Visa、Stripe、eBayなどが、Facebook(Facebook)率いる暗号通貨Libra Association(Libra協会)から離脱したことにより戦略的コストが発生している。これらの企業は単に名簿から名前を消しただけではない。各社はLibraをより便利にし、広く普及させ、または評判を高めてくれるはずだった。しかし今では、Libraのローンチや成長の障害になる恐れがある。
Libraとの関わりばかりでなく、その他の事業についても規制当局から取り調べを受けることを恐れて各社少なくとも今のところは手を引いた。この中のどの企業も、Libraの自社製品への統合を確約せず、後に統合する可能性があるとだけ話していた。だが、これらの企業の撤退により計画の未来には暗雲が立ち込め、Facebookは心変わりによるダメージを受け止める立場に残されることとなった。
ここに、Libra協会を離脱したメンバーが、もともと何をもたらすはずだったか、そしてその離脱によってどんな困難が生じるかを列記する。さらに離脱企業が増えれば、その都度報告する予定だ(更新:2019年10月14日、情報提供Bookings Holdings)。
Visa
もっとも広く受け入れられている決済手段のひとつであるVisaは、Libraをあらゆるものの支払いに使用できるようにしてくれることになっていた。金融業界でもっとも権威あるブランドでもあるため、この計画に多大な信用を与えてくれるはずだった。Visaの撤退で、Libraは単なる決済事業に割り込んできたハイテク企業とみなされるようになり、もしLibraに問題が起きれば、その素早い動きと破壊的なアプローチが金融業界に荒廃をもたらすという恐怖を振りまくことになる。さらに、Visaの撤退は、実店舗でのLibraの存在感をずっと薄くしてしまう恐れもある。価値が認められず、使い道も限られた暗号通貨など誰が使いたがるだろうか。
Mastercard
VisaとともにMastercardが加わったことで、既存の大手企業が最新テクノロジーを受け入れたという印象を与えてくれることになっていた。これが暗号通貨への恐怖心を和らげ、暗号通貨は今後は必須の存在になるという雰囲気を醸成するはずだった。 Mastercardはまた、Libraがいずれは支払いに使われるであろう場所の大きなネットワークを提供してくれるはずでもあっt。それが今は、MastercardとVisaは、その決済システムを時代遅れにし、ブロックチェーンにより取引手数料を廃止するというLibraに対して、共同して積極的に抵抗する立場となった。Libraの最大の同胞が、最大の敵になってしまったのだ。
PayPal
Facebookは規制当局に対して、LibraのウォレットはCalibraアプリとMessengerとWhatsAppへの統合だけではないと、PayPalを示唆して繰り返し伝えてきた。FacebookのLibra代表であるDavid Marcus(デイビッド・マーカス)氏は、自身が所有するCalibraを通じてソーシャルネットワークの強大な力をLibraに投入するのではないかと議会で尋ねられたときにこう答えていた。「PayPalなどの企業もあります。これらはもちろん、協力関係にありますが、競争相手でもあります」。
今やFacebookは、LibraのウォレットとしてCalibraもMessengerもWhatsAppも信用できないという人たちに、それに代わる相応の決済方法を提示できなくなった。Libra協会はまた、Libraを受け入れていたPayPalのオンライン小売商の巨大なネットワークと、Venmoとの統合によるピアツーピア送金への参入も逃してしまった。PayPalは、主力となる一般大衆にオンライン決済の信頼性を確信させたサービスだ。それはFacebookがどうしても手に入れたかった種類の信頼だ。マーカスはPayPalの元社長であるにも関わらず、PayPalを引き留めることができなかった。そのことが、連帯関係の構築における協会の技量に不安を抱かせる結果となった。
Stripe
Stripeは、電子商取引業者の絶大な人気を誇り、そのためLibra協会の貴重なメンバーとなっていた。PayPalとともに、Stripeは中国以外での電子商取引の大きな部分の円滑化に貢献している。統合が簡単なため開発者から高い支持を受け、FacebookもLibraの上に位置するものと期待していた。Stripeの離脱により、Libra定着に寄与するはずだったフィンテック系スタートアップのエコシステムにつながる、決定的な意味を持つ橋が破壊されてしまった。これでLibra協会は、Stripeの助けなしに決済ウィジェットを一から自分で開発しなければならなくなった。それがローンチされたとしても、Libraの受け入れは遅れることになる。
これらの決済処理業者が逃げ出したのには、明らかな理由がある。Brian Schatz(ブライアン・シャーツ、民主党ハワイ州選出)とSherrod Brown(シェロッド・ブラウン、民主党オハイオ州選出)の両上院議員は先週、Visa、 Mastercard、Stripeの各CEOに書簡を送り「もしそれを受け入れるなら、貴社は規制当局からLibra関連事業のみならず、その他の決済事業についても高度な調査を受けることになる」と伝えたのが原因だ。
eBay
最も歴史ある電子商取引企業のひとつであるeBayは、Libraなら信用のない見知らぬ相手とでも、高価な仲介人を雇うことなく取引が行えるという信念を持っていた。同社には、西側諸国でAmazonと並ぶそのトップクラスのオンラインマーケットプレイスの運営にLibraを活用する可能性があった。eBayのような目的地を失えば、平均的なネチズンは、取引手数料を取らないLibraの可能性に接する機会から遠のくことになる。
Mercado Pago
Libra協会の中ではあまり名前が知られていない企業だが、Mercado Pagoは小売業者が支払いを電子メールまたは分割で受け取れるようにするサービスだ。金融機関と縁遠い人たち同士を結びつけるという考え方は、なぜLibraが必要かを説明するFacebookの売り文句の中核的なアイデアでもある。そのような人々に具体的にどのように貢献するかについて、Libra協会は詳細を語ってこなかったが、Mercado Pagoのようなパートナーに頼って後に説明がなされるはずだった。Mercado Pagoが離脱したことで、Libraは経済的に恵まれない人々の支援という大義を失い、単に金融業界の支配権が欲しいだけの存在と見られるようになってしまう。
Bookings Holdings
Booking.com、Kayak、Pricelineといったパートナーたちは、旅行の予約という大きな購買カテゴリーでの取引手数料の廃止をLibraで実現することになっていた。そこは、一度に数百から数千ドルの買い物がクレジットカードで行われる世界だ。そこでLibraは、Booking傘下の企業に競合他社よりも安い価格を提示できる強力な決済方法になるはずだった。eBayと並ぶ最も人気の高い大きなショッピングカートであるLibraの電子商取引パートナーが抜けてしまった。それにより、面倒でもLibraを採用すべき価値をユーザーに示すのが難しくなる。
残っているのは?
米国時間10月14日、Libra協会の残りのメンバーが最初の正式メンバーを決める目的で集合する。さらに、理事を選出し、計画を規定する憲章を立ち上げる。これが、上に示した企業の撤退を促した。これが、Libraとの深い関係を決定してしまう前に抜け出す最後のチャンスだったからだ。
上院銀行・住宅・都市問題委員会「Facebookが提唱するデジタル通貨およびデータ・プライバシーへの配慮に関する調査」公聴会で質問を待つFacebookのCalibraデジタル・ウォレット・サービス代表デイビッド・マーカス氏(写真:Bill Clark/CQ Roll Call)
残っているのは、ベンチャー投資企業、ライドシェア企業、非営利団体、暗号通貨企業だ。これらは、現状の決済処理事業とは、あまり深い関わりを持たない企業であるため失うものも少ない。ブロックチェーンに特化した企業は、Visaのような金融大手がLibraを承認してくれることに期待し、業界全体で正当化されることを望んでいた。
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これらのパートナーたちは、Libraエコシステムの開発資金を提供し、日常の使用事例を重ね、発展途上国にそのシステムを普及させて、Libraと暗号通貨企業との同盟関係化を推し進めるだろう。経済を一方的に破壊する者と見られないようにするには、Facebookはこれらの企業をなんとしてもつなぎ止めておかなければならない。
Libraを実際にローンチさせるには、Facebookは大幅な譲歩と初期バージョンからの転換を余儀なくされる。さもなければ、もしこのまま規制当局との衝突を続けた場合、さらにメンバーが抜けていくことになる。Libra協会のメンバーであるAndreessen Horowitz(アンドレッセン・ホロウィッツ)が運営するベンチャーファンドのa16z Crypto(エイシックスティーンズィー・クリプト)のパートナーを務めるChris Dixon(クリス・ディクソン)氏が打ち出した選択肢は、Libraを国際通貨のバスケットにするのではなく、米ドル建てにするというものだ。これなら、Libraがドルと直接競合するという恐怖心を軽減できる。
Facebookは、その理想の暗号通貨を旅立たせることができないということがはっきりした。100件のスキャンダルに反撃されるのは有名税だ。今、Facebookが目指すべきは、水で薄めたバージョンのLibraをローンチして、それが本当に銀行口座を持てない人たちの助けになることを証明し、彼らの行いが善意によるものだと規制当局にわかってもらうことだ。
[原文]
(翻訳:金井哲夫)