教師の住宅購入を支援するLanded、750万ドルを調達

教師の給料が低いのは周知の事実だろう。だが住宅はとても高額だ。その状況を変えようとしているのが、最近、Initialized CapitalがリードするシリーズAラウンドで750万ドルを調達したLandedだ。

Landedは頭金を援助することで、教師たちの自宅の購入の手助けをする。住宅がないために多くの教師が仕事を辞めており、たとえば、カリフォルニア州のバークレーでは、学区の従業員の半数以上が、家賃が高いために退職を検討していると報告している。

「私たちの使命は(教師たち)にとって経済的に安全な環境を築き、彼らが自分たちの地域社会に献身的であり続けられるように支援すること」

そう話すのはLanded共同創業者のAlex Lofton。

「我々は可能な限り人々の理想を叶えるため、柔軟な対応を心がけている。そのため、特定の都市で(住居を)買うように要求することはない」(Lofton)

Landedは、これまでに、サンフランシスコのベイエリア、デンバー、およびシアトルで200人以上の教育者の住宅購入を支援してきた。

Landedが現在提供するサポートの最大額はベイエリアだと12万ドル。Loftonによると、通常、ユーザーはそれよりも少ない金額を受け取るそうだ。一部の市営の住宅支援プログラムとは異なり、Landedでは収入による制限を設けていない。Loftonいわく、ユーザーの多くは市営のプログラムを利用するには収入が高すぎるのだという。

Landedは、テック企業のIPOの影響で市場がより困難な状況になることを想定している。だが、Loftonは「IPOによる影響はある」と説明しつつも「(Landedの)ミッションは終わりではない」と加えた。

確かに潜在的な住宅購入者を落胆させるような状況ではあるが、Landedでは他市場での展開、そしてサービス提供エリアの拡大に向けての準備ができている。

調達した資金をもとに、Landedはより多くの都市でのサービス展開、そしてK-12(幼稚園の年長から高等学校を卒業するまでの13年間の教育期間)の枠組みの外の教師たちを援助するため、加速する。

(本稿は米国版TechCrunchの記事を翻訳・編集したものです)

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「キャプテン・マーベル」の世界興収、10億ドル突破

「キャプテン・マーベル」の全世界での興行収入が10億ドル(約1100億円)を突破した。米Varietyが報じた

マーベル・シネマティック・ユニバース作品で、世界興収が10億ドルを突破したのはこれが7作品目。

「アベンジャーズ」(2012)「アイアンマン3」(2013)「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015)「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)「ブラックパンサー」(2018)「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(2018)に続くかたちとなった。

Varietyによると、興行収入が10億ドルを突破した作品はキャプテン・マーベルを含め18作品、そしてマーベル・シネマティック・ユニバースの21作品の総興収は185億ドルを記録している。

(本稿は米国版TechCrunchの記事を翻訳・編集したものです)

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任天堂Switch「スーパーマリオ オデッセイ」「ゼルダの伝説」がVR対応へ

「Toy-Con(トイコン)」のVRゴーグルで「スーパーマリオ オデッセイ」ならびに「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をプレイすることが可能となる。任天堂が4月5日、明かした

公式サイトによると4月26日からの対応となる。

ゼルダでは「ゲーム全編」をVRでプレイすることができる。

マリオではVR専用の遊びが追加され、「帽子の国」「海の国」「料理の国」の3つのステージでプレイすることが可能なようだ。

4月12日に発売予定の「VR Kit」は、「Nintendo Switch」と段ボール製の工作キットToy-Conを組み合わせることでVRゲームを遊ぶことを可能とする。

任天堂Switch新作「ドラえもん のび太の牧場物語」6月13日に発売決定

任天堂は4月2日、Nintendo Switchのソフト「ドラえもん のび太の牧場物語」が6月13日に発売開始されると明かした

なお、発売日の発表と併せ、新しいビデオも公開された。

ドラえもん のび太の牧場物語では国民的アニメ「ドラえもん」のキャラクターたちがシュミレーションゲーム「牧場物語」の世界に登場。

舞台は、神秘的な大樹がそびえ立つ「シーゼンタウン」。ドラえもん、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫など、お馴染みのキャラクターたちが力を合わせ、農場や町を発展させていく。

「牧場物語」なので、畑を耕したり、動物の世話をしたりするわけだが、ドラえもんの「ひみつ道具」も登場する。

同タイトルは、バンダイナムコエンターテインメントより6月13日に発売予定。ゲーム制作にはマーベラス、開発にはブラウニーズが関わっている。

イーロン・マスク氏がSoundCloudにてラップを公開

エイプリルフールのちょっとしたいたずら心なのかどうかは不明だが、TeslaやSpaceX、Boring Companyを率いるイーロン・マスク氏は突然、ゴリラをテーマにしたラップを公開した。

「RIP Harambe」と名付けられたこのトラックは、2016年にシンシナティ動物園にて3歳の子供が柵に登った後に射殺された、17歳のニシローランドゴリラを題材としたものだ。マスク氏がどのようにしてこの楽曲に関わったのかは不明だが、楽曲は彼の「Emo G Records」というレーベルから投稿されている。

マスク氏は「これは最高のトラックだろう」とのツイートを投稿している。楽曲の歌詞は「Harambe(ハランベ)よ安らかに/リラックスしよう」と、それほどシリアスなものではない。今後、マスク氏が音楽の道に進むのかどうかも不明だ。

[原文へ]

(文/塚本直樹 Twitter

外国人労働者のビザ取得をサポートするone visaがクレディセゾンと協業へ、来日直後のクレジットカード発行目指す

日本で働く外国人労働者のビザ取得をサポートする「one visa」を提供するone visaは3月28日、入国管理法改正により4月1日から施行される新在留資格「特定技能」に対応した外国籍人材の安住のサポートを目的とした、クレディセゾンおよび富士ゼロックスと協業すると発表した。

これにより、来日とほぼ同時のタイミングでクレジットカードの発行を目指すと同時に、役所への届け出に必要な書類の作成がスムーズに行えるようにしていく。

2018年12月8日未明に成立し2019年4月に施行される改正入管法により特定技能という新しい在留資格が制定され、外国籍人材の就業に関する制約が緩和される。そのような外国籍人材にとって必要なサポートを一気通貫で提供していくのが代表取締役CEO岡村アルベルト氏が率いるone visaのねらいだ。

岡村氏は当日の会見で、来日直後は特に個人に紐づく信用が不足していることから、“クレジットカードを作りにくい”、“家を借りにくいと”などという現状がある、と今回の発表の背景を話した。

先に説明しておくと、同社は12月にはセブン銀行の同プラットフォームへの参画を発表しており、従来は半年ほどかかったという口座開設をほぼ来日と同じタイミングでできる仕組みの実現に向け動いている。そして本日新たに発表されたのがクレジットカードだ。

従来、クレジットカード会社では、外国籍利用者に関する住所や勤務状況などの最新の情報が得にくいことから、クレジットカード発行するにあたり大きな壁があった。

だが、クレディセゾンとの協業し、one visaの持つビザ情報と連携することで、その壁を乗り越えていく予定だ。利用企業から外国籍人材の入退社情報をリアルタイムに検知でき、加えてビザ更新時に最新情報を得られることから、スムーズにクレジットカードの発行手続きが行えるようになる。

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また、富士ゼロックスとの協業により、外国籍人材がスムーズに役所への各種届出が行える環境を構築する。これまで、役所に提出する書類には統一のフォーマットがなく、オンラインで申請する際のハードルとなっていた。だが、富士ゼロックスの各種申請フォーマットに関するノウハウを活かし、外国人材がビザ申請時に届け出た情報をone visaのシステム内で引き継ぎ、様々な証明書取得時の申請書類をオンラインで自動で行えるようにする。

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JR東日本、LINEで忘れ物のお問い合わせができる「お忘れ物チャット」開始

駅や電車で忘れ物をした。でも、電話で問い合わせるのは面倒だし、駅員さんにも迷惑がかかってしまう。そんな、うっかり忘れ物をしがちな方に朗報だ。

東日本旅客鉄道は3月27日、LINEで忘れ物の問い合わせができるサービスを開始した。

このサービスは、同社の公式LINEアカウント「JR東日本 Chat Bot」を友だちに追加すると、忘れ物問い合わせの「お忘れ物チャット」を使うことができるというもの。

お忘れ物チャットは、JR東日本 Chat Bot上の「お忘れ物のお問い合わせ」ボタンから利用できる。ユーザーは、忘れものをした日時、場所と忘れ物の特徴を入力する。

JR東日本は問い合わせ内容を自動受信し、オペレーターが確認。忘れ物が発見された場合は、ユーザーには保管されている駅などの情報がプッシュ通知が届く。

当面は試行期間とし、受付時間は11時から16時、対象の忘れ物は「財布類」に限定。僕自身、スマホを紛失しがちなので、今後、問い合わせ可能な対象が増えることに期待したい。

Apple TV+の「セサミストリート」っぽい番組は子供たちにコーディングを教育する

「セサミストリート」は未就学児たちに数字や文字を教えてきたが、アップルのセサミストリートっぽい新たな番組では子供達にコーディングの基礎を教育する。アップルの発表会で人気キャラクターのビッグバードが発表した。

セサミワークショップが制作を担当するこの番組はアップルが発表した、Netflixのライバルとなる「Apple TV+」のコンテンツのうちの一つだ。

なぜコーディングに特化した番組を制作するに至ったのか。アップルはCodyと名付けられたPRクサいセリフを言う人形を通し「コーディングは共同作業を促進し、批判的思考を育む、子供達も学べる重要な言語なんだ」と話した。

「未就学児たちにコーディングを教える事で、彼らに世界を帰るチャンスを与えることができる!」(Cody)

Codyいわく、同番組では「カッコいい音楽」や「ファンキーなダンス」も期待できるそうだ。

もちろんのこと、次世代コーダーを育てるのはアップルにとって大きな利益となる。数十億ドルもの利益を生む同社のアプリのエコシステムには膨大な人数のサード・パーティー開発者が貢献しているからだ。

アップルはこれまで、Apple Storeでの教育セッション学校NPOの支援、教育者への資料提供、そしてSwiftを学べるアプリなどを通じて、自社の言語Swiftを推進してきた。だが、この新たな番組では更に幼い子供たちをターゲットとしている。

アップルは発表会にて同番組のトレイラーを公開しなかった。そのため、コーディングのチュートリアルがどのような形で放送されるのかは定かではない。

アップルとセサミワークショップのパートナーシップは2018年に発表されていた。当時の発表によると、両社は実写およびアニメコンテンツの制作に合意している。しかし、これまで作品は発表されてこなかった。

加えて、その契約に「セサミストリート」自体は含まれていない。HBOが2015年に、セサミワークショップと同タイトルの利用に関して5年契約を結んでいるからだ。

(本稿は米国版TechCrunchの記事を翻訳・編集したものです)

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ドコモ、タイヤの跡が広告になる自転車を開発

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」達成のための取り組みは無数に存在するが、その中でもNTTドコモが本日発表した施策がとてもユニークだったので紹介したいと思う。

NTTドコモは3月19日、走ったタイヤの跡が広告になる「STAMP BIKE」という自転車を開発したと発表。

ドコモは2011年より自転車シェアリングサービス「docomo bike share」を提供しており、同サービスで通常使用している自転車に“特殊なタイヤとポンプ”を装着したのがSTAMP BIKEだ。

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ポンプから組みだされた水がタイヤに噴射されることでタイヤが常に濡れた状態になり、濡れたタイヤの跡がスタンプの様に地面に残る仕組みになっている。

タイヤは3Dプリンタを用いたエアレスタイヤを使用しており、会社の選定、テストなどに時間がかかり、完成するまでに半年もの期間を要した。タイヤ面をフラットにすることで地面との設置面積を増やしたり、スタンプ部分のゴムの硬度の検証をするなどの試作を幾度となく重ねた。

そのタイヤが残す“スタンプ”にはチンパンジーやパンダ、シロクマなど地球温暖化の影響を受けている動物たちを描いたデザインを採用。自転車が走った跡が残るように、動物たちの姿を未来に残していこうという思いを込め、「しぜんをのこそう」というコピーもタイヤにはデザインされている。

このSTAMP BIKEは3月19日の1日限定で渋谷ストリーム稲荷橋広場で披露された。開発に半年も費やしたものの、今後、他の場所で披露される予定はないのだという。

だが、同社はプレスリリースで「docomo bike shareには広告媒体としての役割もあり、今回のSTAMP BIKEは新しい広告の取り組みの一つでもある」とし、今後も「(顧客や企業にとって)有益な広告にチャレンジしてまいります」とコメントしている。

政府は2018年6月、環境負荷の低減と健康増進を目的とし、2020年度に向け“シェアサイクル用駐輪場”を全国1700カ所に倍増させる計画を発表している。ドコモいわく2018年度のdocomo bike shareの利用回数は年間800万回となる見込みだ。

今後、同社はシェアサイクルを活用しどのような新しい広告を生み出すのだろうか。

【FounderStory #2】「妊娠中・育児中の母親を孤独にさせない」Kids Public橋本氏が展開する遠隔相談サービス

Founder Story #2
Kids Public
代表取締役社長
橋本直也
Naoya Hashimoto

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はKids Publicで代表取締役社長を務める橋本直也氏だ。

橋本直也
Kids Public代表取締役社長)
  • 2009年 日本大学医学部卒。
  • 2009-2011年 聖路加国際病院にて初期研修。
  • 2011-2014年 国立成育医療研究センターにて小児科研修。
  • 2014-2016年 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻 修士課程。
  • 2015年-現在 都内小児科クリニック勤務。
  • 2015年 Kids Public設立。
  • 2016年 TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルで優勝
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

「不本意な虐待」の現実に直面し、取り組むべき課題を認識

「小児科医」。

Kids Public代表取締役社長・橋本直也氏のもう一つの肩書だ。

産婦人科医院を開業する医師の父のもとに生まれた橋本氏。「いずれは医師に」という周囲の雰囲気に流され、医学部へ進んだ。

橋本氏「研修で医療現場に入ってから、『いい職業だな』と思うようになりました。そして医学部5年のとき、小児科を専門にしようと決めたんです。子どもたちが健康になって退院していく姿を見て、これから何十年も続く未来へ送り出せる仕事って素敵だな、このやりがいは他の診療科にはないな、と

こうして小児科医となった橋本氏が、なぜビジネスの世界で起業するに至ったのか。そのきっかけは、「親の虐待」を目の当たりにした経験だった。

小児科には、虐待が疑われるケガを負った子どもが度々運ばれてくる。しかし真相はわからないままのケースが多い。

そんな中、橋本氏はある母子に出会う。夜中に3歳の女の子が救急車で運ばれてきた。脚がひどく腫れており、レントゲンを撮ると大腿骨が骨折していた。

「私がやりました」。

「とんでもないことをしてしまった」そんな表情で母親は娘の横に寄り添っていた。


橋本氏その母親は孤独な育児環境に置かれていた。仕事も育児も頑張ってきた結果、ストレスが爆発してしまったのでしょう。社会のサポートがあれば、この母親がここまで追い詰められることはなかったんじゃないか……そう考えるようになりました。ケガを負った子を治療するのが医療者の役割ですが、そんな事態になるのを防ぐことが先決。医師も社会の仕組みにまで介入しなければ、この課題は解決できない。病院で待っているだけでなく、家庭や社会にリーチしていくべきだと思ったんです


社会構造が子どもに与える影響を体系的に理解し、対策を研究するため、東京大学大学院へ。公衆衛生学を2年間学んだ後、2015年、Kids Publicを設立した。

病院に行く前に、不安を解決できる仕組みをつくる

「子育てにおいて誰も孤立しない社会の実現」を理念に掲げるKids Publicは、インターネットを通じて子どもの健康や子育てに寄り添うサービスを展開している。

LINE・電話を使った遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」を運営。現在、医療スタッフ65名が相談に対応している。法人に導入しており、法人が費用を支払うことで利用者(自治体の住民や企業の社員)は無料で利用できるシステムだ。

富士通、東急不動産、リクルート、三井住友海上、小田急電鉄など、導入企業が広がっている。


橋本氏親やママ友など、近くに相談相手がいない母親は多い。ちょっとしたことを不安に感じ、鼻水が垂れている、蚊に刺されて腫れているといったことで病院に駆け込んでくるほど。孤独からの不安がエスカレートすれば、子への虐待や産後鬱、自殺といった悲劇にもつながります。早い段階で不安を解決する手段の一つとして、活用が広がればと思います


学生時代には映画製作に取り組み、映像編集を経験するほか、WordPressを使ってWebメディアの記事も執筆していたという橋本氏。IT・ネットを活用するのは、ごく自然な発想だった。

そして、強くこだわるのは「無料で利用できる」ということだ。


橋本氏日本の医療体制は素晴らしい。国民皆保険の仕組みにより、家庭の経済格差に関わらず、平等に医療にアクセスできます。次は『病院に行く前の相談』においても、皆が平等にサービスを受けられるようにしたい。今は利用契約を結んでいる法人の社員や自治体の住民で、スマホを持っている人、LINEを使える人が対象となっていますが、なるべく利用の壁を取っ払っていきたいと思います


また、利用者に不安が生じたときに相談を受け付けるだけでなく、こちらから伝えたい情報やメッセージを定期的に発信していきたいと考え、「小児科オンラインジャーナル」「産婦人科オンラインジャーナル」も発行している。医療者が執筆し、医療者が編集するメディアだ。

想いを同じくするパートナーと手を結び、これから目指すもの

起業に踏み切れた背景には、さまざまな人との出会いがあった。

大学院で学び始めた頃は、自分がビジネスをするイメージはまだ持っていなかった。そんなとき、Webメディアを立ち上げた経営者に出会う。


橋本氏彼は専門知識を社会にわかりやすく伝えていくことに、社会的な使命感を持って取り組んでいた。『社会を変えるために起業する人がいるのか』と、衝撃を受けました。サービスを開発し、マネタイズし、スケールさせ、サスティナブル(持続可能)経営を行う。そうしたノウハウを学んでビジネス化することは、自分の想いを叶え、目指す社会を実現させるためのエンジンになる、と思ったんです


こうして起業を決意。創業パートナーとなったのは、女性小児科医の千先園子氏だ。

橋本氏と千先氏が初めて会ったのは大学1年の頃。大学は別だったが、国際医学生連盟で活動を共にした。国際問題・医療問題への意識が高い医学生が集まる、世界各国に支部を置く団体だ。その後、国立成育医療研究センターでの小児科研修で再会した。

以前から社会課題への認識が合致していたこともあり、橋本氏のビジョンに賛同。夫も起業家であり、フレキシブルな思考力を持つ千先氏は、心強いパートナーだ。

また、「育児の孤立を防ぐには、妊娠期からのサポートが必要」と考え、産婦人科領域の知人に相談。紹介により、産婦人科医の重見大介氏と出会った。もともと同じ構想を持っていた重見氏と意気投合。重見氏は現在、産婦人科オンラインの代表を務める。


橋本氏『子どもに投資する社会であるべき』。そんな共通認識を持っている人とパートナーシップを結んでいます


今後は、女性の健康全般、思春期の子どもたちの悩みなどにも接点を持っていきたいと考えている。婦人科も巻き込んだ女性の健康サポート体制の構築、子どもとドクターがオンラインで対話できる場などを設けていく構想を練っている。


橋本氏もっと多くの人にとって『医療』を身近なものにする役割を担っていきたいですね

<取材を終えて>

国立成育医療研究センターなどのチームは2018年9月、2015年から2016年に102人の女性が妊娠中から産後にかけて自殺しており、妊産婦死亡の原因の中で最も多いと発表。また、日本労働組合総連合会による「働きながら妊娠をした経験がある20歳〜49歳の女性」への調査(2015年)によると、過度の就労が早産などのトラブルのリスクを高めることについて「自分も職場の人も十分な知識がなかった」と回答した割合が4人に1人。

気軽に相談ができる産婦人科オンラインは母親たちのストレスや悩みを軽減する心強いサービスとなっている。

「近くに相談相手がいない母親は多い」と橋本氏は話していたが、“ICTのちから”を使い寄り添うことで孤独から救える対象はまだまだ多く存在すると思う。

僕はこれまでに“いじめ防止プラットフォーム”の「STOPit」などを紹介してきたが、子供たちには家族や友人に相談しにくい“健康”に関する悩みもあるだろう。そんな彼らを救うための遠隔相談サービスのローンチに期待したい。(Daisuke Kikuchi)

( 取材・構成:Daisuke Kikuchi / 執筆:青木典子 / 撮影:田中振一 / ディレクション・動画:平泉佑真 )

先進国の外にいる、次なる10億人のユーザーはどこで何を求めるのか?

起業家やハイテク企業の幹部たちは、次なる成長の源を求めて先進国の外に視野を広げている。安価なスマートフォンが普及し、インドのJioのような安い利用プランが登場したことで、新たに10億人のユーザーがインターネットに加わった。しかし、彼らは何を求めているのだろう。彼らは、以前からのインターネットユーザーと同じなのか、違うのか?

それが、Payal Arora(パヤル・アローラ)氏の著書「The Next Billion Users: Digital Beyond the West」(次なる10億人のユーザー:欧米の外のデジタル)の核心となるテーマだ。簡潔な論文だが、欧米のハイテク企業の創設者や非営利団体の役員たちが世界の貧しい人たちを誤解している点や、彼らがインターネットに求めている本当のものを表すエピソードを数多く集めた、論議を呼びそうな内容になっている。

「倫理感を捨てて現実に向き合いましょう」とアローラ氏はTechCrunchのインタビューに応えて言った。「地上の俗世を讃えましょう」というのが、20年以上も世界の貧困問題に取り組み、テクノロジー、ソーシャルメディア、起業の問題と関わってきた彼女の総括だ。

現在はオランダのエラスムス・ロッテルダム大学で教授を務める彼女は、世界で貧困にあえぐ人たちの本当の姿を見えにくくしている話に異論を唱えている。「今日の世界的な貧困層は、いくつもの型にはめられています。空白の石版、犯罪者、はみ出し者、善良な人、起業家、まとめ役、被害者などなど。それは、この膨大な数の貧困層を神秘化しようとする策略の証です」

TechCrunchとの話の中で、彼女はこう話していた。「(インターネットは)基本的に、常に進歩しているプロジェクトです。そしてそれは、利用者によって常に形作られます」

世界の貧困層は「遊びたい」のが現実

「異国的」などではない。貧困層のユーザーが求めるものの多くは、欧米で使われているものと一致する。娯楽、教育、それにロマンス。事実、欧米の主要メーカーが考えている次なるユーザーが求めるものと、実際に当事者たちが求めているものとの間には大きな認識の開きがある。若者(人口統計データによれば、この新しい市場の新しいユーザーの大半は若者が占めている)がデジタル機器を手に入れると、まず行うのが音楽を聴くことと、Facebookなどのソーシャルメディアでの会話だ。

テクノロジーが世界各地で拡大する本当の理由は、必要性にはなく、楽しみたいという欲求にある。「JioからFacebookまで、すべての試みに共通するものが少なくともひとつ存在する。この新しいテクノロジーを受け入れたくなる動機付けに、彼らは遊びとしての使い方を推奨しているのだ」と彼女は書いている。

彼女は、この新しいデジタル機器に関して、「遊び」という考え方の重要性と課題を強調している。彼女はこう書いている。「ジュガール、つまり『質素なイノベーション』の概念が蔓延している。少ないものから、いかにして多くを得るかというゲームだ」。インドなどの地域で見られる草の根のイノベーションは、遊びの建設的な形だ。自分たちのテクノロジーをリミックスして要求に応える」。

しかし、欧米企業の役員にとっては、イノベーションは必ずしも好ましいものではない。欧米の高価なメディアに料金を払えるだけの資産がないために、途上国では海賊版が横行する。「海賊版商品によってデジタルの娯楽市場を作り出す貧困層の創意工夫を正当化すれば、その代償として、欧米のメディア産業のビジネスモデルの中核が破壊される」

この新興市場ではプライバシーはさらに複雑な問題

欧米では、毎日のように情報流出やプライバシー侵害の問題がニュースになっている。欧州連合では、GDPR(一般データ保護規則)によって、ユーザーのプライバシー保護のための世界でもっとも広範な政策が議会を通過し、Facebookなどのプラットフォームのプライバシー問題は、シリコンバレーの政策立案者の間でも、日々の一番熱い話題になっている。

しかしAroraは、世界の貧困層のためのプライバシーには、もっと複雑な事情があると見ている。貧困層のユーザーにとって「プライバシーは、それほど大きな問題ではありません。それは、彼らがプライバシーを気にしていないからではなく、プライバシーが確保されない環境であるからでもありません。(中略)実際は、彼らの現実的な生活との関係において、それはもっとずっと個人的なものだからです」と彼女は言う。著書の中では、彼女はこう書いている。「必要とあれば、彼らは巧みに身を隠す。また必要とあらば活発な探求者となる。とくにインターネットで楽しみを得たいときだ」

新しいユーザーは、厳格に保守的で、男女で仕切られた社会に属する人たちが多い。そこでは、女性が顔を見せるだけで罰せられることもある。それでも、女も男も、そうした規則を迂回する手段としてFacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークを使っている。社会生活を仲介するものとして、意図的にテクノロジーを使っているのだ。しかも、それは楽しい。「Facebookは『ハッピー』な場所です。とくに、日常の貧困と暴力から子どもたちが抜け出せないでいるファベラ(ブラジルの貧民街)では重要です」。

もちろん、テクノロジーは新たな問題を引き起こす。位置情報技術は、ギャングが嫌がらせや誘拐の目的で特定の人物を探し出すことを可能にしてしまう。出会い系サイトの詐欺は、出会いを求めて若い男女がインターネットを使うほどに増えてゆく。中傷的な画像を拡散すれば、家族やコミュニティー全体が辱められる。しかし、テクノロジーが可能にしたこのようなシンプルな人間関係は、貧しい人たちの生活を、ほんのわずかだが楽にできることもある。

起業家は日常に目を向けるべき

アローラ氏の最も辛辣な批判は、シリコンバレーとその起業家たちが、彼らの核心的な要求にではなく、大規模プロジェクトにばかりこだわっていると分析したところから発している。

彼女は、Nicolas Negroponte(ニコラス・ネグロポンテ)氏と彼の「One Laptop Per Child」(すべての子どもにノートパソコンを)プログラム(この時点で彼女は何度も口にしている)と、コンピューターを村に置けば教育を変革できるという信念のもとに行われたSugata Mitra(スガタ・マイトラ)氏の「Hall-in-the-Wall」実験を強く批判している。私たちとのインタビューの中で、アローラ氏はこう話していた。「発想が貧困だと言っているのではありません。ただ、彼らは上から目線で、非常に無礼だったのです」。

宇宙船や斬新なテクノロジーなどではなく、貧しい人たちがすでに訴えている要求を満たすものを、製品のデザイナーは与えてくれればいいと彼女は進言する。インドのJioが成功した理由についてアローラ氏は、その戦略が「インド市場の特徴である『ABCD原則』に従っていた、つまりインドの消費者のほとんどが、自身の個人情報をAstrology(星占い)、Bollywood(インド映画)、Cricket(クリケット)、Devotion(信仰)のサイトで使っているという事実をベースにしている」と書いている。

企業の創業者、政府関係者、支援団体の中には、その結果を受け入れられない人もいるだろう。そのような娯楽を求める軽薄な行為を、彼らは非難したがる。ユーザーは自分自身を教育し、貧困から「自力で脱出する」よう努力すべきだと彼らは主張する。しかし、性的関心の探求、安全な場所からの政治的な発言などなど、そうした自己表現を追求することは貧困層の絶対的な権利だとAroraは熱っぽく語る。分子生物学上の発見を学ぶことなど、どうでもいい。

「The Next Billion Users: Digital Beyond the West」には、役に立つか立たないかの評価の基準となる単一のテーマは存在しない。アローラ氏はいくつもの逸話、データ、視点を提供し、読者の世界を広げようと努力し、その目標を達成した。新市場にユーザーを持つ人たちなら誰もが、彼女が培った視点を参考にする価値がある。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

巨大ハイテク企業の分割は最後の手段であるべきだ。欧州連合(EU)競争政策担当委員Margrethe Vestager(マグレーテ・ベステアー)氏はそのように提言した。

「企業を分割して私有財産を分割すれば、その影響は広範囲に及ぶため、市場の消費者に大きな恩恵を与える確固たる言い分が必要です。王道のやり方では実現できないものでなければいけません」と、彼女は先週末、SXSWで行われた、RecodeのKara Swisher(カーラス・ウィッシャー)氏とのインタビューで警告を発した。「対象となるのは私有財産です。その企業は、彼らのイノベーションを基に築かれ、投資を受け、成功しているのです」

ベステアー氏は、2014年に欧州委員会で独占禁止法問題を担当するようになってから、数々の大規模な(しばしば高額の罰金を科すなど)介入を行ってきたことから、さらに今でもGoogleに対して際だった捜査を大々的に続けていることから、巨大ハイテク企業が恐れる存在として高評価を得てきた。

しかし、欧米各国の市場の(米国大統領候補と噂される著名な人物を含む)野党政治家たちが、テクノロジーに厳しいとされるこの欧州委員会議員と対立する形になった。彼女は、市場を歪めている巨大ハイテク企業をハンマーで叩き潰すのではなく、データの流れにメスを入れるべきだと主張しているのだ。

「企業を分割するという非常に大胆な提案は、私たち欧州の観点からすれば最後の手段です」と彼女は言う。「今、私たちが取り組んでいるのは、独占禁止法に関わる問題です。独占的地位の乱用、製品の抱き合わせ販売、自己宣伝、他者の妨害などに対して、独占禁止法のアプローチが適切か、それが市場を、独占的地位を乱用する者がなく、小さな企業もフェアに競争できる公正な場所にするかどうかを見るためです。なぜなら、その小さな企業が次なる大物に成長し、消費者に素晴らしいアイデアをもたらす次なる大企業になるかも知れないからです」

彼女はまた、市場の不均衡を是正すると自身が信じる、公正さに焦点を当てた介入の実例として、欧州の主要政治機関の間で先月交わされた、オンラインプラットフォームの透明化に関する規制の合意を挙げた。

巨大ハイテク企業に関連する問題に規制当局が本来集中すべきは、デジタル産業の調査や、市場がどのように運営されているかを詳しく知るための聞き取りなどだと彼女は言う。慎重で入念な調査によって、合理的でデータに基づく捜査方法が形作られるという。

とは言うものの「Googleの分割」には、政治的な宣伝文句としてインパクトがある。

ベステアー氏が独占禁止法問題の担当責任者でいられる期間は間もなく終わる(欧州委員会での任期が今年で終了する)。11月1日でこの部門のトップではなくなると彼女は話している。だが、少なくとも暫定的に、欧州委員会委員長の候補者名簿に名前が残されている。

委員は以前、巨大デジタル企業をコントロールするのか分割するのかという議論の中で、データアクセスを制限するという興味深い選択肢を示している。

そしてすでに、欧州の一部の規制当局はそちらの方向に傾いている。ドイツ連邦カルテル庁(FCO)は先月、Facebookに対して同社のサービスでのデータの使用量を制限する決定を下したと発表した。FCOのこの動きは、FacebookにInstagramやWhatsAppなどの事業部門の分離や売却を強要することなく、データレベルで内部分割させるのと同じ効果があると言われてきた。

そのため、Facebookの創設者Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が、つい先週、その3つのサービスを技術レベルで統合するという大規模な計画を発表したことには、さして驚かなかった。暗号化コンテンツへの切り替えを宣伝しているが、「プライバシー保護」のためにメタデータを統合するという。そこには、製品レベルでの内部のデータの流れを分離してコントロールしようとする規制当局の目論見に対抗するために、帝国を再構築しようという意図が透けて見える。

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大笑いだ。Facebookは、InstagramとWhatsAppとFacebookのすべてのデータを統合するが、暗号化するのはFacebookのメッセージのコンテンツデータだけ(メタデータは含まれない)。それをプライバシーを保護したパッケージとして販売する。宣伝の大傑作だ。メディアは騙される。

現時点で、競争政策担当委員会は、Facebookやその他のソーシャルメディアの公式な調査を発表していないが、当委員会は、ソーシャルメディアの巨人たちのデータの使い方に目を光らせていると、ベステアー氏は話していた。

「私たちは、ソーシャルメディア、つまりFacebookの上空に浮かんでいる感じです。そうした目的にデータをどう使うのか」と彼女は話す。同様に、Amazonの商品データの使い方についても予備調査を行っていると警告した(これもまだ公式な調査ではない)。

競争規制全般において、「論議が本当の意味で活発になってきたのは、よいことです」と彼女は言った。「以前、国会議員たちを訪ねて話をしたとき、競争によって社会はどのような恩恵を受けるのかといった、新しい興味や関心を感じました。なぜなら、公正な競争があれば、私たちは消費者としての役割を果たし、市民に奉仕する市場が作れるからです。市民が市場に奉仕するのではありません」。

Facebookが突然プライバシー「重視」に切り替わったことを、個人的に信用するかどうかを尋ねると、その発表が本当の意味での哲学と方向性の変化を示すものであり、Facebookのビジネス慣行を改善させるものであるなら、いいニュースだろうとベステアー氏は答えた。

しかし、今の時点ではザッカーバーグ氏の言葉を素直には受け取れないと彼女は言う。あれほどの長期間、プライバシーを軽視し続けた歴史を持つ企業が、誠実な方向に舵を切ったなどと信じられるかと強く迫るインタビュアーのウィッシャー氏に対して、彼女は「それを最良の事態だと思えるまでには、長い時間がかかります」と丁重に答えた。

巨大ハイテク企業に少ない税金

インタビューは、巨大ハイテク企業が税金をほんのわずかしか払っていない問題に及んだ。

デジタル産業が従来産業と比べて公平な税を負担できるように、グローバルな税制を再構築することが「急務」だとベステアー氏は話す。EU加盟国同士の合意が不十分であるため、他所から口を挟まれるような委員会の提案に抵抗して、一部の国は独自の基準を前面に出していることを彼女は強調した。

今年、フランスが巨大ハイテク企業に課した税額は「絶対に必要であるが残念だった」とベステアー氏は言っている。

「比較できるように計算すると、デジタル企業の平均税率は9パーセントであり、従来企業の平均税率が23パーセントであることがわかります」と彼女は言う。「しかし、どちらの企業も、資本、優秀な従業員、ときとして同じ消費者を巡って行われる競争で成り立つ同じ市場にいます。従って明らかに不公平です」。

委員が望むのは、現在の不公平な税負担を解消したい思うEU加盟各国からの「圧力」により、「欧州が一丸となった方針」に向けた力が生まれることだ。そのためには、国ごとに異なる税制を早急に改めなければならない。

彼女はまた、欧州は、経済協力開発機構(OECD)にも「そこを押してほしい」と強く願っていると言う。「なぜならOECDは、世界各地の関の高まりを感じているからです。米国側の動きにもです」

税制改革が、巨大ハイテク企業と社会の間の不公平を是正するのがいいのか、それとも規制当局は「次の世紀まで」巨大ハイテク企業に罰金を科し続けるのかとウィッシャー氏は疑問を呈した。

「違法行為があれば罰金を科します。事業を行う際には、税金を払って社会に貢献します。これらは別物であり、確実に、どちらも必要なのです」とベステアー氏は答えた。「しかし、大半の企業は社会貢献をしているのに、一部の企業だけしないというのは許されません。なぜなら、このようなことが続けば、市場での公正を欠き、市民にとっても不公平だからです」

彼女はまた、巨大ハイテク産業の族議員の優位性(プライバシー規制を声高に叫べば、ファンドのコンプライアンスが容易になるので巨大企業には有利になる)についても手短に語った。欧州の一般データ保護規制(GDPR)には「いくつもの区分」があるので、大企業も中小企業もひとくくりに同じ条件を突きつけるわけではないという。

もちろん中小企業は「Googleと同じ義務を負うことはありません」とベステアー氏は話す。

同意と謎めいた利用規約における消費者の権利問題への大きな不満を挙げながら、「そのほうが楽だと感じれば、彼もうまくやれるでしょう」と彼女は付け加えた。

「なぜなら、利用規約に同意したとき、いったい何に同意したのか、私もまだはっきりとわからないからです。『なるほど、私がこれにサインをすれば、私は完全に満足できる』と言える市民であればよかったと思います」

しかし、欧州のプライバシーの権利が意図したとおりに完全に機能するまでには、まだ長い道のりがあることを彼女は認めている。消費者個人が、法で与えられた権利を行使するのは、まだまだ非常に困難だ。

「私は、自分の個人データがあることを知っていますが、その所有権をどのように行使したらよいかはわかりません」と彼女は言う。「イノベーションのために、市場への新規参入企業を支援するために、自分のデータを多くの人に使って欲しいと思ったとき、どのように許可すればいいのか。もしそれが大規模に行えるようになれば、私たちは自分自身を完全に晒すことなく、有用なデータだけを市場にインプットできます」と彼女は話す。

データフローに課税するアイデアや、巨大ハイテク企業に歯止めをかけるその他の方法について尋ねると、自分の個人情報を法人が利用したときに、その人が価値を引き出せるようにする仲介市場がヨーロッパに生まれてきていると、ベステアー氏は話した。これは、データフローに文字通り課税するのではなく、自分から持ち去られた個人情報の価値の一部を、消費者が取り戻すという考え方だ。

「ヨーロッパではまだ誕生期ですが、自分の個人データの所有権が確立された今、いわば自分の情報を金銭に換えられる仲介市場が発展しつつあります。自分のデータを金銭に換えるのは、巨大ハイテク企業ではありません。自分のデータが渡される度合いに応じて、毎月まとまった料金が支払われるようになるかも知れません」と彼女は言う。「これもひとつの好機です」

また彼女は、「膨大な量のデータが市場参入を阻むことがないよう」にする方法を委員会は探っていると話した。つまり、新規参入企業のイノベーションのためのバリアだ。巨大ハイテク企業が蓄積した膨大なデータがAIの研究開発に大いに貢献していることを考えると、そのバリアは重要になる。

もうひとつ興味深い会話があった。ベステアー氏は、音声インターフェイスの利便性が競争上の難しい課題をもたらしたという。その技術は、多くの選択肢を与えない機関銃のようなQ&A形式の対話を用いることで、市場のパワーを自然に集められるからだ。

「本当に唖然とさせられてしまうものに、音声では選択肢がないということがあります」と彼女は言う。音声アシスタントの原動力となる部分は、ユーザーのあらゆる質問に対して、複数の提言をしないように作られているというのだ。「その状態で、音声検索は競争ができるでしょうか?これが市場をどう変えるのか、私たちはそのような市場とどう向き合えばいいのか。解明しなければならない問題です」

ここでも彼女は、選択肢を示さないインターフェイスを改善する有効な道筋として、規制当局は背後のデータの流れに注目していることを告げた。

「私たちは、データへのアクセス方法がどのように市場を変えるかを解明しようとしています」と彼女は言う。「データを抱え込んでいて、イノベーションのためのリソースも抱え込んでいる人が、他人にデータへのアクセスを許すでしょうか。だから、巨大企業にはノベーションが期待できないのです」。

今から10年後のテクノロジーの世界で考えられる最悪の事態とは何かと尋ねられると、彼女は「テクノロジーは揃っていても、社会的に有益な見通しや方向性がない」状態だと答えた。

反対に、議員として最善の未来は「課税と、データアクセスの規制に十分な措置をとり、公正な市場を築く意思を持つこと」だという。

「私たちはまた、テクノロジーの発展に貢献する新しいプレイヤーの登場を見守る必要があります」と彼女は強調した。「なぜなら私たちはこれからも、量子コンピューターで何が起きるのか、ブロックチェーンで何が起きるのかを見守り、それらの技術が実現したときに、みんなの役に立つ新しい利用法は何かを考えてゆく必要があるからです。そこにはたくさんの希望があると、私は思っています。ただし、私たちの民主主義がそれに方向性を与えた場合に限ります。そうして初めて、有益な結果が得られるのです」。

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(翻訳:金井哲夫)

WWWの父バーナーズ=リーが30周年を記念して虚偽情報撲滅へ団結を訴える

WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)の発明者であるTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)卿は、ウェブ誕生の日(1989年3月12日)から30年目を迎えた記念に公開状を発表した。発明当時は情報管理システムとして提案されたのだが、後に発展し、オンラインサービス誕生の基礎となった。

彼は、ハイパーテキストとインターネットTCPとドメイン名システムを合体させることを提案し、当時の上司から「あいまいだがエキサイティングだ」と評価された。同時にBernersーLeeは、ウェブブラウザーの開発と、最初のウェブサーバーの設定を進めた。最初のウェブサイトが出来上がったのは、それから約2年後。それは、BernersーLeeが務めていたCERNのNeXTコンピューター上で開かれた。

そこから先のインターネットは、ご承知のとおり。

Berners-Leeが無料でオープンなオンライン情報の遊び場を心に描いたときから30年が経過したが、今のウェブは、彼が夢見た学術的で平等主義的なものとはほど遠い。

近年、Berners-Leeは公的な介入続けて行っており、おもに企業がネット空間を独占することに対して警告を発している。彼はまた、デジタル世界の「壁に囲まれた庭」を固持する独占的な力を排除しようと、新しい非集中型の技術を研究している。

彼の発明がもたらした社会的課題から目を背けているからと言って、学者から起業家に転身した人を責めるのは間違っている。

しかし彼は、その記念公開状の中で、ウェブを諦めないで欲しいと訴えている。「もし今、よりよいウェブの構築を断念してしまっても、ウェブは私たちを見捨てることはない。私たちがウェブを失うのだ」と彼は指摘する。

公開状はWeb Foundationのサイトで全文を読むことができるが、要約すると、ウェブの誤用による問題は、次の3つのカテゴリーに分類できる。

  1. よく練られた悪意:国家が後ろ盾となったハッキングやサイバー攻撃、犯罪行為、ネットによる嫌がらせ。
  2. よこしまな動機を誘発するシステムデザイン:商業的報酬が得られるクリックバイトや偽情報の拡散など、ユーザーの価値を犠牲にするもの。
  3. 意図しない負の結果:怒りに満ちた、または分断を促す口調や内容のネット上の悪意のない発言。

「最初のカテゴリーを完全に根絶することは不可能だが、法律と規約によってこうした行為を最小限に抑えることはできる。私たちがいつも、オフラインでやっていることだ」と、虚偽情報やウェブの悪用に取り組むための行動計画をBerners-Leeは説明している。「2つめのカテゴリーでは、誘因を変える方向でデザイン変更を行う必要がある。そして最後のカテゴリーでは、今のシステムをよく研究して、新しい有望なシステムのモデルを作るか、既存のシステムを調整することが求められる」

彼はまた、「極端に単純化された物語」によるネット上の問題への反応についても警告している。

「政府や、ひとつのソーシャルネットワークや、人の精神を批判しても始まらない。極端に単純化された物語には、そうした問題の表面的な現象を追いかけることで疲れ果て、根本の原因に着目できなくなる危険性がある。これを正すには、私たちがグローバルなウェブ・コミュニティーとして団結する必要がある」と彼は提言する。

しかしその論議は、デジタル情報が悪意を持って入念に兵器化される問題を避け、社会の分断を縫い合わせることを優先している。それは、健全なネット空間を、ひいては社会を首尾よく運用し維持するために不可欠だと彼が主張する協働と和解を否定する方向で作用する。

昨年、Berners-LeeのWeb Foundationは、「Contract for the Web」(ウェブ契約)と題された核心的な原則を発表した。政府、民間企業、一般市民をつなぎ、インターネットの乱用や悪用といった問題にみんなで取り組むことを目指している。それは、「平等、機会、そして創造性」を促進する貢献にもとづく協力関係で実現する。

公開状では、再度この運動について述べられている。Berners-Leeはこう書いている。「政府、企業、市民がみな貢献している。今年末には結果が得られることを目指している」

とは言え、彼の行動計画を読むと、古い格言を思い出さずにはいられない。「偽りは飛び回り、真実はその後で足を引きずって歩いてくる

「ウェブ契約は、応急手当のリストであってはならない。それは、私たちと私たちのオンライン・コミュニティーとの関係の理解のしかたを変える機会となる一過程でなければならない」とBerners-Leeは言う。「それには、前進のための道標となるに十分な明確さと同時に、技術の急速な変化に対応できる十分な柔軟性も必要となる。これは、デジタル青年期から、より成熟した責任ある包括的な未来への旅だ」

「ウェブはみんなのものであり、私たちが集まれば、それを変える力が生まれる。簡単ではない。しかし、ちょっとの夢と大きな努力によって、私たちが望むウェブを手に入れることができる」

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「それは私たち次第」

どんなにわがままに育ったとしても、今や大人の年齢に達したWWWを、その「父親」が見捨てるはずがない。だがそれにしても、ウェブに関連した社会的問題、たとえば競争で歪められた市場から、人権侵害、民主主義とプライバシーと多様性とセキュリティーの危機、科学的事実や公共の安全への危害に至るまで、さらにはデジタルデバイドにより不平等が加速される仕組みなどが蔓延しているが故に、この公開状は目を惹く。

同時に、こうした負の要素を列挙されても、驚かなくなっている。

もちろん、そこに意識を向けてもらうために列挙したのだが。

一方でBerners-Leeは、ウェブが「公共の広場、図書館、診療所、店舗、学校、デザインスタジオ、オフィス、映画館、銀行などなどいろいろなもの」になったという有益な面も挙げる。

また、その他の嬉しい動きとして彼は、テクノロジーを悪用しようとする雇用主に対して、自身の倫理感で抵抗する技術者を、「よりよいビジネス慣行を求める」ものとして讃えている。

「そうした精神を奨励する必要がある」と彼は、技術者のさらなる倫理的行動を呼びかけている。

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(翻訳:金井哲夫)

核兵器を根絶するときが来た、技術者は開発から手を引こう

【編集部注】著者のBeatrice Fihn氏は、
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局長を務める人物。2017年にノーベル平和賞を受賞した。

「原子爆弾は、第一義的に都市を無慈悲に絶滅させるためのものである」。これは、核兵器開発を推進した科学者レオ・シラード氏の言葉だ。ハリー・トルーマン大統領に宛てた原子爆弾を日本に投下しないよう求める請願書の中に、彼はこの一節を書き込んだ。この請願書には、マンハッタン計画に参加していた他の数十人の科学者が署名している。

1945年に原子爆弾が導入されてからわずか数カ月後には、今日の核の世界を作り上げた人たちは、自らが生み出した技術が暗示するものを恐れるようになっていた。

あれから約75年が経過し、技術者、発明家、起業家、学者は、再び自問しなければならないときが来た。「都市を無慈悲に絶滅させる」ことに加担していないか? 己の才能を核兵器に役立ててはいないか?技術を創造のために使っているか?それとも破壊のためか?

選択の瞬間

人間性は、また新しい転換期を迎えている。

米国とロシアは、新しい核兵器の開発競争を本気で進め始めた。新たな冷戦を望んで、永久平和の約束をかなぐり捨てる方向に進んでいる。ロシアの最新兵器は、放射性の津波によって海岸線全体を破壊するというものだ。米国は「もっと使いやすい」核兵器を作ろうとしている。

その一方で、北朝鮮は新たな核兵器開発計画を開始したように見える。インドとパキスタンは、制限のない核戦争への道の突端にいる。もし核戦争になれば、気候が変化し、世界の20億人以上の人々を餓死に追いやる恐もがあると言われている。

2018年8月6日、ムンバイで開かれた広島原爆記念日のための集会に参加したインド人学生。マスクをかぶり、両手には平和を訴えるスローガンが書かれている

核兵器禁止条約は、ひとつのきっかけを作った。国際法の力を行使し、規範を変えることでその方向性を劇的に変化させる機会だ。核兵器禁止条約は、50カ国が批准すれば国際法になる。現在は22カ国だ。

金融の世界もリスクを認識している。世界最大級の年金基金には、核兵器から撤退するところもある。しかし、万能な金の力よりも、ずっと強力なものがある。人的資源だ。

核兵器の産業複合体は、非常に優秀な科学者、エンジニア、物理学者、技術者に依存して死の兵器を開発している。多くの才能が、技術関係、軍事産業、ペンタゴンに流れ、大手ハイテク企業や革新的なスタートアップでの仕事を探している。大学で研究を続ける者もいる。

そうした才能ある技術者なくして、新たな核兵器開発競争は起こりえない。今こそ、核兵器から人的資源を引き上げるべきだ。

人間性を終わらせる誤り

わずか1年とちょっと前、ハワイの人々が緊急避難をして、必死になって「核攻撃から身を守る方法」をググっていたことがあった。数日後、日本でも大勢の携帯ユーザーが、核ミサイルが飛んでくるという誤警報を受け取っている。

こうした事件を引き起こしたのが人的ミスと技術的な不具合が重なったものだったことを思うと、いつか使われてしまう前に核兵器を止めなければ、不慮の事故による核攻撃は避けられない。

機械学習技術の開発、自律型兵器システム、サイバー攻撃、ソーシャルメディアの操作は、すでに全世界の政治的秩序を不安定にし、核兵器による大惨事のリスクを増大させている。だからこそ、核による絶滅から自らを守るために、技術コミュニティーは一丸となって能力と知識を結集し、世界から核兵器をなくすよう努力することが必須だ。

2013年4月23日、「殺人ロボット」ストップ・キャンペーンの発足会が行われたロンドンの中心地にて撮影された「殺人ロボット」の人形。人の判断を一切介さずに目標を選別し攻撃できる殺傷用ロボット兵器の禁止を呼びかけた。殺人ロボット・ストップ・キャンペーンは、完全自律化された兵器の開発、製造、使用を先制的かつ完全に禁止するよう求めている(写真:CARL COURT/AFP/Getty Images)

私たちは、線路の上を突き進む愚かな核兵器競争を止めなければならない。私たちが力を注ぐべきは、現在の軌道から降りて、核兵器のない世界のために力を尽くすことだ。

核兵器が夜明けを迎えるには、イノベーション、破壊的技術、創意工夫が必要だった。核兵器を夕暮れに追い込む手段を生み出すにも、同じような力が必要だ。核保有国から核兵器を完全に撤廃し、将来また再開されないように安全策を講じる。

この70年間保ってきたことは、今後70年間も保たれると信じたいのは人情だ。しかしそれは、非論理的な抑止力という考え方に依存しているだけの、幻想的で見当違いな信念だ。決して使わないことで、核兵器が世界の平和を保っていると言う人がいる。核兵器には力がある。だが、一部の国だけを強くする力だ。

この虚言は、もう今の時点ではバレている。冷戦終結から30年が経ち、核兵器は増殖している。いくつもの重要な条約はないがしろにされ、批准されない条約もある。核兵器開発を進める恐れのある国も増えている。

だから私はみなさんに呼びかけたい。この必要不可欠な阻止運動に参加してほしい。人類の死には手を貸さないと宣言してほしい。善のために技術を使うと宣言してほしい。

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(翻訳:金井哲夫)

英ブレア元首相の提言、社会と政府におけるテクノロジーの役割を考える

【編集部注】著者のTony Blair氏は、英国元首相で現在はInstitute for Global Changes(地球変動研究所)所長を務める。

産業革命は、政治社会学に劇的な変革をもたらした。米国では、資本主義の反動として、近代化を恐れる人たちによりポピュリスト党が結成された。英国では、経済の大変動によって政治の形が変わった。工場法から、結果的には福祉国家の基盤を築いたデイビッド・ロイド・ジョージによる自由主義的改革まで、その影響は次の100年全般に及んだ。

今日、また新しい広範な革命が進行しつつあり、前回と似たような効果を波及させている。左翼、右翼に関わらず大衆主義者たちが台頭し、その勢いは19世紀末の米国のポピュリストよりも強まっている。だが彼らも、昔と同じように近代化を拒絶している。彼らは己の現状を保つためにスケープゴートを探し求め、とうとうテクノロジーがその標的に定められた。

社会秩序を本当の意味で変革できる分野の進歩を後退させてしまっては、損失だ。少なくともイギリスでは、1909年にロイド・ジョージが「人民予算」を提案したときから、官僚機構のやり方はあまり変わっていないように見える。

この技術革命について熟知し、それを公益のために応用できる最初の政治家が、次の100年の姿を決めることができる。遺伝子編集や人工知能、それに核融合や量子コンピューターなどの画期的な飛躍を探る研究も含め、それらのテクノロジーの急速な発達は、私たちの経済、社会、政治に大きく変革が引き起こす。

だが今はまだ、適切な質問ができる人間はほとんどいない。答えが出せる者は言うに及ばずだ。だからこそ私は、政策立案者が取り組むべき唯一にして最大のテーマはテクノロジーであると力説しているのだ。私の研究所では、そうした決定的な問題を綿密に考察し、テクノロジーを使った政治的に実行可能にして最良の政策や戦略のキュレーションを支援したいと考えている。それにより、テクノロジー、研究におけるイノベーションと投資、開発を、進歩的なプログラムの最前列に置くことができる。そしてこれは、テクノロジーは社会全体にとってポジティブな力であるという、私たちの信念に基づいている。

これは、変革によって表面化した問題を無視するものではない。なぜなら、それはプライバシーや社会的興味に関連する重大な問題だからだ。

2013年4月23日、ニューヨークにて。市内にあるローワー・マンハッタン・セキュリティー・イニシアチブの監視カメラの画像。対テロセンターでは、警察官と民間の警備員が、金融地区とその周辺のローワー・マンハッタン地区に設置した4000台以上の監視カメラと自動車のナンバープレート読み取り装置をモニターしていた。ロンドンの「リング・オブ・スティール」に習って、潜在的脅威を特定するよう設計されている(写真:John Moore/Getty Images)

労働市場において、自動化の結果として生じた、または生じるであろう変化に対しては、その矛先がすでに取り残された感覚を抱いている人に向けられやすいため、政府の役割をもっと深く考える必要がある。再訓練だけでは不十分だ。おそらく、技能への生涯にわたる投資が必要となる。そのため、ベーシックインカムも十分な対策になるとは思えない。それは最後の手段だ。能動的でよく的を絞った政治的対策ではない。

しかし悲観論は、未来へのよき案内人にはなれない。最後には、単純な国家主義であれ、保護主義であれ、民族主義であれ、なんらかの保守主義の形に帰結するのが落ちだ。そのため、リスクを緩和しながら好機をうまく操るこの方針を信じる私たちの課題は、それを人々の生活と結びつけることだ。これは、ニューディールや人民予算のよう重大な政策として考えるべきだ。私たちが未来へ舵を切ることで、社会秩序に大変革が起きる。

もっとも高いレベルでは、これは21世紀の国家の役割という問題になる。規模や予算に関するイデオロギー論争は捨てて、今の人々の要求に合わせるために社会を作り変える方向で話しあうべきだ。米国では、オバマ大統領が最高技術責任者の活躍もあり、大きな前進を果たした。しかし、周囲の変化の速度に追いつくためには、政府の仕事のやり方を全面的に考え直すことが求められる。

写真提供:Shutterstock/Kheng Guan Toh

重要な鍵を握るすべての政策分野に、私たちはこう問うべきだ。人々が、自分が望むとおりに暮らし、生活の質を向上させ、反映し成功するチャンスを増やすために、テクノロジーをどう使えばいいか?

例えば、教育では新しい教え方のモデルが考えられる。オンライン学習は、学習方法に変革の可能性をもたらしたが、AIは、教えることの本質を変えるかもしれない。各個人に適合させたプラットフォームがあれば、教師は解放され、自分の時間をもっと有意義に過ごせるようになる。学費援助の新しい形もあるだろう。ソフトウエア開発者のための学費後払いの学校Lambda Schoolは、わくわくするような未来の可能性を与えてくれる。

同様に医療でも、診療におけるテクノロジーの役割が実証されている。しかし、私たちが資源の再配分を変えること、たとえば現場のスタッフを解放して患者と接していられる時間を長したり、さらには今使われている医療の形そのものを変えてしまうことで、大変革が起きる可能性がある。終末期医療や高齢者介護では、膨大な費用がかかる。しかし、予防やモニターリングに多くの予算を振り向けることで、結果的に人は長生きができ、病気への不安も減り、病気自体も、重篤になる手前で治療できるようになる。テクノロジーは漠然としたものと思いやすいが、このように使えば革命が起きる。

インフラと運輸にも、膨大な利益が潜在している。それは、新式の高効率な輸送機関であったり、もっと市民の役に立つ公共スペースをデザインであったりする。これには、社会と密接に結びついた大型プロジェクトが必要になるが、例えば、センサーでデータを集めて、日々の生活の質を高めるサービスの向上をはかるなど、日常的な、小さくてシンプルなところにも変革の芽がある。eスポーツのThe Boston Majorのオフィスは、そうした考え方の先駆者だ。データを役立てる方法を考えるとき、税金、福祉、エネルギー、公益に、もっと重点を傾けなければならない。

これが達成されたなら、政府は、社会で起きている変化と、もっとうまく足並みを揃えられるようになる。現状では、この2つは同期していない。政府が追いつけない限り、人々の役に立つものであるはずの制度は、信用と信頼を失い続ける。そこに、大衆主義が幅を利かせる余地が生じてしまう。しかし、その責任は政治家だけが負うものではない。テクノロジー業界も、政治はわからないと言って済ませていては何も始まらない。

テクノロジー業界の人々は、誤解や不信を募らせるのではなく、政策展開を理解し、支援するべきだ。なぜなら、このわずか20年と少しの間で、デジタル革命が私たちの社会の経済を劇的に変えてしまったからだ。これは継続することができる。ただし、数多くのスローガンが切望する変革が本当の意味で実現するのは、企業と政府とが協力し合ったときだけだ。

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(翻訳:金井哲夫)

史上最大の詐欺スタートアップ「セラノス」のドキュメンタリー、3/18にHBOで公開

バイオテクノロジー領域のスタートアップ、セラノス(Theranos)のファウンダーであるエリザベス・ホームズの大失敗を描いたドキュメンタリー「The Inventor: Out for Blood in Silicon Valley」がアメリカ時間で3月18日の午後9時、HBOのHBO GO、HBO NOW、HBO On Demand などで公開される。

同映画は、1月に開催されたサンダンス映画祭で上映された。監督はオスカー受賞歴のあるアレックス・ギブニー、制作はギブニーとジェシー・ディーターエリン・エダイケンが担当した。主演でホームズ役を務めるのはジェニファー・ローレンス。僕の同僚、ジョシュ・コンスタインが同映画をレビューしている。

セラノスは一滴の血液から数多くの病気の検査ができるテクノロジーを開発したとしてアメリカでもっとも有名なスタートアップに急成長した。しかし、その実態は大掛かりな詐欺だった。TechCrunchでも何度も報じてきている

セラノスは14億ドルを調達し、ピーク時の評価額は100億ドル。2015年、医療専門家から同社の検査方式に批判が集まり、翌年、米証券取引委員会が調査を開始。最終的に「大規模な詐欺」として起訴された。

2018年9月、同社は解散を発表し、ホームズは50万ドルの罰金を支払うことに合意した。Wall Street Journalの調査のスクープ記事から約3年経ってからの出来事だった。ホームズは今後10年間、公開企業での役員または取締役になることが禁止された。

HBOのプラットフォームにおける視聴は日本では対象リージョン外となっている。だが3月15日に同テーマのドキュメンタリー「The Dropout」を公開予定のABCによるポッドキャストは聞くことが可能だ。

4300万円で垂直離着陸の空飛ぶバイク、一流アクセラレーターY Combinatorが投資

David Mayman氏は、この10年間、パーソナルな航空機のを追い求めて、10年の歳月と数百万ドルの個人資産をつぎ込んできた。彼は、ジェットパックは方向性を誤った幻想に過ぎないという大方の意見には納得していない。自身の会社Jetpack Aviationでジェットパックを作り続け、認知度を高めるためのスタント飛行をほうぼうで披露しながら、彼は人が空を飛ぶということに関しては、まだまだ夢を見る余地があると人々に訴えてきた。

それにしても、従業員8人のスタートアップで、価格38万ドル(約4300万円)の「空飛ぶバイク」を作ろうというのは、かなりの難題だ。ときどき無謀な冒険に出ることで知られる一流アクセラレーターY Combinatorは、この会社とジェットエンジンに魅せられたそのCEOに賭け、次なる投資先に決定した。

Jetpack Aviationは、まったく違う会社になろうとしている。同社は今週、大ばくちの中の大ばくちである一人乗りの垂直離着陸機「Speeder」の予約受け付けを開始した。「スター・ウォーズ」か「Halo」からそのまま抜け出したようなスタイリッシュなコンセプトデザインの乗り物だ。

【編集部注】この垂直離着陸機は、A.L.I.Technologiesが日本国内で商標登録済みで開発中の「Speeder」とはまったく関係がない。

お金持ちでSF好きな購入希望者は、最初に出荷されるバイクの予約順番待ちの列に並ぶためだけに1万ドル(約110万円)以上を支払わなければならない。しかし、このスタートアップの創設者は、これを資金集めというより、野心的な同社の将来の成功を支援したい人がどれほどいるかを確かめるためのものと考えているようだ。

「これは私たち全員にとって、実用性を宣言するものです」とMayman氏はTechCrunchに話した。「Tesla Model 3の一般販売までに長い時間がかかったことを考慮すれば、これがすぐにでも商品が手に入る、生産の最終段階で行われる予約注文としてのKickstarterキャンペーンとは性格が違うものだとわかってもらえるはずです」

まずギャンブルがあり、それからバイクができる。これはYCのスタートアップへの投資としても異例の形だが、Mayman氏にとっても、これは今までのビジネスとは違う筋道だ。彼はこの12年間、ジェットパックへの執着を自己資金で賄ってきたからだ。オーストラリア出身のCEOであるMayman氏にとって、YCの投資は、シリコンバレーのベンチャー投資家ネットワークにつながりを与えてくれるものだった。彼はまた、サンフランシスコは非常に奇抜なものを予約注文したがる企業の幹部を育てる街だと、正当に評価している。

「空飛ぶバイクに誰も興味を示さないなんて、あり得ません」とYCの共同経営者であるJared Friedman氏はTechCrunchに宛てた電子メールで語っていた。「Jetpack AviationはSpeederで未来を作りました。この技術が、過酷な通勤、旅行、そして日常の移動をどう買えるのか、楽しみです」

同社のジェットパックへの人々の関心と期待を高めるために、Mayman氏が使える手段は、大勢の報道陣の前でプロトタイプの壮観なデモ飛行を披露することしかない(Jetpack AviationがRed Bullと提携していることは意外なことではない)。ところが、Speederの飛行できるプロトタイプはまだ作られていない。彼は、この新しい投資ラウンドで実現すると話している。

2015年、自由の女神の周囲をジェットパックで飛行するMayman氏

本当に作れるのだろうか?これは大きな疑問だ。

私たちとの会話の中で、Mayman氏は次のことを率直に認めた。

  1. Speederが顧客の手元に届くまでには「少なくとも」2年の開発期間を要する。
  2. このモデルを出荷するためには「数千万ドル単位」の資金が必要である。
  3. 未知の部分がまだ山ほどある。

Jetpack Aviationの現在のデザインは、Uberなどの企業が開発を進めているヘリコプター型のコンセプトVTOL機とは違い、比較的滑らかで、人は、ジンバルで支えられた数基のジェットエンジンを搭載する本体の上に直接またがるという野心的なスタイルだ。

同社によれば、最終デザインでは、このバイクは最大速度が時速150マイル(時速約240キロ)、最大高度1万5000フィート(約4500メートル)で飛行できるという。航続時間はまだ限定的で、このモデルの場合は最長でおよを30分。同社はいくつかのバージョンを計画している。その中には、米連邦政府による規制に準拠し、パイロットの免許を持たなくても操縦できる軽量モデルもある。

当面の問題は自動安定化技術の開発だ。Speederを、簡単に安全に飛ばすには欠かせない。Mayman氏によれば、VTOL機のデザインはどれもがクアドコプター型だという。推進システムの上に重心を載せることが非常に難しいからだ。「指の上に立てた鉛筆のバランスを取るようなものです」と彼は言う。

同社では、人々にジェットパックの操縦訓練を行っている。ジェットパックはこれまでに11回のデザイン変更が加えらた。システムをうまく使いこなして飛び回れるようになるまで、およそ1週間だという。しかし、Mayman氏はこのバイクを、普通に使えるデバイスにしたいと考えている。スティーブ・ジョブズ氏がiPadのシンプルさを説明したときに、とても説得力のあったデザインコンセプトだ。だが、人がこれに乗って市街地を飛行するCG映像を見ると、ちょっと普通ではない感じを受ける。

すでに市場に存在するドローンのための自律飛行や安定化の技術では、Jetpack Aviationの眼鏡にはかなわない。しかし、Mayman氏によれば、3分の1スケールのプロトタイプでは目覚ましい進展があったという。また、複数のジェットエンジンを中央で束ねた方式が難しい場合のために「見栄えは少し悪くなるが」プランBも用意していると彼は話してくれた。

このようなコンセプトを離陸させて、会社が惨めに墜落しないためには、このビジョンが成熟する過程を柔軟に見守ることが重要だと、Mayman氏も言っていた。彼らはそのバイクに複数のデザインで臨んでいて、認可を得るための規制環境についても複数の事態を想定している。また、これとは別に軍用バージョンの開発と、高速医療救助などの緊急対応に特化したデザインも計画している。

1万ドルを支払って予約した人たちが、まったく違うスタイルの製品を手にしたときにがっかりしないかと訪ねると、最終的にほぼ同じデザインで製品化できるよう、十分なモデリングを行っているとMayman氏は答えた。「デモのCGとまったく同じとはいかないかも知れませんが、それでも、オートバイやジェットスキーほどのサイズの同系統のコンセプトに収まると私は信じています」

まだ影も形もない状態から予約を受け付けるとは、かなりユニークな決断だが、彼らは明らかにテスラを模範にしようと考えている。40万ドル近い大枚を自由にできる人が、ジェットエンジン付きのジェットスキーを買いたいと思えば、なんとしても自由市場にそれをやらせるしかない。

Y Combinatorからの15万ドル(約1667万円)の投資は、その途方もない事業の第一歩を支えるものであり、他の人たちのレーダーにも引っ掛かるように自信を持って勧める意味もある。Mayman自身は、彼が情熱を傾けるプロジェクトの野望をさらに拡大できることを純粋に喜んでいるようだ。そのビジョンを実現させるまでの道のりに、無数の障害物が横たわっていたとしてもだ。

「手を付けなければ、到達はできません」とMayman氏。「もしみんなが『すごいぞ、こんなものを作れるなんて、めちゃくちゃ幸せだよ』と感じながら毎朝目を覚ますことができないのであれば、そんなことはやる価値がありません。別のことをしたほうがマシです」

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(翻訳:金井哲夫)

建設中の「Star Wars: Galaxy’s Edge」に潜入、ディズニーの最高傑作ランド

ディズニーがLucasfilmを買収すると発表されて以来、すべてのファンが思い続けてきた。「いつ『スター・ウォーズ』の実物版ができるのか」と。

いつか作られるのだろうと多くの人は想像していたが、2013年当時、映画スター・ウォーズの最後の3部作の第1話目の制作が開始されたときでも、まだ「Star Wars: Galaxy’s Edge」(スター・ウォーズ:銀河の果て)の計画がスタートしてたことに気づく者はいなかった。最初は10名程度だったチームは、最終的に4000名以上に膨らむと考えられている。

この5年間、Walt Disney Imagineering(以降Imagineering)は、リアルなスター・ウォーズの世界をこの地球上に作ろうと懸命に努力してきた。場所は、カリフォルニアとフロリダ。惑星バトゥーのブラック・スパイア・アウトポストが、現在建設されている。何十年間も映画のスクリーンで親しんできた街とそっくりな場所に人々が来てくれるかどうか、これは数十億ドルをかけた壮大な賭けだ。

見方によれば、このプロジェクトは、これまでになくきわめて安全な賭だとも言える。『スター・ウォーズ』の熱烈なファンと、ディズニーの特定の味付けによるテーマパークの信者が合体すれば、それだけでも、この新しい2つのテーマパークへの熱い期待に、長年にわたって油を注ぎ続けることは可能だっただろう。しかし、これはアメリカ国内のパークを単独のテーマで拡張する計画としては最大規模となるため、Imagineeringのスタッフとパーク経営側の野心の高さは成層圏にも届くほどだと言える。また、その拡張から好ましい収支結果を引き出すためには、ディズニーは忠実なファンだけでなく、幅広く層の厚い来場者に、遠い銀河の架空の世界を徹底的に忠実に再現したその場所で、1日を過ごしてもらわなければならない。

それを実現するために、Imagineeringは、アメリカに今年オープンされる2つのパークの構想を5年かけて練り上げ、2年をかけて建設する。

先週、Imagineering、パートナーのLucasfilm、経営陣に会い、3日間にわたって、もともとの発想、計画、ツール、デザイン、建設に関する苦労話を聞いてきた。さらに、カリフォルニアのディズニーランド内に建設中の「スター・ウォーズ・ランド」を見学し、その広さ、規模、バトゥーの雰囲気、そして2つの主要なアトラクションを確かめてきた。

「私たちは、『スタ−・ウォーズ』を手がけることには大変に野心的です」と、Imagineeringのポートフォリオ・エグゼクティブScott Trowbridgeは話す。「敷地は14エーカー(約5万6700平方メートル)以上あります。パーク内の小さな街と言ったところです。目を見張る建造物……、宇宙船、エイリアン、ドロイド、クリーチャーなどが、スター・ウォーズをスター・ウォーズらしくしています。それらが一体となって、スター・ウォーズの世界に暮らしたいと夢見ていた来場者の夢をかなえるのです」

マーケティングに関して懐疑的になり過ぎないよう、私はそのコメントに同意せざるを得なかった。ここに建てられているものは、ディズニーランドの中だろうが外だろうが、没入感と野心という点において匹敵するものがない。ここに来れば、スター・ウォーズのお気軽なファンも熱烈なファンも、同時にぶっ飛ぶことだろう。

地道な作業

これまで、ディズニーが発表した「スター・ウォーズ・ランド」に関する話を聞いたことがある人でも、これからお伝えする内容は、かなり新鮮に感じられるはずだ。だが、まずは重要度の順序として、彼らが何を作ろうとしているのかをお伝えしよう。その後に、どうやって作っているかをお伝えする。

カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドと、フロリダのディズニー・ハリウッド・スタジオには、それぞれ14エーカーの敷地内に惑星バトゥーの一部が再現され、辺境の村ブラック・スパイア・アウトポストが建設された。その中にはショップや飲食店があり、村人が暮らし、ファースト・オーダーの前哨基地もある。村の外にはレジスタンスのキャンプがあり、にわか作りの生活基盤や、宇宙戦闘機や機材が散乱している。ここには2つの柱となるアトラクションがある。「Star Wars: Rise of the Resistance」(スター・ウォーズ:レジスタンスの蜂起)と「Millennium Falcon Smuggler’s Run」(ミレニアムファルコン密輸逃避行)だ。

ゲストがその世界に溶け込めるように、ランド全体が、一からデザインされている。キャストはバトゥーの伝統的な衣装をまとい、用意された中から衣服やアクセサリーなどを選んで自分でアレンジできる。またキャストは、ファースト・オーダーに対抗するレジスタンスや、コソコソと活動する密輸業者など、村の情勢に理解を深めるように指導される。食べ物もまったく新しくした。それぞれに背景の物語がある。ポークリブはない。そのかわり、カドゥのリブがある。カドゥは、あの不人気で有名なジャー・ジャー・ビンクスが乗っていた、あまり有名でない生物だ。怪しい酒場では、青い(または緑の)ミルクやカクテル(そう、アルコール入り)が飲める。看板はどれも、できる限り宇宙っぽくしてある。販売されているグッズは、すべてがバドゥーのために作られた特製品で、ここ以外の場所では買えない。どんなに小さなものでも、「拾ってきた」または「手作り」な雰囲気を持たせてある。

何より重要なのは、移動の感覚だ。

バドゥーへの移動

数日間、話を聞いてきた中で一貫していた大きな問題に、移動をどうするかというものがあった。ディズニーランド、つまり地球からスター・ウォーズの世界へ移動した感覚をどう持たせるかだ。

この問題は、ランドの位置を新しい惑星にすると決めたときに発生した。

「なぜ、タトウィーンやホスといった、昔からお馴染みのスター・ウォーズの惑星にしなかったのか? その本当の理由は、その場所をみんながよく知っていて、そこで起きた事件のことも知っていて、そのとき、だれもそこに居あわせていなかったからです」と、Trowbridgeは言う。「ここ、ブラック・スパイア・アウトポストには、まだチャンスがあります。そこは、冒険を招き、発見がある場所として最初から作られています。私たちも、スター・ウォーズのキャラクターになれる場所なのです。そして私たちは、そこで思いつく限り、スター・ウォーズの物語に参加できる場所にしたいのです」

大きな格納庫(左)の屋上に停泊している多目的シャトル。ドッキングベイ7・フード・アンド・カードの目印になっている。

その決断のいちばんの後押しになったのは、やはり、ハードコアなファンとお気軽なファンとが同じように楽しめる感覚を作るという考えだった。

「その中を歩くときは、本当にハードコアなスター・ウォーズのファンからスター・ウォーズをまったく知らない人まで含めて、他のみんなと同じレベルになりたいと私は思います」と、Imagineeringのマネージング・ストーリー編集者Margaret Kerrisonは、スター・ウォーズ・ランドの最初の計画説明会議に参加したときのことを振り返って話した。「私は、探検し、発見し、隅から隅まで走り回って、すべてのドロイドやエイリアンを見つけたくなる強い動機が欲しかったのです。筋金入りのスター・ウォーズ・マニアのように細かい知識を持たないからと、引け目を感じないようにしたいのです」

バトゥーにいくつかある入口に入ると、ゲストの周囲の気圧が少し高くなり、やがて解放されるのだと、Walt Disney Imagineeringのエグゼクティブ・クリエイティング・ディレクターChris Beattyは話してくれた。Frontierland(ウエスタンランド)、Critter Country(クリッターカントリー)、 Fantasyland(ファンタジーランド)のすぐ近くに入口があり、岩を「レーザーカット」した黒い石版のトンネルが現れる。そこに入ると、トンネルによって内容は異なるが、映画で有名な光景が広がる。たとえば中央のトンネルでは、いくつかの建造物が見える。すると突然、前方に何隻かの宇宙船、高くそびえる古代の尖塔、建物の上に停泊する宇宙船、風のそよぐ天蓋が見える。その光景から、ブラック・スパイア・アウトポストに来たと感じる。

このランドには、こうした「何かがわかる」瞬間がちりばめられている。レジスタンスのキャンプを初めて見たときは、まずはミレニアム・ファルコンが目に付くだろう。写真を撮る絶好のチャンスだが、同時にそれは、ゲストをその場所に結びつける瞬間でもある。

まだ周囲は建設中だが、この見晴らしのよい場所に建つと、それが驚くほど効果的に作られていることがわかる。ここにはディズニーランドの他の場所の痕跡が一切見られない。植物、細部までこだわったウェザリング、岩に囲まれた風景、お馴染みではあるが新しい部分もあるスター・ウォーズでお馴染みの形をした建物や装飾が、別世界にいる気持ちにさせてくれる。

建設は、従来の手法と新しく生み出された手法のミックスで行われている。ある意味、「ディズニーワールドにある「Pandora – The World of Avatar」(パンドラ・ザ・ワールド・オブ・アバター)のテーマレストラン、オープンスペース、ライドは、そうしたひとつのテーマに徹底した世界をどこまで追求できるかを実験するためのもののようにも思える。「Star Wars: Galaxy Edge」は、そこだけの「土着の」グッズや食べ物を提供し、できる限り「物語」の世界観を表現している他のランドからの教訓を加算して生まれた結果だと言える。

だが建設を始める前に、Imagineeringは、まずツールを作る必要があった。

スター・ウォーズを作る

カリフォルニア州グレンデールのグランドセントラル・ビジネスパークに並ぶサーモンピンクの低層ビル群の中に、Walt Disney Imagineeringの本社がある。そこは、機械いじり、コスチューム、ロボット工学、シミュレーション工学、歴史などを偏愛する専門家たちの楽園だ。ウォルト・ディズニー自身がWED Enterprizesとして創設したディズニーの唯一のデザイン開発組織だ(後に、当時は少し怪しい形でThe Walt Disney Companyに買収された)。それ以来、同社は、テーマの応用技術とロボット工学技術で世界に多大な影響を及ぼすことになり、Imagineering(イマジニアリング:イメージとエンジニアリングを合わせた造語)という言葉が、世界構築の基本コンセプトを同義語であることを世に知らしめた。

Dok-Ondar’s Den骨董品展。銀河中から集められた珍しい品を売っている。

Imagineeringの仕事のやり方で、ひとつ知っておくべきは、彼らは、努力の無駄を最低限に抑えるということだ。彼らのイマジネーションは、創造性、複雑性、野心の点で、常に現実を100倍超えている。そのほんの一部をゲストに提供する場合でも、Imagineeringは限られた時間、空間、予算、そしてそう、物理法則の中で常にその方法を探らなければならない。

仕事を遂行するために、彼らは独自のツールを作ることがある。つまり、市販の道具と自分たちで開発した部品を組み合わせて、問題の解決法をなんとか導き出す。ここはプライドに関わる部分なので、こう話すと、ちょっと変に感じられるかもしれない。しかし、Imagineeringで何かを作るときには、完全にエゴは忘れ去られているのだ。「何がなんでも自分たちのやり方を貫く」のではなく、「使えるものはなんでも使う」ということだ。ゲストのための夢を完成させるためには、その問題解決策の出所にこだわらないという姿勢によって、ディズニーの研究開発とImagineeringは、本当に魅力的な方向に前進できている。

物語を見せる上での問題に技術を適用して少しずつ解決してゆくImagineeringの方法を見たければ、サーボに取り付けた金属片から人型のスタントマン・ロボットへ発展するまでの推移を見ればわかる。

Galaxy’s Edgeプロジェクトでは、これほど大きな仕事をImagineering内部でどう管理するか、またLucasfilmとのパートナー関係をどうするかが、まず最初に解決しなければならない問題としてあった。

なぜ問題なのかと言えば、このプロジェクトが、ディズニーが過去に手がけてきたどの仕事とも大きく異なっているからだ。今回は、最初からすべての部門が密接に関与している。小道具、衣装、建築、商品、食事、ライドシステム、技術部門のすべての人間が、構想を練る段階から協働しているのだ。通常は、それぞれの部門は段階ごとに関わることが多い。しかしバトゥーでは、最初の最初から、すべての人間が同じページにいなければならなかった。

もし、みんなが心から浸れる世界を作りたいと思えば、ディズニーは、有機的に統合された感覚が必要になる。セットのデザインがグッズ販売に寄与し、グッズが物語に寄与し、物語がライドシステムやエンジニアリングに寄与するよう、長くて継続的な対話が必要になる。すべてが足並みを揃えなければならないのだ。

すべての人間をプロジェクトの同じページに集めるためのツールとしてImagineeringが使用したものの中に、BIM(Building Information Modeling:建築情報モデリング)がある。このツールは、2Dの設計図、3Dモデル、インフラ、小道具の配置情報を組み合わせたもので、膨大な情報すべてが連動した原本であり、あらゆる部門が参照できる。スタッフは、ランドの概要を3Dで確かめることから、特定の場所の入口のコントロールパネルのデザインまで掘り下げて見ることもできる。

そもそもこれは、プロジェクト全体を通して使用される基本的な形状や構造に関する情報で、ゲームエンジンUnreal Engineにフィードされる。ゲームの中の3D世界を構築するときと同じだ。ただしこれは、本物の水道配管や建築や技術が基礎に埋め込まれた現実の世界だ。

「このプロジェクトを開始したとき、あまりの複雑さを目の前にして、あらゆるツールを簡単に使えるようにする必要があると理解しました。最初の計画は、プロジェクト全体をデジタル環境で複製するというものでした。実際に建築に取りかかる前に、その惑星を作っておこうという考えです」と、ImagineeringのBIMおよびVDC(仮想デバイスコンテキスト)技術マネージャーのSanne Worthingは話してくれた。「これがあれば、クリエイティブなデザインを行う人間は判断がしやすくなります。工事を行う人間は、現場で作業を始めてから検討するのではなく、事前に判断が下せます。計画を立てる時間に余裕が生まれます。現場での難解で費用のかかる問題を回避できます」

BIMは、すべてを3Dで統合する方法をテストしたり、工事中はどこにクレーンを立てたらよいかを決めるなど、あらゆることが可能になる。BIMの中に作られた世界は、Imagineeringがパークをシミュレーションするための仮想現実にも利用される。

「Unrealを使うことで、私たちのアトラクションのいろいろなパーツを引き出して、動くパーツを組み立てることができました。そのため、このプロジェクトのパートナーであるILMから提供されたメディアを採り入れたり、動くフィギュアのためにアニメーションを取り出したりできます。このアトラクションを構成するパズルのすべてのピースを、仮想現実シミュレーションに組み入れることができるのです」と、Imagineeringのショー・プログラマーApril Warrenは話す。「それを見ながらクリエイティブチームと何度も繰り返し検討することで、普通なら現場に出なければわからない問題を先に発見して、早期に解決できます。また、私たちの創造性をうまく実現できない部分を発見して、改善ができます」

Imagineeringは、ここしばらく独自のVRシミュレーション・システムを使っている。私がそれを見たのは2年ほど前、完成したばかりのころだった。シミュレーターの中を自由に飛び回ることができるので、スタッフはランドをあらゆる方向から見たり、インフラから小道具まで、プロジェクト全体から特定の要素までを、高速で滑るように移動しながら確認できる。しかし、なかでも重要な機能は、ゲストが地面に立ったときに見える光景をできるだけ忠実に再現してくれることだ。それを使うことで、空調機や配管やダクトといった日常的で地球的な設備をどこに隠せばよいか、一貫した風景が味わえるようにゲストの視点をどこに固定するかなど、最大の効果を得るための要素がわかる。

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テーマパークのデザインはワイルドだ。モデリングやVRを使い、視線効果を決定する風景要素を配置できる。だが上から眺めると、ビデオゲームの世界の地面を突き抜けてしまったような光景になる。

「視線については、ランド内に立ったときに、歩き回ったとき、私たちが想定したとおりの体験ができるように、入念に組み立てています。みっともないエアコンが見えてしまわないようにね」と、Worthing。「没入感と、人々がこの世界に完全に浸れる感覚が、ものすごく重要なのです。BIMは、それを可能にする手段のひとつです」

「BIMには、ものすごいもの(能力)がいくつかあります」とWarrenは話す。「いろいろな調整ができるのです。たとえばある地域に車両を走らせたいと私が考えたとき、『あ、こんなところに配管が出てる。BIMを見たときには気がつかなかった』となっても、『ねえ、この配管を移動できない?』と頼めるのです」

「もし、その工程を経ずに現場に出ていたら、問題が起きていたでしょう。その配管に車がぶつかってしまいますから」

Imagineeringのテクノロジー・スタジオ責任者Bei Yangは、Imagineeringにはこんな格言があると言う。「アトムを動かすよりビットを動かした方が楽だ」

毎日、パッケージの評価がBIMに追加される。それにより、ライドとアニマトロニクスのチームはアトラクションの中を、それが建設される前に、いつでも「歩く」ことができるのだ。

「私たちは単にひとつの建物を建てているだけなのですが、誰も決して見ることがないデザインが100ほどあります」と話すのは、「Millennium Falcon Smuggler’s Run」のプロデューサーJacqueline Kingだ。「私たちはその建物の中に入り、実際の現場で鉄筋を組む段になって、正しい位置に配置できるよう、最良の判断をするのです。現場で実際に見てから間違った位置に壁があるという話はよく聞きますが、私たちは大抵の場合、問題の大半を事前に処理し、完全に正しい設計に修正することで、最良の結果を出しています」

BIMをVRシミュレーションに使う以外に、Imagineeringではそれをライドのシミュレーションにも使うようになった。しかしその後、さらなる応用方法が現れた。

建設の工程が決まると、バトゥーの世界の実体化が始まった。それには、建物、装飾、小道具、グッズ、食べ物、そして住人が含まれる。

Galaxy’s Edgeのデザイン

バトゥーのデザインでは、ディズニーランドのすべての食品グループが展開されるが、今回は、それぞれ個別にランドに合わせたデザインが施されている。建物、小道具、衣装から音楽、食べ物、グッズにいたるまで、すべてが徹底的にスター・ウォーズ化されている。

ディズニーには独自の建設スタッフがいない。3000人規模の人員となればなおさらだ。そこで、建設を請け負う人たちが、彼らのデザインを確実に実体化できるよう、工程とランドの目的を徹底的に教育した。とくに力を入れたのは、彼らの話をよく聞き、ビジョンを実現する方法をいっしょに考え、深く関ってもらえるよう彼らに依頼することだった。

Imagineeringのポートフォリオ・エグゼクティブ・プロデューサーRobin Reardonは冗談めかしてこう言った。「スター・ウォーズには、パイプがたくさん登場することがわかりました。私たちはたくさんのパイプを描き、たくさんのパイプをモデリングし、パイプだらけでピーピーです。私たちは設備業者に会って、こう話しました。『私たちが一から作ってもいいのですが、でも、ほら、パイプはあなたの専門だ』とね。彼はとても喜んでくれました。ビル設備の仕事は、普段は天井の裏や壁の中などに隠れて人目につきません。見えるのは通風口ぐらいなものですからね。彼らの仕事が表舞台に出るので、家族を連れていって『あれは私が作ったんだ。この世界の一部だよ。みんなが見るあの部分をね』と言えると興奮していました。楽しかった。それは今でも続いています。彼のチームはずっと、ここでの仕事に心底熱中しています」

「Star Wars:Rise of the Resistance」の建設作業中に実物大のタイファイターを確認するWalt Disney Imagineeringのスタッフ。

バトゥーを歩くときの地面にも、クリエイティブな努力の跡が見られる。Imagineeringのショーシステム・エンジニアPaul Baileyは、人が歩く地面の「土」や石の細部にもこだわったと説明している。

「この世界では、ゲストが物を間近に見るので、ひとつ上のレベルが要求されます。そのいい例として、このランドを歩き回るドロイドがあります。それは、私たちが伝えたい物語の一部にもなっています。1976年から1977年の『スター・ウォーズ:新たなる希望』(エピソード4)の時代、最初に登場したケニー・ベイカー演じるドロイドを研究しました。そこからドロイドの足の裏の車輪の跡を採取して、それを3つで1セットのファイルに変換し、そこから立体の車輪を1セット作りました。私たちは、小さなドロイド台車を作り、それをKristine(アートディレクターMakela Kristine)とそのチームに使わせました」

「具体的には、こういうことです」とMakela。「ここは大勢の人が働いている慌ただしい建築現場です。造形用のコンクリートを流し込んでいる人がいます。周囲はすべて汚れていて、工具もあり、押し型も置かれています。そこで、一人がその小さな台車に飛び乗り、もう一人がそれをコンクリートの上を引っ張る。すると、ドロイドが通った跡ができます」

「めちゃくちゃ正確に」とBailey。

ランド中に付けられたその車輪の跡を私も見たが、いかしていた。

装飾や小道具の正確さのレベルも「ひとつ上」だ。

「まず、この仕事を開始したその日、私はイギリスに飛ばされ、スター・ウォーズのセットを作った映画クルーを訪ねるように言われました。私は美術部門の大勢の人たち、小道具担当、アートディレクターたちと知り合うことができ、映画の小道具をどうやって作ったかを学びました」と、Imagineeringのクリエイティブ・ディレクターEric Bakerは話してくれた。「彼らの哲学の中には『オリジナルの映画は1980年より前に制作されているので、1980年以降でなければ買えないものは一切使わない』というものがありました。私たちは大変な時間をかけました。私たちが作ったものの材料の多くは、リサイクルしたものです。たとえば、ゼロックスのマシンには、使える材料が無数に詰まっています。私たちは常に、1980年以前のものを探し歩いていました」

「そうやって始めたのです。あの映画に関わっていた大道具担当者と協力して、彼らが映画制作でどのように物を作ったのかをみんなに見せて、作り方を学ぶスタイルを構築しました。私たちの仕事は、彼らが作り上げたこの驚きの村、彼らがデザインした素晴らしい建物に、そこに住む人たちの物語を通して命を吹き込むことです」

彼らは、映画制作チームが部品取りに使ったものと同じジャンボジェット機から、長い時間をかけて部品を引き剥がしたという。だが、すべての部品が1980年以前のものではない。主要な部品はそうだが、そうでないものは、映画の見た目や雰囲気にできるだけ近づけるよう、それを原型にして部品を作った。

バトゥーに住む人たちの衣装も、ディズニーランドの別の場所のものとは大きく異なっている。まず、ブラック・スパイア・アウトポストの住人は、あらかじめ揃えられた服、帽子、アクセサリーなどを、毎日自分で組み合わせて着ることができる。こうすることでキャラクターは特徴を出せて、ゲストにさらなる現実味を与えようという意欲が増す。

衣装は、ポンチョ、日よけ帽、風通しのよいジャケットやパンツなど幅広い。衣服はパーク内で風合いが増すように軽量に出来ていて、暑さ対策と色あせを予防するために、綿とナイロンの混紡になっている。スタイリングは新鮮で、色は自然な繊維を思わせ、重ね着の雰囲気も出している。日差しの強いカリフォルニアや蒸し暑いフロリダでも着られるよう、実際には一重なのだが、パーツを縫い合わせることで重ね着をしているように見せているものもある。

「衣装デザインの大きな喜びとして、私たちがデザインして作る衣装や装飾品が、文字通り、キャストの人生に触れるという点があります」と、衣装デザイナーJoe Kucharskiは話す。「キャストが個性を作る手助けをするだけでなく、自分の体によく合って、着心地がいいものが選べるようにしたいと考えています。織物のトップス、ニットのトップス、とても通

気性のいいものなど、本当に喜んでもらえるものを選べるよう、用意しています」

レジスタンス、ファースト・オーダー、そして「Rise of the Resistance」のキャストには、テーマに沿った制服がある。

アニマ・レクトリック

ディズニーのパークで注目を浴びる出し物がそうであるように、お察しのとおり、バトゥーにも、Imagineeringが得意とする動くロボットやアニマトロニクスがひしめく。売店を経営するドロイドから、ライドの順番待ちの相手をしてくれるキャラクターなど、Star Wars: Galaxy’s Edgeには動くフィギュアは山ほどある。

80年代から、ディズニーの各パークでは、A-100シャーシをベースにした油圧式のアニアトロニクスが使われてきた。これは、ヒューマノイドの基本型となるものだ。バトゥーのアニマトロニクスは、すべてが新しいA-1000シリーズのシャーシをベースにしている。これは、いろいろなサイズに、いろいろな方法で設定を変えることができる。なかでもいちばんの違いは、電動モーター式になったことだ。

電動モーターは、2009年にリンカーン大統領の頭部に使われたのが最初だ。その後は、 「Enchanted Tales with Belle」、「Frozen Ever After」、「Na’vi River Journey」といったアトラクションに使われている。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー – ミッション:ブレイクアウト!』のロケット・ラクーンも電気式だ。

「Savi’s Workshop Ð Handbuilt Lightsabers」では、自分だけのライトセイバーをカスタマイズできる。

油圧式と異なり、電動式は、よりずっと正確に動くことができる。動いたり止まったりがほぼ瞬間的に行え、動き出しと止まった後の予備時間が少ないため、次の動作に滑らかに移行できる。しかも、フィギュアに接続される配線の本数も油圧式の約半分と大幅に減る。そのため、フィギュアを配置するスペースも制御盤のサイズも小さくでき、結果として、シーンの中のより面白い場所に設置でき、配線を隠したり、メンテナンスの利便性に頭を悩ませる必要も少なくなる。

新しいフィギュアは動きが滑らかで、いろいろなことができ、見ていて本当に面白い。

このスター・ウォーズの惑星に住む特級クラスのキャラクターを、いくつか紹介しよう。

ホンドー・オナカー – 『クローン大戦』に登場するウィークェイの海賊。現在は、オナカー・トランスポート・ソリューションズの経営者として、ある「配達」業務のためにチューイからミレニアム・ファルコンを借りている。アニマトロニクスのフィギュアは身長約210センチ。油圧ではなく最新の電動モーターで駆動する。ホンドーのフィギュアには合計約50の駆動箇所があり、ディズニーの全パークの中で2番目に複雑なアニマトロニクスだ。ちなみに、もっとも複雑なものは、上述のNa’vi Shaman(ナヴィ・シャーマン)だ。顔だけで40の駆動箇所があり、体全体では言うに及ばず。私たちは、2年前のロボット工学イベントでシャーマンに登場してもらったことがある。じつに見事な動きを見せる。しかし、ホンドーも負けてはいない。滑らかな動きと、自然な表情の変化、それに、彼が所有するR5ドロイドとの掛け合いがじつにリアルだ。

DJ R-3X – 以前はRX-24という形式だった。スター・ツアーズのパイロット、キャプテン・レックスとしてお馴染みだ。現在は、バトゥーのOga’s Cantina(オーガのカンティーナ)でDJを務めている。彼は、Imagineeringのチームや世界中のいろいろなアーティストが作曲した曲を演奏する。どの曲もポップな電子音楽風じで80年代っぽい。カンティーナの懐メロミックスも流れる。彼は胴体と腕を動かして機器を操作したり踊ったりする。曲は3時間で一巡し、音楽と会話で客を楽しませてくれる。面白情報として、Lucasfilmのクリエイティブ・エグゼクティブMatt Martinが教えてくれたところによると、レックスがバトゥーに流れ着くまでには、何ページにもわたる半生の物語があるとのことだ。

ドク=オンダー – アイソリアンの貿易商。ジェダイとシスの工芸品のコレクターとして名高い。私は、Imagineeringのアニメーション施設でドクが完璧に作動する様子を見てきたが、すごかった。身長はゲストの頭上数フィートの位置にそびえ、カウンターの後ろに座って従業員に指示を出す。ここでも、手や首の動きは大変に豊かで滑らかで、細かい部分がよくできている。彼は体全体を上下させることもできる。2つの口の唇は、よく響くステレオの声で話すとき、波打つように動く。

ニエン・ナン – 『ジェダイの逆襲』で、2つめのデススターを破壊する任務でミレニアム・ファルコンの副操縦士を務めたことで知られるサラスタン人パイロット。バトゥーでは、「Rise of the Resistance」アトラクションでゲストが乗船する輸送船の操縦士になる予定。

マイナーだがなかなか魅力的なキャラクターとして、噴水の中にカメオ出演するディアノーガがいる。かなり濁った水(演出だが)の中にときどき姿を現してゲストを驚かす。Creature Stall(クリーチャー房)の中にも、動くクリーチャーが大勢いる。ファンに人気のロズ=キャットウォートなどだ。Droid Shop(ドロイド・ショップ)にも、いろいろな種類の動くドロイドがいる。店の外には、「Play Disney Parks」アプリでゲストと遊んでくれたり、潤滑油の風呂でリフレッシュしているドロイドもいる。

興味深いのは、まだディズニーが公表していない、製作中のドロイドがいくつかあるらしいことだ。インタラクティブなフィギュアを作る部門には、まだたくさんのフィギュアがあり、新しい出し物でバトゥーを拡張する計画を、すでにImagineeringは考えている。また、ここに登場するロズ=キャットなどの小さなクリーチャーが、以前私が伝えた半自動のTiny Lifeプロジェクトに登場するのか否かは確認できなかった。

ブラック・スパイア・アウトポスト。

フィギュアをアニメーションさせる方法も、シャーシが新しくなったことにともない、アップデートされた。

「このプロジェクトで、とてもうまくいったことのひとつに、デザイン・ソフトウエアと、モデリングとアニメーションのソフトウエアとの間でデータの書き出しと読み込みを可能にするツールを、ソフトウエアのパートナー数社が開発してくれた点があります」と、ショー・メカニカル副エンジニアVictoria Thomasは話す。「そのフィギュアが何であり、ピボットがどこにあるかを3Dで正確に示したデータを彼らに送ることが可能になりました。彼らはそれを使って、彼らが動かしたい速度で正確にそれぞれの関節をアニメートできます。そこで、『おっと、肩のピボットが動かない。調整できるか?』みたいな貴重なフィードバックが大量に得られます」

「工程の初期にそうしたフィードバックを受け取ることで、フィギュアに生じるあらゆる問題の変更、その場での対処、修正、克服が可能になります」

アニメーションは、このランドを構成する他のすべてのデータと同じく、BIMの中で処理される。プレビズを作ることで、最終段階での頭痛や物理的な面倒を大幅に削減できる。

「早めに手を打てば、深刻な問題になる前に、問題に対処できます。とくにホンドーのフィギュアでは、『おや、彼の舞台ショーセットと位置からすると、彼のシーンでのオーディオに十分な余裕がないな。オンボードのスピーカーを付けよう』といった判断ができました」とThomasは話していた。

「他の場面では、『おい、大きなスピーカーがメンテナンスの人間がフィギュアにアクセスできるよう設けて置いた場所を塞いでる。このままではベースフレームのメンテができない』といった発見もありました」

「BIMとプレビズのお陰で、そうしたことが大幅に可能になったのです。もうひとつクールだったことは、フィギュアのモーションキャプチャー・データを最初に取得して、人間ならどう動くだろう? この動きは自然に見えるか? ゲストに喜んでもらうために、できるだけ有機的な動きにするにはどうしたらいい? といった要素を確認できた点です」

そうして出来上がったフィギュアは、現在のディズニーの技術では最高に見栄えのよいものとなった。そして彼らは、電気駆動のフィギュアのプレビズ制作においても最先端となった。それは、私たちが出会うことができるスター・ウォーズのエイリアンとしては、ほぼ本物に近い。

しかし、クールではあるものの、そうした住人はStar Wars: Galaxy’s Edgeの最大の呼び物ではない。

ライド

このランドには、2つのアトラクションがある。「Millennium Falcon Smuggler’s Run」(以降ファルコン)と「Star Wars: Rise of the Resistance」(以降ライズ)だ。「ファルコン」は、シミュレーションタイプのライドで、スター・ツアーズの超超進化版と言える。6人のクルーで、リアルタイムでコントロールができるのだ。「ライズ」は、簡単には説明できない。複数のステージのライドで構成されていて、全体として「実験的」アトラクションと言うのがもっとも相応しい。

これらのライドの開発には、ワイルドな新技術が使われている。既知の技術を新しい形で応用したものもあれば、正確に説明するにはレベルが雲の上過ぎて難しいものまである。

「ライズ」とシミュレーション

ディズニーは長い間、ライドのデザインとテストに、VRと拡張現実をいろいろな形で使ってきた。以前訪問したときの私の記事から引用すれば、カリフォルニア州グレンデールのImagineering本社には「The Dish」と呼ばれる大きなシミュレータールームがあり、そこは丸みをおびた部屋で、複数の高解像度プロジェクターが備えられている。そこは、簡単に言えば、「ホロデッキ」の役割を果たす。複数の人間がそこでライドやアトラクションを「見る」ことで、見た目や雰囲気に関する判断を下している。

建設中に撮影したミレニアム・ファルコン。

ユーザーは「Bowler Hat」(山高帽)と呼ばれるものをかぶる。それはその人の動きを追跡して、歩いて移動するごとに、それに合わせて視点を調整する。私たちはバトゥーの中や周囲を飛び回ることができ、翌日、現地に実際に行ったときに見ることになっていた光景を、仮想的に見ることができた。

しかしディズニーは、ライドのシミュレーションに、VRをもっと過激な形で使ってきた。とくに、Imagineeringの敷地の倉庫の中に作られた完全な乗用車両だ。それは、幅広の長さ30メートルのリングの中で車用の仕切りに囲まれていて、「ライズ」の線路のない車両と同じに動く。

「私たちは、あらゆる車両の動きを、VRを使って早期にテストできます」とApril Warren。「車両に乗ってVRヘッドセットをかぶれば、このアトラクションが将来どんなものになる、かわかるでしょう。私たちはこれを、すべてリアルタイムで行いました。本当にエキサイティングでした。このワークフローなくして、このアトラクションは作れなかったと思います。私たちはアトラクションを細かく分解して、社内で乗れるようにしました。私たちの車両で得られると私たちが考えていた体験が、このアトラクションの中で得られるものと同じかどうかを現実に確認できるようにしたのです」

「驚いたのは、実際の建物の中に入ったときに、すでに設備が設置されていたときです。私たちは、そこに行ったことがありませんでした。少なくとも私は。中を歩くと、VRで見たとおりだとわかり、こう言いました。『なんてことだ、自分がどこにいるかわかるぞ。すべて見たことがあるから、ここをどう歩けばいいかわかる。ここは、こうなるだろうと想像していたのとまったく同じだ』とね。めちゃくちゃエキサイティングでしたよ」

その装置そのものも、かなりワイルドだ。席の配置も、「ライズ」の車両とまったく同じに作られている。乗車すると、有り余るパワーのコンピューターが乗っているすべての人のヘッドセットに映像を送り、モーターを回転させて、映像と完璧に同期するように床の上で車両を動かす。これにより乗っている人は、宇宙を飛行する映像と引力がミックスされた幻影を感じる。この装置を見せてくれたImagineeringでは、この効果を「Visceralization」(ビセラライゼーション:心の底から感じさせること)と呼んでいる。史上最高にヤバいVRシミュレーターだ。

我々がシミュレーション・センターを訪問している間、そこではVRライドを開発しているのではないと、ディズニーは明言していた。そうではなく、彼らはVRを使った体感的なライドを開発しているのだという。方々の遊園地でVRが普及し始めている今、この違いは重要だ。

「ライズ」の「体験」そのものの分類は、さらに困難だ。私たちが現地で見学させてもらったものは、後で聞いたことによると全体の1/3だという(その数字に衝撃を受けた)。そこへは、バトゥーの村の門の外にあるレジスタンス区域を通って行く。レジスタンス区域にはスターファイター(XウィングファイターとAウィングファイターが映画のままに再現されている)があり、レジスタンスのメンバーが、1日中、決められた間隔で忙しく戦闘準備を行う様子が見られる。ゲストが並ぶ通路沿いにはいくつかの部屋がある。スター・ウォーズではいたるところに登場するケーブル類で柵をされた植木の脇を通り、けんかっ早い反乱軍が占拠していた昔の名残りの部屋などを抜けて行く。

ゲストはスター・デストロイヤーの通路を通る。

いくつかの部屋を抜けると、岩を「レーザーカット」でくり抜いた区域に出る。そこは、天然または人工の洞窟を掘ったかのように見せかけてある。部屋には、衣料品、日用品、軍用品が山積みされている。ブラスターやパイロットの制服が金網の戸棚にしまわれている兵器庫もある。ファストパスの人と並んでいる人の列をひとつにするコミュニケーション・ハブの部屋もある。全体的に効果は抜群だ。映画から抜け出たような窮屈な基地の中を歩いている感覚がする。

ところで、この通路には、家族連れや子どもたちが休めるように、大きな岩を削って作ったような座面の低いベンチがある。子どもと長い行列で待つのがどんなものかをよく知る父親のひとりであるエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターJohn Larenaは、冗談めかして、個人的な勝利だと話していた。

そこから、ゲストはブリーフィングルームに通される。そこでは高い戸棚の上に置かれたアニマとロニックのBB-8が、ミッションの護衛役となるポー・ダメロンのビデオ映像と会話している。その他にも、レイやフィンのフォログラム映像も見られる。

そこから、ポーのXウィングファイターが出撃準備をしている着陸パッドを右に見て進む。そしてUウィング輸送船に、仲間の乗客と乗り込む。ニエン・ナンとポーが操縦する輸送船が離陸し飛行する様子をシミュレーターが体験させてくれる。ここでは、兵員輸送の際の立ったままの乗船が求められる。するとすぐに、スター・デストロイヤーに拿捕され、船内に牽引されてしまう。

それから、ここではまだ言えないライドの魔法を体験すると、ドアが開き、私の記憶の限りではいちばん驚いたライドが登場する。実物大のスター・デストロイヤーのハンガーベイだ。黒い床も広々としている。タイファイターは搭乗ラックに整列し、そしてそう、巨大な窓からは外の宇宙が見渡せる。当然のことながら、ファーストオーダーの艦隊も浮かんでいる。

ゲストはスター・デストロイヤーの通路を抜けて行く。

仰天していると、ファーストオーダーの士官によって、ゲストはグループ分けされる。ちなみに、士官は制服を着た本物のキャストだ。そして完璧に作り込まれた通路を通って、ポー・ダメロンが捕らえられていた監獄とそっくりな部屋に入れられる。ここで、ゲストはカイロ・レンと遭遇し、冒険はさらに続く。

見学ツアーはここまでだった。車両に乗るところまでは、まだ行けない。そこでは、さらに多くのファースト・オーダーの兵士やAT-ATなど、未公表のキャラクターが登場する予定だ。

かなり大規模なアトラクションだ。ディズニーのパークでは、これほど大きなものは見たことがない。しかもこれは、2つあるアトラクションのうちの1つに過ぎないのだ。

ファルコンを飛ばす

もうひとつは、もちろん、「ファルコン」ライドだ。これには山ほど質問がある。この飢餓感を満たすために頑張ってみた。

バトゥーのひとつの入口から、初めて「ファルコン」に向かうと、超現実的な感覚に包まれる。映画で見たのと同じ、全長33.5メートルの実物大のファルコンがそこにある。細部にまでこだわって作り込まれていて、この区域の中心的存在として活躍することになっている。船からは定期的にガスが放出され、ホンドーの手下の技術者たちが常にエンジンを整備している。これはランドの中で生きているキャラクターだ。

「Millennium Falcon: Smugglers Run」の内部。

整備ベイに入り、オーナカのトランスポート・ソリューションズの店内に通じる道を歩く。構台にのぼり、配送場や機械工房を通ることで、ファルコンをあらゆる角度から眺めることができる。そしてついに、あのなじみ深い、チクレットガムのような壁のファルコンの通路に入る。待機場所は、みんながよく知る、チェスボード(現在はホログラムは見られない)や通信コンソールが置かれた船内の部屋だ。この部屋のあらゆるものが、ボルト1本にいたるまで、映画に忠実に作られている。虫眼鏡を取り出してよく見れば、それがミレニアム・ファルコンそのものであることがわかるだろう。

そこから、搭乗カードを手渡されて6人のグループに分けられ、コックピットに案内されるのを待つ。

かの有名なチェスの部屋。

「ファルコン」は、前述のとおり、銀河系でもっとも有名な宇宙船のコックピットに乗れるシミュレーターライドだ。コックピット(大勢のゲストをさばけるように複数あるが、いくつあるかは明かされていない)には6人が乗れる。2人がパイロットで、2人が砲撃手、2人が航海士だ。ファルコンでミッションをうまく遂行するには、全員の協力が必要になる。だが、どうにかこうにか、遂行されることになっている。

シミュレーションはUnreal Engineで駆動され、メカニズムには、スター・ツアーズに使われていたシステムをうんとアップグレードしたものが使われている。各コックピットにはリアルタイム・レンダリング・システムが割り当てられていて、コックピットを取り囲む5つのスクリーンに複数のプロジェクターから投影される映像が、フィードバックハブにより、つなぎ目なく合成される。クルーの一員として誰かが下した決断は、すべてが画面上にアクションとして反映される。すべてリアルタイムで処理されるため、あらかじめ映像がレンダリングされることはない。ディズニーは、このシステムを支える「魔法」のパワーについては話したがらないが、去年、Nviriaが少し話している。

村の名前はブラック・スパイア・アウトポスト。

Walt Disney Imagineeringは、アトラクションを駆動する新技術を開発するため、NVIDIAとEpic Gamesと手を組んだ。これが始動すれば、ライドのコックピットは、Quadro SLIで接続された8基のNVIDIA Quadro P6000 GPUを搭載した1基のBOXXシャーシで駆動できるようになる。

Quadro Syncは、5基のプロジェクターの映像を同期させて、まばゆいばかりの高解像度映像を映し出す。完璧に同期された映像により、惑星バトゥーの世界にいる搭乗員たちは、完全な没入感を味わえる。

NVIDIAとEpic Gamesとの協働により、Imagineeringチームは、Unreal Engineのための、独自のマルチGPU実装プログラムを開発した。この新しいコードは、Epic Gamesチームに戻され、そのエンジンにマルチGPUの機能がどう影響するかを検証してもらう。

「私たちはNVIDIAのエンジニアと協力して、MosaicやGPU間の読み取りなどのQuadro固有の機能を使い、私たちが求める性能特性を発揮できるレンダラーを開発しました」と、Disney Imagineeringテクノロジースタジオ・エグゼクティブのBei Yangは話す。「8基のGPUを接続することで、これまでにない性能に達することができました」

私個人にとって、その効果は非常に大きかったが、見たのはハンガーベイのほぼ静止した映像だけだ。

コックピットに入ると、それはまさに幽体離脱状態だった。これは恥ずかしげもなく認める。どんだけ「しっくり」きたか、その感覚は半端じゃない。6つの座席にはすべてシートベルトがあり、どれも見慣れた感じに使い古されている。さらにすごいのは、パイロット席には、それぞれ脇や前方に大量のボタンが並んでいることだ。正方形や長方形をしたボタンは、それぞれが光るリングで囲まれていて、ミッションの間、その人の「出番」になると、最良の結果につながるボタンが点滅して、それを押すように促される。トグルスイッチにも、先端に小さなLEDが仕込まれていて、同じ働きをする。このことは、ぜひお伝えしたかったのだが、大きくてごっついトグルスイッチは見た目が心地よく、押しボタンもよく吟味されている。きちんと押すにはある程度の力がいるが、それがまた心地いい。どれも「しっくり」くるスイッチだ。

それから、右側に座ったパイロットには、ハイパースペース航法のレバーを引く役割が与えられる。その引き心地がまたいい。

ファルコンの「操縦」方法を説明しよう。パイロットは左右の舵とスロットルを担当する。座る席によって、タイファイターを撃ち落とすためのボタンや、撃ち損じたときに砲撃を止めるボタンがある。

フライトごとに内容は変わるが、「ファルコン」でフライトに「失敗」することはない。初心者でも上級者でも、その人の能力に応じて成功できることになっている。しかも、ブラック・スパイア・アウトポストの人々は、ファルコンを操ったチームを讃えてくれる。うまくやっても、うまくいかなくてもだ。

「ゲストが望むならば、彼らに対するリアクションをある程度変化させることができます。経験を積んだときだけでなく、アトラクションや、特定のキャラクターに会ったときなどでもです」と、Disney Parks, Experiences and Productsの会長Bob Chapekは言う。「ゲストのことを記憶しておいて、それなりに反応するという以外に、何回か来園すると、前にも来てくれたことを思い出します。その結果、よりずっと親密な対応ができるのです」

いろいろ聞いてみたが、まだ大きな疑問符が私の中に残っている。それは、店主やキャラクターが、どうやってゲストを記憶するかだ。Play Disney Parksアプリで行いそうだが、彼らの態度から察するに、そうではないようだ。つまり、まだ公開されない何かがある。フロリダのパークで使われているMagic Bandsのようなシステムだろうか。それは、これからわかることだ。

ランドはライドだ

Imagineeringは、Star Wars: Galaxy’s Edgeは3つのメインのアトラクションで構成されると考えている。2つのライドと、ランドそのものだ。5つのレストランと5つの売店に加えて、ランドには2つの異なる生態系があり、Play Disney Parksアプリで遊べるアクティビティーが備えられている。ランドに入ると、アプリはスター・ウォーズ・モードに切り替わり、スキャン、翻訳、音楽、仕事といったツールが使えるようになる。このツールを、バトゥーで発せられるに数十基のBluetoothビーコンにつなげることで、ドロイドを動かしたり、船をハックして配線図をダウンロードしたり、ドアパネルから秘密のメッセージを受け取ったり、ファースト・オーダー、レジスタンス、密輸業者に所属する3つの派閥の通信を聞いたりできる。また、ランド内で話されたり書かれたりしているエイリアンの言葉の通訳もしてくれる。

これらの派閥に仕事で挑むこともできる。なかには、ランドに滞在中に、スキャンを使って、レジスタンスとファースト・オーダーの力のバランスをレジスタンス有利に傾ける壮大なゲームもある。このゲームでは、デジタルのコレクションアイテムがもらえる。ライドを待つ間にミッションを遂行するゲームもある。ひとつは「ファルコン」用で、もうひとつは「ライズ」用だ。どちらの側も楽しめる。

こんな感じになる。たとえば、密輸業者の派閥に入ったとしよう。すると、ライドの列に並んでいるとき、ホンドーから「おい、マシューじゃないか?」と名前で呼ばれたりする。

これは、どう考えても壮大な仕事だ。ブラック・スパイアの村やその周辺の領域を歩いて回ると、まだまだ建設半ばであることがわかる。ディズニーは昼夜を問わず、物語性や没入感という面で大きなリスクになりかねない仕事を懸命に推し進めている。スター・ウォーズの世界は、ファンの観点からすれば「おいしい」出し物に思えるが、その注目度の高さは、ディズニーにとって、すべてを最初から「正しく」やらなければならないという圧力にもなっている。私たちが見学した段階で、まだ作業員たちは切ったり塗ったり盛ったりしていた。夏はもうすぐだ。そして、バトゥーまでの道はまだ遠い。

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(翻訳:金井哲夫)

通信市場で争うオープンソースコミュニティ

先日バルセロナで開催されたMWCのことを考えるとき、おそらくあなたは最新のスマートフォンや他の携帯機器について考えることだろう。だがそれは物語の半分に過ぎない。実際には、そうした話題は半分以下なのだ。なにしろMWCで行われているビジネスの大部分は、企業向け通信ビジネスに関わるものだからだ。それほど遠くない昔、そのビジネスとは、高価な専用ハードウェアを売ることに他ならなかった。だが現在は、これらのほとんど全てがソフトウェアに移行している。そして多くのソフトウェアがオープンソースなのだ。

なので、今年Linux Foundation(LF)がMWCに独自のブースを設けたのは当然のことだ。それは巨大なものではなかったが、独自のミーティングスペースを確保できる程度には大きなものだった。ブースはLFによる3つのプロジェクトによって共同利用されていた:Cloud Native Computing Foundation(CNCF)、Hyperledger、そしてONAPOpen Platform for NFV (OPNFV)(どちらも最新ネットワークに欠かせない)などの、基本的なプロジェクトを支えるLinux Foundation Networking (LFN)である。そして5Gの出現により、つかむべき新しい市場シェアがたくさん生まれている。

このイベントにおけるCNCFの役割について議論するために、私はCNCFのエグゼクティブディレクターであるDan Kohn氏の話を聞いた。

MWCでCNCFは、OpenStack上の仮想ネットワーク機能と、CNCFがクラウドネイティブネットワーク機能と呼ぶものの性能を比較したテストベッドを発表した。このクラウドネイティブネットワーク機能は、Kubernetes(とベアメタルホストであるPacket)を利用している。プロジェクトの成果として示されたものは、少なくともこれまでのところは クラウドネイティブコンテナベースのスタックは、競争相手のOpenStackコードよりも1秒あたりにはるかに多くのネットワーク機能を処理できたということである。

「私たちが発信しているメッセージは、ベアメタルもしくは任意のクラウドの上で動作する、汎用プラットフォームとしてのKubernetesを使えば、ほとんどの仮想ネットワーク機能は、クラウドネイティブネットワーク機能上に移植できるということです」とKohn氏は語った。「すべての運用支援システム、すべてのビジネス支援システムソフトウェアも、同じクラスタ上のKubernetesで実行することができます」。

さて、一方OpenStackは、また別の大規模なオープンソースプロジェクトである。ご存知ない方のために説明すると、企業が自身のデータセンターのソフトウェア基盤を管理するための手段を与えるものだ。OpenStackの最大の市場の1つは、長い間通信業界だった。これまでも常にCNCFとOpenStack Foundationの間には、ある種の摩擦が続いていたが、OpenStack Foundationがその組織を、直接コアOpenStackプロジェクトとは関係しないプロジェクトへも開放したことによって、その摩擦傾向は強まった。

私はKohn氏に対して、現在CNCF/Kubernetesスタックを、OpenStackのライバルとして位置付けているのかどうかを尋ねた。「はいそうです。私たちの見解は、Kubernetesをベアメタルサーバー上で動作させるべきで、中間層は不要だというものです」と彼は述べた。これまでCNCFはこうしたことを明言しては来なかったが、内部ではずっとそのように言われていたのだ。彼はまた、こうした摩擦の一部が、CNCFとOpenStack Foundationが、様々なプロジェクトに対して競合関係になっていることから生じていることを認めた。

OpenStack Foundation側は、当然ながらこうした対立には同意しない。OpenStackのCOO、Mark Collierは「KubernetesをOpenStackと対立するものとして扱うことは極めて非生産的です。それに、OpenStackが既に多くのケースで、Kubernetesと組み合わせる形で5Gネットワークを支えているという事実を無視することになります」と私に対して語った。「それに、OpenStackが単なる仮想マシンのオーケストレーターだとおっしゃっているのでしたら、OpenStackが実際に何をしているのかについての理解が不足なさっていることも意味していますね。そうした説明は、もう数年前の過去のものです。多くのワークロードにとって意味のある、仮想マシンからの離脱が、OpenStackからの離脱を意味するわけではありません。今ではOpenStackはそうした環境のなかで、Ironic、Neutron、およびKeystoneサービスを通じてベアメタル、ネットワーク、そして認証を管理しているのです」。

同様に、OpenStack Foundationの元ボードメンバー(ならびにMirantisの共同創業者)であるBoris Renski氏は、私に対して以下のように語った「単にコンテナーがVMに取って代わることができるからといって、KubernetesがOpenStackに取って代わるわけではありません。Kubernetesの基本設計は、低レベルのインフラストラクチャを抽象化する以外のものがあることを前提としています、すなわちアプリケーションを意識したコンテナスケジューラであることを目指しています。一方OpenStackは、ベアメタル、ストレージなどの低レベルのインフラストラクチャ構造を抽象化することを目的に、特別に設計されているのです」。

この議論はKohn氏とCNCFによるKata Containersへの批判にもつながっている。Kata Containersとは、OpenStack Foundationがその組織をOpenStack以外のプロジェクトに対しても開放した後に手がけた、最初のプロジェクトである。Kata Containersは、従来の仮想マシンに対してさらなるセキュリティを加え、コンテナの柔軟性と組み合わせて提供することを約束している。

「KataをめぐるFUD(不安や疑念)に関してはこう言うことができます:通信会社は(a)騒がしい隣人問題(同じテナントに載る他のインスタンスとのリソース競合問題)と、(b)セキュリティに関する問題に対応するために、Kataを使う必要が出てくるでしょう」とKohn氏は語る。「それは未知のものに対するFUDに過ぎませんし、(Kataの採用する)マイクロVMは本当に興味深い技術なのです」。

しかし彼は、サードパーティのコードを実行しているような状況(Firecrackerを実行しているAWS Lambdaを想像して欲しい)に対しては、Kataのやりかたは興味深いと考えているが ―― 残念ながら通信業者たちは通常そのようなコードを実行したりはしないのだ。そして彼はまた、Kubernetesも騒がしい隣人たちをうまく扱うことができると主張している。なぜならそれぞれのコンテナが抱えることのできるリソースの数を限定することができるからだ。

どちらの組織もここではフェアな議論をしているように見える。KubernetesはいくつかのユースケースではOpenStackよりも、よりうまい処理を行い、高いスループットを提供できるかもしれないが、その一方では、OpenStackはそれ以外の多数のユースケースを上手く扱うことができる。だが明らかなのは、ここにかなりの摩擦が生まれていることなのだ。残念なことである。

画像クレジット: Jean Joselle Rosal / EyeEm / Getty Images

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(翻訳:sako)

一食分の栄養素が摂取できる完全栄養パン「BASE BREAD」が3月4日より発売、恵比寿に期間限定のカフェも

1食で1日に必要な栄養素の3分の1が摂れる完全栄養食品「BASE PASTA」開発のベースフードは2月28日、同社いわく“世界初の完全栄養パン”である「BASE BREAD」を新たに発表した。3月4日より発売開始となる。1食2個入りで価格は390円(税込)。

ベースフードはこれまでに上記の「BASE PASTA」を2017年2月に販売開始し、累計販売は40万食を達成。昨年12月には、「すごい!煮干しラーメン」で有名なラーメン凪とのコラボにより、ラーメンスープと合わせて食べる「BASE RAMEN(ベースラーメン)」も発売開始した。

これらに続き、本日同社は世界中で主食として食べられている“パン”を、完全栄養の「あたらしい主食」第二弾として発表。冷凍された状態で配送され、いつでも好きな時に解凍するだけで、手軽に栄養バランスを補うことができる。

食べるには、冷凍された状態で袋の口を開け袋のまま電子レンジ(500W)で約3分加熱。もしくは、冷凍された状態で袋から取り出しラップをかけずに電子レンジ(500W)で約2分加熱。その後、オーブントースター(1000W・200℃)で約1分焼く。また、朝にオフィスなどで食べたい場合は、自然解凍でも大丈夫とのこと。

BASE BREADは一般的なロールパンに比べ、糖質は50% OFF、脂質は30% OFF、カロリーは20%オフ。僕も試食させてもらったが、ヘルシーをウリにしているものの、モチモチだし味も充分に満足できるものだった。

原材料は小麦全粒粉、大豆粉、もち米、米ぬか、小麦胚芽、チアシード、真昆布粉末など。

また、BASE BREADに含まれる栄養素は以下のとおりだ。

 

ベースフードは2016年4月に設立され「主食をイノベーションして、健康をあたりまえに」をミッションとしているフードテック領域のスタートアップだ。

橋本舜氏

同社はBASE BREADなどの食品で「食生活に気を配る余裕のない忙しいビジネスパーソンや、家事や育児に追われながら家族の健康を預かる主婦の方、赤ちゃんのお世話に忙しく自分の食事が後回しになってしまう産後ママなど、多忙な毎日を送る多くの方が、無理なく健康的な食生活を実現することに貢献したい」とコメントしている。

また、同社の代表取締役社長、橋本舜氏は前日の会見で「『パンの歴史が変わった』『5000年間、パンは炭水化物だけだったけれども2019年、日本で栄養バランスの良いパンが作られた』と世界から言われたい」と述べていた。主食をイノベートすることで「(健康に関する)知識がなくても、誰もが健康になれる世界を作るべきだと思っている」(橋本氏)

ベースフードは本日、BASE BREADの発売を記念して、同社初の期間限定コンセプトカフェ「BASE BREAD BAKERY & CAFE(ベースブレッド ベーカリーアンドカフェ)」を恵比寿に3月4日午前9時にオープンすると併せて発表している。場所は恵比寿駅から徒歩約3分の恵比寿コンテナで、住所は東京都渋谷区恵比寿西1-4-5。

同コンセプトカフェでは「ベースブレッドと特製シチュー」「ベースブレッド メープルフレンチトースト」「ベースブレッドと3種のディップ」など、新発売のBASE BREADを使ったメニューを中心に提供する。