチームのために、明確さと成功を生み出す手助けをしている。

ーーー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、ほぼすべての分野でデジタル変革(DX)の必要性が加速されたことは周知の事実だ。この状況下で、企業が成功を収めるために行っている活動は常に注目されている。しかし、企業がどのようにそれを行っているかについては、あまりわかっていない。

端的に言えば、イノベーションとデジタルソリューションの導入が爆発的に進む中で、倫理的配慮が犠牲になることは許されない。

これはモラルの問題でもあるが、同時に最終的な利益の問題でもある。社内外の利害関係者は、倫理的な境界を曖昧にする(あるいは無視する)企業に対して寛容ではなくなっている。このような現実は、組織のリーダーが新たな学習曲線、すなわち「設計段階からのエシックス(倫理)」を含むDXの取り組みを受け入れる必要があることを意味する。

倫理を後回しして生じる問題

エグゼクティブのライフスタイルやゴールデンパラシュート(敵対的買収を防止するために事前に経営陣や役員の退職金を巨額に設定しておくこと)の弊害を指摘するのは簡単だが、倫理違反のパターンは、リーダーシップだけではなく、会社全体の文化に起因することがほとんどだ。従業員個人の価値観に合致しているから(従業員が)倫理的な行動をとる、というのが理想的だが、最低限、倫理違反が組織に与えるリスクを理解しておく必要がある。

筆者の経験では、そのような議論は行われていない。コミュニケーション不足とか、ビジョンの欠如と言ってもいいかもしれないが、ほとんどの企業では、潜在的な倫理的リスクをモデル化することは、少なくとも公式には行われていない。議論があるとしても、上層部のメンバー間で、密室で行われることが多い。

倫理的な問題はなぜもっと大々的に扱われないのだろうか?答えの1つは、ビジネス上のヒエラルキーに関する従来の考え方を捨てたくないことかもしれない。また、積極的な姿勢が支配する強い(かつ皮肉なことに有害な)文化的メッセージに関係しているかもしれない。リーダーが「破壊的思考の文化を作りたい」と話す例もあったが、単にそれを「成長思考が不足している」と発言した従業員に伝えただけだった。

では、どうすればいいのだろうか?筆者が効果的だと思う解決策は3つある。

  • 倫理観を組織の中核的価値観にする
  • 透明性を確保する
  • 倫理的な課題や違反に対処するための戦略を積極的に策定する

これらのシンプルな解決策は、DX以降の倫理問題を解決するために最適な出発点となり、リーダーが会社の中核をよく検討し、今後何年にもわたって組織に影響を与えるような決断をするきっかけとなる。

DXの分野では対人関係の力学が懸念される

DXは、本質的には技術的な作業で、AIやデータ運用などの分野の高度で多様な専門知識を持つ人材が必要とされる。この分野のリーダーには、困難な課題に取り組めるだけの複数のドメインを扱える能力が求められる。

ここに大きな課題がある。技術的に優れた人材を集めれば、専門用語を知らない人を委縮させ、質問することを躊躇させる専門知識に傲慢な文化が生まれるからだ。

DXは、単にインフラやツールの問題ではなく、本質的にはチェンジマネジメントの問題であり、健全な変革を実現するためには、多機能なアプローチが必要だ。企業が犯しうる最大の過ちは、技術的な専門家だけで議論するべきだと思い込んでしまうことだ。その結果、サイロ化が進み、エコーチェンバー(反響室)のようになって、倫理に関する会話ができなくなってしまう。

どれほど技術的な問題であっても、DXを急ぐ場合でも、基本的に人を第一に考えて解決しなければならない。

エシカルなDXには出発点が必要である

DXに関連する倫理的要請のすべてが「人を第一に考えなければならない」という提言のように議論の余地があるわけではない。中には「そこに到達するための出発点はここ」というような、もっと白黒がはっきりしたものもある。

幸いなことに「そこに到達する」のにゼロから始める必要はない。ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)の基準を利用することで、解釈の余地がほとんどない高度に構造化されたフレームワークを構築し、デジタルソリューションの設計と導入に向けた強固な基盤を準備することができる。

GRCモデルはスタートアップ企業にも多国籍企業にも有用で、単なるガイダンス以上のものを提供する。よく検討してGRC基準を適用すれば、リーダーシップの評価、進捗報告、リスク分析にも利用できる。ボウリングのバンパーのように、ストライクは保証できないものの、ボールが絶対に溝に落ちないようにすることが可能になる。

GRCベースのフレームワークの作り方を知らない企業もあるかもしれない(ボウリングのバンパーを作れと言われても困るのと同じ)。そのため、多くの企業が、IBM OpenPages、COBIT、ITILなどのあらかじめ製作された基盤を提供している。これらの「スターターキット」に共通する目的は、組織が属する業界や組織に関連するポリシーや統制を特定し、そこから重要なコンプライアンスポイントに線を引くことである。

一般的にクラウドベースで開始されるGRCプロセスは、少なくとも部分的には自動化されているが、組織全体の意見と透明性を必要とする。特定の部門による主導や、厳密なトップダウン方式では、効果的な運営はできない。実際、GRC基準の導入に際して理解しておくべき最も重要なことは、組織のリーダーシップと組織全体の文化の両方がGRCの方向性を完全に支持しない限り、GRCはほぼ確実に失敗するということだ。

倫理を優先する考え方が従業員と利益を守る

経営者、起業家、インフルエンサーなど、今日の社会におけるリーダーは、デジタル競争に「勝つ」ことだけを考えるべきではない。変革は短距離走ではなくマラソンのようなものだが、いずれにしても技術が重要である。競争上の優位性という最終目標を達成するためには「何を行うか」と同様に「どのように、なぜ行うか」が欠かせない。

これは、組織のすべての部門に当てはまる。オーナーや従業員などの内部の利害関係者は、倫理に対する周縁的アプローチを黙認することで、自分のキャリアや評判を危険にさらす。顧客、投資家、サプライヤーなどの外部の利害関係者も、内部の利害関係者と同様に多くのものを失う。この事実をお互いに理解しているからこそ、業界・業種を超えた透明性の追求が可能になる。

自身の監視下での倫理的堕落を許容した個人や企業に対する大規模な攻撃を観たことがあるだろう。同じような経験をするリスクを完全に排除することは不可能だが、リスクを管理することはできる。危険なのは、DXの「技術面から目をそらす」ことによって、全体像を見渡せなくなってしまうことだ。

このリスクを軽減し、真に倫理的な方法でデジタル時代の課題に立ち向かおうとする企業は、組織の内外で、倫理性、透明性、包括性の意味についてシンプルに話し合うことから始める必要がある。そして、必要に応じて行動を起こし、組織全体で先入観を持たずにその会話をフォローしていく。

組織がかつてないほど急速に活動し、変化している今、イノベーションの遅れを心配するのは賢明だが、適切なすべての倫理的配慮を行う時間はある。それを怠ると組織の先行きは危うい。

関連記事
倫理的データ慣行の青写真を描くための4つのステップ
社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由
【コラム】パブリッククラウドにおけるセキュリティ課題の解決に向けて

カテゴリー:その他
タグ:コラム倫理DX

画像クレジット:Janis Lacis / Getty Images

原文へ

(文:Angela Love、翻訳:Dragonfly)

【コラム】上司は「オフィスのほうがセキュリティ的に安全」と言うがそれは従業員を職場に戻す理由にならない

この18カ月間、勤め人は自由が増え、よりよいワーク・ライフ・バランスを享受している。パンデミックで余儀なくされたリモートワークへの大規模な変化のおかげだ。ほとんどの人が、長時間通勤と不必要なミーティングのないこの状況が終わることを望んでいない。Buffer(バッファー)がまとめた2021 State of Remote Work(2021年リモートワーク実態)レポートによると、従業員の97%以上が、少なくとも部分的にはリモートワークを続けたいと思っている。

企業の側はといえば、テック最大手のいくつかを含め、異なる見解を持っているようで、社員に職場に戻るよう求め始めている。

関連記事
オフィス再開に向けて大手テック企業はそれぞれ柔軟なワークモデルを検討中
富士フイルムにランサムウェア攻撃か、ネットワークを遮断し調査

オフィスに戻そうとする変化の主だった理由は、共同作業と交流に関わるものだが、中にはオフィスの方がセキュリティが高いという雇用主もいるかもしれない。たしかに、パンデミック下には新型コロナをエサにしたフィッシング攻撃から、組織全体を機能不全に陥らせるランサムウェア攻撃まで、かつてないほど多くのサイバーセキュリティ脅威が起きた。

セキュリティ会社のTessian(テシアン)がTechCrunchに提供した調査結果によると、リモートワーク中の社員に関連した攻撃が1つもなかったのにも関わらず、IT責任者の56%は自社従業員が在宅勤務の間に悪いサイバーセキュリティ習慣を身につけたと信じている。同じくIT責任者の70%は、オフィスで作業しているときの方が、社員がデータ保護やデータプライバシーに関するセキュリティポリシーを守る傾向が強いと信じている。

「これはパンデミック以前から起きている問題であるという事実に関わらず、多くの組織が社員をオフィスに呼び寄せる理由にセキュリティを利用しており、そうすることで会社がすでにさらされているサイバー脅威を無視する結果を招いています」と、サイバーセキュリティ専門家で元GCHQ(政府通信本部)顧問のMatthew Gribben(マシュー・グリベン)氏は言った。

「つい最近(米国精油パイプライン大手の)Colonial Pipelineで起きたように、多要素認証を有効にしていないユーザーが1人いるだけで、そのユーザーがどこに座っているかどうかに関わらず会社をダウンさせることができます」。

Claromentis(クラロメンティス)のCIO(最高情報責任者)であるWill Emmerson(ウィル・エマーソン)氏は、いくつかの企業が社員に出勤させる策略にサイバーセキュリティを利用しているところをすでに目撃している。「企業の中には、チームメンバーをオフィスへ連れ戻すための言い訳にサイバーセキュリティを使っています」と彼はいう。「それは多くの場合、境界地点でのセキュリティに頼っている旧式インフラストラクチャーを使い、クラウドファーストのアプローチをとっていない大企業です」。

大きな会社は伝統的な9時5時に戻そうとしているが、我々は多くの小さなスタートアップがリモートワークを恒久的措置にしているところを見てきた。大規模でリスク回避志向の強い企業ほど「パンデミック期間を通して社員の在宅勤務をしぶしぶ許していたため、ポリシー改訂の機会を逃しています」とサイバーセキュリティのスタートアップでBAEをスピンオフしたSOC.OSのCTOであるCraig Hattersley(クレイグ・ハッタースリー)氏はTechCrunchに語った。

「会社の中にはサイバーセキュリティ脅威の高まりを社員をオフィスに呼び戻す理由にしているところもありますが、アプローチを決めているのは会社のサイズとタイプだと私は考えます」と彼はいう。「上級管理職から個人が直接見えないことが、社員が完全に管理されてないという恐怖心を幹部にもたらしています」。

会社勤務の言い訳にサイバーセキュリティを利用する会社もあるが、多くの会社は従来型オフィスがもはやセキュリティ上最高の選択肢ではないことを知っている。つまるところ、企業はこの1年、分散した勤務形態に対応するべくサイバーセキュリティ基準を整備してきたが、すでにハッカーたちはポストコロナオフィスに戻ろうとしている会社に焦点を合わせ直している

関連記事:コロナ後のオフィスに戻った従業員をハッカーが「おかえりなさい」フィッシングの標的に

「人が物理的にどこにいるかによって、ますます複雑化するサイバーセキュリティ攻撃の弾道が変わることも、社員がオフィスの壁の中に座ることで間違いが減ることも保証されています」とForcepoint(フォースポイント)の主任研究員Margaret Cunningham(マーガレット・カニンガム)博士はいう。

全社員を職場に戻そうとする企業もあるだろうが、これはすでに実行不可能だ。18カ月間の在宅勤務の結果、多くの社員が会社を離れ、自分たちの生産性が高まり落ち着きが増したことを知った人たちは、週5日の通勤に抵抗するだろう。事実、最近の調査によると、米国労働者の40%近くが、もしフルタイムでオフィスに戻るよう上司に強制されたら、退職を考えると答えている。

これは、ほとんどの雇用主は、望むと望まないとに関わらず、今後ハイブリッド方式を取り入れなくてはならなくなり、そこでは社員が週に3日オフィスで働き、週2日を家で過ごすかその逆になる、という意味だ。

これは、それ自身、サイバーセキュリティ議論を難しくする事態だとCybereason(サイバーリーズン)の最高セキュリティ責任者であるSam Curry(サム・カリー)氏がTechCrunchに語った。「現在進行中の新たなハイブリッドフェーズは、企業がこれまで経験したことのないリスクをもたらすおそれがあります」。

「私たちはオフィスで働くことから、在宅勤務へ変わり、今度はあらゆる場所で働くことになります。あらゆるネットワークが侵入され、最小限の信用を前提とし、生来の信頼を落としながら徐々に改善していく。ヴォルテールの言葉を借りるなら『完璧は善の敵』です」。

カテゴリー:セキュリティ
タグ:リモートワーク新型コロナウイルスオフィスコラム

画像クレジット:Dimitri Otis / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】多様性、公平性、包括性の面から評価した現在米VC業界の進歩

編集部注:Maryam Haque(マリアム・ハケ)氏はVenture Forwardのエグゼクティブディレクター。Bobby Franklin(ボビー・フランクリン)氏はNational Venture Capital Associationの社長兼CEOで、以前CTIA-The Wireless Associationのエグゼクティブバイスプレジデントを務めていた。

ーーー

これまでベンチャーキャピタル業界が多様性に欠けていたことは明らかだが、業界が改善に取り組んでいることは喜ばしい。

そもそもベンチャーキャピタルは業界として、筆者らが測定したものを改善することしかできない。2016年、筆者らは、ベンチャーキャピタルの多様性、公平性、包括性(DEI:Diversity, Equity and Inclusion)の進捗状況を追跡するための厳密な方法論を開発し、2年に1度開催されるVC Human Capital Surveyで、これらのデータを測定し、ベンチマークとすることに着手した。

この調査はNVCA(National Venture Capital Association:全米ベンチャーキャピタル協会)、Venture Forward(ベンチャ―フォワード)、Deloitte(デロイト)の協力を得て実施され、あらゆる種類、規模、ステージ、セクター、地域のベンチャーキャピタル従業員の人口統計データを収集すること、および企業のタレントマネジメントや採用活動の傾向を把握することを目的としている。これまでの調査では、進歩が遅く、落胆させられることもあったが、すべての分野ではないとはいえ、一部の分野では多様性(および多様性を促進するための会社の取り組み)が高まっている証拠を得ることができた。

繰り返しになるが、業界としてのベンチャーキャピタルの改善は、筆者らだけが測定できる。

筆者らは2016年、2018年、2020年に調査を実施し、2021年3月に2020年の成果を発表した。この調査では、2020年6月30日時点で378社の企業から収集したデータを掲載しており、203社だった2018年から大幅に増加している。さらに、145社以上の企業が#VCHumanCapital pledge(誓約)に署名し、DEIのデータを提出することを約束した。

ざっくりとまとめるとデータからは、投資パートナーにおける多様性の改善は、主に女性投資家の採用と昇進によってもたらされていて、黒人やヒスパニック系の投資パートナーの公平な代表性にはほとんど進展がなかったことがわかる。

しかしながら、若手投資家の人口構成が多様化し、多様性を重視したタレントマネジメントや採用手法の導入が進んでいることから、楽観的な見方もできるようになった。業界の前進にはまだ先が長いが、今回の調査で明らかになった重要なインサイトと変化をいくつか紹介する。

多様性の改善に向けた取り組み

多様性および包括性の推進を社内で明確にする企業が増加し、50%の企業がこの課題に責任を持つスタッフやチームを擁している(2018年は34%、2016年は16%)。同時に、多様性戦略と包括性戦略も普及し、43%の企業が多様性戦略を導入(2018年は32%、2016年は24%)、41%が包括性戦略を導入している(2018年は31%、2016年は17%)。

この取り組みは多様性の改善につながる。専任のスタッフ、戦略、プログラムを持つ企業では、投資チームや投資パートナーの性別や人種の多様性が向上している。DEIの重要性が増していることも、より広範なエコシステムにつながっている。過去12カ月の間に、リミテッドパートナー(有限責任パートナー)や投資先企業からDEIの詳細を求められたと報告する企業が増えている。

人材の採用と育成に明るい兆し

ベンチャー企業は比較的規模が小さく、離職率は一般的に低いが、2020年には21%の企業がシニアレベルの投資担当者ポジションが増えたと回答し、43%がジュニアレベルのポジションが拡大したと回答している。ジュニアレベルの投資担当者の人口構成は、性別や人種の多様性が高くなっており、将来の投資パートナーの多様性を示すポジティブな先行指標となっている。

全体的にEI戦略が普及するにつれ、より多くの企業がDEIに焦点を当てた採用・雇用プログラムを開発するようになった。正式なプログラムを持つ企業は33%、非公式なプログラムを持つ企業は74%で、いずれも2016年から着実に増加している。また、企業は2018年に比べて、空席が出た際の候補者を外部に求めることが多くなったと回答している。

しかし、企業は依然として、採用活動の大部分を社内ネットワークで行っていて、(人口構成上)同質な採用結果に結びつくことが多い。外部の候補者を採用するためのパイプは細く、2018年と2020年の調査でほとんど変化は見られない。VC業界の同業者を頼る(78%)、会社の内部で採用をかける(59%)が最も多く挙げられた戦略だった。例外的に、LinkedInなどのサードパーティのウェブサイトやニュースレターへの掲載は、2020年には54%の企業が回答しており(2018年の37%から大幅に増加)、既存のネットワーク以外のより幅広い候補者にアプローチするための手段の1つもなっている。

未だ困難な包括性の評価

人材の獲得後は、包括的な文化と定着率がDEIの進捗を測る重要な指標となる。リーダーシップ開発、メンターシップ、定着に特化したプログラムを実施する企業が増えており、約3分の2の企業が非公式のプログラムを提供し(2016年と比べて20ポイント増)、20%の企業が正式なプログラムを提供していると回答している。

VC Human Capital Surveyで包括性を評価することは困難である。なぜなら、この調査は1社につき1人を代表として行っていて、1人では他の人が感じている包括性の度合いを回答することができないからである。2020年の調査では、企業自体が包括性をどのように評価しているかを測るために、新たな質問を追加した。41%の企業が包括性戦略があると回答した一方で、包括性を評価するために従業員を対象とした調査を行っていると答えたのは26%に留まった。

依然主観的な要素が昇進における重要な考慮事項

多様な人材が業界の最高レベルの意思決定者になるためには、キャリアアップのための十分に構造化され、一貫して適用されるポリシーが欠かせない。昇進に焦点を当てた正式なDEIプログラムを提供していると回答した企業は約20%(2016年の5%から増加)、非公式なプログラムを提供している企業は65%(2016年の39%から増加)である。

昇格に焦点を当てたDEIプログラムは広まっているものの、主観的な要素は依然として昇格決定の重要な考慮事項であり、不平等で偏った結果につながる可能性がある。

ほぼすべての企業が、昇進を検討する上で「ファンドのパフォーマンスへの貢献」(90%)と「取引の組成」(82%)が「非常に重要」または「重要」な要素であると回答した。しかし、最も重要と回答されたのは「ソフトスキル」であり、94%の企業が「非常に重要」または「重要」と回答している。このような主観的な要素は、無意識のバイアスが入り込む可能性が高く、より明確にパフォーマンスに関連する客観的指標による重みづけを損なう可能性がある。

推進力の維持

2020年の調査結果は、社会正義と人種的公平性が国を挙げて注目され、政策立案者がサービスの行き届いていないコミュニティからの資本へのアクセスを向上させようとし、VC業界が新たにDEIに着目し始めた1年の直後という時宜を得たものとなった。今回の調査は、VC業界がどこに注力すべきかを示すとともに、DEIにフォーカスした取り組みの共通のニーズを思い出させる重要な指摘となった。

データは、疎外された複数のコミュニティを代表する人を見ると、1つの人口統計要素内の進歩がより小さくなる可能性があることを示している(例えば女性である投資パートナーの割合は着実に増加しているが、有色の女性である投資パートナーの割合は増加していない) 。

DEIの進歩のペースは遅く、不均一な部分もあるが、楽観できる根拠もある。4月6日、NVCA、Venture Forward、Deloitteは、最新の調査結果をさらに検討し、DEIの課題、機会、業界の戦略について議論するために、業界のリーダーとの討論会を開催した。社内での、また公の場における業界の同業者との建設的な会話を優先事項と考え、協調的な精神で行動し、熟考した具体的なDEI戦略を採用し、意欲的かつ緊急性を持って行動する企業が増えている。

業界がDEIの取り組みに対して勢いを持ち続け、結果を出すことができれば、有意義な進展につながる転換点に到達し、今後の調査に反映されることになるだろう。

関連記事
【コラム】企業はNDAを禁止する法案を待たずに今すぐ倫理的なポリシーを作るべきだ
スタンフォード大とデューク大が投資家と企業幹部の多様性教育を推進する認証プログラムに参加
テック業界における多様性の欠如は「パイプライン問題」が原因ではない、その言い訳の背後にある歴史を分析

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:コラムDEI多様性アメリカ

画像クレジット:Dimitri Otis / Getty Images

原文へ

(文:Maryam Haque、Bobby Franklin、翻訳:Dragonfly)

【コラム】核廃棄物のリサイクルはエネルギー革新の最重要手段だ

編集部注:本稿の著者Tristan Abbey(トリスタン・アビー)氏は、Comarus Analytics LLC社長。米国上院エネルギー天然資源委員会の上級政策アドバイザー、および国家安全保障会議の部長を務めた。

ーーーー

米国のエネルギー・環境政策を語る上で、核廃棄物ほど悩ましいものはない。そう、気候変動は邪悪な問題かもしれないが、一方で膨大な数の苦悩を打ち消す話題が注目を浴びている。

この話題を正面から語るのは難しい。まず、物語の3つの要素から始めよう。

第1に、米国内の原子力発電所は年間約2000トンの核廃棄物(「使用済み燃料」とも)を生み出している。それらは生来の放射能ゆえに、国内のさまざまな場所に、注意深く保管されている。

第2に、これをどうすべきかの責任を負っているのは連邦政府である。実際、原子力発電事業者は核廃棄物基金に400億ドル(約4兆3900億円)以上をつぎ込んでおり、そのおかげで政府は対応が可能になっている。それは、ネバダ州ユッカマウンテンにある「地層処分処理場」に埋めるという考えだったが、政治的に不可能であることが証明された。にもかかわらず、事前調査やヒヤリングなどに 150億ドル(約1兆6470億円)が費やされた。

第3に、エネルギー省の廃棄物管理能力欠如のために、核廃棄物は蓄積される一方である。同省の最新公表データによると、およそ8万トンの使用済み燃料(数百万本の燃料棒を擁する数十万基の燃料集合体)が最終目的地を待っている。

そして、予想外の結末はこれだ。問題の原子力発電事業者らは政府を契約違反で訴え、2013年に勝訴した。毎年何億ドル(何百億円)という賠償金が、一連の和解と判決の一環として米国財務省から支払われている。支払総額は80億ドル(約8780億円)を超えている。

このストーリーが少々どうかしていることに私は気がついている。私は次のようなことを本当に言っているのだろうか?米国政府は核廃棄物を処理するために数十億ドル(数千億円)を集め、次に数億ドル(数百億円)を実現可能性調査に費やしながら埃をかぶらせ、今度はこの失敗のために数十億ドルの上を行く金額を支払っている。そのとおり、そう言っている。

幸い、集められた廃棄物のすべては比較的少ない場所を占めており、一時的保管場所は存在している。行動を起こす緊急な理由がなければ、政策立案者は動かないのが普通だ。

長期的保管場所を見つける試みを続ける一方で、政策立案者はこの「廃棄物」を使用可能な燃料にリサイクルすることを考えるべきだ。実はこれ古くからあるアイデアだ。発電のために消費されるのは核燃料のごく一部でしかない。

再利用推進者らは「再処理」使用済み燃料を使って燃焼後に残ったエネルギーの90%を抽出する原子炉を構想している。批判派たちさえも、リサイクルを支える化学、物理学、および工学は技術的な実現可能であることを認めており、批判の矛先は、経済性の疑問と安全性の潜在リスクに向けられている。

いわゆる第4世代原子炉と呼ばれるものが、あらゆる形とサイズで存在する。その設計は古くからあるが(ある部分は核エネルギーの夜明けにさかのぼる)、政治、経済、および戦略的理由によって軽水炉がこの分野を支配してきた。例えばSouthern Company(サザン・カンパニー)がジョージア州で建設中の2基の従来型加圧水型原子炉は、それぞれ1000MW(1GW)をわずかに超える能力を有しており、これはウェスティングハウスのAP1000設計の標準的な値である。

それに対し、次世代原子炉設計は大きさも容量も数分の一で、さまざまな冷却方法を利用可能だ。オレゴン拠点のNuScale Power(ニュースケール・パワー)の77MW小型モジュール式原子炉、カリフォルニア州サンディエゴ拠点のGeneral Atomics(ゼネラル・アトミックス)の50MWヘリウム冷却高速モジュール式原子炉、カリフォルニア州アラメダ拠点のKairos Power(カイロズ・パワー)の140MW溶融フッ化物塩冷却炉など、企業や政策の目的に合わせてさまざまな構成が可能だ。

多くの第4世代設計が、再生使用済み燃料専用あるいは使用する構成が可能になっている。米国時間6月3日、TerraPower(テラパワー、ビル・ゲイツ氏が出資)、GE Hitachi(日立GE)、ワイオミング州の3者は、ナトリウム冷却高速炉である345MW Natrium設計の実証炉建設に合意した。

Natrium設計は、再生燃料を発電に使用する技術的能力をもっている。すでにカリフォルニア州拠点のOklo(オクロ)は、Idaho National Laboratory(アイダホ国立研究所)とともに、使用済み燃料を使う1.5メガワット「マイクロ原子炉」の運用で合意している。ニューヨーク拠点のElysium Industries(エリシウム・インダストリーズ)による溶融塩炉設計は、自称「優先燃料」として、使用済み核燃料を使用しており、アラバマ州拠点のFlibe Energy(フライブ・エナジー)は、自社のトリウム原子炉設計の廃棄物燃焼能力を宣伝している。

次世代原子炉の成否は、行き詰まり状態にある核廃棄物問題の解決には依存してない。新たな原子炉は使用済み燃料を消費する能力をもってはいるが、必ずしも使わなくてはいけないわけではない。それでも、廃棄物リサイクルを奨励することで経済性を改善できるだろう。

ここでいう「奨励」は「金」を意味している。政策立案者は、再生燃料を使ったほうが、カナダやカザフスタン、オーストラリア、ロシアなどの諸外国から燃料を輸入するより発電所が儲かる仕組みを政府が作る方法を考えるべきだ。

リサイクルを含む次世代核技術に対する政治的支援は、想像以上に奥が深い。2019年、上院はRita Baranwal(リタ・バランワル)博士をエネルギー省(DOE)原子力エネルギー担当次官補に任命した。材料科学の教育を受けた同氏は、すぐリサイクル推進者なった

バイデン新政権は、新型原子炉に対する支援を広く超党派的に継続してきたことに加えて、会計2022年度予算要求ではエネルギー省原子エネルギー部の予算を3億5000万ドル(約384億2000万円)近く増額する提案を出した。提案には原子炉コンセプトの研究開発(3200万ドル[約35億1000万円]増)、燃料リサイクルの研究開発(5900万ドル[約64億8000万円])および新型原子炉実証実験(1200万ドル[約13億2000万円]増)、多目的試験炉の予算3倍増(前年の4500万ドル[約49億2000万円]から1億4500万ドル[約159億2000万円]へ)など具体的な予算増が盛り込まれている。

2021年5月、エネルギー省のエネルギー高度研究計画局(ARPA-E)は、高度原子炉の廃棄物処理「最適化」の研究を支援する4000万ドル(約43億9000万円)の新たなプログラムを発表した。重要なのはこの発表が、現在の核廃棄物ソリューションの欠如が、第4世代原子炉の未来に「難題を突きつけている」ことを明確に表明していることだ。

この議論は、一般にリサイクルが非常に厄介なプロセスであることのリマインダーである。それは化学、機械、エネルギーすべてが集約されたプロセスだ。希少鉱物からPETボトルまで、あらゆるリサイクルは新たな廃棄物も生み出す。現在、連邦および州政府はさまざまな廃棄物のリサイクルに極めて積極的だが、核廃棄物にも同じように関与すべきだ。

関連記事
水素貯蔵・発電システムをディーゼル発電機の代わりに、オーストラリア国立科学機関の技術をEnduaが実用化
テキサス大寒波から学ぶ3つのエネルギー革新
核融合技術で新エネルギー開発に取り組む「京都フュージョニアリング」が約1.2億円調達

カテゴリー:その他
タグ:原子力 / 核電力エネルギーアメリカコラム

画像クレジット:Micha Pawlitzki / Getty Images

原文へ

(文:Tristan Abbey、翻訳:Nob Takahashi / facebook